説明

電気絶縁油及びその製造方法

【課題】電気特性を悪化させる流動点降下剤を使用せずとも流動点が低く、水素ガス吸収性に優れ、トランス内に混入した水分が凍結して浮上することによる絶縁の破壊が防止されており、引火点が高いため火災の危険性が低く、さらには硫黄分を殆ど含まないため銅に対する腐食性が皆無で、優れた電気特性を兼ね備え実用性能に秀でた電気絶縁油を提供する。
【解決手段】流動点が-45℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、引火点(PM)が135℃以上であり、密度(20℃)が0.895kg/L以下であり、アニリン点が63〜90℃であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上であり、かつ酸化防止剤を0.05〜0.5質量%含有することを特徴とする電気絶縁油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁油及びその製造方法に関し、特には、流動点が低く寒冷地向けに好適であるにも関わらず引火点が高く、硫黄を殆ど含まないため銅に対する腐食性が全くなく、酸化安定性が良好で、実用性能に優れた電気絶縁油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油は、トランス、高圧ケーブル、高圧遮断器、コンデンサ等の高圧電気機器に充填されて使用される。これらの機器のうちトランスなどは、コイル等で発生する熱を逃がすために強制的に又は自然対流によって電気絶縁油が循環され冷却されるように設計されており、この際、動粘度の低い電気絶縁油の方が冷却性能に優れている。しかし、動粘度の低い電気絶縁油は、引火点も低くなり火災の危険が高まるという問題がある。
【0003】
また、寒冷地においては、電気絶縁油の密度が氷より大きい場合、トランス内に混入した水分が凍結しそれが浮上することにより、絶縁の破壊が生じる場合があるため、電気絶縁油は密度が低い必要がある。また、適度な硫黄分は、電気絶縁油に適度な酸化防止性能を与えるが、トランスに使用される銅への影響は皆無とは言えない。また、芳香族分の少ない油は酸化防止剤の効果が大きいが、電気絶縁油中に芳香族分が存在しなくなると、水素ガス吸収性が著しく悪化し、電気機器のトラブルの原因となり得る。
【0004】
そのため、本発明者らは、ノルマルパラフィン含有量が2質量%以下であり、%CPが45以上である基油に流動点降下剤を0.01〜0.3質量%添加することを特徴とする電気絶縁油を提案してきた(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3690649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電気絶縁油の中でも、ナフテン系原油を精製することにより得られた基油を使用した電気絶縁油については、密度(20℃)が0.895kg/Lを超えてしまい、トランス内に混入した水分が凍結しそれが浮上することにより絶縁の破壊が生じる危惧があり、さらに引火点(PM)が135℃より低くなり火災の可能性が生じる。また、パラフィン系原油を精製することにより得られた基油を使用した電気絶縁油については、流動点降下剤を使用する必要があるため電気特性に不満が残り、また、水素ガス吸収性の点で劣っている。
【0007】
そこで、本発明は、かかる問題を解決するものであり、電気特性を悪化させる流動点降下剤を使用せずとも流動点が低く、水素ガス吸収性に優れ、トランス内に混入した水分が凍結して浮上することによる絶縁の破壊が防止されており、引火点が高いため火災の危険性が低く、さらには硫黄分を殆ど含まないため銅に対する腐食性が皆無で、優れた電気特性を兼ね備え実用性能に秀でた電気絶縁油を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(1)特定の流動点、動粘度(40℃)、引火点(PM)、密度(20℃)及びアニリン点を有し、硫黄分、窒素分、塩基性窒素及び芳香族分が特定の範囲にあり、更に酸化防止剤を特定量含有する電気絶縁油が、水素ガス吸収性に優れ、トランス内に混入した水分が凍結して浮上することによる絶縁の破壊が防止されており、火災の危険性が低く、銅に対する腐食性が皆無である上、酸化安定性が良好で、実用性能に優れ、また、(2)かかる電気絶縁油がナフテン系原油とパラフィン系原油を精製して得た基油を特定の割合で混合して調製した混合基油に酸化防止剤を特定量添加することで得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の電気絶縁油は、流動点が-45℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、引火点(PM)が135℃以上であり、密度(20℃)が0.895kg/L以下であり、アニリン点が63〜90℃であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上であり、かつ酸化防止剤を0.05〜0.5質量%含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の電気絶縁油の好適例においては、前記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤である。また、本発明の電気絶縁油は、更に、トリアゾール化合物の1種以上を合計で1000質量ppm以下含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の電気絶縁油の製造方法は、ナフテン系基油とパラフィン系基油とを混合する工程を含む上記電気絶縁油の製造方法であって、
前記ナフテン系基油(N)と前記パラフィン系基油(P)との質量比(N/P)が95/5〜30/70であり、
前記ナフテン系基油は、%CNが55以上であり、%CPが40以下であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上30質量%未満であり、流動点が-50℃以下であり、動粘度(40℃)が7〜10mm2/sであり、かつ粘度指数が50以下であり、
前記パラフィン系基油は、%CPが60以上であり、%CNが40以下であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が3質量%未満であり、流動点が-30℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、かつ粘度指数が90以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気絶縁油は、電気特性を悪化させる流動点降下剤を使用せずとも流動点が低く、水素ガス吸収性に優れ、トランス内に混入した水分が凍結して浮上することによる絶縁の破壊が防止されており、引火点が高いため火災の危険性が低く、さらには硫黄分を殆ど含まないため銅に対する腐食性が皆無である上、酸化安定性が良好であり、優れた電気特性を兼ね備え実用性能に秀でている。そのため、本発明の電気絶縁油は、特に寒冷地及び/又は寒冷期のトランス等に用いる電気絶縁油として、好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の電気絶縁油は、流動点が-45℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、引火点(PM)が135℃以上であり、密度(20℃)が0.895kg/L以下であり、アニリン点が63〜90℃であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上であり、酸化防止剤を0.05〜0.5質量%含有することを特徴とする。
【0014】
ここで、電気絶縁油の流動点が-45℃を超えると、寒冷地での使用に不適である。また、電気絶縁油の動粘度(40℃)が6mm2/s未満では、冷却時の油流速が大きくなりすぎて流動帯電発生の可能性を高め、一方、10mm2/sを超えると、冷却性能が不十分となる。また、電気絶縁油の引火点(PM)が135℃未満では、火災の危険が生じ、電気絶縁油の密度(20℃)が0.895kg/Lを超えると、トランス内に混入した水分が凍結して浮上することにより絶縁の破壊が生じる場合がある。
【0015】
また、電気絶縁油のアニリン点が63℃未満では、電気絶縁油としての規格を満たさず、一方、90℃を超えると、酸化防止剤やトリアゾール化合物等の添加剤が解け難くなる。なお、これらの観点から、電気絶縁油のアニリン点は、63〜84℃の範囲が更に好ましい。
【0016】
また、電気絶縁油中の硫黄分が3質量ppm以上では、トランスに使用される銅が腐食されてしまう。また、電気絶縁油中の窒素分が3質量ppmを超えると、酸化安定性に悪影響を及ぼし、塩基性窒素が1質量ppmを超えると、酸化安定性、及び流動帯電特性に悪影響を及ぼす。
【0017】
また、電気絶縁油中の芳香族分が5質量%未満では、水素ガス吸収性が非常に悪化する。なお、多量の芳香族分は酸化安定性に悪影響を及ぼすため、電気絶縁油中の芳香族分は30質量%未満であることが好ましい。更に、これらの観点から、電気絶縁油中の芳香族分は、10質量%以上25質量%未満であることが更に好ましい。
【0018】
また、電気絶縁油中の酸化防止剤の含有量が0.05質量%未満では、電気絶縁油の酸化安定性が悪く、一方、0.5質量%を超えて酸化防止剤を添加しても、更に酸化安定性が向上することがない。
【0019】
また、本発明の電気絶縁油は、引火点(COC)が145℃以上であることが好ましく、全酸価が0.01mgKOH/g以下であることが好ましく、誘電正接(80℃)が0.1%以下であることが好ましく、体積抵抗率(80℃)が0.5TΩ・m(テラオームメートル)以上であることが好ましく、絶縁破壊電圧が40kV以上であることが好ましく、RPVOTが195分以上であることが好ましく、腐食性硫黄(150℃、48時間)の結果が非腐食性であり、かつこの時の銅板上硫黄量が5μg/cm2以下であることが好ましく、水素ガス吸収性が40μL/min以下であることが好ましく、30μL/min以下であることが更に好ましい。
【0020】
本発明の電気絶縁油に用いる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤が好ましく、これら酸化防止剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記フェノール系酸化防止剤としては、下記一般式(1):
【化1】

で表される化合物が挙げられる。上記式(1)において、R1は、炭素数1〜25の炭化水素基又は置換炭化水素基であり、エステル基を含んでもよい。
【0022】
上記フェノール系酸化防止剤として、具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-イソプロピリデンビスフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ビス(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、ビス[2-(2-ヒドロキシ-5-メチル-3-t-ブチルベンジル)-4-メチル-6-t-ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。これらフェノール系酸化防止剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、上記アミン系酸化防止剤としては、下記一般式(2):
【化2】

で表される化合物、及び下記一般式(3):
【化3】

で表される化合物が挙げられる。
【0024】
上記式(2)において、R2は、炭化水素基であり、各ベンゼン環で5個ずつ、合計10個置換し得るが、少なくとも1個以上置換しているものが好ましい。また、炭化水素基の炭素数は3以上20以下が好ましく、R2が複数存在する場合、各R2は同じ炭化水素基であっても異なっていてもよい。より好適な炭化水素基としては、ブチル基からノニル基までの直鎖又は分枝鎖のアルキル基が挙げられる。
【0025】
また、上記式(3)において、R3は、炭素数が3以上20以下の炭化水素基であり、式(3)にはナフチル基及びフェニル基の両方に置換されているように記しているが、少なくともどちらか一方の基に1個以上置換されているものでも、両方の基にそれぞれ1個ずつ以上置換されているものでもよい。なお、R3が複数個の場合、各R3は同一であっても、異なっていてもよい。式(3)の化合物の中でも、R3が直鎖又は分枝鎖のオクチル基ないしノニル基であって、ナフチル基及びフェニル基のどちらか一方に1個置換されているものが特に好ましい。
【0026】
上記アミン系酸化防止剤として、具体的には、(1)モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン、(2)4,4'-ジブチルジフェニルアミン、4,4'-ジペンチルジフェニルアミン、4,4'-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4'-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4'-ジオクチルジフェニルアミン、4,4'-ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン、(3)テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン、(4)α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、ブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン及びその誘導体を挙げることができる。これらの中でも、ジアルキルジフェニルアミン及びアルキルフェニルナフチルアミンが好ましく、炭素数4〜24のアルキル基を有するジアルキルジフェニルアミン及びアルキルフェニルナフチルアミンが更に好ましく、炭素数6〜18のアルキル基を有するジアルキルジフェニルアミン及びアルキルフェニルナフチルアミンがより一層好ましい。これらアミン系酸化防止剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の電気絶縁油は、更に帯電防止剤としてトリアゾール化合物を1種類以上含むことが好ましい。ここで、電気絶縁油中のトリアゾール化合物の含有量は、1000質量ppm以下が好ましく、1〜1000質量ppmの範囲が更に好ましい。電気絶縁油中のトリアゾール化合物の含有量が1000質量ppmを超えると、帯電防止効果が飽和する上、電気特性が低下することがあり、一方、1質量ppm未満では、帯電防止効果が不十分である。
【0028】
上記トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体を用いることができ、ベンゾトリアゾール誘導体を用いることが好ましく、下記一般式(4):


【化4】

で表わされる化合物を用いることが更に好ましい。式(4)中、R4aは、水素原子又はメチル基を示し、R4bは、水素原子、或いは窒素原子及び/又は酸素原子を含有する炭素数0〜20の基を示し、窒素原子を含有する炭素数5〜20の基であることが好ましい。
【0029】
上記トリアゾール化合物として、具体的には、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ビス(α,α'-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-ベンゾトリアゾール、N-ビス(2-エチルヘキシル)-アミノメチル-トリルトリアゾール等が挙げられる。これらトリアゾール化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上述した本発明の電気絶縁油は、例えば、ナフテン系原油を水素化精製することにより得られた硫黄分3質量ppm未満のナフテン系基油(N)と、パラフィン系原油を水素化精製することにより硫黄分3質量ppm未満とし、さらに脱ロウ処理、好ましくは水素化脱ロウ処理を行うことにより得られたパラフィン系基油(P)とを質量比(N/P)で95/5〜30/70、好ましくは95/5〜50/50の範囲で混合し、更に、酸化防止剤を0.05〜0.5質量%添加することで製造できる。また、必要に応じて、トリアゾール化合物等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0031】
ナフテン系原油を水素化精製することにより得られた硫黄分3質量ppm未満のナフテン系基油(N)の割合が上記混合基油中95質量%を超えると、電気絶縁油の密度(20℃)が0.895kg/Lを超えてしまい、トランス内に混入した水分が凍結し、それが浮上することにより絶縁の破壊が生じる場合があり、また、引火点(PM)が135℃より低くなって、火災の危険が生じる。一方、ナフテン系原油を水素化精製することにより得られた硫黄分3質量ppm未満のナフテン系基油(N)が上記混合基油中30質量%未満では、流動点が-45℃より高くなって寒冷地での使用に不適となり、また、芳香族分が少な過ぎて、水素ガス吸収性が非常に悪化する。
【0032】
上記ナフテン系原油を水素化精製することにより得られたナフテン系基油(N)は、%CNが55以上、より好ましくは58以上、より一層好ましくは60以上であり、%CPが40以下であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上30質量%未満、より好ましくは10質量%以上25質量%未満であり、流動点が-50℃以下であり、動粘度(40℃)が7〜10mm2/sであり、かつ粘度指数が50以下であることが好ましい。
【0033】
また、上記パラフィン系原油を水素化精製し、さらに脱ロウ処理を行うことにより得られたパラフィン系基油(P)は、%CPが60以上、より好ましくは63以上、より一層好ましくは65以上であり、%CNが40以下であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が3質量%未満、より好ましくは2質量%未満であり、流動点が-30℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、かつ粘度指数が90以上であることが好ましい。
【0034】
本発明の電気絶縁油に基油として用いる、ナフテン系原油由来の基油分およびパラフィン系原油由来の基油分は、原油を常法により精製して得ることができるが、前記性状を確保するために精製条件を注意深く調整することが重要である。
【0035】
例えば、上記ナフテン系原油由来の基油分は、水素化精製触媒を用いて水素化処理して硫黄分3質量ppm未満とする。一方、パラフィン系原油由来の基油分は、水素化精製触媒を用いて水素化処理して硫黄分3質量ppm未満とすると共に、脱ロウ処理、好ましくは水素化脱ロウ処理を行って、流動点、動粘度(40℃)、粘度指数等を上記の範囲にする。
【0036】
本発明の電気絶縁油用の基油は、処理工程を適宜組み合わせて製造することができる。該基油は、上記の物性を満たす限り特に制限されず、種々の処理工程を適宜組み合わせて製造することができ、必ずしも上記の工程を経る必要はなく、場合によっては省略することもできるし、処理工程を変えたり、同一の工程を複数回繰り返すことも任意である。また、コストアップに繋がる溶剤脱ロウ処理や活性白土処理は、上記基油の製造に特に必要ではないが、これらの処理工程を経て得た基油を使用することも可能である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
<基油>
(1)ナフテン系原油を水素化精製することにより、硫黄分が3質量ppm未満のナフテン系基油(%CN=62.2、%CP=32.9、硫黄分=1質量ppm未満、窒素分=1質量ppm未満、塩基性窒素=1質量ppm未満、芳香族分=17.1質量%、流動点=-57.5℃、動粘度(40℃)=8.820mm2/s、粘度指数=29)を得た。
【0039】
(2)パラフィン系原油を水素化精製することにより、硫黄分を3質量ppm未満とし、さらに水素化脱ロウ処理することにより、パラフィン系基油(%CP=67.7、%CN=32.4、硫黄分=1質量ppm未満、窒素分=1質量ppm未満、塩基性窒素=1質量ppm未満、芳香族分=0.5質量%、流動点=-37.5℃、動粘度(40℃)=8.665mm2/s、粘度指数=98)を得た。
【0040】
<電気絶縁油>
次に、上記ナフテン系基油及び/又はパラフィン系基油を用い、以下のようにして実施例1〜4及び比較例1〜4の電気絶縁油を調製した。
【0041】
(実施例1)
上記(1)で得たナフテン系基油90質量%と上記(2)で得たパラフィン系基油10質量%との混合基油に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)を0.3質量%添加して、電気絶縁油Aを調製した。
【0042】
(実施例2)
上記(1)で得たナフテン系基油80質量%と上記(2)で得たパラフィン系基油20質量%との混合基油に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)を0.3質量%添加して、電気絶縁油Bを調製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1で用いたのと同じ混合基油に、酸化防止剤として4,4'-ジノニルジフェニルアミン(ADPA)を0.3質量%添加して、電気絶縁油Cを調製した。
【0044】
(実施例4)
実施例1で調製した電気絶縁油Aに、更に帯電防止剤としてベンゾトリアゾール(BTA)を10質量ppm添加して、電気絶縁油Dを調製した。
【0045】
(比較例1)
上記(1)で得たナフテン系基油に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)を0.3質量%添加して、電気絶縁油Eを調製した。
【0046】
(比較例2)
上記(1)で得たナフテン系基油20質量%と上記(2)で得たパラフィン系基油80質量%との混合基油に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)を0.3質量%添加して、電気絶縁油Fを調製した。
【0047】
(比較例3)
上記(2)で得たパラフィン系基油に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)を0.3質量%添加して、電気絶縁油Gを調製した。
【0048】
(比較例4)
上記(1)で得たナフテン系基油90質量%と上記(2)で得たパラフィン系基油10質量%とを混合して、電気絶縁油Hを調製した。
【0049】
<電気絶縁油の特性評価>
実施例及び比較例の電気絶縁油の特性の測定結果を表1及び2に示す。なお、表1及び表2に示す各物性は、次に示す試験方法に準じて求めた。
【0050】
・密度(20℃):JIS K 2249
・動粘度、粘度指数:JIS K 2283
・流動点:JIS K 2269
・引火点(PM:ペンスキーマルテンス密閉式):JIS K 2265
・引火点(COC:クリーブランド開放式):JIS K 2265
・屈折率(20℃):JIS K 0062
・硫黄分:JIS K 2541(紫外蛍光法)
・窒素分:JIS K 2609
・塩基性窒素分:米国UOP社試験法(UOP Method)No. 313-70「Nitrogen Bases in Distillates by Indicator Titration」で規定する方法
・n-d-M環分析(%CA, %CN, %CP):ASTM D3238
・芳香族分:ASTM D2007
【0051】
・水素ガス吸収:ASTM D2300
・酸化安定性(RPVOT(140℃)):ASTM D2112
・絶縁破壊電圧(BDV):JIS C 2101
・体積抵抗率:JIS C 2101
・誘電正接:JIS C 2101
・腐食性硫黄:ASTM D1275−06(Method B:150℃、48時間)
【0052】
また、腐食性硫黄試験後の銅板上硫黄量の測定は、石油学会製品部会絶縁油分科会 石油学会誌 Vol.19, No.4, p309-315、絶縁油の銅腐食性評価(1976)に記載の方法に従った。
【0053】


【表1】

【0054】
表1において、実施例1及び2の電気絶縁油は、密度(20℃)、動粘度、流動点、引火点等好適である。一方、パラフィン系基油を全く含まない比較例1の電気絶縁油は、密度(20℃)が0.9008kg/Lと大きく、また、引火点(PM)についても132℃と低くなっている。また、比較例2の電気絶縁油は、基油中ナフテン系基油が20質量%で、パラフィン系基油が80質量%であるが、流動点が-42.5℃と高くなっている。更に、ナフテン系基油を含まない比較例3の電気絶縁油は、流動点が-37.5℃とさらに高くなっており、比較例の電気絶縁油は、いずれも寒冷地用の電気絶縁油としては不適であった。
【0055】
【表2】

【0056】
表2から、酸化防止剤が添加されている実施例1,3及び4の電気絶縁油は、酸化防止剤が添加されていない比較例4の電気絶縁油に比べてRPVOTの値が高く、電気絶縁油として好適であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動点が-45℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、引火点(PM)が135℃以上であり、密度(20℃)が0.895kg/L以下であり、アニリン点が63〜90℃であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上であり、かつ酸化防止剤を0.05〜0.5質量%含有することを特徴とする電気絶縁油。
【請求項2】
前記酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤であることを特徴とする請求項1に記載の電気絶縁油。
【請求項3】
更に、トリアゾール化合物の1種以上を合計で1000質量ppm以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気絶縁油。
【請求項4】
ナフテン系基油とパラフィン系基油とを混合する工程を含む請求項1に記載の電気絶縁油の製造方法であって、
前記ナフテン系基油(N)と前記パラフィン系基油(P)との質量比(N/P)が95/5〜30/70であり、
前記ナフテン系基油は、%CNが55以上であり、%CPが40以下であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が5質量%以上30質量%未満であり、流動点が-50℃以下であり、動粘度(40℃)が7〜10mm2/sであり、かつ粘度指数が50以下であり、
前記パラフィン系基油は、%CPが60以上であり、%CNが40以下であり、硫黄分が3質量ppm未満であり、窒素分が3質量ppm以下であり、塩基性窒素が1質量ppm以下であり、芳香族分が3質量%未満であり、流動点が-30℃以下であり、動粘度(40℃)が6〜10mm2/sであり、かつ粘度指数が90以上であることを特徴とする電気絶縁油の製造方法。

【公開番号】特開2009−54324(P2009−54324A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217482(P2007−217482)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】