電気泳動素子およびその製造方法、表示装置、表示基板ならびに電子機器
【課題】高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現可能な表示装置を提供する。
【解決手段】電気泳動素子は、泳動粒子と、その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁とを備えている。
【解決手段】電気泳動素子は、泳動粒子と、その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、泳動粒子および多孔質層を含む電気泳動素子およびその製造方法、その電気泳動素子を用いた表示装置および表示基板、ならびにその表示装置および表示基板を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機または携帯情報端末機器(PDA)などの多様な電子機器の普及に伴い、低消費電力で高品位画質の表示装置に関する需要が高まっている。中でも、最近では、電子書籍の配信事業の誕生に伴い、文字情報を長時間読むことを目的とした読書用途の電子書籍端末が注目されているため、その用途に適した表示品位を有する表示装置が望まれている。
【0003】
読書用途の表示装置の表示方法としては、コレステリック液晶型、電子泳動型、電気酸化還元型またはツイストボール型などが提案されているが、中でも、反射型が好ましい。紙と同様に外光の反射(散乱)を利用して明表示するため、その紙に近い表示品位が得られるからである。また、バックライトが不要であるため、消費電力が抑えられるからである。
【0004】
反射型の表示装置の有力候補は、電気泳動現象を利用して明暗(コントラスト)を生じさせる電気泳動型の表示装置である。低消費電力であると共に高速応答性に優れているからである。そこで、電気泳動型の表示装置の表示原理に関して、さまざまな検討がなされている。
【0005】
具体的には、絶縁性液体中に光学的反射特性および極性が異なる2種類の荷電粒子を分散させて、その極性の違いを利用して各荷電粒子を移動させる方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。この方法では、電界に応じて2種類の荷電粒子の分布が変化するため、光学的反射特性の違いを利用してコントラストが生じる。
【0006】
また、絶縁性液体中に荷電粒子を分散させると共に、その荷電粒子とは光学的反射特性が異なる多孔質層を用いて、多孔質層の細孔を経由して荷電粒子を移動させる方法が提案されている(例えば、特許文献3〜6参照。)。この多孔質層は、レーザを用いた穴開け加工により細孔が形成された高分子フィルムや、合成繊維などにより編まれた布や、連泡多孔性高分子などである。この方法では、電界に応じて荷電粒子の分布が変化するため、光学的反射特性の違いを利用してコントラストが生じる。
【0007】
この他、荷電粒子をマイクロカプセルに封入したり、隔壁構造を用いて荷電粒子の存在可能空間を仕切る方法が提案されている(例えば、特許文献7,8参照。)。この方法により、荷電粒子の凝集、沈殿および対流などが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭50−015115号公報
【特許文献2】特許第4188091号明細書
【特許文献3】特開2005−107146号公報
【特許文献4】特公昭50−015120号公報
【特許文献5】特開2005−128143号公報
【特許文献6】特開2002−244163号公報
【特許文献7】特許第2551783号明細書
【特許文献8】特表2003−526817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気泳動型の表示装置に関してさまざまな表示原理が提案されているにもかかわらず、その表示品位は未だ十分であるとは言えない。このため、今後のカラー化および動画表示などへの展開を考えると、コントラストおよび応答速度の観点においてさらなる性能向上が望まれる。この場合には、電気泳動型の表示装置の本来の利点を活かすために、消費電力を抑えることが重要である。
【0010】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現可能な電気泳動素子およびその製造方法、表示装置、表示基板ならびに電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本技術の電気泳動素子は、泳動粒子と、その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁とを備えたものである。
【0012】
本技術の表示装置は、少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に上記した本技術の電気泳動素子を備えたものであると共に、本技術の表示基板は、光透過性の基体の一面に上記した本技術の電気泳動素子を有するものである。本技術の電子機器は、少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に上記した本技術の電気泳動素子を有する表示装置を備えたものである。
【0013】
本技術の電気泳動素子の製造方法は、多孔質層を形成し、その多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布し、その感光性溶液を露光および現像して多孔質層の一部を包含するように光透過性の隔壁を形成するようにしたものである。ただし、多孔質層は、泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含んでいる。
【0014】
なお、「光学的反射特性」とは、いわゆる光(外光)の反射率である。非泳動粒子の光学的反射特性が泳動粒子の光学的反射特性と異なっているのは、それらの光反射率の違いを利用してコントラストを生じさせるためである。
【発明の効果】
【0015】
本技術の電気泳動素子、表示装置、表示基板または電子機器によれば、多孔質層は繊維状構造体により形成されており、その繊維状構造体は泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持している。隔壁は光透過性を有していると共に多孔質層の一部を包含している。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現できる。
【0016】
また、本技術の電気泳動素子の製造方法によれば、多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布したのち、その感光性溶液を露光および現像することにより、多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁を形成している。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力の電気泳動素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示装置の構成を表す断面図である。
【図2】表示装置の主要部(多孔質層)の構成を表す平面図である。
【図3】表示装置の他の主要部(隔壁)の構成を表す平面図である。
【図4】表示装置の動作を説明するための断面図である。
【図5】表示装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面図である。
【図7】図6に続く工程を説明するための断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図である。
【図9】表示装置の構成に関する変形例を表す平面図である。
【図10】表示装置の構成に関する他の変形例を表す平面図である。
【図11】本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示基板の構成を表す断面図である。
【図12】表示基板の使用方法を説明するための断面図である。
【図13】表示装置を用いた電子ブックの構成を表す斜視図である。
【図14】表示装置を用いたテレビジョン装置の構成を表す斜視図である。
【図15】表示装置を用いたデジタルスチルカメラの構成を表す斜視図である。
【図16】表示装置を用いたパーソナルコンピュータの外観を表す斜視図である。
【図17】表示装置を用いたビデオカメラの外観を表す斜視図である。
【図18】表示装置を用いた携帯電話機の構成を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.電気泳動素子を用いた表示装置
1−1.構成
1−2.製造方法
1−3.作用および効果
1−4.変形例
2.電気泳動素子を用いた表示基板
3.表示装置および表示基板の適用例(電子機器)
【0019】
<1.電気泳動素子を用いた表示装置/1−1.構成>
まず、本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示装置の構成について説明する。図1は、表示装置の断面構成を表しており、図2および図3は、図1に示した表示装置の主要部(多孔質層および隔壁)の平面構成を表している。なお、図1は、図3に示したI−I線に沿った断面に対応している。
【0020】
この電気泳動素子は、表示装置などのさまざまな用途に適用可能であり、その用途は、特に限定されない。ここでは、例えば、電気泳動素子を表示装置に適用する場合について説明するが、その表示装置の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0021】
[表示装置の全体構成]
表示装置は、電気泳動現象を利用して画像を表示する電気泳動型の表示装置であり、いわゆる電子ペーパーディスプレイである。この表示装置は、例えば、図1に示したように、駆動基板10と対向基板20とが電気泳動素子30およびスペーサ40を介して対向配置されたものであり、対向基板20側に画像を表示するようになっている。
【0022】
[駆動基板]
駆動基板10は、例えば、支持基体11の一面に、薄膜トランジスタ(TFT)12と、保護層13と、平坦化絶縁層14と、画素電極15とがこの順に積層されたものである。この駆動基盤10では、例えば、アクティブマトリクス方式の駆動回路を構築するために、TFT12および画素電極15が画素配置に応じてマトリクス状に分割形成されている。
【0023】
支持基体11は、例えば、無機材料、金属材料またはプラスチック材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機材料は、例えば、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiOx )、窒化ケイ素(SiNx )または酸化アルミニウム(AlOx )などであり、その酸化ケイ素には、例えば、ガラスまたはスピンオングラス(SOG)などが含まれる。金属材料は、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)またはステンレスなどである。プラスチック材料は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチルエーテルケトン(PEEK)などである。
【0024】
この支持基体11は、光透過性でもよいし、非光透過性でもよい。表示基板20側に画像が表示されるため、支持基体11は必ずしも光透過性である必要がないからである。また、支持基体11は、ウェハなどの剛性を有する基板でもよいし、可撓性を有する薄層ガラスまたはフィルムなどでもよいが、中でも、後者であることが好ましい。フレキシブル(折り曲げ可能)な表示装置を実現できるからである。
【0025】
TFT12は、画素を選択するためのスイッチング用素子である。このTFT12は、チャネル層として非晶質シリコンなどの無機半導体層を用いた無機TFTでもよいし、ペンタセンなどの有機半導体層を用いた有機TFTでもよい。保護層13および平坦化絶縁層14は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性材料を含んでいる。ただし、保護層13の表面が十分に平坦である場合には、平坦化絶縁層14はなくてもよい。画素電極15は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金または酸化インジウム−酸化スズ(ITO)などのいずれか1種類または2種類以上の導電性材料を含んでいる。この画素電極15は、例えば、保護層13および平坦化絶縁層14に設けられたコンタクトホール(図示せず)を通じてTFT12に接続されている。
【0026】
なお、図1では、例えば、TFT12が後述するセル36ごとに分割されている(1つのセル36に対して1つのTFT12が配置されている)場合を示している。しかしながら、必ずしもこれに限られず、セル36およびTFT12のそれぞれの個数および形成位置は任意でよい。例えば、3つのセル36に対して2つのTFT12が配置されてもよいし、1つのセル36の範囲内に隣り合う2つのTFT12間の境界が位置してもよい。
【0027】
[対向基板]
対向基板20は、例えば、支持基体21の一面に対向電極22が全面形成されたものである。ただし、対向電極22は、画素電極15と同様にマトリクス状に分割形成されていてもよい。
【0028】
支持基体21は、光透過性であることを除き、支持基体11と同様の材料を含んでいる。対向基板20側に画像が表示されるため、支持基体21は光透過性である必要があるからである。対向電極22は、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO)、酸化アンチモン−酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)またはアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などの光透光性導電性材料(透明電極材料)などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0029】
対向基板20側に画像を表示する場合には、外部から対向電極22を介して電気泳動素子30を見ることになるため、その対向電極22の光透過性(光透過率)は、できるだけ高いことが好ましく、例えば、80%以上である。また、対向電極22の電気抵抗は、できるだけ低いことが好ましく、例えば、100Ω/□以下である。
【0030】
[電気泳動素子]
電気泳動素子30は、電気泳動現象を利用してコントラストを生じさせるものであり、例えば、絶縁性液体31中に、泳動粒子32と、多孔質層33と、隔壁34とを備えている。
【0031】
[絶縁性液体]
絶縁性液体31は、例えば、駆動基板10および対向基板20とスペーサ40とにより囲まれた空間に充填されている。
【0032】
この絶縁性液体31は、例えば、有機溶媒などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒は、例えば、パラフィンまたはイソパラフィンなどである。絶縁性液体31の粘度および屈折率は、できるだけ低いことが好ましい。泳動粒子32の移動性(応答速度)が向上すると共に、それに応じて泳動粒子32の移動に要するエネルギー(消費電力)が低くなるからである。また、絶縁性液体31の屈折率と多孔質層33の屈折率との差が大きくなるため、その多孔質層33の光反射率が高くなるからである。
【0033】
なお、絶縁性液体31は、必要に応じて、各種材料を含んでいてもよい。この材料は、例えば、着色剤、電荷制御剤、分散安定剤、粘度調製剤、界面活性剤または樹脂などである。
【0034】
[泳動粒子]
泳動粒子32は、電気的に泳動する1または2以上の荷電粒子(電気泳動粒子)である。この泳動粒子32は、絶縁性液体31中に分散されており、電界に応じて画素電極15と対向電極22との間を移動可能になっている。また、泳動粒子32は、例えば、有機顔料、無機顔料、染料、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料(樹脂)などの粒子(粉末)のいずれか1種類または2種類以上を含む粒子(粉末)である。なお、泳動粒子32は、上記した粒子を含む樹脂固形分の粉砕粒子またはカプセル粒子などでもよい。ただし、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料に該当する材料は、有機顔料、無機顔料または染料に該当する材料から除かれることとする。
【0035】
有機顔料は、例えば、アゾ系顔料、メタルコンプレックスアゾ系顔料、ポリ縮合アゾ系顔料、フラバンスロン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、アントラピリジン系顔料、ピランスロン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料またはインダンスレン系顔料などである。無機顔料は、例えば、亜鉛華、アンチモン白、カーボンブラック、鉄黒、硼化チタン、ベンガラ、マピコエロー、鉛丹、カドミウムエロー、硫化亜鉛、リトポン、硫化バリウム、セレン化カドミウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クロム酸鉛、硫酸鉛、炭酸バリウム、鉛白またはアルミナホワイトなどである。染料は、例えば、ニグロシン系染料、アゾ系染料、フタロシアニン系染料、キノフタロン系染料、アントラキノン系染料またはメチン系染料などである。炭素材料は、例えば、カーボンブラックなどである。金属材料は、例えば、金、銀または銅などである。金属酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、銅−クロム酸化物、銅−マンガン酸化物、銅−鉄−マンガン酸化物、銅−クロム−マンガン酸化物または銅−鉄−クロム酸化物などである。高分子材料は、例えば、可視光領域に光吸収域を有する官能基が導入された高分子化合物などである。このように可視光領域に光吸収域を有する高分子化合物であれば、その種類は特に限定されない。
【0036】
絶縁性液体31中における泳動粒子32の含有量(濃度)は、特に限定されないが、例えば、0.1重量%〜10重量%である。泳動粒子32の遮蔽(隠蔽)性および移動性が確保されるからである。この場合には、含有量が0.1重量%よりも少ないと、泳動粒子32が多孔質層33を遮蔽しにくくなる可能性がある。一方、含有量が10重量%よりも多いと、泳動粒子32の分散性が低下するため、その泳動粒子32が泳動しにくくなり、場合によっては凝集する可能性がある。
【0037】
この泳動粒子32は、任意の光学的反射特性(光反射率)を有している。泳動粒子32の光反射率は、特に限定されないが、少なくとも泳動粒子32が多孔質層33を遮蔽可能となるように設定されることが好ましい。泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストを生じさせるためである。
【0038】
ここで、泳動粒子32の具体的な形成材料は、例えば、コントラストを生じさせるために泳動粒子32が担う役割に応じて選択される。具体的には、泳動粒子32により明表示される場合に選択される材料は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウムまたはチタン酸カリウムなどの金属酸化物である。一方、泳動粒子32により暗表示される場合に選択される材料は、例えば、炭素材料または金属酸化物などである。炭素材料は、例えば、カーボンブラックなどである。金属酸化物は、例えば、銅−クロム酸化物、銅−マンガン酸化物、銅−鉄−マンガン酸化物、銅−クロム−マンガン酸化物または銅−鉄−クロム酸化物などである。中でも、炭素材料が好ましい。優れた化学的安定性、移動性および光吸収性が得られるからである。
【0039】
泳動粒子32により明表示される場合、外部から視認される泳動粒子32の色は、コントラストを生じさせることができれば特に限定されないが、中でも、白色に近い色が好ましく、白色がより好ましい。一方、泳動粒子32により暗表示される場合、外部から視認される泳動粒子32の色は、コントラストを生じさせることができれば特に限定されないが、中でも、黒色に近い色が好ましく、黒色がより好ましい。いずれの場合でも、コントラストが高くなるからである。
【0040】
なお、泳動粒子32は、絶縁性液体31中において長期間に渡って分散および帯電しやすいと共に多孔質層33に吸着しにくいことが好ましい。このため、静電反発により泳動粒子32を分散させるために分散剤(または電荷調整剤)を用いたり、泳動粒子32に表面処理を施してもよく、両者を併用してもよい。
【0041】
分散剤は、例えば、Lubrizol社製のSolsperse シリーズ、BYK-Chemie社製のBYK シリーズまたはAnti-Terra シリーズ、またはICI Americas 社製Spanシリーズなどである。
【0042】
表面処理は、例えば、ロジン処理、界面活性剤処理、顔料誘導体処理、カップリング剤処理、グラフト重合処理またはマイクロカプセル化処理などである。中でも、グラフト重合処理、マイクロカプセル化処理またはそれらの組み合わせが好ましい。長期間の分散安定性などが得られるからである。
【0043】
表面処理用の材料は、例えば、泳動粒子32の表面に吸着可能な官能基と重合性官能基とを有する材料(吸着性材料)などである。吸着可能な官能基の種類は、泳動粒子32の形成材料に応じて決定される。一例を挙げると、カーボンブラックなどの炭素材料に対しては4−ビニルアニリンなどのアニリン誘導体であると共に、金属酸化物に対してはメタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルなどのオルガノシラン誘導体である。重合性官能基は、例えば、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などである。
【0044】
また、表面処理用の材料は、例えば、重合性官能基が導入された泳動粒子32の表面にグラフト可能な材料(グラフト性材料)である。このグラフト性材料は、重合性官能基と、絶縁性液体31中に分散可能とすると共に立体障害により分散性を保持可能な分散用官能基とを有していることが好ましい。重合性官能基の種類は、吸着性材料について説明した場合と同様である。分散用官能基は、例えば、絶縁性液体31がパラフィンである場合には分岐状のアルキル基などである。グラフト性材料を重合およびグラフトさせるためには、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などの重合開始剤を用いればよい。
【0045】
参考までに、上記したように絶縁性液体31中に泳動粒子32を分散させる方法の詳細に関しては、「超微粒子の分散技術とその評価〜表面処理・微粉砕と気中/液中/高分子中の分散安定化〜(サイエンス&テクノロジー社)」などの書籍に掲載されている。
【0046】
[多孔質層]
多孔質層33は、図1および図2に示したように、繊維状構造体33Aにより形成された3次元立体構造物(不織布のような不規則なネットワーク構造物)を含んでいる。この多孔質層33は、繊維状構造体33Aが存在していない箇所に、泳動粒子32が通過するための1または2以上の隙間(細孔35)を有している。
【0047】
繊維状構造体33Aには、1または2以上の非泳動粒子33Bが包含されており、その非泳動粒子33Bは、繊維状構造体33Aにより保持されている。3次元立体構造物である多孔質層33では、1本の繊維状構造体33Aがランダムに絡み合っていてもよいし、複数本の繊維状構造体33Aが集合してランダムに重なると共に絡み合っていてもよい。繊維状構造体33Aが複数本である場合には、各繊維状構造体33Aは、1または2以上の非泳動粒子33Bを包含していることが好ましい。なお、図1および図2では、複数本の繊維状構造体33Aにより多孔質層33が形成されている場合を示しており、図2では、繊維状構造体33Aの図示内容を簡略化している。
【0048】
多孔質層33が3次元立体構造物であるのは、その不規則な立体構造により外光が乱反射(多重散乱)されやすくなるため、多孔質層33が薄くても高い光反射率が得られるからである。これにより、コントラストが高くなると共に、泳動粒子32の移動に要するエネルギーが低くなる。また、細孔35の平均孔径が大きくなると共にその数も多くなるため、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるからである。これにより、泳動粒子32の移動に要する時間が短くなると共に、その移動に要するエネルギーがより低くなる。
【0049】
繊維状構造体33Aが非泳動粒子33Bを保持しているのは、その非泳動粒子33Bが外光をより乱反射しやすくなるため、多孔質層33の光反射率がより高くなるからである。これにより、コントラストがより高くなる。
【0050】
繊維状構造体33Aは、直径(繊維径)に対して長さ(繊維長さ)が十分に大きな細長い形状を有する繊維状物質である。この繊維状構造体33Aは、例えば、高分子材料または無機材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、他の材料を含んでいてもよい。高分子材料は、例えば、ナイロン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルクロライド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリサルフォン、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンフロリド、ポリヘキサフルオロプロピレン、セルロースアセテート、コラーゲン、ゼラチン、キトサンまたはそれらのコポリマーなどである。無機材料は、例えば、酸化チタンなどである。中でも、繊維状構造体33Aは、高分子材料を含んでいることが好ましい。反応性(光反応性など)が低い(化学的に安定である)ため、繊維状構造体33Aの意図しない分解反応が抑制されるからである。なお、繊維状構造体33Aが高反応性の材料を含んでいる場合には、その繊維状構造体33Aの表面は任意の保護層により被覆されていることが好ましい。
【0051】
繊維状構造体33Aの形状(外観)は、上記したように繊維径に対して繊維長さが十分に大きな繊維状であれば、特に限定されない。具体的には、真っ直ぐに延在していてもよいし、縮れていたり、途中で折れ曲がっていてもよい。また、一方向に延在しているだけに限らず、途中で1または2以上の方向に分岐していてもよい。この繊維状構造体33Aの形成方法は、特に限定されないが、例えば、相分離法、相反転法、静電(電界)紡糸法、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、ゲル紡糸法、ゾルゲル法またはスプレー塗布法などのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。直径に対して長さが十分に大きな繊維状物質を容易かつ安定に形成しやすいからである。
【0052】
繊維状構造体33Aの平均繊維径は、特に限定されないが、できるだけ小さいことが好ましい。光が乱反射しやすくなると共に、細孔35の平均孔径が大きくなるからである。ただし、平均繊維径は、繊維状構造体33Aが非泳動粒子33Bを包含できるように決定される必要がある。このため、繊維状構造体33Aの平均繊維径は、10μm以下であることが好ましい。なお、平均繊維径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1μmであり、それ以下でもよい。この平均繊維径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた顕微鏡観察により測定される。なお、繊維状構造体33Aの平均長さは、任意でよい。
【0053】
細孔35の平均孔径は、特に限定されないが、中でも、できるだけ大きいことが好ましい。泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるからである。このため、細孔35の平均孔径は、0.1μm〜10μmであることが好ましい。
【0054】
多孔質層33の厚さは、特に限定されないが、例えば、5μm〜100μmである。多孔質層33の遮蔽性が高くなると共に、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるからである。ここで規定した厚さは、多孔質層33の最大厚さを意味する。
【0055】
特に、繊維状構造体33Aは、ナノファイバーであることが好ましい。立体構造が複雑化するため、外光が乱反射しやすくなるからである。この場合には、多孔質層33の光反射率がより高くなると共に、多孔質層33の単位面積中に占める細孔35の面積の割合が大きくなるため、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなる。これにより、コントラストがより高くなると共に、泳動粒子32の移動に要するエネルギーがより低くなる。ナノファイバーとは、繊維径が0.001μm〜0.1μmであると共に繊維長さが繊維径の100倍以上である繊維状物質である。ナノファイバーである繊維状構造体33Aは、高分子材料を用いた静電紡糸法により形成されていることが好ましい。繊維径が小さい繊維状構造体33Aを容易かつ安定に形成しやすいからである。
【0056】
この繊維状構造体33Aは、泳動粒子32とは異なる光学的反射特性を有していることが好ましい。具体的には、繊維状構造体33Aの光反射率は、特に限定されないが、少なくとも多孔質層33が全体として泳動粒子32を遮蔽可能となるように設定されることが好ましい。上記したように、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストを生じさせるためである。これに伴い、絶縁性液体31中において光透過性(無色透明)を有する繊維状構造体33Aは好ましくない。ただし、繊維状構造体33Aの光反射率が多孔質層33全体の光反射率にほとんど影響を及ぼさず、その多孔質層33全体の光反射率が実質的に非泳動粒子33Bの光反射率により決定される場合には、繊維状構造体33Aの光反射率は任意でよい。
【0057】
非泳動粒子33Bは、繊維状構造体33Aにより保持(固定)されており、電気的に泳動しない粒子である。この非泳動粒子33Bの形成材料は、例えば、泳動粒子32の形成材料と同様であり、後述するように、非泳動粒子33Bが担う役割に応じて選択される。なお、非泳動粒子33Bは、繊維状構造体33Aから部分的に露出していてもよいし、その繊維状構造体33Aの内部に埋設されていてもよい。
【0058】
この非泳動粒子33Bは、泳動粒子32とは異なる光学的反射特性を有している。非泳動粒子33Bの光反射率は、特に限定されないが、少なくとも多孔質層33が全体として泳動粒子32を遮蔽可能となるように設定されることが好ましい。上記したように、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストを生じさせるためである。
【0059】
ここで、非泳動粒子33Bの具体的な形成材料は、例えば、コントラストを生じさせるために非泳動粒子33Bが担う役割に応じて選択される。具体的には、非泳動粒子33Bにより明表示される場合に選択される材料は、泳動粒子32により明表示される場合に選択される材料と同様である。一方、非泳動粒子33Bにより暗表示される場合に選択される材料は、泳動粒子32により暗表示される場合に選択される材料と同様である。中でも、非泳動粒子33Bにより明表示される場合に選択される材料としては、金属酸化物が好ましく、酸化チタンがより好ましい。電気化学的安定性および定着性などに優れていると共に、高い反射率が得られるからである。コントラストを生じさせることができれば、非泳動粒子33Bの形成材料は、泳動粒子32の形成材料と同じ種類でもよいし、違う種類でもよい。
【0060】
なお、非泳動粒子33Bにより明表示または暗表示される場合に視認される色は、泳動粒子32が視認される色について説明した場合と同様である。
【0061】
[電気泳動素子の好ましい表示方法]
電気泳動素子30では、上記したように、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストが生じる。この場合には、泳動粒子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示されてもよいし、その逆でもよい。このような役割の違いは、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との大小関係により決定される。すなわち、明表示される方の光反射率は、暗表示される方の光反射率よりも高くなるように設定される。
【0062】
中でも、多孔質層33の光反射率が泳動粒子32の光反射率よりも高いため、泳動粒子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示されることが好ましい。これに伴い、多孔質層33の光反射率が実質的に非泳動粒子33Bの光反射率により決定される場合には、非泳動粒子33Bの光反射率は泳動粒子32の光反射率よりも高いことが好ましい。多孔質層33による外光の乱反射を利用して明表示の光反射率が著しく高くなるため、それに応じてコントラストも著しく高くなるからである。
【0063】
[隔壁]
隔壁34は、絶縁性液体31中における泳動粒子32の存在可能空間を仕切るものであり、光透過性を有している。この隔壁34は、図1に示したように、多孔質層33の一部を包含しながら泳動粒子32の泳動方向に沿って延在することで、絶縁性液体31が満たされている空間を複数の空間(後述するセル36)に分割している。なお、隔壁34は、例えば、一端部において平坦化絶縁層14に隣接していると共に、他端部において対向電極22に隣接している。
【0064】
「隔壁34が多孔質層33の一部を包含している」とは、非泳動粒子33Bが繊維状構造体33Aにより保持されている状態(多孔質層33の構成そのもの)を維持しつつ、その多孔質層33の一部がそのまま隔壁34の内部に収容されていることを意味する。また、「泳動粒子32の泳動方向」とは、泳動粒子32が画素電極15または対向電極22に向かって移動する方向であり、図1〜図3のZ軸方向である。
【0065】
隔壁34が光透過性を有していると共に多孔質層33の一部を包含しているのは、その隔壁34の存在に起因するコントラストの低下が抑制されるからである。詳細には、隔壁34が光透過性を有していないと、その隔壁34自体により意図せずに暗表示されるため、明表示状態における電気泳動素子30全体の光反射率が低下してしまう。これに対して、隔壁34が光透過性を有していると、その隔壁34自体により暗表示されにくいため、明表示状態における電気泳動素子30全体の光反射率が低下しにくくなる。しかも、隔壁34に包含されている非泳動粒子33Bにより光が乱反射されるため、電気泳動素子30全体の光反射率はより低下しにくくなる。このため、隔壁34が存在していても、コントラストがほとんど影響を受けなくなる。
【0066】
隔壁34の形成材料は、光透過性を有していれば、特に限定されない。中でも、隔壁34は、感光性材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。後述するように、表示装置の製造工程において、多孔質層33の一部を包含する隔壁34を容易かつ安定に形成しやすいからである。この感光性材料は、例えば、光パターニングが可能な光架橋反応型、光変性型、光重合反応型または光分解反応型などの感光性樹脂(光硬化性樹脂)である。この感光性樹脂の具体例は、フォトレジストであり、その種類はネガ型でもポジ型でもよい。フォトレジストは化学的に安定であるため、泳動素子32の泳動現象などに影響を及ぼしにくいからである。この感光性材料を光パターニングする光(光源)の種類は、特に限定されないが、例えば、半導体レーザ、エキシマレーザ、電子線、紫外線、メタルハライドランプ、高圧水銀灯などである。
【0067】
なお、隔壁34の幅Wは、例えば、その隔壁34の延在方向において一定である。また、隔壁34の高さHは、例えば、複数の隔壁34間において一定である。
【0068】
この隔壁34により、図1および図3に示したように、泳動素子32を収容するための1または2以上の空間(セル36)が形成されている。このセル36の数および配列パターンは、特に限定されないが、例えば、複数のセル36を効率よく形成および配置するためにマトリクス状(複数行×複数列)であることが好ましい。また、セル36の形状(開口形状)は、特に限定されないが、例えば、図3に示したように矩形でもよいし、他の形状(六角形など)でもよい。
【0069】
なお、隔壁34の寸法は、特に限定されず、任意に設定可能である。一例を挙げると、隔壁34のピッチは、30μm〜300μm、好ましくは100μm〜200μmであり、隔壁34の高さHは、5μm〜150μm、好ましくは10μm〜50μmである。
【0070】
[スペーサ]
スペーサ40は、例えば、高分子材料などの絶縁性材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、スペーサ40の構成は、特に限定されず、微粒子が混入されたシール材などでもよい。
【0071】
スペーサ40の形状は、特に限定されないが、中でも、泳動粒子32の移動を妨げないと共にその泳動粒子32を均一分布させることが可能な形状であることが好ましく、例えば、格子状である。また、スペーサ40の厚さは、特に限定されないが、中でも、消費電力を低くするためにできるだけ薄いことが好ましく、例えば、10μm〜100μmである。
【0072】
[表示装置の動作]
この表示装置は、以下のように動作する。図4は、表示装置の動作を説明するためのものであり、図1に対応する断面構成を示している。
【0073】
ここでは、例えば、非泳動粒子33Bの光反射率が泳動素子32の光反射率よりも高いため、泳動素子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示される場合について説明する。
【0074】
初期状態では、図1に示したように、全てのセル36において、絶縁性液体31中に分散された泳動粒子32が画素電極15に近い側に位置している。この場合には、対向基板20側から電気泳動素子30を見ると、全てのセル36において泳動粒子32が多孔質層33により遮蔽されている(明表示されている)ため、コントラストが生じていない(画像が表示されていない)状態にある。
【0075】
TFT12によりセル36が選択され、画素電極15と対向電極22との間に電界が印加されると、図4に示したように、電界が印加されたセル36において、泳動素子32が多孔質層33の細孔35を経由して対向電極22に向かって移動する。この場合には、対向基板20側から電気泳動素子30を見ると、泳動粒子32による多孔質層33の遮蔽状態の有無に応じて、2種類のセル36(画素)が共存する。泳動粒子32が多孔質層33により遮蔽されている(明表示されている)画素と、泳動粒子32が多孔質層33により遮蔽されていない(暗表示されている)画素とである。この表示色の違いを利用してコントラストが生じると共に、セル36ごとに表示色(明表示または暗表示)が切り換えられるため、全体のコントラストを利用して画像が表示される。
【0076】
<1−2.製造方法>
この表示装置は、以下の手順により製造される。図5〜図8は、表示装置の製造方法を説明するためのものであり、いずれも図1に対応する断面構成を示している。なお、各構成要素の形成材料に関しては既に詳細に説明したので、以下では、それらの説明を省略する。
【0077】
最初に、図5に示したように、支持基体21の一面に対向電極22を形成して対向基板20を作製する。この対向電極22の形成方法としては、例えば、各種成膜法などの既存の形成方法を随時選択して用いることができる。
【0078】
続いて、例えば、以下の手順により、対向電極22の上に多孔質層33を形成する。最初に、繊維状構造体33Aの形成材料(例えば高分子材料など)を有機溶剤などに分散または溶解させて、紡糸溶液を調製する。続いて、紡糸溶液に非泳動粒子33Bを加えたのち、十分に攪拌して非泳動粒子33Bを分散させる。最後に、紡糸溶液を用いて静電紡糸法により紡糸を行う。これにより、繊維状構造体33Aにより非泳動粒子33Bが保持されるため、多孔質層33が形成される。
【0079】
続いて、隔壁34の形成材料を含む溶液(例えば感光性材料を含む感光性溶液37)を準備する。この場合には、必要に応じて、隔壁34の形成材料を有機溶剤などに溶解または分散させてもよい。続いて、図6に示したように、対向電極22の表面に多孔質層33が埋設されるように感光性溶液37を塗布してから、例えば、感光性溶液37の上に補助基体38を配置する。この補助基体38は、感光性溶液37の塗布厚さを規制(後工程において形成される隔壁34の高さHを規定)するものであり、例えば、支持基体21と同様の材料により形成されている。なお、補助基体38は、光透過性でもよいし、光反射性または光吸収性でもよいが、ここでは、例えば、光透過性の補助基体38を用いる。この場合には、例えば、隔壁34の形成材料として、紫外線波長域の光に対して反応性を示すネガ型のフォトレジスト(UVレジン)を用いると共に、多孔質層33が埋設されるように感光性溶液37の塗布厚さを設定する。
【0080】
続いて、感光性溶液37を光パターニングする。具体的には、例えば、支持基体21側から光Lを照射して、感光性溶液37を選択的に露光する。この場合には、隔壁34の形成領域ごとに光Lを照射して、各領域における感光性溶液37を露光する。この露光工程では、例えば、支持基体21および補助基体38がいずれも光透過性を有しているため、照射された光Lは、支持基体21を透過して感光性溶液37に到達したのち、その感光性溶液37を経由してから補助基体38を透過する。この光Lは、例えば、紫外線波長域のレーザなどである。レーザ光を用いて感光性溶液37をスキャンすれば、マスクを用いずに所望の領域を簡単かつ正確に露光できるからである。この他、光Lは、例えば、コリメート光(平行光)でもよい。
【0081】
続いて、補助基体38を取り外すと共に露光後の感光性溶液37を現像したのち、必要に応じて現像後の感光性溶液37を加熱する。これにより、感光性溶液37のうちの未露光部分が除去されると共に、その感光性溶液37の残存部分(露光部分)が膜化するため、図7に示したように、露光箇所ごとに、多孔質層33の一部を包含する隔壁34が形成される。上記した補助基体38により感光性溶液37の塗布厚さがほぼ一定となるように規制されたことに伴い、隔壁34の高さHもほぼ一定になる。
【0082】
続いて、図8に示したように、支持体11の一面にTFT12、保護層13、平坦化絶縁層14および画素電極15をこの順に形成して駆動基板10を作製する。この駆動基板10の各構成要素の形成方法としては、例えば、既存の形成方法を随時選択して用いることができる。なお、駆動基板10をあらかじめ作製しておいてもよい。
【0083】
続いて、スペーサ40を介して駆動基板10と対向基板20とを対向配置させる。この場合には、例えば、隔壁34の一端部が平坦化絶縁層14に隣接するように駆動基板10と対向基板20との間の距離を調整する。
【0084】
最後に、泳動粒子32が分散された絶縁性液体31を準備したのち、図1に示したように、駆動基板10と対向基板20とスペーサ40とにより囲まれた空間に絶縁性液体31を充填する。ただし、絶縁性液体31をあらかじめ調製しておいてもよい。これにより、表示装置が完成する。
【0085】
なお、駆動基板10と対向基板20とを対向配置させてから絶縁性液体31を充填するようにしたが、これに限られない。例えば、多孔質層33が形成された対向基板20に絶縁性液体31を塗布して、その多孔質層33の細孔35に絶縁性液体31を含浸させたのち、対向基板20を駆動基板10と対向させるようにしてもよい。絶縁性液体31を塗布する場合には、例えば、絶縁性液体31を滴下してもよいし、印刷法などを用いてもよい。
【0086】
<1−3.作用および効果>
この電気泳動素子および表示装置によれば、多孔質層33は繊維状構造体33Aにより形成されており、その繊維状構造体33Aは泳動粒子32とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子33Bを含んでいる。また、隔壁34は、光透過性を有していると共に、多孔質層33の一部を包含している。
【0087】
この場合には、第1に、多孔質層33が泳動粒子32を通過させることができる十分な大きさおよび数の細孔35を有していながら、その多孔質層33が薄くても外光が乱反射される。特に、繊維状構造体33Aだけでなく、非泳動粒子33Bによっても外光が乱反射される。これにより、多孔質層33の光反射率が向上するため、コントラストが高くなる。また、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるため、その泳動粒子32の移動に要する時間が短くなると共に必要なエネルギーも低くなる。
【0088】
第2に、光透過性の隔壁34が多孔質層33の一部を包含しているため、その隔壁34が存在していても、明表示状態における電気泳動素子30全体の光反射率が低下しにくくなる。特に、隔壁34に包含されている非泳動粒子33Bにより光が乱反射されるため、電気泳動素子30全体の光反射率はより低下しにくくなる。これにより、隔壁34が存在していてもコントラストがほとんど影響を受けないため、その隔壁34の存在に起因するコントラストの低下が抑制される。
【0089】
第3に、多孔質層33が隔壁34により支持されているため、表示装置を横向きまたは逆さにした状態で長時間放置しても、絶縁性液体31中における多孔質層33の位置が変動しにくくなる。この「多孔質層33の位置」とは、多孔質層33と画素電極15および対向電極22との位置関係(距離など)である。これにより、多孔質層33の細孔35を経由する泳動粒子32の移動しやすさなどが変動しにくくなるため、コントラストが安定化する。
【0090】
第4に、隔壁34により泳動粒子32の存在可能空間が仕切られているため、その泳動粒子32が隣のセル36に移動しにくくなる。これにより、泳動粒子32の拡散、対流および凝集などが抑制されるため、表示ムラなどの画質低下が抑制される。
【0091】
よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現できる。これにより、表示装置は低消費電力で高品位な画像を表示できる。
【0092】
この他、繊維状構造体33Aが静電紡糸法により形成されており、または繊維状構造体33Aがナノファイバーであれば、外光の乱反射性がより高くなる立体構造を形成しやすくなる。また、細孔35の孔径がより大きくなると共に、その数もより多くなる。よって、より高い効果を得ることができる。
【0093】
また、非泳動粒子33Bの光反射率が泳動粒子32の光反射率よりも高いため、泳動粒子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示されるようにすれば、外光の乱反射を利用して多孔質層33の光反射率を著しく向上させることができる。
【0094】
この他、電気泳動素子の製造方法によれば、多孔質層33を埋設するように感光性溶液37を塗布したのち、その感光性溶液37を露光および現像することにより、その多孔質層33の一部を包含する光透過性の隔壁34を形成している。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力の電気泳動素子を実現できる。この場合には、特に、隔壁34を容易かつ再現性よく形成できる。
【0095】
また、感光性溶液37の上に塗布厚さを規制するための補助基体38を配置したのち、その感光性溶液37を露光および現像すれば、高さHがほぼ一定となるように隔壁34を形成できる。
【0096】
<1−4.変形例>
隔壁34の形状は、任意に変更可能である。隔壁34の形成材料として感光性材料を用いる場合には、例えば、その感光性材料の光パターニング時における露光条件および光入射条件などに応じて、隔壁34の形状を制御できる。これに伴い、隔壁34の幅Wは、その延在方向において均一(一定)である場合に限らず、不均一でもよい。例えば、図9に示したように、幅Wが対向基板20(画像が表示される側)に近づくにしたがって次第に狭くなるようにしてもよいし、図10に示したように、幅Wが対向基板20に近づくにしたがって次第に広くなるようにしてもよい。隔壁34の側面の傾斜角度(いわゆるテーパ角度)は、特に限定されないが、例えば、60°〜90°、好ましくは75°〜85°である。この隔壁34の幅Wは、例えば、感光性溶液37の露光時(図6参照)における光Lの照射強度または照射時間などの条件を変更することで制御される。これらの場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0097】
特に、幅Wが対向基板20に近づくにしたがって次第に狭くなる場合(図9)には、画像を表示する側に向かってセル36の開口範囲が広くなるため、画像の表示範囲を広げることができる。一方、幅Wが対向基板20に近づくにしたがって次第に広くなる場合(図10)には、対向基板20に対する隔壁34の接触面積が大きくなるため、その対向基板20に対する隔壁34の密着性を向上させることができる。これにより、隔壁34の支持安定性が向上する。
【0098】
<2.電気泳動素子を用いた表示基板>
次に、本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示基板の構成について説明する。図11および図12はそれぞれ表示基板の構成および使用方法を説明するためのものであり、いずれも図1に対応する断面構成を表している。なお、図11および図12では、既に説明した表示装置と同一の構成要素に同一の符号を付している。以下では、同一の構成要素に関する説明を随時省略すると共に、その同一の構成要素を随時引用しながら説明する。
【0099】
本技術の電気泳動素子は、上記した表示装置の他、その表示装置を作製するために用いられる表示基板に適用可能である。この表示基板は、例えば、図11に示したように、駆動基板10に代えて保護層(またはシーリング層)51および剥離基体52を備えていることを除き、表示装置と同様の構成を有している。
【0100】
保護層51は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはウレタン系樹脂などの高分子材料を含んでいる。剥離基体52は、例えば、PETなどの高分子シートであり、必要に応じて保護層51から剥離可能になっている。
【0101】
この表示基板は、例えば、図12に示したように、剥離基体52が保護層51から剥離されたのち、接着層(または粘着層)60を介して駆動基板10に貼り合わされる。これにより、表示装置が完成する。この接着層60は、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂またはゴム系などの粘着シートである。
【0102】
なお、表示基板の製造手順は、例えば、駆動基板10に代えて保護層51および剥離基体52を用いることを除き、表示装置の製造手順と同様である。
【0103】
この表示基板では、多孔質層33および隔壁34などを含んでいる点において表示装置の対向基板20(電気泳動素子30)と同様の構成を有しているので、その表示装置と同様の作用が得られる。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現できる。これ以外の効果および変形例は、表示装置と同様である。
【0104】
<3.表示装置および表示基板の適用例(電子機器)>
次に、上記した表示装置の適用例について説明する。
【0105】
本技術の表示装置は、各種用途の電子機器に適用可能であり、その電子機器の種類は特に限定されない。この表示装置は、例えば、以下の電子機器に搭載可能である。ただし、以下で説明する電子機器の構成はあくまで一例であるため、その構成は適宜変更可能である。
【0106】
図13は、電子ブックの外観構成を表している。この電子ブックは、例えば、表示部110および非表示部(筐体)120と、操作部130とを備えている。なお、操作部130は、(A)に示したように非表示部120の前面に設けられていてもよいし、(B)に示したように上面に設けられていてもよい。なお、表示装置は、図13に示した電子ブックと同様の構成を有するPDAなどに搭載されてもよい。
【0107】
図14は、テレビジョン装置の外観構成を表している。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル210およびフィルターガラス220を含む映像表示画面部200を備えている。
【0108】
図15は、デジタルスチルカメラの外観構成を表しており、(A)および(B)は、それぞれ前面および後面を示している。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部310と、表示部320と、メニュースイッチ330と、シャッターボタン340とを備えている。
【0109】
図16は、ノート型パーソナルコンピュータの外観構成を表している。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体410と、文字等の入力操作用のキーボード420と、画像を表示する表示部430とを備えている。
【0110】
図17は、ビデオカメラの外観構成を表している。このビデオカメラは、例えば、本体部510と、その本体部510の前面に設けられた被写体撮影用のレンズ520と、撮影時のスタート/ストップスイッチ530と、表示部540とを備えている。
【0111】
図18は、携帯電話機の外観構成を表している。(A)および(B)は、それぞれ携帯電話機を開いた状態の正面および側面を示している。(C)〜(G)は、それぞれ携帯電話機を閉じた状態の正面、左側面、右側面、上面および下面を示している。この携帯電話機は、例えば、上側筐体610と下側筐体620とが連結部(ヒンジ部)630により連結されたものであり、ディスプレイ640と、サブディスプレイ650と、ピクチャーライト660と、カメラ670とを備えている。
【0112】
以上、実施形態を挙げて本技術を説明したが、本技術は実施形態で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本技術の電気泳動素子およびその製造方法は、表示装置に限らず、他の電子機器に適用されてもよい。
【0113】
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電気泳動素子。
(2)
前記隔壁は感光性材料を含む、上記(1)記載の電気泳動素子。
(3)
前記感光性材料はフォトレジストである、上記(2)記載の電気泳動素子。
(4)
前記繊維状構造体は高分子材料または無機材料を含むと共に静電紡糸法により形成されており、その繊維状構造体の平均繊維径は10μm以下である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の電気泳動素子。
(5)
前記泳動粒子および前記非泳動粒子は有機顔料、無機顔料、染料、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料を含む、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の電気泳動素子。
(6)
前記非泳動粒子の光反射率は前記泳動粒子の光反射率よりも高い、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の電気泳動素子。
(7)
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示装置。
(8)
光透過性の基体の一面に電気泳動素子を有し、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示基板。
(9)
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を有する表示装置を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電子機器。
(10)
多孔質層を形成し、
その多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布し、
その感光性溶液を露光および現像して、前記多孔質層の一部を包含するように光透過性の隔壁を形成し、
前記多孔質層が、泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含むようにする、
電気泳動素子の製造方法。
(11)
前記感光性溶液の上に塗布厚さを規制するための基体を配置したのち、その感光性溶液を露光および現像する、上記(10)記載の電気泳動素子の製造方法。
【符号の説明】
【0114】
10…駆動基板、15…画素電極、20…対向基板、22…対向電極、30…電気泳動素子、31…絶縁性液体、32…泳動粒子、33…多孔質層、34…隔壁、35…細孔、36…セル、40…スペーサ、33A…繊維状構造体、33B…非泳動粒子。
【技術分野】
【0001】
本技術は、泳動粒子および多孔質層を含む電気泳動素子およびその製造方法、その電気泳動素子を用いた表示装置および表示基板、ならびにその表示装置および表示基板を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機または携帯情報端末機器(PDA)などの多様な電子機器の普及に伴い、低消費電力で高品位画質の表示装置に関する需要が高まっている。中でも、最近では、電子書籍の配信事業の誕生に伴い、文字情報を長時間読むことを目的とした読書用途の電子書籍端末が注目されているため、その用途に適した表示品位を有する表示装置が望まれている。
【0003】
読書用途の表示装置の表示方法としては、コレステリック液晶型、電子泳動型、電気酸化還元型またはツイストボール型などが提案されているが、中でも、反射型が好ましい。紙と同様に外光の反射(散乱)を利用して明表示するため、その紙に近い表示品位が得られるからである。また、バックライトが不要であるため、消費電力が抑えられるからである。
【0004】
反射型の表示装置の有力候補は、電気泳動現象を利用して明暗(コントラスト)を生じさせる電気泳動型の表示装置である。低消費電力であると共に高速応答性に優れているからである。そこで、電気泳動型の表示装置の表示原理に関して、さまざまな検討がなされている。
【0005】
具体的には、絶縁性液体中に光学的反射特性および極性が異なる2種類の荷電粒子を分散させて、その極性の違いを利用して各荷電粒子を移動させる方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。この方法では、電界に応じて2種類の荷電粒子の分布が変化するため、光学的反射特性の違いを利用してコントラストが生じる。
【0006】
また、絶縁性液体中に荷電粒子を分散させると共に、その荷電粒子とは光学的反射特性が異なる多孔質層を用いて、多孔質層の細孔を経由して荷電粒子を移動させる方法が提案されている(例えば、特許文献3〜6参照。)。この多孔質層は、レーザを用いた穴開け加工により細孔が形成された高分子フィルムや、合成繊維などにより編まれた布や、連泡多孔性高分子などである。この方法では、電界に応じて荷電粒子の分布が変化するため、光学的反射特性の違いを利用してコントラストが生じる。
【0007】
この他、荷電粒子をマイクロカプセルに封入したり、隔壁構造を用いて荷電粒子の存在可能空間を仕切る方法が提案されている(例えば、特許文献7,8参照。)。この方法により、荷電粒子の凝集、沈殿および対流などが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭50−015115号公報
【特許文献2】特許第4188091号明細書
【特許文献3】特開2005−107146号公報
【特許文献4】特公昭50−015120号公報
【特許文献5】特開2005−128143号公報
【特許文献6】特開2002−244163号公報
【特許文献7】特許第2551783号明細書
【特許文献8】特表2003−526817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気泳動型の表示装置に関してさまざまな表示原理が提案されているにもかかわらず、その表示品位は未だ十分であるとは言えない。このため、今後のカラー化および動画表示などへの展開を考えると、コントラストおよび応答速度の観点においてさらなる性能向上が望まれる。この場合には、電気泳動型の表示装置の本来の利点を活かすために、消費電力を抑えることが重要である。
【0010】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現可能な電気泳動素子およびその製造方法、表示装置、表示基板ならびに電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本技術の電気泳動素子は、泳動粒子と、その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁とを備えたものである。
【0012】
本技術の表示装置は、少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に上記した本技術の電気泳動素子を備えたものであると共に、本技術の表示基板は、光透過性の基体の一面に上記した本技術の電気泳動素子を有するものである。本技術の電子機器は、少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に上記した本技術の電気泳動素子を有する表示装置を備えたものである。
【0013】
本技術の電気泳動素子の製造方法は、多孔質層を形成し、その多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布し、その感光性溶液を露光および現像して多孔質層の一部を包含するように光透過性の隔壁を形成するようにしたものである。ただし、多孔質層は、泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含んでいる。
【0014】
なお、「光学的反射特性」とは、いわゆる光(外光)の反射率である。非泳動粒子の光学的反射特性が泳動粒子の光学的反射特性と異なっているのは、それらの光反射率の違いを利用してコントラストを生じさせるためである。
【発明の効果】
【0015】
本技術の電気泳動素子、表示装置、表示基板または電子機器によれば、多孔質層は繊維状構造体により形成されており、その繊維状構造体は泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持している。隔壁は光透過性を有していると共に多孔質層の一部を包含している。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現できる。
【0016】
また、本技術の電気泳動素子の製造方法によれば、多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布したのち、その感光性溶液を露光および現像することにより、多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁を形成している。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力の電気泳動素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示装置の構成を表す断面図である。
【図2】表示装置の主要部(多孔質層)の構成を表す平面図である。
【図3】表示装置の他の主要部(隔壁)の構成を表す平面図である。
【図4】表示装置の動作を説明するための断面図である。
【図5】表示装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面図である。
【図7】図6に続く工程を説明するための断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図である。
【図9】表示装置の構成に関する変形例を表す平面図である。
【図10】表示装置の構成に関する他の変形例を表す平面図である。
【図11】本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示基板の構成を表す断面図である。
【図12】表示基板の使用方法を説明するための断面図である。
【図13】表示装置を用いた電子ブックの構成を表す斜視図である。
【図14】表示装置を用いたテレビジョン装置の構成を表す斜視図である。
【図15】表示装置を用いたデジタルスチルカメラの構成を表す斜視図である。
【図16】表示装置を用いたパーソナルコンピュータの外観を表す斜視図である。
【図17】表示装置を用いたビデオカメラの外観を表す斜視図である。
【図18】表示装置を用いた携帯電話機の構成を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.電気泳動素子を用いた表示装置
1−1.構成
1−2.製造方法
1−3.作用および効果
1−4.変形例
2.電気泳動素子を用いた表示基板
3.表示装置および表示基板の適用例(電子機器)
【0019】
<1.電気泳動素子を用いた表示装置/1−1.構成>
まず、本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示装置の構成について説明する。図1は、表示装置の断面構成を表しており、図2および図3は、図1に示した表示装置の主要部(多孔質層および隔壁)の平面構成を表している。なお、図1は、図3に示したI−I線に沿った断面に対応している。
【0020】
この電気泳動素子は、表示装置などのさまざまな用途に適用可能であり、その用途は、特に限定されない。ここでは、例えば、電気泳動素子を表示装置に適用する場合について説明するが、その表示装置の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0021】
[表示装置の全体構成]
表示装置は、電気泳動現象を利用して画像を表示する電気泳動型の表示装置であり、いわゆる電子ペーパーディスプレイである。この表示装置は、例えば、図1に示したように、駆動基板10と対向基板20とが電気泳動素子30およびスペーサ40を介して対向配置されたものであり、対向基板20側に画像を表示するようになっている。
【0022】
[駆動基板]
駆動基板10は、例えば、支持基体11の一面に、薄膜トランジスタ(TFT)12と、保護層13と、平坦化絶縁層14と、画素電極15とがこの順に積層されたものである。この駆動基盤10では、例えば、アクティブマトリクス方式の駆動回路を構築するために、TFT12および画素電極15が画素配置に応じてマトリクス状に分割形成されている。
【0023】
支持基体11は、例えば、無機材料、金属材料またはプラスチック材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機材料は、例えば、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiOx )、窒化ケイ素(SiNx )または酸化アルミニウム(AlOx )などであり、その酸化ケイ素には、例えば、ガラスまたはスピンオングラス(SOG)などが含まれる。金属材料は、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)またはステンレスなどである。プラスチック材料は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチルエーテルケトン(PEEK)などである。
【0024】
この支持基体11は、光透過性でもよいし、非光透過性でもよい。表示基板20側に画像が表示されるため、支持基体11は必ずしも光透過性である必要がないからである。また、支持基体11は、ウェハなどの剛性を有する基板でもよいし、可撓性を有する薄層ガラスまたはフィルムなどでもよいが、中でも、後者であることが好ましい。フレキシブル(折り曲げ可能)な表示装置を実現できるからである。
【0025】
TFT12は、画素を選択するためのスイッチング用素子である。このTFT12は、チャネル層として非晶質シリコンなどの無機半導体層を用いた無機TFTでもよいし、ペンタセンなどの有機半導体層を用いた有機TFTでもよい。保護層13および平坦化絶縁層14は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性材料を含んでいる。ただし、保護層13の表面が十分に平坦である場合には、平坦化絶縁層14はなくてもよい。画素電極15は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金または酸化インジウム−酸化スズ(ITO)などのいずれか1種類または2種類以上の導電性材料を含んでいる。この画素電極15は、例えば、保護層13および平坦化絶縁層14に設けられたコンタクトホール(図示せず)を通じてTFT12に接続されている。
【0026】
なお、図1では、例えば、TFT12が後述するセル36ごとに分割されている(1つのセル36に対して1つのTFT12が配置されている)場合を示している。しかしながら、必ずしもこれに限られず、セル36およびTFT12のそれぞれの個数および形成位置は任意でよい。例えば、3つのセル36に対して2つのTFT12が配置されてもよいし、1つのセル36の範囲内に隣り合う2つのTFT12間の境界が位置してもよい。
【0027】
[対向基板]
対向基板20は、例えば、支持基体21の一面に対向電極22が全面形成されたものである。ただし、対向電極22は、画素電極15と同様にマトリクス状に分割形成されていてもよい。
【0028】
支持基体21は、光透過性であることを除き、支持基体11と同様の材料を含んでいる。対向基板20側に画像が表示されるため、支持基体21は光透過性である必要があるからである。対向電極22は、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO)、酸化アンチモン−酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)またはアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などの光透光性導電性材料(透明電極材料)などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0029】
対向基板20側に画像を表示する場合には、外部から対向電極22を介して電気泳動素子30を見ることになるため、その対向電極22の光透過性(光透過率)は、できるだけ高いことが好ましく、例えば、80%以上である。また、対向電極22の電気抵抗は、できるだけ低いことが好ましく、例えば、100Ω/□以下である。
【0030】
[電気泳動素子]
電気泳動素子30は、電気泳動現象を利用してコントラストを生じさせるものであり、例えば、絶縁性液体31中に、泳動粒子32と、多孔質層33と、隔壁34とを備えている。
【0031】
[絶縁性液体]
絶縁性液体31は、例えば、駆動基板10および対向基板20とスペーサ40とにより囲まれた空間に充填されている。
【0032】
この絶縁性液体31は、例えば、有機溶媒などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒は、例えば、パラフィンまたはイソパラフィンなどである。絶縁性液体31の粘度および屈折率は、できるだけ低いことが好ましい。泳動粒子32の移動性(応答速度)が向上すると共に、それに応じて泳動粒子32の移動に要するエネルギー(消費電力)が低くなるからである。また、絶縁性液体31の屈折率と多孔質層33の屈折率との差が大きくなるため、その多孔質層33の光反射率が高くなるからである。
【0033】
なお、絶縁性液体31は、必要に応じて、各種材料を含んでいてもよい。この材料は、例えば、着色剤、電荷制御剤、分散安定剤、粘度調製剤、界面活性剤または樹脂などである。
【0034】
[泳動粒子]
泳動粒子32は、電気的に泳動する1または2以上の荷電粒子(電気泳動粒子)である。この泳動粒子32は、絶縁性液体31中に分散されており、電界に応じて画素電極15と対向電極22との間を移動可能になっている。また、泳動粒子32は、例えば、有機顔料、無機顔料、染料、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料(樹脂)などの粒子(粉末)のいずれか1種類または2種類以上を含む粒子(粉末)である。なお、泳動粒子32は、上記した粒子を含む樹脂固形分の粉砕粒子またはカプセル粒子などでもよい。ただし、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料に該当する材料は、有機顔料、無機顔料または染料に該当する材料から除かれることとする。
【0035】
有機顔料は、例えば、アゾ系顔料、メタルコンプレックスアゾ系顔料、ポリ縮合アゾ系顔料、フラバンスロン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、アントラピリジン系顔料、ピランスロン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料またはインダンスレン系顔料などである。無機顔料は、例えば、亜鉛華、アンチモン白、カーボンブラック、鉄黒、硼化チタン、ベンガラ、マピコエロー、鉛丹、カドミウムエロー、硫化亜鉛、リトポン、硫化バリウム、セレン化カドミウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クロム酸鉛、硫酸鉛、炭酸バリウム、鉛白またはアルミナホワイトなどである。染料は、例えば、ニグロシン系染料、アゾ系染料、フタロシアニン系染料、キノフタロン系染料、アントラキノン系染料またはメチン系染料などである。炭素材料は、例えば、カーボンブラックなどである。金属材料は、例えば、金、銀または銅などである。金属酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、銅−クロム酸化物、銅−マンガン酸化物、銅−鉄−マンガン酸化物、銅−クロム−マンガン酸化物または銅−鉄−クロム酸化物などである。高分子材料は、例えば、可視光領域に光吸収域を有する官能基が導入された高分子化合物などである。このように可視光領域に光吸収域を有する高分子化合物であれば、その種類は特に限定されない。
【0036】
絶縁性液体31中における泳動粒子32の含有量(濃度)は、特に限定されないが、例えば、0.1重量%〜10重量%である。泳動粒子32の遮蔽(隠蔽)性および移動性が確保されるからである。この場合には、含有量が0.1重量%よりも少ないと、泳動粒子32が多孔質層33を遮蔽しにくくなる可能性がある。一方、含有量が10重量%よりも多いと、泳動粒子32の分散性が低下するため、その泳動粒子32が泳動しにくくなり、場合によっては凝集する可能性がある。
【0037】
この泳動粒子32は、任意の光学的反射特性(光反射率)を有している。泳動粒子32の光反射率は、特に限定されないが、少なくとも泳動粒子32が多孔質層33を遮蔽可能となるように設定されることが好ましい。泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストを生じさせるためである。
【0038】
ここで、泳動粒子32の具体的な形成材料は、例えば、コントラストを生じさせるために泳動粒子32が担う役割に応じて選択される。具体的には、泳動粒子32により明表示される場合に選択される材料は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウムまたはチタン酸カリウムなどの金属酸化物である。一方、泳動粒子32により暗表示される場合に選択される材料は、例えば、炭素材料または金属酸化物などである。炭素材料は、例えば、カーボンブラックなどである。金属酸化物は、例えば、銅−クロム酸化物、銅−マンガン酸化物、銅−鉄−マンガン酸化物、銅−クロム−マンガン酸化物または銅−鉄−クロム酸化物などである。中でも、炭素材料が好ましい。優れた化学的安定性、移動性および光吸収性が得られるからである。
【0039】
泳動粒子32により明表示される場合、外部から視認される泳動粒子32の色は、コントラストを生じさせることができれば特に限定されないが、中でも、白色に近い色が好ましく、白色がより好ましい。一方、泳動粒子32により暗表示される場合、外部から視認される泳動粒子32の色は、コントラストを生じさせることができれば特に限定されないが、中でも、黒色に近い色が好ましく、黒色がより好ましい。いずれの場合でも、コントラストが高くなるからである。
【0040】
なお、泳動粒子32は、絶縁性液体31中において長期間に渡って分散および帯電しやすいと共に多孔質層33に吸着しにくいことが好ましい。このため、静電反発により泳動粒子32を分散させるために分散剤(または電荷調整剤)を用いたり、泳動粒子32に表面処理を施してもよく、両者を併用してもよい。
【0041】
分散剤は、例えば、Lubrizol社製のSolsperse シリーズ、BYK-Chemie社製のBYK シリーズまたはAnti-Terra シリーズ、またはICI Americas 社製Spanシリーズなどである。
【0042】
表面処理は、例えば、ロジン処理、界面活性剤処理、顔料誘導体処理、カップリング剤処理、グラフト重合処理またはマイクロカプセル化処理などである。中でも、グラフト重合処理、マイクロカプセル化処理またはそれらの組み合わせが好ましい。長期間の分散安定性などが得られるからである。
【0043】
表面処理用の材料は、例えば、泳動粒子32の表面に吸着可能な官能基と重合性官能基とを有する材料(吸着性材料)などである。吸着可能な官能基の種類は、泳動粒子32の形成材料に応じて決定される。一例を挙げると、カーボンブラックなどの炭素材料に対しては4−ビニルアニリンなどのアニリン誘導体であると共に、金属酸化物に対してはメタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルなどのオルガノシラン誘導体である。重合性官能基は、例えば、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などである。
【0044】
また、表面処理用の材料は、例えば、重合性官能基が導入された泳動粒子32の表面にグラフト可能な材料(グラフト性材料)である。このグラフト性材料は、重合性官能基と、絶縁性液体31中に分散可能とすると共に立体障害により分散性を保持可能な分散用官能基とを有していることが好ましい。重合性官能基の種類は、吸着性材料について説明した場合と同様である。分散用官能基は、例えば、絶縁性液体31がパラフィンである場合には分岐状のアルキル基などである。グラフト性材料を重合およびグラフトさせるためには、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などの重合開始剤を用いればよい。
【0045】
参考までに、上記したように絶縁性液体31中に泳動粒子32を分散させる方法の詳細に関しては、「超微粒子の分散技術とその評価〜表面処理・微粉砕と気中/液中/高分子中の分散安定化〜(サイエンス&テクノロジー社)」などの書籍に掲載されている。
【0046】
[多孔質層]
多孔質層33は、図1および図2に示したように、繊維状構造体33Aにより形成された3次元立体構造物(不織布のような不規則なネットワーク構造物)を含んでいる。この多孔質層33は、繊維状構造体33Aが存在していない箇所に、泳動粒子32が通過するための1または2以上の隙間(細孔35)を有している。
【0047】
繊維状構造体33Aには、1または2以上の非泳動粒子33Bが包含されており、その非泳動粒子33Bは、繊維状構造体33Aにより保持されている。3次元立体構造物である多孔質層33では、1本の繊維状構造体33Aがランダムに絡み合っていてもよいし、複数本の繊維状構造体33Aが集合してランダムに重なると共に絡み合っていてもよい。繊維状構造体33Aが複数本である場合には、各繊維状構造体33Aは、1または2以上の非泳動粒子33Bを包含していることが好ましい。なお、図1および図2では、複数本の繊維状構造体33Aにより多孔質層33が形成されている場合を示しており、図2では、繊維状構造体33Aの図示内容を簡略化している。
【0048】
多孔質層33が3次元立体構造物であるのは、その不規則な立体構造により外光が乱反射(多重散乱)されやすくなるため、多孔質層33が薄くても高い光反射率が得られるからである。これにより、コントラストが高くなると共に、泳動粒子32の移動に要するエネルギーが低くなる。また、細孔35の平均孔径が大きくなると共にその数も多くなるため、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるからである。これにより、泳動粒子32の移動に要する時間が短くなると共に、その移動に要するエネルギーがより低くなる。
【0049】
繊維状構造体33Aが非泳動粒子33Bを保持しているのは、その非泳動粒子33Bが外光をより乱反射しやすくなるため、多孔質層33の光反射率がより高くなるからである。これにより、コントラストがより高くなる。
【0050】
繊維状構造体33Aは、直径(繊維径)に対して長さ(繊維長さ)が十分に大きな細長い形状を有する繊維状物質である。この繊維状構造体33Aは、例えば、高分子材料または無機材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、他の材料を含んでいてもよい。高分子材料は、例えば、ナイロン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルクロライド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリサルフォン、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンフロリド、ポリヘキサフルオロプロピレン、セルロースアセテート、コラーゲン、ゼラチン、キトサンまたはそれらのコポリマーなどである。無機材料は、例えば、酸化チタンなどである。中でも、繊維状構造体33Aは、高分子材料を含んでいることが好ましい。反応性(光反応性など)が低い(化学的に安定である)ため、繊維状構造体33Aの意図しない分解反応が抑制されるからである。なお、繊維状構造体33Aが高反応性の材料を含んでいる場合には、その繊維状構造体33Aの表面は任意の保護層により被覆されていることが好ましい。
【0051】
繊維状構造体33Aの形状(外観)は、上記したように繊維径に対して繊維長さが十分に大きな繊維状であれば、特に限定されない。具体的には、真っ直ぐに延在していてもよいし、縮れていたり、途中で折れ曲がっていてもよい。また、一方向に延在しているだけに限らず、途中で1または2以上の方向に分岐していてもよい。この繊維状構造体33Aの形成方法は、特に限定されないが、例えば、相分離法、相反転法、静電(電界)紡糸法、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、ゲル紡糸法、ゾルゲル法またはスプレー塗布法などのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。直径に対して長さが十分に大きな繊維状物質を容易かつ安定に形成しやすいからである。
【0052】
繊維状構造体33Aの平均繊維径は、特に限定されないが、できるだけ小さいことが好ましい。光が乱反射しやすくなると共に、細孔35の平均孔径が大きくなるからである。ただし、平均繊維径は、繊維状構造体33Aが非泳動粒子33Bを包含できるように決定される必要がある。このため、繊維状構造体33Aの平均繊維径は、10μm以下であることが好ましい。なお、平均繊維径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1μmであり、それ以下でもよい。この平均繊維径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた顕微鏡観察により測定される。なお、繊維状構造体33Aの平均長さは、任意でよい。
【0053】
細孔35の平均孔径は、特に限定されないが、中でも、できるだけ大きいことが好ましい。泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるからである。このため、細孔35の平均孔径は、0.1μm〜10μmであることが好ましい。
【0054】
多孔質層33の厚さは、特に限定されないが、例えば、5μm〜100μmである。多孔質層33の遮蔽性が高くなると共に、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるからである。ここで規定した厚さは、多孔質層33の最大厚さを意味する。
【0055】
特に、繊維状構造体33Aは、ナノファイバーであることが好ましい。立体構造が複雑化するため、外光が乱反射しやすくなるからである。この場合には、多孔質層33の光反射率がより高くなると共に、多孔質層33の単位面積中に占める細孔35の面積の割合が大きくなるため、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなる。これにより、コントラストがより高くなると共に、泳動粒子32の移動に要するエネルギーがより低くなる。ナノファイバーとは、繊維径が0.001μm〜0.1μmであると共に繊維長さが繊維径の100倍以上である繊維状物質である。ナノファイバーである繊維状構造体33Aは、高分子材料を用いた静電紡糸法により形成されていることが好ましい。繊維径が小さい繊維状構造体33Aを容易かつ安定に形成しやすいからである。
【0056】
この繊維状構造体33Aは、泳動粒子32とは異なる光学的反射特性を有していることが好ましい。具体的には、繊維状構造体33Aの光反射率は、特に限定されないが、少なくとも多孔質層33が全体として泳動粒子32を遮蔽可能となるように設定されることが好ましい。上記したように、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストを生じさせるためである。これに伴い、絶縁性液体31中において光透過性(無色透明)を有する繊維状構造体33Aは好ましくない。ただし、繊維状構造体33Aの光反射率が多孔質層33全体の光反射率にほとんど影響を及ぼさず、その多孔質層33全体の光反射率が実質的に非泳動粒子33Bの光反射率により決定される場合には、繊維状構造体33Aの光反射率は任意でよい。
【0057】
非泳動粒子33Bは、繊維状構造体33Aにより保持(固定)されており、電気的に泳動しない粒子である。この非泳動粒子33Bの形成材料は、例えば、泳動粒子32の形成材料と同様であり、後述するように、非泳動粒子33Bが担う役割に応じて選択される。なお、非泳動粒子33Bは、繊維状構造体33Aから部分的に露出していてもよいし、その繊維状構造体33Aの内部に埋設されていてもよい。
【0058】
この非泳動粒子33Bは、泳動粒子32とは異なる光学的反射特性を有している。非泳動粒子33Bの光反射率は、特に限定されないが、少なくとも多孔質層33が全体として泳動粒子32を遮蔽可能となるように設定されることが好ましい。上記したように、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストを生じさせるためである。
【0059】
ここで、非泳動粒子33Bの具体的な形成材料は、例えば、コントラストを生じさせるために非泳動粒子33Bが担う役割に応じて選択される。具体的には、非泳動粒子33Bにより明表示される場合に選択される材料は、泳動粒子32により明表示される場合に選択される材料と同様である。一方、非泳動粒子33Bにより暗表示される場合に選択される材料は、泳動粒子32により暗表示される場合に選択される材料と同様である。中でも、非泳動粒子33Bにより明表示される場合に選択される材料としては、金属酸化物が好ましく、酸化チタンがより好ましい。電気化学的安定性および定着性などに優れていると共に、高い反射率が得られるからである。コントラストを生じさせることができれば、非泳動粒子33Bの形成材料は、泳動粒子32の形成材料と同じ種類でもよいし、違う種類でもよい。
【0060】
なお、非泳動粒子33Bにより明表示または暗表示される場合に視認される色は、泳動粒子32が視認される色について説明した場合と同様である。
【0061】
[電気泳動素子の好ましい表示方法]
電気泳動素子30では、上記したように、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との違いを利用してコントラストが生じる。この場合には、泳動粒子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示されてもよいし、その逆でもよい。このような役割の違いは、泳動粒子32の光反射率と多孔質層33の光反射率との大小関係により決定される。すなわち、明表示される方の光反射率は、暗表示される方の光反射率よりも高くなるように設定される。
【0062】
中でも、多孔質層33の光反射率が泳動粒子32の光反射率よりも高いため、泳動粒子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示されることが好ましい。これに伴い、多孔質層33の光反射率が実質的に非泳動粒子33Bの光反射率により決定される場合には、非泳動粒子33Bの光反射率は泳動粒子32の光反射率よりも高いことが好ましい。多孔質層33による外光の乱反射を利用して明表示の光反射率が著しく高くなるため、それに応じてコントラストも著しく高くなるからである。
【0063】
[隔壁]
隔壁34は、絶縁性液体31中における泳動粒子32の存在可能空間を仕切るものであり、光透過性を有している。この隔壁34は、図1に示したように、多孔質層33の一部を包含しながら泳動粒子32の泳動方向に沿って延在することで、絶縁性液体31が満たされている空間を複数の空間(後述するセル36)に分割している。なお、隔壁34は、例えば、一端部において平坦化絶縁層14に隣接していると共に、他端部において対向電極22に隣接している。
【0064】
「隔壁34が多孔質層33の一部を包含している」とは、非泳動粒子33Bが繊維状構造体33Aにより保持されている状態(多孔質層33の構成そのもの)を維持しつつ、その多孔質層33の一部がそのまま隔壁34の内部に収容されていることを意味する。また、「泳動粒子32の泳動方向」とは、泳動粒子32が画素電極15または対向電極22に向かって移動する方向であり、図1〜図3のZ軸方向である。
【0065】
隔壁34が光透過性を有していると共に多孔質層33の一部を包含しているのは、その隔壁34の存在に起因するコントラストの低下が抑制されるからである。詳細には、隔壁34が光透過性を有していないと、その隔壁34自体により意図せずに暗表示されるため、明表示状態における電気泳動素子30全体の光反射率が低下してしまう。これに対して、隔壁34が光透過性を有していると、その隔壁34自体により暗表示されにくいため、明表示状態における電気泳動素子30全体の光反射率が低下しにくくなる。しかも、隔壁34に包含されている非泳動粒子33Bにより光が乱反射されるため、電気泳動素子30全体の光反射率はより低下しにくくなる。このため、隔壁34が存在していても、コントラストがほとんど影響を受けなくなる。
【0066】
隔壁34の形成材料は、光透過性を有していれば、特に限定されない。中でも、隔壁34は、感光性材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。後述するように、表示装置の製造工程において、多孔質層33の一部を包含する隔壁34を容易かつ安定に形成しやすいからである。この感光性材料は、例えば、光パターニングが可能な光架橋反応型、光変性型、光重合反応型または光分解反応型などの感光性樹脂(光硬化性樹脂)である。この感光性樹脂の具体例は、フォトレジストであり、その種類はネガ型でもポジ型でもよい。フォトレジストは化学的に安定であるため、泳動素子32の泳動現象などに影響を及ぼしにくいからである。この感光性材料を光パターニングする光(光源)の種類は、特に限定されないが、例えば、半導体レーザ、エキシマレーザ、電子線、紫外線、メタルハライドランプ、高圧水銀灯などである。
【0067】
なお、隔壁34の幅Wは、例えば、その隔壁34の延在方向において一定である。また、隔壁34の高さHは、例えば、複数の隔壁34間において一定である。
【0068】
この隔壁34により、図1および図3に示したように、泳動素子32を収容するための1または2以上の空間(セル36)が形成されている。このセル36の数および配列パターンは、特に限定されないが、例えば、複数のセル36を効率よく形成および配置するためにマトリクス状(複数行×複数列)であることが好ましい。また、セル36の形状(開口形状)は、特に限定されないが、例えば、図3に示したように矩形でもよいし、他の形状(六角形など)でもよい。
【0069】
なお、隔壁34の寸法は、特に限定されず、任意に設定可能である。一例を挙げると、隔壁34のピッチは、30μm〜300μm、好ましくは100μm〜200μmであり、隔壁34の高さHは、5μm〜150μm、好ましくは10μm〜50μmである。
【0070】
[スペーサ]
スペーサ40は、例えば、高分子材料などの絶縁性材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、スペーサ40の構成は、特に限定されず、微粒子が混入されたシール材などでもよい。
【0071】
スペーサ40の形状は、特に限定されないが、中でも、泳動粒子32の移動を妨げないと共にその泳動粒子32を均一分布させることが可能な形状であることが好ましく、例えば、格子状である。また、スペーサ40の厚さは、特に限定されないが、中でも、消費電力を低くするためにできるだけ薄いことが好ましく、例えば、10μm〜100μmである。
【0072】
[表示装置の動作]
この表示装置は、以下のように動作する。図4は、表示装置の動作を説明するためのものであり、図1に対応する断面構成を示している。
【0073】
ここでは、例えば、非泳動粒子33Bの光反射率が泳動素子32の光反射率よりも高いため、泳動素子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示される場合について説明する。
【0074】
初期状態では、図1に示したように、全てのセル36において、絶縁性液体31中に分散された泳動粒子32が画素電極15に近い側に位置している。この場合には、対向基板20側から電気泳動素子30を見ると、全てのセル36において泳動粒子32が多孔質層33により遮蔽されている(明表示されている)ため、コントラストが生じていない(画像が表示されていない)状態にある。
【0075】
TFT12によりセル36が選択され、画素電極15と対向電極22との間に電界が印加されると、図4に示したように、電界が印加されたセル36において、泳動素子32が多孔質層33の細孔35を経由して対向電極22に向かって移動する。この場合には、対向基板20側から電気泳動素子30を見ると、泳動粒子32による多孔質層33の遮蔽状態の有無に応じて、2種類のセル36(画素)が共存する。泳動粒子32が多孔質層33により遮蔽されている(明表示されている)画素と、泳動粒子32が多孔質層33により遮蔽されていない(暗表示されている)画素とである。この表示色の違いを利用してコントラストが生じると共に、セル36ごとに表示色(明表示または暗表示)が切り換えられるため、全体のコントラストを利用して画像が表示される。
【0076】
<1−2.製造方法>
この表示装置は、以下の手順により製造される。図5〜図8は、表示装置の製造方法を説明するためのものであり、いずれも図1に対応する断面構成を示している。なお、各構成要素の形成材料に関しては既に詳細に説明したので、以下では、それらの説明を省略する。
【0077】
最初に、図5に示したように、支持基体21の一面に対向電極22を形成して対向基板20を作製する。この対向電極22の形成方法としては、例えば、各種成膜法などの既存の形成方法を随時選択して用いることができる。
【0078】
続いて、例えば、以下の手順により、対向電極22の上に多孔質層33を形成する。最初に、繊維状構造体33Aの形成材料(例えば高分子材料など)を有機溶剤などに分散または溶解させて、紡糸溶液を調製する。続いて、紡糸溶液に非泳動粒子33Bを加えたのち、十分に攪拌して非泳動粒子33Bを分散させる。最後に、紡糸溶液を用いて静電紡糸法により紡糸を行う。これにより、繊維状構造体33Aにより非泳動粒子33Bが保持されるため、多孔質層33が形成される。
【0079】
続いて、隔壁34の形成材料を含む溶液(例えば感光性材料を含む感光性溶液37)を準備する。この場合には、必要に応じて、隔壁34の形成材料を有機溶剤などに溶解または分散させてもよい。続いて、図6に示したように、対向電極22の表面に多孔質層33が埋設されるように感光性溶液37を塗布してから、例えば、感光性溶液37の上に補助基体38を配置する。この補助基体38は、感光性溶液37の塗布厚さを規制(後工程において形成される隔壁34の高さHを規定)するものであり、例えば、支持基体21と同様の材料により形成されている。なお、補助基体38は、光透過性でもよいし、光反射性または光吸収性でもよいが、ここでは、例えば、光透過性の補助基体38を用いる。この場合には、例えば、隔壁34の形成材料として、紫外線波長域の光に対して反応性を示すネガ型のフォトレジスト(UVレジン)を用いると共に、多孔質層33が埋設されるように感光性溶液37の塗布厚さを設定する。
【0080】
続いて、感光性溶液37を光パターニングする。具体的には、例えば、支持基体21側から光Lを照射して、感光性溶液37を選択的に露光する。この場合には、隔壁34の形成領域ごとに光Lを照射して、各領域における感光性溶液37を露光する。この露光工程では、例えば、支持基体21および補助基体38がいずれも光透過性を有しているため、照射された光Lは、支持基体21を透過して感光性溶液37に到達したのち、その感光性溶液37を経由してから補助基体38を透過する。この光Lは、例えば、紫外線波長域のレーザなどである。レーザ光を用いて感光性溶液37をスキャンすれば、マスクを用いずに所望の領域を簡単かつ正確に露光できるからである。この他、光Lは、例えば、コリメート光(平行光)でもよい。
【0081】
続いて、補助基体38を取り外すと共に露光後の感光性溶液37を現像したのち、必要に応じて現像後の感光性溶液37を加熱する。これにより、感光性溶液37のうちの未露光部分が除去されると共に、その感光性溶液37の残存部分(露光部分)が膜化するため、図7に示したように、露光箇所ごとに、多孔質層33の一部を包含する隔壁34が形成される。上記した補助基体38により感光性溶液37の塗布厚さがほぼ一定となるように規制されたことに伴い、隔壁34の高さHもほぼ一定になる。
【0082】
続いて、図8に示したように、支持体11の一面にTFT12、保護層13、平坦化絶縁層14および画素電極15をこの順に形成して駆動基板10を作製する。この駆動基板10の各構成要素の形成方法としては、例えば、既存の形成方法を随時選択して用いることができる。なお、駆動基板10をあらかじめ作製しておいてもよい。
【0083】
続いて、スペーサ40を介して駆動基板10と対向基板20とを対向配置させる。この場合には、例えば、隔壁34の一端部が平坦化絶縁層14に隣接するように駆動基板10と対向基板20との間の距離を調整する。
【0084】
最後に、泳動粒子32が分散された絶縁性液体31を準備したのち、図1に示したように、駆動基板10と対向基板20とスペーサ40とにより囲まれた空間に絶縁性液体31を充填する。ただし、絶縁性液体31をあらかじめ調製しておいてもよい。これにより、表示装置が完成する。
【0085】
なお、駆動基板10と対向基板20とを対向配置させてから絶縁性液体31を充填するようにしたが、これに限られない。例えば、多孔質層33が形成された対向基板20に絶縁性液体31を塗布して、その多孔質層33の細孔35に絶縁性液体31を含浸させたのち、対向基板20を駆動基板10と対向させるようにしてもよい。絶縁性液体31を塗布する場合には、例えば、絶縁性液体31を滴下してもよいし、印刷法などを用いてもよい。
【0086】
<1−3.作用および効果>
この電気泳動素子および表示装置によれば、多孔質層33は繊維状構造体33Aにより形成されており、その繊維状構造体33Aは泳動粒子32とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子33Bを含んでいる。また、隔壁34は、光透過性を有していると共に、多孔質層33の一部を包含している。
【0087】
この場合には、第1に、多孔質層33が泳動粒子32を通過させることができる十分な大きさおよび数の細孔35を有していながら、その多孔質層33が薄くても外光が乱反射される。特に、繊維状構造体33Aだけでなく、非泳動粒子33Bによっても外光が乱反射される。これにより、多孔質層33の光反射率が向上するため、コントラストが高くなる。また、泳動粒子32が細孔35を通過しやすくなるため、その泳動粒子32の移動に要する時間が短くなると共に必要なエネルギーも低くなる。
【0088】
第2に、光透過性の隔壁34が多孔質層33の一部を包含しているため、その隔壁34が存在していても、明表示状態における電気泳動素子30全体の光反射率が低下しにくくなる。特に、隔壁34に包含されている非泳動粒子33Bにより光が乱反射されるため、電気泳動素子30全体の光反射率はより低下しにくくなる。これにより、隔壁34が存在していてもコントラストがほとんど影響を受けないため、その隔壁34の存在に起因するコントラストの低下が抑制される。
【0089】
第3に、多孔質層33が隔壁34により支持されているため、表示装置を横向きまたは逆さにした状態で長時間放置しても、絶縁性液体31中における多孔質層33の位置が変動しにくくなる。この「多孔質層33の位置」とは、多孔質層33と画素電極15および対向電極22との位置関係(距離など)である。これにより、多孔質層33の細孔35を経由する泳動粒子32の移動しやすさなどが変動しにくくなるため、コントラストが安定化する。
【0090】
第4に、隔壁34により泳動粒子32の存在可能空間が仕切られているため、その泳動粒子32が隣のセル36に移動しにくくなる。これにより、泳動粒子32の拡散、対流および凝集などが抑制されるため、表示ムラなどの画質低下が抑制される。
【0091】
よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現できる。これにより、表示装置は低消費電力で高品位な画像を表示できる。
【0092】
この他、繊維状構造体33Aが静電紡糸法により形成されており、または繊維状構造体33Aがナノファイバーであれば、外光の乱反射性がより高くなる立体構造を形成しやすくなる。また、細孔35の孔径がより大きくなると共に、その数もより多くなる。よって、より高い効果を得ることができる。
【0093】
また、非泳動粒子33Bの光反射率が泳動粒子32の光反射率よりも高いため、泳動粒子32により暗表示されると共に多孔質層33により明表示されるようにすれば、外光の乱反射を利用して多孔質層33の光反射率を著しく向上させることができる。
【0094】
この他、電気泳動素子の製造方法によれば、多孔質層33を埋設するように感光性溶液37を塗布したのち、その感光性溶液37を露光および現像することにより、その多孔質層33の一部を包含する光透過性の隔壁34を形成している。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力の電気泳動素子を実現できる。この場合には、特に、隔壁34を容易かつ再現性よく形成できる。
【0095】
また、感光性溶液37の上に塗布厚さを規制するための補助基体38を配置したのち、その感光性溶液37を露光および現像すれば、高さHがほぼ一定となるように隔壁34を形成できる。
【0096】
<1−4.変形例>
隔壁34の形状は、任意に変更可能である。隔壁34の形成材料として感光性材料を用いる場合には、例えば、その感光性材料の光パターニング時における露光条件および光入射条件などに応じて、隔壁34の形状を制御できる。これに伴い、隔壁34の幅Wは、その延在方向において均一(一定)である場合に限らず、不均一でもよい。例えば、図9に示したように、幅Wが対向基板20(画像が表示される側)に近づくにしたがって次第に狭くなるようにしてもよいし、図10に示したように、幅Wが対向基板20に近づくにしたがって次第に広くなるようにしてもよい。隔壁34の側面の傾斜角度(いわゆるテーパ角度)は、特に限定されないが、例えば、60°〜90°、好ましくは75°〜85°である。この隔壁34の幅Wは、例えば、感光性溶液37の露光時(図6参照)における光Lの照射強度または照射時間などの条件を変更することで制御される。これらの場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0097】
特に、幅Wが対向基板20に近づくにしたがって次第に狭くなる場合(図9)には、画像を表示する側に向かってセル36の開口範囲が広くなるため、画像の表示範囲を広げることができる。一方、幅Wが対向基板20に近づくにしたがって次第に広くなる場合(図10)には、対向基板20に対する隔壁34の接触面積が大きくなるため、その対向基板20に対する隔壁34の密着性を向上させることができる。これにより、隔壁34の支持安定性が向上する。
【0098】
<2.電気泳動素子を用いた表示基板>
次に、本技術の一実施形態の電気泳動素子を用いた表示基板の構成について説明する。図11および図12はそれぞれ表示基板の構成および使用方法を説明するためのものであり、いずれも図1に対応する断面構成を表している。なお、図11および図12では、既に説明した表示装置と同一の構成要素に同一の符号を付している。以下では、同一の構成要素に関する説明を随時省略すると共に、その同一の構成要素を随時引用しながら説明する。
【0099】
本技術の電気泳動素子は、上記した表示装置の他、その表示装置を作製するために用いられる表示基板に適用可能である。この表示基板は、例えば、図11に示したように、駆動基板10に代えて保護層(またはシーリング層)51および剥離基体52を備えていることを除き、表示装置と同様の構成を有している。
【0100】
保護層51は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはウレタン系樹脂などの高分子材料を含んでいる。剥離基体52は、例えば、PETなどの高分子シートであり、必要に応じて保護層51から剥離可能になっている。
【0101】
この表示基板は、例えば、図12に示したように、剥離基体52が保護層51から剥離されたのち、接着層(または粘着層)60を介して駆動基板10に貼り合わされる。これにより、表示装置が完成する。この接着層60は、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂またはゴム系などの粘着シートである。
【0102】
なお、表示基板の製造手順は、例えば、駆動基板10に代えて保護層51および剥離基体52を用いることを除き、表示装置の製造手順と同様である。
【0103】
この表示基板では、多孔質層33および隔壁34などを含んでいる点において表示装置の対向基板20(電気泳動素子30)と同様の構成を有しているので、その表示装置と同様の作用が得られる。よって、高コントラスト、高速応答および低消費電力を実現できる。これ以外の効果および変形例は、表示装置と同様である。
【0104】
<3.表示装置および表示基板の適用例(電子機器)>
次に、上記した表示装置の適用例について説明する。
【0105】
本技術の表示装置は、各種用途の電子機器に適用可能であり、その電子機器の種類は特に限定されない。この表示装置は、例えば、以下の電子機器に搭載可能である。ただし、以下で説明する電子機器の構成はあくまで一例であるため、その構成は適宜変更可能である。
【0106】
図13は、電子ブックの外観構成を表している。この電子ブックは、例えば、表示部110および非表示部(筐体)120と、操作部130とを備えている。なお、操作部130は、(A)に示したように非表示部120の前面に設けられていてもよいし、(B)に示したように上面に設けられていてもよい。なお、表示装置は、図13に示した電子ブックと同様の構成を有するPDAなどに搭載されてもよい。
【0107】
図14は、テレビジョン装置の外観構成を表している。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル210およびフィルターガラス220を含む映像表示画面部200を備えている。
【0108】
図15は、デジタルスチルカメラの外観構成を表しており、(A)および(B)は、それぞれ前面および後面を示している。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部310と、表示部320と、メニュースイッチ330と、シャッターボタン340とを備えている。
【0109】
図16は、ノート型パーソナルコンピュータの外観構成を表している。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体410と、文字等の入力操作用のキーボード420と、画像を表示する表示部430とを備えている。
【0110】
図17は、ビデオカメラの外観構成を表している。このビデオカメラは、例えば、本体部510と、その本体部510の前面に設けられた被写体撮影用のレンズ520と、撮影時のスタート/ストップスイッチ530と、表示部540とを備えている。
【0111】
図18は、携帯電話機の外観構成を表している。(A)および(B)は、それぞれ携帯電話機を開いた状態の正面および側面を示している。(C)〜(G)は、それぞれ携帯電話機を閉じた状態の正面、左側面、右側面、上面および下面を示している。この携帯電話機は、例えば、上側筐体610と下側筐体620とが連結部(ヒンジ部)630により連結されたものであり、ディスプレイ640と、サブディスプレイ650と、ピクチャーライト660と、カメラ670とを備えている。
【0112】
以上、実施形態を挙げて本技術を説明したが、本技術は実施形態で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本技術の電気泳動素子およびその製造方法は、表示装置に限らず、他の電子機器に適用されてもよい。
【0113】
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電気泳動素子。
(2)
前記隔壁は感光性材料を含む、上記(1)記載の電気泳動素子。
(3)
前記感光性材料はフォトレジストである、上記(2)記載の電気泳動素子。
(4)
前記繊維状構造体は高分子材料または無機材料を含むと共に静電紡糸法により形成されており、その繊維状構造体の平均繊維径は10μm以下である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の電気泳動素子。
(5)
前記泳動粒子および前記非泳動粒子は有機顔料、無機顔料、染料、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料を含む、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の電気泳動素子。
(6)
前記非泳動粒子の光反射率は前記泳動粒子の光反射率よりも高い、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の電気泳動素子。
(7)
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示装置。
(8)
光透過性の基体の一面に電気泳動素子を有し、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示基板。
(9)
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を有する表示装置を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電子機器。
(10)
多孔質層を形成し、
その多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布し、
その感光性溶液を露光および現像して、前記多孔質層の一部を包含するように光透過性の隔壁を形成し、
前記多孔質層が、泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含むようにする、
電気泳動素子の製造方法。
(11)
前記感光性溶液の上に塗布厚さを規制するための基体を配置したのち、その感光性溶液を露光および現像する、上記(10)記載の電気泳動素子の製造方法。
【符号の説明】
【0114】
10…駆動基板、15…画素電極、20…対向基板、22…対向電極、30…電気泳動素子、31…絶縁性液体、32…泳動粒子、33…多孔質層、34…隔壁、35…細孔、36…セル、40…スペーサ、33A…繊維状構造体、33B…非泳動粒子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電気泳動素子。
【請求項2】
前記隔壁は感光性材料を含む、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項3】
前記感光性材料はフォトレジストである、請求項2記載の電気泳動素子。
【請求項4】
前記繊維状構造体は高分子材料または無機材料を含むと共に静電紡糸法により形成されており、その繊維状構造体の平均繊維径は10μm以下である、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項5】
前記泳動粒子および前記非泳動粒子は有機顔料、無機顔料、染料、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料を含む、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項6】
前記非泳動粒子の光反射率は前記泳動粒子の光反射率よりも高い、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項7】
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示装置。
【請求項8】
光透過性の基体の一面に電気泳動素子を有し、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示基板。
【請求項9】
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を有する表示装置を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電子機器。
【請求項10】
多孔質層を形成し、
その多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布し、
その感光性溶液を露光および現像して、前記多孔質層の一部を包含するように光透過性の隔壁を形成し、
前記多孔質層が、泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含むようにする、
電気泳動素子の製造方法。
【請求項11】
前記感光性溶液の上に塗布厚さを規制するための基体を配置したのち、その感光性溶液を露光および現像する、請求項10記載の電気泳動素子の製造方法。
【請求項1】
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電気泳動素子。
【請求項2】
前記隔壁は感光性材料を含む、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項3】
前記感光性材料はフォトレジストである、請求項2記載の電気泳動素子。
【請求項4】
前記繊維状構造体は高分子材料または無機材料を含むと共に静電紡糸法により形成されており、その繊維状構造体の平均繊維径は10μm以下である、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項5】
前記泳動粒子および前記非泳動粒子は有機顔料、無機顔料、染料、炭素材料、金属材料、金属酸化物、ガラスまたは高分子材料を含む、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項6】
前記非泳動粒子の光反射率は前記泳動粒子の光反射率よりも高い、請求項1記載の電気泳動素子。
【請求項7】
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示装置。
【請求項8】
光透過性の基体の一面に電気泳動素子を有し、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、表示基板。
【請求項9】
少なくとも一方が光透過性を有する一対の基体の間に電気泳動素子を有する表示装置を備え、その電気泳動素子は、
泳動粒子と、
その泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含む多孔質層と、
その多孔質層の一部を包含する光透過性の隔壁と
を備えた、電子機器。
【請求項10】
多孔質層を形成し、
その多孔質層を埋設するように感光性溶液を塗布し、
その感光性溶液を露光および現像して、前記多孔質層の一部を包含するように光透過性の隔壁を形成し、
前記多孔質層が、泳動粒子とは光学的反射特性が異なる非泳動粒子を保持する繊維状構造体を含むようにする、
電気泳動素子の製造方法。
【請求項11】
前記感光性溶液の上に塗布厚さを規制するための基体を配置したのち、その感光性溶液を露光および現像する、請求項10記載の電気泳動素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−45074(P2013−45074A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184946(P2011−184946)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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