説明

電源回路

【課題】 新規バックアップ用電池を具備することで、小型化、薄型化、軽量化に対応した電源回路を提供する。
【解決手段】 主電源と、メモリ素子を備えた動作部と、主電源監視部と、バックアップ用電池と、を具備する電源回路であって、前記バックアップ用電池の発電部が、少なくとも、第1の電極31が配置された酸性媒体32と、第2の電極33が配置された塩基性媒体34と、を備え、該酸性媒体及び該塩基性媒体が互いに隣接若しくは近設されてなり、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体の少なくともいずれか一方に反応物質を含有されてなる電源回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源回路に関し、特に、酸性媒体とそれに接した塩基性媒体とを利用したバックアップ用電池を具備した電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの電子機器において電源回路が用いられている。この電源回路は、一般に、動作部全体に電源を供給する主電源と、中央演算処理装置(CPU)用のメモリ素子から構成される動作部と、動作部のバックアップを目的とするバックアップ用電池と、で構成されており、主電源からの電源の供給が停止した時に、電源の供給を、主電源からバックアップ用電池に切り換えることによってメモリ素子の記憶を保持させておくことができるものである。
近年、電子機器は、小型化、薄型化、軽量化の傾向が著しく、特にOA機器の分野においては小型軽量化が進んでおり、それに伴い、電子機器を構成する各部品に対しても小型軽量化の要望が非常に大きく、それに従い、電源回路も、小型化、薄膜化、軽量化に対応する必要性が出てきた。
【0003】
電源回路の構成部材であるバックアップ用電池としては、ボタン型、コイン型等の一次電池が知られている。これらの一次電池は、例えば、マンガン系や水銀系の一次電池の場合、経済性や反応を担う化学物質の貯蔵性に優れるが、電極に亜鉛や水銀或いはリチウムといった非常に有害物質を含んでいるため、使用後にそれらの重金属類を放置すると環境に悪影響を与えてしまうことから、厳密な回収を必要とする。そのため、使用後の電池廃棄や再資源化に多くのコストがかかってしまう問題を有している。
また、この一次電池は、上記の有害物質の液漏れ防止するために、反応を担う化学物質や電極を厳重に外装する必要であるため、電池の形状及び大きさに対して構造上の制限が加わる。特に、外装に用いられる材料には、例えば、電池の薄膜化の観点から、強度の高い金属が用いられているが、重量が大きくなってしまい、結果として、電池の重量エネルギー密度が小さくなってしまう問題や、短絡や感電が生じてしまう恐れを有していた。また、外装材料に金属フィルムを用いることも提案されている(例えば、特許文献1参照。)が、この技術により薄膜化及び軽量化に関する一定の効果が得られるものの、短絡や感電の発生の防止については考慮されておらず、また、更なる、薄膜化、小型化、軽量化の要望を満たすためには、不充分であった。
なお、このような一次電池を具備する電源回路自体の小型化、薄型化、及び軽量化に関しても、未だ不充分であるのが現状である。
【特許文献1】特開平10−125336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上から、本発明は上記従来の課題を解決することを目的とする。
即ち、本発明は、小型化、薄型化、軽量化に対応した電源回路を提供することを目的とする。更に詳しくは、新規バックアップ用電池を具備することで、小型化、薄型化、軽量化に対応した電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は下記の本発明により達成される。
即ち、本発明の電源回路は、主電源と、メモリ素子を備えた動作部と、主電源監視部と、バックアップ用電池と、を具備する電源回路であって、
前記バックアップ用電池の発電部が、少なくとも、第1の電極が配置された酸性媒体と、第2の電極が配置された塩基性媒体と、を備え、該酸性媒体及び該塩基性媒体が互いに隣接若しくは近設されてなり、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体の少なくともいずれか一方に反応物質を含有されてなることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の電源回路における主電源監視部は、主電源から供給される電力が所定値以下に下がった時に、バックアップ用電池の電力をメモリ素子に供給させるように作用する切り換え手段を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の電源回路に用いられるバックアップ用電池においては、下記第1〜第18の態様が少なくとも1つ適用されていることが好ましい。
【0008】
(1)第1の態様は、前記反応物質が、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のそれぞれに含有されてなる態様である。
(2)第2の態様は、前記酸性媒体に含有される前記反応物質としての第1の物質と、前記塩基性媒体に含有される前記反応物質としての第2の物質と、が同一の物質である態様である。
(3)第3の態様は、前記反応物質が過酸化水素である態様である。
(4)第4の態様は、前記反応物質が、当該反応物質を含有する液体若しくは固体、或いは、化学変化によって当該反応物質を生成する液体若しくは固体、の状態で供給されてなる態様である。
(5)第5の態様は、前記酸性媒体が酸性水溶液からなり、かつ、前記塩基性媒体が塩基性水溶液からなる態様である。
【0009】
(6)第6の態様は、前記酸性水溶液が、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、塩化水素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、オルトリン酸、ポリリン酸、硝酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロ珪酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロ砒酸、ヘキサクロロ白金酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、蓚酸、サリチル酸、酒石酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、及びピクリン酸からなる群より選択される酸を1以上含む態様である。
(7)第7の態様は、前記塩基性水溶液が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウムを含む群から選択される塩基を1以上含む、又は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウムを含む群から選択されるアルカリ金属塩を1以上含む態様である。
【0010】
(8)第8の態様は、前記酸性媒体が酸性のイオン交換部材から構成され、かつ、前記塩基性媒体が塩基性のイオン交換部材から構成される態様である。
(9)第9の態様は、前記イオン交換部材が、ポリビニルスチレン系のイオン交換樹脂、ポリフルオロヒドロカーボンポリマー系の高分子電解質膜、ポリビニルスチレン系のイオン交換膜、及び繊維状ポリスチレン系のイオン交換濾紙からなる群より選択される態様である。
(10)第10の態様は、前記酸性媒体が酸性のイオン伝導性ゲルから構成され、かつ、前記塩基性媒体が塩基性のイオン伝導性ゲルから構成される態様である。
(11)第11の態様は、前記酸性のイオン伝導性ゲルが、酸性水溶液を水ガラス、無水二酸化ケイ素、架橋ポリアクリル酸、寒天、又はその塩類によりゲル化してなる態様である。
(12)第12の態様は、前記塩基性のイオン伝導性ゲルが、塩基性水溶液をカルボキシメチルセルロース、架橋ポリアクリル酸、又はその塩類によりゲル化してなる態様である。
【0011】
(13)第13の態様は、前記第1の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成される態様である。
(14)第14の態様は、前記第2の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成される態様である。
(15)第15の態様は、前記第1の電極及び第2の電極が、板状、薄膜状、網目状、又は繊維状である態様である。
(16)第16の態様は、前記第1の電極及び前記第2の電極が、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法により、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のそれぞれ配置されてなる態様である。
【0012】
(17)第17の態様は、前記発電部の少なくとも一部が、外装材に覆われてなる態様である。
(18)第18の態様は、前記外装材が、ポリマー樹脂、セラミック、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成される態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規バックアップ用電池を具備することで、小型化、薄型化、軽量化に対応した電源回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の電源回路について詳細に説明する。
本発明の電源回路は、主電源と、メモリ素子を備えた動作部と、主電源監視部と、バックアップ用電池と、を具備する。以下、本発明の電源回路の構成について、図1を参照して、説明する。ここで、図1は、本発明の電源回路の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の電源回路は、主電源1と、中央演算処理装置(CPU)3及びそのメモリ素子4を備える動作部2と、主電源監視部5と、バックアップ用電池6と、を備えることを要する。
【0015】
主電源1は、一般的な商用電源やバッテリーなどを指し、CPU3やそのメモリ素子4を含む動作部2を駆動させるのに充分な電力を供給するものであれば、特に制限されるものではない。
通常、動作部が中央演算処理装置(CPU)とそのメモリ素子であるRAMメモリとを備える場合、5Vの電圧と、約5mAの電流を供給すればよい。
【0016】
本発明の動作部2とは、中央演算処理装置(CPU)3と、そのメモリ素子4と、を含むものであれば、特に制限されるものではない。この動作部2の構成は、ほとんどの電子機器に含まれる基本構造となる。
【0017】
主電源監視部5は、主電源1の電力供給状態を監視するものであり、主電源1から供給される電力が所定値以下に下がった時に、バックアップ用電池6の電力をメモリ素子4に供給させるように作用する切り換え回路を備えたものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、このような切り換え回路を備えたICチップであることが好ましい。
通常、CPUの動作を停止した時、そのCPUのRAMメモリの記憶を保持するためにバックアップ用電池から供給されるバックアップ用電圧及び電流は、3V、10μA程度で充分である。
【0018】
バックアップ用電池6は、主電源1から動作部2への電力の供給が所定値以下になった時に、CPU3のメモリ素子4の記憶を保持させる目的で用いられる。
本発明において、バックアップ用電池6は、その発電部として、第1の電極が配置された酸性媒体と、第2の電極が配置された塩基性媒体と、を備えおり、その酸性媒体及び塩基性媒体は互いに隣接若しくは近設してなり、酸性媒体及び塩基性媒体の少なくともいずれかに反応物質が含有されてなることを要する。
このような発電部は、上記各部材を備える構成を有するバイポーラー型の電池の形態を有する。ここで、本発明において、バイポーラー型の電池とは、酸性媒体と塩基性媒体が隣接若しくは近設し、これらの中に電気エネルギーを取り出すための物質(反応物質)と電極が含まれる構成を有するものである。
【0019】
この発電部において、酸性媒体又は塩基性媒体に含有される反応物質は、下記のような作用により正極側及び/又は負極側での電極反応を生じさせ、効率のよい電気エネルギーの発生を可能とする。即ち、かかる反応物質が、酸性媒体又は塩基性媒体に存在しないと、電池としての十分な起電力が得られないことになる。
例えば、上記反応物質が、酸性媒体及び塩基性媒体のそれぞれに含有されてなる場合、酸性媒体中の反応物質である第1の物質は、その酸性媒体中に含まれる水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う反応を生じさせる。一方、塩基性媒体中の反応物質である第2の物質は、その塩基性媒体中に含まれる水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する反応を生じさせる。これらの反応により、電池としての起電力が得られる。
【0020】
特に、バックアップ用電池6の発電部では、(1)上記の酸性媒体中又はこれに接触する電極近傍で第1の物質及び水素イオンが共存し、共に反応物質として第1の電極から電子を奪う(酸化する)反応を引き起こす。また、(2)上記塩基性媒体中或いはこれに接触する電極近傍で第2の物質及び水酸化物イオンが共存し、共に反応物質として電極に電子を与える(還元する)反応を引き起こす。このような(1)及び(2)の反応が同時に進行して、メモリ素子4の記憶を保持させるための電気エネルギーを発生する。
【0021】
なお、バイポーラー型反応場において、酸性媒体中の水素イオンは、第1の物質による第1の電極から電子を奪う反応に加わり、また、その濃度増加は反応を促進する(化学平衡を生成系方向にずらす)作用を有する。一方、塩基性媒体を構成する水酸化物イオンは、第2の物質による第2の電極へと電子を供与する反応に加わり、また、その濃度増加は反応を促進する作用を有する。このため、水素イオン濃度或いは水酸化物イオン濃度を高くする、即ち、酸性媒体中ではpHを低くし、塩基性媒体ではpHを高くすることで反応を増強させることが可能となり、出力を高めることが可能な構成を有している点でも有効である。
【0022】
以下、バックアップ用電池6の発電部を構成する各部材について、詳細に説明する。
(酸性媒体及び塩基性媒体)
本発明において、酸性媒体は、pH7未満(好ましくは、pHが3以下)である媒体を指し、水素イオンが存在する酸性反応場を形成し得ることが好ましい。また、塩基性媒体はpH7を超える(好ましくは、pHが11以上)媒体を指し、水酸化物イオンが存在する塩基性反応場を形成し得ることが好ましい。
これらの酸性媒体及び塩基性媒体としては、それぞれが独立に、液体状態、ゲル状態、固体状態のいずれの態様であってもよいが、両媒体が同じ態様であることが好ましい。また、酸性媒体及び塩基性媒体としては、有機化合物、無機化合物の種類に関らず用いることができる。
【0023】
酸性媒体と塩基性媒体との好ましい組み合わせは、例えば、硫酸や塩酸、リン酸等の酸性水溶液と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アンモニウム化合物等の塩基性水溶液と、の水溶液の組み合わせ;それらの水溶液をゲル化剤によってゲル化したイオン伝導性ゲルの組み合わせ;スルホン酸基やリン酸基を有する酸性のイオン交換部材と、4級アンモニウム基を有する塩基性のイオン交換部材と、のイオン交換部材(イオン交換樹脂を用いた膜、濾紙などの形態を含む)の組み合わせ;硫酸処理した酸化ジルコニアや貴金属含有酸化ジルコニア等の固体超強酸及び固体酸と、酸化バリウム等の固体超強塩基及び固体塩基と、の固体物の組み合わせ;などが挙げられる。
【0024】
より具体的には、酸性水溶液としては、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、塩化水素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、オルトリン酸、ポリリン酸、硝酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロ珪酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロ砒酸、ヘキサクロロ白金酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、蓚酸、サリチル酸、酒石酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、及びピクリン酸からなる群より選択される酸を1以上含む水溶液を用いることが好ましく、中でも、強酸である、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸を含むことがより好ましい。
【0025】
また、塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び、水酸化テトラブチルアンモニウムを含む群から選択される塩基を1以上含む、又は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウムを含む群から選択されるアルカリ金属塩を1以上含む水溶液を用いることができ、中でも、強塩基である、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを含むことがより好ましい。
【0026】
更に、酸性媒体としての酸性のイオン伝導性ゲルは、上記のような酸性水溶液を、水ガラス、無水二酸化ケイ素、架橋ポリアクリル酸、又はその塩類などのゲル化剤を用いて、ゲル化したものが好ましい。
一方、塩基性媒体としての塩基性のイオン伝導性ゲルは、上記のような塩基性水溶液を、例えば、カルボキシメチルセルロース、架橋ポリアクリル酸やその塩類、をゲル化剤として用いて、ゲル化したものが好ましい。
なお、上記の酸や塩基は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、ゲル化剤の使用方法も同様である。
【0027】
また、前記の酸性のイオン交換部材及び塩基性のイオン交換部材としては、イオン交換樹脂を用いた、イオン交換膜、固体高分子電解質膜、濾紙などの形態を含む。好適なものとしては、スルホン酸基やリン酸基などの強酸性基を有する強酸性イオン交換樹脂や、4級アンモニウム基などの強塩基性基を有する強塩基性イオン交換樹脂を用いた各イオン交換部材である。より具体的には、例えば、製品名ダウエックス(Dow社製)や、製品名ダイヤイオン(三菱化学社製)、製品名アンバーライト(Rohm and Hass社製)に代表されるポリビニルスチレン系のイオン交換樹脂や、製品名ナフィオン(DuPont社製)、製品名フレミオン(旭ガラス社製)、製品名アシプレックス(旭化成工業社製)に代表されるポリフルオロヒドロカーボンポリマー系の固体高分子電解質膜、製品名ネオセプタ(トクヤマ社製)、製品名ネオセプタBP−1(トクヤマ社製)に代表されるポリビニルスチレン系のイオン交換膜、ポリスチレン系の繊維状イオネックスイオン交換体で形成されたイオン交換濾紙製品名RX−1(東レ社製)等が挙げられる。
【0028】
更に、固体超強酸として好適なものとしては、硫酸処理した酸化ジルコニアや貴金属含有酸化ジルコニア等が挙げられる。その他、固体酸として、カオリナイトやモンモリナイト等の粘度鉱物、ゼオライト、複合酸化物、水和酸化物、また酸性物質を添着した活性炭を用いることもできる。
固体超強塩基として好適なものとしては、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム等が挙げられる。その他、固体塩基として、酸化マグネシウム等の金属酸化物及びそれらを含む複合酸化物、水酸化カルシウムのように水への溶解度の低い水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属イオン交換ゼオライト、また塩基性物質を添着した活性炭を用いることもできる。
【0029】
バックアップ用電池6の発電部では、酸性媒体及び塩基性媒体は、互いに隣接若しくは近設することを必須とするが、これは、酸性媒体中で水素イオンを放出することにより生成した対陰イオンと、塩基性媒体中で水酸化物イオンを放出したことにより生成した対陽イオンと、により塩を形成させて電荷のバランスをとることを可能とするためである。そのため、例えば、上述のように、両媒体が、酸性水溶液と塩基性水溶液とからなる場合、生成した陽イオン及び/又は陰イオンを透過可能な特性を有している膜、或いは、生成した陽イオン及び/又は陰イオンが移動可能な塩橋を用いれば、酸性媒体と塩基性媒体との間が分離される態様であってもかまわない。また、それぞれの全体が隣接している必要はなく、その一部が隣接していればよい。
【0030】
(反応物質)
反応物質は、酸性媒体中に含有させる場合は、当該酸性媒体中で、水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う酸化反応を生成させる物質(酸化剤)であれば、如何なるものをも用いることができる。一方、塩基性媒体中に含有させる場合は、当該塩基性媒体中で、水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する還元反応を生成させる物質(還元剤)であれば、如何なるものをも用いることができる。
ここでは、好ましい態様として、酸性媒体に含有される反応物質としての第1の物質、及び、塩基性媒体に含有される反応物質としての第2の物質を例に以下詳細に説明する。
【0031】
第1の物質としては、水素イオン濃度が高い場合に反応が促進される物質であることが好ましい。具体的には、過酸化水素、酸素、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等の次亜ハロゲン酸等をもちいることができる。また、これらの物質を含有する液体若しくは固体、或いは、化学変化によってこれらの物質を放出する液体若しくは固体、の状態で第1の物質を供給するようにしてもよい。
【0032】
また、第2の物質としては、水酸化物イオン濃度が高い場合に反応が促進される物質であることが好ましい。具体的には、過酸化水素、水素、ヒドラジン等を用いることができる。また、これらの物質を含有する液体若しくは固体、或いは、化学変化によってこれらの物質を放出する液体若しくは固体、の状態で第2の物質を供給するようにしてもよい。
【0033】
第1の物質又は第2の物質としては、鉄、マンガン、クロム、バナジウムといった酸化・還元反応によって価数を変化できる金属イオンや、それらの金属錯体を用いることができ、更に、これらを含有する液体や固体等を用いて供給することもできる。
【0034】
上記の中でも、第1の物質及び第2の物質が、同一成分からなることが好ましい。このような物質は、酸性媒体中では、水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う酸化反応を生成させ、塩基性媒体中では、水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する還元反応を生成させる性質を有する。この場合には、電池の構成が容易になり、従来の電池で大きな課題であった、正極側と負極側との化学物質の分離膜の選択の自由度が拡がると共に、酸性媒体と塩基性媒体が混合されない状態に保てる場合には必ずしも分離膜を必要としない。
【0035】
酸化剤及び還元剤のどちらにも使用できる物質としては、特に過酸化水素が好ましい。この理由については後で詳細に説明する。なお、過酸化水素を含有する液体若しくは固体、或いは、化学変化によって過酸化水素を放出する液体若しくは固体を用いて、過酸化水素を供給することが、取り扱いがより簡易になる点で好ましい。
また、第1の物質及び第2の物質は、過酸化水素の場合はそれぞれ、酸性媒体及び塩基性媒体中に、水素イオン、水酸化物イオンに対してそれぞれ、mol比で2(水素イオン、水酸化物イオン):1(過酸化水素)になるように含有されるのが最も好ましい。なぜなら、後述する発電反応から、上記比率で含有された場合が、過酸化水素が過不足無く反応するからである。
【0036】
このような構成によれば、電極での反応に水素イオンH+と水酸化物イオンOH-が関与する場合、酸性媒体中で第1の物質が水素イオンH+を伴って第1の電極から電子を奪う酸化反応を生じさせ、塩基性媒体中で第2の物質が水酸化物イオンOH-を伴って電極へと電子を供与する還元反応を生じさせる。このとき、酸性媒体中での酸化反応による起電力は、塩基性媒体中で酸化反応させるよりも、原理的に大きくなる。これは、水素イオンH+が反応系の物質であるため、水素イオン濃度の高い酸性媒体中では化学平衡が生成系に傾き、結果として酸化電位を高くするためである。また、塩基性媒体中での還元反応による起電力は、酸性媒体中で還元反応させるよりも、原理的に大きくなる。これは、水酸化物イオンOH-が反応系の物質であるため、水酸化物イオン濃度の高い塩基性媒体中では化学平衡が生成系に傾き、結果として酸化電位を低くするためである。
このため、本発明におけるバイポーラー型の電池の構成では、電極における酸化・還元反応により生ずる起電力が、電池から得られる電圧の主体的な源であり、電池内部の中和反応の発生箇所が変動する性質を有する領域での起電力が主体的となるバイポーラー型の電池と比べて、安定に電力を発生させることができる。
【0037】
第1の物質及び第2の物質の供給手段の1つである上記「液体」は、溶液(溶媒として、水、有機溶媒等を含む)、分散液、ゲルの形態のいずれであってもよい。また、これらの使用形態は、上述した酸性媒体及び塩基性媒体の形態との好ましい組み合わせにより選択されることが望ましい。
【0038】
(第1の電極及び第2の電極)
本発明において、第1の電極は正極であり、第2の電極は負極として機能する。これら第1の電極及び第2の電極の材質としては、従来の電池における電極と同様のものを用いることができる。より具体的には、第1の電極(正極)として、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金等が挙げられる。また、表面を不動態化したチタン、ステンレス、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。更に、グラファイトやカーボンナノチューブ等の炭素構造体、アモルファスカーボン、グラッシーカーボン等が挙げられる。ただし、耐久性の点から、白金、白金黒、酸化白金被覆白金がより好ましい。
【0039】
第2の電極(負極)としては、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金等が挙げられる。また、表面を不動態化したチタン、ステンレス、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。更に、グラファイトやカーボンナノチューブ等の炭素構造体、アモルファスカーボン、グラッシーカーボン等が挙げられる。ただし、耐久性の点から、白金、白金黒、酸化白金被覆白金がより好ましい。
【0040】
本発明において、第1の電極及び第2の電極のいずれもが、板状、薄膜状、網目状、又は繊維状であることが好ましい。特に、本発明の実施形態の場合は、電池内で発生した気体の排出流路となるべく、網目状であることが好ましい。ここで、「網目状」とは、少なくとも、排出しようとする気体が通り抜けられる貫通路が存在する多孔質状態であることを指す。
網目状の電極として、具体的には、金属製のメッシュやパンチングメタル板、発泡金属シートに、上記の電極用材料を、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法によって付着させてもよいし、また、セルロースや合成高分子製の紙類に、同様の方法或いはその組合せを用いて上記の電極用材質を付着させてもよい。
【0041】
また、第1の電極及び第2の電極が、イオン交換樹脂やイオン伝導性ゲルのような形状保持性の高い両媒体に配置される場合、かかるイオン交換樹脂やイオン伝導性ゲルの表面に、所望の電極用材料を、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法を用いて配置することも好ましい態様である。
【0042】
(外装材)
本発明においては、少なくとも発電部の一部を外装材で覆うことが好ましい。外装材で覆うことで、外部からの衝撃や腐食等から内部を保護することができる。
本発明において、バックアップ電源6の発電部を構成する各部材が有害物質でない場合には、比較的簡易な外装ですむ。このことから、外装材を軽量化することができ、バックアップ用電池6自体を非常に軽くすることができる利点がある。また、有害物質を含まず、かつ、外装材に金属を使用しない態様をとることができれば、使用済みのバックアップ電源6を別途回収する必要もない。
【0043】
外装材の材料としては、バックアップ電源6の発電部を構成する各部材に合わせて、種々のものを使用することができるが、酸、アルカリに耐性をもつ材料であることが好ましい。
具体的には、ポリマー樹脂が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエーテル等が用いられる。
その他には、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンなども用いることができる。
更に、外装材の材料としては、セラミック等の硬質材料をも使用することができる。
【0044】
これらの外装材を用いた外装方法については、各発電部構成部材を積層した後、その積層体の外側にフィルム状の外装材で覆い、周縁部において積層体と外装材とを接着させることにより実現できる。
このときの周縁部の接着方法としては、外装材としてポリマー樹脂を用いる場合、そのポリマー材料が熱可塑性樹脂であれば、加熱によりポリマーを融着させるヒートシール法を用いればよい。また、熱可塑性をもたないポリマーフィルムと、金属箔、炭素体シートなどと、を組み合わせたものを外装材として用いる場合は、接着剤を用いる一般的なラミネート法により接着することが好ましい。また、金属箔同士を貼り合わせるには、加圧成型によるかしめなどの方法もある。
【0045】
(発電機構)
上述のような構成のバックアップ用電池6の発電部は、以下のような発電機構で発電する。発電部では、第1の電極が配置された酸性媒体と、第2の電極が配置された塩基性媒体と、を互いに隣接若しくは近設させた状態で、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体の少なくともいずれかに含有されてなる反応物質により、前記酸性媒体中での酸化反応及び前記塩基性媒体中での還元反応を促進させて、発電を行うものである。
この方法によれば、上述の如く、電極における酸化・還元反応により生ずる起電力が、発電部から得られる電圧の主体的な源となり、その結果、安定に電力を発生させることができる。
【0046】
この発電部における既述の第1の物質及び第2の物質を使用した場合の発電機構は、以下に説明する通りになると考えられる。
即ち、酸性媒体に含有される第1の物質が水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う反応を生じさせ、かつ、塩基性媒体に含有される第2の物質が水酸化イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する反応を生じさせて発電が起こると考えられる。
この反応により、第1物質及び第2の物質が内部エネルギーの低い複数の物質に化学変化することによって、その分のエネルギーを外部に電気エネルギーとして放出して電力を得ることができる。
【0047】
特に、酸性媒体が酸性水溶液、塩基性媒体が塩基性水溶液からなり、第1の物質及び第2の物質が、いずれも過酸化水素である場合、過酸化水素は、分解反応によって水と酸素を生成する。この化学反応を、バックアップ用電池6の発電部のように、別々の電極で酸化反応と還元反応に分離して行うと、起電力が生じる。即ち、過酸化水素は、酸性反応場では酸化作用を有し、一方で、塩基性反応場では還元作用を有するため、起電力が発生する。このような、酸−塩基バイポーラー反応場を利用することで、このような発電が実現される。
【0048】
このような態様の発電部における発電機構について、図2を参照して、具体的に説明する。図2に示されるように、正極(第1の電極)が配置されている酸性反応場(酸性媒体)では、過酸化水素が酸化剤として働き、下記(式1)に示されるように、過酸化水素の酸素原子が電極から電子を受け取り、水を生成する。また、負極(第2の電極)が配置されている塩基性反応場(塩基性媒体)では、過酸化水素が還元剤として働き、下記(式2)に示されるように、過酸化水素の酸素原子が電極に電子を供与して、酸素と水を生成する。これら反応により、起電力が発生し、発電が行われる。
【0049】
22(aq)+2H++2e- → 2H2O ・・・(式1)
22(aq)+2OH- → O2+2H2O+2e- ・・・(式2)
上記式中、「(aq)」とは水和状態を示す(下記(式3)も同様)。
【0050】
なお、反応場内においては、酸性媒体中に存在する水素イオンの対アニオン(図2中では、硫酸イオンSO42-に相当する)と、塩基性媒体中に存在する水酸化物イオンの対カチオン(図2中では、ナトリウムイオンNa+に相当する)と、が両媒体の界面で塩を形成することで、電荷のバランスを取ることができる。このとき、形成される塩は、水溶液中では通常イオン化する方が安定であるため、塩の形成による起電力への効果は、電極における酸化或いは還元反応における起電力と比べるとはるかに小さい。この結果、電極反応が主体的となる、本発明におけるバイポーラー型の電池は、酸性・塩基性媒体界面における中和反応を主体としたバイポーラー型の電池と比べ、安定した発電を行える性質を有することとなる。
【0051】
上記(式1)と(式2)の半反応式をまとめたイオン反応式(電荷のバランスが、酸性・塩基性媒体界面での水のイオン分解によって取られる場合)を下記(式3)に示す。
【0052】
22(aq) → H2O+1/2O2 ・・・(式3)
熱力学計算によると、この反応のエンタルピー変化(ΔH)、エントロピー変化(ΔS)、ギブスの自由エネルギー変化(ΔG、温度T:単位はケルビン(K))は、それぞれ、ΔH=−94.7kJ/mol、ΔS=28J/Kmol、ΔG=ΔH−TΔS=−103.1kJ/molとなる。
【0053】
また、理論起電力(E、nは反応に関る電子数、Fはファラデー定数)と理論最大効率(η)は、それぞれ、E=−ΔG/nF=1.07V、η=ΔG/ΔH×100=109%と計算される。この反応の理論的特徴は、過酸化水素分解反応でエントロピーが増加してΔSの符号が正になることである。そのため、ΔGの絶対値がΔHより大きくなり、理論最大効率が100%を超える。これとは異なり、水素−酸素系やダイレクトメタノール系等、他の燃料電池反応では、ΔSの符号は負である。
【0054】
これらのことから、本発明における発電機構において、第1の物質及び第2の物質に過酸化水素を用いた場合の理論的特徴を以下に挙げる。
従来より知られている他の燃料電池では、原理的に、エントロピー変化量TΔSを発電に利用できず熱として放出する。一方、本機構では、外界から熱を吸収して得たエントロピーの増加分を発電に利用することができる。そして、反応温度Tが高い場合の方が、ΔGの絶対値が大きくなり起電力が高くなる。
【0055】
実用電池では、イオン反応式の理論起電力だけで出力電圧が決まるのではなく、過電圧等によって電圧が低下し同時に熱を発生する。例えば、単位電池をスタックして集積化する場合、或いは、電池を製品内部に組み込む場合に、この熱が大きな問題になる。しかし、上述のように、本機構によれば、理論的にはその熱を発電に再利用することができ、全体的な熱発生が少なくなる可能性がある。また、発電に利用できるエネルギー総量に相当するΔGは水素・酸素燃料電池に比較して半分程度であるが、n=1(水素−酸素系の燃料電池の場合はn=2)であるために理論起電力は同程度となる。
【0056】
また、上記のことから、バックアップ用電池6の発電部において、第1の物質及び第2の物質に過酸化水素を用いた場合には、既述のような効果の他に、下記のような効果が得られる。
【0057】
(1)過酸化水素は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する反応に伴って二酸化炭素を放出せず、その代わりに酸素を放出する。また、発電部内の構造要素に、発火物・可燃物や有害な重金属類等を使用しないため、容易な外装で発電部を構成できる。それ故、教材用として利用が可能である。
(2)過酸化水素は、常温常圧で液体であるため、貯蔵のために重い金属ボンベ等を必要としないし、水と自由に混合できるためゲル化が容易であり、貯蔵性・携帯性が優れている。
(3)酸化剤として酸素を使用する必要が無いため、空気量の限られた閉鎖環境下、また空気中に塵やゴミ等が多く含まれる過酷環境下でも、その使用に支障がない。
(4)過酸化水素は、その工業的製造方法として有機法(アントラキノンを中間体(何度も再利用するので消費しない)として、触媒による水素の接触還元と空気酸化とによって合成する方法)等がすでに確立されており、現状でも安定的に安価で供給されている。これに加え、周辺部品が少なくシンプルな構造で発電部を構成し得るため、バックアップ用電池6自体の重量及び体積を小さくでき、かつ低コスト化や高耐久性を図れる。
【0058】
上記においては、第1の物質及び第2の物質として過酸化水素を用いた発電機構について述べたが、両物質に他の物質(化合物)を用いた場合にも、電極側で酸化・還元反応を生じさせる点では実質的に同じである。
これらのことから、バックアップ用電池6の発電部では、その発電機構により、安定した発電が可能となる。
【0059】
また、このような発電機構において、電極反応で生成した生成物は、電極間ではなく電極近傍に生成される。そのため、これらを除去する必要がある場合には、発電部を内包する外装材の外側から容易に除去することが可能となる。また、電極反応で生成した生成物が水であって、酸性媒体或いは塩基性媒体が水溶液である場合、若しくは、第1の物質及び第2の物質を水溶液に混合、溶解、分散させて用いる場合には、生成された水を両媒体中に拡散させることや、電池外に排出することで、容易に電極近傍から除去することができる。
【0060】
以下、バックアップ用電池6の発電部の好ましい実施形態の一例として、ゲル型電池を例に挙げ、説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない。
【0061】
ゲル型電池は、酸性媒体として、酸性水溶液をゲル化したイオン伝導性ゲルと、塩基性媒体として、塩基性水溶液をゲル化したイオン伝導性ゲルと、を隣接配置してなり、酸−塩基バイポーラー反応場を有する。具体的な構成に関して、図3に示されるゲル型電池の概略断面図を用いて説明する。
【0062】
図3に示されるゲル型電池は、第1の電極31及び酸性媒体32からなる酸性反応場と、第2の電極33及び塩基性媒体34からなる塩基性反応場と、が接触しており、酸性媒体32に不図示の第1の物質を、塩基性媒体34に不図示の第2の物質を含有させた構成を有する。
【0063】
例えば、第1の物質及び第2の物質が過酸化水素である場合、過酸化水素水溶液を、酸性媒体32又は塩基性媒体34、或いはその両方に共存させておく。これにより、酸性反応場における酸化反応と、塩基性反応場における還元反応が生じ、起電力が発現する。
また、第1の電極31、第2の電極33は、各々、媒体32又は媒体33に対して、片面から若しくは両面から接触していればよく、その形状は、電池内で発生した気体の排出流路となるべく、網目状であることが好ましい。
更に、第1の電極31、第2の電極33の一部を除き、それ以外の構成部材のすべてを外装材35にて内包することによって、電池の形状を決定している。
【0064】
このようなゲル型電池は、発電に伴って、導電性ゲルに含まれる水素イオンや水酸化物イオン、また、過酸化水素水溶液が消費され(同時に塩が生成する)、それらが無くなった時点で電力の供給は止まる。また、これらの消費される物質は、外部から再供給できないため、一次電池となるが、構成が単純であることに加え、両反応場として、自己保持性の高いゲル状態を利用するため、その反応場を安定に維持することができる。そのため、携帯性・経済性に優れた様々な電池形態をとることが可能である。
【0065】
以上、バックアップ用電池6の発電部について説明したが、その発電部の構成は、既述のような構成に限定されるものではない。
本発明におけるバックアップ用電池6の発電部は、構成部材である、第1及び第2の電極、酸性媒体及び塩基性媒体、並びに、反応物質を組み合せることで、発電部自体の形状や大きさを、任意に設定することができ、また、上述の発電機構により、安定した電力を供給することも可能であるため、バックアップ用電池6の小型化、薄型化、及び軽量化を達成することができる。特に、発電部を、有害物質を使用することなく構成することも可能であるため、外装を簡易にすることができ、更なる、小型化、薄型化、及び軽量化を図ることができる。
【0066】
本発明の電源回路では、上述のように、小型化、薄型化、及び軽量化が達成されたバックアップ用電池を具備することで、電源回路自体の小型化、薄型化、及び軽量化が可能であり、その結果、適用範囲の拡大を図ることができる。
また、バックアップ用電池の発電部を構成する部材によっては、フレキシブルな電池として機能することや、自然廃棄が可能なことなどの利点を有する。
【実施例】
【0067】
以下に本発明の効果を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
<バックアップ用電池の作製>
図3に示されるゲル型電池を下記材料を使用して作製した。
即ち、5mol/lの硫酸、及び、反応物質である第1の物質として5mol/lの過酸化水素を同量混合したものを、10質量%の無水二酸化ケイ素でゲル化したものを酸性媒体32として使用し、また、5mol/lの水酸化ナトリウム、及び、反応物質である第2の物質として5mol/lの過酸化水素を、2:1(体積比)で混合したものを8質量%の架橋ポリアクリル酸ナトリウムでゲル化したものを塩基性媒体34として使用した。第1の電極31及び第2の電極33としては、4.5cm2(1.8×2.5cm)の白金黒メッシュ(100メッシュのニッケルメッシュ表面を白金黒化したもの)を使用し、それぞれを、酸性媒体32及び塩基性媒体34に密着させて配置した。このようにして作製したゲル型電池を、縦、横の長さそれぞれ2cm、厚さ2mmのPETフィルム製直方体の外装材35で外装し、第1の電極31及び第2の電極33のそれぞれの先端5mmのみ外装材35外部に露出させた。
以上のようにして、ゲル型の一次電池である発電部を作製した。
【0069】
作製した発電部について、下記条件にて発電実験を行った。
即ち、この発電部を1Ωから1MΩまでの抵抗器に接続し、その時に流れる電流及び印加される電圧をデジタルマルチメーター(KEITHLEY製2000)を用いて測定した。
上記の実験条件の電池を用いて得られた電流−電圧特性を図4に示す。図4から、本実施例の場合、開放電圧833mV、また、最大出力14mW/cm2(起電圧:504mV、電流28mA/cm2の時)が得られた。
【0070】
このようにして作製した発電部を4枚直列に配置しバックアップ用電池とした。このバックアップ用電池を、図1に示すように、CPU3、メモリ素子としてのRAMメモリ4、主電源監視部5と共に基板上に実装し、電源回路を作製した。なお、主電源監視部5としては、駆動用の主電源1の電圧を監視するためのICであって、該主電源電圧を検知して、該電圧が所定値(本実施例では4V)以下に下がった時に、バックアップ用電池6の電圧をRAMメモリ4に供給させるように作用する切り換え回路を備えたICを用いた。
ここで、CPU動作用に主電源1から5Vの電圧を供給し、CPU動作電流は約5mAであった。
また、主電源1からの電源供給を停止したときにバックアップ用電池6からRAMメモリ4に対して供給された電圧は3.2Vであり、再び、主電源1からRAMメモリ4に電源供給した際にも、RAMメモリ4の記憶は保持されていることが確認された。
【0071】
(比較例1)
反応物質である過酸化水素使用しなかった以外は実施例1と同様にしてゲル型の1次電池(発電部)を作製した。この発電部について、実施例1と同様の評価を行った。電流−電圧特性の結果を図4に示す。比較例1では、酸性、塩基性媒体間に生じる電圧による開放電力(100mV)は測定されたものの、有意な電流は得られなかった。
また、この発電部を4枚直列に配置しバックアップ用電池とし、実施例1と同様にして、電源回路を作製したが、発電部が充分な電力を供給することができず、バックアップ用電池6として機能しないことが確認された。
【0072】
以上、実施例1におけるバックアップ用電池の発電部では、図4に示すように、良好な電圧及び電流が得られており、電気エネルギーを供給できることが判明した。また、この発電部を有するバックアップ用電池を具備した電源回路は、メモリ素子であるRAMメモリ4の記憶を保持することができ、実用可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の電源回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明におけるバックアップ用電池の発電部の発電機構を示す説明図である。
【図3】本発明におけるバックアップ用電池の発電部の一例であるゲル型電池の概略断面図である。
【図4】図3に示すゲル型電池を用いた実施例1及び比較例1における電流−電圧特性の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1・・・主電源
2・・・動作部
3・・・CPU
4・・・メモリ素子
5・・・主電源監視部
6・・・バックアップ用電池
31・・・第1の電極
32・・・酸性媒体
33・・・第2の電極
34・・・塩基性媒体
35・・・外装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源と、メモリ素子を備えた動作部と、主電源監視部と、バックアップ用電池と、を具備する電源回路であって、
前記バックアップ用電池の発電部が、少なくとも、第1の電極が配置された酸性媒体と、第2の電極が配置された塩基性媒体と、を備え、該酸性媒体及び該塩基性媒体が互いに隣接若しくは近設されてなり、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体の少なくともいずれか一方に反応物質を含有されてなることを特徴とする電源回路。
【請求項2】
前記主電源監視部が、前記主電源から供給される電力が所定値以下に下がった時に、前記バックアップ用電池の電力を前記メモリ素子に供給させるように作用する切り換え手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項3】
前記反応物質が、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のそれぞれに含有されてなることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項4】
前記酸性媒体に含有される前記反応物質としての第1の物質と、前記塩基性媒体に含有される前記反応物質としての第2の物質と、が同一の物質であることを特徴とする請求項3に記載の電源回路。
【請求項5】
前記反応物質が過酸化水素であることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項6】
前記酸性媒体が酸性水溶液からなり、かつ、前記塩基性媒体が塩基性水溶液からなることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項7】
前記酸性水溶液が、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、塩化水素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、オルトリン酸、ポリリン酸、硝酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロ珪酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロ砒酸、ヘキサクロロ白金酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、蓚酸、サリチル酸、酒石酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、及びピクリン酸からなる群より選択される酸を1以上含むことを特徴とする請求項6に記載の電気回路。
【請求項8】
前記塩基性水溶液が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウムを含む群から選択される塩基を1以上含む、又は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウムを含む群から選択されるアルカリ金属塩を1以上含むことを特徴とする請求項6に記載の電源回路。
【請求項9】
前記酸性媒体が酸性のイオン交換部材から構成され、かつ、前記塩基性媒体が塩基性のイオン交換部材から構成されることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項10】
前記イオン交換部材が、ポリビニルスチレン系のイオン交換樹脂、ポリフルオロヒドロカーボンポリマー系の高分子電解質膜、ポリビニルスチレン系のイオン交換膜、及び繊維状ポリスチレン系のイオン交換濾紙からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の電源回路。
【請求項11】
前記酸性媒体が酸性のイオン伝導性ゲルから構成され、かつ、前記塩基性媒体が塩基性のイオン伝導性ゲルから構成されることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項12】
前記酸性のイオン伝導性ゲルが、酸性水溶液を水ガラス、無水二酸化ケイ素、架橋ポリアクリル酸、寒天、又はその塩類によりゲル化してなることを特徴とする請求項11に記載の電源回路。
【請求項13】
前記塩基性のイオン伝導性ゲルが、塩基性水溶液をカルボキシメチルセルロース、架橋ポリアクリル酸、又はその塩類によりゲル化してなることを特徴とする請求項11に記載の電源回路。
【請求項14】
前記第1の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項15】
前記第2の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項16】
前記第1の電極及び第2の電極が、板状、薄膜状、網目状、又は繊維状であることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項17】
前記第1の電極及び前記第2の電極が、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法により、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のそれぞれ配置されてなることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項18】
前記発電部の少なくとも一部が、外装材に覆われてなることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項19】
前記外装材が、ポリマー樹脂、セラミック、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする請求項18に記載の電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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