説明

電気機械変換装置及びその作製方法

【課題】 電気機械変換装置の振動膜の機械特性ばらつきを低減する。
【解決手段】 本発明の電気機械変換装置の作製方法は、第一の電極上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上に犠牲層を形成する工程と、前記犠牲層上に第一のメンブレンを形成する工程と、前記第一のメンブレンに第二の電極を形成する工程と、前記第一のメンブレンにエッチングホールを形成し、前記エッチングホールを介して前記犠牲層を除去する工程と、前記第二の電極上に第二のメンブレンを形成する工程と、前記エッチングホールを封止する工程と、を有し、前記第二のメンブレンを形成する工程と、前記エッチングホールを形成する工程とは、同一工程であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換装置及びその作製方法に関する。特に、超音波トランスデューサとして用いられる電気機械変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシニング技術によって作製されるCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)等の電気機械変換装置は、圧電素子の代替品として研究されている。このような静電容量型の電気機械変換装置は、振動膜の振動により超音波を送信、受信することができる。
【0003】
電気機械変換装置であるCMUTの作製方法として、犠牲層エッチングによりキャビティを作製する方法がある。特許文献1では、上部電極(第二の電極)が犠牲層エッチング時にエッチングされないようにするために、第一のメンブレンと第二のメンブレンとの間に第二の電極を形成し、犠牲層をエッチングする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0177045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CMUT等の電気機械変換装置は、液中で使用することも考えられるため、キャビティは密閉されていることが好ましい。つまり、犠牲層エッチングによりキャビティを形成した後、エッチングホールを封止することが好ましい。特許文献1では、第二の電極を形成した後に第二のメンブレンを形成し、その後、犠牲層のエッチングを行う。そして、エッチングホールを封止膜により封止している。しかしながら、特許文献1のようにエッチングホールを封止するために成膜を行うと、第二のメンブレン上にも封止膜が堆積する。第二のメンブレン上に堆積した封止膜をエッチング等により除去すると、振動膜としての厚みばらつき、応力ばらつき等により、電気機械変換装置の感度、帯域が素子毎にばらつくことがある。
【0006】
そこで、本発明は、振動膜の厚みばらつきや応力ばらつきを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気機械変換装置の作製方法であって、第一の電極上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上に犠牲層を形成する工程と、前記犠牲層上に第一のメンブレンを形成する工程と、前記第一のメンブレンに第二の電極を形成する工程と、前記第一のメンブレンにエッチングホールを形成し、前記エッチングホールを介して前記犠牲層を除去する工程と、前記第二の電極上に第二のメンブレンを形成する工程と、前記エッチングホールを封止する工程と、を有し、前記第二のメンブレンを形成する工程と、前記エッチングホールを形成する工程とは、同一工程であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の電気機械変換装置は、第一の電極と、前記第一の電極上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜と間隙を隔てて形成された第一のメンブレンと、前記第一のメンブレン上に形成され前記第一の電極と対向する第二の電極と、前記間隙とは反対側の前記第二の電極上に形成された第二のメンブレンと、からなる振動膜と、を備える電気機械変換装置であって、前記間隙は、前記絶縁膜上に設けられた犠牲層を、前記第一のメンブレンと同じ層に形成されたエッチングホールを介して除去することにより形成された間隙であり、前記エッチングホールを封止している封止部の厚みは、前記第二の電極上の前記第二のメンブレンの厚みと同じであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動膜の厚みばらつきや応力ばらつきを低減することができるため、電気機械変換装置の素子毎の感度や帯域ばらつきが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1が適用できる電気機械変換装置を説明するための模式図である。
【図2】本発明の実施例2が適用できる電気機械変換装置を説明するための模式図である。
【図3】本発明の実施例1が適用できる電気機械変換装置の作製方法を説明するためのA−B断面図である。
【図4】本発明の実施例1が適用できる電気機械変換装置を説明するためのC−D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
(電気機械変換装置の構成)
図1(a)は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図1(b)、図1(c)は、それぞれ、図1(a)のA−B断面図、C−D断面図である。本発明の電気機械変換装置は、セル構造1を有する素子2を複数有している。素子2は、電気的に接続された複数のセル構造1からなる。図1では、素子2は、9個のセル構造から構成されているが、個数はいくつであっても構わない。また、素子数も、4つの素子のみ記載しているが、個数はいくつでも構わない。セル構造の形状は、図1では円形であるが、四角形、六角形等の形状でも構わない。
【0013】
セル構造1は、基板11、基板上に形成される第一の絶縁膜12、第一の絶縁膜上に形成される第一の電極13、第一の電極上の第二の絶縁膜14を有している。さらに、セル構造1は、第一のメンブレン16と第二のメンブレン18と第二の電極4とで構成される振動膜を有する。第一のメンブレン16、第二のメンブレン18は絶縁膜である。第一のメンブレン16は、メンブレン支持部20により支持されており、振動膜は、間隙であるキャビティ3を隔てて配置されている。第一の電極13と第二の電極4とは対向しており、第一の電極13と第二の電極4との間には、不図示の電圧印加手段により電圧が印加される。
【0014】
また、電気機械変換装置は、引き出し配線6を用いることで、第二の電極4から素子毎に電気信号を引き出すことができる。ただし、本実施形態では、引き出し配線6により電気信号を引き出しているが、貫通配線等を用いてもよい。また、本実施の形態では、第一の電極13を共通電極とし、第二の電極4を素子毎に配置することで、第二の電極4から電気信号を引き出しているが、逆の構成にしても構わない。つまり、第二の電極4を共通電極とし、第一の電極13を素子毎に配置することで、素子毎の電気信号を引き出してもよい。
【0015】
(電気機械変換装置の駆動原理)
本発明の駆動原理を説明する。電気機械変換装置で超音波を受信する場合、図示しない電圧印加手段で、第一の電極と第二の電極との間に電位差が生じるように、第一の電極13に直流電圧を印加しておく。超音波を受信すると、第二の電極4を有する振動膜が撓むため、第二の電極4と第一の電極13との間隔(キャビティ3の深さ方向の距離)が変わり、静電容量が変化する。この静電容量変化によって、引き出し配線6に電流が流れる。この電流を図示しない電流−電圧変換素子によって電圧に変換し、超音波の受信信号とする。上述したように、引き出し配線の構成を変更することによって、第二の電極4に直流電圧を印加し、第一の電極13から素子毎に電気信号を引き出してもよい。
【0016】
また、超音波を送信する場合、第一の電極に直流電圧を、第二の電極に交流電圧を印加し、静電気力によって振動膜を振動させることができる。この振動によって、超音波を送信することができる。超音波を送信する場合も、引き出し配線の構成を変更することによって、第二の電極に直流電圧を、第一の電極に交流電圧を印加し、振動膜を振動させてもよい。また、第一の電極あるいは第二の電極に直流電圧と交流電圧を印加し、静電気力によって振動膜を振動させることもできる。
【0017】
(作製方法)
次に、図3、図4を用いて、本発明の作製方法を説明する。図3は、電気機械変換装置の断面図であり、図1とほぼ同様の構成である。図3は、図1のA−B断面図であり、図4は、図1のC−D断面図である。
【0018】
図3(a)、図4(a)に示すように、基板50上に第一の絶縁膜51を形成する。基板50がシリコン基板のような導電性を有する基板の場合、第一の絶縁膜51は、第一の電極と絶縁するために形成する。基板50がガラス基板のような絶縁性基板の場合、絶縁膜51は形成しなくともよい。また、基板50は、表面粗さの小さな基板が望ましい。表面粗さが大きい場合、本工程の後工程での成膜工程でも、表面粗さの影響が残り、第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまう。このばらつきは、変換効率のばらつきとなるため、感度、帯域ばらつきとなる。従って、基板50は、表面粗さの小さな基板が望ましい。
【0019】
次に、図3(b)、図4(b)に示すように、第一の電極52を形成する。第一の電極52は、表面粗さが小さい導電材料が望ましく、例えば、チタン、アルミ等である。基板と同様に、第一の電極52の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまうため、表面粗さが小さい導電材料が望ましい。
【0020】
次に、図3(c)、図4(c)に示すように、第二の絶縁膜53を形成する。第二の絶縁膜53は、表面粗さが小さい絶縁材料が望ましい。第二の絶縁膜53は、第一の電極52と第二の電極56との間に電圧が印加された場合に、電極間の電気的短絡あるいは絶縁破壊を防止するために形成する。低電圧で駆動する場合は、第一のメンブレン55が絶縁体であるため、第二の絶縁膜53を形成しなくともよい。基板50と同様に、第二の絶縁膜53の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまう。よって、表面粗さが小さい材料で第二の絶縁膜を形成することが望ましい。例えば、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜等である。
【0021】
次に、図3(d)、図4(d)に示すように、犠牲層54を形成する。犠牲層54は、表面粗さが小さい材料が望ましい。また、犠牲層を除去するエッチングのエッチング時間を短くするために、エッチング速度の速い材料が望ましい。さらに、犠牲層を除去するエッチング液あるいはエッチングガスに対して、第二の絶縁膜、第一のメンブレン、第二の電極がほとんどエッチングされないよう、犠牲層の材料を選択することが好ましい。犠牲層を除去するエッチング液あるいはエッチングガスに対して、第二の絶縁膜、第一のメンブレン、第二の電極がエッチングされる場合、振動膜の厚さばらつき、第一の電極と第二の電極との間の距離ばらつきが発生する。第二の絶縁膜と第一のメンブレンとがシリコン窒化膜、あるいはシリコン酸化膜の場合、犠牲層としてはクロムが望ましい。
【0022】
次に、図3(e)、図4(e)に示すように、犠牲層上に第一のメンブレン55を形成する。メンブレン支持部は、このメンブレン55と同一工程により形成される。第一のメンブレン55は、小さい引張り応力が望ましい。例えば、0MPaより大きく300MPa以下の引張り応力がよい。シリコン窒化膜は応力コントロールが可能であり、300MPa以下の低い引張り応力にすることができる。第一のメンブレンが圧縮応力を有する場合、第一のメンブレンがスティッキングあるいは座屈を引き起こし、大きく変形する。スティッキングとは、第一のメンブレン55が第一の電極側に付着してしまうことである。また、大きな引張り応力の場合、第一のメンブレンが破壊されることがある。従って、第一のメンブレン55は、低い引張り応力となるように形成することが望ましい。
【0023】
次に、図3(f)、図4(f)に示すように、第一のメンブレン上に第二の電極56を形成する。そして、図4(f)に示すように、エッチングホール58を形成する。その後、エッチングホールを介して、犠牲層54を除去する。第二の電極56は、残留応力が小さく、耐熱性、犠牲層エッチングに対するエッチング耐性を有する材料が望ましい。エッチング耐性が低い場合、犠牲層を除去する際に、第二の電極を保護するフォトレジスト等を塗布したまま、犠牲層エッチングを行う必要がある。しかしながら、フォトレジスト等を塗布すると、フォトレジスト等の応力によって、第一のメンブレンがスティッキングしやすくなる。よって、第二の電極が露出した状態で犠牲層エッチングできるよう、エッチング耐性を有する第二の電極が望ましい。
【0024】
また、第二の電極の残留応力が大きい場合、振動膜の大きな変形を引き起こすため、残留応力の小さな第二の電極が望ましい。さらに、図3(g)、図4(g)に示すように、第二のメンブレンを成膜する際の温度等によって、変質、応力の増加を引き起こさない材料が望ましい。第二の電極の材料としては、チタンが好ましい。
【0025】
次に、図3(g)、図4(g)に示すように、第二のメンブレン57の形成とエッチングホール58の封止を行う。本工程では、図4(g)に示すように、第二のメンブレン57を形成する工程と、エッチングホール58を封止する工程とを同一工程で行う。つまり、本工程により、第二の電極上(第二の電極のキャビティとは反対側の面上)に第二のメンブレン57を形成することで所望のばね定数を有する振動膜を形成することができ、エッチングホール58を封止する封止部を形成することができる。
【0026】
第二のメンブレン57を形成する工程の後に、エッチングホール58を封止する工程を行った場合、エッチングホール58を封止するための膜が第二のメンブレン57上に堆積する。この堆積した膜を除去するために、エッチングを行うと振動膜の厚さばらつきや応力ばらつきが発生する。一方、本発明は、エッチングホール58の封止工程と第二のメンブレン57を形成する工程が同じであるため、振動膜は成膜工程だけで形成することができる。つまり、本発明は、第二の電極上に形成した膜をエッチング等で除去しないため、振動膜の厚さばらつきや応力ばらつきが発生しにくい。
【0027】
本工程の後、図示しない工程により、第一の電極や、第二の電極と接続する配線を形成する。配線材料はアルミ等でよい。
【0028】
以上、説明したように、本作製方法で電気機械変換装置を作製することにより、第二のメンブレンを形成する膜をエッチングすることなく、成膜工程だけで所望のばね定数を有するメンブレンを形成することができる。よって、電気機械変換装置の振動膜の厚みばらつきや、応力ばらつきを低減できる。従って、電気機械変換装置の感度、帯域のばらつきを低減することができる。
【0029】
図1において、本形態により作製された電気機械変換装置は、エッチングホール19を封止している封止部の厚さが、第二の電極4上の第二のメンブレン18の厚さと同じである。ここで、封止部の厚さとは、第一の電極が形成された面と垂直な方向におけるエッチングホール中心部の厚みであり、図1(c)において矢印5で示す厚さである。また、「封止部の厚さが第二の電極4上の第二のメンブレン18の厚さと同じ」とは、「厚さが厳密に同じ」である場合に限定されず、「成膜ばらつきの範囲内で厚みの違いがある場合」も、「厚さが同じ」であるものとする。具体的に、成膜ばらつきの範囲内の厚みの違いとしては、封止部の厚さが、第二の電極4上の第二のメンブレン18の厚みの±10%の範囲内である場合である。
【0030】
(本発明の好適な形態)
次に、本発明において好適な形態を説明する。本発明では、第一のメンブレン55の厚さは犠牲層54の厚さの2倍以上となるように形成することが好ましい。第一のメンブレン55の厚さが犠牲層54の深さの2倍より薄い場合、犠牲層形成時の段差部分を第一のメンブレン55によって良好に覆うことができない可能性がある。特に、犠牲層54の側面と上面との角部の被覆状態が悪いと、犠牲層エッチングしてキャビティを形成した場合、各セル間、各素子間での第一のメンブレン55の機械特性がばらついてしまう。
【0031】
そこで、第一のメンブレン55の厚さ(図1(b)の矢印7で示す厚み)を犠牲層54の厚さ(図1(c)の矢印9で示す厚み)の2倍以上となるように形成することで、第一のメンブレン55によって、犠牲層54の段差部分を良好に覆うことができる。よって、各セル間、各素子間での第一のメンブレン55の機械特性ばらつきを低減することができる。図1において、この形態で作製した電気機械変換装置は、第一のメンブレン16の厚さが、キャビティ3の深さの2倍以上である。本発明において、第一のメンブレン16等の「厚さ」とは、第一の電極が形成された面と垂直な方向における厚みを示す。キャビティ3の「深さ」とは、電極間に電圧を印加していない状態の第二の絶縁膜14から第一のメンブレン16までの間隙の距離である。
【0032】
また、第二の電極4上の第二のメンブレン57の厚さ(図1(b)の矢印8で示す厚み)は、キャビティの深さ(図1(b)の矢印9で示す厚み)の3倍以上となるように形成することが好ましい。第二のメンブレン57の厚さが、キャビティの深さの3倍より薄い場合、第二のメンブレン57を形成する絶縁膜によりエッチングホール58を塞いで、キャビティを良好に封止することができない可能性がある。そこで、第二のメンブレン57の厚さを、キャビティの深さの3倍以上とすることで、第二のメンブレン57を形成する絶縁膜によりエッチングホール58を塞いで、キャビティを良好に封止することができる。図1において、この形態で作製した電気機械変換装置は、第二のメンブレン18の厚さが、キャビティ3の深さの3倍以上である。
【0033】
さらに、第二のメンブレン57の厚さは、第一のメンブレン55の厚さより厚くなるように形成することが好ましい。第一のメンブレン55の厚みを薄くすることにより電極間距離を小さくできる。また、振動膜のばね定数は、振動膜の厚みによって変わってくる。そこで、第一のメンブレン55を薄くしておき、第二のメンブレン57で振動膜全体の厚みを調整するほうが、所望なばね定数に調整しやすい。図1において、本形態により作製した電気機械変換装置は、第二のメンブレン18の厚さが、第一のメンブレン16の厚さより厚い。
【0034】
また、第二の電極56を、犠牲層54の全面を覆うように形成することが好ましい(後述する実施例2参照)。第二の電極56を形成する際のフォトリソグラフィでのアライメントズレが発生する場合、犠牲層54の中心軸(つまりキャビティの中心軸)と第二の電極56の中心軸がずれることがある。第二の電極の面積がキャビティの面積より小さく、キャビティの中心軸と第二の電極の中心軸がずれると、第一のメンブレン55に作用する第二の電極56の応力が変わるため、各セル間、各素子間の振動膜のたわみばらつきが発生する可能性がある。そこで、犠牲層54の全面を覆うよう第二の電極56を形成することによって、第二の電極56を形成する際のフォトリソグラフィでのアライメントズレによる振動膜のたわみばらつきをより低減することができる。図1において、本形態により作製した電気機械変換装置は、第二の電極4はキャビティ3の面積より大きく、キャビティ3の全面を覆うように形成されている。特に、第二の電極4の中心軸から外周までの距離は、第二の電極と第一の電極との間で発生する寄生容量(振動膜が振動する時に、静電容量が変化しない容量)を大きくしないように、キャビティ3の中心軸から外周までの距離より3um程度大きいことが望ましい。
【0035】
さらに、第二の電極56としてチタンを用いることが望ましい。チタンは残留応力が小さいため、振動膜の大きな変形を防止することができる。また、第一のメンブレン55、第二のメンブレン57としてシリコン窒化膜を用いる場合、第一のメンブレン55、第二のメンブレン57より、第二の電極56のヤング率は小さい。従って、第二のメンブレン57の厚さにより所望のばね定数を有する振動膜を形成しやすい。また、チタンは熱耐性が高いため、第二のメンブレンを形成する際の温度による変質を防止することができる。また、チタンは表面粗さも小さくできるため、メンブレンのたわみばらつきを抑制できる。
【0036】
さらに、第一のメンブレン55として窒化シリコンを用いることも好ましい。窒化シリコンは、応力コントロールが容易であり、低い引張り応力、例えば、0MPaより大きく300MPa以下の引張り応力で形成することができる。従って、シリコン窒化膜の残留応力による振動膜の大きな変形を防止することができる。また、Low Pressure Chemical Vapor Deposition(LPCVD)と比較して、Prasma Enhanced Chemical Vapor Deposition(PE−CVD)によるシリコン窒化膜は低温(200〜400度)で成膜できる。PECVDにより成膜するシリコン窒化膜のヤング率は、180GPa以上にすることが可能であり、薄い第一のメンブレンで剛性を高めることができる。
【0037】
さらに、第一のメンブレン55のばね定数が500N/m以上3000N/m以下となるように形成することも好ましい。ここで、ばね定数(k)とは、等分布荷重(F)が振動膜全体にかかった時の最大変位(x)から算出しており、k=F/xである。例えば、10uNの等分布荷重が印加された場合に、最大変位が10nmであれば、ばね定数は1000N/mである。
【0038】
第一のメンブレン55のばね定数が大きい場合、第一のメンブレン55の剛性が高くなる一方、厚さが厚くなる。第一のメンブレン55の厚さが大きくなると、第一の電極52と第二の電極56との距離が大きくなり、変換効率が低下する。ここでの変換効率とは、振動膜の振動を電気信号に変換する効率のことであり、第一の電極52と第二の電極56との間の距離が狭いほど変換効率が高い。一方、第一のメンブレン55のばね定数が小さい場合、犠牲層54のエッチング後、第一のメンブレン55が第一の電極側に付着してしまう(スティッキング)。
【0039】
スティッキングは、第一のメンブレン55、第二のメンブレン57の残留応力、犠牲層エッチング時の水分の蒸発による表面張力、静電気力、あるいは、表面の水酸基による水分吸着等によって発生する。特に犠牲層エッチングをウェットエッチングで行う場合、スティッキングは発生しやすい。特に、振動膜の振動の周波数帯域が0.3〜20MHzの電気機械変換装置では、キャビティ深さが50から300nmであって、スティッキングが発生しやすい。そこで、第一のメンブレン55のばね定数を500N/m以上3000N/m以下となるように第一のメンブレン55を形成することにより、変換効率の低下を抑制でき、スティッキングを防止することができる。
【0040】
以下、より具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0041】
実施例1について図1、3、4を用いて説明する。まず図1を用いて本実施例の電気機械変換装置について説明し、次に、この電気機械変換装置の作製方法について図3,4を用いて説明する。図1(a)は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図1(b)、図1(c)は、それぞれ、図1(a)のA−B断面図、C−D断面図である。本実施例の電気機械変換装置は、セル構造1を有する素子2を4つ有している。また、1つの素子2は、9個のセル構造から構成される。
【0042】
セル構造1は、300um厚さのシリコン基板である基板11、シリコン基板上に形成される第一の絶縁膜12、第一の絶縁膜12上に形成される第一の電極13、第一の電極13上の第二の絶縁膜14を有する。さらに、第二の絶縁膜14と間隙を隔てて配置された第一のメンブレン16と、第二のメンブレン18と、第二の電極4と、で構成される振動膜を有する。第一のメンブレン16は、メンブレン支持部20により支持されている。エッチングホール19を封止している封止部の厚さは、第二の電極4上の第二のメンブレン18の厚さと同じである。よって、第二のメンブレン18を形成する膜をエッチングすることなく、成膜工程だけで所望のばね定数を有する振動膜を形成することができる。
【0043】
第一の絶縁膜12は、熱酸化により形成した厚さ1umのシリコン酸化膜である。第二の絶縁膜14は、PE−CVDにより形成したシリコン酸化膜である。第一の電極13は厚さが50nmのチタンであり、第二の電極4は厚さが100nmのチタンである。第一のメンブレン16、第二のメンブレン18はPE−CVDにより作製したシリコン窒化膜であり、100MPa以下の引張り応力で形成されている。
【0044】
また、第一のメンブレン16、第二のメンブレン18の直径は、45umであり、それぞれの厚さは、0.4um、0.7umである。第二の電極4の直径は40umであり、キャビティの深さは、0.18umである。第一のメンブレン16のばね定数は1200N/mであり、これにより、キャビティ3を形成後の第一のメンブレンのスティッキングを防止することができる。
【0045】
本実施例のように、第一のメンブレン16の厚さはキャビティ深さの2倍以上であるため、第一のメンブレン16によって、キャビティ形成時の段差部分を良好に覆うことができる。
【0046】
また、第二のメンブレン18の厚さは、キャビティ3の深さの3倍以上である。これにより、第二のメンブレン18を形成する絶縁膜によりエッチングホール19を塞いで、良好にキャビティ3を封止することができる。また、第一のメンブレン16は、第二のメンブレン18より薄い。よって、第二のメンブレン18の厚さによりメンブレンのばね定数を所望の値に調整しやすい。また、本実施例の電気機械変換装置は、引き出し配線6を用いることで、第二の電極4から素子毎の電気信号を引き出すことができる。
【0047】
次に、本実施例の電気機械変換装置の作製方法を図3、図4を用いて説明する。図3は、図1のA−B断面図であり、図4は、図1のC−D断面図である。
【0048】
まず、図3(a)、図4(a)に示すように、基板50上に第一の絶縁膜51を形成する。基板50は厚さ300umのシリコン基板である。また、第一の絶縁膜51は第一の電極52と基板50との絶縁を形成するための熱酸化によるシリコン酸化膜であり、厚さ1umである。
【0049】
次に、図3(b)、図4(b)に示すように、第一の電極52を形成する。第一の電極52は、厚さ50nmのチタンであり、二乗平均表面粗さ(Rms)は2nm以下である。
【0050】
次に、図3(c)、図4(c)に示すように、第二の絶縁膜53を形成する。第二の絶縁膜53は、PE−CVDにより成膜した厚さ0.1umのシリコン酸化膜であり、二乗平均表面粗さ(Rms)は2nm以下である。絶縁膜53は、第一の電極52と第二の電極56間の電気的短絡あるいは第一の電極52と第二の電極56との間に電圧がかかった時の絶縁破壊を防止するために形成する。
【0051】
次に、図3(d)、図4(d)に示すように、犠牲層54を形成する。犠牲層54は、厚さ0.2umのクロムであり、二乗平均表面粗さ(Rms)は、1.5nm以下である。また、犠牲層の直径は40umである。
【0052】
次に、図3(e)、図4(e)に示すように、第一のメンブレン55を形成する。第一のメンブレン55は、PECVDにより成膜した厚さ0.4umの窒化膜である。第一のメンブレン55の残留応力は200MPaである。
【0053】
次に、図3(f)、図4(f)に示すように、第二の電極56を形成し、さらにエッチングホール58を形成する。第二の電極56は、厚さ0.1umのチタンであり、残留応力は、200MPa以下である。チタンは、図3(g)、図4(g)に示すように、第二のメンブレン57を成膜する際の温度により、表面粗さの増大や応力の変化がない。また、犠牲層を除去する際にエッチングされないため、レジスト等を塗布して保護することなく、犠牲層を除去できる。
【0054】
その後、エッチングホールを介して、犠牲層54を除去する。犠牲層54の除去は、クロムエッチング液(硝酸第二アンモニウムセリウム、過塩素酸、水の混酸)により行う。特に、犠牲層54の除去後の乾燥工程により、第一のメンブレン55は、第一の電極52側に付着しやすくなるが、第一のメンブレンのばね定数を1250N/mにしているため、スティッキングを防止して、キャビティを形成することができる。さらに、クロムエッチング液は、窒化シリコン、チタン、シリコン酸化膜をエッチングしないため、振動膜の厚みばらつきや第一の電極と第二の電極との間の距離ばらつきを防止することができる。
【0055】
次に、図3(g)、図4(g)に示すように、第二のメンブレン57を形成するとともに、エッチングホール58を封止する。第二のメンブレン形成と同一工程で、エッチングホールを封止するため、振動膜をエッチングすることなく、形成することができる。
【0056】
本実施例の電気機械変換装置の作製方法により、成膜工程だけで所望のばね定数を有するメンブレンを形成することができるので、セル間、素子間の感度、帯域のばらつきの小さな電気機械変換装置を作製できる。以上のような作製方法で作製した電気機械変換装置は素子間の感度ばらつきを1dB以下にすることができる。
【実施例2】
【0057】
次に、実施例2について図2を用いて説明する。図2(a)は、本実施例の電気機械変換装置の上面図であり、図2(b)、図2(c)は、それぞれ、図2(a)のA−B断面図、C−D断面図である。実施例2の電気機械変換装置は、第二の電極24の面積に特徴がある。それ以外の構成は、実施例1とほぼ同様である。
【0058】
セル構造21は、300um厚さのシリコン基板31、シリコン基板31上に形成される第一の絶縁膜32、第一の絶縁膜32上に形成される第一の電極33、第一の電極33上の第二の絶縁膜34を有している。さらに、第二の絶縁膜34とキャビティ23を隔てて設けられた第一のメンブレン36、第二のメンブレン38、第二の電極24とで構成される振動膜と、第一のメンブレン36を支持するメンブレン支持部40を有している。素子22は、電気的に接続された複数のセル構造21からなる。
【0059】
第一の絶縁膜32は、熱酸化により形成される厚さ1umのシリコン酸化膜であり、第二の絶縁膜34は、PE−CVDにより形成される厚さ0.1umのシリコン酸化膜である。第一の電極24は厚さ50nmのチタンであり、第二の電極24も厚さ100nmのチタンである。第一のメンブレン36、第二のメンブレン38は、PE−CVDにより200MPa以下の引張り応力で形成するシリコン窒化膜である。また、第一のメンブレン36、第二のメンブレン38の直径は、50umであり、それぞれの厚さは、0.4um、0.7umであり、第二の電極24の直径は56umである。また、キャビティ深さは0.2umである。
【0060】
本実施例では、第二の電極24の直径が、第一のメンブレン36、第二のメンブレン38の直径より大きく、第二の電極がキャビティを覆う構成としている。本構成により、第二の電極を形成する際のフォトリソグラフィでのアライメントズレが発生しても、振動膜のたわみばらつきを低減することができる。
【0061】
以上のような構成の本実施例の電気機械変換装置では、成膜工程だけで所望のばね定数を有するメンブレンを形成することができる。さらに、第二の電極を形成する際のフォトリソグラフィでのアライメントズレが発生しても、振動膜のたわみばらつきを低減することができるので、素子間の感度ばらつきを0.5dB以下にすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 セル構造
2 電気機械変換装置素子
3 キャビティ
4 第二の電極
5 封止部の厚み
6 キャビティ深さ
7 第一のメンブレンの厚さ
8 第二のメンブレンの厚さ
11 基板
12 第一の絶縁膜
13 第一の電極
14 第二の絶縁膜
16 第一のメンブレン
18 第二のメンブレン
19 エッチングホール
20 メンブレン支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換装置の作製方法であって、
第一の電極上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層上に第一のメンブレンを形成する工程と、
前記第一のメンブレンに第二の電極を形成する工程と、
前記第一のメンブレンにエッチングホールを形成し、前記エッチングホールを介して前記犠牲層を除去する工程と、
前記第二の電極上に第二のメンブレンを形成する工程と、前記エッチングホールを封止する工程と、を有し、
前記第二のメンブレンを形成する工程と、前記エッチングホールを形成する工程とは、同一工程であることを特徴とする電気機械変換装置の作製方法。
【請求項2】
前記第一のメンブレンの厚さを、前記犠牲層の厚さの2倍以上に形成することを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置の作製方法。
【請求項3】
前記第二のメンブレンの厚さを、前記犠牲層の厚さの3倍以上に形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気機械変換装置の作製方法。
【請求項4】
前記第二のメンブレンの厚さを、前記第一のメンブレンの厚さより厚く形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気機械変換装置の作製方法。
【請求項5】
前記第一のメンブレンとして、PECVDによりシリコン窒化膜を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気機械変換装置の作製方法。
【請求項6】
前記犠牲層としてクロムを用い、前記犠牲層をウェットエッチングにより除去することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気機械変換装置の作製方法。
【請求項7】
第一の電極と、
前記第一の電極上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜と間隙を隔てて形成された第一のメンブレンと、前記第一のメンブレン上に形成され前記第一の電極と対向する第二の電極と、前記間隙とは反対側の前記第二の電極上に形成された第二のメンブレンと、からなる振動膜と、
を備える電気機械変換装置であって、
前記間隙は、前記絶縁膜上に設けられた犠牲層を、前記第一のメンブレンと同じ層に形成されたエッチングホールを介して除去することにより形成された間隙であり、
前記エッチングホールを封止している封止部の厚みは、前記第二の電極上の前記第二のメンブレンの厚みと同じであることを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項8】
前記第一のメンブレンの厚さは、前記間隙の厚さの2倍以上であることを特徴とする請求項7に記載の電気機械変換装置。
【請求項9】
前記第二のメンブレンの厚さは、前記間隙の厚さの3倍以上であることを特徴とする請求項7又は8のいずれか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項10】
前記第二のメンブレンの厚さは、前記第一のメンブレンの厚さより厚いことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項11】
前記第一のメンブレンのばね定数が500N/m以上3000N/m以下であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の電気機械変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−222515(P2012−222515A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84674(P2011−84674)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】