説明

電池用電極

【課題】 種々の電池に好適に使用でき、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして使用すると、高容量、高出力でありながら、極めて安全性の高い電池とすることが可能な電池用電極を提供する。
【解決手段】 電極と芳香族ポリアミドからなる多孔質層とを有してなる電池用電極であって、多孔質層が電極の少なくとも片面に形成されており、多孔質層は電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できないように構成されている電池用電極であり、有機極性溶媒に溶解した芳香族ポリアミドの溶液を表面に塗布した電極を、温度10〜50℃、湿度75〜95%RHの雰囲気下で吸湿させた後、水浴中で溶媒を除去し、次いで乾燥させることにより好適に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量かつ高出力の電池用電極、特にリチウムイオン二次電池に好適に使用できる電池用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化はめざましく、それに伴い、電源となる電池に対しても小型軽量化の要望が非常に大きい。特に、小型軽量でかつ高容量での充放電が可能な電池としてリチウムイオン電池等の非水電解液二次電池が実用化されるようになり、小型ビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の携帯用電子・通信機器等に用いられるようになった。
【0003】
リチウムイオン電池には、対向配置される正極および負極間に、電解液とともに、正・負極間が短絡することを防ぐ目的で、両極間にイオンの流通が可能な多孔質高分子フィルムがセパレータとして設けられている。このセパレータは、現在、主に電極と別に成形された後に、電極と重ね合わせて電池に加工されている。そして、セパレータは、高出力および安全性の面からは高耐熱化が、高容量化の面からは薄膜化が求められている。
【0004】
現在、セパレータとして一般に使用されているポリエチレンフィルムあるいはポリプロピレンフィルムは、耐熱性に劣るだけでなく、必要とされる強度を保って薄膜化することに限界がある。すなわち、フィルムを単に薄膜化すると、局部的に強度が不十分な箇所や、高温時にセパレータとしての形態保持性が不十分になる箇所が生じることがあり、電池中で引火等の不都合が生じるおそれがあるとともに、所望のイオン透過性を備えたセパレータが形成されなくなるおそれがある。これに対して、芳香族ポリアミドからなる多孔質フィルムは、剛性が高く薄膜化が可能で、かつ、実質的に融点を持たず耐熱性の高いことから、この様な用途に好適であり、芳香族ポリアミドからなる電池用セパレータの例としては、例えば、特許文献1から3に開示されたセパレータが挙げられる。
【0005】
しかし、芳香族ポリアミドからなる多孔質フィルムでも、さらに薄膜化を進めると、加工工程での取り扱いが困難になり、電池への組み立て時に破れたり、電極からずれたりして正・負極間の短絡の原因となることがある。これに対して、電極上に多孔質層を一体成形すると、電極が剛性を保つために薄膜化しても取り扱いやすく、かつ多孔質層が電極からずれることもない。
電極上に直接多孔質層を形成した例としては、例えば、特許文献4から6に開示されたセパレータ等が挙げられる。特許文献4に開示されたセパレータは、多孔質層がシリカ、アルミナ等の固体微粒子材とポリ塩化ビニル等のポリマーからなるもので、真空乾燥によって多孔層を形成しており、多孔質層の耐熱性は高くなく、厚みも55μmと非常に厚くなっている。特許文献5に開示されたリチウムイオン二次電池は、多孔質層がフィラーとポリアクリロニトリル等のポリマーからなるもので、熱風乾燥によって多孔層を形成しており、多孔質層の耐熱性は高くない。また、特許文献4および5に開示されたセパレータないしリチウムイオン二次電池は、微粒子(フィラー)が主成分であり、孔径等の多孔質構造を厳密に制御することは困難である。
一方、特許文献6に開示された有機電解二次電池は、多孔質層がポリイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル等のポリマーからなるもので、水中に浸漬することによって多孔質層を形成している。しかし、これらのポリマーは有機溶媒に対する溶解性が高く、貧溶媒に浸積することで容易に多孔化できるもので、特許文献6に開示された製造方法を、溶解性の制御が難しい芳香族ポリアミドにそのまま用いることはできない。
【特許文献1】特開平11−250890号公報
【特許文献2】特開2002−42767号公報
【特許文献3】特開2001−43842号公報
【特許文献4】特開平10−106530号公報
【特許文献5】特開2005−135674号公報
【特許文献6】特許第3611152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事案に鑑み、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして使用された際に、高容量、高出力でありながら、極めて安全性の高い電池とすることが可能な電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、電極と芳香族ポリアミドからなる多孔質層とを有してなる電池用電極であって、多孔質層が電極の少なくとも片面に形成されており、多孔質層は電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できないように構成されている電池用電極であることを特徴とする。また、本発明は、電極と芳香族ポリアミドからなる多孔質層とを有してなる電池用電極であって、多孔質層が電極の少なくとも片面に一体成形されている電池用電極であることを特徴とする。
【0008】
ここにおいて「電池用電極」とは、「電極」に前記多孔質層が設けられたものを意味している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極の少なくとも片面に芳香族ポリアミドの多孔質層を一体成形することにより、正・負極間の短絡を防止する層の厚みを低減でき、電池1個当たりの容量を上げることが可能である。また、芳香族ポリアミドの持つ耐熱性により、高容量、高出力でありながらも、極めて高い安全性を発現することができる。さらに、本発明によれば、二次電池に独立したセパレータが用いられる場合に発生する加工工程での破れやずれによる短絡を防止することができ、生産性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本発明における芳香族ポリアミドとは、例えば、次の式(1)および/または式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
ここで、Ar、Ar、Arの基としては、例えば、
【0015】
【化3】

【0016】
等が挙げられ、X、Yの基は、−O−、−CH−、−CO−、−CO−、−S−、−SO−、−C(CH−等から選ばれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
さらに、これら芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素等のハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチルやエチル、プロピル等のアルキル基(特にメチル基)、メトキシやエトキシ、プロポキシ等のアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、吸湿率を低下させ、湿度変化による寸法変化が小さくなるため好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。
【0018】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の80モル%以上、より好ましくは90モル%以上を占めていることが好ましい。ここでいうパラ配向性とは、芳香環上主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が80モル%未満の場合、耐熱性が不十分となる場合がある。
【0019】
さらに、芳香族ポリアミドが式(3)で表される繰り返し単位を60モル%以上含有する場合、耐熱性および湿度変化が特に優れることから好ましい。
式(3):
【0020】
【化4】

【0021】
本発明の電池用電極は、電極と芳香族ポリアミドからなる多孔質層とを有してなる電池用電極であって、多孔質層が電極の少なくとも片面に形成されており、多孔質層は電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できないように構成されている電池用電極である。また、本発明は、芳香族ポリアミドからなる多孔質層が電極上に一体成形(芳香族ポリアミドからなる多孔質層が電極上に直接形成)されたものである。すなわち、本発明の電池用電極は、電極と多孔質層を別々に成形した後に、熱融着や接着剤を用いて一体化したものを含まない。これらは、多孔質層の薄膜化が進むと、電極と多孔質層を一体化する工程で多孔質層が破れたり、多孔質構造が変化したりすることがある。また、電極と多孔質層を一体化せずに重ね合わせただけのものは、電池への加工工程で破れたり、多孔質層が電極からずれたりして短絡の原因となることがある。
【0022】
ここで、芳香族ポリアミドからなる多孔質層が電極上に一体成形されているか否かの判断は、電極と多孔質層の界面を走査電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、溶着部分や接着部分が存在するか否かによって行うことができる。また、多孔膜層を電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できなければ、一体成形されていると認められる場合が多い。なお、本発明において、実質的に剥離できないとは、多孔質層が変形や破壊を伴うことなく、1cm角以上の大きさではがすことのできないことを意味する。
【0023】
また、本発明の電池用電極は、前記芳香族ポリアミドからなる多孔質層が電極の両面に一体成形されていることが好ましい。つまり、多孔膜層が電極の両面に形成されており、該両面の多孔質層が電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できないように構成されていることが、電池に加工した際に電池用電極を高密度に充填できるため、電池の容量を大きくすることができるという点で好ましい。
【0024】
本発明の電池用電極は、芳香族ポリアミドからなる多孔質層の厚みが0.5〜12μmであることが好ましい。厚みが12μmを超える場合、電池1個当たりの容量が十分でないことや多孔質構造を形成するのに時間がかかることがあり、厚みが0.5μm未満の場合、電極を構成する活物質や導電材が電池用電極の表面に出ている部分ができ、正・負極間の短絡が発生することがある。電池1個当たりの容量を増やすことができることから、多孔質層の厚みは、0.5〜10μmであることがより好ましくは、0.5〜5μmであることがさらに好ましい。多孔質層の厚みは、電子顕微鏡(SEMやTEM)で断面を観察した写真から測定することができる。
【0025】
本発明の電池用電極は、多孔質層表面の孔径が50nm〜2μmであることが好ましい。孔径が2μmを超えると、電極を構成する活物質や導電材が多孔質層を通り抜けて短絡が発生することがあり、孔径が50nm未満の場合、イオン伝導性が十分でなく、電池として十分な出力が得られないことがある。正・負極間の短絡を防止でき、かつ十分な出力が得られることから、多孔質層表面の孔径は100nm〜1.5μmであることがより好ましく、150nm〜1μmであることがさらに好ましい。孔径は、多孔質層表面の電子顕微鏡(SEM)写真から求められる。具体的には、孔の長径と短径を測定し、平均径=(長径+短径)/2として求められる。
【0026】
本発明の電池用電極は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した溶媒を多孔質層の表面へ滴下し、滴下後10秒後の接触角が30°以下であることが好ましい。30°を超える場合、電解液の多孔質層への浸透に時間がかかることから生産性が悪化することや、イオン伝導性が十分でなく、電池として十分な出力が得られないことがある。電解液が多孔質層へ速やかに浸透することから、滴下後10秒後の接触角が25°以下であることがより好ましく、20°以下であることがさらに好ましい。ここで、接触角は、接触角計を用いて、上記溶媒を多孔質層の表面へ滴下し、滴下後10秒後の液滴表面と多孔質層が交わる点を通る液滴に対する接線を引き、その接線と多孔質層の表面とが形成する角度であって、液滴を含む方の角度を求めることにより得られる。
【0027】
次に、本発明の電池用電極の製造方法について、以下説明するが、これに限定されるものではない。
【0028】
まず芳香族ポリアミドであるが、例えば酸クロライドとジアミンから得る場合には、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性有機極性溶媒中、溶液重合で合成する方法や、水系媒体を使用する界面重合等で合成する方法をとることができる。単量体として酸クロライドとジアミンを使用するとポリマー溶液中で塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤が使用するとよい。また、イソシアネートとカルボン酸との反応から芳香族ポリアミドを得る場合には、前記非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で合成することができる。
【0029】
本発明の多孔質層を得るためにはポリマーの固有粘度ηinh(ポリマー0.5gを98重量%硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5(dl/g)以上であると、多孔質構造が速やかに形成できることから好ましい。
【0030】
本発明に用いられる製膜原液としては、中和後のポリマー(芳香族ポリアミド)溶液に、ポリマーの溶解性を調整する目的で、水溶性アルコール類等の当該ポリマーの貧溶媒を混合して用いることが好ましい。なお、ここで言うポリマーの貧溶媒とは、25℃で溶媒100ml中にポリマーが1g以上溶解しない溶媒を意味する。
【0031】
また、本発明に用いられる製膜原液として、ポリマーを単離後、前記非プロトン性有機極性溶媒に再溶解し、前記貧溶媒を混合して用いてもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜30重量%程度が好ましい。ポリマー濃度が2重量%未満の場合、多孔質構造を形成するのに時間がかかり生産性が低下することがあり、30重量%を超える場合、溶液の粘度が高すぎて、電極上に薄膜に塗布することが難しくなることがある。より薄く、安定した多孔質層を効率良く形成できることから、ポリマー濃度はより好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは8〜20重量%である。また、速やかにポリマーを析出させるために、混合される貧溶媒の添加量は、2〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%である。
【0032】
上記のようにして調製された製膜原液は、電極上に塗布された後に多孔質層に転換される。塗布する方法は、電極上にダイコーターや口金から芳香族ポリアミドの溶液を吐出させて、芳香族ポリアミドの層を形成する方法、または、電極を芳香族ポリアミドの溶液を充たした浴槽に浸積して、取り出した後、スリットを通して余分な溶液を除去して芳香族ポリアミドの層を形成する方法等が挙げられる。ダイコーターや口金を用いる方法は、吐出量と電極の走行速度で層の厚みを制御できることから、厚みをより厳密に制御し易く好ましい。また、浴槽を用いる方法は、電極の両面に塗布する場合に、より少ない工程で完了できることから好ましく用いられる。
【0033】
多孔質化する方法としては、湿式浴への導入、高湿度雰囲気下で吸湿、冷却等により、芳香族ポリアミドの溶解性を低下させて、相分離または析出させることが好ましい。特に、溶解性の制御が難しい芳香族ポリアミドでは、均一な多孔質構造を短時間で形成できることから、高湿度雰囲気下で吸湿させる方法が特に好ましい。
【0034】
湿式浴を用いて芳香族ポリアミドを多孔質化する方法の場合は、芳香族ポリアミドの良溶媒である有機極性溶媒を20重量%以上添加した浴、または塩化カルシウム、塩化リチウム、臭化リチウム等の無機塩を10重量%以上添加した浴を用いることが好ましい。水のみの浴では、急激に脱溶媒が進み、表面に緻密な層ができて多孔質構造が形成されないことがある。浴の通過時間は、3〜60分にすることが好ましい。時間が長くなるほど孔径が大きくなるが、60分程度で一定の値となる。3分未満の場合、孔径や接触角が本発明の範囲外になることがあり、60分を超えると製膜速度が遅く、生産性が悪化することがある。
【0035】
高湿度雰囲気下で吸湿させて芳香族ポリアミドを多孔質化する方法では、雰囲気の温度を10〜50℃、相対湿度を75〜95%RHとすることが好ましい。温度が10℃未満では、絶対湿度が低いため吸湿が十分でなく、ポリマーの溶解性が低下しないことから、多孔質構造が形成されないことがあり、50℃を超えると表層のポリマーの溶解性が急激に低下して、表面に緻密な層ができ、多孔質構造が形成されないことがある。また、相対湿度が75%未満では、吸湿が十分でなくポリマーの溶解性が低下しないことから、孔構造が形成されないことがあり、95%RHを超えると表層のポリマーの溶解性が急激に低下して、表面に緻密な層ができ、多孔質構造が形成されないことがある。本発明の多孔質構造がより速やかに形成されることから、温度は15〜40℃、相対湿度は75〜95%RHであることがより好ましく、温度は15〜40℃、相対湿度は75〜90%RHであることがさらに好ましい。また、調温・調湿された空気は風速0.5〜3m/分で塗布層の表面に吹き付けることが好ましい。風速が0.5m/分未満の場合、多孔質構造の形成が遅いために、孔径等にムラができることがあり、風速が3m/分を超えると塗布層の表層のポリマーの溶解性が急激に低下して、表面のみが固形化し、多孔質構造を形成しないことがある。調温・調湿された空気に接する時間は、3〜20分にすることが好ましい。接する時間が長くなるほど孔径が大きくなるが、20分程度で一定の値となる。3分未満の場合、孔径や接触角が本発明の範囲外になることがあり、20分を超えると製膜速度が遅く、生産性が悪化することがある。
【0036】
冷却して芳香族ポリアミドを多孔質化する方法では、電極ごと−30〜0℃の雰囲気下で冷却すると良い。−30℃未満の場合、ポリマーの析出が急激に起こり、孔径や接触角が本発明の範囲を充たさないことがあり、0℃を超える場合は、ポリマーの溶解性の低下が十分でなく析出が起こらないため、多孔質構造が形成されないことがある。冷却時間は、1〜20分であることが好ましい。1分未満では孔径が十分大きくなく、イオン透過性が悪化することがあり、20分を超えると製膜速度が遅く、生産性が悪化することがある。
【0037】
ポリマー析出を終えた多孔質層を積層した電極は、上記いずれの方法を用いた場合も、そのまま水浴に導入され、残存溶媒および芳香族ポリアミド以外の添加物の除去が行われる。水浴は、残存溶媒等を効率的に除去できることから、30〜60℃であることが好ましい。導入時間は、3〜20分にすることが好ましい。3分未満の場合、添加物などの除去が不十分で多孔質層が脆くなることがあり、20分を超えると製膜速度が遅く、生産性が悪化することがある。
【0038】
次に、水浴から引き出された電極は、水の乾燥および熱処理が行われる。この時の温度は、80〜100℃で水を蒸発させた後、より高温にて行われることが好ましい。初期から高温で加熱すると、急激に水分が蒸発し、多孔質層が脆くなることがある。高温での熱処理は、芳香族ポリアミドは、350〜400℃において熱分解が起こるため、150〜350℃とすることが芳香族ポリアミドの特性を最大限に発現させる上で好ましいが、250℃以上では電極を構成する結着剤などが劣化して電池特性が低下することがあることから、150〜250℃とすることがより好ましい。
【0039】
本発明の電池用電極を用いて電池を作成する場合は、正極と負極が直接触れあわないように配置する必要があることから、正・負極のいずれか一方の両面に多孔質層を形成するか、正・負極それぞれの片面に多孔質層を形成する必要がある。また、多孔質層を両面に形成する場合は、片面に芳香族ポリアミド溶液を塗布し多孔質層を形成して乾燥後、反対の面に同様にして形成しても構わないし、電極を芳香族ポリアミドの液槽に浸積して両面に塗布し、スリットを通して余分な溶液を除去した後に吸湿等により多孔質化しても構わない。
【0040】
この様に作成した電池用電極を、正極と負極が直接触れあわないように重ねた後、筒状に巻きとり、電解液と共にケースに収納して密閉され電池となる。
【0041】
本発明の電池用電極は、高容量、高出力といった特性と高い安全性を両立させる必要がある二次電池、特にリチウムイオン二次電池の電極として好適に使用することができる。
【0042】
本発明の多孔質層を形成する電極は、活物質、導電剤、結着剤、集電体等からなる。特に、本発明の電池用電極がリチウムイオン二次電池に用いられる場合、負極の活物質としては、リチウム金属、リチウムとアルミニウム等との合金、あるいはリチウムイオンを吸収、放出できるようにしたアセチレンブラック、グラファイト等の炭素が用いられる。また、正極の活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、またはこれらの複合化合物が用いられる。これらの活物質は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフッ化エチレン等を結着剤として集電体上に結着される。正極の集電体としてはアルミニウム箔が、負極の集電体としては銅箔が好ましく用いられる。電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の非プロトン性極性溶媒にLiPF6、LiBF等の電解質を溶かした非水溶液が好ましく用いられる。
【実施例】
【0043】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0044】
(1)厚み
日立株式会社製超高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(SEM)S−900Hを用いて、以下の条件で電極の断面を多孔質層の全厚が見えるように観察した。5cm間隔で計5カ所観察し、各SEM像において幅方向に5等分してそれぞれの中央部分の厚みを測定し、全ての測定値の平均値を求め、厚みとした。
【0045】
加速電圧:5kV
観察倍率:2,500倍
(2)多孔質膜の剥離性
多孔膜層を電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できないか以下の方法で確認した。具体的には、電池用電極を1cm角のサンプルに切り出し、測定面と逆の面を東亞合成(株)製接着剤“アロンアルファ”ゼリー状で、水平な台の上に固定した。次に、針金でバネばかりの先端につないだ1cm角のアクリル板を測定面に上記接着剤で固定した。この状態で、バネばかりを用いて10Nの力で垂直方向へ引っ張った際に、多孔質層が変形や破壊を伴うことなく、電極からはがすことができるかを確認した。はがすことができなかったものを、実質的に剥離できないものとして、剥離性「○」とした。
【0046】
(3)孔径
(1)と同じ装置を用いて、多孔質層の表面を倍率10,000倍で、任意の1点と、当該1点から上下左右に1cm離れた部分(SEM像において1cm離れた部分ではなく、多孔質層において1cm離れた部分を意味する。)の計5カ所観察した。それぞれのSEM像において、孔の長径と短径を測定し、平均径=(長径+短径)/2を求めた。それら全ての測定値の平均値を求め、孔径とした。ただし、孔径が大きくて、SEM像内に5個以上の孔が入らない場合は、倍率を適宜調節した。
【0047】
(4)接触角
協和界面科学株式会社製接触角計CA−D型を用いて以下の方法で測定した。23℃、65%RHの雰囲気下、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した溶媒の液滴を多孔質層の表面へ滴下し、滴下後10秒後の液滴表面と多孔質層が交わる点を通る液滴に対する接線を引き、その接線と多孔質層の表面とが形成する角度であって、液滴を含む方の角度を接触角とした。5回測定して平均値を求めた。
【0048】
(5)電池特性
A.電池の作成
電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した溶媒に、電解質としてLiPF6を1モル/リットル溶解させた有機電解液を調製した。
【0049】
コバルト酸リチウム(LiCoO)に黒鉛とポリフッ化ビニリデンとを加え、N−メチル−2−ピロリドン中に分散させてスラリーにした。このスラリーを、厚さ15μmの正極集電体用アルミニウム箔の両面に均一に塗布した後に乾燥し、圧縮成形して帯状の正極を作製した。正極の厚みは150μmであった。
【0050】
また、コークスと、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを混合して負極合剤とし、これをN−メチル−2−ピロリドン中に分散させてスラリーにした。このスラリーを、負極集電体として、厚さが10μmの帯状銅箔の両面に均一に塗布した後に乾燥し、圧縮成形して帯状の負極前駆体を作製した。負極前駆体の処理液として、LiPFをリン酸トリメチルに溶解させたのち、エチレンカーボネートを加えて混合することにより、処理液を調製した。負極前駆体の両側に処理液を含浸させたセパレータを介してリード体を圧着したLiフォイルで鋏み込み、ホルダーに入れ、負極前駆体を正極、Li極を負極として、放電および充電を行った。その後、ホルダーを分解し、負極前駆体をジメチルカーボネートで洗浄し、乾燥して、負極を作製した。負極の厚みは160μmであった。
【0051】
次に、各実施例、比較例に記した方法で多孔質層を形成した後に、正極および負極を重ね、渦巻状に巻回して渦巻状電極体としたものを、有底円筒状の電池ケース内に充填した。正極および負極のリード体の溶接を行った後、上記電解液を電池ケース内に注入し、電池ケースの開口部を封口し、電池の予備充電を行い、筒形の有機電解液二次電池を作製した。各実施例・比較例につき、電池を20個ずつ作成した。
【0052】
B.電池特性
作成した各二次電池について、25℃の雰囲気下、充電を1,600mAで4.2Vまで3.5時間、放電を1,600mAで2.7Vまで1.0時間とする充放電操作を繰り返し、1サイクル目から100サイクル目の放電容量を調べた。
【0053】
a.出力特性
1サイクル目の放電時の充電深度50%での出力密度(W/kg)を測定し、平均値を求めた。
【0054】
b.サイクル特性
1サイクル目の放電容量を基準とし、100サイクル目の放電容量を以下の基準で評価した。○または△が実用範囲である。
【0055】
○:95%以上
△:90%以上95%未満
×:90%未満。
【0056】
c.不良率の測定
上記100サイクルまでの充放電操作の途中で、電池の温度が150℃に到達した個数を調べ、以下の基準で評価した。○または△が実用範囲である。
【0057】
○:1個以下
△:2〜3個
×:4個以上。
【0058】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0059】
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドンに、ジアミン全量に対して80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、ジアミン全量に対して20モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これにジアミン全量に対して98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌により重合し、芳香族ポリアミドの溶液を得た。この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて取り出した。
【0060】
このポリマーを10重量%、N−メチル−2−ピロリドンを70重量%、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を20重量%となるように量り取り、60℃で、ポリマーをN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、ポリエチレングリコールを加え、均一に完全相溶したポリマー溶液を得た。
【0061】
このポリマー溶液を、ダイコーターで上記正極の片面に厚み約15μmの膜状に塗布し、調湿空気中で10分間処理した。調湿空気は、温度が15℃、相対湿度が95%RHであった。調湿空気は風速1.5m/分で膜表面に吹き付けた。次に、失透した多孔質層を電極とともに、30℃の水浴に3分間導入し、溶媒や添加物の抽出を行った。その後、テンター中で最初に80℃で1分、続いて200℃にて2分間の熱処理を行った。続いて、正極の逆面に同様な方法で多孔質層を形成した。
【0062】
上記の方法で電池を作成し、評価した結果、電池の特性は全て良好であった。
【0063】
主な製造条件および評価結果を表1に示した。
【0064】
(実施例2〜13)
芳香族ポリアミド溶液の塗布厚み、調湿空気中での処理条件および熱処理条件を表1に示した値に変化させた以外は、実施例1と同様な方法で多孔質層を積層した電極を得た。
【0065】
電池の特性は全て実用範囲内であった。
【0066】
(実施例14)
上記の正極を実施例1で作成した芳香族ポリアミド溶液の槽に浸積して両面に塗布し、スリットに通して余分な溶液を除去した後、体積比でNMP/水=1/1の浴に3分間導入した後、水洗工程以降は、実施例1と同様な方法で多孔質層を積層した電極を得た。ただし、一度に両面塗布できることから2回目の塗布は行っていない。
【0067】
電池の特性は全て実用範囲内であった。
【0068】
(実施例15)
実施例1で作成した芳香族ポリアミド溶液をダイコーターで上記正極の片面に厚み約15μmの膜状に塗布し、−15℃の空気を風速1.5m/分で膜表面に15分間吹き付けた。次に、失透した多孔質層を電極とともに水槽に導入し、水洗工程以降は、実施例1と同様な方法で多孔質層を積層した電極を得た。
【0069】
電池の特性は全て実用範囲内であった。
【0070】
(比較例1)
実施例1で作成した芳香族ポリアミド溶液を、口金に供給し、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に厚み約15μmの膜状に流延し、調湿空気中で10分間処理した。調湿空気は、温度が15℃、相対湿度が75%RHである。調湿空気は風速1.5m/分で膜表面に吹き付けた。次に、失透した膜をPETフィルムから剥離し、60℃の水浴にて3分間、溶媒や不純物の抽出を行った。その後、テンター中で最初に80℃で1分、続いて200℃にて2分間の熱処理を行い、独立したセパレータを得た。
【0071】
セパレータを正極と負極の間に配置する以外は、上記の方法で電池を作成し、評価した結果、不良率が大きくなった。
【0072】
(比較例2、3)
芳香族ポリアミド溶液の塗布厚みおよび調湿空気中での処理条件を表1に示した値に変化させた以外は実施例1と同様な方法で多孔質層を積層した電極を得た。
【0073】
いずれも多孔質層が形成されず、電解液が浸透しないため電池評価が行えなかった。
【0074】
(比較例4)
上記の正極を実施例1で作成した芳香族ポリアミド溶液の槽に浸積して両面に塗布し、スリットに通して余分な溶液を除去した後、水浴に3分間導入した後、水洗工程以降は、実施例1と同様な方法で多孔質層を積層した電極を得た。ただし、一度に両面塗布できることから2回目の塗布は行っていない。
【0075】
多孔質層が形成されず、電解液が浸透しないため電池評価が行えなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の電池用電極は、種々の電池に好適に使用できるが、特に、リチウムイオン電池等の有機電解液二次電池に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と芳香族ポリアミドからなる多孔質層とを有してなる電池用電極であって、多孔質層が電極の少なくとも片面に形成されており、多孔質層は電極から剥離強度10N/cmで実質的に剥離できないように構成されている電池用電極。
【請求項2】
前記多孔質層が電極の両面に形成されている、請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
電極と芳香族ポリアミドからなる多孔質層とを有してなる電池用電極であって、多孔質層が電極の少なくとも片面に一体成形されている電池用電極。
【請求項4】
前記多孔質層が電極の両面に一体成形されている請求項3に記載の電池用電極。
【請求項5】
多孔質層の厚みが0.5〜12μmである請求項1から4のいずれかに記載の電池用電極。
【請求項6】
多孔質層表面の孔径が50nm〜2μmである請求項1から5のいずれかに記載の電池用電極。
【請求項7】
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した溶媒を多孔質層の表面へ滴下し、滴下後10秒後の接触角が30°以下である、請求項1から6のいずれかに記載の電池用電極。
(ここで、接触角とは、液滴表面と多孔質層が交わる点を通る液滴に対する接線を引き、その接線と多孔質層の表面とが形成する角度であって、液滴を含む方の角度を意味する。)
【請求項8】
二次電池に用いられる、請求項1から7のいずれかに記載の電池用電極。

【公開番号】特開2012−212692(P2012−212692A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173688(P2012−173688)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2006−319656(P2006−319656)の分割
【原出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】