説明

電気機器絶縁診断装置

【課題】従来の技術では空間の特徴的な周波数を監視している場合、地域によって特徴的な周波数が異なるため、人による初期設定が必要になることや、特徴的な周波数が突然なくなってしまうことがある為、誤検出の可能性がある。例えば、特徴的な周波数として放送波や通信波の周波数を監視していた場合にその放送がなくなった場合など。また、外部から特定の周波数を発生させる場合は、人が特定の周波数を発生させる必要があるため、常設形の装置には対応できない問題がある。
【解決手段】本発明のアンテナが健全であるか否かの判定は、アンテナケーブル断線時は広帯域で周波数レベルが下がることに着目し、広帯域で監視し、予め計測した基準データ(閾値)と比較し、判定レベル以下になった時、電気機器絶縁診断装置の受信アンテナに異常があることを判定する判定手段を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉器(GIS:Gas Insulated Switchgear)やガス遮断器(GCB:Gas Circuit Breaker)や電力用トランスなどの電力用機器の絶縁診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉器などの電気機器において、何らかの原因で絶縁性能が劣化すると、アーク閃絡事故が発生する前に予兆現象として部分放電が発生することが知られている。電気機器絶縁診断装置は、前記部分放電をなるべく軽微な初期の段階で検出して、電気機器のアーク閃絡事故を未然に防止するものである。
【0003】
前記部分放電を検出する手段として、部分放電により発生する電磁波を検出する手段が知られている。具体的構成としては、電気機器の部分放電が発生する可能性のある複数の場所にアンテナを配置し、各アンテナの出力信号は、セレクタを介して判定装置に入力される。判定装置では、セレクタの切り換えにより1つの計測チャネルを選択し、その計測チャネルに接続されたアンテナが検出した信号から部分放電の有無を判定する。以後、判定装置は、セレクタを切り換えて、各計測チャネルについて部分放電の有無を判定し電気機器の絶縁診断を行う方法が知られている。しかしながら、アンテナの故障等、アンテナ側に問題がある場合は、正確な判定ができない。
【0004】
アンテナの健全性機能を有した従来技術として、特開平9−292433等がある。前記公報で開示されている電気機器絶縁診断装置は、アンテナの健全性、アンテナケーブル、コネクタなどの接触不良、感度不良の異常検出機能を有する電気機器絶縁診断装置で、アンテナの健全性検出機能として2種類有している。前記アンテナの健全性検出機能の一つは、所定の放送波(テレビ放送波)が受信されたか否かで判定する方法と、もう一つは、模擬信号発生装置を有し、前記模擬信号が受信されたか否かで判定する方法が開示されている。アンテナケーブルの断線検出の手段として、特開平9−292433では、ある特定の周波数を監視することで断線検出を行なっている。このとき特定の周波数は空間の特徴的な周波数を選択してもよいし、外部から特定の周波数を発生させてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−292433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では空間の特徴的な周波数を監視している場合、地域によって特徴的な周波数が異なるため、人による初期設定が必要になることや、特徴的な周波数が突然なくなってしまうことがある。例えば、常設形の場合においては、テレビ放送波のディジタル化対応により監視周波数の信号がなくなった場合に誤検知をしてしまう。また、テレビ放送波がない地域の対策として、模擬信号発生装置を具備しているが、コストアップと装置の大型化の原因となっている。
【0007】
本発明は、電力機器絶縁診断装置において、地域が異なっても人手により監視周波数を設定変更する必要のない簡易で、安価な絶縁診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する為に、本発明の本発明の電気機器絶縁診断装置は、アンテナケーブル断線時は広帯域で周波数レベルが下がることに着目し、広帯域で監視し、受信アンテナが健全な時に予め計測したデータ(閾値)と比較するようにした。具体的には、電気機器の部分放電により発生する電磁波を受信するための受信アンテナと、前記受信アンテナが受信した電磁波に基づいて、前記電気機器に部分放電が発生しているか否かを判定する判定装置とを備えた電気機器絶縁診断装置において、前記判定装置は、前記受信アンテナが受信した広帯域の周波数成分の総和が、受信アンテナが健全な時に計測して算出した閾値と比較して、基準レベル以下となったとき、前記電気機器絶縁診断装置の受信アンテナに異常があることを判定する手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
従来のアンテナ健全性の異常検出は、テレビ放送波を用いてある特定の周波数を監視しているが、本発明は、広帯域で周波数の減少を監視しているので、使用地域の変更毎にあらたな設定変更を行う必要がない。また、広帯域での監視により周囲の周波数状況が変わった場合においても精度良く監視が可能である。どの地域においても、簡単でシンプルな構成でアンテナ健全性の異常検出が可能であり、可搬形、常設形の両装置への適応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の絶縁診断装置のハードウェア構成
【図2】図1の絶縁診断装置の動作を説明するフローチャート
【図3】a)正常時及び、b)異常時の周波数成分データ
【図4】アンテナ健全性異常検出例
【発明を実施するための形態】
【0011】
アンテナ健全性の正常時と断線時の周波数を比較するとアンテナ健全性が、異常の時は、広範囲にわたり周波数レベルが減少する為、周波数レベルの減少を検知することで、アンテナの異常を検出することが可能である。正常時及び異常時の周波数成分データ例を図3に示す。(例として診断帯域は30MHzから330MHzとした)。周波数の帯域については、HF帯、VHF帯、UHF帯のどの帯域でもよく、任意の周波数帯域で実施することができる。
【実施例】
【0012】
図1のハードウェア構成と、図2のフローチャートを用いて本発明について説明する。判定装置3の構成は、受信機4、A/D5、CPU6、メモリ7、出力装置8から構成されている。アンテナセンサ1からデータを取得しケーブル2を介して受信機4にデータを取り込む。受信機4は、スペクトルアナライザとして、周波数分析データをA/D5へ入力し、CPU6では断線検出のみを行ってもいいし、受信機4から電圧データをA/D5へ入力し、CPU6にてFFT(Fast Fourier Transform)を行って周波数成分データの計測と断線検出の両方を行なうこともできる。メモリ7は、閾値データと健全性判定基準値を保持している。アンテナの異常を検出した時は、出力装置7に異常を出力するように構成されている
【0013】
実際の動きを、図2のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS1でアンテナセンサ1からデータを取得する。CPU6にてFFTを行なう場合には、データ取得のサンプリング周波数(fsmp)はサンプリング定理より断線検出周波数帯域の最大値の2倍以上とし、データ取得後、FFTを行なう。(例えばVHF帯の30Mhz〜330Mhzの帯域の時のサンプリング周波数(fsmp)は660MHz以上とする。
【0014】
次に、ステップS2でモードの確認を行う。本発明では、閾値の算出を行う閾値算出モードと、実際に異常の検出を行う異常検出モードの2つのモードを設けている。初期モードは、閾値算出モードに設定されている。初めの数回(1回でもよい)は閾値算出モードとなり、ステップS3の閾値算出処理を行う。閾値算出は周波数成分のデータを積算するため次式で行う。
TH=F+F+F+・・+Fn
このときは、Fnはn 番目の周波数成分値、THは最終閾値とする。算出を1回以上のデータを用いて行なう場合は、全閾値の平均としてもよいし、一度全閾値データをソートし、N番目のデータを閾値としてもよい。
【0015】
例えば帯域を30MHzから330MHz未満とし、3MHzごとに100個のデータがあるとすると、Fは、30MHzの周波数成分、Fは、33MHzの周波数成分、F100は、327MHzの周波数成分となる。このFからF100までのデータを積算する。
【表1】

TH=0.5+0+0+2.3+・・・+1.1+2.2+1.2+1.4=189.8
【0016】
閾値算出処理を1回で行う場合は、ステップS4のモード変更確認で、モード変更ありとなる。ステップS5でモードを異常検出モードに変更した後、ステップS6の最終閾値算出の値を、前記189.8とし、ステップS10次のデータ取得待状態となる。次回のデータ取得から、異常検出モード側のフローチャートが実行される。閾値算出処理を1回以上のデータを用いて行う場合は、ステップS4のモード変更確認で、モード変更無しとなり、ステップS10次のデータ取得待状態となる。
【0017】
閾値算出処理を、何回か行う場合は、全閾値(TH)の平均としてもよいし、全閾値データをソートして、真ん中データを閾値としてもよい。最終閾値をTH_Fとする。閾値算出に3回のデータを使用した場合は、1回目のTH_F:189.8, 2回目のTH_F:185.5, 3回目のTH_F:187.6であった場合は、
TH_F=(189.8+185.5+187.6)/3=187.6となる。
【0018】
このようにして、まず閾値算出モードで閾値を決定したら、次からは、異常検出モードになり、ステップS7のアンテナの健全性の異常検出処理が実行される。前記閾値TH_Fと、今回データ取得した周波数成分の積算データ(DATA)とを比較して、予め設定した判定値(P)以下になったら、アンテナ健全性判定がNGとなり、ステップS11のアンテナ異常出力の実行となり、アンテナ異常を出力装置7へ出力する。
P>(DATA/TH_F)×100
周波数成分の積算は、A/D変換器5でディジタルデータに変換して、CPU6へ取り込みFFT演算を行い取得する。あるいは、スペクトラムアナライザにより取得することも可能である。
【0019】
ステップS8の健全性判定は、アンテナ健全性の異常検出処理で、1回の検出で異常出力してもよいが、数回連続して、異常を検出したときに出力するようにすれば、誤検出を少なくできる。アンテナ健全性が、正常な場合には、ステップS9の絶縁診断を実行する。アンテナ健全性が異常な場合は、ステップS11のアンテナ異常出力を出力装置8に出力し、健全なアンテナに交換するなどの、作業を行った後、本処理ルーチンを再度実行すればよい。
【0020】
前記例では、絶縁診断を行うごとにアンテナ健全性をチェックする構成としたが、絶縁診断については常時行い、アンテナの健全性の異常検出は、ある決まった任意の時間に実行してもよい。
【0021】
実際の絶縁診断装置で本発明を用いてアンテナ健全性異常を検出したときの例を図4に示す。この試験結果を基に判定値を50%と設定しています。例えば、30MHz〜330MHzの範囲でデータを取得して、判定値Pを50%とした場合、正常時の閾値189.8で、異常時の取得データの総和が57.7となっている場合。
P(50%)>(57.7/189.8)×100=30.4 となり、異常時のデータは正常時のデータの約30%まで減少しており、20%の余裕を持ってアンテナの断線を判定できている。実施例では、判定値Pを50としたが、判定値Pは、可変できるようになっており、現地で調整しながら最適値を決めることもできる。標準的には、50前後に設定すれば、感度よく検出が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明は、たとえば、ガス絶縁開閉器などの絶縁診断装置において、受信アンテナが正常に受信でき、絶縁診断を行える状態かどうかの判定機能を含んだ、絶縁診断装置に適応できる。
【符号の説明】
【0023】
1 アンテナセンサ
2 ケーブル
3 判定装置
4 受信機
5 A/D変換器
6 CPU
7 メモリ
8 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の部分放電により発生する電磁波を受信するための受信アンテナと、前記受信アンテナが受信した電磁波に基づいて、前記電気機器に部分放電が発生しているか否かを判定する判定装置とを備えた電気機器絶縁診断装置において、前記判定装置は、前記受信アンテナが受信した広帯域の周波数成分の総和が、受信アンテナが健全な時に計測して算出した閾値と比較して、判定レベル以下となったとき、前記電気機器絶縁診断装置の受信アンテナに異常があることを判定する判定手段を備えたことを特徴とする電気機器絶縁診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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