説明

電界放出型光源

【課題】発光強度が経時的に劣化しにくいFELを提供すること。
【解決手段】少なくとも一方の端面に開口を有する円筒形状の真空封止容器と、上記真空封止容器の内壁面に配設されたアノード電極と、上記アノード電極上、又は、上記真空封止容器の内壁面と上記アノード電極の間に形成された蛍光体層と、上記真空封止容器の中心軸に沿って配設され、ワイヤ形状を有する基板の表面にナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜からなる電子放出膜が形成されてなるカソード電極と、上記開口を封止するステムとを有することを特徴とする電界放出型光源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型光源に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、照明や表示に使用可能な電界放出型光源(Field Emission Light:以下FELという)の研究が進められている。
FELは、真空蛍光ディスプレイ(Vacuum Fluorescent Display)やブラウン管(Cathode Ray Tube)と同じく、電子線照射によって励起された蛍光体の発光、すなわちカソードルミネセンスを利用するものであるが、電子放出源としてフィラメントではなく、量子的な効果で電子放出を行う電界電子放出素子を使用することに特徴がある。
【0003】
一般的なFELには、ガラスなどの可視光に対して透過性のある材料で形成された真空封止容器内の一部に、透明導電膜などにより電気導電性を付加された蛍光体層を形成し、その蛍光体層に、真空封止容器内部に配置された電子放出源からの電子を照射することで蛍光体を発光させ、この光を蛍光体塗布面のガラスを通して外部に取り出すことで発光を得る構造のものがある。以下、このような構造のFELを透過光利用型FELと呼ぶ。
【0004】
また、FELとして、蛍光体層を金属などで形成された電極上に形成し、この蛍光体層に電子線照射することで得られる発光を、真空封止容器の蛍光体層以外の部分に設けられた光を取り出すための窓(フェイスガラス)を通して、光を外部に取り出す構造のものがある。以下このような構造をもつFELを電子照射面発光利用型FELと呼ぶ。
【0005】
特許文献1には、電子照射面発光利用型FELの一例が開示されている。
特許文献1には、管壁の一部に透光性の光取り出し部が形成され、内部が密閉された透光性容器と、上記管壁の上記光取り出し部を除く側壁部分に形成された反射層を兼ねたアノード層と、このアノード層に積層されて形成された蛍光体層と、上記透光性容器内に配置され上記蛍光体層の面に対して電子を放出する電子放出源を有するカソードとを具え、上記電子放出源は、給電部の表面に植設された柱状炭素繊維により形成されていることを特徴とする電界放出型光源が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−236721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、給電部の表面に植設された柱状炭素繊維として、グラファイトナノファイバーやカーボンナノチューブ等の柱状グラファイトが用いられているが、これらの材料を用いて得られたFELは、発光強度が経時的に劣化する点で問題があった。
そこで、本発明は、発光強度が経時的に劣化しにくいFELを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電界放出型光源は、少なくとも一方の端面に開口を有する円筒形状の真空封止容器と、上記真空封止容器の内壁面に配設されたアノード電極と、上記アノード電極上、又は、上記真空封止容器の内壁面と上記アノード電極の間に形成された蛍光体層と、上記真空封止容器の中心軸に沿って配設され、ワイヤ形状を有する基板の表面にナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜からなる電子放出膜が形成されてなるカソード電極と、上記開口を封止するステムとを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の電界放出型光源は、電子放出膜としてナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜を用いている。
ナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜からの電子放出特性は、10−5Pa台の圧力で長期間に渡って安定している。そのため、ナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜からなる電子放出膜が形成されてなるカソード電極を用いたFELとすることによって、発光強度が経時的に劣化しにくいFELとすることができる。
【0010】
本発明の電界放出型光源では、真空封止容器内の真空度が4×10−5Pa以下であることが望ましい。真空封止容器内の真空度が上記範囲内であると、電子線放出時の、電界電子放出素子へのイオンボンバードメントが少なくなり、電子放出膜の寿命が長くなる。また、真空封止容器内の圧力が低いほど、真空封止容器内に蛍光体材料と反応しうる励起されたガス分子が少なくなるため、蛍光体の寿命が長くなる。
そのため、真空封止容器内の真空度を上記範囲内とすることによって発光強度の経時的な劣化をより抑制することができる。
【0011】
本発明の電界放出型光源では、上記真空封止容器の外周面上に、上記蛍光体層が形成された部位に対応する部位に配設された放熱部材をさらに備えることが望ましい。
この部位に放熱部材が配設されていると、蛍光体層に電子が衝突することによって生じた熱は、蛍光体層からアノード電極、円筒形真空封止容器を経て、放熱部材に伝わり、放熱部材から速やかに放熱される。そのため、蛍光体層の温度が上昇することが防止される。
蛍光体は基本的に温度が高くなるほど発光効率が減少するため、放熱部材を設けて蛍光体層の温度の上昇を防止することによって、発光強度の経時的な劣化をより効果的に抑制することができる。
その結果、高い発光効率での発光が継続的に可能となる。
【0012】
本発明の電界放出型光源では、パルス電流を供給する電源装置をさらに備えることが望ましい。
パルス電流を供給するようにすると、瞬間的に高い密度で電子放出が行われる。このため、電子放出素子面上の局所的な電子放出特性にばらつきがあっても、蛍光体への平均電子照射量を低く維持したまま、電子放出されない部分をより少なくすることができる。これにより、蛍光体層における電子照射密度を均一化させ、蛍光体層における均一な発光面が得られやすくなる。
一方、直流電流を供給すると、電子放出量が電子放出素子の面積に対して小さい場合、電子放出しやすい部分からのみ電子放出が行われ、電子放出素子面上で電子放出に寄与しない部分が多くなり、蛍光体層に電子照射されない部分をつくる原因となる。
【0013】
本発明の電界放出型光源において、上記蛍光体層は、P15蛍光体(ZnO:Zn)、P22蛍光体(青:ZnS:Ag、Cl、ZnS:Ag、Al、緑:ZnS:Cu、Al、ZnS:Cu、Au、Al、赤:YS:Eu3+)、P53蛍光体(YAl12:Tb3+)及びP56蛍光体(Y:Eu3+)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
【0014】
本発明の電界放出型光源において、上記ワイヤ形状を有する基板の材質は、黒鉛を含有する導電性セラミックスであることが望ましい。
黒鉛を含有する導電性セラミックスは、ナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜との熱膨張係数が近いため、電子放出膜の剥離が生じにくいため好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電界放出型光源では、発光強度が経時的に劣化しにくいFELを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、本発明の電界放出型光源の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図1(a)のA−A線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)は、ND膜の成膜時間を1時間で固定し、CNW膜の成膜時間を変化させた場合の閾値電界強度の変化を示すグラフであり、図2(b)は、CNW膜の成膜時間を2時間で固定し、ND膜の成膜時間を変化させた場合の閾値電界強度の変化を示すグラフである。
【図3】図3は、ND/CNW膜からの電子放出特性の耐久試験の結果を示すグラフである。
【図4】図4(a)は、本発明の電界放出型光源の別の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図4(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図4(a)のB−B線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の電界放出型光源の別の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
以下、本発明の電界放出型光源の一実施形態である第一実施形態について、図面を用いて説明する。図1(a)は、本発明の電界放出型光源の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図1(a)のA−A線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0018】
図1(a)に示す電界放出型光源1は、内部を真空に封止する真空封止容器10と、真空封止容器10内に配設されたカソード電極11と、カソード電極11の表面の一部に形成された電子放出膜12と、真空封止容器の内壁面の一部に配設されたアノード電極14と、アノード電極14上に形成された蛍光体層13とを備えており、さらに、真空封止容器11の外周面上には、放熱フィン15dを備えた金属シート15が配設されている。放熱フィン15dを備えた金属シート15は、放熱部材である。
【0019】
真空封止容器10は、少なくとも一方の端面に開口を有する円筒形状であり、可視光に対して高い透過率を持つガラスで形成されている。
図1(b)には両端に開口を有する円筒形状の真空封止容器を示している。
真空封止容器の開口は、電流導入端子を備えるステム16a及びステム16bにより封止されている。ステム16bは排気管17を備えており、排気管17を通じて真空封止容器内を真空引きすることができる。
真空封止容器内の真空度は、4×10−5Pa以下となっている。真空封止容器内の真空度が高い(圧力が低い)ほうが、FELとしての好ましい特性を発揮することができるため好ましい。
真空封止容器内の圧力を低くするための方法については後述する。
【0020】
真空封止容器10を構成するガラスの厚さは特に限定されるものではないが、放熱性を高める観点からは薄い方が好ましく、強度の観点からは厚いほうが好ましい。ガラスの厚さの好ましい範囲は0.5〜1.0mmである。
真空封止容器の内径は特に限定されるものではないが、35〜45mmであるものを好適に使用することができる。
【0021】
カソード電極11は、真空封止容器10の中心に配設された電極である。
カソード電極の種類、形状は特に限定されるものではなく、FELのカソード電極として用いられる電極を用いることができる。カソード電極の形状の例としては、円柱形状、多角柱形状、平板形状等が挙げられる。
図1(a)に示すカソード電極11は、真空封止容器10の内径よりもカソード電極11の外径が小さい、いわゆるワイヤ形状の電極である。
カソード電極は、直径0.5〜2.0mmの円柱形状の電極であることが好ましく、特に直径0.9mmのものを好適に使用することができる。
ワイヤ電極は、平行平板形の電極と比較して、電極表面に高い電界強度を発生させることができるため有利である。
【0022】
カソード電極11の表面には、電子を放出する部位である電子放出膜12が形成されている。電子放出膜12は、ワイヤ形状の基板の表面にナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜(以下、ND/CNW膜ともいう)を形成させたものである。
電子放出膜12は、蛍光体層13に対向する部位、図1(a)における下側にのみ形成されている。
【0023】
図1(b)に示されるように、カソード電極11は、給電部18によって支持されている。給電部18は、導電性を有する金属から構成されている。
カソード電極11の先端部のうち、給電部18によって支持されていない側の先端部は、キャップ部19によって固定されている。キャップ部19は、カソード電極11の端部に生じる電界集中を抑制し、キャップ部19の近傍の電界強度を均一化する機能を有する。
給電部18はステム16aに、キャップ部19はステム16bにそれぞれ固定されている。
【0024】
図1(b)に示すように、電源装置20の一端は、ステム16aの電流導入端子を通して給電部18に接続され、電源装置20の他端は、ステム16bの電流導入端子を通してアノード電極14に接続されている。
電源装置20はパルス電流をカソード電極11とアノード電極14の間に供給する。
【0025】
カソード電極の電子放出特性を表す指標として、カソード電極からの1mA/cmの電子放出密度をもたらす電界強度である、閾値電界強度という指標がある。
カソード電極の閾値電界強度は、真空封止容器の形状及びカソード電極の径に応じて適当な値となるように調整される。
真空封止容器の形状が内径35〜45mmの円筒形状である場合に、閾値電界強度は、カソード電極の直径が0.9mmのときに2.5V/μm、カソード電極の直径が2.0mmのときに2.0V/μmであることが望ましい。
【0026】
閾値電界強度は、CNW膜、ND膜の成膜時間を調整することによって調整することができる。
図2(a)は、ND膜の成膜時間を1時間で固定し、CNW膜の成膜時間を変化させた場合の閾値電界強度の変化を示すグラフである。
図2(b)は、CNW膜の成膜時間を2時間で固定し、ND膜の成膜時間を変化させた場合の閾値電界強度の変化を示すグラフである。
図2(a)及び図2(b)に示すグラフにおける成膜条件は、以下の通りである。
成膜装置:直流プラズマCVD装置
電極直径:φ65mm
電極間距離:60mm
導入ガス:Hを500sccm、CHを50sccm
チャンバー内圧力:8kPa
投入電流:6.5A(電流制御)
CNW膜成膜温度:965〜1100℃
ND膜成膜温度:930℃
【0027】
電子放出膜としてND/CNW層を用いた場合、図2(a)及び図2(b)に示すように成膜時間の調整により閾値電界強度を調整することができる。
そのため、電子放出膜としてND/CNW層を用いると、真空封止容器の形状及びカソード電極の径に応じて好ましい電子放出特性を有するFELを設計することができる。
【0028】
アノード電極14は、金属膜、又は、金属酸化物膜からなり、真空封止容器の内壁面の一部、具体的には、円筒の下半分以下の部位に形成されている。
アノード電極を構成する金属膜の種類としては、アルミニウム膜、炭素膜等が挙げられる。
金属酸化物膜の種類としては、SnO、In等が挙げられる。
これらの金属膜、金属酸化物膜は、蒸着法、スパッタ法等の方法を材料に応じて選択することによって好適に形成することができる。
また、真空封止容器の径が小さい場合などは、蒸着法、スパッタ法等の方法に代えてゾルゲル法や無電解めっき法を適用することもできる。
【0029】
蛍光体層13としては、例えば、P15蛍光体(ZnO:Zn)、P22蛍光体(青:ZnS:Ag,Cl、ZnS:Ag,Al、緑:ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、赤:YS:Eu3+)、P53蛍光体(YAl12:Tb3+)、P56蛍光体(Y:Eu3+)等を用いることができる。その他、電子線照射により発光する蛍光体であればその種類は特に限定されるものではない。
この中では耐久性の観点からP53及びP56蛍光体を用いることが特に好ましい。
【0030】
また、蛍光体層13の表面には、透明保護膜が形成されていてもよい。
透明保護膜は、蛍光体層13の電子線照射による劣化を抑制するもので、透明でかつ高い電気伝導度をもつ酸化スズ・インジウム、酸化亜鉛、又は酸化スズのいずれかの材料で構成されている。これらの材料を100〜200nm厚で蛍光体層13上に付着させることで、カソード電極11から放出された電子が、蛍光体層13に到達するとともに、蛍光体層13で発光した光を遮蔽なしに取り出すことが可能になる。又、蛍光体層13における蛍光体の劣化速度を大幅に低減できる。
【0031】
放熱部材である金属シート15は、蛍光体層が形成された部位に対応する部位に配設されている。「蛍光体層が形成された部位に対応する部位に配設されている」とは、真空封止容器を介して、蛍光体層の位置の裏側に放熱部材が配設されるという意味であるが、蛍光体層からの発熱を放熱することができる限りにおいて、蛍光体層が形成された部位に対向する部位の大部分に放熱部材が配設されていれば充分であることを意味している。
すなわち、蛍光体層が形成された部位に対向する部位の全てに放熱部材が配設されることを必須とするものではない。
【0032】
金属シート15は、熱伝導率が高い金属材料からなる金属シートである。金属シート15が放熱フィン15dを備えていると、その表面積が高くなるため、大気への放熱特性に特に優れることとなる。
放熱フィン15dは、金属シートと同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。同じ材料とした場合は、金属シートとの境界なく連続的に形成されたものであってもよい。
また、金属シートは、その熱伝導率が高いほうが望ましく、例えば、熱伝導率が10〜1000W/mKであることが望ましく、230〜400W/mKであることがより望ましい。熱伝導率が高いと、蛍光体からの熱を好適に放熱させることができるため、好ましい。
熱伝導率が高い金属材料として、アルミニウム、銅等が挙げられる。
【0033】
金属シートは柔軟性に富むため、真空封止容器の外周面(ガラス管壁)に密着させることが可能であり、真空封止容器との間に熱伝導を阻害する非接触な部位を生じさせないという利点を有する。
また、放熱フィンを備える金属シートに代えて、金属シートを筐体などのヒートシンクへ接触させたものを放熱部材として使用することもできる。
【0034】
また、金属シートは、可視光反射率が90%以上であるアルミニウム膜であることが特に望ましい。反射率が高いと、アノード電極として金属酸化物膜のような透明な膜を使用した場合に、真空封止容器を経て放熱部材側に放出された光を反射して真空封止容器側に戻し、反対側から光を放出することができるため、光の取り出し効率を高くすることができる。
このような、反射率の高い材料からなる金属シートは、反射層としても機能する。
【0035】
金属シート15は、真空封止容器の外周面上に、シリコーン樹脂(図示せず)を用いて接着されていることが好ましい。このような、シリコーン樹脂は、熱伝導率が高いため、蛍光体層からの発熱が効率的に金属シートに伝わる。
放熱部材の接着に用いるシリコーン樹脂の熱伝導率は、高いほうが望ましく、例えば、0.1〜100W/mKであることが望ましく、0.5〜15W/mKであることがより望ましい。
【0036】
上記構造の電界放出型光源1では、カソード電極11の電子放出膜12から放出された電子線は、蛍光体層13に向かい、蛍光体層13に衝突して蛍光体が発光する。
蛍光体からの発光は蛍光体層と反対側(図1(a)の上側)から、真空封止容器を介して外部に取り出される。
蛍光体からの発光のうち、図1(a)の下側に向かった光子は、アノード電極14がアルミニウム膜のような可視光反射率の高い膜からなる場合は、アノード電極14で反射して上側に向かう。従って、このような光子も蛍光体層13と反対側(図1(a)の上側)から、真空封止容器10を介して外部に取り出される。
また、アノード電極14が金属酸化物膜のような透明な膜からなる場合は、アノード電極14、真空封止容器10を通過して、反射率の高い放熱部材15で反射して上側に向かう。従って、このような光子も蛍光体層と反対側(図1(a)の上側)から、真空封止容器10を介して外部に取り出される。
そして、このような発光過程において発生した熱は放熱部材15から速やかに放熱されるため、蛍光体層13の温度は低い状態で保たれる。
このような電界放出型光源では、高い発光効率での発光が継続的に可能となる。
【0037】
本実施形態の電界放出型光源は、発光強度が長期間に渡って劣化しないFELとして使用することができる。
図3は、ND/CNW膜からの電子放出特性の耐久試験の結果を示すグラフである。
図3に示す実験は、入力電力8.3W(1.5mA×5.5kV、電流値を一定に制御)とし、真空度3〜4×10−5Pa、電子放出面積(Emission area)1cmの条件で電子放出を行っており、電子放出(mA)を右軸(Emissionと表記)、電圧(kV)を左軸(Voltageと表記)に示し、経過時間(hours)を横軸に示している。
この結果から、電子放出開始から1700時間経過後であっても電子放出特性が1.5mA/cm付近で安定していることがわかる。
ここには示していないが、入力電力9.0W(1.0mA×9.0kV、電流値を一定に制御)で耐久性試験を行った、カーボンナノチューブ膜からの電子放出特性を測定した。
電流値を一定に制御するように出力を設定していたが、測定開始後すぐに電圧が上昇して電源の出力電圧の最大値に到達し、それ以降は電子放出量が低下してゆき、150時間経過時には0.4mAにまで低下していた。
【0038】
以下、本実施形態の電界放出型光源の製造方法について説明する。
【0039】
(1)カソード電極の作製
ワイヤ形状の基板上にND/CNW層からなる電子放出膜を形成して、カソード電極を作製する。
電子放出膜の形成方法としては、特に限定されず、DCプラズマCVD法、熱CVD法、スパッタ法等の方法を適宜採用することができるが、DCプラズマCVD法を用いることが好ましい。
【0040】
(2)アノード電極及び蛍光体層の作製
少なくとも一方の端面に開口を有する円筒形状の真空封止容器の内壁面上に、金属膜、又は、金属酸化物膜からなるアノード電極を形成する。これらの金属膜、金属酸化物膜は、蒸着法、スパッタ法等の方法を材料に応じて選択することによって好適に形成することができる。
その後、金属膜、又は、金属酸化物膜の上に蛍光体を塗布することにより、蛍光体層を形成する。
【0041】
(3)組み立て前エージング
上記(1)の工程で作製したカソード電極と、上記(2)の工程で金属膜(金属酸化物膜)及び蛍光体層を形成した円筒形状の真空封止容器とを、真空チャンバー内に導入する。
この状態で、真空ポンプを介して真空チャンバー内を排気する。
また、カソード電極とアノード電極のそれぞれに電流導入端子を介して導線を接続する。
そして、カソード電極とアノード電極との間に電圧を印加する。印加する電圧は、パルス電圧であることが望ましいが、直流電圧であってもよい。
この組み立て前エージング処理により、電子放出膜や蛍光体層からの脱ガスが促進される。特に、FELの組み立て後に蛍光体層から放出される脱ガスの量を減らすことができるため、真空度の高いFELを製造することができる。
【0042】
(4)組み立て
上記(3)の工程においてエージング処理を行った後、真空封止容器の開口にステムを低融点フリットガラス等により接着固定することにより、真空封止容器を組み立てる。
【0043】
(5)組み立て後エージング
上記(4)の工程において真空封止容器を組み立てた後、排気管を通して真空封止容器内の排気を行いながら、電圧を印加することにより、エージングを行う。
【0044】
その後、真空封止を行うことにより、FELを製造する。
なお、上記(4)の工程において真空封止容器を組み立てた後、上記(5)におけるエージングの工程を経ることなく、FELを製造してもよいが、上記(5)におけるエージングの工程を経るのが望ましい。一度大気に曝した部材には大気中のガスが吸着するところ、上記(5)の工程を経ることにより、当該ガスを取り除くことができるからである。そのようにして吸着したガスは、電子放出素子や蛍光体層に最初から含まれるガスとは異なり、比較的簡単に放出させることができる。
なお、上記(5)の工程とともに、又は、上記(5)の工程に代えて、真空封止容器を加熱するベーキング工程を経ることとしてもよい。
【0045】
また、放熱部材を設ける場合は、真空封止後に真空封止容器の外周面上、蛍光体層が形成された部位に対向する部位に、放熱部材となる金属シートをシリコーン樹脂等の接着剤を用いて接着する。
金属シートには予め放熱フィンを設けておくことが好ましい。
【0046】
(第二実施形態)
以下、本発明の電界放出型光源の一実施形態である第二実施形態について、図面を用いて説明する。図4(a)は、本発明の電界放出型光源の別の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図であり、図4(b)は、真空封止容器の中心軸と平行な面(図4(a)のB−B線断面)で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0047】
図4(a)及び図4(b)に示す電界放出型光源2は、放熱部材の構造が異なる他は第一実施形態で説明した電界放出型光源1と同様の構成を有している。
電界放出型光源2では、放熱部材は金属製の放熱ブロック15bであり、放熱ブロック15bには、真空封止容器の形状に対応する形状の凹みが設けられている。上記凹みは、蛍光体層が形成された部位に対向する部位を覆うようになっている。
【0048】
放熱ブロック15bは、第一実施形態の放熱部材である金属シート15と同様に可視光に対して反射率が高く、かつ、熱伝導率が高い金属材料であることが望ましく、放熱部材として機能するとともに、反射層としても機能することができる。具体的な材料としては、純アルミ、アルミニウム合金、純銅、銅合金等が挙げられる。この中では、アルミニウム合金であるシルミン又はジュラルミンであることが好ましい。シルミンは鋳造性に優れ、ジュラルミンは強度、加工性に優れるためである。
放熱ブロック15bは、その熱伝導率が高いほうが望ましく、例えば、熱伝導率が10〜1000W/mKであることが望ましく、230〜400W/mKであることがより望ましい。
電界放出型光源2では、電界放出型光源2を構成する部品であるステム16a、ステム16b、排気管17が放熱ブロック15bに収納されている。これらの部品は脆弱な部品である場合があるのでこれらの部品を放熱ブロック15bに収納させることによって、これらの部品の破損を防止することができる。
【0049】
放熱ブロック15bを真空封止容器に配設する方法は特に限定されるものではない。
図4(a)及び図4(b)に示す電界放出型光源2では、放熱ブロック15bは真空封止容器10に機械的に固定されている。
その他の配設方法として、真空封止容器10と放熱ブロック15bの間をペースト材料で接着する方法も挙げられる。ペースト材料は、その熱伝導率が高い材料を有機樹脂に配合した導電性ペーストであることが望ましい。
ペースト材料の熱伝導率は、高いほうが望ましく、例えば、0.1〜200W/mK以上であることが望ましく、1〜120W/mK以上であることがより望ましい。
なお、第一実施形態では、真空封止容器と放熱部材を接着する材料としてシリコーン樹脂を挙げたが、第二実施形態においてシリコーン樹脂を用いても良いし、第一実施形態において上記ペースト材料を用いてもよい。
【0050】
(第三実施形態)
以下、本発明の電界放出型光源の一実施形態である第三実施形態について、図面を用いて説明する。図5は、本発明の電界放出型光源の別の一例を、真空封止容器の中心軸と垂直な面で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0051】
図5に示す電界放出型光源3は、カソード電極の形状が異なり、蛍光体層及びアノード電極が形成された部位が異なる他は第一実施形態で説明した電界放出型光源1と同様の構成を有している。
【0052】
本実施形態の電界放出型光源3は、透過光利用型FELであり、内部を真空に封止する真空封止容器10と、電子放出膜12を備えたカソード電極11と、真空封止容器10の内壁面に形成された蛍光体層13と、蛍光体層13上に形成されたアノード電極14とを備えている。
【0053】
電子放出膜12から放出された電子はアノード−カソード電極間に印加された電圧によって加速された後、アノード電極14に入射する。高い運動エネルギーをもつ電子は薄膜によって形成されているアノード電極14を貫通し、蛍光体層13に入射される。図5に示すFELは、この蛍光体層13へ入射された電子によって蛍光体を励起発光させ、その光を蛍光体が塗布される真空封止容器10を通して外部に放射させることで照明光を得る構造となっている。
【0054】
図5に示す電界放出型光源3では、蛍光体層が真空封止容器の内周面の全周に渡って形成されている。そのため、カソード電極としては、第一実施形態の電界放出型光源1において形成した電子放出膜12が、カソード電極11の全周に渡って形成されたものを好適に用いることができる。
【0055】
本実施形態の電界放出型光源において放熱部材を設けると、放熱部材を設けた部位からの発光が遮断され、光の取り出し効率が低下する。
そのため、本実施形態の電界放出型光源においては、光の取り出し効率が低下することを許容できる場合を除いては、放熱部材を設けないほうが好ましい。
【0056】
本実施形態の電界放出型光源は、第一実施形態の電界放出型光源の製造方法において、カソード電極上に形成するND/CNW層の位置を変更すること、アノード電極と蛍光体層の形成順序を反対にし、その他の手順は第一実施形態の電界放出型光源の製造方法と同様にすることによって製造することができる。
【符号の説明】
【0057】
1、2、3 電界放出型光源
10 真空封止容器
11 カソード電極
12 電子放出膜
13 蛍光体層
14 アノード電極
15 放熱部材(金属シート)
15b 放熱部材(放熱ブロック)
16a、16b ステム
20 電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の端面に開口を有する円筒形状の真空封止容器と、
前記真空封止容器の内壁面に配設されたアノード電極と、
前記アノード電極上、又は、前記真空封止容器の内壁面と前記アノード電極の間に形成された蛍光体層と、
前記真空封止容器の中心軸に沿って配設され、ワイヤ形状を有する基板の表面にナノダイヤモンド/カーボンナノウォール膜からなる電子放出膜が形成されてなるカソード電極と、
前記開口を封止するステムとを有することを特徴とする電界放出型光源。
【請求項2】
真空封止容器内の真空度が4×10−5Pa以下である請求項1に記載の電界放出型光源。
【請求項3】
前記真空封止容器の外周面上に、前記蛍光体層が形成された部位に対応する部位に配設された放熱部材をさらに備える請求項1又は2に記載の電界放出型光源。
【請求項4】
パルス電流を供給する電源装置をさらに備える請求項1〜3のいずれかに記載の電界放出型光源。
【請求項5】
前記蛍光体層は、P15蛍光体(ZnO:Zn)、P22蛍光体(青:ZnS:Ag、Cl、ZnS:Ag、Al、緑:ZnS:Cu、Al、ZnS:Cu、Au、Al、赤:YS:Eu3+)、P53蛍光体(YAl12:Tb3+)及びP56蛍光体(Y:Eu3+)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の電界放出型光源。
【請求項6】
前記ワイヤ形状を有する基板の材質は、黒鉛を含有する導電性セラミックスである請求項1〜5のいずれかに記載の電界放出型光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142109(P2012−142109A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292436(P2010−292436)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(509033169)高知FEL株式会社 (13)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】