説明

電池用極板のロールプレス装置

【課題】電極箔にシワが発生することを抑制することが可能な電池用極板のロールプレス装置を提供する。
【解決手段】ロールプレス装置1は、ロールを複数備え、前記複数のロールを、前方側ロール11と後方側ロール12とで構成し、前方側ロール11と後方側ロール12とを、塗工部3・3・3に交互に千鳥状に配置して、前方側ロール11のロール部11aと後方側ロール12のロール部12aとを回転させることによって、電極箔2を搬送方向に搬送しながら各塗工部3をプレスし、後方側ロール12による電極箔2の搬送速度に対する、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度から後方側ロール11による電極箔2の搬送速度を減じた値の割合が、プレス時における電極箔2の伸び率よりも大きくなるように、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度と後方側ロール12による電極箔2の搬送速度との間に速度差を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用極板のロールプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池用極板のロールプレス装置(ロールプレス装置)の技術は公知となっている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
特許文献1及び特許文献2に記載のロールプレス装置は、電極箔(電池用シート)に活物質が塗工された極板をロールによりプレスする。また、特許文献2に記載のロールプレス装置は、複数並列された活物質の塗工部の各列を、千鳥状に配置された複数のロールによりプレスする。
しかし、ロールが千鳥状に配置されている場合、各ロール間での微妙な速度差や、プレス時における電池用シートの伸びにより、当該シートにかかる張力を精密に制御することが困難となり、当該シートにシワが発生しやすい。また、プレス時に前記シートが伸びる場合、前記シートには上流側のロールと下流側のロールとの間で未プレス列とプレス済み列とが存在し、各列の張力が不均一になる。なお、後方側ロールにブレーキ機能を持たせて、当該ブレーキ機能により後方側ロールの搬送速度を制御することで張力制御する方法も考えられるが、当該ロールは重量が大であり、慣性力が大きく、当該ブレーキ機能によっては小さな張力制御を行うことが困難である。また、千鳥状に配置されたロール毎にその間で張力制御する方法も考えられるが、設備設置面積が増大し、かつ、装置の製造コストが増大するので現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−297756号公報
【特許文献2】特開2008−226502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電極箔にシワが発生することを抑制することが可能な電池用極板のロールプレス装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の電池用極板のロールプレス装置は、
電極箔に活物質が複数列塗工された極板に関し、前記電極箔を前記活物質の塗工部が延在する方向に搬送しながら前記塗工部をプレスする、
電池用極板のロールプレス装置であって、
一対のロール部を有し、前記一対のロール部の間で前記各塗工部をプレスするロールを複数備え、
前記複数のロールを、前方側ロールと、前記前方側ロールよりも前記電極箔の搬送方向における上流側に配置される後方側ロールとで構成し、
前記前方側ロールと後方側ロールとを、前記複数の塗工部に交互に千鳥状に配置して、前記前方側ロールのロール部と後方側ロールのロール部とを回転させることによって、前記電極箔を前記搬送方向に搬送しながら各塗工部をプレスし、
前記後方側ロールによる前記電極箔の搬送速度に対する、前記前方側ロールによる前記電極箔の搬送速度から前記後方側ロールによる前記電極箔の搬送速度を減じた値の割合が、プレス時における前記電極箔の伸び率よりも大きくなるように、前記前方側ロールによる前記電極箔の搬送速度と後方側ロールによる前記電極箔の搬送速度との間に速度差を設ける。
【0006】
請求項2に記載の電池用極板のロールプレス装置においては、
前記前方側ロールのロール部のロール径が、前記後方側ロールのロール部のロール径よりも大きく、
前記前方側ロールのロール部及び後方側ロールのロール部は、一つの動力により同一の回転速度で回転する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極箔にシワが発生することを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)ロールプレス装置の上面図、(b)ロールプレス装置の側面図。
【図2】(a)電極箔に発生したシワを示す図、(b)電極箔に発生したシワを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、電池用極板のロールプレス装置(ロールプレス装置)10について、図面を参照して説明する。
【0010】
ロールプレス装置10は、極板1をプレスして、極板1を所望の厚さにするための装置である。
図1(a)に示すように、極板1は、電極箔(電池用シート)2に活物質が塗工された構成を有する。電極箔2は、シート状の部材であり、長手形状を有している。電極箔2には、電極箔2の長手方向に沿って活物質が塗工されている。前記活物質は、電極箔2の表面及び裏面に塗工されている。電極箔2の表面及び裏面において、前記活物質が塗工されている領域を塗工部3と称し、前記活物質が塗工されていない領域を未塗工部4と称する。電極箔2の表面において、複数の塗工部3・3・3が、前記長手方向に延在しており、長手方向に直交する方向に並列されている。なお、本実施形態では、塗工部3・3・3が、三列設けられていることとする。塗工部3・3・3は、互いに離間して配置されており、隣り合う塗工部3・3の間には、未塗工部4が存在している。極板1を未塗工部4・4で切断することにより、各塗工部3・3・3が分離され、複数の塗工部3・3・3に分離された極板1が電極として用いられる。
電極箔2の裏面において、表面における各塗工部3が存在する箇所の真裏に該当する箇所には、各塗工部3が存在しており、表面における各未塗工部4が存在する箇所の真裏に該当する箇所には、各未塗工部4が存在している。すなわち、電極箔2の表面の各塗工部3と、電極箔2の裏面の各塗工部3とが、一対で存在しており、電極箔2の表面の各未塗工部4と、電極箔2の裏面の各未塗工部4とが、一対で存在している。
【0011】
図1(a)及び図1(b)に示すように、ロールプレス装置10は、複数のロールを備えている。前記複数のロールは、前方側ロール11と後方側ロール12とで構成されている。前方側ロール11は、一対のロール部11aを有している。後方側ロール12は、一対のロール部12aを有している。
前方側ロール11のロール部11aのロール径φaは、後方側ロール12のロール部12aのロール径φbよりも大きい(φa>φb)。また、前方側ロール11のロール部11a及び後方側ロール12のロール部12aは、一つの動力(モータ)に接続されており、前記一つの動力の駆動力により、同一の回転速度で回転する。
前方側ロール11の一対のロール部11aは、極板1の表面側と裏面側とに配置されており、電極箔2の表面及び裏面に塗工された一対の塗工部3を、電極箔2の表面側と裏面側から挟むように構成されている。後方側ロール12の一対のロール部12aは、極板1の表面側と裏面側とに配置されており、電極箔2の表面及び裏面に塗工された一対の塗工部3を、電極箔2の表面側と裏面側から挟むように構成されている。
後方側ロール12は、前方側ロール11よりも電極箔2の搬送方向における上流側に配置されている。前記搬送方向は、図1(a)及び図1(b)の矢印A方向であり、塗工部3・3・3の長手方向における一側(巻出し側)から他側(巻取り側)へ向かう方向である。前方側ロール11と後方側ロール12とは、塗工部3・3・3の並列方向に沿って交互に配置されている。すなわち、前方側ロール11と後方側ロール12とは、塗工部3・3・3に、交互に千鳥状に配置されている。また、中央列の塗工部3には後方側ロール12が配置されており、左右外側列の塗工部3・3には前方側ロール11が配置されている。
ロールプレス装置10においては、電極箔2の張力制御は、装置入口側と出口側とで、電極箔2の幅全体に対してのみ行われ、塗工部3の列毎には行われない。
【0012】
ロールプレス装置10により極板1をプレスするときの手順について説明する。
ロールプレス装置10は、前方側ロール11と後方側ロール12とが塗工部3・3・3に千鳥状に配置された状態で、前方側ロール11の一対のロール部11aと後方側ロール12の一対のロール部12aとを回転させる。これにより、一対のロール部11a及び一対のロール部12aが、各一対の塗工部3をそれぞれ所定の圧力で挟持して、前記搬送方向(矢印A方向)へ送り出す。この結果、電極箔2が前記搬送方向に搬送されながら、各塗工部3が一対のロール部11aの間及び一対のロール部12aの間でそれぞれプレスされる。
このとき、前方側ロール11のロール部11aの回転速度に比例して、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度(前方側ロール11による単位時間当たりの塗工部3の送り量)Vaが変化し、ロール部11aの回転速度が一定の場合、ロール部11aのロール径φaに比例して、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaが変化する。また、後方側ロール12のロール部12aの回転速度に比例して、後方側ロール12による電極箔2の搬送速度(後方側ロール12による単位時間当たりの塗工部3の送り量)Vbが変化し、ロール部12aの回転速度が一定の場合、ロール部12aのロール径φbに比例して、後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbが変化する。
ロールプレス装置10は、前方側ロール11及び後方側ロール12により各塗工部3をプレスすることにより、各塗工部3と電極箔2とを合わせた厚みを、所望の厚みとなるよう変化させる。
【0013】
以下では、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとについて説明する。
【0014】
図2(a)に示すように、本願発明者は、前方側ロール11及び後方側ロール12により各塗工部3をプレスする場合、後方側ロール12による電極箔2(塗工部3)の送り量が前方側ロール11による電極箔2(塗工部3)の送り量よりも大きいと、前方側ロール11によりプレスされる外側列の塗工部3・3にたるみが生じ、後方側ロール12によりプレスされる中央列の塗工部3近傍にシワXが発生することを発見した。
【0015】
また、図2(b)に示すように、本願発明者は、(プレス時における電極箔2の伸び量)>(前方側ロール11による電極箔2の送り量−後方側ロール12による電極箔2の送り量)、となるとき、電極箔2における前方側ロール11と後方側ロール12との間にたるみが生じ、外側列の塗工部3・3と中央列の塗工部3との間の境界部(未塗工部4)にシワYが発生することを発見した。
【0016】
そこで、ロールプレス装置10においては、(プレス時における電極箔2の伸び量)<(前方側ロール11による電極箔2の送り量−後方側ロール12による電極箔2の送り量)、となるように、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの間に速度差を設けることとした。
すなわち、ロールプレス装置10においては、後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbに対する、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaから後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbを減じた値の割合αが、プレス時における電極箔2の伸び率βよりも大きくなるように([数1]参照)、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの間に速度差を設けることとした。このように下記[数1]の条件(β<α)を満たすように、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの間に速度差が設けられることで、電極箔2がプレスされるときに、電極箔2における後方側ロール12にプレスされた部分が伸びてたるみを発生させるが、当該たるみの発生した部分が、そのたるみを打ち消すように前方側ロール11により引っぱられるので、シワの発生が抑制される。
[数1]
β<α=(Va−Vb)/Vb=(φa−φb)/φb
【0017】
なお、上述したように、ロールプレス装置10は、前方側ロール11のロール部11aと後方側ロール12のロール部12aとを、同一の動力により同一の回転速度で回転させる。この場合、前方側ロール11のロール部11aのロール径φaと後方側ロール12のロール部12aのロール径φbとの差が変更されることによって、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの速度差が、上記[数1]の条件(β<α)を満たす大きさになるように調整される。
【0018】
以上のように、ロールプレス装置10は、後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbに対する、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaから後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbを減じた値の割合αが、プレス前における電極箔2の寸法を1としたときの、プレス時における電極箔2の伸び率βよりも大きくなるように、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの間に速度差が設けられている。
これにより、電極箔2にシワが発生することを抑制することが可能となる。
【0019】
また、前方側ロール11のロール部11aのロール径φaは、後方側ロール12のロール部12aのロール径φbよりも大きく、前記前方側ロール11のロール部11a及び後方側ロール12のロール部12aは、一つの動力により同一の回転速度で回転する。
これにより、装置構成を簡素化することが可能となり、かつ、装置の製造コストを低減することが可能となる。
なお、前方側ロール11のロール部11aと後方側ロール12のロール部12aとには、それぞれ別個の動力が接続され、各動力によりロール部11aの回転速度とロール部12aの回転速度とが個別に制御されるように構成してもよい。この場合、ロール部11aの回転速度とロール部12aの回転速度とが前記各動力により個別に変更されることによって、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの速度差が、上記[数1]の条件(β<α)を満たす大きさになるように調整される。
【0020】
また、(前方側ロール11による電極箔2の送り量−後方側ロール12による電極箔2の送り量−プレス時における電極箔2の伸び量)=γ、が大きくなると、電極箔2への負荷が大きくなり、電極箔2が破断するおそれがある。そこで、前記γの限界値γmaxを設定して、前記γの値が前記限界値γmaxを超えないように、前方側ロール11による電極箔2の搬送速度Vaと後方側ロール12による電極箔2の搬送速度Vbとの間に速度差を設けてもよい。前記限界値γmaxは、電極箔2の寸法や、前方側ロール11と後方側ロール12との間の距離等によって異なり、実験等により、適宜求められる。
【符号の説明】
【0021】
1 極板
2 電極箔
3 塗工部
4 未塗工部
10 ロールプレス装置
11 前方側ロール
12 後方側ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極箔に活物質が複数列塗工された極板に関し、前記電極箔を前記活物質の塗工部が延在する方向に搬送しながら前記塗工部をプレスする、
電池用極板のロールプレス装置であって、
一対のロール部を有し、前記一対のロール部の間で前記各塗工部をプレスするロールを複数備え、
前記複数のロールを、前方側ロールと、前記前方側ロールよりも前記電極箔の搬送方向における上流側に配置される後方側ロールとで構成し、
前記前方側ロールと後方側ロールとを、前記複数の塗工部に交互に千鳥状に配置して、前記前方側ロールのロール部と後方側ロールのロール部とを回転させることによって、前記電極箔を前記搬送方向に搬送しながら各塗工部をプレスし、
前記後方側ロールによる前記電極箔の搬送速度に対する、前記前方側ロールによる前記電極箔の搬送速度から前記後方側ロールによる前記電極箔の搬送速度を減じた値の割合が、プレス時における前記電極箔の伸び率よりも大きくなるように、前記前方側ロールによる前記電極箔の搬送速度と後方側ロールによる前記電極箔の搬送速度との間に速度差を設ける、
電池用極板のロールプレス装置。
【請求項2】
前記前方側ロールのロール部のロール径が、前記後方側ロールのロール部のロール径よりも大きく、
前記前方側ロールのロール部及び後方側ロールのロール部は、一つの動力により同一の回転速度で回転する、
請求項1に記載の電池用極板のロールプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−54932(P2013−54932A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192627(P2011−192627)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】