説明

電気音響変換器用振動板の製造方法、およびそれによって作成された振動板、並びにその振動板を備えた電気音響変換器

【課題】従来パルプでは実現困難であった高弾性率を有し剛性面に優れ、バクテリアセルロースに比べ安価、かつ容易に製造できる電気音響変換器用振動板の製造方法、それによって作製された振動板を提供する。また、上記電気音響変換器用振動板を用いることで、バクテリアセルロース繊維を用いた振動板より再生周波数帯域をより高域側へ広げることができ、高域特性に優れ音質が良好な電気音響変換器を提供する。
【解決手段】本発明では、まず木材をパルプ化し、TEMPO酸化処理してTEMPO酸化セルロースを生成し、前記TEMO酸化セルロースを液状の分散媒体に分散させ、その振動板の原料となる振動板素体を所定形状に成形する成形工程を経て振動板を作製し、その振動板を用いて電気音響変換器を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2、2、6、6−テトラメチルペピリジニル−1−オキシラジカル(TEMPO)により酸化されたセルロース繊維を用いた電気音響変換器用振動板の製造方法、およびその製造方法によって作製された振動板並びにその振動板を備えた電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロホンやスピーカ等は、磁気回路、ボイスコイルおよび振動板等を有し、ボイスコイルおよび磁気回路によって電気信号を機械的な振動に変換し、それを振動板に伝達し音として放射する電気音響変換器である。このような電気音響変換器に用いられる振動板には、全体として位相、振幅の揃った動作が求められるが、高域では振動板が共振、分割振動することで周波数特性に凹凸を生じ、かつ音圧が徐々に低下する。振動板の共振や分割振動をなるべく高い周波数まで起こらないようにし、周波数特性が平坦な領域を広げるためには、振動板の剛性を上げることが必要とされる。
【0003】
電気音響変換器用振動板の剛性は、形状および素材の弾性率等に起因し、弾性率を向上させると高域限界周波数が高くなり、歪みも低下するため、振動板の弾性率は高域再生に重要な要素である。
【0004】
電気音響変換器用振動板の素材としては、紙、金属、樹脂など様々なものが用いられているが、それらの中で紙は低密度で形状の自由度が高く、前処理やサイズ剤などによって小ロットで物性を調整できるため、スピーカのような電気音響変換器用の振動板として古くから使用されている。また、天然素材で環境対応性も優れ、供給量が多いためコストも低く抑えられるという利点もある。
【0005】
しかしながら、セルロース繊維を主成分とした紙製振動板は剛性面で問題があるため、強化用繊維として例えばカーボン繊維やアラミド繊維等を混抄したりするが、セルロース繊維と接着させるためにバインダーを入れる必要があり、製法が煩雑となり、かつ添加物により所望の物性が得難く、紙製振動板本来の音質も損なわれる。
【0006】
そこで、セルロース繊維を主体とする紙製振動板の特性を維持しつつ剛性を高め、再生周波数帯域を広くしたものとしてバクテリアセルロースを主体とした振動板が開発されるに至った。このバクテリアセルロースとは、酢酸菌のような微生物によって生成される微生物セルロースで、結晶性の高いセルロースで構成されるため、良好な剛性が得られる(特許文献1)。
【0007】
また、さらに物性を改善すべくバクテリアセルロースからなるシートに、、他のシートを積層したもの(特許文献2)や、バクテリアセルロース中にカーボンナノチューブを添加し強化したもの(特許文献3)等がある。
【0008】
本発明者は、自然界に多く存在する木材のセルロース繊維を用い、紙製振動板本来の特質を生かしつつ高弾性率を有し、かつ製造が容易で経済性にも優れ、一般に広く普及させることのできる振動板の研究を重ねた。その研究過程で、有機合成において、酸化反応の触媒として用いられる、2、2、6、6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシラジカル(以下、TEMPOともいう)によってパルプのセルロースを酸化させ、TEMPO酸化セルロースを生成する技術に着目した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−281800号公報
【特許文献2】特許第3073608号
【特許文献3】特許第3827153号
【特許文献4】特開2008−001728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記において、バクテリアセルロースを主体とした振動板は高弾性であるものの、その原料となる酢酸菌は好気性菌のため、有機物や無機塩類等を含む培地で酸素を供給しつつ培養しなければならず、手間を要し、かつ、生成に時間もかかるなどし非常に高価となるため、広く普及させることは難しく、一部の高級機への使用にとどまっている。
【0011】
これに対し、TEMPO酸化セルロースは自然界に多く存在する木材のパルプを原料とするため、入手が容易であり、かつ電気音響変換器用振動板とすると好適であることを本発明者は見出した。
【0012】
本発明はこのようなことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、従来パルプでは実現困難であった高弾性率を有し剛性面に優れ、バクテリアセルロースに比べ安価、かつ容易に製造できる電気音響変換器用振動板の製造方法、それによって作製された振動板を提供することにある。
【0013】
また、上記電気音響変換器用振動板を用いることで、バクテリアセルロース繊維を用いた振動板より再生周波数帯域をより高域側へ広げることができ、高域特性に優れ音質が良好な電気音響変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、TEMPO酸化セルロースを液状の分散媒体に分散させ、その振動板の原料となる分散液を所定形状に成形する成形工程を経て振動板を作製することを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記分散液に下記(a)〜(f)、
(a)TEMPO酸化セルロース以外の、パルプやセルロースの少なくとも一方
(b)紙としての一般的な薬材として、耐水性を付与するためのサイズ剤や紙力剤の少なくとも一方
(c)所定の物性を得るための前記分散媒に可溶なポリマー
(d)強化剤としての粒子または繊維状のフィラー
(e)所定の物性を得るための粘土鉱物
(f)繊維間で結合させるために、カルボキシル基と相互作用する陽イオン、好ましくは2価以上の正電荷又は2以上の配意数を有するイオン
の添加物の少なくともいずれか一以上または全てを添加して振動板を作製することを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記成形工程は前記分散液を直接所定形状に成形する、
または、
(g)流延、塗布、滴下、もしくは撒布して乾燥させる工程
(h)濾過して成形する工程
(i)エレクトロスピニングで繊維化し堆積させる工程
のいずれかにより、シート状、フィルム状もしくは構造体に成形し、振動板を作製することを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記振動板の原料となる分散液を、前記原料とは組成の異なる振動板形状に成形済みまたは未成形のシート、フィルム、もしくは構造体に、流延、塗布、滴下もしくは撒布し振動板を作製することを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記振動板の原料となる分散液を、前記原料とは組成の異なる振動板形状に成形済みまたは未成形のシート、フィルムもしくは構造体に含浸し振動板を作製することを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記振動板の原料となる分散液を、振動板形状に成形後、他の成形体に積層させ振動板を作製することを特徴とする。
請求項7記載の発明に係る振動板は、請求項1〜6いずれか1項記載の製造方法によって作製されたことを特徴とする。
請求項8記載の発明に係る電気音響変換器は、請求項7記載の振動板を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、培養設備を用いて時間と手間のかかる微生物培養工程が不要で、自然界に多く存在するパルプを原料とするTEMPO酸化セルロースを用いて振動板とするため、バイオセルロースを用いるものに比べ製造が容易で生産性に優れ、経済的である。また、TEMPO酸化セルロース繊維は親水性の繊維で液状の分散液に容易に分散させることができ、通常パルプとの混抄時に分散性に優れ不均一化しにくく、製造が容易で、バラツキがなく安定した製品(振動板)を作製し得る。また、木材由来のセルロースであるため、カーボンニュートラル(使用サイクルの中で大気中の二酸化炭素を増大させない)であり、環境性に優れている。
【0016】
本発明の振動板によれば、パルプを主原料とするため、入手が容易で安価であり、また、結晶性が高く繊維長の長いセルロースミクロフィブリルを高い割合で有するTEMPO酸化セルロースを用いることで高弾性率を実現することができる。
【0017】
本発明の電気音響変換器によれば、結晶性が高く繊維長の長いセルロースミクロフィブリルを高い割合で有するTEMPO酸化セルロースを用いることで、振動板は高弾性率で剛性が向上し、再生周波数帯域をより高域側へ広げることができ、良好な音質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る振動板の製造工程例を示す。
【図2】本発明の振動板素材の具体的な一製造例をを示す。
【図3】(a)、(b)は本発明の振動板原料を型上に滴下して成型する例を示す。
【図4】本発明に用いられる型の一例を示す。
【図5】本発明で用いられる濾過する工程の一例を示す。
【図6】本発明でのエレクトロスピニング法の一例を示す。
【図7】本発明での分散液を用いて成形した振動板の一例の断面図を示す。
【図8】本発明で製造されたコーン状の振動板の一例を示す。
【図9】本発明で製造された振動板が組み込まれた電気音響変換器の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電気音響変換器用振動板は、木材パルプのセルロースをTEMPOにより酸化して形成したTEMPO酸化セルロースを含む。TEMPOは、2、2、6、6−テトラピペリジンを酸化して得たもので、有機合成において、再酸化剤、酸化反応の触媒として機能し、本発明ではセルロースの酸化に用い、TEMPO酸化セルロースを得、これを振動板素材の主成分とした。TEMPO酸化セルロースは結晶性が高く、かつ耐熱性にも優れている。木材のセルロース繊維は、繊維と繊維が水素結合によって強固に結合されているため、これを均一にほぐすことは困難であったが、TEMPOを用いることにより容易にほぐすことができセルロースナノファイバーとすることができる。TEMPO酸化セルロースは、製造する際に少なくとも一度、例えば水のような液状の分散媒中にナノファイバーとして分散させる。
【0020】
パルプの原料となる木材は、セルロースとリグニン、ヘミセルロースなどからなる。パルプ化ではセルロース以外の成分はかなり取り除かれるが、リグニン、ヘミセルロースなどは残存し、これらは紙の強度に大きく影響を与える。
【0021】
上記TEMPO酸化セルロースは、パルプ中の結晶性の高いセルロースミクロフィブリル表面を選択的に酸化し、カルボキシル化することでミクロフィブリル同士の乖離を容易にする。これにより、セルロースミクロフィブリルの結晶性を維持したままでヘミセルロースや結晶性の低いセルロースなど、セルロースミクロフィブリル以外の成分を除去することができる。
【0022】
本発明は、これを分散媒中にナノファイバーとして分散させた後、例えばフィルム化するなどして成形して電気音響変換器用振動板を形成する。
【0023】
このようにして製造した電気音響変換器用振動板の引張試験および動的粘弾性測定(DMA)を行ったところ、バクテリアセルロースを上回る高い弾性率が得られることが確認できた。また、木材パルプを原料とし、温和な条件で反応させることができるため、バクテリアセルロースに比べて製造が容易であり、製造コストを大幅に低減することができる。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1(a)〜(d)は、本発明の第1実施例に係る電気音響変換器用振動板の製造方法を示す工程図である。本発明にかかる振動板のそもそもの主原料は木材である。この木材はセルロースとリグニン、ヘミセルロースなどからなる。木材のチップは、蒸解工程、洗浄・脱水工程等を介しパルプ化される。この過程でセルロース以外のかなりの成分は除去されるが、リグニン、ヘミセルロース等は残存する。
【0026】
次に、パルプをTEMPO触媒を用いてTEMPO酸化処理する。すなわち、水中にパルプを分散し、TEMPOを酸化反応の触媒として投入し、これによってパルプのセルロース繊維を酸化させ、TEMPO酸化セルロースを生成する。パルプのセルロース繊維はナノファイバーであるセルロースミクロフィブリルの集合体で、TENPO触媒を用いてパルプを酸化するとセルロースミクロフィブリル表面の1級水酸基を選択的にカルボキシル基に変換し、ミクロフィブリル同士の乖離を容易にし完全ナノ分散が可能となり、TEMPO酸化セルロースが生成される。そして、この過程でセルロースミクロフィブリル以外の成分は除去され純度が高まる。
【0027】
本発明では、図1(a)に示すように、生成されたTEMPO酸化セルロースを、(b)に示す分散工程により、水のような液体からなる分散媒中にナノファイバーとして少なくとも一回以上分散させ、ナノファイバー化させる。この分散工程は、スクリュー型ミキサーのような回転可能な攪拌翼を内部に有する槽内に所定量の分散媒を注入し、そこに所定量のTEMPO酸化セルロースを投入し、所定時間攪拌する。一例としては、水を含むTEMPO酸化パルプを、パルプ濃度が0.1〜1wt%となるよう水に入れ、スクリュー型ミキサーで、攪拌することで分散させる。この場合、TEMPO酸化セルロースは親水性を有するため、分散性が良い。この分散液が振動板の原料となる。このTEMPO酸化セルロースナノファイバーはカーボンナノチューブに次ぐ細さである。上記振動板の原料となる分散液に、必要に応じ下記(ア)〜(カ)のような種々の添加物を混入しても良く、これによって振動板として必要とされる所望の物性を得ることができる。
(ア)TEMPO酸化セルロース以外の、パルプやセルロース(少なくとも一方)。ここでパルプとしては、例えば針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、非木材系パルプ等の適宜のものが用いられる。セルロースとしては、例えば植物、バクテリアセルロースが用いられる。
(イ)紙としての一般的な薬材として、耐水性を付与するためのサイズ剤や紙力剤(少なくとも一方)
(ウ)特異な物性を得るために、PVC(ポリ塩化ビニル)やPVA(ポリビニルアルコール)等の溶液または分散媒に可溶なポリマー
(エ)強化用の粒子または繊維状のフィラー
(オ)所望の物性を得るための粘土鉱物
(カ)繊維間で結合させるために、カルボキシル基と相互作用する陽イオン、好ましくは2価以上の正電荷または2以上の配意数を有するイオン
【0028】
上記添加物は、単独でも良いし、選択的な組み合わせでも良く、全てを含んでも良い。
【0029】
この振動板素体を、(c)、(d)の工程で示すように、適形状の成形型を用い直接平板状、コーン状等のような目的形状に成形し振動板を作製すれば良い。
【0030】
この振動板の作製は、電気音響変換器の製造で用いられる従前の抄紙工程を適用しても良い。あるいは下型と上型間の所定の振動板形状をなすチャンバーに分散液を注入し、それを乾燥させるなどして成形することができる。乾燥は型内にヒータを設けるなどし、ヒータを通電して加熱することにより容易に乾燥させることができる。なお、その他の乾燥手段を用いても良いことは勿論である。
【0031】
あるいは、分散液をシート状、フィルム状または薄い構造体に成形しても良い。この成形は下記(キ)〜(ケ)のいずれかの手段によって実現できる。
(キ)分散液を、所定の装置上に流延すなわち流す、塗布、滴下、あるいは撒布し、乾燥させる
(ク)分散液を濾過して成形する
(ケ)分散液をエレクトロスピニングで繊維化し堆積させる
【0032】
図2は上記(キ)のうち、分散液をベルト上に流延し、薄い構造体からなる振動板素体をロール状に巻き取る装置および製造工程の一例を示す。
【0033】
この装置は、分散液1が注入されたタンク20と、このタンク20のノズル20aから流された分散液1を網状のベルト面21’に受ける第一のベルト装置21と、ベルト面21’上に流延されたパルプウェップを押しつけてフェルトを脱水しシート状にする回転可能なローラー22と、シート状のものを乾燥装置24へ搬送する第2のベルト装置23と、乾燥されたものを巻き取る巻き取り用のローラー25とを備えている。
【0034】
タンク20には、特に図示しないが分散液1を攪拌し、均一化を図る攪拌装置を設けると好ましい。
【0035】
第1のベルト装置21は、特に図示しないがベルト面21’上に流延された分散液1を真空引きする真空引き装置が設けられる。また、ベルト駆動用のローラー21aや適箇所に補助ローラー21bが設けられる。
【0036】
第2のベルト装置23にも、ベルト駆動ローラー23a、補助ローラー23bが設けられ、かつ適位置に、例えば内蔵されたヒーターや送風手段を介し熱風を送出する乾燥装置24が設けられる。
【0037】
振動板素材の作製にあたっては、まずタンク20内に分散液1を注入し、ノズル20aを介して分散液1を網状のベルト面21’に流し、真空で引きながらパルプウェップを形成し、太線で示すフェルトをローラー22で押しつけて脱水しシート状にする。
【0038】
それを第2のベルト装置23へ移し、乾燥装置24を介しての乾燥工程を経た後、薄い振動板素体を巻き取り用のローラー25へ巻き取る。
【0039】
図2の例では、乾燥装置24を有する第2のベルト装置23を用いているが、第1のベルト装置21の回転方向延長上に乾燥装置24を設け、第2のベルト装置23を省略することも可能であることは勿論である。
【0040】
図3(a)、(b)は、ノズル3を介し型2の上面に分散液1を滴下した状態を示す。撒布の場合はノズル3を介し分散液1を噴出させれば良い。
【0041】
型形状は例えば図4に示すようなコーン状の型1Aを用いても良い。その他の形状の型を用いても良いことは勿論である。
【0042】
図5は上記(ク)に対応する工程説明図で、分散液1をフィルター4を介し濾過し、フィルター4上に成形する一例を示す。
【0043】
図6は上記(ケ)のエレクトロスピニング法の一例を示す。この場合、分散液にポリマーを混入し、ポリマー溶液とする。5はポリマー入りの分散液が収容された容器、5aはその吐出口、1Bは所定形状の型体、6は高圧発生器で、この高圧発生器6を介して例えば容器5をプラス、型体1Bをマイナスに帯電する。そして、エレクトロスピニングが生じる高電圧に達すると、容器5を介してプラスに帯電された分散液は容器5の吐出口5aから出て例えば円錐形の液滴を形成し、細流となって流出し、ナノファイバー状態に繊維化されて飛行線1aで示すように、マイナスに帯電された型体1Bの平坦型面1bに向けて飛散し、型面14上に堆積する。
【0044】
図7は、分散液1を所定の型を介してバランスドライブ型のスピーカ用振動板11Aに成型した例を示す。この振動板11Aは、中央部のドーム型振動板部11aと、その外周に形成されたコーン型振動板部11bとを備えている。
【0045】
上述のようにしてシート状、フィルム状もしくは薄い構造体とした後に、それを積層一体化させたり、およびもしくは所望形状の成形型を用いプレス成型するなどし更に目的形状に成形したりして振動板を作製し得る。
【0046】
振動板の原料となる分散液を、前記分散液とは組成が異なる既に適形状の振動板に成形済みのもの、または所定の振動板形状に未成形であって、前記分散液とは組成の異なる(例えばPETフィルム、アルミなど)シート、フィルムもしくは薄い構造体に塗布、滴下、撒布し、それを乾燥させ、フィルムシートを成形するなどし、振動板を作製することもできる。
【0047】
振動板の原料となる分散液を、これとは組成が異なる(例えば布、ナノファイバーを含まない普通の紙)既に適形状の振動板に成形済みのもの、または所定の振動板形状に未成形であって、前記分散液とは組成の異なる(例えばPETフィルム、アルミなど)シート、フィルムもしくは薄い構造体に含浸させ、それを乾燥させ成形し振動板を作製することもできる。
【0048】
振動板の原料となる分散液をシート状、フィルム状もしくは薄い構造体とした成形体を、同種のあるいは他の組成(例えばPETフィルム、アルミなど)からなるシート、フィルム、薄い構造体に貼付け一体化して振動板を作製することもできる。
【0049】
図9は、上記実施例で説明したような工程で製造した振動板を用いた電気音響変換器の一例を示す。この例ではコーン状の振動板を備えた例を示す。図中11は振動板、12は円筒状のボビン、13はダンパー、14はほぼ円錐状のフレーム、15は磁気回路、16はエッジ、17はダストカバーである。
【0050】
上記構成の電気音響変換器によれば、TEMPO酸化セルロースを含んでなる高弾性率の振動板を用いることで、安価でありながら再生周波数帯域をより高域側へ広げることができ、音質が良好となる。
【0051】
なお、上記例では円錐状振動板を用いた汎用型のスピーカに適用する場合を例として説明したが、本例に限定されるものではなく、平面状等、種々の形状の振動板を備えた電気音響変換器に適用できるのは勿論である。また、本発明は上記例に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 分散液
1a 飛行線
1b 平坦型面
1A、1B 型
2 型
3 ノズル
4 フィルター
5 容器
5a 吐出口
6 高圧発生器
11 振動板
12 ボイスコイル
13 ダンパー
14 型面
15 磁気回路
16 エッジ
20 タンク
20a ノズル
21 第1のベルト装置
21a 駆動用ローラー
21b 補助ローラー
21’ ベルト面
22 ローラー
23 第2のベルト装置
23a 駆動用ローラー
23b 補助ローラー
24 乾燥装置
25 巻き取り用のローラー








【特許請求の範囲】
【請求項1】
TEMPO酸化セルロースを液状の分散媒体に分散させ、その振動板の原料となる分散液を所定形状に成形する成形工程を経て振動板を作製することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記分散液に下記(a)〜(f)、
(a)TEMPO酸化セルロース以外の、パルプやセルロースの少なくとも一方
(b)紙としての一般的な薬材として、耐水性を付与するためのサイズ剤や紙力剤の少なくとも一方
(c)所定の物性を得るための前記分散媒に可溶なポリマー
(d)強化剤としての粒子または繊維状のフィラー
(e)所定の物性を得るための粘土鉱物
(f)繊維間で結合させるために、カルボキシル基と相互作用する陽イオン、好ましくは2価以上の正電荷又は2以上の配意数を有するイオン
の添加物の少なくともいずれか一以上または全てを添加して振動板を作製することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記成形工程は前記分散液を直接所定形状に成形する、
または、
(g)流延、塗布、滴下、もしくは撒布して乾燥させる工程
(h)濾過して成形する工程
(i)エレクトロスピニングで繊維化し堆積させる工程
のいずれかにより、シート状、フィルム状もしくは構造体に成形し、振動板を作製することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記振動板の原料となる分散液を、前記原料とは組成の異なる振動板形状に成形済みまたは未成形のシート、フィルムもしくは構造体に、流延、塗布、滴下もしくは撒布し振動板を作製することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記振動板の原料となる分散液を、前記原料とは組成の異なる振動板形状に成形済みまたは未成形のシート、フィルムもしくは構造体に含浸し振動板を作製することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記振動板の原料となる分散液を、振動板形状に成形後、他の成形体に積層させ振動板を作製することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載の製造方法によって作製されたことを特徴とする電気音響変換器用振動板。
【請求項8】
請求項7記載の振動板を備えてなることを特徴とする電気音響変換器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−42405(P2013−42405A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178717(P2011−178717)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】