説明

電池パックのリサイクル方法及び処理装置

【課題】リサイクル作業の安全性の確保、短時間化、リサイクルの容易化(すなわちリサイクル効率の向上)のうち少なくともいずれか1つを改善することができる電池パックのリサイクル方法及び電池パックのリサイクル装置を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の単電池を直列接続してなる組電池を含む電池パック10をリサイクルする方法であって、電池パック10を加熱するための加熱処理槽12内に蒸気ボイラー14から供給される蒸気を供給し、加熱処理槽12内空間を前記蒸気で置換し、電池パック10を加熱する加熱工程と、前記加熱工程により、電池パック10から放出される加熱分解生成物を凝縮器18で凝縮する凝縮工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パックのリサイクル方法及び処理装置、特に、電池パックのリサイクル作業を安全に行うことが可能な電池パックのリサイクル方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電池パックは、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の二次電池の電池セルを複数(例えば6個か8個程度)直列に接続して1つの部品単位とした電池モジュールを複数(例えば10個程度)直列に接続して構成された組電池、電池モジュールの充電状態を監視制御する制御装置や電気回路を切断するためのリレーや機械的に回路を切断するためのセーフティプラグや組電池を冷却する冷却ブロア等の電子部品、各部品を接続する信号線や動力線、これらを密閉収納するケース等から構成されている。
【0003】
このような電池パックが、例えば、ハイブリッド車等の車両用部品として使用されている場合、車両が廃車となった際には、電池パックは車両から取り外され、電池パックを解体して電池セルを他の部品から分別する作業が行われた後、電池セルから有用な金属が回収される。
【0004】
一般的に、自動車用部品として使用される電池パックは、高電圧を発生(例えば、300V以上)するものであり、車両が廃車となって取り外される際にも、高電圧を保っている場合が多い。通常、電池パックを解体して電池セルを他の部品から分別する作業は、作業者が絶縁手袋等の保護具を着用して、手作業で行われるため、作業の安全性確保に十分な配慮が必要である。
【0005】
また、電池パックの解体作業等の安全性を高めるために、電池パック内の組電池を放電させることも考えられるが、この場合、電池パックを長期間保管して自然放電させるか、または抵抗器等を用いて強制的に放電させる必要があり、電池パックのリサイクル作業が長時間化するか若しくは手間を要する。
【0006】
そこで、リサイクル作業の安全性の確保、短時間化の観点から、電池パック内の組電池を速やかに且つ安全に絶縁(0V)させることが望まれている。
【0007】
また、電池セル内の電解液は、リチウムイオン二次電池の場合、可燃性の有機電解質が使用され、ニッケル水二次電池等の場合、水溶性電解質が使用されている。リサイクル作業の際には、電池セル内の電解液を効率的に取り除くことにより、電池パックのリサイクルを大幅に容易化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−3512号公報
【特許文献2】特開2005−26088号公報
【特許文献3】特開2010−165569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、リサイクル作業の安全性の確保、短時間化、電池パックのリサイクルの容易化のうち少なくともいずれか1つを改善することができる電池パックのリサイクル方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の単電池を直列接続してなる組電池を含む電池パックのリサイクル方法であって、前記電池パックを加熱するための加熱処理槽内に、前記加熱処理槽内空間を置換する置換ガスを供給し、前記電池パックを加熱する加熱工程と、前記加熱工程により、前記電池パックから放出される加熱分解生成物を凝縮する凝縮工程と、を備え、前記置換ガスは蒸気又は不活性ガスである。
【0011】
また、前記電池パックのリサイクル方法において、前記加熱工程では、前記電池パックを160℃以上に加熱することが好ましい。
【0012】
また、前記電池パックのリサイクル方法において、前記加熱処理槽内に供給される前の前記蒸気を加熱する工程を備え、前記加熱工程では、前記加熱処理槽内に前記加熱蒸気を供給することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、複数の単電池を直列接続してなる組電池を含む電池パックをリサイクルするための処理装置であって、前記電池パックを加熱するための加熱処理槽と、前記加熱処理槽内に、前記加熱処理槽内空間を置換する置換ガスを供給する供給手段と、加熱された電池パックから放出される加熱分解生成物を凝縮する凝縮装置と、を備え、前記置換ガスは蒸気又は不活性ガスである。
【0014】
また、前記処理装置において、前記加熱処理槽では、前記電池パックを160℃以上に加熱することが好ましい。
【0015】
また、前記処理装置において、前記加熱処理槽内に供給される前の前記蒸気を加熱する加熱手段を備え、前記加熱処理槽内には、前記加熱蒸気が供給されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リサイクル作業の安全性の確保、短時間化、電池パックのリサイクルの容易化のうち少なくともいずれか1つを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る電池パックをリサイクルする処理装置の一例を示す模式図である。
【図2】リチウムイオン二次電池(電池セル)を加熱しながら電圧を測定した結果の一例を示す図である。
【図3】6フッ化リン酸リチウム(LiPF)の熱分解特性を示す図である。
【図4】ニッケル酸リチウム(LiNiO)の熱分解特性を示す図である。
【図5】本実施形態に係る電池パックをリサイクルする処理装置の他の一例を示す模式図である。
【図6】本実施形態に係る電池パックをリサイクルする処理装置の他の一例を示す模式図である。
【図7】電池パックの解体及び電池セル内の有価物の回収工程を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、電池パックをリサイクルする方法及び処理装置の一例を図面に基づいて説明する。本実施形態における電池パックは、前述したように、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の二次電池の電池セルを複数(例えば6個か8個程度)直列に接続して1つの部品単位とした電池モジュールを複数(例えば10個程度)直列に接続して構成された組電池、電池モジュールの充電状態を監視制御する制御装置や電気回路を切断するためのリレーや機械的に回路を切断するためのセーフティプラグや組電池を冷却する冷却ブロア等の電子部品、各部品を接続する信号線や動力線、これらを密閉収納するケース等から構成されている。
【0019】
本実施形態に係る電池パックのリサイクル方法では、電池パックを加熱するための加熱処理槽内に、加熱処理槽内空間を置換する置換ガス(水蒸気又は不活性ガス)を供給すると共に、電池パックを加熱する加熱工程、電池パックから放出される加熱分解生成物を凝縮する(凝縮工程が行われる。これらの工程によって、電池セル内の電解液が回収され、電池セルの電池機能が破壊される。そして、電池機能が破壊された電池パックは解体され、電池セル内の有価物が回収されることとなる。以下に、加熱工程及び凝縮工程について、図1に示す処理装置を用いて説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る電池パックをリサイクルする処理装置の一例を示す模式図である。図1に示す処理装置1は、主に、前述した電池パック10のリサイクル方法における加熱工程及び凝縮工程に用いられる。
【0021】
図1に示す処理装置1は、加熱処理槽12、蒸気ボイラー14、蒸気加熱器16、凝縮器18、廃液タンク20、ガス吸着フィルター22、配管類を備える。
【0022】
加熱処理槽12は、主に、電池パック10を加熱処理するためのものであり、本実施形態では、電池パック10を収容する筐体部24、筐体部24を開放又は密閉する開閉扉26、筐体部24内の上部及び下部に設けられる電気ヒータ28、電池パック10を載置する載置台30、を備える。筐体部24には、蒸気(又は後述する不活性ガス)を筐体部24内に投入するための投入管32、筐体部24内の蒸気等のガスを排出する排出管34が設けられている。また、熱源としては電気ヒータ28に制限されるものではなく、ラジアントチューブ等の間接加熱型のガスヒータ等でもよい。
【0023】
蒸気ボイラー14は、水蒸気(以下、単に蒸気と呼ぶ)を発生させるものであり、例えば、貫流ボイラー等である。蒸気加熱器16は、蒸気ボイラー14で発生した蒸気を加熱するものであり、本実施形態では、電気ヒータ36、温度センサ38、温度調節器40、を備える。
【0024】
凝縮器18は、後述するように、主に電池パック10から放出された加熱分解生成物等を凝縮するためのものであり、シェルアンドチューブタイプ等の間接式水冷型熱交換器、プレートフィンタイプ等の表面式熱交換器等が挙げられる。本実施形態の凝縮器18はシェルアンドチューブタイプであり、本体部42、本体部42内に複数設けられる伝熱管44、クーリングタワー46、本体部42内の伝熱管44とクーリングタワー46とを接続する配管、を備える。
【0025】
廃液タンク20には、通気管48が設けられている。また、通気管48にはガス吸着フィルター22が設置されており、通気管48はガス吸着フィルター22を介して大気に開放されている。ガス吸着フィルター22は、活性炭フィルター等が挙げられる。本実施形態の処理装置1は、大気開放系であり、例えば、装置が運転している状態では装置内は一気圧の蒸気で充満した状態となるが、装置が停止して蒸気の温度が低下し、液化する過程ではガス吸着フィルター22から空気が導入され大気圧を維持する構造となっている。そのため、加熱処理槽12の開閉扉26の開閉等を容易に、安全に行うことができる。
【0026】
次に、配管類について説明する。配管50aの一端は蒸気ボイラー14に接続され、配管50aの他端は、蒸気加熱器16を介して加熱処理槽12の投入管32に接続されている。配管50bの一端は、加熱処理槽12の排出管34に接続され、配管50bの他端は凝縮器18の本体部42の導入口(不図示)に接続されている。配管50cの一端は凝縮器18の本体部42の排出口(不図示)に接続され、配管50cの他端は廃液タンク20の廃液入口(不図示)に接続されている。配管50dの一端はクーリングタワー46の冷却水出口(不図示)に接続され、配管50dの他端は本体部42内の伝熱管入口(不図示)に接続され、配管50eの一端は本体部42内の伝熱管出口に接続され、配管50eの他端はクーリングタワー46の冷却水入口に接続されている。
【0027】
次に、本実施形態に係る処理装置1の動作を説明する。
【0028】
<加熱工程>
まず、加熱処理槽12の開閉扉26を開け、電池パック10を筐体部24内の載置台30にセットし、開閉扉26を閉めて密閉する。そして、蒸気ボイラー14を稼働させて蒸気を発生させ、配管50a中の蒸気加熱器16でさらに加熱させ、加熱蒸気を筐体部24内に供給すると共に、加熱処理槽12の電気ヒータ28のスイッチを入れ、電池パック10を加熱する(加熱工程)。加熱蒸気の供給に当たって、筐体部24内での結露を防止するために、加熱蒸気の供給前に、筐体部24内及び電池パック10を予熱(例えば80℃程度)しておくことが望ましい。また、蒸気加熱器16により蒸気を加熱することにより、電池パック10をより早く加熱させることができる点で好ましいが、必ずしも蒸気を加熱する必要はない。なお、加熱蒸気の温度制御は、温度センサ38により加熱蒸気の温度を検出し、検出した温度に基づいて温度調節器40により、電気ヒータ36の出力を調節することにより行われる。
【0029】
電池パック10の加熱温度は、電池セルの種類により異なるが、電池セルの電解液の沸点以上で加熱することで、電池セル内部の圧力が上昇して、電池セルに設けられる安全弁から電解液等の加熱分解生成物をガスとして電池セル外部へ容易に放出させることができる。有機系電解液を使用するリチウムイオン二次電池及び水系電解液を使用するニッケル水素二次電池では、150℃以上で加熱することにより電池パック10を分解することなく電池機能を破壊し電圧をゼロにすることが可能となる。
【0030】
本実施形態の加熱工程では、加熱処理槽12内空間は加熱蒸気により置換されているため、無酸素状態になっている。したがって、リチウムイオン二次電池に使用される電解液のうち、炭酸ジメチル等の有機電解質は可燃性材料であるが、加熱処理によって有機電解質が電池セル外へ放出されたとしても、加熱処理槽12内で燃焼することなく、加熱処理槽12内から排出される。また、リチウムイオン二次電池に使用される電解液のうち6フッ化リン酸リチウム等の電解質塩は、加熱処理によって、加熱分解してフッ化リチウムやフッ化水素等に変化する。特に、160℃以上で加熱することによって、フッ化リチウムは電極板等の電池セル内部に固定されるため、フッ化リチウムが電池セル外へ流出する量を大幅に削減することが可能となる点で好ましい。
【0031】
また、本実施形態の加熱工程において、蒸気を供給する利点は、フッ化水素(ガス)を後の凝縮工程でフッ酸として容易に回収することができる点が挙げられる。なお、加熱処理時のリチウムイオン二次電池の電圧変化や反応の詳細については後述する。
【0032】
なお、ニッケル水素二次電池も同様に、本実施形態の加熱工程を実施することによって、ニッケル水素二次電池に使用される水酸化カリウム水溶液等の電解液が蒸発し、電池セルに設けられる安全弁から放出される。
【0033】
<凝縮工程>
次に、加熱工程により電池セルから放出された有機電解質、6フッ化リン酸リチウム等の電解液、電池パック10の構成材料として使用される樹脂材料の熱可塑性樹脂等は、加熱分解生成物(ガス)として、加熱処理槽12の排出管34から放出され、配管50bを通り凝縮器18の本体部42に供給される。この際、クーリングタワー46内の冷却水が配管50dを通って伝熱管44に供給され、本体部42を冷却した後、配管50eから排出され、再度クーリングタワー46に戻される。これにより、凝縮器18の本体部42に供給された加熱分解生成物が冷却され液化される(凝縮工程)。凝縮器18により液化した凝縮液(加熱分解生成物)は蒸気等の水系廃液と有機電解質や電池パック10内の樹脂類等の有機系廃液の混合物である。前述した電解質塩の熱分解により生成するフッ化水素は水系廃液に溶解してフッ酸となっている。本体部42に供給される冷却水の温度は、本体部42内の温度を加熱分解生成物の沸点以下に冷却することができる温度に設定されることが望ましく、リチウムイオン二次電池の場合は、冷却水温度を32℃以下に設定することが好ましい。これにより、効率的に加熱分解生成物を冷却し液化させることができる。
【0034】
次に、凝縮器18により液化した凝縮液は配管50cを通り廃液タンク20に貯留される。廃液タンク20内の凝縮液はフッ酸等の影響により酸性となりやすいため、廃液タンク20内にある程度凝縮液が溜まった段階で水酸化カルシウム等のアルカリ剤を添加して任意のpHに調整することが望ましい。これにより、廃液タンク20ごと処理施設等に輸送して処理することが可能となる。なお、別途排液処理装置を設置して処理してもよい。
【0035】
廃液タンク20内の圧力が大気圧より高くなった場合は、廃液タンク20に設置された通気管48からガスが大気中へ排出される。この時、ガス中に有機電解質等が含まれる場合があるが、有機電解質等は活性炭フィルター(ガス吸着フィルター22)で吸着されるため、臭気等が装置外部に洩れないようになっている。また、前述したように、装置停止時等で、装置内の蒸気温度が低下して液化する過程では、廃液タンク20内の圧力が大気圧より低くなる場合があるが、外気が活性炭フィルターを介して通気管48から廃液タンク20内に入り込むため、装置内の圧力は大気圧に維持されている。
【0036】
以下に、加熱工程における加熱温度とリチウムイオン二次電池の電圧変化及び加熱工程時のリチウムイオン二次電池の反応について説明する。
【0037】
図2は、リチウムイオン二次電池(電池セル)を加熱しながら電圧を測定した結果の一例を示す図である。図2に示すように、リチウムイオン二次電池は、150℃前後で、リチウムイオン二次電池の安全弁から有機電解質等が放出され、電圧が変動し始める。さらに、加熱を続けると、180℃前後で急激に温度が上昇し安全弁から白煙を放出して電圧がゼロになり電池機能を完全に破壊することができる。充電時に負極材料中に取り込まれたリチウム原子と、電解液中のフッ素とが結合するなどの化学反応が起こるのに加え、正極材料の熱分解反応が起こるために、このような急激な温度上昇が生じると考えられる。このような加熱工程後の電池パック10は電圧ゼロのスクラップとして安全に取り扱うことができるため、後工程である電池パック10の解体等を安全に容易に実施することが可能となる。
【0038】
図3は、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)の熱分解特性を示す図である。図3に示すように、リチウムイオン二次電池の電解質塩として使用される6フッ化リン酸リチウムは、150℃程度まで加熱することで熱分解する。特に、160℃以上で加熱することにより、6フッ化リン酸リチウムは熱分解してフッ化リチウムとして電池セル中に固定され、一部未反応のフッ素が有機電解質と共に電池セル外部に放出される。
【0039】
また、リチウムイオン二次電池の有機電解質として使用される炭酸ジメチルは、沸点が90℃であるため、電池セルを90℃以上に加熱することにより、電池セル内で蒸発する。さらに、150℃以上に加熱することで電池セル内の圧力が上昇し、安全弁から熱分解生成物が電池セル外部に放出され、電池機能が破壊される。
【0040】
図4は、ニッケル酸リチウム(LiNiO)の熱分解特性を示す図である。図4に示すように、リチウムイオン二次電池の正極材料として使用されるニッケル酸リチウムは、210℃程度で急激な発熱反応を伴って分解する。リチウムイオン二次電池の正極材料としては、その他にコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等が使用されるが、これらは180℃〜350℃程度で熱分解する。したがって、電解液を電池パック10から放出させ回収し、且つニッケル酸リチウム等の正極材料を容易に回収するためには、有機電解質が放出される温度であって正極活物質が分解しない温度、すなわち150℃以上〜180℃未満で、電池パックを加熱することが望ましい。
【0041】
図5は、本実施形態に係る電池パックをリサイクルする処理装置の他の一例を示す模式図である。図5に示す処理装置2において、図1に示す処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
図5に示す処理装置2は、加熱処理槽12、不活性ガス発生装置52、凝縮器18、廃液タンク20、ガス吸着フィルター22、配管類を備える。
【0043】
不活性ガス発生装置52は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが充填されたボンベ等である。なお、本実施形態では、不活性ガスは加熱されることなく、加熱処理槽12に供給されるが、前述のように加熱してもよい。
【0044】
廃液タンク20には、通気管48が設けられている。通気管48にはガス吸着フィルター22が設置されており、通気管48はガス吸着フィルター22を介して大気に開放されている。ガス吸着フィルター22は、アルカリ剤フィルター及び活性炭フィルターである。アルカリ剤フィルターは、例えば、水酸化カルシウム粉末を化学繊維等で形成したフィルターに吸着若しくは2つのフィルターで挟み込むことにより形成される。
【0045】
本実施形態では、不活性ガスが充填されたボンベにより不活性ガスを、配管50aを介して加熱処理槽12の筐体部24内に供給すると共に、加熱処理槽12の電気ヒータ28のスイッチを入れ、電池パック10を加熱する(加熱工程)。加熱処理槽12内空間は不活性ガスにより置換され、無酸素状態となっている。そのため、前述したように、加熱処理により有機電解質が電池セル外へ放出されたとしても、加熱処理槽12内で燃焼することなく、加熱処理槽12内から排出される。また、6フッ化リン酸リチウムは、加熱分解してフッ化リチウムやフッ化水素等に変化し、一部は電極板等の電池セル内部に固定され、残部は加熱処理槽12内から排出される。また、電池パック10に使用される樹脂材料の熱可塑性樹脂等も加熱処理槽12内から排出される。
【0046】
加熱工程により電池セルから放出された有機電解質、6フッ化リン酸リチウム、電池パック10の構成材料として使用される樹脂材料の熱可塑性樹脂等の加熱分解生成物は、凝縮器18により液化される。但し、加熱工程で不活性ガスが供給される場合には、凝縮器18により液化した凝縮液の大部分は有機系廃液から構成されるため、フッ化水素は溶解してフッ酸となり難い。そのため、フッ化水素は、廃液タンク20に設置したアルカリ剤フィルターの水酸化カルシウムによりフッ化カルシウムとして捕集されたり、活性炭フィルターにより吸着されたりすることにより回収される。
【0047】
図6は、本実施形態に係る電池パックをリサイクルする処理装置の他の一例を示す模式図である。図6に示す処理装置3は、電池パック10を連続処理することができる方式である。図6に示す処理装置3において、図1に示す処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
加熱処理槽54は、予備室56、加熱室58、保持室60、を有する。電池パック10は、予備室56、加熱室58、保持室60をローラーコンベアー61により一つ又は複数個単位で搬送される。予備室56、加熱室58、保持室60には、それぞれ開閉扉(62a,62b,62c,62d)により密閉又は開放される。加熱室58には、間接加熱型のガスヒータであるラジアントチューブ64が設置されている。また、加熱室58には、蒸気(又は不活性ガス)を加熱室58内に投入するための投入管32が設けられ、投入管32には、蒸気を拡散するためのノズル66が設けられている。また、加熱室58及び保持室60には、各室内の蒸気等のガスを排出する排出管34が設けられている。
【0049】
本実施形態の処理装置3では、まず、開閉扉62aが開状態となり、ローラーコンベアー61により予備室56に電池パック10が搬入される。次に、開閉扉62aが閉状態、開閉扉62bが開状態となり、ローラーコンベアー61により加熱室58に電池パック10が搬入される。加熱室58では、開閉扉62bを閉じた状態で、蒸気ボイラー14を稼働させて発生させた蒸気(配管50a中の蒸気加熱器16でさらに加熱)を、投入管32のノズル66から加熱室58内に供給すると共に、加熱室58内のラジアントチューブ64により、電池パック10を加熱する(加熱工程)。前述したように、電池パック10の加熱工程により、電池パック10から加熱分解生成物が放出され、電池パック10を分解することなく電池機能が破壊される。次に、開閉扉62cが開状態となり、ローラーコンベアー61により保持室60に電池パック10が搬入される。なお、保持室60では、加熱室58で加熱された予熱で、電池パック10から加熱分解生成物が放出されている場合がある。次に、開閉扉62cを閉状態、開閉扉62dを開状態にして、電池機能が破壊された電池パック10が加熱処理槽54から取り出される。
【0050】
電池パック10から放出された加熱分解生成物は、加熱室58及び保持室60の排出管34から放出され、配管50bを通り凝縮器18の本体部42に供給される。この際、クーリングタワー46から供給される冷却水によって本体部42が冷却されることにより、本体部42に供給された加熱分解生成物が冷却され液化される(凝縮工程)。凝縮器18により液化した凝縮液は配管50cを通り廃液タンク20に貯留される。
【0051】
本実施形態では、廃液タンク20の通気管48にファン68を設置して、ファン68により廃液タンク20を負圧に保ち、また、廃液タンク20を介して配管(50b,50c)、加熱室58、保持室60を負圧に保ち、処理装置3外に加熱分解生成物が流出することを防止することが望ましい。また、凝縮器18で凝縮しきれなかった熱分解生成物は、通気管48に設けられたガス吸着フィルター22(活性炭フィルター等)で吸着処理される。廃液タンク20内の凝縮液は、焼却処理装置5に運ばれて、焼却処理される。なお、別途産廃処理を行って処理してもよい。
【0052】
以上のような加熱工程及び凝縮工程によって、電池機能が破壊され、電池セル内の電解液が放出された電池パックは、電池パックの解体及び電池セル内の有価物の回収工程に搬送される。
【0053】
また、加熱工程及び凝縮工程では、電池セルと共に電子部品、信号線、動力線、ケース等から構成されている電池パックを処理するため、処理後の電池パックは、金属部品と溶融した樹脂とが絡み合った混合状態となっている。しかし、電池パックの電池機能は破壊され、電池セル内の電解液が放出されているため、後述するように、電池パックの解体から電池セル内の有価物の回収までの全工程を、作業者による危険な手作業(電池パックの解体作業)を不要とし、自動化することができる。その結果、安全で安価な電池パックのリサイクルが可能となる。
【0054】
図7は、電池パックの解体及び電池セル内の有価物の回収工程を説明するためのフロー図である。ここでは、リチウムイオン二次電池を例に説明するが、ニッケル水素二次電池でも同様に適用することが可能である。また、以下に説明する有価物の回収工程は、主に、リチウムイオン二次電池の集電体として使用される電極箔(Al,Cu)、正極材料として使用される遷移金属(Ni,Mn,Co等)、正極材料中及び負極材料中に存在するリチウムを回収するものである。また、以下に説明する有価物の回収工程は、前述した加熱処理において、有機電解質が放出される温度であって正極材料が分解しない温度、すなわち150℃以上〜180℃未満で加熱した電池パックを例に説明する。
【0055】
図7に示すように、ステップS10では、前述した加熱工程及び凝縮工程を実施した電池パックを破砕処理する。前述したように、電池パックの構成材料である熱可塑性樹脂が熱分解しているため、原型とは大きく異なった状態であるが、電池セルの電解液等は外部に放出され電池機能は破壊された安全な状態である。したがって、破砕処理においては、作業者による手解体より、シュレッダーマシン(大型ハンマーミル等)に電池パックを直接投入して破砕処理する方が、処理時間、安全性の点で好ましい。また、シュレッダーマシン等で電池パックを破砕する前に、電池パックを水中に浸漬させ、電池セルを放電させる等の処理を行ってもよい。なお、このシュレッダーマシン等は廃自動車や廃家電製品の処理において一般的に使用されるものを用いることができる。
【0056】
シュレッダーマシンを用いて電池パックを破砕処理することにより、樹脂等の無価物はシュレッダーダストとして排出される。一方、電池パック内の電池セルのうち、電池セルの外装であるアルミケース等は、比重の大きな金属片となり、電極箔(正極材料及び負極材料も含む)等は、比重の小さな金属屑となる。シュレッダーダストは廃棄法にしたがって管理型埋め立て処分する。また、埋め立てる条件としては、管理型埋め立て基準を満たす必要がある。
【0057】
次に、ステップS12では、前述した比重の大きな金属片と比重の小さな金属屑とを、風力選別し、比重の大きな金属片を回収する。なお、風力選別に代えて、磁力選別により比重の大きな金属片を回収してもよい。
【0058】
次に、ステップS14では、電極箔(正極材料及び負極材料も含む)等の比重の小さな金属屑を水で洗浄して、負極材料中のリチウムや正極材料中のリチウムを水酸化リチウムに、正極材料中の遷移金属を水酸化物に変化させる。以下に、正極材料としてニッケル酸リチウムを用いた場合の反応を示す。
3LiNiO+4.5HO→3LiOH+3Ni(OH)+4/3O
【0059】
水酸化リチウムは水に容易に溶解するため水溶液となり、水酸化ニッケル等の遷移金属の水酸化物は水への溶解度が非常に低いためほとんど溶解せず、固形分となる。なお、水酸化ニッケルの溶解度は0.0013g/100cmである。
【0060】
次に、ステップS16では、振動篩装置等によって、前述した水酸化リチウム等の水溶液と水酸化ニッケル等の固形分とに篩い分けられる。そして、ステップS18では、水酸化リチウム水溶液に炭酸ガスを導入して中和し、炭酸リチウムとし、この炭酸リチウムを沈殿ろ過して回収する。
【0061】
ステップS20では、水酸化ニッケル等の遷移金属の水酸化物等の固形分を浸出槽に投入し、塩酸等の酸を添加して、遷移金属の水酸化物を水溶性の金属塩化物に変化させる。ニッケル塩化物等の金属塩化物溶液を抽出し、後述するステップS30に進み、既存の製錬工程によって、例えば、ニッケル原料として、金属や硫酸ニッケル等の製品にリサイクルされる。
【0062】
また、塩酸を添加した場合(ステップS20)、浸出槽では、未反応の水酸化ニッケル等の金属水酸化物(正極材料)、セパレータ、アルミ(電極箔)は浮上し、負極材料(カーボン)及び銅(電極箔)は沈降するため、これらを分離することができる。なお、以下では、浸出槽に浮上した浮上物を浮上分電極材と称し、浸出槽に沈降した沈降物を沈降分電極材と称する。なお、ステップS20において、塩酸の代わりに硫酸を添加すると、未反応の水酸化ニッケル等の金属水酸化物、セパレータ、アルミ(電極箔)、負極材料(カーボン)及び銅(電極箔)は全て沈降してしまう。塩酸を添加することによって浮上分電極材と沈降分電極材に分離させることができる理由としては、銅とアルミの比重差に加え、塩酸を添加した場合には、アルミを腐食する過程で発生する水素ガスの発生速度が硫酸を添加した場合に比べて大きいため、アルミの見かけ上の比重が1より低くなるためであると考えられる。したがって、その後に行う銅の回収において、銅の純度を上げてリサイクル材としての付加価値を高くすることができる点で、塩酸を添加することが好ましい。なお、硫酸を添加した場合でも、その後の工程において、Ni等の有価金属の回収を行うことはできる。
【0063】
次に、ステップS22では、浸出槽から分離した浮上分電極材を洗浄槽に投入し、塩酸を添加して攪拌洗浄する。これにより、アルミやセパレータに付着していた水酸化ニッケル等の遷移金属の水酸化物を水溶性の金属塩化物に変化させる。そして、ステップS24では、振動篩装置等によって、アルミやセパレータ等の固形分とニッケル塩化物等の金属塩化物溶液とに篩い分けられる。篩い分けられたアルミやセパレータはリサイクル材として回収してもよいし、廃棄処分してもよい。一方、ニッケル塩化物等の金属塩化物溶液は、ステップS30に進み、既存の製錬工程により精錬され、例えば、ニッケル原料として、金属や硫酸ニッケル等の製品にリサイクルされる。
【0064】
ステップS26では、浸出槽から分離した沈降分電極材を、上記同様に洗浄槽に投入し、塩酸を添加して攪拌洗浄する。これにより、銅に付着していた水酸化ニッケル等の遷移金属の水酸化物を水溶性の金属塩化物に変化させる。そして、ステップS28では、振動篩装置等によって、銅等の固形分とニッケル塩化物等の金属塩化物溶液とに篩い分けられる。篩い分けられた銅はリサイクル材として回収される。一方、ニッケル塩化物等の金属塩化物溶液は、上記同様に、ステップS30に進み、既存の製錬工程により精錬され、例えば、ニッケル原料として、金属や硫酸ニッケル等の製品にリサイクルされる。
【0065】
これまでは、前述した加熱処理において、有機電解質が放出される温度であって正極材料が分解しない温度、すなわち150℃以上〜180℃未満で加熱した電池パックから有価物を回収する工程を説明したが、例えば、ニッケル酸リチウム等が熱分解する温度である180℃以上で加熱した電池パックから有価物を回収する場合、ニッケルは酸化ニッケルに変化しているため、前述のステップS14の水洗浄を行っても分解させることは困難である。この場合には、ステップS12の風力選別等により選別した比重の小さな金属屑を高温高圧下で酸溶解させることにより、有価金属の回収は可能である。
【符号の説明】
【0066】
1〜3 処理装置、5 焼却処理装置、10 電池パック、12 加熱処理槽、14 蒸気ボイラー、16 蒸気加熱器、18 凝縮器、20 廃液タンク、22 ガス吸着フィルター、24 筐体部、26 開閉扉、28 電気ヒータ、30 載置台、32 投入管、34 排出管、36 電気ヒータ、38 温度センサ、40 温度調節器、42 本体部、44 伝熱管、46 クーリングタワー、48 通気管、50a〜50e 配管、52 不活性ガス発生装置、54 加熱処理槽、56 予備室、58 加熱室、60 保持室、61 ローラーコンベアー、62a〜62d 開閉扉、64 ラジアントチューブ、66 ノズル、68 ファン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池を直列接続してなる組電池を含む電池パックのリサイクル方法であって、
前記電池パックを加熱するための加熱処理槽内に、前記加熱処理槽内空間を置換する置換ガスを供給し、前記電池パックを加熱する加熱工程と、
前記加熱工程により、前記電池パックから放出される加熱分解生成物を凝縮する凝縮工程と、を備え、
前記置換ガスは蒸気又は不活性ガスであることを特徴とする電池パックのリサイクル方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記電池パックを160℃以上に加熱することを特徴とする請求項1記載の電池パックのリサイクル方法。
【請求項3】
前記加熱処理槽内に供給される前の前記蒸気を加熱する工程を備え、
前記加熱工程では、前記加熱処理槽内に前記加熱蒸気を供給することを特徴とする請求項1又は2記載の電池パックのリサイクル方法。
【請求項4】
複数の単電池を直列接続してなる組電池を含む電池パックをリサイクルするための処理装置であって、
前記電池パックを加熱するための加熱処理槽と、
前記加熱処理槽内に、前記加熱処理槽内空間を置換する置換ガスを供給する供給手段と、
加熱された電池パックから放出される加熱分解生成物を凝縮する凝縮装置と、を備え、
前記置換ガスは蒸気又は不活性ガスであることを特徴とする処理装置。
【請求項5】
前記加熱処理槽では、前記電池パックを160℃以上に加熱することを特徴とする請求項3記載の処理装置。
【請求項6】
前記加熱処理槽内に供給される前の前記蒸気を加熱する加熱手段を備え、
前記加熱処理槽内には、前記加熱蒸気が供給されることを特徴とする請求項4又は5記載の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−204000(P2012−204000A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64589(P2011−64589)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】