電界による寄生生物治療
【解決手段】分裂過程にある細胞は、特定の周波数及び電界強度特性を有するAC電界による損傷に脆弱である。したがって、急速に分裂する細胞の選択的破壊は、AC電界を標的領域に長時間かけることによって達成することができる。電界が印加されている間に分裂する細胞のいくつかは損傷されるが、分裂しない細胞は損傷されない。これによって、寄生生物等の急速に分裂する細胞が選択的に損傷又は崩壊し、分裂していない正常細胞は損傷しない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年8月14日に提出された米国仮出願第60/955,719号の利益を主張し、当該出願の全体を本明細書において参照として援用する。
【0002】
本発明は、局部的な領域で急速に分裂する細胞の選択的破壊に関し、特に、インビトロで、又は生きた患者の体内領域へ、特定の特徴を有する電界を印加することにより、近隣の非標的細胞を破壊することなく標的細胞を選択的に破壊することに関する。
【背景技術】
【0003】
真核寄生生物は、マラリア、アフリカ睡眠病、ランブル鞭毛虫症、リーシュマニア症等、多くの病気の病原体であり、世界各地で何百万人もの人々が死亡する原因となっている。寄生生物は、何百万頭もの家畜にも感染する。あいにく、薬剤耐性及び低治療指数によって、既存の治療法の有効性は制限されている。
【0004】
細胞培養物、微生物(たとえば、バクテリア、マイコプラズマ、酵母、原虫、及びその他の単細胞生命体)、菌類、藻類、植物細胞等、あらゆる生命体は、細胞分裂により増殖する。生命体の分裂細胞を破壊することや、それらの増殖を制御することは、これら生命体の分裂細胞の特定の薬剤に対する感度に基づく方法により可能である。たとえば、特定の抗生物質によって、バクテリアの増殖過程は停止する。
【0005】
真核細胞の分裂過程は有糸分裂と呼ばれ、細かく、区別が明確な段階を含む(Darnell他著、Molecular Cell Biology、ニューヨーク:Scientific American Books、1986年刊、149頁参照)。分裂間期において細胞は染色体DNAを複製し、染色体DNAは前期の初期において凝縮し始める。このとき、中心小体(各細胞に2個含まれる)が細胞の反対極へとそれぞれ移動し始める。前期の中期においては、各染色体は2本の染色分体によって構成される。各中心小体に隣接した、それらの極に近い領域から微小管紡錘体が放射状に現れる。前期の後期までに中心小体は極へ到達し、いくつかの紡錘糸が細胞の中心へと伸び、他の紡錘糸が極から染色分体へと伸びる。その後、細胞は中期へと移行し、染色体は細胞の赤道に向けて移動し赤道面に並ぶ。その次は後期の初期であり、この期間では、赤道において娘染色分体が反対極におけるセントロメアへと紡錘糸に沿って移動することにより互いから分離する。細胞は極の軸に沿って伸長し始め、極から極へとまたがる紡錘体も伸長する。後期の後期は、娘染色体(この段階での呼称)が、反対極のうちの各々の方へ到達するときに生じる。このとき、細胞の赤道で分裂溝が形成されるのにしたがって細胞質分裂が開始する。換言すると、後期の後期は、細胞膜の引き絞り(pinching)が始まる時点である。終期においては、細胞質分裂はほぼ完了し、紡錘体は消失する。比較的狭小な膜連結部によってのみ、2つの細胞質が連結されている。最終的に膜は完全に分離し、細胞質分裂は完了して、細胞は間期へと戻る。
【0006】
減数分裂では、細胞は、姉妹染色体が紡錘糸に沿って細胞の反対極へと分離すること、並びにその後の分裂溝形成及び細胞分裂を含む第二分裂を経る。しかし、この分裂に先立っては染色体の複製は生じず、半数の胚細胞が産生される。バクテリアも、染色体複製とその後の細胞分離によって分裂する。しかし、娘染色体が膜成分へと付着することにより分離するので、真核細胞に存在するような、細胞分裂に貢献する可視の器官が存在しない。
【0007】
腫瘍、特に悪性又は癌性の腫瘍が、正常な組織に比較して抑制不能に成長することは周知である。このように急速な成長によって、腫瘍が占拠する領域が増え続け、隣接する組織が損傷又は破壊される。さらに、ある種の癌は、単細胞又は小細胞集合を含む癌性の「種子」を新たな場所へと伝染(転移)させる能力によって特徴付けられ、新たな場所では、転移性の癌細胞はさらなる腫瘍へと成長する。
【0008】
上記のような、一般的には腫瘍の、特定的には悪性腫瘍の、急速な成長は、これらの細胞の細胞分裂もしくは増殖が、正常な組織細胞に比較して頻繁であることの結果である。癌細胞の識別可能なほど頻繁な細胞分裂は、たとえば放射線療法や各種化学療法剤の使用等の既存の癌療法の有効性の基礎である。これらの療法は、分裂過程にある細胞が非分裂細胞よりも、放射線や化学療法剤に対する感度が高いという事実に基づいている。腫瘍細胞は正常細胞よりもずっと頻繁に分裂するので、放射線療法及び/又は化学療法で腫瘍細胞を選択的に損傷もしくは破壊することはある程度までは可能である。放射線、治療剤等に対する細胞の実際の感度は、正常又は悪性の細胞型の異なる種類ごとの特異な特性にも依存する。したがって、あいにく、腫瘍細胞の感度は、多種の正常な組織のそれよりも十分に高くない。これは、腫瘍細胞と正常細胞との識別能力を弱め、したがって既存の癌療法によって正常細胞が大きく損傷することは典型的であり、これら療法の治療法としての有効性は制限される。さらに、その他の組織が不可避的に損傷するので、治療法は患者にとって大きな外傷を残すものであり、患者は一見成功した治療法から回復することがしばしば不可能である。また、ある種の腫瘍は、既存の治療法に対して全く感度を有さない。
【0009】
放射線療法又は化学療法のみに依存しない細胞を破壊するその他の方法も存在する。たとえば、従来の療法に加えて、又はそれらに代えて、腫瘍細胞を破壊するための超音波及び電気による療法を利用することが可能である。何年にも亘り、電界及び電流が医療目的で利用されてきている。最も一般的なものは、電位差を維持した1対の導電性電極によって電界を印加することにより人体又は動物体の内部で電流を生成することである。これらの電流は、特有の効果をもたらすべく、つまり興奮組織を刺激するべく、又は身体は抵抗として作用するので身体内部を流れることによって熱を生成するべく用いられる。1番目の種類の用法の例は、以下を含む。細動除去器、末梢神経及び筋の刺激装置、脳刺激装置、等である。電流は、加熱目的で、たとえば、腫瘍焼灼、不具合の心臓又は脳の組織のアブレーション、焼灼、筋リウマチ痛及びその他の痛みの緩和等のための装置において用いられる。
【0010】
医療目的でのその他の電界利用法には、関心対象(つまり、標的)の身体部分に向けられた、たとえばRF波又はマイクロ波源等の電波の放出ソースから伝達される高周波振動電界の利用が含まれる。これらの例においては、ソースと身体との間には電気エネルギーの導通がなく、むしろエネルギーは放射又は誘導によって身体へと伝達される。具体的には、ソースが発する電気エネルギーは、導体を介して身体の近辺に到達し、そこから空気又はその他の何らかの電気絶縁材料を介して人体へと伝達される。
【0011】
従来の電気的方法においては、患者の身体に接触するよう設置された電極を用いて、電流が標的組織の領域へと伝搬される。供給された電流によって、標的組織の近辺における実質的にすべての細胞が破壊される。したがって、この種の電気的方法においては、標的組織内の種類の異なる細胞間の選別がなされず、腫瘍細胞及び正常細胞の両方が破壊されることとなる。
【0012】
したがって、医療用途で利用可能な電界は、大まかに2つの異なる態様に分けることが可能である。第1の態様では、導電性電極によって電界が身体もしくは組織へと印加される。これらの電界は、2種類に分類することが可能である。つまり、(1)定常電界もしくは比較的遅い速度で変化する電界、及び対応する電流を身体もしくは組織内に誘導する低周波交流電界、並びに(2)導電性電極によって身体へ印加される高周波交流電界(1MHz超)、である。第2の態様では、電界は、絶縁電極によって身体へと印加される高周波交流電界である。
【0013】
第1の種類の電界は、たとえば神経及び筋の刺激、心臓のペーシング等に用いられる。実際、これらの電界は、神経及び筋の繊維、中央神経系(CNS)、心臓等において信号を伝播するべく自然に用いられている。このような自然電界の記録は、ECG、EEG、EMG、ERG等の基礎である。これらの用途における電界強度は、均質な電気的特性の媒質(medium)を想定すると、単純に、刺激/記録電極に印加される電圧を電極間の距離で割ったものである。これらの電流は、オームの法則によって算出することが可能であり、危険な刺激作用を心臓及びCNSに及ぼして有害となり得るイオン濃度変化をもたらす可能性がある。また、電流が十分に強ければ、組織内で過熱状態を生じる可能性もある。この加熱は、組織内で消散した電力(電圧と電流の積)によって算出することが可能である。
【0014】
このような電界及び電流が交番する場合、神経、筋等に対するそれらの刺激力は周波数の逆関数である。1〜10KHz超の周波数では、電界の刺激力はゼロに近い。この制約は、電気的刺激によって誘発される興奮には膜電位変化が通常介在し、その変化率が膜のRC特性(時定数が約1ms)によって制限されるという事実に因る。
【0015】
周波数とは無関係に、このような電流を誘導する電界を印加する場合、電流によって引き起こされる有害な副作用が想起される。たとえば、負の効果の1つは、システム内の各「コンパートメント」でのイオン濃度の変化、及び電極において又は組織が埋まっている媒質において生じる電気分解による有害な生成物である。イオン濃度の変化は、器官によってイオン濃度差が維持される2以上のコンパートメントをシステムが含む限り生じる。たとえば、大半の組織にとって、細胞外液の[Ca++]は約2×10−3モル濃度であるが、典型的な細胞の細胞質では当該濃度は、10−7モル濃度もの低さである場合もある。1対の電極によってこのようなシステムの内部に誘導された電流は部分的に細胞外液から細胞内へと流れ、再び細胞外媒質へと流れ出る。細胞内へと流れる電流の約2%がCa++イオンによって運ばれる。対照的に、細胞内Ca++の濃度はずっと低く、細胞から出る電流のうちこれらのイオンにより運ばれるのは無視できるフラクションでしかない。したがって、Ca++イオンは細胞内で蓄積して細胞内での濃度が上昇するが、細胞外コンパートメントでの濃度は低下し得る。これらの作用はDC及び交流(AC)の両方について観察される。イオンの蓄積率は、電流強度、イオン移動度、膜のイオン伝導度等に依存する。[Ca++]の上昇は大半の細胞にとって有害であり、十分に高くなった場合は細胞の破壊につながる。他のイオンについても同様の懸念がある。上記の観察を考慮すると、生きた生命体又は組織に長期に電流を印加することによって大きな損傷が生じ得る。このような電界に関連付けられるもう1つの大きな問題は、電極表面で生じる電解過程に起因するものである。ここでは、金属(電子)と電解液(イオン)との間で電荷が移動することにより、帯電した活性ラジカルが形成される。これらによって有機分子、特に高分子に大きな損傷が生じ、生体細胞及び組織が損傷する可能性がある。
【0016】
対照的に、1MHz超の、実際はたいていGHzの範囲にある高周波電界が絶縁電極によって組織内に誘導される場合は、状況が全く異なる。この種の電界は、容量性電流もしくは変位電流しか生成せず、従来の電荷伝導電流を生成しない。この種の電界が作用している下では、生体組織は、ほぼその伝導特性でなくその誘電特性にしたがって挙動する。したがって、電界による主要な効果は、誘電損失及び加熱によるものである。したがって、実際に、生きた生命体に対するこのような電界の有意義な効果は、その加熱効果、つまり誘電損失によるものだけであることは広く認められている。
【0017】
Manganoに付与された米国特許第6,043,066(‘066)号において、導電性の内核を有し、誘電体膜によって囲まれた別個の物体を、電界による誘電体膜の不可逆的な絶縁破壊を通じて選択的に不活性化することができる方法及び装置が提示されている。これの用途として可能性があるのは、懸濁液において特定の生体細胞を選択及び除去することにおいてである。‘066号特許によると、選択細胞を標的として電界を印加し、それら腫瘍細胞の誘電体膜の絶縁破壊を引き起こすが、主張するところによると細胞のその他の所望の下位個体群には悪影響を及ぼさない。細胞は、特有のエレクトロポレーション閾値における本来的な又は誘発した差異に基づいて選択される。この閾値における差異は、細胞の大きさの差異を含む多くのパラメータに依存し得る。
【0018】
したがって、‘066号特許の方法は、細胞の大きさの差異及び細胞膜の誘電特性の差異のために腫瘍細胞のエレクトロポレーション閾値が正常細胞のそれから十分に識別可能であるという想定に基づいている。この想定に基づくと、サイズの大きい部類の多くの種類の腫瘍細胞は、その大きさのためにエレクトロポレーションを一層受け易くなり、したがって、適切な電界を印加することによって大きい部類の腫瘍細胞膜のみを選択的に損傷することは可能であるかもしれない。この方法の不利点の1つは、識別能力が細胞型に大きく依存していることであり、たとえば正常細胞と腫瘍細胞との間の大きさの差異が大きいのは、特定の細胞型においてのみである。この方法の別の欠点は、大きさ及び膜誘電特性における差異は多くは統計に基づくものであり、実際の細胞の形状及び誘電特性には大きなばらつきが存在し得るために、印加された電圧が正常細胞の一部を損傷し、腫瘍細胞のすべては損傷しない可能性があることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
当該技術分野において求められており、いまだに利用可能となっていないものは、分裂細胞を破壊する装置であって、単細胞生命体を含む分裂細胞と、非分裂細胞とをより良く識別し、非分裂細胞もしくは生命体に実質的に影響を与えることなく分裂細胞もしくは生命体を選択的に破壊することが可能な装置である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
分裂している間、細胞は特定の周波数及び電界強度特性を有するAC電界による損傷に脆弱である。したがって、急速に分裂する細胞の選択的破壊は、AC電界を標的領域に長時間かけることによって達成することができる。電界が印加されている間に分裂する細胞のいくつかが損傷され、分裂しない細胞は損傷されない。これにより、腫瘍細胞等の急速に分裂する細胞が選択的に損傷され、分裂していない正常細胞は損傷されない。分裂細胞の脆弱性は分裂細胞の長軸と電界の力線との整列具合に強く関連するので、電界を異なる方向に順次的にかけることによって向上した結果が得られる。
【0021】
本発明の装置の主要な用途は、正常な組織細胞には実質的に影響を与えることなく腫瘍細胞を選択的に破壊することによる腫瘍の治療にあり、したがって以下においては腫瘍細胞の選択的破壊という文脈において典型的装置を記載する。しかし、以下の記載の目的においては、用語「細胞」は、通常は「細胞」とは分類されない、単細胞生命体(真正細菌、バクテリア、酵母、原虫)、多細胞生命体(菌類、藻類、カビ)、及び植物又はそれらの一部をも指すことを理解されたい。典型的装置によって、分裂している細胞を、既存の方法よりも効果的かつ正確に(たとえば、特定の標的に照準するのにより適合的に)選択破壊することが可能になる。さらに、本発明の装置によっては、正常細胞の損傷は生じるにしても最小限に抑えられるので、放射線療法、化学療法等の既存の選択的破壊法に付随する多くの副作用が低減又は除去される。本発明の装置を用いた分裂細胞の選択的破壊は、化学薬品又は放射線への細胞の感度に依存しない。代わりに、分裂細胞の選択的破壊は、治療される細胞型の細胞形状とは無関係に、非分裂細胞に比較して識別可能な、分裂中の細胞の形状的特性に基づいている。
【0022】
1つの典型的な実施の形態によると、生体組織の細胞形状依存的選択破壊は、電子装置を用いて細胞内に不均一な電界を誘導することにより実行される。
【0023】
非分裂状態にある細胞は、異なる細胞であれば、異なる形状、たとえば球状、楕円状、円筒状、パンケーキ状等を有している可能性のある一方で、実質的にすべての細胞の分裂過程が後期の後期、及び終期における「分裂溝」の発達により特徴付けられることを本願発明者は観察した。この分裂溝は、細胞膜の(2組の娘染色体間における)進みの遅い収縮であり、顕微鏡的に見ると、細胞を2つの新たな細胞へと徐々に分離させる成長する裂け目(たとえば、溝又は切り込み)として現れる。分裂過程には、細胞構造が、おおむね、細胞物質から形成される狭小な「ブリッジ」によって相互に連結される2つのサブ細胞の構造をしている過渡期(終期)が存在する。分裂過程は、2つのサブ細胞間の「ブリッジ」が破れたときに完了する。本発明の電子装置を用いた腫瘍細胞の選択的破壊においては、この分裂細胞の独特の形状的特性が利用される。
【0024】
細胞もしくは細胞群が自然な条件もしくは環境、つまり生体組織の一部にある場合、それらは、電解性の組織間液と、電解性の細胞内液からほぼ構成されるその他の細胞と、からほぼ構成される伝導性環境に取り囲まれて配置される。生体組織内に電界を誘導する場合、組織に電位を印加することにより電界が組織内に形成され、電荷変位の方向、もしくは生体内に実際に電流が誘導された場合の組織内での電流経路は、電界力線の特定的分布及び構成によって決まる。電界の分布及び構成は、組織の多様なパラメータに依存しており、それらには、異なる組織成分ごとの形状及び電気的特性、並びに組織成分間の相対的な(周波数によって変化し得る)伝導率、容量、及び誘電率が含まれる。
【0025】
分裂過程にある細胞における電流の流れのパターンは、非分裂細胞に比較すると非常に異なり特異的である。このような細胞は、第1及び第2の細胞、つまり、細胞質「ブリッジ」又は「ネック」によって連結される「元の」細胞及び新たに形成される細胞を含む。電流は、膜の一部(「電流ソース極」)を通じて第1のサブ細胞内を通るが、反対極(「電流シンク極」)側のその膜の一部を通って第1のサブ細胞を出ることはない。代わりに、電流の流れの線はネック又は細胞質ブリッジにおいて収束し、電流の流れの線の密度が著しく増大する。第2のサブ細胞において対応する「鏡像」過程が生じ、電流の流れの線は、ブリッジから離れるに従いより低い密度配置へと発散し、最終的には電流シンクに近いその膜の一部から第2のサブ細胞を出る。
【0026】
分極性の物体が不均一な収束又は発散電界に置かれたとき、電気力がそれに作用し、それを高密度電界力線の方へと引き寄せる。分裂細胞の場合、電気力は2つの細胞間の細胞質ブリッジへ向かう方向に働く。すべての細胞間小器官(intercellular organelles)及び高分子は分極性であるので、それらはすべて2つの細胞間のブリッジの方向へと推進される。電界の極性は力の方向とは無関係であり、したがって特定の特性を有する交流電気を用いて実質的に同じ効果をもたらすことができる。ブリッジもしくはネック部そのものに又はその付近に存在する集中した不均一な電界は、電荷及び自然の双極子(natural dipoles)に強い力を発揮し、これらの要素に関連する構造体を分解させ得ることは理解されよう。
【0027】
ブリッジへと向かう細胞器官の運動によって細胞構造が分解し、連結部のブリッジ膜近辺の圧力が増大する。ブリッジ膜に対するこれら器官の圧力によりブリッジ膜が破れることが予想され、したがってこの圧力に反応して分裂細胞が「爆発」することが予想される。膜を破れさせ、その他の細胞構造体を分解させる能力を強めることは、約50KHz〜約500KHzの周波数を有する振動交流電界を印加することによって可能である。この種の電界が組織に印加されると、細胞間小器官(intercellular organelles)に作用する力によって「ハンマリング」効果(“hammering” effect)が生じ、力のパルス(もしくはビート)が1秒当たりに何回も小器官に印加され、両方のサブ細胞からブリッジ(もしくはネック)部へと向かう、大きさ及び質量が多様な小器官の運動が強められ、細胞膜がブリッジ部で破れる可能性が高められる。細胞内小器官(intracellular organelles)に作用する力は、小器官そのものにも影響を与え、小器官を崩壊もしくは分解させ得る。
【0028】
1つの典型的な実施の形態によると、電界を印加するための装置は、所望の電気信号を波形もしくはパルス列の形態で生成する電子装置である。電子装置は、約50KHz〜500KHzの範囲の周波数で交流電圧波形を発生する発生器を含む。発生器は導電性のリードに動作可能に接続され、それらは発生された波形により作動する絶縁導体/電極(アイソレクト(isolects)とも呼ぶ)に他端において接続される。絶縁電極は、伝導性の組織に接触した誘電体(絶縁層)に接触する導体から構成され、これによりコンデンサを形成する。本発明の装置により生成された電界を、治療用途に依存して数種類の異なる態様で印加することができる。
【0029】
1つの典型的な実施の形態によると、印加される電界が、組織の特定の局限領域(たとえば、腫瘍)を標的する局所性のものとなるよう構築される、装具に組み込まれた外部絶縁電極によって電界が印加される。この実施の形態は、絶縁電極により生成される電界が腫瘍(病変等)に向けられるように標的組織上に装具を着用させることによって、皮膚表面に又はその下に存在する腫瘍及び病変を治療するよう設計される。
【0030】
別の実施の形態によると、装置は、絶縁電極が、たとえば尿道、膣等の自然経路を通って身体に進入し、又は絶縁電極が内部の標的領域(たとえば、内部の腫瘍)の付近に位置付けられるまで生体組織を通り抜けるよう構成されたプローブ又はカテーテル等の形態をとる内部型用途において用いられる。
【0031】
したがって、本発明の装置は、本発明の電界が重大な刺激作用及び熱的効果を及ぼさない生物学的効果的(bio−effective)な電界であるという点において、周波数が高いか低いかである従来の用途と比較して、特殊な中間的分類に分けられる電界を使用する。有利なことに、非分裂細胞がこれらの電界に暴露されたとき、細胞には何らの影響も与えられない。しかし、分裂細胞が本発明の電界に暴露されたときは状況がまったく異なる。したがって、本発明の電子装置及び生成された電界は、腫瘍等の分裂細胞を標的し、標的領域を取り囲む健常組織に見受けられる非分裂細胞を標的しない。さらに、本発明の装置は絶縁電極を使用するので、導電性電極を使用したときに生じる上記の負の効果、つまり細胞内でのイオン濃度変化及び電気分解による有害物質の形成は本発明の装置では生じない。これは、概して、電極と媒質との間で電荷の実際の移動が生じず、電流が容量性である媒質において電荷の流れが生じないからである。
【0032】
本発明の電子装置を、生体内での腫瘍の治療以外の用途でも利用することが可能であることは理解されるべきである。実際、本発明の装置を使用した選択的破壊を、たとえば、組織培養物や、バクテリア、マイコプラズマ、原虫、菌類、藻類、植物細胞等の微生物等の、分裂によって増殖するいかなる生命体に関連して用いてもよい。このような生命体は、上記したような溝もしくは裂け目の形成によって分裂する。溝あるいは裂け目が深まるにつれ、分裂する動物細胞のサブ細胞間に形成されるブリッジと同様、生命体の2つの部分間に狭小なブリッジが形成される。このような生命体は、上記した動物細胞の膜と同様に比較的低い伝導性を有する膜によって覆われているので、分裂する生命体における電界力線は、分裂する生命体の2つの部分を連結するブリッジにおいて収束する。収束する力線によって、分裂する生命体の内部の分極性要素及び電荷を変位させる電気力が生じる。
【0033】
上記、並びに本発明の装置のその他の目的、特徴、及び利点は、添付の図面と併せて読まれる以下の記載から明らかになるであろう。添付の図面においては、同様の参照番号により同一の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1B】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1C】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1D】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1E】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図2A】電界に暴露される非分裂細胞の概略図である。
【図2B】電界に暴露される非分裂細胞の概略図である。
【図3A】1つの典型的な実施の形態に係る電界に暴露され、1つの典型的な実施の形態に従って細胞が破壊(図3C)されることとなる分裂細胞の概略図である。
【図3B】1つの典型的な実施の形態に係る電界に暴露され、1つの典型的な実施の形態に従って細胞が破壊(図3C)されることとなる分裂細胞の概略図である。
【図3C】1つの典型的な実施の形態に係る電界に暴露され、1つの典型的な実施の形態に従って細胞が破壊(図3C)されることとなる分裂細胞の概略図である。
【図4】電界に暴露される1つの段階における分裂細胞の概略図である。
【図5】選択的に細胞を破壊する1つの実施の形態に係る、電気を印加するための装置の概略ブロック図である。
【図6】図5の装置の絶縁電極の等価電気回路の簡易概略図である。
【図7】図5の装置を組み込み、腫瘍等の治療のために皮膚表面に設置される皮膚パッチの断面図である。
【図8】腫瘍等の治療のために身体内部に埋め込まれる絶縁電極の断面図である。
【図9】腫瘍等の治療のために身体内部に埋め込まれる絶縁電極の断面図である。
【図10】図5の装置の絶縁電極の多様な構造の断面図である。
【図11】身体内部の腫瘍含有物、たとえば肺癌に付随する腫瘍の治療のために人間の胴の周囲に配置される2つの絶縁電極の部分断面正面図である。
【図12】構造の一部として形成される保護部材がある場合及びない場合の多様な絶縁電極の断面図である。
【図13】電界を所望の標的に集中させ、その他の領域を低電界密度(つまり、保護領域)にとどめるように配置される絶縁電極の概略図である。
【図14】第1の実施の形態に係るハットに組み込まれ、頭蓋内腫瘍等を治療するべく頭部に設置される絶縁電極の断面図である。
【図15】典型的な実施の形態に係る、1以上の絶縁電極を受け止める凹部を有するハットの部分図である。
【図16】頭部に設置された図15のハットの断面図であり、絶縁電極が頭部と接触を保ち続けるよう絶縁電極に力を加える付勢機構を示す。
【図17】腫瘍等の治療のために絶縁電極が内部に組み込まれた装具の上面断面図である。
【図18】図17の装具の部分断面図であり、治療が望まれる皮膚表面に近接して絶縁電極が設置される方向に絶縁電極を付勢する付勢機構を示す。
【図19】腫瘍等の治療のために身体の内部に配置される、1つの実施の形態に係るプローブの断面図である。
【図20】首の周囲に巻き付けられたときに当該領域における腫瘍等を治療するべく首の周囲に設置される、1つの典型的な実施の形態に係る、巻き付けられていない状態の襟の正面図である。
【図21】身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する2つの絶縁電極の断面図であり、電界の力線が示される。
【図22】1つの絶縁電極での絶縁破壊点を示す、図21の配置の断面図である。
【図23】腫瘍等の治療のために身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する少なくとも2つの絶縁電極の配置の断面図であり、各導電性ゲル部材は絶縁電極での絶縁破壊効果を最小限に抑える特性を有する。
【図24】腫瘍等の治療のために身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する少なくとも2つの絶縁電極の別の配置の断面図であり、身体内部の腫瘍の付近に電界密度が増大した領域を形成するように導電部材が配置される。
【図25】身体に対して配置される、大きさの異なる2つの絶縁電極の配置の断面図である。
【図26】腫瘍等の治療のために身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する少なくとも2つの絶縁電極の配置の断面図であり、各導電性ゲル部材は絶縁電極での絶縁破壊効果を最小限に抑える特性を有する。
【図27A】異なる方向への電界の印加を容易にする電極の構成を示す。
【図27B】異なる方向への電界の印加を容易にする電極の構成を示す。
【図27C】異なる方向への電界の印加を容易にする電極の構成を示す。
【図28】異なる方向への電界の印加を容易にする、身体部位周囲での電極の三次元配置を示す。
【図29A】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊過程の効率性を電界強度の関数として示すグラフである。
【図29B】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊過程の効率性を電界強度の関数として示すグラフである。
【図30A】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊効率がどの程度、印加電界の周波数の関数であるかを示すグラフである。
【図30B】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊効率がどの程度、印加電界の周波数の関数であるかを示すグラフである。
【図31A】複数の方向への複数の周波数の順次的印加のグラフ表示である。
【図31B】複数の方向への走査周波数の順次的印加のグラフ表示である。
【図32A】寄生生物に対する実験に用いられた電極の構造を示す。
【図32B】寄生生物に対する実験に用いられたテストチャンバを示す。
【図32C】テストチャンバに電界を誘導するのに用いられた設備を示す。
【図33】異なる周波数で電界により寄生生物を処置する効果を示す。
【図34】異なる電界強度で電界により寄生生物を処置する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
細胞分裂過程の様々な段階を概略的に示す図1A〜1Eを参照されたい。図1Aは、正常形状にある細胞10を示す。正常形状は、当該技術分野で知られているように、一般的には球状(図示のように)、楕円状、円筒状、パンケーキ状、又はその他のいずれの細胞形状であってよい。図1B〜1Dは、図1Eに示すように2つの新たな細胞18、20が形成されることとなる分裂過程における異なる段階にある細胞10を示す。
【0036】
図1B〜1Dに示すように、細胞10の分裂過程は、徐々に細胞10を2つの部分、つまり、最終的に新しい細胞18、20(図1E)へと進化するサブ細胞14、16へと分離させる成長の遅い裂け目12によって特徴付けられる。図1Dに具体的に示すように、分裂過程は、細胞10の構造が、おおむね、細胞物質(細胞膜に囲まれた細胞質)を含有する狭小な「ブリッジ」22によって相互に連結される2つのサブ細胞14、16の構造をしている期間である過渡期によって特徴づけられる。
【0037】
それぞれ比較的低い周波数及び比較的高い周波数で交流電位を印加することによって生成された電界に暴露される非分裂細胞10を概略的に示す図2A、2Bを参照されたい。細胞10は、細胞内小器官、たとえば核30を含む。交流電位は、電極28、32間に印加される。電極28、32は、患者の外部の所定領域、たとえば、治療される腫瘍の近辺に取り付けられてよい。細胞10が自然条件下、つまり生体組織の一部にあるとき、それは、大部分は電解性の組織間液からなる伝導性環境(以下、「容積導体」と呼ぶ)に置かれている。電位が電極28、32間に印加されると、結果として生じる電界の力線(もしくは電界によって組織に誘導された電流)の一部が細胞10を通り抜け、残りの力線(もしくは誘導電流)は周囲の媒質を流れる。電界力線の特有の分布は、本例では電流の流れの方向に実質的に一致するが、システム要素の形状及び電気的特性、たとえばシステム要素の、周波数によって変化し得る相対的伝導率及び誘電率に依存する。たとえば10KHz未満の周波数等の低周波数においては、要素の伝導特性によって電流の流れ及び電界の分布が完全に支配され、電界の分布はおおむね図2Aに示すもののようになる。たとえば10KHz〜1MHzの周波数等のより高い周波数においては、要素の誘電特性が影響を増し、最終的に電界の分布を支配するようになり、おおむね図2Bに示すような電界分布力線が得られる。
【0038】
一定(つまり、DC)電界、もしくはたとえば10KHz未満の周波数等の比較的低周波の交流電界においては、多様な要素の誘電特性は、電界分布の決定及び算出に影響を与えない。したがって、第1の近似として、電界分布に関しては、システムをその多様な要素の相対インピーダンスによって十分に表現することができる。この近似を用いると、細胞間(つまり、細胞外)液及び細胞内液は比較的低いインピーダンスを有し、細胞膜11は比較的高いインピーダンスを有することとなる。したがって、低周波条件下では、電界力線(もしくは電界に誘導された電流)のわずかなフラクションのみが細胞10の膜11を通り抜ける。対照的に、比較的高い周波数(たとえば、10KHz〜1MHz)では、細胞間及び細胞内の液に対する膜11のインピーダンスが低下し、したがって、細胞を通り抜ける電流のフラクションは大幅に増加する。非常に高い周波数、つまり1MHz超では、膜容量によって膜抵抗が短絡され得るので、総膜抵抗は無視できるものとなり得ることに注意されたい。
【0039】
上記のいずれの実施の形態においても、電界力線(もしくは誘導電流)は電流を生成する電極のうちの一方に最近接、たとえば正電極28(本明細書では「ソース」とも呼ぶ)に最近接する膜11の一部から細胞10を通り抜ける。細胞10を通過する電流の流れのパターンが全体的に均一であるのは、上記の近似においては、細胞内に誘導された電界が実質的に均一であるからである。電流は、反対の電極、たとえば負電極32(本明細書では「シンク」とも呼ぶ)に最近接する膜11の一部から細胞10を出る。
【0040】
力線と電流の流れとの区別は、数多くの要素に、たとえば印加電位の周波数、及び電極28、32が電気的に絶縁されているか否かに依存し得る。DCもしくは低周波交流の電圧を印加する絶縁電極の場合、電界力線に沿った電流の流れは実質的に存在しない。より高い周波数においては、電極絶縁体及び細胞膜(ある程度までコンデンサとして作用する)の充放電によって変位電流が組織内に誘導され、そのような電流は電界力線をたどる。対照的に、非絶縁電極によって生成された電界は、何らかの形態の電流の流れを必ず生成する。具体的には、DCもしくは低周波交流の電界は電界力線に沿った伝導電流の流れを生成し、高周波交流電界は電界力線に沿った伝導電流及び変位電流の両方を生成する。しかし、本発明に係る分極性の細胞内小器官の運動(以下に記載)は、電流の実際の流れには依存しておらず、したがって、絶縁電極及び非絶縁電極の両方を効率的に使用することが可能であることは理解されたい。絶縁電極の利点としては、消費電力が低下すること、治療領域があまり加熱されないこと、及び患者の安全性が向上することがある。
【0041】
本発明の1つの典型的な実施の形態によると、用いられる電界は、約50KHz〜約500KHz、好ましくは約100KHz〜約300KHzの範囲の周波数を有する交流電界である。議論を容易にするべく、以下においては、この種の電界を「腫瘍治療電界(Tumor Curing electric fields)」の略として「TC電界」とも呼ぶ。なぜなら、これらの電界は、生物学的効果的(bio−effective)な電界特性を有する一方、重大な刺激作用及び熱的効果は有さない中間的分類(高周波及び低周波の範囲の間の)に存在するからである。これらの周波数は、システムの挙動がシステムのオーミックな(伝導性の)特性によって決まる程度に十分低く、しかし興奮組織に刺激作用を与えない程度に十分高い。このシステムは、2種類の要素、つまり、細胞間もしくは細胞外の液又は媒質、及び個々の細胞、から構成される。組織間液はほぼ約40〜100Ω・cmの抵抗率を有する電解質である。上記したように、細胞は3つの要素、すなわち(1)細胞を覆う薄くて電気抵抗が高い膜、(2)多数の高分子と、核を含む極小細胞小器官とを含有する電解質からほぼなる内部の細胞質、及び(3)電気的特性が細胞膜に似た、極小細胞小器官を覆う膜、によって特徴付けられる。
【0042】
この種のシステムが本発明のTC電界(たとえば、100KHz〜300KHzの周波数範囲に存在する交流電界)に暴露されると、電界力線及び電流のほとんどは、細胞膜が高抵抗であるために細胞から逸れ、したがって、力線は細胞外の伝導性媒質にとどまる。上記した周波数範囲においては、細胞を通り抜ける電界もしくは電流の実際のフラクションは、周波数に強く依存する関数である。
【0043】
図2は、システムに結果として生じた電界の分布を概略的に示す。図示のように、力線は、細胞容積を通過する潜在的な電流の流れの線を、歪みのない力線(電界の主方向)にほぼ平行に描いている。換言すると、細胞内の電界は、ほぼ均一である。実際には、細胞を通り抜ける電界もしくは電流のフラクションは、細胞膜の細胞外液に対するインピーダンス値によって決まる。細胞膜の等価電気回路が、抵抗及びコンデンサの並列回路であるため、インピーダンスは周波数の関数である。周波数が高いほどインピーダンスは低くなり、通り抜ける電流フラクションが大きいほど電界の歪みは小さくなる(Rotshenker S.及びY.Palti、刺激パルスの持続時間の関数としての軸索を通り抜ける電流フラクションの変化、J.Theor.Biol.41、401−407頁(1973年刊)。
【0044】
以前に述べたように、高周波数で交番する比較的弱い電界及び電流、たとえば50KHz〜500KHzの範囲に存在する周波数を有する本発明のTC電界に細胞を暴露すると、非分裂細胞には影響が及ばない。本発明のTC電界はこのようなシステムに対して検出可能な影響を及ぼさないが、分裂細胞が存在する場合は、状況が異なる。
【0045】
1つの典型的な実施の形態に係る約100KHz〜約300KHzの周波数範囲にある交流電界(TC電界)の影響下にある分裂中の細胞10での電流の流れのパターンを概略的に示す図3A〜3Cを参照されたい。力線又は誘導電流は、電極28に近い方のサブ細胞16の膜の一部から細胞10を通り抜ける。しかし、それらは、サブ細胞16を、新たに形成され、いまだ付着しているサブ細胞14に連結する細胞質ブリッジ22を通っては、又はブリッジ22の近辺の膜の一部を通っては出て行かない。代わりに、サブ細胞16内では比較的広く離れている電界力線もしくは電流の流れの線は、ブリッジ22(「ネック」22とも呼ぶ)に近づくにつれ収束し、したがってネック22内での電流の線/電界力線の密度は劇的に増大する。サブ細胞14内では「鏡像」過程が生じ、ブリッジ22内の収束力線は、サブ細胞14の出口領域に近づくにつれ発散する。
【0046】
均一な電界は、電気的に中性の物体、つまり正味電荷が実質的にゼロの物体には力を及ぼさないことを当業者は理解すべきである。そのような物体であっても、分極することは可能である。しかし、図3A〜3Cに示すような不均一な収束電界の下では、電気力が分極した物体に作用し、高密度電界力線の方向へと物体を動かす。ネック又はブリッジ領域そのものに存在する集中した電界は、電荷及び自然の双極子(natural dipole)に強い力を及ぼし、それらに関連する構造体を分解させ得る。交流電界においては、同様の正味の力が、同じくより高強度の電界の方向に向けて電荷に作用することは理解されよう。
【0047】
図3A及び3Bの構成において、分極し帯電した物体の運動の方向は、より高密の電界力線に向かう方向、つまりサブ細胞14、16間の細胞質ブリッジ22に向かう方向である。当該技術分野においては、たとえばサブ細胞14、16の核24、26等の細胞内小器官はすべて分極可能であり、したがって、このような細胞内小器官はブリッジ22の方向へと電気的に推進されることは知られている。運動は、電界極性に拘わらず、必ずより低密度の電流からより高密度の電流へと生じるので、交流電界が核24、26等の細胞小器官に与える力は必ずブリッジ22に向かう方向に作用する。このような力、及び結果として生じる「誘電泳動現象」と呼ばれる細胞内小器官の高分子の運動現象についての包括的説明が、たとえばC.L.Asbury及びG.van den Engh著、Biophys.J.74、1024−1030頁、1998年刊等の文献に広範に記載されている。当該文献の開示内容の全体を本明細書において参照として援用する。
【0048】
細胞小器官24、26のブリッジ22に向けた運動によって、分裂細胞の構造が分解し、多様な細胞構成要素の濃度が変化し、最終的には、ブリッジ膜22に対して収束して行く細胞小器官の圧力によって、図3Cに概略的に示すようにブリッジ22の近辺において細胞膜11が破れる。ブリッジ22において膜11を破れさせる能力、また、そうでなければ細胞の構造及び機構を分解させる能力を強めることは、安定したAC電界でなく振動するAC電界を印加することによって可能である。振動電界を印加した場合、細胞小器官24、26に作用する力によって「ハンマリング」効果(“hammering” effect)が生じ、振動を与えられた力によって細胞内小器官がサブ細胞14、16の両方からネック22に向けて打ち付けられる。したがって、細胞膜11がネック22の近辺で破れる可能性が高められる。
【0049】
分裂細胞内で形成される特有の電界の影響を非常に受け易い非常に重要な要素として、分裂過程で主要な役割を果たす微小管紡錘体がある。図4において、力線100によって大まかに表される外部TC電界(たとえば、約100KHz〜約300KHzの周波数範囲にある交流電界)の影響下にある、図3A及び3Bよりも早い段階にある分裂細胞10を、120にて大まかに示される対応する紡錘体構造とともに示す。線120は、非常に強い双極子モーメントを有することが知られている微小管である。この強い分極によって小管は、その他の極性高分子及び特に細胞内又はその周囲において特有の配向を有する極性高分子と同様に、電界の影響を受け易くなる。それらが有する正電荷は2つの中心小体に位置し、負極のうち2つは分裂細胞の中心に位置し、もう一方の対は、130にて大まかに示される、微小管が細胞膜に付着する箇所に位置する。この構造によって二重双極子がいくつか形成され、したがって、それらは異なる方向の電界にそれぞれ影響される。双極子に対するTC電界の作用はブリッジ(ネック)の形成には依存せず、したがって双極子は、ブリッジ(ネック)が形成される前にTC電界によって影響を受けることは理解されよう。
【0050】
本発明の装置(以下に詳細に記載する)は絶縁電極を使用しているので、導電性電極を使用した場合に生じる上記の負の効果、つまり細胞内でのイオン濃度変化及び電気分解による有害物質の形成は、本発明の装置を用いた場合、生じない。これは、電極と媒質との間において電荷の実際の移動が生じず、電流が容量性である、つまり電流が電荷の回転としてのみ表現される媒質において電荷の流れが生じないからである。
【0051】
次に、図5を参照する。腫瘍細胞を破壊する利点を発見された上記のTC電界は、電子装置200によって生成される。図5は、電子装置200の主な構成要素を示す簡易概略図である。電子装置200は、所望の電気信号(TC信号)を波形もしくはパルス列の形態で生成する。装置200は、発生器210と、一端にて発生器210に取り付けられる1対の導電性リード220とを含む。リード220の反対の端は、電気信号(たとえば、波形)によって作動する絶縁導体230に接続される。絶縁導体230を、以下においてアイソレクト(isolects)230とも呼ぶ。任意に、及び別の典型的な実施の形態によると、装置200は、治療領域が過熱されないようにするべく生成された電界の振幅を制御するために、それぞれ追加される温度センサ240及び制御ボックス250を含む。
【0052】
発生器210は、約50KHz〜約500KHz(好ましくは、約100KHz〜約300KHz)の範囲の周波数の交流電圧波形(つまり、TC電界)を生成する。要求される電圧は、治療すべき組織内での電界強度が約0.1V/cm〜約10V/cmの範囲となるようなものである。この電界を得るべく、アイソレクト230内の2つの導体間の実際の電位差が、以下に記載するように、システム要素の相対インピーダンスによって決定される。
【0053】
制御ボックス250が含まれる場合、それはユーザが予め設定した値に一定となるよう発生器210の出力を制御し、又は制御ボックス250は過熱が生じない最大値に出力を設定し、又は制御ボックス250は温度(温度センサ240に検知される)が予め設定された限度を超えたときに警告等を発する。
【0054】
リード220は、可撓性の金属シールドが施され、好ましくはリード220が生成した電界の広がりを防ぐべく接地された、標準的な孤立導体である。アイソレクト230は、所望の構成、方向、及び強度の電界を標的体積において生成するべく特定の形状及び配置とされ、治療を的中させるためにのみ存在する。
【0055】
装置200の全体及びその各構成要素の仕様は、本発明のTC電界(50KHz〜500KHz)の周波数では、生体はその誘電特性でなくその「オーミック」な特性にしたがって挙動するという事実に大きく影響される。異なる挙動をする装置200内の構成要素は、アイソレクト230の絶縁体のみである(図7〜9参照)。アイソレクト200は、伝導性の組織に接触した誘電体に接触する導体から構成され、これによりコンデンサを形成する。
【0056】
アイソレクト230の構造の詳細は、図6に大まかに示す、組織と接触した状態の簡易な電気回路から理解することが可能な、それらの電気的挙動に基づく。図示の配列において、異なる要素間の電位降下又は電界分布は、それらの相対電気インピーダンスによって決まる。つまり、各要素上の電界のフラクションは、当該要素のインピーダンス値を回路全体のインピーダンスで割ったものによって与えられる。たとえば、要素Aに対する電位降下は、ΔVA=A/(A+B+C+D+E)である。したがって、DCもしくは低周波ACにおいては、電位降下の実質的にすべてがコンデンサ(絶縁体として作用する)にかかる。比較的非常に高い周波数においては、コンデンサは実質的に短絡(a short)であり、したがって電界の実質的に全体が組織内に分布される。中間的な周波数である本発明のTC電界(たとえば、50KHz〜500KHz)の周波数においては、コンデンサの容量のインピーダンスが支配的であり、電界分布を決定する。したがって、組織に対する実効電圧降下(電界強度)を高めるには、コンデンサのインピーダンスを低める(つまり、それらの容量を高める)べきである。これは、コンデンサの「プレート」の実効面積を増やし、誘電体の厚さを減らし、もしくは誘電率の高い誘電体を用いることによって達成可能である。
【0057】
電界分布を最適化するには、アイソレクト230が用いられる用途にしたがって、アイソレクト230を異なる構成にする。本発明の電界(TC電界)を印加する2つの主な方法が存在する。第1に、TC電界を外部アイソレクトによって印加することができ、第2に、TC電界を内部アイソレクトによって印加することができる。
【0058】
外部アイソレクトによって印加される電界(TC電界)は、局所的なものと、広範に分布されるものとになり得る。第1の種類は、たとえば、皮膚腫瘍の治療及び皮膚表面近辺の損傷の治療を含む。図7は、アイソレクト230が皮膚パッチ300に組み込まれる典型的な実施の形態を示す。皮膚パッチ300は、1対以上のアイソレクト230を含む接着性の柔らかいパッチであってよい。パッチ300は、内部絶縁体310(誘電性材料から形成される)と、外部絶縁体260とを含み、皮膚表面301上又は皮膚表面301よりわずかに下に腫瘍303を含む皮膚表面301に貼付される。組織は、305において大まかに示される。内部絶縁体310にかかる電位降下を防いでシステムを支配するには、内部絶縁体310は比較的大きい容量を有していなければならない。これは、表面面積を大きくすることによって得られるが、しかし、これによって電界が大面積(たとえば、腫瘍を治療するのに必要とされるより大きい面積)にわたって広がることとなるので望ましくない。代わりに、内部絶縁体310を非常に薄く形成すること、及び/又は、内部絶縁体310を誘電率の高いものとすること、が可能である。電極(図6において符号A及びEを付されている)間の皮膚抵抗は、皮膚の下の組織(図6において符号Cを付されている)よりも通常著しく高い(1〜10KΩ対0.1〜1KΩ)ため、アイソレクトから越境する電位降下のほとんどはそこで発生する。これらのインピーダンス(Z)に対処するには、内部絶縁体310(図6において符号B、Dを付されている)の特性は、本発明のTC電界(たとえば、50KHz〜500KHz)の周波数において、好ましくは100KΩ未満のインピーダンスを有するようなものであるべきである。たとえば、印加電圧の1%超が組織にかかるようにするべくインピーダンスが約10Kオーム以下であることが望まれる場合、アイソレクトが10mm2の表面面積を有し、周波数が200KHzであるならば、容量は約10−10Fであるべきであり、これは誘電率が2〜3の標準的絶縁体を用いるということであり、また絶縁層310の厚さは約50〜100ミクロンであるべきであるということである。10倍の強度の内部電界は、誘電率が約20〜50の絶縁体によって得られる。
【0059】
高い誘電率を有する絶縁材料を用いることによって電極の容量が高まり、発生器1(図5に示す)によって印加されたAC信号に対する電極のインピーダンスが低下することとなる。図6に示すように、電極A、Eは標的組織Cに直列に接続されているので、このようなインピーダンス低下によって電極での電圧降下が減少し、印加されたAC電圧のより大きい部分が組織Cに現れる。電圧のより大きい部分が組織に現れるため、発生器1によって印加されている電圧は、組織内の任意の電界強度について有利に低められる。
【0060】
治療される組織での所望の電界強度は、好ましくは約0.1V/cm〜約10V/cmであり、より好ましくは約2V/cm〜3V/cmもしくは約1V/cm〜約5V/cmである。電極内で用いられる誘電率が十分に高い場合、電極A、Eのインピーダンスは、皮膚及び組織B、C、Dの直列のコンビネーションと同位の大きさまで低下する。非常に高い誘電率を有するふさわしい材料の一例として、誘電率が約11,000(100kHzで測定)のCaCu3Ti4O12が挙げられる。誘電率がこのように高い場合、約数十ボルトの発生器電圧を用いることで有用な電界を得ることができる。
【0061】
薄い絶縁層は非常に損傷等を受け易いので、絶縁体を二酸化チタン(ルチル)等の非常に誘電率が高い絶縁材料と取り替えてもよく、誘電率は約200の値に達し得る。意図する用途で使用するのにふさわしく、高い誘電率を有する数多くの異なる材料が存在する。たとえば、材料のいくつかとしては、強誘電体結晶であり、光学/焦電/圧電装置において数多くの用途を有するニオブ酸リチウム(LiNbO3)と、強磁性結晶であり、光アイソレーター等の磁気光学装置を実現することができるイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)と、大きい電気光学的効果を有する強磁性結晶であるチタン酸バリウム(BaTiO3)と、誘電体結晶(低温では強誘電性)であり、低温ではマイクロ波損失が非常に低くかつ誘電率を調整可能なタンタル酸カリウム(KTaO3)と、ニオブ酸リチウムと似た特性を有する強誘電体結晶であり、電気光学/焦電/圧電装置において有用であるタンタル酸リチウム(LiTaO3)とが挙げられる。マグネシウムニオブ酸鉛とチタン酸鉛との組み合わせから形成されるセラミック等の高い誘電率を有する絶縁セラミックスを用いてもよい。高い誘電率を有する材料を用いることが望まれる本発明の装置と組み合わせて上記の例示の材料を用いることができることは理解されよう。
【0062】
アイソレクト230の実効容量に影響を与えるもう1つの要因、つまりアイソレクト230と皮膚との間の空気の存在も考慮しなければならない。防ぐことが容易でないこのような存在によって、アイソレクト230の実効容量を著しく低め二酸化チタン(ルチル)等の利点を無効にする要因である誘電率が1.0の絶縁体の層が持ち込まれる。この問題を克服するには、アイソレクト230を身体構造に沿うように成形すること、及び/又は(2)ゲル等の高い伝導性及び高い実効誘電率を有する間挿充填材270(図10Cに示す)を構造に追加すること、が可能である。成形を予め構造に組み入れてもよく(図10A参照)、もしくはシステムを十分に可撓に形成しておいてアイソレクト230の成形を容易になせるようにしてもよい。ゲルを適切な位置に封入することは、図10C及び10C’に示すように、隆起した枠を設けることによって可能である。ゲルをヒドロゲル、ゼラチン、寒天等から形成してよく、伝導性を高めるために塩を溶解させてもよい。図10A〜10C’は、アイソレクト230の多様な典型的構成を示す。ゲルの正確な厚さは、ゲル層が治療中に干からびない十分な厚さであれば重要でない。1つの典型的な実施の形態においては、ゲルの厚さは約0.5mm〜約2mmである。好ましくは、ゲルは伝導性が高く、粘着性を有し、長時間に亘って生体適合性を保持するものである。ふさわしいゲルの1つは、アメリカ合衆国、カリフォルニア州92028−4115、フォールブルック、1667 S.ミッションロード所在のAmGel Technologies社から入手可能なAG603 Hydrogelである。
【0063】
アイソレクト230の所望の特性を達成するには、各アイソレクトの誘電体コーティングを非常に薄くするべきであり、たとえば1〜50ミクロンにするべきである。コーティングが非常に薄いために、アイソレクト230は機械的損傷を受け易く、又は絶縁破壊を被り易い。このような損傷からの所望の保護を与えるべくアイソレクトの構造に保護的機能を追加することによってこの問題を克服することができる。たとえば、表面への接近を防ぐが、アイソレクト230の実効表面面積(つまり、アイソレクト230の容量)にはわずかにしか影響しない比較的緩いネット340によってアイソレクト230を覆ってよい(図12Bに示す断面図)。緩いネット340は、容量に影響を与えず、皮膚等との接触を良好にする。多数の異なる材料から緩いネット340を形成することができるが、1つの典型的な実施の形態においては、ネット340はナイロン、ポリエステル、綿等から形成される。代わりに、非常に薄い導電性コーティング350を、アイソレクト230の誘電部(絶縁層)に施してもよい。1つの模倣的な導電性コーティングは、金属、より特定的には金から形成される。コーティング350の厚さは、特定的用途及びコーティング350を形成するのに用いる材料の種類に依存する。しかし、金を用いる場合、コーティングの厚さは約0.1ミクロン〜約0.1mmである。さらに、図10に示す枠によってもいくらかの機械的保護が与えられる。
【0064】
しかし、容量のみが考慮すべき要因ではない。以下の2つの要因も、アイソレクト230を構築する態様に影響を与える。内部絶縁層310の絶縁耐力、及びそれがTC電界に暴露されたときに生じる誘電損失、つまり生成される熱の量である。内部絶縁体310の絶縁耐力によって、絶縁体が「短絡」され、無傷の絶縁体として作用するのを停止する電界強度が決まる。典型的には、プラスチック等の絶縁体は、1ミクロン当たり約100V以上の絶縁耐力値を有する。誘電率が高いことによって内部絶縁体310内での電界が減少するので、高い誘電率と高い絶縁耐力との組み合わせによって大きな利益が得られる。これは、所望の特性を有する単一の材料を用いることによって得られ、もしくは的確なパラメータ及び厚さを有する二重層によって得られる。また、絶縁層310が機能しなくなる可能性をさらに低下させるには、従来技術を用いて、図10Dに示すように、絶縁層310の尖った端部を全て、角を丸くすることによって除去すべきである。
【0065】
図8及び9は、アイソレクト230を用いた2番目の種類の治療、つまり内部アイソレクト230による電界生成を示す。アイソレクト230が埋め込まれた身体は311において大まかに示され、皮膚表面313と腫瘍315とを含む。本実施の形態においては、アイソレクト230は、皮下に、又は身体311内のさらに深い位置に挿入して標的領域(腫瘍315)において適切な電界を生成することが可能なプレート、ワイヤの形状、もしくはその他の形状を有してよい。
【0066】
アイソレクトの使用態様が上記のものに限定されないことは理解されよう。たとえば、肝臓、肺等の内部器官における腫瘍の場合、1対のアイソレクト230の各部材間の距離は大きくなり得る。図11に示すように、胴410の両側に位置付けることによって対を均等にすることができる。図11のアイソレクト230の配置は、肺癌又は胃腸腫瘍に付随する腫瘍415を治療するのに特に有用である。本実施の形態においては、電界(TC電界)は身体の広い部分に広がる。
【0067】
治療組織の過熱を避けるべく、材料及び電界のパラメータの選択が必要である。アイソレクトの絶縁材料は、治療過程で用いられる周波数範囲における誘電損失が最小限のものであるべきである。この要因を、治療用の特定周波数を選択するときに考慮に入れることができる。組織の直接加熱は、電流の流れ(I*Rの積によって与えられる)による加熱によって支配される可能性が最も高い。さらに、アイソレクト(絶縁電極)230及びその周囲は、熱損失を促す材料から形成されるべきであり、その全体的構造も熱損失を促すもの、つまり、高い熱伝導と同様に周囲(空気)への熱放散を遮断する最小構造であるべきである。より大きい電極を用いることによっても、患者へと移転されるエネルギーがより大きい表面面積にわたって広がるため、加熱による局所的興奮が最小限に抑えられる。好ましくは、患者の皮膚温度が約39℃を超すことがない点まで加熱は最小限に抑えられる。
【0068】
加熱を抑える別の方法は、連続的な電界を用いる代わりに、デューティサイクルが約20%〜約50%の電界を印加することによって、治療される組織に電界を間欠的に印加することである。たとえば、33%のデューティサイクルを達成するには、電界を1秒間繰り返しオンにし、次に2秒間オフにする。予備実験よって、デューティサイクルが33%の電界を用いた治療の有効性は、デューティサイクルが100%の電界の場合とおおよそ同じであることが示された。別の実施の形態においては、電界を1時間オンにし、次に1時間オフにすることによって、50%のデューティサイクルを得ることが可能である。もちろん、1時間当たり1回の割合で切り替えることは、短期加熱を最小限に抑えることにおいては用を成さない。他方で、これによって患者には、歓迎すべき治療からの休息が与えられる。
【0069】
電界を所望の標的に集中させ、その他の感度が高い領域を低電界密度(つまり、保護領域)にとどめるようなアイソレクト230の配置によって治療の有効性を高めることができる。身体上でアイソレクト230を正しい配置に維持することは、アイソレクトを適切な位置に維持する適切な装具の使用を含む任意数の異なる技術を用いることによって可能である。図13はこのような配置を示しており、ここでは符号「P」によって示される領域が保護領域を表す。電界の力線はこの保護領域を通り抜けておらず、そこにおける電界は、標的領域を位置付けて良好に治療することができるアイソレクト230の付近よりもずっと小さい。対照的に、4つの柱の付近の電界強度は非常に高い。
【0070】
以下の実施例は、本発明の装置の典型的利用法及びTC電界の印加を例示するものである。しかし、この実施例は限定的なものでなく、本発明の範囲をいかなる点においても限定しない。
【0071】
[実施例1]
上記の特性(たとえば、50KHz〜500KHzの周波数)を有する電界の、腫瘍細胞を破壊することにおける有効性を実証するべく、電界を印加して悪性のメラノーマ腫瘍を有するマウスを治療した。2対のアイソレクト230を対応する対の悪性メラノーマ上に位置付けた。1対だけを発生器210に接続し、200KHzの交流電界(TC電界)を腫瘍に6日間印加した。治療腫瘍と非治療腫瘍との比較を可能にするべくメラノーマ腫瘍の1つを治療しなかった。6日間の治療の後、着色されたメラノーマ腫瘍はマウスの非治療側においてははっきりと視認可能なままに残ったが、対照的にマウスの治療側においては腫瘍は確認できなかった。皮膚上で視認可能な領域は、アイソレクト230の挿入点を表すマークだけであった。治療側において腫瘍が除去されたという事実を、皮膚を切除し内側の面が露出するよう反転することによってさらに実証した。この手順によって、マウスの治療側において腫瘍が完全ではないにせよ、実質的に除去されたことが示された。治療の成功は、さらに組織病理学検査によっても立証された。
【0072】
したがって、本願発明者は、特定の特性を有する電界は、電子装置での使用に適用された場合、分裂細胞もしくは腫瘍を破壊するべく利用可能であることを発見した。より具体的には、これらの電界は、特殊な中間的分類、つまり重大な刺激作用及び熱的効果をもたらさない生物学的効果的な電界に分類され、したがって、従来の電界を身体に印加することに付随する不利点が克服される。本発明の装置が、TC電界を生体組織に対して回転させる装置をさらに含むことが可能であることも理解されたい。たとえば、及び1つの実施の形態によると、作動させることによって本発明のシステムの多様な構成要素を回転させる機械的装置等の従来装置を用いて、治療される組織に印加される交流電位を組織に対して回転させる。
【0073】
さらに、及び別の実施の形態によると、別々の対の絶縁電極230にTC電界を連続的に印加する。換言すると、信号が定期的間隔で送信され、対を成す絶縁電極230が選択されて、それらの絶縁電極230によって異なる方向のTC電界が生成されるように、発生器210及びその制御システムを配置することが可能である。信号は発生器210から絶縁電極230へと選択された時点に送信されるため、方向が変化するTC電界が、異なる絶縁電極230によって連続的に生成される。この配置は、多数の利点を有し、TC電界の最大効果がそれらが細胞分裂軸に平行となったときに得られるという事実を考慮して提供されるものである。ほとんどの場合において細胞分裂の配向はランダムであり、いずれか任意の電界の影響を受けるのは分裂細胞のごく一部分である。したがって、2以上の配向を有する電界を用いることにより、より多くの分裂細胞が任意のTC電界の影響を受ける可能性が高まるので、有効性が高められる。
【0074】
インビトロの実験によって、電界の力線が有糸分裂中の砂時計形状の細胞の長軸にほぼ平行に配向したときに(図3A〜3Cに示すように)、電界は最大の殺細胞効果を発揮することが示された。1つの実験においては、損傷細胞のうち、その分裂軸が電界に沿って配向していたものの方がずっと高い割合を占めた。つまり、電界に対して0度又はほぼ0度に配向した細胞の56%が損傷し、対して長軸が電界に対して22度より大きく配向した細胞に関しては、細胞の平均15%が損傷した。
【0075】
本願発明者は、異なる方向に電界を順次に印加することによって、分裂細胞を死滅させるのに最も有効な電界配向が分裂細胞のより大きい個体群に対して印加されるようになるため、全体的な殺細胞効果が高められることを確認した。異なる方向に電界を印加する多数の例を以下に記載する。
【0076】
図27A、27B、27Cは、6個の電極E1〜E6の組を示し、異なる対の電極間に発生器1(図1に示す)からAC信号を印加することによって、標的組織1510を通る電界の方向を変化可能にする態様を示す。たとえば、AC信号を電極E1、E4間に印加した場合、力線Fは鉛直になり(図27Aに示すように)、信号を電極E2、E5間、又は電極E3、E6間に印加した場合、力線Fは斜めになる(それぞれ図27B、27Cに示すように)。AC信号をその他の対の電極間に印加することによってさらなる電界方向を得ることができる。たとえば、信号を電極E2、E6間に印加することによってほぼ水平な電界を得ることができる。
【0077】
1つの実施の形態においては、AC信号を、様々な対の電極に順次に印加する。この構成の一例においては、電極E1、E4間に1秒間AC信号を印加し、次に電極E2、E5間に1秒間AC信号を印加し、次に電極E3、E6間に1秒間AC信号印加する。この3部構成のシーケンスを所望の治療時間に亘って繰り返す。細胞破壊の有効性は細胞の配向に強く依存するので、電界を異なる方向間で循環させることによって、細胞破壊を促進する方向に、少なくとも部分的な時間に亘って、電界が配向する可能性が高められる。
【0078】
もちろん、図27A〜27Cに示す6電極構成は、多数の電極の、数多くの可能な配列のうちの1つに過ぎず、3個以上の電極のその他数多くの構成を、同じ原理に基づいて利用することができる。
【0079】
異なる方向に電界を順次印加することは、2次元での実施の形態に限定されない。図28は、異なる組の電極間への信号の順次印加を3次元に拡張可能にする態様を示す。電極A1〜A9による第1のアレイを身体部分1500の周囲に配置し、電極N1〜N9による最後のアレイを、第1のアレイから距離Wだけ離して身体部分1500の周囲に配置する。任意に、電極のさらなるアレイを、第1のアレイと最後のアレイとの間に追加してもよいが、これら追加的アレイは明瞭性を期して図示を省略する(身体部分1500の後面の電極A5〜A9及びB5〜B8を不明瞭にしないために)。
【0080】
図27の実施の形態のように、AC信号を発生器1(図1に示す)から異なる対の電極に印加することにより、標的組織を通る電界の方向を変化させることができる。たとえば、電極A2、A7間にAC信号を印加すると、これら2つの電極間において前方から後方へ向かう方向に電界が生成され、電極A5、A9間にAC信号を印加すると、これら2つの電極間においてほぼ鉛直に電界が生成される。同様に、電極A2、N7間にAC信号を印加すると、身体部分1500を通る1つの方向に斜めの力線が生成され、電極A2、B7間にAC信号を印加すると、身体部分を通る別の方向に斜めの力線が生成される。
【0081】
電極の3次元アレイを使用することによって、同時に多数の対の電極を活性化して所望の方向に電界を誘導することも可能になる。たとえば、電極A2−N2のすべてが発生器の一方の端子に接続され、電極A7−N7のすべてが発生器の他方の端子に接続されるように適切なスイッチングが提供された場合、結果として生じる電界は、幅Wの全体にわたって前方から後方へ向かう方向に延びるシートとなる。前方から後方へ向かう電界を適切な持続時間(たとえば、1秒)持続した後、スイッチングシステム(不図示)を再構成して電極A3−N3を発生器の一方の端子に接続し、電極A8−N8を発生器の他方の端子に接続する。これにより、初期の電界方向に対してZ軸を中心として約40度回転したシート状の電界が生成される。この方向に電界を適切な持続時間(たとえば、1秒)持続した後、次の組の電極を活性化して、電界を次の位置へとさらに40度回転させる。これを電界が初期の位置へと戻るまで続け、初期位置では全てのプロセスを繰り返す。
【0082】
任意に、上記の斜めの電界に対して回転するシート状の電界を追加して(時間的に順次に)、これらの斜めの軸に沿って配向した細胞をより良好に標的するようにしてよい。
【0083】
電界はベクトルであるため、任意に、所望の合成ベクトルを形成するべく電極の複数の組み合わせに対して同時に信号を印加してよい。たとえば、電極A2−N2及びA3−N3のすべてを発生器の一方の端子にスイッチングし、電極A7−N7及びA8−N8のすべてを発生器の他方の端子にスイッチングすることによって、初期位置に対してX軸を中心に20度回転した電界を得ることができる。関連技術分野の当業者には理解されるであろうように、信号を電極の他の複数の組み合わせに対して印加することによって、他の方向に電界が生成される。電圧に対する適切なコンピュータ制御が実施されるならば、上記のように段階的にではなく連続的(つまり、滑らか)に、電界の方向によって空間が走査されるようにすることも可能である。
【0084】
図29A、29Bは、印加電界の分裂細胞に対する殺細胞能力が、どの程度電界強度の関数であるかを示すインビトロの実験の結果を示す。図29Aの実験においては、B16F1メラノーマ細胞を、100kHzのAC電界に、異なる電界強度で、各強度当たり24時間暴露した。図29Bの実験においては、F−98グリオーマ細胞を、200kHzのAC電界に、異なる電界強度で、各強度当たり24時間暴露した。これら両図において、電界の強度(EF)は、1cm当たりのボルトで測られている。殺細胞効果の大きさは、対照細胞の増殖速度(GRC)に比較した治療細胞の増殖速度(GRT)の減少率であるTERによって表される。
【0085】
【数1】
【0086】
実験結果は、印加電界の増殖に対する阻害効果は、メラノーマ及びグリオーマ細胞の両方において強度とともに増加することを示す。完全な増殖阻止(TER=1)は、メラノーマ及びグリオーマ細胞においてそれぞれ1.35及び2.25V/cmで見られる。
【0087】
図30A、30Bは、印加電界の殺細胞能力が、どの程度電界の周波数の関数であるかを示すインビトロの実験の結果を示す。実験においては、B16F1メラノーマ細胞(図30A)及びF−98グリオーマ細胞(図30B)を、異なる周波数を有する電界に、各周波数当たり24時間暴露した。図30A、30Bは、電界強度に対して正規化した増殖速度の変化(TER/EF)を示す。データは、平均+標準誤差として示される。図30Aにおいて、メラノーマ細胞では120kHzにおいて最大限に阻害される窓効果(window effect)が見られる。図30Bにおいて、2つのピークが170及び250kHzにおいて見られる。したがって、治療の全過程において唯一つの周波数のみが利用可能であるならば、メラノーマ細胞を破壊するには約120kHzの周波数を有する電界が適切であり、グリオーマ細胞を破壊するには約200kHzの周波数を有する電界が適切である。
【0088】
いずれか任意の型の細胞のすべてが正確に同じ大きさを有するのではない。代わりに、細胞は大きさの分布を有し、いくつかの細胞は小さく、いくつかの細胞は大きい。特定の細胞を損傷する最良の周波数は、当該特定の細胞の物理的特徴(たとえば、大きさ)に関連すると考えられている。したがって、大きさの分布を有する細胞の個体群を最も良好に損傷するには、標的細胞の大きさの予想分布に基づいて周波数の選択を最適化し、その個体群に対して異なる周波数を含む分布を印加することは有利となり得る。たとえば、図30Bのデータは、グリオーマ細胞の個体群を破壊するべく170kHz及び250kHzの2つの周波数を使用することは、単一の周波数200kHzを使用することよりも有効となり得ることを示す。
【0089】
本明細書において議論する最適な電界の強度及び周波数は、インビトロの実験に基づいて得られたものであり、インビボの用途での対応するパラメータは、インビボで同様の実験を行うことにより得られるであろうことに注意されたい。細胞そのものの関連特性(大きさ及び/又は形状等)、又は細胞の周辺との相互作用によって、インビボでの用途における最適な周波数及び/又は電界強度の一式は異なるものとなり得る。
【0090】
1つより多い周波数を使用する場合、それら多様な周波数を時間的に順次に印加してよい。たとえば、グリオーマの場合、100、150、170、200、250、及び300kHzの電界の周波数を、それぞれ治療過程の第1分目、第2分目、第3分目、第4分目、第5分目、及び第6分目の分間にわたって印加してよい。その後、周波数の当該サイクルを、治療過程における後続の6分間ごとに繰り返す。または、電界の周波数を、100から300kHzへと無段階的に走査してもよい。
【0091】
任意に、この周波数循環を、上記の方向的循環と組み合わせてよい。図31Aは、3つの方向(D1、D2、及びD3)並びに3つの周波数(F1、F2、及びF3)を使用したそのような組み合わせの例である。もちろん、同じスキームをその他いかなる数の方向及び/又は周波数へと拡張することも可能である。図31Bは、3つの方向(D1、D2、及びD3)を使用し、周波数を100kHzから300kHzまで走査するそのような組み合わせの例である。t1とt2との間の時間軸の途切れにおいては、周波数が300kHzの丁度下まで上昇するまで周波数を走査するのに必要な時間が与えられている。図31Aに示すように、周波数の走査(又は段階化)を方向変化と同期化させてよい。または、図31Bに示すように、周波数の走査(又は段階化)を方向変化と非同期化させてよい。
【0092】
他の実施の形態においては、2以上の周波数成分(たとえば、170kHz及び250kHz)を同時に含む信号を、大きさの分布を有する細胞の個体群を治療するべく電極に印加する。多様な信号は重畳によって重ね合わさり、印加された周波数成分のすべてを含む電界を生成する。
【0093】
次に、1つの典型的な実施の形態に係る装具500を示す図14を参照する。より具体的に、装具500は、ハット、キャップ、又は、人間の頭部に設置する設計のその他の装具である。例示として、頭部502を、頭部502の皮膚表面504に対してハット500が設置された状態として示す。頭部502の内部においてその皮膚表面504の下に形成された頭蓋内腫瘍等510を示す。したがって、ハット500は、腫瘍510等を有する人間の頭部502に設置するものとして意図される。
【0094】
皮膚表面上に設置され、又はその下の身体内部に埋め込まれることで絶縁電極230がおおよそ平面状に配置される図1〜13に示した多様な実施の形態と異なり、本実施の形態の絶縁電極230は、特定の用途専用に形成され配置される。頭蓋内腫瘍又はその他の損傷等を治療するには、比較的に長期の、たとえば数日ないし数週間の治療が必要であることが通常であり、したがって患者には可能な限りの快適性を提供することが望ましい。ハット500は、治療の有効性を損ねることなく長期の治療過程に亘って快適性を提供するために専用的に設計される。
【0095】
1つの典型的な実施の形態によると、ハット500は、好ましくは腫瘍510の位置に最適なTC電界を生成するべく位置付けられる所定数の絶縁電極230を含む。TC電界の力線を、520において大まかに示す。図14において理解されるように、腫瘍510はこれらの力線520の内部に位置する。以下においてより詳細に記載するように、絶縁電極230は、その一部または面が頭部502の皮膚表面504に接触自在となるようハット500内に位置付けられる。換言すると、患者がハット500を着用したとき、絶縁電極230は、自身が生成するTC電界が腫瘍510に集中し、周辺領域が低密度のままに維持されるように選択された位置において頭部502の皮膚表面504に接触するよう設置される。通常、絶縁電極230と皮膚表面504との接触をより良好にするべく選択領域において頭部502上の毛髪を剃るが、これは重要ではない。
【0096】
好ましくは、ハット500は、絶縁電極230に力を加えて皮膚表面502に押圧されるようにする機構530を含む。たとえば、機構530は、絶縁電極230に付勢力を加えて絶縁電極230がハット500から離れて外側へと方向付けられるようにする付勢タイプのものであってよい。したがって、患者がハット500を頭部502に置いたとき、絶縁電極230は機構530によって皮膚表面504に押圧される。機構530は、絶縁電極230と頭部502との間に快適なフィットを提供するべくわずかに反動するものであってよい。1つの典型的な実施の形態においては、機構530は、ハット500内に配置され、一部が絶縁電極230に連結してそこに力を加える、バネを用いた装置である。
【0097】
上記の実施の形態においてと同様に、絶縁電極230は導体220によって発生器210に連結される。発生器210をハット500そのものの内部に配置してコンパクトで自己充足型の独立したシステムを提供してよく、又は発生器210をハット500の外部に配置し、導体220を開口等を通じてハット500から発生器210へと導き出してもよい。発生器210をハット500の外部に配置する場合、ハット500そのものに近接した位置、ハット500からより離れた位置等を含む任意数の異なる位置に発生器210を位置付けることが可能であることは理解されよう。たとえば、発生器210を、患者が着用する運搬袋等(たとえば、患者の腰部の周囲を延びる袋)の内部に配置してよく、又は患者の体肢もしくは胴の周囲に固定してもよい。また、発生器210を、患者が着用する別の装具に固定又は運搬される保護ケース内に配置してもよい。たとえば、保護ケースをセーター等のポケットに挿入してよい。図14は、発生器210がハット500に直接的に組み込まれる実施の形態を示す。
【0098】
次に、図15、16を参照する。1つの典型的な実施の形態においては、好ましくは、機構530を備える多数の絶縁電極230を、ハット500へと挿入して、導体(不図示)を介して発生器(不図示)に電気的に接続可能な、540において大まかに示す、独立ユニットとして形成する。これらの部材を独立ユニットの形態で提供することにより、患者はユニット540を簡単に挿入でき、及び/又はそれらの洗浄、修理、及び/又は交換が必要なときに、簡単にそれらをハット500から取り外すことができる。
【0099】
本実施の形態においては、ハット500は、ハット500内に形成され、ユニット540を受け取って保持する選択領域550を含むよう構成される。たとえば、及び図15に示すように、各領域550は、ハット500内に形成された開口(ポア)の形態を有する。ユニット540は本体542を有し、機構530と1以上の絶縁電極230とを含む。機構530は、その一部(たとえば、その一端)が各絶縁電極230の面に接触し、機構530によって絶縁電極230の面に付勢力が加えられるようにユニット540内に配置される。ユニット540は、一旦開口550内に受け止められると、粘着性材料の使用又は機械的手段の使用を含む任意数の従来技術の使用により、そこにしっかりと保持されることができる。たとえば、ハット500は、ピボット旋回可能なクリップ部材を含んでよく、ピボット旋回可能なクリップ部材は、開口550が開放される開位置と、ピボット旋回可能なクリップ部材が絶縁電極の部分(たとえば、周縁端)に係合して絶縁電極230を所定位置に保持し支える閉位置との間をピボット旋回する。絶縁電極230を取り外すには、ピボット旋回可能なクリップ部材を開位置へと移動させる。図16に示す実施の形態においては、絶縁電極230は、1つの実施の形態においては、絶縁電極230の周囲を延伸する両面接着性の枠部材である接着要素560によって、開口550内に保持される。換言すると、接着枠560の一面側の保護カバーを除去し、絶縁電極230の露出面の周囲に貼り付けることによって、接着枠560をハット500にしっかり取り付け、接着枠560の他面側を除去して、TC電界が最適化されるように腫瘍が絶縁電極230に対して位置付けられるよう絶縁電極230を頭部502に対して位置付け及び固定するための所望の位置において皮膚表面504に貼り付ける。接着枠560の一面を皮膚表面540に接触させ固定することが、接着枠560が皮膚表面540と面一に設置されるように頭部502を剃ることが望ましいことの理由である。
【0100】
接着枠560は、必要なときにはユニット540を簡単にハット500から取り外すことができ、別のユニット540又は同一のユニット540と交換することができるような態様でユニット540を開口550内にしっかりと取り付けるように設計される。上記したように、ユニット540は、ハット500が着用されたときに絶縁電極230を皮膚表面504に押圧する付勢機構530を含む。ユニット540は、絶縁電極230とは反対の側が、プラスチック等の剛性の材料から形成された支持面として構成されてよく、付勢機構530(たとえば、バネ)は力が加わったときに支持面に圧縮され、バネ530が伸びたときに、バネ530は支持面との接触を保って、その他端において絶縁電極230に付勢力を加える。好ましくは、付勢機構530(たとえば、バネ)は、絶縁電極230に力が加えられて、絶縁電極230が皮膚表面504に対して相補的な外形となって、それら2つが互いに面一に安定するように、皮膚表面504に対応した外形を有する。機構530はバネであってよいが、バネの代わりに使用することが可能な多数のその他の実施の形態が存在する。たとえば、機構530は、気泡ゴム、発砲プラスチック、気泡を含む層、等の弾性材料の形態を有してよい。
【0101】
ユニット540は、ハット500内に配置される導体220等の対応する電気コネクタに繋ぐことが可能な、電気コネクタ570を有する。導体220は、一端においてユニット540に接続し、他端において発生器210に接続される。発生器210をハット500に直接的に組み入れてよく、又は発生器210を患者又はベッド脇の台等の上に離して(遠方に)位置付けてもよい。
【0102】
上に議論したように、絶縁電極230と皮膚表面504との間に有効な伝導性環境が提供されるようにするべく、好ましくは導電性ゲル等の結合剤を使用する。前出の実施の形態の記載において、適切なゲル材料は開示されている。結合剤は絶縁電極230に配置され、好ましくは当該剤の均一層が電極230の表面に沿って設けられる。周期的にユニット540を交換することが必要な理由の1つは、結合剤を交換及び/又は補充する必要があることである。換言すると、所定期間の後、又は何度も使用した後、結合剤を再び電極230に塗布できるようにするべく、患者はユニット540を取り外す。
【0103】
図17、18は、絶縁電極230が一部として組み込まれた別の装具を示す。より具体的には、ブラジャー等700が示され、着用者に輪郭、支え、及び快適性を与える従来のブラジャー材料から形成される、705において大まかに示す本体を含む。また、ブラジャー700は、その一方に布製のサポート層710を含む。サポート層710は、好ましくは、必要とされる所望のサポートをブラジャー700に与える構造の、適切な布製材料から形成される。
【0104】
その他の実施の形態と同様に、ブラジャー700は、ブラジャー材料705の内部に1以上の絶縁電極230が配置される。1以上の絶縁電極は、サポート710とは反対側においてブラジャー700の内面に沿って配置され、1つの乳房の内部、もしくはそのすぐ周辺の領域に位置する腫瘍等に近接して設置されるよう意図される。上記の実施の形態でのように、本実施の形態の絶縁電極230は、乳房もしくはその直近領域での利用専用に構築及び構成される。したがって、本用途において用いられる絶縁電極230は、平面的な表面構造ではなく、典型的な乳房に見受けられる全般的に湾曲した形状に対して相補的な弓形形状を有する。
【0105】
乳房そのものに対して設置されるように絶縁電極を内面に沿った所望の位置に保持するのを支援するべく、ライニング720が絶縁電極230を横切って配置される。ライニング720は、皮膚上に着用するのに快適な、任意数の細い材料から形成されてよく、1つの典型的な実施の形態においては、ライニング720は布製材料から形成される。
【0106】
また、ブラジャー700は、上記の実施の形態のいくつかでのように、好ましくは付勢機構800を含む。付勢機構800は、ブラジャー材料705の内部に配置され、サポート710から絶縁電極230へと伸びて絶縁電極230に付勢力を加え、電極230を乳房に押圧する。これにより、絶縁電極230は、皮膚表面から持ち上がることによって、TC電界の効率を低下させて治療の有効性を低めることにつながる間隙を形成するのでなく、皮膚表面との接触を保ち続けることが保証される。付勢機構800は、バネ構成の形態であってよく、又は所望の付勢力を絶縁電極230に加えて絶縁電極230を乳房へと押圧する弾性材料であってもよい。伸びた位置において付勢機構800は絶縁電極230に力を加え、患者がブラジャー700を身体に設置したとき、絶縁電極230は乳房に押圧され、乳房そのものも付勢力とは逆向きの力を加え、それにより、絶縁電極230が患者の乳房に押圧される。例示の実施の形態においては、付勢機構800はブラジャー材料705の内部に配置されるバネの形態を有する。
【0107】
電極とライニング720との間において、絶縁電極230上に導電性ゲル810を設けることができる。導電性ゲル層810は、上記の機能を果たすものとして本明細書において以前に記載した材料から形成される。
【0108】
絶縁電極230の一部として電気コネクタ820が設けられ、電気コネクタ820はその一端において導体220に電気的に接続し、導体220の他端は発生器210に電気的に接続される。本実施の形態においては、導体220はブラジャー材料705の内部を通ってブラジャー700に開口が形成されている位置へと至る。導体220はこの開口から延伸し、本実施の形態においてはブラジャー700から離れた位置に配置される発生器210へと導かれる。別の実施の形態においては、発生器210をブラジャー700そのものの内部に配置してよいことは理解されよう。たとえば、ブラジャー700の内部には、患者がブラジャー700を着用したときに発生器210を受け止めて所定位置に保持するよう構成されるコンパートメントを形成することができる。この構成においては、コンパートメントを、そこへの発生器210の挿入、又はそこからの発生器210の取り外しを可能にするべく開閉可能な取り外し式ストラップによって覆うことができる。ストラップを、ブラジャー700を形成するのに用いるのと同じ材料から形成することができ、又はその他の種類の材料から形成することもできる。フック及びループ材料等の締結手段によってストラップを周囲のブラジャー本体へと取り外し可能に取り付けることができ、これによって患者はフック及びループ要素を分離することによって容易にコンパートメントを開き、発生器210を挿入又は取り外すべくコンパートメントへとアクセスすることができる。
【0109】
発生器210も導体220への電気的接続のためのコネクタ211を有しており、これにより発生器210を絶縁電極230へと電気的に接続することが可能となる。
【0110】
他の実施の形態と同様に、絶縁電極230は、電界(TC電界)を所望の標的(たとえば、腫瘍)に集中させるようにブラジャー700の内部に配置される。ブラジャー700の内部での絶縁電極230の位置は、腫瘍の位置によって異なることは理解されよう。換言すると、腫瘍が発見された後において、医師は絶縁電極230の配置を考案し、標的領域(腫瘍)に対するTC電界の効果を最大化するべく当該配置に基づいてブラジャー700を構築する。したがって、絶縁電極230の個数及び位置は、腫瘍又はその他の治療される標的領域の正確な位置に依存する。絶縁電極230のブラジャー700上での位置は正確な用途によって変わり得るので、絶縁電極230の正確な大きさ及び形状も同じく変わり得る。たとえば、絶縁電極230をブラジャー700の中心位置に近い方の位置に設置する場合と底部に設置する場合を比較すると、これらの領域では乳房(ブラジャーも同様に)の形状が異なるので、絶縁電極230は異なる形状を有するであろう。
【0111】
図19は、絶縁電極230が、尿道、膣等の自然経路を通って身体に進入するよう構成されたプローブ又はカテーテル600の形態で組み込まれる内部電極の形態を有する、さらに別の実施の形態を示す。本実施の形態においては、絶縁電極230は、プローブ600の外面に、その長さに沿って配置される。導体220は、電極230に電気的に接続され、プローブ600の本体内部を通り、プローブ本体内部に配置可能な、又は患者もしくは患者に近い別の位置等の遠方位置においてプローブ600とは独立に配置可能な発生器210へと至る。
【0112】
または、プローブ600を、皮膚表面又はその他の組織を貫通して身体内部に存在する内部標的に至らしめるよう構成することができる。たとえば、プローブ600を、皮膚表面を貫通させて、身体内部に位置する腫瘍に隣接もしくは近接して位置付けることができる。
【0113】
これらの実施の形態においては、プローブ600を自然経路を通じて挿入し、絶縁電極230が標的領域(つまり、腫瘍)の付近に配置されるように所望の位置に位置付ける。次に、発生器210を作動させて絶縁電極230にTC電界を生成させ、TC電界は腫瘍に所定時間印加される。実際は、図示のプローブ600は単に模範を示すだけであり、プローブ600は意図した機能を果たり得る限りその他の形状及び構成を有してよいことは理解されよう。好ましくは、絶縁電極導体230から発生器210へとつながる導体(たとえば、ワイヤ)は、軸に沿って電界を生成しないように撚られ、又はシールドされている。
【0114】
さらに、プローブは絶縁電極を1つだけ含み、その他を身体の表面に位置付けることができることも理解されよう。この外部電極は、非治療領域に影響しないよう力線−電流密度が低くなるように、より大きく、又は多数の電極から、構成されるべきである。実際、電極の設置は、潜在的に感度が高い領域において電界が最小限に抑えられるように設計されるべきである。任意に、外部電極を真空力(たとえば、吸引)によって皮膚表面に保持してよい。
【0115】
図20は、甲状腺、副甲状腺、喉頭等の病変の治療において、高い立ち襟部材900(又は、ネックレス型構造)を使用することが可能な、さらに別の実施の形態を示す。図20は、巻き付けられていない、実質的に平坦な状態の襟部材900を示す。本実施の形態においては、絶縁電極230は、襟部材900の本体910へと組み込まれ、着用者の首領域に対して設置されるよう構成される。絶縁電極230は、本明細書において上記したいずれかの方法によって発生器210に繋がれる。発生器210を、本体910の内部に配置することができ、又は本体910の外部の位置に配置することができることは理解されよう。襟本体910を、人間の首の周囲に配置される襟900を形成するのに従来使用される任意数の材料によって形成することができる。したがって、襟900は、好ましくは、襟900を首に対して調節する手段920を含む。たとえば、相補的な締結具(フック及びループ締結具、ボタン等)を襟900の端部に配置して、襟直径の調節を可能にすることができる。
【0116】
したがって、本発明の装置の構造は、装置を装具に組み込み、患者が従来の装具を容易に着用して同時に治療を受けることを可能にする用途に特に良好に適合する。換言すると、装置の構成要素のいくつか又はすべてを装具に組み込むことによって、特上の快適性を患者に提供することができ、治療の有効性を高めることができる。構成要素を組み込むのにぴったりの装具は、腫瘍、損傷等が存在する生体組織の標的領域によって明らかに異なる。たとえば、標的領域が男性患者の睾丸領域に存在するなら、靴下状構造又は覆いの形態の装具を提供することができ、TC電界が標的組織に向けられるように絶縁電極が腫瘍に対して位置付けられるよう、患者の睾丸領域の周囲に着用されるべく構成する。装置の構成要素は、ほとんどの種類の装具に組み込むことができ、したがって、疾患が存在し得る患者の身体の任意数の異なる領域を治療するのに用いることができるので、装具の的確な特性又は形状は大きく変化し得る。
【0117】
次に、本発明の装置の別の態様を示す図21、22を参照する。図21において、人間又は動物の身体の任意数の部位等である身体1000が示される。上記の実施の形態でのように、TC電界を用いて腫瘍等(不図示)を治療するべく2以上の絶縁電極230が身体1000に近接して配置されるが、これは他の実施の形態についての上記の議論において既に極めて詳細に記載した通りである。絶縁電極230は導電性の構成要素を有し、その導電性の構成要素を囲む外部絶縁体260を有する。好ましくは、各絶縁電極230はリード220によって発生器(不図示)に接続される。各絶縁電極220と身体1000との間には、導電性充填材料(たとえば、導電性ゲル部材270)が配置される。絶縁電極230は互いに離間されており、発生器が作動したとき、絶縁電極230は既に極めて詳細に記載したTC電界を生成する。電界(TC電界)の力線は、1010において大まかに示される。図示のように、電界力線1010は、絶縁電極230間及び導電性ゲル部材270を通って延びる。
【0118】
経時的に、又は何らかの事象の結果、絶縁電極230の外部絶縁体260は、そのいずれかの位置において絶縁破壊し始める可能性がある。例示目的のみにおいて、図22は、絶縁電極230のうちの1つの外部絶縁体260が、導電性ゲル部材270に隣接する面において絶縁破壊1020を被った様子を示す。外部絶縁体260の絶縁破壊1020によって、その地点(つまり、絶縁破壊1020)において強い電流の流れ−電流密度が形成されることは理解されよう。増大した電流密度は、本数が増えた電界力線1010及び隣接し合う電界力線1010間の相対的位置付け及び距離によって示される。絶縁破壊1020の発生の副作用の1つは、その地点において、熱を発生し、抵抗を有する組織/皮膚を火傷させ得る電流が存在することである。図22においては、過熱領域1030が示され、これは外部絶縁体260における絶縁破壊1020によって増大した電流密度が出て行く組織/皮膚の領域である。患者は、領域に存在する強い電流、上昇した熱、及び領域1030に存在し得る灼熱感のために、この領域1030において不快及び痛覚を感じ得る。
【0119】
図23は、絶縁電極230のさらなる用途を示すさらに別の実施の形態を示す。本実施の形態においては、絶縁電極230と身体1000との間に配置される導電性ゲル部材270が、部材270を形成するゲル材料によって完全に取り囲まれているという意味において浮遊する導体1100を有する。1つの典型的な実施の形態においては、導体1100は、導体1100の内部に配置される薄型の金属シートプレートである。理解されるであろうように、プレート1100等の導体が、均一な電界に、電界の力線に対して法線となるように設置される場合、導体1100は電界に対して実質的に何らの影響も与えない(導体1100の対向する2つの面が等電位であり、対応する等電位がわずかにシフトしている場合は除く)。反対に、導体1100が電界に平行に配置される場合、電界が著しく歪む。導体1100が存在しない状況とは対照的に、導体1100の直近領域は等電位でない。導体がゲル部材270の内部に配置される場合、上記の理由、つまり導体が電界の力線に対して法線であるために、導体1100は通常、電界(TC電界)に影響しない。
【0120】
絶縁電極230の外部絶縁体260の絶縁破壊が発生した場合、上に議論したように絶縁破壊地点においては強い電流の流れ−電流密度が存在する。しかし、導体1100が存在することにより、電流は導体1100の全体に拡散して導体1100の全面から出て行き、電流は電流密度が高くも低くもない状態で身体1000に到達する。したがって、絶縁電極230の絶縁体260に絶縁破壊が生じた場合であっても、皮膚に到達した電流によって患者が不快感を感じることはない。導体1100を接地することによって導体を越境する電界が無効化されるため導体1100を接地しないことは重要である。したがって、導体1100は、ゲル部材270の内部で「浮遊」している。
【0121】
導体1100が身体組織1000に導入され、電界に平行に配置されない場合、導体1100によって電界の歪みが生じる。歪みによって力線の拡散(低い電界密度−強度)、又は電界の力線の集中(より高い密度)が、挿入物及びその周辺の特定的配置に応じて生じ得るので、導体1100は、たとえば遮蔽効果を発揮し得る。したがって、たとえば、導体1100によって器官1101が完全に取り囲まれる場合、この種の配置はファラデーケージとなるので、器官そのものの内部の電界はゼロとなる。しかし、完全に器官の周囲を取り囲むよう導体を配置するのは実際的ではないので、器官を完全に又は部分的に覆う導電性ネットもしくは同様の構造を用いることによって器官そのものの内部の電界をゼロ又はほぼゼロにすることができる。たとえば、ネットを形成するべく互いに対して相対的に配置される多数の導電性ワイヤからネットを形成することができ、又は器官1101を実質的に取り囲むよう、そうでなければ覆うように1組のワイヤを配置することができる。反対に、治療すべき器官1103(標的器官)は、ファラデーケージ効果を有する部材によって覆われず、電界1010(TC電界)の中に配置される。
【0122】
図24は、導体1100が身体の内部(つまり、皮膚の下)に配置され、標的(たとえば、標的器官)の付近に位置付けられる実施の形態を示す。導体1100を標的の付近に設置することによって、標的において(TC電界の)高電界密度が実現される。同時に、上記の保護的導電性ネット等を近隣の別の器官の周囲に配置することにより当該近隣の器官を保護することができ、当該器官は電界から保護される。導体1100を標的に近接して位置付けることにより、標的の付近又は標的において高電界密度条件を提供することができる。換言すると、導体1100によって、TC電界を特定領域(つまり、標的)に集中させることが可能になる。
【0123】
図24の実施の形態においては、各ゲル部材260は、図23を参照して記載した導体を含むことができることも理解されよう。このような構成においては、ゲル部材260の内部の導体によって、絶縁電極230の絶縁体に絶縁破壊が生じたときに起こり得るなんらかの副作用から皮膚表面(組織)が保護される。同時に、導体1100によって、標的付近に高電界密度が形成される。
【0124】
電極の構造を異ならせることにより、及び/又は電極を互いに対して戦略的に配置することにより、電界の電界密度を調整する多数の異なる方法が存在する。たとえば、図25においては、第1の絶縁電極1200及び第2の絶縁電極1210が設けられ、身体1300の周囲に配置される。各絶縁電極は、絶縁材料によって好ましくは取り囲まれる導体を含み、したがって「絶縁電極」という用語が用いられる。第1及び第2の電極1200、1210のそれぞれと身体1300との間には、導電性ゲル部材270が設けられる。この種の配置における電界力線を、1220において大まかに示す。本実施の形態においては、第1の絶縁電極1200は、第2の絶縁電極1210の寸法よりも著しく大きい寸法を有する(第2の絶縁電極1210の導電性ゲル部材も同様に小さい)。
【0125】
絶縁電極の寸法を違えることによって、電界力線1220のパターンが多様化される。より具体的には、電界は、第2の絶縁電極1210の寸法が小さいために、第2の絶縁電極1210に向けて内部へと先細りする。1230において大まかに示す高電界密度領域が、第2の絶縁電極1210に付随するゲル部材270と皮膚表面との間の界面付近に形成される。システムの多様な構成要素は、皮膚の内部、又は皮膚の上部の腫瘍がこの高電界密度内に入り、治療される領域(標的)がより高い電界密度の電界力線へと暴露されるように操作される。
【0126】
図26も、導体1400(たとえば、導電性プレート)が各導電性ゲル部材270に配置されたときの先細りするTC電界を示す。本実施の形態においては、絶縁電極1200、1210の大きさに差異があっても、ゲル部材270の大きさと導体1400の大きさとが同じ、又はほぼ同じである。ここでも、各導体1400はゲル部材270を形成する材料によって取り囲まれているため、導体1400を「浮遊プレート」として特徴付けることができる。図26に示すように、導体1400を、他方の絶縁電極1200より小さく、導体1400そのものよりも小さい絶縁電極1210の付近に設置し、他方の絶縁電極1200をそこから距離を置いて配置することで、当該一方の導体1400は、当該一方の導体1400と他方の絶縁電極1200との間に配置される組織の電界密度を減少させる。電界密度の減少を1410において大まかに示す。同時に、1420において大まかに示す、非常に低い密度から非常に高い密度へと変化する極度に不均一な先細りの電界が、当該一方の導体1400と絶縁電極1210との間に形成される。この典型的構成の一つの利点は、付近の電界密度を増大させることなく、絶縁電極の大きさを減少させることができることである。非常に高い誘電率の絶縁体を有する電極は非常に高額となり得るので、これは重要となり得る。たとえば、500ドル以上も掛かる絶縁電極もあり、さらに価格は特定の治療領域に対して反応し易い。したがって、絶縁電極の大きさの減少は、コストの低減に直接的につながる。
【0127】
本明細書において用いる用語「腫瘍」は、抑制不能に成長する形質転換細胞を含む悪性組織を指す。腫瘍は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫等、及び固形腫瘍を含む。本発明に従って治療可能な固形腫瘍の例には、たとえば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮性癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、等の、しかしこれらに限定されない非上皮性悪性腫瘍及び上皮性悪性腫瘍が含まれる。これら各腫瘍は急速に成長するので、いずれも本発明に従って治療することができる。本発明は、外科手術及び放射線療法では治療が困難で、化学療法又は遺伝子治療ではしばしば到達不能な脳腫瘍の治療に特に有利である。さらに、本発明は、本発明により提供される局所治療の容易性のために、皮膚及び乳房の腫瘍の治療での利用に適している。
【0128】
さらに、本発明は、非悪性もしくは前悪性の疾患、及び不適切な細胞もしくは組織の成長を含むその他の疾患に付随する抑制不能な成長を、本発明に係る電界を不適切に成長する組織に印加することにより制御することができる。たとえば、本発明は、特に頭蓋内領域での動静脈(AV)奇形の治療に有用であると考えられる。本発明は、炎症及び血管増殖により特徴付けられる皮膚病変である乾癬、及び炎症及び潜在的に血管増殖が付随する病変である前立腺肥大症の治療にも用いられ得る。その他の過剰増殖性疾患の治療も考えられる。
【0129】
さらに、本発明に係る電界を印加することによって、創傷治癒に伴う、外科手術又は傷害後に瘢痕及びケロイドの形成につながる、線維芽細胞及び内皮細胞の望ましくない増殖、及び血管形成術もしくは冠動脈ステントの設置後の再狭窄を阻止することができる。本発明の非侵襲的特性のために、本発明はこの種に病変に特に望ましく、特に、内部瘢痕及び癒着の発達の防止、もしくは冠動脈、頸動脈、及びその他の重要な動脈の再狭窄の阻止に特に望ましい。
【0130】
既に検出された腫瘍の治療に加え、上記の実施の形態を、腫瘍がそもそも検出可能な大きさに到達するのを防止するべく予防的に用いてもよい。たとえば、図17、18に関連して上記したブラジャーとしての実施の形態を、1週間に亘り毎日8時間のセッション時間女性に着用させてよく、この1週間の治療コースを数カ月に1回繰り返し、癌性となって増殖し始めた細胞があれば死滅させる。この使用法は、特定の種類の癌に関して高いリスクにある人々(たとえば、強い乳癌の家族歴を有する女性、又は癌の発作を乗り越え再発のリスクを有する人々)に特に適切である。標的とされる癌の種類に基づいて、及び/又は、患者の利便性に適うように、予防的治療のコースを調整してよい。たとえば、治療週間に16時間のセッションを4回受けることは、8時間のセッションを7回よりは患者によっては便利で、同様に効果的であるかもしれない。
【0131】
[実施例2]
昆虫の腸内での非病原性寄生生物であって、リーシュマニア等のその他の病原性トリパノソーマ科のモデル生物としてよく用いられるCrithidia fusciculataにも実験を行った。C.fusciculata細胞は、世代時間が比較的短く(2時間)、限定培地で増殖させ易い。
【0132】
図32Aは、実験で使用した電極1610の構造を示す。各電極は、長さが15mmで、高さが5mmである。それは、各電極の容量が約10nFとなるよう高い誘電率(ε>5000)を有するマグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛(PMN−PT)セラミック絶縁体層1612に外面をコーティングされた導体1611を含む。導体1611の背面は、353ND医療グレードエポキシ(Epoxy Technology社、ビレリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)の5mm層1614を用いて絶縁され、ワイヤ1613が導体1611に接続される。もちろん、意図する用途によって電極の寸法を変更することは適切である。
【0133】
図32Bは、対を成して配置され、50mmのペトリ皿1626の内部に位置決めされた4つの電極1610を含むテストチャンバを示す。電極は、ポリカーボネートホルダー1624によって所定位置に保持されていた。一方の対の対向する電極間にAC電圧を印加し、次に他方の対の対向する電極間にAC電圧を印加することにより交互の順序でテストチャンバ内に電界を生成し、培地内で互いに対して90度に配向する電界を生成した。電極は23mm離間して設置された。電極1610の表面のセラミック絶縁体1614によって電極は、ペトリ皿内の培地から完全に絶縁され、電界は層1614を介して標的領域へと容量結合される。
【0134】
図32Cは、テストチャンバ1620内に電界を誘導するのに使用された設備を示す。正弦波発生器1632(モデル662、OR−X社、イスラエル)の出力はRF増幅器1634(75A250、AR worldwide社、サウダートン、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国)へと導かれ、RF増幅器1634の出力は電界方向切り替えリレイ1636へと導かれ、電界方向切り替えリレイ1636は増幅された正弦波を上下の電極間、もしくは左右の電極間にかける。切り替えリレイは、これら二つの状態間を周期的に切り替え、それにより電界の方向を所望の間隔で切り替えるよう構成される。
【0135】
絶縁されたT型熱電対(Omega社、スタンフォード、コネチカット州)を用い、その先端をチャンバ1620の中心に置くことにより、温度を連続的に測定した。熱電対は、TC−08熱電対データロガー(Pico Technologies社、イギリス)に接続され、熱電対データロガーの出力はコンピュータ1630に接続されていた。
【0136】
電界には熱産生が付随するので、電力増幅器の入力における波形の振幅をコンピュータによりフィードバック制御することにより、チャンバの温度を所望の値に保持した。2つの露出した先端が1cmの距離をおいて固定されるシールドされた同軸プローブを用いて培地の電界強度を測定した。プローブは、同軸ケーブルを介して190Bフローティングスコープメーター(Fluke社、オランダ)に接続された。各処置の終わりに、2つの測定点が電界の力線に平行となるようにプローブを培地に浸漬することによって電界強度を測定した。電界強度は、1センチメートルの距離当たりのピーク・トゥ・ピーク電圧(V/cm)として表される。
【0137】
以下に記載する実験においては、C.fusciculata寄生生物を、0.0025%(w/v)のヘミン(Sigma社)と、0.8%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン(03−031−1、Biological industries社、Beit Haemek、イスラエル)とを含有するBHI培地で増殖させた。未使用の寄生生物の培養液を、3mlの液体培地の中において、28°Cで、15時間、オービタルシェーカー(200RPM)で培養し、595nmにおいて所定の吸光度となるよう(Biowave Cell Density Meter、WPA社、イギリス)未使用のBHI培養液で希釈した。これにより、所望の1ml当たりのコロニー形成単位が形成された。
【0138】
軟寒天培地において寄生生物に異なる周波数で電界を印加することにより周波数依存度実験を行った。寄生生物の一夜培養物を、1ml当たり1×108個のコロニー形成単位(CFU)の細胞数に対応するODとなるまで、未使用のBHI培養液で希釈した。培養物を、寄生生物を添加する前に42°Cの温浴槽にて溶解及び保持された寒天(Difco社)を0.34%含有するBHIにおける終末濃度が1×107個のCFUとなるようにさらに希釈した。増殖インジケータであるアラマーブルー(AbD Serotec社、オックスフォード、イギリス)を添加して終末濃度を10%とした。培養物を撹拌し、電界チャンバを含むペトリ皿(図32B参照)に7mlを直ちに注いだ。寒天が固化した後、寒天の上に10%のアラマーブルーを含有する1mlの未植菌のBHIを置いた。10°Cに予冷した定温器(FOC225I、Velp Scientifica社)の中に皿を置いた。実験した各周波数において、電界を6時間印加し、図32A〜Cに関連して上記した設備を用いて電界の方向を300ミリ秒毎に切り替えた。実験の過程で電界強度を2〜10V/cmの間で変化させて所望の温度を維持した。
【0139】
対照群では、同様のチャンバに電界を印加することなく皿を置き、温度を処置群と同じに維持する設定の予温した温度制御定温器の中にチャンバを置いた。処置群と対照群の両方において、チャンバの温度は実験の最初の15分以内に28.0±0.2°Cに達した。処置の終わりに、皿をマイクロプレートリーダー(Infinite200、Tecan社、オーストリア)の中に置き、電極間の寒天のODを550および595nmで測定した。以下の式を用いて細胞増殖量を算出した。つまり、(処置ウェルのOD595nm−処置ウェルのOD550nm)−(処置前ウェルのOD595nm−処置前ウェルのOD550nm)である。各ウェルの増殖率を、実験ウェルのアラマーブルー結果を対照のそれで割ることによって算出した。アラマーブルー分析の結果を、顕微鏡を用いた直接的計測によって測定された寄生生物数と相関させた。
【0140】
C.fusciculataの増殖に対する電界の効果の周波数依存度を100kHz〜20MHz間で実験した。設備の制約のために、より高い電界周波数では実験しなかった。アラマーブルー分析に基づく結果を図33に示し、%で表記する。これらの結果は、有効性が最大となるのは10MHzにおいてであることを示す。
【0141】
液体培養液中の寄生生物に異なる周波数で電界を印加することによって強度依存度実験を行った。寄生生物の一夜培養物を、1ml当たり1×107個のコロニー形成単位(CFU)の細胞数に対応するODとなるまで、未使用のBHI培養液で希釈した。増殖インジケータであるアラマーブルー(AbD Serotec社、オックスフォード、イギリス)を、10%の終末濃度となるよう添加した。電界チャンバを含むペトリ皿(図32B参照)を、7.5mlの希釈培養物で充填し、10°Cに予冷した定温器(FOC225I、Velp Scientifica社)の中に置いた。実験皿及び対照皿から採取した2つの250μlアリコートを、96マイクロウェルプレート(NunclonTMΔ、Nunc社、デンマーク)へと分注し、ODをマイクロプレートリーダー(Infinite200、Tecan社、オーストリア)を用い、550及び595nmで分光光度法により測定した。実験した各強度において、電界を17時間印加し、図32A〜Cに関連して上記した設備を用いて電界の方向を300ミリ秒毎に切り替えた。電界強度が高いほどより多くの熱エネルギーが試料に加えられるので、試料温度を所望のレベルに維持するべく環境温度を変化させた。
【0142】
対照群では、同様のチャンバに電界を印加することなく皿を置き、温度を処置群と同じに維持する設定の予温した温度制御定温器の中にチャンバを置いた。処置群と対照群の両方において、電界チャンバの温度は実験の最初の5分以内に28.0±0.2°Cに達した。処置の終わりに、皿の底部をセルスクレイパーでこすり取り、培養物を上下のピペット操作で数回撹拌した。4つの250μlアリコートを、96マイクロウェルプレート(Nunc社)へと分注し、ODをマイクロプレートリーダーを用い、750nmで分光光度法により測定した。未植菌のBHIからなるブランクの光学濃度(ODs)を、植菌された皿のODsから差し引いた。各ウェルの増殖率を、ウェルのODを対照群のそれによって割ることによって算出した。つまり、(処置ウェルのOD750nm/対照ウェルのOD750nm)×100である。アラマーブルー分析については、上記のとおりに増殖率を算出した。
【0143】
アラマーブルー分析に基づく結果を図34に示し、%で表記する。これらの結果は、増殖阻害は電界強度に依存し、約2V/cmの強度を有する10MHzの電界の場合は、50%を少し超えたところまで阻害されたところでプラトーに達することを示す。0.1MHzの周波数を印加した場合に同様の阻害が達成されたが、ずっと高い電界強度(9〜10V/cm)を要した。図34における最左データ点の単位元からのずれは、ゼロ電界ではない非常に低い電界(0.01V)が印加された事実に起因する。
【0144】
インビボの用途の場合、電界の印加は、それのみで、又は抗寄生生物治療薬と組み合わせて、行うことができる。人間や動物内での、又は生体外での、寄生生物を阻害するための電界の実際的利用は、(a)電極を所望の領域の付近(たとえば、リーシュマニア症によって生じた創傷の周囲)に設置することにより画定された局所的位置に電界を印加すること、(b)電極を器官の周囲に局所的に設置することにより器官に電界を印加すること(たとえば、腹部及び背中の皮膚上に電極を設置することによる腸内寄生生物の治療)、(c)身体内部に電極を埋め込むことにより電界を印加すること、(d)透析中に身体外で住血寄生生物に電界を印加すること、(e)寄生生物の増殖/複製場所に電界を印加すること、及び(f)標的生命体を含有する貯水池に電界を印加すること、を含むがこれらに限定されない様々な方法で実施することができる。その他の潜在的利用法には、寄生生物の発生を防止するべく、たとえば貯水池又はコンテナの中に電極を設置し、水に電界を印加することによって、食物又は水に電界を印加することが含まれる。
【0145】
身体内部の標的領域の位置に依存して、電極を患者の身体上に設置、又は患者の身体内部に埋め込んでよい。寄生生物に対して有効であることが発見されたメガヘルツ範囲の周波数は真核細胞には実質的に何らの影響を与えないため、選択性は優れており、不都合な副作用は主要な関心事とはならないことに注意されたい。任意に、その他の実施の形態に関連して上記したように、存在し得る1種類以上の寄生生物を標的するべく、異なる周波数を同時に又は順次に標的領域に印加してよい。図27A〜C及び28に関連して上記したように、電界を、2以上の異なる方向に印加してもよい。本明細書において記載した方法を、インビトロで、たとえば、食物、培地、細胞培養物等における寄生生物に対処するべく、用いてもよい。
【0146】
したがって、本発明により、腫瘍細胞、バクテリア、もしくは寄生生物等の分裂細胞及び非分裂細胞もしくは生命体の両方の種類を含有する生体組織に用いても、非分裂細胞もしくは生命体には実質的に影響を与えず、分裂細胞の増殖を選択的に破壊又は阻害する効果的で簡易な方法が提供される。
【0147】
好適な実施の形態を参照することにより発明を詳細に示し記載したが、発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に関して多様な変更を行うことが可能であることは当業者には理解されよう。
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年8月14日に提出された米国仮出願第60/955,719号の利益を主張し、当該出願の全体を本明細書において参照として援用する。
【0002】
本発明は、局部的な領域で急速に分裂する細胞の選択的破壊に関し、特に、インビトロで、又は生きた患者の体内領域へ、特定の特徴を有する電界を印加することにより、近隣の非標的細胞を破壊することなく標的細胞を選択的に破壊することに関する。
【背景技術】
【0003】
真核寄生生物は、マラリア、アフリカ睡眠病、ランブル鞭毛虫症、リーシュマニア症等、多くの病気の病原体であり、世界各地で何百万人もの人々が死亡する原因となっている。寄生生物は、何百万頭もの家畜にも感染する。あいにく、薬剤耐性及び低治療指数によって、既存の治療法の有効性は制限されている。
【0004】
細胞培養物、微生物(たとえば、バクテリア、マイコプラズマ、酵母、原虫、及びその他の単細胞生命体)、菌類、藻類、植物細胞等、あらゆる生命体は、細胞分裂により増殖する。生命体の分裂細胞を破壊することや、それらの増殖を制御することは、これら生命体の分裂細胞の特定の薬剤に対する感度に基づく方法により可能である。たとえば、特定の抗生物質によって、バクテリアの増殖過程は停止する。
【0005】
真核細胞の分裂過程は有糸分裂と呼ばれ、細かく、区別が明確な段階を含む(Darnell他著、Molecular Cell Biology、ニューヨーク:Scientific American Books、1986年刊、149頁参照)。分裂間期において細胞は染色体DNAを複製し、染色体DNAは前期の初期において凝縮し始める。このとき、中心小体(各細胞に2個含まれる)が細胞の反対極へとそれぞれ移動し始める。前期の中期においては、各染色体は2本の染色分体によって構成される。各中心小体に隣接した、それらの極に近い領域から微小管紡錘体が放射状に現れる。前期の後期までに中心小体は極へ到達し、いくつかの紡錘糸が細胞の中心へと伸び、他の紡錘糸が極から染色分体へと伸びる。その後、細胞は中期へと移行し、染色体は細胞の赤道に向けて移動し赤道面に並ぶ。その次は後期の初期であり、この期間では、赤道において娘染色分体が反対極におけるセントロメアへと紡錘糸に沿って移動することにより互いから分離する。細胞は極の軸に沿って伸長し始め、極から極へとまたがる紡錘体も伸長する。後期の後期は、娘染色体(この段階での呼称)が、反対極のうちの各々の方へ到達するときに生じる。このとき、細胞の赤道で分裂溝が形成されるのにしたがって細胞質分裂が開始する。換言すると、後期の後期は、細胞膜の引き絞り(pinching)が始まる時点である。終期においては、細胞質分裂はほぼ完了し、紡錘体は消失する。比較的狭小な膜連結部によってのみ、2つの細胞質が連結されている。最終的に膜は完全に分離し、細胞質分裂は完了して、細胞は間期へと戻る。
【0006】
減数分裂では、細胞は、姉妹染色体が紡錘糸に沿って細胞の反対極へと分離すること、並びにその後の分裂溝形成及び細胞分裂を含む第二分裂を経る。しかし、この分裂に先立っては染色体の複製は生じず、半数の胚細胞が産生される。バクテリアも、染色体複製とその後の細胞分離によって分裂する。しかし、娘染色体が膜成分へと付着することにより分離するので、真核細胞に存在するような、細胞分裂に貢献する可視の器官が存在しない。
【0007】
腫瘍、特に悪性又は癌性の腫瘍が、正常な組織に比較して抑制不能に成長することは周知である。このように急速な成長によって、腫瘍が占拠する領域が増え続け、隣接する組織が損傷又は破壊される。さらに、ある種の癌は、単細胞又は小細胞集合を含む癌性の「種子」を新たな場所へと伝染(転移)させる能力によって特徴付けられ、新たな場所では、転移性の癌細胞はさらなる腫瘍へと成長する。
【0008】
上記のような、一般的には腫瘍の、特定的には悪性腫瘍の、急速な成長は、これらの細胞の細胞分裂もしくは増殖が、正常な組織細胞に比較して頻繁であることの結果である。癌細胞の識別可能なほど頻繁な細胞分裂は、たとえば放射線療法や各種化学療法剤の使用等の既存の癌療法の有効性の基礎である。これらの療法は、分裂過程にある細胞が非分裂細胞よりも、放射線や化学療法剤に対する感度が高いという事実に基づいている。腫瘍細胞は正常細胞よりもずっと頻繁に分裂するので、放射線療法及び/又は化学療法で腫瘍細胞を選択的に損傷もしくは破壊することはある程度までは可能である。放射線、治療剤等に対する細胞の実際の感度は、正常又は悪性の細胞型の異なる種類ごとの特異な特性にも依存する。したがって、あいにく、腫瘍細胞の感度は、多種の正常な組織のそれよりも十分に高くない。これは、腫瘍細胞と正常細胞との識別能力を弱め、したがって既存の癌療法によって正常細胞が大きく損傷することは典型的であり、これら療法の治療法としての有効性は制限される。さらに、その他の組織が不可避的に損傷するので、治療法は患者にとって大きな外傷を残すものであり、患者は一見成功した治療法から回復することがしばしば不可能である。また、ある種の腫瘍は、既存の治療法に対して全く感度を有さない。
【0009】
放射線療法又は化学療法のみに依存しない細胞を破壊するその他の方法も存在する。たとえば、従来の療法に加えて、又はそれらに代えて、腫瘍細胞を破壊するための超音波及び電気による療法を利用することが可能である。何年にも亘り、電界及び電流が医療目的で利用されてきている。最も一般的なものは、電位差を維持した1対の導電性電極によって電界を印加することにより人体又は動物体の内部で電流を生成することである。これらの電流は、特有の効果をもたらすべく、つまり興奮組織を刺激するべく、又は身体は抵抗として作用するので身体内部を流れることによって熱を生成するべく用いられる。1番目の種類の用法の例は、以下を含む。細動除去器、末梢神経及び筋の刺激装置、脳刺激装置、等である。電流は、加熱目的で、たとえば、腫瘍焼灼、不具合の心臓又は脳の組織のアブレーション、焼灼、筋リウマチ痛及びその他の痛みの緩和等のための装置において用いられる。
【0010】
医療目的でのその他の電界利用法には、関心対象(つまり、標的)の身体部分に向けられた、たとえばRF波又はマイクロ波源等の電波の放出ソースから伝達される高周波振動電界の利用が含まれる。これらの例においては、ソースと身体との間には電気エネルギーの導通がなく、むしろエネルギーは放射又は誘導によって身体へと伝達される。具体的には、ソースが発する電気エネルギーは、導体を介して身体の近辺に到達し、そこから空気又はその他の何らかの電気絶縁材料を介して人体へと伝達される。
【0011】
従来の電気的方法においては、患者の身体に接触するよう設置された電極を用いて、電流が標的組織の領域へと伝搬される。供給された電流によって、標的組織の近辺における実質的にすべての細胞が破壊される。したがって、この種の電気的方法においては、標的組織内の種類の異なる細胞間の選別がなされず、腫瘍細胞及び正常細胞の両方が破壊されることとなる。
【0012】
したがって、医療用途で利用可能な電界は、大まかに2つの異なる態様に分けることが可能である。第1の態様では、導電性電極によって電界が身体もしくは組織へと印加される。これらの電界は、2種類に分類することが可能である。つまり、(1)定常電界もしくは比較的遅い速度で変化する電界、及び対応する電流を身体もしくは組織内に誘導する低周波交流電界、並びに(2)導電性電極によって身体へ印加される高周波交流電界(1MHz超)、である。第2の態様では、電界は、絶縁電極によって身体へと印加される高周波交流電界である。
【0013】
第1の種類の電界は、たとえば神経及び筋の刺激、心臓のペーシング等に用いられる。実際、これらの電界は、神経及び筋の繊維、中央神経系(CNS)、心臓等において信号を伝播するべく自然に用いられている。このような自然電界の記録は、ECG、EEG、EMG、ERG等の基礎である。これらの用途における電界強度は、均質な電気的特性の媒質(medium)を想定すると、単純に、刺激/記録電極に印加される電圧を電極間の距離で割ったものである。これらの電流は、オームの法則によって算出することが可能であり、危険な刺激作用を心臓及びCNSに及ぼして有害となり得るイオン濃度変化をもたらす可能性がある。また、電流が十分に強ければ、組織内で過熱状態を生じる可能性もある。この加熱は、組織内で消散した電力(電圧と電流の積)によって算出することが可能である。
【0014】
このような電界及び電流が交番する場合、神経、筋等に対するそれらの刺激力は周波数の逆関数である。1〜10KHz超の周波数では、電界の刺激力はゼロに近い。この制約は、電気的刺激によって誘発される興奮には膜電位変化が通常介在し、その変化率が膜のRC特性(時定数が約1ms)によって制限されるという事実に因る。
【0015】
周波数とは無関係に、このような電流を誘導する電界を印加する場合、電流によって引き起こされる有害な副作用が想起される。たとえば、負の効果の1つは、システム内の各「コンパートメント」でのイオン濃度の変化、及び電極において又は組織が埋まっている媒質において生じる電気分解による有害な生成物である。イオン濃度の変化は、器官によってイオン濃度差が維持される2以上のコンパートメントをシステムが含む限り生じる。たとえば、大半の組織にとって、細胞外液の[Ca++]は約2×10−3モル濃度であるが、典型的な細胞の細胞質では当該濃度は、10−7モル濃度もの低さである場合もある。1対の電極によってこのようなシステムの内部に誘導された電流は部分的に細胞外液から細胞内へと流れ、再び細胞外媒質へと流れ出る。細胞内へと流れる電流の約2%がCa++イオンによって運ばれる。対照的に、細胞内Ca++の濃度はずっと低く、細胞から出る電流のうちこれらのイオンにより運ばれるのは無視できるフラクションでしかない。したがって、Ca++イオンは細胞内で蓄積して細胞内での濃度が上昇するが、細胞外コンパートメントでの濃度は低下し得る。これらの作用はDC及び交流(AC)の両方について観察される。イオンの蓄積率は、電流強度、イオン移動度、膜のイオン伝導度等に依存する。[Ca++]の上昇は大半の細胞にとって有害であり、十分に高くなった場合は細胞の破壊につながる。他のイオンについても同様の懸念がある。上記の観察を考慮すると、生きた生命体又は組織に長期に電流を印加することによって大きな損傷が生じ得る。このような電界に関連付けられるもう1つの大きな問題は、電極表面で生じる電解過程に起因するものである。ここでは、金属(電子)と電解液(イオン)との間で電荷が移動することにより、帯電した活性ラジカルが形成される。これらによって有機分子、特に高分子に大きな損傷が生じ、生体細胞及び組織が損傷する可能性がある。
【0016】
対照的に、1MHz超の、実際はたいていGHzの範囲にある高周波電界が絶縁電極によって組織内に誘導される場合は、状況が全く異なる。この種の電界は、容量性電流もしくは変位電流しか生成せず、従来の電荷伝導電流を生成しない。この種の電界が作用している下では、生体組織は、ほぼその伝導特性でなくその誘電特性にしたがって挙動する。したがって、電界による主要な効果は、誘電損失及び加熱によるものである。したがって、実際に、生きた生命体に対するこのような電界の有意義な効果は、その加熱効果、つまり誘電損失によるものだけであることは広く認められている。
【0017】
Manganoに付与された米国特許第6,043,066(‘066)号において、導電性の内核を有し、誘電体膜によって囲まれた別個の物体を、電界による誘電体膜の不可逆的な絶縁破壊を通じて選択的に不活性化することができる方法及び装置が提示されている。これの用途として可能性があるのは、懸濁液において特定の生体細胞を選択及び除去することにおいてである。‘066号特許によると、選択細胞を標的として電界を印加し、それら腫瘍細胞の誘電体膜の絶縁破壊を引き起こすが、主張するところによると細胞のその他の所望の下位個体群には悪影響を及ぼさない。細胞は、特有のエレクトロポレーション閾値における本来的な又は誘発した差異に基づいて選択される。この閾値における差異は、細胞の大きさの差異を含む多くのパラメータに依存し得る。
【0018】
したがって、‘066号特許の方法は、細胞の大きさの差異及び細胞膜の誘電特性の差異のために腫瘍細胞のエレクトロポレーション閾値が正常細胞のそれから十分に識別可能であるという想定に基づいている。この想定に基づくと、サイズの大きい部類の多くの種類の腫瘍細胞は、その大きさのためにエレクトロポレーションを一層受け易くなり、したがって、適切な電界を印加することによって大きい部類の腫瘍細胞膜のみを選択的に損傷することは可能であるかもしれない。この方法の不利点の1つは、識別能力が細胞型に大きく依存していることであり、たとえば正常細胞と腫瘍細胞との間の大きさの差異が大きいのは、特定の細胞型においてのみである。この方法の別の欠点は、大きさ及び膜誘電特性における差異は多くは統計に基づくものであり、実際の細胞の形状及び誘電特性には大きなばらつきが存在し得るために、印加された電圧が正常細胞の一部を損傷し、腫瘍細胞のすべては損傷しない可能性があることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
当該技術分野において求められており、いまだに利用可能となっていないものは、分裂細胞を破壊する装置であって、単細胞生命体を含む分裂細胞と、非分裂細胞とをより良く識別し、非分裂細胞もしくは生命体に実質的に影響を与えることなく分裂細胞もしくは生命体を選択的に破壊することが可能な装置である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
分裂している間、細胞は特定の周波数及び電界強度特性を有するAC電界による損傷に脆弱である。したがって、急速に分裂する細胞の選択的破壊は、AC電界を標的領域に長時間かけることによって達成することができる。電界が印加されている間に分裂する細胞のいくつかが損傷され、分裂しない細胞は損傷されない。これにより、腫瘍細胞等の急速に分裂する細胞が選択的に損傷され、分裂していない正常細胞は損傷されない。分裂細胞の脆弱性は分裂細胞の長軸と電界の力線との整列具合に強く関連するので、電界を異なる方向に順次的にかけることによって向上した結果が得られる。
【0021】
本発明の装置の主要な用途は、正常な組織細胞には実質的に影響を与えることなく腫瘍細胞を選択的に破壊することによる腫瘍の治療にあり、したがって以下においては腫瘍細胞の選択的破壊という文脈において典型的装置を記載する。しかし、以下の記載の目的においては、用語「細胞」は、通常は「細胞」とは分類されない、単細胞生命体(真正細菌、バクテリア、酵母、原虫)、多細胞生命体(菌類、藻類、カビ)、及び植物又はそれらの一部をも指すことを理解されたい。典型的装置によって、分裂している細胞を、既存の方法よりも効果的かつ正確に(たとえば、特定の標的に照準するのにより適合的に)選択破壊することが可能になる。さらに、本発明の装置によっては、正常細胞の損傷は生じるにしても最小限に抑えられるので、放射線療法、化学療法等の既存の選択的破壊法に付随する多くの副作用が低減又は除去される。本発明の装置を用いた分裂細胞の選択的破壊は、化学薬品又は放射線への細胞の感度に依存しない。代わりに、分裂細胞の選択的破壊は、治療される細胞型の細胞形状とは無関係に、非分裂細胞に比較して識別可能な、分裂中の細胞の形状的特性に基づいている。
【0022】
1つの典型的な実施の形態によると、生体組織の細胞形状依存的選択破壊は、電子装置を用いて細胞内に不均一な電界を誘導することにより実行される。
【0023】
非分裂状態にある細胞は、異なる細胞であれば、異なる形状、たとえば球状、楕円状、円筒状、パンケーキ状等を有している可能性のある一方で、実質的にすべての細胞の分裂過程が後期の後期、及び終期における「分裂溝」の発達により特徴付けられることを本願発明者は観察した。この分裂溝は、細胞膜の(2組の娘染色体間における)進みの遅い収縮であり、顕微鏡的に見ると、細胞を2つの新たな細胞へと徐々に分離させる成長する裂け目(たとえば、溝又は切り込み)として現れる。分裂過程には、細胞構造が、おおむね、細胞物質から形成される狭小な「ブリッジ」によって相互に連結される2つのサブ細胞の構造をしている過渡期(終期)が存在する。分裂過程は、2つのサブ細胞間の「ブリッジ」が破れたときに完了する。本発明の電子装置を用いた腫瘍細胞の選択的破壊においては、この分裂細胞の独特の形状的特性が利用される。
【0024】
細胞もしくは細胞群が自然な条件もしくは環境、つまり生体組織の一部にある場合、それらは、電解性の組織間液と、電解性の細胞内液からほぼ構成されるその他の細胞と、からほぼ構成される伝導性環境に取り囲まれて配置される。生体組織内に電界を誘導する場合、組織に電位を印加することにより電界が組織内に形成され、電荷変位の方向、もしくは生体内に実際に電流が誘導された場合の組織内での電流経路は、電界力線の特定的分布及び構成によって決まる。電界の分布及び構成は、組織の多様なパラメータに依存しており、それらには、異なる組織成分ごとの形状及び電気的特性、並びに組織成分間の相対的な(周波数によって変化し得る)伝導率、容量、及び誘電率が含まれる。
【0025】
分裂過程にある細胞における電流の流れのパターンは、非分裂細胞に比較すると非常に異なり特異的である。このような細胞は、第1及び第2の細胞、つまり、細胞質「ブリッジ」又は「ネック」によって連結される「元の」細胞及び新たに形成される細胞を含む。電流は、膜の一部(「電流ソース極」)を通じて第1のサブ細胞内を通るが、反対極(「電流シンク極」)側のその膜の一部を通って第1のサブ細胞を出ることはない。代わりに、電流の流れの線はネック又は細胞質ブリッジにおいて収束し、電流の流れの線の密度が著しく増大する。第2のサブ細胞において対応する「鏡像」過程が生じ、電流の流れの線は、ブリッジから離れるに従いより低い密度配置へと発散し、最終的には電流シンクに近いその膜の一部から第2のサブ細胞を出る。
【0026】
分極性の物体が不均一な収束又は発散電界に置かれたとき、電気力がそれに作用し、それを高密度電界力線の方へと引き寄せる。分裂細胞の場合、電気力は2つの細胞間の細胞質ブリッジへ向かう方向に働く。すべての細胞間小器官(intercellular organelles)及び高分子は分極性であるので、それらはすべて2つの細胞間のブリッジの方向へと推進される。電界の極性は力の方向とは無関係であり、したがって特定の特性を有する交流電気を用いて実質的に同じ効果をもたらすことができる。ブリッジもしくはネック部そのものに又はその付近に存在する集中した不均一な電界は、電荷及び自然の双極子(natural dipoles)に強い力を発揮し、これらの要素に関連する構造体を分解させ得ることは理解されよう。
【0027】
ブリッジへと向かう細胞器官の運動によって細胞構造が分解し、連結部のブリッジ膜近辺の圧力が増大する。ブリッジ膜に対するこれら器官の圧力によりブリッジ膜が破れることが予想され、したがってこの圧力に反応して分裂細胞が「爆発」することが予想される。膜を破れさせ、その他の細胞構造体を分解させる能力を強めることは、約50KHz〜約500KHzの周波数を有する振動交流電界を印加することによって可能である。この種の電界が組織に印加されると、細胞間小器官(intercellular organelles)に作用する力によって「ハンマリング」効果(“hammering” effect)が生じ、力のパルス(もしくはビート)が1秒当たりに何回も小器官に印加され、両方のサブ細胞からブリッジ(もしくはネック)部へと向かう、大きさ及び質量が多様な小器官の運動が強められ、細胞膜がブリッジ部で破れる可能性が高められる。細胞内小器官(intracellular organelles)に作用する力は、小器官そのものにも影響を与え、小器官を崩壊もしくは分解させ得る。
【0028】
1つの典型的な実施の形態によると、電界を印加するための装置は、所望の電気信号を波形もしくはパルス列の形態で生成する電子装置である。電子装置は、約50KHz〜500KHzの範囲の周波数で交流電圧波形を発生する発生器を含む。発生器は導電性のリードに動作可能に接続され、それらは発生された波形により作動する絶縁導体/電極(アイソレクト(isolects)とも呼ぶ)に他端において接続される。絶縁電極は、伝導性の組織に接触した誘電体(絶縁層)に接触する導体から構成され、これによりコンデンサを形成する。本発明の装置により生成された電界を、治療用途に依存して数種類の異なる態様で印加することができる。
【0029】
1つの典型的な実施の形態によると、印加される電界が、組織の特定の局限領域(たとえば、腫瘍)を標的する局所性のものとなるよう構築される、装具に組み込まれた外部絶縁電極によって電界が印加される。この実施の形態は、絶縁電極により生成される電界が腫瘍(病変等)に向けられるように標的組織上に装具を着用させることによって、皮膚表面に又はその下に存在する腫瘍及び病変を治療するよう設計される。
【0030】
別の実施の形態によると、装置は、絶縁電極が、たとえば尿道、膣等の自然経路を通って身体に進入し、又は絶縁電極が内部の標的領域(たとえば、内部の腫瘍)の付近に位置付けられるまで生体組織を通り抜けるよう構成されたプローブ又はカテーテル等の形態をとる内部型用途において用いられる。
【0031】
したがって、本発明の装置は、本発明の電界が重大な刺激作用及び熱的効果を及ぼさない生物学的効果的(bio−effective)な電界であるという点において、周波数が高いか低いかである従来の用途と比較して、特殊な中間的分類に分けられる電界を使用する。有利なことに、非分裂細胞がこれらの電界に暴露されたとき、細胞には何らの影響も与えられない。しかし、分裂細胞が本発明の電界に暴露されたときは状況がまったく異なる。したがって、本発明の電子装置及び生成された電界は、腫瘍等の分裂細胞を標的し、標的領域を取り囲む健常組織に見受けられる非分裂細胞を標的しない。さらに、本発明の装置は絶縁電極を使用するので、導電性電極を使用したときに生じる上記の負の効果、つまり細胞内でのイオン濃度変化及び電気分解による有害物質の形成は本発明の装置では生じない。これは、概して、電極と媒質との間で電荷の実際の移動が生じず、電流が容量性である媒質において電荷の流れが生じないからである。
【0032】
本発明の電子装置を、生体内での腫瘍の治療以外の用途でも利用することが可能であることは理解されるべきである。実際、本発明の装置を使用した選択的破壊を、たとえば、組織培養物や、バクテリア、マイコプラズマ、原虫、菌類、藻類、植物細胞等の微生物等の、分裂によって増殖するいかなる生命体に関連して用いてもよい。このような生命体は、上記したような溝もしくは裂け目の形成によって分裂する。溝あるいは裂け目が深まるにつれ、分裂する動物細胞のサブ細胞間に形成されるブリッジと同様、生命体の2つの部分間に狭小なブリッジが形成される。このような生命体は、上記した動物細胞の膜と同様に比較的低い伝導性を有する膜によって覆われているので、分裂する生命体における電界力線は、分裂する生命体の2つの部分を連結するブリッジにおいて収束する。収束する力線によって、分裂する生命体の内部の分極性要素及び電荷を変位させる電気力が生じる。
【0033】
上記、並びに本発明の装置のその他の目的、特徴、及び利点は、添付の図面と併せて読まれる以下の記載から明らかになるであろう。添付の図面においては、同様の参照番号により同一の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1B】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1C】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1D】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図1E】細胞分裂過程の多様な段階の簡易概略断面図である。
【図2A】電界に暴露される非分裂細胞の概略図である。
【図2B】電界に暴露される非分裂細胞の概略図である。
【図3A】1つの典型的な実施の形態に係る電界に暴露され、1つの典型的な実施の形態に従って細胞が破壊(図3C)されることとなる分裂細胞の概略図である。
【図3B】1つの典型的な実施の形態に係る電界に暴露され、1つの典型的な実施の形態に従って細胞が破壊(図3C)されることとなる分裂細胞の概略図である。
【図3C】1つの典型的な実施の形態に係る電界に暴露され、1つの典型的な実施の形態に従って細胞が破壊(図3C)されることとなる分裂細胞の概略図である。
【図4】電界に暴露される1つの段階における分裂細胞の概略図である。
【図5】選択的に細胞を破壊する1つの実施の形態に係る、電気を印加するための装置の概略ブロック図である。
【図6】図5の装置の絶縁電極の等価電気回路の簡易概略図である。
【図7】図5の装置を組み込み、腫瘍等の治療のために皮膚表面に設置される皮膚パッチの断面図である。
【図8】腫瘍等の治療のために身体内部に埋め込まれる絶縁電極の断面図である。
【図9】腫瘍等の治療のために身体内部に埋め込まれる絶縁電極の断面図である。
【図10】図5の装置の絶縁電極の多様な構造の断面図である。
【図11】身体内部の腫瘍含有物、たとえば肺癌に付随する腫瘍の治療のために人間の胴の周囲に配置される2つの絶縁電極の部分断面正面図である。
【図12】構造の一部として形成される保護部材がある場合及びない場合の多様な絶縁電極の断面図である。
【図13】電界を所望の標的に集中させ、その他の領域を低電界密度(つまり、保護領域)にとどめるように配置される絶縁電極の概略図である。
【図14】第1の実施の形態に係るハットに組み込まれ、頭蓋内腫瘍等を治療するべく頭部に設置される絶縁電極の断面図である。
【図15】典型的な実施の形態に係る、1以上の絶縁電極を受け止める凹部を有するハットの部分図である。
【図16】頭部に設置された図15のハットの断面図であり、絶縁電極が頭部と接触を保ち続けるよう絶縁電極に力を加える付勢機構を示す。
【図17】腫瘍等の治療のために絶縁電極が内部に組み込まれた装具の上面断面図である。
【図18】図17の装具の部分断面図であり、治療が望まれる皮膚表面に近接して絶縁電極が設置される方向に絶縁電極を付勢する付勢機構を示す。
【図19】腫瘍等の治療のために身体の内部に配置される、1つの実施の形態に係るプローブの断面図である。
【図20】首の周囲に巻き付けられたときに当該領域における腫瘍等を治療するべく首の周囲に設置される、1つの典型的な実施の形態に係る、巻き付けられていない状態の襟の正面図である。
【図21】身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する2つの絶縁電極の断面図であり、電界の力線が示される。
【図22】1つの絶縁電極での絶縁破壊点を示す、図21の配置の断面図である。
【図23】腫瘍等の治療のために身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する少なくとも2つの絶縁電極の配置の断面図であり、各導電性ゲル部材は絶縁電極での絶縁破壊効果を最小限に抑える特性を有する。
【図24】腫瘍等の治療のために身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する少なくとも2つの絶縁電極の別の配置の断面図であり、身体内部の腫瘍の付近に電界密度が増大した領域を形成するように導電部材が配置される。
【図25】身体に対して配置される、大きさの異なる2つの絶縁電極の配置の断面図である。
【図26】腫瘍等の治療のために身体の周囲に配置される、導電性ゲル部材を有する少なくとも2つの絶縁電極の配置の断面図であり、各導電性ゲル部材は絶縁電極での絶縁破壊効果を最小限に抑える特性を有する。
【図27A】異なる方向への電界の印加を容易にする電極の構成を示す。
【図27B】異なる方向への電界の印加を容易にする電極の構成を示す。
【図27C】異なる方向への電界の印加を容易にする電極の構成を示す。
【図28】異なる方向への電界の印加を容易にする、身体部位周囲での電極の三次元配置を示す。
【図29A】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊過程の効率性を電界強度の関数として示すグラフである。
【図29B】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊過程の効率性を電界強度の関数として示すグラフである。
【図30A】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊効率がどの程度、印加電界の周波数の関数であるかを示すグラフである。
【図30B】それぞれメラノーマ及びグリオーマ細胞について、細胞破壊効率がどの程度、印加電界の周波数の関数であるかを示すグラフである。
【図31A】複数の方向への複数の周波数の順次的印加のグラフ表示である。
【図31B】複数の方向への走査周波数の順次的印加のグラフ表示である。
【図32A】寄生生物に対する実験に用いられた電極の構造を示す。
【図32B】寄生生物に対する実験に用いられたテストチャンバを示す。
【図32C】テストチャンバに電界を誘導するのに用いられた設備を示す。
【図33】異なる周波数で電界により寄生生物を処置する効果を示す。
【図34】異なる電界強度で電界により寄生生物を処置する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
細胞分裂過程の様々な段階を概略的に示す図1A〜1Eを参照されたい。図1Aは、正常形状にある細胞10を示す。正常形状は、当該技術分野で知られているように、一般的には球状(図示のように)、楕円状、円筒状、パンケーキ状、又はその他のいずれの細胞形状であってよい。図1B〜1Dは、図1Eに示すように2つの新たな細胞18、20が形成されることとなる分裂過程における異なる段階にある細胞10を示す。
【0036】
図1B〜1Dに示すように、細胞10の分裂過程は、徐々に細胞10を2つの部分、つまり、最終的に新しい細胞18、20(図1E)へと進化するサブ細胞14、16へと分離させる成長の遅い裂け目12によって特徴付けられる。図1Dに具体的に示すように、分裂過程は、細胞10の構造が、おおむね、細胞物質(細胞膜に囲まれた細胞質)を含有する狭小な「ブリッジ」22によって相互に連結される2つのサブ細胞14、16の構造をしている期間である過渡期によって特徴づけられる。
【0037】
それぞれ比較的低い周波数及び比較的高い周波数で交流電位を印加することによって生成された電界に暴露される非分裂細胞10を概略的に示す図2A、2Bを参照されたい。細胞10は、細胞内小器官、たとえば核30を含む。交流電位は、電極28、32間に印加される。電極28、32は、患者の外部の所定領域、たとえば、治療される腫瘍の近辺に取り付けられてよい。細胞10が自然条件下、つまり生体組織の一部にあるとき、それは、大部分は電解性の組織間液からなる伝導性環境(以下、「容積導体」と呼ぶ)に置かれている。電位が電極28、32間に印加されると、結果として生じる電界の力線(もしくは電界によって組織に誘導された電流)の一部が細胞10を通り抜け、残りの力線(もしくは誘導電流)は周囲の媒質を流れる。電界力線の特有の分布は、本例では電流の流れの方向に実質的に一致するが、システム要素の形状及び電気的特性、たとえばシステム要素の、周波数によって変化し得る相対的伝導率及び誘電率に依存する。たとえば10KHz未満の周波数等の低周波数においては、要素の伝導特性によって電流の流れ及び電界の分布が完全に支配され、電界の分布はおおむね図2Aに示すもののようになる。たとえば10KHz〜1MHzの周波数等のより高い周波数においては、要素の誘電特性が影響を増し、最終的に電界の分布を支配するようになり、おおむね図2Bに示すような電界分布力線が得られる。
【0038】
一定(つまり、DC)電界、もしくはたとえば10KHz未満の周波数等の比較的低周波の交流電界においては、多様な要素の誘電特性は、電界分布の決定及び算出に影響を与えない。したがって、第1の近似として、電界分布に関しては、システムをその多様な要素の相対インピーダンスによって十分に表現することができる。この近似を用いると、細胞間(つまり、細胞外)液及び細胞内液は比較的低いインピーダンスを有し、細胞膜11は比較的高いインピーダンスを有することとなる。したがって、低周波条件下では、電界力線(もしくは電界に誘導された電流)のわずかなフラクションのみが細胞10の膜11を通り抜ける。対照的に、比較的高い周波数(たとえば、10KHz〜1MHz)では、細胞間及び細胞内の液に対する膜11のインピーダンスが低下し、したがって、細胞を通り抜ける電流のフラクションは大幅に増加する。非常に高い周波数、つまり1MHz超では、膜容量によって膜抵抗が短絡され得るので、総膜抵抗は無視できるものとなり得ることに注意されたい。
【0039】
上記のいずれの実施の形態においても、電界力線(もしくは誘導電流)は電流を生成する電極のうちの一方に最近接、たとえば正電極28(本明細書では「ソース」とも呼ぶ)に最近接する膜11の一部から細胞10を通り抜ける。細胞10を通過する電流の流れのパターンが全体的に均一であるのは、上記の近似においては、細胞内に誘導された電界が実質的に均一であるからである。電流は、反対の電極、たとえば負電極32(本明細書では「シンク」とも呼ぶ)に最近接する膜11の一部から細胞10を出る。
【0040】
力線と電流の流れとの区別は、数多くの要素に、たとえば印加電位の周波数、及び電極28、32が電気的に絶縁されているか否かに依存し得る。DCもしくは低周波交流の電圧を印加する絶縁電極の場合、電界力線に沿った電流の流れは実質的に存在しない。より高い周波数においては、電極絶縁体及び細胞膜(ある程度までコンデンサとして作用する)の充放電によって変位電流が組織内に誘導され、そのような電流は電界力線をたどる。対照的に、非絶縁電極によって生成された電界は、何らかの形態の電流の流れを必ず生成する。具体的には、DCもしくは低周波交流の電界は電界力線に沿った伝導電流の流れを生成し、高周波交流電界は電界力線に沿った伝導電流及び変位電流の両方を生成する。しかし、本発明に係る分極性の細胞内小器官の運動(以下に記載)は、電流の実際の流れには依存しておらず、したがって、絶縁電極及び非絶縁電極の両方を効率的に使用することが可能であることは理解されたい。絶縁電極の利点としては、消費電力が低下すること、治療領域があまり加熱されないこと、及び患者の安全性が向上することがある。
【0041】
本発明の1つの典型的な実施の形態によると、用いられる電界は、約50KHz〜約500KHz、好ましくは約100KHz〜約300KHzの範囲の周波数を有する交流電界である。議論を容易にするべく、以下においては、この種の電界を「腫瘍治療電界(Tumor Curing electric fields)」の略として「TC電界」とも呼ぶ。なぜなら、これらの電界は、生物学的効果的(bio−effective)な電界特性を有する一方、重大な刺激作用及び熱的効果は有さない中間的分類(高周波及び低周波の範囲の間の)に存在するからである。これらの周波数は、システムの挙動がシステムのオーミックな(伝導性の)特性によって決まる程度に十分低く、しかし興奮組織に刺激作用を与えない程度に十分高い。このシステムは、2種類の要素、つまり、細胞間もしくは細胞外の液又は媒質、及び個々の細胞、から構成される。組織間液はほぼ約40〜100Ω・cmの抵抗率を有する電解質である。上記したように、細胞は3つの要素、すなわち(1)細胞を覆う薄くて電気抵抗が高い膜、(2)多数の高分子と、核を含む極小細胞小器官とを含有する電解質からほぼなる内部の細胞質、及び(3)電気的特性が細胞膜に似た、極小細胞小器官を覆う膜、によって特徴付けられる。
【0042】
この種のシステムが本発明のTC電界(たとえば、100KHz〜300KHzの周波数範囲に存在する交流電界)に暴露されると、電界力線及び電流のほとんどは、細胞膜が高抵抗であるために細胞から逸れ、したがって、力線は細胞外の伝導性媒質にとどまる。上記した周波数範囲においては、細胞を通り抜ける電界もしくは電流の実際のフラクションは、周波数に強く依存する関数である。
【0043】
図2は、システムに結果として生じた電界の分布を概略的に示す。図示のように、力線は、細胞容積を通過する潜在的な電流の流れの線を、歪みのない力線(電界の主方向)にほぼ平行に描いている。換言すると、細胞内の電界は、ほぼ均一である。実際には、細胞を通り抜ける電界もしくは電流のフラクションは、細胞膜の細胞外液に対するインピーダンス値によって決まる。細胞膜の等価電気回路が、抵抗及びコンデンサの並列回路であるため、インピーダンスは周波数の関数である。周波数が高いほどインピーダンスは低くなり、通り抜ける電流フラクションが大きいほど電界の歪みは小さくなる(Rotshenker S.及びY.Palti、刺激パルスの持続時間の関数としての軸索を通り抜ける電流フラクションの変化、J.Theor.Biol.41、401−407頁(1973年刊)。
【0044】
以前に述べたように、高周波数で交番する比較的弱い電界及び電流、たとえば50KHz〜500KHzの範囲に存在する周波数を有する本発明のTC電界に細胞を暴露すると、非分裂細胞には影響が及ばない。本発明のTC電界はこのようなシステムに対して検出可能な影響を及ぼさないが、分裂細胞が存在する場合は、状況が異なる。
【0045】
1つの典型的な実施の形態に係る約100KHz〜約300KHzの周波数範囲にある交流電界(TC電界)の影響下にある分裂中の細胞10での電流の流れのパターンを概略的に示す図3A〜3Cを参照されたい。力線又は誘導電流は、電極28に近い方のサブ細胞16の膜の一部から細胞10を通り抜ける。しかし、それらは、サブ細胞16を、新たに形成され、いまだ付着しているサブ細胞14に連結する細胞質ブリッジ22を通っては、又はブリッジ22の近辺の膜の一部を通っては出て行かない。代わりに、サブ細胞16内では比較的広く離れている電界力線もしくは電流の流れの線は、ブリッジ22(「ネック」22とも呼ぶ)に近づくにつれ収束し、したがってネック22内での電流の線/電界力線の密度は劇的に増大する。サブ細胞14内では「鏡像」過程が生じ、ブリッジ22内の収束力線は、サブ細胞14の出口領域に近づくにつれ発散する。
【0046】
均一な電界は、電気的に中性の物体、つまり正味電荷が実質的にゼロの物体には力を及ぼさないことを当業者は理解すべきである。そのような物体であっても、分極することは可能である。しかし、図3A〜3Cに示すような不均一な収束電界の下では、電気力が分極した物体に作用し、高密度電界力線の方向へと物体を動かす。ネック又はブリッジ領域そのものに存在する集中した電界は、電荷及び自然の双極子(natural dipole)に強い力を及ぼし、それらに関連する構造体を分解させ得る。交流電界においては、同様の正味の力が、同じくより高強度の電界の方向に向けて電荷に作用することは理解されよう。
【0047】
図3A及び3Bの構成において、分極し帯電した物体の運動の方向は、より高密の電界力線に向かう方向、つまりサブ細胞14、16間の細胞質ブリッジ22に向かう方向である。当該技術分野においては、たとえばサブ細胞14、16の核24、26等の細胞内小器官はすべて分極可能であり、したがって、このような細胞内小器官はブリッジ22の方向へと電気的に推進されることは知られている。運動は、電界極性に拘わらず、必ずより低密度の電流からより高密度の電流へと生じるので、交流電界が核24、26等の細胞小器官に与える力は必ずブリッジ22に向かう方向に作用する。このような力、及び結果として生じる「誘電泳動現象」と呼ばれる細胞内小器官の高分子の運動現象についての包括的説明が、たとえばC.L.Asbury及びG.van den Engh著、Biophys.J.74、1024−1030頁、1998年刊等の文献に広範に記載されている。当該文献の開示内容の全体を本明細書において参照として援用する。
【0048】
細胞小器官24、26のブリッジ22に向けた運動によって、分裂細胞の構造が分解し、多様な細胞構成要素の濃度が変化し、最終的には、ブリッジ膜22に対して収束して行く細胞小器官の圧力によって、図3Cに概略的に示すようにブリッジ22の近辺において細胞膜11が破れる。ブリッジ22において膜11を破れさせる能力、また、そうでなければ細胞の構造及び機構を分解させる能力を強めることは、安定したAC電界でなく振動するAC電界を印加することによって可能である。振動電界を印加した場合、細胞小器官24、26に作用する力によって「ハンマリング」効果(“hammering” effect)が生じ、振動を与えられた力によって細胞内小器官がサブ細胞14、16の両方からネック22に向けて打ち付けられる。したがって、細胞膜11がネック22の近辺で破れる可能性が高められる。
【0049】
分裂細胞内で形成される特有の電界の影響を非常に受け易い非常に重要な要素として、分裂過程で主要な役割を果たす微小管紡錘体がある。図4において、力線100によって大まかに表される外部TC電界(たとえば、約100KHz〜約300KHzの周波数範囲にある交流電界)の影響下にある、図3A及び3Bよりも早い段階にある分裂細胞10を、120にて大まかに示される対応する紡錘体構造とともに示す。線120は、非常に強い双極子モーメントを有することが知られている微小管である。この強い分極によって小管は、その他の極性高分子及び特に細胞内又はその周囲において特有の配向を有する極性高分子と同様に、電界の影響を受け易くなる。それらが有する正電荷は2つの中心小体に位置し、負極のうち2つは分裂細胞の中心に位置し、もう一方の対は、130にて大まかに示される、微小管が細胞膜に付着する箇所に位置する。この構造によって二重双極子がいくつか形成され、したがって、それらは異なる方向の電界にそれぞれ影響される。双極子に対するTC電界の作用はブリッジ(ネック)の形成には依存せず、したがって双極子は、ブリッジ(ネック)が形成される前にTC電界によって影響を受けることは理解されよう。
【0050】
本発明の装置(以下に詳細に記載する)は絶縁電極を使用しているので、導電性電極を使用した場合に生じる上記の負の効果、つまり細胞内でのイオン濃度変化及び電気分解による有害物質の形成は、本発明の装置を用いた場合、生じない。これは、電極と媒質との間において電荷の実際の移動が生じず、電流が容量性である、つまり電流が電荷の回転としてのみ表現される媒質において電荷の流れが生じないからである。
【0051】
次に、図5を参照する。腫瘍細胞を破壊する利点を発見された上記のTC電界は、電子装置200によって生成される。図5は、電子装置200の主な構成要素を示す簡易概略図である。電子装置200は、所望の電気信号(TC信号)を波形もしくはパルス列の形態で生成する。装置200は、発生器210と、一端にて発生器210に取り付けられる1対の導電性リード220とを含む。リード220の反対の端は、電気信号(たとえば、波形)によって作動する絶縁導体230に接続される。絶縁導体230を、以下においてアイソレクト(isolects)230とも呼ぶ。任意に、及び別の典型的な実施の形態によると、装置200は、治療領域が過熱されないようにするべく生成された電界の振幅を制御するために、それぞれ追加される温度センサ240及び制御ボックス250を含む。
【0052】
発生器210は、約50KHz〜約500KHz(好ましくは、約100KHz〜約300KHz)の範囲の周波数の交流電圧波形(つまり、TC電界)を生成する。要求される電圧は、治療すべき組織内での電界強度が約0.1V/cm〜約10V/cmの範囲となるようなものである。この電界を得るべく、アイソレクト230内の2つの導体間の実際の電位差が、以下に記載するように、システム要素の相対インピーダンスによって決定される。
【0053】
制御ボックス250が含まれる場合、それはユーザが予め設定した値に一定となるよう発生器210の出力を制御し、又は制御ボックス250は過熱が生じない最大値に出力を設定し、又は制御ボックス250は温度(温度センサ240に検知される)が予め設定された限度を超えたときに警告等を発する。
【0054】
リード220は、可撓性の金属シールドが施され、好ましくはリード220が生成した電界の広がりを防ぐべく接地された、標準的な孤立導体である。アイソレクト230は、所望の構成、方向、及び強度の電界を標的体積において生成するべく特定の形状及び配置とされ、治療を的中させるためにのみ存在する。
【0055】
装置200の全体及びその各構成要素の仕様は、本発明のTC電界(50KHz〜500KHz)の周波数では、生体はその誘電特性でなくその「オーミック」な特性にしたがって挙動するという事実に大きく影響される。異なる挙動をする装置200内の構成要素は、アイソレクト230の絶縁体のみである(図7〜9参照)。アイソレクト200は、伝導性の組織に接触した誘電体に接触する導体から構成され、これによりコンデンサを形成する。
【0056】
アイソレクト230の構造の詳細は、図6に大まかに示す、組織と接触した状態の簡易な電気回路から理解することが可能な、それらの電気的挙動に基づく。図示の配列において、異なる要素間の電位降下又は電界分布は、それらの相対電気インピーダンスによって決まる。つまり、各要素上の電界のフラクションは、当該要素のインピーダンス値を回路全体のインピーダンスで割ったものによって与えられる。たとえば、要素Aに対する電位降下は、ΔVA=A/(A+B+C+D+E)である。したがって、DCもしくは低周波ACにおいては、電位降下の実質的にすべてがコンデンサ(絶縁体として作用する)にかかる。比較的非常に高い周波数においては、コンデンサは実質的に短絡(a short)であり、したがって電界の実質的に全体が組織内に分布される。中間的な周波数である本発明のTC電界(たとえば、50KHz〜500KHz)の周波数においては、コンデンサの容量のインピーダンスが支配的であり、電界分布を決定する。したがって、組織に対する実効電圧降下(電界強度)を高めるには、コンデンサのインピーダンスを低める(つまり、それらの容量を高める)べきである。これは、コンデンサの「プレート」の実効面積を増やし、誘電体の厚さを減らし、もしくは誘電率の高い誘電体を用いることによって達成可能である。
【0057】
電界分布を最適化するには、アイソレクト230が用いられる用途にしたがって、アイソレクト230を異なる構成にする。本発明の電界(TC電界)を印加する2つの主な方法が存在する。第1に、TC電界を外部アイソレクトによって印加することができ、第2に、TC電界を内部アイソレクトによって印加することができる。
【0058】
外部アイソレクトによって印加される電界(TC電界)は、局所的なものと、広範に分布されるものとになり得る。第1の種類は、たとえば、皮膚腫瘍の治療及び皮膚表面近辺の損傷の治療を含む。図7は、アイソレクト230が皮膚パッチ300に組み込まれる典型的な実施の形態を示す。皮膚パッチ300は、1対以上のアイソレクト230を含む接着性の柔らかいパッチであってよい。パッチ300は、内部絶縁体310(誘電性材料から形成される)と、外部絶縁体260とを含み、皮膚表面301上又は皮膚表面301よりわずかに下に腫瘍303を含む皮膚表面301に貼付される。組織は、305において大まかに示される。内部絶縁体310にかかる電位降下を防いでシステムを支配するには、内部絶縁体310は比較的大きい容量を有していなければならない。これは、表面面積を大きくすることによって得られるが、しかし、これによって電界が大面積(たとえば、腫瘍を治療するのに必要とされるより大きい面積)にわたって広がることとなるので望ましくない。代わりに、内部絶縁体310を非常に薄く形成すること、及び/又は、内部絶縁体310を誘電率の高いものとすること、が可能である。電極(図6において符号A及びEを付されている)間の皮膚抵抗は、皮膚の下の組織(図6において符号Cを付されている)よりも通常著しく高い(1〜10KΩ対0.1〜1KΩ)ため、アイソレクトから越境する電位降下のほとんどはそこで発生する。これらのインピーダンス(Z)に対処するには、内部絶縁体310(図6において符号B、Dを付されている)の特性は、本発明のTC電界(たとえば、50KHz〜500KHz)の周波数において、好ましくは100KΩ未満のインピーダンスを有するようなものであるべきである。たとえば、印加電圧の1%超が組織にかかるようにするべくインピーダンスが約10Kオーム以下であることが望まれる場合、アイソレクトが10mm2の表面面積を有し、周波数が200KHzであるならば、容量は約10−10Fであるべきであり、これは誘電率が2〜3の標準的絶縁体を用いるということであり、また絶縁層310の厚さは約50〜100ミクロンであるべきであるということである。10倍の強度の内部電界は、誘電率が約20〜50の絶縁体によって得られる。
【0059】
高い誘電率を有する絶縁材料を用いることによって電極の容量が高まり、発生器1(図5に示す)によって印加されたAC信号に対する電極のインピーダンスが低下することとなる。図6に示すように、電極A、Eは標的組織Cに直列に接続されているので、このようなインピーダンス低下によって電極での電圧降下が減少し、印加されたAC電圧のより大きい部分が組織Cに現れる。電圧のより大きい部分が組織に現れるため、発生器1によって印加されている電圧は、組織内の任意の電界強度について有利に低められる。
【0060】
治療される組織での所望の電界強度は、好ましくは約0.1V/cm〜約10V/cmであり、より好ましくは約2V/cm〜3V/cmもしくは約1V/cm〜約5V/cmである。電極内で用いられる誘電率が十分に高い場合、電極A、Eのインピーダンスは、皮膚及び組織B、C、Dの直列のコンビネーションと同位の大きさまで低下する。非常に高い誘電率を有するふさわしい材料の一例として、誘電率が約11,000(100kHzで測定)のCaCu3Ti4O12が挙げられる。誘電率がこのように高い場合、約数十ボルトの発生器電圧を用いることで有用な電界を得ることができる。
【0061】
薄い絶縁層は非常に損傷等を受け易いので、絶縁体を二酸化チタン(ルチル)等の非常に誘電率が高い絶縁材料と取り替えてもよく、誘電率は約200の値に達し得る。意図する用途で使用するのにふさわしく、高い誘電率を有する数多くの異なる材料が存在する。たとえば、材料のいくつかとしては、強誘電体結晶であり、光学/焦電/圧電装置において数多くの用途を有するニオブ酸リチウム(LiNbO3)と、強磁性結晶であり、光アイソレーター等の磁気光学装置を実現することができるイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)と、大きい電気光学的効果を有する強磁性結晶であるチタン酸バリウム(BaTiO3)と、誘電体結晶(低温では強誘電性)であり、低温ではマイクロ波損失が非常に低くかつ誘電率を調整可能なタンタル酸カリウム(KTaO3)と、ニオブ酸リチウムと似た特性を有する強誘電体結晶であり、電気光学/焦電/圧電装置において有用であるタンタル酸リチウム(LiTaO3)とが挙げられる。マグネシウムニオブ酸鉛とチタン酸鉛との組み合わせから形成されるセラミック等の高い誘電率を有する絶縁セラミックスを用いてもよい。高い誘電率を有する材料を用いることが望まれる本発明の装置と組み合わせて上記の例示の材料を用いることができることは理解されよう。
【0062】
アイソレクト230の実効容量に影響を与えるもう1つの要因、つまりアイソレクト230と皮膚との間の空気の存在も考慮しなければならない。防ぐことが容易でないこのような存在によって、アイソレクト230の実効容量を著しく低め二酸化チタン(ルチル)等の利点を無効にする要因である誘電率が1.0の絶縁体の層が持ち込まれる。この問題を克服するには、アイソレクト230を身体構造に沿うように成形すること、及び/又は(2)ゲル等の高い伝導性及び高い実効誘電率を有する間挿充填材270(図10Cに示す)を構造に追加すること、が可能である。成形を予め構造に組み入れてもよく(図10A参照)、もしくはシステムを十分に可撓に形成しておいてアイソレクト230の成形を容易になせるようにしてもよい。ゲルを適切な位置に封入することは、図10C及び10C’に示すように、隆起した枠を設けることによって可能である。ゲルをヒドロゲル、ゼラチン、寒天等から形成してよく、伝導性を高めるために塩を溶解させてもよい。図10A〜10C’は、アイソレクト230の多様な典型的構成を示す。ゲルの正確な厚さは、ゲル層が治療中に干からびない十分な厚さであれば重要でない。1つの典型的な実施の形態においては、ゲルの厚さは約0.5mm〜約2mmである。好ましくは、ゲルは伝導性が高く、粘着性を有し、長時間に亘って生体適合性を保持するものである。ふさわしいゲルの1つは、アメリカ合衆国、カリフォルニア州92028−4115、フォールブルック、1667 S.ミッションロード所在のAmGel Technologies社から入手可能なAG603 Hydrogelである。
【0063】
アイソレクト230の所望の特性を達成するには、各アイソレクトの誘電体コーティングを非常に薄くするべきであり、たとえば1〜50ミクロンにするべきである。コーティングが非常に薄いために、アイソレクト230は機械的損傷を受け易く、又は絶縁破壊を被り易い。このような損傷からの所望の保護を与えるべくアイソレクトの構造に保護的機能を追加することによってこの問題を克服することができる。たとえば、表面への接近を防ぐが、アイソレクト230の実効表面面積(つまり、アイソレクト230の容量)にはわずかにしか影響しない比較的緩いネット340によってアイソレクト230を覆ってよい(図12Bに示す断面図)。緩いネット340は、容量に影響を与えず、皮膚等との接触を良好にする。多数の異なる材料から緩いネット340を形成することができるが、1つの典型的な実施の形態においては、ネット340はナイロン、ポリエステル、綿等から形成される。代わりに、非常に薄い導電性コーティング350を、アイソレクト230の誘電部(絶縁層)に施してもよい。1つの模倣的な導電性コーティングは、金属、より特定的には金から形成される。コーティング350の厚さは、特定的用途及びコーティング350を形成するのに用いる材料の種類に依存する。しかし、金を用いる場合、コーティングの厚さは約0.1ミクロン〜約0.1mmである。さらに、図10に示す枠によってもいくらかの機械的保護が与えられる。
【0064】
しかし、容量のみが考慮すべき要因ではない。以下の2つの要因も、アイソレクト230を構築する態様に影響を与える。内部絶縁層310の絶縁耐力、及びそれがTC電界に暴露されたときに生じる誘電損失、つまり生成される熱の量である。内部絶縁体310の絶縁耐力によって、絶縁体が「短絡」され、無傷の絶縁体として作用するのを停止する電界強度が決まる。典型的には、プラスチック等の絶縁体は、1ミクロン当たり約100V以上の絶縁耐力値を有する。誘電率が高いことによって内部絶縁体310内での電界が減少するので、高い誘電率と高い絶縁耐力との組み合わせによって大きな利益が得られる。これは、所望の特性を有する単一の材料を用いることによって得られ、もしくは的確なパラメータ及び厚さを有する二重層によって得られる。また、絶縁層310が機能しなくなる可能性をさらに低下させるには、従来技術を用いて、図10Dに示すように、絶縁層310の尖った端部を全て、角を丸くすることによって除去すべきである。
【0065】
図8及び9は、アイソレクト230を用いた2番目の種類の治療、つまり内部アイソレクト230による電界生成を示す。アイソレクト230が埋め込まれた身体は311において大まかに示され、皮膚表面313と腫瘍315とを含む。本実施の形態においては、アイソレクト230は、皮下に、又は身体311内のさらに深い位置に挿入して標的領域(腫瘍315)において適切な電界を生成することが可能なプレート、ワイヤの形状、もしくはその他の形状を有してよい。
【0066】
アイソレクトの使用態様が上記のものに限定されないことは理解されよう。たとえば、肝臓、肺等の内部器官における腫瘍の場合、1対のアイソレクト230の各部材間の距離は大きくなり得る。図11に示すように、胴410の両側に位置付けることによって対を均等にすることができる。図11のアイソレクト230の配置は、肺癌又は胃腸腫瘍に付随する腫瘍415を治療するのに特に有用である。本実施の形態においては、電界(TC電界)は身体の広い部分に広がる。
【0067】
治療組織の過熱を避けるべく、材料及び電界のパラメータの選択が必要である。アイソレクトの絶縁材料は、治療過程で用いられる周波数範囲における誘電損失が最小限のものであるべきである。この要因を、治療用の特定周波数を選択するときに考慮に入れることができる。組織の直接加熱は、電流の流れ(I*Rの積によって与えられる)による加熱によって支配される可能性が最も高い。さらに、アイソレクト(絶縁電極)230及びその周囲は、熱損失を促す材料から形成されるべきであり、その全体的構造も熱損失を促すもの、つまり、高い熱伝導と同様に周囲(空気)への熱放散を遮断する最小構造であるべきである。より大きい電極を用いることによっても、患者へと移転されるエネルギーがより大きい表面面積にわたって広がるため、加熱による局所的興奮が最小限に抑えられる。好ましくは、患者の皮膚温度が約39℃を超すことがない点まで加熱は最小限に抑えられる。
【0068】
加熱を抑える別の方法は、連続的な電界を用いる代わりに、デューティサイクルが約20%〜約50%の電界を印加することによって、治療される組織に電界を間欠的に印加することである。たとえば、33%のデューティサイクルを達成するには、電界を1秒間繰り返しオンにし、次に2秒間オフにする。予備実験よって、デューティサイクルが33%の電界を用いた治療の有効性は、デューティサイクルが100%の電界の場合とおおよそ同じであることが示された。別の実施の形態においては、電界を1時間オンにし、次に1時間オフにすることによって、50%のデューティサイクルを得ることが可能である。もちろん、1時間当たり1回の割合で切り替えることは、短期加熱を最小限に抑えることにおいては用を成さない。他方で、これによって患者には、歓迎すべき治療からの休息が与えられる。
【0069】
電界を所望の標的に集中させ、その他の感度が高い領域を低電界密度(つまり、保護領域)にとどめるようなアイソレクト230の配置によって治療の有効性を高めることができる。身体上でアイソレクト230を正しい配置に維持することは、アイソレクトを適切な位置に維持する適切な装具の使用を含む任意数の異なる技術を用いることによって可能である。図13はこのような配置を示しており、ここでは符号「P」によって示される領域が保護領域を表す。電界の力線はこの保護領域を通り抜けておらず、そこにおける電界は、標的領域を位置付けて良好に治療することができるアイソレクト230の付近よりもずっと小さい。対照的に、4つの柱の付近の電界強度は非常に高い。
【0070】
以下の実施例は、本発明の装置の典型的利用法及びTC電界の印加を例示するものである。しかし、この実施例は限定的なものでなく、本発明の範囲をいかなる点においても限定しない。
【0071】
[実施例1]
上記の特性(たとえば、50KHz〜500KHzの周波数)を有する電界の、腫瘍細胞を破壊することにおける有効性を実証するべく、電界を印加して悪性のメラノーマ腫瘍を有するマウスを治療した。2対のアイソレクト230を対応する対の悪性メラノーマ上に位置付けた。1対だけを発生器210に接続し、200KHzの交流電界(TC電界)を腫瘍に6日間印加した。治療腫瘍と非治療腫瘍との比較を可能にするべくメラノーマ腫瘍の1つを治療しなかった。6日間の治療の後、着色されたメラノーマ腫瘍はマウスの非治療側においてははっきりと視認可能なままに残ったが、対照的にマウスの治療側においては腫瘍は確認できなかった。皮膚上で視認可能な領域は、アイソレクト230の挿入点を表すマークだけであった。治療側において腫瘍が除去されたという事実を、皮膚を切除し内側の面が露出するよう反転することによってさらに実証した。この手順によって、マウスの治療側において腫瘍が完全ではないにせよ、実質的に除去されたことが示された。治療の成功は、さらに組織病理学検査によっても立証された。
【0072】
したがって、本願発明者は、特定の特性を有する電界は、電子装置での使用に適用された場合、分裂細胞もしくは腫瘍を破壊するべく利用可能であることを発見した。より具体的には、これらの電界は、特殊な中間的分類、つまり重大な刺激作用及び熱的効果をもたらさない生物学的効果的な電界に分類され、したがって、従来の電界を身体に印加することに付随する不利点が克服される。本発明の装置が、TC電界を生体組織に対して回転させる装置をさらに含むことが可能であることも理解されたい。たとえば、及び1つの実施の形態によると、作動させることによって本発明のシステムの多様な構成要素を回転させる機械的装置等の従来装置を用いて、治療される組織に印加される交流電位を組織に対して回転させる。
【0073】
さらに、及び別の実施の形態によると、別々の対の絶縁電極230にTC電界を連続的に印加する。換言すると、信号が定期的間隔で送信され、対を成す絶縁電極230が選択されて、それらの絶縁電極230によって異なる方向のTC電界が生成されるように、発生器210及びその制御システムを配置することが可能である。信号は発生器210から絶縁電極230へと選択された時点に送信されるため、方向が変化するTC電界が、異なる絶縁電極230によって連続的に生成される。この配置は、多数の利点を有し、TC電界の最大効果がそれらが細胞分裂軸に平行となったときに得られるという事実を考慮して提供されるものである。ほとんどの場合において細胞分裂の配向はランダムであり、いずれか任意の電界の影響を受けるのは分裂細胞のごく一部分である。したがって、2以上の配向を有する電界を用いることにより、より多くの分裂細胞が任意のTC電界の影響を受ける可能性が高まるので、有効性が高められる。
【0074】
インビトロの実験によって、電界の力線が有糸分裂中の砂時計形状の細胞の長軸にほぼ平行に配向したときに(図3A〜3Cに示すように)、電界は最大の殺細胞効果を発揮することが示された。1つの実験においては、損傷細胞のうち、その分裂軸が電界に沿って配向していたものの方がずっと高い割合を占めた。つまり、電界に対して0度又はほぼ0度に配向した細胞の56%が損傷し、対して長軸が電界に対して22度より大きく配向した細胞に関しては、細胞の平均15%が損傷した。
【0075】
本願発明者は、異なる方向に電界を順次に印加することによって、分裂細胞を死滅させるのに最も有効な電界配向が分裂細胞のより大きい個体群に対して印加されるようになるため、全体的な殺細胞効果が高められることを確認した。異なる方向に電界を印加する多数の例を以下に記載する。
【0076】
図27A、27B、27Cは、6個の電極E1〜E6の組を示し、異なる対の電極間に発生器1(図1に示す)からAC信号を印加することによって、標的組織1510を通る電界の方向を変化可能にする態様を示す。たとえば、AC信号を電極E1、E4間に印加した場合、力線Fは鉛直になり(図27Aに示すように)、信号を電極E2、E5間、又は電極E3、E6間に印加した場合、力線Fは斜めになる(それぞれ図27B、27Cに示すように)。AC信号をその他の対の電極間に印加することによってさらなる電界方向を得ることができる。たとえば、信号を電極E2、E6間に印加することによってほぼ水平な電界を得ることができる。
【0077】
1つの実施の形態においては、AC信号を、様々な対の電極に順次に印加する。この構成の一例においては、電極E1、E4間に1秒間AC信号を印加し、次に電極E2、E5間に1秒間AC信号を印加し、次に電極E3、E6間に1秒間AC信号印加する。この3部構成のシーケンスを所望の治療時間に亘って繰り返す。細胞破壊の有効性は細胞の配向に強く依存するので、電界を異なる方向間で循環させることによって、細胞破壊を促進する方向に、少なくとも部分的な時間に亘って、電界が配向する可能性が高められる。
【0078】
もちろん、図27A〜27Cに示す6電極構成は、多数の電極の、数多くの可能な配列のうちの1つに過ぎず、3個以上の電極のその他数多くの構成を、同じ原理に基づいて利用することができる。
【0079】
異なる方向に電界を順次印加することは、2次元での実施の形態に限定されない。図28は、異なる組の電極間への信号の順次印加を3次元に拡張可能にする態様を示す。電極A1〜A9による第1のアレイを身体部分1500の周囲に配置し、電極N1〜N9による最後のアレイを、第1のアレイから距離Wだけ離して身体部分1500の周囲に配置する。任意に、電極のさらなるアレイを、第1のアレイと最後のアレイとの間に追加してもよいが、これら追加的アレイは明瞭性を期して図示を省略する(身体部分1500の後面の電極A5〜A9及びB5〜B8を不明瞭にしないために)。
【0080】
図27の実施の形態のように、AC信号を発生器1(図1に示す)から異なる対の電極に印加することにより、標的組織を通る電界の方向を変化させることができる。たとえば、電極A2、A7間にAC信号を印加すると、これら2つの電極間において前方から後方へ向かう方向に電界が生成され、電極A5、A9間にAC信号を印加すると、これら2つの電極間においてほぼ鉛直に電界が生成される。同様に、電極A2、N7間にAC信号を印加すると、身体部分1500を通る1つの方向に斜めの力線が生成され、電極A2、B7間にAC信号を印加すると、身体部分を通る別の方向に斜めの力線が生成される。
【0081】
電極の3次元アレイを使用することによって、同時に多数の対の電極を活性化して所望の方向に電界を誘導することも可能になる。たとえば、電極A2−N2のすべてが発生器の一方の端子に接続され、電極A7−N7のすべてが発生器の他方の端子に接続されるように適切なスイッチングが提供された場合、結果として生じる電界は、幅Wの全体にわたって前方から後方へ向かう方向に延びるシートとなる。前方から後方へ向かう電界を適切な持続時間(たとえば、1秒)持続した後、スイッチングシステム(不図示)を再構成して電極A3−N3を発生器の一方の端子に接続し、電極A8−N8を発生器の他方の端子に接続する。これにより、初期の電界方向に対してZ軸を中心として約40度回転したシート状の電界が生成される。この方向に電界を適切な持続時間(たとえば、1秒)持続した後、次の組の電極を活性化して、電界を次の位置へとさらに40度回転させる。これを電界が初期の位置へと戻るまで続け、初期位置では全てのプロセスを繰り返す。
【0082】
任意に、上記の斜めの電界に対して回転するシート状の電界を追加して(時間的に順次に)、これらの斜めの軸に沿って配向した細胞をより良好に標的するようにしてよい。
【0083】
電界はベクトルであるため、任意に、所望の合成ベクトルを形成するべく電極の複数の組み合わせに対して同時に信号を印加してよい。たとえば、電極A2−N2及びA3−N3のすべてを発生器の一方の端子にスイッチングし、電極A7−N7及びA8−N8のすべてを発生器の他方の端子にスイッチングすることによって、初期位置に対してX軸を中心に20度回転した電界を得ることができる。関連技術分野の当業者には理解されるであろうように、信号を電極の他の複数の組み合わせに対して印加することによって、他の方向に電界が生成される。電圧に対する適切なコンピュータ制御が実施されるならば、上記のように段階的にではなく連続的(つまり、滑らか)に、電界の方向によって空間が走査されるようにすることも可能である。
【0084】
図29A、29Bは、印加電界の分裂細胞に対する殺細胞能力が、どの程度電界強度の関数であるかを示すインビトロの実験の結果を示す。図29Aの実験においては、B16F1メラノーマ細胞を、100kHzのAC電界に、異なる電界強度で、各強度当たり24時間暴露した。図29Bの実験においては、F−98グリオーマ細胞を、200kHzのAC電界に、異なる電界強度で、各強度当たり24時間暴露した。これら両図において、電界の強度(EF)は、1cm当たりのボルトで測られている。殺細胞効果の大きさは、対照細胞の増殖速度(GRC)に比較した治療細胞の増殖速度(GRT)の減少率であるTERによって表される。
【0085】
【数1】
【0086】
実験結果は、印加電界の増殖に対する阻害効果は、メラノーマ及びグリオーマ細胞の両方において強度とともに増加することを示す。完全な増殖阻止(TER=1)は、メラノーマ及びグリオーマ細胞においてそれぞれ1.35及び2.25V/cmで見られる。
【0087】
図30A、30Bは、印加電界の殺細胞能力が、どの程度電界の周波数の関数であるかを示すインビトロの実験の結果を示す。実験においては、B16F1メラノーマ細胞(図30A)及びF−98グリオーマ細胞(図30B)を、異なる周波数を有する電界に、各周波数当たり24時間暴露した。図30A、30Bは、電界強度に対して正規化した増殖速度の変化(TER/EF)を示す。データは、平均+標準誤差として示される。図30Aにおいて、メラノーマ細胞では120kHzにおいて最大限に阻害される窓効果(window effect)が見られる。図30Bにおいて、2つのピークが170及び250kHzにおいて見られる。したがって、治療の全過程において唯一つの周波数のみが利用可能であるならば、メラノーマ細胞を破壊するには約120kHzの周波数を有する電界が適切であり、グリオーマ細胞を破壊するには約200kHzの周波数を有する電界が適切である。
【0088】
いずれか任意の型の細胞のすべてが正確に同じ大きさを有するのではない。代わりに、細胞は大きさの分布を有し、いくつかの細胞は小さく、いくつかの細胞は大きい。特定の細胞を損傷する最良の周波数は、当該特定の細胞の物理的特徴(たとえば、大きさ)に関連すると考えられている。したがって、大きさの分布を有する細胞の個体群を最も良好に損傷するには、標的細胞の大きさの予想分布に基づいて周波数の選択を最適化し、その個体群に対して異なる周波数を含む分布を印加することは有利となり得る。たとえば、図30Bのデータは、グリオーマ細胞の個体群を破壊するべく170kHz及び250kHzの2つの周波数を使用することは、単一の周波数200kHzを使用することよりも有効となり得ることを示す。
【0089】
本明細書において議論する最適な電界の強度及び周波数は、インビトロの実験に基づいて得られたものであり、インビボの用途での対応するパラメータは、インビボで同様の実験を行うことにより得られるであろうことに注意されたい。細胞そのものの関連特性(大きさ及び/又は形状等)、又は細胞の周辺との相互作用によって、インビボでの用途における最適な周波数及び/又は電界強度の一式は異なるものとなり得る。
【0090】
1つより多い周波数を使用する場合、それら多様な周波数を時間的に順次に印加してよい。たとえば、グリオーマの場合、100、150、170、200、250、及び300kHzの電界の周波数を、それぞれ治療過程の第1分目、第2分目、第3分目、第4分目、第5分目、及び第6分目の分間にわたって印加してよい。その後、周波数の当該サイクルを、治療過程における後続の6分間ごとに繰り返す。または、電界の周波数を、100から300kHzへと無段階的に走査してもよい。
【0091】
任意に、この周波数循環を、上記の方向的循環と組み合わせてよい。図31Aは、3つの方向(D1、D2、及びD3)並びに3つの周波数(F1、F2、及びF3)を使用したそのような組み合わせの例である。もちろん、同じスキームをその他いかなる数の方向及び/又は周波数へと拡張することも可能である。図31Bは、3つの方向(D1、D2、及びD3)を使用し、周波数を100kHzから300kHzまで走査するそのような組み合わせの例である。t1とt2との間の時間軸の途切れにおいては、周波数が300kHzの丁度下まで上昇するまで周波数を走査するのに必要な時間が与えられている。図31Aに示すように、周波数の走査(又は段階化)を方向変化と同期化させてよい。または、図31Bに示すように、周波数の走査(又は段階化)を方向変化と非同期化させてよい。
【0092】
他の実施の形態においては、2以上の周波数成分(たとえば、170kHz及び250kHz)を同時に含む信号を、大きさの分布を有する細胞の個体群を治療するべく電極に印加する。多様な信号は重畳によって重ね合わさり、印加された周波数成分のすべてを含む電界を生成する。
【0093】
次に、1つの典型的な実施の形態に係る装具500を示す図14を参照する。より具体的に、装具500は、ハット、キャップ、又は、人間の頭部に設置する設計のその他の装具である。例示として、頭部502を、頭部502の皮膚表面504に対してハット500が設置された状態として示す。頭部502の内部においてその皮膚表面504の下に形成された頭蓋内腫瘍等510を示す。したがって、ハット500は、腫瘍510等を有する人間の頭部502に設置するものとして意図される。
【0094】
皮膚表面上に設置され、又はその下の身体内部に埋め込まれることで絶縁電極230がおおよそ平面状に配置される図1〜13に示した多様な実施の形態と異なり、本実施の形態の絶縁電極230は、特定の用途専用に形成され配置される。頭蓋内腫瘍又はその他の損傷等を治療するには、比較的に長期の、たとえば数日ないし数週間の治療が必要であることが通常であり、したがって患者には可能な限りの快適性を提供することが望ましい。ハット500は、治療の有効性を損ねることなく長期の治療過程に亘って快適性を提供するために専用的に設計される。
【0095】
1つの典型的な実施の形態によると、ハット500は、好ましくは腫瘍510の位置に最適なTC電界を生成するべく位置付けられる所定数の絶縁電極230を含む。TC電界の力線を、520において大まかに示す。図14において理解されるように、腫瘍510はこれらの力線520の内部に位置する。以下においてより詳細に記載するように、絶縁電極230は、その一部または面が頭部502の皮膚表面504に接触自在となるようハット500内に位置付けられる。換言すると、患者がハット500を着用したとき、絶縁電極230は、自身が生成するTC電界が腫瘍510に集中し、周辺領域が低密度のままに維持されるように選択された位置において頭部502の皮膚表面504に接触するよう設置される。通常、絶縁電極230と皮膚表面504との接触をより良好にするべく選択領域において頭部502上の毛髪を剃るが、これは重要ではない。
【0096】
好ましくは、ハット500は、絶縁電極230に力を加えて皮膚表面502に押圧されるようにする機構530を含む。たとえば、機構530は、絶縁電極230に付勢力を加えて絶縁電極230がハット500から離れて外側へと方向付けられるようにする付勢タイプのものであってよい。したがって、患者がハット500を頭部502に置いたとき、絶縁電極230は機構530によって皮膚表面504に押圧される。機構530は、絶縁電極230と頭部502との間に快適なフィットを提供するべくわずかに反動するものであってよい。1つの典型的な実施の形態においては、機構530は、ハット500内に配置され、一部が絶縁電極230に連結してそこに力を加える、バネを用いた装置である。
【0097】
上記の実施の形態においてと同様に、絶縁電極230は導体220によって発生器210に連結される。発生器210をハット500そのものの内部に配置してコンパクトで自己充足型の独立したシステムを提供してよく、又は発生器210をハット500の外部に配置し、導体220を開口等を通じてハット500から発生器210へと導き出してもよい。発生器210をハット500の外部に配置する場合、ハット500そのものに近接した位置、ハット500からより離れた位置等を含む任意数の異なる位置に発生器210を位置付けることが可能であることは理解されよう。たとえば、発生器210を、患者が着用する運搬袋等(たとえば、患者の腰部の周囲を延びる袋)の内部に配置してよく、又は患者の体肢もしくは胴の周囲に固定してもよい。また、発生器210を、患者が着用する別の装具に固定又は運搬される保護ケース内に配置してもよい。たとえば、保護ケースをセーター等のポケットに挿入してよい。図14は、発生器210がハット500に直接的に組み込まれる実施の形態を示す。
【0098】
次に、図15、16を参照する。1つの典型的な実施の形態においては、好ましくは、機構530を備える多数の絶縁電極230を、ハット500へと挿入して、導体(不図示)を介して発生器(不図示)に電気的に接続可能な、540において大まかに示す、独立ユニットとして形成する。これらの部材を独立ユニットの形態で提供することにより、患者はユニット540を簡単に挿入でき、及び/又はそれらの洗浄、修理、及び/又は交換が必要なときに、簡単にそれらをハット500から取り外すことができる。
【0099】
本実施の形態においては、ハット500は、ハット500内に形成され、ユニット540を受け取って保持する選択領域550を含むよう構成される。たとえば、及び図15に示すように、各領域550は、ハット500内に形成された開口(ポア)の形態を有する。ユニット540は本体542を有し、機構530と1以上の絶縁電極230とを含む。機構530は、その一部(たとえば、その一端)が各絶縁電極230の面に接触し、機構530によって絶縁電極230の面に付勢力が加えられるようにユニット540内に配置される。ユニット540は、一旦開口550内に受け止められると、粘着性材料の使用又は機械的手段の使用を含む任意数の従来技術の使用により、そこにしっかりと保持されることができる。たとえば、ハット500は、ピボット旋回可能なクリップ部材を含んでよく、ピボット旋回可能なクリップ部材は、開口550が開放される開位置と、ピボット旋回可能なクリップ部材が絶縁電極の部分(たとえば、周縁端)に係合して絶縁電極230を所定位置に保持し支える閉位置との間をピボット旋回する。絶縁電極230を取り外すには、ピボット旋回可能なクリップ部材を開位置へと移動させる。図16に示す実施の形態においては、絶縁電極230は、1つの実施の形態においては、絶縁電極230の周囲を延伸する両面接着性の枠部材である接着要素560によって、開口550内に保持される。換言すると、接着枠560の一面側の保護カバーを除去し、絶縁電極230の露出面の周囲に貼り付けることによって、接着枠560をハット500にしっかり取り付け、接着枠560の他面側を除去して、TC電界が最適化されるように腫瘍が絶縁電極230に対して位置付けられるよう絶縁電極230を頭部502に対して位置付け及び固定するための所望の位置において皮膚表面504に貼り付ける。接着枠560の一面を皮膚表面540に接触させ固定することが、接着枠560が皮膚表面540と面一に設置されるように頭部502を剃ることが望ましいことの理由である。
【0100】
接着枠560は、必要なときにはユニット540を簡単にハット500から取り外すことができ、別のユニット540又は同一のユニット540と交換することができるような態様でユニット540を開口550内にしっかりと取り付けるように設計される。上記したように、ユニット540は、ハット500が着用されたときに絶縁電極230を皮膚表面504に押圧する付勢機構530を含む。ユニット540は、絶縁電極230とは反対の側が、プラスチック等の剛性の材料から形成された支持面として構成されてよく、付勢機構530(たとえば、バネ)は力が加わったときに支持面に圧縮され、バネ530が伸びたときに、バネ530は支持面との接触を保って、その他端において絶縁電極230に付勢力を加える。好ましくは、付勢機構530(たとえば、バネ)は、絶縁電極230に力が加えられて、絶縁電極230が皮膚表面504に対して相補的な外形となって、それら2つが互いに面一に安定するように、皮膚表面504に対応した外形を有する。機構530はバネであってよいが、バネの代わりに使用することが可能な多数のその他の実施の形態が存在する。たとえば、機構530は、気泡ゴム、発砲プラスチック、気泡を含む層、等の弾性材料の形態を有してよい。
【0101】
ユニット540は、ハット500内に配置される導体220等の対応する電気コネクタに繋ぐことが可能な、電気コネクタ570を有する。導体220は、一端においてユニット540に接続し、他端において発生器210に接続される。発生器210をハット500に直接的に組み入れてよく、又は発生器210を患者又はベッド脇の台等の上に離して(遠方に)位置付けてもよい。
【0102】
上に議論したように、絶縁電極230と皮膚表面504との間に有効な伝導性環境が提供されるようにするべく、好ましくは導電性ゲル等の結合剤を使用する。前出の実施の形態の記載において、適切なゲル材料は開示されている。結合剤は絶縁電極230に配置され、好ましくは当該剤の均一層が電極230の表面に沿って設けられる。周期的にユニット540を交換することが必要な理由の1つは、結合剤を交換及び/又は補充する必要があることである。換言すると、所定期間の後、又は何度も使用した後、結合剤を再び電極230に塗布できるようにするべく、患者はユニット540を取り外す。
【0103】
図17、18は、絶縁電極230が一部として組み込まれた別の装具を示す。より具体的には、ブラジャー等700が示され、着用者に輪郭、支え、及び快適性を与える従来のブラジャー材料から形成される、705において大まかに示す本体を含む。また、ブラジャー700は、その一方に布製のサポート層710を含む。サポート層710は、好ましくは、必要とされる所望のサポートをブラジャー700に与える構造の、適切な布製材料から形成される。
【0104】
その他の実施の形態と同様に、ブラジャー700は、ブラジャー材料705の内部に1以上の絶縁電極230が配置される。1以上の絶縁電極は、サポート710とは反対側においてブラジャー700の内面に沿って配置され、1つの乳房の内部、もしくはそのすぐ周辺の領域に位置する腫瘍等に近接して設置されるよう意図される。上記の実施の形態でのように、本実施の形態の絶縁電極230は、乳房もしくはその直近領域での利用専用に構築及び構成される。したがって、本用途において用いられる絶縁電極230は、平面的な表面構造ではなく、典型的な乳房に見受けられる全般的に湾曲した形状に対して相補的な弓形形状を有する。
【0105】
乳房そのものに対して設置されるように絶縁電極を内面に沿った所望の位置に保持するのを支援するべく、ライニング720が絶縁電極230を横切って配置される。ライニング720は、皮膚上に着用するのに快適な、任意数の細い材料から形成されてよく、1つの典型的な実施の形態においては、ライニング720は布製材料から形成される。
【0106】
また、ブラジャー700は、上記の実施の形態のいくつかでのように、好ましくは付勢機構800を含む。付勢機構800は、ブラジャー材料705の内部に配置され、サポート710から絶縁電極230へと伸びて絶縁電極230に付勢力を加え、電極230を乳房に押圧する。これにより、絶縁電極230は、皮膚表面から持ち上がることによって、TC電界の効率を低下させて治療の有効性を低めることにつながる間隙を形成するのでなく、皮膚表面との接触を保ち続けることが保証される。付勢機構800は、バネ構成の形態であってよく、又は所望の付勢力を絶縁電極230に加えて絶縁電極230を乳房へと押圧する弾性材料であってもよい。伸びた位置において付勢機構800は絶縁電極230に力を加え、患者がブラジャー700を身体に設置したとき、絶縁電極230は乳房に押圧され、乳房そのものも付勢力とは逆向きの力を加え、それにより、絶縁電極230が患者の乳房に押圧される。例示の実施の形態においては、付勢機構800はブラジャー材料705の内部に配置されるバネの形態を有する。
【0107】
電極とライニング720との間において、絶縁電極230上に導電性ゲル810を設けることができる。導電性ゲル層810は、上記の機能を果たすものとして本明細書において以前に記載した材料から形成される。
【0108】
絶縁電極230の一部として電気コネクタ820が設けられ、電気コネクタ820はその一端において導体220に電気的に接続し、導体220の他端は発生器210に電気的に接続される。本実施の形態においては、導体220はブラジャー材料705の内部を通ってブラジャー700に開口が形成されている位置へと至る。導体220はこの開口から延伸し、本実施の形態においてはブラジャー700から離れた位置に配置される発生器210へと導かれる。別の実施の形態においては、発生器210をブラジャー700そのものの内部に配置してよいことは理解されよう。たとえば、ブラジャー700の内部には、患者がブラジャー700を着用したときに発生器210を受け止めて所定位置に保持するよう構成されるコンパートメントを形成することができる。この構成においては、コンパートメントを、そこへの発生器210の挿入、又はそこからの発生器210の取り外しを可能にするべく開閉可能な取り外し式ストラップによって覆うことができる。ストラップを、ブラジャー700を形成するのに用いるのと同じ材料から形成することができ、又はその他の種類の材料から形成することもできる。フック及びループ材料等の締結手段によってストラップを周囲のブラジャー本体へと取り外し可能に取り付けることができ、これによって患者はフック及びループ要素を分離することによって容易にコンパートメントを開き、発生器210を挿入又は取り外すべくコンパートメントへとアクセスすることができる。
【0109】
発生器210も導体220への電気的接続のためのコネクタ211を有しており、これにより発生器210を絶縁電極230へと電気的に接続することが可能となる。
【0110】
他の実施の形態と同様に、絶縁電極230は、電界(TC電界)を所望の標的(たとえば、腫瘍)に集中させるようにブラジャー700の内部に配置される。ブラジャー700の内部での絶縁電極230の位置は、腫瘍の位置によって異なることは理解されよう。換言すると、腫瘍が発見された後において、医師は絶縁電極230の配置を考案し、標的領域(腫瘍)に対するTC電界の効果を最大化するべく当該配置に基づいてブラジャー700を構築する。したがって、絶縁電極230の個数及び位置は、腫瘍又はその他の治療される標的領域の正確な位置に依存する。絶縁電極230のブラジャー700上での位置は正確な用途によって変わり得るので、絶縁電極230の正確な大きさ及び形状も同じく変わり得る。たとえば、絶縁電極230をブラジャー700の中心位置に近い方の位置に設置する場合と底部に設置する場合を比較すると、これらの領域では乳房(ブラジャーも同様に)の形状が異なるので、絶縁電極230は異なる形状を有するであろう。
【0111】
図19は、絶縁電極230が、尿道、膣等の自然経路を通って身体に進入するよう構成されたプローブ又はカテーテル600の形態で組み込まれる内部電極の形態を有する、さらに別の実施の形態を示す。本実施の形態においては、絶縁電極230は、プローブ600の外面に、その長さに沿って配置される。導体220は、電極230に電気的に接続され、プローブ600の本体内部を通り、プローブ本体内部に配置可能な、又は患者もしくは患者に近い別の位置等の遠方位置においてプローブ600とは独立に配置可能な発生器210へと至る。
【0112】
または、プローブ600を、皮膚表面又はその他の組織を貫通して身体内部に存在する内部標的に至らしめるよう構成することができる。たとえば、プローブ600を、皮膚表面を貫通させて、身体内部に位置する腫瘍に隣接もしくは近接して位置付けることができる。
【0113】
これらの実施の形態においては、プローブ600を自然経路を通じて挿入し、絶縁電極230が標的領域(つまり、腫瘍)の付近に配置されるように所望の位置に位置付ける。次に、発生器210を作動させて絶縁電極230にTC電界を生成させ、TC電界は腫瘍に所定時間印加される。実際は、図示のプローブ600は単に模範を示すだけであり、プローブ600は意図した機能を果たり得る限りその他の形状及び構成を有してよいことは理解されよう。好ましくは、絶縁電極導体230から発生器210へとつながる導体(たとえば、ワイヤ)は、軸に沿って電界を生成しないように撚られ、又はシールドされている。
【0114】
さらに、プローブは絶縁電極を1つだけ含み、その他を身体の表面に位置付けることができることも理解されよう。この外部電極は、非治療領域に影響しないよう力線−電流密度が低くなるように、より大きく、又は多数の電極から、構成されるべきである。実際、電極の設置は、潜在的に感度が高い領域において電界が最小限に抑えられるように設計されるべきである。任意に、外部電極を真空力(たとえば、吸引)によって皮膚表面に保持してよい。
【0115】
図20は、甲状腺、副甲状腺、喉頭等の病変の治療において、高い立ち襟部材900(又は、ネックレス型構造)を使用することが可能な、さらに別の実施の形態を示す。図20は、巻き付けられていない、実質的に平坦な状態の襟部材900を示す。本実施の形態においては、絶縁電極230は、襟部材900の本体910へと組み込まれ、着用者の首領域に対して設置されるよう構成される。絶縁電極230は、本明細書において上記したいずれかの方法によって発生器210に繋がれる。発生器210を、本体910の内部に配置することができ、又は本体910の外部の位置に配置することができることは理解されよう。襟本体910を、人間の首の周囲に配置される襟900を形成するのに従来使用される任意数の材料によって形成することができる。したがって、襟900は、好ましくは、襟900を首に対して調節する手段920を含む。たとえば、相補的な締結具(フック及びループ締結具、ボタン等)を襟900の端部に配置して、襟直径の調節を可能にすることができる。
【0116】
したがって、本発明の装置の構造は、装置を装具に組み込み、患者が従来の装具を容易に着用して同時に治療を受けることを可能にする用途に特に良好に適合する。換言すると、装置の構成要素のいくつか又はすべてを装具に組み込むことによって、特上の快適性を患者に提供することができ、治療の有効性を高めることができる。構成要素を組み込むのにぴったりの装具は、腫瘍、損傷等が存在する生体組織の標的領域によって明らかに異なる。たとえば、標的領域が男性患者の睾丸領域に存在するなら、靴下状構造又は覆いの形態の装具を提供することができ、TC電界が標的組織に向けられるように絶縁電極が腫瘍に対して位置付けられるよう、患者の睾丸領域の周囲に着用されるべく構成する。装置の構成要素は、ほとんどの種類の装具に組み込むことができ、したがって、疾患が存在し得る患者の身体の任意数の異なる領域を治療するのに用いることができるので、装具の的確な特性又は形状は大きく変化し得る。
【0117】
次に、本発明の装置の別の態様を示す図21、22を参照する。図21において、人間又は動物の身体の任意数の部位等である身体1000が示される。上記の実施の形態でのように、TC電界を用いて腫瘍等(不図示)を治療するべく2以上の絶縁電極230が身体1000に近接して配置されるが、これは他の実施の形態についての上記の議論において既に極めて詳細に記載した通りである。絶縁電極230は導電性の構成要素を有し、その導電性の構成要素を囲む外部絶縁体260を有する。好ましくは、各絶縁電極230はリード220によって発生器(不図示)に接続される。各絶縁電極220と身体1000との間には、導電性充填材料(たとえば、導電性ゲル部材270)が配置される。絶縁電極230は互いに離間されており、発生器が作動したとき、絶縁電極230は既に極めて詳細に記載したTC電界を生成する。電界(TC電界)の力線は、1010において大まかに示される。図示のように、電界力線1010は、絶縁電極230間及び導電性ゲル部材270を通って延びる。
【0118】
経時的に、又は何らかの事象の結果、絶縁電極230の外部絶縁体260は、そのいずれかの位置において絶縁破壊し始める可能性がある。例示目的のみにおいて、図22は、絶縁電極230のうちの1つの外部絶縁体260が、導電性ゲル部材270に隣接する面において絶縁破壊1020を被った様子を示す。外部絶縁体260の絶縁破壊1020によって、その地点(つまり、絶縁破壊1020)において強い電流の流れ−電流密度が形成されることは理解されよう。増大した電流密度は、本数が増えた電界力線1010及び隣接し合う電界力線1010間の相対的位置付け及び距離によって示される。絶縁破壊1020の発生の副作用の1つは、その地点において、熱を発生し、抵抗を有する組織/皮膚を火傷させ得る電流が存在することである。図22においては、過熱領域1030が示され、これは外部絶縁体260における絶縁破壊1020によって増大した電流密度が出て行く組織/皮膚の領域である。患者は、領域に存在する強い電流、上昇した熱、及び領域1030に存在し得る灼熱感のために、この領域1030において不快及び痛覚を感じ得る。
【0119】
図23は、絶縁電極230のさらなる用途を示すさらに別の実施の形態を示す。本実施の形態においては、絶縁電極230と身体1000との間に配置される導電性ゲル部材270が、部材270を形成するゲル材料によって完全に取り囲まれているという意味において浮遊する導体1100を有する。1つの典型的な実施の形態においては、導体1100は、導体1100の内部に配置される薄型の金属シートプレートである。理解されるであろうように、プレート1100等の導体が、均一な電界に、電界の力線に対して法線となるように設置される場合、導体1100は電界に対して実質的に何らの影響も与えない(導体1100の対向する2つの面が等電位であり、対応する等電位がわずかにシフトしている場合は除く)。反対に、導体1100が電界に平行に配置される場合、電界が著しく歪む。導体1100が存在しない状況とは対照的に、導体1100の直近領域は等電位でない。導体がゲル部材270の内部に配置される場合、上記の理由、つまり導体が電界の力線に対して法線であるために、導体1100は通常、電界(TC電界)に影響しない。
【0120】
絶縁電極230の外部絶縁体260の絶縁破壊が発生した場合、上に議論したように絶縁破壊地点においては強い電流の流れ−電流密度が存在する。しかし、導体1100が存在することにより、電流は導体1100の全体に拡散して導体1100の全面から出て行き、電流は電流密度が高くも低くもない状態で身体1000に到達する。したがって、絶縁電極230の絶縁体260に絶縁破壊が生じた場合であっても、皮膚に到達した電流によって患者が不快感を感じることはない。導体1100を接地することによって導体を越境する電界が無効化されるため導体1100を接地しないことは重要である。したがって、導体1100は、ゲル部材270の内部で「浮遊」している。
【0121】
導体1100が身体組織1000に導入され、電界に平行に配置されない場合、導体1100によって電界の歪みが生じる。歪みによって力線の拡散(低い電界密度−強度)、又は電界の力線の集中(より高い密度)が、挿入物及びその周辺の特定的配置に応じて生じ得るので、導体1100は、たとえば遮蔽効果を発揮し得る。したがって、たとえば、導体1100によって器官1101が完全に取り囲まれる場合、この種の配置はファラデーケージとなるので、器官そのものの内部の電界はゼロとなる。しかし、完全に器官の周囲を取り囲むよう導体を配置するのは実際的ではないので、器官を完全に又は部分的に覆う導電性ネットもしくは同様の構造を用いることによって器官そのものの内部の電界をゼロ又はほぼゼロにすることができる。たとえば、ネットを形成するべく互いに対して相対的に配置される多数の導電性ワイヤからネットを形成することができ、又は器官1101を実質的に取り囲むよう、そうでなければ覆うように1組のワイヤを配置することができる。反対に、治療すべき器官1103(標的器官)は、ファラデーケージ効果を有する部材によって覆われず、電界1010(TC電界)の中に配置される。
【0122】
図24は、導体1100が身体の内部(つまり、皮膚の下)に配置され、標的(たとえば、標的器官)の付近に位置付けられる実施の形態を示す。導体1100を標的の付近に設置することによって、標的において(TC電界の)高電界密度が実現される。同時に、上記の保護的導電性ネット等を近隣の別の器官の周囲に配置することにより当該近隣の器官を保護することができ、当該器官は電界から保護される。導体1100を標的に近接して位置付けることにより、標的の付近又は標的において高電界密度条件を提供することができる。換言すると、導体1100によって、TC電界を特定領域(つまり、標的)に集中させることが可能になる。
【0123】
図24の実施の形態においては、各ゲル部材260は、図23を参照して記載した導体を含むことができることも理解されよう。このような構成においては、ゲル部材260の内部の導体によって、絶縁電極230の絶縁体に絶縁破壊が生じたときに起こり得るなんらかの副作用から皮膚表面(組織)が保護される。同時に、導体1100によって、標的付近に高電界密度が形成される。
【0124】
電極の構造を異ならせることにより、及び/又は電極を互いに対して戦略的に配置することにより、電界の電界密度を調整する多数の異なる方法が存在する。たとえば、図25においては、第1の絶縁電極1200及び第2の絶縁電極1210が設けられ、身体1300の周囲に配置される。各絶縁電極は、絶縁材料によって好ましくは取り囲まれる導体を含み、したがって「絶縁電極」という用語が用いられる。第1及び第2の電極1200、1210のそれぞれと身体1300との間には、導電性ゲル部材270が設けられる。この種の配置における電界力線を、1220において大まかに示す。本実施の形態においては、第1の絶縁電極1200は、第2の絶縁電極1210の寸法よりも著しく大きい寸法を有する(第2の絶縁電極1210の導電性ゲル部材も同様に小さい)。
【0125】
絶縁電極の寸法を違えることによって、電界力線1220のパターンが多様化される。より具体的には、電界は、第2の絶縁電極1210の寸法が小さいために、第2の絶縁電極1210に向けて内部へと先細りする。1230において大まかに示す高電界密度領域が、第2の絶縁電極1210に付随するゲル部材270と皮膚表面との間の界面付近に形成される。システムの多様な構成要素は、皮膚の内部、又は皮膚の上部の腫瘍がこの高電界密度内に入り、治療される領域(標的)がより高い電界密度の電界力線へと暴露されるように操作される。
【0126】
図26も、導体1400(たとえば、導電性プレート)が各導電性ゲル部材270に配置されたときの先細りするTC電界を示す。本実施の形態においては、絶縁電極1200、1210の大きさに差異があっても、ゲル部材270の大きさと導体1400の大きさとが同じ、又はほぼ同じである。ここでも、各導体1400はゲル部材270を形成する材料によって取り囲まれているため、導体1400を「浮遊プレート」として特徴付けることができる。図26に示すように、導体1400を、他方の絶縁電極1200より小さく、導体1400そのものよりも小さい絶縁電極1210の付近に設置し、他方の絶縁電極1200をそこから距離を置いて配置することで、当該一方の導体1400は、当該一方の導体1400と他方の絶縁電極1200との間に配置される組織の電界密度を減少させる。電界密度の減少を1410において大まかに示す。同時に、1420において大まかに示す、非常に低い密度から非常に高い密度へと変化する極度に不均一な先細りの電界が、当該一方の導体1400と絶縁電極1210との間に形成される。この典型的構成の一つの利点は、付近の電界密度を増大させることなく、絶縁電極の大きさを減少させることができることである。非常に高い誘電率の絶縁体を有する電極は非常に高額となり得るので、これは重要となり得る。たとえば、500ドル以上も掛かる絶縁電極もあり、さらに価格は特定の治療領域に対して反応し易い。したがって、絶縁電極の大きさの減少は、コストの低減に直接的につながる。
【0127】
本明細書において用いる用語「腫瘍」は、抑制不能に成長する形質転換細胞を含む悪性組織を指す。腫瘍は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫等、及び固形腫瘍を含む。本発明に従って治療可能な固形腫瘍の例には、たとえば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮性癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、等の、しかしこれらに限定されない非上皮性悪性腫瘍及び上皮性悪性腫瘍が含まれる。これら各腫瘍は急速に成長するので、いずれも本発明に従って治療することができる。本発明は、外科手術及び放射線療法では治療が困難で、化学療法又は遺伝子治療ではしばしば到達不能な脳腫瘍の治療に特に有利である。さらに、本発明は、本発明により提供される局所治療の容易性のために、皮膚及び乳房の腫瘍の治療での利用に適している。
【0128】
さらに、本発明は、非悪性もしくは前悪性の疾患、及び不適切な細胞もしくは組織の成長を含むその他の疾患に付随する抑制不能な成長を、本発明に係る電界を不適切に成長する組織に印加することにより制御することができる。たとえば、本発明は、特に頭蓋内領域での動静脈(AV)奇形の治療に有用であると考えられる。本発明は、炎症及び血管増殖により特徴付けられる皮膚病変である乾癬、及び炎症及び潜在的に血管増殖が付随する病変である前立腺肥大症の治療にも用いられ得る。その他の過剰増殖性疾患の治療も考えられる。
【0129】
さらに、本発明に係る電界を印加することによって、創傷治癒に伴う、外科手術又は傷害後に瘢痕及びケロイドの形成につながる、線維芽細胞及び内皮細胞の望ましくない増殖、及び血管形成術もしくは冠動脈ステントの設置後の再狭窄を阻止することができる。本発明の非侵襲的特性のために、本発明はこの種に病変に特に望ましく、特に、内部瘢痕及び癒着の発達の防止、もしくは冠動脈、頸動脈、及びその他の重要な動脈の再狭窄の阻止に特に望ましい。
【0130】
既に検出された腫瘍の治療に加え、上記の実施の形態を、腫瘍がそもそも検出可能な大きさに到達するのを防止するべく予防的に用いてもよい。たとえば、図17、18に関連して上記したブラジャーとしての実施の形態を、1週間に亘り毎日8時間のセッション時間女性に着用させてよく、この1週間の治療コースを数カ月に1回繰り返し、癌性となって増殖し始めた細胞があれば死滅させる。この使用法は、特定の種類の癌に関して高いリスクにある人々(たとえば、強い乳癌の家族歴を有する女性、又は癌の発作を乗り越え再発のリスクを有する人々)に特に適切である。標的とされる癌の種類に基づいて、及び/又は、患者の利便性に適うように、予防的治療のコースを調整してよい。たとえば、治療週間に16時間のセッションを4回受けることは、8時間のセッションを7回よりは患者によっては便利で、同様に効果的であるかもしれない。
【0131】
[実施例2]
昆虫の腸内での非病原性寄生生物であって、リーシュマニア等のその他の病原性トリパノソーマ科のモデル生物としてよく用いられるCrithidia fusciculataにも実験を行った。C.fusciculata細胞は、世代時間が比較的短く(2時間)、限定培地で増殖させ易い。
【0132】
図32Aは、実験で使用した電極1610の構造を示す。各電極は、長さが15mmで、高さが5mmである。それは、各電極の容量が約10nFとなるよう高い誘電率(ε>5000)を有するマグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛(PMN−PT)セラミック絶縁体層1612に外面をコーティングされた導体1611を含む。導体1611の背面は、353ND医療グレードエポキシ(Epoxy Technology社、ビレリカ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)の5mm層1614を用いて絶縁され、ワイヤ1613が導体1611に接続される。もちろん、意図する用途によって電極の寸法を変更することは適切である。
【0133】
図32Bは、対を成して配置され、50mmのペトリ皿1626の内部に位置決めされた4つの電極1610を含むテストチャンバを示す。電極は、ポリカーボネートホルダー1624によって所定位置に保持されていた。一方の対の対向する電極間にAC電圧を印加し、次に他方の対の対向する電極間にAC電圧を印加することにより交互の順序でテストチャンバ内に電界を生成し、培地内で互いに対して90度に配向する電界を生成した。電極は23mm離間して設置された。電極1610の表面のセラミック絶縁体1614によって電極は、ペトリ皿内の培地から完全に絶縁され、電界は層1614を介して標的領域へと容量結合される。
【0134】
図32Cは、テストチャンバ1620内に電界を誘導するのに使用された設備を示す。正弦波発生器1632(モデル662、OR−X社、イスラエル)の出力はRF増幅器1634(75A250、AR worldwide社、サウダートン、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国)へと導かれ、RF増幅器1634の出力は電界方向切り替えリレイ1636へと導かれ、電界方向切り替えリレイ1636は増幅された正弦波を上下の電極間、もしくは左右の電極間にかける。切り替えリレイは、これら二つの状態間を周期的に切り替え、それにより電界の方向を所望の間隔で切り替えるよう構成される。
【0135】
絶縁されたT型熱電対(Omega社、スタンフォード、コネチカット州)を用い、その先端をチャンバ1620の中心に置くことにより、温度を連続的に測定した。熱電対は、TC−08熱電対データロガー(Pico Technologies社、イギリス)に接続され、熱電対データロガーの出力はコンピュータ1630に接続されていた。
【0136】
電界には熱産生が付随するので、電力増幅器の入力における波形の振幅をコンピュータによりフィードバック制御することにより、チャンバの温度を所望の値に保持した。2つの露出した先端が1cmの距離をおいて固定されるシールドされた同軸プローブを用いて培地の電界強度を測定した。プローブは、同軸ケーブルを介して190Bフローティングスコープメーター(Fluke社、オランダ)に接続された。各処置の終わりに、2つの測定点が電界の力線に平行となるようにプローブを培地に浸漬することによって電界強度を測定した。電界強度は、1センチメートルの距離当たりのピーク・トゥ・ピーク電圧(V/cm)として表される。
【0137】
以下に記載する実験においては、C.fusciculata寄生生物を、0.0025%(w/v)のヘミン(Sigma社)と、0.8%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン(03−031−1、Biological industries社、Beit Haemek、イスラエル)とを含有するBHI培地で増殖させた。未使用の寄生生物の培養液を、3mlの液体培地の中において、28°Cで、15時間、オービタルシェーカー(200RPM)で培養し、595nmにおいて所定の吸光度となるよう(Biowave Cell Density Meter、WPA社、イギリス)未使用のBHI培養液で希釈した。これにより、所望の1ml当たりのコロニー形成単位が形成された。
【0138】
軟寒天培地において寄生生物に異なる周波数で電界を印加することにより周波数依存度実験を行った。寄生生物の一夜培養物を、1ml当たり1×108個のコロニー形成単位(CFU)の細胞数に対応するODとなるまで、未使用のBHI培養液で希釈した。培養物を、寄生生物を添加する前に42°Cの温浴槽にて溶解及び保持された寒天(Difco社)を0.34%含有するBHIにおける終末濃度が1×107個のCFUとなるようにさらに希釈した。増殖インジケータであるアラマーブルー(AbD Serotec社、オックスフォード、イギリス)を添加して終末濃度を10%とした。培養物を撹拌し、電界チャンバを含むペトリ皿(図32B参照)に7mlを直ちに注いだ。寒天が固化した後、寒天の上に10%のアラマーブルーを含有する1mlの未植菌のBHIを置いた。10°Cに予冷した定温器(FOC225I、Velp Scientifica社)の中に皿を置いた。実験した各周波数において、電界を6時間印加し、図32A〜Cに関連して上記した設備を用いて電界の方向を300ミリ秒毎に切り替えた。実験の過程で電界強度を2〜10V/cmの間で変化させて所望の温度を維持した。
【0139】
対照群では、同様のチャンバに電界を印加することなく皿を置き、温度を処置群と同じに維持する設定の予温した温度制御定温器の中にチャンバを置いた。処置群と対照群の両方において、チャンバの温度は実験の最初の15分以内に28.0±0.2°Cに達した。処置の終わりに、皿をマイクロプレートリーダー(Infinite200、Tecan社、オーストリア)の中に置き、電極間の寒天のODを550および595nmで測定した。以下の式を用いて細胞増殖量を算出した。つまり、(処置ウェルのOD595nm−処置ウェルのOD550nm)−(処置前ウェルのOD595nm−処置前ウェルのOD550nm)である。各ウェルの増殖率を、実験ウェルのアラマーブルー結果を対照のそれで割ることによって算出した。アラマーブルー分析の結果を、顕微鏡を用いた直接的計測によって測定された寄生生物数と相関させた。
【0140】
C.fusciculataの増殖に対する電界の効果の周波数依存度を100kHz〜20MHz間で実験した。設備の制約のために、より高い電界周波数では実験しなかった。アラマーブルー分析に基づく結果を図33に示し、%で表記する。これらの結果は、有効性が最大となるのは10MHzにおいてであることを示す。
【0141】
液体培養液中の寄生生物に異なる周波数で電界を印加することによって強度依存度実験を行った。寄生生物の一夜培養物を、1ml当たり1×107個のコロニー形成単位(CFU)の細胞数に対応するODとなるまで、未使用のBHI培養液で希釈した。増殖インジケータであるアラマーブルー(AbD Serotec社、オックスフォード、イギリス)を、10%の終末濃度となるよう添加した。電界チャンバを含むペトリ皿(図32B参照)を、7.5mlの希釈培養物で充填し、10°Cに予冷した定温器(FOC225I、Velp Scientifica社)の中に置いた。実験皿及び対照皿から採取した2つの250μlアリコートを、96マイクロウェルプレート(NunclonTMΔ、Nunc社、デンマーク)へと分注し、ODをマイクロプレートリーダー(Infinite200、Tecan社、オーストリア)を用い、550及び595nmで分光光度法により測定した。実験した各強度において、電界を17時間印加し、図32A〜Cに関連して上記した設備を用いて電界の方向を300ミリ秒毎に切り替えた。電界強度が高いほどより多くの熱エネルギーが試料に加えられるので、試料温度を所望のレベルに維持するべく環境温度を変化させた。
【0142】
対照群では、同様のチャンバに電界を印加することなく皿を置き、温度を処置群と同じに維持する設定の予温した温度制御定温器の中にチャンバを置いた。処置群と対照群の両方において、電界チャンバの温度は実験の最初の5分以内に28.0±0.2°Cに達した。処置の終わりに、皿の底部をセルスクレイパーでこすり取り、培養物を上下のピペット操作で数回撹拌した。4つの250μlアリコートを、96マイクロウェルプレート(Nunc社)へと分注し、ODをマイクロプレートリーダーを用い、750nmで分光光度法により測定した。未植菌のBHIからなるブランクの光学濃度(ODs)を、植菌された皿のODsから差し引いた。各ウェルの増殖率を、ウェルのODを対照群のそれによって割ることによって算出した。つまり、(処置ウェルのOD750nm/対照ウェルのOD750nm)×100である。アラマーブルー分析については、上記のとおりに増殖率を算出した。
【0143】
アラマーブルー分析に基づく結果を図34に示し、%で表記する。これらの結果は、増殖阻害は電界強度に依存し、約2V/cmの強度を有する10MHzの電界の場合は、50%を少し超えたところまで阻害されたところでプラトーに達することを示す。0.1MHzの周波数を印加した場合に同様の阻害が達成されたが、ずっと高い電界強度(9〜10V/cm)を要した。図34における最左データ点の単位元からのずれは、ゼロ電界ではない非常に低い電界(0.01V)が印加された事実に起因する。
【0144】
インビボの用途の場合、電界の印加は、それのみで、又は抗寄生生物治療薬と組み合わせて、行うことができる。人間や動物内での、又は生体外での、寄生生物を阻害するための電界の実際的利用は、(a)電極を所望の領域の付近(たとえば、リーシュマニア症によって生じた創傷の周囲)に設置することにより画定された局所的位置に電界を印加すること、(b)電極を器官の周囲に局所的に設置することにより器官に電界を印加すること(たとえば、腹部及び背中の皮膚上に電極を設置することによる腸内寄生生物の治療)、(c)身体内部に電極を埋め込むことにより電界を印加すること、(d)透析中に身体外で住血寄生生物に電界を印加すること、(e)寄生生物の増殖/複製場所に電界を印加すること、及び(f)標的生命体を含有する貯水池に電界を印加すること、を含むがこれらに限定されない様々な方法で実施することができる。その他の潜在的利用法には、寄生生物の発生を防止するべく、たとえば貯水池又はコンテナの中に電極を設置し、水に電界を印加することによって、食物又は水に電界を印加することが含まれる。
【0145】
身体内部の標的領域の位置に依存して、電極を患者の身体上に設置、又は患者の身体内部に埋め込んでよい。寄生生物に対して有効であることが発見されたメガヘルツ範囲の周波数は真核細胞には実質的に何らの影響を与えないため、選択性は優れており、不都合な副作用は主要な関心事とはならないことに注意されたい。任意に、その他の実施の形態に関連して上記したように、存在し得る1種類以上の寄生生物を標的するべく、異なる周波数を同時に又は順次に標的領域に印加してよい。図27A〜C及び28に関連して上記したように、電界を、2以上の異なる方向に印加してもよい。本明細書において記載した方法を、インビトロで、たとえば、食物、培地、細胞培養物等における寄生生物に対処するべく、用いてもよい。
【0146】
したがって、本発明により、腫瘍細胞、バクテリア、もしくは寄生生物等の分裂細胞及び非分裂細胞もしくは生命体の両方の種類を含有する生体組織に用いても、非分裂細胞もしくは生命体には実質的に影響を与えず、分裂細胞の増殖を選択的に破壊又は阻害する効果的で簡易な方法が提供される。
【0147】
好適な実施の形態を参照することにより発明を詳細に示し記載したが、発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に関して多様な変更を行うことが可能であることは当業者には理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の標的領域の内部に位置する寄生生物の増殖を選択的に破壊もしくは阻害する方法であって、
治療的に有効な投与量が前記標的領域に到達するように、前記寄生生物を対象とする治療薬を前記患者に投与する工程と、
前記治療的に有効な投与量が前記標的領域に存在する状態で、前記患者の前記標的領域にAC電界を容量結合する工程と、
前記寄生生物の治療的に有意な部分が死滅するまで、前記結合工程を繰り返す工程とを備え、
前記電界が前記寄生生物の脆弱性に対応する周波数特性を有し、前記電界が前記寄生生物の有意な部分を損傷もしくは崩壊させるのに十分な強度であり、前記電界が前記標的領域の内部に位置する非分裂細胞を実質的に無傷のまま残す
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電界の周波数が約10MHzであり、前記標的領域の少なくとも一部における前記電界の強度が0.5V/cmと10V/cmとの間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電界の強度が約2V/cmであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電界が、第1の時間間隔の間は第1の配向を有し、第2の時間間隔の間は第2の配向を有し、前記第1の時間間隔及び前記第2の時間間隔の少なくとも一部が互いに重ならないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の配向が前記第2の配向に略垂直であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の時間間隔が約300ミリ秒であり、前記第2の時間間隔が約300ミリ秒であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
標的領域の内部に位置する寄生生物の増殖を選択的に破壊もしくは阻害する方法であって、
前記標的領域にAC電界を容量結合する工程と、
前記寄生生物の治療的に有意な部分が死滅するまで前記結合工程を繰り返す工程とを備え、
前記電界の周波数が約10MHzであり、前記標的領域の少なくとも一部における前記電界の強度が0.5V/cmと10V/cmとの間であり、前記電界が前記寄生生物の脆弱性に対応する周波数特性を有し、前記電界が前記寄生生物の有意な部分を損傷もしくは崩壊させるのに十分な強度であり、前記電界が前記標的領域の内部に位置する非分裂細胞を実質的に無傷のまま残すことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記電界の強度が約2V/cmであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電界が、第1の時間間隔の間は第1の配向を有し、第2の時間間隔の間は第2の配向を有し、前記第1の時間間隔及び前記第2の時間間隔の少なくとも一部が互いに重ならないことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の配向が前記第2の配向に略垂直であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の時間間隔が約300ミリ秒であり、前記第2の時間間隔が約300ミリ秒であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
治療薬の治療的に有効な投与量が前記標的領域に存在するよう、前記結合工程を実行しながら前記治療薬を前記標的領域へと送達する工程をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項13】
患者の標的領域の内部に位置する寄生生物の増殖を選択的に破壊もしくは阻害する装置であって、
第1の対の絶縁電極であって、各電極が前記患者の身体への電界の容量結合を促進するべく構成された面を有する第1の対の絶縁電極と、
前記電極に動作可能に接続されたAC電圧ソースと、
を備え、
前記AC電圧ソース及び前記電極が、前記電極が前記患者の身体に対して設置され、前記AC電圧ソースが活性化されたとき、AC電界が前記電極を介して前記患者の前記標的領域へと容量結合されるように構成され、
前記電界の周波数が約10MHzであり、前記標的領域の少なくとも一部における前記電界の強度が0.5V/cmと10V/cmとの間であり、かけられた前記電界が前記寄生生物の脆弱性に対応する周波数特性を有し、前記電界が前記寄生生物の有意な部分を損傷もしくは崩壊させるのに十分な強度であり、前記電界が前記標的領域の内部に位置する非分裂細胞を実質的に無傷のまま残すことを特徴とする装置。
【請求項14】
前記電界の強度が約2V/cmであることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
各前記電極の前記面が、非常に高い誘電率を有する誘電体コーティングによって前記AC電圧ソースから絶縁されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項16】
第2の対の絶縁電極であって、それぞれが前記患者の身体への電界の容量結合を促進するべく構成された面を有する第2の対の絶縁電極と、
(a)前記第1の対の電極、又は(b)前記第2の対の電極に前記AC電圧ソースの出力を交互に印加するスイッチング機構と
を更に備えることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項17】
AC電圧が前記第1の対の電極に印加されたときに前記患者へと結合される電界が、AC電圧が前記第2の対の電極に印加されたときに前記患者へと結合される電界に対して略垂直となるように前記第1の対の電極が前記第2の対の電極に対して配向されることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
各前記電極の前記面が、非常に高い誘電率を有する誘電体コーティングによって前記AC電圧ソースから絶縁されていることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項1】
患者の標的領域の内部に位置する寄生生物の増殖を選択的に破壊もしくは阻害する方法であって、
治療的に有効な投与量が前記標的領域に到達するように、前記寄生生物を対象とする治療薬を前記患者に投与する工程と、
前記治療的に有効な投与量が前記標的領域に存在する状態で、前記患者の前記標的領域にAC電界を容量結合する工程と、
前記寄生生物の治療的に有意な部分が死滅するまで、前記結合工程を繰り返す工程とを備え、
前記電界が前記寄生生物の脆弱性に対応する周波数特性を有し、前記電界が前記寄生生物の有意な部分を損傷もしくは崩壊させるのに十分な強度であり、前記電界が前記標的領域の内部に位置する非分裂細胞を実質的に無傷のまま残す
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電界の周波数が約10MHzであり、前記標的領域の少なくとも一部における前記電界の強度が0.5V/cmと10V/cmとの間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電界の強度が約2V/cmであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電界が、第1の時間間隔の間は第1の配向を有し、第2の時間間隔の間は第2の配向を有し、前記第1の時間間隔及び前記第2の時間間隔の少なくとも一部が互いに重ならないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の配向が前記第2の配向に略垂直であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の時間間隔が約300ミリ秒であり、前記第2の時間間隔が約300ミリ秒であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
標的領域の内部に位置する寄生生物の増殖を選択的に破壊もしくは阻害する方法であって、
前記標的領域にAC電界を容量結合する工程と、
前記寄生生物の治療的に有意な部分が死滅するまで前記結合工程を繰り返す工程とを備え、
前記電界の周波数が約10MHzであり、前記標的領域の少なくとも一部における前記電界の強度が0.5V/cmと10V/cmとの間であり、前記電界が前記寄生生物の脆弱性に対応する周波数特性を有し、前記電界が前記寄生生物の有意な部分を損傷もしくは崩壊させるのに十分な強度であり、前記電界が前記標的領域の内部に位置する非分裂細胞を実質的に無傷のまま残すことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記電界の強度が約2V/cmであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電界が、第1の時間間隔の間は第1の配向を有し、第2の時間間隔の間は第2の配向を有し、前記第1の時間間隔及び前記第2の時間間隔の少なくとも一部が互いに重ならないことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の配向が前記第2の配向に略垂直であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の時間間隔が約300ミリ秒であり、前記第2の時間間隔が約300ミリ秒であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
治療薬の治療的に有効な投与量が前記標的領域に存在するよう、前記結合工程を実行しながら前記治療薬を前記標的領域へと送達する工程をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項13】
患者の標的領域の内部に位置する寄生生物の増殖を選択的に破壊もしくは阻害する装置であって、
第1の対の絶縁電極であって、各電極が前記患者の身体への電界の容量結合を促進するべく構成された面を有する第1の対の絶縁電極と、
前記電極に動作可能に接続されたAC電圧ソースと、
を備え、
前記AC電圧ソース及び前記電極が、前記電極が前記患者の身体に対して設置され、前記AC電圧ソースが活性化されたとき、AC電界が前記電極を介して前記患者の前記標的領域へと容量結合されるように構成され、
前記電界の周波数が約10MHzであり、前記標的領域の少なくとも一部における前記電界の強度が0.5V/cmと10V/cmとの間であり、かけられた前記電界が前記寄生生物の脆弱性に対応する周波数特性を有し、前記電界が前記寄生生物の有意な部分を損傷もしくは崩壊させるのに十分な強度であり、前記電界が前記標的領域の内部に位置する非分裂細胞を実質的に無傷のまま残すことを特徴とする装置。
【請求項14】
前記電界の強度が約2V/cmであることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
各前記電極の前記面が、非常に高い誘電率を有する誘電体コーティングによって前記AC電圧ソースから絶縁されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項16】
第2の対の絶縁電極であって、それぞれが前記患者の身体への電界の容量結合を促進するべく構成された面を有する第2の対の絶縁電極と、
(a)前記第1の対の電極、又は(b)前記第2の対の電極に前記AC電圧ソースの出力を交互に印加するスイッチング機構と
を更に備えることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項17】
AC電圧が前記第1の対の電極に印加されたときに前記患者へと結合される電界が、AC電圧が前記第2の対の電極に印加されたときに前記患者へと結合される電界に対して略垂直となるように前記第1の対の電極が前記第2の対の電極に対して配向されることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
各前記電極の前記面が、非常に高い誘電率を有する誘電体コーティングによって前記AC電圧ソースから絶縁されていることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図27C】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図30A】
【図30B】
【図31A】
【図31B】
【図32A】
【図32B】
【図32C】
【図33】
【図34】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図27C】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図30A】
【図30B】
【図31A】
【図31B】
【図32A】
【図32B】
【図32C】
【図33】
【図34】
【公表番号】特表2010−536406(P2010−536406A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520642(P2010−520642)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002134
【国際公開番号】WO2009/022225
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(510040019)ノボキュア リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002134
【国際公開番号】WO2009/022225
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(510040019)ノボキュア リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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