説明

電流測定装置

【課題】電流による磁界を検知し電流を測定すると共に、電流検知感度を可変とする。
【解決手段】 貫通孔2を設けた一次導体1に被測定電流Iを流すと、貫通孔2の影響がない個所では主方向であるY軸方向に流れ、発生する磁束は電流方向と直交するX軸方向を向く。貫通孔2の近傍では迂回電流IaはY軸方向に対し傾くことから、Y軸方向の磁界ベクトル成分Hy及びX軸方向のベクトル成分Hxが共に発生するが、Y軸方向の磁束のベクトル成分Hyを磁気検出素子3a、3bにより測定する。
入出力位置として、入力端部A〜C、出力端部A’ 〜C’が設けられており、これらの端部A〜C’を組み合わせて被測定電流Iの入出力位置を選択する。端部A−A’を選択した場合は、端部B−B’を選択した場合に比べて、迂回電流IaのY軸方向を向く磁界ベクトル成分Hyが大きくなるため、電流測定の検知感度が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定電流が流れる一次導体の被導電領域の近傍において磁界を検知することにより被測定電流の電流量を求め、一次導体への被測定電流の入出力端を変えることで、電流検知感度を可変する電流測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電流の測定では、被測定電流を囲んだ磁気コアのギャップ部に磁界を発生させ、磁界を磁気検出素子を介して電圧値として検出し、電圧値を校正して換算することで、被測定電流量を計算する電流測定装置が従来から使用されている。
【0003】
その一例として、特許文献1のように、磁気検出素子としてフラックスゲート素子を使用した電流測定装置がある。この特許文献1においては、一次導体は励磁コイルとして機能するため、一次導体のターン数を変えて磁気コア内で発生する磁界の強さを調整することができる。
【0004】
そのため、トランスのように一次導体の結線方法を変えて磁気コアへのターン数を変え、磁気コア内で発生する磁束の調整ができ、電流測定装置の感度を可変できる。
【0005】
一方、小型化に適し、特許文献2に示すようなコアを必要としないコアレスの電流測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2010/0301852A1号公報
【特許文献2】特開2009−276359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のような一次側導体を励磁コイルとして機能させる電流測定装置においては、一次側導体のターン数を変えて、磁気コア内で発生する磁束を選択することができるが、コアを必要とするため小型化には適さない。
【0008】
また、特許文献2のようなコアレスの電流測定装置では、一次側導体が発する周回磁界を磁気検出素子で直接検知するため、特許文献1のように一次側導線のターン数を増やすような方法を採ることは難しい。
【0009】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、一次導体の非導電領域に対する迂回電流の主方向を向く磁界成分の検知を行って被測定電流を測定し、一次導体内の電流分布を変化させることにより、電流検知感度を可変できる電流測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る電流測定装置は、被測定電流が流れる一次導体に非導電領域を設けて、磁気検出素子により前記非導電領域を迂回する前記被測定電流の主方向を向く磁界成分の検知を行うことによって電流を測定する電流測定装置において、前記一次導体への被測定電流の入出力位置を変えることにより、前記迂回電流の前記一次導体を流れる分布を変えて前記被測定電流の検知感度を可変するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電流測定装置によれば、一次導体を流れる被測定電流の測定を行うと共に、一次導体の入出力位置を選択することで、被測定電流の検知感度を可変する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例の電流測定装置の基本的な斜視図である。
【図2】一次導体内の電流と磁場の説明図である。
【図3】一次導体内の電流経路の説明図である。
【図4】検出回路の構成図である。
【図5】検知電流と出力電圧のグラフ図である。
【図6】具体的実施例の斜視図である。
【図7】第1変形例の斜視図である。
【図8】第2変形例の斜視図である。
【図9】第3変形例の構成図である。
【図10】第4変形例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は被測定電流に対する電流測定を行う電流測定装置の基本的な斜視図である。一次導体1は例えばプリント基板上の銅箔パターン或いは銅板で形成されたバスバー等の形態とされ、この一次導体1に検知対象の被測定電流Iが流れるようになっている。
【0014】
一次導体1のほぼ中央には、部分的に電流の遮断を行うために、非導電領域である円形の貫通孔2が設けられており、このため被測定電流Iの一部は図2に示すように、この貫通孔2の両側において外側を対称的に回り込む迂回電流Iaとなる。なお、非導電領域は必ずしも貫通孔2ではなく、電流を遮断する非導電物質を埋め込むようにしてもよい。
【0015】
なお、説明の便宜のために、一次導体1に座標軸を設定し、貫通孔2の中心を原点Oとして、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸として説明する。
【0016】
一次導体1上には、2つの磁気検出素子3a、3bが貫通孔2から側方のX軸方向に離隔し、Y軸方向に向けて直列的に、かつX軸に対して対称的に配置され、出力同士を差動的に検知するようになっている。磁気検出素子3a、3b上の検知部4a、4bはY軸方向が磁界検知方向となるように配置されている。そして、検知部4a、4bそれぞれの中心位置は、原点OよりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dy、Z軸方向には一次導体1の表面から距離dzずらした個所に設けられている。
【0017】
図2に示すように、一次導体1に被測定電流Iを流すと、貫通孔2の影響がない個所では、被測定電流Iは主方向であるY軸方向に流れる。電流により発生する磁束は電流方向と直交する方向を向くので、一次導体1の入力側の幅w内では、磁界ベクトル成分Hc0のように、X軸方向のベクトル成分Hxしか持たない磁場となる。
【0018】
しかし、貫通孔2の近傍では迂回電流IaはY軸方向に対し傾くことから、この迂回電流Iaにより貫通孔2の両側で磁場が歪んだ磁界ベクトル成分Hc1が発生する。つまり、迂回電流Iaの傾き部分においては、Y軸方向のベクトル成分Hy及びX軸方向のベクトル成分Hxが共に発生する。ベクトル成分Hyとベクトル成分Hxのベクトル和は被測定電流Iの大きさに比例し、貫通孔2のY軸の正負両側では電流方向が対称形のため、ベクトル成分HyはX軸を挟んで対称となり、極性は逆になる。
【0019】
電流測定に際しては、Y軸方向である一方向の磁界ベクトル成分Hyのみを検知するために、使用する磁気検出素子3a、3bは指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子が好適であり、実施例では磁気インピーダンス素子を用いている。検知部4a、4bとして、磁性薄膜から成り磁界検知方向のY軸方向につづら折りに並列されたパターンが形成されている。両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4a、4bの両端から、Y軸方向の磁界ベクトル成分Hyのみの電圧振幅変化をセンサ信号として得て、電流値に換算することにより測定が可能となる。
【0020】
一次導体1には、被測定電流Iの複数個所の入出力位置として、入力側の左端、中央、右端に入力端部A、B、C、出力側にこれらの入力端部A、B、Cに対向して出力端部A’、B’、C’が設けられている。そして、これらの入出力端部A〜C’を組み合わせて被測定電流Iの入出力位置を選択することができる。例えば、図2では中央の入出力端部B−B’を電流の入出力位置として選択した場合の電流経路を表したものであり、電流経路はY軸に対して対称な分布となる。
【0021】
図3は一次導体1への被測定電流Iの入出力位置として端部A−A’を選択した場合の電流経路を示し、端部B−B’を選択した場合に比べて、貫通孔2の近傍における被測定電流Iの主方向を向く磁界成分が大きくなるため、電流測定の検知感度が高くなる。この原理から、一次導体1の被測定電流Iの入出力位置を変えることで、所望の電流検知感度を選択することが可能となる。
【0022】
図4は検出回路の構成図を示し、CRパルス発振回路に対しブリッジを構成する抵抗Rに、磁気検出素子3a、3bの検知部4a、4bが接続されている。検知部4a、4bの両端電圧からの振幅変化を振幅検波回路により取り出した後に、差動増幅回路で検知部4a、4bの出力に対し差動増幅が行われて、電流測定装置としての出力を得る。
【0023】
この場合に、検知部4a、4bの出力は、感度が同じでX軸を挟んで対称な位置にあれば絶対値は同じになり、極性が異なるため差動的に検出すると、出力は検知部4a又は4bの絶対値の2倍となる。また、外来の磁界ノイズは狭い範囲にある検知部4a、4bでは同相となり、検知部4a、4bの出力を差動的に捉えることにより、磁界ノイズは相殺されて、出力に重畳されることはなく、迂回電流Iaのベクトル成分Hyのみが測定されることになる。
【0024】
ここで、被測定電流Iの入出力端部の3端部の全てを接続する場合、つまり端部(A+B+C)−(A’+B’+C’)の結線方法、或いは端部A−A’、 B−B’、C−C’のように1個所同士を結線する場合とで、出力電圧の比較を行った。
【0025】
例えば、電流3A(アンペア)を一次導体1に通電した場合には、端部(A+B+C)−(A’+B’+C’)の結線では、電圧振幅変化によるセンサ信号は116.1mVの出力値となった。これに対し、端部A−A’のみを接続した場合は253mVであり、同様に端部B−B’においては151.1mV、端部C−C’においては50.7mVとなっている。この結果から、被測定電流Iの一次導体1への被測定電流Iの入出力位置を選択することで、電流測定装置の感度を可変できることが分かる。
【0026】
また、対向する2個所同士の結線、例えば端部(A+B)−(A’+B’)のような結線によっても、電流測定感度を変えることができることは勿論である。なお、対向する端部同士以外の結線、例えば端部Aと端部B’とを結線することもできるが、電流分布が検知部4aと4bとで対称とならないので、差動的出力の処理が稍々複雑となる問題はある。
【0027】
図5は電流測定装置において、一次導体1にAC電流(60Hz)を1〜10Armsまで可変して通電し、被測定電流Iを測定したグラフ図を示している。この結果から、1〜10Aの範囲において直線性が保たれていることが分かる。
【0028】
図6は電流測定装置の具体的な実施例であり、一次導体1に複数の入出力端子を設けた構成となっており、一次導体1の入力端部A、B、Cに入力端子6a、6b、6c、出力端部A’、B’、C’に出力端子6d、6e、6fが接続されている。これらの入出力端子6a、6b、6c、6d、6e、6fにより、前述したように入力端部と出力端部で1組ずつ、或いは複数組ずつを選択することにより、電流検出感度を可変できる。
【0029】
図7は第1変形例の斜視図であり、一次導体1の被測定電流Iの入力出力端部A〜C’に相当する位置に、電線7をハンダ付けにより入出力位置を選択して検知感度を変えている。これにより、図6に示すように一次導体1に入出力端部A〜C’を設ける必要がなくなる。
【0030】
なお、図7では電線7の固定方法としてハンダ付けを採用しているが、ハンダ付けでなくとも、例えばクランプねじを使用して固定する方法等も考えられる。
【0031】
図8は第2変形例の斜視図を示し、一次導体1の端部A〜C’に相当する位置にねじ孔から成る複数個の取付孔8を形成し、この取付孔8を選択して電線のねじ止め個所とすることによって、被測定電流Iの入出力位置を選択している。これにより、一次導体1にねじで機械的に固定する場合でも、取付孔8を選択することで被測定電流Iの測定感度を可変できる。
【0032】
図9は第3変形例の構成図であり、入力端部、出力端部においてバー状の接触子9を摺動させて接触可能とし、例えばねじで接触子9を固定することにより、連続的に一次導体1と接触子9との接触個所を変えるようにしている。
【0033】
この場合は入出力端部A〜C’は特定されず、一次導体1の両端部の任意個所に接触させればよい。なお、貫通孔2に対する迂回電流IaがX軸を中心に対称となるように接触子9を接触させることが好ましい。これにより、連続的に電流検知感度を調整することができる。
【0034】
図10は第4変形例の構成図であり、スイッチを使用して電流検知感度を調整する例を示している。一次導体1に設けられた入力端部A〜C、出力端部A’〜C’にそれぞれにスイッチ10を配置し、電流検知感度に合わせて入出力端子A〜C’を組み合わせるスイッチ制御を行う。
【0035】
これにより、入出力端部A〜C’に端子等を機械的に付け変えることなく、遠隔的なスイッチ制御で電流検知感度を変えることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 一次導体
2 貫通孔
3a、3b 磁気検出素子
4a、4b 検知部
5 電極
6a〜6c、6d〜6f 入出力端子
7 電線
8 取付孔
9 接触子
10 スイッチ
A、B、C、A’、B’、C’ 入出力端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流が流れる一次導体に非導電領域を設けて、磁気検出素子により前記非導電領域を迂回する前記被測定電流の主方向を向く磁界成分の検知を行うことによって電流を測定する電流測定装置において、前記一次導体への被測定電流の入出力位置を変えることにより、前記迂回電流の前記一次導体を流れる分布を変えて前記被測定電流の検知感度を可変するようにしたことを特徴とする電流測定装置。
【請求項2】
前記磁気検出素子は一方向の磁界成分を検知可能とし、該磁界検知方向を前記被測定電流の主方向となるように前記磁気検出素子を前記非導電領域の側方に離隔して配置したことを特徴とする請求項1に記載の電流測定装置。
【請求項3】
前記一次導体への前記被測定電流の入出力位置を前記一次導体の入力側、出力側の複数個所にそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電流測定装置。
【請求項4】
前記入出力位置は前記一次導体の入力側、出力側に対向して配置したことを特徴とする請求項1又は2又は3に記載の電流測定装置。
【請求項5】
前記入力側、出力側の入出力位置を選択して端子を接続したことを特徴とする請求項3又は4に記載の電流測定装置。
【請求項6】
前記入力側、出力側の入出力位置を選択して電線をハンダ付けしたことを特徴とする請求項3又は4に記載の電流測定装置。
【請求項7】
前記入力側、出力側の入出力位置に取付孔を設け、これらの取付孔を選択して電線を接続したことを特徴とする請求項3又は4に記載の電流測定装置。
【請求項8】
前記入力側、出力側の入出力位置を選択して接触個所を連続的に変える接触子を設けたことを特徴とする請求項3又は4に記載の電流測定装置。
【請求項9】
前記入力側、出力側の入出力位置をスイッチによって接続個所を選択することを特徴とする請求項3又は4に記載の電流測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−53914(P2013−53914A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191938(P2011−191938)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】