説明

電気炉還元スラグの改質方法

【課題】 本発明は、電気炉還元スラグを安定化して各種土木材料等に高度利用出来るようにすることを課題とする。
【解決手段】 電気炉還元スラグに電気炉酸化スラグを混合して溶融し、溶融物を冷却粒状化することによって、上記電気炉還元スラグ中の遊離Caや遊離Mgを上記電気炉酸化スラグ中の鉄化合物やケイ素化合物と反応せしめて安定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉還元スラグを改質して水分吸収による膨張、崩壊を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の製造工程には、高炉・転炉法と電気炉法とがある。上記電気炉法にあっては主原料の鉄スクラップを、電気エネルギーで加熱・溶解した後、溶鋼中に酸素を吹き込み、鋼に不要な成分を酸化除去する(酸化精錬)。その後、電気炉または取鍋精錬炉にて溶鋼中の酸素と硫黄を除去する還元精錬を行ない、鋼を製造する。
上記酸化精錬時には電気炉酸化スラグが生成され、上記還元精錬時には電気炉還元スラグが生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−193444号公報
【特許文献2】特開2002−67127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電気炉酸化スラグは酸化鉄や酸化マンガン含有量が高く、遊離CaOや遊離MgOの含有量が低いので、水分を吸収しても膨張、崩壊を起しにくく、そのままコンクリート骨材等として高度利用可能であるが、上記電気炉還元スラグは遊離CaOや遊離MgOの含有量が高く、酸化鉄や酸化マンガンの含有量が低いので、水分を吸収して膨張、崩壊を起こし易いと云う問題点があるので、そのままではコンクリート骨材や下層路壁材等には使用しにくい。
そこで、上記電気炉還元スラグを改質して、CaO含有量を下げる手段として、例えば山砂やスケール(Fe)等を混合して溶解することによって、遊離CaOや遊離MgOとSiOあるいはFeと反応させる方法が提案されている。
上記電気炉還元スラグの改質方法にあっては、改質原料としてのSiOあるいはFeを含有する材料を多く使用するため、改質に長時間を要し、かつ改質費用が高くなる、と云う問題点があり、一般には上記電気炉還元スラグは処理費用をつけて廃棄しているのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の問題点を解決するための手段として、電気炉還元スラグに電気炉酸化スラグを混合して溶融し、溶融物を冷却粒状化すること、あるいは電気炉還元スラグに電気炉酸化スラグを混合し、更にケイ酸含有物質および/または鉄成分を混合して溶融し、溶融物を冷却固化粒状化することを提供するものである。
上記方法においては、電気炉還元スラグと電気炉酸化スラグとの混合比は質量比で30:70〜70:30の範囲に設定されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
電気炉による鋼の製造においては、電気炉酸化スラグと電気炉還元スラグが略2:1質量比で生成される。そこで生成量の多い電気炉酸化スラグを生成量の少ない電気炉還元スラグに混合する。前記したように上記電気炉酸化スラグは酸化鉄や酸化マンガンの含有量が高く、遊離CaOや遊離MgOの含有量が低いので、上記電気炉酸化スラグを上記電気炉還元スラグに混合することによって、上記電気炉還元スラグの酸化鉄や酸化マンガンの含有量を高め、遊離CaOや遊離MgOと上記酸化鉄や酸化マンガンと反応せしめて安定化し、遊離CaOや遊離MgOの含有量を低くすることが出来る。
上記電気炉酸化スラグは産業廃棄物であり、価格も低廉であるから、上記電気炉還元スラグの改質にかかる費用も大巾に低減され、また改質処理に要する時間も短縮される。
更に上記電気炉還元スラグの改質に、上記電気炉酸化スラグに加えて更にケイ酸含有物質および/または鉄分を添加すれば、上記電気炉還元スラグの酸化鉄やケイ酸の含有量を高め、遊離CaOや遊離MgOと上記酸化鉄やケイ酸と反応せしめて安定化し、遊離CaOや遊離MgOの含有量を低くすることが、より効果的に行われる。
上記電気炉還元スラグの改質を効果的に行なうには、上記電気炉還元スラグと上記電気炉酸化スラグとを質量比で30:70〜70:30の範囲に混合する。
更に上記電気炉還元スラグと上記電気炉酸化スラグとの混合物を溶融して冷却粒状化する方法として、上記溶融物を流下状態で空気を噴射して飛散させ、冷却すれば、粉砕工程を必要とせず、粒状化することが出来る。
【0007】
〔効果〕
本発明の方法によれば、電気炉還元スラグを短時間に安価に改質でき、改質された電気炉酸化スラグは遊離CaOや遊離MgOの含有量が低くされているので、コンクリート骨材等として高度利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】風砕装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を以下に詳細に説明する。
電気炉による鋼の製造工程においては、まず電気炉において、鉄スクラップ、生石灰、合金鉄、コークス等の製鋼原料を電気炉に投入して溶融させ、溶融物中に酸素を吹き込んで鋼に不要な成分を酸化、除去する。この工程を酸化精錬と云う。上記酸化精錬において生成するスラグは、電気炉酸化スラグと云われている。
上記溶融物は酸化精錬後、そのまま電気炉において、あるいは取鍋精錬炉に移されて、溶融物中の酸素と硫黄とを除去する。この工程を還元精錬と云う。上記還元精錬において生成するスラグは、電気炉還元スラグと云われる。
上記電気炉還元スラグ(以下単に還元スラグと云う)は前記したように、酸化鉄や酸化マンガンの含有量が低く、遊離CaOや遊離MgOの含有量が高いので、改質のため酸化鉄や酸化マンガンの含有量が高く、遊離CaOや遊離MgOの含有量が低い電気炉酸化スラグ(以下単に酸化スラグと云う)を添加して還元スラグ中の遊離CaOおよび遊離MgOと反応せしめて安定化する。この場合、還元スラグと酸化スラグとの比率は一時的に質量比で30:70〜70:30とする。酸化スラグの混合量が70質量比を越えると、還元スラグの酸化スラグに対する処理量が少なくなって、還元スラグの処理バランスが悪化し、また還元スラグの混合比が70質量比より多くなると、還元スラグの改質効率が悪化する。
【0010】
上記還元スラグの改質にあっては、酸化スラグ以外、スケール(酸化鉄)、鉄スクラップ、赤土等の鉄含有成分、ケイ石粉、山砂、川砂等のケイ砂、ケイ藻土、ガラス屑、陶磁器屑等ケイ酸含有物質等の遊離CaOや遊離MgOと反応可能な物質、木炭、石炭、木材、プラスチック廃棄物等の炭素源等の他の添加剤を添加してもよい。
上記鉄成分および/またはケイ酸含有物質の添加量は、通常還元スラグと酸化スラグの混合物100質量部に対して、上記鉄成分および/またはケイ酸含有物質のそれぞれか5〜15質量部になるように設定される。
上記還元スラグと上記酸化スラグ、所望なれば上記その他の添加剤との混合物の溶融には、電気炉を使用することが望ましい。電気炉を使用すれば高温に加熱でき、還元スラグと酸化スラグ、あるいはその他の添加剤との反応が促進される。
上記電気炉を使用した還元スラグの改質は、通常1500℃〜1700℃の高温で10分〜40分加熱することによって行われ、その間に上記還元スラグ中の遊離CaOや遊離MgOは酸化スラグ中の酸化鉄、酸化マンガン、あるいはケイ酸と反応して安定な鉱物となる。例えば上記遊離CaOや遊離MgOが鉄含有成分と反応した場合には、2CaO・Fe,MgO・FeOとなり安定化される。
【0011】
上記改質を行なった後、溶融物は冷却固化粒状化される。
上記溶融物の冷却固化粒状化の方法として望ましいものは、風砕法である。風砕法にあっては、例えば図1に示す装置を使用する。図において、1は溶融物吐出ポットであって、該ポット1は実線位置から点線位置まで傾動することができ、該ポット1の溶融物吐出口2には受け樋3が接しており、該受け樋3の先端には空気噴射装置4の噴射口が配置されている。
上記装置を使用して風砕を行なうには、溶融物を電気炉から上記ポット1に移し、該ポット1を実線状態から点線状態に傾動させ、吐出口2から該溶融物Mを受け樋3に流し出す。該溶融物Mは該受け樋3を流下して先端から重力で下方に流下し、その際空気噴射装置4の噴射口から噴射される空気によって飛散され、冷却されて粒状化してスラグPとなる。
【0012】
本方法以外に、例えば該溶融物を羽根車上に注下して水シャワー中に飛散させ、冷却固化粒状化する水砕法、該溶融物を容器中に流し出し、冷却固化させた後、粉砕機で粉砕する方法等があるが、装置が簡潔な点、粉砕機が不要な点等からみて、風砕法を採用することが望ましい。
【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施例を示す。
還元スラグと酸化スラグとを下記の表1に示す比率(質量比)に混合した。
【0014】
【表1】


上記混合スラグ10tに対して山砂1t、スケール1tをそれぞれ添加し、電気炉にて1600℃で約30分加熱溶融して上記還元スラグの改質を行なった。溶融物は図1に示すような装置を使用して風砕を行ない、各混合スラグについて平均粒径1mmの粒化物を得た。
上記還元スラグと酸化スラグとの成分を表2に示す。
【0015】
【表2】


改質後の成分変化を表3に示す。
【0016】
【表3】


表3を参照すれば、改質後の粒化物は、いずれも遊離CaO、遊離MgO共に含有量が大巾に低下し、水分に接触しても膨張、崩壊を起さず、コンクリート骨材や下層路盤材等土木用として充分使用可能な骨材であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明においては、処理に費用を要した還元スラグを、安価にかつ簡単に改質してコンクリート骨材、下層路盤材等の土木用材料として高度利用可能ならしめたので、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 溶融物吐出ポット
2 溶融物吐出口
3 受け樋
4 空気噴射装置
M 溶融物
P スラグ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉還元スラグに電気炉酸化スラグを混合して溶融し、溶融物を冷却粒状化することを特徴とする電気炉還元スラグの改質方法。
【請求項2】
電気炉還元スラグに電気炉酸化スラグを混合し、更にケイ酸含有物質および/または鉄成分を混合して溶融し、溶融物を冷却固化粒状化することを特徴とする電気炉還元スラグの改質方法。
【請求項3】
電気炉還元スラグと電気炉酸化スラグとの混合比は質量比で30:70〜70:30の範囲に設定されている請求項1または請求項2記載の電気炉還元スラグの改質方法。
【請求項4】
上記溶融物は流下状態で空気を噴射して飛散冷却されて粒状化する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気炉還元スラグの改質方法。



【図1】
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【公開番号】特開2013−71875(P2013−71875A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213420(P2011−213420)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(394026079)株式会社星野産商 (12)
【出願人】(597098981)山口鋼業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】