電波吸収体及び電波暗室
【課題】軽量かつ低コストで、くさび形の構造と比較して偏波面特性差がなく、かつ短い長さで従来と比較して低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる電波吸収体を提供する。
【解決手段】側面形成部22は、中空角錐(図では中空正四角錐の場合を例示)の先端に開口25を設けた形状の各側面を成す。延長部23は、各側面形成部22から同一面で各側面形成部22の一方の稜線24(図2参照)をはみ出すように延長している。
【解決手段】側面形成部22は、中空角錐(図では中空正四角錐の場合を例示)の先端に開口25を設けた形状の各側面を成す。延長部23は、各側面形成部22から同一面で各側面形成部22の一方の稜線24(図2参照)をはみ出すように延長している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域特性の電波吸収体及びそれを用いた電波暗室に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器から放射される電磁波ノイズの測定や、外来電磁波ノイズに対する電子機器の耐性評価を行う試験場として電波暗室が広く実用化されている。また近年、放射ノイズ測定用のアンテナを校正する場(CALTS = Calibration Test Site)として電波暗室を用いる動きがある。
【0003】
このような電波暗室(EMC用電波暗室)の天井、壁には電波吸収体が設置され、床面(金属面)以外からの電波反射が極めて小さい空間を実現している。
【0004】
EMC用電波暗室の性能はサイトアッテネーションを測定することにより評価される。サイトアッテネーションとは測定場において定められた方法で測定した送受信アンテナ間の電波減衰特性であり、30MHz〜1GHz(あるいは18GHz)の周波数範囲で測定される。電波暗室におけるサイトアッテネーション測定値と理想的なサイトアッテネーション(理論値)を比較してその差が小さいほど高性能な電波暗室である。通常、理論値との差が±4dBの範囲内であれば放射ノイズの測定場として適しているとされるが、理論値との差が小さいほど精度の高い放射ノイズ測定が行えるため、最近では±3dB程度を要求される場合が多く、なかには±1dB〜±2dBという高性能要求もある。電波暗室における測定精度が上がると、電子機器メーカーが製品の放射ノイズを測定して規格値以下であることを確認する場合に、規格値に対するマージンを小さくすることが可能となり、その結果ノイズ対策コストを抑えることが出来るというメリットがある。
【0005】
一方、アンテナ校正場として用いる場合にも高精度な測定が必要となるため、理論値との差が±1dB〜±1.5dB程度という高性能が要求される。
【0006】
EMC用電波暗室の天井、壁に設置する電波吸収体に要求される特性は30MHz〜18GHzで概ね20dB以上と言われるが、要求される電波暗室性能(サイトアッテネーションの理論値との差)に依存するだけでなく、電波暗室の寸法、測定距離、周波数等によっても異なる。特に10m法電波暗室(測定距離10m)の場合、30〜100MHzの低周波における吸収特性を100MHz以上の高周波における特性より良くする必要がある。これはサイトアッテネーションの測定条件に起因しており、水平偏波の場合に30〜100MHzの低周波における受信電界強度が、100MHz以上の高周波における受信電界強度より小さいため、天井、壁からの反射波の影響を受けやすく、理論値との差が大きくなり易いからである。
【0007】
これらEMC用電波暗室の天井、壁に使用する電波吸収体としては、図11のように磁性損失材料からなる電波吸収材としてのフェライト焼結体1と、導電材料を含む電波吸収材としての誘電性損失材料2(オーム損失材料という場合もある)とを組み合わせた複合型電波吸収体が現在多く用いられている。
【0008】
フェライト焼結体は磁性損失により電波を吸収するもので、厚さ数mmという薄型でありながら30〜400MHz程度の低周波で優れた特性を有する。一方、誘電性損失材料は発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材(低誘電率誘電体)にカーボンやグラファイト等の導電材料を含有させた材料からなり、導電材料のオーム損失により電波を吸収するもので、周波数が高いほど良好な特性を有する。
【0009】
複合型電波吸収体は、低周波特性に優れるフェライト焼結体と、高周波特性に優れる誘電性損失材料を組合せることにより広帯域な特性を持たせたものであり、従来の誘電性損失材料のみの電波吸収体と比較して電波吸収体の長さを半分以下に短く出来るという特長を有する。
【0010】
前記誘電性損失材料は通常、ピラミッド形やくさび形等の先細形状とされる。先細形状とする理由は自由空間から入射した電波に対し、インピーダンスを徐々に変化させることにより、反射を抑えながら、電波を効率よく取り込んで吸収するためである。
【0011】
前記誘電性損失材料の長さは,通常0.5〜2m程度のものがよく用いられるが、長いものほど高性能となるため、要求される電波暗室性能によっては3m以上のものが用いられる場合もある。そこで、軽量化及び材料削減によるコストダウンのため、下記特許文献1に示されるような誘電性損失材料を中空化した電波吸収体が実用化されている。中空の誘電性損失材料の形状としては、図12(A),(B)の中空ピラミッド形や、図13(A),(B)の中空くさび形がある。
【0012】
さらに、短い長さで良好な低周波特性が得られ、かつ偏波面特性差のない電波吸収体として、中空の錐状体の先端に開口を設けた形状(図14)が本出願人により提案されている(下記特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−340730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載のように中空の錐状体の先端に開口を設けた形状の電波吸収体の問題点として、数GHz以上の高周波においては電波が開口部を通り抜けてフェライト焼結体に到達するため電波吸収特性が低下してしまう点が挙げられる。そこで、特許文献1では図15のように高周波特性改善のために底部吸収材(先細形状部分を含む)を付加することを開示しているが、底部吸収材が分厚いと中空化のメリットが十分に活かせない。
【0014】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、軽量かつ低コストで、くさび形の構造と比較して偏波面特性差がなく、かつ短い長さで従来と比較して低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる電波吸収体及びそれを用いた電波暗室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある態様は、電波吸収体である。この電波吸収体は、
磁性損失材料からなる第1電波吸収材と、
前記第1電波吸収材の前面に配置された、導電材料を含む第2電波吸収材とを備え、
前記第2電波吸収材は、中空角錐又は中空角錐先端に開口を設けた形状の各側面を成す側面形成部と、各側面形成部から同一面で各側面形成部の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部とを有し、1本の稜線に対して前記延長部が1つだけ存在する。
【0016】
ある態様の電波吸収体において、前記延長部は、前記中空角錐又は前記中空角錐先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなる形状であるとよい。
【0017】
この場合、前記延長部は前記底部において幅が0であるとよい。
【0018】
ある態様の電波吸収体において、同一面にある前記側面形成部と前記延長部とが一体であり1枚の電波吸収板を成しているとよい。
【0019】
ある態様の電波吸収体において、前記第2電波吸収材は、導電材料を内部に含む構成である、又は導電材料を含有する導電層を表面に備える構成であるとよい。
【0020】
ある態様の電波吸収体において、前記第1電波吸収材と前記第2電波吸収材との間に底部支持材が配置されていてもよい。
【0021】
ある態様の電波吸収体において、前記底部支持材は導電材料を含むものであるとよい。
【0022】
ある態様の電波吸収体において、前記第1電波吸収材はフェライト焼結体であるとよい。
【0023】
本発明の別の態様は、電波暗室である。この電波暗室は、室内側側壁面と天井面のうち少なくとも一つの面に、上記の電波吸収体が、前記第1電波吸収材の前面が室内側となるように複数配置されている。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組合せもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第2電波吸収材に中空構造を採用しているため、第2電波吸収材が中空でない構造の場合と比較して軽量かつ低コストである。また、側面形成部が中空角錐又は中空角錐先端に開口を設けた形状の側面を成しているため、従来のようなくさび形の場合と比較して偏波面特性差がない。さらに、各側面形成部から同一面で各側面形成部の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部が1本の稜線に対して1つだけ存在するので、延長部が存在しない特許文献1の電波吸収体と比較して、同じ先端幅であれば開口寸法を小さく又はゼロ(先端の開口なし)にすることができる。このため、低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電波吸収体100の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。図2は、図1に示される電波吸収体100の延長部23の形状説明図である。本図において、延長部23は斜線で強調して示される。
【0028】
電波吸収体100は、磁性損失材料からなる第1電波吸収材10と、第1電波吸収材10の前面(電波到来側)に配置(例えば接着剤等で固着)された、導電材料を含む第2電波吸収材20とを備える。第1電波吸収材10は、磁性損失材料としての板状フェライト焼結体11を隙間なく敷き詰めて平板状の壁体を構成してなる平板状電波吸収材である。第2電波吸収材20は、側面形成部22と、延長部23とを有する。側面形成部22は、中空角錐(図では中空正四角錐の場合を例示)の先端に開口25を設けた形状の各側面を成す。延長部23は、各側面形成部22から同一面で各側面形成部22の一方の稜線24(図2参照)をはみ出すように延長している。図2から明らかなように、延長部23は、中空角錐の先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなる形状であり、好ましくは底部において幅が0である。また、延長部23は好ましくは前面から見たときに中空角錐の先端に開口を設けた形状の底面の輪郭をはみ出さない形状である。同一面にある側面形成部22及び延長部23は好ましくは一体であり、1枚の板状誘電損失材料21(電波吸収板)を成す。この場合、同一形状の板状誘電損失材料21を所定枚数(図示の場合は4枚)組み合わせて接着等で一体化することにより第2電波吸収材20を構成可能である。板状誘電損失材料21は、発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材にカーボンやグラファイト等の導電材料を含有させたものである。なお、電波的に透明な表面材を第2電波吸収材20の先端に取り付けることもでき、表面材を白色等の明るい色にすることにより電波暗室内をより明るくすることもできる。
【0029】
図3は、図1に示される本実施の形態の電波吸収体100と上述の特許文献1に記載の電波吸収体(従来例)との例示的な形状対比図(その1)である。本図において、双方の電波吸収体の先端幅は400mm、底端幅は600mm、長さは925mm、板厚は40mmである。この場合、特許文献1に記載の電波吸収体の先端開口寸法は320mmであるのに対し、本実施の形態の電波吸収体100の先端開口寸法は延長部23の幅の分だけ小さく220mmである。
【0030】
図4は、図3に示される場合における電波吸収特性の対比図である。本図から明らかなように、本実施の形態の電波吸収体100と特許文献1に記載の電波吸収体はいずれも、先端幅が等しいため低周波特性は同等に良好である。一方、本実施の形態の電波吸収体100は特許文献1に記載の電波吸収体よりも開口寸法が小さいため、高周波特性(2GHz〜)が著しく改善されている。
【0031】
図5は、図1に示される本実施の形態の電波吸収体100と上述の特許文献1に記載の電波吸収体(従来例)との例示的な形状対比図(その2)である。本図において、双方の電波吸収体の先端幅は300mm、底端幅は600mm、長さは925mm、板厚は40mmである(つまり先端幅以外は図3と等しい)。この場合、特許文献1に記載の電波吸収体の先端開口寸法は220mmであるのに対し、本実施の形態の電波吸収体100の先端開口寸法は延長部23の幅が開口寸法に寄与しない分だけ小さく120mmである。
【0032】
図6は、図5に示される場合における電波吸収特性の対比図である。本図から明らかなように、本実施の形態の電波吸収体100と特許文献1に記載の電波吸収体はいずれも、先端幅が等しいため低周波特性は同等に良好である。一方、本実施の形態の電波吸収体100は特許文献1に記載の電波吸収体よりも開口寸法が小さいため、高周波特性(6GHz〜、特に10GHz付近)が著しく改善されている。
【0033】
本実施の形態の電波吸収体100によれば、下記の効果を奏することができる。
【0034】
(1) 第2電波吸収材20に中空構造を採用しているため、第2電波吸収材20が中空でない構造の場合と比較して軽量かつ低コストである。
【0035】
(2) 側面形成部22が中空角錐先端に開口を設けた形状の各側面を成しているため、従来のようなくさび形の場合と比較して偏波面特性差がない。また、各延長部23は電波吸収体100を90°回転させても前面形状が同じになる配置であり、偏波面特性差は生じない。
【0036】
(3) 各側面形成部22から同一面で各側面形成部22の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部23が1本の稜線24(図2参照)に対して1つだけ存在するので、特許文献1の電波吸収体のように延長部23が存在しない場合と比較して、同じ先端幅であれば開口寸法を小さくすることができる(図3及び5参照)。このため、低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる。
【0037】
(4) 同一面にある側面形成部22及び延長部23が一体であり1枚の板状誘電損失材料21(電波吸収板)を成すものとすれば、板状誘電損失材料21を所定枚数(4枚)組み合わせて接着等で一体化することにより第2電波吸収材20を構成可能であり、製造容易である。また、板状誘電損失材料21は同一形状でよいため、量産性に優れている。
【0038】
(5) 延長部23を中空角錐の先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなって底部において0となる形状で、かつ前面から見たときに中空角錐の先端に開口を設けた形状の底面の輪郭をはみ出さない形状とすれば、複数の電波吸収体100を並べる際に隣同士が邪魔になることもない。
【0039】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る電波吸収体200の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。なお、本図において、延長部23は斜線で強調して示される。本実施の形態の電波吸収体200は、図1に示される第1の実施の形態の電波吸収体100と比較して、側面形成部22が中空角錐(図では中空正四角錐の場合を例示)の各側面を成している点、すなわち第2電波吸収材20の先端に開口がない点で相違し、その他の点では一致している。
【0040】
本実施の形態の電波吸収体200によれば、先端に開口がないため第1の実施の形態よりもさらに高周波特性を改善することが可能となる。但し、前面から見たときに延長部23が中空角錐の先端に開口を設けた形状の底面の輪郭をはみ出さない形状とする場合、板状誘電損失材料21の先端幅の最大値が底端幅の半分と板厚との和に制限されるため、それ以上の先端幅を確保する必要がある場合には第1の実施の形態の構成を採用するとよい。
【0041】
(第3の実施の形態)
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る電波吸収体300の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。図9は、図8の板状誘電損失材料21の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。本実施の形態の電波吸収体300は、図1に示される第1の実施の形態の電波吸収体100と比較して、板状誘電損失材料21の先端がギザギザ形状26となっている点と、板状誘電損失材料21がそれぞれ側縁に形成された凸部28及び内面に形成された凹部29(図9参照)を有して互いに嵌合している点と、第1電波吸収材10と第2電波吸収材20との間に底部支持材30が配置されている(介在している)点とが相違し、その他の点では一致している。
【0042】
ギザギザ形状26は小さな先細形状(略錐状又は山型形状)の連なり等で形成される。このギザギザ形状26により、電波暗室等の使用周波数範囲における高周波領域での反射が抑制される。
【0043】
底部支持材30は、好ましくは第2電波吸収材20と同様に発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材にカーボンやグラファイト等の導電材料を含有させた誘電性損失材料であり、第2電波吸収材20の中空部分に位置するように先細形状部分31を有している。先細形状部分31は例えば小さな四角錐の集合である。板状誘電損失材料21基部(底辺)の凸部27が底部支持材30上面の穴部32(凹部)に嵌合して板状誘電損失材料21が底部支持材30に支持される。
【0044】
この場合、また、電波吸収体300を取り付けるべき電波暗室の導体板壁面に、板状フェライト焼結体11からなる第1電波吸収材10及びこれを覆う底部支持材30を先に装着しておき、後から第2電波吸収材20基部の凸部27を底部支持材30側の穴部32に差し込んで組み立てることが可能になり、第2電波吸収材20の壁面への取付が容易となる利点がある。また、底部支持材30が多数の板状フェライト焼結体11からなる平板状電波吸収材10の前面を覆うため、底部支持材30が上述のとおり誘電性損失材料であるものとすれば、高周波における板状フェライト焼結体11表面からの反射を抑制することができる。また、先細形状部分31を底部支持材30に設けたことで、高周波での反射抑制効果をさらに高めることができる。但し、上述のとおり特許文献1の電波吸収体と比較して高周波特性が改善されているため、底部支持材30を設ける場合でも特許文献1に記載の底部吸収材と比較して厚さは薄くて足りる。
【0045】
(第4の実施の形態)
本実施の形態では、第1の実施の形態に係る電波吸収体100を用いた電波暗室について説明する。
【0046】
図10は、本発明の第4の実施の形態に係る電波暗室400の、(A)は正面図、(B)は側断面図である。本図において、電波暗室の内壁面を構成するシールドパネル450(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)の室内側の面に電波吸収体100が相互に隣接して多数配置固定されている。この場合、第1電波吸収材10の前側(第2電波吸収材20の配置されている側)が室内側となる。通常、電波暗室の側壁面及び天井面を図10のように構成する。
【0047】
本実施の形態の電波暗室によれば、第1の実施の形態に示した電波吸収体100を用いているため、低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる。なお、シールドパネル450の室内側に配置する電波吸収体として、第2又は第3の実施の形態に示した構造のものを使用することも可能である。
【0048】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0049】
実施の形態において、側面形成部22及び延長部23は好ましくは一体であり、1枚の板状誘電損失材料21(電波吸収板)を成す旨を説明したが、側面形成部22と延長部23とが別体であっても同等の電波吸収特性を得ることができる。この場合、まず側面形成部を組み合わせて中空角錐又は中空角錐の先端に開口を設けた形状にしておき、後から延長部を接着等で側面形成部の側縁に固着してもよい。
【0050】
実施の形態において、第2電波吸収材20は、導電材料を発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材内部に含む構成のみならず、導電材料を含有する導電層を基材表面に備える構成であってもよい。
【0051】
実施の形態において、第2電波吸収材20の形状として中空正四角錐又は中空正四角錐の先端に開口を設けた形状を例示したが、変形例では四角錐以外の多角錐(例えば正三角錐や正六角錐等)又はその先端に開口を設けた形状とすることも考えられる。この場合、3枚以上の板状誘電損失材料21を組み合わせて第2電波吸収材20を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図2】図1に示される電波吸収体の延長部の形状説明図である(延長部が斜線で強調されている)。
【図3】図1に示される本実施の形態の電波吸収体と上述の特許文献1に記載の電波吸収体との例示的な形状対比図(その1)である。
【図4】図3に示される場合における電波吸収特性の対比図(周波数特性図)である。
【図5】図1に示される本実施の形態の電波吸収体と上述の特許文献1に記載の電波吸収体との例示的な形状対比図(その2)である。
【図6】図5に示される場合における電波吸収特性の対比図(周波数特性図)である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図9】図8の板状誘電損失材料の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る電波暗室の、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図11】従来の電波吸収体(非中空)の形状説明図である。
【図12】従来の電波吸収体(中空ピラミッド形)の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図13】従来の電波吸収体(中空くさび形)の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図14】特許文献1の電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図15】特許文献1の電波吸収体(底部吸収材あり)の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 第1電波吸収材
11 板状フェライト焼結体
20 第2電波吸収材
21 板状誘電損失材料
22 側面形成部
23 延長部
24 稜線
25 開口
26 ギザギザ形状
30 底部支持材
31 先細形状部分
100、200、300 電波吸収体
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域特性の電波吸収体及びそれを用いた電波暗室に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器から放射される電磁波ノイズの測定や、外来電磁波ノイズに対する電子機器の耐性評価を行う試験場として電波暗室が広く実用化されている。また近年、放射ノイズ測定用のアンテナを校正する場(CALTS = Calibration Test Site)として電波暗室を用いる動きがある。
【0003】
このような電波暗室(EMC用電波暗室)の天井、壁には電波吸収体が設置され、床面(金属面)以外からの電波反射が極めて小さい空間を実現している。
【0004】
EMC用電波暗室の性能はサイトアッテネーションを測定することにより評価される。サイトアッテネーションとは測定場において定められた方法で測定した送受信アンテナ間の電波減衰特性であり、30MHz〜1GHz(あるいは18GHz)の周波数範囲で測定される。電波暗室におけるサイトアッテネーション測定値と理想的なサイトアッテネーション(理論値)を比較してその差が小さいほど高性能な電波暗室である。通常、理論値との差が±4dBの範囲内であれば放射ノイズの測定場として適しているとされるが、理論値との差が小さいほど精度の高い放射ノイズ測定が行えるため、最近では±3dB程度を要求される場合が多く、なかには±1dB〜±2dBという高性能要求もある。電波暗室における測定精度が上がると、電子機器メーカーが製品の放射ノイズを測定して規格値以下であることを確認する場合に、規格値に対するマージンを小さくすることが可能となり、その結果ノイズ対策コストを抑えることが出来るというメリットがある。
【0005】
一方、アンテナ校正場として用いる場合にも高精度な測定が必要となるため、理論値との差が±1dB〜±1.5dB程度という高性能が要求される。
【0006】
EMC用電波暗室の天井、壁に設置する電波吸収体に要求される特性は30MHz〜18GHzで概ね20dB以上と言われるが、要求される電波暗室性能(サイトアッテネーションの理論値との差)に依存するだけでなく、電波暗室の寸法、測定距離、周波数等によっても異なる。特に10m法電波暗室(測定距離10m)の場合、30〜100MHzの低周波における吸収特性を100MHz以上の高周波における特性より良くする必要がある。これはサイトアッテネーションの測定条件に起因しており、水平偏波の場合に30〜100MHzの低周波における受信電界強度が、100MHz以上の高周波における受信電界強度より小さいため、天井、壁からの反射波の影響を受けやすく、理論値との差が大きくなり易いからである。
【0007】
これらEMC用電波暗室の天井、壁に使用する電波吸収体としては、図11のように磁性損失材料からなる電波吸収材としてのフェライト焼結体1と、導電材料を含む電波吸収材としての誘電性損失材料2(オーム損失材料という場合もある)とを組み合わせた複合型電波吸収体が現在多く用いられている。
【0008】
フェライト焼結体は磁性損失により電波を吸収するもので、厚さ数mmという薄型でありながら30〜400MHz程度の低周波で優れた特性を有する。一方、誘電性損失材料は発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材(低誘電率誘電体)にカーボンやグラファイト等の導電材料を含有させた材料からなり、導電材料のオーム損失により電波を吸収するもので、周波数が高いほど良好な特性を有する。
【0009】
複合型電波吸収体は、低周波特性に優れるフェライト焼結体と、高周波特性に優れる誘電性損失材料を組合せることにより広帯域な特性を持たせたものであり、従来の誘電性損失材料のみの電波吸収体と比較して電波吸収体の長さを半分以下に短く出来るという特長を有する。
【0010】
前記誘電性損失材料は通常、ピラミッド形やくさび形等の先細形状とされる。先細形状とする理由は自由空間から入射した電波に対し、インピーダンスを徐々に変化させることにより、反射を抑えながら、電波を効率よく取り込んで吸収するためである。
【0011】
前記誘電性損失材料の長さは,通常0.5〜2m程度のものがよく用いられるが、長いものほど高性能となるため、要求される電波暗室性能によっては3m以上のものが用いられる場合もある。そこで、軽量化及び材料削減によるコストダウンのため、下記特許文献1に示されるような誘電性損失材料を中空化した電波吸収体が実用化されている。中空の誘電性損失材料の形状としては、図12(A),(B)の中空ピラミッド形や、図13(A),(B)の中空くさび形がある。
【0012】
さらに、短い長さで良好な低周波特性が得られ、かつ偏波面特性差のない電波吸収体として、中空の錐状体の先端に開口を設けた形状(図14)が本出願人により提案されている(下記特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−340730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載のように中空の錐状体の先端に開口を設けた形状の電波吸収体の問題点として、数GHz以上の高周波においては電波が開口部を通り抜けてフェライト焼結体に到達するため電波吸収特性が低下してしまう点が挙げられる。そこで、特許文献1では図15のように高周波特性改善のために底部吸収材(先細形状部分を含む)を付加することを開示しているが、底部吸収材が分厚いと中空化のメリットが十分に活かせない。
【0014】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、軽量かつ低コストで、くさび形の構造と比較して偏波面特性差がなく、かつ短い長さで従来と比較して低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる電波吸収体及びそれを用いた電波暗室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある態様は、電波吸収体である。この電波吸収体は、
磁性損失材料からなる第1電波吸収材と、
前記第1電波吸収材の前面に配置された、導電材料を含む第2電波吸収材とを備え、
前記第2電波吸収材は、中空角錐又は中空角錐先端に開口を設けた形状の各側面を成す側面形成部と、各側面形成部から同一面で各側面形成部の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部とを有し、1本の稜線に対して前記延長部が1つだけ存在する。
【0016】
ある態様の電波吸収体において、前記延長部は、前記中空角錐又は前記中空角錐先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなる形状であるとよい。
【0017】
この場合、前記延長部は前記底部において幅が0であるとよい。
【0018】
ある態様の電波吸収体において、同一面にある前記側面形成部と前記延長部とが一体であり1枚の電波吸収板を成しているとよい。
【0019】
ある態様の電波吸収体において、前記第2電波吸収材は、導電材料を内部に含む構成である、又は導電材料を含有する導電層を表面に備える構成であるとよい。
【0020】
ある態様の電波吸収体において、前記第1電波吸収材と前記第2電波吸収材との間に底部支持材が配置されていてもよい。
【0021】
ある態様の電波吸収体において、前記底部支持材は導電材料を含むものであるとよい。
【0022】
ある態様の電波吸収体において、前記第1電波吸収材はフェライト焼結体であるとよい。
【0023】
本発明の別の態様は、電波暗室である。この電波暗室は、室内側側壁面と天井面のうち少なくとも一つの面に、上記の電波吸収体が、前記第1電波吸収材の前面が室内側となるように複数配置されている。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組合せもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第2電波吸収材に中空構造を採用しているため、第2電波吸収材が中空でない構造の場合と比較して軽量かつ低コストである。また、側面形成部が中空角錐又は中空角錐先端に開口を設けた形状の側面を成しているため、従来のようなくさび形の場合と比較して偏波面特性差がない。さらに、各側面形成部から同一面で各側面形成部の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部が1本の稜線に対して1つだけ存在するので、延長部が存在しない特許文献1の電波吸収体と比較して、同じ先端幅であれば開口寸法を小さく又はゼロ(先端の開口なし)にすることができる。このため、低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電波吸収体100の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。図2は、図1に示される電波吸収体100の延長部23の形状説明図である。本図において、延長部23は斜線で強調して示される。
【0028】
電波吸収体100は、磁性損失材料からなる第1電波吸収材10と、第1電波吸収材10の前面(電波到来側)に配置(例えば接着剤等で固着)された、導電材料を含む第2電波吸収材20とを備える。第1電波吸収材10は、磁性損失材料としての板状フェライト焼結体11を隙間なく敷き詰めて平板状の壁体を構成してなる平板状電波吸収材である。第2電波吸収材20は、側面形成部22と、延長部23とを有する。側面形成部22は、中空角錐(図では中空正四角錐の場合を例示)の先端に開口25を設けた形状の各側面を成す。延長部23は、各側面形成部22から同一面で各側面形成部22の一方の稜線24(図2参照)をはみ出すように延長している。図2から明らかなように、延長部23は、中空角錐の先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなる形状であり、好ましくは底部において幅が0である。また、延長部23は好ましくは前面から見たときに中空角錐の先端に開口を設けた形状の底面の輪郭をはみ出さない形状である。同一面にある側面形成部22及び延長部23は好ましくは一体であり、1枚の板状誘電損失材料21(電波吸収板)を成す。この場合、同一形状の板状誘電損失材料21を所定枚数(図示の場合は4枚)組み合わせて接着等で一体化することにより第2電波吸収材20を構成可能である。板状誘電損失材料21は、発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材にカーボンやグラファイト等の導電材料を含有させたものである。なお、電波的に透明な表面材を第2電波吸収材20の先端に取り付けることもでき、表面材を白色等の明るい色にすることにより電波暗室内をより明るくすることもできる。
【0029】
図3は、図1に示される本実施の形態の電波吸収体100と上述の特許文献1に記載の電波吸収体(従来例)との例示的な形状対比図(その1)である。本図において、双方の電波吸収体の先端幅は400mm、底端幅は600mm、長さは925mm、板厚は40mmである。この場合、特許文献1に記載の電波吸収体の先端開口寸法は320mmであるのに対し、本実施の形態の電波吸収体100の先端開口寸法は延長部23の幅の分だけ小さく220mmである。
【0030】
図4は、図3に示される場合における電波吸収特性の対比図である。本図から明らかなように、本実施の形態の電波吸収体100と特許文献1に記載の電波吸収体はいずれも、先端幅が等しいため低周波特性は同等に良好である。一方、本実施の形態の電波吸収体100は特許文献1に記載の電波吸収体よりも開口寸法が小さいため、高周波特性(2GHz〜)が著しく改善されている。
【0031】
図5は、図1に示される本実施の形態の電波吸収体100と上述の特許文献1に記載の電波吸収体(従来例)との例示的な形状対比図(その2)である。本図において、双方の電波吸収体の先端幅は300mm、底端幅は600mm、長さは925mm、板厚は40mmである(つまり先端幅以外は図3と等しい)。この場合、特許文献1に記載の電波吸収体の先端開口寸法は220mmであるのに対し、本実施の形態の電波吸収体100の先端開口寸法は延長部23の幅が開口寸法に寄与しない分だけ小さく120mmである。
【0032】
図6は、図5に示される場合における電波吸収特性の対比図である。本図から明らかなように、本実施の形態の電波吸収体100と特許文献1に記載の電波吸収体はいずれも、先端幅が等しいため低周波特性は同等に良好である。一方、本実施の形態の電波吸収体100は特許文献1に記載の電波吸収体よりも開口寸法が小さいため、高周波特性(6GHz〜、特に10GHz付近)が著しく改善されている。
【0033】
本実施の形態の電波吸収体100によれば、下記の効果を奏することができる。
【0034】
(1) 第2電波吸収材20に中空構造を採用しているため、第2電波吸収材20が中空でない構造の場合と比較して軽量かつ低コストである。
【0035】
(2) 側面形成部22が中空角錐先端に開口を設けた形状の各側面を成しているため、従来のようなくさび形の場合と比較して偏波面特性差がない。また、各延長部23は電波吸収体100を90°回転させても前面形状が同じになる配置であり、偏波面特性差は生じない。
【0036】
(3) 各側面形成部22から同一面で各側面形成部22の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部23が1本の稜線24(図2参照)に対して1つだけ存在するので、特許文献1の電波吸収体のように延長部23が存在しない場合と比較して、同じ先端幅であれば開口寸法を小さくすることができる(図3及び5参照)。このため、低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる。
【0037】
(4) 同一面にある側面形成部22及び延長部23が一体であり1枚の板状誘電損失材料21(電波吸収板)を成すものとすれば、板状誘電損失材料21を所定枚数(4枚)組み合わせて接着等で一体化することにより第2電波吸収材20を構成可能であり、製造容易である。また、板状誘電損失材料21は同一形状でよいため、量産性に優れている。
【0038】
(5) 延長部23を中空角錐の先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなって底部において0となる形状で、かつ前面から見たときに中空角錐の先端に開口を設けた形状の底面の輪郭をはみ出さない形状とすれば、複数の電波吸収体100を並べる際に隣同士が邪魔になることもない。
【0039】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る電波吸収体200の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。なお、本図において、延長部23は斜線で強調して示される。本実施の形態の電波吸収体200は、図1に示される第1の実施の形態の電波吸収体100と比較して、側面形成部22が中空角錐(図では中空正四角錐の場合を例示)の各側面を成している点、すなわち第2電波吸収材20の先端に開口がない点で相違し、その他の点では一致している。
【0040】
本実施の形態の電波吸収体200によれば、先端に開口がないため第1の実施の形態よりもさらに高周波特性を改善することが可能となる。但し、前面から見たときに延長部23が中空角錐の先端に開口を設けた形状の底面の輪郭をはみ出さない形状とする場合、板状誘電損失材料21の先端幅の最大値が底端幅の半分と板厚との和に制限されるため、それ以上の先端幅を確保する必要がある場合には第1の実施の形態の構成を採用するとよい。
【0041】
(第3の実施の形態)
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る電波吸収体300の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。図9は、図8の板状誘電損失材料21の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。本実施の形態の電波吸収体300は、図1に示される第1の実施の形態の電波吸収体100と比較して、板状誘電損失材料21の先端がギザギザ形状26となっている点と、板状誘電損失材料21がそれぞれ側縁に形成された凸部28及び内面に形成された凹部29(図9参照)を有して互いに嵌合している点と、第1電波吸収材10と第2電波吸収材20との間に底部支持材30が配置されている(介在している)点とが相違し、その他の点では一致している。
【0042】
ギザギザ形状26は小さな先細形状(略錐状又は山型形状)の連なり等で形成される。このギザギザ形状26により、電波暗室等の使用周波数範囲における高周波領域での反射が抑制される。
【0043】
底部支持材30は、好ましくは第2電波吸収材20と同様に発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材にカーボンやグラファイト等の導電材料を含有させた誘電性損失材料であり、第2電波吸収材20の中空部分に位置するように先細形状部分31を有している。先細形状部分31は例えば小さな四角錐の集合である。板状誘電損失材料21基部(底辺)の凸部27が底部支持材30上面の穴部32(凹部)に嵌合して板状誘電損失材料21が底部支持材30に支持される。
【0044】
この場合、また、電波吸収体300を取り付けるべき電波暗室の導体板壁面に、板状フェライト焼結体11からなる第1電波吸収材10及びこれを覆う底部支持材30を先に装着しておき、後から第2電波吸収材20基部の凸部27を底部支持材30側の穴部32に差し込んで組み立てることが可能になり、第2電波吸収材20の壁面への取付が容易となる利点がある。また、底部支持材30が多数の板状フェライト焼結体11からなる平板状電波吸収材10の前面を覆うため、底部支持材30が上述のとおり誘電性損失材料であるものとすれば、高周波における板状フェライト焼結体11表面からの反射を抑制することができる。また、先細形状部分31を底部支持材30に設けたことで、高周波での反射抑制効果をさらに高めることができる。但し、上述のとおり特許文献1の電波吸収体と比較して高周波特性が改善されているため、底部支持材30を設ける場合でも特許文献1に記載の底部吸収材と比較して厚さは薄くて足りる。
【0045】
(第4の実施の形態)
本実施の形態では、第1の実施の形態に係る電波吸収体100を用いた電波暗室について説明する。
【0046】
図10は、本発明の第4の実施の形態に係る電波暗室400の、(A)は正面図、(B)は側断面図である。本図において、電波暗室の内壁面を構成するシールドパネル450(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)の室内側の面に電波吸収体100が相互に隣接して多数配置固定されている。この場合、第1電波吸収材10の前側(第2電波吸収材20の配置されている側)が室内側となる。通常、電波暗室の側壁面及び天井面を図10のように構成する。
【0047】
本実施の形態の電波暗室によれば、第1の実施の形態に示した電波吸収体100を用いているため、低周波から高周波まで広範囲に渡って良好な電波吸収特性が得られる。なお、シールドパネル450の室内側に配置する電波吸収体として、第2又は第3の実施の形態に示した構造のものを使用することも可能である。
【0048】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0049】
実施の形態において、側面形成部22及び延長部23は好ましくは一体であり、1枚の板状誘電損失材料21(電波吸収板)を成す旨を説明したが、側面形成部22と延長部23とが別体であっても同等の電波吸収特性を得ることができる。この場合、まず側面形成部を組み合わせて中空角錐又は中空角錐の先端に開口を設けた形状にしておき、後から延長部を接着等で側面形成部の側縁に固着してもよい。
【0050】
実施の形態において、第2電波吸収材20は、導電材料を発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材内部に含む構成のみならず、導電材料を含有する導電層を基材表面に備える構成であってもよい。
【0051】
実施の形態において、第2電波吸収材20の形状として中空正四角錐又は中空正四角錐の先端に開口を設けた形状を例示したが、変形例では四角錐以外の多角錐(例えば正三角錐や正六角錐等)又はその先端に開口を設けた形状とすることも考えられる。この場合、3枚以上の板状誘電損失材料21を組み合わせて第2電波吸収材20を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図2】図1に示される電波吸収体の延長部の形状説明図である(延長部が斜線で強調されている)。
【図3】図1に示される本実施の形態の電波吸収体と上述の特許文献1に記載の電波吸収体との例示的な形状対比図(その1)である。
【図4】図3に示される場合における電波吸収特性の対比図(周波数特性図)である。
【図5】図1に示される本実施の形態の電波吸収体と上述の特許文献1に記載の電波吸収体との例示的な形状対比図(その2)である。
【図6】図5に示される場合における電波吸収特性の対比図(周波数特性図)である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図9】図8の板状誘電損失材料の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る電波暗室の、(A)は正面図、(B)は側断面図である。
【図11】従来の電波吸収体(非中空)の形状説明図である。
【図12】従来の電波吸収体(中空ピラミッド形)の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図13】従来の電波吸収体(中空くさび形)の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図14】特許文献1の電波吸収体の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図15】特許文献1の電波吸収体(底部吸収材あり)の形状説明図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 第1電波吸収材
11 板状フェライト焼結体
20 第2電波吸収材
21 板状誘電損失材料
22 側面形成部
23 延長部
24 稜線
25 開口
26 ギザギザ形状
30 底部支持材
31 先細形状部分
100、200、300 電波吸収体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性損失材料からなる第1電波吸収材と、
前記第1電波吸収材の前面に配置された、導電材料を含む第2電波吸収材とを備え、
前記第2電波吸収材は、中空角錐又は中空角錐先端に開口を設けた形状の各側面を成す側面形成部と、各側面形成部から同一面で各側面形成部の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部とを有し、1本の稜線に対して前記延長部が1つだけ存在する、電波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の電波吸収体において、前記延長部は、前記中空角錐又は前記中空角錐先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなる形状である、電波吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の電波吸収体において、前記延長部は前記底部において幅が0である、電波吸収体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電波吸収体において、同一面にある前記側面形成部と前記延長部とが一体であり1枚の電波吸収板を成している、電波吸収体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電波吸収体において、前記第2電波吸収材は、導電材料を内部に含む構成である、又は導電材料を含有する導電層を表面に備える構成である、電波吸収体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の電波吸収体において、前記第1電波吸収材と前記第2電波吸収材との間に底部支持材が配置されている、電波吸収体。
【請求項7】
請求項6に記載の電波吸収体において、前記底部支持材が導電材料を含むものである、電波吸収体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の電波吸収体において、前記第1電波吸収材がフェライト焼結体である、電波吸収体。
【請求項9】
室内側側壁面と天井面のうち少なくとも一つの面に、請求項1から8のいずれかに記載の電波吸収体が、前記第1電波吸収材の前面が室内側となるように複数配置されている、電波暗室。
【請求項1】
磁性損失材料からなる第1電波吸収材と、
前記第1電波吸収材の前面に配置された、導電材料を含む第2電波吸収材とを備え、
前記第2電波吸収材は、中空角錐又は中空角錐先端に開口を設けた形状の各側面を成す側面形成部と、各側面形成部から同一面で各側面形成部の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部とを有し、1本の稜線に対して前記延長部が1つだけ存在する、電波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の電波吸収体において、前記延長部は、前記中空角錐又は前記中空角錐先端に開口を設けた形状の先端から底部に向かって幅が小さくなる形状である、電波吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の電波吸収体において、前記延長部は前記底部において幅が0である、電波吸収体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電波吸収体において、同一面にある前記側面形成部と前記延長部とが一体であり1枚の電波吸収板を成している、電波吸収体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電波吸収体において、前記第2電波吸収材は、導電材料を内部に含む構成である、又は導電材料を含有する導電層を表面に備える構成である、電波吸収体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の電波吸収体において、前記第1電波吸収材と前記第2電波吸収材との間に底部支持材が配置されている、電波吸収体。
【請求項7】
請求項6に記載の電波吸収体において、前記底部支持材が導電材料を含むものである、電波吸収体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の電波吸収体において、前記第1電波吸収材がフェライト焼結体である、電波吸収体。
【請求項9】
室内側側壁面と天井面のうち少なくとも一つの面に、請求項1から8のいずれかに記載の電波吸収体が、前記第1電波吸収材の前面が室内側となるように複数配置されている、電波暗室。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−158826(P2009−158826A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337606(P2007−337606)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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