説明

電気機械変換装置及びその作製方法

【課題】 従来の振動膜は、圧縮応力を有するメンブレンをキャビティ側に用いていたため、振動膜が大きく撓んでいた。
【解決手段】 本発明の電気機械変換装置は、第一の電極と、前記第一の電極上に形成されたシリコン酸化膜と、前記シリコン酸化膜と間隙を隔てて形成されたシリコン窒化膜と、前記シリコン窒化膜上に形成され前記第一の電極と対向する第二の電極と、からなる振動膜と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換装置及びその作製方法に関する。特に超音波トランスデューサとして用いられる電気機械変換装置とその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシニング技術によって作製される静電容量型の電気機械変換装置は、圧電素子の代替品として研究されている。静電容量型の電気機械変換装置は、素子を構成する絶縁膜が帯電すると、対向する電極間に実効的に印加される電圧が変化するため、変換効率が変化する。ここでの変換効率とは、振動膜の振動を電気信号に変換する効率のことである。印加される電圧が高いほど、また、電極間距離が近いほど、変換効率は高い。各セル間、各素子間の変換効率がばらつく場合、電気機械変換装置の感度ばらつきや帯域ばらつきが発生する。
【0003】
特許文献1には、電極間の絶縁膜の電荷蓄積(帯電)抑制と下部電極と上部電極との間の絶縁膜の耐圧向上とを両立させる電気機械変換装置が記載されている。特許文献1に記載の電気機械変換装置は、下部電極に接する絶縁膜がシリコン酸化膜であり、上部電極に接する、間隙側の絶縁膜(メンブレン)もシリコン酸化膜である。シリコン酸化膜は、電荷が蓄積しにくいため、このような構成により、帯電を抑制することができる。さらに、下部電極と上部電極との間に、シリコン窒化膜を形成している。シリコン窒化膜は、シリコン酸化膜よりも比誘電率が高いため、絶縁膜の容量を同一とした場合、膜を厚くすることができる。よって、このような構成により絶縁耐圧を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−288813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコン酸化膜は圧縮応力を有する。特許文献1のように、帯電を抑制するために、シリコン酸化膜を上部電極に接する、間隙側のメンブレンとして用いる場合、座屈等により振動膜が大きく撓んでしまう。撓み量が大きいと、場合によっては、振動膜が割れてしまうこともある。また、シリコン酸化膜の場合、振動膜の撓み具合もセル毎、素子毎にばらつきやすい。振動膜の撓みばらつきは、素子毎の感度ばらつきとの原因となる。
【0006】
そこで、本発明は、素子の帯電を抑制しつつ、振動膜が低い引っ張り応力となる電気機械変換装置及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の電気機械変換装置は、第一の電極と、前記第一の電極上に形成されたシリコン酸化膜と、前記シリコン酸化膜と間隙を隔てて形成されたシリコン窒化膜と、前記シリコン窒化膜上に形成され前記第一の電極と対向する第二の電極と、からなる振動膜と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の電気機械変換装置の作製方法は、第一の電極上にシリコン酸化膜を形成する工程と、前記シリコン酸化膜上に犠牲層を形成する工程と、前記犠牲層上にシリコン窒化膜を形成する工程と、前記シリコン窒化膜上に第二の電極を形成する工程と、前記シリコン窒化膜にエッチングホールを形成し、前記エッチングホールを介して前記犠牲層を除去する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、素子の帯電を抑制しつつ、振動膜の大きな撓みや、素子毎の振動膜の撓みばらつきを低減した電気機械変換装置及びその作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)(b)本発明の実施例1の適用できる電気機械変換装置を説明するための上面図及び断面図である。
【図2】(a)(b)本発明の実施例2の適用できる電気機械変換装置を説明するための上面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施例3の適用できる電気機械変換装置の作製方法を説明するための上面図である。
【図4】本発明の実施例3の適用できる電気機械変換装置の作製方法を説明するためのA−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
(電気機械変換装置の構成)
図1(a)は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−B断面図である。本発明の電気機械変換装置は、セル構造1を有する素子2を複数有している。素子2は、電気的に接続された複数のセル構造1からなる。図1では、素子2は、9個のセル構造から構成されているが、個数はいくつであっても構わない。また、素子数も、4つの素子のみ記載しているが、個数はいくつでも構わない。セル構造の形状は、図1では円形であるが、四角形、六角形等の形状でも構わない。
【0013】
セル構造1は、基板11、基板11上に形成される第一の絶縁膜12、第一の絶縁膜12上に形成される第一の電極13、第一の電極13上の第二の絶縁膜14を有している。さらに、セル構造1は、メンブレン15と第二の電極4とで構成される振動膜を有する。メンブレン15は、メンブレン支持部16により支持されおり、振動膜は、第二の絶縁膜14と間隙であるキャビティ3を隔てて配置されている。第一の電極13と第二の電極4とは対向しており、第一の電極13と第二の電極4との間には、電圧印加手段17から電圧が印加される。また、素子2は、引き出し配線6を用いることで、第二の電極4から素子毎に電気信号を引き出すことができる。本実施の形態では、引き出し配線6により電気信号を引き出しているが、貫通配線等を用いてもよい。また、本実施の形態では、第一の電極13を共通電極とし、第二の電極4を素子毎に配置することで第二の電極4から素子毎の電気信号を引き出しているが、逆の構成にしても構わない。つまり、第二の電極4を共通電極とし、第一の電極13を素子毎に配置することで、素子毎の電気信号を引き出してもよい。
【0014】
(電気機械変換装置の駆動原理)
本発明の駆動原理を説明する。電気機械変換装置で超音波を受信する場合、電圧印加手段17で、第一の電極13と第二の電極4との間に電位差が生じるように、第一の電極13に直流電圧を印加しておく。超音波を受信すると、第二の電極4を有する振動膜が撓むため、第二の電極4と第一の電極13との間隔(キャビティ3の深さ方向の距離)が変わり、静電容量が変化する。この静電容量変化によって、引き出し配線6に電流が流れる。この電流を、不図示の電流−電圧変換素子によって電圧に変換し、超音波の受信信号とする。上述したように、引き出し配線の構成を変更することによって、第二の電極4に直流電圧を印加し、第一の電極13から素子毎に電気信号を引き出してもよい。
【0015】
また、超音波を送信する場合、第一の電極に直流電圧を印加し、第二の電極に交流電圧を印加し、静電気力によって、メンブレン15と第二の電極4とからなる振動膜を振動させる。この振動によって、超音波を送信することができる。超音波を送信する場合も、引き出し配線の構成を変更することによって、第二の電極に直流電圧を印加し、第一の電極に交流電圧を印加し、振動膜を振動させてもよい。
【0016】
(本発明の電気機械変換装置の特徴)
次に、本発明の電気機械変換装置の特徴部分を説明する。本発明の電気機械変換装置は、メンブレン15としてシリコン窒化膜を用いる。シリコン窒化膜は、応力コントロールが容易であり、低い引張り応力、例えば、0MPaより大きく300MPa以下の引張り応力で形成することができる。よって、シリコン窒化膜の残留応力による振動膜の大きな変形を低減することができる。また、シリコン窒化膜により、各セル間、各素子間の振動膜のたわみばらつきおよび機械特性ばらつきを低減できる。特に、メンブレンとして用いるシリコン窒化膜を低応力にする場合、化学的に理想的な膜組成(ストイキオメトリー)である、シリコンと窒素との比が3:4よりも、シリコンの比が高いことが好ましい。
【0017】
また、本発明の電気機械変換装置では、第一の電極13上の第二の絶縁膜14はシリコン酸化膜である。シリコン酸化膜は、シリコン窒化膜と比較して、第一の電極13との界面の電位障壁高さが高いため、電荷が流れ込みにくい。ここで、電位障壁高さは、高いほど、第一の電極と絶縁膜との界面での電荷の移動がしにくく、電流が流れにくいことを意味する。本発明の電気機械変換装置では、第一の電極13上の第二の絶縁膜14はシリコン酸化膜であるため、電荷の移動が小さく、帯電を低減できる。
【0018】
特に、第一の電極13上のシリコン酸化膜は、ストイキオメトリー(シリコンと酸素の比が1:2)に近いことが好ましい。ストイキオメトリーに近い構成のシリコン酸化膜の場合、シリコンと酸素の未結合手が少ないため、電荷がシリコン酸化膜内にトラップされにくい。従って、電気機械変換装置の帯電をより抑制することができる。
【0019】
ただし、ストイキオメトリーに近いシリコン酸化膜は、圧縮応力になることが多い。そこで、本構成では、帯電を抑制するためのシリコン酸化膜が第一の電極上に形成され、第二の電極のキャビティ側のメンブレンとしては用いていない。従って、振動膜の大きな変形等を防止して、帯電を抑制することができる。
【0020】
また、上記したように、メンブレンとして用いるシリコン窒化膜を低応力にする場合、ストイキオメトリー(シリコンと窒素との比が3:4)よりも、シリコンの比が高いことが好ましい。そのため、シリコンや窒素の未結合手が多くなり、電荷がシリコン窒化膜内にトラップされやすく、帯電しやすい。しかしながら、本発明の電気機械変換装置では、帯電を抑制するためのシリコン酸化膜を第一の電極上に配置しているため、シリコン窒化膜をメンブレンとして用いても、帯電を低減することができる。
【0021】
これらの構成によって、振動膜の大きな変形を低減することができ、また、各セル間、各素子間の振動膜のたわみばらつきを低減することができる。さらに、電気機械変換装置の帯電を低減することもできる。
【0022】
次に、電気機械変換装置の各構成の好適な例を説明する。
本発明の基板11は、表面粗さの小さい基板が好ましく、シリコン基板やガラス基板等を用いることができる。基板11としてシリコン基板等の導電性を有する基板を用いた場合は、基板11が第一の電極13を兼ねても良い。基板11がガラス基板等の絶縁性基板の場合、第一の絶縁膜12はなくてもよい。
【0023】
第一の電極13は、表面粗さが小さい導電材料が望ましく、例えば、チタン、アルミ等を用いることができる。
【0024】
第二の電極4は、残留応力が大きい場合、振動膜の大きな変形を引き起こすため、残留応力の小さな材料が好ましい。また、後述の作製時において、エッチングホール5を封止する際、成膜温度等によって、変質、応力の増加を引き起こさない材料が望ましい。さらに、第二の電極が露出した状態で犠牲層エッチングできるよう、エッチング耐性を有する材料が望ましい。例えば、チタン等を用いることができる。
【0025】
次に、本発明の電気機械変換装置を駆動する際の好適な形態を説明する。本発明においては、電圧印加手段17は、第二の電極4の電位より第一の電極13の電位が低くなるように、電圧を印加することが好ましい。シリコン酸化膜と接している第一の電極13側から電子が流入する構成では、シリコン窒化膜と接している第二の電極4側から電子が流入する場合と比較して、電子の流入量が少ない。従って、シリコン酸化膜、あるいは、シリコン窒化膜に蓄積される電荷量を少なくすることができる。本構成とすることによって、電気機械変換装置の帯電をより抑制することができる。
【0026】
さらに、本発明においては、シリコン窒化膜に印加される電界強度が2MV/cm以下とする構成とすることが好ましい。本構成では、シリコン窒化膜内では、ほぼOhmic伝導であるため、印加される電界強度に対して電流が急激に大きく流れることがない。よって、電荷が急激に移動することがないため、より帯電を抑制することができる。ここで、Ohmic伝導とは、印加される電圧に対して流れる電流が比例関係にあることである。特に、メンブレン15が第一の電極13上の第二の絶縁膜14に接触する場合、シリコン酸化膜に対してシリコン窒化膜の比誘電率が大きいため、シリコン窒化膜に印加される電界強度が大きくなる。本構成では、シリコン窒化膜に印加される電界強度を2MV/cm以下としているため、帯電を抑制することができる。ここで、電界強度は、シリコン窒化膜の厚さと、印加する電圧と、ギャップと、シリコン酸化膜厚さと、により変化する。よって、本発明においては、200V以下の電圧を印加する場合、シリコン酸化膜厚さを50nmから200nmの厚さとし、第一のメンブレンとして用いるシリコン窒化膜の厚さを300nmから800nm以下の厚みにするとよい。
【0027】
(作製方法)
次に、図3、図4を用いて、本発明の作製方法を説明する。図3は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図4は、図3のA−B断面図である。
【0028】
まず、図4(a)に示すように、基板50上に第一の絶縁膜51を形成する。第一の絶縁膜51は、基板50がシリコン基板のような導電性を有する基板の場合、第一の絶縁膜51は第一の電極と絶縁するために形成する。基板50がガラス基板のような絶縁性基板の場合、第一の絶縁膜51は形成しなくともよい。また、基板50は、表面粗さの小さな基板が望ましい。表面粗さが大きい場合、本工程の後工程での成膜工程でも、表面粗さが転写されていくとともに、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまう。このばらつきは、変換効率のばらつきとなるため、各セル間、各素子間の感度、帯域ばらつきとなる。また、表面粗さが大きい場合、電界集中が起こりやすく、絶縁破壊を生じやすい。従って、基板50は、表面粗さの小さな基板が望ましい。
【0029】
次に、図4(b)に示すように、第一の電極52を形成する。第一の電極52は、表面粗さが小さい導電材料が望ましく、例えば、チタン、アルミ等である。基板50と同様に、第一の電極の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまう、あるいは、絶縁破壊を生じやすいため、表面粗さが小さい導電材料が望ましい。特に、チタンは耐熱性が高いため、本工程の後工程での成膜工程での温度による変質や表面粗さの増加が少ないため望ましい。
【0030】
次に、図4(c)に示すように、第二の絶縁膜53を形成する。第二の絶縁膜53は、シリコン酸化膜である。シリコン酸化膜は、Prasma Enhanced Chemical Vapor Deposition(PE−CVD)により、低温(200度〜400度の温度)で第一の電極上に成膜することができる。
【0031】
次に、図4(d)に示すように、シリコン酸化膜上に犠牲層54を形成する。犠牲層54は、表面粗さが小さい材料が望ましい。基板50と同様に、第一の電極の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまう、あるいは、絶縁破壊を生じやすいため、表面粗さが小さい犠牲層が望ましい。また、犠牲層を除去するエッチングのエッチング時間を短くするために、エッチング速度の速い材料が望ましい。さらに、犠牲層を除去するエッチング液あるいはエッチングガスに対して、第二の絶縁膜53、メンブレン55、第二の電極56がエッチングされにくい犠牲層材料が求められる。
【0032】
犠牲層54を除去するエッチング液あるいはエッチングガスに対して、第二の絶縁膜53、メンブレン55がエッチングされる場合、振動膜の厚さばらつき、第一の電極と第二の電極との間の距離ばらつきが発生する。振動膜の厚さばらつき、第一の電極と第二の電極との間の距離ばらつきは、各セル間、各素子間の感度、帯域ばらつきとなる。犠牲層54の材料としては、表面粗さが小さく、第二の絶縁膜53とメンブレン55と第二の電極56とがエッチングされないエッチング液を用いることのできる、クロムが好ましい。
【0033】
次に、図4(e)に示すように、犠牲層上にメンブレン55を形成する。メンブレン55は、シリコン窒化膜である。窒化シリコンは、応力コントロールが容易であり、低い引張り応力、例えば、300MPa以下の引張り応力で形成することができる。上記したように、メンブレンが圧縮応力を有する場合、メンブレンが座屈を引き起こし大きく変形する。また、メンブレンのばね定数が小さい場合、キャビティ43(図3参照)を形成後、メンブレン55が第一の電極52側に付着してしまう(スティッキング)ことがある。
【0034】
スティッキングは、メンブレンの残留応力や、後述する実施例3のような犠牲層エッチング時の水分蒸発による表面張力、静電気力、あるいは、表面の水酸基による水分吸着等によって発生する。本発明の作製方法では、犠牲層エッチングをウェットエッチングで行うため、スティッキングが発生しやすい。特に、周波数帯域が0.3MHz〜20MHzの電気機械変換装置では、キャビティ深さが50〜300nmであり、スティッキングが発生しやすい。そこで、メンブレン55としてシリコン窒化膜を用い、低い引張り応力で形成することが重要となる。
【0035】
また、シリコン窒化膜は、PE−CVDにより成膜することができる。PE−CVDによるシリコン窒化膜は、Low Pressure Chemical Vapor Deposition(LPCVD)によるシリコン窒化膜と比較して、低温(200度〜400度)で成膜できるため好ましい。また、PE−CVDによるシリコン窒化膜のヤング率は、180GPa以上にすることが可能であり、メンブレンの剛性を高めることができるため、スティッキングを低減することができる。
【0036】
次に、図4(f)に示すように、メンブレン55上(シリコン窒化膜上)に第二の電極56を形成する。そして、メンブレンにエッチングホール58を形成し、犠牲層54を除去する。
【0037】
犠牲層54の除去後にエッチングホールを封止する場合、第二の電極56の材料としては、封止する際の成膜温度等によって、変質、応力の増加を引き起こさない材料であることが望ましい。また、エッチング耐性が低い場合、犠牲層54を除去する際に、第二の電極56を保護するフォトレジスト等を塗布したまま、犠牲層エッチングを行う必要がある。しかしながら、フォトレジスト等を塗布すると、フォトレジスト等の応力によってメンブレンがスティッキングしやすくなる。そこで、フォトレジスト等を用いず、第二の電極56が露出した状態で犠牲層エッチングできるよう、第二の電極56としては、エッチング耐性を有する材料であることが望ましい。例えば、チタン等である。
【0038】
エッチングホール58は成膜等により封止することができる。成膜により封止する場合、エッチングホール58を封止する膜は、第二の電極上にも堆積する。第二の電極56上に堆積した膜は、残して所望の機械特性を有する振動膜を構成してもよいし、除去することによって振動膜を形成してもよい。
【0039】
エッチングホールを封止する場合、エッチングホールを封止した後に、不図示の工程により、第二の電極56と接続する配線46を形成する。配線材料はアルミ等でよい。
【0040】
また、本発明においては、エッチングホール58は封止しなくてもよい。エッチングホール58を封止しない場合、第二の電極を形成する工程において、メンブレン55の上に、第二の電極56と接続する配線46を形成しておく。その後、エッチングホールを介して、犠牲層54を除去する。
【0041】
本作製方法で電気機械変換装置を作製することにより、電気機械変換装置の振動膜の機械特性やたわみのばらつきを低減しつつ、帯電を抑制することができる。従って、感度ばらつきや、帯域のばらつきを低減する電気機械変換装置を作製することができる。
【0042】
以下では、より具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0043】
本発明の実施例1の電気機械変換装置の構成を、図1を用いて説明する。図1(a)は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−B断面図である。
【0044】
セル構造1は、300μm厚さのシリコン基板11、シリコン基板11上に形成される第一の絶縁膜12、第一の絶縁膜12上に形成される第一の電極13、第一の電極13上の第二の絶縁膜14を有する。さらに、第二の絶縁膜14とキャビティ3を介して配置される、メンブレン15と第二の電極4とで構成される振動膜と、メンブレン15を支持するメンブレン支持部16と、を有する。また、第一の電極13と第二の電極4との間には電圧印加手段により電圧が印加される。
【0045】
本実施例の第一の絶縁膜12は、熱酸化により形成した厚さ1μmのシリコン酸化膜である。第二の絶縁膜14は、PE−CVDにより形成したシリコン酸化膜である。第一の電極は厚さが50nmのチタンであり、第二の電極4は厚さが100nmのチタンである。メンブレン15はPE−CVDにより作製したシリコン窒化膜であり、100MPa以下の引張り応力で形成する。また、第二の絶縁膜14は、PE−CVDにより成膜した厚さ100nmのシリコン酸化膜である。
【0046】
また、メンブレン15の直径は32μmであり、それぞれの厚さは、0.5μmであり、第二の電極4の直径は26μmである。キャビティの深さは、0.2μmである。
【0047】
本実施例のように、第一の電極13上の第二の絶縁膜14がシリコン酸化膜であるため、帯電を抑制できる。本実施例では、帯電を抑制することにより、各素子間の第一の電極と第二の電極との間に印加される実効電圧ばらつきを0.1V以下に抑制することができる。さらに、メンブレン15が低応力のシリコン窒化膜であるため、各セル間、各素子間の振動膜のたわみばらつき、機械特性ばらつきを低減できる。本実施例では、セル間、素子間の振動膜のたわみばらつきを±2nm以下にすることができる。よって、素子間の感度ばらつきを1dB以下にすることができる。
【0048】
本実施例の電気機械変換装置は、引き出し配線6を用いることで、第二の電極4から素子毎の電気信号を引き出すことができる。超音波を受信する場合、電圧印加手段17により、第一の電極と第二の電極との間に電位差が生じるように、第一の電極に直流電圧を印加しておく。超音波を受信すると、第二の電極4と第一のメンブレン15とからなる振動膜が変形するため、第二の電極4と第一の電極13との間のキャビティ3の距離が変わり、静電容量が変化する。この静電容量変化によって、引き出し配線6に電流が流れる。この電流が不図示の電流−電圧変換素子によって電圧に変換され、超音波の受信信号となる。
【0049】
また、超音波を送信する際は、第一の電極に直流電圧を印加し、第二の電極に交流電圧を印加し、静電気力によって、振動膜を振動させることができる。この振動によって、超音波が送信される。
【0050】
本実施例の電気機械変換装置では、帯電を抑制でき、振動膜の機械特性ばらつき、たわみばらつきを低減できるため、素子間の感度ばらつきを1dB以下にすることができる。
【実施例2】
【0051】
本発明の実施例2の電気機械変換装置の構成を、図2を用いて説明する。実施例2の電気機械変換装置の構成は、振動膜が3層構造である点が実施例1と異なる。図2(a)は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−B断面図である。
【0052】
本実施例のセル構造21は、300μm厚さのシリコン基板31、シリコン基板31上に形成される第一の絶縁膜32、第一の絶縁膜32上に形成される第一の電極33、第一の電極33上の第二の絶縁膜34を有する。さらに、第二の絶縁膜34とキャビティ23を介して配置される、第一のメンブレン36と第二のメンブレン38と第二の電極24とで構成される振動膜と、第一のメンブレン36を支持するメンブレン支持部39を有する。本実施例の素子22は、9つのセル構造からなる。第一の電極33と第二の電極24との間には、電圧印加手段40により電圧が印加される。
【0053】
第一の絶縁膜32は、熱酸化により形成される厚さ1μmのシリコン酸化膜であり、第二の絶縁膜34は、PE−CVDにより形成される厚さ0.1μmのシリコン酸化膜である。第一の電極33は厚さ50nmのチタンであり、第二の電極24も厚さ100nmのチタンである。第一のメンブレン36、第二のメンブレン38は、PE−CVDにより200MPa以下の引張り応力で形成されたシリコン窒化膜である。また、第一のメンブレン36と第二のメンブレン38の直径は、44μmであり、それぞれの厚さは、0.4μm、0.7μmである。第二の電極24の直径は38μmである。また、キャビティ23の深さは0.18μmである。
【0054】
本実施例の電気機械変換装置では、第一の電極33上の第二の絶縁膜34がシリコン酸化膜であるため、帯電を抑制できる。さらに、第一のメンブレンが低応力のシリコン窒化膜であるため、各セル間、各素子間の振動膜のたわみばらつき、機械特性ばらつきを低減できる。
【0055】
また、本実施例の振動膜は、第二の電極24のキャビティ23とは反対側に第二のメンブレン38を有する。この第二のメンブレン38により、振動膜全体の厚みを調整することで、周波数特性を調整することができる。第一のメンブレン36上には第二の電極24が設けられることから、第一と第二の電極間距離を小さくするために薄いほうが良い。そこで、第二のメンブレン38により、振動膜全体の厚みを調整することが好ましい。また、本実施例では、第二のメンブレン38は第一のメンブレン36と同じシリコン窒化膜であるが、第二のメンブレン38は、シリコン窒化膜以外でもよい。ただし、第二のメンブレン38もシリコン窒化膜にすると、振動膜が低い引張り応力となりやすいため、好ましい。
【0056】
また、本実施例の電気機械変換装置に、電圧印加手段40により第一の電極33に−60Vの電圧を印加した場合について、説明する。この場合、第一の電極33の電位が第二の電極24の電位より低くなる。シリコン酸化膜と接している第一の電極33側から電子が流入する構成では、シリコン窒化膜と接している第二の電極24側から電子が流入する場合と比較して、電子の流入量が少ない。従って、シリコン酸化膜、あるいは、シリコン窒化膜に蓄積される電荷量を少なくすることができる。本構成とすることによって、電気機械変換装置の帯電をより抑制することができる。
【0057】
さらに、本実施例のように、第一のメンブレン36の厚さを0.4μmとし、第一の電極33に−60Vの電圧を印加した場合、シリコン窒化膜に印加される電界強度が2MV/cm以下となる。特に、第一のメンブレンが第二の絶縁膜に接しても、115Vまでは、シリコン窒化膜に印加される電界強度が2MV/cm以下となるため、帯電をより抑制できる。
【0058】
本実施例の構成とすることによって、帯電を抑制し、振動膜の機械特性ばらつき、たわみばらつきを抑制できるため、素子間の感度ばらつきを0.5dB以下にすることができる。ただし、上記した電極間の電位の関係や、第一のメンブレンの電界強度については、本実施例に限定されるものではない。実施例1に、第一の電極33の電位が第二の電極24の電位より低くする構成や、電界強度を2MV/cm以下とする構成を適用することもできる。
【実施例3】
【0059】
次に本発明の実施例3について説明する。本実施例は電気機械変換装置の作製方法に関し、図3、図4を用いて、本発明の作製方法の例を説明する。図3は、本発明の電気機械変換装置の上面図であり、図4は、図3のA−B断面図である。
【0060】
図4(a)に示すように、基板50上に第一の絶縁膜51を形成する。基板50は厚さ300μmのシリコン基板である。また、第一の絶縁膜51は第一の電極52と基板50との絶縁を形成するための熱酸化によるシリコン酸化膜であり、厚さ1μmである。
【0061】
次に、図4(b)に示すように、第一の電極52を形成する。第一の電極52は、厚さ50nmのチタンであり、二乗平均表面粗さ(Rms)は2nm以下である。チタンは、スパッタリング、蒸着によって成膜できる。
【0062】
次に、図4(c)に示すように、第二の絶縁膜53を形成する。第二の絶縁膜53は、PE−CVDにより成膜した厚さ0.1μmのシリコン酸化膜であり、二乗平均表面粗さ(Rms)は2nm以下である。第二の絶縁膜53は、第一の電極52と第二の電極56間の電気的短絡あるいは第一の電極52と第二の電極56との間に電圧がかかった時の絶縁破壊を防止できる。また、シリコン酸化膜は、シリコン窒化膜と比較して、第一の電極との電位の障壁高さが高いため、電荷が流れ込みにくい。第一の電極52上の第二の絶縁膜53はシリコン酸化膜であるため、本発明の電気機械変換装置の帯電を抑制できる。
【0063】
次に、図4(d)に示すように、犠牲層54を形成する。犠牲層54は、厚さ0.2μmのクロムであり、二乗平均表面粗さ(Rms)は、1.5nm以下である。また、犠牲層54の直径は40μmである。
【0064】
次に、図4(e)に示すように、メンブレン55を形成する。メンブレン55は、PECVDにより成膜した厚さ0.5μmの窒化膜である。第一のメンブレン55の残留応力は200MPaである。また、メンブレン支持部は、このメンブレン55と同一工程により形成される。
【0065】
次に、図4(f)に示すように、第二の電極56を形成し、さらにエッチングホール58を形成する。第二の電極56は、厚さ0.1μmのチタンであり、残留応力は、200MPa以下である。チタンは、実施例2のように、第二のメンブレンを成膜する場合、温度による表面粗さの増大や応力の変化がない。また、犠牲層54を除去する際にエッチングされないため、レジスト等を塗布して保護することなく、犠牲層54を除去できる。
【0066】
その後、エッチングホール58を介して、犠牲層54を除去する。犠牲層54の除去は、クロムエッチング液(硝酸第二アンモニウムセリウム、過塩素酸、水の混酸)により行う。本実施例では、第二の絶縁膜53がシリコン酸化膜であり、メンブレン55がシリコン窒化膜であり、犠牲層54がクロムである。従って、犠牲層エッチング時に、第二の絶縁膜53とメンブレン55と第二の電極52がエッチングされないため、振動膜の厚さばらつき、第一の電極と第二の電極との間の距離のばらつきが低減できる。よって、各セル間、各素子間の感度、帯域ばらつきを低減することができる。
【0067】
さらに、図示しない工程により、エッチングホール58をPE−CVDによるシリコン窒化膜により封止する。この封止は、実施例2に示す第二のメンブレンを成膜する工程と同じ工程により行うことができる。その後、第一の電極、第二の電極と接続する配線46を形成する。配線材料はアルミである。
【0068】
本作製方法で電気機械変換装置を作製することにより、電気機械変換装置の振動膜の機械特性ばらつきやたわみばらつきを低減しつつ、帯電を抑制することができる。従って、セル毎、素子毎の感度ばらつきや帯域のばらつきを低減した電気機械変換装置を作製することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 セル構造
2 素子
3 キャビティ
4 第二の電極
5 エッチングホール
11 基板
12 第一の絶縁膜
13 第一の電極
14 第二の絶縁膜
15 メンブレン
16 メンブレン支持部
17 電圧印加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、
前記第一の電極上に形成されたシリコン酸化膜と、
前記シリコン酸化膜と間隙を隔てて形成されたシリコン窒化膜と、前記シリコン窒化膜上に形成され前記第一の電極と対向する第二の電極と、からなる振動膜と、
を備えることを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項2】
前記シリコン窒化膜は、0MPaより大きく300MPa以下の引張り応力となるよう形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置。
【請求項3】
前記振動膜は、前記第二の電極の前記間隙とは反対側にもシリコン窒化膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気機械変換装置。
【請求項4】
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電圧を印加する電圧印加手段を備え、
前記電圧印加手段は、前記第一の電極の電位が前記第二の電極の電位より低くなるように電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項5】
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電圧を印加する電圧印加手段を備え、
前記電圧印加手段は、前記シリコン窒化膜に印加される電界強度が2MV/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項6】
第一の電極と、
前記第一の電極上に形成された絶縁膜と、
前記第一の絶縁膜と間隙を隔てて配置され前記第一の電極と対向する第二の電極と、前記第二の電極の前記間隙側に形成されたメンブレンと、からなる振動膜と、
を備え、
前記メンブレンは0MPaより大きく300MPa以下の引張り応力で形成されており、
前記メンブレンより前記絶縁膜のほうが電位障壁が高いことを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項7】
電気機械変換装置の作製方法であって、
第一の電極上にシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記シリコン酸化膜上に犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層上にシリコン窒化膜を形成する工程と、
前記シリコン窒化膜上に第二の電極を形成する工程と、
前記シリコン窒化膜にエッチングホールを形成し、前記エッチングホールを介して前記犠牲層を除去する工程と、を有することを特徴とする電気機械変換装置の作製方法。
【請求項8】
前記犠牲層はクロムであり、ウェットエッチングにより前記犠牲層を除去することを特徴とする請求項7に記載の電気機械変換装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−222516(P2012−222516A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84675(P2011−84675)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】