説明

電池の製造方法

【課題】製造工数を増大させることなく、導電性液体を電極に十分に含浸させることができる電池の製造方法を提供する。
【解決手段】発電要素109に導電性液体を注液してなる電池10を製造する方法であって、前記導電性液体を構成することとなる粘度の異なる複数の注入液を準備する工程と、準備した前記注入液を粘度の低い液から順に前記発電要素109に注液する注液工程とを有することを特徴とする電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池容器内に電解液を注液して電池を製造する方法において、電解液を電解質濃度の異なる複数の注入液に分けて注液することで、電解液の飛び散りによる電極の腐食反応を防止する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−203120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、初めに注液される注入液に粘度の高い有機溶媒を高い比率で混合しているため、電解液を電極に十分に浸透させるためには、減圧環境下で電池を長期間放置する必要があり、製造コストの増加に繋がっていた。特に、薄型で大面積の電池は、注液の際に電解液が電極の面方向に浸透するのに時間がかかる傾向があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、製造工数を増大させることなく、導電性液体(電解液等)を電極に十分に含浸させることができる電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、導電性液体(電解液等)を粘度の異なる複数の注入液に分け、これら注入液を粘度の低い液から順に発電要素に注液することで、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電性液体(電解液等)を粘度の異なる複数の注入液に分け、これら注入液のうち粘度の低い液から順に発電要素に注液することで、導電性液体(電解液等)の電極への浸透を短い時間でできるため、電池の製造工数を増大させることなく導電性液体(電解液等)を電極に十分に浸透させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
≪第1実施形態≫
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0009】
図1は第1実施形態における電池10の全体を示す平面図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。
【0010】
図1、図2は一つの電池10(単位電池、セルともいう)を示し、この電池10を複数積層することにより所望の電圧、容量の組電池が構成される。
【0011】
まず図1および図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る電池10の全体構成について説明する。本実施形態の電池10はリチウム系の薄型二次電池であり、図2に示すように、2枚の正極板101と、5枚のセパレータ102と、2枚の負極板103と、正極端子104と、負極端子105と、上部電池外装106と、下部電池外装107と、特に図示しない電解液(導電性液体に相当する)とから構成されている。このうちの正極板101、セパレータ102、負極板103を特に発電要素109と称する。
【0012】
なお、正極板101、セパレータ102、負極板103の枚数には何ら限定されず、1枚の正極板101、3枚のセパレータ102、1枚の負極板103でも発電要素109を構成することができる。必要に応じて正極板101、負極板103およびセパレータ102の枚数を選択して構成することができる。
【0013】
発電要素109を構成する正極板101は、金属酸化物などの正極活物質に、カーボンブラックなどの導電材と、ポリ四フッ化エンチレンの水性ディスパージョンなどの接着剤とを、重量比でたとえば100:3:10の割合で混合したものを、正極側集電体としてのアルミニウム箔などの金属箔の両面に塗着、乾燥させ、圧延したのち所定の大きさに切断したものである。なお、上記のポリ四フッ化エチレンの水性ディスパージョンの混合比率は、その固形分である。
【0014】
正極活物質としては、例えばニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)などのリチウム複合酸化物や、カルコゲン(S、Se、Te)化物を挙げることができる。
【0015】
発電要素109を構成する負極板103は、例えば非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、または黒鉛などのように、正極活物質のリチウムイオンを吸蔵および放出する負極活物質に、有機物焼成体の前駆体材料としてのスチレンブタジエンゴム樹脂粉末の水性ディスパージョンをたとえば固形分比100:5で混合し、乾燥させたのち粉砕することで、炭素粒子表面に炭化したスチレンブタジエンゴムを担持させたものを主材料とし、これに、アクリル樹脂エマルジョンなどの結着剤をたとえば重量比100:5で混合し、この混合物を、負極側集電体としてのニッケル箔或いは銅箔などの金属箔の両面に塗着、乾燥させ、圧延したのち所定の大きさに切断したものである。
【0016】
特に負極活物質として非晶質炭素や難黒鉛化炭素を用いると、充放電時における電位の平坦特性に乏しく放電量にともなって出力電圧も低下するので、通信機器や事務機器の電源には不向きであるが、電気自動車等の電源として用いると急激な出力低下がないので有利である。
【0017】
また、発電要素109のセパレータ102は、上述した正極板101と負極板103との短絡を防止するもので、電解液を保持する機能を備えてもよい。セパレータ102は、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン等から構成される微多孔性膜であり、過電流が流れると、その発熱によって膜の空孔が閉塞され電流を遮断する機能をも有する。
【0018】
なお、セパレータ102は、ポリオレフィンなどの単層膜にのみ限られず、ポリプロピレン層をポリエチレン層でサンドイッチした三層構造や、ポリオレフィン微多孔膜と有機不織布などを積層したものも用いることができる。セパレータ102を複層化することで、過電流の防止機能、電解質保持機能およびセパレータの形状維持(剛性向上)機能などの諸機能を付与することができる。
【0019】
以上の発電要素109は、上から正極板101と負極板103とが交互に、且つ当該正極板101と負極板103との間にセパレータ102が位置するような順序で積層され、さらに、その最上部及び最下部にセパレータ102が一枚ずつ積層されている。そして、2枚の正極板101のそれぞれは、正極側集電部104aを介して、金属箔製の正極端子104に接続される一方で、2枚の負極板103は、負極側集電部105aを介して、同じく金属箔製の負極端子105に接続されている。なお、正極端子104も負極端子105も電気化学的に安定した金属材料であれば特に限定されないが、正極端子104としてはアルミニウムやアルミニウム合金などを挙げることができ、負極端子105としてはニッケル、銅またはステンレスなどを挙げることができる。また、本例の正極側集電部104aも負極側集電部105aの何れも、正極板104および負極板105の集電体を構成するアルミニウム箔やニッケル箔、銅箔を延長して構成されているが、別途の材料や部品により当該集電部104a,105aを構成することもできる。
【0020】
電解液は、有機液体溶媒に過塩素酸リチウム(LiClO)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)などのリチウム塩を溶質として溶解させた液体である。
【0021】
有機液体溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、プロピオン酸メチル(MP)等のエステル系溶媒を挙げることが出来る。なお、本発明の有機液体溶媒はこれに限定されることなく、エステル系溶媒に、γ−ブチラクトン(γ−BL)やジエトキシエタン(DEE)、1,2−ジメトキシエタン(DME),テトラヒドロフラン(THF)、1,3ジオキソラン(DOL)等のエーテル系溶媒その他を混合、調合した有機液体溶媒を用いることも出来る。
【0022】
上部電池外装106及び下部電池外装107は、発電要素109、正極側集電部104a、正極端子104の一部、負極側集電部105aおよび負極端子105の一部を包み込む。これら上部電池外装106および下部電池外装107は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、アルミニウムなどの金属箔の両面をポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂でラミネートした、樹脂−金属薄膜ラミネート材など、柔軟性を有する材料で形成されている。上部電池外装106の外周縁部のうち長辺側の一対の端部と、下部電池外装107の外周縁部のうちの長辺側の一対の端部とを熱融着することにより、図1に示す電池外装端部108a,108bが形成される。また、同様に、上部電池外装106の外周縁部のうち短辺側の一対の端部と、下部電池外装107の外周縁部のうちの短辺側の一対の端部とを熱融着することにより、図1に示す電池外装端部108c,108dが形成される。
【0023】
図1、図2に示されるように、電池外装106,107の電池外装端部108cから、正極端子104の一部が導出するが、正極端子104の厚さ分だけ上部電池外装106と下部電池外装107との接合部に隙間が生じるので、電池10内の封止性を維持するために、当該正極端子104と電池外装106,107とが接触する部分に、ポリエチレンやポリプロピレンから構成されたシールフィルム110を熱融着などの方法により介在させることもできる。
【0024】
同様に、電池外装106,107の電池外装端部108dからは、負極端子105が導出するが、ここにも正極端子104側と同様に、当該負極端子105と電池外装106,107とが接触する部分にシールフィルム111を介在させることもできる。なお、正極端子104および負極端子105の何れにおいても、シールフィルム110,111は電池外装106,107を構成する樹脂と同系統の樹脂から構成することが熱融着性の点から望ましい。
【0025】
次に、電池10の製造方法の一例を説明する。
【0026】
(1)まず、電解液を発電要素109に注液する前の電池中間体10aを形成する。図3は、電池中間体10aを開口部方向から見た側面図である(図1の電池外装端部108a側から見た図に相当する)。
【0027】
まず、正極端子104および負極端子105を接続した発電要素109を作成する。次に、作成した発電要素109を、出力端子104,105の先端を外部に導出させた状態で、上部電池外装106および下部電池外装107によって包み込む。このとき、正極端子104と上部電池外装106および下部電池外装107とが接触する部分にシールフィルム110を介在させる一方で、負極端子105と上部電池外装106および下部電池外装107とが接触する部分にシールフィルム111を介在させる。そして、上部電池外装106および下部電池外装107の外周縁部のうち、短辺側の2辺と長辺側の1辺を熱プレスにより熱融着して封止し、図1に示す電池外装端部108b,108c,108dを形成する。これにより、電池中間体10aの外装は、図3に示すように、熱融着されれば電池外装端部108aとなり得る部分を開口部とする袋状の形状となる。すなわち、図3は、図1の電池外装端部108a側から見た電池中間体10aを示す図に相当する。
【0028】
以上のように、図3に示すような電池中間体10aが形成される。電池中間体10aを開口部側の側面から見た場合、電池中間体10aの開口部が開口しており、上部電池外装106と下部電池外装107により形成された内部空間に発電要素109が載置されている。
【0029】
(2)次に、電池中間体10aを用いて電池10を製造する。
【0030】
図4は、第1実施形態における電池中間体10aを用いた電池10の製造工程を説明するための工程図である。本実施形態では、図4に示すように、第1工程から第7工程を順に実施することで電池10が形成される。
【0031】
第1工程では、発電要素109に注液する複数の注入液の調製を行う。これらの注入液は、これらの注入液を全て併せると、目標とする組成の電解液を構成することとなる液である。本実施形態においては、第1注入液および第2注入液の2つの注入液を調製する。第1注入液は、第2注入液よりも粘度が低い液とする。
【0032】
具体的には、第1注入液は、第2注入液よりも粘度が低ければ何でもよいが、例えば、低粘度有機溶媒を主として含む液である。低粘度有機溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)や、エチルメチルカーボネート(EMC)等の有機溶媒の中でも相対的に粘度が低い溶媒が挙げられる。また、第1注入液は、支持塩を含む方が好ましい。支持塩としては、上述したように、過塩素酸リチウム(LiClO)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)等のリチウム塩が挙げられる。
【0033】
また、第2注入液は、第1注入液よりも粘度が高ければ何でもよいが、例えば、高粘度有機溶媒を主として含む液である。高粘度有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の有機溶媒の中でも相対的に粘度が高い有機溶媒が挙げられる。第2注入液は支持塩を含んでもよいが、第2注入液の支持塩の濃度は、第1注入液の支持塩の濃度よりも低い濃度とする。
【0034】
なお、注入液の構成は特に限定されない。例えば、第1注入液に、相対的に粘度の高い高粘度有機溶媒を一部含めてもよく、反対に、第2注入液に、相対的に粘度の低い低粘度有機溶媒を一部含めてもよい。
【0035】
第2工程では、第1工程で準備した第1注入液を電池中間体10aの開口部から発電要素109に注液する。
【0036】
第3工程では、電池外装106,107により形成された電池中間体10aの内部空間を真空引きし、この減圧環境下で電池中間体10aを所定時間放置する。なお、真空引きの方法は特に限定されず、一般的なものでよい。
【0037】
第4工程では、第1工程で準備した第2注入液を電池中間体10aの開口部から発電要素109に注液する。第2注入液を注液する量は、第1注入液と第2注入液を併せた場合に、目標とする組成の電解液が構成される量とする。
【0038】
なお、第3工程においては電池中間体10aの開口部が開口している状態で、所定時間減圧環境下で電池中間体10aを放置するため、第1注入液に含まれる低粘度有機溶媒が揮発してしまい、第1注入液の量が減ってしまう場合がある。そのため、予測される揮発量分の低粘度有機溶媒を、予め第2注入液に加えておくことで、最終的に目標とする組成の電解液が構成されるように調整できる。
【0039】
第5工程では、第1注入液および第2注入液が注液された電池中間体10aの容器内を再び真空引きし、この減圧環境下で電池中間体10aを所定時間放置する。なお、本実施形態の第3,5工程は、本発明の含浸工程に相当する。
【0040】
第6工程では、封止されていない電池中間体10aの開口部を、減圧環境下で熱プレスを用いて熱融着し、図1に示す電池外装端部108aを形成する。これにより、電池中間体10aの開口部が閉塞され、発電要素109および電解液は電池10の内部に密封され、電池10が形成される。
【0041】
第7工程では、電池10の初充電を行う。電池10と図示しない充放電装置を電気的に接続して、電池10に所定の条件で電圧を印加することにより、電池10の充電が行われる。
【0042】
以上のように電池10は製造される。初めに注液される第1注入液の低粘度有機溶媒は、他の有機溶媒と比べると、相対的に粘度が低い有機溶媒であるため、相対的に短い時間で発電要素109に浸透できる。そのため、第1注入液に支持塩を溶解させておけば、相対的に粘度の低い第1注入液が発電要素109へ浸透するのと同時に、支持塩も発電要素109に短い時間で浸透することができる。その結果、相対的に粘度が高い第2注入液の注液後の含浸工程(第5工程)における含浸時間を短くした場合であっても、初充電の際に電極101,103での電流の偏りが生じず、電極101,103での化学反応を均一に行うことができる。つまり、本実施形態においては、複数の注入液のうち相対的に粘度の低い第1注入液に支持塩を溶解させておくことにより、初充電の際に電極101,103での電流の偏りを生じさせることなく、注入液全体として必要な含浸時間を短縮することができる。
【0043】
また、相対的に粘度の低い第1注入液を発電要素109に浸透させた後に、相対的に粘度の高い第2注入液を発電要素109に注液することで、相対的に粘度の高い第2注入液も発電要素109に浸透しやすくなるため、より短い含浸時間で注入液全体を発電要素109に浸透させることができる。
【0044】
さらに、第1実施形態においては、第1注入液および第2注入液の注液後に、電解液を発電要素109に含浸させる工程(第3,5工程)を行っている。このように第1、第2注入液を注液した電池中間体10aを減圧環境下で所定時間放置することにより、第1、第2注入液をより短い時間で発電要素109に浸透させることができる。
【0045】
なお、電池外装106,107により形成された電池中間体10aの内部空間を真空引きし、減圧環境とした状態のままで、第1注入液を発電要素109に注液する工程(第2工程)から電池中間体10aの開口部の封止を行う工程(第6工程)までを行ってもよい。これらの工程を減圧環境下で行うことにより、電解液をより短い時間で発電要素109に浸透させることができる。
【0046】
≪第2実施形態≫
本発明の第2実施形態による電池10の製造方法について説明する。図5は第2実施形態における電解液注液前の電池中間体10a製造後の電池10の製造工程を説明するための工程図である。図5に示すように、第2実施形態は、第2注入液の注液後の含浸工程(第1実施形態の第5工程)を行わない点以外は、第1実施形態と同じである。
【0047】
つまり、第2実施形態では、注入液を調製し(第1工程)、第1注入液を発電要素109に注液する(第2工程)。そして、電池外装106,107により形成された電池中間体10aの内部空間を真空引きし、減圧環境下で所定時間放置することで、第1注入液を発電要素109に含浸させる(第3工程)。その後、第2注入液を発電要素109に注液する(第4工程)。ここまでは、第1実施形態と同じである。しかし、第2実施形態では、この後、第2注入液を発電要素109に含浸させる工程を行わずに、電池中間体10aの開口部を減圧環境下で熱融着して封止し(第5工程)、電池10を形成し、電池10の充電を行うこと(第6工程)で電池10を製造する。
【0048】
以上のように、第2実施形態では、第3工程において、支持塩を含む第1注入液を発電要素109に十分に含浸させるため、第2注入液注液後の含浸工程(第1実施形態の第5工程)を省いても、第1注入液に支持塩が含まれていることにより、初充電の際に電極での電流の偏りを生じることなく、電池10の製造工数を短縮することができる。
【0049】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、正負電極やセパレータの材料、電池サイズ、電解質や有機溶媒の材質や組成などはすべて例示であり、上記のものに限らない。
【0050】
さらに、例えば、上述した実施形態では、粘度の異なる2つの注入液を用いて本発明の実施形態の例を説明したが、注入液の数を3つ以上としてもよい。例えば、注入液を3つ以上とした場合、支持塩を最も粘度の低い注入液のみならず、次に粘度の低い注入液にも溶解させる等としてもよい。この場合、注入液の支持塩の濃度を、当該注入液の後に注液される他の注入液の支持塩の濃度よりも高い濃度としておくことが好ましい。こうすることにより、当該注入液を発電要素109に浸透させれば、他の注入液の含浸時間を短くしても、初充電において、電極101,103での電流の偏りを生じさせることなく、電極101,103を均一に反応させることができる。
さらに、上述した実施形態では、溶媒と支持塩とからなる電解液を導電性液体として用い本発明の実施形態の例を説明したが、導電性液体は電解液に限定されず、イオン導電性を有するものであれば何でも良く、イオン液体などの溶媒を含まない導電性液体でも良い。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施の形態をより具体的にした実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
≪実施例1≫
まず、上述の第1実施形態と同様にして、電池中間体10aを作製した。
【0053】
これとは別に、低粘度有機溶媒であるジメチルカーボネート(DMC)に、支持塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を2.0Mになるように溶解させて混合した第1注入液を調製した。また、高粘度有機溶媒であるエチレンカーボネート(EC)からなる第2注入液を調製した。
【0054】
次いで、第1注入液を発電要素109に注液し、電池外装106,107により形成される電池中間体10aの内部空間を真空引きし、所定時間減圧環境下で放置した。なお、本実施例では、減圧環境下での放置時間(含浸時間)が異なる複数の電池サンプルを作製し、含浸時間と含浸状態との関係の評価を行った。
【0055】
含浸工程後、電池中間体10aの容器内を常圧に戻し、第2注入液を発電要素109に注液した。これにより電池中間体10a内の発電要素109に注液された液は、第1注入液および第2注入液を併せて、ジメチルカーボネート(DMC):エチレンカーボネート(EC)が1:1の有機溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)が1.0Mで溶解している電解液となった。
【0056】
第2注入液を発電要素109に注液した後は、電池中間体10aの開口部を減圧環境下、熱プレスにより熱融着して封止した。その後、充放電装置を用いて、形成された電池10の初充電を行った。
【0057】
電池10を開封し、電解液の発電要素への含浸状態を確認したところ、2時間の含浸で、電解液が発電要素に十分に浸透していることが確認できた。
【0058】
≪比較例1≫
ジメチルカーボネート(DMC):エチレンカーボネート(EC)が1:1で混合した有機溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)が1.0Mで溶解している電解液を調製し、調製した電解液を一括して発電要素109に注液した以外は、実施例1と同様にして、含浸時間が異なる複数の電池サンプルを作製し、含浸時間と含浸状態との関係の評価を行った。
【0059】
電池10を開封し、電解液の発電要素109への含浸状態を確認したところ、電解液が発電要素109に十分に浸透していることを確認するのに、12時間の含浸時間を必要とした。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態における電池10の全体を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】第1実施形態における電解液注液前の電池中間体10aを開口部方向から見た側面図である。
【図4】第1実施形態における電池中間体10aを用いた電池10の製造工程を説明するための工程図である。
【図5】第2実施形態における電池中間体10aを用いた電池10の製造工程を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0061】
10…電池
106…上部電池外装
107…下部電池外装
109…発電要素
101…正極板
102…セパレータ
103…負極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素に導電性液体を注液してなる電池を製造する方法であって、
前記導電性液体を構成することとなる粘度の異なる複数の注入液を準備する工程と、
準備した前記複数の注入液を粘度の低い液から順に前記発電要素に注液する注液工程と、
を有することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池の製造方法において、
前記複数の注入液のうち、少なくとも最も粘度の低い前記注入液には、支持塩が溶解されていることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電池の製造方法において、
前記注入液の支持塩の濃度は、当該注入液の後に注液される他の注入液の支持塩の濃度より高い濃度であることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の電池の製造方法において、
前記注液工程は、注液された前記注入液のうち少なくとも一部の液を前記発電要素に浸透させる含浸工程を含むことを特徴とする電池の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電池の製造方法において、
前記含浸工程において、前記発電要素を含む前記電池の容器内を減圧することにより、前記注入液を前記発電要素に浸透させることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電池の製造方法において、
前記複数の注入液のうち少なくとも一部の液が前記発電要素に浸透した状態で前記電池に電圧を印加することを特徴とする電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−55950(P2010−55950A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220060(P2008−220060)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】