説明

電波吸収多層基板

【課題】電波吸収シートに絶縁基板を圧着した場合であっても電波吸収多層基板に組み込まれる前に電波吸収シートが有していた電波吸収率を維持することができる電波吸収多層基板を提供する。
【解決手段】電波吸収多層基板1Aは、軟磁性合金粉末および結着材を含有する電波吸収シート2、電波吸収シート2との対向面5Aa、5Baをそれぞれ有して電波吸収シートに圧着されている2枚の絶縁基板5A、5Bを備えている。一方の絶縁基板5Aの対向面5Aaには複数の穴5Abが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収多層基板に係り、特に、ノイズ対策が必要な携帯電話機やAV機器などの電子機器に用いる電子回路に好適に利用できる電波吸収多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、携帯電話機や無線機器などの高周波電子機器においては、フレキシブル配線板やICなどの電子回路から発生する高周波ノイズの漏洩を抑制したり、高周波電子機器の外部にある外部回路から漏洩した高周波ノイズが高周波電子機器の電子回路に混入することを回避したりするため、電子回路に電波吸収多層基板が貼付されている。
【0003】
従来の電波吸収多層基板101は、図17に示すように、電波吸収シート102の表面102aおよび裏面102bに2枚の絶縁基板105A、105Bを固着することにより形成されている。絶縁基板105A、105Bとしては、絶縁性および保護性の向上の他に電波吸収シート102との接着性を良好にするため、プリプレグを用いることが多い。また、電波吸収シート102としては、図18に示すように、軟磁性合金粉末103および結着材104を含有させてシート状に形成したものが用いられている。この軟磁性合金としては、センダストやパーマロイ、Ni−Znフェライト、Li−フェライトなどの高透磁率材料が用いられることが多いが、近年においては、軟磁気特性に優れたFe基金属ガラス合金が用いられている。
【0004】
電波吸収シート102に金属ガラス合金を用いる場合、その金属ガラス合金を扁平粒子状にして軟磁性合金粉末103を形成するとともに、結着材104としてシリコーン樹脂やポリ塩化ビニル等を用いてそれらを含有し、ドクターブレード法によりそれらをシート化した後に熱加圧することにより電波吸収シート102が形成される。扁平粒子状の金属ガラス合金を用いた電波吸収シート102は、熱加圧により電波吸収シート102の厚さを薄くすることができるとともに、金属ガラス合金の密度を高くすることができるので、他の種類の軟磁性合金粉末を用いた電波吸収シート(図示せず)よりも電波抑制効果を向上させることができる(特許文献1を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−221522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電波吸収シート102に絶縁基板105A、105Bを熱圧着させて電波吸収多層基板101を形成する場合、図19および図20に示すように、熱圧着の影響により電波吸収シート102の結着材104が軟化して電波吸収シート102が圧縮されてしまう。金属ガラス合金を用いた電波吸収シート102の虚数透磁率μ”は扁平粒子状の金属ガラス合金が圧縮されるほど低下する性質を有しているため、形成された電波吸収多層基板101の電波吸収率は電波吸収シート102が有していた電波吸収率よりも低下してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、電波吸収シートに絶縁基板を圧着した場合であっても電波吸収多層基板に組み込まれる前に電波吸収シートが有していた電波吸収率を維持することができる電波吸収多層基板を提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、本発明の電波吸収多層基板は、その第1の態様として、軟磁性合金粉末および結着材を含有しており、シート状に形成されている電波吸収シートと、電波吸収シートに対向する対向面をそれぞれ有しており、電波吸収シートを挟み込んで電波吸収シートに圧着されている2枚の絶縁基板とを備えており、2枚の絶縁基板のうち少なくとも一方の絶縁基板は、1個または2個以上の穴もしくは突部が形成された対向面を有していることを特徴としている。
【0009】
本発明の第1の態様の電波吸収多層基板によれば、絶縁基板の圧着時において、電波吸収シートにおける穴対向部または突部非対向部が他の部分よりも圧縮され難くなるので、電波吸収シートの電波吸収率が低下するのを防止することができる。
【0010】
本発明の第2の態様の電波吸収多層基板は、軟磁性合金粉末および結着材を含有しており、シート状に形成されている電波吸収シートと、電波吸収シートを挟み込んで圧着されている2枚の絶縁基板と、1個または2個以上の貫通孔を有するシート状に形成されており貫通孔を電波吸収シートに対向させて絶縁基板と電波吸収シートとの間に挟まれているスペーサとを備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明の第2の態様の電波吸収多層基板によれば、絶縁基板の圧着時において、電波吸収シートにおける貫通孔対向部が他の部分よりも圧縮され難くなるので、電波吸収シートの電波吸収率が低下するのを防止することができる。
【0012】
本発明の第3の態様の電波吸収多層基板は、第1または第2の態様の電波吸収多層基板において、穴もしくは突部または貫通孔は、2個以上形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明の第3の態様の電波吸収多層基板によれば、穴もしくは突部または貫通孔が電波吸収シートに対する滑り止めになるので、絶縁基板の圧着時において、絶縁基板またはスペーサがその圧縮方向と直交する方向に滑ってしまうことを防止することができる。
【0014】
本発明の第4の態様の電波吸収多層基板は、第1から第3のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、穴もしくは突部または貫通孔は、一定間隔をもって配置されていることを特徴としている。
【0015】
本発明の第4の態様の電波吸収多層基板によれば、絶縁基板の穴もしくはスペーサの貫通孔の間に形成される壁部または絶縁基板の突部が対向面間の支持部となって等間隔に配置されるので、絶縁基板の熱加圧時における電波吸収多層基板の耐圧縮強度を向上させることができる。
【0016】
本発明の第5の態様の電波吸収多層基板は、第1から第4のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、穴もしくは突部または貫通孔は、矩形状または直線壁状に形成されていることを特徴としている。
【0017】
本発明の第5の態様の電波吸収多層基板によれば、穴もしくは突部または貫通孔を一定間隔に形成しやすくなるため、穴もしくは突部または貫通孔の形成個数を容易に増加させることができる。
【0018】
本発明の第6の態様の電波吸収多層基板は、第1から第5のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、穴もしくは突部または貫通孔は、格子状または千鳥格子状に配置されていることを特徴としている。
【0019】
本発明の第6の態様の電波吸収多層基板によれば、穴もしくは突部または貫通孔の形成個数を増加させながら熱加圧時における電波吸収多層基板の耐圧縮強度を向上させることができる。
【0020】
本発明の第7の態様の電波吸収多層基板は、第1から第6のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、絶縁基板およびスペーサは、プリプレグを用いて形成されているとともに、電波吸収シートに熱圧着されていることを特徴としている。
【0021】
本発明の第7の態様の電波吸収多層基板によれば、プリプレグは絶縁性および接着性が良いため、電波吸収多層基板を配線板に貼付けた際に電波吸収シートを配線板に形成された導体から絶縁させながら電波吸収多層基板を配線板に容易に接着することができる。また、スペーサにプリプレグを用いることにより、スペーサが電波吸収シートからずれてしまうことを防止することができる。
【0022】
本発明の第8の態様の電波吸収多層基板は、第1から第7のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、穴もしくは突部を有する絶縁基板または貫通孔を有するスペーサは、プレス加工により形成されていることを特徴としている。
【0023】
本発明の第8の態様の電波吸収多層基板によれば、絶縁基板の穴もしくは突部またはスペーサの貫通孔を一回のプレス加工工程により形成することができるので、それら穴もしくは突部または貫通孔を容易に形成することができる。
【0024】
本発明の第9の態様の電波吸収多層基板は、第1から第8のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、軟磁性合金粉末は、非晶質相を主相とする金属ガラス合金であることを特徴としている。
【0025】
本発明の第9の態様の電波吸収多層基板によれば、電波吸収シートの透磁率が高まるとともに、その磁気損失が低下するので、電波抑制効果を向上させることができる。
【0026】
本発明の第10の態様の電波吸収多層基板は、第1から第9のいずれか1の態様の電波吸収多層基板において、穴もしくは突部または貫通孔は、25μm〜440μmの深さもしくは突出長さまたは貫通長さに形成されていることを特徴としている。
【0027】
本発明の第10の態様の電波吸収多層基板によれば、電波吸収シートの厚さがその熱加圧前に25μm〜440μmであればその虚数透磁率(磁気損失)が10以上になることを利用して絶縁基板間距離が最低限25μm〜440μmになるように穴の深さもしくは突部の突出長さまたは貫通孔の貫通長さを設定しているので、電波吸収多層基板の虚数透磁率を10以上にすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の電波吸収多層基板によれば、電波吸収シートの圧縮を部分的に防止することによりその電波吸収率の低下を防止しているので、電波吸収シートに絶縁基板を圧着した場合であっても、電波吸収多層基板に組み込まれる前に電波吸収シートが有していた電波吸収率を維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1から図14を用いて、本発明の電波吸収多層基板をその第1および第2の実施形態により説明する。
【0030】
図1から図3は、第1の実施形態の電波吸収多層基板1Aを示している。第1の実施形態の電波吸収多層基板1Aは、図1に示すように、電波吸収シート2および2枚の絶縁基板5A、5Bを備えている。
【0031】
電波吸収シート2は、図9に示すように、軟磁性合金粉末3および結着材4を含有した混合物をドクターブレード法によりシート化するか、または、軟磁性合金粉末3を結着材4に噴射するコーテイング法によりシート化して熱加圧することにより得られる。この電波吸収シート2は、軟磁性合金粉末3の密度を高めつつ、電波吸収シート2の表面欠損部および内部空隙を互いに修復して電波吸収特性を向上させるため、複数枚積層されていることが好ましい。
【0032】
軟磁性合金粉末3としては、非晶質相を主相とする金属ガラス合金、特にFe基金属ガラス合金を用いることが好ましい。Fe基金属ガラス合金の組成としては、一例として、Fe100−x−y−z−w−tSi(M:Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素)を用いることができる。この組成比を示すx、y、z、w、tは、0.5原子%≦x≦8原子%、2原子%≦y≦15原子%、0原子%<z≦8原子%、1原子%≦w≦12原子%、0原子%≦t≦8原子%、70原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%である。また、他の一例としては、従来から用いられているFe−Al−Ga−C−P−Si−B系合金やその他のFe基以外の組成の金属ガラス合金をも用いることができる。
【0033】
軟磁性合金粉末3に金属ガラス合金を用いる場合、はじめに、所望する組成の金属ガラス合金溶湯を液体急冷法により急冷して得られた合金薄帯を粉砕するか、あるいは、水アトマイズ法もしくはガスアトマイズ法により得られた球状粒子をアトライタ等により機械的に粉砕することにより、金属ガラス合金の扁平粒子を得る。得られた金属ガラス合金については内部応力の緩和を目的として必要に応じて熱処理することが好ましい。熱処理温度Taはキュリー温度Tc以上ガラス遷移温度Tg以下の範囲であることが好ましい。
【0034】
この扁平粒子(図示せず)のアスペクト比(長径/厚さ)は、2.5以上が好ましく、12以上がより好ましい。扁平粒子のアスペクト比が2.5以上の場合、電波吸収シート2の虚数透磁率μ”は10以上となる。また、そのアスペクト比が12以上の場合、電波吸収シート2の虚数透磁率μ”は15以上となる。なお、扁平粒子のアスペクト比が高いほど電波吸収シート2の圧縮形成時に扁平粒子が配向してGHz帯域の虚数透磁率μ”が高くなるために電波吸収特性が向上するが、現在の製造技術のレベルからアスペクト比の上限は250程度である。
【0035】
また、Fe基金属ガラス合金としては、ΔTx=Tx−Tg>25K(ΔTx:過冷却液体の温度間隔、Tx:結晶化開始温度、Tg:ガラス遷移温度)の式を満たすものが好ましい。前述の式を満たすFe基金属ガラス合金は、軟磁気特性に優れており、電波吸収シート2の虚数透磁率μ”が10以上、場合によっては15以上となり、GHz帯域での電磁波抑制効果が向上し、高周波の電波を効果的に遮蔽する。
【0036】
結着材4としては、シリコーン樹脂等の耐熱性樹脂やポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。ここで、電波吸収シート2には、軟磁性合金粉末3や結着材4の他に、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコールなどの分散媒やステアリン酸塩からなる潤滑剤が添加されていてもよい。
【0037】
電波吸収シート2における軟磁性合金粉末3の含有率としては、軟磁性合金粉末3に金属ガラス合金を用いる場合、41体積%以上83体積%以下の範囲であることが好ましい。軟磁性合金粉末3の含有率が41体積%以上あれば、電波吸収シート2の虚数透磁率μ”が10以上になるので、電磁波抑制効果が有効に発揮される。また、その含有率が83体積%以下であれば、隣位する軟磁性合金粉末3同士が直接的に接することがなくなるので、電波吸収シート2のインピーダンス低下を有効に防止する。
【0038】
電波吸収シート2の厚みtは、電波吸収シート2の熱加圧前において25μm以上440μm以下の範囲とすることが好ましい。熱加圧前の電波吸収シート2の厚みtが25μm以上440μm以下の範囲であれば、電波吸収シート2の虚数透磁率μ”が10以上になる。なお、熱加圧前の電波吸収シート2の厚みtが55μm以上400μm以下の範囲であれば、虚数透磁率μ”が15以上になる。
【0039】
電波吸収多層基板1Aの2枚の絶縁基板5A、5Bは、図1に示すように、耐熱性樹脂またはプリプレグを用いて薄膜平板状に形成されている。これら2枚の絶縁基板5A、5Bは、電波吸収シート2に対向する対向面5Aa、5Baをそれぞれ有しており、電波吸収シート2を挟み込むように電波吸収シート2の表面2aおよび裏面2bにそれぞれ圧着されている。プリプレグを用いてこれら2枚の絶縁基板5A、5Bを形成する場合、170℃、40〜50Kg/cmの熱加圧条件において2枚の絶縁基板5A、5Bは電波吸収シート2に熱圧着されている。
【0040】
第1の実施形態の2枚の絶縁基板5A、5Bにおいては、図1から図3に示すように、少なくとも一方の絶縁基板(第1の実施形態においては上側の絶縁基板)5Aが対向面5Aaに穴5Abを有している。穴5Abの開口総面積については大きいほど好ましい。穴5Abの個数は図4から図6に示すような1個または図3、図7もしくは図8に示すような2個以上のどちらでもよいが、2個以上であって可能な限り多く形成されていることが好ましい。
【0041】
また、この穴5Abは図3、図7または図8に示すような一定間隔をもって配置されていることが好ましく、特に図3または図8に示すような格子状または千鳥格子状に配置されていることが好ましい。第1の実施形態においては図3に示すような格子配置を採択している。
【0042】
そして、穴5Abの形状は丸形状(図示せず)や三角形状(図示せず)でもよいが、図3に示すように、矩形状に形成されていることが好ましい。これらの穴5Abはいずれの方法を用いて形成されていてもよいが、形成工程の簡略化を考慮すれば1ショットプレス加工により形成されることが好ましい。これらの穴5Abは25μm〜440μmの深さに形成されていることが好ましく、電波吸収多層基板1Aの薄型化と虚数透磁率μ”の向上を考慮すれば50μm〜80μmの深さに形成されていることがより好ましい。
【0043】
次に、図を用いて、第1の実施形態の電波吸収多層基板1Aの作用を説明する。
【0044】
図1に示すような第1の実施形態の電波吸収多層基板1Aにおいては、電波吸収シート2の軟磁性合金粉末3に非晶質相を主相とする金属ガラス合金を用いている。そのため、電波吸収シート2の透磁率が高まるとともに、その磁気損失が低下するので、電波抑制効果を向上させることができる。金属ガラス合金のなかでも前述したFe基金属ガラス合金であれば、電波抑制効果を一層向上させることができる。
【0045】
また、第1の実施形態においては、電波吸収シート2に圧着される2枚の絶縁基板5A、5Bがプリプレグを用いて形成されている。プリプレグの絶縁性および接着性は良好なため、電波吸収多層基板1Aを配線板に貼付けた際に電波吸収シート2をその配線板の導体から絶縁させながら電波吸収多層基板1Aを配線板に容易に接着することができる。
【0046】
そして、第1の実施形態の電波吸収多層基板1Aにおいては、図2に示すように、電波吸収シート2が2枚の絶縁基板5A、5Bに挟まれるように形成されている。これら2枚の絶縁基板5A、5Bは電波吸収シート2の表面2aおよび裏面2bに熱圧着されている。2枚の絶縁基板5A、5Bが熱圧着されると、電波吸収シート2の結着材4はその熱により軟化してしまう。ここで、2枚の絶縁基板5A、5Bの対向面5Aa、5Baが従来の絶縁基板105A、105Bの対向面のようにいずれも平滑面である場合(図17を参照)、電波吸収シート2は熱加圧前よりも圧縮されてしまう(図19を参照)。電波吸収シート2が圧縮されると、電波吸収シート2の内部に一定間隔をもって結着材に保持されていた軟磁性合金粉末3の間隔が積層方向において小さくなるので、電波吸収シート2が本来有していた虚数透磁率μ”が低下し、電波吸収シート2の電波吸収率が低下してしまう。
【0047】
そこで、第1の実施形態においては、図1に示すように、2枚の絶縁基板5A、5Bのうちのいずれか一方の絶縁基板5Aの対向面5Aaに穴5Abを設けている。そのため、図2に示すように、絶縁基板5A、5Bの圧着により電波吸収シート2が圧縮されても、図10に示すように、電波吸収シート2における穴対向部2cが他の部分2dよりも圧縮され難くなる。電波吸収シート2の穴対向部2cにおいては電波吸収シート2の内部に一定間隔をもって保持されていた軟磁性合金粉末3の間隔が積層方向において他の部分2dよりも圧縮されず、また、軟磁性合金粉末3の扁平粒子が圧縮されずに変形しないので、電波吸収シート2の性質が変化せず、その電波吸収率が低下するのを防止することができる。
【0048】
図1から図3に示すように、対向面5Aaの穴5Abを複数個形成することにより、絶縁基板5A、5Bの圧着時において対向面5Aaの穴5Abと穴5Abとの間に形成される壁部5Acが電波吸収シート2に食い込んで電波吸収シート2に対する滑り止めになるので、絶縁基板5A、5Bがその圧縮方向と直交する方向に滑ってしまうことを防止することができる。また、図4から図6に示すように、対向面5Aaの穴5Abが1個であれば電波吸収シート2の穴対向部2cの面積を最も大きくすることができるが、絶縁基板5A、5Bの熱加圧時における電波吸収多層基板1Aの耐圧縮強度が部分的に異なってしまう。そのため、図3、図7、図8に示すように、対向面5Aaの穴5Abを2個以上形成し、それらを一定間隔をもって配置することにより、穴5Abの間に形成される壁部5Acが支持部となって等間隔に配置されて電波吸収多層基板1Aの耐圧縮強度を向上させることができる。
【0049】
また、図3に示すように、穴5Abの形状を矩形状にすれば、それら穴5Abと穴5Abとの間に形成される壁部5Acを所定の厚さにしつつ、穴5Abを一定間隔に形成しやすくなるため、絶縁基板5A、5Bの熱圧着時における電波吸収多層基板1Aの耐圧縮強度を向上させつつ穴5Abの形成個数を容易に増加させることができる。その際、これらの穴5Abが、図3に示すような格子状または図8に示すような千鳥格子状に配置されていれば、穴5Abと穴5Abとの間の壁部5Acが所定の厚さに形成されて等間隔に配置されるとともに、穴5Abを無駄なく配置することができるので、穴5Abの形成個数を増加させながら電波吸収多層基板1Aの耐圧縮強度を向上させることができる。
【0050】
そして、第1の実施形態においては、このような対向面5Aaの穴5Abがプレス加工により形成されている。他の形成法では絶縁基板5Aに穴5Abを形成することが困難になる場合もあるが、プレス加工であれば一回の工程により穴5Abを形成することができるので、穴5Abを容易に形成することができる。そして、これらの穴5Abは、25μm〜440μmの深さに設定されている。電波吸収シート2の厚さがその熱加圧前に25μm〜440μmであればその虚数透磁率(磁気損失)μ”が10以上になることが従来から知られている。また、電波吸収シート2の厚さがその熱加圧前に55μm〜400μmの範囲であればその虚数透磁率μ”が15以上になることが知られている。
【0051】
つまり、前述の特性を利用して絶縁基板5A、5B間の距離が最低限25μm〜440μmになるように穴5Abの深さを設定すれば、電波吸収多層基板1Aの虚数透磁率μ”を少なくとも10以上にすることができる。ただし、穴5Abの深さをより深くするとその分だけ絶縁基板5Aの厚さを厚くしなければならない。そのため、穴5Abの深さを50μm〜80μm程度にすれば、その分だけ絶縁基板5Aの厚さを薄くすることができるので、電波吸収多層基板1Aの薄膜化および虚数透磁率μ”の向上を同時に達成することができる。
【0052】
なお、第1の実施形態においては2枚の絶縁基板5A、5Bの一方の絶縁基板5Aの対向面5Aaにのみ穴5Abを設けたが、他の実施形態の電波吸収多層基板1A’においては、図11および図12に示すように、2枚の絶縁基板5A、5Bの対向面5Aa、5Baのそれぞれに穴5Ab、5Bbが形成されていても良い。
【0053】
また、第1の実施形態においては絶縁基板5Aの対向面5Aaに穴5Abを設けたが、他の実施形態においては、図13および図14に示すように、絶縁基板5Aの対向面5Aaに突部5Adが形成されていてもよい。対向面5Aaに突部5Adが形成されていれば、対向面5Aaに凹凸ができるので、電波吸収シート2における突部非対向部2eが圧縮され難くなり、対向面5Aaに穴5Abを設けた作用と同様の作用を得ることができる。
【0054】
よって、対向面5Aaに突部5Adが形成された場合において、突部5Adが2個以上形成されていること、突部5Adが一定間隔をもって配置されていること、突部5Adが格子状または千鳥格子状に配置されていること、突部5Adがプレス加工により形成されていることおよび突部5Adの突出長さが25μm〜440μmになっていることによる作用は、対向面5Aaに穴5Abを設けた作用と同様の作用を得ることができる。また、突部5Adが一定幅の直線壁状に形成されていれば、図3に示すように、第1の実施形態における対向面5Aaの穴5Abの間に形成される壁部5Acを所定の厚さにしつつ、穴5Abを一定間隔に配置するのと同様の効果を得られるので、電波吸収多層基板1Bの耐圧縮強度を向上させつつ穴5Abの形成個数を容易に増加させることができる。
【0055】
次に、図15および図16を用いて、第2の実施形態の電波吸収多層基板1Cを説明する。
【0056】
図15および図16は、第2の実施形態の電波吸収多層基板1Cを示している。第2の実施形態の電波吸収多層基板1Cは、図15に示すように、電波吸収シート2、2枚の絶縁基板5A、5Bおよびスペーサ6を備えている。電波吸収シート2については、第1の実施形態において用いられたものと同様のものを用いる。しかし、2枚の絶縁基板5A、5Bについては、その大部分が第1の実施形態と同様であるが、それらの対向面5Aa、5Baのいずれにも穴(もしくは突部5Ad)5Abは形成されておらず、平滑に形成されている。そのかわりに、第1の実施形態にはないスペーサ6が電波吸収シート2と絶縁基板5Aとの間に備わっている。
【0057】
スペーサ6は、図15に示すように、耐熱性樹脂またはプリプレグを用いて、均一の厚さのシートに形成されているとともに、1個または2個以上の貫通孔6bが電波吸収シート2に対向して穿設されたような形状に形成されている。スペーサ6の材質は絶縁基板5A、5Bの材質と揃えることが好ましい。このスペーサ6は、電波吸収シート2の一方の面(第2の実施形態においては図15に示すようにその表面2a)に圧着されている。プリプレグを用いてこれらスペーサ6および2枚の絶縁基板5A、5Bを形成する場合、170℃、50Kg/cmの熱加圧条件においてスペーサ6は2枚の絶縁基板5A、5Bとともに電波吸収シート2に熱圧着されている。
【0058】
スペーサ6の貫通孔6bは、第1の実施形態における対向面5Aaの穴5Abと同様、図15に示すように2個以上形成されていることが好ましい。この貫通孔6bは、一定間隔をもって配置されていることが好ましく、格子状または千鳥格子状に配置されていることがより好ましい。
【0059】
また、この貫通孔6bは、矩形状に形成されていることが好ましく、その貫通孔6bが1ショットプレス加工により形成されていることが好ましい。その際、スペーサ6の厚みを調整することにより、貫通孔6bの貫通長さが、25μm〜440μmに設定されていること、特に、50μm〜80μmに設定されていることがより好ましい。
【0060】
次に、図を用いて、第2の実施形態の電波吸収多層基板1Cの作用を説明する。
【0061】
第2の実施形態の電波吸収多層基板1Cにおいては、第1の実施形態と同様、軟磁性合金粉末3に非晶質相を主相とする金属ガラス合金を用いている。そのため、電波吸収シート2の透磁率が高まるとともに、その磁気損失が低下するので、電波抑制効果を向上させることができる。
【0062】
図15および図16に示すように、この電波吸収シート2を絶縁および保護するため、2枚の絶縁基板5A、5Bがその電波吸収シート2の表面2a側および裏面2b側から圧着されている。そして、第2の実施形態の電波吸収多層基板1Cにおいては、絶縁基板5A、5Bと電波吸収シート2との間に1個または2個以上の貫通孔6bを設けたスペーサ6を介在させている。図15に示すように、スペーサ6の貫通孔6bは電波吸収シート2に対向して設けられているので、図16に示すように、電波吸収シート2における貫通孔6bと対向する部分、すなわち、貫通孔対向部2fが他の部分2gよりも圧縮され難くなる。そのため、第1の実施形態と同様、電波吸収シート2の電波吸収率が低下するのを防止することができる。
【0063】
また、スペーサ6の貫通孔6bが2個以上形成されていれば、第1の実施形態における対向面5Aaの穴5Abと同様、貫通孔6bが電波吸収シート2に対する滑り止めになる。そのため、絶縁基板5A、5Bの圧着時において絶縁基板5A、5Bおよびスペーサ6がその圧縮方向と直交する方向に滑ってしまうことを防止することができる。また、2個以上の貫通孔6bが一定間隔をもって配置されていれば、スペーサ6の貫通孔6bの間に形成される壁部5Acが対向面5Aa、5Ba間の支持部となって等間隔に配置される。そのため、第1の実施形態と同様、電波吸収多層基板1Cの耐圧縮強度を向上させることができる。
【0064】
また、貫通孔6bを矩形状に形成すれば、貫通孔6bを一定間隔に形成しやすくなるので、貫通孔6bの形成個数を容易に増加させることができる。特に、貫通孔6bを格子状または千鳥格子状に配置することにより、貫通孔6bの形成個数を増加させながら電波吸収多層基板1Cの耐圧縮強度を向上させることができる。このようなスペーサ6の貫通孔6bが1ショットプレス加工により形成されているので、貫通孔6bを容易に形成することができる。
【0065】
そして、電波吸収シート2の厚さがその熱加圧前に25μm〜440μmであればその虚数透磁率(磁気損失)μ”は10以上になることを利用して、貫通孔6bの貫通深さを25μm〜440μmにすると、第1の実施形態において対向面5Aaの穴5Abの深さを25μm〜440μmにしたのと同様、電波吸収多層基板1Cの虚数透磁率μ”を10以上にすることができる。
【0066】
また、2枚の絶縁基板5A、5Bおよび貫通孔6bを有するスペーサ6は、プリプレグを用いて形成されており、電波吸収シート2に熱を加えて圧着されていれば、プリプレグの絶縁性および接着性が良いため、他の導体から電波吸収シート2を絶縁させながら電波吸収多層基板1Cを他の配線板に容易に接着することができる。また、スペーサ6にプリプレグを用いることにより、スペーサ6が電波吸収シート2からずれてしまうことを防止することができる。
【0067】
すなわち、第1および第2実施形態の電波吸収多層基板1Cによれば、電波吸収シート2の圧縮を部分的に防止することによりその電波吸収率の低下を防止しているので、電波吸収シート2に絶縁基板5A、5Bを圧着した場合であっても、電波吸収多層基板1Cに組み込まれる前に電波吸収シート2が有していた電波吸収率を維持することができるという効果を奏する。
【0068】
なお、本発明は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1の実施形態の電波吸収多層基板を示す分解縦断面図
【図2】第1の実施形態の電波吸収多層基板を示す縦断面図
【図3】第1の実施形態における2枚の絶縁基板のうち対向面に穴が形成された絶縁基板の対向面を示す平面図
【図4】絶縁基板の対向面に1個の穴が形成された場合の電波吸収多層基板を示す分解縦断面図
【図5】絶縁基板の対向面に1個の穴が形成された場合の電波吸収多層基板を示す縦断面図
【図6】対向面に1個の穴が形成された絶縁基板の対向面を示す平面図
【図7】穴が一定間隔を持って形成された場合の絶縁基板の対向面を示す平面図
【図8】穴が千鳥格子状に配置された場合の絶縁基板の対向面を示す平面図
【図9】第1の実施形態において絶縁基板が熱圧着される前の電波吸収シートを示す断面図
【図10】第1の実施形態において絶縁基板が熱圧着された後の電波吸収シートを示す断面図
【図11】他の実施形態においてそれぞれの対向面に穴が形成された場合の電波吸収多層基板を示す分解縦断面図
【図12】他の実施形態においてそれぞれの対向面に穴が形成された場合の電波吸収多層基板を示す縦断面図
【図13】他の実施形態において対向面に突部が形成された場合の電波吸収多層基板を示す分解縦断面図
【図14】他の実施形態において対向面に突部が形成された場合の電波吸収多層基板を示す縦断面図
【図15】第2の実施形態の電波吸収多層基板を示す分解縦断面図
【図16】第2の実施形態の電波吸収多層基板を示す縦断面図
【図17】従来の電波吸収多層基板の一例を示す分解縦断面図
【図18】従来の電波吸収多層基板において絶縁基板が熱圧着される前の電波吸収シートを示す断面図
【図19】従来の電波吸収多層基板の一例を示す縦断面図
【図20】従来の電波吸収多層基板において絶縁基板が熱圧着さた後の電波吸収シートを示す断面図
【符号の説明】
【0070】
1A、1A’、1B、1C
2 電波吸収シート
2c 穴対向部
2e 貫通孔対向部
3 軟磁性合金粉末
4 結着材
5A、5B 絶縁基板
5Aa、5Ba 対向面
5Ab、5Bb 穴
5Ac、5Bc 壁部
5Ad 突部
6 スペーサ
6b 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性合金粉末および結着材を含有しており、シート状に形成されている電波吸収シートと、
前記電波吸収シートに対向する対向面をそれぞれ有しており、前記電波吸収シートを挟み込んで前記電波吸収シートに圧着されている2枚の絶縁基板と
を備えており、
前記2枚の絶縁基板のうち少なくとも一方の絶縁基板は、1個または2個以上の穴もしくは突部が形成された前記対向面を有している
ことを特徴とする電波吸収多層基板。
【請求項2】
軟磁性合金粉末および結着材を含有しており、シート状に形成されている電波吸収シートと、
前記電波吸収シートを挟み込んで圧着されている2枚の絶縁基板と、
1個または2個以上の貫通孔を有するシート状に形成されており、前記貫通孔を前記電波吸収シートに対向させて前記絶縁基板と前記電波吸収シートとの間に挟まれているスペーサと
を備えていることを特徴とする電波吸収多層基板。
【請求項3】
前記穴もしくは前記突部または前記貫通孔は、2個以上形成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電波吸収多層基板。
【請求項4】
前記穴もしくは前記突部または前記貫通孔は、一定間隔をもって配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。
【請求項5】
前記穴もしくは前記突部または前記貫通孔は、矩形状または直線壁状に形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。
【請求項6】
前記穴もしくは前記突部または前記貫通孔は、格子状または千鳥格子状に配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。
【請求項7】
前記絶縁基板および前記スペーサは、プリプレグを用いて形成されているとともに、前記電波吸収シートに熱圧着されている
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。
【請求項8】
前記穴もしくは前記突部を有する前記絶縁基板または前記貫通孔を有するスペーサは、プレス加工により形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。
【請求項9】
前記軟磁性合金粉末は、非晶質相を主相とする金属ガラス合金である
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。
【請求項10】
前記穴もしくは前記突部または前記貫通孔は、25μm〜440μmの深さもしくは突出長さまたは貫通長さに形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の電波吸収多層基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−277329(P2008−277329A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115654(P2007−115654)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【出願人】(591188505)株式会社ワイケーシー (17)
【Fターム(参考)】