説明

電気穿孔法による細胞への抗原の負荷方法

抗原提示細胞に1つまたは複数の抗原を負荷するための方法を開示する。1つまたは複数の抗原の組成物による電気穿孔処理を受けた抗原提示細胞を用いる、対象における疾患の治療および予防のための方法。過剰増殖細胞、微生物もしくは微生物感染細胞の1つまたは複数の抗原を含む、1つまたは複数の抗原の組成物も開示される。さらに、電気穿孔法を用いて、過剰増殖細胞、微生物感染細胞もしくは微生物の1つまたは複数の抗原が負荷された抗原提示細胞の組成物も提示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は一般に、細胞生物学、微生物学、癌生物学および免疫学の分野に関する。より詳細には、これは、電気穿孔法を含む、抗原提示細胞に1つまたは複数の抗原を負荷するための方法、および負荷された抗原提示細胞の組成物に関する。本発明に用いられる抗原には、過剰増殖細胞、微生物感染細胞または微生物が含まれる。これはまた、過剰増殖細胞、微生物感染細胞または微生物の1つまたは複数の抗原が負荷された抗原提示細胞を用いる、対象における癌または任意の他の感染症などの疾患の治療または予防のための方法にも関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年2月18日に提出された米国仮特許出願第601448,670号(これはその全体が本明細書に組み入れられる)に対する優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
外来抗原およびTAAに対する免疫応答は一般に、免疫系において最も効率的な抗原提示細胞である樹状細胞による抗原の取り込みによって始まる。樹状細胞(DC)は体内で最も効率的な種類の抗原提示細胞(APC)であり、外来抗原を食作用によって取り込み、それらをナイーブT細胞および記憶T細胞の両方に対して提示することができる(Van Schooten et al., 1997;Meliman and Steinman, 2001)。その他の種類のAPCにはマクロファージおよびB細胞が含まれる。
【0004】
DCは通常、微飲作用および/または食作用によって抗原を取り込み、その後にそれらは細胞内で抗原を処理した上で、免疫系のT細胞に対して抗原を提示する。このプロセスは通常、体内で起こるが、体内からDCを取り出し、それらをインビトロで培養した上で、インビトロでこれらの培養樹状細胞に対して抗原を付与し、その後に細胞を体内に戻し、そこでそれらをT細胞と相互作用させて、目的の抗原に対して強化された免疫応答を誘発させることが可能である。これらの抗原をDCに付与するこのプロセスは一般に「パルス処理(pulsing)」または共培養と呼ばれ、これは一般的には単に抗原をDCに対して添加し、DCに抗原の微飲作用および/または食作用を行わせることによって行われる。エクスビボでのDCと抗原との混合は、DCによる抗原の微飲作用および/または食作用の確率を高め、インビボ環境での効率の低さを克服する。腫瘍抗原をDCに対して付与するためのこの種の共培養は記載されている(Schnurr et al., 2002;Herr et al., 2000;Geiger et al., 2001)。
【0005】
いくつの腫瘍に関しては精製腫瘍関連抗原の特性決定がなされ、癌ワクチンとして用いられてある程度の成果を上げている(Holtl et al., 2002;Asavaroengchai et al., 2002)。しかし、TAAの同定は限られている。さらに、精製され、特性決定がなされたTAAの使用は、すべての癌に対しては実現されない可能性がある。TAAが判明しており、精製してDCへの負荷を行うことができる状況では、負荷のためのより効率的な方法があれば、必要な抗原の量が減らせると考えられる。このため、TAAをAPCに対してより効率的に提示することを可能にする方法の同定には、大きな関心がある。
【0006】
電気穿孔法は、非透過性分子を生細胞に導入するための手段として記載されている(Mir, 2000に総説がある)。細胞全体のレベルでは、電気パルスに対する細胞曝露の結果は完全には解明されていない。外部電場の存在下では、膜内外電位差の変化が生じると考えられている(Neumann et al., 1999;Weaver and Chizmadzhev, 1996;Kakorin et al., 1996)。この電場は膜内外静止膜電位差に重ね合わせられ、これは若干の近似化(細胞膜の厚さが極めて薄い、膜導電率がゼロなど)を条件として、マックスウェルの式から計算することができる(Mir, 2000)。膜内外電位差のこれらの変化は実験的に観察されている(Hibino et al., 1993;Gabriel and Teissie, 1999)。電気パルスに対する細胞の曝露の影響は、浮遊液中の単離細胞のケースで分析的に詳細に記載されている(Kotnik et al., 1998)。
【0007】
分子レベルの分析では、細胞膜レベルで起こる現象の説明は仮定的である。正味の膜内外電位差がある閾値を上回った場合に、膜構造に起こる変化は、所定の物理化学特性(分子質量、半径など)を有する通常であれば透過性のない分子を膜が透過させるのに十分であると推定されている(Mir, 2000を参照)。
【0008】
電気穿孔法は、DNA(Knutson and Yee, 1987)およびRNA(Van Meirvenne et al., 2002;Van Tendeloo et al., 2001)を細胞に導入するために最も一般的に用いられている。これはまた、その他の巨大分子を、抗原提示細胞を含む生細胞の細胞質に導入するために考えられる手段としても記載されている(Zhou et al., 1995;Harding, 1992;Chen et al., 1993;Li et al., 1994;Kim et al., 2002)。
【0009】
しかし、電気穿孔法を、癌、その他の過剰増殖性疾患、および微生物によって引き起こされる感染症などのその他の疾患の治療に効率的に用いるための方法は得られていない。特に、これまでの研究では、電気穿孔法を、癌抗原またはその他の病原性抗原(特に特性不明の抗原に関して)に対する免疫応答を生じさせるために用いるための方法は記載されていない。このような手法の開発は、癌の治療薬およびその他のワクチンにおける大きな進展に相当すると考えられる。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
したがって、本発明の目的の1つは、抗原提示細胞(APC)に1つまたは複数の抗原を負荷するための新規な方法であって、(a)抗原提示細胞と、1つまたは複数の抗原を含む抗原組成物とを含む混合物を調製すること;および(b)抗原組成物が抗原提示細胞内に負荷されるのに十分な様式で混合物の電気穿孔処理を行うこと、を含む方法を提供することである。任意の電気穿孔法を本発明では想定しているが、ある種の態様において、混合物の電気穿孔処理は、米国公報第US20030073238A1号(これはその全体が本明細書に組み入れられる)に記載されたような電気穿孔装置の使用を含む。本発明のAPCの負荷のための方法は、任意の種類のAPCの使用を想定している。ある特定の態様において、APCは樹状細胞である。抗原組成物は、1つまたは複数の任意の種類の抗原、例えば、過剰増殖細胞、微生物感染細胞または微生物由来の1つまたは複数の抗原を含みうる。より詳細には、過剰増殖細胞由来の抗原は、腫瘍関連抗原または腫瘍限定的抗原でありうる。抗原組成物は溶解物であってよい。溶解物は当業者に知られた任意の方法によって調製しうる。例えば、界面活性剤処理または界面活性剤を用いない処理を用いて溶解物を調製することができる。ある種の態様において、溶解物は、凍結融解法、超音波処理法、高圧押出法、固体剪断法、液体剪断法および低張/高張法からなる群より選択される、界面活性剤を用いない処理を用いて調製される。より詳細には、細胞および/または微生物を、溶解物を調製するための方法の一部として、少なくとも1回の凍結融解サイクルにかける。また別の態様において、溶解物は、細胞および/または微生物を少なくとも約2〜5回の凍結融解サイクルにかけることによって調製される。さらに別の態様において、前記少なくとも1つの凍結融解サイクルの後に溶解物の遠心処理を行う。
【0011】
ある特定の態様において、溶解物は腫瘍細胞溶解物である。腫瘍細胞溶解物は、良性細胞、癌細胞、対象の自己由来腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞またはこれらの細胞の混合物から構成されうる。任意の種類の癌の細胞を本発明では想定しているが、癌細胞の個々の例には、乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、脳悪性腫瘍細胞、肝癌細胞、子宮頸癌細胞、結腸癌細胞、腎癌細胞、皮膚癌細胞、頭頸部癌細胞、骨悪性腫瘍細胞、食道癌細胞、膀胱癌細胞、子宮癌細胞、リンパ系癌細胞、胃癌細胞、膵癌細胞、精巣癌細胞または白血病細胞が含まれる。
【0012】
さらなる態様において、溶解物は、微生物感染細胞溶解物または微生物の溶解物である。微生物感染細胞溶解物は、細菌、ウイルス、寄生生物、原生動物、真菌などの微生物、または任意の他の病原性粒子に感染した任意の種類の細胞から調製される。
【0013】
本発明のもう1つの目的は、APCに1つまたは複数の抗原を負荷するための新規な方法であって、(a)抗原提示細胞と、1つまたは複数の抗原を含む抗原組成物とを含む混合物を調製すること;および(b)抗原の1つまたは複数がAPCに負荷されるのに十分な様式で混合物の電気穿孔処理を行うこと、を含む方法を提供することである。本明細書で用いられる抗原には、APCまたはそのAPCを入手した生物にとって天然性でない任意の抗原が含まれうる。抗原の源としては任意の細胞および/または微生物を用いることができる。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、対象を疾患に関して治療する方法であって、(a)上記の方法のいずれかを用いて、抗原提示細胞に1つまたは複数の抗原を負荷すること;(b)前記抗原提示細胞の組成物を調製すること;および(c)それを必要とする対象に対して組成物の有効量を投与すること、を含む方法を提供することである。ある種の態様において、1つまたは複数の抗原には、過剰増殖細胞、微生物および/または微生物感染細胞由来の抗原が含まれる。ある特定の態様において、抗原提示細胞に1つまたは複数の抗原を負荷するための方法は、米国公報第US20030073238A1号に記載されたような電気穿孔装置の使用をさらに含む。疾患は過剰増殖性疾患または感染症である。もう1つの特定の態様において、対象を疾患に関して治療する方法は、抗原提示細胞を培養することをさらに含む。
【0015】
対象を疾患に関して治療する方法は、実質的に精製された抗原の使用を含んでもよく、または実質的に精製されていない抗原の使用を含んでもよい。当業者は、抗原を精製するための技法に精通していると考えられる。ある特定の態様において、疾患に関して治療しようとする対象は哺乳動物である。ある特定の態様において、対象はヒトである。ヒトは、疾患を有するあらゆるヒトでよい。ある特定の態様において、疾患は過剰増殖性疾患であり、例えば、この過剰増殖性疾患は腫瘍でありうる。腫瘍は良性でもよく、または腫瘍は癌でもよい。例えば、癌は、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、脳悪性腫瘍、肝癌、子宮頸癌、結腸癌、腎癌、皮膚癌、頭頸部癌、骨悪性腫瘍、食道癌、膀胱癌、子宮癌、リンパ系癌、胃癌、膵癌、精巣癌または白血病でありうる。治療しようとする対象は、二次的な抗過剰増殖療法を受けている対象であってよい。例えば、二次的な抗過剰増殖療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、光線療法、凍結療法、毒素療法、ホルモン療法または外科手術である。
【0016】
組成物の任意の送達方法を本発明では想定している。当業者は、送達の方法に精通していると考えられる。例えば、組成物は、全身的、血管内、皮内、皮下、または腫瘍塊に対して局所的に送達することができる。任意の抗原提示細胞の使用を本発明では想定している。しかし、ある種の態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。対象を治療する方法は、抗原提示細胞への負荷後に抗原提示細胞を培養する段階をさらに含む。さらに別の態様において、対象を治療する方法は、抗原提示細胞への負荷後に抗原提示細胞の免疫応答を測定することをさらに含む。免疫応答は、インビトロでELISPOT、ELISA、PCR、腫瘍細胞死滅により、または当業者に知られた任意の方法によってモニタリングしうる。免疫応答の定量は腫瘍サイズの測定によって行うこともでき、ある種の腫瘍モデルの場合には転移の数を数えることによって行うこともできる。
【0017】
本発明のもう1つの目的は、対象における疾患の発生を予防する方法であって、(a)抗原提示細胞に1つまたは複数の抗原を負荷すること;(b)前記抗原提示細胞の組成物を調製すること;および(c)それを必要とする患者に前記組成物の有効量を接触させること、を含む方法を提供することである。ある特定の態様において、抗原提示細胞への負荷は、米国公報第US20030073238A1号に記載されたような電気穿孔装置の使用を含む。ある種の態様において、対象は哺乳動物またはヒトである。また別の態様において、ヒトはある疾患、例えば過剰増殖性疾患の既往のある患者である。あらゆる疾患を本発明では想定している。例えば、過剰増殖性疾患は良性腫瘍または癌でありうる。例えば、癌は、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、脳悪性腫瘍、肝癌、子宮頸癌、結腸癌、腎癌、皮膚癌、頭頸部癌、骨悪性腫瘍、食道癌、膀胱癌、子宮癌、リンパ系癌、胃癌、膵癌、精巣癌または白血病である。
【0018】
ある種の態様において、対象は二次的な抗過剰増殖療法を受けている対象であってよい。このような二次的な抗過剰増殖療法の例には、化学療法、放射線療法、免疫療法、光線療法、凍結療法、毒素療法、ホルモン療法または外科手術が含まれる。組成物の任意の送達方法を本発明では想定している。例えば、組成物は、全身的、血管内、皮内、皮下、または腫瘍塊に対して局所的に送達することができる。
【0019】
任意の抗原提示細胞を、疾患を予防する本方法では想定している。しかし、ある種の態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。本発明の方法は、混合物の電気穿孔後に抗原提示細胞を培養すること、または電気穿孔後に抗原提示細胞の免疫応答を測定することをさらに含みうる。免疫応答は、インビトロで、ELISPOT、ELISA、PCR、腫瘍細胞死滅によってモニタリングされる。免疫応答の定量をインビボで、腫瘍サイズの測定、ならびに処置前および処置後の免疫モニタリングによって行うこともできる。
【0020】
本発明のさらにもう1つの目的は、抗原提示細胞を含む組成物であって、抗原提示細胞に、1つまたは複数の抗原が、この概要の項または本明細書中の別の箇所に前述した方法のいずれかを用いて負荷されている組成物を提供することである。ある特定の態様において、組成物は、対象に対する送達のために適した薬学的組成物である。対象はヒト対象であってよい。任意の抗原提示細胞を含む組成物を本発明では想定しているが、ある特定の態様では、抗原提示細胞は樹状細胞である。
【0021】
さらになお、「1つの(a)」または「1つの(an)」という語の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において、「含む(comprising)」という用語とともに用いられる場合には、「1つ(one)」を意味しうるが、これはまた、「1つまたはそれ以上の」「少なくとも1つの」および「1つまたは複数の」の意味とも矛盾しない。特許請求の範囲における「または(or)」という用語の使用は、選択肢の択一のみを指すこと、または選択肢が互いに排他的であることが明示されている場合を除き、「および/または」を意味して用いられるが、本開示は、選択肢のみおよび「および/または」を指すという定義を支持する。
【0022】
以下の本発明の詳細な説明がより良く理解されるように、以上に本発明の特徴および技術的利点をかなり大まかに概説した。本発明のさらなる利点および特徴を以下に説明するが、これらは特許請求の範囲の主題をなす。開示される概念および具体的な態様は、本発明の同じ目的を遂行するための他の構造を修正または設計するための基盤として容易に利用されうることが理解されるべきである。また、このような等価な構築物は、添付した特許請求の範囲に示される本発明を逸脱しないことも理解されるべきである。その構成および動作方法の両方に関する、本発明の特性であると考えられる新規な特徴は、さらなる目的および利点とともに、添付の図面を伴って考察されれば、以下の説明によってさらに良く理解されるであろう。しかし、図面のそれぞれは例示および説明のみを目的として提示されており、本発明の限界の定義としては意図していないことが明示的に理解されるべきである。
【0023】
発明の詳細な説明
本明細書に開示する方法は、過剰増殖性疾患および微生物によって引き起こされる感染症などのその他の疾患に対する改良された手法を提供することにより、先行技術の限界を克服する。抗原提示細胞(APC)に対する電気穿孔法を、APCに対して腫瘍抗原(腫瘍溶解物を含む)およびその他の微生物を有効に負荷するために用いうることが発見された。癌の患者に対するこれらのAPCの投与は、癌に対して有効な形態の免疫療法をもたらす可能性がある。本発明は先行技術を上回る改良を提示しており、その理由は、1つの態様において、腫瘍細胞の表面もしくはその細胞質中または微生物もしくは微生物感染細胞の内部に存在する、本質的にすべての抗原を溶解物が含むため、特定の腫瘍関連抗原(TAA)または病原性抗原を同定する必要がないことにある。さらに、TAAまたは病原性抗原の厳密な性質および溶解物中のそれらの濃度を同定する必要もない。
【0024】
APCへの負荷のために全腫瘍溶解物を用いることにより、特定されたエピトープの必要性が克服される。細胞溶解物の調製のための原料物質となる腫瘍組織は、疾患が早期でわずかな腫瘍しか存在しない時点に治療を開始する場合には乏しいと考えられる。単一の抗原を負荷することと比較して、APCに溶解物を負荷することとのもう1つの利点は、単一抗原の負荷を用いる場合にはその抗原を認識するようにT細胞をまず刺激しなければならないが、そのT細胞クローンを得る必要がないことである。全腫瘍溶解物を用いるアプローチは、多くの腫瘍では十分に確立されたTAAが得られていないという「一抗原/エピトープ」問題も回避するため、その結果として、クラスIおよびクラスII MHCの提示が助長される可能性が高い。したがって、本発明は、新規な形態の癌免疫療法を提供する。
【0025】
A. 疾患の治療
本発明は、感染症および/または過剰増殖性疾患を非制限的に含む疾患の治療または予防に用いることができる。
【0026】
本明細書で用いる場合、「治療」「治療する」「治療された」または「治療すること」という用語は、予防法および/または治療法のことを指す。例えば、感染症に関して用いる場合、この用語は、病原体による感染に対する対象の抵抗性を高める、言い換えれば、対象が病原体に感染する確率またはその感染症に起因する病状の徴候を示す確率を低下させるような予防的治療のことを指すほか、対象が感染した後に感染症と闘うための、例えば、感染症を軽減もしくは消失させるため、またはそれが悪化するのを防ぐための治療のことも指す。癌に関連して用いる場合、治療は対象における癌に負の影響を及ぼすことができ、これは例えば、癌細胞を死滅させること、癌細胞におけるアポトーシスを誘導すること、癌細胞の増殖速度を低下させること、転移の発生率もしくは数を低下させること、腫瘍サイズを減少させること、腫瘍の成長を抑制すること、腫瘍もしくは癌細胞に対する血流を減少させること、癌細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を増強すること、癌の進行を予防もしくは抑制すること、または癌を有する対象の寿命を延長させることによる。
【0027】
1. 過剰増殖疾患
本発明は、癌を非制限的に含む過剰増殖性疾患の治療または予防に用いることができる。過剰増殖性疾患とは、その病態の一部として、細胞数の異常な増加がみられる任意の疾患または状態のことである。この種の疾患に含まれるものには、良性前立腺肥大および卵巣嚢胞などの良性状態がある。同じく含まれるものには、扁平上皮過形成などの前癌病変がある。広範囲にわたる過剰増殖性疾患の反対側の極には癌がある。過剰増殖性疾患は、任意の細胞種の細胞を含みうる。過剰増殖性疾患は、正常細胞に比して個々の細胞のサイズの増大を伴うこともあり、伴わないこともある。
【0028】
もう1つの種類の過剰増殖性疾患は、細胞数の異常な増加を特徴とする病変である過剰増殖性病変である。この細胞数の増加は、病変のサイズの増大を伴うこともあり、伴わないこともある。治療に関して想定している過剰増殖性病変の例には、良性腫瘍および前癌病変が含まれる。その例には、扁平細胞過剰増殖性病変、前癌上皮病変、乾癬性病変、皮膚疣贅、爪周囲疣贅、肛門性器疣贅、疣贅状表皮発育異常症、上皮内新生物病変、局所性上皮肥厚、結膜乳頭腫、結膜癌または扁平上皮癌病変が非制限的に含まれる。病変は、任意の細胞種の細胞を含みうる。その例には、ケラチノサイト、上皮細胞、皮膚細胞および粘膜細胞が含まれる。癌は主な死因の一つであり、米国では毎年約526,000人がこのために死亡している。「癌」という用語は、本明細書で用いる場合、腫瘍などのように、細胞の無秩序な成長または増殖がみられる組織として定義される。
【0029】
癌は遺伝的変化の蓄積を通じて発生し(Fearon and Vogelstein, 1990)、周囲の正常細胞を上回る増殖上の優位性を獲得する。正常細胞の新生物細胞への遺伝的形質転換は、徐々に進行する一連の段階を経て起こる。遺伝的進行モデルは頭頸部癌などのいくつかの癌で検討されている(Califano et al., 1996)。本発明は癌の治療または予防の方法を提供する。本発明では、あらゆる種類の癌の治療または予防を想定している。本発明はまた、癌の既往歴のある対象における癌を予防する方法も想定している。癌の例については以上に概説した。
【0030】
2. 感染症
本発明のある種の態様において、本発明は、感染症の治療および/または予防のために有用である。感染症には、HIV、インフルエンザ、ヘルペス、ウイルス性肝炎、エプスタイン-バー、ポリオ、ウイルス性脳炎、麻疹、水痘、パピローマウイルスなどのようなウイルス原因性の感染症;または肺炎、結核、梅毒などのような細菌原因性の感染症;マラリア、トリパノソーマ、リーシュマニア、トリコモナス症、アメーバ症などの寄生生物原因性の感染症が含まれる。
【0031】
B. 抗原提示細胞
一般に、「抗原提示細胞」という用語は、抗原(例えば、TAA)に対する免疫応答(すなわち、免疫系のT細胞系統またはB細胞系統によるもの)の増強を助けることによって本発明の目標を実現する、任意の細胞のことでありうる。抗原提示細胞の例には、DC、B細胞およびマクロファージが含まれる。この種の細胞は、当業者により、本明細書に開示した方法および当技術分野における方法を用いて定義されうる。本発明の1つの態様において、APCはDCである。
【0032】
DCは、免疫応答の開始のための主なAPCである。DCはナイーブ[CD4+およびCD8+ T]細胞を活性化するという特有の能力を持つため、それらはMHC クラス[II]およびクラスI拘束的な抗原特異的T細胞応答のプライミングをともに行う上で決定的な役割を果たしている(Banchereau et al., 1998)。しかし、外因性に導入された抗原、例えば、抗原性タンパク質または死滅病原体からなるワクチン中に存在するものなどは、主として[CD4+ T]細胞に対する提示のためのMHCクラスII経路を介してプロセシングを受ける(Moore et al., 1988)。これらのタイプのワクチンは強力な体液性免疫を誘発するが、[CD 8+ CTL]を誘発する効果は比較的弱い。この弱点のため、クラスIIに加えてMHCクラスIを介しても抗原を提示するDCを特異的な標的とするワクチン戦略の検討が進められた。DCは、MHCクラスI経路による提示のために、外因性抗原(特に粒状形態にあるもの)のプロセシングのための特有の経路を有することが示されている(Rodriguez et al., 1999)。
【0033】
当業者は理解しているように、クラスII主要組織適合性分子または複合体を通常または優先的に用いて、免疫細胞に対して抗原のディスプレイまたは提示を行う細胞は「抗原提示細胞」である。ある種の面においては、細胞(例えば、APC細胞)を、所望の抗原を発現する組換え細胞または腫瘍細胞などの別の細胞と融合させることができる。2つまたはそれ以上の細胞の融合体を調製するための方法は当技術分野で周知であり、これには例えば、Goding, 1986;Campbell, 1984;Kohier and Milstein, 1975;Kohler and Milstein, 1976、Gefter et al., 1977(これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)に開示された方法が含まれる。電気穿孔法を用いた抗原提示細胞の融合も記載されている(Scott-Taylor et al., 2000)。場合によっては、抗原提示細胞が抗原のディスプレイまたは提示を行う対象である免疫細胞はCD4+TH細胞である。APCまたはその他の免疫細胞上に発現される分子は、免疫応答の増強を補助または強化する可能性がある。分泌性分子または可溶性分子、例えばサイトカインおよびアジュバントなども、抗原に対する免疫応答の補助または強化に働く可能性がある。この種の分子は当業者に周知であり、本明細書にはそのさまざまな例を記している。
【0034】
当業者に知られた任意のAPC調製法を、本発明に利用することができる。樹状細胞およびその他のAPCの単離、同定、調製および培養に有用な手法のいくつかの例は、米国特許第5,851,756号、第5,994,126号、第6,274,378号、第6,051,432号、第6,017,527号、第6,080,409号、第6,004,807号(これらはそれぞれ参照として本明細書に明確に組み入れられる)。
【0035】
C. 本発明の実施において有用な抗原
「抗原」という用語は、本明細書で用いる場合、免疫応答を惹起する分子と定義される。この免疫応答は、抗体産生、特異的免疫担当細胞の活性化のいずれかまたはその両方を含みうる。抗原は、生物体、死滅もしくは失活した全細胞、または溶解物に由来しうる。一般に、本発明の実施において有用な抗原には、過剰増殖細胞、微生物(例えば、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物)および/または微生物に感染した任意の細胞に付随する任意の抗原が含まれる。
【0036】
この目的を達するために、本発明のある種の態様は、APCに対して溶解物、例えば「細胞溶解物」および/または任意の微生物(ウイルスなど)由来の溶解物を負荷することを含む。「溶解物」は、本明細書において、細胞および/または微生物の正常構造の破壊を引き起こす手順の適用によって得られる材料に関すると定義される。より詳細には、「細胞溶解物」は、本明細書において、正常な細胞構造の破壊を引き起こす手順の適用によって得られる細胞材料に関すると定義される。溶解物の任意の調製方法を本発明では想定している。例えば、凍結融解法による溶解物の調製は、溶解物を調製しうるやり方の一つである。当業者は、溶解物の調製に利用しうる広範囲にわたる手法に精通していると考えられる。溶解物の調製は、APCへの負荷に用いる前にペレットを除去する遠心処理を含んでもよく、含まなくともよい。細胞溶解物は腫瘍細胞溶解物であってもよく、この際、細胞は良性腫瘍細胞でも癌(すなわち、悪性)細胞でもよい。
【0037】
1. 過剰増殖細胞
本開示の文脈において、および本明細書で用いる場合、「過剰増殖細胞の抗原」は、過剰増殖細胞に含まれる、抗原性を有する任意のタンパク質またはその他の物質と定義される。抗原は実質的に単離および精製された抗原であってもよく、そうでなくともよい。前に指摘したように、過剰増殖細胞は腫瘍細胞であってよく、これはさらに良性腫瘍細胞でも悪性(すなわち、癌)細胞でもよい。
【0038】
本発明に用いられる過剰増殖細胞の抗原は、例えば、腫瘍関連抗原であってよい。本発明の文脈において、「腫瘍関連抗原(TAA)」は、腫瘍細胞に含まれ、正常細胞とは差異を伴って発現される、抗原性を有する任意のタンパク質またはその他の物質と定義される。例えば、TAAは膜タンパク質、または細胞表面の糖タンパク質もしくは糖脂質の変容糖質分子でありうる。タンパク質またはその他の物質は、宿主細胞によって通常発現されるが変異している、または表面発現が変化している物質であってもよい。TAAを発現する腫瘍細胞は、それらが外来細胞であるかのように身体の免疫系によって認識されうる。身体は通常、これらの抗原およびそれを表面に提示している腫瘍細胞に対する細胞性免疫応答を起こすことによって応答する。「腫瘍限定的抗原」(TRA)には、正常細胞と比較して腫瘍細胞でアップレギュレートされている抗原、または腫瘍細胞のみによって発現される抗原が含まれる。したがって、過剰増殖細胞の任意の抗原を本発明では想定しているが、好ましい抗原はTAAまたはTRAであると考えられる。しかし、上述ように、過剰増殖細胞に含まれる任意の抗原を本発明では想定している。
【0039】
TAAと主張されているものは数多く同定されている。その例には、gp100、Melan-A/MART、MAGE-A、MAGE(黒色腫抗原E)、MAGE-3、MAGE-4、MAGEA3、チロシナーゼ、TRP2、NY-ESO-1、CEA(癌胎児性抗原)、PSA、p53、マンマグロビン-A、サービビン、Muc1(ムチン1)/DF3、メタロパンスティムリン-1(metallopanstimulin-1)(MPS-1)、シトクロムP450アイソフォーム1B1、90K/Mac-2結合タンパク質、Ep-CAM(MK-1)、HSP-70、hTERT(TRT)、LEA、LAGE-1/CAMEL、TAGE-1、GAGE、5T4、gp70、SCP-1、c-myc、サイクリンB1、MDM2、p62、Koc、IMP1、RCAS1、TA90、OA1、CT-7、HOM-MBL-40/SSX-2、SSX-1、SSX-4、HOM-TES-14/SCP-l、HOM-TES-85、HDAC5、MBD2、TRIP4、NY-CO-45、KNSL6、HIP1R、Seb4D、KIAA1416、IMP1、90K/Mac-2結合タンパク質、MDM2、NY/ESOおよびLMNAが含まれる。
【0040】
TAAに対して起こる免疫応答は癌細胞の増殖を遅延させる可能性があるが、多くの場合、TAAの到達性が低いために腫瘍の成長を完全に停止させることはできない。この免疫応答をより活発にすること、またはより詳細にはTAAに向けさせることができるならば、癌をより有効に治療することができる。この目的を達成するために、本発明のある種の態様は、APCに過剰増殖細胞の細胞溶解物を負荷することを含む。
【0041】
2. 微生物
微生物または微生物感染細胞に付随する抗原を本発明に用いることもできる。本明細書で用いる場合、「微生物」という用語は、微視的生物体、例えば細菌、ウイルス、プリオン、真菌、寄生生物または原生動物のことを指す。ある種の態様において、微生物は、それがヒトなどの宿主を感染させた時に疾患を引き起こす限り、「病原性微生物」または「病原体」である。
【0042】
微生物の溶解物をAPC内に負荷することは可能と想定している。ある種の態様においては、微生物の溶解物の作製の前または溶解物の作製の後に微生物を失活および/または弱毒化させることが有益であると思われる。微生物は、当技術分野で知られて用いられている標準的な方法、例えば化学処理、すなわちホルムアルデヒドおよび/またはグルタルアルデヒド、および/または熱により、失活および/または弱毒化させることができる。微生物の溶解物を用いることに加えて、微生物に感染した細胞の溶解物を本発明に用いることもできる。微生物および/または微生物感染細胞の溶解物を用いることの利点は、特異的な抗原またはエピトープを同定および/または単離するという問題点をそれが解消または克服することにある。
【0043】
このため、本発明は、ウイルス自体またはウイルス感染細胞のいずれかを用いるウイルス疾患の予防および治療に有用であると考えられる。以下の病原性ウイルスがその例として挙げられる:インフルエンザA、BおよびC、パラインフルエンザ、パラミクソウイルス、ニューカッスル病ウイルス、呼吸合包体ウイルス、麻疹、流行性耳下腺炎、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、パルボウイルス、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、レオウイルス、ラブドウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎、コロナウイルス、ポリオウイルス、単純ヘルペス(HSV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス、パピローマウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、水痘帯状疱疹、ポックスウイルス、風疹、狂犬病、ピコルナウイルス、ロタウイルスおよびカポジ関連ヘルペスウイルス。
【0044】
上記のウイルス疾患に加えて、本発明は、細菌または細菌感染細胞のいずれかを用いることによる、細菌感染症の予防、抑制または治療にも有用である。以下の細菌がその非制限的な例として挙げられる:肺炎球菌の諸血清型、連鎖球菌(例えば、化膿連鎖球菌、S.アガラクティエ(S. agalactiae)、S.エクイ(S. equi)、S.カニス(S. canis)、S.ボビス(S. bovis)、S.エクイナス(S. equinus)、扁桃炎連鎖状球菌、S.サングイス(S. sanguis)、唾液連鎖球菌、S.ミルス(S. mills)、S.ミュータンス(S. mutans)、その他のビリダンス連鎖球菌、ペプトストレプトコッカス、連鎖球菌のその他の関連種、エンテロコッカス-フェカーリス、エンテロコッカス-フェシウムなどの腸球菌)、ブドウ球菌(例えば、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、特に上咽頭のものなど)、インフルエンザ菌、シュードモナス種(例えば、緑膿菌、偽鼻疽菌、鼻疽菌など)、ブルセラ(例えば、マルタ熱菌、ブタ流産菌、ウシ流産菌など)、百日咳菌、髄膜炎菌、淋菌、モラクセラ-カタラーリス、ジフテリア菌、コリネバクテリウム-ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)、ヒツジ偽結核菌、偽ジフテリア菌、コリネバクテリウム-ウレアリチカム(Corynebacterium urealyticum)、コリネバクテリウム-ヘモリティクム、コリネバクテリウム-エクイなど、リステリア菌、ノカルジア-アステロイデス(Nocordia asteroides)、バクテロイド属、放線菌類、梅毒トレポネーマ、レプトスピラ属および関連生物。本発明はまた、肺炎桿菌、大腸菌、プロテウス属、セラチア属、アシネトバクター属、ペスト菌、野兎病菌、エンテロバクター属、バクテロイド属およびレジオネラ属などのグラム陰性細菌に対しても有用である。
【0045】
さらになお、真菌およびその他の真菌性病原体、または真菌もしくはその他の真菌性病原体に感染した細胞を、アスペルギルス症、黒色砂毛症、カンジダ症、クロモミセス症、クリプトコッカス症、爪糸状菌症または外耳炎(外耳道糸状菌病)、フェオフィホ真菌症、フィコミコーシス、癜風、白癬、毛瘡、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、黄癬、渦状癬、手白癬、黒癬(手掌部)、足白癬、爪白癬、トルロプシル症、腋窩菌毛症、白色砂毛症などの(ただしこれらには限定されない)、皮膚、毛または粘膜が冒される真菌症の範囲にわたる疾患の予防および/または治療のために本発明に用いることもできる。本発明に用いうる真菌および真菌性病原体には、以下のものが非制限的に含まれる:アクチノマヅラ-マヅレ、アクチノミセス属、アレシェリア-ボイジー、アルテルナリア属、アントプシス-デルトイデア(Anthopsis deltoidea)、アポフィソミセス-エレガンス(Apophysomyces elegans)、アルニウム-レオポリナム(Arnium leoporinum)、アスペルギルス属、オーレオバシヂウム-プルルシンス(Aureobasidium pullulcins)、バシジオボルス-ラナルム(Basidiobolus ranarum)、バイポラリス属(Bipolaris spp.)、ブラストミセス-デルマチチジス、カンジダ属、セファロスポリウム属、ケトコニジウム属(Chaetoconidium spp.)、ケトミウム属、クラドスポリウム属、コクシジオイデス-イミティス、コニディオボルス属、コリネバクテリウム-テニウス(Corynebacterium tenuis)、クリプトコッカス属、カニンガメラ-ベルトリチエ(cunninghamella bertholletiae)、クルブラリア属、ダクチラリア属、エピデルモフィトン属、エピデルモフィトン-フロッコーズム、エクセロフィルム属(Exserophilum spp.)、エクソフィアラ属、フォンセセア属、フザリウム属、ゲオトリクム属、ヘルミントスポリウム属、ヒストプラズマ属、レシトフォラ属(Lecythophora spp.)、マズレラ属、癜風菌、小胞子菌属、ムコール属、マイコセントロスポラ-アセリナ(Mycocentrospora acerina)、ノカルジア属、パラコクシジオイデス-ブラジリエンシス、ペニシリウム属、フェオスクレラ-デルマチオイデス(Phaeosclera dematioides)、フェオアンネロミセス属(Phaeoannellomyces spp.)、フィアレモニウム-オボバツム(Phialemonium obovatum)、フィアロフォラ属、フォーマ属、黒色砂毛症菌、ニューモシスチス-カリニ、ピチウム-インシジオスム(Pythium insidiosum)、リノクラディア-アクアスペルサ(Rhinocladiella aquaspersa)、リゾムコール-プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾープス属、サクセナエ-バスホルミス(Saksenaea vasformis)、サルシノミセス-フェオムルホルミス(Sarcinomyces phaeomurformis)、スポロトリックス・シェンキィ、シンセファラストルム-ラセモスム(Syncephalastrum racemosum)、テニオレラ-ボッピイ(Taeniolella boppii)、トルロプシル属、白癬菌属、トリコスポロン属、ウロクラジウム-チャータルム(Ulocladium chartarum)、ワンギエラ-デルマチチディス(Wangiella dermatitidis)、キシロハイファ属(Xylohypha spp.)およびチゴミエテス属(Zygomyetes spp.)。
【0046】
さらに、本発明は、クリプトスポリジウム、イソスポラ-ベリ、トキソプラズマ-ゴンヂ、膣トリコモナス、シクロスポラ属などの生物による原生動物感染症または肉眼で見える感染症、ならびにクラミジア-トマコマチスおよびその他のクラミジア感染症(例えば、クラミジア−シッタシまたはクラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumonie)など)の抑制にも有用な可能性がある。
【0047】
D. 溶解物の調製
本発明の溶解物は、以下の標準的な技法のうち任意のものを用いて調製することができる。
【0048】
1. 界面活性剤
細胞は膜が境界となっている。細胞の成分を放出させるためには、細胞を破壊して開いた状態にすることが必要である。これを実現しうる最も有利な手法は、本発明によれば、界面活性剤を用いて膜を可溶化することである。界面活性剤は、脂肪族または芳香族の性質を有する非極性末端と極性末端(これは荷電性でも非荷電性でもよい)とを有する両親媒性分子である。界面活性剤は脂質よりも親水性が高いため、脂質よりも水溶性が高い。これらは水不溶性化合物を水性媒体中に分散させることが可能であり、タンパク質を天然の形態で単離および精製するために用いられている。
【0049】
界面活性剤は変性型でも非変性型でもよい。前者はドデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性でもよく、またはエチルトリメチルアンモニウムブロミドなどの陽イオン性でもよい。これらの界面活性剤は膜を完全に破壊し、タンパク質-タンパク質相互作用を遮断することによってタンパク質を変性させる。非変性界面活性剤は、Triton(登録商標)X-100などの非陰イオン性界面活性剤、コール酸塩などの胆汁酸塩、およびCHAPSなどの両性イオン性界面活性剤に分けることができる。両性イオン性のものはカチオン基およびアニオン基の両方を同一分子中に含み、正の電荷は同一分子または隣接分子上の負の電荷によって中和される。
【0050】
SDSなどの変性型薬剤は単量体としてタンパク質と結合し、その反応は飽和に達するまで平衡下で進行する。したがって、単量体の遊離濃度が必要な界面活性剤濃度を決定する。SDS結合は協同的であり、すなわち一つのSDS分子の結合はそのタンパク質に対するもう一つの分子の結合の確率を高め、タンパク質をその長さが分子量と比例している桿状体(rod)へと変化させる。
【0051】
Triton(登録商標)X-100などの非変性型薬剤は、天然のコンフォメーションと結合しない上、協同的結合機構も有していない。これらの界面活性剤は、水溶性タンパク質中に貫入しない剛性が高くかつ嵩高い非極性部分を有する。それらはタンパク質の疎水性部分と結合する。Triton(登録商標)X-100およびその他のポリオキシエチレン系非陰イオン性界面活性剤は、タンパク質-タンパク質相互作用を遮断する効率が低く、タンパク質の人工的な凝集物を生じさせる可能性がある。しかし、これらの界面活性剤はタンパク質-脂質相互作用を遮断するものの、はるかに穏やかであり、タンパク質の天然の形態および機能的能力を維持させることができる。
【0052】
界面活性剤の除去は、さまざまな様式で試みることができる。透析は、単量体として存在する界面活性剤にはうまく作用する。透析は、容易に凝集してミセルを形成する界面活性剤に対しては幾分効果が低いが、これはそのようなミセルが透析で通過するには大きすぎるためである。イオン交換クロマトグラフィーを利用することで、この問題を回避することができる。破壊されたタンパク質溶液をイオン交換クロマトグラフィーのカラムにかけ、続いてカラムを界面活性剤を含まない緩衝液で洗浄する。界面活性剤は緩衝液と界面活性剤溶液との平衡によって除去されると考えられる。または、タンパク質溶液を密度勾配に対して通過させることもできる。タンパク質が勾配を経て沈降するに伴って、界面活性剤はその化学ポテンシャルのために分離して除かれると考えられる。
【0053】
単一の界面活性剤では、細胞内に存在するタンパク質の可溶化および環境分析を十分に行える程度には万能でないことがしばしばである。タンパク質を一方の界面活性剤中で可溶化し、続いてタンパク質分析のためにもう一つの適した界面活性剤中に移すことができる。最初の段階で形成されたタンパク質-界面活性剤ミセルは純粋な界面活性剤ミセルとは分離すべきである。これらを分析用の過剰な界面活性剤に対して添加すると、タンパク質は両方の活性剤とのミセル中に認められる。界面活性剤-タンパク質ミセルの分離は、イオン交換もしくはゲル濾過クロマトグラフィー、透析または浮遊密度型分離によって行うことができる。
【0054】
a)Triton(登録商標)X-界面活性剤:
この界面活性剤のファミリー(Triton(登録商標)X-100、X114およびNP-40)は同じ基本的特性を有するが、詳細な疎水性-親水性は異なる。これらの異質複合性界面活性剤は、芳香環に結合した分枝状8炭素鎖を有する。分子のこの部分は界面活性剤のほとんどの疎水性の原因となる。Triton(登録商標)X界面活性剤は膜タンパク質を非変性条件下で可溶化するために用いられる。タンパク質を可溶化するための界面活性剤の選択は、可溶化しようとするタンパク質の疎水性に依存すると考えられる。疎水性タンパク質を有効に可溶化するためには疎水性界面活性剤が必要である。
【0055】
Triton(登録商標)X-100およびNP-40は構造および疎水性の点で非常に類似しており、細胞溶解、脱脂タンパク質解離ならびに膜タンパク質および脂質の可溶化を含む大半の用途に互換性がある。一般に、1mg膜タンパク質を溶解するために界面活性剤2mg、または界面活性剤10 mg/脂質膜1mgが用いられる。Triton(登録商標)X-114は疎水性タンパク質を親水性タンパク質と分離するために有用である。
【0056】
b)Brij(登録商標)界面活性剤
これらは、さまざまな長さのポリオキシエチレン鎖が疎水性鎖と結合しているという点で、Triton(登録商標)X界面活性剤と構造的に類似している。しかし、Triton(登録商標)X界面活性剤とは異なり、Brij(登録商標)界面活性剤は芳香環を有しておらず、炭素鎖の長さはさまざまである。Brij(登録商標)界面活性剤を透析を用いて溶液から除去するのは困難であるが、界面活性剤除去ゲルによって除去することができる。Brij(登録商標)58はその疎水性/親水性特性の点でTriton(登録商標)X-100と最も類似している。Brij(登録商標)-35はHPLC用途における界面活性剤として一般的に用いられている。
【0057】
c)透析可能な非イオン性界面活性剤
r-オクチル-β-D-グルコシド(オクチルグルコピラノシド)およびη-オクチル-β-チオグルコシド(オクチルチオグルコピラノシド、OTG)は、溶液からの透析を容易に行える非変性非イオン性界面活性剤である。これらの界面活性剤は膜タンパク質を可溶化するために有用であり、280nmでのUV吸光度が低い。オクチルグルコシドはCMCが23〜25mMと高く、膜タンパク質を可溶化するために濃度1.1〜1.2%で用いられる。
【0058】
オクチルチオグルコシドは当初、オクチルグルコシドに代わる選択肢を得る目的で合成された。オクチルグルコシドは製造に費用がかかる上、β-グルコシダーゼによって加水分解される恐れがあるため、生体系においてはいくつか固有の問題がある。
【0059】
d)Tween(登録商標)界面活性剤:
Tween(登録商標)界面活性剤は非変性非イオン性界面活性剤である。これらは脂肪酸のポリオキシエチレンソルビタンエステルである。Tween(登録商標)20およびTween(登録商標)80界面活性剤は生化学的用途ではブロッキング剤として用いられており、通常、プラスチックまたはニトロセルロースなどの疎水性材料に対する非特異的結合を防ぐためにタンパク質溶液に対して添加される。これらは、ELISAおよびブロット法の用途においてブロッキング剤として用いられている。一般に、これらの界面活性剤は、疎水性材料に対する非特異的結合を防止するためには濃度0.01〜1.0%で用いられる。
【0060】
Tween(登録商標)20およびその他の非イオン性界面活性剤は、ニトロセルロースの表面からいくつかのタンパク質を除去することが示されている。Tween(登録商標)80は、プラスチック製マルチウェル組織培養プレートに対するタンパク質の非特異的結合物中に存在する膜タンパク質を可溶化するため、ならびにELISAにおいてポリスチレン製プレートに対する血清タンパク質およびビオチン化プロテインAの非特異的結合を低下させるために用いられている。
【0061】
これらの界面活性剤間の違いは脂肪酸鎖の長さにある。Tween(登録商標)80はC18鎖を有するオレイン酸に由来し、Tween(登録商標)20はC12鎖を有するラウリン酸に由来する。脂肪酸鎖がより長いため、Tween(登録商標)80界面活性剤はTween(登録商標)20界面活性剤よりも親水性が低い。いずれの界面活性剤も水溶性は非常に高い。
【0062】
Tween(登録商標)界面活性剤を透析によって溶液から除去することは困難であるが、Tween(登録商標)20は界面活性剤除去ゲルによって除去することができる。これらの界面活性剤に存在するポリオキシエチレン鎖のため、これらは酸化(過酸化物形成)を受けやすく、これはTriton(登録商標)XおよびBrij(登録商標)シリーズの界面活性剤についても同様である。
【0063】
e)両性イオン界面活性剤
両性イオン界面活性剤CHAPSはコール酸のスルホベタイン誘導体である。この両性イオン界面活性剤は、タンパク質活性が重要な場合の膜タンパク質の可溶化のために有用である。この界面活性剤は広範囲のpH(pH 2〜12)で有用であり、CMCが高い(8〜10mM)ために透析によって溶液から容易に除去される。この界面活性剤は280nmでの吸光度が低いため、この波長でのタンパク質のモニタリングが必要な場合には有用である。CHAPSはBCA Protein Assayとの適合性があり、界面活性剤除去ゲルによって溶液から除去することができる。タンパク質はCHAPSの存在下でヨウ化される可能性がある。
【0064】
CHAPSは内因性の膜タンパク質および受容体を可溶化し、タンパク質の機能的能力を維持するために首尾良く用いられている。シトクロムP450がTriton(登録商標)X-100またはコール酸ナトリウムのいずれかに可溶化されると凝集物が形成される。
【0065】
2. 界面活性剤を用いない方法
以上の界面活性剤法のほかに、界面活性剤を用いない種々の方法を本発明の溶解物の調製に用いることもできる:
【0066】
a)凍結融解
これは細胞を穏和かつ効果的な様式で溶解するために広く用いられている手法である。一般的には細胞を例えば、ドライアイス/エタノール浴中で完全に凍結するまで急速凍結し、続いて37℃浴に移して完全に融解させる。完全な細胞溶解が得られるまで、このサイクルを多数回繰り返す。
【0067】
b)超音波処理
高周波超音波振動は細胞破壊のために有用なことが明らかになっている。超音波が細胞を破壊する様式は完全には解明されていないが、懸濁液を超音波振動にかけると一過性の高圧が生じることが知られている。この手法の主な欠点は、かなりの量の熱が生成することにある。熱の影響を最小限に抑えるために、細胞懸濁液の保持のためには特別に設計されたガラス製容器が用いられる。このような設計により、懸濁液を超音波プローブから離れるように容器の外側へと循環させ、フラスコが氷中に懸下されているためにそこで冷却することが可能となる。
【0068】
c)高圧押出
これは、微生物細胞を破壊するためによく用いられている方法である。細胞を破壊して開いた状態にするためには、細胞フレンチプレス装置で10.4×10 Pa(16,000 p.s.i)の圧力を用いる。この装置はニードル弁によって外側に開口するステンレス製チャンバーからなる。ニードル弁を閉じた位置にして、チャンバーに細胞懸濁液を入れる。チャンバーを転置した後に、弁を開き、ピストンで押してチャンバー内の空気を強制的に排出する。弁を閉じた位置にしてチャンバーを元の位置に戻し、固体基部に乗せて、液圧プレスによってピストンに必要な圧力を加える。圧力が到達した時点でニードル弁をわずかに開いて圧力を少しずつ解放すると、それに伴って細胞は膨張して破裂する。圧力を維持している間は、破裂した細胞の流液を収集しうるように弁を開けたままにしておく。
【0069】
d)固体剪断法
研磨剤を用いる機械的剪断は、直径500μmのガラスビーズの存在下で懸濁液を激しく振動(300〜3000回/min)させるMickle振盪機を用いて実施することができる。この方法ではオルガネラの損傷が起こる恐れがある。より制御された方法は、ピストンがほとんどの細胞を研磨剤とともに、または細胞の冷凍ペーストとして、加圧チャンバー内の直径0.25mmのスロットから強制的に押し出すHughesプレス装置を用いることである。細菌調製物を溶解するために最大5.5×10 Pa(8000 p.s.i.)を用いることができる。
【0070】
e)液体剪断法
これらの方法には、高速に往復運動または回転する刃を用いるブレンダー、プランジャーおよびボールの上向き/下向き運動を用いるホモジナイザー、ならびに小口径管内の高速通過または2つの液体流の高速衝突を用いるマイクロフルイダイザーまたは衝突噴流装置(impinging jet)を利用する。ブレンダーの刃は効率的な混合が可能となるように種々の角度に傾斜している。ホモジナイザーは通常、局所的な発熱を最小限に抑えるために数秒間という短時間の高速バーストとして動作させる。これらの手法は微生物細胞には一般に適していないが、動物細胞を破壊するためには極めて穏和な液体剪断でも通常は十分である。
【0071】
f)低張/高張法
細胞を、溶質濃度が非常に低い(低張)または高い(高張)溶液に対して曝露させる。溶質濃度の違いのために浸透圧勾配が生じる。その結果生じる低張環境にある細胞内への水の流入が細胞を膨張させて破裂させる。高張環境にある細胞からの水の流出は細胞を収縮させ、その後に破裂させる。
【0072】
E. 電気穿孔装置
本発明のある種の態様は、細胞内に抗原が入ることを促すための電気穿孔法の使用を含む。本明細書で用いる場合、「電気穿孔法」とは、細胞内に抗原または抗原組成物が入ることを促すために電流または電場を印加することを指す。
【0073】
電気穿孔装置は、静止型および流動型という少なくとも2つのカテゴリーに分類することができる。静止型の電気穿孔装置は、既定容積の標的細胞と接した液体中の成形された電極を含む専用のキュベットを含む。目的の分子を2つの電極間に入れ、および高電圧のパルス刺激を加える。
【0074】
当業者は、電気穿孔法の任意の方法および技法(すなわち、静止型および/または流動型)を本発明では想定していることを理解すると考えられる。しかし、本発明のある種の態様においては、電気穿孔法を、米国公報第US20030073238A1号(その全開示内容は参照として本明細書に明確に組み入れられる)に記載されたようにして行ってもよい。本発明のまた別の態様においては、電気穿孔法を、発行済みの米国特許第5,612,207号(1997年3月18日発行;これは参照として本明細書に明確に組み入れられる)、発行済みの米国特許第5,720,921号(1998年2月24日発行;これは参照として本明細書に明確に組み入れられる)、発行済みの米国特許第6,074,605号(2000年6月13日発行;これは参照として本明細書に明確に組み入れられる);発行済みの米国特許第6,090,617号(2000年7月18日発行;これは参照として本明細書に明確に組み入れられる);および発行済みの米国特許第6,485,961号(2002年11月26日発行;これは参照として本明細書に明確に組み入れられる)に記載されたようにして行ってもよい。
【0075】
本発明は、粒子(特に生細胞を含む)の懸濁液の電気的処理のための流動型電気穿孔装置であって、1つまたは複数の流入口(inlet flow portal)、1つまたは複数の流出口(outlet flow portal)および1つまたは複数の流路を含む流動型電気穿孔用セル集合体(この際、流路は2つまたはそれ以上の壁から構成され、流路はさらに流入口からの懸濁液中の粒子の連続流を収容して一時的に含有するように設計されている);ならびに、各電極が流路の少なくとも1つの壁をなすように流路に対して配置された対になった電極(この際、電極はさらに、電極を電気エネルギー源との電気的接続下に配置し、それにより、流路を通過する粒子の懸濁液が電極間に形成された電場に曝されるようにすることを含む)を含む、流動型電気穿孔装置を用いることもできる。
【0076】
本発明の実施のために用いられる電気穿孔システムを、市販の細胞分離装置と組み合わせて用いうることは理解されているであろう。これらには、Haemonetics Cell Saveo(登録商標)5自己血回収システム、Haemonetics OrthoPAT(登録商標)System, Haemonetics MCS(登録商標)+ Apheresis System、Cobe Spectra Apheresis System、Trima(登録商標)Automated Blood Component Collection System、Gambro BCT SystemおよびBaxter Healthcare CS-3000 Plus血球分離装置が非制限的に含まれる。
【0077】
F. 電気穿孔法および抗原の取り込み
電気穿孔法により、生細胞への非透過性分子の導入が可能となる(Mir, 2000による総説を参照されたい)。分子は細胞膜の電気的に透過化した領域を通って拡散する。DNA電気穿孔法は当初、指数的に減弱するパルスを生成する単純な発生装置を用いて記載された(Mir, 2000)。方形波電気パルス発生装置がその後に開発され、それにより、一方ではさまざまな電気パラメーター(パルス強度、パルスの長さ、パルスの数)を指定することが可能になり(Rols and Teissie, 1990)、また一方では、細胞の大多数が同時に透過化されて生存した状態にある電気穿孔状態を得ることが可能になった(Mir et al., 1988)。パラメーターの選択は、電気穿孔を行おうとする細胞の種類、および細胞によって取り込ませようとする分子の物理的特性に依存する。以下の例には、APCによる癌細胞溶解物の取り込みを促すために特定の電気穿孔法の設定を用いるいくつかの態様が記載されている。
【0078】
本発明はまた、1つまたは複数の抗原を抗原提示細胞に負荷するための方法も想定している。任意のAPCを本発明では想定している。しかし、ある種の態様において、APCは樹状細胞である。全腫瘍溶解物中のTAA濃度は低いと推定されるため、インビトロで負荷を行おうとするAPCごとにかなり多くの量の腫瘍溶解物を用いる必要がある。典型的には、全腫瘍溶解物とDCとの比は1:1である(すなわち、全腫瘍溶解物を添加しようとする樹状細胞1個ごとの溶解物を作製するために腫瘍組織中の腫瘍細胞1個を用いる)(Chang et al., 2002)。場合によっては、この比は1:3であり、すなわち、所望の数のDCへの負荷を行うためにはより多くの全腫瘍溶解物を調製しなければならない。
【0079】
G. 細胞ワクチン
本発明のある種の態様においては、1つまたは複数の抗原が負荷されたAPCがワクチンを構成しうる。APCを培養物、組織、器官または生物体から単離し、対象に対して細胞ワクチンとして投与することができる。すなわち、本発明は「細胞ワクチン」を想定している。本明細書で用いる場合、「ワクチン」という用語は、対象に対して投与しうる形態にある、本発明の組成物(負荷されたAPC)を含む調合物のことを指す。一般に、ワクチンは、本発明の組成物が内部に懸濁化または溶解されている、従来の食塩液または緩衝水溶液媒体を含む。この形態で、本発明の組成物を、ある状態を予防、改善またはその他の様式で治療するために便利に用いることができる。対象または宿主に導入されると、ワクチンは、抗体、サイトカインおよび/またはその他の細胞応答の生成を非制限的に含む免疫応答を誘発することができる。当業者はまた、本発明のワクチンが細胞の全体または部分を含みうることも認識している。
【0080】
ある種の態様において、APCは、ワクチン接種を行おうとする対象から単離することができる。APCの単離には当業者に周知の技法を用いうる。続いて、例えば、APCに癌細胞溶解物を用いる電気穿孔処理を行い、エクスビボで成熟させた上で培養することができる。その後に、APCを対象に対して細胞ワクチンとして投与することができる。
【0081】
選択的には、本発明のワクチンはさらにアジュバントを含み、これは本発明の化合物に比して低い割合で存在することも高い割合で存在することも可能である。「アジュバント」という用語は、本明細書で用いる場合、免疫応答の非特異的な刺激物質のこと、または宿主の体内に貯蔵物を形成させ、それが本発明のワクチンと組み合わされた場合にさらに増強された免疫応答をもたらすような物質のことを指す。さまざまなアジュバントを用いることができる。その例には、不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムおよび修飾ムラミルジペプチドが含まれる。また、「アジュバント」という用語は、本明細書で用いる場合、本発明のワクチンと組み合わされた場合にさらに強化された、典型的には特異的な免疫応答をもたらすような、免疫応答の典型的には特異的な刺激物質のことも指す。その例には、GM-CSF、IL-2、IL-l2、IFNαが非制限的に含まれる。そのほかの例は当業者の知識の範囲内にある。
【0082】
細胞関連抗原または内因性抗原に対する、T細胞、特に細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を介した免疫を誘発する改良されたワクチンに対しては現在需要がある。これらのワクチンの標的には、微生物感染細胞(すなわち、ウイルス、細胞内細菌および寄生生物に感染した細胞)のほかに癌が含まれる。CTL媒介性免疫の開始には、抗原性ペプチドが、APC、特にDCの表面にある主要組織適合性(MHC)クラスI分子に伴って提示されることが必要である(Ridge et al., 1998)。DCを抗原と共培養すると抗原の食作用が媒介され、その結果、MHCクラスIIの提示が起こる。電気穿孔法は抗原をDCの細胞質中に直接輸送して、クラスI提示を引き起こすことができる。したがって、本発明は、T細胞媒介性免疫を誘発する改良されたワクチンを提供する。
【0083】
H. 免疫検出法
ある種の態様において、本発明は、APCの免疫応答の測定のための免疫検出法に関する。当業者は、利用可能なさまざまな免疫検出法に精通していると考えられる。免疫検出法の例には、いくつかを挙げると、固相酵素免疫アッセイ(ELISA)、ELISpot、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫放射定量アッセイ、蛍光イムノアッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイおよびウエスタンブロット法が含まれる。さまざまな有用な免疫検出法の工程は、例えば、Doolittle and Ben-Zeev, 1999;Gulbis and Galand, 1993;De Jager et al., 1993;およびNakamura et al., 1987(これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)などの科学文献に記載されている。
【0084】
抗原検出に関して、分析対象の生物試料は、抗原を含む疑いのある任意の試料、例えば、樹状細胞、ホモジナイズされた組織抽出物、またはさらには、細胞と接触した、血液および/または血清を含む任意の生物性液体であってよい。
【0085】
知られているもう一つの免疫検出法では、イムノ-PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の方法を利用する。このPCR法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションという点まではCantorの方法と類似しているが、ストレプトアビジンとビオチン化DNAとの多数回のインキュべーションの代わりに、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体を、抗体を遊離させる低pHまたは高塩濃度の緩衝液で洗い流す。その結果得られた洗浄液を、続いて、適したプライマーを適切な対照とともに用いるPCR反応を行うために用いる。少なくとも理論的には、PCRの無限の増幅能および特異性を利用して、単一の抗原分子を検出することができる。
【0086】
以上に詳述したように、イムノアッセイは、最も単純および/または直接的な意味では、結合アッセイである。ある種の好ましいイムノアッセイは、当技術分野で知られたさまざまなタイプの固相酵素免疫アッセイ(ELISA)および/またはラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を用いる免疫組織化学的検出も特に有用である。しかし、検出法がこのような手法および/またはウエスタンブロット法に限定されず、ドットブロット法、FACS分析および/または同様の手法も用いうることは容易に理解されると考えられる。
【0087】
I. 細胞培養
本発明のある種の態様においては、細胞培養をAPCの調製に利用することができる。真核細胞培養システムにおいて、細胞の培養物は一般に、制御されたpH、温度、湿度、オスモル濃度、イオン濃度およびガス交換の条件下にある。後者に関して言えば、酸素および二酸化炭素(二酸化炭素)が細胞の培養にとっては特に重要である。典型的な真核細胞培養システムでは、インキュベーターが用意され、その中に、インキュベーター内部を二酸化炭素約5%の空気に維持するために二酸化炭素が注入される。二酸化炭素は組織培養液、特にその緩衝系と相互作用し、pHを生理的レベル付近に維持する。従来の細胞培養容器には、組織培養フラスコ、組織培養瓶および組織培養プレートが含まれる。さらに、DCの培養のためには、細胞接着を防ぐためにテフロンコーティングされた滅菌バッグが用いられている。インキュベーター内の空気から組織培養プレートへの二酸化炭素の進入は一般に、粒状の汚染物質がプレートチャンバーに入ることを遮断しつつ、インキュベーター内の空気と組織培養プレート内の空気との間のガス交換が可能なように、プレートから張り出して緩く嵌合したカバーの使用を含む。同様に、組織培養用のフラスコまたは瓶に関しては、緩く嵌合した蓋により、粒状の汚染物質がフラスコまたは瓶に入ることを遮断しつつ、インキュベーター内の空気とフラスコまたは瓶の内部の空気との間のガス交換を可能にすることができる。さらに最近では、通気性のある膜またはフィルターを備えており、そのため蓋を密に嵌合させてもガス交換が可能となるような蓋が提供されている。
【0088】
細胞の培養は、二酸化炭素のほかに、細胞の呼吸および代謝機能のために必要な十分量の酸素を細胞に供給する能力にも依存する。従来の細胞培養容器における細胞の呼吸のための酸素の供給源は、容器の上部空間、例えば、組織培養液の表面の上方にある容器内のすき間にある。培養細胞に対する酸素濃度を高めるための取り組みには、機械的攪拌、培地の灌流または通気、酸素分圧を高めること、および/または大気圧を高めることが含まれる。このように、従来の細胞培養容器では、容器全体の容積または表面に対比して、ガス交換のために用意される容積または表面が、非効率的に用いられている、ならびに/またはガス交換またはガス平衡化の速度を限定している。このことは、細胞増殖の速度、細胞密度および総細胞数が空間、表面積およびガス交換の制約のために往々にして低い、小規模培養(15mlまたはそれ未満)ではさらに顕著である。
【0089】
当業者に知られた任意のAPC培養法を本発明に用いることができる。樹状細胞を培養するために用いられる技法のある種の例は、米国特許第5,851,756号、第5,994,126号、第6,274,378号、第6,051,432号、第6,017,527号、第6,080,409号、第6,004,807号(これらはそれぞれ参照として本明細書に明確に組み入れられる)に提示されている。
【0090】
J. 医薬製剤
1. 調合物
対象に対する投与用の、癌細胞抗原または微生物の抗原または微生物感染細胞の抗原が負荷されたAPCの医薬製剤を本発明では想定している。当業者は、APCなどの細胞を対象に投与するための技法に精通していると考えられる。以前に指摘したように、APCは、細胞培養下で増殖させた細胞であってよい。当業者は、対象に対する投与の前のこれらの細胞の調製のために必要な技法および医薬品用試薬に精通していると考えられる。
【0091】
本発明のある種の態様において、医薬製剤は、溶解物、例えば癌細胞溶解物、微生物溶解物または微生物感染細胞溶解物が負荷APCを含む水性組成物であると考えられる。また別のある種の態様において、溶解物は、対象から入手した細胞(すなわち、癌細胞)を用いて調製される。しかし、任意の源から得られた細胞を本発明では想定している。ある種の態様において、癌細胞は、その特定の患者に対して特定的な全体的な癌治療プロトコールの一部として対象に対して実施された以前の癌外科手術の結果として得られる。
【0092】
本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中にあるAPCの溶液の有効量を含む。本明細書で用いる場合、「医薬製剤」または「薬学的組成物」は、任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学活性のある物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野で周知である。従来の媒体または薬剤にAPCとの適合性がない場合を除き、治療用組成物におけるその使用が想定される。補足的な有効成分を組成物に組み入れることもできる。ヒトへの投与の場合、製剤は、FDA Office of Biologics standardsが要求しているような無菌性、発熱性、全般的安全性および純度を満たすべきである。
【0093】
生物材料は、適宜、望ましくない低分子量分子が除去されるような十分な透析、および/または所望の媒体中へのより即時的な調合のための凍結乾燥を受けるべきである。続いて通例は、APCを非経口的投与などの任意の既知の経路による投与用に調合する。投与する細胞の数の決定は当業者によって行われ、これは一部には、癌の範囲および重症度、ならびにAPCが既存の癌の治療もしくは癌の予防、および/または微生物に起因する疾患の治療もしくは予防のいずれのために投与されるかに依存すると考えられる。本明細書に開示する本発明のAPCを含む薬学的組成物の調製は、本開示に鑑みて当業者には周知であると考えられる。
【0094】
本発明の作用因子または物質は、適切なpHにある組成物として調合することができる。当業者は、細胞の生存を維持するための適切なpHおよび適切な試薬を有する溶液中にあるAPCの調製に関する技法を含め、APCの投与のための製剤に関する技法に精通していると考えられる。
【0095】
本発明は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腫瘍内注射または任意の他の経路による適用のための滅菌溶液である医薬製剤中にあると考えられる、溶解物(すなわち、腫瘍溶解物)が負荷APCを想定している。当業者は、注射または任意の他の経路による適用のための滅菌用液を作製するための技法に精通していると考えられる。
【0096】
調合された後、溶液は、剤形に適合した様式で、治療的に有効な量として投与されると考えられる。調合物は、上記の種類の注射液などのさまざまな剤形として投与することができる。非経口的投与のためには、APCを含む溶液を適切に緩衝化すべきである。これに関して、使用可能な滅菌水性媒体は、本開示に鑑みて当業者には周知であると考えられる。本明細書に開示した活性薬剤を、当業者によって決定される適切な数のAPCを含むように治療用混合物中に調合してもよい。APCを、他の免疫療法または化学療法といった対象の治療レジメンの一部である他の薬剤とともに投与することもできる。
【0097】
2. 投薬
本発明は、癌または微生物に起因する感染症などの任意の疾患の治療または予防のための、対象に対する、溶解物(すなわち、癌細胞溶解物、微生物溶解物または微生物感染細胞溶解物)が負荷APCの投与を想定している。ある種の態様において、癌細胞溶解物が負荷APCの有効量は、意図した目標、例えば腫瘍の縮退に基づいて決定される。例えば、既存の癌を治療しようとする場合には、投与する細胞の数は、APCの投与が癌の予防のためである場合よりも多い可能性がある。当業者は、本開示に鑑みて、投与する細胞の数および投与頻度を決定しうると考えられる。投与する量(投与の回数および投与量の両方に基づく)は、治療しようとする対象、対象の状態および所望する防御にも依存する。治療用組成物の厳密な量は医師の判断にも依存し、これは個体ごとに特有である。投与の頻度は、医師の判断に応じて、1〜2日、2〜6時間、6〜10時間から、1〜2週またはそれ以上までの範囲にわたりうる。
【0098】
目標が予防である場合には、用いる投与間隔をより長くし、細胞数をより少なくすることが考えられる。例えば、1回の投与当たりに投与される細胞の数は、活動性疾患の治療に投与される投与量の50%として、投与を週の間隔で行うことが考えられる。当業者は本開示に鑑みて、有効な細胞数および投与頻度を決定しうると考えられる。この決定は、一部には、存在する特定の臨床状況(例えば、疾患(すなわち、癌、感染症など)の種類、疾患(すなわち、癌、感染症など)の重症度)に依存すると考えられる。
【0099】
ある種の態様においては、患者に対して治療用APC組成物の連続的供給を行うことが望ましいと考えられる。目的の領域(腫瘍または感染部位)の連続的灌流が好ましい場合もある。灌流の期間は、臨床医により、特定の患者および状況に対して選択されると考えられるが、期間は、約1〜2時間から、2〜6時間、約6〜10時間、約10〜24時間、約1〜2日、約1〜2週またはそれ以上までの範囲にわたりうる。一般に、連続的灌流による治療用組成物の投与量は、単回注射または多回注射によって投与されるものに等しく、薬剤を投与する期間に対して調整されると考えられる。
【0100】
K. 併用療法
癌細胞抗原または微生物の抗原または微生物感染細胞の抗原が負荷されたAPC(本明細書では「負荷APC」とも称する)の有効性を高めるためには、これらの負荷APCを用いる治療を、癌および/または感染症の治療に有効な他の薬剤と組み合わせることが望ましい可能性がある。
【0101】
1. 癌
「抗癌」剤は、対象における癌に負の影響を及ぼすことができ、これは例えば、癌細胞を死滅させること、癌細胞におけるアポトーシスを誘導すること、癌細胞の増殖速度を低下させること、転移の発生率もしくは数を低下させること、腫瘍サイズを減少させること、腫瘍の成長を抑制すること、腫瘍もしくは癌細胞に対する血流を減少させること、癌細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を増強すること、癌の進行を予防もしくは抑制すること、または癌を有する対象の寿命を延長させることによる。より一般的には、これらの別の組成物を、細胞を死滅させる、またはその増殖を抑制するために有効な複合量として提供されると考えられる。この工程は、細胞を、負荷APC、および作用因子または多数の因子と同時に接触させることを含む。これは、細胞を、両方の作用因子を含む単一の組成物もしくは薬理作用のある調合物と接触させること、または細胞を、一方の組成物が負荷APCを含み、もう一方が第2の作用因子を含む、2種類の異なる組成物または調合物と同時に接触させることを含みうる。
【0102】
化学療法薬および放射線療法薬に対する腫瘍細胞の耐性は、臨床腫瘍学における大きな問題となっている。現在の癌研究の一つの目標は、化学療法および放射線療法の有効性を、それを免疫療法と併用することによって向上させるための手法を見いだすことにある。本発明の文脈においては、APC療法を同様に、化学療法的、放射線療法的またはその他の免疫療法的な介入と併せて用いうることを想定している。
【0103】
または、APCを用いる免疫療法を、数分から数週間の範囲にわたる間隔をおいて、他の作用因子による治療の前または後に行うこともできる。他の作用因子および負荷APCを腫瘍細胞または対象に対して別個に適用する態様においては、作用因子および負荷APCが腫瘍細胞に対して有利な併用効果を依然として発揮しうるように、各々の送達時点の間に有効な期間が過ぎないように徹底されると考えられる。このような場合には、腫瘍細胞を両方の治療手段と互いに約12〜24h以内に接近させ、より好ましくは違いに約6〜12h以内に接近させることが想定される。しかし、状況によっては、各投与の間に数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週)の間隔をおき、治療のための期間を大きく延長することが望ましいこともある。
【0104】
APC療法を「A」とし、二次的な作用因子、例えば放射線療法または化学療法を「B」として、さまざまな組み合わせを用いることができる:

【0105】
患者に対する本発明の負荷APCの投与は、細胞の毒性(あれば)を考慮に入れた上で、化学療法薬の投与のための一般的なプロトコールに従って行われると考えられる。治療サイクルを必要に応じて繰り返すことが予想される。また、さまざまな標準的療法ならびに外科的介入を、記載した過剰増殖細胞療法と組み合わせて適用することも想定される。
【0106】
a)化学療法
癌療法はまた、化学物質または放射線に基づく治療法の双方とのさまざまな併用療法も含みうる。当業者は、利用可能な化学療法薬の併用療法の範囲に精通していると考えられる。化学療法薬には例えば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロランブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルピシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合薬、タキソール、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシルプロテイントランスフェラーゼ阻害薬、トランスプラチナ(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびメトトレキサート、または前述物の任意の類似体または誘導体バリアントが含まれる。
【0107】
b)放射線療法
DNA損傷を引き起こし、幅広く用いられている他の因子には、γ線、X線、および/または腫瘍細胞に対する放射性同位体の直接送達として一般的に知られているものが含まれる。マイクロウェーブおよびUV照射といったその他の形態のDNA損傷性因子も想定している。これらの因子はすべて、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の構築および維持に対して広範囲の損傷を引き起こす可能性が高い。X線に関する線量の範囲は、1日量50〜200レントゲンを長期間(3〜4wk)から単回線量2000〜6000レントゲンまでの範囲にわたる。放射性同位体に関する線量の範囲は非常に幅広く、同位体の半減期、放出される放射線の強度および種類、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0108】
「接触される」および「曝露される」という用語は、細胞に対して適用される場合、治療用構築物および化学療法薬もしくは放射線療法薬が標的細胞に対して送達される、または標的細胞に直接並列して配置される、その工程を記載するために本明細書では用いられる。細胞の死滅または静止を実現するためには、いずれの薬剤も細胞を死滅させる、またはその分裂を阻止するために有効な複合量として細胞に送達される。
【0109】
c)免疫療法
本発明のAPCを、他の形態の免疫療法と組み合わせて投与してもよい。免疫治療薬は一般に、免疫エフェクター細胞、および癌細胞を標的として破壊する分子の使用に依拠している。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面にあるある種のマーカーに対して特異的な抗体であってよい。抗体単独でも治療法のエフェクターとしての役割を果たす場合があり、またはそれが他の細胞を動員して実際にはそれに細胞死滅を行わせる場合もある。また、抗体を薬物または毒素(化学療法、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)と結合させ、単にターゲティング薬剤として利用することもできる。または、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球であってもよい。種々のエフェクター細胞には細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0110】
d)遺伝子
二次的な治療が遺伝子治療であってもよい。例えば、遺伝子治療薬は、完全長または短縮型の腫瘍細胞抗原をコードするベクターでありうる。
【0111】
e)外科手術
癌を有する人の約60%は何らかの種類の外科手術を受けると考えられ、これには予防的、診断的または病期判定用、治癒的および姑息的な外科手術が含まれる。治癒的外科手術は、本発明の治療法、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法といった他の治療法と併せて用いうる癌治療法である。
【0112】
治癒的外科手術には、癌組織の全体または一部が物理的に除去、摘出および/または破壊される切除術が含まれる。腫瘍切除術とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去のことを指す。以前に指摘したように、切除された腫瘍は、癌患者の治療に用いられるAPCへの負荷のために用いられる癌細胞溶解物の作製に用いることができる。腫瘍切除術のほかに、外科手術による治療法には、レーザー外科手術、冷凍外科手術、電気外科手術および顕微鏡制御外科手術(モース外科手術)が含まれる。さらに、s本発明を表在癌、前癌または偶発的な量の正常組織の除去と併用することも想定している。
【0113】
癌性の細胞、組織または腫瘍の全体または一部を摘出すると、体内に空洞が形成される可能性がある。治療を、補足的な抗癌療法による部位への灌流、直接注射または局所適用によって行うこともできる。このような治療を、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日毎、または1、2、3、4および5週毎、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12カ月毎に繰り返してもよい。これらの治療はまた、投与量を変更したものでもよい。
【0114】
f)その他の作用因子
治療法の治療効果を向上させるために、その他の作用因子を本発明と併用することも想定している。これらの補足的な作用因子には、その他の免疫調節因子、細胞表面受容体およびギャップ結合のアップレギュレーションに影響を及ぼす作用因子、細胞分裂抑制因子および分化因子、細胞接着の阻害因子、またはアポトーシス誘導因子に対する過剰増殖細胞の感受性を高める作用因子が含まれる。免疫調節因子には、腫瘍壊死因子;インターフェロンα、βおよびγ;IL-2およびその他のサイトカイン;F42Kおよびその他のサイトカイン類似体;またはMIP-1α、MIIP-1β、MCP-1、RANTESおよびその他のケモカインが含まれる。さらに、細胞表面受容体またはそれらのリガンド、例えばFas/Fasリガンド、DR4またはDR5/TRAILのアップレギュレーションが、過剰増殖細胞に対するオートクリン作用またはパラクリン作用を成立させることにより、本発明のアポトーシス誘導能力を増強すると考えられることも想定している。GAP結合の数を増加させることによって細胞間シグナル伝達を高めることは、近傍の過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を向上させると考えられる。また別の態様において、細胞分裂抑制因子または分化因子を、治療の抗過剰増殖効果を向上させるために、本発明と併用することができる。インテグリンおよびカドヘリンの阻止抗体といった細胞接着の阻害因子は、本発明の有効性を向上させると想定される。細胞接着阻害因子の例には、フォーカルアドヒージョンキナーゼ(FAK)阻害薬およびロバスタチンが含まれる。さらに、アポトーシスに対する過剰増殖細胞の感受性を高める他の作用因子、例えば抗体c225を、治療効果を向上させるために本発明と併用することもできると想定している。
【0115】
ホルモン療法を本発明と併せて用いること、または前記の任意のその他の癌療法と併用することもできる。ホルモンの使用は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌または子宮頸癌などのある種の癌の治療において、テストステロンまたはエストロゲンといったある種のホルモンのレベルを低下させるため、またはその影響を遮断するために行うことができる。この治療はしばしば、治療選択肢の一つとして、または転移のリスクを低下させるために、少なくとも1つの他の癌療法と併用される。
【0116】
2. 抗微生物薬
ある種の態様において、ワクチンの有効性を向上させるために、「抗微生物薬」を、微生物が負荷されたAPCと併用することができる。抗菌薬には、抗生物質、抗真菌薬および抗ウイルス薬が含まれうる。
【0117】
抗生物質は、宿主に損傷を及ぼすことなく、微生物の増殖を阻害する。例えば、抗生物質は、細胞壁合成、タンパク質合成、核酸合成を阻害する、または細胞膜の機能を改変する。APCと併用しうると考えられる抗生物質のクラスには、以下のものが非制限的に含まれる:マクロライド系薬剤(すなわち、エリスロマイシン)、ペニシリン系薬剤(すなわち、ナフシリン)、セファロスポリン系薬剤 (すなわち、セファゾリン)、カルバペネム系薬剤(すなわち、イミペネム、アズトレオナム)、その他のβラクタム系抗生物質、βラクタム阻害薬(すなわち、スルバクタム)、オキサリン系薬剤(すなわち、リネゾリド)、アミノ配糖体(すなわち、ゲンタマイシン)、クロラムフェニコール、スルホンアミド系薬剤(すなわち、スルファメトキサゾール)、糖ペプチド(すなわち、バンコマイシン)、キノロン系薬剤(すなわち、シプロフロキサシン)、テトラサイクリン系薬剤(すなわち、ミノサイクリン)、フシジン酸、トリメトプリム、メトロニダゾール、クリンダマイシン、ムピロシン、リファマイシン系薬剤(すなわち、リファンピン)、ストレプトグラミン系薬剤(すなわち、キヌプリスチンおよびダルホプリスチン)リポタンパク質(すなわち、ダプトマイシン)、ポリエン系薬剤(すなわち、アンホテリシンB)、アゾール系薬剤(すなわち、フルコナゾール)およびエキノカンジン系薬剤(すなわち、酢酸カプソファンジン(capsofungin acetate))。
【0118】
また、ウイルス感染症またはウイルス性疾患を治療および/または予防するために、抗ウイルス薬を負荷APCと併用することもできる。このような抗ウイルス薬には、以下のものが非制限的に含まれる:プロテアーゼ阻害薬(例えば、サキナビル、リトナビル、アンプレナビル)、逆転写酵素阻害薬(例えば、アジドチミジン(AZT)、ラミオリジン(3TC)、ジデオキシイノシン(ddl)、ジデオキシシチジン(ddC)、ジドプジン)、ヌクレオシド類似体(例えば、アシクロビル、ペンシクロビル)。
【0119】
ある種の態様においては、真菌感染症を治療および/または予防するために、抗真菌薬を負荷APCと併用することができる。このような抗真菌薬には、以下のものが含まれる:アンホテリシンB(Amphocin(登録商標)、Fungizone(登録商標))、ブトコナゾール(Femstat(登録商標))、クロトリマゾール(Mycelex(登録商標)、Gyne-Lotrimin(登録商標)、Lotrimin(登録商標)、Lotrisone(登録商標))、フルコナゾール(Diflucan(登録商標))、フルシトシン(Ancobon(登録商標))、グリセオフルビン(Fulvicin P/G(登録商標)、Grifulvin V(登録商標)、Gris-PEG(登録商標)(登録商標))、イトラコナゾール(Sporanox(登録商標))、ケトコナゾール(Nizoral(登録商標))、ミコナゾール(Femizol-M(登録商標)、Monistat(登録商標))、ニスタチン(Mycostatin(登録商標))、テルビナフィン(Lamisil(登録商標))、テルコナゾール(Terazol(登録商標))またはチオコナゾール(Vagistat(登録商標))。
【0120】
L. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含められる。以下の実施例において開示される技術が、本発明の実施において十分に機能することが発明者らによって見いだされた技術を代表し、そのため、その実施のための好ましい様式を構成するとみなしうることが当業者には理解されるはずである。しかし、当業者は、本発明の開示に鑑みて、開示された特定の態様にさまざまな変化を加えることができ、それでもなお本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を入手しうることも理解するはずである。
【0121】
実施例1
マウスDCの単離
マウス骨髄由来のDCを、8〜12日齢のBalb/Cマウスから単離した。マウスの脛節および大腿骨を取り出して清浄化した。骨髄細胞は骨を組織培養液で洗い流すことによって収集した。細胞を遠心処理によってペレット化し、赤血球可溶化バッファー(ACK, Sigma)中に再懸濁させた。細胞をPBSで2回洗浄した後に、L-グルタミン、ペニシリンおよびストレプトマイシン、ヒト血清アルブミン0.2%、マウスGMCSF 30ng/mlおよびマウスIL-4 10ng/mlを加えたAIM-V培地中にて5×10個/mlをプレーティングした。3日間の培養後に、GM-CSFおよびIL-4を、最終濃度がそれぞれ25ng/mlおよび10ng/mlとなるように培養物に添加した。さらに3日間培養した後に(第6日)、培地を、前に用いた他の添加物質とともにGM-C SFおよびIL-4をそれぞれ25ng/mlおよび10ng/ml含む新たな培地に交換した。さらに2〜4日後に、懸濁液中にある細胞およびすべての付着細胞(後者はトリプシン処理によって収集した)をプールして計数した。プールした細胞を、蛍光活性化細胞分取法(FACS)により、以下のマーカーの存在に関して分析した:CD3、CD14、MHCクラスII マーカー、CD80、CD86およびCD11c。これらのマーカーを発現する細胞の比率に基づくと、プールした細胞の約85%がDCであった(細胞は後で用いるために標準的な極低温凍結法によって凍結することができる)。
【0122】
実施例2
ヒトDCの単離
ヒト単球由来のDCは、ヒト末梢血から標準的な手順を用いる遠心処理によって単離した。単離したマクロファージ(約5×10個)を洗浄し、組織培養用に用いられる標準的な濃度のL-グルタミン、ペニシリンおよびストレプトマイシン、ヒト血清アルブミン0.2%、自己血漿2.0%、30ng/mlヒトGMCSFおよび10ng/mlヒトIL-4を加えた(後者の2つの増殖因子はR & D Systemsによる)AIM-V培地(Invitrogen)中にて5×10個/mlをプレーティングした。表面積当たりの細胞の平均数は10個/185cmであった。
【0123】
3日間の培養後に、GM-CSFおよびIL-4を、最終濃度がそれぞれ25ng/mlおよび10ng/mlとなるように培養物に添加した。さらに3日間培養した後に(第6日)、培地を、他の添加物質とともにGM-C SFおよびIL-4をそれぞれ25ng/mlおよび10ng/ml含む新たな培地に交換した。さらに2〜4日後に、懸濁液中にある細胞およびすべての付着細胞(後者はトリプシン処理によって収集した)をプールして計数した。プールした細胞を、蛍光活性化細胞分取法(FACS)により、以下のマーカーの存在に関して分析した:CD3、CD14、MHCクラスII マーカー、CD80、CD86およびCD1a。これらのマーカーを発現する細胞の比率に基づくと、プールした細胞の約85%がDCであった。この時点で極低温保存により細胞を凍結した。使用のためには、細胞を37℃水浴を用いて急速融解させて、AIM-V培地中に収集した。細胞を1000×gで10mim遠心し、計数した上でEPバッファー(EPバッファー:125mM KCl、15mM NaCl、25mM HEPES、1.2mM MgCl、3mMグルコース)中に5×10個/mlとした。電気穿孔法によって全細胞溶解物を負荷するため、または電気穿孔処理は行うが全細胞溶解物の負荷は行わない対照試料として用いるためのプールDCを、EPバッファー中に濃度5×10個/mlで再懸濁させた。
【0124】
実施例3
RENCA、B16-F10、LLCまたはA375腫瘍細胞からの溶解物の調製
マウス腎癌細胞株(RENCA)、黒色腫(B16-F10)、ルイス肺癌(LLC)またはA375ヒト黒色腫細胞をインビトロで培養し、増殖させてトリプシン処理により収集し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した上で、100×10個の細胞を最終容積1ml中に100×10個/mlとして再懸濁させた。続いて細胞を、ドライアイス/アルコール浴および37℃水浴を用いる急速凍結および融解を5サイクル行うことによる凍結/融解によって溶解させた。また、これらの腫瘍細胞1×10個をマウスに注射し、1〜2週おいて腫瘍を皮下で成長させた後に得られた腫瘍塊を摘出し、上記と同じ凍結/融解サイクルを行うことにより、腫瘍溶解物も調製した。凍結融解処理の後に、溶解物を室温にて13,000×gで10min遠心し、上清を1.5mlプラスチック遠心管(Eppendorf)に移した。上清を採取し、後に用いるために-80℃で凍結した。出発時の細胞および回収した溶解物の最終容積から、1ml当たりの細胞当量材料の濃度を計算した。この計算には、凍結/融解工程の後に遠心処理によってペレット化された細胞材料の除去を計上するための補正は行わなかった。
【0125】
実施例4
抗原負荷のためのDCの調製
電気穿孔法によって全細胞溶解物を負荷するため、または電気穿孔処理は行うが全細胞溶解物の負荷は行わない対照試料として用いるためのプールDCを、総容積を200μlとして、EPバッファー中に濃度5×10個/mlで再懸濁させた。腫瘍細胞溶解物を、EPバッファー中に懸濁化した上記のDCとともに混合物に添加し、DC 10個当たりの腫瘍細胞溶解物が1細胞当量となるようにした。
【0126】
実施例5
A375ヒト黒色腫溶解物を用いるヒトDCの細胞負荷の方法
EPバッファー中にある細胞に対して、上記の方法に従ってA375ヒト黒色腫細胞から調製した全腫瘍溶解物を、腫瘍細胞溶解物の1細胞当量当たりDC 10個の比で添加し、後のケースでは腫瘍細胞溶解物1細胞当量当たりDC 1個の比とした。DCおよび腫瘍細胞溶解物に対する電気穿孔処理は、3mm間隔で配置された金コーティング電極を有するキュベット内で、それぞれ電圧600ボルトおよび期間400マイクロ秒の各パルスを1sec間隔で4回与えることによって行った。電気穿孔処理の後に、細胞を37℃で20分間インキュベートした。腫瘍細胞溶解物を添加していないDCの懸濁液に対する電気穿孔処理も上記の条件下で行った。電気穿孔処理したDCを、5ng/ml TNFα、1μg/ml PGEおよび1ng/ml IL-1βとともにプレーティングして一晩(24hr)おき、DCを成熟させた。翌日にDCを収集し、再び計数した上でAIM-V培地中で1回洗浄した。
【0127】
DCを単離したのと同じドナーから末梢血リンパ球(PBL)を単離し、2%自己血漿を加えたAIM-V培地中で培養した。T細胞を収集して計数した。上記のPBLを、20 U/ml IL-2および10ng/ml IL-7を含むAIM-V中に濃度5×10個/mlで再懸濁させた。標準的な96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに対して、全腫瘍溶解物による電気穿孔もしくは共培養を行った、または全腫瘍溶解物を添加せずに電気穿孔を行ったDC 100μlを1ウェル当たり5×10個として添加した。DCを含む各ウェルに対して、上記のように調製したPBLの懸濁液100μlを1ウェル当たり5×10個として添加した。PBLのみを添加した別のウェルに対しては、DCのみを添加するか、または10μg/ml PHA(フィトヘマグルチニン)で刺激したPBLを調製し、対照として用いた。
【0128】
上記の手順に用いなかったDCは極低温下で凍結した。DCおよびPBLの上記の混合物(または対照の場合には、ウェルに添加した単一種類の細胞)を、標準的な細胞培養条件下で7日間インキュベートした。7日後に上記の凍結DCを融解し、再び計数した。これらの細胞を、IL-2およびIL-7を含むAIM-V培地中に5×10個/mlとして移した。これらの融解DCを100μlずつ、以前にDCを入れていた各ウェルに添加した。細胞をさらに2日間インキュベートした。続いて細胞を2400×gで5分間遠心し、上清を収集した。ペレットは10ng/ml IL-2を含む200μlのAIM中に再懸濁させた。
【0129】
実施例6
インビトロのELISPOTアッセイを用いた、抗原負荷後の電気穿孔細胞の測定
再懸濁させた細胞を、抗IFNγ抗体を製造元の指示に従ってコーティングしたフィルターを含むELISPOTプレート内に移し、37℃で一晩インキュベートした。ELISPOTアッセイの残りの工程を製造元の指示による標準的な手順に従って行い、アッセイによって得られたスポットの検出および計数を解剖顕微鏡を用いて行った。
【0130】
以上による結果は、腫瘍溶解物の存在下での電気穿孔法によるDCの刺激が、ELISPOTおよびBLISAアッセイによって示されるように、電気穿孔法を用いない腫瘍溶解物とDCとの共インキュベーションよりもT細胞の高度の賦活をもたらすことを示している。
【0131】
実施例7
DCへのFITC-アルブミンおよびFITC-デキストランの負荷
DCに対してフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合アルブミン(MW約68kD)およびFITC標識デキストラン(MW 250kD)を負荷し、さまざまなインキュベーション期間に関して共培養と電気穿孔法とを比較することができる。DC(CD1aおよびクラスII MHCの発現によって確かめた)を電気穿孔用バッファー中にて約2×10個/mlの細胞濃度として1mg/ml FITC-デキストランとともにインキュベートした。細胞を37℃でインキュベートするか、または電気穿孔処理を行った(15μl/EP)。EP後に細胞を37℃で回収した。さまざまな期間(30min、1hr、2hr)をおいた後に、細胞を温PBSで3回洗浄し、その後に完全培地中でインキュベートした。最終時点の後に細胞を収集し、FITC-デキストランの取り込みおよび細胞生存度に関してフローサイトメトリーにより分析した。細胞生存度は、評価したすべての時点でEPによる影響を受けなかった(図1)。EPを行わない場合(「EP非実施」)は取り込みは観察されなかったが、EPを行った場合(「EP後」)は55〜60%の取り込みが観察された。
【0132】
FITC-アルブミンを用いる実験は、0.5 mg/ml FITC-アルブミンを用い、4時間の時点を含めた点を除き、FITCデキストランを用いる実験と同様に行った。細胞生存度は電気穿孔法による有意な影響を受けなかった(図2)。電気穿孔細胞の場合、FITC-アルブミンの取り込みは1hrまでに80%のプラトーに達した(図2)。共培養した細胞では同程度の取り込みとなるのに4時間近くを要した。
【0133】
実施例8
腫瘍細胞溶解物が負荷されたヒトDCはT細胞応答を誘発した
ヒト単球由来のDCを上記の通りに単離した。DCをサイトカイン(ヒトGMCSF、ヒトIL-4)で7日間処理し、DCマーカーの存在(MHC、CD1a、CD80/CD86)ならびに他のマーカー(CD3、CD14)の発現の欠如に基づくFACSを行った。A375黒色腫の腫瘍溶解物を上記の手法を用いて調製し、使用時まで凍結保存した。続いて、DC:腫瘍細胞当量として10:1および1:1を用いて、DCをEPバッファー中で腫瘍溶解物と共培養した。続いて細胞に対して電気穿孔処理を行うか、または共インキュベーションのために37℃で単にインキュベートした。
【0134】
30min後にすべての細胞を遠心処理し、PBSで洗浄した。続いてDCをTNFα、IL-1およびPGEを含む培地とともにプレーティングし、DCを成熟させた。24時間のインキュベーション後に、DC、およびT細胞を含む自己PBLを収集し、さまざまな比でIL-2およびIL-7とともに96ウェル内で共培養した。DCの一部は後の再刺激のために凍結した。用いるDCとT細胞の比は1:100とした。1週間後にT細胞を、IL-2の存在下で以前に凍結しておいた抗原負荷DCを添加することによって再刺激した。合計2週間後に、上清をELISAによるTFNγ産生の評価のために収集し、T細胞をELISPOTアッセイプレートに移した。DCはIFNγを産生しなかった。実験対照としては、T細胞のみ、陽性対照としてホルボールエステルで刺激したT細胞、およびDCのみを含めた。その他の対照には、T細胞と、腫瘍溶解物と混合していないDCとを共インキュベートすることが含まれる。図3における結果は、電気穿孔法を介して全腫瘍細胞溶解物が負荷されたDCが、共培養の場合よりも強いT細胞応答を誘発したことを示している。図4は、全腫瘍溶解物が負荷されたDCが共培養の場合よりも強い自己T細胞応答を誘発したことを示している。
【0135】
実施例9
抗原負荷マウスDCを用いたマウスの免疫療法
マウス骨髄DCの単離は前記の通りに行った。単離したDCに対して、マウス腎癌(RENCA)腫瘍溶解物を前記の通りに負荷した。電気穿孔後に細胞を37℃で20分間インキュベートした。これに並行して、DCと腫瘍溶解物との混合物を電気穿孔法の場合と同じように調製し、ただし電気穿孔処理の代わりに37℃で30分間共培養した。各混合物のDCを、マウスGM-CSF 50ng/ml、マウスTNFα 50ng/ml、PGE(1μg/ml)およびhIL-lβ(1ng/ml)(ヒトIL-1はマウスと交差反応する)を加えたAIM-V培地2ml中に移してプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日に上記のDCをトリプシン処理によって収集し、計数した上でPBSにより1回洗浄し、PBS中に濃度1×10個/mlとして再懸濁させた。上記の細胞のこの細胞懸濁液の100μlずつ(1×10個)をBalb/Cマウスの背部左側に皮下注射した。
【0136】
合計20匹のマウスに注射し、そのうち5匹にはDCを全く投与せず、5匹には腫瘍細胞溶解物の非存在下で電気穿孔処理を行ったDCを投与し、5匹には共培養は行ったが腫瘍細胞溶解物の電気穿孔処理は行っていないDCを投与し、5匹には腫瘍細胞溶解物の存在下で電気穿孔処理を行ったDCを投与した。12日後にこの20匹のマウスすべてに対して、培養下で増殖させたRENCA細胞1×10個を背部右側に注射した(1回の注射当たりの総容積は100μl)。RENCA細胞の注射10日後から始めて、腫瘍の週2回ずつの測定を、RENCA細胞の注射部位またはその付近で機械的キャリパーを用いて腫瘍の直交軸を測定すること(面積またはmmが得られる)によって行った。各腫瘍の腫瘍体積は以下の標準的な式を用いて算出した:体積=π×長さ×幅/6(Heller et al., 2002)。
【0137】
10日後の時点で、電気穿孔法によって腫瘍溶解物が負荷されたDCを投与したマウスにおける腫瘍の平均サイズは、共インキュベーションによって腫瘍細胞溶解物が負荷されたDCを投与したマウス、または腫瘍細胞溶解物が負荷されていないDCを投与したマウス、またはDCを投与していないマウスにおける腫瘍と比較して、50%未満であった。これらの試験により、電気穿孔法によるDCの負荷は、このような電気穿孔法による負荷を受けたDCが増殖中の腫瘍細胞に対する免疫応答を増強させる能力の強化によって示されているように、共インキュベーションによる負荷よりも有効であることが示された。この腫瘍面積(または体積)の減少は、単に第10日だけでなく、他の日にも同様に継続してみられた(図5)。
【0138】
実施例10
脾細胞の単離およびDCによる刺激
DCを、C57BL6雄性マウスから前記の通りに単離した。単離したDCに対するマウス黒色腫(B16-F10)溶解物による電気穿孔処理を、腫瘍細胞:DCの比を1:10として前記の通りに行った。対照として、C57マウスのDCに対して、非関連または対照(例えば、肝)溶解物を負荷した。電気穿孔後に細胞を37℃で20分間インキュベートした。これに並行して、DCと黒色腫溶解物との混合物を電気穿孔法の場合と同じように調製し、ただし電気穿孔処理の代わりに37℃で30分間共培養した。各混合物のDCを、マウスGM-CSF 25ng/mL、マウスTNFα 25ng/mL、マウスインターフェロンγ 25ng/ml、リポ多糖(LPS)5μg/mlおよびPGE(1μg/ml)を加えたX-VIVO 15培地2ml中に移した。細胞を低付着性プレートにプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日にDCを収集し、計数してPBSにより1回洗浄し、X-VIVO 15培地中に濃度2×10個/mlとして再懸濁させた。上記の細胞のこの細胞懸濁液500μL(1×10個)を24ウェルの低接着性組織培養ウェルにプレーティングした。余ったDCは2×10〜4×10個/凍結バイアルで再刺激用に凍結保存した。
【0139】
脾細胞は正常C57BL6マウスの摘出脾臓から単離した。摘出した脾臓をPBSで1回洗浄した。続いて脾臓を、滅菌乳棒を用いて金属メッシュフィルターに強制的に通した。このメッシュフィルターをPBSで2回洗浄した。細胞懸濁液を収集し、200×gで10分間遠心した上でACK赤血球溶解液10mL中に再懸濁させ、200×gでさらに10分間遠心した。細胞をPBSで1回洗浄し、10%FBSを加えたRPMI培地中に再懸濁させてプレーティングし、37℃で2hrおいた。2hrの培養後に、浮遊細胞を収集して計数した;付着細胞は廃棄した。脾細胞(浮遊細胞)をX-VIVO 15(Cambrex)培地中に濃度2×10個/mlとして再懸濁させた。この脾細胞溶液500μl(10×10個)を、上記のDC(B16黒色腫細胞溶解物による電気穿孔処理もしくは共培養を行ったDC、または溶解物の非存在下で電気穿孔処理を行ったDC)を含む24ウェルのそれぞれに添加した。最終的な細胞比はDC:脾細胞1:10とした。マウスIL-2、マウスIL-7およびマウスGM-CSFを各ウェルに対して最終濃度25ng/mlとして添加した。
【0140】
7日毎に、溶解物が負荷されたDCのバイアル1本ずつを37℃で急速融解し、X-VIVO培地中に再懸濁させた。DCを計数し、DCが2×10個/mlとなるように再懸濁させた。各DC試料の500μL(DC 1×10個)を、DCおよび脾細胞を含む24ウェルに添加した。マウスIL-2、マウスIL-7およびマウスGM-CSF(それぞれ25ng/ml)を各々の再刺激時に添加した。DCおよび脾細胞の最初の共培養後に合計3回の再刺激を7日毎に行った。
【0141】
3回目の再刺激から7日後に、標準的な24ウェル培養皿の各ウェルから脾細胞を収集し、PBSで洗浄した上で計数した。フローサイトメトリー分析により、細胞の95%超がCD3陽性T細胞であることが示された。脾細胞を、10%FBSを加えたRPMI培地中にさまざまな細胞濃度で再懸濁させた。
【0142】
実施例11
全腫瘍溶解物による電気穿孔処理を行ったDCはインビトロで細胞傷害性リンパ球を誘導し、腫瘍特異的死滅を誘発する
腫瘍細胞を標識した。B16-F10黒色腫細胞をトリプシン処理によって収集し、PBSで1回洗浄した上で、5%PBSを加えたRPMI培地中に最終細胞濃度1×10個/mlとして再懸濁させた。B16-F10黒色腫細胞100μl(1×10個)を新たな1.5mlプラスチック微量遠心管(Eppendorf)に移した。これらの細胞に対して、原液濃度1mキュリー/mlのクロム-51(51Cr)水溶液100mlを添加した(最終濃度は100マイクロキュリー)。細胞を51Crにより37℃で1hr標識した。続いて、この51Cr標識細胞を完全培地で5回洗浄し、10%FBSを加えたRPMI培地中に最終細胞濃度1×10個/mlとして再懸濁させた。
【0143】
特異的な細胞媒介性死滅を誘導するためには、標識した腫瘍細胞10,000個(1×10個の51Cr標識B16細胞、100μL)を、標準的なU底96ウェルプレートの各ウェルにプレーティングした。上記の脾細胞を標識腫瘍細胞と以下の比で共培養した:腫瘍細胞:脾細胞(1×10個)が1:10;腫瘍細胞:脾細胞(5×10個)1:50;または腫瘍細胞:脾細胞(1×10個)が1:100。上記のように共培養した細胞を37℃で4hrインキュベートした。このインキュベーションの後に、96ウェルプレートを200×gで短時間遠心し、各試料からの上清100μlを、シンチレーション液2mlを含むシンチレーションバイアルに添加した。標識した腫瘍細胞のみを含む(脾細胞を含まない)ウェルの上清を分析することにより、自然遊離を判定した。標識腫瘍細胞からの51Cr遊離の最大値は、標識腫瘍細胞のみを含む別のウェルに2% Triton X-100界面活性剤100μLを添加することによって判定した。各試料の読み取りを、シンチレーションカウンターを用いて1分間行った。結果は以下の式に従って補正したが、式中、ERは実験的遊離;SRは自然遊離;MRは最大の遊離である:
比遊離率%=[(ER−SR)/(MR−SR)]×100
【0144】
ここで、実験的遊離(ER)は、96ウェルプレートの個々の各ウェルからの結果である。各試料は別々のウェルで2回ずつ検査した。被験試料の統計的有意性はStudentの対標本T検定によって決定した。
【0145】
図6に示されているように、腫瘍の死滅は電気穿孔DC群群のみで観察され、共培養群でも溶解物無し群でも観察されなかった。以前の報告では、腫瘍溶解物との共培養によってCTL応答のプライミングが可能であったことが示されているが、これは腫瘍/DC比がさらに高い場合であった。以前の報告ではDC 1個に対して腫瘍細胞1個または腫瘍細胞3個を用いているが、本明細書で提示したデータでは、DC 10個に対して腫瘍細胞1個でCTL応答を誘導するには十分であったことが示された。個々のDCに対して用いた腫瘍溶解物のこの量は、以前に用いられた腫瘍溶解物の10分の1または30分の1未満である。
【0146】
実施例12
全腫瘍溶解物による電気穿孔処理を行ったDCはマウス治療モデルにおける肺転移を防止した
C57BL6マウスに対してまず、ルイス肺癌(LLC)細胞5×10個を静脈内(尾静脈)注射した。これらの細胞の静脈内投与は活発な腫瘍成長を誘発し、肺転移の急速な形成を伴うことが知られている。
【0147】
DCをC57BL6雄性マウスから前記の通りに単離した。単離したDCに対して、RENCA溶解物に関して前に記載したのと同じように、マウスルイス肺癌(LLC)溶解物による電気穿孔処理を行った。対照として、DCに非関連(全肝臓)溶解物を負荷した。電気穿孔後に細胞を37℃で20分間インキュベートした。これに並行して、DCとLLC溶解物との混合物を電気穿孔法の場合と同じように調製し、ただし、電気穿孔処理の代わりに37℃で30分間共培養した。各混合物のDCを、マウスGM-CSF 25ng/ml、マウスTNFα 25ng/ml、マウスインターフェロンγ 25ng/ml、リポ多糖(LPS)5μg/mlおよびPGE(1μg/ml)を加えたX-VIVO 15培地2ml中に移した。細胞を低付着性プレートにプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日に上記のDCを収集し、計数してPBSにより1回洗浄し、X-VIVO 15培地中に濃度1×10個/mlとして再懸濁させた。
【0148】
マウスにLLCを注射して3日後に、溶解物が負荷されたDC 100μl(1×10個)を、LLCを投与してあるマウスの尾静脈に注射した。さらに3日後(第6日)に、マウスに対して、溶解物が負荷されたDC1×10個の2回の投与を行った。対照として、マウスの一群にはDCを投与しなかった(DC無し対照)。LLC注射後の第15日にマウスを屠殺し、肺を摘出して秤量した。肺重量を各群に関する肺転移の程度の指標として用いた。LLCを接種しなかったマウスを、これらのマウスに関する正常(腫瘍の無い)肺重量を測定するために用いた。図7に示したように、LLC溶解物による電気穿孔処理を行ったDCの投与は、DC無し対照群と比較して、約50%というLLC肺転移の有意な減少を引き起こした(p<0.01)。これに対して、肝溶解物による電気穿孔処理を行うか、またはLLC溶解物と共培養したDCは、肺転移に対して全く効果を及ぼさなかった。
【0149】
実施例13
癌溶解物が負荷されたヒト抗原提示細胞を用いた、ヒト被験者における癌の治療
この実施例では、癌細胞溶解物が負荷されたヒトAPCを用いたヒト癌患者の治療を推進するプロトコールの一例を記載する。ある特定の態様において、APCはヒトDCである。患者は以前に化学療法、放射線療法または遺伝子治療を受けていてもよいが、必ずしもそうでなくてもよい。患者が十分な骨髄機能を示すこと(末梢血顆粒球の絶対数が2,000/mmを上回り、血小板数が100,000/mm、十分な肝機能(ビリルビン1.5mg/dl)および十分な腎機能(クレアチニン1.5mg/dl)と定義される)が最適である。当業者は、本明細書に鑑みて、APCの単離および負荷をいかにして行うかを理解するであろう。
【0150】
組成物は、標準的でよく知られた毒性のない生理的に許容される担体、アジュバントおよび媒介物を適宜含む単位投薬式調合物として、非経口的に投与することができる。非経口的という用語は、本明細書で用いる場合、皮下注射、静脈内、筋肉内、動脈内注射、腫瘍内または注入による手法を含む。組成物は単独で投与してもよく、または実際には他の免疫療法を含む他の療法と併用してもよい。併用療法を想定している場合には、組成物は他の抗癌剤の前、後または同時のいずれに投与してもよい。
【0151】
一例として、治療コースは、7〜21日の期間にわたって送達される約6回の投与を含みうる。臨床医による選択に基づき、治療レジメンは、3週毎、またはさらに低い頻度(毎月、隔月、年4回など)での6回の投与として継続することができる。当然ながら、これらは治療期間の例に過ぎず、当業者は任意の他の期間のコースも可能であることを直ちに理解すると考えられる。
【0152】
臨床効果は、当業者に知られ、受け入れられている指標によって定義することができる。例えば、完全著効(complete response)は、計測可能なすべての病変の少なくとも1カ月にわたる消失によって定義することができる。部分的効果(partial response)は、評価可能なすべての腫瘍結節の直交径の積の合計が50%もしくはそれ以上減少すること、または拡大を認める腫瘍部位が少なくとも1カ月間認められないことによって定義しうる。同様に、混在効果(mixed response)は、計測可能なすべての病変の直交径の積の合計が50%もしくはそれ以上減少し、1つまたは複数の部位に進行が認められることによって定義しうる。当業者は、本明細書中に開示された情報を取り入れて治療レジメンを最適化しうると考えられる。
【0153】
実施例14
癌の治療における、癌溶解物が負荷されたヒトDCの臨床試験
この実施例は、癌の治療における、腫瘍溶解物が負荷されたヒトDCを用いるヒト治療プロトコールの開発に関する。患者の治療およびモニタリングを含む、臨床試験を実施するためのさまざまな要素は、本開示に鑑みて当業者には周知であると考えられる。以下の情報は、癌溶解物が負荷されたDCなどのヒトAPCを癌治療にかかわる臨床試験に用いるための一般的なガイドラインとして提示する。
【0154】
臨床試験のために選択される癌患者は一般に、少なくとも1クールにわたる従来の療法が奏功していないと考えられる。計測可能な病変は必要とはされない。
【0155】
組成物は単独で投与してもよく、別の化学療法薬と併用してもよい。投与はカテーテルなどを介する静脈内投与でもよい。
【0156】
DCおよび/または抗癌剤の併用投与は短い注入期間にわたって行ってもよく、または7〜21日間にわたる一定速度の注入として行ってもよい。注入投与は単独で行ってもよく、抗癌剤と併用してもよい。任意の投薬段階で行われる注入は、それぞれの後に生じた毒性に依存すると考えられる。患者の約60%が許容しえない毒性を示すまで、患者の群に対して抗癌剤との併用下で用量を高めながら投与することが考えられる。
【0157】
身体所見の診察、腫瘍測定および臨床検査は、当然ながら、治療前のほか、その後に約3〜4週間隔で行うべきである。臨床検査項目には、CBC、血球分画数および血小板数、免疫学的プロフィール、尿分析、SMA-12-100(肝機能および腎機能の検査)、凝固プロフィールおよび、疾患の程度または既存の症状の原因を判定するためのその他の任意の適した化学検査を含めるべきである。また、血清中の適切な生体マーカーを観測してもよい。
【0158】
疾患の経過を観測し、抗腫瘍応答を評価するためには、患者を適切な腫瘍マーカーに関して4週毎に検査すべきである。CBC、血球分画数および血小板数、凝固プロフィールおよび/またはSMA-12-100などの臨床検査は毎週行うことになると思われる。腫瘍の反応を評価するために、放射線学的検査および免疫学的検査などの適切な臨床的検査を実施し、8週毎に繰り返すべきである。
【0159】
臨床効果は、受け入れられている指標によって定義することができる。例えば、完全著効は、計測可能なすべての病変の少なくとも1カ月にわたる消失によって定義することができる。一方、部分的効果は、評価可能なすべての腫瘍結節の直交径の積の合計が50%もしくはそれ以上減少すること、または拡大を認める腫瘍部位が少なくとも1カ月間認められないことによって定義しうる。同様に、混在効果は、計測可能なすべての病変の直交径の積の合計が50%もしくはそれ以上減少し、1つまたは複数の部位に進行が認められることによって定義しうる。
【0160】
本明細書中に開示および請求したすべての組成物および/または方法は、本開示に鑑みて、必要以上の実験を行わずに作製および実施を行うことができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様によって説明してきたが、当業者には、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本明細書に記載した組成物および/または方法に対して、ならびに工程または一連の工程に、変更を加えうることは明らかであると考えられる。より詳細には、化学的にも生理的にも類縁関係にある特定の物質を本明細書に記載の物質の代わりに用いても同一または類似の結果が得られることは明らかであると考えられる。当業者にとって明白なこのようなすべての類似した代替物および変更は、添付する特許請求の範囲によって規定されるように、本発明の精神、範囲および概念の範囲内にあると考えられる。
【0161】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書中に記載したものを補足する例示的な手順上またはその他の詳細を提供する範囲において、参照として明確に本明細書に組み入れられる。



【図面の簡単な説明】
【0162】
以下の図面は、明細書の一部をなし、本発明のある種の面をさらに示すために含められる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示する個々の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、より良く理解されるであろう。
【図1】電気穿孔法を用いた細胞へのデキストランの取り込みを示す、FITC-デキストランの結果を示している。
【図2】電気穿孔法を用いた細胞へのアルブミンの取り込みを示す、FITC-アルブミンの結果を示している。
【図3】電気穿孔法を介して全腫瘍細胞溶解物を負荷したDCが、共培養法よりも強いT細胞応答を誘発したことを示している。ヒト単球由来のDCに対して腫瘍溶解物を用いる共培養または電気穿孔処理を行った。続いてこのDCを、T細胞を含む自己末梢血リンパ球(PBL)と共培養した。7日後にT細胞を改変DCで再び刺激した。
【図4】全腫瘍溶解物を負荷した樹状細胞が自己T細胞応答を誘発したことを示している。電気穿孔法により全腫瘍細胞溶解物を負荷したDCと、溶解物と共培養したものとの比較は、DCと腫瘍細胞との比を10:1として、ヒト単球由来のDCをヒト黒色腫細胞株A-375溶解物と30min(Co-CX 30min)もしくは一晩(Co-CX O/N)共培養するか、または電気穿孔法によりそれを負荷することによって行った。続いて、負荷されたDCをPBSで洗浄し(O/N群を除く)、TNFα、IL-1およびPGEとともに一晩インキュベートして成熟を誘導させた。続いて成熟DCを、自己末梢血リンパ球(DC 1:PBL細胞10の比)とともに、IL-2およびIL-7の存在下でインキュベートした。10日後にPBLをさらなる改変DCにより再刺激した。馴化組織培養液を再刺激から18hr後に収集し、IFNγ産生に関して市販のELISAキット(R&D System)により分析した。PBLをPHA(10 μg/mL)と一晩インキュベートしたものをIFN-γ産生の陽性対照とした。
【図5】電気穿孔法を介して全腫瘍細胞溶解物を負荷したDCが、溶解物の「パルス刺激」またはDCとの共培養よりも、腫瘍接種試験(challenge)に対する予防効果が優れていたことを示している。BalbCマウス骨髄CD34+細胞由来のDCに対して、RENCA腫瘍溶解物を用いる共培養(△)または電気穿孔処理(○)を行った。続いてDCを成熟させ、同系BalbCマウスに皮下注射した。2週間後にマウスに対して、RENCA腫瘍細胞の注射による接種試験を、DCの注射部位とは異なる部位に行った。腫瘍接種の9日後以降、腫瘍のサイズを測定した。
【図6】全腫瘍溶解物による電気穿孔処理を受けたDCを用いたインビトロでの腫瘍特異的一次CTL応答の誘導を示している。同系C57B16マウス由来の脾細胞を、B16黒色腫細胞溶解物を用いる電気穿孔処理もしくは共培養を行ったCD34+細胞由来のDC(B16とDCとの比は1:10)、または溶解物を加えずに電気穿孔処理を行ったものにより刺激した。脾細胞をさらに3回刺激し、その後に標準的な細胞傷害アッセイにて51Cr標識B16黒色腫細胞とともにインキュベートした。
【図7】電気穿孔法により全腫瘍溶解物を負荷したDCが、治療モデルにおけるルイス肺癌転移を低下させたことを示している。ルイス肺癌(LLC)細胞をC57BL6マウスにi.v.(尾静脈)注射した。単離したC57BL6 DCに対して、LLC全腫瘍細胞溶解物を用いる共培養または電気穿孔処置を行った上で成熟させた。対照として、溶解物の非存在下でDCに電気穿孔処理を行った(溶解物無し)。LLC注射の3日後に、DCを尾静脈(マウス8匹/群)に注射した。対照として、マウスの一群にはDCを投与しなかった(DC無しの対照)。さらに3日後(第6日)に、同一の負荷を受けたDCの2回目の投与を同じマウスに行った。LLC注射後の第15日にマウスを屠殺し、肺を摘出して秤量した。腫瘍無しの対照群は、LLCの接種を受けていないマウスの正常肺重量を反映している。LLC溶解物による電気穿孔処理を受けたDCの投与は、肺重量の有意な減少によって示されているように、LLC肺転移の有意な低下を引き起こした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原提示細胞に1つまたは複数の抗原を負荷するための方法であって、以下を含む方法:
(a)抗原提示細胞と、過剰増殖細胞、微生物感染細胞もしくは微生物の1つまたは複数の抗原を含む抗原組成物とを含む混合物を調製する段階;および
(b)1つまたは複数の抗原が抗原提示細胞内に負荷されるのに十分な様式で、混合物の電気穿孔処理を行う段階。
【請求項2】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
微生物がウイルス、細菌、真菌または原生動物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
微生物感染細胞が、ウイルス、細菌、真菌または原生動物に感染した細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗原組成物が溶解物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
溶解物が界面活性剤処理または界面活性剤を用いない処理を用いて調製される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
界面活性剤を用いない処理が、凍結融解法、超音波処理法、高圧押出法、固体剪断法、液体剪断法および低張/高張法からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の抗原が腫瘍関連抗原である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
腫瘍関連抗原が組換え腫瘍関連抗原である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
腫瘍関連抗原が腫瘍限定的抗原である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
溶解物が腫瘍細胞溶解物を含む、請求項5記載の方法。
【請求項12】
腫瘍細胞溶解物が自己由来腫瘍細胞溶解物である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
腫瘍細胞溶解物が同種異系腫瘍細胞溶解物である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
腫瘍細胞溶解物が癌細胞溶解物を含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
癌細胞溶解物が、乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、脳悪性腫瘍細胞、肝癌細胞、子宮頸癌細胞、結腸癌細胞、腎癌細胞、皮膚癌細胞、頭頸部癌細胞、骨悪性腫瘍細胞、食道癌細胞、膀胱癌細胞、子宮癌細胞、リンパ系癌細胞、胃癌細胞、膵癌細胞、精巣癌細胞または白血病細胞からなる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
対象における疾患を治療または予防する方法であって、以下を含む方法:
(a)電気穿孔法を用いて、抗原提示細胞に過剰増殖細胞、微生物もしくは微生物感染細胞の1つまたは複数の抗原を負荷する段階;
(b)該抗原提示細胞の組成物を調製する段階;および
(c)それを必要とする対象に対して該組成物の有効量を投与する段階。
【請求項17】
抗原提示細胞を培養する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
1つまたは複数の抗原が実質的に精製されている、請求項16記載の方法。
【請求項19】
対象が哺乳動物である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
対象がヒトである、請求項16記載の方法。
【請求項21】
疾患が過剰増殖性疾患である、請求項16記載の方法。
【請求項22】
過剰増殖性疾患が腫瘍である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
腫瘍が癌である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
癌が、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、脳悪性腫瘍、肝癌、子宮頸癌、結腸癌、腎癌、皮膚癌、頭頸部癌、骨悪性腫瘍、食道癌、膀胱癌、子宮癌、リンパ系癌、胃癌、膵癌、精巣癌または白血病である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
対象が二次的な抗過形成療法を受けている、請求項16記載の方法。
【請求項26】
二次的な抗過形成療法が化学療法、放射線療法、免疫療法、光線療法、凍結療法、毒素療法、ホルモン療法または外科手術である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
組成物が全身性、血管内、皮内または皮下に送達される、請求項16記載の方法。
【請求項28】
組成物が腫瘍塊に対して局所的に送達される、請求項16記載の方法。
【請求項29】
抗原提示細胞が樹状細胞を含む、請求項16記載の方法。
【請求項30】
抗原提示細胞の負荷後に抗原提示細胞を培養する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項31】
抗原提示細胞の負荷後に抗原提示細胞の免疫応答を測定する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項32】
免疫応答の測定がインビトロでELISPOT、ELISA、PCRまたは腫瘍細胞死滅により行われる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
免疫応答の測定がインビボで腫瘍サイズの測定によって行われる、請求項32記載の方法。
【請求項34】
抗原提示細胞を含む組成物であって、該抗原提示細胞に、過剰増殖細胞、微生物感染細胞または微生物の1つまたは複数の抗原が、流動型電気穿孔装置(electroporation flow device)を用いて負荷される組成物。
【請求項35】
組成物が、対象への送達に適した薬学的組成物である、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
対象がヒトである、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項34記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−518219(P2006−518219A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503714(P2006−503714)
【出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/004933
【国際公開番号】WO2004/074451
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(505311928)マックスサイト インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】