説明

電気的変調を用いたアナフィラキシーの治療方法および治療装置

【解決手段】たとえば心筋組織、血管拡張/収縮、および/または肺組織の機能を調節するための神経信号をブロックおよび/または調節するために、電気刺激をアナフィラキシーで苦しむ患者の迷走神経の選択された領域に供給することを含む、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、および/または刺激の治療方法および治療装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療目的で電気刺激(および/または場)を身体組織に放出する分野に関し、具体的には、迷走神経中の信号をブロックおよび/または調節するアナフィラキシーなどのショックに関連した状態を治療する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疾患に対する治療法として、有益な効果をもたらすために、健康な組織を破壊しなければならない治療方法が多くある。機能不全となった組織は、特定されると、それを正常な機能に戻すように試みられずに、有益な結果を得るために、障害を受けるか、そうでなくても妥協して処置される。多くの技術や機構は、対象の神経組織に直接障害を集中させるように設計されているが、付随的損害は避けられない。
【0003】
機能不全組織に対する他の治療は、依然として、本質的に薬によるものであるが、多くの場合、患者は合成化学品に依存することとなる。この例として、アルブテロールなどの抗喘息薬、オメプラゾール(Prilosec)などのプロトンポンプ阻害薬、ジトロパン(Ditropan)などの痙性膀胱鎮痛剤、およびリピトール(Lipitor)やゾコール(Zocor)などのコレステロール低下薬などがある。多くの場合、こうした医薬品治療には、未知のまたはかなり深刻な副作用があり、例えば、1990年代後半の有名なダイエットピルの少なくとも1つは、その後に心臓発作と卒中を引き起こすことがわかった。
【0004】
したがって不運にも、手術と薬による有益な結果はしばしば、他の組織の機能または副作用の危険を犠牲にして実現される。
【0005】
病状の治療に電気刺激を用いることは、この分野においてはほぼ2000年間にわたり周知であった。脳および/または末梢神経系への電気刺激および/または機能不全組織への直接刺激は、一般に完全に可逆的また非破壊性の治療であるが、こうした刺激には、多くの病気の治療に対して重要な将来の見込みがあることが認識されてきた。
【0006】
電極を移植した脳への電気刺激は、本態振戦およびパーキンソン病を含む運動障害、ならびに痛みを含む、様々な病状の治療への使用が承認されている。これらのアプローチの背景にある原理は、脳の特定部位における活動亢進性神経回路伝達を破壊し調節することに関連している。病状を呈している脳の部分を物理的に破壊するという非常に危険な障害操作と比較して、電気刺激は、こうした場所に電極を移植することによって、最初は異常な電気信号を検知し、その次に病的状態のニューロンの伝達を局所的に崩壊させるために電気パルスを送ることによって、こうした部分を正常な活動範囲に戻すために達成される。こうした電気刺激操作は、切開を伴うものでありながらも、意識のある患者や手術患者に広く行われている。
【0007】
脳への刺激、特に脳の深い場所へ刺激を与えることについては、何らかの欠点なしには行えない。その操作では、頭蓋骨に穴を開け、カテーテル状のリードなどを使って脳物質内に電極を挿入しなければならない。患者の状態(振戦反応など)をモニタしながら、電極の位置を調節して重要な治療上の可能性を実現する。次に、周波数や、周期性、電圧、電流などの電気刺激信号を調整しても、治療結果を達成する。該電極はその後永久に移植され、配線は、該電極から外科的に移植されたペースメーカの場所に向けられる。このペースメーカは、電気刺激信号を電極に供給して治療効果を維持する。脳の深い部分に刺激を与える治療効果は有望とはいえ、周辺の組織や神経血管構造への損傷によって誘発される卒中を始めとする、移植操作によって起こる重大な合併症がある。
【0008】
筋肉と神経との関係についてのこの基本的理解の、現在最も成功した応用例の1つは、心臓ペースメーカーである。ペースメーカのルーツは1800年代に遡る。1950年になって初めて、外部取り付け型で大きなものであったが、最初の実用的なペースメーカが開発された。ルーン・エルクヴィスト(Rune Elqvist)博士が1957年に、真に機能的で着用可能な最初のペースメーカを開発した。そのすぐ後の1960年に、完全に埋め込み型のペースメーカーが初めて開発された。
【0009】
この頃、電気リードを静脈を通して心臓に接続できることが発見され、これによって、胸腔を開いて心臓壁にリードを接続する必要がなくなった。1975年にはリチウムヨウ素電池が導入されて、ペースメーカの電池寿命は数か月から10年以上へと延びた。現代のペースメーカーは、様々に異なる兆候を示す心筋病を治療でき、また、心臓の細動除去器としても用いることができる(デノ(Deno)らの発明になる米国特許第6738667号参照、その開示は参照によって本明細書に援用される)。
【0010】
アナフィラキシーは重度のアレルギー反応であり、以前感作された物質に体が曝された場合に起こる。その反応は、体の組織中の細胞から、ヒスタミン類を含む化学物質の突然の放出を引き起こす。それらの化学物質は血管を拡張し、血圧を低下させ、血管からの流体の漏れを引き起こす。それらの化学物質は肺でも作用し、気道の締め付けを引き起こし、これにより呼吸が非常に困難になる。
【0011】
アナフィラキシーが軽度であり、じんましんおよびそう痒しか引き起こさない場合もある。しかしながら、アナフィラキシーは致死ともなりうる。アナフィラキシーの最も深刻な形態であるアナフィラキシー性ショックにおいては、血圧が大幅に低下し、気管支組織が著しく肥大する。これにより人が窒息し、倒れる。アナフィラキシー性ショックは即座に治療されなければ致死となり、合衆国だけで年間8000人以上の死者が出ている。これらの致死反応の引き金は、木の実への暴露、虫さされ、薬物投与など、多岐に及ぶ。しかしながら、それらの引き金に一連の過敏性反応が介在し、その結果、平滑筋の収縮による制御不可能な血圧の低下および気道の閉塞が起きる。
【0012】
刺激性およびアナフィラキシー性気管支収縮を媒介するものが一般的であることを考えると、刺激患者が特別アナフィラキシーの危険にさらされているのは驚くべきことではない。さらに、そのような反応に感受性の人の数は、合衆国だけで4000万人以上にものぼると算定されている。悲劇的なことに、これらの患者の多くは自らの病状の深刻さを十分に自覚しているが、発病に対し医学的に何とか対処しようと奮闘しながらも、それが無駄に終わり、死に至る。これらの出来事の多くは病院もしくは救急車の中で、高度な訓練を受けた医療関係者の目の前で起こるが、医療関係者は無力であるので、患者を侵す低血圧および気管支収縮の悪循環を断ち切ることができない。通常は、アナフィラキシー性反応は重度でありかつ急激に発症するため、その病状には慢性的な治療は必要ではなく、より即効性のある医薬が必要である。アナフィラキシーの治療に対して最も有名な医薬にはエピネフリンがあり、いわゆる「エピペン」製剤および投与装置の形で一般的に市販されている。潜在的な患者達は常にそれらを携行している。強烈な気管支拡張剤としての役割を果たすことに加え、エピネフリンは患者の心拍数を劇的に上昇させるため、それにより頻脈や心臓発作が起こりうる。
【0013】
気管支の気道に沿って並ぶ平滑筋は、迷走神経線維叢と交感神経線維叢とが混在することにより支配されている。喘息中の気管支けいれんおよびアナフィラキシー性ショックは、これらの叢内の病理的兆候に直接関連していることがしばしばある。アナフィラキシー性ショックと喘息は大きな健康上の関心事である。
【0014】
炎症反応や炎症を介在とした気管支収縮に起因する喘息やその他の気道閉塞障害は、合衆国で推定800〜1300万人の成人および子どもに影響を与えている。喘息患者のうちかなりの患者は重症の喘息に苦しんでいる。喘息の発作により、合衆国では毎年推定5000人が死亡している。人口の20パーセント近くが喘息に罹っている国々もあり、世界中では1億人以上が喘息に罹っていると推定されている。喘息治療薬の使用は増えているにもかかわらず、喘息関連の病気の罹病率および死亡率はほとんどの国で上昇している。
【0015】
喘息は、気道が慢性的炎症状態にあるものとして特徴付けられる。典型的な徴候としては、咳、喘鳴、胸部圧迫感および息切れである。喘息は、花粉、ダニおよびたばこの煙などの異物に対して敏感になった結果として起こるものである。気道にこうした異物があると、身体は実際に過剰反応する。喘息の反応の一部として粘液の生産が増えることがあり、このために気道が一層制限される。気道を囲む平滑筋が痙攣を起こして気道狭窄をもたらす。気道は炎症も起こす。時間が経つとこの炎症は気道の傷跡となって、気流がさらに縮小される可能性がある。この炎症により気道は一層過敏になって咳をすることが多くなり、喘息を発症する感受性が高まる可能性がある。
【0016】
喘息患者のこの問題に対して、医薬上2つの戦略がある。喘息の状況は通常、病状発症後に吸入療法を行うかもしくは、慢性的に注射療法および/または経口薬療法を行うか、のいずれかの方法によって対処される。薬剤治療は通常、炎症を治療するものと平滑筋収縮を治療するものの2つのカテゴリーに分類される。最初の治療方法は、気道組織の治療にステロイドのような抗炎症性薬剤を与えて、炎症過程に介在する分子の過剰放出を低減する方法である。2番目の治療方法は、平滑筋弛緩剤(反コリン作用薬剤および/または反アドレナリン作用薬剤)を与えて平滑筋の収縮能力を低減する方法である。
【0017】
初期の治療方法としては、気管支拡張剤に頼らずに、喘息の引き金となるものを回避して抗炎症性薬剤に頼ることが非常に望ましいとされてきた。しかしながら患者によっては、これらの薬剤治療そして気管支拡張剤でさえ、気管支の気道狭窄を止めるには不十分であり、喘息の発作により、毎年5000人以上が呼吸困難に陥り死亡している。
【0018】
心筋機能障害は心筋作用全体の低下を伴う。心筋作用の決定要因は、心拍数、前負荷、および収縮性である。心拍数は心臓周期の頻度を説明するために用いられる用語であり、通常1分間あたりの心臓の収縮(心臓の鼓動)の回数に対して用いられる。心臓は本来備わった2つの心臓ペースメーカを備え、これらが自発的に心臓を鼓動させる。これらは自律神経系および循環するアドレナリンにより制御されうる。
【0019】
心拍出量(単位時間あたりに心臓によって排出される血液の量)を増大させるため、様々な状況に応答して、身体は心拍数を増加させることができる。運動、環境ストレス、もしくは精神的ストレスは、安静時の心拍数よりも心拍数を増加させうる。脈拍は、心拍数を測定する最も分かりやすい方法であるが、十分な心拍出量をもたらさない心臓拍動があった場合には当てにならない。このような場合には(ある種の不整脈で起こるように)、心拍数は脈拍よりもかなり多い。
【0020】
前負荷は、理論的には、収縮に先立つ心筋細胞の最初の伸張として最も正確に説明される。前負荷は、受動的な充てんおよび心房収縮の後に、ある心室に存在する血液の量である。前負荷は、静脈血圧および静脈還流率の影響を受ける。それら(静脈血圧および静脈還流率)は静脈緊張および循環血液の量に影響を受ける。
【0021】
後負荷は、収縮のためにある心室により生み出される緊張である。後負荷はまた、心室が心室外に血液を押し出すために生み出さなければならない圧力としても説明することができる。左心室の場合、大動脈弁を開くために左心室における圧力は血圧よりも大きくなければいけないため、後負荷は血圧の結果である。たとえば、高血圧(増大した血圧)は、左心室の後負荷を増大させるが、これは左心室が大動脈へ血液を押し出すためにさらに激しく稼働しなければならなくなるからである。これは、左心室で生み出された圧力が高められた血圧よりもさらに高くなるまで、大動脈弁が開かないからである。
【0022】
収縮性は心筋線維に固有の能力であり、いかなる繊維長にでも収縮可能である。前負荷、後負荷、および心拍の間の心筋作用の変化がすべて一定であれば、能力の変化は収縮性の変化によるものに違いない。収縮性に影響を与える化学物質は、変力薬と呼ばれている。たとえば、カテコールアミン類(ノルエピネフリンおよびエピネフリン)のような収縮性を高める薬物は、正の変力効果を有すると考えられる。収縮性の増大を引き起こすすべての因子は、収縮の間、細胞内カルシウム濃度([Ca++])の増加を引き起こすことにより機能する。
【0023】
収縮性という概念は、実験で示しうるように、たとえ前負荷、後負荷、および心拍がすべて一定のままであっても、何らかの介入(たとえばアドレナリン注入)が心筋作用の増大を引き起こしうるのかを説明するのに必要である。その他の要因を制御する実験研究が必要であるのは、収縮性の変化が一般的には分離効果ではないからである。たとえば、心臓への交感神経刺激の増大は、収縮性および心拍を増大させる。収縮性の増大は、1回拍出量を増加させる傾向があり、したがって前負荷を二次的に減少させる。
【0024】
血圧は、血液が血管壁にかける圧力である。特に断らない限り、血圧は全身動脈血圧、つまり血液を肺以外の体の各部に運ぶ、(腕の)上腕動脈のような大動脈内の圧力のことをいうものとする。その他の血管の血圧は動脈圧よりも低い。血圧値は水銀柱ミリメートル(mmHg)で世界的に規定されており、常に大気圧と比較することで得られる。たとえば、大気圧が760mmHgの日において、平均動脈圧を100mmHgとすると、動脈における血の絶対圧力は、860mmHgである。
【0025】
収縮期圧は、心臓周期における動脈のピーク圧力として定義される。拡張期血圧は、最も低い圧力である(心臓周期の休止期における)。平均動脈圧および脈圧はそれ以外の重要な数量である。休息中の成人健常者の標準値は、収縮期圧がおおよそ120mmHgで、拡張期血圧がおおよそ80mmHgである(120/80mmHgと表記する)が、個人差が大きい。これらの血圧値は、変化がないわけではなく、心拍によっても、もしくは一日を通じても(概日リズムにおいて)、自然変動する。また、これらの血圧値は、ストレス、栄養要因、薬、または病気に応じて変化する。
【0026】
迷走神経と血圧の制御の関連を示す例は、「治療抵抗性高血圧の神経刺激による治療」という題名が付けられ、テリー(Terry)らの発明になる、米国特許第5707400号(以下‘400号)に見られるが、そのすべては参照によって本明細書に援用される。高血圧(正常な血圧よりも高い)およびその逆の低血圧(正常な血圧よりも低い)は、主に血圧に関係する問題をあらわすコインの両面からなる。低血圧、低血圧の原因、および影響に関して発表することは、「低血圧に対するシステムおよび方法」という題名が付けられ、ダウム(Daum)らの発明になる、米国特許出願第2005/0283197(A1)号においても議論されているが、そのすべては参照によって本明細書に援用される。
【0027】
正常値を超える血圧は動脈性高血圧と呼ばれる。動脈性高血圧それ自体が深刻な問題となることは極めてまれであるが、高血圧性クリーゼの希な例外としては、器官系の深刻な機能障害を伴う重度の高血圧(特に中枢神経系、循環系、および/または腎臓系)および不可避の臓器損傷の可能性がある。しかしながら、動脈性高血圧の長期にわたる間接的な影響のために(また他の問題の指標としても)、動脈性高血圧はそれを診断する医師にとっては深刻な心配事である。持続性の高血圧は、脳梗塞や、心臓発作や、心臓麻痺や、動脈瘤に対する危険因子の1つであり、糖尿病後の慢性腎不全の2番目に多い原因である。
【0028】
すべてのレベルの血圧は、動脈壁に機械的ストレスを与える。血圧が高いほど心臓の仕事量が増え、動脈壁内で発達する不健康な組織増殖が進行する(粉瘤)。血圧が高くなればなるほど、ストレスが増え、粉瘤が進行し、心筋が厚くなり、肥大化し、いずれ弱くなる。
【0029】
低すぎる血圧は、低血圧として知られている。血圧が低いことは深刻な病気の兆候かもしれず、より切迫した医学的な配慮が必要である。血圧および血流が非常に低い場合、脳のかん流は非常に減少しうる(つまり、血液の供給が不十分である)ため、立ちくらみ、目まい、虚弱、および失神が引き起こされる。
【0030】
患者が座った状態から立ち上がったときに、血圧が著しく減少することが時々ある。これは起立性低血圧として知られている。つまり、重力は心臓より下にある体の静脈から心臓に戻る血液の帰還率を減少させるため、1回拍出量および心拍出量を減少させる。人々が健康な場合には、心臓より下にある静脈を素早く収縮させ、心拍数を増加させることにより、重力の影響を最小限にし、埋め合わせる。これは自律神経系を経由して潜在意識のレベルで行われる。その系を十分調節するには通常数秒を要し、埋め合わせが遅すぎたり不十分な場合には、その個体は脳への血流量の減少、目まい、および潜在する失神を被ることとなる。超音速ジェット機のパイロットが日常的に経験している「重力のけん引」のような重力荷重の増大は、この影響を大幅に増大する。体の向きを重力に垂直にすれば、この問題の大部分を取り除くことができる。
【0031】
低血圧は大抵、アナフィラキシーや敗血症のような他の多くの全身性の健康障害を伴い、それらを悪化させ、アナフィラキシー性ショックや敗血症性ショックに至り、内在する健康障害に処置を施すのをさらに困難にさせる。たとえば、「迷走神経刺激の応用」という題名が付けられた、ベン・エズラ(Ben Ezra)らの発明になる米国特許出願第2005/0065553号は、そのすべては参照によって本明細書に援用されるが、適切に設定された電流を迷走神経に加えることにより患者の敗血症を治療する方法を提案する。しかしながら、敗血症が難治性の低血圧症を伴う場合には、敗血症は敗血症性ショックになる。
【0032】
敗血症性ショックは深刻な病状であり、感染症や敗血症に反応して、多臓器障害や死のような結果を引き起こす。敗血症性ショックの最も一般的な犠牲者は子供や高齢者であるが、それは免疫不全の個体同様、彼(彼女)らの免疫系が完全に成長した大人のものほどは感染に対処できないからである。敗血症性ショックによる致死率はおおよそ50%である。その他の様々なショック状態には、全身性炎症反応症候群、毒素性ショック症候群、副腎不全、およびアナフィラキシーが含まれる。
【0033】
ある種の血液分布異常性ショックとは、末端器官の機能障害をもたらす組織内かん流の低下のことをいう。大規模な炎症反応において放出されたサイトカインであるTNFα、IL―1β、IL―6は、大規模な血管拡張、毛細管透過性の増大、体血管抵抗の減少、および低血圧をもたらしうる。低血圧は組織内かん流圧を低下させるため、組織低酸素が起きる。最終的に、低下した血圧を埋め合わせようとして、脳質拡張および心筋機能障害が起きる。
【0034】
従ってこの分野では、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、刺激、などにおいて直ちに現れる症状を治療する新しい製品および方法が求められている。
【発明の開示】
【0035】
本発明は、迷走神経における信号を一時的にブロックおよび/または調節するために迷走神経に印加される電気信号を利用する、アナフィラキシーを治療する製品および方法に関する。本発明はまた、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、刺激、などの治療も含む。
【0036】
1つまたは複数の実施形態において、本発明は、迷走神経の少なくとも1つの選択された領域に1つまたは複数の電気刺激を送信して、収縮性を促進する心臓の筋線維、心臓組織を囲み心臓機能の増大を促進する(したがって血圧を上昇させる)線維、および/または気管支を囲む(気道の開口を促進する)筋線維への信号をブロックおよび/または調整するための方法および装置を考慮する。
【0037】
そのような電気刺激の活性化は、アナフィラキシーに苦しむ患者によって、手動で指示されてもよいことは理解されるであろう。
【0038】
本発明の1つまたは複数の実施形態においては、持続性収縮の基準値を減少させるために心筋を弛緩させ、血管収縮(もしくは拡張)をもたらす、そして何らかのショックの場合には、気管支経路の内側を覆っている平滑筋を弛緩し、アナフィラキシー性ショック時などに起こる発作を和らげる、という方法で刺激が印加される。上記刺激は、交感神経鎖からの線維と結合して前後の冠状動脈神経叢および肺神経叢を形成する、迷走神経の右枝および/または左枝の、上心臓枝および/または下心臓枝、および/または前管支枝および/または後気管支枝などの、心臓活動、および/または気管支活動をそれぞれ制御する神経上にリードを配置することにより印加されてもよい。リードは、心臓および肺の両方の器官のブロックおよび/または調整を含むように、迷走神経の心臓枝もしくは肺枝の一方もしくは両方の枝上に配置されてもよい。刺激を標的とする領域に印加するために、先行技術に示されるようなリードのない刺激が用られてもよいことも理解されるであろう。
【0039】
適切な刺激を迷走神経の選択された領域に印加する機構には、電気リードの遠位端部を、心筋、心臓の血管(たとえば血管収縮/拡張に影響を及ぼすため)、および/または肺の筋肉をコントロールする神経組織の近くに配置することを含めることができ、そのリードは、移植型もしくは外部取付け型電気刺激生成装置に接続される。上記リードの遠位端で生成された電場は、標的とする神経線維に浸透し、対象筋肉への信号のブロックおよび/または調整を引き起こす、といった効力を有する場を作り出す。
【0040】
迷走神経または迷走神経から枝分かれして心筋および/または気管支筋へ延びる線維のいずれかへの、アナフィラキシーに対する体の反応を弛緩させるために、副交感神経性緊張を調整するための電気刺激の印加に関しては、添付の図面を参照して本発明に関する以下の詳細な説明において、および特許請求の範囲において、より完全に説明される。
【0041】
他の態様や、特徴、利点などは、添付の図面と共に本明細書の記述を読めば、当業者には明白であろう。
【0042】
発明の種々の態様を説明する目的で、図面には現時点で好適な形態が示されるが、しかしながら本発明は、まさにそのデータ、方法論、配置および手段によってまたはそれらに限定されるものではなく、公表された実用的用途の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本明細書に開示された実施形態は、本発明の好適な態様を表しており、発明の実施例として提示されることは理解されるであろう。しかしながら、本発明の範囲は、ここに提示された開示に限定されるものではなく、本明細書に添付された仮の特許請求範囲によって限定されるものでもない。
【0044】
アナフィラキシーの正確な生理学的原因(たとえば、気管支狭窄および/または低血圧の誘導)はわかっていないが、本発明においては、平滑筋収縮の直接の介在は、迷走神経における過剰反応、つまり迷走神経自体の受容体と反応するプロ炎症メディエイタの氾濫に対する反応の結果である、と仮定する。
【0045】
文献では、迷走神経は交感神経と副交感神経によって運ばれる信号のバランスを維持することが報告されている。迷走神経は、気管支の平滑筋および/または心筋を収縮させる信号源として、気管支の気道および心筋を囲む平滑筋に基準値の緊張力を与えていると考えられるが、それは(i)気道の内側を覆う組織が崩壊して閉塞するのを防ぐため、および/または(ii)組織が膨張しすぎて血圧が低下するのを防ぐためである。
【0046】
具体的には、本発明の1つまたは複数の実施形態においては、迷走神経(副交感神経)によって運搬される信号が(i)気管支の気道を囲む平滑筋の収縮、および/または(ii)心臓の減速を引き起こすと考えている。交感神経線維は、気管支の気道を開かせるだけでなく心拍数を上昇させる傾向を有する反対の信号を運ぶ。迷走神経の信号はヒスタミン反応と同様な反応を仲介し、一方、交感神経の信号はエピネフリンと同様の効果を生み出すことが認識されるべきである。副交感神経の信号と交感神経の信号との均衡を仮定すると、副交感神経の信号を除去することは、交感神経の信号を強調するという不均衡を生むはずである。こうした方向に沿って、科学文献は、犬の迷走神経を切断すると、エピネフリンの場合とほぼ同様に、気管支の気道を開くとともに、犬の心拍数を上昇させるということも示唆している。
【0047】
図1および2を参照して、迷走神経をより詳細に示す。迷走神経は運動線維および知覚線維からなる。迷走神経は、頭蓋を出て、副神経とともに硬膜の同じ鞘に包含される。迷走神経は、頸動脈鞘を通って首を降り、首根まで到達する。迷走神経の分布領域の枝には、とりわけ、上心臓枝、下心臓枝、前気管支枝および後気管支枝が含まれる。右側では、迷走神経は、気管の傍を通って肺根の後部まで降り、後肺神経叢において広がっている。左側では、迷走神経は胸部に入り、大動脈弓の左側を横断し、左肺根の後ろを下り、後肺神経叢を形成する。
【0048】
哺乳動物では、迷走神経の2つの構成要素が脳幹中で発達して、周辺の副交感神経の機能を制御している。背側運動核(DMNX)およびその接続から構成される迷走神経背側複合体(DVC)は、横隔膜よりも下にある副交感神経の機能を制御し、一方、疑核および顔面神経核後核で構成される迷走神経腹側複合体(VVC)は、首および上胸にある他の腺や組織、および食道複合体の筋肉などの特殊化した筋肉とともに、横隔膜より上部にある心臓、胸腺、および肺などの器官の機能を制御する。
【0049】
迷走神経の副交感神経部分は、標的器官のそれぞれの中またはそれぞれに隣接して存在する神経節ニューロンを刺激する。上記VVCは哺乳動物にのみ見られ、心拍数、気管支収縮、発声および感情状態に関連した顔の筋肉の収縮などについて、プラスおよびマイナスに調節することに関係している。一般的には、迷走神経のこの部分は、副交感性緊張を調節する。このVVC抑制は、覚醒状態で放出される(オフにされる)。これは次に、心臓の迷走神経緊張の減少を引き起こし、気道を開かせ、環境上の課題に対する反応を支持する。
【0050】
副交感神経性緊張は、部分的には交感神経支配によって平衡を保たれており、一般的には、心筋を伸張し、血管収縮に影響を及ぼし、および/または気管支の筋肉を弛緩させる傾向を有する信号を供給して、それぞれ過収縮および過圧縮が起こらないようにしている。全体として見れば、心筋の緊張、血管拡張、および/または気道平滑筋の緊張は、副交感神経への入力、循環エピネフリンの阻害的影響、NANC抑制神経、および副交感神経節の交感神経支配などを含む、いくつかの要因に依存する。迷走神経を刺激すると(緊張の上方調節)、ショック時に起こりうるように、心拍数の減少および気道狭窄が起こる。このような文脈においては、上方調節は特異的効果を増大するプロセスであるが、下方調節は特異的効果の減少を伴う。一般に、ショックの病状は、神経細胞上の受容体を圧倒し、細胞に副交感性緊張を上方に大きく調整させる炎症性サイトカイニンによって介在されているように思われる。細胞レベルでは、上方調節は、細胞が投与されたホルモンまたは神経伝達物質に対する受容体の数を増加させ、この分子に対する感受性を改善するプロセスである。受容体の減少は、下方調節と呼ばれている。
【0051】
アナフィラキシーは、そうでなければ正常に機能する迷走神経に、気道が異常に収縮する信号を送ることを無理に駆り立てる、サイトカインを活性化するアセチルコリン受容体の大量の過剰生産を引き起こすアレルゲンに対する過敏性によって主に介在されるようである。
【0052】
喘息の場合には(アナフィラキシーと関連しうるが)、気道の組織は、任意のレベルのアセチルコリンサイトカインに直面した場合に、(i)神経のアセチルコリン受容体を刺激するサイトカインの過剰生産を引き起こすアレルゲンに対する過敏性、および/または、(ii)基準の高い副交感性緊張、もしくは強い副交感性緊張に至る急上昇、の両方を有しているように思われる。この組合せは致死となる可能性がある。
【0053】
敗血症には深刻な感染症が介在し、敗血症により大規模な炎症反応が生じうるが、この炎症反応はサイトカインTNFα、IL−1β、IL−6を放出し、これらのサイトカインは大規模な血管拡張、毛細管浸透性の増大、体血管抵抗の減少、および低血圧を介在する。一方、アナフィラキシーは、サイトカインを活性化させるアセチルコリン受容体の過剰産生を引き起こす、あるアレルゲンに対する過敏性によって主に介在されるように思われるが、それらのサイトカインは、本来ならば正常に動作している迷走神経が、大規模な気道狭窄を示すように過度に駆り立てる。エピネフリンなどの薬は、気管支筋を弛緩させる機能もあるが、心拍数の上昇を促進することにより、これらの状態からの症状を一時的に軽減する効果が得られる。
【0054】
エピネフリンなどの薬は、気管支筋を弛緩させる機能もあるが、心拍数の上昇を促進することにより、これらの状態からの症状を一時的に軽減する効果が得られる。上記のとおり、迷走神経を切断すると(副交感性緊張を低減させる極端なパターン)、心拍数と気管支の径において、心臓が速く打ち始め(頻脈)また気管支通路は広がるという点において、エピネフリンおよびアドレナリンによる効果と同じような効果を有する、ということが経験から分かっている。
【0055】
本発明の少なくとも1つの態様に従って、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、喘息、などに苦しむ患者に、迷走神経に沿った信号の伝達をブロックおよび/または調整するに十分な電気刺激を送れば、気管支平滑筋を弛緩させて、気道を広げ、心臓機能を向上させ(したがって血圧上昇させ)および/または迷走神経におけるアナフィラキシーおよび/またはヒスタミンの影響を打ち消すことができる。上記刺激の位置によっては、信号をブロックおよび/または調整することによって、心臓機能を向上させることもできる。
【0056】
本発明の少なくとも1つの態様に従って、副交感性緊張を低減するために、迷走神経中の上記信号をブロックおよび/または調整することによって、および/または、アナフィラキシーもしくは迷走神経のヒスタミン反応をブロックしおよび/またはそれに影響を与えることによって、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック気管支狭窄、喘息、などの状況において、細動除去器とまったく同様に、直ちに緊急対応を施すことができ、気道を即時に一時的に拡張し、および/または、投薬管理、人工呼吸、および挿管などの次の措置を講じるまでの間、心臓機能を向上させることができる。さらに、本発明の教示によれば、即時の気道拡張および/または心臓機能の向上によって、そうでなければ、深刻な収縮もしくはその他の生理的影響のために効果がないかもしくは不可能な、以降の救命措置を可能にできる。本発明による治療では、気管支拡張、および/または、患者が窒息する前に投与された薬剤(エピネフリンなど)が効くのに十分な期間、心臓機能の向上を提供する。
【0057】
迷走神経の選択された領域に電気刺激を印加するという、ここで開示された方法はさらに、上記の少なくとも1つの領域が、患者の第10脳神経(迷走神経)から出てきた少なくとも1つの神経線維、特に、少なくとも1つの患者の前気管支枝、少なくとも1つの患者の上心臓枝、および/または、少なくとも1つの患者の下心臓枝を含むように洗練されてもよい。上記の刺激は好ましくは、肺外部に沿って並んでいる前肺神経叢もしくは後肺神経叢の少なくとも1つに提供される。上記の刺激は必要に応じて、気管支樹および肺組織自身のみを刺激する神経に向けられてもよい。さらに、上記の刺激は、心臓枝と気管支枝の一方または両方をブロックおよび/または調整する迷走神経の領域に向けられてもよい。当業者には理解されるように、この実施形態は、心臓に問題があることが事前にわかっている患者に使用する前に、注意深く評価されなければならない。
【0058】
心臓枝に関して、心臓神経叢は心臓の底部に位置しており、大動脈弓の凹面にある浅部、および大動脈弓深部と気管の間にある深部に分けられる。しかしながら、2つの部分は緊密に関係している。心臓神経叢の浅部は大動脈弓の下であって、右肺動脈の全面に位置している。それは左交感神経の上心臓枝および左迷走神経の下位および上位の上頸心臓枝によって形成されている。心臓神経叢の浅部は、(a)叢の深部へ、(b)前冠状動脈神経叢へ、および(c)左前肺神経叢へ、心臓枝を渡す。心臓神経叢の深部は、気管分岐部の前面であって、肺動脈の分割点の上側であって、かつ大動脈弓の背後に位置する。それは、交感神経の頸神経節に由来する心臓神経、ならびに迷走神経および回帰神経の心臓枝によって形成される。心臓神経叢の深部の形成に関与しない唯一の心臓神経は、左交感神経の上心臓神経、および左迷走神経からの2つの上頸心臓枝の下端であるが、それらは叢の浅部を通る。
【0059】
ここで、図3についてさらに言及するが、図3は、図2に示された迷走神経ならびにその心臓枝および肺枝を簡略化したものである。さらに、迷走神経を刺激するための迷走神経刺激(VNS)装置300も示されている。VNS装置300は、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、刺激、低血圧、などの治療を意図したものである。VNS装置300は、衝撃発生器310と、衝撃発生器310と接続した電源320と、衝撃発生器310と通信し電源320に接続された制御部330と、哺乳動物の迷走神経200の1つまたは複数の選択された領域200Aおよび200Bに、リード350を介して取り付けるための、衝撃発生器310に接続された電極340と、を含んでもよい。上記の制御部330は、信号が電極340を経由して迷走神経200に印加された場合に、たとえば気管支狭窄もしくは低血圧の改善に適した信号を生成するために、衝撃発生器310を制御してもよい。VNS装置300は、その機能によってパルス発生器と呼ばれうる。
【0060】
1つの実施形態に従って、1つまたは複数の電気刺激が、心臓枝上の迷走神経の上、または近傍にある位置Aに向けられる。この実施形態では、副交感性緊張の上方調節をブロックしおよび/または調整しおよび/または抑制するために、1つまたは複数の電気刺激が位置Aにおいて導入されて、気道の拡張および心臓機能の増大をもたらす。
【0061】
別の実施形態に従って、1つまたは複数の電気刺激が、肺枝の近位にある心臓枝より下にある迷走神経上、もしくはその近くの位置Bに向けられる。この実施形態では、副交感性緊張をブロックしおよび/または調整しおよび/または上方調節を抑制するために、1つまたは複数の電気刺激が位置Bにおいて導入されて、気道の拡張だけがもたらされる。
【0062】
アナフィラキシー性ショックもしくは重度の刺激の発作の影響を受けやすいことがわかっている患者では、1台または複数台の電気刺激放出装置300が、迷走神経200の1つまたは複数の選択された領域200Aおよび200Bに移植されてもよい。装置300は緊急用には経皮的であってもよく、その場合、装置300は外部の電源320を経由して電源が供給される電極340を含んでもよい。
【0063】
いずれもシャファー(Shafer)の発明になる米国特許出願公開第2005/0075701号明細書および第2005/0075702号明細書は、ともに参照によって本明細書に援用されるが、これらは免疫反応を減衰するための交感神経系のニューロンの刺激に関するものであり、本発明に応用しうるパルス発生器についての記述を含む。
【0064】
図4は、本発明の実施形態に従って、迷走神経の一部に印加された刺激をブロックおよび/または調整するための電圧と電流曲線の例図である。迷走神経200の上記の部分200Aもしくは200Bに対する刺激410をブロックおよび/または調整する適切な電圧/電流曲線400は、衝撃発生器310を用いて達成されてもよい。好適な実施形態では、上記の衝撃発生器310は、電源320と、例えば、処理部、時計、メモリなどを備えた制御部330とを用いて実行されてもよく、リード350を経由して上記迷走神経200に対してブロックおよび/または調整する刺激410を送出する電極340に対してパルス列420を生成する。上記VNS装置300は、経皮的な使用として、外部非常装置として外科医に利用可能であってもよい。上記VNS装置300は、皮下的な使用として、例えば腹部の皮下ポケットなどに外科的に移植されてもよい。VNS装置300は、身体の外部から電力を供給されるかおよび/または再充電されてもよく、または自身の電源320を備えていてもよい。例として、上記VNS装置300は市販品として購入できる。VNS装置300は,好適には、メドトロニック社(Medtronic,Inc.)からも入手可能なモデル7432などのような、内科医プログラマ(physician programmer)によってプログラムされている。
【0065】
調整用信号400のパラメーターは、周波数、振幅、デューティサイクル、パルス幅、パルス波形などについてプログラム可能であることが好ましい。移植パルス発生器の場合には、移植前または移植後にプログラムが行われてもよい。例えば、移植されたパルス発生器は、該発生器に設定を通信する外部装置を備えていてもよい。外部通信装置によって、パルス発生器のプログラムを改良して治療効果を改善できる。
【0066】
上記の電気リード350および電極340は、好適には、約0.2ボルト〜約20ボルトの範囲の最大パルス電圧を可能にする、それぞれのインピーダンスを実現するように選択される。
【0067】
ブロックおよび/または調整用刺激信号410は、好適には、治療結果に影響を及ぼす、すなわち迷走神経送信のうちのいくつかまたはすべてをブロックおよび/または調整するように選択された周波数、振幅、デューティサイクル、パルス幅、パルス波形などを有する。例えば、周波数は約1Hz以上で、例えば約25Hz〜3000Hzまたは約1000Hz〜約2500Hzであってもよい(これらは、典型的な神経刺激周波数もしくは調整周波数よりも明らかに高い周波数である)。上記の調整信号は、約20μS以上、例えば約20μS〜約1000μSなどの、治療効果に影響を及ぼすように選択されたパルス幅を有していてもよい。上記の調整信号は、約0.2ボルト以上、例えば、約0.2ボルト〜約20ボルトなどの、治療結果に影響を及ぼすように選択された最大電圧振幅を有していてもよい。
【0068】
本発明のVNS装置300は、好適な実施形態に従って、個人で再使用が可能な経皮的移植もしくは皮下移植の形態で提供される。
【0069】
本発明の上記装置は、別の実施形態に従って、「ペースメーカ」タイプの形態で提供され、その場合、電気刺激410は、該VNS装置300によって、迷走神経200の選択された領域200Aおよび200Bに断続的に生成されて、患者の中で、上方制御信号に対する迷走神経200の反応性をより低くする。
【0070】
本発明の該装置300は、別の実施形態に従って、気管内チューブ装置に組み入れられて手術中の気管支けいれんを改善する。好適な実施形態では、1つまたは複数の装置300は、適当な電気刺激を伝えるために迷走神経200の選択された領域200Aおよび200Bに接するように気管支チューブの遠位の部分に設けられて、刺激に対する迷走神経200の反応性を弱める。しかしながら、永久移植の場合すべてにおいて、移植を行う外科医は、上記の制御部330およびリード350の特定の位置によって調整される信号を、所望の結果が得られるまで変化させなければならず、また、この効果の長期維持性についてモニタを行い、患者の体に起こる適応性機構によって確実にこの所期の効果が無くならないようにしなければならない。
【0071】
さらに、または電極に対する刺激をブロックおよび/または調整する電圧/電流曲線を生成する調整ユニットを実行する装置の代替として、米国特許公報第2005/0216062号(その開示のすべては参照によって本明細書に援用される)に開示された装置が用いられてもよい。上記の米国特許公報第2005/0216062号には、生物学的、生物医学的に異なった応用に用いられる広範囲のスペクトルのための、誘導電流形式、電磁気形式またはその他の形式の電気刺激をもたらす出力信号を生み出すのに適合した多機能電気刺激(ES)システムが開示されている。このシステムは、振幅、持続時間、反復率やその他の変数に関してパラメータが調節可能な、正弦波、方形波、もしくはのこぎり波、または、単純もしくは複雑なパルスのような、異なる形状を有する信号をそれぞれ発生する、複数の異なった信号発生器に接続された切換器を備えたES信号ステージを含んでいる。上記のESステージにおける選択された発生器からの信号は、少なくとも1つの出力ステージに供給されて、前記出力ステージが所望の応用に適した電気刺激信号生み出せる、所望の極性を有する高電圧(電流)もしくは低電圧(電流)の出力を生成するように処理される。上記システムは、治療された物質上に現れる状況をセンシングする種々のセンサからの出力とともに該処理物質上に作動する電気刺激信号を測定しそれを表示する測定ステージをさらに備え、これによって前記システムのユーザは、手動で調整またはフィードバックにより自動的に調節してユーザが望むあらゆるタイプの電気刺激信号を提供し、その後ユーザは治療された物質への信号の影響を観察できる。
【0072】
実験結果に関する議論に先立ち、本発明の1つまたは複数の実施例に従ったアナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、刺激、低血圧、などの一般的治療方法には、少なくとも1つの電気刺激を、アナフィラキシーを緩和する必要がある哺乳動物の迷走神経の1つまたは複数の選択された領域に印加するステップが含まれる。
【0073】
上記の方法は、上記の迷走神経の選択された領域に1つまたは複数の電極を移植するステップと、上記の電極に1つまたは複数の電気刺激を印加して少なくとも1つの電気刺激を発生させるステップとを含む。上記の1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約1Hz〜3000Hzであり、振幅が約1〜6ボルトである。
【0074】
上記の1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約750Hz〜1250Hz、もしくは約10Hz〜35Hzであってもよい。上記の1つまたは複数の電気刺激信号は、振幅が約0.75〜1.5ボルト、たとえば約1.25ボルトであってもよい。上記の1つまたは複数の電気刺激信号は、完全なまたは部分的な、正弦波、方形波、矩形波、および/または三角形波の、1つまたは複数であってもよい。上記の1つまたは複数の電気刺激信号は、約100、200、または400マイクロ秒など、約50〜500マイクロ秒の範囲のパルスのオン時間を有していてもよい。
【0075】
上記パルスの極性は、ポジティブもしくはネガティブのどちらかに維持されてもよい。または、波動のある期間はポジティブで、その他の期間はネガティブであってもよい。例として、上記のパルスの極性は約1秒毎に変更されてもよい。
【0076】
交感神経から提供された信号を上方制御することによって所望の治療効果を達成しうるが、本発明は、アナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、刺激、低血圧、などの悪循環を直ちに断ち切るより直接なルートは、迷走神経経由であることを示唆する。なぜならば、低血圧における過敏反応を起こす作用様式は、迷走神経にあり、交感神経を通じてではないためである。したがって、(i)収縮のために信号に対する上記筋肉の感度を低減させるため、および(ii)発症した収縮の強さを鈍らせ、もしくは収縮がいったん開始した場合にそれを中断させるために、電気信号がどのようにして、気管支平滑筋を刺激および/またはコントロールする末梢神経線維に供給されるかという点に関して、実験的方法を特定するために実験を行った。さらに、(i)持続性収縮の信号に対する上記筋肉の感度を低減させるため、および(ii)発症した収縮の強さを鈍らせ、もしくは持続性の過収縮がいったん開始した場合にそれを中断させるために、電気信号がどのようにして、血管収縮/拡張を刺激および/またはコントロールする、および/または心筋を刺激および/またはコントロールする末梢神経線維に供給されるかという点に関して、実験的方法を特定するために実験を行った。
【0077】
特に、既知の神経信号の範囲から選択された特定の信号を、モルモットの迷走神経および/または交感神経に印加して、アナフィラキシー誘発の気管支収縮および低血圧の減衰に繋がる、肺の迷走神経活性の影響における選択的な中断もしくは低減を生み出した。
(実験)
【0078】
ヒスタミンの静脈注射を用いて低血圧および/または気管支収縮が誘導された実験とは対照的に、以下の試験手順および試験データがアナフィラキシーに応じて得られた。15匹のオスのモルモット(400g)が、オボアルブミンの腹腔内投与(10mg/kgの腹腔注射を48時間毎に3回投与)により感作された。3週間後、モルモットは実験室に輸送され、1.5g/kgのウレタンの腹腔注射を用いて即座に麻酔をかけられた。前頸部の上の皮膚を開き、頸動脈および両方の頸静脈にPE50チューブをカニューレ挿入して、血圧/心拍数のモニタリングおよび薬の投与がそれぞれ行えるようにした。気管にはカニューレを挿入し、また、モルモットは陽圧、一定容積で換気を行って、その後、気道圧力測定から起こる胸壁硬直による狭窄除去として胸壁筋肉組織を麻痺させるために、サクシニルコリン(10ug/kg/min)で麻痺させた。上記に開示された1つまたは複数の態様に従って、両方の迷走神経を分離し、遮蔽された電極に接続し、それらの神経を選択的に刺激できるようにした。15分の安定化の後、オボアルブミンの濃度増大(0.001〜1.0mg/kg静脈注射)の前後で、血行動態の基線および気道圧力の測定が行われた。気道圧力の増大およびアナフィラキシー反応を伴う低血圧に続いて、降圧反応および気管支収縮反応を弱めるパラメータを特定するために、周波数、電圧およびパルス幅を変化させて、迷走神経の調節が行われた。静脈内に塩化カリウムを注射して安楽死させた。
【0079】
図5では、上段の線(BP)は血圧を示し、2番目の線は気道圧力(AP1)を示し、3番目の線は別のセンサにおける気道圧力(AP2)を示し、4番目の線は血圧中のパルスに由来する心拍数(HR)を示す。このモデルにおいて得られるアナフィラキシー反応の基準として、オボアルブミンに対する最初のモルモットの反応が、電気的な刺激を全く与えずに記録された。図20のグラフは、0.75mgのオボアルブミンを注射した影響を示す。注射後約5分で、血圧は125から50mmHgに低下するが、気道圧力は11から14cm HOに上昇する。この効果は60分以上持続し、血圧は90mmHgまで、多少の回復を示した。
【0080】
図6に関して、ヒスタミン誘導の刺激のモデル(上記の実験手順1)において有効であることが示された信号の効果を究明するために、別の動物(モルモット#2)がテストされた。図21は、アナフィラキシー反応を引き起こすために1.125mgのオボアルブミンを注射した後に、感受性モルモット#2の左右の迷走神経に同時に印加された、25Hz、200μS、1.25Vの方形波信号の影響を示す。より深刻な反応を引き起こすために、より多くの投薬が用いられた。グラフの左端から順に、電気刺激の前に血圧は30mmHgまでひどく低下するが、気道圧力はほぼ22cm HOである(基準から9.5cm増)、ということが見られてもよい。血圧における最初のピークは、迷走神経に印加された電気信号と同時に起こる。つまり、血圧は60mmHgまで増加したが(100%増)、気道圧力は6.5cm減少し、約15.5cm HOとなった(68%減)。次のピークは、効果が反復されたことを示す。もう一方のピークは、信号電圧を変化させた影響を示す。つまり、電圧を下げると、有効性が低下する。
【0081】
図7では、信号周波数およびパルス幅を変化させることによる、血圧および気道圧力への影響を示す。血圧の最初のピークは、迷走神経の両側に印加された15Hz、300μS、1.25Vの電気信号と同時に起こる。つまり、血圧は60mmHgまで増加したが(70%増)、気道圧力は1.5cm減少し、約17cm HOとなった(25%減)。次のピークは10Hzの信号を示す。つまり、有益な効果は、15Hzの信号と比べて減少する。他方のピークは、信号周波数およびパルス幅を変化させることによる影響を示す。つまり、周波数を15Hz以下、もしくはパルス幅を200μS以下に低下させると、有効性の低下がもたらされる。15〜25Hz、および200〜300μSの間の信号は、アナフィラキシーの低血圧の症状および気管支収縮の症状を緩和させる点において、おおよそ同程度の有効性を維持する。
【0082】
上記の実験データから得られうる結論には以下のものが含まれる。(1)モルモットにおけるアナフィラキシーによって引き起こされる気道狭窄および低血圧は、迷走神経に適切な電気信号を与えることによって、著しく低減できる。(2)15Hz〜25Hz、200μS〜300μS、および1.0V〜1.5Vの信号は、同程度に効果的である。(3)アナフィラキシーによる気道狭窄の迷走神経に印加された25Hz、200μS、1.25Vの信号は、最大68%まで増大する。この効果は、いくつかの実験動物において繰り返された。(4)迷走神経に印加された25Hz、200μS、1.25Vの信号は、深刻な低血圧を抱えるアナフィラキシー性のモルモットの血圧を最大100%増大させる。この効果は、いくつかの動物において繰り返された。これは、敗血症性ショックのような、その他の低血圧状態の治療に応用されてもよい。(5)迷走神経に対する信号の印加により、アナフィラキシーの発症の持続時間を短くしうるという、ある程度の証拠がある。
本発明を特定の実施形態を参照して記述したが、これらの実施形態は本発明の原理および応用を単に説明しただけのものであることは理解されるでろう。したがって、この説明のための実施形態に多くの改良が可能であり、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく、他の配置も考案されることは理解されるであろう。

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】交感神経系および副交感神経系の図解的な図である。
【図2】首、胸部および腹部の選択された部分の解剖学的断面図である。
【図3】図1および2に示される迷走神経を簡略化した図面である。
【図4】本発明の実施形態に従って、迷走神経の一部に印加された刺激をブロックおよび/または調整するための電圧と電流曲線の例図である。
【図5】本発明の複数の実施形態に従って得られた実験データをグラフで示したものである。
【図6】本発明の複数の実施形態に従って得られた実験データをグラフで示したものである。
【図7】本発明の複数の実施形態に従って得られた実験データをグラフで示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電気刺激を、アナフィラキシーからの緩和の必要がある哺乳動物の迷走神経の少なくとも1つの選択された領域に印加するステップを含み、この印加によって、哺乳動物の心臓組織の筋肉線維、血管収縮、および哺乳動物の気管支の筋肉線維のうちの少なくとも1つの調節において効果が得られることを特徴とするアナフィラキシーの治療方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの選択された領域は、前記迷走神経の心臓枝および気管支枝のうちの少なくとも1つに近い迷走神経の領域を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記効果は、心臓機能の増大を含む心筋の能力の改善、血圧の上昇、安定した心拍数の維持、血管収縮/拡張への作用、気管支の気道開口の増大、および気管支けいれんの軽減、のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記迷走神経の少なくとも1つの選択された領域には、迷走神経の上心臓枝および/または下心臓枝、迷走神経の前気管支枝および/または後気管支枝、迷走神経の右枝、迷走神経の左枝、前冠状動脈神経叢もしくは後冠状動脈神経叢またはそれらの近傍、ならびに前肺神経叢もしくは後肺神経叢またはそれらの近傍、のうちの1つ以上が含まれることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
電気刺激発生器と、前記電気刺激発生器に接続された電源と、前記電気刺激発生器と通信し、さらに前記電源に接続された制御部と、前記電気刺激発生器に接続された電極と、哺乳動物の迷走神経の1つまたは複数の選択された領域に取り付けられるための、前記電極に接続された電気リードとを備え、前記制御部は、信号が前記電気リードを経由して前記迷走神経に印加されると、アナフィラキシーおよび/または関連する合併症の治療に適した信号を生成するために前記電気刺激発生器を調整する働きをすることを特徴とするアナフィラキシーの治療装置。
【請求項6】
前記電気リードは、広い接触面積を有することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
少なくとも1つの電気刺激を、病状を緩和する必要がある哺乳動物の迷走神経の1つ以上の選択された領域に印加するステップを含むことを特徴とするアナフィラキシー、アナフィラキシー性ショック、気管支狭窄、および/または喘息の治療方法。
【請求項8】
1つまたは複数の電極を前記迷走神経の前記選択された領域に移植するステップと、
1つまたは複数の電気刺激信号を前記電極に印加して、少なくとも1つの電気刺激を生成するステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約1Hz〜3000Hzであり、振幅が約1〜6ボルトであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約750Hz〜1250Hzであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約10Hz〜35Hzであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、振幅が約0.75〜1.5ボルトであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、完全または部分的な、正弦波、方形波、矩形波、三角形波の1つまたは複数であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、パルスのオン時間が約50〜500マイクロ秒であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約25Hzであり、パルスのオン時間が約200〜400マイクロ秒であり、振幅が約1ボルトであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記1つまたは複数の電気刺激信号は、周波数が約25Hzであり、パルスのオン時間が約100〜400マイクロ秒であり、振幅が約1ボルトであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記パルスのオン時間は、約400マイクロ秒、約200マイクロ秒、および約100マイクロ秒のうちの1つであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
パルスの極性を、ポジティブまたはネガティブのいずれかに維持するステップをさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項19】
波動のある期間はポジティブとなるように、別の期間はネガティブとなるように、前記パルスの前記極性を交互に入れ替えるステップをさらに含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記パルスの前記極性を約1秒毎に交互に入れ替えるステップをさらに含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−525805(P2009−525805A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554225(P2008−554225)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/042823
【国際公開番号】WO2007/092062
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(508140914)エレクトロコア、インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】