説明

電気錫めっき鋼帯の製造方法

【課題】 水平型電気錫めっきラインを用いた錫めっき鋼帯の製造方法を提供する。
【解決手段】 複数の水平型のめっきセルを有する水平型電気錫めっきラインを用いて、鋼帯に電気錫めっき処理を施すに当たり、複数のめっきセルのうち、少なくとも錫めっき付着量に応じて決定される必要セル数のめっきセルには、めっき液を供給し、かつめっき液を供給しないめっきセルを1つ以上設けてめっき処理を行う。必要セル数は、I/Q={K×(m×W×LS)/η}/Q(ここで、I:片面当たりのめっき全電流(A)=K×(m×W×LS)/η、なお、K:係数、m:目標の片面当たりの錫めっき付着量(g/m2 )、W:鋼帯幅(mm)、LS:鋼帯搬送速度(m/min)、η:陰極電流効率、Q:1セル当たりの整流器容量(A))で決定されるI/Q値より大きい整数のうちの最小値とする。めっき液を供給しない残りのめっきセルでは、鋼帯に水またはめっき液を噴霧することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の水平型のめっきセルを有する水平型電気錫めっきラインを利用した電気錫めっき鋼帯の製造方法に係り、とくにめっき浴中への鉄イオンの溶出防止、さらにはスラッジ発生の低減が可能となる電気錫めっき鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリキ等の電気錫めっき鋼帯を製造するための一つの設備として、水平型電気錫めっきラインがある。この水平型電気錫めっきラインでは、複数の水平型のめっきセルを連続的に配設し、これら複数のめっきセルにめっき液を満たし、該複数のめっきセルに鋼帯を連続的に通板し、めっき液に接する側の面に順次錫めっき層を被成する。図3に、水平型電気錫めっきラインの電気錫めっき装置(プレーター)の一例を示す。図3に示すプレーターでは、複数の水平型めっきセル10を連続的に配設した第一のめっきライン1と、複数の水平型めっきセル10を連続的に配設した第二のめっきライン2とを有し、鋼帯Sをまず第一のめっきライン1に通板して鋼帯Sの一方の面に錫めっきを施したのち、転回ロール31,32により反転した鋼帯Sを第二のめっきライン2に通板して鋼帯Sの他方の面に錫めっきを施すように構成されている。
【0003】
このような水平型電気錫めっきラインで使用される水平型のめっきセル10は、図2に示すようにめっきセル本体15内にめっき液19を満たし、めっき液19中に可溶性陽極18を配設するとともに、直流電源17と可溶性陽極18、通電ロール11とを導体16により接続して、通電ロール11とバックアップロール12とにより下面がめっき液19に接触するようにして鋼帯Sを搬送しながら、通電し、可溶性陽極18から錫を溶出させ、それをめっき液19に接触している鋼帯Sの下面に電析させるように構成されている。なお、可溶性電極18に代えて、不溶性電極を用い、錫イオンの供給を薬剤により行う場合もある。このような水平型電気錫めっきラインではめっき液として酸性のめっき液を使用しているが、酸性のめっき液に鋼帯が接触すると鋼帯から鉄イオンがめっき液中に溶出し、めっき液の鉄分濃度を上昇させる。めっき液中の鉄イオンの増加は、スラッジの生成を促進させて、錫イオンを浪費させる。
【0004】
例えば、ハロゲン浴では、鉄イオンの増加は、錫イオンの酸化を促進し、2価の錫イオンが4価の錫イオンとなりスラッジが生じる。また、メタンスルホン酸浴でも、鉄イオンの増加は、錫イオンの酸化を促進し、2価の錫イオンが4価の錫イオンとなりスラッジが生じるうえ、めっき適正電流密度範囲が狭くなり、そのため、めっき外観が劣化するとともに耐食性が劣化する。また、さらに鉄イオンの増加は光沢剤の雲点を低下させ、光沢剤同士が凝集しやすくなり、そのためめっき均一性を低下させる。そのため、鉄イオン除去装置を付設している設備もあるが、この装置は非常に高価な装置であるため製造コストの増大を招くという問題がある。
【0005】
これとは別に、例えば特許文献1には、酸性錫めっき浴での錫の電析開始前にめっき液に浸漬した鋼帯をカソードとして、アノードとの間に特定範囲の電流密度の電流を流し鋼帯の溶解を防止する方法が提案されている。特許文献1に記載された技術によれば、鉄イオンによるスラッジ生成量を大幅に低減することができるとしている。
【特許文献1】特開平10−237685公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、垂直型のめっきセルにおける鉄イオンの溶出抑制対策であり、本発明が対象としている水平型のめっきセルにおいて起こる鉄イオンの溶出とは、自ずから状況が異なり、特許文献1に記載された技術をそのまま水平型のめっきセルに適用することはできない。そのため、水平型めっきセルにおけるめっき効率の更なる向上のために、水平型めっきセルにおける独自の鉄イオンの溶出抑制策が熱望されていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑み、鋼帯からめっき液中への鉄イオンの溶出を抑制でき、さらにスラッジ発生の低減が可能な、水平型電気錫めっきラインを用いた錫めっき鋼帯の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、水平型電気錫めっきラインを用いた錫めっき鋼帯の製造におけるめっき液中への鉄イオンの溶出防止について、鋭意検討した。従来、このような水平型電気錫めっきラインでは、配設されている全てのめっきセル10にめっき液を満たし、そのうち目標の錫めっき付着量に応じて必要なセル数のめっきセルにだけ通電して錫めっきを行なっていた。しかし、酸性のめっき液に鋼帯が接触するだけで鋼帯から鉄イオンが溶出し、めっき液中の鉄イオン濃度を上昇させる。
【0009】
そこで、本発明者らは、通電を行なわないめっきセルには、セル本体にめっき液を供給しないようにすることが、めっき液中への鉄イオンの溶出防止に有効であることに思い至り、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)複数の水平型のめっきセルを有する水平型電気錫めっきラインを用いて、鋼帯に電気錫めっき処理を施し電気錫めっき鋼帯を製造するに当たり、前記電気錫めっき処理が、前記複数のめっきセルのうち、少なくとも錫めっき付着量に応じて決定される必要セル数のめっきセルにはめっき液を供給し、かつめっき液を供給しないめっきセルを1つ以上設けてめっき処理を行うことを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
【0010】
(2)(1)において、前記必要セル数が、一方の面の電気錫めっき処理における、次(1)式
I/Q={K×(m×W×LS)/η}/Q ………(1)
(ここで、I:片面当たりのめっき全電流(A)=K×(m×W×LS)/η、なお、K:係数、m:目標の片面当たりの錫めっき付着量(g/m2 )、W:鋼帯幅(mm)、LS:鋼帯搬送速度(m/min)、η:陰性電流効率、Q:1セル当たりの整流器容量(A))
で決定されるI/Q値より大きい整数のうちの最小値であることを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
【0011】
(3)(1)または(2)において、前記めっき液が、メタンスルホン酸めっき液であることを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記めっき液を供給しないめっきセルでは、前記鋼帯に水またはめっき液を噴霧することを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼帯からめっき液中への鉄イオンの溶出を抑制でき、スラッジ発生量を低減でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の錫めっき鋼帯の製造方法では、複数の水平型のめっきセルを有する通常の水平型電気錫めっきラインを用いて、鋼帯に電気錫めっき処理を施し電気錫めっき鋼帯を製造する。
本発明で使用する水平型電気錫めっきラインの電気錫めっき装置(プレーター)では、図1に示すように、複数の水平型めっきセル10を連続的に配設した第一のめっきライン1と、複数の水平型めっきセル10を連続的に配設した第二のめっきライン2とを有し、鋼帯Sをまず第一のめっきライン1に通板して鋼帯Sの一方の面に錫めっきを施したのち、転回ロール31,32により反転した鋼帯Sを第二のめっきライン2に通板して鋼帯Sの他方の面に錫めっきを施すように構成されている。なお、各めっきセル10へのめっき液の供給は、めっき液貯留タンク(図示せず)からポンプ等による汲上げ等により行ない、また、各めっきセル10からオーバーフローしためっき液はめっき液貯留タンクへ戻されるように構成されている。
【0014】
本発明では、複数のめっきセルのうち、少なくとも錫めっき付着量に応じて決定される必要セル数のめっきセルにはめっき液を供給し、かつめっき液を供給しないめっきセルを1つ以上設けて電気錫めっき処理を行う。このような状況の一例を模式的に図1に示す。図1に示す例では、プレーターは、10台の水平型めっきセル10a1,10b1,……10j1を連続的に配設した第一のめっきライン1と、10台の水平型めっきセル10a2,10b2,……10j2を連続的に配設した第二のめっきライン2とを有している。また、この例では各面の錫めっき付着量に応じて決定される、第一のめっきライン1と第二のめっきライン2における必要セル数をそれぞれ4とし、各ラインの4台、すなわち第一のめっきラインのめっきセル10g1,……10j1、および第二のめっきラインのめっきセル10a2,……10d2にのみめっき液が満たされている状態を示す。これにより、鋼帯とめっき液との不必要な接触が減少し、めっき液への鉄イオンの溶出が低減される。なお、実操業においては、鋼帯搬送速度や、板幅、錫めっき付着量が種々変更されるため、目標の錫めっき付着量を得るために必要なめっき全電流をカバーできるセル数のめっきセルへめっき液を供給することになる。それ以外のめっきセルには、めっき処理前にプレディップ処理を行うためにめっき液を供給してもよいが、本発明ではめっき液を供給しないめっきセルを1つ以上設けることとする。
【0015】
なお、めっき液を供給しないめっきセルでは、通板する鋼帯表面の乾き・汚れの発生を防止するため、当該セルを通板する際に鋼帯表面を湿潤状態に保持しておくことが好ましい。鋼帯表面を湿潤状態に保持するには、とくに、スプレーノズル20等により鋼帯表面に水またはめっき液を噴霧することが好ましい。めっき処理前の鋼帯には水を、めっき処理後の鋼帯にはめっき液を噴霧することが好ましい。というのは、めっき処理前の鋼帯表面は地鉄が露出しており、めっき液を噴霧すると噴霧後、排出されるめっき液中に鉄イオンが溶出し、めっき液貯留タンク内へ鉄イオンを持ち込むことになるためである。なお、噴霧した水は廃液として排出する。さらに、めっき処理後の鋼帯表面には鋼帯に付随して引き出されためっき液が付着しており、ドラッグアウトリンス設備またはカウンターリンス設備を配設して、鋼帯に付随して引き出されためっき液を回収することが望ましい。
【0016】
本発明は、pHが1以下である、鉄が溶出しやすいメタンスルホン酸めっき液を使用する場合にもっとも顕著な効果が期待できるが、本発明で使用するめっき液はメタンスルホン酸めっき液に限定されない。アルカンスルホン酸めっき液、あるいはpH3〜4のハロゲンめっき液を適用してもよいことは言うまでもない。
なお、本発明でいう、「錫めっき付着量に応じて決定される必要セル数」は、つぎのようにして算出するものとする。
【0017】
必要セル数は、一方の面の電気錫めっき処理における、次(1)式で決定されるI/Q値より大きい整数のうちの最小値とする。
I/Q={K×(m×W×LS)/η}/Q ………(1)
ここで、Iは、目標の片面当たりの錫めっき付着量を確保するための片面当たりのめっき全電流(A)であり、次式で定義される。
【0018】
I=K×(m×W×LS)/η
ここで、K:係数、m:目標の片面当たりの錫めっき付着量(g/m2 )、W:鋼帯幅(mm)、LS:鋼帯搬送速度(m/min)、η:陰極電流効率である。なお、係数Kは、ファラデーの電気分解の法則によって決定される値である。また、ηは錫の陰極電流効率であり、通常0.85〜0.95である。
【0019】
Qは、1セル当たりの整流器容量(A)であり、I/Q値が、目標の錫めっき付着量を確保するために必要なセル数となるが、実数となるため、I/Q値より大きい整数のうちの最小値を実際の必要セル数として定義した。
例えば、板幅Wが1000mmの鋼帯に、錫めっき付着量mを2.8g/m2 とし、鋼帯搬送速度LSを300m/min、1セル当たりの整流器容量Qが8000Aの場合には、K=0.0271、η=0.9とすると、I/Q=3.2となり、必要セル数は4となる。
【実施例】
【0020】
図1に示すような、10台の水平型のめっきセルを連続的に配設した第一のめっきラインと10台の水平型のめっきセルを連続的に配設した第二のめっきラインとを有する水平型電気錫めっきラインを利用して、冷延鋼帯に、目標の錫めっき付着量に応じて、通電するめっきセル数を変更して電気錫めっき処理を施し、錫めっき付着量の異なる電気錫めっき鋼帯を製造した。その際、めっき液としてはメタンスルホン酸めっき液を使用し、目標の錫めっき付着量に応じて決定される必要セル数に対応した数のめっきセルにめっき液を供給し、その他のめっきセルにはめっき液を供給しなかった。表1に電気錫めっき処理条件を示す。なお、めっき液を供給しなかっためっきセルでは、めっき処理前の鋼帯に水を、めっき処理後の鋼帯にはめっき液をそれぞれスプレーノズル20で噴霧した。また、全めっきセルにめっき液を供給した場合を従来例とした。なお必要セル数は(1)式を利用して求めたI/Q値から決定した。その際、K=0.0271を使用した。
【0021】
冷延鋼帯に上記した電気錫めっき処理を施した後にその都度、めっき液50μlを染み込ませた直径20mmのろ紙の鉄含有量を蛍光X線分析により測定し、めっき液中の鉄イオン濃度を求めて、従来例に対する比を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明例は、いずれも従来例に比べて溶出する鉄イオンは減少している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に使用する水平型電気錫めっきラインの電気錫めっき装置の構成の一例を模式的に示す概略図である。
【図2】水平型のめっきセルの構成の概略を示す模式図である。
【図3】従来の水平型電気錫めっきラインの電気錫めっき装置の構成の一例を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 第一のめっきライン
2 第二のめっきライン
31,32,33 転回ロール
10 10a1,10a2,… 水平型のめっきセル
11 11a1,11b1,…通電ロール
12 12a1,12a2,…バックアップロール
15 セル本体
16 導体
17 直流電源
18 可溶性陽極
19 めっき液
20 スプレーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の水平型のめっきセルを有する水平型電気錫めっきラインを用いて、鋼帯に電気錫めっき処理を施し電気錫めっき鋼帯を製造するに当たり、前記電気錫めっき処理が、前記複数のめっきセルのうち、少なくとも錫めっき付着量に応じて決定される必要セル数のめっきセルにはめっき液を供給し、かつめっき液を供給しないめっきセルを1つ以上設けて
めっき処理を行うことを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記必要セル数が、一方の面の電気錫めっき処理における、下記(1)式で決定されるI/Q値より大きい整数のうちの最小値であることを特徴とする請求項1に記載の錫めっき鋼帯の製造方法。

I/Q={K×(m×W×LS)/η}/Q ………(1)
ここで、I:片面当たりのめっき全電流(A)=K×(m×W×LS)/η、
Q:1セル当たりの整流器容量(A)、
なお、K:係数、m:目標の片面当たりの錫めっき付着量(g/m2 )、
W:鋼帯幅(mm)、LS:鋼帯搬送速度(m/min)、η:陰極電流効率
【請求項3】
前記めっき液が、メタンスルホン酸めっき液であることを特徴とする請求項1または2に記載の錫めっき鋼帯の製造方法。
【請求項4】
前記めっき液を供給しないめっきセルでは、前記鋼帯に水またはめっき液を噴霧することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の錫めっき鋼帯の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−348354(P2006−348354A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177218(P2005−177218)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】