説明

電池の集電構造、電池用セルスタック、およびレドックスフロー電池

【課題】負圧下において、集電板と双極板との間における抵抗の上昇を抑制することができる電池の集電構造を提供する。
【解決手段】電池の集電構造1は、セル100と外部機器との間で電気を入出力するためのもので、セル100を構成する正極電極104と負極電極105のどちらか一方の電極が接触する一面を有する双極板11bと、この双極板11bの他面と導通される集電板10と、双極板11bと集電板10との間に介在されるクッション層13とを具える。双極板11bは、双極板11bの他面の少なくとも一部に形成される金属層12を有する。クッション層13は、セル100内が大気圧の場合の双極板11bと集電体10との間の抵抗値Rp、セル100内が負圧の場合の双極板11bと集電体10との間の抵抗値をRmとするとき、Rm≦1.4Rpを満たすような変形能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量の蓄電池として利用されるレドックスフロー電池などの電池の集電構造、電池用セルスタック、および、そのセルスタックを利用したレドックスフロー電池に関するものである。特に、電気を入出力するための集電板と双極板との界面における接触抵抗を低減することができる電池の集電構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電といった新エネルギーを蓄電する大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池(RF電池)がある。RF電池は、正極用電解液に含まれるイオンと負極電解液に含まれるイオンの酸化還元電位の差を利用して充放電を行う電池である。図4のRF電池の動作原理図に示すように、RF電池は、水素イオンを透過させる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに分離されたセル100を備える。正極セル102には正極電極104が内蔵され、かつ正極用電解液を貯留する正極電解液用タンク106が導管108、110を介して接続されている。同様に、負極セル103には負極電極105が内蔵され、かつ負極用電解液を貯留する負極電解液用タンク107が導管109、111を介して接続されている。各タンク106、107に貯留される電解液は、ポンプ112、113によりセル102、103に循環される。
【0003】
上記RF電池には、通常、図5に示す複数のセル100を積層させたセルスタック200と呼ばれる構成が利用されている。このセルスタック200は、フレーム122に一体化された双極板121を備えるセルフレーム120、正極電極104、隔膜101、および負極電極105を、この順番で積層することで形成される積層体である。この構成の場合、隣接するセルフレーム120の双極板121の間に一つのセルが形成されることになる。そして、各セルフレーム120間にOリングや平パッキンなどの環状のシール部材127を配置した状態で、積層体をその両側から2枚のエンドプレート210、220で挟み込んで締め付けている。この締め付けにより、積層体をその積層方向に圧縮する内向きの圧力で締め付けることで、各セルフレーム120間に隙間ができないようにしている。このセルスタック200における電解液の流通は、フレーム122に形成される給液用マニホールド123,124と、排液用マニホールド125,126により行われる。例えば、正極用電解液は、給液用マニホールド123からフレーム122の一面側(紙面表側)に形成される溝を介して正極電極104に供給され、フレーム122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド125に排出される。同様に、負極用電解液は、給液用マニホールド124からフレーム122の他面側(紙面裏側)に形成される溝を介して負極電極105に供給され、フレーム122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド126に排出される。
【0004】
上記セルスタック200には、外部機器と電気を入出力させるための導電性材料からなる集電板が配置されている。例えば、特許文献1には、セルスタックの端部に配置される銅電極板(集電板)と、その電極板に双極板を導通させて電気を入出力する構成が記載されている。特に、集電板と双極板との抵抗を低減して損失を低減するために、双極板における集電板と対向する面は、錫などからなる金属層が被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−189156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した構成であっても、集電板と双極板との間の抵抗が上昇する場合があった。
【0007】
通常、集電板と双極板との押圧には、セルスタックを締め付ける内向きの圧力の反作用として生じる反発力を利用している。この反発力は、締付に対する正・負の両電極、セルフレーム、シール部材によるものや、あるいは電解液の圧力などがある。しかし、電解液の温度低下や、セルスタックとタンクの配置によっては、上記反発力が不十分となる場合があり、セル内が大気圧よりも低い圧(負圧)になることがある。その場合、集電板と双極板との圧縮が不十分となり、その結果、集電板と双極板との間における抵抗が上昇する虞がある。
【0008】
また、セルスタックやタンクを、上記内向きの圧力が十分となるように配置した場合であっても、セルスタックの構成部材の経年劣化により、集電板と双極板との接触が不十分となって、集電板と双極板との間における抵抗が上昇する虞がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、負圧下において、集電板と双極板との間における抵抗の上昇を抑制することができる電池の集電構造を提供することにある。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、上記電池の集電構造を具える電池用セルスタックを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、上記セルスタックを具えるレドックスフロー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電池の集電構造は、セルと外部機器との間で電気を入出力するためのものである。この集電構造は、上記セルを構成する正極電極と負極電極のどちらか一方の電極が接触する一面を有する双極板と、上記双極板の他面と導通される集電板と、上記双極板と集電板との間に介在されるクッション層とを具える。上記双極板は、他面の少なくとも一部に双極板よりも導電率の高い金属材料から構成される金属層を有する。上記クッション層は、セル内が大気圧の場合の双極板と集電体との間の抵抗値Rp、セル内が負圧の場合の双極板と集電体との間の抵抗値をRmとするとき、Rm≦1.4Rpを満たすような変形能を有する。
【0013】
本発明の電池の集電構造によれば、金属層は、双極板よりも導電率の高い金属材料から構成されることで、双極板と集電板とが導通し易くなる。そして、上記抵抗値の範囲を満たす可撓性を有するクッション層を双極板と集電板との間に介在させることで、負圧下でも集電板と双極板との導通面積を多くとることができる。したがって、集電板と双極板の界面における抵抗の上昇を抑えることができる。
【0014】
本発明の集電構造の一形態として、上記抵抗値Rmが、10mΩ・100cm以下であることが挙げられる。
【0015】
上記の構成によれば、抵抗値Rmが10mΩ・100cm以下であれば、双極板と集電板との間の抵抗が低く、抵抗による損失を低減することができる。
【0016】
本発明の集電構造の一形態として、上記クッション層は、メッシュ、箔、フェルト、および液体金属の中から選択される1つ以上の部材で構成されていることが挙げられる。
【0017】
上記の構成によれば、上記の部材は変形能、つまりメッシュ、箔、フェルトの場合は可撓性を有し、液体金属の場合は流動性を有する形態なので、そのような部材からクッション層が構成されることで、負圧下において、集電板と双極板との導通面積を多く確保することができる。そのため、双極板と集電板との間の抵抗の上昇を抑制することができる。
【0018】
本発明の集電構造の一形態として、上記金属層は、金、銀、銅、ニッケル、錫、アルミニウム、これらのいずれかの元素を主成分とする合金および半田の中から選択される1種以上の材料からなることが挙げられる。
【0019】
上記の構成によれば、金属層は導電性に優れる材料からなるので、双極板を構成する導電性材料と導通し易くなる。そのため、双極板と集電板との間の抵抗を低減することができる。
【0020】
本発明の集電構造の一形態として、上記金属層は、錫の溶射層からなり、上記クッション層は、錫メッキした銅メッシュからなる。そして、上記クッション層は、上記金属層と集電板との間に介在されていることが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、錫は低融点金属であるため、溶射時に双極板を劣化・損傷させる虞が少なく、双極板に対して密着性の高い金属層を容易に形成することができる。また、金属層が錫の溶射層からなることで、双極板の導電性材料と金属層とが強固に密着して、電池の繰り返し充放電に対して、金属層が双極板から剥離することなく、両者の導通を長期に亘って確保し続けることができる。一方、錫メッキした銅メッシュは導電性に優れるため、そのような材料からなるクッション層を金属層と集電板との間に介在させることで、集電板と金属層とが導通し易くなる。加えて、錫メッキした銅メッシュは可撓性にも優れるため、負圧下においても集電板と金属層との導通面積を確保することができる。したがって、大気圧下における集電体と双極板との間の抵抗をより低減することに加えて、負圧下における集電体と双極板との間の抵抗の上昇を抑制することができる。
【0022】
本発明の集電構造の一形態として、上記金属層は、錫の溶射層からなり、上記クッション層は、錫箔からなる。そして、上記クッション層は、上記金属層と集電板との間に介在されていることが挙げられる。
【0023】
上記の構成によれば、錫は低融点金属であるため、溶射時に双極板を劣化・損傷させる虞が少なく、双極板に対して密着性の高い金属層を容易に形成することができる。また、金属層が錫の溶射層からなることで、双極板を構成する導電性材料と金属層とが強固に密着して、電池の繰り返し充放電に対して、金属層が双極板から剥離することなく両者の導通を長期に亘って確保し続けることができる。そして、錫箔は導電性に優れるため、そのような材料からなるクッション層を金属層と集電板との間に介在させることで、集電板と金属層とが導通し易くなる。加えて、錫箔は可撓性にも優れるため、負圧下においても集電板と金属層との導通面積を確保することができる。したがって、大気圧下における集電体と双極板との間の抵抗をより低減することに加えて、負圧下における集電体と双極板との間の抵抗の上昇を抑制することができる。
【0024】
本発明の電池用セルスタックは、双極板を有する複数のセルフレームと、正極電極、隔膜、および負極電極を具える複数のセルと、上記各セルフレームの間に上記各セルを挟む積層体における両端部の双極板と導通される集電板とを具える。上記両端部の双極板、および集電板は、本発明の電池の集電構造を構成している。
【0025】
本発明のセルスタックによれば、集電板と双極板との間の抵抗を低減できると共に、負圧下でも抵抗の上昇を抑制することができる本発明の集電構造を具えているため、抵抗による損失を低減することができるセルスタックとすることができる。
【0026】
本発明のレドックスフロー電池は、上記本発明セルスタックと、正極用循環機構と、負極用循環機構とを具える。上記正極用循環機構は、上記セルスタックに正極用電解液を循環させる。上記負極用循環機構は、上記セルスタックに負極用電解液を循環させる。
【0027】
本発明のレドックスフロー電池によれば、負圧においても抵抗の低いセルスタックを具えているので、電池出力や電池容量の低下などの電気的損失を低減することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の電池の集電構造は、双極板と集電板との間の抵抗を低減できると共に、負圧下においても、両者の間の抵抗の上昇を抑制することができる。
【0029】
本発明の電池用セルスタックは、負圧においても抵抗の上昇を抑制することができる集電構造を具えているため、抵抗による損失の少ないセルスタックとすることができる。
【0030】
本発明のレドックスフロー電池は、負圧においても抵抗の上昇を抑制することができるセルスタックを具えているので、電池出力や電池容量の低下などの電気的損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係るセルスタックの部分断面図である。
【図2】試験例1において、負圧下における双極板と集電板との間の抵抗値を示すグラフである。
【図3】試験例2において、加圧下における双極板と集電板との間の抵抗値を示すグラフである。
【図4】レドックスフロー電池の動作原理図である。
【図5】従来のセルスタックの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の集電構造を具えるレドックスフロー電池(RF電池)の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
<<レドックスフロー電池>>
本発明RF電池は、RF電池に備わるセルスタックの一部に特徴がある。それ以外の構成は、図4を用いて説明した従来のRF電池と同様、セルスタックに正極用電解液を循環させるためのポンプ112、導管108、110、タンク106を有する正極用循環機構と、セルスタックの負極用電解液を循環させるためのポンプ113、導管109、111、タンク107を有する負極用循環機構とを具える。したがって、以下の実施形態では、従来のRF電池(セルスタック)との相違点を中心に説明し、従来と同様の構成については、図4、5と同一符号を付してその説明を省略する。
【0034】
<セルスタック>
図1に示す本発明のセルスタック20は、図4を参照した従来のセルスタック200と同様に、正極電極104と隔膜101と負極電極105を具えるセル100とセルフレーム120とを交互に積層した積層体を具える。その積層体の両側には、複数のセル100と外部機器との間で電気を入出力するための集電板10が配され、さらにその外側にはエンドプレート210、220が設けられている。これら積層体、集電板10、およびエンドプレート210、220が締付機構で締め付けられて、セルスタック20が構成される。本発明の特徴は、セルフレーム11を構成する双極板11bと集電板10とを導通させるための集電構造にある。以下、図1の紙面左側の集電構造1について説明する。
【0035】
[集電構造]
本発明の集電構造1は、セル100を構成する正極電極104と負極105のどちらか一方の電極が接触する一面を有する双極板11bと、双極板11bの他面と導通される集電板10とを具える。双極板11bにおいて、他面の少なくとも一部には金属層12が形成されている。そして、双極板11bと集電板10との間には、クッション層13が介在されている。
【0036】
(集電板)
集電板10は、双極板11bを介して外部機器とセル100とで電気の入出力を行う導電部材である。この集電板10には、例えばインバータなどの外部機器に接続するための端子(図示せず)が具えられている。集電板10の材料は、電気抵抗の小さい金属材料からなることが好ましく、具体的には、銅が挙げられる。その他にも鉄、ニッケル、クロム、錫、アルミニウム、およびこれらのいずれかの元素を主成分とする合金などから形成されていてもよい。
【0037】
(双極板)
双極板11bは、積層体の両端部以外では正極電極104と負極電極105との間に介在されて各セル100間を直列につなぐ導電接続板で、集電構造1を構成する積層体の両端部においては外部機器とセル100とで電気の入出力を行う集電用導電板として機能する。集電構造1において、この双極板11bは、プラスチック製のフレーム11fの内側に装着されて、一方の面にセル100を構成する正極電極104(負極電極105)が接触し、他方の面で集電板10と導通される。そして、他面の少なくとも一部には後述する金属層12を有している。
【0038】
双極板11bの材料は、導電性に優れることが好ましく、加えて耐酸性および可撓性を有することがより好ましい。例えば、炭素を含有する導電性材料からなることが挙げられ、具体的には、黒鉛と塩素化有機化合物とからなる導電性プラスチックが挙げられる。その黒鉛の一部をカーボンブラックとダイヤモンドライクカーボンの少なくとも一方に置換した導電性プラスチックでもよい。この塩素化有機化合物には、塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィンなどが挙げられる。このような材料からなることで、双極板11bの電気抵抗を小さくすることができる上に、耐酸性および可撓性に優れる。
【0039】
(金属層)
金属層12は、双極板11bと集電板10とを導通させ易くするための層で、双極板11bにおいて電極が接触しない他方の面の少なくとも一部に形成されている。
【0040】
金属層12の材料は、双極板11bよりも導電率の高い金属材料で形成されていればよい。具体的には、金、銀、銅、ニッケル、クロム、錫、アルミニウム、これらのいずれかの元素を主成分とする合金、および半田の中から選択される1種以上の材料からなることが好ましい。これらの材料から形成されることで、双極板11bを構成する導電性材料と導通し易くなる。
【0041】
金属層12の形成領域は、上記他方の面のうち、双極板11bの一方の面において電極が接触する領域に対応する領域(以下、電極接触領域)と同等程度とすることが好ましい。金属層12の厚さは、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であればより好ましい。厚さが0.1μm以上あれば、双極板11bとの導通を確保し易い。一方、厚さが1000μm以下であれば、電池の繰り返し充放電や、エンドプレート210、220による締め付ける内向きの圧力、および内向きの圧力の反作用として生じる反発力に対して、金属層12の剥離や割れが生じ難い。
【0042】
金属層12を双極板11bの他面に形成する手段として、双極板11bと密着した金属層12を形成できる方法が好ましい。より具体的には、電気めっき法、無電解メッキ法、溶射法、スパッタリング、および真空蒸着法の中から選択される方法が挙げられる。これらの方法により、双極板11bの導電性材料と金属層12とを強固に密着させることができ、電池の繰り返し充放電に対して、金属層12が双極板11bから剥離することなく、両者の導通を長期に亘って確保し続けることができる。特に、金属層12を溶射法で形成すると、双極板11bの構成材料のうち、黒鉛やカーボンブラックなどの導電性材料と金属層12とがより密着し易く、効果的である。
【0043】
(クッション層)
クッション層13は、集電板10と双極板11bとの間の抵抗を低減し、さらに負圧下において、両者の間の抵抗の上昇を抑制するためのもので、集電板10と双極板11bとの間に介在されている。
【0044】
このクッション層13は、セル内が大気圧の場合の双極板11bと集電体10との間の抵抗値をRp、セル内が負圧の場合の双極板11bと集電体10との間の抵抗値をRmとするとき、Rm≦1.4Rpを満たすような変形能を有している。ここでいう双極板と集電体との間の抵抗値とは、双極板に正極電極と負極電極のいずれか一方の電極を接触させて測定した抵抗値を言う。そして、変形能とは、セル内が負圧下の圧力変動に対して、クッション層13が集電板10と双極板11bの両者に接触するように両者の動きに追従することをいう。そして負圧とは、大気圧(≒0.1MPa)を基準(0)としたとき、−0.02MPa(≒0.08MPa)のときを指す。もちろん、大気圧と負圧との間における減圧下においても、Rm≦1.4Rpを満たす。このRpとRmの抵抗値の比は、Rm≦1.1Rp以下であることがより好ましい。この抵抗値の比は、Rm=Rpに近づくほど、負圧下における集電板10と双極板11bとの間の抵抗の上昇を抑制することができる。この抵抗値の測定方法は後述する。
【0045】
クッション層13は、上記抵抗値の比を満たすことに加えて、上記抵抗値Rmが10mΩ・100cm以下となるものであることが好ましい。この抵抗値Rmは、低いほど好ましく、5mΩ・100cm以下が特に好ましい。抵抗値Rmが、低いほど、電池出力や電池容量の低下を低減することができる。
【0046】
このクッション層13の部材形態としては、例えば、メッシュ、箔、フェルト、および液体金属の中から選択される1つ以上からなることが好ましい。このような部材からなることで、メッシュ、箔、フェルトの場合、可撓性を有し、液体金属の場合、流動性を有する形態なので、負圧下において、集電板10と双極板11bとの導通面積を多く確保することができる。例えば、メッシュと液体金属との両方を組み合わせてクッション層13として使用してもよい。その場合、メッシュを集電板10と双極板11bとの間に予め介在させておいて、後から液体金属を注入することが挙げられる。このように、上記部材を種々組み合わせてクッション層13として利用することもできる。
【0047】
上記部材の具体的な材料としては、次に示すものが挙げられる。クッション層13がメッシュの場合は、金、銀、銅、これらのいずれかの元素を主成分とする合金、それらの材料に錫をメッキしたものの中から選択される1種以上の材料からなることが好ましい。銅メッシュに錫をメッキしたものとして、例えば、市販のシールドメッシュを使用してもよい。同様に、箔の場合は、金、銀、銅、錫、アルミニウム、これらのいずれかの元素を主成分とする合金、および半田の中から選択される1種以上の材料からなることが好ましい。フェルトの場合は、金、銀、銅、錫、およびこれらのいずれかの元素を主成分とする合金の中から選択される1種以上の材料からなることが好ましい。液体金属の場合は、水銀が好ましい。このような材料から各々の部材が構成されることで、集電板10と双極板11bとの間の抵抗を低減することができる。
【0048】
クッション層13の配置箇所は、金属層12と集電板10との間とすることが好ましい。このとき、クッション層13の形成領域は、金属層12と同等程度有していればよい。クッション層13の厚さは、1μm以上5000μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることが特に好ましい。この厚さが、1μm以上あることで、負圧下においても双極板11bと集電板10との導通面積を多くすることができる。一方、この厚さが、5000μm以下であることで、集電板10と双極板11bとの導通を十分確保することができる。
【0049】
クッション層の他の配置箇所としては、双極板と集電板との間における金属層とほぼ同一の平面上が挙げられる。具体例としては、双極板の中央部に金属層が形成され、双極板の残部に金属層を囲む枠状のクッション層を配置することや、双極板の中央部に金属層を形成し、双極板上における金属層の左右部にクッション層を並べて形成することが挙げられる。この形態の場合、クッション層は金属層と同一平面上にありながら、金属層と接触するように配置することが好ましい。クッション層の厚みは、金属層の厚み以上有していることが好ましい。そうすることで、負圧下において、双極板と集電板との導通を確保し易くなる。
【0050】
[セルスタックの製造方法]
上述したセルスタック20は、以下に示す準備工程、積層工程の各工程を施して製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0051】
(準備工程)
まず、準備工程では、セルスタック20の構成部材を用意する。図1に示すセルスタック20を作製するには、セルスタック20の構成部材、即ち、複数の正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム120、一対の集電板10、一対のクッション層13、金属層12が形成された双極板11bおよびその外周に装着されたフレーム11fを有するセルフレーム11を一対、一対のエンドプレート210、220、および、そのエンドプレート210、220を締め付ける締付機構230を用意する。この締付機構230は、締付軸231と、締付軸231の両端に螺合されるナット232,233と、ナット232とエンドプレート210の間に介在される圧縮バネ234とを具える。
【0052】
(積層工程)
積層工程では、上記各構成部材を積層する。この工程では、まず、エンドプレート220に締付軸231とナット233を取り付ける。締付軸231を取り付けたエンドプレート220を設置面に平行において、そのエンドプレート220上に、集電板10を配置し、その上にクッション層13を介在させて、金属層12が形成された双極板11を具えるセルフレーム11を積層する。続けて、正極電極104(負極電極105)、隔膜101、負極電極105(正極電極104)からなるセル100、セルフレーム120の順に繰り返し積層する。この積層工程は、集電構造1の上に、順次正極電極104、隔膜101、負極電極105を一枚ずつ積み重ねていくことで行っても良いし、所定数のセルフレーム120や正極電極104、隔膜101、負極電極105を積層した積層体をエンドプレート220上の集電構造1の上に載せることを繰り返すことで行っても良い。そして、所望のセル数を積層した後、再び、金属層12が形成された双極板11を有するセルフレーム11を、最後のセル100の上に載せ、クッション層13を介在させて集電板10を積層する。その後、集電板10の上に、エンドプレート210を配置して、締付軸231の端部に圧縮バネ234を配置してナット232を取り付ける。そうして、締付機構230で締め付けてセルスタックを完成させる。
【0053】
[作用効果]
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0054】
(1)双極板に双極板よりも導電率の高い金属材料からなる金属層を形成することで、集電板と双極板とを導通させ易くなる。加えて、可撓性を有するクッション層を双極板と集電板との間、特に、双極板に形成される金属層と集電板との間に介在させることで、負圧下においても、金属層と集電板との導通面積を多くとることができる。したがって、集電板と双極板との間における抵抗を低減できるとともに、抵抗の上昇を抑制することもできる。
【0055】
(2)集電板と双極板との間の抵抗を低減でき、なおかつ、負圧下における抵抗の上昇を抑制できるので、電池出力の低下や、電池容量の低下など、抵抗による電気的損失を低減することができる。したがって、電気的損失の少ないRF電池とすることができる。
【0056】
<試験例1>
試験例1として、次のRF電池の各試料を作製し、負圧下における集電板と双極板との間の抵抗値を測定した。まず、正・負の両電極と、金属層が形成された双極板を有するセルフレームを一対と、一対の銅製の集電板と、一対のクッション層を用意する。続いてこれらの部材を積層する。集電板の上に、クッション層、クッション層と金属層が接触するようにセルフレーム、正極電極の順に積層してから、その逆順、つまり、負極電極、金属層が形成されていない面と電極が接触するようにセルフレーム、クッション層、集電板の順で積層する。その際、表1に示すように、双極板に形成した金属層の形成手段、材料、および層厚と、集電板と金属層との間に介在させたクッション層の材料、部材、および層厚とを種々選択して積層したものを試料1〜3とした。試料3のクッション層を構成するメッシュの素線の径は、0.01mmで、メッシュサイズは、100mm×100mmである。さらに、試料3において、クッション層を介在させていないものを作製して試料4とし、同様に、双極板に金属層を形成していないものを作製して試料5とした。そのため、試料4は双極板に金属層が形成されているが、集電体と双極板との間にクッション層は介在されていない形態であり、試料5は双極板に金属層が形成されていないが、集電体と双極板との間にクッション層が介在されている形態である。
【0057】
【表1】

【0058】
[負圧抵抗測定試験]
上述のようにして作製された試料1〜5に対して、真空引きを施すことで負圧状況を作り出し、順次負圧を変えていきながら、双極板と集電板との間の抵抗値を測定した。その際、圧力は、負圧状況を作り出すために試料内部に直結したパイプに取り付けた連成計で確認した。この抵抗値は、常温において双極板と集電板とに端子を接続し、両端子間の抵抗を四端子法により求めた。その結果を表2、および図2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
[結果]
以上の試験を行った結果、双極板に金属層を形成し、金属層と集電板との間にクッション層を介在させた試料1〜3は、集電板と双極板との間の抵抗が低い値となった上に、抵抗がほとんど上昇しなかった。つまり、抵抗を低減することができることに加えて、抵抗の上昇を抑制することができた。このような結果となったのは、双極板に金属層を形成したことで、双極板と導通し易くなったこと、および、クッション層を介在させたことで、負圧下においても、金属層と集電板との導通を確保することができたためであると考えられる。
【0061】
<試験例2>
[加圧抵抗測定試験]
試験例2として、試験例1における試料2〜4に対して加圧下における集電板と双極板との間の抵抗を測定する。まず、各試料をその積層方向が、設置面と垂直となるように配置する。そして、最上部に位置する集電板の面上に錘を乗せて荷重を付加していき、集電板と双極板との間の抵抗値を試験例1と同様の測定方法により測定した。その際、測定圧は、付加した荷重をクッション層の面積で割って求めた数値とした。クッション層のない試料は、付加した荷重を金属層の面積(上記クッション層と同じ面積)で割って求めた数値を測定圧とした。また、集電板の面上に錘を乗せていない状態(自重のみ)を面圧0とした。その結果を表3、および図3に示す。

【0062】
【表3】

【0063】
[結果]
以上の試験を行った結果、双極板に金属層を形成し、金属層と集電板との間にクッション層を介在させた試料2、3は、加圧下においても集電板と双極板との間の抵抗値が低い値となった。このような結果となったのは、双極板に金属層を形成したことで、双極板と導通し易くなったこと、および、クッション層を介在させたことで、金属層と集電板との導通を確保することができたためであると考えられる。
【0064】
[まとめ]
以上の試験例1、2から、双極板に金属層を形成し、集電板と金属層との間にクッション層を介在させることで、集電板と双極板との間の抵抗を低減できると共に、負圧下において抵抗の上昇を抑制することができることがわかった。さらに、上記の構成を具えることで、加圧下においても、集電板と双極板との間の抵抗を低減できることが判明した。
【0065】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の電池の集電構造は、本発明の電池用セルスタックや本発明のRF電池に好適に利用できるとともに、燃料電池などの他の電池や熱交換器の構成部材の接合構造にも利用できる。また、本発明RF電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした用途に好適に利用することができる。そして、本発明RF電池は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 集電構造
10 集電板 11 セルフレーム 11b 双極板 11fフレーム
12 金属層 13 クッション層
20 セルスタック
100 セル 101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極電解液用タンク
107 負極電解液用タンク 108、109、110、111 導管
112、113 ポンプ
120 セルフレーム 121 双極板 122 フレーム
123、124 給液用マニホールド 125、126 排液用マニホールド
127 シール部材
200 従来のセルスタック 210、220 エンドプレート
230 締付機構
231 締付軸 232、233 ナット 234 圧縮バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルと外部機器との間で電気を入出力するための電池の集電構造であって、
前記セルを構成する正極電極と負極電極のどちらか一方の電極が接触する一面を有する双極板と、
前記双極板の他面と導通される集電板と、
前記双極板と集電板との間に介在されるクッション層とを具え、
前記双極板は、前記他面の少なくとも一部に、前記双極板よりも導電率の高い金属材料から構成される金属層を有し、
前記クッション層は、セル内が大気圧の場合の双極板と集電体との間の抵抗値をRp、セル内が負圧の場合の双極板と集電体との間の抵抗値をRmとするとき、Rm≦1.4Rpを満たすような変形能を有することを特徴とする電池の集電構造。
【請求項2】
前記抵抗値Rmが、10mΩ・100cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電池の集電構造。
【請求項3】
前記クッション層は、メッシュ、箔、フェルト、および液体金属の中から選択される1つ以上の部材で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電池の集電構造。
【請求項4】
前記金属層は、金、銀、銅、ニッケル、クロム、錫、アルミニウム、これらのいずれかの元素を主成分とする合金、および半田の中から選択される1種以上の材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池の集電構造。
【請求項5】
前記金属層は、錫の溶射層からなり、
前記クッション層は、錫メッキした銅メッシュからなって、前記金属層と集電板との間に介在されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池の集電構造。
【請求項6】
前記金属層は、錫の溶射層からなり、
前記クッション層は、錫箔からなって、前記集電板と金属層の間に介在されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池の集電構造。
【請求項7】
双極板を有する複数のセルフレームと、正極電極、隔膜、および負極電極を具える複数のセルと、前記各セルフレームの間に前記各セルを挟む積層体における両端部の双極板と導通される集電板とを具える電池用セルスタックであって、
前記両端部の双極板、および集電板は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電池の集電構造を構成していることを特徴とする電池用セルスタック。
【請求項8】
請求項7に記載のセルスタックと、
前記セルスタックに正極用電解液を循環させる正極用循環機構と、
前記セルスタックに負極用電解液を循環させる負極用循環機構とを具えることを特徴とするレドックスフロー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−119288(P2012−119288A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270952(P2010−270952)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】