説明

電池用電極の製造方法

【課題】 リチウムイオン二次電池などに好適な電池用電極の製造方法であって、酸素含有量が異なる複数の層からなる活物質層を有する電池用電極の効果的な製造方法を提供すること。
【解決手段】 活物質層10中にケイ素などのエネルギー容量の大きい活物質が含まれている電池用電極を作製する。この際、酸素含有ガスを含まないか又は酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で、集電体9に活物質を堆積させ、酸素を含まないか又は酸素含有量の少ない第1活物質層10aを形成する工程を行った直後に、第1活物質層10aの表面を、酸素含有ガスの圧力が前記雰囲気中に比べて高い酸化性雰囲気に曝し、第1活物質層10aの少なくとも表面領域を、酸素含有量の多い第2活物質層10bに変化させる。上記の一連の工程を繰り返すことにより、第1活物質層と第2活物質層とからなる複合体層が、複数層、積層して設けられている活物質層を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などに好適な電池用電極の製造方法に関するものであり、詳しくは、初回放電容量および充放電サイクル特性を改善する電池用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器は高性能化および多機能化されてきており、これらに伴い、モバイル機器に電源として用いられる二次電池にも、小型化、軽量化および薄型化が要求され、高容量化が求められている。
【0003】
この要求に応え得る二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電池特性は、用いられる電極活物質などによって大きく変化する。現在実用化されている代表的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムが用いられ、負極活物質として黒鉛が用いられているが、このように構成されたリチウムイオン二次電池の電池容量は理論容量に近づいており、今後の改良で大幅に高容量化することは難しい。
【0004】
そこで、充電の際にリチウムと合金化するケイ素やスズなどを負極活物質として用いて、リチウムイオン二次電池の大幅な高容量化を実現することが検討されている。ただし、ケイ素やスズなどを負極活物質として用いた場合、充電および放電に伴う膨張および収縮の度合いが大きいため、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が微粉化したり、負極集電体から脱落したりして、サイクル特性が低下するという問題がある。
【0005】
従来、粒子状の活物質とバインダーとを含むスラリーを負極集電体に塗布した塗布型負極が用いられてきた。これに対し、近年、気相法、液相法、あるいは焼結法などにより、ケイ素などの負極活物質層を負極集電体に積層して形成した負極が提案されている(例えば、特開平8−50922号公報、特許第2948205号公報、および特開平11−135115号公報)。このようにすれば、負極活物質層と負極集電体とが一体化され、塗布型負極に比べて、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が細分化されることを抑制でき、初回放電容量および充放電サイクル特性が向上するとされている。また、負極における電子伝導性が向上する効果も得られる。
【0006】
しかしながら、上記のように負極活物質層と負極集電体とを一体化し、製造方法を工夫した負極においても、充放電を繰り返すと、負極活物質層の激しい膨張収縮によって界面に応力が加わり、負極活物質層が負極集電体から脱落するなどして、サイクル特性が低下する。
【0007】
そこで、後述の特許文献1には、負極が、負極集電体と、負極集電体に気相法により形成された負極活物質層とからなり、この負極活物質層は、ケイ素を含み、かつ、酸素の含有量が異なる第1層と第2層とが交互に積層され、第1層と第2層とが複数層ずつ含まれる活物質層であることを特徴とする負極が提案されている。第1層は、負極活物質としてケイ素の単体または合金を含んでおり、酸素を含んでいてもいなくてもよいが、少ない方が高い容量が得られるので好ましい。第2層は、ケイ素に加えて酸素を含んでおり、酸素はケイ素と結合し、酸化物として存在している。第2層における含有量は、ケイ素が90原子数%以下、酸素が10原子数%以上であることが好ましい。
【0008】
特許文献1には、このように構成された負極では、充放電に伴う激しい膨張および収縮が抑制され、充放電に伴う負極活物質層の構造破壊が効果的に抑制され、かつ、電解質と負極活物質層との反応性も低減されると述べられている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−349162号公報(第4、5及び8頁、図2及び3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、上記第1層および第2層の形成方法として、まず、負極集電体に真空蒸着法などの気相法によってケイ素からなる活物質層を形成し、次に、酸素濃度5%のアルゴンガスを真空チャンバーの内部へ流入させ、活物質層の表面およびその近傍の領域を酸化して、ケイ素からなる第1層と、酸化物を含有する第2層とを形成する方法が述べられている。この方法によれば、ケイ素からなる第1層の上部に、厚さ0.1μm程度の酸化物を含有する第2層が存在する複合体層を形成することができる。また、この一連の工程を繰り返すことで、複数の上記複合体層が積層された活物質層を形成することができる。
【0011】
しかしながら、真空チャンバー内に導入できる酸素量には限界があり、上記の方法で形成できる第2層の厚さや酸素含有率の大きさには限界がある。また、成膜が終了した後に形成されるケイ素層の表面状態は、成膜条件や雰囲気などによって大きく変化するため、成膜終了後に酸素ガスで酸化する方法では、酸化の程度を制御することが難しく、形成される第2層のばらつきが大きくなりやすい。この結果、酸化物を含有する第2層を設ける効果や、第1層および第2層間の密着性のばらつきが大きくなり、電池用電極としての特性のばらつきが大きくなる場合がある。従って、酸化物を含有する第2層の形成方法にはさらなる改良の余地があると考えられる。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、リチウムイオン二次電池などに好適な電池用電極の製造方法であって、酸素含有率が異なる複数の層からなる活物質層を有する電池用電極の効果的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、集電体の表面に、活物質層として、酸素を含まないか又は酸素含有率の小さい第1活物質層と、酸素含有率の大きい第2活物質層とからなる複合体層が設けられている電池用電極の製造方法において、
酸素含有ガスを含まないか又は前記酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で、前記集電 体の前記表面に活物質を堆積させ、前記第1活物質層を形成する工程を行った直後に、 前記第1活物質層の表面を、前記酸素含有ガスの圧力が前記雰囲気中に比べて高い酸化 性雰囲気に曝し、前記第1活物質層の少なくとも表面領域を前記第2活物質層に変化さ せる工程を行う
ことを特徴とする、第1の電池用電極の製造方法に係るものである。
【0014】
また、本発明は、集電体の表面上において、活物質層として、酸素を含まないか又は酸素含有率の小さい第1活物質層と、酸素含有率の大きい第2活物質層とからなる複合体層が、複数層、積層して設けられている電池用電極の製造方法において、
酸素含有ガスを含まないか又は前記酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で、前記集電 体の前記表面上において活物質を堆積させ、前記第1活物質層を形成する工程を行った 直後に、前記第1活物質層の表面を、前記酸素含有ガスの圧力が前記雰囲気中に比べて 高い酸化性雰囲気に曝し、前記第1活物質層の少なくとも表面領域を前記第2活物質層 に変化させる工程を行うことにより、前記複合体層の1層を形成し、
上記の一連の工程を繰り返すことにより、複数の前記複合体層を積層し、前記活物質 層を形成する
ことを特徴とする、第2の電池用電極の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の電池用電極の製造方法によれば、酸素含有ガスを含まないか又は前記酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で活物質を堆積させ、前記第1活物質層を形成する工程を行った直後に、前記第1活物質層の表面を、前記酸素含有ガスの圧力が前記雰囲気中に比べて高い酸化性雰囲気に曝すので、成膜直後の反応性の高い状態にある前記第1活物質層に対し、前記酸素含有ガスの酸化作用を効果的に作用させることができる。また、成膜条件や雰囲気などによって特性が大きく変化する表面状態が固定的に形成される前に酸化を行うので、特性のばらつきの小さい前記第2活物質層を形成することができる。また、前記第1活物質層が既に形成された後であるので、前記酸化性雰囲気中の前記酸素含有ガスの圧力を、前記雰囲気中の前記酸素含有ガスの圧力に比べてはるかに大きくすることができる。
【0016】
上述した効果によって、前記第1活物質層の少なくとも表面領域を、特性のばらつきが小さい良質な前記第2活物質層に確実に変化させることができる。また、酸素含有率の大きい前記第2活物質層を容易に形成することができる。この結果、酸素含有率が異なる前記第1活物質層と前記第2活物質層とからなる前記複合体層を活物質層として有し、充放電サイクル特性に優れた電池用電極の効果的な製造方法を提供することができる。なお、上述した製造方法から容易に予想できるように、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間で酸素含有率が段階的あるいは連続的に変化し、両者の間に明確な境界面が見られない場合もあるが、本発明はこのような場合も含むものである(以下、同様。)。
【0017】
また、本発明の第2の電池用電極の製造方法によれば、上記の一連の工程を繰り返すことにより、前記第1活物質層と前記第2活物質層とからなる前記複合体層を、複数層、積層した前記活物質層を容易に形成することができる。この結果、第1の電池用電極の製造方法と同様、充放電サイクル特性に優れた電池用電極の効果的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、前記集電体として長尺形状の集電体を用い、前記集電体を長尺方向に送り出し、前記雰囲気中にある活物質層形成領域を通過させて前記第1活物質層を形成した直後に、前記酸化性雰囲気に面した酸化領域を通過させて前記第2活物質層を形成するのがよい。本発明は、前記集電体を固定して成膜する場合に適用してもよいが、前記集電体を走行させ、前記集電体が前記活物質層形成領域および前記酸化領域を通過するようにした方が、前記雰囲気を形成する空間領域と前記酸化性雰囲気を形成する空間領域とを空間的に分離できるので製造装置が簡易になり、かつ、制御性及び生産性よく前記電池用電極を製造することができる。
【0019】
この際、前記酸化領域を形成する方法としては、前記活物質層形成領域を設けた成膜室内の一部の空間領域を、隔壁、又は、隔壁及び前記集電体によって囲み、この半ば閉じられた空間領域に前記酸化領域を形成するか、或いは、前記活物質層形成領域を通過した直後の前記集電体に、前記酸素含有ガスを吹きつけ、前記酸化領域を形成するのがよい。前者の方法によれば、半ば閉じられた空間領域に前記酸化性雰囲気を形成するので、前記酸化性雰囲気中の前記酸素含有ガスの圧力を、前記雰囲気中に比べてはるかに大きくすることができ、かつ、正確に制御することができる。後者の方法では、前記活物質層形成領域と前記酸化領域とを仕切る壁がないので、前記酸化性雰囲気中の前記酸素含有ガスの圧力を制御する性能は前者の方法に比べて少し劣るが、簡易かつコンパクトな設備で前記酸化領域を形成することができる。
【0020】
また、前記集電体を長尺方向に送り出す方法としては、通常、巻き取りローラーなどからなる走行手段を用いて、前記集電体を連続的に走行せる方法が用いられている。この方法によれば、最も簡易に、能率よく、前記活物質層を形成することができる。しかし、前記活物質層形成領域において前記集電体を保持する成膜ロールとして、通常の円形キャンロールを用いて前記集電体を走行させながら成膜すると、熱で前記集電体が変形し、円形キャンロール上の前記集電体の断面は、中央部が浮き上がり、両側端部で円形キャンロールの外周面と接触する形状に変形する場合がある。このようになると、冷却手段を兼ねた円形キャンロールに前記集電体が均等に接触しないため、成膜時に前記集電体が受ける熱負荷が不均一になり、電池用電極の充放電サイクル特性が低下する。
【0021】
上記の問題を解決する1つの方法として、前記集電体を保持する成膜ロールとして、ロール面の形状が、中央部ほど大きく膨らみ、周辺部ほど径小となる形状を有する成膜ロール、例えば後述の図3(a)に示す樽型形状を有しているクラウンロールを用いるのがよい。このようにすると、走行方向に印加される張力から、前記集電体の幅方向外側に向かう張力が発生し、前記集電体のたるみやしわなどの変形や蛇行を抑えることができる。また、前記集電体が上記したように変形しても、成膜ロールのロール面が樽型形状を有するため、前記集電体とロール面との密着が保たれやすい。この結果、前記集電体が成膜ロールのロール面に均等に接触し、成膜時に前記集電体が受ける熱負荷が小さく、しかも均一になるため、電池用電極の充放電サイクル特性が向上する。
【0022】
上記の問題を解決する別の方法として、前記集電体を断続的に走行させ、前記活物質層形成領域において前記集電体を少なくとも一度静止させて、前記第1活物質層を形成する方法を用いることもできる(特願2006−143883号参照。)。前記集電体を静止させた状態で前記活物質層を形成すれば、走行させることによって生じる前記集電体の変形がなくなり、成膜時に前記集電体が受ける熱負荷が均一になるため、前記電池用電極の充放電サイクル特性を飛躍的に向上させることができる。
【0023】
この際、前記第1活物質層の成膜中に前記集電体の長尺方向に加わる機械的な引っ張り応力を、2N/cm以下にするのがよく、より好ましくは1N/cm以下にするのがよく、更に好ましくは無視できる大きさにするのがよい。長尺方向に加わるテンションを無視できる大きさにすると、充放電サイクル特性を飛躍的に向上させることができる。
【0024】
前記集電体を長尺方向に走行させながら成膜する従来の方法では、長尺方向にかけるテンションをオフにすると前記集電体の巻きずれが起こるため、成膜中に長尺方向にかけるテンションをオフにすることはできない。これに対し、静止成膜では、成膜中に前記集電体の長尺方向に加わるテンションを、無視できる大きさにすることができる。
【0025】
具体的には、前記集電体を静止させた状態で、前記活物質層形成領域に位置する前記集電体の一領域に前記第1活物質層を成膜した後、集電体走行手段を用いて前記集電体を所定の長さだけ走行させて、前記集電体の前記一領域の後方領域を前記活物質層形成領域に移動させ、前記第1活物質層の成膜を再び行うのがよい。静止成膜では生産性の低下が懸念されるが、通常の静止成膜とは異なり、本発明の製造方法では、静止成膜と走行を繰り返しながら、前記長尺形状の集電体をその長尺方向に送り出して成膜を行うので、前記集電体を走行させながら連続的に成膜する場合と遜色のない生産性を実現することができる。
【0026】
この際、前記第1活物質層形成領域において前記集電体を保持する成膜ロールの回転によって、前記集電体を所定の長さだけ走行させるのがよい。前記成膜ロールの前記回転によって前記集電体を速やかに走行させることができる。
【0027】
この場合、前記成膜ロールとして多角形ロールを用いるのがよい。そして、前記多角形ロールの前記集電体保持面が平坦面もしくは凹面形状を有するのがよい。平坦面もしくは凹面に成膜を行うと、前記第1活物質層の膜厚の位置によるばらつきを小さく抑えることができる。
【0028】
また、複数の前記複合体層からなる前記活物質層の形成では、所定の厚さの前記活物質層が得られるまで、断続的に成膜を繰り返し、前記複合体層を積層するのがよい。例えば、真空蒸着法で成膜すると、蒸着源からの熱によって前記集電体が劣化するおそれがある。また、静止成膜では、前記集電体が蒸着源などからの輻射熱に耐え切れず、箔切れを起こす可能性がある。そこで、断続的に成膜すれば、成膜を中断している間に放熱することができ、成膜時の熱の影響を小さく抑えることができ、前記集電体の激しい熱負荷に起因する電池用電極の変形や充放電サイクル性能の劣化を防止することができる。また、結果的には、蒸発源へ加える電力を大きくすることができるため、生産性も向上する。
【0029】
また、前記集電体の表側及び裏側の両面に活物質層を形成し、そのうち、少なくとも一方の側の活物質層として前記活物質層を形成するのがよく、好ましくは、両面に前記活物質層を形成するのがよい。両面に前記活物質層を形成した場合、片面のみに前記活物質層を形成した場合に比べて充放電容量を大きくすることができる。また、片面にのみ活物質層を形成した場合、活物質層の形成や、充放電による活物質層の膨張圧縮で、電池用電極が変形するおそれが大きくなる。これに対し、両面に活物質層を形成した場合、両面側で同じように前記活物質層の形成や前記活物質層の膨張圧縮が起こるため、これによる応力が釣り合って、前記電池用電極の変形が起こりにくくなる。
【0030】
この際、前記集電体の両面に活物質層を形成し、前記表側面の活物質層の厚さと、前記裏側面の活物質層の厚さとの差を3μm以下、より好ましくは1.6μm以下に保ちながら、前記活物質層を形成するのがよい。前記集電体の表裏両面に活物質層を順次積層し、両面に形成された活物質層の厚さの差を上記の範囲内に抑えることで、電極の変形を低減し、取り扱い性の良好な電池用電極の作製が可能になる。また、前記表側面、前記裏側面の順で活物質層を形成した次は、前記裏側面、前記表側面の順で活物質層を形成し、一方、前記裏側面、前記表側面の順で活物質層を形成した次は、前記表側面、前記裏側面の順で活物質層を形成することを繰り返して、前記集電体の両面に活物質層を形成するのがよい。これは前記集電体を往復走行させて能率よく活物質層を形成する場合の形成順である。
【0031】
また、前記活物質層を気相成膜法によって形成するのがよく、前記気相成膜法の一つである真空蒸着法によって前記活物質層を形成するのが特に好ましい。真空蒸着法は成膜速度が速いので、生産性よく前記電池用電極を形成することができる。
【0032】
また、前記集電体として銅を含有する材料を用いるのがよく、また、ケイ素を含有する活物質材料を用いて、ケイ素を含有する前記活物質層を形成するのがよい。
【0033】
また、前記第2活物質層に、構成元素として3〜45原子数%の酸素を含有させるのがよい。酸素含有率が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有率が45原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまうほか、活物質層の抵抗値が増大したり、局所的なリチウムの挿入によって膨れたりして、サイクル特性が低下すると考えられるからである。
【0034】
また、本発明は、二次電池、例えばリチウムイオン二次電池の電池用電極を製造するのに用いられるのがよい。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0036】
実施の形態1
実施の形態1では、主として、請求項1および3〜5に記載した電池用電極の製造方法に対応する例について説明する。
【0037】
図1は、実施の形態1に基づく電極形成装置1の構成を示す概略図である。この電極形成装置1は真空蒸着装置であり、真空チャンバー2、蒸着源3aおよび3b、円形キャンロール(成膜ロール)4aおよび4b、遮蔽板5、シャッタ6aおよび6b、そして真空排気装置7を備えている。そして、帯状の集電体9を長尺方向に走行させる手段として、2つの巻き取りローラー11および18、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17が設けられている。以下、各部について説明する。
【0038】
真空チャンバー2は、遮蔽板5によって、蒸着源設置室2aおよび2bと、集電体設置室2cとに仕切られている。蒸着源設置室2aには蒸着源3aが設置され、蒸着源設置室2bには蒸着源3bが設置され、両者は隔離板8によって仕切られている。集電体設置室2cには、蒸着源3aおよび3bの上方に、それぞれ円形キャンロール4aおよび4bが設置されている。遮蔽板5の2箇所には、円形キャンロール4aおよび4bに対応して開口部5aおよび5bが設けられ、前記活物質層形成領域である蒸着領域Aおよび蒸着領域Cが、それぞれ設定されている。蒸着領域AおよびCにおける蒸着材料の流れは、シャッタ6aおよび6bによって制御される。遮蔽板5は、集電体9のうち、蒸着領域AおよびC以外の領域に位置する集電体や走行手段に、蒸着源3aおよび3bから発生する熱が伝わったり、蒸着材料が付着したりするのを抑制するためのものである。真空排気装置7は、チャンバー2内の圧力を所定の圧力以下に排気できるように構成されている。
【0039】
蒸着源3aおよび3bは、それぞれ、例えば、電子銃、るつぼ、ハースライナ、および蒸着材料によって構成され、電子銃は、電子ビームを蒸着材料に照射して加熱することにより、蒸着材料を蒸発させる機能を有する。また、るつぼ内には、カーボンを母材とするハースライナを介して蒸着材料が配置されている。
【0040】
電解銅箔などからなる帯状の集電体9は、円形キャンロール4aおよび4b、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17のそれぞれの外周面に渡して配置され、両端側は2つの巻き取りローラー11および18に巻き取られる。円形キャンロール4aおよび4bと、ガイドローラー12〜16と、フィードローラー17の一部または全部は、内部に冷却水を通すことにより、集電体9を水冷できるように構成されている。
【0041】
電極形成装置1の特徴は、上述した真空蒸着装置としての設備に加えて、請求項4に記載した電池用電極の製造方法に対応して、前記活物質層形成領域である蒸着領域AおよびCが設けられた、前記成膜室である真空チャンバー2内に、前記酸化性雰囲気を形成するための酸化ボックス20aおよび20bを備えていることである。各酸化ボックス内の空間領域は真空チャンバー2に対し半ば閉じられており、この空間領域に前記酸素含有ガスとして、酸素ガスや水蒸気などのガス、あるいはこれらのガスをアルゴンや二酸化炭素ガスなどに希釈した混合ガスを導入することによって、酸化性雰囲気で満たされた前記酸化領域を形成する。
【0042】
酸化ボックス20aは、蒸着領域Aに隣接した位置に配置され、蒸着領域Aで形成された第1活物質層の少なくとも表面領域を酸化する酸化領域Bを形成し、酸化ボックス20bは、蒸着領域Cに隣接した位置に配置され、蒸着領域Cで形成された第1活物質層の少なくとも表面領域を酸化する酸化領域Dを形成する。
【0043】
図2は、酸化ボックス20の具体的な形状の例を示す斜視図である。図2(a)に示す酸化ボックス20は、ステンレス製または銅製の直方体形の中空の箱であり、集電体9が酸化ボックス20内の空間を通過できるように、対向する2つの面にスリット状の開口部が設けられている。酸化ボックス20内部の空間は、2つの開口部を除けば閉じられている。酸化ボックス20には、図示省略したが、マスフローコントローラなどを介してガス流量を制御しながら、酸素含有ガスを外部から酸化ボックス20内に導入する手段が設けられており、また、酸化ボックス内の圧力を測定する真空計が設けられている。これらの手段によって、酸化ボックス内の空間領域を適切な圧力の酸化性雰囲気で満たし、酸素含有ガスによって第1活物質層を酸化する酸化領域を形成する。
【0044】
酸化ボックス20の別の例として、図2(b)に示すように、直方体形の箱が2つに分割され、これらが間に集電体9を挟んで対向配置され、隙間を除いて半ば閉じられた空間が形成されているものや、図2(c)に示すように、直方体形の箱の1つの面が除去された箱と集電体9とによって、隙間を除いてほぼ閉じられた空間が形成されているものを挙げることもできる。なお、図2(c)に示す酸化ボックス20では、集電体9の片側の面にだけ酸化領域が形成される。
【0045】
蒸着源を電子ビーム加熱する場合には、高速成膜が可能であるが、真空チャンバー2内の真空度を高く保つ必要があり、真空チャンバー2内全体を満たす前記雰囲気に酸素含有ガスを導入する従来の方法では、酸化が不十分になったり、再現性が低くなったりする問題点があった。酸化ボックス20aおよび20bを用いると、酸化領域BおよびDにおける酸化性雰囲気中の酸素含有ガスの圧力を、真空チャンバー2内の雰囲気中の圧力とは別に定めることができ、例えば、真空チャンバー2内の圧力よりも10倍以上大きな圧力にすることが可能となり、再現性の高い酸化を十分に行うことができる。また、真空度が高いと熱の伝播が起こりにくいが、酸化ボックス20aおよび20b内はガスの圧力が高いため、ガスによる冷却が効果的に行われ、蒸着によって加熱された集電体9を冷却する効果も高くなる。成膜条件によっては、熱を加えて酸化を促進したい場合などもあるが、そのような場合には、必要に応じて酸化ボックス内にヒーターなどの加熱手段を配置することもできる。
【0046】
図3は、電極形成工程のフローを示す集電体9などの断面図である。以下、図1および図3を参照しながら、電極形成工程について説明する。
【0047】
電極形成装置1を用いて、電池用電極を形成するには、まず、集電体9を円形キャンロール4aおよび4b、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17のそれぞれの外周面に渡して配置する。集電体9の両端側は2つの巻き取りローラー11および18に巻き取るが、この際、一方の端部を残して、他はすべて、例えば巻き取りローラー11に巻き取っておく。
【0048】
次に、真空チャンバー2内を真空排気装置7によって排気する。所定の圧力以下になったら、シャッタ6aおよび6bを閉じた状態で、電子銃から蒸着材料に電子ビームを照射し、活物質からなる蒸着材料を加熱する。要する時間を短縮するために、真空度の上昇に合わせて、蒸着材料の電子ビーム加熱を徐々に進めてもよい。
【0049】
蒸着材料が所定の溶融状態に達したら、シャッタ6aおよび6bを開き、集電体9を走行させながら集電体9上に活物質層10を形成する。以下、この工程を詳述する。
【0050】
まず、巻き取りローラー11から集電体9を引き出し、円形キャンロール4a上を走行させ、蒸着領域Aにおいてその一方の面(例えば、表側面)に蒸着源3aから蒸発してきた蒸着材料を堆積させる。図3(a)および図3(b)に示すように、巻き取りローラー11から引き出された集電体9の表面には何もついてないが、蒸着領域Aの出口では第1活物質層10aが形成されている。
【0051】
蒸着領域Aを出た集電体9は、ほどなく酸化ボックス20a内に形成された酸化領域Bに入る。酸化領域Bを通過する間に、第1活物質層10aの少なくとも表面領域を、酸化ボックス20a内の酸化性雰囲気中の十分な圧力を有する酸素含有ガスによって酸化し、酸素含有率の大きい第2活物質層10bに変化させる。この結果、図3(c)に示すように、集電体9の表側面に第1活物質層10aと第2活物質層10bとの複合体層からなる活物質層10が形成される。
【0052】
このようにすれば、第1活物質層10aを形成する工程を行った直後に、第1活物質層10aの表面を酸素含有ガスに曝すことができるので、成膜直後の反応性の高い状態にある第1活物質層10aに対し、酸素含有ガスの酸化作用を効果的に作用させることができる。また、成膜条件や雰囲気などによって特性が大きく変化する表面状態が固定的に形成される前に酸化を行うので、特性のばらつきの小さい第2活物質層10bを形成することができる。また、酸化ボックス20aで囲まれた空間に酸素含有ガスを導入するので、酸化ボックス20aで囲まれた酸化領域Bにおける酸化性雰囲気中の酸素含有ガスの圧力を、真空チャンバー2内の雰囲気中の酸素含有ガスの圧力に比べて、はるかに大きくすることができ、かつ、正確に制御することができる。上述した効果によって、第1活物質層10aの少なくとも表面領域に、特性のばらつきが小さい第2活物質層10bを、生産性よく形成することができる。また、酸素含有率が大きい第2活物質層10bを容易に形成することができる。
【0053】
酸化領域Bを通過した集電体9は、フィードローラー17およびガイドローラー14および15を介して蒸着領域Cへ搬送する.フィードローラー17は、電解銅箔などの集電体9との十分な摩擦を得るため、ゴムなどの弾性体で形成されているのが好ましい。ガイドローラー14および15は、集電体9が、蒸着領域Aにおいて活物質層10が形成された面(表側面)で円形キャンロール4bに接し、蒸着領域Cにおいて反対側の面(裏側面)で蒸着源3bに対向するように、蒸着源に対向する集電体9の面を表側面から裏側面に「反転」させる働きをする。
【0054】
この後、蒸着領域Aおよび酸化領域Bと同様にして、蒸着領域Cにおいて、集電体9に蒸着源3bから蒸発してきた蒸着材料を集電体9上に堆積させ、第1活物質層10aを形成し、その直後、酸化領域Dを通過する間に、この第1活物質層10aの少なくとも表面領域を、酸化ボックス20bに導入する酸素含有ガスによって酸化して、酸素含有率の大きい第2活物質層10bに変化させる。この結果、図3(d)および図3(e)に示すように、集電体9の裏側面に、第1活物質層10aと第2活物質層10bとの複合体層からなる活物質層10が形成される。
【0055】
酸化領域Dを通過し終わった集電体9は、巻き取りローラー18に巻き取る。以上のようにして、集電体9の一領域は、巻き取りローラー11から巻き取りローラー18まで走行する間に活物質層10が表裏両面に形成される。すべての集電体9を巻き取りローラー11から引き出し、巻き取りローラー18に巻き取り終われば、集電体9の全領域に活物質層10が形成され、電極形成工程が終了する。
【0056】
以上のように、本実施の形態に基づく電池用電極の製造方法によれば、酸素含有ガスを含まないか又は酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で活物質を堆積させ、第1活物質層10aを形成した直後に、第1活物質層10aの表面を、酸素含有ガスの圧力が真空チャンバー2内の雰囲気中に比べて高い酸化ボックス20aまたは20b内の酸化性雰囲気に曝すので、成膜直後の反応性の高い状態にある第1活物質層10aに対し、酸素含有ガスの酸化作用を効果的に作用させることができる。また、成膜条件や雰囲気などによって特性が大きく変化する表面状態が固定的に形成される前に酸化を行うので、特性のばらつきの小さい第2活物質層10bを形成することができる。また、酸化性雰囲気中の酸素含有ガスの圧力を、雰囲気中の酸素含有ガスの圧力に比べて、はるかに大きくし、かつ、正確に制御することができる。
【0057】
上述した効果によって、第1活物質層10aの少なくとも表面領域に、生産性よく、特性のばらつきが小さい良質な第2活物質層10bを形成することができ、また、酸素含有率の大きい第2活物質層10bを容易に形成することができる。この結果、活物質層として、酸素含有率が異なる第1活物質層10aと第2活物質層10bとからなる複合体層10を有し、充放電サイクル特性に優れた電池用電極の効果的な製造方法を提供することができる。
【0058】
図4は、請求項5に記載した電池用電極の製造方法に対応する、本実施の形態の変形例で用いられる電極形成装置19の構成を示す概略図である。図1に示した電極形成装置1では、酸化ボックス20aおよび20bをそれぞれ用いて、真空チャンバー2に対し半ば閉じた酸化領域BおよびDを形成するのに対し、電極形成装置19では、ガス噴射ノズルなどのガス導入口20e〜20hを用いて真空チャンバー2内の空間領域に局所的に酸素含有ガスの圧力の高い酸化領域BおよびDを形成する。
【0059】
各ガス導入口からは、酸素含有ガスとして、酸素ガスや水蒸気などのガス、あるいはこれらのガスをアルゴンや二酸化炭素ガスなどに希釈した混合ガスを集電体9の表面に噴射することができる。ガス導入口20eおよび20fは蒸着領域Aに隣接した位置に配置され、蒸着領域Aで形成された第1活物質層の少なくとも表面領域を酸化する酸化領域Bを形成し、ガス導入口20gおよび20hは蒸着領域Cに隣接した位置に配置され、蒸着領域Cで形成された第1活物質層の少なくとも表面領域を酸化する酸化領域Dを形成する。ガス導入口20eおよび20fはどちらか一方のみであってよく、ガス導入口20gおよび20hもどちらか一方のみであってよい。以上に記載したガス導入例はあくまで一例であり、ガス導入手段の形状や個数や配置などは特に限定されるものではなく、有効な酸化領域BおよびDを形成できるものであれば何でもよい。
【0060】
このようにすれば、第1活物質層10aを形成する工程を行った直後に、第1活物質層10aの表面に酸素含有ガスを吹きつけるので、成膜直後の反応性の高い状態にある第1活物質層10aに対し、酸素含有ガスの酸化作用を効果的に作用させることができる。また、成膜条件や雰囲気などによって特性が大きく変化する表面状態が固定的に形成される前に酸化を行うので、特性のばらつきの小さい第2活物質層10bを形成することができる。また、成膜直後の第1活物質層10aにのみ局所的に酸素含有ガスを吹きつけるので、この局所領域(酸化領域BまたはD)における酸素含有ガスの圧力を、真空チャンバー2中の酸素含有ガスの圧力に比べて、はるかに大きくすることができ、かつ、正確に制御することができる。
【0061】
上述した効果によって、第1活物質層10aの少なくとも表面領域に、生産性よく、特性のばらつきが小さい良質な第2活物質層10bを形成することができ、また、酸素含有率の大きい第2活物質層10bを容易に形成することができる。この結果、活物質層として、酸素含有率が異なる第1活物質層10aと第2活物質層10bとからなる複合体層10を有し、充放電サイクル特性に優れた電池用電極の効果的な製造方法を提供することができる。電極形成装置19には、酸化領域BおよびDを真空チャンバー2内の他の領域から隔てる隔壁がないので、酸化領域BおよびDにおける酸素含有ガスの圧力を制御する性能は電極形成装置1に比べて少し劣るが、簡易かつコンパクトな設備で酸化領域BおよびDを形成できる利点がある。
【0062】
図5(a)は、請求項7に記載した電池用電極の製造方法に対応する、本実施の形態の別の変形例で成膜ロールとして用いられるクラウンロールの形状を示す正面図である。図5(b)は、比較のために示した、通常の円形キャンロールの正面図である。クラウンロールを用いると、集電体9の走行方向に印加される張力から、集電体9の幅方向外側に向かう張力が発生し、集電体9のたるみやしわなどの変形や蛇行を抑えることができる。また、集電体9が既述したように変形しても、成膜ロールのロール面が樽型形状を有しているため、集電体9とロール面との密着が保たれやすい。この結果、集電体9がロール面に均等に接触し、成膜時に集電体9が受ける熱負荷が小さく、しかも均一になるため、電池用電極の充放電サイクル特性が向上する。
【0063】
実施の形態2
実施の形態2では、主として、請求項2〜5に記載した電池用電極の製造方法に対応する例について説明する。
【0064】
図6は、実施の形態2に基づく電極形成装置21の構成を示す概略図である。この電極形成装置21は、電極形成装置1と同様の真空蒸着装置であり、真空チャンバー2、蒸着源3aおよび3b、円形のキャンロール(成膜ロール)4aおよび4b、遮蔽板5、シャッタ6aおよび6b、そして真空排気装置7を備えている。そして、帯状の集電体9を長尺方向に走行させる手段として、2つの巻き取りローラー11および18、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17が設けられている。
【0065】
電極形成装置21が電極形成装置1と異なるのは、酸化ボックス20aおよび20bに加えて、同様の酸化ボックス20cおよび20dを増設したことのみである。実施の形態1で説明したように、電極形成装置1を用いれば、集電体9を一方向に走行させることによって、集電体9の一領域が蒸着領域Aを出た直後に酸化領域Bを通過し、蒸着領域Cを出た直後に酸化領域Dを通過するようにすることができる。しかし、集電体9を反対方向に走行させる場合には、酸化ボックス20aおよび20bでは、集電体9が蒸着領域AおよびCを出た直後に通過する酸化領域を形成することができない。電極形成装置21はこの問題点を解決したもので、集電体9を反対方向に走行させる場合には、酸化ボックス20cおよび20dに導入する酸素含有ガスによって、蒸着領域CおよびAで形成された直後の第1活物質層10を、それぞれ、酸化領域EおよびFにおいて酸化することができる。
【0066】
この結果、電極形成装置21を用いれば、往路走行でも復路走行でも集電体9に第1活物質層22aと第2活物質層22bとの複合体層22を形成することができ、集電体9を往復走行させながら、複数の複合体層が積層して形成された活物質層を能率よく形成することができる。
【0067】
他は実施の形態1と同様であるので、以下、図6および図7を参照しながら、往復走行成膜の概略を説明する。図6(a)は、往路走行における電極形成装置21の動作状態を示し、図6(b)は、復路走行における電極形成装置21の動作状態を示す。図7は、往復走行成膜による電極形成工程のフローを示す集電体9などの断面図である。
【0068】
図6(a)および図7(a)〜(c)に示すように、往路走行における電極形成装置21の動作は、実施の形態1と同じである。すなわち、集電体9の各領域には、巻き取りローラー11から引き出され、巻き取りローラー18に巻き取られるまで走行する間に、蒸着領域Aおよび酸化領域Bにおいて、第1活物質層22aと第2活物質層22bとの複合体層22が、表側面に形成され、蒸着領域Cおよび酸化領域Dにおいて、第1活物質層23aと第2活物質層23bとの複合体層23が、裏側面に形成される。
【0069】
この後、集電体9の走行方向を反転する。図6(b)および図7(c)〜(e)に示すように、復路走行では、集電体9の各領域には、巻き取りローラー18から引き出され、巻き取りローラー11に巻き取られるまで走行する間に、蒸着領域Cおよび酸化領域Eにおいて、第1活物質層24aと第2活物質層24bとの複合体層24が、裏側面の複合体層23に積層して形成され、蒸着領域Aおよび酸化領域Fにおいて、第1活物質層25aと第2活物質層25bとの複合体層25が、表側面の複合体層22に積層して形成される。
【0070】
この後、必要な回数だけ走行を繰り返し、所定の数の複合体層が積層して形成された活物質層26を能率よく形成することができる。
【0071】
図8は、請求項5に記載した電池用電極の製造方法に対応する、本実施の形態の変形例で用いられる電極形成装置27の構成を示す概略図である。電極形成装置27が電極形成装置19と異なるのは、ガス噴射ノズルなどのガス導入口20e〜20hに加えて、同様のガス導入口20i〜20lを増設したことのみである。これによって、電極形成装置27を用いれば、電極形成装置21と同様、往路走行でも復路走行でも集電体9に第1活物質層と第2活物質層との複合体層を形成することができ、集電体9を往復走行させながら、複数の複合体層が積層して形成された活物質層を能率よく形成することができる。
【0072】
すなわち、往路走行では、図8(a)に示すように、蒸着領域Aで生成された直後の第1活物質層を酸化領域Bにおいてガス導入口20eおよび20fから噴射する酸素含有ガスによって酸化することができ、蒸着領域Cで生成された直後の第1活物質層を酸化領域Dにおいてガス導入口20gおよび20hから噴射する酸素含有ガスによって酸化することができる。復路走行では、図8(b)に示すように、蒸着領域Cで生成された直後の第1活物質層を酸化領域Eにおいてガス導入口20iおよび20jから噴射する酸素含有ガスによって酸化することができ、蒸着領域Aで生成された直後の第1活物質層を酸化領域Fにおいてガス導入口20kおよび20lから噴射する酸素含有ガスによって酸化することができる。その他は、既述したと同様であるので、省略する。
【0073】
以上に述べたように、本実施の形態に基づく電池用電極の製造方法によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。すなわち、酸素含有ガスを含まないか又は酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で活物質を堆積させ、第1活物質層を形成した直後に、第1活物質層の表面を、酸素含有ガスの圧力が真空チャンバー2内の雰囲気中に比べて高い酸化領域BおよびD〜Fの酸化性雰囲気に曝すので、成膜直後の反応性の高い状態にある第1活物質層に対し、酸素含有ガスの酸化作用を効果的に作用させることができる。また、成膜条件や雰囲気などによって特性が大きく変化する表面状態が固定的に形成される前に酸化を行うので、特性のばらつきの小さい第2活物質層を形成することができる。また、酸化性雰囲気中の酸素含有ガスの圧力を、雰囲気中の酸素含有ガスの圧力に比べて、はるかに大きくし、かつ、正確に制御することができる。上述した効果によって、第1活物質層の少なくとも表面領域に、生産性よく、特性のばらつきが小さい良質な第2活物質層を形成することができ、また、酸素含有率の大きい第2活物質層を容易に形成することができる。
【0074】
これに加えて、本実施の形態に基づく電池用電極の製造方法によれば、集電体9を往復走行させながら、複数の複合体層が積層して形成された活物質層を能率よく形成することができる。この結果、活物質層として、酸素含有率が異なる第1活物質層と第2活物質層とからなる複合体層が、複数層、積層され、充放電サイクル特性に優れた電池用電極の効果的な製造方法を提供することができる。
【0075】
実施の形態3
実施の形態3では、主として、請求項3および8〜13に記載した電池用電極の製造方法に対応する例として、長尺形状の集電体に対し、静止成膜によって、酸素含有率が異なる第1活物質層と第2活物質層とからなる複合体層を活物質層として形成する例について説明する。
【0076】
初めに、図1に示した電極形成装置1を用いる場合について説明する。ただし、実施の形態3で電極形成装置1を用いるには、円形キャンロール4aおよび4bが、集電体9を密着保持する手段をロール面に備えていることが望ましい。なお、図6に示した電極形成装置21を用いれば、往復成膜することもできる。
【0077】
電極形成装置1を用いて、電池用電極を形成するには、まず、集電体9を円形キャンロール4aおよび4b、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17のそれぞれの外周面に渡して配置する。集電体9の両端側は2つの巻き取りローラー11および18に巻き取るが、この際、一方の端部を残して、他はすべて、例えば巻き取りローラー11に巻き取っておく。
【0078】
次に、蒸着領域Aに位置する集電体9の前記一領域、および蒸着領域Cに位置する集電体9の前記一領域を、それぞれ、円形キャンロール4aおよび4bに密着させる。この後、望ましくは、集電体9の長尺方向に加えているテンションをオフにする。
【0079】
次に、真空チャンバー2内を真空排気装置7によって排気する。所定の圧力以下になったら、シャッタ6aおよび6bを閉じた状態で、電子銃から蒸着材料に電子ビームを照射し、蒸着材料を加熱する。要する時間を短縮するために、真空排気の進行に合わせて、電子ビームによる蒸着材料の加熱を徐々に進めてもよい。
【0080】
蒸着材料が所定の溶融状態になったら、シャッタ6aおよび6bを開き、円形キャンロール4aおよび4bに密着させて保持している集電体9の前記一領域上に、活物質を堆積させて第1活物質層10aを形成する。この際、シャッタ6aおよび6bの開閉を調節して、蒸着が断続的に行われるようにすることができる。
【0081】
成膜後、シャッタ6aおよび6bを閉じた状態で、集電体9の長尺方向へのテンションをオンにした後、集電体9の上記各一領域と円形キャンロール4aおよび4bとの密着を解除する。次に、円形キャンロール4aおよび4b、巻き取りローラー11および18、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17をそれぞれ所定の角度だけ回転させて、集電体9を図1中の矢印の方向に所定の長さだけ走行させ、前記後方領域である、前記一領域の次の第1活物質層形成領域を蒸着領域AおよびCに移動させた後、集電体9の走行を停止させる。このとき、第1活物質層10aが形成された前記一領域は、酸化ボックスaおよびb内に形成した酸化領域BおよびDに送り、保持する。この後、新しい第1活物質層形成領域を円形キャンロール4aおよび4bに密着させ、次に、望ましくは、集電体9の長尺方向に加えているテンションをオフにする。
【0082】
次に、再びシャッタ6aおよび6bの開閉を調節して、集電体9の次の第1活物質層形成領域上に第1活物質層10aを堆積させる。この間、先に第1活物質層10aが形成された前記一領域は、酸化領域BまたはDにおいて、その少なくとも表面領域を、酸化ボックス20a内の酸化性雰囲気中の十分な圧力を有する酸素含有ガスによって酸化し、酸素含有率の大きい第2活物質層10bに変化させる。この結果、前記一領域に、第1活物質層10aと第2活物質層10bとの複合体層からなる活物質層10が形成される。
【0083】
成膜後、再び、シャッタ6aおよび6bを閉じた状態で、集電体9の長尺方向へのテンションをオンにした後、集電体9と円形キャンロール4aおよび4bとの密着を解除し、円形キャンロール4aおよび4bなどの回転によって集電体9を所定の長さだけ走行させる。
【0084】
この後、上記の一連の動作を繰り返すことにより、帯状の集電体9の全領域に第1活物質層10aと第2活物質層10bとの複合体層からなる活物質層10を形成することができる。
【0085】
このようにすれば、静止成膜で活物質層10aを形成し、成膜中に集電体9の長尺方向に加わるテンションを、無視できる大きさにすることができる。この結果、集電体9を走行させることによって生じる集電体9の変形をなくすことができ、成膜時に集電体9が受ける熱負荷を均一にすることができるので、電池用電極の充放電サイクル特性を飛躍的に向上させることができる。静止成膜では生産性の低下が懸念されるが、通常の静止成膜とは異なり、本発明の製造方法では、静止成膜と走行を繰り返しながら、前記長尺形状の集電体をその長尺方向に送り出して成膜を行うので、前記集電体を走行させながら連続的に成膜する場合と遜色のない生産性を実現することができる。
【0086】
しかも、実施の形態1と同様、第1活物質層10aを形成する工程を行った直後に、第1活物質層10aの表面を酸素含有ガスに曝すことができるので、成膜直後の反応性の高い状態にある第1活物質層10aに対し、酸素含有ガスの酸化作用を効果的に作用させることができる。また、成膜条件や雰囲気などによって特性が大きく変化する表面状態が固定的に形成される前に酸化を行うので、特性のばらつきの小さい第2活物質層10bを形成することができる。また、酸化ボックス20aおよび20bで囲まれた空間に酸素含有ガスを導入するので、各ボックスによって囲まれた酸化領域BおよびDにおける酸化性雰囲気中の酸素含有ガスの圧力を、真空チャンバー2内の雰囲気中の酸素含有ガスの圧力に比べて、はるかに大きくすることができ、かつ、正確に制御することができる。上述した効果によって、第1活物質層10aの少なくとも表面領域に、特性のばらつきが小さい第2活物質層10bを、生産性よく形成することができる。また、酸素含有率が大きい第2活物質層10bを容易に形成することができる。
【0087】
次に、請求項13に記載した多角形キャンロールについて説明する。図9は、多角形キャンロールの1つである四角形キャンロールの例を示す概略図である。多角形キャンロールは、断面が多角形である多角柱形のキャンロールであって、多角柱の1つの側面が蒸着源3aの正面に対向するように配置される(以下、この側面を対向面32と呼ぶ。)。多角形キャンロールには、対向面32が平面であるため、静止成膜において、円形キャンロールに比べて広い領域に厚さがほぼ同じ蒸着膜を形成できる利点がある。多角形キャンロールには、三角形キャンロールや四角形キャンロールや八角形キャンロールなどがあるが、四角形キャンロール31aなどが扱いやすい。
【0088】
図1に示した電極形成装置1(または、図6に示した電極形成装置21)において、四角形キャンロール31aは、円形キャンロール4aの代わりに用いられる(同様に、円形キャンロール4bの代わりに、別の四角形キャンロールを用いるのがよい。)。集電体9は、ガイドローラー12と13、およびフィードローラー17などの働きで、四角形キャンロール31aの対向面32に密着するように配置される。必要なら、多角形キャンロールの各側面に集電体9を密着させる手段が設けられているのがよい。
【0089】
対向面32に保持されている集電体9の一つの領域への成膜が終了すると、対向面32の隣の側面を蒸着源3aに対向させるように、所定の角度(四角形キャンロール31aなら90度)だけ、四角形キャンロール31aを中心軸のまわりに回転させる。集電体9は、この動きに付随して移動し、多角形キャンロール31aの辺の長さだけ長尺方向に送られる。
【0090】
四角形キャンロール31aを用いる電極形成装置1または21においては、酸化領域BおよびFを形成する酸化ボックス33aおよび33dとして、図2(c)に示した、直方体形の箱の1つの面が除去された箱と集電体9とによって半ば閉じられた空間が形成される形状の酸化ボックスを好適に用いることができる。この形状の酸化ボックスは、円形キャンロール4aを用いる場合にも、蒸着領域Aの直近に配置することができる利点がある。
【0091】
静止成膜中、集電体9の走行方向に加わるテンションをオフにするには、ガイドローラー12とゴムローラー34、および、ガイドローラー13とゴムローラー35との間で集電体9を挟んで押さえればよい。
【0092】
実施の形態4
図10は、実施の形態4に基づくリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す斜視図(a)および断面図(b)である。図10に示すように、二次電池40は角型の電池であり、電極巻回体46が電池缶47の内部に収容され、電解液が電池缶47に注入されている。電池缶47の開口部は、電池蓋48により封口されている。電極巻回体46は、帯状の負極41と帯状の正極42とをセパレータ(および電解質層)43を間に挟んで対向させ、長手方向に巻回したものである。負極41から引き出された負極リード端子44は電池缶47に接続され、電池缶47が負極端子を兼ねている。正極42から引き出された正極リード端子45は正極端子49に接続されている。
【0093】
電池缶47および電池蓋48の材料としては、鉄やアルミニウムなどを用いることができる。但し、アルミニウムからなる電池缶47および電池蓋48を用いる場合には、リチウムとアルミニウムとの反応を防止するために、正極リード端子45を電池缶47と溶接し、負極リード端子44を端子ピン49と接続する構造とする方が好ましい。
【0094】
以下、リチウムイオン二次電池40について詳述する。
【0095】
負極41は、負極集電体と、負極集電体に設けられた負極活物質層とによって構成されており、実施の形態1〜3で説明したいずれかの方法によって形成された電池用電極が、所定の形状に裁断されて作製される。
【0096】
負極集電体は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属材料によって形成されているのがよい。負極集電体がリチウムと金属間化合物を形成する材料であると、充放電に伴うリチウムとの反応によって負極集電体が膨張収縮する。この結果、負極集電体の構造破壊が起こって集電性が低下する。また、負極活物質層を保持する能力が低下して、負極活物質層が負極集電体から脱落しやすくなる。
【0097】
リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。なお、本明細書において、金属材料とは、金属元素の単体だけではなく、2種以上の金属元素、あるいは1種以上の金属元素と1種以上の類金属元素(半金属元素)とからなる合金も含むものとする。
【0098】
また、負極集電体は、負極活物質層との界面の少なくとも一部において、合金化または拡散によって負極活物質と接合を形成し得る金属元素を含む金属材料によって構成されているのがよい。拡散としては、負極集電体の構成元素が負極活物質層に拡散しているか、または負極活物質層の構成元素が負極集電体に拡散しているか、あるいは、それらが相互に拡散し合っているかであってよい。このようであれば、負極活物質層と負極集電体との密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体から負極活物質層が脱落するのが抑えられるからである。また、負極41における電子伝導性を向上させる効果も得られる。
【0099】
負極集電体は単層であってよいが、複数層で構成されていてもよい。複数層からなる場合、負極活物質層と接する層が負極活物質層と合金化または拡散によって接合する金属材料からなり、他の層がリチウムと金属間化合物を形成しない金属材料からなるのがよい。
【0100】
負極集電体の、負極活物質層が設けられる面は、粗化されていることが好ましく、例えば、負極集電体の表面粗さRz値が1.0μm以上であるのがよい。このようであれば、負極活物質層と負極集電体との密着性が向上するからである。一方、Rz値は5.5μm以下、より好ましくは4.5μm以下であるのがよい。表面粗さが大きすぎると、負極活物質層の膨張に伴って負極集電体に亀裂が生じやすくなるおそれがあるからである。なお、表面粗さRzは、JIS B0601−1994で規定されている十点平均粗さRzのことである。負極集電体のうち、負極活物質層が設けられている領域の表面粗度Rzが上記の範囲内であればよい。
【0101】
負極活物質層中に、負極活物質としてケイ素が含まれているのがよい。ケイ素はリチウムイオンを合金化して取り込む能力、および合金化したリチウムをリチウムイオンとして再放出する能力に優れ、リチウムイオン二次電池を構成した場合、大きなエネルギー密度を実現することができる。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。
【0102】
負極活物質層は、厚さが4〜7μm程度の薄膜型であるのがよい。この際、ケイ素の単体の一部又は全部が、合金化または拡散によって負極集電体と接合を形成しているのがよい。既述したように、負極活物質層と負極集電体との密着性を向上させ、充放電によって負極活物質層が膨張収縮しても、負極集電体から脱落するのが抑制されるからである。
【0103】
リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層中のケイ素と合金化または拡散によって接合する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体が得られるので、特に好ましい。
【0104】
また、本発明では、負極活物質層を構成する元素として酸素を導入する。酸素は負極活物質層の膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制する。負極活物質層に含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
【0105】
負極活物質層は、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とが形成されている。特に、第1層と第2層とが交互に形成されており、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素含有率は少ない方が好ましく、酸素含有率が微量であるのがより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。第1層と第2層とは、負極集電体の側から、第1層、第2層の順で積層されていてもよいが、第2層、第1層の順で積層されていてもよく、表面は第1層でも第2層でもよい。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇してしまう場合があるからである。
【0106】
負極活物質層における酸素の含有量は、第1層と第2層との平均として、3原子数%以上、40原子数%以下の範囲内であることが好ましい。酸素含有率が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有率が40原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまうほか、負極活物質層の抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下してしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層の表面に形成される被膜は、負極活物質層には含めない。よって、負極活物質層における酸素含有率とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
【0107】
なお、負極活物質層は、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、あるいはアンチモン(Sb)が挙げられる。
【0108】
正極42は、正極集電体と、正極集電体に設けられた正極活物質層とによって構成されている。
【0109】
正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されているのがよい。
【0110】
正極活物質層は、例えば、正極活物質として、充電時にリチウムイオンを放出することができ、かつ放電時にリチウムイオンを再吸蔵することができる材料を1種以上含んでおり、必要に応じて、炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)を含んでいるのがよい。
【0111】
リチウムイオンを放出および再吸蔵することが可能な材料としては、例えば、一般式LixMO2で表される、リチウムと遷移金属元素Mからなるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を構成した場合、高い起電力を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を実現することができるからである。なお、Mは1種類以上の遷移金属元素であり、例えば、コバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。xは電池の充電状態(放電状態)によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2あるいはLiNiO2などが挙げられる。
【0112】
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
【0113】
また、正極活物質層は、長周期型周期表における2族元素、3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
【0114】
セパレータ43は、負極41と正極42とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、かつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ43の材料としては、例えば、微小な空孔が多数形成された微多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどの薄膜がよい。
【0115】
電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解した電解質塩とで構成され、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0116】
電解液の溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸エチレン、エチレンカーボネート;EC)や4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸プロピレン、プロピレンカーボネート;PC)などの環状炭酸エステル、および、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル;DMC)やジエチルカーボネート(炭酸ジエチル;DEC)やエチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル;EMC)などの鎖状炭酸エステルなど、非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのがよい。例えば、ECやPCなどの高誘電率溶媒と、DMCやDECやEMCなどの低粘度溶媒とを混合して用いることにより、電解質塩に対する高い溶解性と、高いイオン伝導度とを実現することができる。
【0117】
また、溶媒はスルトンを含有していてもよい。電解液の安定性が向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、下記に構造式を示す1,3−プロペンスルトンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0118】
【化1】

【0119】
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン、ビニレンカーボネート;VC)あるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(ビニルエチレンカーボネート;VEC)などの不飽和結合を有する環状炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。放電容量の低下をより抑制することができるからである。特に、VCとVECとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
【0120】
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。放電容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環状炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環状化合物でも鎖状化合物でもよいが、環状化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環状化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(フルオロエチレンカーボネート;FEC)、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(ジフルオロエチレンカーボネート;DFEC)などが挙げられ、中でもフッ素原子を有するDFECやFEC、特にDFECが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0121】
電解液の電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)やテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0122】
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ43に含浸されていてもよく、また、セパレータ43と負極41または正極42との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル、あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
【0123】
リチウムイオン二次電池40は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0124】
まず、実施の形態1〜3で説明したようにして、負極集電体に負極活物質層を形成した後、所定の形状に裁断して負極41を作製する。
【0125】
次に、正極集電体に正極活物質層を形成する。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材および結着剤(バインダー)とを混合して合剤を調製し、これをNMPなどの分散媒に分散させてスラリー状にして、この合剤スラリーを正極集電体に塗布した後、圧縮成型することにより正極42を形成する。
【0126】
次に、負極41と正極42とをセパレータ43を間に挟んで対向させ、短辺方向を巻軸方向として巻回することにより、電極巻回体46を形成する。この際、負極41と正極42とは、負極活物質層と正極活物質層とが対向するように配置する。次に、この電極巻回体46を角型形状の電池缶47に挿入し、電池缶47の開口部に電池蓋48を溶接する。次に、電池蓋48に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止する。以上のようにして、角型形状のリチウムイオン二次電池40を組み立てる。
【0127】
また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、ラミネートフィルムなどの外装材からなる容器に電解液とともに重合性化合物を注入し、容器内において重合性化合物を重合させることにより、電解質をゲル化する。また、電極の大きな膨張収縮に対応するために、容器として金属缶を用いてもよい。また、負極41と正極42とを巻回する前に、負極41または正極42に塗布法などによってゲル状電解質を被着させ、その後、セパレータ43を間に挟んで負極41と正極42とを巻回するようにしてもよい。
【0128】
組み立て後、リチウムイオン二次電池40を充電すると、正極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極41側へ移動し、負極41において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極41に取り込まれる。放電を行うと、負極41に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極42側へ移動し、正極42に再び吸蔵される。
【0129】
この際、リチウムイオン二次電池40では、負極活物質層中に負極活物質としてケイ素の単体及び/又はその化合物が含まれているため、リチウムイオン二次電池40の高容量化が可能になる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例の説明では、実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
【0131】
本実施例では、実施の形態1〜3で説明した方法によって電池用電極を形成し、これを負極41として用いて、実施の形態4で図10に示した角型のリチウムイオン二次電池40を作製し、その充放電サイクル特性を測定した。
【0132】
<負極41の形成>
真空蒸着装置として、偏向式電子ビーム蒸着源を備えた電極形成装置1、19、21または27(図1、図4、図6および図8参照。)を用いた。集電体9として厚さ20μm、表面粗度Rz値2.5μmの両面が粗化された帯状電解銅箔を用い、蒸着材料としてケイ素の単結晶を用いた。この時の成膜速度は150nm/sであり、活物質層10または26の厚さは5.5〜7μmであった。酸素含有率が大きい第2活物質層を形成したときの、真空チャンバー2内の圧力は、電離真空計で測定して、3×10-3Paに保たれるようにした。実施例1〜17の要点は下記の通りである。
【0133】
実施例1および4
成膜ロールとして円形キャンロールを用い、実施の形態1で説明した方法によって、電極形成装置1または19を用いて、集電体9の表裏両面に、酸素含有率が互いに異なる第1活物質層10aおよび第2活物質層10bの各1層からなり、複合体層1層に相当する活物質層10を形成した。この際、実施例1では酸化ボックスaおよびbを用いて、実施例4では酸素含有ガスの吹きつけによって、それぞれ第1活物質層10aを酸化して第2活物質層10bを形成した。実施例1など、酸化ボックスを用いる酸化では、酸化ボックス内に100sccmの流量で酸素ガスを導入し、ボックス内の圧力を1×10-1Paに保って、酸化性雰囲気を形成した(以下に述べる実施例2、3、16および17も同様。)。実施例4など、酸素含有ガスの吹きつけによる酸化では、酸素ガスを150sccmの流量で吹きつけた(以下に述べる実施例5〜15も同様。)。
【0134】
実施例2、3、5〜13
成膜ロールとして円形キャンロールを用い、実施の形態2で説明した方法によって、電極形成装置21または27を用いて、集電体9を往復走行させながら、所定の回数だけ走行を繰り返し、集電体9の表裏両面に所定の数の複合体層が積層して形成された活物質層26を能率よく形成した。この際、実施例2および3では酸化ボックスを用いて、実施例5〜13では酸素含有ガスの吹きつけによって、それぞれ第1活物質層を酸化して第2活物質層を形成した。また、複合体層の層数を2〜20層、複合体層1層の厚さを3.0〜0.32μmの間で変化させた。なお、実施例7では、まず、集電体9の表側面に複合体層を3層積層して形成した後、表側面に複合体層を3層積層して形成した後、裏側面に複合体層を3層積層した。
【0135】
実施例14、15
成膜ロールとしてクラウンロールを用い、実施の形態2で説明した方法によって、複合体層の層数を3層および10層に変化させ、集電体9の表裏両面に活物質層を形成した。
【0136】
実施例16、17
成膜ロールとして四角形ロールを用い、実施の形態3で説明した方法によって、複合体層の層数を3層および10層に変化させ、集電体9の表裏両面に活物質層を形成した。
【0137】
比較例においては、電極形成装置21と同様の電極形成装置を用い、集電体および蒸着材料として、それぞれ、実施例と同じ帯状電解銅箔およびケイ素単結晶を用いて、集電体を片道走行または往復走行させながら、集電体の上にケイ素からなる活物質材料層層を形成した。比較例1〜6の要点は下記の通りである。
【0138】
比較例1
成膜ロールとして円形キャンロールを用い、真空蒸着法によって酸素含有率が小さい活物質材料層を単層で形成した。次に、この活物質材料層の表面に自然酸化によって酸化皮膜を形成した。
【0139】
比較例2
成膜ロールとして円形キャンロールを用い、真空蒸着法によって酸素含有率が小さい活物質材料層を形成した。次に、中間に酸素含有率が大きい活物質材料層を挟まないようにして、再び真空蒸着法によって酸素含有率が小さい活物質材料層を積層して形成し、酸素含有率が小さい活物質材料層のみが2層積層された活物質層を形成した。次に、この活物質層の表面に自然酸化によって酸化皮膜を形成した。
【0140】
比較例3〜6
成膜ロールとして円形キャンロールを用い、真空蒸着法によって酸素含有率が小さい第1活物質材料層を形成した後、真空チャンバー2内に圧力が1×104Paになるまでアルゴン:酸素=70:30の混合ガスを導入し、第1活物質材料層の表面を酸化して、酸素含有率が大きい第2活物質材料層に変化させ、第1活物質材料層と第2活物質材料層からなる複合体材料層を形成した。その後、真空チャンバー2内を真空に排気して、再び真空蒸着法によって第1活物質材料層を形成した。これらの工程を2〜5回繰り返し、2〜5層の複合体材料層が積層された活物質層を形成した。
【0141】
<リチウムイオン二次電池40の作製>
まず、上記の電池用電極を用いて負極41を作製した。次に、正極活物質である平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)の粉末と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、コバルト酸リチウム:カーボンブラック:ポリフッ化ビニリデン=92:3:5の質量比で混合し、合剤を調製した。この合剤を分散媒であるN-メチルピロリドンNMPに分散させてスラリー状とした。この合剤スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、加圧して圧縮成型することにより、正極活物質層を形成し、正極42を作製した。
【0142】
次に、負極41と正極42とをセパレータ43を間に挟んで対向させ、巻き回し、電極回巻体46を作製した。セパレータ43として、微多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層セパレータを用いた。
【0143】
次に、この電極巻回体46を角型形状の電池缶47に挿入し、電池缶47の開口部に電池蓋48を溶接する。次に、電池蓋48に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止して、リチウムイオン二次電池40を組み立てた。
【0144】
また、電解液としては、炭酸エチレン(EC)と炭酸ビニレン(VC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:DEC:VC=30:60:10の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0145】
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例および比較例の二次電池40について、充放電サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。この充放電サイクル試験では、初めの1サイクルだけは、まず、0.2mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2に達するまで充電を行う。次に、0.2mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行う。そして、2サイクル目以降の1サイクルは、まず、2mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2になるまで充電を行う。次に、2mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。
【0146】
この充放電サイクルを25℃にて100サイクル行い、次式
100サイクル目の容量維持率(%)
=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、100サイクル目の容量維持率(%)(2サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比率)を調べた。結果を表1〜表4に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
【表2】

【0149】
【表3】

【0150】
【表4】

【0151】
表中、「第1層」は、実施例では第1活物質層であり、比較例では酸素含有率の小さい(第1)活物質材料層である。「第2層」は、実施例では第2活物質層であり、比較例では自然酸化膜または酸素含有率の大きい第2活物質材料層である。「酸素含有率の差」は、第2層の酸素含有率と第1層の酸素含有率との差である。酸素含有率は、活物質層の断面を集束イオンビーム(FIB;Forcused Ion Beam)法によって切り出し、オージェ電子分光法(AES;Auger electron spectroscopy)によって分析した。データとしては、断面の5箇所における分析値の平均値を用いた.複合体層が複数層積層されている場合には、集電体9にもっとも近い層での分析値を用いた。「変形の有無」は、活物質層形成時の集電体9などの変形の有無である。「酸化条件」の「ボックス」、「吹きつけ」、「チャンバー」は、それぞれ、酸化ボックスを用いた酸化、酸素含有ガスの吹きつけによる酸化、成膜終了後に真空チャンバーに酸素含有ガスを導入することによる酸化を表す。
【0152】
複合体層の層数が1で、表側面に厚さ約6μmの活物質層10を形成し、その後、裏側面に同じ厚さの活物質層10を形成した実施例1および4、並びに、厚さ約6μmの活物質材料層を単層で形成した比較例1では、いずれも、蒸着時の熱および応力による集電体9の変形が観察された。容量維持率は、実施例1および4が、それぞれ、69%および67%で、酸化ボックスを用いた実施例1の方が、吹きつけ酸化を行った実施例4より少し良かった。いずれも、自然酸化によって酸化膜が形成された比較例1の容量維持率58%を約10%上回った。
【0153】
複合体層の層数が2で、複合体層の平均の厚さが約3μmである実施例2および5では、蒸着時の熱および応力による集電体9の変形が観察されず、後工程での取り扱いが容易な二次電池用電極が得られた。これは、1回の成膜で形成される活物質層の厚さが小さくなり、蒸着時の熱の影響が小さくなったため、および、成膜中における表面側活物質層の厚さと裏面側活物質層の厚さの不釣り合いに起因する応力が小さくなったためであり、多層化の効果の1つである。
【0154】
容量維持率は、実施例2および5がともに74%で、中間に酸素含有率が大きい活物質材料層を挟まず、活物質材料層のみが2層積層され、表面に自然酸化膜が形成されただけの比較例2の容量維持率52%を22%上回った。また、成膜後に真空チャンバー2全体に酸素を導入することによって第2活物質材料層を形成した比較例3の容量維持率59%を15%上回った。この差は、特許文献1などに記載されている従来の酸化法に対し、本発明に基づく酸化法がもつ優位性を示す数値である。また、複合体層が1層の実施例1および4と比べて、容量維持率は、5〜7%向上した。この差は、充放電に伴う活物質層の膨張収縮によって集電体9に加わる応力が、酸素含有率の大きい第2活物質層を第1活物質層の間に挟むことによって緩和されたことによる効果であると考えられ、多層化することによるもう1つの効果を示す数値である。
【0155】
複合体層の層数が3で、複合体層の平均の厚さが約2μmである実施例3および6、並びに比較例4では、蒸着時の熱および応力による集電体9の変形が観察されなかった。上述した多層化の効果の1つであるが、複合体層の厚さの減少によって、比較例4においても得られるようになった。
【0156】
これに対し、層数が同じ3でも、集電体9の表側面に複合体層を3層積層して形成した後、裏側面に複合体層を3層積層して形成した実施例7では、蒸着時の集電体9の変形が観察された。これは、初めに表側面にのみ活物質層を形成してしまうため、成膜中における表面側活物質層の厚さと裏面側活物質層の厚さの差が最大で6.9μmに達し、この不釣り合いに起因する応力が大きくなったためであり、このような成膜方法では多層化の効果が半減する。この例からも、成膜中における表面側活物質層の厚さと裏面側活物質層の厚さの差を小さく抑えることが重要であることがわかる。
【0157】
容量維持率は、実施例3、6および7が、それぞれ、74%、72%、70%で、成膜後に真空チャンバー2へ酸素ガスを導入することによって第2活物質材料層を形成した比較例4の容量維持率62%を8〜12%上回った。この差は、既述したように、特許文献1などに記載されている従来の酸化法に対し、本発明に基づく酸化法がもつ優位性を示す数値である。
【0158】
複合体層の層数が4〜20で、複合体層の厚さが1.6μm以下の実施例8〜13では、成膜中における表面側活物質層の厚さと裏面側活物質層の厚さの差が1.6μm以下に抑えられ、表裏活物質層の厚さの差に起因する応力がさらに減少し、取り扱い性がさらに向上した二次電池用電極が得られた。また、実施例8〜13の順で、すなわち、1回当たりの成膜量が少なくなり、表裏活物質層の厚さの差が小さくなるほど、取り扱い性が向上することが判明した。これらの例から、成膜中における表面側活物質層の厚さと裏面側活物質層の厚さの差を1.6μm以下に抑えることがさらに好ましいことがわかった。
【0159】
また、実施例8〜13の容量維持率は75〜77%で良好であった。複合体層の層数が、それぞれ、4および5である実施例8および9の容量維持率は、76〜77%で、同じ層数の比較例5および6の容量維持率68〜69%に比べ、約8%優れていた。
【0160】
以上のように、本発明に基づく実施例は、同じ層数の比較例と比べて、容量維持率が8〜15%向上した。しかも、実施例で得られた二次電池用電極は、取り扱い性がよく、再現性が良好であったのに対し、比較例3〜6で得られた二次電池用電極は、取り扱い性が劣り、容量維持率などの充放電サイクル特性のばらつきが大きかった。この違いが、本発明に基づく酸化法が、特許文献1などに記載されている従来の酸化法に対してもつ優位性である。
【0161】
成膜ロールとしてクラウンロール4cを用いた実施例14および15は、それぞれ、同じ層数の実施例6および12に比べて、さらに電池用電極の外観が良好で、二次電池用電極としての取り扱い性がよく、充放電サイクル特性のばらつきも小さく、容量維持率も良好であった。これは、クラウンロール4cへの集電体9の密着性がよく、集電体9への熱負荷が小さく、かつ、均等であったためと考えられる。
【0162】
また、四角形ロールを用いて、静止成膜を行った実施例16および17においては、さらに、二次電池用電極としての取り扱い性がよく、充放電サイクル特性のばらつきも小さく、容量維持率も良好であった。
【0163】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々に変形可能である。
【0164】
例えば、活物質層の形成方法は特に限定されるものではなく、集電体に活物質層を形成できる方法であれば何でもよい。例えば、気相法、焼成法あるいは液相法を挙げることができる。気相法としては、真空蒸着法の他に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、例えば鍍金が挙げられる。また、それらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて活物質層を成膜するようにしてもよい。
【0165】
また、実施の形態および実施例では、外装部材として角型の缶を用いる場合について説明したが、本発明は、角型の他に、コイン型、円筒型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのような形状のものでも適用することができる。また、外装部材としてフィルム状の外装材などを用いる場合についても適用することができる。また、本発明は、負極と正極とを複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明に係る二次電池は、ケイ素の単体などを負極活物質として用いて、大きなエネルギー容量と良好なサイクル特性を実現し、モバイル型電子機器の小型化、軽量化、および薄型化に寄与し、その利便性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく電極形成装置の構成を示す概略図である。
【図2】同、酸化ボックスの形状を示す斜視図である。
【図3】同、電極形成工程のフローを示す集電体などの断面図である。
【図4】同、別の変形例に基づく電極形成装置の構成を示す概略図である。
【図5】同、変形例に基づくクラウンロールを示す正面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に基づく電極形成装置の構成を示す概略図である。
【図7】同、電極形成工程のフローを示す集電体などの断面図である。
【図8】同、変形例に基づく電極形成装置の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態3の変形例に基づく多角形キャンロールの例を示す概略図である。
【図10】本発明の実施の形態4に基づくリチウムイオン二次電池の構成(角型)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0168】
1…電極形成装置、2…真空チャンバー、2a、2b…蒸着源設置室、
2c…集電体設置室、3a、3b…蒸着源、4a、4b…円形キャンロール、
4c…クラウンロール、5…遮蔽板、5a、5b…開口部、6a、6b…シャッタ、
7…真空排気装置、8…隔離板、9…集電体、10…活物質層、10a…第1活物質層、
10b…第2活物質層、11、18…巻き取りローラー、12〜16…ガイドローラー、
17…フィードローラー、19…電極形成装置、20、20a〜20d…酸化ボックス、
20e〜20l…ガス導入口(ガス噴射ノズルなど)、21…電極形成装置、
22〜25…複合体層、22a〜25a…第1活物質層、
22b〜25b…第2活物質層、26…活物質層、27…電極形成装置、
31a…四角形キャンロール、32…対向面、33a、33d…酸化ボックス、
34、35…ゴムローラー、40…リチウムイオン二次電池、41…負極、42…正極、
43…セパレータ、44…負極リード、45…正極リード、46…電極巻回体、
47…電池缶、48…電池蓋、49…正極端子、A、C…蒸着領域、
B、D〜F…酸化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に、活物質層として、酸素を含まないか又は酸素含有率の小さい第1活物質層と、酸素含有率の大きい第2活物質層とからなる複合体層が設けられている電池用電極の製造方法において、
酸素含有ガスを含まないか又は前記酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で、前記集電 体の前記表面に活物質を堆積させ、前記第1活物質層を形成する工程を行った直後に、 前記第1活物質層の表面を、前記酸素含有ガスの圧力が前記雰囲気中に比べて高い酸化 性雰囲気に曝し、前記第1活物質層の少なくとも表面領域を前記第2活物質層に変化さ せる工程を行う
ことを特徴とする、電池用電極の製造方法。
【請求項2】
集電体の表面上において、活物質層として、酸素を含まないか又は酸素含有率の小さい第1活物質層と、酸素含有率の大きい第2活物質層とからなる複合体層が、複数層、積層して設けられている電池用電極の製造方法において、
酸素含有ガスを含まないか又は前記酸素含有ガスの圧力が低い雰囲気中で、前記集電 体の前記表面表面上において活物質を堆積させ、前記第1活物質層を形成する工程を行 った直後に、前記第1活物質層の表面を、前記酸素含有ガスの圧力が前記雰囲気中に比 べて高い酸化性雰囲気に曝し、前記第1活物質層の少なくとも表面領域を前記第2活物 質層に変化させる工程を行うことにより、前記複合体層の1層を形成し、
上記の一連の工程を繰り返すことにより、複数の前記複合体層を積層し、前記活物質 層を形成する
ことを特徴とする、電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記集電体として長尺形状の集電体を用い、前記集電体を長尺方向に送り出し、前記雰囲気中にある活物質層形成領域を通過させて前記第1活物質層を形成した直後に、前記酸化性雰囲気に面した酸化領域を通過させて前記第2活物質層を形成する、請求項1又は2に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記活物質層形成領域を設けた成膜室内の一部の空間領域を、隔壁、又は、隔壁及び前記集電体によって囲み、この囲まれた空間領域に前記酸化領域を形成する、請求項3に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記活物質層形成領域を通過した直後の前記集電体に、前記酸素含有ガスを吹きつけ、前記酸化領域を形成する、請求項3に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記集電体を連続的に走行させる、請求項3に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記活物質層形成領域において前記集電体を保持する成膜ロールとして、クラウンロールを用いる、請求項6に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記集電体を断続的に走行させ、前記活物質層形成領域において前記集電体を少なくとも一度静止させて、前記第1活物質層を形成する、請求項3に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項9】
静止状態での前記第1活物質層の成膜中に、前記集電体の長尺方向に加わる機械的な引っ張り応力を、2N/cm以下にする、請求項8に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項10】
静止状態での前記第1活物質層の成膜中に、前記集電体の長尺方向に加わる機械的な引っ張り応力を、無視できる大きさにする、請求項9に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項11】
前記集電体を静止させた状態で前記活物質層形成領域に位置する前記集電体の一領域に前記第1活物質層を成膜した後、集電体走行手段を用いて前記集電体を所定の長さだけ走行させて、前記集電体の前記一領域の後方領域を前記活物質層形成領域に移動させ、前記第1活物質層の成膜を再び行う、請求項8に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項12】
前記活物質層形成領域において前記集電体を保持する成膜ロールの回転によって、前記集電体を前記所定の長さだけ走行させる、請求項11に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記成膜ロールとして多角形ロールを用いる、請求項12に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項14】
所定の厚さの前記活物質層が得られるまで、前記複合体層を積層する、請求項2に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項15】
前記集電体の表側及び裏側の両面に活物質層を形成し、そのうち、少なくとも一方の面の活物質層として前記活物質層を形成する、請求項1又は2に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項16】
前記集電体の両面に活物質層を形成し、前記表側面の活物質層の厚さと、前記裏側面の活物質層の厚さとの差を3μm以下に保ちながら、前記活物質層を形成する、請求項15に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項17】
前記表側面の活物質層の厚さと、前記裏側面の活物質層の厚さとの差を1.6μm以下に保ちながら、前記活物質層を形成する、請求項16に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項18】
前記表側面、前記裏側面の順で活物質層を形成した次は、前記裏側面、前記表側面の順で活物質層を形成し、また、前記裏側面、前記表側面の順で活物質層を形成した次は、前記表側面、前記裏側面の順で活物質層を形成することを繰り返して、前記集電体の両面に活物質層を形成する、請求項15に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項19】
前記活物質層を気相成膜法によって形成する、請求項1又は2に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項20】
前記気相成膜法の一つである真空蒸着法によって前記活物質層を形成する、請求項19に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項21】
前記集電体として銅を含有する材料を用いる、請求項1又は2に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項22】
ケイ素を含有する活物質材料を用いて、ケイ素を含有する前記第1活物質層を形成する、請求項1又は2に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項23】
前記第2活物質層に、構成元素として3〜45原子数%の酸素を含有させる、請求項22に記載した電池用電極の製造方法。
【請求項24】
二次電池用電極を製造する、請求項1又は2に記載した電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−117607(P2008−117607A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299064(P2006−299064)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】