説明

電気転てつ機

【課題】保安器がショートして故障した場合に信号回線に誤信号を入出力させることなく、保安器を用いて信号回線に対しても雷害対策を施す。
【解決手段】本発明の電機転てつ機は、電気モータMと、電気モータを駆動・制御するモータ駆動・制御回路20とを備え、電源入力回線32,35、信号の入出力回線31,33,34,36及び空き回線37を含む一又は二以上の電気ケーブルが接続された電気転てつ機であって、電気ケーブルに含まれる回線のうち、空き回線(さらにはモニタ回線)に保安器が接続され、保安器非接続の他の回線は、保安器によるサージ電流の放電による空き回線(さらにはモニタ回線)の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機転てつ機の雷害対策に関する。
【背景技術】
【0002】
転てつ機として、動作かんと鎖錠かんとを備えたものが一般的に採用されている。かかる転てつ機は、分岐器が配備されたレールの左又は右に据え付けられ、動作かん及び鎖錠かんをそれぞれ分岐器のトングレールに連結した機構を有し、動作かんによってトングレールを定位、反位に動作させ、トングレールと連れ動く鎖錠かんの切欠きにロックピースを横から挿入することにより鎖錠かん、従ってトングレールの動作を阻止して鎖錠を完了する。
【0003】
図1に電気転てつ機の概要を示す。図1に示すように電気転てつ機1は、動作かん11、鎖錠かん12、サーボモータ13、転てつ機筐体14を備える。転てつ機筐体14内の回路部15には、サーボモータ13の駆動を制御するモータ駆動・制御回路、その動作状態をモニタリングして外部出力するモータモニタ回路、定位・反位を示す信号を出力する回路制御器等が搭載され、これらには多くの電子部品が使用されている。回路部15にコネクタ17a,17bを介して信号ケーブル18a、モータ電源ケーブル18bが接続される。また、回路部15には保安器16a,16bが装備される。
【0004】
転てつ機筐体14は、動作かん11及び鎖錠かん12を介してレールと導電状態にあるとともに、接地されている。
電気転てつ機は、雷によるサージ電圧印加の危険のほか、電車に電力を供給している架線が災害等により破断してレール等に接触してしまうことによる高電圧印加の危険がある。
従来、電気転てつ機の雷害対策としては、転てつ機内の電子部品を使用した電子機器の入出力回線と転てつ機筐体との間に保安器を接続し、その間に発生するサージ電圧から電子部品を護ることを行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−165440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、以上の従来技術にあっても次のような問題があった。
雷害対策は、ケーブル18により電気転てつ機1に接続されるすべての入出力回線に対して施す必要はあるものの、これらすべての入出力回線と転てつ機筐体14との間に保安器16を接続すると、例えば被雷等により保安器16がショートして故障した後、雷が去っても、上述のように架線の接触により電車電力用の電流が信号回線に回り込む可能性がある。信号回線には制御信号や表示信号が入出力する。
したがって、信号回線に不意に電流が回り込むと、電位が変化し、誤った制御信号や表示信号を入出力してしまい、誤った制御信号や表示信号に基づく電車運行システムの誤動作を招き事故に至るおそれがある。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、保安器がショートして故障した場合に信号回線に誤信号を入出力させることなく、保安器を用いて信号回線に対しても雷害対策が施された電気転てつ機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、電気モータと、前記電気モータを駆動・制御するモータ駆動・制御回路とを備え、電源入力回線、信号の入出力回線及び空き回線を含む一又は二以上の電気ケーブルが接続された電気転てつ機であって、
前記電気ケーブルに含まれる回線のうち、前記空き回線に保安器が接続され、保安器非接続の他の回線は、前記保安器によるサージ電流の放電による前記空き回線の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下する電気転てつ機である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記電気ケーブルは、前記電気モータの動作状態が外部出力されるモニタ回線を含み、
前記電気ケーブルに含まれる回線のうち、前記空き回線及び前記モニタ回線に保安器が接続され、保安器非接続の他の回線は、前記保安器によるサージ電流の放電による前記空き回線及び/又は前記モニタ回線の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下する請求項1に記載の電気転てつ機である。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記保安器非接続の他の回線として、前記電気モータの電源回線及び制御回線が含まれる請求項1又は請求項2に記載の電気転てつ機である。
【0011】
請求項4記載の発明は、定位・反位を示す信号を出力する回路制御器を備え、前記保安器非接続の他の回線として、前記回路制御器の電源回線及び信号出力回線が含まれる請求項1、請求項2又は請求項3に記載の電気転てつ機である。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記電気ケーブルに含まれる回線のうち前記空き回線を除く回線と前記モータ駆動・制御回路を含む電子回路との間がリレー又はトランスにより絶縁され、
前記保安器によるサージ電流の放電及び前記誘導により、前記電気ケーブルに含まれる前記空き回線を除く回線の電圧が前記リレー又はトランスによるサージ耐圧以下に低下する請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の電気転てつ機である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接続された電気ケーブルに含まれる回線のうち、空き回線に保安器が接続され、保安器非接続の他の回線は、保安器によるサージ電流の放電による空き回線の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下するので、所望の信号回線をこの誘導により電圧が低下する保安器非接続の他の回線とすることにより、保安器がショートして故障した場合に当該信号回線に誤信号を入出力させることなく、保安器を用いて当該信号回線に対しても雷害対策が施されるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る転てつ機の概要を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る転てつ機の回路部及び入出力回線を示す構成図である。
【図3】本発明の実験に適用したサージ電圧(Vs)波形図である。
【図4】本発明の実験結果を示すサージ電流(Is)波形図及び保安器接続回線(V)、保安器非接続回線(V)の電圧波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0016】
本実施形態においては、本発明に係る雷害対策が図1に示す電気転てつ機1に施される。
図1に示すように電気転てつ機1は、動作かん11、鎖錠かん12、サーボモータ13、転てつ機筐体14を備える。転てつ機筐体14内の回路部15には、サーボモータ13の駆動を制御するモータ駆動・制御回路、その動作状態をモニタリングして外部出力するモータモニタ回路、定位・反位を示す信号を出力する回路制御器等が搭載され、これらには多くの電子部品が使用されている。回路部15にコネクタ17a,17bを介して信号ケーブル18a、モータ電源ケーブル18bが接続される。また、回路部15には保安器16a,16bが装備される。また、電気転てつ機1の電源ON/OFFを切り替える押しボタン19が転てつ機筐体14の上面に設けられている。
転てつ機筐体14は、動作かん11及び鎖錠かん12を介してレールと導電状態にあるとともに、接地されている。
電気転てつ機は、雷によるサージ電圧印加の危険のほか、電車に電力を供給している架線が災害等により破断してレール等に接触してしまうことによる高電圧印加の危険がある。
【0017】
図2に転てつ機の回路部15上の構成及び入出力回線を示す。図2に示すように、回路部15にモータ駆動・制御回路20、モータモニタ回路21及び回路制御器22が搭載されている。また、モータ駆動・制御回路20及びモータモニタ回路21の所定の電極に導通する各接点23が設けられている。
【0018】
モニタ回線31は、伝送トランス41を介してモータモニタ回路21に接続されている。モニタ回線31と転てつ機筐体14との間に保安器16aが接続されている。
【0019】
モータ電源回線32は、電源トランス42を介してモータ駆動・制御回路20及びモータモニタ回路21に接続されている。
転てつ防護電源回線33は、防護リレー43を介して各接点23の所定の接点に接続されている。
制御回線34は、押しボタン19及び制御リレー44を介してモータ駆動・制御回路20及び各接点23の所定の接点に接続されている。
表示電源回線35及びKR36は回路制御器22に接続されている。表示電源回線35が回路制御器22の電源回線であり、KR36が回路制御器22の信号出力回線である。
モータ電源回線32、転てつ防護電源回線33、制御回線34、表示電源回線35及びKR36は、保安器に対しては非接続である。
【0020】
空き回線37は、電気転てつ機1その他の回路には接続されない。但し、空き回線37と転てつ機筐体14との間に保安器16bが接続されている。
【0021】
以上のモータ電源回線32は、図1に示すモータ電源ケーブル18bに構成される。その他のモニタ回線31、転てつ防護電源回線33、制御回線34、表示電源回線35、KR36及び空き回線37は、信号ケーブル18aに構成される。
【0022】
本実施形態における雷害対策は以上の通りであり、雷サージに対処するために以下の作用を利用する。
保安器非接続の他の回線32〜36は、保安器16a,16bによるサージ電流の放電による空き回線37及び/又はモニタ回線31の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下する。
かかる作用を裏付ける実験を次に示す。
【0023】
図3は、本実験に適用したサージ電圧波形図である。このサージ電圧波形(Vs)をサージ試験器により発生させ、互いに並設された保安器接続回線及び保安器非接続回線に印加し、その保安器接続回線の電圧(V)と、保安器非接続回線の電圧(V)の変化、サージ電流の変化(Is)を測定した。その測定結果は図4に示すとおりとなった。
【0024】
図4に示すように、保安器放電によりサージ電流(Is)は低下し、保安器接続回線の電圧(V)も低下する。また、保安器接続回線の電圧(V)の低下に誘導されて保安器非接続回線の電圧(V)も低下することが確認できた。
【0025】
以上のように一部の回線に保安器を接続すれば、その回線に並設された他の回線も平行導線電流間の誘導原理により誘導されて電圧が低下する。これを利用してすべての使用回線31〜36に雷害対策を施す。空き回線37は回路には接続されないため、これ自体は雷害対策する必要が無いが、上記誘導を起す元の導線として利用する。また、電車運行においてモニタ回線31の出力信号に基づく制御が存在しないため、モニタ回線31に保安器により雷害対策を施すとともに、モニタ回線31は上記誘導を起す元の導線として利用する。
【0026】
誘導が生じるか否かは、回線間のギャップや介在する物質の性質に依存する。保安器を接続した回線と、保安器に接続せず誘導によりサージ電圧を低下させる回線とは、近接して配置することが好ましい。したがって、これらの回線は同一ケーブルに構成するか、異なるケーブルに構成される場合は両ケーブル同士を近接配置する。
また、回線間に電磁シールド部材等の誘導を阻害する材料を介在させないことが好ましい。
【0027】
ケーブル構成を決めた後、予めの実験により電圧低下効果がどの程度得られるか測定しておき、全体として必要な電圧低下効果が得られるように保安器の放電開始電圧を選択することによってすべての使用回線31〜36に必要な雷害対策を施す。
本実施形態においては、電気ケーブル18a,18bに含まれる回線のうち空き回線37を除く回線31〜36とモータ駆動・制御回路20及びモータモニタ回路21を含む電子回路との間は、リレー又はトランスにより絶縁されており、一定のサージ耐圧を有する。すべての回線31〜37は、図2のラインBの位置でモータ駆動・制御回路20及びモータモニタ回路21を含む電子回路から絶縁されている。
保安器16a,16bによるサージ電流の放電及び誘導により、電気ケーブル18a,18bに含まれる空き回線37を除く回線31〜36の電圧がリレー又はトランスによるサージ耐圧以下に低下するように設定することで、電気転てつ機の電子回路を雷サージから保護することができる。
【0028】
例えば、保安器16a,16bの放電開始電圧を2kVとした場合に、30kVのサージ電圧の印加時に回線31〜36のすべての電位を10kV以下に抑えることができたとき、リレー又はトランスによるサージ耐圧が10kVであれば、かかる設定を採用することによってリレー又はトランスによる絶縁が破られず電気転てつ機1内の電子回路を30kVの雷サージ電圧から保護することができる電気転てつ機を構成することができる。
上記設定によれば、保安器16a,16bは2kVの耐圧を有し、電車電力用の電流等が転てつ機筐体14からモニタ回線31に回り込むことを2kVの電圧負荷まで阻止できる。
【0029】
保安器16a,16bがショートして故障しても、回線32〜36は、保安器に接続されていないので、これらの回線32〜36に誤信号を入出力させることは防がれる。
電車運行においてモニタ回線31の出力信号に基づく制御は存在しないため、保安器16aの故障に起因する電車運行システムの誤動作は防がれる。空き回線37の電位はシステム動作には影響は無く、保安器の故障に起因する誤動作要因は生じない。
【符号の説明】
【0030】
1 電気転てつ機
11 動作かん
12 鎖錠かん
13 サーボモータ
14 転てつ機筐体
15 回路部
16a,16b保安器
17a,17bコネクタ
18a 信号ケーブル
18b モータ電源ケーブル
19 押しボタン
20 モータ駆動・制御回路
21 モータモニタ回路
22 回路制御器
23 各接点
31 モニタ回線
32 モータ電源回線
33 転てつ防護電源回線
34 制御回線
35 表示電源回線
36 KR
37 空き回線
41 伝送トランス
42 電源トランス
43 防護リレー
44 制御リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータと、前記電気モータを駆動・制御するモータ駆動・制御回路とを備え、電源入力回線、信号の入出力回線及び空き回線を含む一又は二以上の電気ケーブルが接続された電気転てつ機であって、
前記電気ケーブルに含まれる回線のうち、前記空き回線に保安器が接続され、保安器非接続の他の回線は、前記保安器によるサージ電流の放電による前記空き回線の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下する電気転てつ機。
【請求項2】
前記電気ケーブルは、前記電気モータの動作状態が外部出力されるモニタ回線を含み、
前記電気ケーブルに含まれる回線のうち、前記空き回線及び前記モニタ回線に保安器が接続され、保安器非接続の他の回線は、前記保安器によるサージ電流の放電による前記空き回線及び/又は前記モニタ回線の電圧低下に誘導されてサージ電圧が低下する請求項1に記載の電気転てつ機。
【請求項3】
前記保安器非接続の他の回線として、前記電気モータの電源回線及び制御回線が含まれる請求項1又は請求項2に記載の電気転てつ機。
【請求項4】
定位・反位を示す信号を出力する回路制御器を備え、前記保安器非接続の他の回線として、前記回路制御器の電源回線及び信号出力回線が含まれる請求項1、請求項2又は請求項3に記載の電気転てつ機。
【請求項5】
前記電気ケーブルに含まれる回線のうち前記空き回線を除く回線と前記モータ駆動・制御回路を含む電子回路との間がリレー又はトランスにより絶縁され、
前記保安器によるサージ電流の放電及び前記誘導により、前記電気ケーブルに含まれる前記空き回線を除く回線の電圧が前記リレー又はトランスによるサージ耐圧以下に低下する請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の電気転てつ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−16413(P2011−16413A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161430(P2009−161430)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】