説明

電気機器用コイル

【課題】エッジワイズ巻き型で渦電流の抑制が可能な電気機器用コイルを構成する。
【解決手段】外面及び内面に絶縁膜2、3が形成された良導体で成る筒状材を押し潰すことにより、一対の扁平面Wと、この扁平面Wと直交する姿勢の端面Vとが形成されたコイル材料Aを形成し、このコイル材料Aをエッジワイズ巻きにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータや発電機の電気機器に用いられる電気機器用コイル関し、詳しくは、エッジワイズ巻きされた電気機器用コイルの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エッジワイズ巻きされる電気機器用コイルとして特許文献1には、絶縁された複数の素線を扁平に押しつぶした形状にしてエッジワイズ巻きした構成が示されている。
【0003】
また、特許文献2には、平角導線に厚さ方向に圧力を加えることによりをコイル状に巻く技術等が示されている。
【0004】
また、特許文献3には、中空状絶縁電線を加圧し押し潰して平角絶縁線を製造し、この平角絶縁電線によってボイスコイルを製造する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008‐306065号公報
【特許文献2】特開平10‐303052号公報
【特許文献3】特開平5−36315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
変圧用のトランスのようにコイルに流れる電流の電流値の変化に伴い磁束密度が変化する電気機器では、電流値の変化に伴いコイル内に渦電流を発生させるものである。そして、渦電流が発生すると渦電流として流れる電流により発熱から温度上昇を招くだけでなく、コイル内に無駄な電流が流れるため効率の低下を招くものである。
【0007】
特許文献1に記載されるように絶縁された複数の素線を押し潰してエッジワイズコイルを構成するものでは、渦電流の発生を抑制し得るものである。しかしながら、特許文献1のように比較的細い素線を用いるものは、素線同士の間に空間が形成されるためコイル全体の大型化を招くものとなる。
【0008】
そこで、特許文献2に記載される平角導線を用いることも考えられるが、この中実の導体では、コイルの大型化は抑制できるものの、渦電流として比較的大きい電流が流れる現象を発生は避けることはできないものであった。
【0009】
また、エッジワイズコイルを製造する際に、加工性を高めるために特許文献3に記載されるように中空状絶縁電線を用いることも考えられている。
【0010】
本発明の目的は、エッジワイズ巻き型で渦電流の抑制が可能な電気機器用コイルを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、外面及び内面に絶縁膜が形成された良導体で成る筒状材を押し潰すことにより、一対の扁平面が形成されたコイル材料をエッジワイズ巻きした点にある。
【0012】
この構成によると、筒状材を押し潰して形成されるコイル材料は、筒状材の厚さの2倍の厚さを持つ扁平な断面形状となり、この厚さ方向での中間に絶縁膜が形成されるため、渦電流が抑制される。つまり、単一の筒状材を押し潰した構造でありながら、絶縁膜を挟んで対向する位置に導体を配置した構造のコイル材料を得ることが可能となる。また、コイル材料が厚さ方向で中間位置に絶縁膜を有していることから、コイルとして成形する際にも、中間位置の絶縁膜の部位での相対位置の変位が許されることになり成形も容易に行える。
その結果、エッジワイズ巻き型で渦電流の抑制が可能な電気機器用コイルが小型に構成された。
【0013】
本発明は、前記コイル材料が、前記扁平面に直交する平坦な姿勢で前記扁平面より短寸の端面が形成されても良い。
【0014】
これによると、例えば、この端面の断面が特許文献3に示されるように円弧面に形成されているものと比較すると、平坦な端面とコアとの間に隙間を形成することがなく、コイルとコアとの間に作用する磁界の磁束密度を高い状態にして効率的に機能させることが可能となる。
【0015】
本発明は、前記筒状材の内面に形成される絶縁膜の膜厚が、前記筒状材の外面に形成され絶縁膜の膜厚より薄く設定されても良い。
【0016】
これによると、筒状材の外面の形成される絶縁膜を内面の絶縁膜より厚くすることにより、加工時にローラ等が接触する部位に摩耗を招く場合でも、絶縁性能の維持が可能になると同時に、コイルとして成形した後に隣接するもの同士での導通を抑制できる。また、ローラ等が接触しない内面の絶縁被膜を外面の絶縁被膜より薄くすることにより絶縁被膜の材料の無駄がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電気機器用コイルの斜視図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う電気機器用コイルの断面図である。
【図3】コイル材料の製造工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、外面に一対の扁平面Wと、この扁平面Wと直交する平坦な姿勢の一対の端面Vとが形成されたコイル材料Aをエッジワイズ巻きして電気機器用コイルが構成されている。
【0019】
この電気機器用コイルは、電気機器の電圧を変換するトランスやリアクトルコイル等に使用されるものであり、コイルで取り囲まれる空間にはコアBが配置される。コアBは珪素鋼板やアモルファス金属板等の電磁金属板を絶縁状態で積層した構造のものが使用される。
【0020】
電磁機器用コイルに使用されるコイル材料Aは、図3(a)に示すようにタフピッチ銅等の良導体で成る筒状材1から製造されている。筒状材1は、その内面に内絶縁膜2を形成し、外面に外絶縁膜3を形成しており、押し潰されることにより図3(b)に示されるように一対の扁平面Wが形成される。更に、一対の扁平面Wの両端位置には加圧成形により図3(c)に示すように一対の端面Vが形成される。尚、同図では、筒状材1を押し潰した状態のコイル材料Aの断面部分にも筒状材1と同じ番号(1)を付している。
【0021】
このコイル材料Aは、一対の扁平面Wと、一対の端面Vとの外面には外絶縁膜3が形成され、コイル材料Aの内部位置で一対の扁平面Wに挟み込まれる位置に内絶縁膜2が形成されている。また、内絶縁膜2の膜厚T1は外絶縁膜3の膜厚T2より薄く形成されている。
【0022】
筒状材1の素材はタフピッチ銅に限るものではなく、無酸素銅でも良い、また、筒状材1は加工性に優れたアルミニウム合金でも良い。内絶縁膜2と外絶縁膜3とには電気的な絶縁性を有する絶縁物質が用いられている。具体的には、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エナメル樹脂等の使用が可能である。
【0023】
コイル材料Aを製造するには、図3(a)に示すように、筒状材1の内面に前述した樹脂を塗布して内絶縁膜2形成すると共に、筒状材1の外面に前述した樹脂を塗布して外絶縁膜3を形成した後に、図3(b)に示すように、一対の圧延ローラ5の間を通過させることで筒状材1の内面の内絶縁膜同士が密着するように押し潰して扁平化を図る。この扁平化によりコイル材料Aの扁平面Wが形成される。
【0024】
次に、図3(c)に示すように、一対の成形ローラ6の間を通過させることで、扁平面Wと直交する平坦な姿勢で扁平面Wより短寸の端面Vが形成される。
【0025】
このように成形されたコイル材料Aを、図1及び図2に示す如くエッジワイズ巻きすることにより電気機器用コイルが形成されるのである。尚、コイル材料Aの製造工程は、これに限るものではない。
【0026】
この構成のコイルが電気機器に備えられることにより、例えば、コイルに交番磁界が作用することでコイル中に渦電流が発生する状況でも、コイル材料Aの厚さ方向(扁平面Wと直交する方向)の中間に内絶縁膜2が挟み込まれる形態であるので、渦電流の電流値を小さくして、発熱を抑制し、電気機器の効率の低下も抑制できる。また、平坦に成形された端面VがコアBに近接するので、例えば、円弧状の端面がコアBに近接するものと比較して、コイル材料AとコアBとの間の相対距離を短くして相互に作用する磁束の密度を高くして効率的な作動を実現する。
【0027】
更に、内絶縁膜2の膜厚T1を外絶縁膜3の膜厚T2より薄く設定しているので、内絶縁膜2を絶縁性能を維持するに必要な最低限の厚さに設定しながら、加工時に外絶縁膜3に強い外力が作用して摩耗を招いても、絶縁性能を低下させず高い絶縁性能を維持できる。
【0028】
特に、この電気機器用コイルは筒状材1の内面と外面とに絶縁膜を形成した後に、これを押し潰し、端面を成形する加工時、及び、エッジワイズ巻き時には塑性変形加工を行うことになるが、例えば、このコイル材料Aと同じ厚さで同じ幅の平角材を加工する場合と比較して変形を容易に行える良好な面も現出する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、エッジワイズ巻されたコイルを有する電気機器全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 筒状材
2 絶縁膜(内絶縁膜)
3 絶縁膜(外絶縁膜)
A コイル材料
W 扁平面
V 端面
T1 膜厚
T2 膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面及び内面に絶縁膜が形成された良導体で成る筒状材を押し潰すことにより、一対の扁平面が形成されたコイル材料をエッジワイズ巻きした電気機器用コイル。
【請求項2】
前記コイル材料が、前記扁平面に直交する平坦な姿勢で前記扁平面より短寸の端面が形成されている請求項1記載の電気機器用コイル。
【請求項3】
前記筒状材の内面に形成される絶縁膜の膜厚が、前記筒状材の外面に形成され絶縁膜の膜厚より薄く設定されている請求項1又は2記載の電気機器用コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−176144(P2011−176144A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39315(P2010−39315)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】