説明

電池用活物質、非水電解質電池および電池パック

【課題】高容量及び大電流特性に優れた活物質、これを使用した非水電解質電池及び組電池の提供。
【解決手段】負極活物質として単斜晶系β型チタン複合酸化物を使用する。前記単斜晶系β型チタン複合酸化物はX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、前記Xは前記Yより大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用活物質、非水電解質電池および電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単斜晶系β型構造を有するチタン酸化物(TiO2(B)と表記する)は非水電解質電池用活物質として注目されている(特許文献1〜3参照)。従来、実用されているスピネル型チタン酸リチウム(Li4Ti512)は、単位化学式あたりの挿入・脱離可能なリチウムイオンの数が3つである。このため、チタンイオン1つあたりに挿入・脱離可能なリチウムイオンの数は、3/5で、0.6が理論上の最大であった。これに対して、TiO2(B)はチタンイオン1つあたりの挿入・脱離可能なリチウムイオンの数は、最大で1.0となる。このため、理論容量が約335mAh/gと高い特性を有する。
【0003】
しかしながら、TiO2(B)の実用的な電極容量は特許文献1または特許文献2に開示されているように170〜200mAh/g程度であり、理論容量に比べて著しく低い。これは、TiO2(B)の結晶構造中にLiホストとなり得るサイトが多数あるにも拘わらず、固体中のLiイオンの拡散性が低いため、実効的な可動Liイオンが少ないことに起因すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−34368号公報
【特許文献2】特開2008−117625号公報
【特許文献3】WO 2009/028553 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リチウムイオンの拡散性、特に挿入・脱離特性を高めたTiO2(B)を含む電池用活物質、この活物質を負極活物質として含み、高容量、優れた大電流特性を有する非水電解質電池、およびこの非水電解質電池を複数備えた電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によると、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含有する電池用活物質であって、前記単斜晶系β型チタン複合酸化物はX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、前記Xは前記Yより大きい電池用活物質が提供される。
【0007】
本発明の第2側面によると、外装材と、前記外装材内に収納された正極と、前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含有する活物質を含む負極と、前記外装材内に充填された非水電解質とを具備し、前記単斜晶系β型チタン複合酸化物はX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、前記Xは前記Yより大きい非水電解質電池が提供される。
【0008】
本発明の第3側面によると、前記第2側面の非水電解質電池を複数備え、各々の電池が直列、並列または直列および並列に電気的に接続される電池パックが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高容量で優れた大電流特性に寄与する電池用活物質、高容量で優れた大電流特性を有する非水電解質電池、並びこの非水電解質電池を複数備えた電池パックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る扁平型非水電解質電池を示す断面図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】実施形態に係る電池パックを示す分解斜視図である。
【図4】図3の電池パックのブロック図である。
【図5】実施例1のチタン複合酸化物のX線回折パターンを示す図である。
【図6】実施例1,2および比較例1のチタン複合酸化物の4つの面方位での結晶子径を示す図である。
【図7】単斜晶系β型チタン酸化物(TiO2(B))の結晶構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る電池用活物質、非水電解質電池および電池パックを詳細に説明する。
【0012】
実施形態に係る電池用活物質は、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、X線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、XはYより大きい。
【0013】
前記広角X線回折法を以下に説明する。
【0014】
単斜晶系β型チタン複合酸化物を粉砕して得られた粉末(試料)は、ガラス試料板の深さ0.2mmのホルダ内に充填する。外部からガラス板を使い、指で数十MPa〜数百MPaの圧力にて押し付けてガラス試料板に充填された試料表面を平滑化にする。このとき、試料が十分にホルダ部分に充填されるように留意し、試料の充填不足(ひび割れ、空隙)のないように注意する。試料量はガラスホルダの深さ(0.2mm)と均等となるように充填し、充填量の過不足により、ガラスホルダの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。
【0015】
また、以下の方法はガラス試料板への充填方法により回折線ピーク位置のずれや強度比の変化を排除するためにより好ましい。すなわち、前記試料に約250MPaの圧力を15分間かけることによって直径10mm、厚さ約2mmの圧粉体ペレットを作製し、そのペレット表面を測定する。
【0016】
広角X線回折法による測定は、以下の通りである。
【0017】
<測定方法>
試料を直径25mmの標準ガラスホルダに詰め、広角X線回折法で測定を行った。以下に測定装置および条件を示す。測定環境は室温大気中(18〜25℃)で行なう。
【0018】
(1)X線回折装置:Bruker AXS 社製;D8 ADVANCE(封入管型)
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力 :40kV,40mA
スリット系:Div. Slit;0.3°
検出器:LynxEye(高速検出器)
(2)スキャン方式:2θ/θ連続スキャン
(3)測定範囲(2θ):5〜100°
(4)ステップ幅(2θ):0.01712°
(5)計数時間:1秒間/ステップ。
【0019】
<解析、結晶子サイズの算出>
このような単斜晶系β型チタン複合酸化物の広角X線回折法で得られるX線回折パターンから2θが48〜49°に存在するピークおよび2θが24〜26°に存在するピークの半値幅に以下に示すシェラーの式を用いて結晶子径(結晶子サイズ)を算出することができる。
【数1】

【0020】
ここで、K=0.9、λ(=0.15406nm)、βe:回折ピークの半値幅、βo:半値幅の補正値(0.07°)である。
【0021】
合成した電池用活物質の結晶子径の算出方法は前述した通りである。また、電極化(塗工・圧延)した電池組立前の負極(未充電状態)の分析についても、負極表面に対して前述した測定を行い、同様の手法により電池用活物質の結晶子径を算出することができる。
【0022】
一方、完成電池の負極については、以下の手法により結晶子径を算出することができる。完成電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧まで放電させる。放電させた電池を不活性雰囲気中(または大気中)で解体し、電極群中央部の負極を切り出す。切り出した負極をエチルメチルカーボネートで充分に洗浄して電解質成分を除去する。その後、大気中で1日放置する(または水で洗浄する)などして失活させる。この状態の負極について前述した測定を行い、同様の手法により電池用活物質の結晶子径を算出すればよい。
【0023】
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造をTiO2(B)と表記する。TiO2(B)で表される結晶構造は、主に空間群C2/mに属し、図7に例示されるようなトンネル構造を示す。TiO2(B)の詳細な結晶構造に関しては、R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Researchの文献に記載されている。
【0024】
図7に示すようにTiO2(B)で表される結晶構造は、チタンイオン53と酸化物イオン52が骨格構造部分51aを構成し、この骨格構造部分51aが交互に配置された構造を有する。骨格構造部分51a同士の間には空隙部分51bがそれぞれ形成される。これらの空隙部分51bは、異原子種のインサーション(挿入)のホストサイトとなる。TiO2(B)は、また結晶表面にも異原子種を吸蔵放出可能なホストサイトが存在するといわれている。リチウムイオンがこれらのホストサイトに挿入・脱離することにより、TiO2(B)はリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することができる。
【0025】
リチウムイオンが空隙部分51bに挿入されると、骨格を構成するTi4+がTi3+へと還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。TiO2(B)は化学式あたり1つのTi4+を有するため、理論上、層間に最大1つのリチウムイオンを挿入することが可能である。このため、TiO2(B)結晶構造を有する酸化チタン化合物は一般式LixTiO2 (0≦x≦1)により表わすことができる。この場合、前述の特許文献1,2に記載のように二酸化チタンに比べて2倍近い理論容量の335mAh/gが得られる。しかしながら、TiO2(B)の実用的な電極容量は前述したように170〜200mAh/g程度であり、理論容量に比べて著しく低い。これは、TiO2(B)の結晶構造中にLiホストとなり得るサイトが多数あるにも拘わらず、固体中のリチウムイオンの拡散性が低いため、Liサイトに挿入・脱離するリチウムイオンが実効的に少なくなることに起因すると考えられる。
【0026】
実施形態に係る活物質に含まれるTiO2(B)はX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、XはYよりも大きい特徴を有する。このようなTiO2(B)は、非水電解質電池の活物質として組み込むことにより、高容量で優れた大電流特性に寄与する。
【0027】
TiO2(B)の標準X線回折パターンはJCPDS46−1237または46−1238に記載され、2θが24〜26°に現れるピークはTiO2(B)の(110)面に帰属されるメインピークであり、2θが48〜49°に現れるピークはTiO(B)の(020)面に帰属される。後述する実施例1で例示する図5に示すX線回折パターンにおいて、検出される明瞭なピークの各々から結晶子径を算出できる。これらのピークの中で、2θが48〜49°に現れるピークはTiO2(B)の(020)面に帰属され、このピークから算出される結晶子径は他のピークから算出される結晶子径に比べて有意に大きいことがわかる。2θが48〜49°に現れるピークの結晶子径が大きいことは、単位格子が(020)面のベクトル方向((020)面に垂直な方向)に優先的に並ぶことを意味する。すなわち、単位格子が他の面、例えば(110)面に比べて(020)面のベクトル方向に優先的に並ぶ形状異方性を有する。結晶を(020)で切り出した面は、前述した図7と同様な模式図で表わすことができる。実施形態に係るTiO2(B)は、(020)面が図7に示すc軸方向(紙面に対して垂直方向)に優先的に積み重なった状態となる。図7から明らかなように、(020)面にはリチウムイオンが挿入・脱離するための大きな空隙部分51bを多数存在する。このように単位格子が(020)面のベクトル方向((020)面に垂直な方向)に優先的に並ぶことによって、リチウムイオンが(020)面の多数の空隙部分51bを通してTiO2(B)に円滑に拡散し、かつその拡散速度が他の面(例えば(110)面)よりも速くなると考えられる。
【0028】
その結果、このような特性を持つTiO2(B)は固体中のリチウムイオンの優れた拡散性によりLiサイトに挿入・脱離するリチウムイオンが実効的に増加する。このため、このTiO2(B)を活物質として含む非水電解質電池は高容量化が図られる。また、前記特性を持つTiO2(B)を含む電極(例えば負極)でのリチウムイオンの挿入・脱離が迅速になされるために、このTiO2(B)を活物質として含む非水電解質電池は大電流特性を向上できる。
【0029】
TiO2(B)は、X線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、X,Yは次式(1)の関係を満たすことがより好ましい。
【0030】
X/Y≧1.27 …(1)
結晶子径X,Yの関係が式(1)を満たすTiO2(B)を活物質として含む非水電解質電池は、大電流特性をさらに向上できる。さらに好ましい結晶子径X,Yの関係は次式(2)を満たす。
【0031】
1.27≦X/Y≦50 …(2)
X/Yが50を超えると、TiO2(B)粉末の粒径が大きくなって粉末の比表面積が低下し、活物質と電解液との接触面積、即ちリチウムイオンを吸蔵できる面積が減少する虞がある。
【0032】
結晶子径Xは、20nm以上であることが好ましい。結晶子径Xを20nm未満にすると、単位格子が(020)面のベクトル方向に優先的に並ぶ割合が低下して大電流特性が損なわれる虞がある。より好ましい結晶子径Xは、30nm以上1μm以下である。このような結晶子径Xを持つTiO2(B)は、リチウムイオンの固体内拡散を円滑に進行させることが可能になる。
【0033】
TiO2(B)の1次粒子径は、30nm以上1μm以下であると好ましい。30nm以上であると、工業生産上扱いやすい。1μm以下であると、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることができる。
【0034】
TiO2(B)は、5m2/g以上50m2/g以下の比表面積を有することが好ましい。5m2/g以上の比表面積を有するTiO2(B)は、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。50m2/g以下のTiO2(B)は、工業生産上扱いやすい。
【0035】
なお、TiO2(B)は製造上不可避な不純物を1000ppm以下含んでもよい。
【0036】
次に、実施形態に係る電池用活物質の製造方法を説明する。
【0037】
まず、例えばNa2Ti37、K2Ti49、Cs2Ti512のようなチタン酸アルカリ化合物を出発原料として用意する。チタン酸アルカリ化合物は、Tiを含有する物質と、Na、K、Csなどのアルカリ元素を含有する物質を所定比率で混合し、一般的な固相反応法によって合成することができる。出発原料の合成は、手法、結晶形状を問わない。なお、K2Ti49のチタン酸カリウムは例えばフラックス法で合成することも可能である。
【0038】
出発原料は、純水で十分に水洗してチタン酸アルカリ化合物から不純物を取り除いた後、酸処理をしてアルカリカチオンをプロトンに交換する。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウムおよびチタン酸セシウム中のそれぞれのナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオンは結晶構造を崩さずにプロトンとの交換が可能である。酸処理によるプロトン交換は、例えば出発原料に濃度1Mの塩酸を加えて攪拌することによってなされる。酸処理は充分にプロトン交換が完了するまで行われることが望ましい。プロトン交換時には、溶液にアルカリ性溶液または酸溶液を添加してpHを調整してもよい。プロトン交換の完了後、再び純水で水洗する。
【0039】
出発原料は、プロトン交換前に予めボールミルで粉砕することが好ましい。この粉砕は、円滑なプロトン交換を遂行できる。粉砕条件は、100cm2の容器あたり、直径10〜15mm程度のジルコニアボールを用い、600〜1000rpmの回転速度で1〜3時間ほどジルコニアボールを回転させることにより行うことができる。1時間以下の粉砕では、出発原料が十分に粉砕されないため好ましくない。また、3時間以上、特に6時間を超える長時間の粉砕はメカノケミカル反応が進み目的生成物と異なる化合物に相分離するため好ましくない。
【0040】
次いで、プロトン交換を終了した生成物を水洗・乾燥することにより、中間生成物であるプロトン交換体を合成する。つづいて、プロトン交換体を加熱処理することによりTiO2(B)を製造する。
【0041】
好ましい加熱処理温度は、250℃〜800℃である。加熱処理は、400℃までの昇温速度を小さくすることが好ましい。昇温速度が高いと、脱水工程が不均一になり、均一なTiO2(B)を合成し難くなる。好ましい昇温速度は200℃/時以下である。昇温速度の下限値は限定されない。生産性の観点から、昇温速度の下限値は10℃/時にすることが好ましい。
【0042】
加熱処理は、例えば250〜500℃の第1加熱処理と、500〜800℃の第2加熱処理を組合せる2段加熱処理を行うことがより好ましい。第1加熱処理は均一な結晶化を進行させ、第2加熱処理は不純物相の生成を抑えつつ、即座に結晶性を高めることができる。
【0043】
このような2段加熱処理において、第1加熱処理の温度を250℃未満にすると、結晶性が低下して、H2Ti817のような不純物相の混入量が増大し、電気容量が低下する虞がある。第2加熱処理の温度が800℃を超えると、結晶性が向上し、H2Ti817のような不純物相も減少するが、別の不純物相であるアナターゼ型TiO2相の混入量が増大し、電気容量が低下する虞がある。一定温度での加熱処理時間は30分以上24時間以下程度行えば良く、好ましくは1時間から3時間である。
【0044】
前記2段加熱処理は、不純物相の混入量を抑えつつ、結晶性を高めることができる。しかしながら、高温で実施する第2加熱処理の間に比表面積が減少する傾向にある。第1加熱処理での比表面積を維持しつつ、結晶性を高めるためには、第1加熱処理後の物質にカーボン前駆体を被覆し、その後に第2加熱処理を行うことが好ましい。カーボン前駆体の被覆は、例えば以下の方法により行うことができる。
【0045】
純水に所定量のサッカロースを加えて溶解させ、さらにエタノールで希釈した溶液を準備する。この希釈溶液に第1加熱処理後の物質を投入、攪拌しながら溶媒を揮発させることによりカーボン前駆体被覆物質を得ることができる。
【0046】
第1加熱処理後の物質にカーボン前駆体を被覆することによって、第2加熱処理時に物質間(粒子間)の焼結を抑制できるため、第1加熱処理後の比表面積を維持することが可能となる。第2加熱処理を大気中で行えば、第2加熱処理の進行に伴ってカーボン前駆体が消失して、目的とするTiO2(B)のみを製造することができる。不活性雰囲気で第2加熱処理を行えば、カーボンで被覆されたTiO2(B)を製造することも可能になる。
【0047】
実施形態に係る電池用活物質は、後述する負極のみならず、正極にも用いることができ、いずれに適用しても活物質の高容量化と、電池に用いたときの大電流特性の向上に寄与する。
【0048】
実施形態に係る電池用活物質を正極に用いる場合、対極としての負極の活物質は金属リチウム、リチウム合金、またはグラファイト、コークスなどの炭素系材料を用いることができる。
【0049】
次に、実施形態に係る非水電解質電池を説明する。
【0050】
実施形態に係る非水電解質電池は、外装材と、外装材内に収納された正極と、外装材内に正極と空間的に離間して、例えばセパレータを介在して収納された活物質を含む負極と、外装材内に充填された非水電解質とを具備する
以下、非水電解質電池の構成部材である外装材、負極、正極、セパレータおよび非水電解質について詳細に説明する。
【0051】
1)外装材
外装材は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムから形成される。また、外装材は厚さ1.0mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0052】
外装材の形状は、例えば扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型が挙げられる。外装材は、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材が用いられる。
【0053】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0054】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属が含む場合、その量は100ppm以下にすることが好ましい。
【0055】
2)負極
負極は、集電体と、この集電体の片面または両面に形成され、活物質、導電剤および結着剤を含む負極層とを備える。
【0056】
活物質は、前述した単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む電池用活物質が用いられる。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、X線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとするとXはYよりも大きい。結晶子径XおよびYの関係は、前述した式(1)または式(2)を満たすことが好ましい。
【0057】
このような単斜晶系β型チタン複合酸化物は、前述したようにリチウムイオンが(020)面を通してTiO2(B)に円滑に拡散し、かつその拡散速度が他の面(例えば(110)面)よりも速くなる。その結果、この単斜晶系β型チタン複合酸化物を含有する活物質を含む負極を備えた非水電解質電池は、高容量で、優れた大電流特性を有する。
【0058】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛を含む。
【0059】
結着剤は、活物質と導電剤を結着できる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴムを含む。
【0060】
負極層中の活物質、導電剤および結着剤は、それぞれ70重量%以上96重量%以下、2重量%以上28重量%以下および2重量%以上28重量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2重量%未満にすると、負極層の集電性能が低下し、非水電解質電池の大電流特性が低下する虞がある。また、結着剤の量を2重量%未満にすると、負極層と集電体の結着性が低下し、サイクル特性が低下する虞がある。一方、導電剤および結着剤はそれぞれ28重量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0061】
集電体は、1.0Vよりも貴である電位範囲において電気化学的に安定であるアルミニウム箔またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金箔であること好ましい。
【0062】
負極は、例えば活物質、導電剤および結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。負極はまた活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成して負極層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0063】
3)正極
正極は、集電体と、この集電体の片面または両面に形成され、活物質、導電剤および結着剤を含む正極層とを備える。
【0064】
活物質は、例えば酸化物、ポリマー等を用いることができる。
【0065】
酸化物は、例えばリチウムを吸蔵した二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケルおよびリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、オリピン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、硫酸鉄(Fe2(SO43)、またはバナジウム酸化物(例えばV25)を用いることができる。ここで、x、yは0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0066】
ポリマーは、例えばポリアニリンやポリピロールのような導電性ポリマー材料、またはジスルフィド系ポリマー材料を用いることができる。イオウ(S)、フッ化カーボンもまた活物質として使用できる。
【0067】
好ましい活物質は、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LixMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-yCoyO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-y2)、またはリチウムリン酸鉄(LixFePO4)が挙げられる。ここで、x、yは0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0068】
さらに好ましい活物質は、リチウムコバルト複合酸化物またはリチウムマンガン複合酸化物である。これらの活物質は、イオン伝導性が高いため、前述した負極活物質との組み合わせにおいて、正極活物質中のリチウムイオンの拡散が律速段階になり難い。このため、前記活物質は前記負極活物質中のリチウムチタン複合酸化物との適合性に優れる。
【0069】
活物質は、100nm以上1μm以下の1次粒子径を有することが好ましい。1次粒子径が100nm以上である場合には、工業生産上扱いやすい。1次粒子径が1μm以下である場合には、リチウムイオンの固体内拡散を円滑に進行させることができる。
【0070】
活物質は、0.1m2/g以上10m2/g以下の比表面積を有することが好ましい。比表面積が0.1m2/g以上である場合には、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10mm2/g以下である場合には、工業生産上扱いやすく、良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0071】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素質物を含む。
【0072】
結着剤は、活物質と導電剤を結着させる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、フッ素系ゴムを含む。
【0073】
正極層中の活物質、導電剤および結着剤は、それぞれ80重量%以上95重量%以下、3重量%以上18重量%以下および2重量%以上17重量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3重量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、18重量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2重量%以上の量にすることにより十分な正極強度が得られる。結着剤は、17重量%以下の量にすることにより、正極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0074】
集電体は、例えばアルミニウム箔、またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0075】
正極は、例えば活物質、導電剤および結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。正極はまた活物質、導電剤および結着剤をペレット状に形成して負極層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0076】
4)非水電解質
非水電解質は、例えば電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、または液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質が挙げられる。
【0077】
液状非水電解質は、電解質を0.5M以上2.5M以下の濃度で有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0078】
電解質の例は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミトリチウム[LiN(CF3SO22]のリチウム塩、またはこれらの混合物を含む。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0079】
有機溶媒の例は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)のような鎖状エーテル;またはγ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)を含む。これらの有機溶媒は、単独または混合溶媒の形態で用いることができる。
【0080】
高分子材料の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)を含む。
【0081】
好ましい有機溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)および(ジエチルカーボネート(DEC))からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、またはγ−ブチロラクトン(GBL)を含む混合溶媒である。
【0082】
5)セパレータ
セパレータは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、もしくはポリフッ化ビニリデンを含む多孔質フィルム、または合成樹脂製不織布が挙げられる。好ましい多孔質フィルムは、ポリエチレンまたはポリプロピレンから作られ、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であるために安全性を向上できる。
【0083】
次に、実施形態に係る非水電解質電池(例えば外装材がラミネートフィルムからなる扁平型非水電解質電池)を図1、図2を参照してより具体的に説明する。図1は、薄型非水電解質電池の断面図、図2は図1のA部の拡大断面図である。なお、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0084】
扁平状の捲回電極群1は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装材2内に収納されている。扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図2に示すように負極集電体3aの内面側の片面に負極層3bを形成した構成を有する。その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極層3bを形成して構成されている。負極層3b中の活物質は、前述した単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む電池用活物質が用いられる。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、X線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとするとXはYよりも大きい。正極5は、正極集電体5aの両面に正極層3bを形成して構成されている。
【0085】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外殻の負極3の負極集電体3aに接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに接続されている。これらの負極端子6および正極端子7は、袋状外装材2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装材2の開口部から注入されている。袋状外装材2の開口部を負極端子6および正極端子7を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群1および液状非水電解質を完全密封している。
【0086】
負極端子は、例えばリチウムイオン金属に対する電位が0.5V以上3.0V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から作られる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0087】
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3.0〜5.0Vの範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から作られる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0088】
次に、実施形態に係る電池パックを詳細に説明する。
【0089】
実施形態に係る電池パックは、前述した非水電解質電池(単電池)を複数有し、各単電池を電気的に直列、並列または直列と並列に接続して配置されている。
【0090】
このような電池パックは優れたサイクル特性を有する。
【0091】
負極活物質に含まれる単斜晶系二酸化チタンは、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、XはYよりも大きく、単位格子が(020)面のベクトル方向((020)面に垂直な方向)に優先的に並んでいるため、この単斜晶系二酸化チタンを用いた非水電解質電池は大電流特性を向上できる。その結果、このような電池を複数組み込んだ電池パックは大電流での充放電を行った際においても、充放電サイクル性能を向上できる。
【0092】
次に、実施形態に係る電池パック図3および図4を参照して具体的に説明する。単電池は、図1に示す扁平型非水電解液電池が使用される。
【0093】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6および正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図4に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0094】
プリント配線基板24は、負極端子6および正極端子7が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図4に示すようにサーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向する保護回路基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0095】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29,31は、プリント配線基板24に形成された配線32,33を通して保護回路26に接続されている。
【0096】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34aおよびマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図3および図4の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0097】
正極端子7および負極端子6が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0098】
組電池23は、各保護シート36およびプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36およびプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0099】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0100】
図3、図4では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、または直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
【0101】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途は、大電流を取り出したときに優れたサイクル特性を示すものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0102】
前述したようにプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、またはγ−ブチロラクトン(GBL)を含む非水電解質を用いることによって、高温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。このような非水電解質電池を複数有する組電池を備えた電池パックは、特に車載用に好適である。
【0103】
以下、実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0104】
(実施例1)
<正極の作製>
まず、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.82Co0.15Al0.032)粉末90重量%、導電剤として、アセチレンブラック5重量%と、ポリフッ化ビニリデン5重量%をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーとし、このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し後、乾燥し、プレスすることにより正極層密度が3.15g/cm3の正極を作製した。
【0105】
<チタン複合酸化物の合成>
まず、炭酸カリウム(K2CO3)、とアナターゼ型酸化チタン(TiO2)を混合し、1000℃で24時間焼成してK2Ti49を合成した。得られたK2Ti49をジルコニアビーズで約3時間乾式粉砕して粒度調整した後、純水で洗浄してプロトン交換前駆体とした。得られたプロトン交換前駆体を1M濃度の塩酸溶液中に投入し、25℃の環境で120時間の超音波分散を施して、プロトン交換体を得た。
【0106】
得られたプロトン交換体を、大気中で、室温から昇温速度100℃/時で350℃まで昇温し、350℃で3時間の焼成を施した(第1加熱処理)。つづいて、200℃/時で500℃まで昇温した後、500℃で1時間の焼成を施した(第2の熱処理)。これらの2段加熱処理によりチタン複合酸化物を合成した。
【0107】
得られたチタン複合酸化物について、前述の条件でXRD測定を実施した。その結果、図5に示すX線回折パターンを得た。このX線回折パターンから2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径(X)と、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径(Y)を算出した。チタン複合酸化物の合成時の条件を下記表1、結晶子径X,YおよびX/Yの結果を下記表2に示す。
【0108】
<負極の作製>
得られたチタン複合酸化物粉末80重量%、導電剤として、アセチレンブラック10重量%と、ポリフッ化ビニリデン10重量%をN−メチルピロリドン(NMP)加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより負極層密度が1.6g/cm3の負極を作製した。
【0109】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:2)に、電解質としてのLiPF6を1mol/L溶解することにより液状非水電解質を調製した。
【0110】
<電極群の作製>
正極、厚さ25μmのポリエチレン製の多孔質フィルムからなるセパレータ、負極、セパレータの順番に積層した後、渦巻き状に捲回した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が30mmで、厚さが1.8mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群を厚さ25μmの延伸ナイロンフィルムと厚さ40μmのアルミニウムシートと厚さ30μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとをこの順序でウレタン系接着剤を介して積層・接着した厚さ0.1mmのラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。
【0111】
電極群を収納したラミネートフィルムパック内に液状非水電解質を注入した後、パックをヒートシールにより完全密閉し、図1に示す構造を有し、幅が35mmで、厚さが2mm、かつ高さが65mmの非水電解質二次電池を組立てた。
【0112】
(実施例2〜5)
粉砕時間、プロトン交換時間、第1加熱処理の温度・時間、昇温速度、および第2加熱処理の温度・時間、昇温速度をそれぞれ下記表1に記載の条件でチタン複合酸化物を合成し、得られたチタン複合酸化物を負極の活物質として用いた以外、実施例1と同様な方法で非水電解質二次電池を組立てた。
【0113】
なお、実施例3〜5では純水/エタノール混合溶液中にサッカロースを3重量%溶解させた溶液を調製し、この溶液に第1加熱処理により得られた物質を投入し、攪拌しながら溶媒を揮発させてカーボン前駆体被覆物質とし、このカーボン前駆体被覆物質に第2加熱処理を施した。
【0114】
(比較例1〜3)
第1加熱処理を行う際の昇温速度を300℃/時とし、粉砕時間、プロトン交換時間、および加熱処理(第1加熱処理)の時間・温度をそれぞれ下記表1に記載の条件でチタン複合酸化物を合成し、得られたチタン複合酸化物を負極の活物質として用いた以外、実施例1と同様な方法で非水電解質二次電池を組立てた。
【0115】
実施例1〜5および比較例1〜3の各電池について、25℃の環境下で0.2C放電容量と、2C放電容量を測定し、0.2C放電容量に対する2C放電容量の比率(%)を容量維持率(%)として求めた。その結果を下記表2に示す。
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
(実施例6〜12)
粉砕時間、プロトン交換時間、および加熱処理(第1加熱処理)の時間・温度および昇温速度をそれぞれ下記表3に記載の条件でチタン複合酸化物を合成し、得られたチタン複合酸化物を負極の活物質として用いた以外、実施例1と同様な方法で非水電解質二次電池を組立てた。
【0118】
なお、実施例2、12および比較例1で得たチタン複合酸化物の4つの面方位での結晶子径を図6に示す。
【0119】
実施例6〜12の各電池について、25℃の環境下で0.2C放電容量と、2C放電容量を測定し、0.2C放電容量に対する2C放電容量の比率(%)を容量維持率(%)として求めた。その結果を下記表4に示す。なお、下記表4には前述した比較例1〜3の電池の結果も併記する。
【表3】

【0120】
【表4】

【0121】
前記表1〜表4から明らかなようにX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとするとXはYよりも大きいチタン複合酸化物を負極活物質として用いた実施例1〜12の電池は結晶子径XおよびYがX/Y≦1の関係を持つチタン複合酸化物を負極活物質として用いた比較例1〜3の電池に比べて高い負極容量と高い容量維持率(良好な大電流性能)を示すことがわかる。特に、結晶子径(X)が30nm以上である実施例3〜5、9,11,12の電池はより高い容量維持率を示すことがわかる。
【0122】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単斜晶系β型チタン複合酸化物を含有する電池用活物質であって、前記単斜晶系β型チタン複合酸化物はX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、前記Xは前記Yより大きい電池用活物質。
【請求項2】
前記結晶子径XおよびYが次式(1)の関係を満たす請求項1記載の電池用活物質。
X/Y≧1.27 …(1)
【請求項3】
前記結晶子径Xは、20nm以上である請求項1記載の電池用活物質。
【請求項4】
前記結晶子径Xは、1μm以下である請求項1記載の電池用活物質。
【請求項5】
外装材;
前記外装材内に収納された正極;
前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間し、単斜晶系β型チタン複合酸化物を含有する活物質を含む負極;および
前記外装材内に充填された非水電解質;
を具備し、
前記単斜晶系β型チタン複合酸化物はX線源CuKα線を用いた広角X線回折法により算出される結晶子径において、2θが48〜49°に存在するピークから算出される結晶子径をX、2θが24〜26°に存在するピークから算出される結晶子径をYとすると、前記Xは前記Yより大きい非水電解質電池。
【請求項6】
前記結晶子径XおよびYが次式(1)の関係を満たす請求項5記載の非水電解質電池。
X/Y≧1.27 …(1)
【請求項7】
前記結晶子径Xは、20nm以上である請求項5記載の非水電解質電池。
【請求項8】
前記結晶子径Xは、1μm以下である請求項5記載の非水電解質電池。
【請求項9】
前記正極は、リチウムニッケル複合酸化物またはリチウムマンガン複合酸化物を含む請求項5記載の非水電解質電池。
【請求項10】
請求項5記載の非水電解質電池を複数備え、各々の電池が直列、並列または直列および並列に電気的に接続される電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−178352(P2012−178352A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93340(P2012−93340)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【分割の表示】特願2011−523510(P2011−523510)の分割
【原出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】