説明

電波吸収体

【課題】 十分な強度向上が図られた電波吸収体を提供する。
【解決手段】 本発明に係る電波吸収体10は、30MHz〜400MHzの周波数帯において、吸収特性が18dBより大きく、整合厚さが8mmより薄く、且つ、組成比が、Fe:49.1〜49.7mol%、ZnO:30.0〜31.5mol%、CuO:5.0〜9.1mol%、MgO:5.0〜9.9mol%、NiO:4.0〜7.0mol%であるため、実用的な周波数帯(30MHz〜400MHz)において、十分な吸収特性(>18dB)、及び、十分に薄い整合厚さ(<8mm)が得られ、且つ、高い抗折強度を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築構造物や電波暗室等の壁材に用いられるタイルとして、フェライト製の板状電波吸収体が知られている。このような電波吸収体は、例えば下記特許文献1等において開示されている。
【特許文献1】特公平7−114318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来の電波吸収体においては、タイルとしての強度(抗折強度)が十分ではなく、そのため、さらなる強度の向上が望まれていた。
【0004】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、十分な強度向上が図られた電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電波吸収体は、30MHz〜400MHzの周波数帯において、吸収特性が18dBより大きく、整合厚さが8mmより薄く、且つ、組成比が、Fe:49.1〜49.7mol%、ZnO:30.0〜31.5mol%、CuO:5.0〜9.1mol%、MgO:5.0〜9.9mol%、NiO:4.0〜7.0mol%である。
【0006】
この電波吸収体においては、実用的な周波数帯(30MHz〜400MHz)において、十分な吸収特性(>18dB)、及び、十分に薄い整合厚さ(<8mm)が得られ、且つ、高い抗折強度を実現することができる。
【0007】
また、本発明に係る電波吸収体は、30MHz〜400MHzの周波数帯において、吸収特性が18dBより大きく、整合厚さが7mmより薄く、且つ、組成比が、Fe:49.2〜49.6mol%、ZnO:30.0〜30.3mol%、CuO:6.2〜7.6mol%、MgO:7.2〜8.2mol%、NiO:5.4〜6.5mol%である。
【0008】
この電波吸収体においては、実用的な周波数帯(30MHz〜400MHz)において、十分な吸収特性(>18dB)、及び、十分に薄い整合厚さ(<7mm)が得られ、且つ、高い抗折強度を実現することができる。
【0009】
なお、CuOの組成比に対するMgOの組成比の割合(MgO/CuO)を0.93〜1.92とすることで高い抗折強度が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、十分な強度向上が図られた電波吸収体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するにあたり最良と思われる形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0012】
本発明に係る電波吸収体10は、図1に示すように板状であり、その寸法は縦100mm×横100mm×厚さ8mmとなっている。
【0013】
この電波吸収体10は、Feと、ZnOと、CuOと、MgOと、NiOとを含むフェライト材料によって構成されている。そして、電波吸収体10の組成比の範囲は、Fe:49.1〜49.7mol%、ZnO:30.0〜31.5mol%、CuO:5.0〜9.1mol%、MgO:5.0〜9.9mol%、NiO:4.0〜7.0mol%(以下、「組成範囲A」と称す。)となっている。
【0014】
発明者らは、鋭意研究の末、電波吸収体10の構成材料に上記組成範囲Aとなるフェライト材料を用いることにより、実用的な周波数帯(30MHz〜400MHz)において、十分な吸収特性(>18dB)、及び、十分に薄い整合厚さ(<8mm)が得られ、且つ、高い抗折強度を実現することができることを新たに見出した。
【0015】
さらに、発明者らは、電波吸収体10の構成材料に、Fe:49.2〜49.6mol%、ZnO:30.0〜30.3mol%、CuO:6.2〜7.6mol%、MgO:7.2〜8.2mol%、NiO:5.4〜6.5mol%の組成範囲(以下、「組成範囲B」と称す。)であるフェライト材料を用いることで、より薄い整合厚さ(<7mm)を実現でき、且つ、実用的な周波数帯(30MHz〜400MHz)において、十分な吸収特性(>18dB)と高い抗折強度が得られることを新たに見出した。
【実施例】
【0016】
以下、発明者らによる上記電波吸収体を構成するフェライト材料の実施例及び比較例について説明する。
【0017】
発明者らは、上記組成範囲Bに適合する5種類のフェライト材料(試料1〜5)と、上記組成範囲Aに適合する7種類のフェライト材料(試料6〜12)と、上記組成範囲A及び組成範囲Bのいずれにも適合しない13種類のフェライト材料(試料13〜25)の計25種類の試料を準備し、そのそれぞれについて、「整合厚さ」、「吸収特性」及び「抗折強度」を測定した。
【0018】
なお、吸収特性(すなわち、減衰量)の測定は、外径19.8mm、内径8.7mm、厚さ7mmの寸法に成形したフェライト焼結体(トロイダルコア)に対し、インピーダンスアナライザで同軸管を用いておこなった。この吸収特性は、発明者らがおこなった実験によれば、図2に示すとおり、同じ整合厚さでみた場合、周波数の上限値(400MHz)に比べて下限値(30MHz)のほうが小さい値となるため、この下限値を用いて吸収特性の測定をおこなった。また、抗折強度は、5.5mm×1.2mmの長方形金型を用いて、フェライト顆粒10gを2ton/cmの成型圧で成型した焼結コアを、三点法(二点間距離30mm)により測定した。
【0019】
それらの測定結果は、図3の表に示すとおりとなった。
【0020】
つまり、組成範囲Bに適合する試料1〜5においては、いずれも整合厚さが7mmより小さく、吸収特性は18dBより大きく、且つ、抗折強度は100MPaよりも大きかった。
【0021】
また、組成範囲Aに適合する試料6〜12においては、いずれも整合厚さが8mmより小さく、吸収特性は18dBより大きく、且つ、抗折強度は100MPaよりも大きかった。
【0022】
一方、その他の試料13〜25においては、整合厚さ、吸収特性及び抗折強度のいずれかが上記条件を満たしていない。
【0023】
すなわち、試料13,14はいずれもFeが組成範囲外となっており、そのため、減衰量が18dBよりも低くなっている。
【0024】
また、試料15,16はいずれもZnOが組成範囲外となっており、そのため、試料15では減衰量が18dBよりも低くなっており、試料16では整合厚さが8mm以上となっている。
【0025】
さらに、試料17〜20はいずれもCuO若しくはNiOが組成範囲外となっており、そのため、減衰量が18dBよりも低くなっている。
【0026】
試料21〜24はいずれもMgOが組成範囲外となっており、そのため、試料21では整合厚さが8mm以上となっており、試料22〜24では減衰量が18dBよりも低くなっている。なお、試料25はMgOを全く添加していない材料である。
【0027】
加えて、比較例である試料13〜25においては、いずれも抗折強度が100MPa未満であった。
【0028】
ここで、MgOの組成比と抗折強度との関係を図4のグラフに示す。この図4のグラフは、縦軸が抗折強度(MPa)であり、横軸がMgOの組成比(mol%)である。
【0029】
この図4のグラフから明らかなように、MgOの組成比が所定の範囲(5.0〜9.9mol%)である場合には100MPaよりも高い抗折強度が得られるのに対し、その範囲外である場合には100MPa以下の抗折強度しか得られない。この結果から、上述した組成範囲A及び組成範囲Bでは、MgOの組成比が適切な範囲となっているために、得られる電波吸収体の抗折強度の向上が図られていると考えられる。
【0030】
図5は、CuOの組成比に対するMgOの組成比の割合(MgO/CuO比)と、抗折強度との関係を示したグラフである。この図5のグラフにおいて、縦軸は抗折強度(MPa)であり、横軸はMgO/CuO比である。
【0031】
この図5のグラフから、MgO/CuO比が所定の範囲(0.93〜1.92)である場合には100MPaよりも高い抗折強度が得られるのに対し、その範囲外である場合には100MPa以下の抗折強度しか得られない。この結果から、MgO/CuO比が上記範囲である場合に、得られる電波吸収体の抗折強度の向上が図られるものと考えられる。
【0032】
以上で説明したとおり、本発明の実施形態に係る電波吸収体10は、上述した組成範囲A若しくは組成範囲Bであるフェライト材料により構成されているため、実用的な周波数帯において、十分な吸収特性、及び、十分に薄い整合厚さが得られ、且つ、高い抗折強度を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る電波吸収体を示した斜視図である。
【図2】減衰量(吸収特性)と周波数との関係を整合厚さ毎に示したグラフである。
【図3】本発明の実施例に係る測定結果を示した表である。
【図4】本発明の実施例に係る測定結果を示したグラフである。
【図5】本発明の実施例に係る測定結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0034】
10…電波吸収体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30MHz〜400MHzの周波数帯において、吸収特性が18dBより大きく、整合厚さが8mmより薄く、且つ、組成比が、
Fe:49.1〜49.7mol%、
ZnO:30.0〜31.5mol%、
CuO:5.0〜9.1mol%、
MgO:5.0〜9.9mol%、
NiO:4.0〜7.0mol%
である、電波吸収体。
【請求項2】
30MHz〜400MHzの周波数帯において、吸収特性が18dBより大きく、整合厚さが7mmより薄く、且つ、組成比が、
Fe:49.2〜49.6mol%、
ZnO:30.0〜30.3mol%、
CuO:6.2〜7.6mol%、
MgO:7.2〜8.2mol%、
NiO:5.4〜6.5mol%
である、電波吸収体。
【請求項3】
CuOの組成比に対するMgOの組成比の割合(MgO/CuO)が0.93〜1.92である、請求項1又は2に記載の電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−177242(P2008−177242A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7270(P2007−7270)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】