説明

電界放出型電子源装置

【課題】ターゲットに到達する電子ビームの不足による低コントラストな表示画像や残像の多い撮像画像という問題を克服した電界放出型電子源装置を提供する。
【解決手段】電界放出型電子源アレイ10から放出された電子ビームは補助電極8に形成された複数の貫通孔を通過してターゲット3に到達する。補助電極8の複数の貫通孔のそれぞれは、電界放出型電子源アレイ側の開口と、開口から連続した電子ビーム通過行路とを有する。電子ビーム通過行路の少なくとも一部に入射した電子ビームを増倍させる電子増倍層が設けられている。補助電極8のターゲット3側には、2次電子放出係数が小さい材料からなる電子吸収層が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界放出型電子源を用いた電界放出型電子源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体微細加工技術の進展により、半導体などの基板にミクロンオーダーの微細な冷陰極構造を多数集積化する真空マイクロエレクトロニクス技術が注目を集めている。これらの技術によって得られる微小冷陰極構造を備えた電界放出型電子源アレイは、平面型の電子放出特性や高い電流密度が期待できること、熱陰極とは異なりヒーター等の熱源を必要としないこと等から、低消費電力型の次世代フラットディスプレイ用電子源、センサ、平面型撮像装置用電子源として期待が集まっている。
【0003】
このような電界放出型電子源アレイを用いた真空装置としては特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に示される電界放出型電子源表示装置や、特許文献5等に示される電界放出型電子源撮像装置や、特許文献6に示される発光素子等が知られている。
【0004】
一般的にこのような電界放出型電子源アレイを用いた電界放出型電子源装置は、図21に示す様に、前面パネル101と、背面パネル105と、側面外周器104とを備え、これらはフリットガラスやインジウム等の封着材料109により固着固定され、その内部が真空に保持されている。
【0005】
前面パネル101の内面には、例えば外部からの入射光を透過する陽極電極102が形成され、その表面にターゲット103が形成されている。一般にターゲット103は、電界放出型電子源表示装置として使用される場合には3色に発光する蛍光体が規則正しく配列された蛍光体層であり、電界放出型電子源撮像装置として使用される場合には入射光を信号電荷に変換する光電変換膜である。
【0006】
背面パネル105の内面には、複数の冷陰極素子(エミッタ)107と、各冷陰極素子107の周辺に形成された絶縁層及び冷陰極素子107から電子を取り出す為の電圧を印加するゲート電極等からなる周辺素子108とが集積一体化された電界放出型電子源アレイが形成された半導体基板106が設置されている。冷陰極素子107から放出された電子ビームをターゲット103にランディングさせることにより、電界放出型電子源表示装置では蛍光体を発光させて画像を映し出し、電界放出型電子源撮像装置では光電変換膜上に入射光として結像した画像を読み取ることができる。
【0007】
電界放出型電子源としては、一般的に、半導体基板上に、先端が先鋭な冷陰極素子を形成し、その周りに絶縁層及びこの絶縁層上にゲート電極を形成して、冷陰極素子とゲート電極との間に電圧を印加して冷陰極素子の先端から電子放出を行なうスピント(Spindt)型を代表例として挙げることができる。その他には、カソード電極とゲート電極との間に絶縁層を形成し、絶縁層に電圧を印加してトンネル効果により電子放出を行なうMIM(Metal Insulator Metal)型、カソード電極とエミッタ電極との間に微小ギャップを設け、これら電極間に電圧を印加して微小ギャップから電子放出を行なうSCE(Surface Conduction Electron Source)型、あるいは電子源にDLC(Diamond Like Carbon)やCNT(Carbon Nanotube)等の炭素系材料を用いた電界放出型電子源を例として挙げることができる。
【0008】
このような冷陰極を含む電界放出型電子源は、個々の冷陰極素子からの電子放出量が微量であることから、電界放出型電子源表示装置として使用する場合や、電界放出型電子源撮像装置として使用する場合には、複数の電界放出型電子源を一単位とするセル(電子源セル)を形成し、所定の動作を行うのに必要な電流量を確保している。
【0009】
このセルは平面上に、例えばマトリクス状に配置される。詳細には、縦方向に延びた複数のエミッタラインが横方向に等ピッチで配置され、横方向に延びた複数のゲートラインが縦方向に等ピッチで配置され、これら複数のエミッタラインと複数のゲートラインとが交差する各位置にセルが配置される。電界放出型電子源装置の駆動時には、エミッタライン及びゲートラインを順次選択していくことにより、選択されたエミッタラインとゲートラインとが交差する位置のセルから電子ビームが順次放出される。本明細書では、このようにして電子ビームを放出するセルを、以下「指定セル」と呼ぶ。以上により、電界放出型電子源表示装置においては画像を映し出すことができ、電界放出型電子源撮像装置においては結像された画像を読み出すことができる。
【0010】
電界放出型電子源では、冷陰極素子とゲート電極との間に形成される強電界により電子を電界放出するので、個々の冷陰極素子から電子は所定の広がり(この広がり角度を「発散角」といい、例えばスピント型電界放出型電子源の場合30度程度である)をもって放出される。
【0011】
このような電界放出型電子源を用いる真空装置においては、図21で示した様に、電界放出型電子源アレイを真空容器の背面パネル105上に設置し、電界放出型電子源アレイからの電子ビームをランディングさせて所定の動作を行なうターゲット103を前面パネル101上に形成するのが一般的である。ここで、電界放出型電子源アレイからターゲット103までの距離は、それらが設けられた背面パネル105と前面パネル101との距離によって一意的に決定される。
【0012】
即ち、このような従来の電界放出型電子源装置においては、背面パネル105上に設置された電界放出型電子源アレイと前面パネル101上に形成されたターゲット103との距離は、前面パネル101及び背面パネル105と側面外周器104との接合部分の精度によって、理想的な設計距離に対して大きく変化する。
【0013】
例えば、前面パネル101及び背面パネル105と側面外周器104との接合がフリットガラスを用いて行われる場合には、フリットガラスの供給量のバラツキや、400℃程度で焼成し溶着させる過程で発生するシュリンクなどが、背面パネル105上に設置された電界放出型電子源アレイと前面パネル101上に形成されたターゲット103との距離のバラツキを生じさせる。
【0014】
また、前面パネル101及び背面パネル105と側面外周器104との接合がインジウムのような柔らかい金属を用いた低温封着にて行なわれる場合には、封着の際にインジウムを前面パネル101と側面外周器104との間、及び側面外周器104と背面パネル105との間で潰すために、インジウムの供給量やつぶし量のバラツキが、背面パネル105上に設置された電界放出型電子源アレイと前面パネル101上に形成されたターゲット103との距離のバラツキを生じさせる。
【0015】
電界放出型電子源アレイとターゲット103との間の距離のバラツキは数百ミクロン〜数ミリの程度になる。
【0016】
このように、従来の電界放出型電子源装置においては、背面パネル105上に設置された電界放出型電子源アレイと前面パネル101上に形成されたターゲット103との距離を高精度に管理することは困難である。そして、個々の冷陰極素子からは30度程度の発散角で電子が放出される。従って、電界放出型電子源アレイとターゲット103との距離のバラツキは、電子ビームがターゲット103上に形成する電子ビームスポットの拡がり具合
(即ち、スポット径)のバラツキを生じさせる。これは均一な画像が求められる電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置にとって非常に不都合な問題である。
【0017】
また、高精細な電界放出型電子源表示装置や高精細な電界放出型電子源撮像装置を実現するためには、電界放出型電子源アレイ上のセルのサイズを十分小さくする必要がある。この場合には、電界放出型電子源アレイとターゲット103との距離も十分に小さくする必要があり、更にその誤差を例えば数十ミクロン程度以下に管理する必要がある。ところが、従来の電界放出型電子源装置では、電界放出型電子源アレイとターゲット103との距離に数百ミクロン〜数ミリ程度のバラツキを有する可能性があるから、高精細な電界放出型電子源表示装置や高精細な電界放出型電子源撮像装置を実現することは困難である。
【0018】
また、従来の電界放出型電子源装置においては、真空容器内を真空にした場合、前面パネル101が外気圧によって加圧されて湾曲する。前面パネル101の内面にはターゲット103が形成されているので、前面パネル101の湾曲により、電界放出型電子源アレイからの距離がターゲット103の中央部と周辺部とで異なることになり、この結果、ターゲット103上に形成される電子ビームスポット径がターゲット103の中央部と周辺部とで異なることになる。
【0019】
この結果、電界放出型電子源表示装置として使用する場合には画面中央と画面周辺とで表示される画質の差が発生し、電界放出型電子源撮像装置として使用する場合には画面中央と画面周辺とで撮像される画質に差が発生する。
【0020】
図21とは異なり、電界放出型電子源アレイとターゲットとの間にシールドグリッド電極を設けた電界放出型電子源アレイを用いた真空装置が特許文献1及び特許文献5に示されている。
【0021】
図22に特許文献5に示された、電界放出型電子源撮像装置として使用される電界放出型電子源装置の断面図を示す。
【0022】
真空容器118は、透光性の前面パネル115と、背面パネル117と、メッシュ状のシールドグリッド電極120を保持するスペーサー部を兼用した側面外周器116とを備え、これらはフリットガラスからなる封着材料133及びインジウムからなる封着材料119により固着固定され、その内部が真空に保持されている。
【0023】
前面パネル115の内面には、外部からの入射光111を透過する陽極電極113と、その表面に形成された光電変換膜112とからなる光電変換ターゲット114が形成されている。
【0024】
背面パネル117の内面には、冷陰極素子124と、冷陰極素子124に電位を供給する陰極導体125と、冷陰極素子124の周囲を囲むように陰極導体125上に形成された絶縁層126と、絶縁層126上に冷陰極素子124の周囲を囲むように配置されたゲート電極128とからなる電界放出型電子源アレイ129が形成されている。
【0025】
光電変換ターゲット114と電界放出型電子源アレイ129との間に、シールドグリッド電極120が配置されている。シールドグリッド電極120には、ゲート電極128に印加される電圧よりも高い電圧が印加されている。
【0026】
シールドグリッド電極120は複数の貫通孔120aを備える。
【0027】
冷陰極素子124の先端からは、約30度の発散角で電子ビームが放出される。この電子ビームのうち、ほぼ真上に向かって放出された電子ビームのみがシールドグリッド電極120のこの冷陰極素子124に対応する貫通孔120aを通過して光電変換ターゲット114に到達し、これ以外の斜めに向かって放出された電子ビームはシールドグリッド電極120に吸収されてしまう。
【0028】
特許文献5には、このようにして光電変換ターゲット114に到達する電子ビームの拡がりを小さくすることができるとされている。
【0029】
しかしながら、この電界放出型電子源装置は以下の問題を有する。
【0030】
即ち、シールドグリッド電極120に、電界放出型電子源アレイ129のゲート電極128に印加されるゲート電圧よりも高い電圧が印加されることにより、電界放出型電子源アレイ129からの電子ビームは加速されて光電変換ターゲット114へ導かれる。しかし、電界放出型電子源アレイ129からの電子ビームのほとんどはシールドグリッド電極120に衝突し吸収されてしまい、光電変換ターゲット114へ到達する電子ビームは極めて微量である。
【0031】
光電変換ターゲット114へ到達する電子ビームの量が少ないと、ターゲットに蛍光体を備えた電界放出型電子源表示装置においては画像の輝度が不足しコントラストが低くなってしまい、ターゲットに光電変換膜を備えた電界放出型電子源撮像装置においては光電変換膜に蓄積された正孔の一部を読み出すことができないために撮像画像に残像が多くなってしまう。
【0032】
この問題を克服するために電界放出型電子源アレイとターゲットとの間に、多数の貫通孔が形成され、且つ電子増倍機能を有するメッシュ状構造体を配置した電界放出型電子源装置が特許文献1(図23参照)及び特許文献7(図24参照)に開示されている。
【0033】
このような電界放出型電子源装置では、電界放出型電子源アレイから放射された電子ビームのほとんどは、電子増倍機能を有するメッシュ状構造体に衝突する。この衝突によって、2次電子放出が起こり、電子が増倍される。増倍された電子はメッシュ状構造体の貫通孔を通過してターゲットに導かれる。従って、ターゲットに到達する電子ビーム量を十分に確保することができる。
【0034】
しかしながら、これらの従来の電界放出型電子源装置は以下のような問題を有している。
【0035】
特許文献1(図23参照)の電界放出型電子源装置では、メッシュ状構造体210の全外周面、即ち、電界放出型電子源アレイ200に対向した面、ターゲット220に対向した面、及びメッシュ状構造体210に形成された貫通孔211の内周壁面に、2次電子増倍機能を有する材料が付与されている。従って、例えば、電界放出型電子源アレイ200からの電子ビームがメッシュ状構造体210の貫通孔211を通過する際に貫通孔211の内周壁面に衝突して発生した2次電子が、ターゲット220へ到達せずにターゲット220に対向した面に衝突すると更に2次電子が放出される。
【0036】
放出されたこの電子の進行方向はまちまちであり、その多くはターゲット220の所望の位置に到達しない。従って、例えば3色の蛍光体が交互に塗布されたターゲット220を備えた電界放出型電子源表示装置においては、電子が所望する蛍光体以外の蛍光体に到達することによって色純度が劣化するという問題が発生する。
【0037】
特許文献7(図24参照)の電界放出型電子源装置では、電子増倍機能を有するメッシュ状構造体310とターゲット320が設けられた前面パネル321との間に絶縁材料からなる仕切板315が設けられている。従って、メッシュ状構造体310に形成された複数の貫通孔311をそれぞれ通過した電子ビームは、互いに混じり合うことなく、ターゲット320上の所望する位置に到達する。従って、上記図23の電界放出型電子源装置が有する上記の問題は発生しない。
【0038】
しかし、図24の電界放出型電子源装置では、電界放出型電子源アレイ300に設けられた複数のセルと、メッシュ状構造体310に形成された複数の貫通孔311と、ターゲット320上の複数の画素とが、一対一に対応する。従って、隣り合う画素間に、メッシュ状構造体310とターゲット320とを繋ぐように仕切板315を形成する必要があり、その製作は非常に複雑で高コストである。
【0039】
また、仕切板315が絶縁材料からなるので、メッシュ状構造体310の貫通孔311を通過した電子ビームが仕切板315に衝突すると、仕切板315の電位が不安定になり、その結果、耐電圧特性が劣化するという問題がある。
【0040】
このように、電子増倍機能を有する構造体を配置した従来の電界放出型電子源装置は種々の問題を有しており、実用化のためには更なる改良が必要である。
【特許文献1】特開平9−270229号公報
【特許文献2】特開平9−69347号公報
【特許文献3】特開平6−111735号公報
【特許文献4】特開2000−251808号公報
【特許文献5】特開2000−48743号公報
【特許文献6】特開2002−313263号公報
【特許文献7】特開2004−227801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
本発明は上記の従来の電界放出型電子源装置が有する問題を解決することを目的とする。
【0042】
即ち、本発明は、ターゲットに到達する電子ビームの不足による低コントラストな表示画像や残像の多い撮像画像という問題を克服した電界放出型電子源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本発明の電界放出型電子源装置は、電界放出型電子源アレイと、前記電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームにより所定の動作を行なうターゲットと、前記電界放出型電子源アレイと前記ターゲットとの間に配置され、前記電界放出型電子源アレイから放出された前記電子ビームが通過する複数の貫通孔が形成された補助電極とを有する。
【0044】
前記複数の貫通孔のそれぞれは、前記電界放出型電子源アレイ側の開口と、前記開口から連続した電子ビーム通過行路とを有する。
【0045】
前記電子ビーム通過行路の少なくとも一部に、入射した電子ビームを増倍させる電子増倍層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、ターゲットに到達する電子ビームの不足による低コントラストな表示画像や残像の多い撮像画像という問題を克服した電界放出型電子源装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の第1の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置は、電界放出型電子源アレイと、前記電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームにより所定の動作を行なうターゲットと、前記電界放出型電子源アレイと前記ターゲットとの間に配置され、前記電界放出型電子源アレイから放出された前記電子ビームが通過する複数の貫通孔が形成された補助電極とを有する。前記複数の貫通孔のそれぞれは、前記電界放出型電子源アレイ側の開口と、前記開口から連続した電子ビーム通過行路とを有する。前記電子ビーム通過行路の少なくとも一部に、入射した電子ビームを増倍させる電子増倍層が設けられている。前記補助電極の前記ターゲット側には、2次電子放出係数が小さい材料からなる電子吸収層が設けられている。
【0048】
かかる第1の好ましい形態では、補助電極の複数の貫通孔の電子ビーム通過行路の少なくとも一部に、入射した電子ビームを増倍させる電子増倍層が設けられている。従って、電界放出型電子源アレイから放出され補助電極に入射した電子ビームは、電子ビーム通過行路の少なくとも一部(例えば、電子ビーム通過行路の中央部分、後半部分、又は全体)に設けられた電子増倍層により2次電子を発生させることにより増倍され、補助電極から出射してターゲットに到達する。
【0049】
これにより、電界放出型電子源表示装置においては、例えばターゲットに備えられた蛍光体の発光強度を増加させることができるので、コントラストを向上することができる。また、電界放出型電子源撮像装置においては、例えばターゲットに備えられた光電変換膜に到達する電子ビーム量が増加するので、残像を少なくすることができる。
【0050】
また、補助電極のターゲット側には、2次電子放出係数が小さい材料からなる電子吸収層が設けられているので、ターゲットへ到達せずに補助電極へ戻ってきた電子は電子吸収層により捕獲される。従って、更に余分な2次電子が発生することはなく、余分な電子がターゲットの所望する位置以外に到達することもない。従って、電界放出型電子源表示装置においては電子が所望する蛍光体以外の蛍光体に到達することによって色純度が劣化することがなく、電界放出型電子源撮像装置においては解像度が劣化することがない。また、図24に示した従来の電界放出型電子源装置のように、補助電極とターゲットとの間に仕切板を設ける必要がない。よって、仕切板の複雑な製作工程が不要となり、コスト上昇を抑えることができる。また、仕切板の電位が不安定になり、その結果、耐電圧特性が劣化するという問題も発生せず、信頼性が向上する。
【0051】
また、ターゲットに到達する電子ビーム量を増大させる必要がない場合には、電界放出型電子源アレイから放出される電子ビーム量を少なくすることができるので、電界放出型電子源アレイのエミッタ電位とゲート電位との電圧差を小さくすることができる。これにより、耐電圧特性が向上し、信頼性の高い電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0052】
本発明の第2の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第1の好ましい形態において、前記電子ビーム通過行路の、前記電子増倍層に対して前記電界放出型電子源アレイ側の少なくとも一部に、所定の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に前記電子ビーム通過行路の側壁で吸収し除去するトリミング層が更に設けられている。
【0053】
かかる第2の好ましい形態によれば、電子増倍層に入射する電子ビームの広がりを小さくすることができる。
【0054】
即ち、電界放出型電子源アレイの指定セルから放出された電子ビームは、所定の広がりを持っている。従って、電子ビームは、この指定セルの真上に位置する補助電極の貫通孔のみならず、この貫通孔の近傍(即ち、この指定セルの斜め上方)に位置する補助電極の貫通孔にも入射する。従って、電子ビーム通過行路の、特に電界放出型電子源アレイに近い領域に電子増倍層が設けられていると、指定セルの斜め上方に位置する貫通孔内においても電子増倍されて、これらの貫通孔からも多数の電子ビームがターゲットに向かって出射されることになる。これにより、ターゲット上に大きな電子ビームスポットが形成されてしまう。この結果、電界放出型電子源表示装置や電界放出型電子源撮像装置の解像度が著しく劣化してしまう。
【0055】
本発明の第2の好ましい形態では、電子ビーム通過行路の、電子増倍層の前段(即ち、電界放出型電子源アレイ側)にトリミング層が更に設けられているので、電子ビームが電子増倍層に到達する前に、電子ビーム通過行路の延設方向と異なる方向に進行する電子ビームをトリミング層で吸収除去することができる。この結果、指定セルの真上に位置する補助電極の貫通孔から出射する電子ビーム量を電子増倍層の作用によって増倍させながら、指定セルの斜め上方に位置する補助電極の貫通孔から出射する電子ビーム量をトリミング層の作用によって抑制することで、大きな電流値を有する電子ビームをターゲットに導き、ターゲット上に小さな電子ビームスポットを形成することができる。
【0056】
本発明の第3の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第2の好ましい形態において、前記電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、前記トリミング層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜している。
【0057】
かかる第3の好ましい形態によれば、より効果的に電子増倍を行なうことができる。
【0058】
即ち、電子増倍層により2次電子増倍を行なうためには電子ビームを電子増倍層の側壁に効率良く衝突させる必要があり、そのためには電子ビームの進行方向を表す速度ベクトルに対して、電子増倍層の側壁が傾斜していることが好ましい。
【0059】
第3の好ましい形態では、電子増倍層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、トリミング層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜しているので、トリミング層を吸収除去されずに通過した電子ビームをほぼ確実に、トリミング層の後段に配された電子増倍層の側壁に衝突させることができる。従って、効率よく電子増倍がなされる。
【0060】
これにより、電界放出型電子源表示装置においては、例えばターゲットに備えられた蛍光体の発光強度をより増加させることができるので、コントラストを一層向上することができる。また、電界放出型電子源撮像装置においては、例えばターゲットに備えられた光電変換膜に到達する電子ビーム量がより増加するので、残像を一層少なくすることができる。
【0061】
また、ターゲットに到達する電子ビーム量を増大させる必要がない場合には、電界放出型電子源アレイから放出される電子ビーム量をより少なくすることができるので、電界放出型電子源アレイのエミッタ電位とゲート電位との電圧差をより小さくすることができる。これにより、耐電圧特性が一層向上し、信頼性の一層高い電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0062】
本発明の第4の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第1の好ましい形態において、前記電子増倍層が、前記電子ビーム通過行路の互いに異なる領域に設けられた第1電子増倍層及び第2電子増倍層を少なくとも含み、前記第1電子増倍層と前記第2電子増倍層とは2次電子増倍係数が互いに異なる材料からなる。
【0063】
かかる第4の好ましい形態によれば、特定方向に進行する電子ビームのみを選択するトリミング作用と電子増倍作用とを適宜組み合わせることにより、ターゲットに到達する電子ビームの拡がり及び電流量の設定が容易になる。
【0064】
一般に、電子増倍層の2次電子放出作用は、電子増倍層の面に対する電子の入射角(電子増倍層の面の法線に対する角度)が大きいほど大きく、入射角が小さいほど小さい。
【0065】
従って、例えば、電子ビーム通過行路において、2次電子増倍係数が小さな第1電子増倍層を電界放出型電子源アレイに近い領域に配置し、2次電子増倍係数が第1電子増倍層より大きな第2電子増倍層を第1電子増倍層よりターゲットに近い領域に配置する。これにより、電子ビームの電流値を比較的大きくすることができ、且つ、ターゲットでの電子ビームのスポット径を小さくすることができる。
【0066】
即ち、電界放出型電子源アレイの指定セルから所定の広がりを持って放出された電子ビームは、この指定セルの真上に位置する補助電極の貫通孔のみならず、この貫通孔の近傍(即ち、この指定セルの斜め上方)に位置する補助電極の貫通孔にも入射する。
【0067】
指定セルの真上に位置する補助電極の貫通孔に入射した電子ビームの電子ビーム通過行路の側壁に対する入射角は、貫通孔の入射側開口の近傍の領域において相対的に大きい。この領域に2次電子増倍係数が相対的に小さな第1電子増倍層が配されていても、電子ビームの入射角が大きいので、多くの2次電子放出が行われ、電子ビーム量が増大する。この電子ビームは電子ビーム通過行路に沿って進行し、第1電子増倍層よりもターゲット側に配された、2次電子増倍係数が相対的に大きな第2電子増倍層の側壁に入射する。このとき、電子ビームの第2電子増倍層の側壁に対する入射角は小さいので、第2電子増倍層が大きな2次電子増倍係数を有することと相俟って、次々に極めて大きな2次電子放出が行われ、電子ビーム量が飛躍的に増大する。
【0068】
一方、指定セルの斜め上方に位置する補助電極の貫通孔に入射した電子ビームの電子ビーム通過行路の側壁に対する入射角は、貫通孔の入射側開口の近傍の領域において相対的に小さい。従って、この領域に2次電子増倍係数が相対的に小さな第1電子増倍層が配されていることと相俟って、2次電子放出はほとんど行われず、電子ビーム量はほとんど変化しない。この電子ビームは電子ビーム通過行路に沿って進行し、第1電子増倍層よりもターゲット側に配された、2次電子増倍係数が相対的に大きな第2電子増倍層の側壁に入射する。このとき、電子ビームの第2電子増倍層の側壁に対する入射角は小さいが、側壁に入射する電子ビーム量が少ないために電子ビーム量の増加も少ない。
【0069】
このようにして、指定セルの真上に位置する補助電極の貫通孔から出射する電子ビーム量のみを増倍させることができる。この結果、大きな電流値を有する電子ビームをターゲットに導き、ターゲット上に小さな電子ビームスポットを形成することができる。
【0070】
上記とは逆に、電子ビーム通過行路において、2次電子増倍係数が大きな第2電子増倍層を電界放出型電子源アレイに近い領域に配置し、2次電子増倍係数が第2電子増倍層より小さな第1電子増倍層を第2電子増倍層よりターゲットに近い領域に配置しても良い。これにより、小さな指定セルから所定の広がりを持って放出された電子ビームを補助電極の複数の貫通孔からそれぞれ出射させて、ターゲット上に大きな電子ビームスポットを形成することができる。しかも、補助電極の複数の貫通孔からそれぞれ出射した電子ビームの進行方向は鉛直方向にほぼ揃えられており、且つ、全体として大きな電流値を有する電子ビームをターゲットに導くことができる。この電界放出型電子源装置は、電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置以外の用途にも利用することが可能である。
【0071】
本発明の第5の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第1の好ましい形態において、前記電子増倍層が、前記電子ビーム通過行路の互いに異なる領域に設けられた第1電子増倍層及び第2電子増倍層を少なくとも含み、前記第1電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、前記第2電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜している。
【0072】
かかる第5の好ましい形態によれば、より効果的に電子増倍を行なうことができる。
【0073】
即ち、電子増倍層により2次電子増倍を行なうためには電子ビームを電子増倍層の側壁に効率良く衝突させる必要があり、そのためには電子ビームの進行方向を表す速度ベクトルに対して、電子増倍層の側壁が傾斜していることが好ましい。
【0074】
第5の好ましい形態では、第1電子増倍層が設けられた電子ビーム通過行路の部分に対して、第2電子増倍層が設けられた電子ビーム通過行路の部分が傾斜しているので、補助電極の貫通孔に入射した電子ビームは、第1電子増倍層の側壁に衝突して2次電子放出により電子ビーム量が増大し、次いで、第1電子増倍層の側壁に対して傾斜した第2電子増倍層の側壁に衝突して2次電子放出により電子ビーム量が爆発的に増大する。従って、効率よく電子増倍がなされる。
【0075】
これにより、電界放出型電子源表示装置においては、例えばターゲットに備えられた蛍光体の発光強度をより増加させることができるので、コントラストを一層向上することができる。また、電界放出型電子源撮像装置においては、例えばターゲットに備えられた光電変換膜に到達する電子ビーム量がより増加するので、残像を一層少なくすることができる。
【0076】
また、ターゲットに到達する電子ビーム量を増大させる必要がない場合には、電界放出型電子源アレイから放出される電子ビーム量をより少なくすることができるので、電界放出型電子源アレイのエミッタ電位とゲート電位との電圧差をより小さくすることができる。これにより、耐電圧特性が一層向上し、信頼性の一層高い電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0077】
本発明の第6の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第2の好ましい形態において、前記電子ビーム通過行路の、前記電子増倍層に対して前記ターゲット側の少なくとも一部に、所定の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に吸収し除去する第2トリミング層が更に設けられている。前記電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、前記第2トリミング層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜している。
【0078】
かかる第6の好ましい形態によれば、電界放出型電子源アレイから放出され貫通孔に入射した電子ビームが電界放出型電子源アレイ側に配された第1トリミング層を通過する際に、その進行方向が第1トリミング層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向と異なる電子ビームが第1トリミング層の側壁に入射して吸収除去される。
【0079】
吸収除去されなかった電子ビームは、次に、第1トリミング層に対してターゲット側に配された電子増倍層を通過する。電子増倍層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向は、第1トリミング層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、傾斜しているので、電子ビームは電子増倍層の側壁に効率よく衝突して2次電子放出が起こり、電子ビーム量が増大する。
【0080】
次に、電子増倍作用を受けた電子ビームは、電子増倍層に対してターゲット側に配された第2トリミング層を通過する。電子ビームのうち、その進行方向が第2トリミング層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向と異なる電子ビームは第2トリミング層の側壁に入射して吸収除去される。
【0081】
かくして、その進行方法が第2トリミング層が設けられた電子ビーム通過行路の部分の延設方向とほぼ平行である電子ビームのみが補助電極の貫通孔から出射する。即ち、その進行方向が揃えられた電子ビームが、広がりをほとんど持たないでターゲットに向かって補助電極から出射される。しかも、電子増倍層の作用により、電子ビームは大きな電流値を有している。
【0082】
このように、第6の好ましい形態によれば、大きな電流値を有する電子ビームをターゲットに導き、ターゲット上に小さな電子ビームスポットを形成することができる。これにより、高解像度で高輝度の電界放出型電子源表示装置や、高解像度で残像の少ない電界放出型電子源撮像装置を提供することができる。
【0083】
本発明の第7の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第1の好ましい形態において、前記補助電極と前記ターゲットとの間に、前記補助電極と前記ターゲットとの間の電圧差を緩和する第2補助電極を更に有する。
【0084】
かかる第7の好ましい形態によれば、補助電極とターゲットとの間の耐電圧特性を向上させることができる。
【0085】
即ち、補助電極の電子増倍層に、その電子増倍作用を効果的に発揮させるためには、電子増倍層の電界放出型電子源アレイ側端とターゲット側端との間に電位差を付与することが好ましい。この電位差は少なくとも数百Vであることが好ましく、このとき補助電極のターゲット側の面の電位は数百V以上となる可能性がある。
【0086】
例えばターゲットに光電変換膜を備えた電界放出型電子源撮像装置においては、ターゲットの電子走査面の電位は、エミッタ電位まで下がるため、補助電極とターゲットとの互いに対向する面間の電位差は数百V以上となる。一方、一般に、電界放出型電子源装置では、ターゲット上での電子ビームスポットは小さいことが望まれ、このために、補助電極とターゲットとの間の距離はなるべく短く設定される。従って、補助電極とターゲットとの間の耐電圧特性が問題となる。
【0087】
第7の好ましい形態によれば、補助電極とターゲットとの間に、補助電極とターゲットとの間の電圧差を緩和する第2補助電極が設けられているので、補助電極とターゲットとの間での放電の発生を抑制することができる。また、仮に補助電極から放電が発生しても、放電は第2補助電極で阻止されてターゲットに達するのを防止できる。
【0088】
かくして、動作時に放電が発生しない、または、仮に放電が発生しても電界放出型電子源装置の動作に影響を与えない、信頼性の高い電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0089】
本発明の第8の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置は、上記第1の好ましい形態において、更に、前記電界放出型電子源アレイが形成された基板を有する。前記補助電極は、前記電界放出型電子源アレイと前記複数の貫通孔の前記開口とを離間させるスペーサー部を一体に備える。前記補助電極は前記スペーサー部を介して前記基板上に設置されている。
【0090】
かかる第8の好ましい形態によれば、電界放出型電子源アレイと補助電極の電界放出型電子源アレイ側の開口との距離のバラツキを少なくし、高精度に設定することができる。例えば、図22に示した従来の電界放出型電子源装置では、電界放出型電子源アレイ129とグリッド電極120との距離は、電界放出型電子源アレイ129が形成された背面パネル117と側面外周器116との接着精度(即ち、低融点フリットガラス133の厚みバラツキ)、側面外周器116の段部121とシールドグリッド電極120との接着精度(即ち、低融点フリットガラスの厚みバラツキ)、及び、側面外周器116の背面パネル117と接着される下面から段部121までの寸法の製作精度(即ち、寸法バラツキ)の3つのバラツキによって変化する。
【0091】
これに対して、本発明の第8の好ましい形態では、補助電極がスペーサー部を一体に備えているので、電界放出型電子源アレイと補助電極の電界放出型電子源アレイ側の開口との距離は、電界放出型電子源アレイとスペーサー部との間の接着精度、及びスペーサー部の厚みの製作精度(即ち、寸法バラツキ)の2つのバラツキによって変化する。即ち、精度が最も劣る低融点フリットガラスによる接着部分がない。従って、電界放出型電子源アレイと補助電極の電界放出型電子源アレイ側の開口との距離精度が向上する。
【0092】
また、本発明の第8の好ましい形態によれば、補助電極の機械的強度が向上する。
【0093】
即ち、例えばVGA(水平方向640ドット×垂直方向480ドット)、外形対角サイズが1インチの電界放出型電子源撮像装置を考えると、一つの画素のサイズは0.02mm程度となる。補助電極の厚みは、その機能を考慮すると1画素のサイズの1倍〜10倍程度が適当と思われるので、0.02mm〜0.2mm程度になる。補助電極の寸法は12mm×10mmよりも若干大きい程度であり、この補助電極に多数の貫通孔が形成されていることを考慮すれば、補助電極の機械的強度は非常に小さい。従って、電界放出型電子源装置の組み立て工程における補助電極の単体での取り扱いは、その機械的強度不足故に、非常に困難である。
【0094】
ところが、本発明の第8の好ましい形態では、補助電極は、その周囲に枠状のスペーサー部を一体に備えている。従って、スペーサー部が補助電極の機械的強度を向上させるので、電界放出型電子源装置の組み立て工程における補助電極の単体での取り扱いの困難性という問題が解消される。
【0095】
本発明の第9の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第8の好ましい形態において、前記スペーサー部と前記基板とは導電性材料を用いて接合されており、前記導電性材料を介して前記基板から前記補助電極の少なくとも一部に給電されている。
【0096】
かかる第9の好ましい形態によれば、補助電極への電圧供給を、電界放出型電子源アレイが形成された基板から行うことが可能になり、電圧供給のためのワイヤーボンディングが不要になる。従って、ワイヤーボンディングを行うための費用を省くことができ、またワイヤーボンディングした場合のワイヤー倒れ等の不良の発生を回避することができる。
【0097】
本発明の第10の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第1の好ましい形態において、前記電子ビーム通過行路の延設方向に垂直な方向に沿った断面形状は、円形、楕円形、いずれの内角も90度より大きな多角形、または隣り合う辺が円弧で接続された多角形である。
【0098】
かかる第10の好ましい形態によれば、補助電極を容易に製作することができる。
【0099】
例えば、開口の端縁形状が、いずれの内角も90度である長方形(又は正方形)である場合には、開口の端縁の四隅部分に応力が集中して、貫通孔の形成時にこの四隅部分で補助電極が割れるという問題が発生しやすい。
【0100】
第10の好ましい形態のように、開口の端縁形状が、円形、楕円形、いずれの内角も90度より大きな5角形以上の多角形、または隣り合う辺が円弧で接続された多角形であると、応力集中が緩和されるので、貫通孔の形成時にトリミング電極が割れにくくなり、製作が容易になる。
【0101】
補助電極の製作が容易であることは、補助電極の製作歩留まりが向上することを意味し、安価な補助電極を提供することができる。よって、安価な電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0102】
また、補助電極の機械的強度が向上することにより、単体での取り扱い性が容易になるので、電界放出型電子源装置の組立が容易となる。この点からも、安価な電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0103】
本発明の第11の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置では、上記第1の好ましい形態において、前記電界放出型電子源アレイは、それぞれが電子を放出する複数の電子源を備えたセルを複数有し、前記開口は前記セルよりも小さく、前記開口と前記セルとが垂直方向に多対一に対応するように前記電界放出型電子源アレイと前記補助電極とが配置されており、前記セルから放出された電子ビームは、対応する前記開口に入り、前記電子ビーム通過行路を通過して、前記ターゲットに入射する。
【0104】
かかる第11の好ましい形態によれば、1つのセルに対してこれより小さな開口を有する貫通孔が複数配置されている。従って、セルから放出された電子ビームを補助電極を用いてより選択的にトリミングできるので、ターゲットでの電子ビームのスポット径をより小さくすることができる。その結果、高精細な電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置を提供できる。
【0105】
本発明の第12の好ましい形態に係る電界放出型電子源装置は、上記第1の好ましい形態において、電界放出型電子源アレイと前記補助電極との間に、前記電界放出型電子源アレイから放出された前記電子ビームを予備集束する予備集束電極を更に有する。
【0106】
かかる第12の好ましい形態によれば、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームは予備集束電極により予備集束されることで、その広がりが狭められて補助電極の貫通孔に入射する。
【0107】
従って、個々の電子ビームの進行方向は、鉛直方向と平行な方向に近づき、貫通孔の電子ビーム通過行路の延設方向と平行な方向に近づく。従って、電子ビームは、補助電極の貫通孔を通過しやすくなる。
【0108】
従って、第12の好ましい形態では、予備集束しない場合に比べて、ターゲット上での電子ビームスポットが小さくなるので、更に高解像度の電界放出型電子源表示装置や更に高解像度の電界放出型電子源撮像装置を提供することができる。
【0109】
以下、本発明を、実施の形態を示しながら詳細に説明する。
【0110】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の断面図である。
【0111】
図1に示すように、本実施の形態1に係る電界放出型電子源装置は、光透過性のガラス部材からなる前面パネル1と、背面パネル5と、側面外周器4とで形成された真空容器を備える。前面パネル1と側面外周器4、及び、背面パネル5と側面外周器4は、例えば高温焼成用のフリットガラスや、低温封着用のインジウムなどの真空封着材7により固着され封着されて、真空容器内は真空に保たれている。以下の説明の便宜のために、前面パネル1及び背面パネル5の法線方向と平行な軸をZ軸と呼ぶ。
【0112】
背面パネル5の内面上には、電界放出型電子源アレイ10が形成された半導体基板6が設置されている。半導体基板6上には、スペーサー部8aを一体に備える補助電極8が設置固定されている。前面パネル1の補助電極8と対向する内面上には、透光性の陽極電極2とターゲット3とが形成されている。ターゲット3は、電界放出型電子源アレイから放出された電子を受け取り所定の有益な動作を行なう層であり、例えば蛍光体層又は光電変換膜である。
【0113】
前面パネル1、背面パネル5、側面外周器4からなる真空容器内には、余分なガスを吸着除去することにより、内部を高真空に保持する為のゲッターポンプ(図示せず)が設置されている。
【0114】
図2は補助電極8の電界放出型電子源アレイに対向する側の面から見た概略斜視図である。補助電極8は、略平板状の電極であり、中央の薄肉のビーム通過部9と、ビーム通過部9の周囲に連続して形成され、ビーム通過部9よりも厚い枠状のスペーサー部8aとを備える。ビーム通過部9には複数の貫通孔が形成されている。
【0115】
スペーサー部8aは、補助電極8の単体での機械的強度を向上させる機能と、電界放出型電子源アレイとビーム通過部9に形成された複数の貫通孔の開口とを離間し、且つ両者間の距離を高精度に維持する機能とを備えている。
【0116】
図3は補助電極8のビーム通過部9の一部拡大斜視図である。ビーム通過部9には、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームが通過するための、ビーム通過部9の表裏を貫通する多数の貫通孔90が形成されている。多数の貫通孔90は格子点状に配置されている。
【0117】
図4(A)はビーム通過部9のZ軸方向の一部拡大断面図である。各貫通孔90は、ビーム通過部9の電界放出型電子源アレイ側の面に形成された開口91と、開口91からビーム通過部9の厚さ方向に連続した電子ビーム通過行路92とを備えている。本明細書において、開口91とは、貫通孔90のうち、ビーム通過部9の電界放出型電子源アレイ側の面上に含まれる部分を意味し、Z軸方向成分は含まれない。また、電子ビーム通過行路92とは、貫通孔90のうち、ビーム通過部9の表裏面間の間の部分を意味する。
【0118】
電子ビーム通過行路92の長さは、開口91の径Dよりも十分に大きい。ここで、電子ビーム通過行路92の長さとは、電子ビーム通過行路92に沿った長さを意味する。従って、電子ビーム通過行路92が屈曲している場合にはビーム通過部9のZ軸方向の厚さより長くなる。
【0119】
図5は、本実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の分解斜視図である。図5を用いて、電界放出型電子源装置の組み立て方法の一例を簡単に説明する。
【0120】
背面パネル5上にフリットガラス7aを付与し、この上に環状の側面外周器4を載置して、約400℃程度の高温で焼成して、背面パネル5と側面外周器4とをフリットガラス7aを介して接合する。
【0121】
補助電極8のスペーサー部8aと半導体基板6とを例えば陽極接合や共晶接合などの接合方法により接合する。背面パネル5上の側面外周器4で囲まれた部分に、補助電極8が搭載された半導体基板6を、ダイボンディングして設置固定する。
【0122】
ビーム通過部9への給電は、半導体基板6から、補助電極8のスペーサー部8aと半導体基板6との接合部及びスペーサー部8aを介して行われる。補助電極8へ給電するための半導体基板6上の配線パターンは、背面パネル5上に形成された配線パターンとワイヤーボンディング(図示せず)により接続される。これにより、補助電極8への給電は、真空容器の外側より行なうことができる。
【0123】
半導体基板6上には、複数のセルをマトリクス状に並べた電界放出型電子源アレイが形成されている。各セルは、複数(例えば100個)の冷陰極素子(エミッタ)を含む。
【0124】
半導体基板6上の電界放出型電子源アレイの複数のセルと、補助電極8の複数の貫通孔90とは一対一に対応している。各セルの中心を通るZ軸と平行な軸が、このセルと対応する補助電極8の貫通孔90のほぼ中心を通るように(例えば、本実施の形態では、セルの中心を通るZ軸と平行な軸に対する貫通孔90の中心の位置ずれ量が3μm程度以下となるように)、半導体基板6と補助電極8とは高精度に位置合わせされる。
【0125】
このようにして組み立てられた背面パネル5、側面外周器4、補助電極8、及び半導体基板6からなる背面パネル構造体は、真空装置内で約120℃〜350℃程度の温度でガス出しの為の空焼きされる。
【0126】
空焼きが済んだ背面パネル構造体は、真空内にて、前面パネル1と、インジウムを付着させた金属リング7bにより接合一体化されて、内部が真空に封着された真空容器となる。
【0127】
半導体基板6上に形成される電界放出型電子源アレイは、図6に示される様に、先端が先鋭化された冷陰極素子(エミッタ)15と、冷陰極素子15の周辺に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に設けられ、冷陰極素子15を取り囲む開口が形成されたゲート電極12等からなる多数のエミッター部が集積されてなる。
【0128】
電界放出型電子源アレイは、例えばVGA(水平方向640ドット×垂直方向480ドット)の撮像を行なう平面型撮像装置であれば、マトリックス状に配置された各画素位置に縦横方向寸法がいずれも20μm程度の1つのセルがそれぞれ配置される。ゲート電極12は、水平方向(又は垂直方向)に延びたストライプ状に複数形成され、エミッタ電極14は、ゲート電極12の長手方向と直交する方向に延びたストライプ状に複数形成される。Z軸と平行な方向から見て、複数のゲート電極12と複数のエミッタ電極14との交点位置にセルが1つずつ配置される。各セルには、エミッタ電極14上の縦横方向寸法がいずれも10μm程度の領域内に複数の冷陰極素子15がほぼ均等に分布するように配置されている。
【0129】
同一セル内の複数の冷陰極素子15には例えば30Vの基準電位から0Vに低下するパルス状のエミッタ電位が印加され、冷陰極素子15を取り囲む絶縁層13上に形成されたゲート電極12には例えば30Vの基準電位から中位の60Vに上昇するパルス状のゲート電位が印加される。冷陰極素子15とゲート電極12との間に形成される電位差により、冷陰極素子15の先端から電子が放出される。
【0130】
ゲート電極12及びエミッタ電極14は、背面パネル6上に、真空容器の内外を繋ぐように形成された配線パターンと接続されている。冷陰極素子15に与えられるエミッタ電位及びゲート電極12に与えられるゲート電位は、真空容器の外側からこの配線パターンを介して供給される。
【0131】
補助電極8には、ゲート電極12に印加される最大電圧よりも若干高い、中位の150〜500V程度の電圧が印加される。電界放出型電子源アレイから、補助電極8のビーム通過部9に形成された複数の貫通孔の電界放出型電子源アレイ側の面までの距離は100μm程度である。
【0132】
補助電極8へ印加される電圧が高すぎると、補助電極8と電界放出型電子源アレイとの間の耐電圧特性上の問題を引き起こす可能性がある。更に、電界放出型電子源撮像装置として使用する場合にはターゲット3との間での耐電圧特性も問題となる可能性がある。逆に、補助電極8へ印加される電圧が低すぎると、電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームを加速させる効果が薄れ、電子ビームの発散角が大きくなってしまい、補助電極8を通過する電子ビーム量が少なくなり、電子ビームの電流量を十分確保できない可能性がある。このため、発明者らは実験を通じて補助電極8へ印加される電圧の好適値が上述の範囲であることを確認している。
【0133】
ターゲット3は補助電極8から150〜数百μm程度離れて配置される。前面パネル1とターゲット3との間には、透明な陽極電極2が形成されている。陽極電極2には補助電極8に印加される電圧よりも高い、高位の例えば数100V〜数kV程度の電圧が前面パネル1を貫通する電極43(図5参照)を介して印加される。
【0134】
電界放出型電子源アレイの冷陰極素子15とゲート電極12とにそれぞれ所定の電圧を印加すると、冷陰極素子15から電子ビーム11aが放出される。電子ビーム11aは、電界放出型電子源アレイからZ軸方向に100μm程度離れた、100μm程度の厚みを有する補助電極8の貫通孔90の開口91に入射し、開口91から連続する電子ビーム通過行路92内を通過する。そして、補助電極8から出射した電子ビームは、補助電極から150〜数百μm程度離れたターゲット3に到達する。
【0135】
補助電極8にはスペーサー部8aが一体に形成されており、補助電極8のスペーサー部8aは電界放出型電子源アレイが形成された半導体基板6上に直接設置される。これにより、電界放出型電子源アレイと補助電極8との間の距離精度を向上させることができる。この結果、電界放出型電子源アレイと補助電極8のビーム通過部9に形成された複数の貫通孔90の開口91との間の距離を高精度に維持するというスペーサー部8aの役割を効果的に発揮させることができる。
【0136】
補助電極8のスペーサー部8aの厚みHsは、例えば上述の電界放出型電子源アレイの1つのセルの縦横寸法がそれぞれ20μm程度である場合、50〜150μm程度(最適は100μm程度)が好ましい。ここで、スペーサー部8aの厚みHsとは、図7に示すように、補助電極8のビーム通過部9の電界放出型電子源アレイ側の面と電界放出型電子源アレイとの間の距離を意味する。
【0137】
この場合、MEMS(Micro Electro Mechanical System)加工における寸法マージンとビーム通過部9の機械的強度の観点から、縦横方向に隣り合う開口91間の距離(即ち、隣り合う電子ビーム通過行路92間の壁の厚さ)は4μm±2μmの範囲内であることが好ましい。従って、1セルの縦横寸法がそれぞれ20μmの場合には、補助電極8の貫通孔90の開口91の形状は一辺が16μm程度の四角形となる。ビーム通過部9の厚み(即ち電子ビーム通過行路92のZ軸方向寸法)Htは、開口91の上記の開口径の約1.5〜10倍程度、更には6〜8倍程度(上記の例では100〜120μm程度)が好ましい。
【0138】
図7は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【0139】
補助電極8は、電子増倍層28と、電子増倍層28の両側に設けられた低抵抗の薄膜からなる第1電極27及び第2電極29とを備える。
【0140】
電子増倍層28は、例えばガラス素材の多数のチューブを束ねて作成される。このガラスチューブが電子ビームが通過する貫通孔90となる。
【0141】
電子増倍層28の電界放出型電子源アレイ10側に配置された第1電極27には、半導体基板6から電界放出型電子源アレイ10のゲート電圧よりも高い150〜300V程度の中位の電圧が印加され、第2電極29には第1電極27に印加される電圧よりも高い電圧が印加されている。
【0142】
電界放出型電子源アレイ10から放出された電子ビームは第1電極27の電位により補助電極8に向かって加速される。
【0143】
電子増倍層28内には第1電極27に印加された第1電圧と第2電極29に印加された第2電圧により電位勾配が形成される。この電位勾配により電子増倍層28内に到達した電子は2次電子増倍作用を受け加速度的に電子ビーム量を増加させて補助電極8から出射される。
【0144】
図8に電子増倍層の2次電子増倍作用を概念的に示す。但し、図8では図を簡略化して理解を容易にするために補助電極8に入射した一部の電子についての電子増倍の様子のみを図示している。また、実際の電子ビームは電界の作用でターゲット3に向かう方向(即ちZ軸に沿う方向)に徐々に曲げられるが、ここでは直線で描いている。これは後述する図9,図16においても同様である。
【0145】
電子増倍層28により数が増加した電子は、補助電極8から出射しターゲット3へ到達する。電子増倍層の2次電子増倍作用によりターゲット3に到達する電子ビーム量が多くなるので、ターゲット3に蛍光体を備えた電界放出型電子源表示装置の高輝度化、高コントラスト化が可能となり、ターゲット3に光電変換膜を備えた電界放出型電子源撮像装置においては残像を少なく又はなくすことができる。
【0146】
また、ターゲット3に十分な電子ビームを供給できるので、電子増倍層28を備えない場合に比較して電界放出型電子源アレイ10から放出される電子ビーム量を抑制することができる。これにより、電界放出型電子源アレイ10のエミッタ電位とゲート電位との電圧差を小さくすることが可能となり、耐電圧特性に関して信頼性の高い電界放出型電子源装置を提供することができる。
【0147】
また、電子増倍層28の電界放出型電子源アレイ10側とターゲット3側に電子増倍層28よりも低抵抗の薄膜27,29を設けたことにより、電界放出型電子源アレイ10から放出された電子ビーム11aが補助電極8に局所的に衝突することによって発生する局所的な電圧変動、補助電極8をターゲット3に向かって出射した電子ビーム11cがターゲット3側から戻って来て補助電極8に衝突することによって発生する局所的な電圧変動、及び、電界放出型電子源アレイ10に印加されるパルス電圧が、電界放出型電子源アレイ10と補助電極8との間の静電容量及び補助電極8とターゲット3との間の静電容量を介してターゲット3に重畳される現象を抑制することができる。補助電極8の電圧変動が抑制されることにより、電子ビーム量が安定するので、輝度のバラツキが低減された電界放出型電子源表示装置を提供できる。また、電界放出型電子源アレイ10に印加されるパルス電圧によるターゲット3の電圧変動が生じにくくなるので、雑音が低減された電界放出型電子源撮像装置を提供できる。
【0148】
上記の例では電子増倍層28は多数のガラスチューブを束ねて作成作成されたが、電子増倍層28の材料はこれに限定されず、例えば2次電子利得が高いMgO、Cs2O、セシウム化シリコン、NaCl、Nal等を用いることができる。また、これらの材料を多数の貫通孔を備えた板状部材の貫通孔の側壁に塗布しても良い。電子増倍層28の材料としては、ガス放出が少なく、仕事関数が少ない材料が好適である。
【0149】
電子増倍層28が、図9のように、互いに異なる材料からなる、電界放出型電子源アレイ10側の第1電子増倍層28aとターゲット3側の第2電子増倍層28bとを有していても良い。これにより、電子増倍層28が、2次電子増倍作用に加えて、所望の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に抽出するトリミング作用を有することができる。
【0150】
一般に2次電子放出作用は、2次電子放射面に対する電子ビームの入射角(2次電子放射面の法線に対する電子ビームの速度ベクトルがなす角度)が大きいほど、2次電子増倍が起こりやすく、2次電子放出量は大きく、逆に2次電子放射面に対する電子ビームの入射角が小さいほど大きいほど、2次電子増倍が起こりにくく、2次電子放出量は少ない。この特性を利用して、例えば補助電極8の入射側には2次電子増倍率の比較的小さな材料からなる第1電子増倍層28aを配置し、出射側には2次電子増倍率の比較的大きな材料からなる第2電子増倍層28bを配置する。これにより、補助電極8に、上述の2次電子増倍作用と所望の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に抽出するトリミング作用とを行わせることができる。
【0151】
即ち、補助電極8の入射側に2次電子増倍率の比較的小さな材料を配置することにより、指定セルを通りZ軸と平行な直線上に位置する補助電極8の貫通孔(以下、この貫通孔を「指定セルに対応する貫通孔」という)90には、電子ビーム通過行路92の長手方向(即ちZ軸方向)に対する角度が比較的小さな速度ベクトルを有する電子ビーム11aが入射し、指定セルに対応する貫通孔90の周辺の貫通孔90には、電子ビーム通過行路92の長手方向(即ちZ軸方向)に対する角度が比較的大きな速度ベクトルを有する電子ビーム11aが入射する。
【0152】
従って、指定セルに対応する貫通孔90では、電子ビームが2次電子増倍率の比較的小さな材料からなる第1電子増倍層28aに大きな入射角で衝突するので、多くの2次電子が放出される。一方、指定セルに対応する貫通孔90の周辺の貫通孔90では、電子ビームが2次電子増倍率の比較的小さな材料からなる第1電子増倍層28aに小さな入射角で衝突するので、2次電子の放出量は少ない。
【0153】
従って、指定セルに対応する貫通孔90内の第1電子増倍層28aの領域を電子ビームがその数を増倍させながら集中して通過するというトリミング作用が発生する。そして、これらの電子は、第1電子増倍層28aよりもターゲット3側に配置された、2次電子増倍率の比較的大きな材料からなる第2電子増倍層28bに大きな入射角で衝突し、更に多くの2次電子が次々に放出される。この多量の電子は、貫通孔90を出射してターゲット3に到達する。従って、ターゲット3に到達する電子ビーム量は多くなり、且つターゲット3上での電子ビームのスポット径は小さくなる。
【0154】
なお、図9とは逆に、電界放出型電子源アレイ10側に2次電子増倍率の比較的大きな材料からなる第2電子増倍層28bを配置し、ターゲット3側に2次電子増倍率の比較的小さな材料からなる第1電子増倍層28aを配置しても良い。この場合には、小さな指定セルから放出された電子ビームを、補助電極8によって大きな断面積を有し速度ベクトルが揃った電子ビームに変換してターゲット3に到達させることができる。この実施形態は、上記の電界放出型電子源表示装置や電界放出型電子源撮像装置以外の用途に使われる電界放出型電子源装置に活用することが可能である。
【0155】
図7では電子増倍層28を含む補助電極8の電子ビーム通過行路92の延設方向がZ軸と平行であったが、電子ビーム通過行路92の延設方向の向きはこれに限定されない。例えば図10に示すように電子ビーム通過行路92の延設方向がZ軸に対して傾斜していても良い。あるいは、電子ビーム通過行路92が、延設方向がZ軸対する角度が互いに異なる2以上の部分を含んでいても良い。例えば、図11に示すように、第1電子増倍層28aと第2電子増倍層28bとで電子ビーム通過行路92の延設方向を異ならせても良い。
【0156】
上述した実施の形態では、電界放出型電子源が先端の尖った冷陰極素子15とその先端を囲む開口が形成されたゲート電極12とを備えたスピント型を例に説明したが、本発明の電界放出型電子源はこれに限定されない。例えばカソード電極とゲート電極との間に絶縁層を形成し、絶縁層に電圧を印加してトンネル効果により電子放出を行なうMIM(Metal Insulator Metal)型、カソード電極とエミッタ電極との間に微小なギャップを設け、これら電極間に電圧を印加して微小ギャップから電子放出を行なうSCE(Surface Conduction Electron Source)型、あるいは電子源にDLC(Diamond Like Carbon)やCNT(Carbon Nanotube)等の炭素系材料を用いた電界放出型電子源であっても良い。
【0157】
電子ビームが広がりをもって電界放出される電子源であって、ターゲット3上での電子ビームのスポット径を小さくする必要がある電界放出型電子源装置は、本発明の効果が効果的に発揮されるので、本発明が適用されることが特に好ましい。
【0158】
CNT(Carbon Nanotube)等の炭素系材料を用いた電界放出型電子源の一例を図12に示す(例えば特許文献6参照)。
【0159】
基板上に、無数のカーボンナノチューブ(CNT)からなるCNT層59が形成されている。CNT層59を取り囲むように、集束電極60が形成されている。CNT層59の上方にはCNT層59から電子を引き出すためのゲート電極61が形成されている。ゲート電極61には、無数の電子ビーム通過孔が形成されている。カーボンナノチューブからなるセルの平面視形状は四角形である。複数のセルが縦横方向にマトリックス状に配置されている。縦方向に並んだ複数のセルは互いに電気的に接続されてエミッタラインを形成する。ゲート電極61は、横方向に並んだ複数のセル上に配置されてゲートラインを形成する。複数のエミッタラインのうちの1つと、複数のゲートラインのうちの1つを選択することにより、選択されたエミッタラインとゲートラインとの交点に位置するセルから電子ビーム11aが放出される。
【0160】
ゲート電極61が薄いと、セルから放出される電子ビーム11aの量が多くなり、その発散角は大きくなり、ゲート電極61が厚いと、セルから放出される電子ビーム11aの量が少なくなり、その発散角は小さくなる。
【0161】
本発明は、このようなCNTを用いた電界放出型電子源を備えた電界放出型電子源装置にも適用することができる。特に、ゲート電極61が薄く、そのためにセルから放出される電子ビーム11aの量が多く、その発散角は大きい場合に適用すると、本発明の効果が効果的に発揮されるので好ましい。その場合、補助電極8の貫通孔90がセルと一対一に対応してセルのZ軸方向の上方に配置され、貫通孔90の開口がセルと同程度の大きさを有していることが好ましい。
【0162】
また、上記の実施の形態では、電界放出型電子源アレイからビーム通過部9の貫通孔90の開口91までの距離が100μm程度、ビーム通過部9の厚みが100μm程度、補助電極8からターゲット3までの距離が150〜数百μm程度である例を示したが、本発明はこれに限定されず、電界放出型電子源装置の用途、電界放出型電子源の種類によってこれらの距離を自由に設定しても良いことは言うまでも無い。
【0163】
更に、上記の実施の形態では、ターゲット3が陽極電極2を覆っていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、陽極電極2がターゲット3より大きくても良い。また、ターゲット3が3色の蛍光体を含み、陽極電極2の表面にこの3色の蛍光体を交互に形成しても良い。この場合、隣り合う蛍光体の間にブラックマトリクスのような光吸収層を設けても良い。更に、陽極電極2のとターゲット3との間、又は陽極電極2と前面パネル1との間に、単色又は3色のカラーフィルター層を設け、カラーフィルター層の色に対応して蛍光体層又は光電変換膜層をターゲット3として形成しても良い。
【0164】
また、上記の実施の形態では、電界放出型電子源アレイからビーム通過部9までの距離の組立誤差を少なくするために、スペーサ部8aを一体化に備えるトリミング電極8を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図13に示すように、側面外周器24の内周面に段差24aを設け、この段差24aでスペーサ部を有しない補助電極25を支持しても良い。
【0165】
補助電極8の貫通孔90の電子ビーム通過行路92の内径は、上述した図4(A)のようにZ軸方向において一定である必要はなく、変化していても良い。電子ビーム通過行路92の内径をZ軸方向において変化させることにより、補助電極8のトリミング作用を調整することができる。例えば、図4(B)に示すように、電子ビーム通過行路92の内径が電子ビームの入射側よりも出射側で小さいと、補助電極8の貫通孔90を出射する電子ビームの発散角をより小さくすることができるので好ましい。
【0166】
補助電極8の貫通孔90の電子ビーム通過行路92のZ軸に垂直な方向に沿った断面形状は、上記の例のように四角形に限定されない。例えば、円形、楕円形、いずれの内角も90度より大きな多角形、または隣り合う辺が円弧で接続された多角形であっても良い。これらの形状にすることにより、補助電極内における局所的な応力集中を防止して、高強度の補助電極を得ることができる。例えば、電子ビーム通過行路92の断面形状を6角形又は円形として、ビーム通過部9をハニカム構造としても良い。電子ビーム通過行路92の断面形状が正方形以外の形状である場合には、その形状と同じ面積を有する正方形の一辺の長さを開口径Dと考えて上述したビーム通過部9の厚みHtと開口径Dとの関係が適用される。
【0167】
更に、上記の実施の形態では、Z軸方向から見た前面パネル1の形状が円形であったが、本発明はこれに限定されず、例えば四角形であっても良い。
【0168】
また、上記の実施の形態では、補助電極8は電界放出型電子源アレイ10が形成された半導体基板6上に設置されていたが、本発明はこれに限定されず、例えば背面パネル5上に半導体加工技術を用いてスピント型等の電界放出型電子源アレイを直接形成し、電界放出型電子源アレイを形成した背面パネル5上に補助電極8を設置しても良い。
【0169】
更に、上述の実施の形態では、VGAに対応した電界放出型電子源装置を想定して電界放出型電子源アレイの1つのセルの大きさを20μm角程度とし、これに合わせた各部の寸法を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えばSVGA、SXGAに対応する電界放出型電子源装置であれば、1つのセルの大きさは上記よりも小さくなり、その他の各部の寸法もこれに合わせて小さくしなければならない。
【0170】
また、電界放出型電子源アレイ10の一つのセルに対して、このセルのサイズよりも小さい開口径を有する複数の貫通孔を、このセルの中心を通りZ軸に平行な直線上に配置して、複数の貫通孔の各電子ビーム通過行路によって選択的に電子ビームをトリミングした後、補助電極からターゲットへ向けて射出させても良い。この場合は補助電極による電子ビームの除去率が大きくなるので、電界放出型電子源アレイ10からの電子ビーム量を大きくする必要があり注意を要する。
【0171】
更に、上述の実施の形態に示した各部に印加される電圧は一例にすぎず、電界放出型電子源装置の用途、各部のサイズ等によって最適値は異なり、適宜変更しなければならないことは言うまでも無い。
【0172】
以上述べた如く、本実施の形態1では、補助電極の一部に電子増倍層が設けられているので、指定セルに対応する貫通孔に入射した電子ビームの量を増加させることができる。従って、ターゲットに到達する電子ビーム量を多くすることができる。よって、高輝度且つ高精細の電界放出型電子源表示装置や、残像の少ない電界放出型電子源撮像装置を実現することができる。
【0173】
(実施の形態2)
図14は、本発明の実施の形態2に係る電界放出型電子源装置の断面図である。
【0174】
図14に示すように、本実施の形態2に係る電界放出型電子源装置は、電界放出型電子源アレイ10の補助電極8側に予備集束用のフォーカス電極26が設けられている点で実施の形態1に係る電界放出型電子源装置と異なる。以下では実施の形態1と同じ部分についての説明を省略する。
【0175】
フォーカス電極26は、電界放出型電子源アレイ10のマトリックス状に配置された複数のセルのそれぞれの位置に開口を有し、各セルを包囲する複数の筒状体を備えている。フォーカス電極26には、補助電極8の電界放出型電子源アレイ10側の部分に印加される電圧よりも低い電圧が供給される。これにより、補助電極8からフォーカス電極26の筒状体内に浸透する電界が形成される。
【0176】
電界放出型電子源アレイ10のセルから放出された電子ビームは、フォーカス電極26の筒状体内に形成された電界により予備集束されたのち、補助電極8に向かって放出される。電子ビームはフォーカス電極26による予備集束を受けるので、フォーカス電極26を出射する電子ビームの拡散角は、フォーカス電極26を備えない場合に比べて、小さくなる。このために、Z軸方向(電子ビーム通過行路92の長手方向)に対してなす角度が小さな速度ベクトルを有する電子ビームが多くなるので、補助電極8を通過する電子ビーム量が多くなる。従って、指定セルに対応する貫通孔90に入射する電子ビーム量が多くなる。この結果、フォーカス電極26を備えない場合に比べて、ターゲット3に到達する電子ビーム量が多くなり、且つ、ターゲット3上において電子ビームのスポット径が小さくなる。
【0177】
以上述べた如く、本実施の形態2では、電界放出型電子源アレイ10から放出された電子ビームが補助電極8に入射する前に、フォーカス電極26により予備集束される。これにより、実施の形態1に比べて、ターゲット3に到達する電子ビーム量を多くすることができ、且つ、ターゲット3上において電子ビームのスポット径を小さくすることができる。これにより、高輝度且つ高精細の電界放出型電子源表示装置や、残像が少なく且つ高精細の電界放出型電子源撮像装置を提供することができる。
【0178】
上記の例では単一電極を有するフォーカス電極を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、Z軸方向に複数の電極を有していても良い。各電極に異なる電圧を印加することにより、フォーカス電極内に予備集束のための電界を形成することができる。この場合、補助電極に最も近い電極に印加する電圧は、補助電極8のフォーカス電極側の部分に印加される電圧よりも低くても良いし、同じであっても良い。同じ場合には供給電圧回路を共通化できる。
【0179】
上記の例では、実施の形態1に示した電界放出型電子源装置にフォーカス電極を設けたが、本発明はこれに限定されず、上述した又は後述するいずれの電界放出型電子源装置に本実施の形態で説明したフォーカス電極を設けることができ、その場合も上記と同様の効果を得ることができる。
【0180】
(実施の形態3)
図15は、本発明の実施の形態3に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【0181】
図15に示すように、本実施の形態3に係る電界放出型電子源装置は、補助電極35が、電子増倍層33の電界放出型電子源アレイ10側に、所定の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に吸収し除去するトリミング層32を備える点で、実施の形態1に係る電界放出型電子源装置と異なる。以下では実施の形態1と同じ部分についての説明を省略する。
【0182】
補助電極35は、補助電極35の電界放出型電子源アレイ10側に配置された第1電極31と、例えばシリコンにN型又はP型の物質をドープした半導体層からなるトリミング層32と、2次電子増倍作用を有する電子増倍層33と、補助電極35のターゲット3側に配置された第2電極34とを備える。電子増倍層33の基本的構成は、実施の形態1の電子増倍層28と同じである。
【0183】
例えば、第1電極31には、半導体基板6から電界放出型電子源アレイ10のゲート電圧よりも高い150〜300V程度の中位の電圧が印加され、トリミング層32には第1電極31と同電圧が印加され、第2電極34には第1電極31に印加される電圧よりも高い電圧が印加されている。
【0184】
電界放出型電子源アレイ10から放出された電子ビームは第1電極31の電位により補助電極35に向かって加速される。
【0185】
図16にトリミング層32のトリミング作用及び電子増倍層33の2次電子増倍作用を概念的に示す。
【0186】
電界放出型電子源アレイ10の指定セルから放出された電子ビーム11aのうち、Z軸に対して斜めに進行する電子ビームは、この指定セルに対応する貫通孔90の周辺に位置する貫通孔90に入射し、貫通孔90内においてトリミング層32に衝突し、吸収され除去される。
【0187】
一方、電界放出型電子源アレイ10の指定セルから放出された電子ビーム11aのうち、Z軸とほぼ平行に進行する電子ビームは、この指定セルに対応する貫通孔90に入射する。貫通孔90内において、電子ビームのうちのごく一部はトリミング層32に衝突し吸収され除去されるが、ほとんどはトリミング層32を通過する。電子増倍層33に達した電子ビームのうち、一部は電子増倍層33を通過して貫通孔90からターゲット3に向けて出射し、残りは電子増倍層33に衝突し、2次電子が放出される。発生した2次電子は貫通孔90からターゲット3に向けて出射する。
【0188】
このように、電子増倍層33よりも電界放出型電子源アレイ10側にトリミング層32を設けることにより、以下のような効果が得られる。
【0189】
即ち、電界放出型電子源アレイ10の指定セルから電子ビーム11aは所定の広がりをもって放出される。従って、電子ビーム11aは、指定セルに対応する貫通孔90のみならず、指定セルに対応する貫通孔90の周辺に位置する貫通孔90にも入射する。ここで、補助電極35にトリミング層32が設けられておらず、補助電極35の入射側端近傍にまで電子増倍層33が設けられていると、指定セルに対応する貫通孔90の周辺に位置する貫通孔90内においても、電子ビームが電子増倍層33に衝突して2次電子が放出されてしまう。これにより、指定セルに対応する貫通孔90のみならず、その周辺の貫通孔90からも電子ビームがターゲット3に向けて出射され、その結果、ターゲット3上において電子ビームのスポット径が拡大する。これでは、電界放出型電子源表示装置や電界放出型電子源装置の解像度が著しく劣化してしまう可能性がある。
【0190】
本実施の形態3の補助電極35は、電子増倍層33よりも電界放出型電子源アレイ10側にトリミング層32を備える。これにより、指定セルに対応する貫通孔90の周辺に位置する貫通孔90にも入射した電子ビームを確実にトリミング層32に衝突させて吸収除去することができる。その結果、指定セルに対応する貫通孔90の周辺に位置する貫通孔90からターゲット3に向けて電子ビームが出射するのを防止できる。
【0191】
よって、本実施の形態3によれば、電界放出型電子源アレイの指定セルから広がりをもって放出された電子ビームを、補助電極35により選択し且つ増倍させた後に、指定セルに対応する貫通孔90からターゲット3に向けて出射させることができる。従って、ターゲット3に到達する電子ビーム量が多くなり、且つターゲット3上での電子ビームのスポット径は小さくなる。従って、実施の形態1よりも更に高解像度で高精細な電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置を実現することができる。
【0192】
更に、貫通孔90内の電子増倍層33の領域での電位勾配を実施の形態1よりも大きくすることができるので、電子増倍作用を更に効率良く行なうことができる。
【0193】
あるいは、貫通孔90内の電子増倍層33の領域での電位勾配を実施の形態1と同程度にした場合には、補助電極35のターゲット3側の第2電極34の電位を低下させることができる。これにより、補助電極35とターゲット3ととの間の、ターゲット3に向かう電子ビーム11cを減速するように作用する電界を弱めることができるので、ターゲット3上での電子ビームのスポット径を実施の形態1よりも更に小さくすることができる。この構成は、電界放出型電子源撮像装置に好適である。
【0194】
以上述べた如く、本実施の形態3では、補助電極35が、電子増倍層33よりも電界放出型電子源アレイ10側にトリミング層32を備える。従って、電界放出型電子源アレイ10の指定セルから広がりをもって放出された電子ビームのうち、トリミング層32内の電子ビーム通過行路92の延設方向に対してほぼ平行な速度ベクトルを有する電子ビームのみがトリミング層32を選択的に通過され、次いで、電子増倍層33にて電子ビーム量を増加されて、補助電極35から出射する。この結果、実施の形態1よりも更に高解像度で高精細な電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置を実現することができる。
【0195】
(実施の形態4)
図17は、本発明の実施の形態4に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【0196】
図17に示すように、本実施の形態4に係る電界放出型電子源装置は、補助電極40に形成された電子ビーム通過行路92の延設方向が、トリミング層37の部分と電子増倍層38の部分とで異なる点で、実施の形態3に係る電界放出型電子源装置と異なる。以下では実施の形態3と同じ部分についての説明を省略する。
【0197】
即ち、トリミング層37の部分での電子ビーム通過行路92の延設方向はZ軸に対して平行であるのに対して、電子増倍層38の部分での電子ビーム通過行路92の延設方向はZ軸に対して傾斜している。
【0198】
電界放出型電子源アレイ10から放出された電子ビームは第1電極31の電位により補助電極40に向かって加速される。
【0199】
電界放出型電子源アレイ10の指定セルから放出された電子ビームのうち、Z軸に対して斜めに進行する電子ビームは、この指定セルに対応する貫通孔90の周辺に位置する貫通孔90に入射し、貫通孔90内においてトリミング層37に衝突し、吸収され除去される。
【0200】
一方、電界放出型電子源アレイ10の指定セルから放出された電子ビームのうち、Z軸とほぼ平行に進行する電子ビームは、この指定セルに対応する貫通孔90に入射する。貫通孔90内において、電子ビームのうちのごく一部はトリミング層37に衝突し吸収され除去されるが、ほとんどはトリミング層37を通過する。
【0201】
指定セルに対応する貫通孔90に入射し、トリミング層37を通過した電子ビームは、次に電子増倍層38に入射する。本実施の形態4は実施の形態3と異なり、トリミング層37における電子ビーム通過行路92の延設方向に対して、電子増倍層38における電子ビーム通過行路92の延設方向が傾斜している。従って、電子増倍層38に入射したほぼ全ての電子ビームは電子増倍層33に衝突し、効率よく2次電子が放出される。発生した2次電子は貫通孔90からターゲット3に向けて出射する。
【0202】
ターゲット3に到達する電子ビーム量は実施の形態3よりも増大するので、より高輝度且つ高精細の電界放出型電子源表示装置や、残像のより少ない電界放出型電子源撮像装置を実現することができる。
【0203】
トリミング層37における電子ビーム通過行路92の延設方向に対する、電子増倍層38における電子ビーム通過行路92の延設方向の傾斜角度の上限は、特に制限はないが45度以下であると、2次電子増倍を効率良く行わせることができるので、好ましい。
【0204】
電子増倍層38が、電子ビーム通過行路92の延設方向が互いに異なる2層以上の積層構造を有していても良い。例えば、図18に示すように、電子増倍層38が、トリミング層37に隣接し、トリミング層37における電子ビーム通過行路92の延設方向に対して傾斜した方向に延設された電子ビーム通過行路92が形成された第1電子増倍層38aと、この第1電子増倍層38aにおける電子ビーム通過行路92の延設方向に対して傾斜した方向に延設された電子ビーム通過行路92が形成された第2電子増倍層38bとを有していても良い。これにより、第1電子増倍層38aにおいて増倍された電子が第2電子増倍層38bにおいて更に増倍されるので、電子増倍作用を飛躍的に向上させ、極めて多量の電子ビームをターゲット3に到達させることができる。
【0205】
以上述べた如く、本実施の形態4では、補助電極40に形成された電子ビーム通過行路92の延設方向が、トリミング層37の部分と電子増倍層38の部分とで異なるので、トリミング層37を通過した電子ビームを確実に電子増倍層38に衝突させることができる。実施の形態3では、トリミング層32の部分と電子増倍層33の部分とにわたって電子ビーム通過行路92が一直線上に延設していたので、トリミング層37を通過した電子ビームのうち電子ビーム通過行路92の延設方向と平行な方向の速度ベクトルを有する電子ビームは電子増倍層33に衝突することはなかった。これに対して、本実施の形態4では、トリミング層37を通過した全ての電子ビームを電子増倍層38に衝突させることができる。従って、より多くの2次電子を放出させることができるので、ターゲット3に到達する電子ビーム量を実施の形態3よりも増大させることができる。この結果、実施の形態3に比べて、より高輝度且つ高精細の電界放出型電子源表示装置や、残像のより少ない電界放出型電子源撮像装置を実現することができる。
【0206】
(実施の形態5)
図19は、本発明の実施の形態5に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【0207】
図19に示すように、本実施の形態5に係る電界放出型電子源装置は、補助電極42のターゲット3側に配置された第2電極をターゲット3の側に厚くして第2トリミング層41とした点で、実施の形態4の図17に示した電界放出型電子源装置と異なる。以下では実施の形態4と同じ部分についての説明を省略する。
【0208】
電界放出型電子源アレイ10の指定セルから放出された電子ビームが補助電極42の電子増倍層38に至るまでの過程は実施の形態4と同様である。本実施の形態5では、電子増倍層38で2次電子増倍により増加し第2トリミング層41に入射した電子ビームのうち、第2トリミング層41における電子ビーム通過行路92の延設方向に対して傾斜した速度ベクトルを有する電子ビームが第2トリミング層41に衝突して吸収除去される。これにより、Z軸に対する角度が大きな速度ベクトルを有する電子ビームを選択的に除去することができるので、第2補助電極42の貫通孔90を出射する電子ビームの発散角を小さくすることができる。また、電子ビームは電子増倍層38を通過しているので、第2トリミング層41によるトリミング作用を受けても、十分な電子ビーム量を確保できる。
【0209】
従って、ターゲット3に到達する電子ビーム量を多くすることができ、且つ、ターゲット3上において電子ビームのスポット径を小さくすることができる。
【0210】
また、補助電極42を出射する電子ビームの発散角が小さいので、補助電極42からターゲット3までの距離にバラツキが生じても、ターゲット3上における電子ビームのスポット径はほとんど変化しない。
【0211】
以上述べた如く、本実施の形態5では、補助電極42が電子増倍層38よりもターゲット3側に第2トリミング層41を備えるので、補助電極42を出射する電子ビームの発散角を実施の形態4よりも小さくすることができる。従って、補助電極42からターゲット3までの距離のバラツキによる影響をほとんど受けることなく、ターゲット3上において電子ビームのスポット径を小さくすることができる。この結果、実施の形態4に比べて、より高解像度且つ高精細の電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置を実現することができる。
【0212】
(実施の形態6)
図20は、本発明の実施の形態6に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【0213】
図20に示すように、本実施の形態6に係る電界放出型電子源装置は、補助電極8とターゲット3との間にシールド電極(補助電極)44を備える点で実施の形態1に係る電界放出型電子源装置と異なる。以下では実施の形態1と同じ部分についての説明を省略する。
【0214】
シールド電極44を設けることにより、補助電極8のターゲット3側の第2電極29とターゲット3との間の耐電圧特性を向上させることができる。
【0215】
即ち、実施の形態1で説明した図7の電界放出型電子源装置では、補助電極8の電子増倍層28が電子増倍作用を効果的に発揮するためには、電子増倍層28の両側の第1電極27及び第2電極29に数百Vから数kV程度の電圧を印加する必要がある。従って、補助電極8のターゲット3側の第2電極29は高電圧となってしまう。
【0216】
電界放出型電子源表示装置の場合、ターゲット3の電位は数kV程度である為、第2電極29とターゲット3との間の電位差は余りない。
【0217】
ところが、ターゲット3に光電変換膜を備える電界放出型電子源撮像装置の場合、光電変換膜の補助電極8側の電位は、読み出し期間終了時にエミッタ電位とほぼ同じ0〜3V程度まで低下して安定する。このとき、補助電極8のターゲット3側の第2電極29には数kVの電圧が印加されており、0〜3V程度程度のターゲット3に対する電位差が大きいので、ターゲット3と第2電極29との間で放電が起こる可能性がある。
【0218】
補助電極8とターゲット3との間にシールド電極44を設け、シールド電極44に所定の電位(例えば150V程度、但しシールド電極の位置による)を与えることにより、ターゲット3とシールド電極44との間の電位勾配を、シールド電極44がない場合のターゲット3と補助電極8の第2電極29との間の電位勾配に比べて緩和させる。これにより、ターゲット3が絡む放電の発生を抑え、耐電圧特性に関する信頼性が向上した電界放出型電子源撮像装置を提供することができる。
【0219】
図20では、実施の形態1で説明した図7の電界放出型電子源装置にシールド電極44を設けた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、上述したいずれの電界放出型電子源装置にシールド電極44を設けても良く、その場合も上記と同様の効果が得られる。
【0220】
以上述べた如く、本実施の形態6では、電子増倍層を有する補助電極とターゲットとの間にシールド電極を備え、シールド電極44に所定の電位を与えることにより、所望の電子増倍作用を得るために補助電極のターゲット側の第2電極に高電圧が印加されても、ターゲット3が絡む放電の発生を抑えることができる。従って、耐電圧特性に関して信頼性の高い電界放出型電子源装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明の利用分野は特に制限はなく、例えば電界放出型電子源表示装置及び電界放出型電子源撮像装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置に使用される補助電極の概略斜視図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置に使用される補助電極のビーム通過部に形成された貫通孔を示した一部拡大斜視図である。
【図4】図4(A)及び図4(B)は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置に使用される補助電極のビーム通過部の厚さ方向の一部拡大断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の分解斜視図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置において、電界放出型電子源アレイの一例を示した断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置に使用される補助電極の厚さ方向の一部拡大断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置に使用される別の補助電極の厚さ方向の一部拡大断面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態1に係る別の電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態1に係る別の電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態1に係る電界放出型電子源装置において、電界放出型電子源アレイの別の例を示した断面図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態1に係る別の電界放出型電子源装置の断面図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2に係る電界放出型電子源装置の断面図である。
【図15】図15は、本発明の実施の形態3に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図16】図16は、本発明の実施の形態3に係る電界放出型電子源装置に使用される補助電極の厚さ方向の一部拡大断面図である。
【図17】図17は、本発明の実施の形態4に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図18】図18は、本発明の実施の形態4に係る別の電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図19】図19は、本発明の実施の形態5に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図20】図20は、本発明の実施の形態6に係る電界放出型電子源装置の部分拡大断面図である。
【図21】図21は、従来の電界放出型電子源アレイを用いた電界放出型電子源装置の断面図である。
【図22】図22は、従来の別の電界放出型電子源アレイを用いた電界放出型電子源装置の断面図である。
【図23】図23は、従来の別の電界放出型電子源アレイを用いた電界放出型電子源装置の断面図である。
【図24】図24は、従来の別の電界放出型電子源アレイを用いた電界放出型電子源装置の断面図である。
【符号の説明】
【0223】
1,101,115 前面パネル
2,102,113 陽極電極
3,103 ターゲット
4,24,104,116 側面外周器
5,105,117 背面パネル
6,106 半導体基板
7,109 封着材料
7a フリットガラス真空封着部
7b,119 インジウム真空封着部
8,25 補助電極
8a スペーサー部
9 ビーム通過部
10 電界放出型電子源アレイ
11a,11c 電子ビーム
12,128 ゲート電極
13,126 絶縁層
14,125 エミッタ電極層
15,107,124 冷陰極素子(エミッタ)
24a 段差
26 フォーカス電極
27,31,36 第1電極
28,33,38 電子増倍層
29,34,39,41 第2電極
8,35,40,42 補助電極
32,37 トリミング層
43 電圧供給ピン
44 シールド電極
50 ゲッター
51 第1空間
52 第2空間
59 CNT
60 集束電極
61 ゲート電極
90 貫通孔
91 開口
92 電子ビーム通過行路
108 周辺素子(ゲート電極及び絶縁層)
111 入射光
112 光電変換膜
114 光電変換ターゲット
118 真空容器
120 シールドグリッド電極
121 段差
122 電圧供給端子
123 電圧供給用リード
129 電界放出型電子源アレイ
133 フリットガラス封着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界放出型電子源アレイと、前記電界放出型電子源アレイから放出された電子ビームにより所定の動作を行なうターゲットと、前記電界放出型電子源アレイと前記ターゲットとの間に配置され、前記電界放出型電子源アレイから放出された前記電子ビームが通過する複数の貫通孔が形成された補助電極とを有する電界放出型電子源装置であって、
前記複数の貫通孔のそれぞれは、前記電界放出型電子源アレイ側の開口と、前記開口から連続した電子ビーム通過行路とを有し、
前記電子ビーム通過行路の少なくとも一部に、入射した電子ビームを増倍させる電子増倍層が設けられており、
前記補助電極の前記ターゲット側には、2次電子放出係数が小さい材料からなる電子吸収層が設けられていることを特徴とする電界放出型電子源装置。
【請求項2】
前記電子ビーム通過行路の、前記電子増倍層に対して前記電界放出型電子源アレイ側の少なくとも一部に、所定の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に前記電子ビーム通過行路の側壁で吸収し除去するトリミング層が更に設けられている請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項3】
前記電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、前記トリミング層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜している請求項2に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項4】
前記電子増倍層が、前記電子ビーム通過行路の互いに異なる領域に設けられた第1電子増倍層及び第2電子増倍層を少なくとも含み、
前記第1電子増倍層と前記第2電子増倍層とは2次電子増倍係数が互いに異なる材料からなる請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項5】
前記電子増倍層が、前記電子ビーム通過行路の互いに異なる領域に設けられた第1電子増倍層及び第2電子増倍層を少なくとも含み、
前記第1電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、前記第2電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜している請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項6】
前記電子ビーム通過行路の、前記電子増倍層に対して前記ターゲット側の少なくとも一部に、所定の速度ベクトルを有する電子ビームのみを選択的に吸収し除去する第2トリミング層が更に設けられており、
前記電子増倍層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向に対して、前記第2トリミング層が設けられた前記電子ビーム通過行路の部分の延設方向が傾斜している請求項2に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項7】
前記補助電極と前記ターゲットとの間に、前記補助電極と前記ターゲットとの間の電圧差を緩和する第2補助電極を更に有する請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項8】
更に、前記電界放出型電子源アレイが形成された基板を有し、
前記補助電極は、前記電界放出型電子源アレイと前記複数の貫通孔の前記開口とを離間させるスペーサー部を一体に備え、
前記補助電極は前記スペーサー部を介して前記基板上に設置されている請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項9】
前記スペーサー部と前記基板とは導電性材料を用いて接合されており、前記導電性材料を介して前記基板から前記補助電極の少なくとも一部に給電されている請求項8に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項10】
前記電子ビーム通過行路の延設方向に垂直な方向に沿った断面形状は、円形、楕円形、いずれの内角も90度より大きな多角形、または隣り合う辺が円弧で接続された多角形である請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項11】
前記電界放出型電子源アレイは、それぞれが電子を放出する複数の電子源を備えたセルを複数有し、
前記開口は前記セルよりも小さく、
前記開口と前記セルとが垂直方向に多対一に対応するように前記電界放出型電子源アレイと前記補助電極とが配置されており、
前記セルから放出された電子ビームは、対応する前記開口に入り、前記電子ビーム通過行路を通過して、前記ターゲットに入射する請求項1に記載の電界放出型電子源装置。
【請求項12】
電界放出型電子源アレイと前記補助電極との間に、前記電界放出型電子源アレイから放出された前記電子ビームを予備集束する予備集束電極を更に有する請求項1に記載の電界放出型電子源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−250534(P2007−250534A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33559(P2007−33559)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(503217783)MT映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】