説明

電波遮蔽ケース

【課題】複数の無線タグが不規則に存在し得る環境下においても、無線タグリーダ・ライタが無線通信を行う対象の無線タグとのみ確実に通信を行えるようにする。
【解決手段】ケース本体10は、少なくとも第1の面11及びこの第1の面11に連結する第2の面12を有する。ケース本体10の第1の面11に、無線タグリーダ用アンテナ22の読取り面23を包囲可能な開口部17を形成する。また、ケース本体10の第2の面12に、ケース本体10の内部に開口部17で囲われたアンテナ22の読取り面23と対向するように無線タグ3を挿入可能な無線タグ用スリット18を形成する。ケース本体10の開口部17と無線タグ用スリット18以外の内面を電波吸収体19で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグリーダまたは無線タグリーダ・ライタの精度向上に寄与する電波遮蔽ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線タグと称される小型の通信媒体が開発され、流通,物流,交通,セキュリティなどの様々な分野で使用されている。無線タグは、電波を利用して無線通信装置との間で非接触による交信を行うことにより、メモリ内に保持したデータを送信したり、受信したデータをメモリ内に書き込んだりできる。無線通信装置は、一般には無線タグリーダ・ライタと称され、据置型のものや携帯型のもの等が実用に供せられている。
【0003】
無線タグリーダ・ライタは、平面バッチアンテナ等のアンテナを備えている。無線タグのデータを読取ったり、無線タグにデータを書き込んだりする場合、無線タグリーダ・ライタは、先ず、アンテナからタグ問合せ用の電波を送信する。この電波を受信した無線タグは、自己を識別するためのIDを含む応答電波を返す。そこで、無線タグリーダ・ライタは、無線タグからの応答電波を待機する。そして、アンテナを介して応答電波を受信すると、その応答電波に含まれるIDを認識する。このとき、電波の衝突などがなくIDを認識できたならば、無線タグリーダ・ライタは、そのIDを指定して読取りまた書込みコマンドの電波をアンテナから送信する。この電波を受信した無線タグは、コマンドで指定されたIDが自己のものか否かを判断する。自己のIDでない場合にはコマンドを実行しない。自己のIDである場合には、コマンドを実行する。
【0004】
このように、無線タグリーダ・ライタは、問合せ電波に応答した無線タグと無線通信を行ってデータの読取りまたは書込みを行う。ここで、無線タグリーダ・ライタからの問合せに応答する無線タグは、必ずしも1つとは限らない。アンテナからの電波が到達する交信領域内に存在する無線タグであれば、全て応答する可能性がある。また、必ずしもアンテナに最も近い無線タグからの応答を無線タグリーダ・ライタが最初に受信するとも限らない。このため、複数の無線タグが近づけられて置かれている環境下においては、無線タグリーダ・ライタが特定の無線タグと確実に無線通信を行うことは困難である。
【0005】
従来、複数の無線タグが一定の間隔を開けて取り付けられた台紙を搬送して、アンテナが設置されている位置に順次無線タグを送り込み、アンテナを介して無線タグと無線通信を行って、無線タグに所望のデータを書き込むようにした無線タグ発行装置において、無線通信を行う対象の無線タグとのみ確実に通信を行うようにした技術は、既に知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、次の技術が開示されている。すなわち、台紙の搬送面を金属部材で形成し、この金属部材にスリットを設ける。また、金属部材の下面に、凸部を有する誘電部材を配置し、その誘電部材の凸部を上記スリットに挿入して、凸部の上面と金属部材の上面を同一平面とする。さらに、誘電部材の凸部の下方に無線タグリーダ・ライタのアンテナを配置し、このアンテナを金属ケース内に収納する。しかして、無線通信の対象となる無線タグがスリット上に位置したとき、無線タグリーダ・ライタがアンテナを介してその無線タグと無線通信を行って、データを書込む。
【0007】
さらに、この特許文献1には、台紙を挟んでスリットと対向する位置に、アンテナの方向のみ開放して無線タグを包囲する金属ケースを設ける技術も開示されている。
【特許文献1】特開2005−190216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
流通分野では、商品の単品管理をバーコードでなく無線タグで行う技術が提案されている。すなわち、各商品にそれぞれ無線タグを付し、この無線タグのメモリに、当該タグが付されている商品のPLUコード、商品名、単価等の情報を記憶させる。決済装置であるPOS(Point Of Sales)端末には、バーコードスキャナの代わりに無線タグリーダ・ライタを接続する。そして、無線タグリーダ・ライタで客が買上げる商品に付された無線タグから商品情報を読み取る。そうすることにより、POS端末では、無線タグから読取った商品情報に基づいて売上データが単品単位で処理される。
【0009】
上述したように流通分野で無線タグを使用する場合、無線タグには必ずそのタグが付されている商品の正しい情報が記憶されていることが前提である。別の商品の情報や誤った情報が記憶されていた場合には、売上データに誤りが生じるばかりか、客に間違った金額で商品を販売してしまうこととなり、店の信用を失墜させる。
【0010】
その一方で、多くの店では、特売やタイムサービス等と称する値引を適時実施する。値引の際には、商品に付されている無線タグの単価情報を書き換えなければならない。この書き換えには、通常、携帯型の無線タグリーダ・ライタが使用される。無線タグリーダ・ライタは、価格変更の担当者が携帯する。担当者は、無線タグリーダ・ライタを持って売場へ行き、特売対象商品に付されている無線タグの単価情報を値引後の価格に書き換えたり、特売期間が終了した商品に付されている無線タグの単価情報を通常価格に書き換えたりする。このとき、確実に特売対象商品に付されている無線タグの情報を書き換えられたならば問題はないが、特売対象商品の近くに別の商品が存在しているような環境下では、特売対象商品に付されている無線タグの情報を確実に書き換えられるとは必ずしもいえない。
【0011】
特許文献1として示した技術は、無線タグが規則的に並べられた無線タグ発行装置において適用されたものである。したがって、売場のように複数の無線タグが不規則に存在し得る環境下にある無線タグリーダまたは無線タグリーダ・ライタには適用することができない。
【0012】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、複数の無線タグが不規則に存在し得る環境下においても、無線タグリーダまたは無線タグリーダ・ライタが無線通信を行う対象の無線タグとのみ確実に通信を行えるようにする電波遮蔽ケースを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、少なくとも第1の面及びこの第1の面に連結する第2の面を有するケース本体と、ケース本体の第1の面に形成され、無線タグリーダ用アンテナの読取り面を包囲可能な開口部と、ケース本体の第2の面に形成され、ケース本体の内部に開口部で囲われたアンテナの読取り面と対向するように無線タグを挿入可能な無線タグ用スリットと、ケース本体の開口部と無線タグ用スリット以外の内面を被覆する電波吸収体とを備えた電波遮蔽ケースである。
【発明の効果】
【0014】
かかる手段を講じた本発明の電波遮蔽ケースを使用することにより、複数の無線タグが不規則に存在し得る環境下においても、無線タグリーダまたは無線タグリーダ・ライタが無線通信を行う対象の無線タグとのみ確実に通信を行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態における電波遮蔽ケース1の外観を図1に示す。また、この電波遮蔽ケース1を無線タグリーダ・ライタ2に適用した一例を図2に示す。
図示するように、電波遮蔽ケース1は、ケース本体10を、略正六面体をなす矩形状のボックスで構成している。すなわち、略正方形の第1の面11と、この第1の面11の4辺からそれぞれ鉛直方向に同一サイズで連設された略正方形の第2〜第5の面12〜15と、これら第2〜第5の面12〜15の第1の面11と接合した辺とは反対側の各辺に接合する略正方形の第6の面16とから、ケース本体10を構成している。第1〜第6の各面11〜16は、いずれも金属板からなる。
【0017】
ケース本体10は、その第1の面11の略全域にわたって矩形状の開口部17を形成している。開口部17は、図2に示すように、無線タグリーダ・ライタ2におけるアンテナ22の読取り面23を包囲し得る大きさである。したがって、読取り面23を包囲し得る大きさであれば、第1の面11の略全域にわたって形成されていなくてもよい。ただし、略全域にわたって形成することにより、ケース本体10一面のサイズをアンテナ22のサイズに合わせることができる。
【0018】
無線タグリーダ・ライタ2は、ガンタイプのリーダ・ライタ本体21と、このリーダ・ライタ本体21の先端部21aに取り付けられたアンテナ22とからなる。アンテナ22は平面バッチアンテナであり、その読取り面23がリーダ・ライタ本体21の先端部21aより前方側に向けられている。無線タグリーダ・ライタ2は、リーダ・ライタ本体21の握り部24に設けられたトリガ25を引くことによって、アンテナ22の読取り面23からタグ問合せ用の電波を送信する。なお、アンテナ22において、読取り面23以外の面、例えば側面や読取り面23と反対側の面の通信感度は、低く抑えられている。
【0019】
また、ケース本体10は、その第2の面12の略中央部にスリット18を形成している。スリット18は、図2に示すように、無線タグ3が貼付されたラベル30を挿入可能な大きさであり、その長手方向を第1の面11と平行な方向としている。ラベル30は、金属以外の材質、例えば紙や樹脂からなる。
【0020】
ケース本体10の内面は、前記開口部17とスリット18とが形成された部分を除いて、電波吸収体19で被覆している。
【0021】
かかる構成の電波遮蔽ケース1をガンタイプの無線タグリーダ・ライタ2に適用する場合、ユーザは先ず、図2に示すように、ケース本体10をスリット18が上側となるように横向きにした状態で、その第1の面11に形成された開口部17に、アンテナ22の読取り面23を押し当てる。そうすると、読取り面23が開口部17によって囲われる。
【0022】
ユーザは次に、スリット18から無線通信対象の無線タグ3が貼付されたラベル30を1枚挿入する。そうすると、図2に示すように、無線タグ3がアンテナ22の読取り面23に対向して配置される。
【0023】
なお、図2では無線タグ3がラベル30を介することなくアンテナ22の読取り面23と対向している。しかし、ラベル30をスリット18に挿入する際に表裏を入れ替えて挿入してもよい。ラベル30は、金属以外の材質、例えば紙や樹脂からなる。したがって、アンテナ22の読取り面23から放射される電波に影響を及ぼさない。よって、無線タグ3がラベル30を介してアンテナ22の読取り面23と対向しても、同様な作用が得られる。
【0024】
この状態で、ユーザは、無線タグリーダ・ライタ2のトリガ25を引く。そうすると、アンテナ22の読取り面23からタグ問合せ用の電波が送信される。この電波は、無線タグ3で受信される。タグ問合せ用の電波を受信した無線タグ3は、自己を識別するためのIDを含む応答電波を返す。この応答電波はアンテナ22で受信される。無線タグリーダ・ライタ2は、アンテナ22を介して応答電波を受信すると、その応答電波に含まれるIDを認識する。このとき、電波の衝突などがなくIDを認識できたならば、無線タグリーダ・ライタ2は、そのIDを指定して読取りまた書込みコマンドの電波をアンテナから送信する。この電波を受信した無線タグ3は、コマンドで指定されたIDが自己のものか否かを判断する。そして、自己のIDである場合には、コマンドを実行する。
【0025】
ここで、本実施の形態では、アンテナ22の読取り面23がケース本体10の開口部17によって囲われた状態で、その読取り面23からタグ問合せ用の電波が送信される。この電波は、読取り面23からいかなる方向へ伝播してもケース本体10の内面に貼り付けられた電波吸収体19を通って、金属板からなる第2〜第6の面12〜16で反射する。したがって、電波がケース本体10の外部に漏れることはほとんどない。また、電波吸収体19を通過することによって、各面12〜16での反射波は弱いものとなる。
【0026】
したがって、アンテナ22から送信される電波を受信できる無線タグは、スリット18から挿入されたラベル30に貼付されている無線タグ3の1つだけである。しかも、無線タグ3は読取り面23と対向しているので、受信感度は非常に良好である。よって、無線タグリーダ・ライタ2においては、問合せ電波の送信に対して衝突が発生することなく確実に無線タグ3のIDを認識することができる。その結果、たとえケース本体10の外側近傍に他の無線タグが不規則に存在し得る環境下であっても、無線通信を行う対象の無線タグ、すなわちラベル30に貼付された無線タグ3とのみ確実に通信を行えるようになる。
【0027】
なお、上記実施の形態では、スリット18を第2の面12の略中央部に設けたが、スリット18の形成位置はこれに限定されるものではない。第1の面11と接合する第2の面12の一辺からスリット18までの距離は、使用するアンテナ22の種類に応じて設定する必要がある。例えば電波出力が弱いアンテナ22を使用する場合には、中央よりも第1の面11と接合する一辺側に近づけて形成することで、無線通信対象の無線タグ3と確実に通信を行えるようになる。
【0028】
そこで、複数種類のアンテナに対応できるようにするために、位置をずらして複数のスリット12を形成してもよい。この場合において、同一の面に複数のスリットを形成してもよいし、第1の面11に対して鉛直方向に延伸する第2〜第5の面12〜15にそれぞれスリットを1乃至複数形成してもよい。
【0029】
また、第6の面16と接合する第2の面12の他辺からスリット18までの距離には次のような制約がある。すなわち本実施の形態では、金属板からなるケース本体10の内面を電波吸収体19で被覆している。このため、スリット18から挿入された無線タグ3と第6の面16の内面を被覆する電波吸収体19との距離が近いと、アンテナ22から放射される電波の周波数特性が劣化するおそれがある。このため、第6の面16と接合する辺側にスリット18を近づけて形成することは好ましくない。なお、この周波数特性は、電波の周波数と電波吸収体19の透磁率によって決まる。
【0030】
ところで、上記実施の形態では、ケース本体10の開口部17にアンテナ22を単に押し当てるとしたが、図2の破線で示すように、開口部17に押し当てられたアンテナ22とケース本体10とを、ゴムバンド4等の固定手段で締め付けて固定してもよい。こうすることにより、アンテナ22にケース本体10が結合された状態で無線タグリーダ・ライタ2を持ち運ぶことができる。その結果、無線タグリーダ・ライタ2を価格変更の担当者が携帯し、担当者が、売場にて、特売対象商品に付されている無線タグの単価情報を値引後の価格に書き換えたり、特売期間が終了した商品に付されている無線タグの単価情報を通常価格に書き換えたりする運用に使い勝手がよくなる。
【0031】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態における電波遮蔽ケース5の外観を図3に示す。また、この電波遮蔽ケース5を無線タグリーダ・ライタ2に適用した一例を図6に示す。なお、第1の実施の形態と同一部分については同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0032】
図示するように、電波遮蔽ケース5は、ケース本体50を、略正六面体をなす矩形状のボックスで構成している。すなわち、略正方形の第1の面51と、この第1の面51の4辺からそれぞれ鉛直方向に同一サイズで連設された略正方形の第2〜第5の面52〜55(53は不図示)と、これら第2〜第5の面52〜55の第1の面51と接合した辺とは反対側の各辺に接合する略正方形の第6の面66とから、ケース本体50を構成している。第1〜第6の各面51〜56は、いずれも金属板からなる。
【0033】
ケース本体50は、その第2の面52の略中央部に、無線タグリーダ・ライタ2のアンテナ22を挿入可能なアンテナ用スリット57を形成している。アンテナ用スリット57は、その長手方向を第1の面51と平行な方向としている。
【0034】
また、ケース本体50は、その第2の面52の中央部より第6の面56側に、無線タグ3が貼付されたラベル30を挿入可能な無線タグ用スリット58を、前記アンテナ用スリット57と略平行に形成している。
【0035】
ケース本体50の内面は、前記アンテナ用スリット57と無線タグ用スリット58とが形成された部分を除いて、電波吸収体59で被覆している。
【0036】
上記電波吸収体59で被覆された第3の面53の内側とそれに対向する第5の面55の内側には、アンテナ用スリット57から挿入されたアンテナ22の両側面をガイドする一対のアンテナガイド60a,60b(60aは不図示)を取り付けている。さらに、第2の面52のアンテナ用スリット57より第1の面51側には、リーダ・ライタ2本体21の先端部21a下側に貼り付けられた第1の面ファスナ26と着脱自在に連結する第2の面ファスナ61を貼り付けている。ここに、一対のアンテナガイド60a,60bと第2の面ファスナ61は、アンテナ用スリット57から挿入されたアンテナ22をケース本体50の内部で固定する固定手段を構成する。
【0037】
かかる構成の電波遮蔽ケース5をガンタイプの無線タグリーダ・ライタ2に適用する場合、ユーザは先ず、図4に示すように、ケース本体50をアンテナ用スリット57と無線タグ用スリット58とが上側となるように横向きにした状態で、アンテナ用スリット57にアンテナ22を挿入する。そうすると、アンテナ22は、その両側が一対のアンテナガイド60a,60bによってガイドされて、その読取り面23がケース本体50の第4の面54に対して略直交する方向に位置決めされる。また、リーダ・ライタ本体21に設けられた第1の面ファスナ26とケース本体50の第2の面52に設けられた第2の面ファスナ61とが結合して、リーダ・ライタ本体21にケース本体50が固定される。
【0038】
ユーザは次に、無線タグ用スリット58から無線通信対象の無線タグ3が貼付されたラベル30を1枚挿入する。そうすると、図4に示すように、無線タグ3がアンテナ22の読取り面23に対向して配置される。なお、図4では無線タグ3がラベル30を介してアンテナ22の読取り面23と対向しているが、ラベル30を無線タグ用スリット58に挿入する際に表裏を入れ替えて挿入することで、無線タグ3がラベル30を介することなくアンテナ22の読取り面23と対向しても問題はない。
【0039】
この状態で、ユーザは、無線タグリーダ・ライタ2のトリガ25を引く。そうすると、アンテナ22の読取り面23からタグ問合せ用の電波が送信される。この電波は、無線タグ3で受信される。タグ問合せ用の電波を受信した無線タグ3は、自己を識別するためのIDを含む応答電波を返す。この応答電波はアンテナ22で受信される。無線タグリーダ・ライタ2は、アンテナ22を介して応答電波を受信すると、その応答電波に含まれるIDを認識する。このとき、電波の衝突などがなくIDを認識できたならば、無線タグリーダ・ライタ2は、そのIDを指定して読取りまた書込みコマンドの電波をアンテナから送信する。この電波を受信した無線タグ3は、コマンドで指定されたIDが自己のものか否かを判断する。そして、自己のIDである場合には、コマンドを実行する。
【0040】
ここで、本実施の形態では、アンテナ22の読取り面23がケース本体50の内部に収容された状態で、その読取り面23からタグ問合せ用の電波が送信される。この電波は、読取り面23からいかなる方向へ伝播してもケース本体50の内面に貼り付けられた電波吸収体19を通って、金属板からなる第1〜第6の面51〜56で反射する。したがって、電波がケース本体50の外部に漏れることはほとんどない。また、電波吸収体19を通過することによって、各面51〜56での反射波は弱いものとなる。
【0041】
したがって、アンテナ22から送信される電波を受信できる無線タグは、無線タグ用スリット58から挿入されたラベル30に貼付されている無線タグ3の1つだけである。しかも、無線タグ3は読取り面23と対向しているので、受信感度は非常に良好である。よって、無線タグリーダ・ライタ2においては、問合せ電波の送信に対して衝突が発生することなく確実に無線タグ3のIDを認識することができる。その結果、たとえケース本体50の外側近傍に他の無線タグが不規則に存在しえる環境下であっても、無線通信を行う対象の無線タグ、すなわちラベル30に貼付された無線タグ3とのみ確実に通信を行えるようになる。
【0042】
なお、上記実施の形態では、アンテナ22がケース本体50の内部に完全に収容される。したがって、読取り面23以外の面、例えば側面や読取り面23と反対側の面の通信感度が低く抑えられている必要はない。
【0043】
また、上記実施の形態では、アンテナ用スリット57と無線タグ用スリット58とを同一面、すなわち第2の面52に設けたが、第1の面51に対して鉛直方向に延伸する第2〜第5の面52〜55のいずれか2つに分けて形成してもよい。ただし、この第2の実施の形態においても、アンテナ用スリット57に挿入されたアンテナ22の読取り面23から、無線タグ用スリット58に挿入された無線タグ3までの距離と、上記無線タグ3から第6の面56までの距離には、第1の実施の形態と同様な制約がある。
【0044】
また、固定手段は、上記実施の形態のものに限定されるものではない。例えば、第1,第2の面ファスナ26,61に代えて磁石を用いてもよい。
【0045】
(第3の実施の形態)
ところで、第1及び第2の実施の形態の電波遮蔽ケース1,5は、いずれもケース本体10,50の内面を電波吸収体19,59で被覆するものの、ケース本体10,50を構成する金属板での乱反射を完全になくすことはできない。このため、アンテナ22から放射される電波と乱反射した電波とが重なり合って、そのパワーの合計がゼロとなるポイント、いわゆるヌルポイントが発生する場合がある。仮に、このヌルポイントが、無線タグ用のスロット18,58から挿入された無線タグ3の位置で発生すると、無線タグリーダ・ライタ2で当該無線タグ3のデータを読み取ることができなくなる。このような不具合は、アンテナ22の読取り面23から無線タグ3までの距離をずらすことによって解消できる。
【0046】
そこで次に、アンテナ22の読取り面23からそれに対向する無線タグ3までの距離を可変可能とした第3の実施の形態について説明する。なお、この第3の実施の形態では、第1の実施の形態の電波遮蔽ケース1に適用した場合を示すが、第2の実施の形態の電波遮蔽ケース5に対しても同様に適用できるものである。
【0047】
第3の実施の形態では、図5に示すように、無線タグ3が挿入されるスリット18よりケース本体10の内部に、ガイド手段として一対の可動式ガイド板71,72を設けており、スリット18から挿入された無線タグ3付きのラベル30がこれらガイド板71,72の間に入り込むようになっている。ガイド板71,72は、それぞれが独立しており、スリット18側の一端を支軸73,74として、図5中時計方向または反時計方向に回動自在である。
【0048】
これらのガイド板71,72をケース本体10の内部で回動させることにより、スリット18からガイド板71,72の間に入り込んだ無線タグ3を、アンテナ22の読取り面23から離反する方向または接近する方向に移動させることができる。
【0049】
ガイド手段は、上記可動式ガイド板71,72に限定されるものではない。ガイド手段の他の実施の形態を図6,図7に示す。図6に示したガイド部材80は、一対のガイド板71,72を一体化したものである。このガイド部材80は、スリット18側の一端を支軸81として、図6中時計方向または反時計方向に回動自在である。その作用は、図5に示した一対のガイド板71,72と同様である。
【0050】
図7に示したガイド部材90は、三角柱状をなしており、その底面をスリット18に対向する第4の面14の内側に固定している。このようなガイド部材90を設けることにより、スリット18から挿入された無線タグ3付きのラベル30を、アンテナ22の読取り面23から離反する方向または接近する方向に反らすことができる。
【0051】
なお、前記各実施の形態では、ケース本体10,50を略立方体としたが、ケース本体10,50の形状はこれに限定されるものではなく、例えば直方体状や円柱状などであってもよい。また、第2の実施の形態として示したケース本体50の場合は、球体状をなしていても実施することは可能である。
【0052】
また、使用される無線タグリーダ・ライタ2は、ガンタイプのものに限定されるものではなく、ハンディターミナルタイプであってもよい。また、定置式の無線タグリーダ・ライタに本発明の電波遮蔽ケースを適用することも可能である。
【0053】
この他、前記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を組合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施の形態である電波遮蔽ケースを示す斜視図。
【図2】同第1の実施の形態である電波遮蔽ケースの一実用例を示す一部断面図。
【図3】本発明の第2の実施の形態である電波遮蔽ケースを示す斜視図。
【図4】同第2の実施の形態である電波遮蔽ケースの一実用例を示す一部断面図。
【図5】本発明の第3の実施の形態である電波遮蔽ケースの要部を示す模式図。
【図6】同第3の実施の形態の変形例を示す模式図。
【図7】同第3の実施の形態のさらに別の変形例を示す模式図。
【符号の説明】
【0055】
1,5…電波吸収ケース、2…無線タグリーダ・ライタ、3…無線タグ、4…ゴムバンド、10,50…ケース本体、11〜16,51〜56…第1〜第6の面、17…開口部、18,58…無線タグ用スリット、19,59…電波吸収体、22…アンテナ、23…読取り面、30…ラベル、57…アンテナ用スリット、60a,60b…アンテナガイド、26,61…第1,第2の面ファスナ、71,72…可動式ガイド板、80,90…ガイド部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の面及びこの第1の面に連結する第2の面を有するケース本体と、
前記ケース本体の第1の面に形成され、無線タグリーダ用アンテナの読取り面を包囲可能な開口部と、
前記ケース本体の前記第2の面に形成され、前記ケース本体の内部に前記開口部で囲われた前記アンテナの読取り面と対向するように無線タグを挿入可能な無線タグ用スリットと、
前記ケース本体の前記開口部と前記無線タグ用スリット以外の内面を被覆する電波吸収体と、
を具備したことを特徴とする電波遮蔽ケース。
【請求項2】
前記開口部によって前記読取り面が包囲された前記アンテナを前記ケース本体に固定する固定手段、
をさらに具備したことを特徴とする請求項1記載の電波遮蔽ケース。
【請求項3】
ケース本体と、
前記ケース本体のいずれか一面に形成され、前記ケース本体の内部に無線タグリーダ用アンテナを挿入可能なアンテナ用スリットと、
前記ケース本体のいずれか一面に形成され、前記ケース本体の内部に前記アンテナ用スリットから挿入された前記アンテナの読取り面と対向するように無線タグを挿入可能な無線タグ用スリットと、
を具備したことを特徴とする電波遮蔽ケース。
【請求項4】
前記アンテナ用スリットから挿入された前記アンテナを前記ケース本体の内部で固定する固定手段、
をさらに具備したことを特徴とする請求項3記載の電波遮蔽ケース。
【請求項5】
前記無線タグ用スリットから挿入された無線タグの位置を、前記アンテナの読取り面との間隔が離反または接近する方向にずらすガイド手段、
をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1に記載の電波遮蔽ケース。
【請求項6】
前記ケース本体は、金属板からなることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1に記載の電波遮蔽ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−72755(P2010−72755A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237118(P2008−237118)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】