説明

電波吸収体用の透明部材の製造方法

【課題】透明電波吸収体用の透明部材を製造する際に、被パターン化部分が選択的に適正にパターン化され、デブリが透明部材に付着することを抑制することが可能な方法を提供する。
【解決手段】透明基材と、該透明基材上に形成されたパターン化された導電層とを有する電波吸収体用の透明部材の製造方法であって、(a)透明基材の第1の表面上に、導電層を設置するステップと、(b)前記導電層上に粘着層を設置するステップと、(c)前記透明基材の前記第1の表面とは反対の第2の表面の側から、前記透明基材に対して実質的に透明な波長を有するレーザ光を照射することにより、前記透明基材および前記導電層のうち、前記導電層のみをパターン加工するステップと、(d)パターン化された前記導電層上の前記粘着層を除去するステップと、を有する電波吸収体用の透明部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体用の部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相互に近接して使用される電子機器からの電磁波の影響を防止する場合、不要電磁波を吸収する透明電波吸収体が使用される。
【0003】
従来の透明電波吸収体は、例えば、透明基材にITO(インジウムスズ酸化物)のような第1の透明導電層を設置することにより構成した吸収性部材と、透明基材にAg(銀)を含む第2の透明導電層を設置して構成した反射性部材とを、スペーサ層を介して、所定の間隔を開けて平行に設置することにより構成される(特許文献1、2参照)。
【0004】
このように構成された透明電波吸収体に、吸収性部材を介して不要電磁波が入射されると、入射された不要電磁波は、反射性部材で反射され、再度吸収性部材を通り、透明電波吸収体から放射されることになる。ここでスペーサ層により設けられた吸収性部材と反射性部材の間隔は、透明電波吸収体から放射される電磁波の位相が、入射電磁波の位相と丁度180゜だけ反転するように設定されている。従って、透明電波吸収体に入射される電磁波は、透明電波吸収体から放射される電磁波により打ち消され、結果的に不要電磁波を消失させることができる。
【0005】
一方最近では、吸収性部材と反射性部材の間に、周波数選択表面(FSS:Frequency Selective Surface)と呼ばれる層を設置することにより、両者の間隔を狭くする技術が開発されている。また、前述の第1の透明導電層をパターン化することにより、吸収性部材そのものに、周波数選択層としての機能を発現させる技術が開発されている(例えば特許文献3)。
【特許文献1】特開平6−120689号公報
【特許文献2】特開2008−28062号公報
【特許文献3】特開2008−4951号公報
【特許文献4】特開2007−80968号公報
【特許文献5】特開2002−1560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようなパターン化された透明導電層を備える吸収性部材は、例えば、以下のようにして製造される。最初に、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)のような透明基材上に、ITOのような透明導電層が設置される。次に、透明基材の透明導電層が設置された側から、レーザ光が照射される。これにより、透明導電層が所望のパターンに加工され、吸収性部材が得られる。
【0007】
しかしながら、この方法には、以下の2つの問題がある。
【0008】
(i)このような方法では、透明導電層の深さ方向に沿って、透明導電層を完全に除去するためには、レーザ光の照射条件を極めて厳密に制御する必要がある。すなわち、レーザ光のパワーが不十分な場合には、パターン処理後に、透明導電層の一部が残留してしまい、逆にレーザ光のパワーが過剰な場合には、透明導電層の下側の透明基材が損傷を受けてしまうおそれがある。
【0009】
(ii)また、前述のような方法では、透明導電層のパターン加工の際に、デブリ(加工煤)が発生し、これが透明導電層の上部に付着する。このデブリは、加工後も、吸収性部材にそのまま残留することになるため、これにより、吸収性部材の透明性が損なわれ、品質が低下するおそれがある。またこの場合、加工後の吸収性部材を酸のような溶液等を用いて強洗浄したり、エアーブロー等を実施したりして、付着したデブリを除去する必要が生じるが、これにより製造工程が複雑化してしまう。さらに、このような処理の際に、吸収性部材が機械的および/または化学的に損傷を受け、製品の品質が低下するおそれがある。
【0010】
なお、電波吸収体ではなく、半導体製造の技術分野ではあるが、特許文献4には、半導体基板にビアホールを形成する際に生じるデブリを除去するための方法が示されている。この方法では、半導体基板の表面に、予め樹脂製保護テープを設置しておき、このテープの上から、半導体基板にレーザ光を照射することにより、半導体基板とテープとを同時に加工してビアホールを形成し、その後、デブリが付着したテープを剥離することが提案されている。
【0011】
また、特許文献5には、レーザビームにより、樹脂フィルムのパターン加工を行う方法が示されている。この方法では、最初に、被パターン化樹脂フィルムの第1および第2の表面に、粘着層が接着される。次に、被パターン化樹脂フィルムの第1の表面側から、この粘着層を介して、樹脂フィルムに炭酸ガスレーザビームが照射される。レーザビーム照射の際に、樹脂フィルムがパターン加工されるとともに、両表面に設置された粘着層は、このパターンに沿って焼失する。この際に生じたデブリは、両面側の粘着層の外側表面に付着する。最後に、両表面側の粘着層を剥離することにより、パターン化された樹脂フィルムが得られる。
【0012】
しかしながら、これらの方法は、透明電波吸収体用の部材の加工を想定した方法ではないため、前述のような問題の対応策として採用することはできない。特にこれらの方法では、パターン化されるべき部材とパターン化されるべきではない部材とが積層された製品の加工については、想定されておらず、前述の(i)の問題に対処することはできない。特に、特許文献5における炭酸ガスレーザビームのような高エネルギーのレーザ光を、透明電波吸収体用の吸収性部材の加工に適用することはできない。このようなレーザ光では、透明基材が熱により損傷する危険性が高いからである。
【0013】
また、一般に、被加工部材にデブリが付着、残留する危険性を抑制するためには、できる限り発生するデブリの量を抑制する必要があるが、特許文献5に記載の方法では、両表面に設置された粘着層が焼失する際に、粘着層自身から多量のデブリが発生してしまうという問題がある。そのような多量のデブリが発生すると、加工後に粘着層を除去する際に、デブリの一部が粘着層から被加工部材の方に飛散し、結局、被加工部材表面にデブリが付着してしまう可能性が高くなる。
【0014】
このように、従来のいずれの方法も、前述のような電波吸収体用部材の製造の際に生じ得る問題を、十分に抑制することは難しい。
【0015】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、透明電波吸収体用の透明部材を製造する際に、被パターン化部分が選択的に適正にパターン化され、デブリが透明部材に付着することを有意に抑制することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、透明基材と、該透明基材上に形成されたパターン化された導電層とを有する電波吸収体用の透明部材の製造方法であって、
(a)透明基材の第1の表面上に、導電層を設置するステップと、
(b)前記導電層上に粘着層を設置するステップと、
(c)前記透明基材の前記第1の表面とは反対の第2の表面の側から、前記透明基材に対して実質的に透明な波長を有するレーザ光を照射することにより、前記透明基材および前記導電層のうち、前記導電層のみをパターン加工するステップと、
(d)パターン化された前記導電層上の前記粘着層を除去するステップと、
を有する電波吸収体用の透明部材の製造方法が提供される。
【0017】
ここで、前記ステップ(c)において、前記レーザ光の照射により、前記粘着層に、前記導電層のパターンに対応した開口パターンが形成されても良い。
【0018】
また本発明において、前記粘着層は、複数の層を積層することにより構成された層であっても良い。
【0019】
また本発明において、前記粘着層は、アクリル樹脂系接着剤またはゴム系接着剤を含む層を有しても良い。
【0020】
また本発明において、前記粘着層は、1N以上の剥離強度を有しても良い。
【0021】
また本発明において、前記粘着層は、通気性を有しても良い。
【0022】
また本発明において、前記導電層は、酸化スズ、酸化亜鉛、銀およびITO(インジウムスズ酸化物)からなる群から選定された、少なくとも一つの材料を含んでも良い。
【0023】
また本発明において、前記導電層は、銀層と金属酸化物の層とを交互に積層することにより構成された層であっても良い。
【0024】
また本発明において、前記透明基材は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PEN(ポリエチレンナフタレート)およびPMMA(ポリメタクリレート)からなる群から選定された、少なくとも一つの材料を含んでも良い。
【0025】
また本発明において、前記レーザ光は、波長が約1064nmのNd:YAGレーザ光、波長が533nmの第2高調波、若しくは、波長が355nmの第3高調波、または、波長が800〜1200nmのフェムト秒レーザ光であっても良い。
【0026】
また本発明において、前記透明部材は、透明電波吸収体用の吸収性部材または反射性部材であっても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、透明電波吸収体用の透明部材を製造する際に、被パターン化部分が選択的に適正にパターン化され、デブリが透明部材に付着することを有意に抑制することが可能な方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面により本発明の形態を説明する。なお、図面において、各部材は、実際の寸法とは必ずしも対応してはおらず、いくつかの部材の寸法、特に厚さは、誇張して示されていることに留意する必要がある。
【0029】
まず最初に、図1を参照して、一般的な透明電波吸収体の構成およびその動作について簡単に説明する。
【0030】
図1には、一般的な透明電波吸収体の概略的な断面図の一例を示す。透明電波吸収体100は、透明な吸収性部材110と、透明な反射性部材160とを備える。また両者の間には、枠状のスペーサ190が介在され、これにより、枠状のスペーサ190の内部に空間部195が形成される。空間部195の厚さDは、1GHzの電磁波を対象とした場合、例えば2cm〜3cmの範囲である。
【0031】
吸収性部材110は、第1の透明基材120と、パターン化された第1の導電層130と、保護層140とをこの順に積層して構成される。ただし、保護層140は、省略しても良い。パターン化された第1の導電層130は、周波数選択部材(FSS)として機能する。
【0032】
また反射性部材160は、第2の透明基材180と、該第2の透明基材180上に設置された第2の導電層170とを有する。第2の導電層170は、パターン化されていても良い。
【0033】
図1において、吸収性部材110は、保護層140の側が外側となり、第1の透明基材120の側が空間部195と接するようにして配置されている。ただし、この吸収性部材110の配置の向きは、逆であっても良い。また図1において、反射性部材160は、第2の導電層170の側が空間部195と接するように配置されている。しかしながら、この配置の向きは、逆であっても良い。
【0034】
次に、このように構成された透明電波吸収体100の動作について、簡単に説明する。
【0035】
透明電波吸収体100は、周波数選択部材として機能するパターン化された第1の導電層130を備えており、このため、特定の範囲の周波数を有する不要電磁波のみが、吸収性部材110を介して、選択的に透明電波吸収体100内部に進入する。この不要電磁波240は、空間部195を通過して、反射性部材160の第2の導電層170の表面に到達する。不要電磁波240は、第2の導電層170の表面で反射され、今度は逆向きに、空間195内を進行する。その後、不要電磁波240は、再度吸収性部材110を通り、透明電波吸収体100から放出される。空間部195の厚さDは、透明電波吸収体100から放射される電磁波の位相が、入射電磁波の位相と丁度180゜だけ反転するように設定されている。従って、透明電波吸収体100に入射される電磁波は、電波吸収体から放射される電磁波により打ち消され、結果的に不要電磁波を消失させることができる。
【0036】
このような透明電波吸収体の「透明部材」は、通常の場合、以下に示すような方法を用いて製作される。なお本願では、吸収性部材および反射性部材を、まとめて「透明部材」と称することにする。
【0037】
図2には、文献(特開2008−114250号公報)などに記載された従来の透明部材の製造方法の一例を模式的に示す。
【0038】
最初に、図2(a)に示すように、透明基材20上に、導電層30が設置される。次に、図2(b)に示すように、透明基材20と反対の側(すなわち導電層30の側)から、導電層30にレーザ光40が照射される。これにより、導電層30がパターン加工され、パターン化された導電層30を有する透明部材10が得られる。
【0039】
しかしながら、このような方法では、レーザ光40の条件を極めて厳密に制御しなければならないという問題がある。例えば、レーザ光40のパワーが不十分な場合、図2(c)に示すように、パターン化領域に、導電層の未除去部33が残留してしまう。また、逆に、レーザ光40のパワーが過剰な場合は、導電層の未除去部33は生じないものの、透明基材20が損傷を受ける可能性が高くなる。
【0040】
また、この方法では、導電層30のパターン加工の際に、デブリ(加工煤)50が発生し、これが導電層30の上部に付着してしまう(図2(c))。このデブリ50は、加工後も、透明部材10にそのまま残留することになる。残留したデブリ50は、透明部材の透明性を損ない、品質を低下させるおそれがある。またこの場合、加工後の透明部材を強酸のような溶液等を用いて長時間洗浄したり、エアーブローを長時間実施したりして、付着したデブリを除去する必要が生じるが、これにより製造工程が複雑化してしまう。さらに、このような処理の際に、透明部材が機械的および/または化学的に損傷を受け、製品の品質が低下するおそれがある。
【0041】
そこで、このような問題に対処するため、以下の方法が考えられる。導電層30の表面に、予め樹脂製保護テープを設置しておき、この保護テープの上から、導電層30にレーザ光40を照射する。これにより、導電層30と保護テープとを同時に加工して、導電層30に所定のパターンを形成するとともに、この際に生じるデブリを、保護テープの外表面上に付着させる。その後、デブリが付着した保護テープを剥離除去する。
【0042】
しかしながら、このような方法では、デブリの付着を抑制することができたとしても、前述のような、導電層の未除去部33が残留したり、透明基材20が損傷を受ける可能性があるという問題が依然として残る。
【0043】
これに対して、本発明による透明部材の製造方法は、以下の2つの特徴を有する:
(1)導電層(第1または第2の導電層)上部に、粘着層を設ける;
(2)透明基材(第1または第2の透明基材)の側から、レーザ光を照射する。
そして、これらの特徴により、前述のような問題が軽減または抑制され、透明電波吸収体用の透明部材を製造する際に、被パターン化部分が選択的に適正にパターン化され、デブリが透明部材に付着することを有意に抑制することが可能となる。
【0044】
以下、本発明の方法について、詳しく説明する。
【0045】
(第1の方法)
図3および図4を参照して、本発明による透明電波吸収体の透明部材の製造方法について説明する(第1の方法)。
【0046】
図3は、本発明による透明電波吸収体用の透明部材を製作する際のフローチャートの一例を示した図である。また図4は、本発明による透明電波吸収体用の透明部材の形成プロセスの一例を模式的に示した図である。
【0047】
本発明による透明電波吸収体の透明部材400の製造方法は、図3に示すように、透明基材の第1の表面上に、導電層を設置するステップ(ステップS110)と、導電層上に粘着層を設置するステップ(ステップS120)と、透明基材の第1の表面とは反対の第2の表面の側から、透明基材に対して実質的に透明な波長を有するレーザ光を照射するステップ(ステップS130)と、パターン化された導電層上から、粘着層を除去するステップ(ステップS140)とを有する。以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0048】
(ステップS110)
まず最初に、透明基材420が準備される。透明基材420は、以降に設置される導電層430を支持する担体としての役割を有する。透明基材420は、例えば、透明プラスチック材料等の材料で構成される。透明プラスチック材料には、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PEN(ポリエチレンナフタレート)およびPMMA(ポリメタクリレート)等が含まれる。
【0049】
なお透明基材420は、後述するように、所定の波長λを有するレーザ光に対して、吸収率が十分に低く、そのようなレーザ光を実質的に透過させる材料から選択される。図5には、参考として、いくつかの透明材料に関する、吸収率の波長依存性を示したグラフを示す。例えば、前述のPETは、波長400nm〜2000nm(ただし波長1700nmを除く)にわたる広い範囲の光に対して、5%未満の極めて低い吸収率を有することがわかる。
【0050】
なお、透明基材420の厚さは、特に限られないが、あまり厚くすると、最終的に得られる透明部材400が厚くなるので、透明基材420の厚さは、100nm〜1mm程度であることが好ましく、例えば50μmまたは100μm程度である。
【0051】
次に、この透明基材420の第1の表面421上に、導電層430が設置される(図4(a))。
【0052】
ここで、導電層を設置する前に、透明基材420の第1の表面421は、洗浄されることが好ましい。表面洗浄は、例えば、イオンビームによる乾式洗浄等により行われる。この場合、アルゴンガスに約30%の酸素を混合して、100Wの電力を投入する。これにより、イオンビームソースでイオン化されたアルゴンおよび酸素イオンが、透明基材420の表面に照射され、表面を乾式洗浄することができる。
【0053】
導電層430は、いかなる方法で透明基材120上に設置されても良い。導電層430は、例えば、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理蒸着、または熱CVD、プラズマCVD等の化学蒸着により、透明基材420上に設置される。なお、図4(a)に示すように、導電層430は、非パターン化層として設置される。
【0054】
ここで、導電層430が吸収性部材用の導電層(前述の第1の導電層130)である場合、通常、導電層430は、透明金属酸化物で構成される。導電層には、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、またはITO(インジウムスズ酸化物)等が用いられる。導電層430の厚さは、特に限られないが、一般にその厚さは、50nm〜100nmの範囲であり、好ましくは、80nm〜100nmの範囲である。
【0055】
一方、導電層430が反射性部材用の導電層(前述の第2の導電層170)である場合は、導電層として、例えば、金属層と金属酸化物層とを交互に積層したものが使用される。金属層は、例えば、金、パラジウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選定された、少なくとも一つの金属を含有する銀合金であっても良い。また、金属酸化物層は、通常の場合、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化スズ及びこれらの組み合わせからなる群から選定された、少なくとも一つの材料で構成されても良い。例えば、金属酸化物層は、スズ、アルミニウム、クロム、チタン、ケイ素、ホウ素、マグネシウム、ガリウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選定された、少なくとも一つの元素を含有する酸化亜鉛であっても良い。各酸化物層の膜厚は、例えば10〜100nmの範囲である。一方、金属層の膜厚は、例えば、5〜50nmの範囲である。
【0056】
なお、導電層430は、後述するように、所定の波長λを有するレーザ光に対して、大きな吸収率(吸収率10%以上)を有する材料で構成される。例えば、前述の図5に示すように、ITOは、950nm以上の波長の光に対して、大きな吸収率(吸収率10%以上)を有する。
【0057】
(ステップS120)
次に、前述の導電層430上に、粘着層460が設置される(図4(b))。
【0058】
ここで、「粘着層」460とは、少なくとも片面(導電層430と接する面)に粘着性を有する層の総称を意味することに留意する必要がある。
【0059】
粘着層460は、単層であっても、基部を含む複数の層を積層して構成されても良い。例えば粘着層460は、市販の片面粘着テープであっても良い。また、粘着層460は、例えば、基部に市販の両面粘着テープを貼り付けたもの、基部に接着剤を塗布したもの等であっても良い。この場合、接着剤の種類としては、特に限られないが、例えば、アクリル樹脂系の接着剤、またはゴム系の接着剤などが使用される。基部には、透明プラスチック材料等が使用されても良い。
【0060】
粘着層460の設置方法は、特に限られない。例えば、粘着層460は、作業者が粘着層460の粘着面を導電層430の表面に押し付けることにより、導電層430上に設置されても良い。
【0061】
粘着層460の粘着面の剥離強度は、例えば、1.0N〜2.0N程度である。なお、この値は、剥離強度試験機(AIKOH ENGINERING社製、CPU Gauge 9500series)を用い、JIS−K6854−1に準拠して測定された値である。粘着層460の剥離強度が1.0Nよりも小さい場合、加工中に、粘着層460が剥離する危険性が高まる。また、粘着層460の剥離強度が2.0Nよりも大きくなると、加工後に、粘着層460を除去することが難しくなる。
【0062】
この工程により、透明基材420、導電層430および粘着層460がこの順に積層された積層体465が得られる。
【0063】
(ステップS130)
次に、導電層430のパターン化処理のため、前述の工程で得た組立体465に、レーザ光440が照射される。これにより、パターン化された導電層430が得られる。
【0064】
ここで、本発明では、レーザ光440は、透明基材420の第1の表面421とは反対側の第2の表面422の側から照射されることに留意する必要がある(図4(c))。
【0065】
また、このレーザ光440は、透明基材420に吸収されず、実質的に透明基材420を透過する波長を有するものの中から選択される。この場合、レーザ光440は、導電層430のみに選択的に吸収されることになり、透明基材420と導電層430のうち、導電層430のみを選択的にパターン加工することが可能となる。例えば、波長が1064nm(基本波長)のNd:YAGレーザ光を使用する場合、透明基材420として、前述のような透明プラスチック材料を使用することができる。この他にも、レーザ光440と透明基材420の適正な組み合わせを利用することにより、レーザ光440の照射により、導電層430を選択的にパターン処理することができる。
【0066】
ここで、本発明のような方法、すなわち、レーザ光440を透明基材420の第2の表面422の側から照射する方法の場合、導電層430は、透明基材420の第1の表面421と接する側から除去されることになる。この方向から導電層430が除去されるため、従来のような、透明基材上に導電層の被除去部が残留する可能性は、有意に低下する。また、後述するように、導電層430上に設置された粘着層460は、最終的に除去されるため、粘着層460は、多少レーザ光440による損傷を受けても問題はない。従って、レーザ光の照射条件をあまり厳密に制御しなくても、適正な導電層430のパターンを容易に得ることができる。
【0067】
レーザ光440の照射エネルギーは、使用されるレーザ光の種類、波長等によっても変化するが、例えば、波長λが1064nm(基本波長)のNd:YAGレーザ光を使用する場合、照射フルエンスは、最大30,000mJ/cm程度であっても良い。また、パルス幅は、5ピコ〜1000ナノ秒、パルス周期は、10〜1000マイクロ秒、走査速度は、10〜5000mm/分程度であっても良い。
【0068】
なお、このようなレーザ光440の照射により、導電層430からデブリが発生する。これらのデブリは、レーザ光440のストリーム流によって、導電層430の透明基材420とは遠い側に飛散される。
【0069】
ここで、本発明では、導電層430の表面には、粘着層460が設置されている。このため、導電層430から生じ、レーザ光440の照射方向に沿って飛散したデブリ450は、粘着層460の内表面に衝突し、ここで捕獲されることになる(図4(d))。従って、本発明では、前述のように、導電層430の加工後に、デブリ450が導電層430の表面に付着することが抑制される。
【0070】
(ステップS140)
その後、導電層430のパターン化が完了すると、内表面にデブリ450が付着した粘着層460が、組立体465から除去される(図4(e))。
【0071】
粘着層460の除去の方法は、特に限られない。粘着層460は、直接、パターン化された導電層430から引き剥がすことにより、除去しても良い。あるいは、光、紫外線、熱等により、粘着層の粘着面を硬化、劣化させ、粘着性を低下させてから、粘着層460をパターン化された導電層430から除去しても良い。また、水やアルコールのような、完成後の部材に化学的劣化を生じさせる可能性の少ない溶媒中での短時間の洗浄により、除去しても良い。
【0072】
以上の工程により、デブリの付着や残留の少ない透明部材400が得られる。その後、必要に応じて、パターン化された導電層430上に、さらに、透明材料で構成された保護層が設置されても良い。
【0073】
このように、本発明では、透明電波吸収体用の透明部材を製造する際に、導電層が適正にパターン化されるとともに、デブリが透明部材に付着することが有意に抑制される方法を提供することができる。
【0074】
ここで、前記粘着層460は、通気性を有しても良い。この場合、導電層430のレーザ加工の際に発生する気体生成物を、組立体の外部に容易に排出させることが可能となる。従って、導電層430が比較的厚い場合や、パターン化される領域が広い場合など、レーザ加工によって、比較的多くの気体生成物が生じる場合であっても、粘着層460が内部の気体圧力上昇によって剥離する危険性を回避することができる。なお、このような粘着層の通気性は、例えば、粘着層を多孔質材料や目の細かいネット状の材料で構成したり、粘着層に人為的に複数の微細な(例えば1μm以下の)開口を形成したりすることにより得ることができる。
【0075】
(第2の方法)
次に、図6を参照して、本発明による方法の別の構成(以下、「第2の方法」と称する)について説明する。
【0076】
図6には、第2の方法による透明電波吸収体用の透明部材の形成プロセスを模式的に示す。
【0077】
第2の方法も、前述の第1の方法と同様の構成を有する。すなわち、第2の方法は、透明基材の第1の表面上に、導電層を設置するステップ(ステップS110)と、導電層上に粘着層を設置するステップ(ステップS120)と、透明基材の第1の表面とは反対の第2の表面の側から、透明基材に対して実質的に透明な波長を有するレーザ光を照射するステップ(ステップS130)と、パターン化された導電層上から、粘着層を除去するステップ(ステップS140)とを有する。
【0078】
しかしながら、第2の方法では、ステップS130において、レーザ光440の照射により、粘着層460が開口加工される点が、前述の第1の方法とは異なっている。すなわち、第2の方法では、図6(d)に示すように、レーザ光440の照射により、導電層430がパターン加工される際に、導電層130の上部の粘着層460自身も、導電層430のパターンと対応するパターンに加工される。従って、レーザ光440の照射後には、透明基材420の露出部423の上部に、導電層430と粘着層460とを貫通する開口455が形成される。
【0079】
このような方法の場合、レーザ加工により発生するデブリは、第1の方法の場合と同様、レーザ光440のストリーム流により、透明基材120から遠ざかる方向に飛散される。飛散したデブリは、粘着層460に開口が形成されるまでは、粘着層460の内表面に付着される。一方、粘着層460に開口が形成されると、飛散したデブリは、その一部が粘着層460の上部表面に付着し、その他の部分は、外部に放出されることになる。従って、この方法でも、次のステップ(ステップS140)において、粘着層460を除去することにより(図6(e))、デブリの付着の少ない透明部材400を得ることができる。また、この方法では、レーザ光440による粘着層460への影響を考慮する必要がないため、前述の第1の方法に比べて、レーザ光440の照射条件の範囲を、より一層広げることが可能となる(すなわち、レーザ光の照射条件の厳密性をより緩和することが可能となる)。
【0080】
第2の方法では、導電層の被パターン化領域が同等の広さであっても、第1の方法に比べて、加工中に発生するデブリの量は、相対的に多くなる(粘着層そのものがデブリの発生源となるため)。しかしながら、発生したデブリは、粘着層のパターン開口部455を介して外部に放出されるため、粘着層の内側の圧力が著しく上昇することが回避される。従って、この場合、加工中に粘着層が剥離するという危険性をより確実に防止することが可能となる。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
本発明による方法(第1の方法)を用いて、以下の手順により、透明電波吸収体の透明部材を試作した。
【0082】
まず、PET製の透明基材(縦10cm×横10cm×厚さ100μm)の一つの表面(10cm×10cmの表面)全体に、厚さ約100nmのITO層を成膜した。ITO層は、スパッタ法により成膜した。
【0083】
次に、このITO層上に、粘着層として、片面に接着材が塗布されたポリエチレン製のフィルムを設置し、積層体を構成した。このフィルムの厚さは、60μmであった。
【0084】
次に、この積層体に、透明基材の側から、レーザ光を照射し、ITO層のパターン処理を行った。レーザには、波長が1064nmのNd:YAGレーザを使用し、レーザパワー3.6W、パルス幅100ナノ秒(nsec)、パルス周期50マイクロ秒(μsec)の各条件で、パターン処理を行った。このパターン処理により、ITO膜に、実質的に平行で、ほぼ同一の方向に延伸する4本の加工溝が形成された。
【0085】
図7には、このパターンの形態を模式的に示す。この図7は、積層体710をITO層720の側から見た図(ただし図において、フィルムは、示されていない)であり、4本の加工溝730が形成されている。なお、各加工溝730の幅は、約100μmであり、隣接する加工溝730の中心間距離は、約2cmであった。
【0086】
その後、ITO層の上に設置されているフィルムを除去し、実施例1に係る透明部材を得た。
【0087】
(比較例1)
実施例1の場合と同様の方法により、透明部材を試作した(比較例1)。ただし、この比較例1では、ITO層の上にフィルムを設置しなかった。また、積層体のITO層の側から、レーザ光を照射した。
【0088】
(結果)
図8および9には、それぞれ、実施例1および比較例1に係る透明部材の完成後の上面拡大写真を示す。
【0089】
図8に示すように、実施例1に係る透明部材の場合、加工溝730内では、ITO層720が完全に除去されており、適正なITOパターンが形成された。また、ITO層720の上部に、デブリの付着はほとんど認められなかった。
【0090】
これに対して、比較例1に係る透明部材の場合、図9に示すように、パターン加工部(すなわち加工溝730内)において、ITO層720が適正に除去されず、ITO層720の一部が残留していることがわかった。また、ITO層720の上部には、多数のデブリ(図9の多数の小さな点)が付着していることがわかった。
【0091】
前述の図7に示すように、実施例1と比較例1の両方の場合について、積層体710の表面711の中央に近い一つの加工溝730のほぼ中央部分で、溝幅の中心から上下左右に2.5mm四方の領域(すなわち、5mm×5mmの領域)740において、ITO層720上に付着しているデブリの個数をカウントした。その結果、実施例1の場合、比較例1の場合と比較して、デブリの数が十分に少なく、ITO層720へのデブリの付着が有意に抑制されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、電波吸収体等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】典型的な透明電波吸収体の構成の一例を模式的に示した断面図である。
【図2】従来の透明電波吸収体用の吸収性部材を製造する際のフローの一例を、模式的に示した図である。
【図3】本発明による透明電波吸収体用の透明部材を製造する際のフローの一例を示した図である。
【図4】本発明による透明電波吸収体用の透明部材の形成プロセスの一例を模式的に示した図である。
【図5】いくつかの透明材料について、吸収率の波長依存性を示したグラフである。
【図6】本発明による第2の方法による、透明電波吸収体用の透明部材の形成プロセスの一例を模式的に示した図である。
【図7】実施例1におけるITO層のパターン形態を模式的に示した図である。
【図8】実施例1における透明部材のパターン処理後の上面拡大写真である。
【図9】比較例1におけるサンプルのパターン処理後の上面拡大写真である。
【符号の説明】
【0094】
10 従来の透明部材
20 透明基材
23 露出部
30 導電層
33 未除去部
40 レーザ光
50 デブリ
100 透明電波吸収体
110 吸収性部材
120 第1の透明基材
130 第1の導電層
140 保護層
160 反射性部材
170 第2の導電層
180 第2の透明基材
190 スペーサ
195 空間部
400 透明部材
420 透明基材
421 第1の表面
422 第2の表面
423 露出部
430 導電層
440 レーザ光
450 デブリ
455 開口
460 粘着層
465 組立体
710 組立体
711 表面
720 ITO層
730 加工溝
740 領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材上に形成されたパターン化された導電層とを有する電波吸収体用の透明部材の製造方法であって、
(a)透明基材の第1の表面上に、導電層を設置するステップと、
(b)前記導電層上に粘着層を設置するステップと、
(c)前記透明基材の前記第1の表面とは反対の第2の表面の側から、前記透明基材に対して実質的に透明な波長を有するレーザ光を照射することにより、前記透明基材および前記導電層のうち、前記導電層のみをパターン加工するステップと、
(d)パターン化された前記導電層上の前記粘着層を除去するステップと、
を有する電波吸収体用の透明部材の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(c)において、前記レーザ光の照射により、前記粘着層に、前記導電層のパターンに対応した開口パターンが形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粘着層は、複数の層を積層することにより構成された層であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記粘着層は、アクリル樹脂系接着剤またはゴム系接着剤を含む層を有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記粘着層は、1N以上の剥離強度を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記粘着層は、通気性を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記導電層は、酸化スズ、酸化亜鉛、銀およびITO(インジウムスズ酸化物)からなる群から選定された、少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記導電層は、銀層と金属酸化物の層とを交互に積層することにより構成された層であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記透明基材は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PEN(ポリエチレンナフタレート)およびPMMA(ポリメタクリレート)からなる群から選定された、少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記レーザ光は、波長が約1064nmのNd:YAGレーザ光、波長が533nmの第2高調波、若しくは、波長が355nmの第3高調波、または、波長が800〜1200nmのフェムト秒レーザ光であること特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記透明部材は、透明電波吸収体用の吸収性部材または反射性部材であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−154265(P2010−154265A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330599(P2008−330599)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】