説明

電気集じん機

【課題】コロナ放電を発生させた上で、火花放電の発生を防止し耐久性の高い電気集じん機を提供することを目的とする。
【解決手段】帯電部21と集じん部31と送風機2と高圧電源3とを備え、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が108〜1010Ω・cm2の半導電性セラミックスで構成された半導電板28を帯電部21の接地電極23の表面に配置する。また、帯電部21の放電電極22が、接地電極23に平行に配置された支持部26から突出した複数の針状電極27で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の浮遊粒子状物質を捕集し空気清浄を行うための電気集じん機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電気集じん機は、例えば特許文献1のようなものが知られている。以下、その電気集じん機について図8および図9を参照しながら説明する。
【0003】
図8に示すように、電気集じん機は帯電部81と集じん部82と送風ファン83と電子コントロールボックス84からなり、電子コントロールボックス84内に図示しない高圧電源と電気集じん機を制御する図示しない制御器を備えている。帯電部81と集じん部82は図9に示すように、帯電部81には高圧電源に接続された放電電極91と接地された接地電極92とが交互にお互いが接触せずに平行に一定の間隔を保って配置されている。また、同じように集じん部82には高圧電源に接続された荷電極板93と接地された接地極板94とが交互にお互いが接触せずに平行に一定の間隔を保って配置されている。高圧電源から高電圧を印加することで、帯電部81では高電圧の印加された放電電極91と接地された接地電極92との間でコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させ、集じん部82では高圧電源に接続された荷電極板93と接地された接地極板94との間で発生している電界により、帯電した浮遊粒子状物質が接地極板94に付着し捕集されることにより、空気中の浮遊粒子状物質を除去し、空気を清浄化することができる。
【特許文献1】特開平2−114286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の電気集じん機では、高電圧を印加した帯電部81の高圧電源に接続された放電電極91と接地された接地電極92、および集じん部82の高圧電源に接続された荷電極板93と接地された接地極板94は、それぞれ導電体が露出して対向しているため、印加電圧や空間の温湿度条件によっては火花放電が発生することがある。運転中に火花放電が発生すると、帯電部81の接地電極92および集じん部82の接地極板94に付着した可燃性物質が部分的に異常過熱され、接地電極92や接地極板94が熱により変形し耐久寿命が短くなるという課題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、コロナ放電量を確保した上で、火花放電の発生を防止し、耐久性の高い電気集じん機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気集じん機は、上記目的を達成するために、帯電部と集じん部と送風機と高圧電源とを備え、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が108〜1010Ω・cm2の半導電性セラミックスで構成された半導電板を帯電部の接地電極の表面に配置したものである。
【0007】
この手段により、帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させた上で、火花放電を防止し耐久性を確保することができる。
【0008】
また、他の手段は、半導電板が少なくとも酸化ジルコニウム、炭化珪素、酸化チタンのいずれかを主成分とする半導電性セラミックスで構成されたものである。
【0009】
これにより、火花放電を防止するための半導電性セラミックスの、単位面積当りの電気抵抗を容易に調整することができる。
【0010】
また、他の手段は、半導電板が酸化ジルコニウム63%以上、酸化第二鉄30%以上、酸化イットリウム5%以下を含有する半導電性セラミックスで構成されたものである。
【0011】
これにより、火花放電を防止するための半導電性セラミックスの、単位面積当りの電気抵抗を最適にすることができる。
【0012】
また、他の手段は、半導電板が、厚さが0.5〜5mmである半導電性セラミックスで構成されたものである。
【0013】
これにより、火花放電を防止するための半導電性セラミックスの、単位面積当りの電気抵抗を最適にすることができる。
【0014】
また、他の手段は、半導電板が絶縁性ネジによって帯電部の接地電極に固定されたものである。
【0015】
これにより、火花放電を確実に防止した上で、半導電板を帯電部の接地電極に確実に固定することができる。
【0016】
また、他の手段は、半導電板が導電性の接着剤または導電性の熱溶着フィルムによって帯電部の接地電極に貼付けられたものである。
【0017】
これにより、コロナ放電の電流値を確保した上で、半導電板を帯電部の接地電極に確実に固定することができる。
【0018】
また、他の手段は、帯電部の接地電極は導電性フィルムであって、半導電板は、導電性の接着剤または導電性の熱溶着フィルムによって導電性フィルムに貼付けられたものである。
【0019】
これにより、接地電極を軽量化することができる。
【0020】
また、他の手段は、帯電部の放電電極が、接地電極に平行に配置された支持部と、この支持部から突出した複数の針状電極で構成されたものである。
【0021】
これにより、コロナ放電の効率が向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部への印加電圧を下げることができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0022】
また、他の手段は、半導電板が対向する針状電極の先端本数と略同数に分割され、となり合う半導電板どうしの隙間には絶縁物が充填されたものである。
【0023】
これにより、半導電板の製造を容易に行うことができ、コストを安くすることができる。
【0024】
また、他の手段は、針状電極先端の曲面半径を0.1mm以下としたものである。
【0025】
これにより、コロナ放電の効率をさらに向上させることができる。
【0026】
また、他の手段は、帯電部に平行配置された放電電極と接地電極との距離Dに対し、針状電極の支持部からの突出長さHが、H/D=0.5〜1.5の範囲に設定されたものである。
【0027】
これにより、コロナ放電の効率をさらに向上させることができる。
【0028】
また、他の手段は、帯電部に平行配置された放電電極と接地電極との距離Dに対し、1つの支持部に配置されたとなり合う針状電極の針ピッチPが、P/D=1.0〜1.5の範囲に設定されたものである。
【0029】
これにより、コロナ放電の効率をさらに向上させることができる。
【0030】
また、他の手段は、帯電部の放電電極と接地電極との間にコロナ放電として流れる電流が所定の値となるように、高圧電源から供給される帯電部への印加電圧が制御されたものである。
【0031】
これにより、帯電部においてコロナ放電電流を適正化し、不要に高い印加電圧をかけることがないため、火花放電を確実に防止することができる。
【0032】
また、他の手段は、半導電板の耐電圧Vmと高圧電源から供給される帯電部への印加電圧Vaとの差K=Vm−Vaが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vaが制限されたものである。
【0033】
これにより、半導電板に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、半導電板の絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止することができる。
【0034】
また、他の手段は、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が1010Ω・cm2以上の樹脂フィルムまたは絶縁性セラミックスで構成された絶縁板を集じん部の荷電極板の表面に配置したものである。
【0035】
これにより、帯電部だけでなく、集じん部の火花放電も防止し耐久性を確保することができる。
【0036】
また、他の手段は、絶縁板の耐電圧Vnと高圧電源から供給される集じん部への印加電圧Vbとの差K=Vn−Vbが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vbが制限されたものである。
【0037】
これにより、絶縁板に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、絶縁板の絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、コロナ放電量を十分確保した上で、火花放電の発生を防止し耐久性の高い電気集じん機を提供できる。
【0039】
また、火花放電を確実に防止しコロナ放電の電流値を確保した上で、半導電板を帯電部の接地電極に確実に固定することができる。
【0040】
また、コロナ放電の効率が向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも帯電部への印加電圧を下げることができるとともに、コロナ放電電流を適正化し不要に高い印加電圧をかけることがないため、火花放電を確実に防止することができる。
【0041】
また、帯電部だけでなく、集じん部の火花放電も防止し耐久性を確保するという効果も奏する。
【0042】
また、半導電板および絶縁板に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止するという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の請求項1記載の発明は、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が108〜1010Ω・cm2の半導電性セラミックスで構成された半導電板を帯電部の接地電極の表面に配置することによって、帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させた上で、火花放電を防止し耐久性を確保するという作用を有する。
【0044】
本発明の請求項2記載の発明は、半導電板が少なくとも酸化ジルコニウム、炭化珪素、酸化チタンのいずれかを主成分とする半導電性セラミックスで構成されることによって、火花放電を防止するための半導電性セラミックスの、単位面積当りの電気抵抗を容易に調整できるという作用を有する。
【0045】
本発明の請求項3記載の発明は、半導電板が酸化ジルコニウム63%以上、酸化第二鉄30%以上、酸化イットリウム5%以下を含有する半導電性セラミックスで構成されることによって、火花放電を防止するための半導電性セラミックスの、単位面積当りの電気抵抗を最適にするという作用を有する。
【0046】
本発明の請求項4記載の発明は、半導電板が、厚さが0.5〜5mmである半導電性セラミックスで構成されることによって、火花放電を防止するための半導電性セラミックスの、単位面積当りの電気抵抗を最適にするという作用を有する。
【0047】
本発明の請求項5記載の発明は、半導電板が絶縁性ネジによって帯電部の接地電極に固定されたことによって、火花放電を確実に防止した上で、半導電板を帯電部の接地電極に確実に固定するという作用を有する。
【0048】
本発明の請求項6記載の発明は、半導電板が導電性の接着剤または導電性の熱溶着フィルムによって帯電部の接地電極に貼付けられたことによって、コロナ放電の電流値を確保した上で、半導電板を帯電部の接地電極に確実に固定するという作用を有する。
【0049】
本発明の請求項7記載の発明は、帯電部の接地電極は導電性フィルムであって、半導電板は、導電性の接着剤または導電性の熱溶着フィルムによって導電性フィルムに貼付けられたことによって、接地電極を軽量化できるという作用を有する。
【0050】
本発明の請求項8記載の発明は、帯電部の放電電極が、接地電極に平行に配置された支持部と、この支持部から突出した複数の針状電極で構成されることによって、コロナ放電の効率が向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部への印加電圧を下げることができ、火花放電を確実に防止できるという作用を有する。
【0051】
本発明の請求項9記載の発明は、半導電板が対向する針状電極の先端本数と略同数に分割され、となり合う半導電板どうしの隙間には絶縁物が充填されたことによって、半導電板の製造を容易に行うことができ、コストを安くできるという作用を有する。
【0052】
本発明の請求項10記載の発明は、針状電極先端の曲面半径を0.1mm以下とすることによって、コロナ放電の効率をさらに向上させるという作用を有する。
【0053】
本発明の請求項11記載の発明は、帯電部に平行配置された放電電極と接地電極との距離Dに対し、針状電極の支持部からの突出長さHが、H/D=0.5〜1.5の範囲に設定されたことによって、コロナ放電の効率をさらに向上させるという作用を有する。
【0054】
本発明の請求項12記載の発明は、帯電部に平行配置された放電電極と接地電極との距離Dに対し、1つの支持部に配置されたとなり合う針状電極の針ピッチPが、P/D=1.0〜1.5の範囲に設定されたことによって、コロナ放電の効率をさらに向上させるという作用を有する。
【0055】
本発明の請求項13記載の発明は、帯電部の放電電極と接地電極との間にコロナ放電として流れる電流が所定の値となるように、高圧電源から供給される帯電部への印加電圧が制御されることによって、帯電部においてコロナ放電電流を適正化し、不要に高い印加電圧をかけることがないため、火花放電を確実に防止できるという作用を有する。
【0056】
本発明の請求項14記載の発明は、半導電板の耐電圧Vmと高圧電源から供給される帯電部への印加電圧Vaとの差K=Vm−Vaが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vaが制限されることによって、半導電板に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、半導電板の絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止するという作用を有する。
【0057】
本発明の請求項15記載の発明は、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が1010Ω・cm2以上の樹脂フィルムまたは絶縁性セラミックスで構成された絶縁板を集じん部の荷電極板の表面に配置したことによって、帯電部だけでなく、集じん部の火花放電も防止し耐久性を確保するという作用を有する。
【0058】
本発明の請求項16記載の発明は、絶縁板の耐電圧Vnと高圧電源から供給される集じん部への印加電圧Vbとの差K=Vn−Vbが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vbが制限されることによって、絶縁板に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、絶縁板の絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止するという作用を有する。
【0059】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0060】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電気集じん機の断面構成図、図2は本発明の実施の形態1における帯電部と集じん部の斜視構成図、図3は本発明の実施の形態1における帯電部の詳細図で、図3(a)は図2におけるA方向矢視平面図、図3(b)は図2におけるB方向矢視断面図、図4は本発明の実施の形態1における集じん部荷電極板の断面図である。
【0061】
図1に示すように、ダクト1内に、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部21と、帯電された浮遊粒子状物質を捕集する集じん部31とを備え、集じん部31の下流には、ダクト1内に浮遊粒子状物質を含んだ空気を引き込むための送風機2を備えている。3は、帯電部21と集じん部31に高電圧を供給する高圧電源で、電流検知器4と制御器5に電気的に接続されている。
【0062】
つぎに、図1における動作を説明する。送風機2の吸引によって、ダクト1内に流入した浮遊粒子状物質を含む空気は、帯電部21を通過する際にコロナ放電により浮遊粒子状物質が帯電され、集じん部31の電界のクーロン力によって極板に捕集、除去され、清浄空気となって送風機2から機外へ排出される。この時、帯電部21および集じん部31へは、高圧電源3から直流高電圧(例えば、帯電部21へは−8kV、集じん部31へは−8kV)が供給され、これらの制御は制御器5によって行われる。
【0063】
図2は帯電部21と集じん部31の斜視構成図であり、帯電部21は高電圧を印加する放電電極22とアースに接続された接地電極23が空気の流れ方向(矢印方向)に平行に積層配置されており、集じん部31は高電圧を印加する荷電極板32とアースに接続された接地極板33(一例としてステンレス板)が空気の流れ方向(矢印方向)に平行に積層配置されている。図2においては、帯電部21の放電電極22と接地電極23との隙間、および集じん部31の荷電極板32と接地極板33との隙間を矢印の如く空気が流れ、帯電部21において放電電極22と接地電極23との間に発生したコロナ放電(本実施の形態1ではマイナス放電)によって空気中の浮遊粒子状物質が負電位に帯電され、集じん部31において荷電極板32(本実施の形態1では負極)と接地極板33(本実施の形態1では正極)との間に発生した電界によって、負電位に帯電した浮遊粒子状物質がクーロン力により接地極板33(正極)に付着し捕集される。
【0064】
図3は帯電部の詳細図であり、図3(a)A方向矢視平面図は図2においてA方向から放電電極22を見た平面図、図3(b)B方向矢視断面図は図2においてB方向から放電電極22と接地電極23を見た断面図である。図3(a)A方向矢視平面図に示すように、放電電極22は空気の流れ方向の上流部24から下流部25にかけて複数個(本実施の形態1では2個)配置された支持部26(一例としてステンレス板)に針状電極27(一例としてステンレス針)がそれぞれ複数個、突出して溶接などにより取り付けられている。また、図3(b)B方向矢視断面図に示すように、接地電極23(一例としてステンレス板)の表面には、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が108〜1010Ω・cm2の半導電性セラミックスで構成された半導電板28が配置されている。半導電板28は、本実施の形態1では、絶縁性ネジ41によって接地電極23に固定されている。絶縁性ネジ41を用いた理由は、もし導電性ネジで接地電極23に固定した場合は、導電性ネジと針状電極27との間で火花放電が発生する可能性があり、これを防止するためである。すなわち、絶縁性ネジ41を用いることによって、火花放電を確実に防止した上で半導電板28を接地電極23に確実に固定することができる。
【0065】
ここで、半導電板28を接地電極23表面に配置することによって、火花放電を防止する作用について説明する。通常、接地電極23が導電性ステンレス板の生地のままであると、コロナ放電中に空気の絶縁破壊が起きた時に、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づき、集中して電流が流れ火花放電が発生する。一方、接地電極23の表面に半導電板28を配置した場合は、もし、コロナ放電中に空気の絶縁破壊が起き、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づいた時でも、半導電板28の抵抗が直列にあるため、他の箇所の抵抗(空気抵抗+半導電板抵抗)と比べて抵抗値の差が少なく、電流を分散させ一箇所に集中して電流が流れずに火花放電の発生を防止することができる。この時、半導電板28の電気抵抗は、大きすぎるとコロナ放電を十分行うことができず、また、小さすぎると前述の電流を分散させ火花放電を防止する効果がなくなる。
【0066】
半導電板28の物性としては、電気抵抗を表す体積抵抗率(単位体積当りを流れる電気の抵抗(Ω・cm))が一般的であり、火花放電を防止する効果と相関があるが、半導電板28の厚さにも関係がある。すなわち、本質を言えば、半導電板28の厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗(つまり、体積抵抗率に厚さをかけた値。以降、面積抵抗率(Ω・cm2)と呼ぶ)を適正範囲に設定することが肝要である。本発明者らは、この面積抵抗率の値を、108〜1010Ω・cm2とすることが最適であるということを見出した。この範囲は、例えば0.5mmの半導電板28では、体積抵抗率が2×109〜2×1011Ω・cmに、また、5mmの半導電板28では、体積抵抗率が2×108〜2×1010Ω・cmに相当する。
【0067】
半導電板28の材質は、前述の面積抵抗率を得ることができれば何でもよいが、樹脂材料を用いた場合は、高電圧をかけた時に高分子材料が経年的に劣化し、いずれは絶縁破壊を起こして所望の機能を果さない可能性があるため、本発明においては、半導電性セラミックスを用いている。セラミックスは電気抵抗を調整することが難しいが、少なくとも酸化ジルコニウム、炭化珪素、酸化チタンのいずれかを主成分とするセラミックスを用いることにより、所望の面積抵抗率108〜1010Ω・cm2を得ることができる。最適の材質は、酸化ジルコニウム63%以上、酸化第二鉄30%以上、酸化イットリウム5%以下を含有したものである。この時の半導電板28の厚さは0.5〜5mmが最適である。これは、0.5mmよりも薄いと、セラミックスを成形することが難しく、5mmよりも厚いと、体積抵抗率を小さくする必要がありセラミックスでは電気抵抗を調整することが難しいためである。
【0068】
つぎに、針状電極27の構成について説明する。図3に示すように、放電電極22は接地電極23に平行に配置された支持部26の端面に突起状の針状電極27を長手方向に複数個並べたもので、針の先端が尖っていることにより、コロナ放電の電荷が集中し、コロナ放電効率を向上させることができる。針状電極27先端の曲面半径は0.1mm以下とすることが望ましい。これにより、帯電部21で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部21への印加電圧を下げることができ、火花放電をさらに確実に防止することができる。本実施の形態1では、放電電極22と接地電極23との距離Dに対し、針状電極27の支持部26からの突出長さHが、H/D=0.5〜1.5の範囲に設定されている。また、放電電極22と接地電極23との距離Dに対し、1つの支持部26に配置されたとなり合う針状電極27の針ピッチPが、P/D=1.0〜1.5の範囲に設定されている。このH/DおよびP/Dの値は、大きすぎるとコロナ放電の単位面積当りの密度が低くなりコロナ放電効率が低下し、小さすぎても針状電極27と支持部26およびとなり合う針状電極どうしの放電が干渉してかえってコロナ放電効率が低下する。本発明者らは、H/D=0.5〜1.5、P/D=1.0〜1.5の範囲がコロナ放電の効率が最も良好であることを見出した。これにより、コロナ放電の効率がさらに向上し、帯電部21で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部21への印加電圧をさらに下げることができ、火花放電をさらに確実に防止することができる。
【0069】
つぎに、高圧電源3による帯電部21への印加電圧制御について述べる。図1に示すように、高圧電源3には電流検知器4が接続されており、コロナ放電量を適正にするためには、帯電部21への供給電流を電流検知器4で測定し、所定の値(一例として10mA)となるように、制御器5によって帯電部21への印加電圧を制御している。これにより、帯電部21においてコロナ放電電流を適正化し、不要に高い印加電圧をかけることがないため、火花放電を確実に防止することができる。また、本実施の形態1では、半導電板28の耐電圧Vmと高圧電源から供給される帯電部21への印加電圧Vaとの差K=Vm−Vaが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vaが制限されている。一例を述べると、半導電板28としての半導電性セラミックスの耐電圧がVm=15kVの場合、印加電圧をVa≦10kVに制御することにより、K=Vm−Vaが常に5kV以上の安全率を確保することができる。この安全率は高ければ高いほど望ましいが、半導電性セラミックスの物性に関わる耐電圧によっても左右され、コストを勘案した合理的な数値が決定されるものである。これにより、半導電板28に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、半導電板28の絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止することができる。
【0070】
図4は、集じん部31の荷電極板32の断面図である。図4を参照しながら、集じん部31の火花放電を防止する手段について説明する。集じん部31の荷電極板32(一例としてステンレス板)表面には、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗(面積抵抗率)が1010Ω・cm2以上の樹脂フィルム(一例としてPET、PP、PVDFなど)または絶縁性セラミックス(一例としてアルミナ)などで構成された絶縁板34を配置している。絶縁板34は、図3の帯電部21と同様、絶縁性ネジによって接地極板33に固定してもよいし、図4に示すように熱溶着フィルム35(絶縁性でも導電性でもいずれでも可)によって接地極板33に固定してもよい。通常、荷電極板32が導電性ステンレス板の生地のままであると、空気の絶縁破壊が起きた時に、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づき、集中して電流が流れ火花放電が発生する。一方、荷電極板32の表面に絶縁板34を配置した場合は、もし、空気の絶縁破壊が起き、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づいた時でも、絶縁板34の抵抗が直列にあるため、他の箇所の抵抗(空気抵抗+絶縁板抵抗)と比べて抵抗値の差が少なく、電流を分散させ一箇所に集中して電流が流れずに火花放電の発生を防止することができる。集じん部31の役割は、荷電極板32と接地極板33との間に発生した電界によって、帯電した浮遊粒子状物質がクーロン力により接地極板33に付着、捕集させるもので、帯電部21と違いコロナ放電を行う必要がないため、前述の絶縁板34の面積抵抗率は1010Ω・cm2以上あれば集じん部31も火花放電を防止する効果を奏する。
【0071】
また、本実施の形態1では、絶縁板34の耐電圧Vnと高圧電源から供給される集じん部31への印加電圧Vbとの差K=Vn−Vbが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vbが制限されている。一例を述べると、絶縁板34の耐電圧がVn=25kVの場合、印加電圧をVb≦10kVに制御することにより、K=Vn−Vbが常に15kV以上の安全率を確保することができる。この安全率は高ければ高いほど望ましいが、絶縁板34の物性に関わる耐電圧によっても左右され、コストを勘案した合理的な数値が決定されるものである。これにより、絶縁板34に耐電圧以上の電圧がかかることがないため、絶縁板34の絶縁破壊に起因する火花放電を確実に防止することができる。
【0072】
以上の構成により、コロナ放電量を十分確保し集じん効率を高めた上で、運転中に火花放電が発生し接地電極23や接地極板33に付着した可燃性物質が部分的に異常過熱され、接地電極23や接地極板33が熱により変形することがないため、電気集じん機の耐久性を高めることができるものである。
【0073】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における電気集じん機の帯電部の詳細図で、図5(a)は図2におけるA方向矢視平面図、図5(b)は図2におけるB方向矢視断面図である。図1〜図3と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0074】
図5に示すように、半導電板28は導電性の熱溶着フィルム51によって帯電部21の接地電極23に貼付けられている。あるいは、導電性の熱溶着フィルム51に代わって、導電性の接着剤で貼付けてもよい。貼付手段として導電性材料を用いた理由は、帯電部21でコロナ放電に必要な電流を、接地電極23に流す必要があるためである。この方式は、ネジによる締結に比べて、自動化設備で半導電板28を貼付けることができるため、大量生産する場合の製造コストを安価にすることができる。これにより、コロナ放電の電流値を確保した上で、半導電板28を接地電極23に確実に固定することができるものである。
【0075】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3における電気集じん機の帯電部の詳細図で、図6(a)は図2におけるA方向矢視平面図、図6(b)は図2におけるB方向矢視断面図である。図1〜図3、図5と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0076】
図6に示すように、半導電板28は、対向する針状電極27の先端本数と略同数に分割され、となり合う半導電板28どうしの隙間には絶縁物61が充填されている。半導電板28として用いる半導電性セラミックスは、一般に面積の広い薄板形状の成形が難しく、小さい面積に分割した方が生産歩留りも向上し、製造コストを安価にすることができる。ただし、半導電板28を分割すると、その隙間に導電性の接地電極23が露出するため、その部分で火花放電が起こる可能性がある。そこで、本実施の形態3では、となり合う半導電板28どうしの隙間に絶縁物61(一例としてシリコン)が充填されている。なお、半導電板28の分割数を、対向する針状電極27の先端本数と略同数にした理由は、針状電極27先端から遠くコロナ放電電流密度が低い箇所に、コロナ放電電流が流れない絶縁物61を配置することによって、コロナ放電量の減少を最小限にするためである。
【0077】
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4における電気集じん機の帯電部の詳細図で、図7(a)は図2におけるA方向矢視平面図、図7(b)は図2におけるB方向矢視断面図である。図1〜図3、図5と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0078】
図7に示すように、半導電板28は導電性の熱溶着フィルム51によって帯電部21の接地電極23に貼付けられている。あるいは、導電性の熱溶着フィルム51に代って、導電性の接着剤で貼付けてもよい。ここで、本実施の形態4では、接地電極23として導電性フィルム71(一例として導電性PVDF、100μm)を用いている。半導電板28として0.5〜5mmの半導電性セラミックスを用いた場合は、半導電板28が剛体となり強度を保持するため、接地電極23は電気を通す機能があればよく、ステンレス板を使わなくても薄い導電性フィルム71を用いることにより、接地電極23を軽量化することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、空気中の浮遊粒子状物質に可燃性物質が含まれている場合の空気清浄方式として有効であり、集じん効率を確保した上で、火花放電を発生させずに耐久性の高い電気集じん機を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態1の電気集じん機を示す断面構成図
【図2】同帯電部と集じん部の斜視構成図
【図3】同帯電部の詳細図((a)同図2のA方向矢視平面図、(b)同図2のB方向矢視断面図)
【図4】同集じん部荷電極板の断面図
【図5】本発明の実施の形態2の電気集じん機を示す帯電部の詳細図((a)同図2のA方向矢視平面図、(b)同図2のB方向矢視断面図)
【図6】本発明の実施の形態3の電気集じん機を示す帯電部の詳細図((a)同図2のA方向矢視平面図、(b)同図2のB方向矢視断面図)
【図7】本発明の実施の形態4の電気集じん機を示す帯電部の詳細図((a)同図2のA方向矢視平面図、(b)同図2のB方向矢視断面図)
【図8】従来の電気集じん機の断面構成図
【図9】従来の電気集じん機の原理を示す図
【符号の説明】
【0081】
2 送風機
3 高圧電源
21 帯電部
22 放電電極
23 接地電極
26 支持部
27 針状電極
28 半導電板
31 集じん部
32 荷電極板
33 接地極板
34 絶縁板
41 絶縁性ネジ
51 熱溶着フィルム
61 絶縁物
71 導電性フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極と接地電極とを空気の流れ方向に平行に積層配置し空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部と、荷電極板と接地極板とを空気の流れ方向に平行に積層配置し前記帯電部で帯電された空気中の浮遊粒子状物質を捕集する集じん部と、前記帯電部と前記集じん部内に浮遊粒子状物質を含んだ空気を流入させる送風機と、浮遊粒子状物質を捕集するために前記帯電部と前記集じん部に高電圧を供給する高圧電源とを備え、厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が108〜1010Ω・cm2の半導電性セラミックスで構成された半導電板を前記帯電部の前記接地電極の表面に配置した電気集じん機。
【請求項2】
半導電板は、少なくとも酸化ジルコニウム、炭化珪素、酸化チタンのいずれかを主成分とする半導電性セラミックスで構成された請求項1記載の電気集じん機。
【請求項3】
半導電板は、酸化ジルコニウム63%以上、酸化第二鉄30%以上、酸化イットリウム5%以下を含有する半導電性セラミックスで構成された請求項1記載の電気集じん機。
【請求項4】
半導電板は、厚さが0.5〜5mmである半導電性セラミックスで構成された請求項1〜3のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項5】
半導電板は、絶縁性ネジによって帯電部の接地電極に固定された請求項1〜4のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項6】
半導電板は、導電性の接着剤または導電性の熱溶着フィルムによって帯電部の接地電極に貼付けられた請求項1〜4のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項7】
帯電部の接地電極は導電性フィルムであって、半導電板は、導電性の接着剤または導電性の熱溶着フィルムによって前記導電性フィルムに貼付けられた請求項6記載の電気集じん機。
【請求項8】
帯電部の放電電極は、接地電極に平行に配置された支持部と、この支持部から突出した複数の針状電極で構成された請求項1〜7のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項9】
半導電板は、対向する針状電極の先端本数と略同数に分割され、となり合う前記半導電板どうしの隙間には絶縁物が充填された請求項8記載の電気集じん機。
【請求項10】
針状電極は、先端の曲面半径が0.1mm以下である請求項8または9記載の電気集じん機。
【請求項11】
帯電部に平行配置された放電電極と接地電極との距離Dに対し、針状電極の支持部からの突出長さHが、H/D=0.5〜1.5の範囲に設定された請求項8〜10のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項12】
帯電部に平行配置された放電電極と接地電極との距離Dに対し、1つの支持部に配置されたとなり合う針状電極の針ピッチPが、P/D=1.0〜1.5の範囲に設定された請求項8〜10のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項13】
帯電部の放電電極と接地電極との間にコロナ放電として流れる電流が所定の値となるように、高圧電源から供給される前記帯電部への印加電圧が制御された請求項1〜12のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項14】
半導電板の耐電圧Vmと高圧電源から供給される帯電部への印加電圧Vaとの差K=Vm−Vaが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vaが制限された請求項13記載の電気集じん機。
【請求項15】
厚さ方向に流れる電流に対する単位面積当りの電気抵抗が1010Ω・cm2以上の樹脂フィルムまたは絶縁性セラミックスで構成された絶縁板を集じん部の荷電極板の表面に配置した請求項1〜14のいずれかに記載の電気集じん機。
【請求項16】
絶縁板の耐電圧Vnと高圧電源から供給される集じん部への印加電圧Vbとの差K=Vn−Vbが、常に所定値以上を確保するように印加電圧Vbが制限された請求項15記載の電気集じん機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−208041(P2009−208041A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56131(P2008−56131)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】