説明

電池極板の製造方法および製造装置

【課題】極板の安全性を低下させる余剰な電極材料部分を生じることなく、かつ余剰部分を捨てずに電池極板を製造する。
【解決手段】除去機構20は、糸25を保持する糸巻きホルダー26と、糸25の張力を制御する張力制御機構28および中間ホルダー27と、除去した幅方向余剰分3aを回収する回収装置29からなる。除去機構20の糸25は、集電体2平面と90度未満の角度で集電体2側面に当接し、かつ内側に圧縮する水平方向分力が0.1[kgf]より大きく、集電体の材質に応じた極板21にシワもしくは破れのない値に設定される。これにより幅方向余剰分3aは剥ぎ落とされ、回収装置29が回収し、再利用される。除去機構20を通り、極板1の幅方向余剰分3aが除去・回収され極板21を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池極板の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は蓄電設備や高機能端末などに使用されるため、高容量化が望まれている。そのためには、限られた容積の中に多くの活物質を保持し、かつ空間を余さないように厚みが均一な電池極板とすることが課題とされている。
【0003】
従来の電池極板の製造方法として、図4に示される一対のロール4,5により電極材料3をシート状にした後、走行する集電体2にロール6によって転写し、極板1を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
製造された極板1は適正な密度に圧延された後に、スリッターを用いて、実際の電池で用いられる幅に裁断され、複数個のフープ(帯状板)を得る。一般的には、図5に示すスリッターによる裁断が用いられ、圧延後の広幅電極板7から引き出された極板はいくらかのガイドロールを介し、スリット8に入り裁断され、巻き取り部に巻き取られ、狭幅電極板9a,9bとなる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
このとき、所定の重量・厚み・幅を満たすフープのみが、電池の正極板・負極板として用いられ、それの要件を満たさないものは廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2869156号公報
【特許文献2】特許2008−176939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図4に示すような従来の製造方法では、材料ロスを減らすために集電体2を余すことなく用いて、電極材料3を集電体幅の最端部まで塗布する。そのため、ロールで形成されるシート状の電極材料3の幅は走行する集電体2の幅より少し広くする必要がある。できあがった極板1は、図6に示すように幅方向断面で集電体2が中央にない部分まで電極材料3がはみ出した状態となる。
【0008】
はみ出した電極材料3の部分は脆いため、その後の負極板・正極板・セパレータを巻回し、電池の形状にする組立工程において、材料の脱落・飛散が起こりやすく短絡不良の原因となる。そのため、幅方向断面で示すと図7のような形になる転写後の極板1は、スリット工程で裁断され、廃棄端部10と狭幅極板部11とに分けられ、狭幅極板部11は組立工程に送られ、廃棄端部10は捨てられる。
【0009】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するものであり、極板に安全性を著しく低下させる原因となり得る余剰な電極材料部分を生じることなく、かつ廃棄端部を捨てることなく製造することができる電池極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明に係る電池極板の製造方法は、巻き出し部から巻き取り部へ走行する集電体平面の表,裏のいずれか一方またはその両方の面に電極材料を付着させる電池極板の製造方法であって、集電体側面に幅方向の両側端から当接する糸を備え、かつ集電体平面と糸との成す角度が15度以上90度未満である除去機構を集電体の走行路中に設け、除去機構により集電体側面の極板幅方向に付着した電極材料の余剰部分を除去することを特徴とする。
【0011】
また、除去機構の糸が当接する集電体側面を幅方向の両側端から内側に圧縮する水平方向分力を0.1[kgf]より大きく、かつ集電体の材質に応じた極板にシワもしくは破れの発生しない値に設定して、電極材料の余剰部分を除去すること、さらに、除去機構に備える極板から除去した電極材料の余剰部分を回収する手段により、除去した電極材料を回収し、再利用することを特徴とする。
【0012】
また、電池極板の製造装置は、巻き出し部から巻き取り部へ走行する集電体平面の表,裏のいずれか一方またはその両方の面に電極材料を付着させる電池極板の製造装置において、集電体側面に幅方向の両側端から当接し、かつ集電体平面との成す角度が15度以上90度未満である糸と、極板幅方向の電極材料の余剰部分を再利用するため、糸により除去した電極材料の余剰部分を回収する手段とを有し、集電体の走行路中に設けられた除去機構を備えたことを特徴とする。
【0013】
前記の装置および方法によれば、走行する集電体平面に電極材料を付着させた極板において、除去機構により極板の幅方向両端にある電極材料の余剰部分を除去すると共に、余剰部分を回収、再利用して電池極板を製造できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集電体の表面、裏面のいずれか一方またはその両方に電極材料が付着した状態の極板に、安全性を著しく低下させる原因となり得る余剰な電極材料の部分を生じることのない電池極板を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態における電池極板の製造方法を示す概略構成図
【図2】本実施形態における除去機構の概略を示す拡大図
【図3】本実施形態における(a)は除去機構に用いた糸の電池極板にかかる力、(b)は良好とする極板の範囲、(c)は集電体の最端部から除去する電極材料を説明する図
【図4】従来のロール転写による電池極板の製造方法を示す概略構成図
【図5】従来のスリットによる電池極板の製造方法を示す概略構成図
【図6】電極材料が集電体より広幅状態の極板を示す斜視図
【図7】電極材料が集電体より広幅状態の極板処理を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態における電池極板の製造方法を示す概略構成図である。ここで、前記従来例を示す図4において説明した構成部材に対応した機能を有するものには同一の符号を付す。
【0018】
図1に示すように、巻き出し22に取り付けられた集電体2を第1の塗布部にあるロール16に抱きつかせて、ロール14との間で一方の面に電極材料3を転写し乾燥炉17を通過させる。さらに、第2の塗布部にあるロール16に抱きつかせて、ロール14との間で他方の面に電極材料3を転写し乾燥炉19を通過させた後、極板1を得る。この極板1を、除去機構20を経て極板21とした後、巻き取り23にて巻き取られる。
【0019】
ロール13b,ロール14は、互いの外周どうしの間に所定のギャップを形成するように並列に配置されており、押出ダイ13aから吐き出されギャップを通過する電極材料3の厚みを整える機能を担っている。
【0020】
剥離ロール15は、電極材料3の塗膜に一定長さ・間隔の間欠部を設けるための手段であり、形状が変わっても塗膜の一部除去するという機能を果たせば良い。この剥離ロール15は一部分が凸形状をしており、その凸部とロール14と互いの外周どうしの間に所定のギャップを形成するように並列に配置され、塗膜の一部を周期的に除去する。
【0021】
またロール16は、ロール14の外周との間に所定のギャップを形成するように並列に配置されており、これらロール14,ロール16上を一方向に走行する集電体2に厚みを整えた電極材料3を転写する機能を担っている。
【0022】
このロール13b,ロール14で形成される膜状の電極材料3の幅は、集電体2の蛇行によって、集電体2の幅方向に電極材料3のない部分が生じるのを避けるため、例えば集電体2の走行時の蛇行制御範囲が1[mm]の場合、集電体2の幅より1[mm]以上広く設定されることが望ましい。
【0023】
ロール13b,ロール14の表面には、シリコンやフッ素に代表される離形性が高い材質を含む樹脂およびそれらの成分が含浸,含有した複合金属物(例えば、フッ素を含有したニッケルメッキなど)を用いることができる。
【0024】
またロールとして、SUSロールを規則的に溝加工したまたはブラストし荒らした面に、シリコンまたはフッ素に代表される離形性が高い材質をコートし、平滑な面が得られるように円周面を加工して、離形性が高い材質をコートした面を規則的またはランダムに部分的表面に出した材料や、クロムメッキした際に生じる小さなクラックに、シリコンまたはフッ素に代表される離形性が高い材質を溶融させて塗布した後に、表面を研磨してランダムに離形性が高い材質を塗布した面を部分的表面に出した材料を用いることができる。
【0025】
剥離ロール15の材質はSUS研磨仕上げ、もしくはクロムメッキ仕上げ、ニッケルメッキのものを用いることができる。ロール16は例えば、SUS研磨仕上げ、もしくはクロムメッキ仕上げ、ニッケルメッキのものを用いることができる。
【0026】
乾燥炉17と乾燥炉19は塗膜の水分を除去する機能を担っており、方式としては熱風、遠赤外、中赤外、電磁誘導加熱等が使用できる。
【0027】
なお、第2の塗布部の各ロールは第1の塗布部の各ロールと同一のものが用いられ、その機能も同じである。ただし、剥離ロール15については、極板の表裏で間欠部の長さが異なる場合は、それに合わせ凸部の長さが変わる。
【0028】
除去機構20は前述の転写動作により、集電体2の幅方向に余剰に付いた電極材料3を除去する機能を担っている。
【0029】
巻き取り23は製造された極板21を巻き取る機能を担っている。
【0030】
また、図2は本実施形態の除去機構の概略を示す拡大図である。図2の除去機構20は、糸25と、その糸25を極板1(21)に対し角度が付いた状態で保持できる糸巻きホルダー26と、糸25の張力を制御する張力制御機構28と、極板1(21)と張力制御機構28との間で糸25を保持する中間ホルダー27と、除去した電極材料の幅方向余剰分3aを回収する回収装置29で構成される。
【0031】
乾燥炉19を通過した極板1は除去機構20を通すことで、極板1の電極材料3の幅方向余剰分3aを除去・回収した極板21にすることができる。除去機構20は極板1(21)の上方に糸巻きホルダー26があり、その糸巻きホルダー26から垂らした糸25が下方に伸びており、糸25は極板21の幅方向の端部に接し、中間ホルダー27を介し、張力調整機構28により、張力制御される。除去機構20の糸25の材料が、麻や綿や羊毛、絹といった天然繊維であるか、ナイロンやポリエステルといった人工繊維であるときに使用できる。
【0032】
糸25によって、剥ぎ落とされた極板1の幅方向余剰分3aは、回収装置29によって回収され、この回収された幅方向余剰分3aは、再度電極材料3を配合する際に計量・投入され、再利用される。これにより、材料利用率が格段に向上する。回収装置29の方式としては、掃除機のようなバキューム方式、静電気方式、蒸気により溶液成分を粉に吸着させて落下させる方式等が使用できる。
【0033】
図1に示した本実施形態の電池極板の製造方法における電極材料3の転写について、以下のようにして試験をした。
【0034】
第1の塗布部のロール13bおよびロール14を回転させた状態にて、一定量の電極材料3を転写元のロール13b表面に投入供給する。そして、ロール13bとロール14との間のギャップで所定の厚さになるように調厚し、さらにロール14と剥離ロール15を用いてロール14上の膜状の電極材料3を間欠的に剥離する。これを、ロール16上を走行する集電体2上に、膜状の電極材料3を転写した後に乾燥炉17を通し、極板1の表面を作製する。その後に表面と同様の方法で第2の塗布部において極板1の裏面を作製する。
【0035】
第1,第2の塗布部において、ロール13bの直径は300[mm],幅は300[mm]、ロール14の直径は300[mm],幅は300[mm]、剥離ロール15の直径は300[mm],幅は300[mm]、ロール16の直径は300[mm],幅は300[mm]とした。また、剥離ロール15にはロールの外周部に幅300[mm]、円周方向長さ10[mm]、高さ1[mm]の凸部を1点設けた。塗布幅は押出ダイ13aの吐出口スリットの幅で決定し、122[mm]とした。
【0036】
第1の塗布部におけるロール13b,14,15,16の回転数は、集電体2の走行速度に合わせて20[m/min]に相当する回転数とした。ロール13bとロール14との間のギャップは150[μm]、ロール14と剥離ロール15の凸部との間のギャップは150[μm]、ロール14とロール16との間のギャップは(180[μm]=150[μm]+集電体2の厚み30[μm])とした。ロール13b,ロール14にはそれぞれシリコンを表面上に焼き付けたものを用い、剥離ロール15,ロール16は、クロムメッキ仕上げのものを用いた。
【0037】
また、第2の塗布部においても、ロール13bとロール14との間のギャップは150[μm]、ロール14と剥離ロール15の凸部との間のギャップは150[μm]、ロール14とロール16との間のギャップは150[μm]+極板の表面厚み(120[μm])とした。ロール13b,ロール14にはそれぞれシリコンを表面上に焼き付けたものを用い、剥離ロール15,ロール16は、クロムメッキ仕上げのものを用いた。
【0038】
電極材料3は、第1組成として、活物質としてのニッケル酸リチウム(以下、LiNiO2という)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、非水溶性高分子の第1結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFという)と、非水分散の溶媒としてのn−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)とを混合してなる非水系正極の電極材料、また第2組成として、活物質としてのグラファイトと、水溶性高分子の第1結着剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMCという)、および第2結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(以下、SBRという)と、溶媒として純水とを混合してなる水系負極の電極材料を下記の(表1)に示す。また、各箇所の押出ダイからの供給量は293[cc/min]とした。
【0039】
【表1】

【0040】
正極の場合、固形分濃度76〜86[重量%]、負極の場合、固形分濃度66〜76[重量%]が転写可能であった。今回の実施形態においては、正極板を第1組成の配合にて固形分濃度86[重量%]で、負極板を第2組成の配合にて固形分濃度76[重量%]で製造した。
【0041】
また、図3(a)は本実施形態における除去機構に用いた糸の電池極板にかかる力、(b)は良好とする極板の範囲、(c)は集電体の最端部から除去する電極材料を説明する図である。糸25の水平方向分力33は集電体2のせん断破壊応力以下で、かつ集電体2の座屈を発生させない荷重が使用でき、水平方向分力33の求め方は、
(数1)
H=F×cosθ
ここで、H:水平方向分力33、F:糸25の張力31、θ:極板1と糸25との角度32
に示すとおりである。
【0042】
なお、巻き取り23が巻き取るために走行方向にかかる集電体2への張力は、使用する集電体2の許容引張り応力および幅,厚みで決定される。つまり、材料の材質および形状で決定され、許容範囲を超える張力で引っ張られると集電体2が裂けてしまう恐れがあるため、許容範囲を超え使用することができない。
【0043】
このため、除去機構20を用いた実施形態において、巻き取り23が巻き取る極板21の巻き取り張力を0.5〜8.0[kgf]の範囲とし、糸25により発生する水平方向分力33を0.1〜1.5[kgf]の範囲で変更し、極板21の状態を確認した。
【0044】
用いた糸25の線径は1.5[mm]、材質は木綿で、負極板(第2組成の電極材料)を除去した際の結果を(表2)に示す。なお、集電体2には幅120[mm],厚み30[μm]の銅箔を用いた。
【0045】
【表2】

【0046】
(表2)において、良好とした極板21は、除去機構の糸25により極板1の幅方向余剰分3aを除去した後、0.01[mm]以上集電体2が露出しておらず、もしくは余剰に付いた電極材料3が0.02[mm]以下である(図3(b)参照)。
【0047】
また、巻きズレ発生とした極板21は、巻き取り23にて、巻き取った極板21の位置ズレが1[mm]以上発生した状態である。巻きズレがあると、組立工程で巻き回する際に不良が発生する。
【0048】
極板シワ発生とは、極板21の幅方向において、極板21が糸25に挟まれる力(糸25の水平方向分力33)が強いため、極板21が折れてしまう状態である。
【0049】
極板へのめり込み発生とは、極板21の幅方向において、極板21が糸25に挟まれる力(糸25の水平方向分力33)が強すぎるため、極板21が裂け、糸25が極板21にめり込んでしまう状態である。
【0050】
糸破断とは、糸25の張力が糸25の破断応力以上になり、裂けてしまう状態である。
【0051】
極板切れ発生とは、極板21の張力が極板21の破断応力以上になり、裂けてしまう状態である。
【0052】
なお、極板21と糸25との角度32はθ=90°以上の場合、部分的に除去できない部分があった。一方、θ=90°未満にすることで全数余剰な電極材料3を除去することが可能であった。
【0053】
また、具体的には極板21で、厚み120[μm]の電極材料3において集電体2の最端部から除去した部分(図3(c)参照)は、極板21(集電体2)と糸25との角度32としてθ=10°の場合、電極材料3の除去される割合は0.73[%]となり、θ=15°の場合の割合は0.48[%]、θ=30°の場合の割合は0.2[%]となる。そして、除去した電極材料3の容量低下は0.5[%]以下としたいため、この容量の観点から極板21(集電体2)と糸25の成す角度32の範囲としては、θ=15°以上90°未満とする。
【0054】
さらに、用いた糸25の線径は0.75[mm]、材質は木綿で、負極板(第2組成の電極材料)を除去した際の結果を(表3)に示す。なお、集電体2には幅120[mm],厚み30[μm]の銅箔を用いた。
【0055】
【表3】

【0056】
また、用いた糸25の線径は3.0[mm]、材質は木綿で、負極板(第2組成の電極材料)を除去した際の結果を(表4)に示す。なお、集電体2には幅120[mm],厚み30[μm]の銅箔を用いた。
【0057】
【表4】

【0058】
前述した(表2)〜(表4)の結果から幅120[mm],厚み30[μm]の銅箔が好適に走行できる巻き取り張力の範囲として、下限は0.6[kgf]、上限は7.9[kgf]であり、その間が好適に使用できる範囲であることがわかった。
【0059】
また、好適に余剰な電極材料3を除去することができる水平方向分力33の下限は、糸25の線径に関わらず0.1[kgf]である。
【0060】
そして、水平方向分力33の上限は、糸25の線径が1.5[mm]以下の場合、糸25の径と比例関係にある。一方、糸25の線径が1.5[mm]を超える場合、水平方向分力33の上限は0.8[kgf]であることが、実験結果からわかった。
【0061】
水平方向分力33の上限を超えた場合の不良モードは2つあり、1つは糸25の線径1.5[mm]以下の場合、極板21に糸25がめり込む。これは、糸25によって生じた水平方向分力33によるせん断力が銅箔のせん断破壊応力に達したためと思われる。もう1つは、糸25の線径が1.5[mm]を超える場合、極板シワが発生する。これは糸25の水平方向分力33により、極板21が限界応力に達し、座屈が生じてしまったためと思われる。
【0062】
次に、他の条件を変えずに集電体2の厚みのみを半分にしたときの結果を示す。ここで、用いた糸25の線径は1.5[mm]、材質は木綿で、負極板(第2組成の電極材料)を除去した際の結果を(表5)に示す。なお、集電体2には幅120[mm],厚み15[μm]の銅箔を用いた。
【0063】
【表5】

【0064】
さらに、用いた糸の線径は3.0[mm]、材質は木綿で、負極板(第2組成の電極材料)を除去した際の結果を(表6)に示す。なお、集電体には幅120[mm],厚み15[μm]の銅箔を用いた。
【0065】
【表6】

【0066】
以上の結果を整理したものを(表7)に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
(表7)より、集電体2として用いた銅箔の厚みに比例して、巻き取り張力の上限が変化しており、厚みと巻き取り張力の上限の間に比例関係があることがわかった。一方、巻き取り張力の下限は、集電体2の厚みに関係なく0.6[kgf]以上であれば良い。
【0069】
また、好適に余剰な電極材料3を除去することができる水平方向分力33の下限は、糸25の線径に関わらず0.1[kgf]以上であるという点から銅箔の厚みとは関係がない。
【0070】
一方、銅箔の厚みが2倍になると、水平方向分力33の上限は2倍になる。例えば、糸25の線径が1.5[mm]の場合で、集電体2の厚みが15[μm]のときは、水平方向分力33の上限は0.4[kgf]であり、巻き取り張力の上限は4.0[kgf]である。
【0071】
そして、糸25の線径が同じ1.5[mm]で、集電体2の厚みが先ほどの2倍である30[μm]のときは、水平方向分力33の上限は0.8[kgf]であり、巻き取り張力の上限は7.9[kgf]とほぼ2倍になる。
【0072】
これは、糸25により生じるせん断力が、糸25が接する銅箔側面部の面積と反比例の関係にあり、銅箔の厚みが減った分だけ面積が減り、その結果、小さな力でせん断破壊応力に到るためと思われる。また、座屈に置いても、せん断破壊応力同様、厚みが薄くなると、小さな力で限界応力に達し、座屈に到るためと思われる。
【0073】
結果は省略するが、電極材料3の厚みのみを変えて、集電体2の厚み30[μm]、用いた糸25の線径は1.5[mm]、材質は木綿で、負極板(第2組成の電極材料)を除去した場合、(表2)と全く同じ結果であった。つまり、電極材料3の厚みは巻き取り張力と水平方向分力33に影響しない。
【0074】
次に、負極板と同様に正極板として、集電体2を厚み30[μm],幅120[mm]のアルミニウム箔に代えて、前述と同様の検討をした結果を(表8)〜(表10)に示す。
【0075】
用いた糸25の線径は0.75[mm]、材質は木綿で、正極板(第1組成の電極材料)を除去した際の結果を(表8)に示す。また、集電体2には厚み30[μm],幅120[mm]のアルミニウム箔を用いた。
【0076】
【表8】

【0077】
さらに、用いた糸25の線径は1.5[mm]、材質は木綿で、正極板(第1組成の電極材料)を除去した際の結果を(表9)に示す。なお、集電体2には厚み30[μm],幅120[mm]のアルミニウム箔を用いた。
【0078】
【表9】

【0079】
また、用いた糸25の線径は3.0[mm]、材質は木綿で、正極板(第1組成の電極材料)を除去した際の結果を(表10)に示す。なお、集電体2には厚み30[μm],幅120[mm]のアルミニウム箔を用いた。
【0080】
【表10】

【0081】
以上の結果を整理したものを(表11)に示す。
【0082】
【表11】

【0083】
集電体2の材質をアルミニウム箔に変え、検討した結果、銅箔のときと似た傾向の結果が得られ、好適に走行可能な巻き取り張力の上限は銅箔のときのおよそ3/4の値になり、好適に電極材料3を除去できる水平方向分力33の上限は共に、銅箔のときのおよそ1/2の値となった。なお、巻き取り張力の下限については0.6[kgf]、水平方向分力33の下限については0.1[kgf]であった。
【0084】
正極板で厚みを変えた結果については、省略するが厚みを半分にした場合、銅箔同様に好適に走行可能な巻き取り張力の上限、好適に電極材料3を除去できる水平方向分力33の上限は共に、半分になった。
【0085】
正極板においては好適に除去できる糸25の水平方向分力33の範囲としては、下限は0.1[kgf]以上である。
【0086】
本実施形態のように、電極材料3が、
(1)リチウム含有複合酸化物よりなる活物質と導電材と非水溶性高分子結着材とを非水分散の溶媒にて混練分散した非水系正極電極材料、
(2)リチウム含有複合酸化物よりなる活物質と導電材と水溶性高分子結着材とを水分散の溶媒にて混練分散した水系正極電極材料、
(3)少なくともリチウムを保持し得る活物質と水溶性高分子結着材とを水分散の溶媒にて混練分散した負極電極材料、
であるときに好適に使用できる。
【0087】
次に、効果を比較するため一方を実施例として、本実施形態の除去機構20を用いて、極板1の電極材料3の幅方向余剰分3aを除去した極板21を製造し、他方を比較例として、特許文献1,2に記載した従来の製造方法と同様の工法で極板を製造した。なお、比較例に用いた各材料は、実施例と全く同じものを用いた。
【0088】
そして、それらの極板を用いて、1000個を電池にした際の短絡不良数と材料利用率で評価を行った。
【0089】
実施例および比較例では、正極板を第1組成の配合にて固形分濃度86[重量%]で、負極板を第2組成の配合にて固形分濃度76[重量%]で製造した。
【0090】
なお、材料利用率は、
(数2)
材料利用率[%]=(極板として使用された材料・部材)÷(全投入材料・部材)×100
で表される。
【0091】
その結果を(表12)に示す。
【0092】
【表12】

【0093】
比較例においては、スリット時の金属バリ起因の短絡不良が少量発生し、材料利用率も実施例に比べ、悪い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る電池極板の製造方法および製造装置は、集電体の表面、裏面のいずれか一方またはその両方に電極材料が付着した状態の極板に、安全性を著しく低下させる原因となり得る余剰な電極材料の部分を生じることのない電池極板を得ることができ、非水系あるいは水系の二次電池、リチウム電池などの電池極板の製造に有用であり、機能性粉末を結合材樹脂、溶媒等と混合して成膜する電気二重層キャパシタ、ディスプレイ誘電体層等の製造方法にも適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1,21 極板
2 集電体
3 電極材料
3a 幅方向余剰分
4,5,6 ロール
7 広幅電極板
8 スリット
9a,9b 狭幅電極板
10 廃棄端部
11 狭幅極板部
13a 押出ダイ
13b,14,16 ロール
15 剥離ロール
17,19 乾燥炉
20 除去機構
22 巻き出し
23 巻き取り
25 糸
26 糸巻きホルダー
27 中間ホルダー
28 張力制御機構
29 回収装置
31 張力
32 角度
33 水平方向分力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き出し部から巻き取り部へ走行する集電体平面の表,裏のいずれか一方またはその両方の面に電極材料を付着させる電池極板の製造方法であって、
前記集電体側面に幅方向の両側端から当接する糸を備え、かつ前記集電体平面と前記糸との成す角度が15度以上90度未満である除去機構を前記集電体の走行路中に設け、前記除去機構により集電体側面の極板幅方向に付着した前記電極材料の余剰部分を除去することを特徴とする電池極板の製造方法。
【請求項2】
前記除去機構の糸が当接する集電体側面を幅方向の両側端から内側に圧縮する水平方向分力を0.1[kgf]より大きく、かつ前記集電体の材質に応じた極板にシワもしくは破れの発生しない値に設定して、電極材料の余剰部分を除去することを特徴とする請求項1記載の電池極板の製造方法。
【請求項3】
前記除去機構に備える極板から除去した電極材料の余剰部分を回収する手段により、前記除去した電極材料を回収し、再利用することを特徴とする請求項1または2記載の電池極板の製造方法。
【請求項4】
巻き出し部から巻き取り部へ走行する集電体平面の表,裏のいずれか一方またはその両方の面に電極材料を付着させる電池極板の製造装置において、
前記集電体側面に幅方向の両側端から当接し、かつ前記集電体平面との成す角度が15度以上90度未満である糸と、前記極板幅方向の電極材料の余剰部分を再利用するため、前記糸により除去した前記電極材料の余剰部分を回収する手段とを有し、前記集電体の走行路中に設けられた除去機構を備えたことを特徴とする電池極板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−4059(P2012−4059A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140154(P2010−140154)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】