説明

電気機器収納用キャビネット

【課題】背板と前枠とに分割した組立式キャビネットにおいて、造営材の凹凸による背板の変形を防止し、前枠の組み付けを容易にし、扉の立て付けを改善する。
【解決手段】電気機器収納用キャビネット1は、建築物の壁面等の造営場所に取り付けられる背板3と、背板3に前方から組み付けられる前枠7とを備えている。前枠7に扉8を支持し、背板3に電気機器40が装着される基板11と、取付ネジが締め付けられる取付穴23とを設ける。取付穴23の周辺にスリット27を形成し、スリット27と取付穴23の間に壁面の凹凸に馴染んで変形する軟弱部28を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電気機器を収納するためのキャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電用機器、制御用機器、通信用機器等を収納するためのキャビネットは、一般に、背板、天板、底板、左右の側板を一体に形成し、前面開口部に扉が開閉自在に設けられている(例えば、特許文献1参照)。また、保管時、運搬時の省スペース化を図り、1人でも設置作業ができるように、全体を背板、天板、底板、左右の側板に分割し、造営場所に順番に組み立てるキャビネットも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−321450号公報
【特許文献2】特開2008−172899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の組立式キャビネットは、造営材の凹凸によって歪みを生じ、組み立て、立て付けに支障を来たすという問題点があった。例えば、図10に示すようなキャビネット101において、背板102をアンカーボルト105とナット106で壁面Wに取り付けた場合、壁面Wの凹凸によって背板102が変形すると、背板102に前枠103を組み付けることが困難になる。また、背板102の変形に伴って前枠103が歪んでいると、扉104に片下がりが発生し、立て付けが悪くなり、開閉に支障を来たすこともあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、造営材の凹凸による背板の変形を防止し、組み立てを容易にし、扉の立て付けを改善できる電気機器収納用キャビネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、次のような電気機器収納用キャビネットを提供する。
(1)造営材に取り付けられる背板と、背板に組み付けられる前枠とを備え、前枠に扉を支持し、背板に電気機器が装着される基板と、取付ネジが締め付けられる取付穴とを設け、取付穴の周辺にスリットを形成し、スリットと取付穴の間に造営材の凹凸に馴染んで変形する軟弱部を設けたことを特徴とする電気機器収納用キャビネット。
【0007】
(2)基板の四隅を別々に保持する4つのホルダが背板に取り付けられ、軟弱部が各ホルダの近傍において背板に設けられている(1)に記載の電気機器収納用キャビネット。
【0008】
(3)ホルダに基板を背板から浮かせて支持する支持片が設けられている(2)に記載の電気機器収納用キャビネット。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)の電気機器収納用キャビネットによれば、背板の取付穴とスリットの間に軟弱部を設けたので、凹凸のある造営材に取り付ける場合に、背板は軟弱部で局部的に変形し、その他の部位では原形を維持する。このため、背板に前枠を容易に組み付けることができるとともに、前枠の歪みをなくして、扉の立て付けを改善できるという効果がある。
【0010】
上記(2)の電気機器収納用キャビネットによれば、軟弱部が4分割したホルダの近傍に設けられているので、造営材の凹凸に合わせ、背板の四隅をそれぞれ独立して変形させることができるという効果がある。
【0011】
上記(3)の電気機器収納用箱体によれば、ホルダの支持片が基板を背板から浮かせて支持するので、電気機器の装着にあたり、基板を貫通したネジが背板に当たらなくなるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る電気機器収納用キャビネットを示し、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
【図2】背板と前枠が分離した状態のキャビネットを示す斜視図である。
【図3】背板と前枠が分離した状態のキャビネットを示す縦断面図である。
【図4】背板に前枠を組み付ける方法を示すキャビネットの縦断面図である。
【図5】背板の構成を示す正面図である。
【図6】背板に設けたホルダと取付穴を拡大して示す斜視図である。
【図7】基板を背板に保持し、背板を壁面に取り付けた状態を示す正面図である。
【図8】凹凸のある壁面にキャビネットを設置した状態を示す横断面図である。
【図9】水平な造営面にキャビネットを設置した状態を示す正面図である。
【図10】従来のキャビネットを壁面に設置した状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2に示すように、この実施形態の電気機器収納用キャビネット1は、造営材に取り付けられる背板3と、背板3に前方から組み付けられる前枠7とを備えている。前枠7には扉8が支持され、背板3に電気機器40が装着される基板11と、取付ネジが締め付けられる取付穴23とが設けられている。取付穴23の周辺にはスリット27が形成され、スリット27と取付穴23の間に壁面の凹凸に馴染んで変形する軟弱部28が設けられている。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施例を図1〜図9の添付図面に基づいて説明する。図1、図2に示すように、この電気機器収納用キャビネット1は、造営場所である建築物の壁面Wに取り付けられる背板3と、背板3に前方から組み付けられる前枠7とに分割されている。前枠7には、その前面開口部7fを覆う扉8が開閉自在に支持されている。
【0015】
背板3の内側には、電気機器40が装着される目盛付きの基板11が取り付けられている。背板3の上下両端面には配線口12が形成され、電気機器40の電線21を通す方の配線口12に入出線ユニット13が取り付けられ、電線21を通さない方の配線口12にカバー14が取り付けられている。
【0016】
背板3及び前枠7は、共に厚さが0.5mm程度のごく薄い鋼板で板金成形されている。背板3は前面のみが開いた薄箱型に形成されている。前枠7は天板4、底板5、左右の側板6,6で一体に形成されている。前枠7の前面には開口部7fが形成され、前枠7の背面に開口部7rが形成されている。
【0017】
図3、図4に示すように、背板3の前面には、下部折曲片3aと上部折曲片3bとが形成されている。前枠7の背面には、下端に引掛片7aが形成され、上端にラッチ9が設けられている。前枠7の組み付けにあたっては、前枠7を上部が手前側に軽く傾くようにして持ち、前枠7の引掛片7aを背板3の下部折曲片3aに差し込み、前枠7の上部を背板3側へ押し付け、ラッチ9の爪9aを背板3の上部折曲片3bに係止する。
【0018】
前枠7の前面周縁には、扉8を取り囲むように、枠部7bが四角環状に形成されている。扉8は、左右片側の上下両端部に設けられた蝶番10(図1参照)によって前枠7の枠部7bに開閉自在に支持されている。蝶番10と反対側には、閉鎖位置の扉8を枠部7bに錠止するためのハンドル15が設けられている。
【0019】
図5〜図7に示すように、背板3には、基板11の四隅を別々に保持する4つのホルダ16が固着されている。各ホルダ16には、基板11を背板3から浮かせて支持する支持片17(図6参照)と、基板11の左右位置を決める規制片18とが折り曲げられている。また、下側のホルダ16には基板11の下端を受ける支承片19が形成され、上側のホルダ16に基板11の上端を掛止するラッチ20が設けられている。
【0020】
4つのホルダ16の近傍において、背板3の四隅には取付穴23が形成され、取付穴23を通るアンカーボルト24(図5参照)にワッシャー25を介してナット26を締め付けることにより、背板3が4箇所にて壁面W(図7参照)に取り付けられる。取付穴23の周辺には、2本のスリット(長角穴)27がワッシャー25の外周位置を平行に延びるように形成され、スリット27と取付穴23との間に軟弱部28が設けられている。
【0021】
図8に示すように、背板3を凹凸のある壁面Wに取り付ける場合は、取付ネジであるナット26の締付力で軟弱部28が壁面Wの凹凸に馴染むように変形する。軟弱部28は取付穴23とスリット27の間に画定されているため、背板3はスリット27の内側で局部的に変形し、スリット27の外側では原形を維持する。したがって、壁面Wに凹凸がある造営場合であっても、背板3に対して前枠7を容易に組み付けることができる。
【0022】
前枠7を組み付ける前に、図7に示すように、背板3上のホルダ16に基板11を取り付け、基板11に電気機器40をネジ22で装着する。こうすれば、基板11の周囲を開いた状態で、機器装着作業を容易に行うことができる。また、基板11がホルダ16の支持片17により背板3から浮いた状態で支持されているため(図3参照)、基板11を貫通したネジ22の先端が背板3に当たるおそれもない。
【0023】
その後、図2に示すように、背板3に入出線ユニット13とカバー14を取り付け、入出線ユニット13に電線21を通し、配線を済ませたのちに、前枠7を背板3に組み付ける。この組立状態では、軟弱部28の作用で背板3が原形を維持し、前枠7に歪みが生じていないため、扉8を前枠7に立て付けよく支持できるとともに、造営後のキャビネット1の外観を見栄えよくすることができる。
【0024】
特に、この実施例のキャビネット1では、厚さ0.5mmの薄鋼板を使用しているので、背板3と前枠7を軽量化し、組立作業を一人で楽に行うことができるとともに、薄鋼板の可撓性を利用して、軟弱部28を容易に変形させることもできる。また、軟弱部28が4分割したホルダ16の近傍に設けられているので、壁面Wの凹凸に合わせ、背板3の四隅をそれぞれ独立して変形させることもできる。
【0025】
尚、上記実施例では、キャビネット1を垂直な壁面Wに設置しているが、図9に示すように、キャビネット1を水平な造営面Sに設置することもできる。この場合は、背板3の底板33に図5と同じ形状の軟弱部28を設け、ナット26の締付力で軟弱部28を造営面Sの凹凸に馴染ませて変形させる。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、キャビネット各部の構成や形状を適宜変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 電気機器収納用キャビネット
3 背板
7 前枠
8 扉
11 基板
16 ホルダ
17 支持片
23 取付穴
24 アンカーボルト
25 平ワッシャー
26 ナット
27 スリット
28 軟弱部
40 電気機器
W 壁面
S 造営面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造営材に取り付けられる背板と、背板に組み付けられる前枠とを備え、前記前枠に扉を支持し、前記背板に電気機器が装着される基板と、取付ネジが締め付けられる取付穴とを設け、該取付穴の周辺にスリットを形成し、スリットと取付穴の間に造営材の凹凸に馴染んで変形する軟弱部を設けたことを特徴とする電気機器収納用キャビネット。
【請求項2】
前記基板の四隅を別々に保持する4つのホルダが背板に取り付けられ、前記軟弱部が各ホルダの近傍において背板に設けられている請求項1記載の電気機器収納用キャビネット。
【請求項3】
前記ホルダに基板を背板から浮かせて支持する支持片が設けられている請求項2記載の電気機器収納用キャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−96922(P2011−96922A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250878(P2009−250878)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000124591)河村電器産業株式会社 (857)
【Fターム(参考)】