説明

電気絶縁処理用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器

【課題】 高温度でもポリアミド系樹脂との接着が良好な電気機器絶縁処理用樹脂組成物、及びそれを用いた電気機器を提供する。
【解決手段】 (A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を20〜70重量部、(B)一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂を10〜60重量部、(C)グリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂を10〜60重量部、(D)酸無水物を(A)〜(C)の合計100重量部に対し、50〜200重量部含有してなる電気機器絶縁処理用樹脂組成物。前記の電気機器絶縁処理用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理されてなる電気機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁処理用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器に関し、更に詳しくは、モータ、トランスなどの電気機器の耐熱向上に対応した電気機器絶縁処理用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着または防錆、コイルの絶縁または固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気絶縁用樹脂組成物としては、固着性、硬化性、耐熱性、電気絶縁性などのバランスに優れたエポキシ樹脂組成物が広く用いられている。
近年の電気機器は、小型・軽量化、高出力化が進んだため、運転時に過大な負荷により発生する熱量が増大し、電気機器の運転時の温度が上昇する傾向があるため、使用される各材料は、より耐熱性及び熱放散性が高いものが求められるようになってきた。
特に、その中で、電気機器を構成する材料として、耐熱性・軽量化・強度を併せ持つエンジニアリングプラスチックが広く用いられており、その中の一つにポリアミド系樹脂が挙げられる。
ポリアミド系樹脂の中で、ナイロン(デュポン社商標)は、ギア、プーリー、シャフト、ボビン、テープ、チューブ、絶縁紙等の電気機器を構成する材料として多く使用されているが、電気絶縁用樹脂組成物に対し、充分な接着強度が得られない場合が多く、特に、高温域では、接着力が極端に低下してしまう傾向が有った。
【0003】
【特許文献1】特開2003−342355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物において、近年の要求性能を満足すべく、耐熱性が良好で、且つ、高温度でもナイロンとの接着が良好な電気機器絶縁処理用樹脂組成物、及びそれを用いた電気機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討の結果、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂、グリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂、酸無水物を主成分とする電気絶縁用樹脂組成物を用いる事によって、耐熱性が良好で、且つ、高温度でもナイロンとの接着が良好となる事を見出した。
すなわち、本発明は、(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を20〜70重量部、(B)一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂を10〜60重量部、(C)グリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂を10〜60重量部、(D)酸無水物を(A)〜(C)の合計100重量部に対し、50〜200重量部を含有してなる電気機器絶縁処理用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、上記に記載の電気機器絶縁処理用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理されてなる電気機器に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明になる電気機器絶縁処理用樹脂組成物は、電気機器に含浸させて絶縁処理することによって、耐熱性が良好で、且つ、高温度でもナイロンとの接着性を改善する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いられる(A)成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから合成され、得られたエポキシ樹脂の分子量には制限が無く、液状から固体まで用いることが出来る。例えば、三井石油化学株式会社製 エポミックR140、エポミックR301、エポミックR304、エポミックR307、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート828、エピコート1001、エピコート1007等があり、これらを単品で用いても、いくつかの種類を組み合わせて用いても良い。
【0008】
本発明に用いられる(B)成分の一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂は、化学構造には制限が無く、ポリフェノール型、アルコール型、エステル型、脂環式等が挙げられる。例えば、大日本インキ化学工業株式会社製N−730、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート152、エピコート154、エピコート157、エピコート1031、エピコート1032、東都化成株式会社製YH−300、日本化薬株式会社製BREN−S等があり、これらを単品で用いても、いくつかの種類を組み合わせて用いても良い。
【0009】
本発明に用いられる(C)成分のグリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂は、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート604、住友化学工業株式会社製ELM−434、大日本インキ化学工業株式会社製430、東都化成株式会社製YH−434、日本化薬株式会社製GAN、GOT等があり、これらを単品で用いても、いくつかの種類を組み合わせて用いても良い。
【0010】
本発明に用いられる(D)成分の酸無水物は、3−メチル−1,2,3,6、−テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸等があり、これらを単品で用いても、いくつかの種類を組み合わせて用いても良い。
【0011】
また、必要に応じて、(A)、(B)、(C)、(D)を用いた樹脂組成物に、トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエチルアミン等の3級アミンを混合しても良く、これらを単品で用いても、いくつかの種類を組み合わせて用いても良い。
更に、必要に応じて、(A)、(B)、(C)、(D)を用いた樹脂組成物に、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム等の無機充填剤を混合しても良く、これらを単品で用いても、いくつかの種類を組み合わせて用いても良い。
【0012】
本発明の電気機器絶縁処理用樹脂組成物は、(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を20〜70重量部、(B)一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂を10〜60重量部、(C)グリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂を10〜60重量部、(D)酸無水物を(A)〜(C)の合計100重量部に対し、50〜200重量部含有する。
【0013】
本発明の電気機器絶縁処理用樹脂組成物は、エアコン用ファン、発電機、扇風機、車載モータ、洗たく機等のコンデンサーモートル、テレビ、ステレオ、コンパクトディスクプレーヤー等の電源トランス等の電気機器の絶縁処理に適用される。
【実施例】
【0014】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。下記例中の部は、重量部を意味する。
(実施例1)
(A)成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート828 45重量部、(B)成分の一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート1032 27重量部、(C)成分のグリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート604 28重量部、(D)成分の酸無水物として、日立化成工業株式会社製MHAC−P(メチル-3,6 エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸) 100重量部を撹拌混合して電気機器絶縁処理用樹脂組成物を調製した。
【0015】
(実施例2)
ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート828 40重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート157 10重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート1031 7重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート1032 10重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート604 33重量部、日立化成工業株式会社製HN−5500(3or4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸) 100重量部を撹拌混合して電気機器絶縁処理用樹脂組成物を調製した。
【0016】
(比較例1)
ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート828 73重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート1032 27重量部、日立化成工業株式会社製MHAC−P 100重量部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0017】
(比較例2)
ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート828 73重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート157 10重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート1031 7重量部、ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート1032 10重量部、日立化成工業株式会社製HN−5500 100重量部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0018】
得られた電気機器絶縁処理用樹脂組成物(電気絶縁用樹脂組成物)について、
(1)ガラス転移温度(Tg)
(2)ナイロン6,6同士でのせん断接着力
(3)絶縁破壊の強さ、を測定した。
その結果をまとめて配合と共に表1に示した。
【0019】
尚、これら特性の試験方法は、以下の通りである。
(1)ガラス転移温度(Tg):2mmのスペーサーを用いた金型に、所定の電気絶縁用樹脂組成物を流し込み、120℃、2時間、そして150℃、2時間硬化を行い、得られた樹脂板を、セイコー株式会社製TMA3000を用いてTgを測定した。
(2)ナイロン6,6同士でのせん断接着力:所定の電気絶縁用樹脂組成物を用いて、長さ150mm、巾10mm、厚さ2mmのナイロン6,6の板同士の長さ10mmの部位に塗布して接着し、クリップで押え、120℃、2時間、さらに、170℃、2時間硬化を行い、所定雰囲気温度(23℃、180℃)でナイロン6,6同士での接着力を測定した。
(3)絶縁破壊の強さ:2mmのスペーサーを用いた金型に、所定の電気絶縁用樹脂組成物を流し込み、120℃、2時間、さらに、150℃、2時間硬化を行い、得られた樹脂板を用いて、JIS C 2105に準じて試験を行った。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明の(A)成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂、(B)成分の一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂、(C)成分のグリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂及び(D)成分の酸無水物を含有する電気機器絶縁処理用樹脂組成物は、Tg、絶縁破壊の強さが高く、しかもポリアミド系樹脂の接着力が強い。これに対し、(C)成分を用いない比較例1、2は、Tgが低く、高温度での接着力が弱い。
【0022】
本発明になる電気機器絶縁処理用樹脂組成物は、電気機器に含浸させて絶縁処理することによって、耐熱性が良好で、且つ、高温度でもナイロンとの接着性を改善する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例の断接着力の測定方法を説明する斜視図。
【符号の説明】
【0024】
1:長さ150mm、巾10mm、厚さ2mmのナイロン6,6の板
2:電気機器絶縁処理用樹脂組成物の塗布部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を20〜70重量部、(B)一分子内にグリシジル基を3個以上有する芳香族系エポキシ樹脂を10〜60重量部、(C)グリシジルアミン基を有するエポキシ樹脂を10〜60重量部、(D)酸無水物を(A)〜(C)の合計100重量部に対し、50〜200重量部含有してなる電気機器絶縁処理用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電気機器絶縁処理用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理されてなる電気機器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−289443(P2009−289443A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137893(P2008−137893)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】