説明

電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】活物質や集電体に対する高い結着性を有する電池用電極を提供すること。
【解決手段】シリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られる、けん化度が70〜99.9モル%の範囲であり、粘度平均重合度Pが200〜3000の範囲であり、下記式(I)を満足するシリル基変性ビニルアルコール系重合体と、活物質とを含む活物質層が集電体表面に形成されてなる電池用電極。
0.2≦P×S≦3.7 ・・・(I)
P:ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
S:シリル基を有する単量体単位のモル含有率

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯用コンピューター、電動工具等のポータブル機器が多く登場し、その電源として、高電圧、高エネルギー密度を有する二次電池が重要視されるようになってきた。また、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車など、環境問題の観点からクリーンエネルギーを利用した車両への転換が始まっており、その電源装置として使用される耐久性の高い二次電池の開発は不可欠である。これらの用途に供される二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を実現できるものとして注目されており、より高容量のもの、より長寿命のものが多く研究されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般に、集電体上に正極活物質と結着剤とを含む正極活物質層が形成された正極、集電体上に負極活物質と結着剤とを含む負極活物質層が形成された負極、および、それぞれの活物質層を対向させるように配置したこれらの正負極間に介在させたセパレータを備える積層構造を有しており、これらの積層構造を全体として1層のみ有するリチウムイオン二次電池もあれば、2つ以上積層されたリチウムイオン二次電池もある。また電池内にはリチウム原子を含む電解質塩と非水系溶媒を含む電解質組成物が満たされている。
【0004】
正極活物質としては主に、リチウム−コバルト複合酸化物やリン酸鉄リチウム等のリチウム含有金属化合物が用いられている。負極活物質としては主に、リチウムイオンが層間へ挿入脱離可能な多層構造を有する黒鉛等の炭素材料やケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素と炭素の複合材料、ケイ素合金等が用いられている。正極および負極は、それぞれ、これらの活物質と結着剤と溶媒と、必要に応じてさらに導電助剤等の添加剤とを混練して活物質スラリーを調製し、これを集電体に塗布し、溶媒を乾燥除去して活物質層を形成することで得られる。また、必要に応じてこれをロールプレス機等で圧縮する。
【0005】
結着剤としては、正極ではポリフッ化ビニリデン(PVDF)系ポリマーが、負極ではPVDF系ポリマーまたはスチレンブタジエンゴム(SBR)系ポリマーが広く使用されている。
【0006】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが活物質に挿入脱離する反応により、電気エネルギーを蓄え、また、取り出す。この反応が起こる際、活物質が膨張収縮する。特に、負極活物質として黒鉛やケイ素、ケイ素化合物を用いた電極は、リチウムイオン二次電池の電極として用いた際、充放電においてリチウムイオンが挿入脱離すると激しく膨張収縮する。結着剤の結着性が活物質や集電体に対して充分高くない場合、この膨張収縮によって、活物質が集電体から離れ、あるいは、活物質同士の接触が分断され、導電パスが失われていく。充放電の繰り返しによって導電パスが失われると、充放電容量に関与する活物質の量が減り、二次電池の容量低下を招く(サイクル特性の低下)。従来使用されているPVDF系の結着剤は、これらの結着性が不充分であった。
【0007】
上記のような問題に対し、結着剤として、ポリビニルアルコールを用いることで改善をはかる方法が知られている(特許文献1〜3を参照)。
【0008】
しかし、前述の方法で活物質や集電体に対する高い結着性を得るためには、多量のポリビニルアルコールの添加が必要である。活物質層に占める結着剤の分量が大きくなると、電池としての容量(エネルギー密度)が小さくなってしまう。また、結着剤が電気抵抗となり、電池の充放電特性に悪影響を及ぼす。
【0009】
また、特に活物質として黒鉛を用いた電極を作製する場合において、結着剤としてのポリビニルアルコールと、活物質としての黒鉛と、溶媒としての水とを混練して活物質スラリーを製造する際、結着剤の添加量が少ないと黒鉛の分散性が悪くなる。従って、集電体への塗布で良好な電極を製造し難く、歩留まりが悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−250915
【特許文献2】特開平9−289022
【特許文献3】特開平11−67215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、活物質や集電体に対し少量で高い結着性を発現する結着剤を含む電池用電極を提供することを目的とする。そして、本発明の電池用電極を用いて作製されたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れ長寿命である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、結着剤としてシリル基変性ビニルアルコール系重合体を用いると、活物質や集電体に対して極めて結着性の高い活物質層を与えることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1]シリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層が、集電体表面に形成されてなる電池用電極であって、
前記シリル基変性ビニルアルコール系重合体の活物質層における含有率が1〜10質量%の範囲であり、
前記シリル基変性ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)とを共重合させ、けん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、けん化度が70〜99.9モル%の範囲であり、粘度平均重合度Pが200〜3000の範囲であり、下記式(I)を満足するものである、電池用電極;
0.2≦P×S≦3.7 ・・・(I)
P:シリル基変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
S:シリル基を有する単量体(a)単位のモル含有率
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であり、mは0〜2の整数である。);
[2]前記活物質が、黒鉛、ケイ素、ケイ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質を含む、上記[1]に記載の電池用電極;
[3]活物質層を有する一対の電極が、セパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置されるとともに、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が当該一対の電極およびセパレータの各間を満たす積層構造を有するリチウムイオン二次電池であって、前記一対の電極のうち少なくとも一方は上記[1]または[2]に記載の電池用電極である、リチウムイオン二次電池;
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電池用電極は、活物質と集電体との間の結着性、および活物質同士の間の結着性が良好な電極であるため、サイクル特性に優れ、繰り返し充放電を行っても劣化を生じにくい長寿命な電池を与えることができる。また、結着剤の添加量が少ないため、容量(エネルギー密度)の大きな電池を与えることができる。さらに、活物質スラリー製造においては、活物質の分散性が良く良好な活物質層を形成するのが容易であるため、電極の製造において工程通過性や歩留まりが良く、電極の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電池用電極は活物質層が集電体表面に形成されてなる。そして当該活物質層は、シリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む。
【0016】
本発明に用いるシリル基変性ビニルアルコール系重合体は、下記の一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位を含有する。
【化2】

(Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であり、mは0〜2の整数である。)
【0017】
一般式(1)において、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。
【0018】
一般式(1)において、Rで表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。
【0019】
及びRは酸素原子を有する置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。
【0020】
一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体(a)としては、例えば、下記の一般式(2)または下記の一般式(3)で示される化合物や一般式(1)で示されるシリル基を有する(メタ)アクリル酸シリルアルキルエステル等を挙げることができる。
【0021】
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であり、mは0〜2の整数であり、nは0〜4の整数である。)
【0022】
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキレン基であるかまたは酸素原子もしくは窒素原子を含む2価の炭化水素基であり、mは0〜2の整数である。)
【0023】
一般式(2)において、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基、及びRで表されるアルコキシル基、アシロキシル基としては、上記一般式(1)で例示したものと同じものが挙げられる。また、R及びRは酸素を含有する置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基等が挙げられる。
【0024】
上記一般式(2)で示される単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシランなどが挙げられる。
【0025】
これらの単量体の中でも、ビニルトリメトキシシランは、ビニルエステル単量体と共重合させた場合に、得られるビニルエステル系重合体の重合度の低下を抑えることができ、工業的な製造が容易で安価に入手できることから好ましく用いることができる。
【0026】
一般式(3)において、R、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基、及びRで表されるアルコキシル基、アシロキシル基としては、上記一般式(1)で例示したものと同じものが挙げられる。また、R及びRは酸素を含有する置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(3)において、Rで表される炭素数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ジメチルエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基などが挙げられ、また、酸素原子または窒素原子を含む2価の炭化水素基としては、−CHCHNHCHCHCH−、−CHCHNHCHCH−、−CHCHNHCH−、−CHCHN(CH)CHCH−、−CHCHN(CH)CH−、−CHCHOCHCHCH−、−CHCHOCHCH−、−CHCHOCH−などが挙げられる。
【0028】
上記一般式(3)で示される単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−イソプロピルトリメトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−(メタ)アクリルアミド−プロピル)−オキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリアセトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−ブチルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリプロピオニルオキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルイソブチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルハイドロジェンジメトキシシラン、3−(N−メチル−(メタ)アクリルアミド)−プロピルトリメトキシシラン、2−(N−エチル−(メタ)アクリルアミド)−エチルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
【0029】
これらの単量体の中でも、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシランおよび3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシランは、工業的な製造が比較的容易で安価に入手できることから好ましく用いることができ、また2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシランおよび2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシランはアミド結合が酸またはアルカリに対して著しく安定であることから、好ましく用いることができる。
【0030】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体は、前記一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)とを共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造することができる。
【0031】
ビニルエステル単量体(b)としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0032】
シリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0033】
シリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)とを共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて共重合可能な他の単量体を共重合させることができる。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体などが挙げられる。これらのシリル基を有する単量体およびビニルエステル単量体と共重合可能な単量体の使用量は、その使用される目的および用途等によっても異なるが、好適には共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0034】
シリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)とを共重合させることによって得られるビニルエステル系共重合体の各構成単位の配列順序に特に制限はなく、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよい。また、上記のビニルエステル系重合体において、各構成単位の結合様式は、頭−尾結合であってもよいし、頭−頭結合であってもよいし、またはそれらの複合されたものであってもよい。
【0035】
シリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)とを共重合させることによって得られたビニルエステル系重合体をけん化する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0036】
けん化を行う際の反応触媒としてはアルカリ性物質が好適に用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で0.004〜0.5の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.05の範囲内であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく用いられ、その使用にあたり、メタノールの含水率が好ましくは0.001〜1重量%、より好ましくは0.003〜0.9重量%、特に好ましくは0.005〜0.8重量%に調整されているのがよい。けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間は、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
【0037】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体のけん化度(DH)は、得られる電池の充放電特性やサイクル特性などの観点から、好ましくは70〜99.9モル%の範囲であり、より好ましくは75〜99.5モル%の範囲であり、さらに好ましくは80〜99モル%の範囲である。なお本明細書において「けん化度」とは、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計モル数に対する、ビニルアルコール単位のモル数の割合を意味する。
【0038】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、JIS K6726に準じて測定される。すなわち、シリル基変性ビニルアルコール系重合体をけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求めることができる。
P=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0039】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、200〜3000の範囲であることが必要である。Pは、好ましくは250〜2700の範囲であり、さらに好ましくは300〜2400の範囲である。Pが200より小さい場合には、シリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層を集電体表面に形成して電池用電極を製造した際に、活物質や集電体に対する結着性が不充分となり、活物質層を形成することができない。Pが3000より大きい場合には、シリル基変性ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性が低下し、活物質スラリーの塗工に悪影響を及ぼすため活物質層の形成が困難となる場合がある。
【0040】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体において、一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体(a)単位の含有率(モル%)は、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求められる。ここで、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、該ビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、重水素化クロロホルム溶媒に溶解して分析に供する。
【0041】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体は、該ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)とシリル基を有する単量体(a)単位の全単量体単位に対する含有率(S)の積(P×S)が、0.2≦P×S≦3.7の関係を満足する必要がある。ここで、P×Sの値は、重合体1分子あたりのシリル基の数を表す概念に相当する。P×Sは、好ましくは0.4≦P×S≦3.6、さらに好ましくは0.7≦P×S≦3.5の関係を満足するのがよい。P×Sが0.2未満の場合には、シリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層を集電体表面に形成して電池用電極を製造した際に、活物質や集電体に対する結着性が不充分となり、活物質層を形成することができない。P×Sが3.7を超える場合には、シリル基変性ビニルアルコール系重合体が水に難溶となり、活物質スラリーの作製が困難になる場合がある。
【0042】
本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体は、その4質量%水溶液のpHが4〜8であることが好ましい。その4質量%水溶液のpHは、好ましくは4.5〜7の範囲であり、さらに好ましくは5〜6.5の範囲である。4質量%水溶液のpHが4に満たない場合には、シリル基変性ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性が低下し、活物質スラリーの塗工に悪影響を及ぼすため活物質層の形成が困難となる場合がある。4質量%水溶液のpHが8を超える場合には、シリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層を集電体表面に形成して電池用電極を製造した際に、活物質や集電体に対して充分な結着性を有する活物質層が得られない場合がある。
【0043】
次に、本発明の電池用電極について説明する。本発明の電池用電極は、上記のシリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層が、集電体表面に形成されてなる電池用電極である。
【0044】
活物質層におけるシリル基変性ビニルアルコール系重合体の含有率は1〜10質量%の範囲内である。該含有率が低すぎると結着剤として充分に機能せずに活物質層が分離しやすくなる傾向があり、また、高すぎると得られる電池の充放電特性が低下する、単位重量あたりの放電容量が小さくなる等の傾向がある。より好ましくは1.5〜9質量%の範囲内であり、さらに好ましくは2〜8質量%の範囲内である。
【0045】
本発明において使用される活物質の種類に特に制限はないが、正極に用いられる場合の活物質(正極活物質)としては、例えば、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−鉄複合酸化物、リチウム−コバルト−マンガン複合酸化物、リチウム−コバルト−ニッケル複合酸化物、リチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト−マンガン−ニッケル複合酸化物等のリチウム−遷移金属複合酸化物;リチウム−鉄リン酸化合物等のリチウム−遷移金属リン酸化合物;リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
電池用電極が負極に用いられる場合の活物質(負極活物質)としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料;リチウム、ケイ素、すず、銀等の金属、これらの金属の酸化物またはこれらの金属の合金などが挙げられる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。負極活物質は、本発明の電池用電極をリチウムイオン二次電池用電極として用いる場合には、サイクル特性や放電容量がより優れたものとなることから、炭素材料またはケイ素材料を含むことが好ましく、黒鉛、ケイ素、ケイ素酸化物を含むことが特に好ましい。
【0047】
本発明の電池用電極が有する活物質層における活物質の含有率は、好ましくは90〜99質量%の範囲内であり、より好ましくは91〜98.5質量%の範囲内であり、さらに好ましくは92〜98質量%の範囲内である。
【0048】
本発明の電池用電極が有する活物質層は、上記のシリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質のみから構成されていてもよいが、これら以外の添加剤をさらに含んでいてもよい。当該添加剤としては、例えば、導電助剤が挙げられる。導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加剤である。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック等の粉末状炭素材料;気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素材料;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の導電性高分子などが挙げられる。活物質層は、導電助剤以外の他の添加剤を含むこともできる。本発明の電池用電極が有する活物質層におけるこれらの添加剤の含有率の合計は、好ましくは0.05〜20質量%の範囲内であり、より好ましくは0.1〜15質量%の範囲内であり、さらに好ましくは0.5〜10質量%の範囲内である。
【0049】
本発明において使用される集電体としては、導電性の部材を用いることができ、例えば、金、白金、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、銀、パラジウム等の金属;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の導電性高分子などが挙げられる。これらの中でも、価格や耐久性の観点から、正極の集電体としてはアルミニウムが好適に用いられ、負極の集電体としては銅が好適に用いられる。集電体の形状に特に制限はなく、例えば、箔、フィルム、シート、板、メッシュ、エキスパンドメタル、多孔質状などが挙げられる。また、導電性に影響のない範囲でメッキやクロメート処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0050】
本発明の電池用電極は活物質層が集電体表面に形成されてなる。活物質層は、集電体表面の一部のみに形成されていても集電体表面の全体に形成されていてもよく、例えば、箔状や板状の形状を有する集電体の一方の面に形成されていても両方の面に形成されていてもよい。
【0051】
集電体表面への活物質層の形成方法に特に制限はなく、通常知られている活物質層の形成方法を採用することができる。すなわち、活物質と、本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体と、該ビニルアルコール系重合体が溶解することのできる溶媒と、必要に応じてさらに添加剤とを混練して活物質スラリーを調製し、当該活物質スラリーを上記の集電体に塗布し、溶媒を乾燥除去する方法により集電体表面に活物質層を形成することができる。上記の溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水が好ましく、水がより好ましい。活物質スラリーを集電体に塗布する方法としては、ドクターブレード法やインクジェット法などを採用することができる。また、必要に応じて形成された活物質層をロールプレス機、平板プレス機などで圧縮成形してもよい。
【0052】
本発明の電池用電極は電池、好ましくはリチウムイオン二次電池の構成部品として使用される。本発明の電池用電極が使用されるリチウムイオン二次電池としては、例えば、活物質層を有する一対の電極(正極および負極)が、セパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置された積層構造を有するものが挙げられ、当該リチウムイオン二次電池において、一対の電極のうちの少なくとも一方は本発明の電池用電極である。ここで、「活物質層を有する」電極には、活物質層のみからなる電極が包含される。また、「活物質層同士が対向する」とは、一方の電極が有する活物質層の少なくとも一部と、他方の電極が有する活物質層の少なくとも一部が対向していることを意味する。
【0053】
上記のリチウムイオン二次電池においては、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が、少なくとも一対の電極およびセパレータの各間(すなわち、一方の電極とセパレータの間および他方の電極とセパレータの間)を満たしている。リチウムイオン二次電池は、上記の積層構造を全体として1層のみ有するものであっても、上記の積層構造を複数積層させたものであっても、どちらでもよい。
【0054】
リチウムイオン二次電池等の電池において、本発明の電池用電極は一対の電極のうちの少なくとも一方であればよく、例えば、一方の電極が本発明の電池用電極であって他方の電極がそれ以外の電極であってもよいし、両方の電極が本発明の電池用電極であってもよい。本発明の電池用電極以外の電極が使用される場合にその構成に特に制限はなく、本発明の電池用電極の説明において上記した活物質、集電体、および、従来公知の結着剤を用いて製造されるものを使用することができる。
【0055】
上記のセパレータとしては、リチウムイオン等のイオンを通過させつつ、正極と負極との物理的接触による短絡を防止することのできるものであればその種類に特に制限はなく、例えば、微多孔ポリエチレンフィルム、微多孔ポリプロピレンフィルム等の微多孔ポリオレフィンフィルムなどが挙げられる。セパレータとしては、安全性確保のために、所定の温度(例えば120℃)以上で熱溶融により孔を閉塞して抵抗を上げ、電流を遮断する機能を有するものが好ましい。
【0056】
上記の電解質組成物としては、例えば、リチウム原子を含む電解質塩と非水系溶媒とを含むものが挙げられる。このような電解質組成物は、本発明の効果が奏される限り、必要に応じてリチウム原子を含む電解質塩および非水系溶媒以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0057】
電解質組成物が含む「リチウム原子を含む電解質塩」としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、硝酸リチウム(LiNO)、硫酸リチウム(LiSO)、ヘキサフルオロ砒酸リチウム(LiAsF)、メタンスルホン酸リチウム(CHSOLi)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SOCF)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SO)などが挙げられる。このうち、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SOCF、LiN(SOが好ましく、中でも、LiPF、LiBFが特に好ましい。リチウム原子を含む電解質塩は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0058】
電解質組成物が含む非水系溶媒としては、例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)等の炭酸エステル;γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン;1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル;アセトニトリル等のニトリル;スルホラン系化合物;リン酸類;リン酸エステル;ピロリドン類などが挙げられる。これらの非水系溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭酸エステル、ラクトンが好ましく、EC、PC、DMC、EMC、DEC、GBLが特に好ましい。また、炭酸エステルを使用する場合には、リチウム原子を含む電解質塩の解離の促進とリチウムイオンの易動度の両立の観点から、環状の炭酸エステル(例えば、EC、PCなど)と鎖状の炭酸エステル(例えば、DMC、EMC、DECなど)とを併用するのが好ましい。
【0059】
電解質組成物におけるリチウム原子を含む電解質塩の含有量に特に制限はないが、電解質組成物がリチウム原子を含む電解質塩と非水系溶媒を含む場合には、リチウム原子を含む電解質塩および非水系溶媒の各質量の合計に対する当該リチウム原子を含む電解質塩のモル数の割合として、好ましくは0.1〜10ミリモル/gの範囲内であり、より好ましくは0.2〜5ミリモル/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.5〜2ミリモル/gの範囲内である。
【0060】
また、上記の電解質組成物は、リチウム原子を含む電解質塩と高分子とを含むポリマー電解質であってもよい。ポリマー電解質は、一般に、非水系溶媒をさらに含むゲル電解質と、非水系溶媒を含まない真性ポリマー電解質とに分類されるが、本発明においてはどちらのポリマー電解質であってもよい。
【0061】
ポリマー電解質に用いられる高分子としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)等のポリアルキレンオキシド;ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(P(VDF−HFP));ポリアクリロニトリル(PAN);ポリメタクリル酸メチル(PMMA);ポリビニルブチラール(PVB);ポリビニルホルマール(PVF);ポリビニルアセトアセタールおよびこれらの共重合体などが挙げられる。このうち、リチウムイオンを溶解しうるイオン伝導性ポリマーが好ましい。
【0062】
リチウムイオン二次電池等の電池の具体的な構成に特に制限はなく、例えば、上記したような積層構造(活物質層を有する一対の電極がセパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置された積層構造)が電池ケース内に、全体として1層で収容されてなるもの、複数積層されて収容されてなるもの、巻回されて収容されてなるものなどが挙げられる。電極には必要に応じて、発生した電気を取り出すためのリード線を接続させることができる。当該リード線は電池ケースの外側まで引き出されていてもよいし、電池ケースに接触させて電気を取り出すようにしてもよい。電池ケースの形状に特に制限はなく、例えば、円筒型の形状、扁平な形状などが挙げられる。電池ケースの素材に特に制限はなく、金属缶を用いてもよいし、ラミネートフィルムを用いてもよい。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
シリル基変性ビニルアルコール系重合体を下記の方法により製造し、その粘度平均重合度(P)、シリル基を有する単量体(a)単位の含有率、けん化度を求めた。
【0065】
[ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度]
ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、JIS K6726に記載の方法より求めた。すなわち、シリル基含有PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求めた。
P=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0066】
[ビニルアルコール系重合体のシリル基を有する単量体単位の含有率]
けん化する前のビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して、重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、重水素化クロロホルム溶媒に溶解したものを測定資料とし、500MHzのプロトンNMR測定装置(JEOL GX−500)によりビニルエステル系重合体に含まれるシリル基を有する単量体単位の含有率を求め、ビニルアルコール系重合体に含まれるシリル基を有する単量体単位の含有率(モル%)とした。
【0067】
[ビニルアルコール系重合体のけん化度]
ビニルアルコール系重合体のけん化度(DH)は、JIS K6726に記載の方法により求めた。
【0068】
[製造例1]
シリル基を有する単量体単位を含有するビニルアルコール系重合体(重合体A)の製造
撹拌機、温度センサー、滴下ロート、窒素ガス導入管および還流冷却器を付した反応容器中に、酢酸ビニル1225質量部、メタノール1354質量部、ビニルトリメトキシシランを1質量%含有するメタノール溶液921質量部を仕込み、撹拌下に系内を窒素置換しながら、内温を60℃まで上げた。この系に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを2.4質量部含有するメタノール溶液20質量部を添加し、重合反応を開始した。重合開始時点よりビニルトリメトキシシランを1質量%含有するメタノール溶液97質量部を系内に添加しながら5時間重合反応を行い、その時点で重合反応を停止した。次いで、系内にメタノール上記を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を含むメタノール溶液を得た。このビニルエステル系重合体を含むメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単体に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.015、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35質量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したビニルアルコール系重合体を得た。このメタノールで膨潤したビニルアルコール系重合体に対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥して、シリル基を有する単量体単位を含有するビニルアルコール系重合体(重合体A)を得た。得られた重合体Aのけん化度は98.2モル%、粘度平均重合度は500、シリル基を有する単量体(a)単位の含有率は0.50モル%であった。
【0069】
[製造例2〜10]
シリル基を有する単量体単位を含有するビニルアルコール系重合体(重合体B〜J)の製造
酢酸ビニルおよびメタノールの初期仕込み量、シリル基を有する単量体の種類および仕込み量、開始剤の種類および添加量、重合条件、けん化条件等を表1に示すように変化させた以外は、重合体Aと同様の方法により、重合体B〜Jを合成した。分析結果を表2に記した。
【0070】
次に、本発明の実施例について説明を行う。尚、以下の実施例においては、上記で製造した重合体A〜Jをそれぞれイオン交換水に溶解し、固形分8質量%の水溶液として用いた。
【0071】
[実施例1]
電池用電極の作製
活物質として球状黒鉛(平均粒子経20μm)、結着剤として重合体Aを用い、活物質層における各含有率が球状黒鉛が95質量%、結着剤が5質量%となるように混合した。その際、結着剤はイオン交換水に溶解して水溶液(固形分8質量%)としたものを用い、イオン交換水を適量添加して、活物質スラリーを調製した。次に、集電体として電解銅箔(厚み15μm)の析出面に、上記の活物質スラリーをドクターブレード法で250μmの厚みで塗布した。これを50℃のホットプレートで1時間乾燥し、集電体表面に活物質層を形成した。さらにこれを80℃の真空乾燥機で終夜乾燥し、直径15mmの円形に打ち抜いて電池用電極を作製した。
【0072】
[実施例2〜7]
結着剤として用いる重合体、活物質層における結着剤の含有率を、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により電池用電極を作製した。
【0073】
[比較例1]
実施例1において、重合体Aの代わりに重合体Fを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により電池用電極を作製した。
【0074】
[比較例2〜7]
結着剤として用いる重合体、活物質層における結着剤の含有率を、表2に示すように変更した以外は、比較例1と同様の方法により電池用電極を作製した。
但し、比較例3に関しては、重合体Hがイオン交換水に対して溶解せず、活物質スラリーを作製できなかったため、電極の評価を行うことができなかった。
【0075】
[比較例8]
比較例1において、重合体Fの代わりに無変性のポリビニルアルコール(重合度2400、けん化度98.5モル%)(PVA)を用いたこと以外は、比較例1と同様の方法により電池用電極を作製した。
【0076】
実施例1〜7及び比較例1〜8において、以下の通り評価を行った。結果を併せて表2に記した。
活物質の分散性の評価(分散性)
結着剤と溶媒と活物質とを混合し、活物質スラリーを作製した際、均一に混合できたものを「均一」、均一に混合できなかったものを「不均一」と評価した。
【0077】
乾燥した活物質層表面の状態の評価(電極表面状態)
活物質スラリーをドクターブレード法によって集電体に塗布し、乾燥して形成した活物質層の表面が、平滑なものを「A」、やや平滑でない部分があるものを「B」、大部分が平滑でないものを「C」と評価した。
【0078】
結着性の評価(電極保持率)
上記で作製した電池用電極の質量を求め、銅箔の質量を差し引いて[塗布量(g)]を求めた。また、電池用電極を活物質層が上になるようにガラス板に粘着テープで貼り付け、この電極に、JIS Z1522によるセロハン粘着テープを2kgの荷重をかけて5秒間押し付けセロハン粘着テープを電極に貼り付けた後、セロハン粘着テープの一端を持って電極に対して直角を保ちながら毎秒5mmの速度ではがした。セロハン粘着テープに付着した活物質層の質量から[剥離量(g)]を求めた。次式により、[電極保持率(%)]を求めた。
[電極保持率(%)]=100−[{剥離量(g)}/{塗布量(g)}]×100
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
表2より明らかなように、本発明の構成を満たす実施例1〜7は、高い電極保持率を示し、少量でも良好な結着性を有していることがわかる。従って、本発明の電池用電極を用いて製造されたリチウムイオン二次電池は、電池としての容量(エネルギー密度)を高くすることができ、結着剤の電気抵抗も小さくなるためサイクル特性の向上が期待できる。また、実施例1〜7は、活物質スラリーの分散性、塗工性が良好である。疎水性である黒鉛と、水と、親水性の高いビニルアルコール系重合体との混合スラリーを作製する場合、これらの親和性が悪いため凝集して分散性の悪いスラリーとなることがあるが、本発明のシリル基変性ビニルアルコール系重合体は、粘度、活物質との親和性、結着性に優れるため、良好な分散性が発現したものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリル基変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層が、集電体表面に形成されてなる電池用電極であって、
前記シリル基変性ビニルアルコール系重合体の活物質層における含有率が1〜10質量%の範囲であり、
前記シリル基変性ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体(a)とビニルエステル単量体(b)とを共重合させ、けん化することによって得られるビニルアルコール系重合体であって、けん化度が70〜99.9モル%の範囲であり、粘度平均重合度Pが200〜3000の範囲であり、下記式(I)を満足するものである、電池用電極;
0.2≦P×S≦3.7 ・・・(I)
P:シリル基変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
S:シリル基を有する単量体(a)単位のモル含有率
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rはアルコキシル基またはアシロキシル基であり、mは0〜2の整数である。)。
【請求項2】
前記活物質が、黒鉛、ケイ素、ケイ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質を含む、請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
活物質層を有する一対の電極が、セパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置されるとともに、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が当該一対の電極およびセパレータの各間を満たす積層構造を有するリチウムイオン二次電池であって、前記一対の電極のうち少なくとも一方は請求項1又は2に記載の電池用電極である、リチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−105549(P2013−105549A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247003(P2011−247003)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】