説明

電界発生装置

【課題】食品の状態変化速度を可変させることができる電界発生装置を提供する。
【解決手段】食品に印加する電界を発生させる電界発生装置は,交流電源の電圧を昇圧する昇圧トランス11と,昇圧トランスにより昇圧された交流電圧が入力される時定数を有する回路12と,時定数を有する回路から出力される交流電圧が印加され,当該交流電圧による電界を発生させる電極部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,食品用の電界発生装置に関し,特に,食品の状態変化速度を可変させる電界発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や肉・魚類などの生鮮食品を含む食品の保存期間を延長させるために,食品に高電界を印加する手法が知られている(例えば,特許文献1,2及び3)。一般的には,当該手法は,昇圧された高電圧を給電線により電極板に印加し,電極板から発生される高電界の空間内に食品が載置される。食品に高電界を印加することで,食品の状態変化(細菌繁殖による腐敗,水分蒸発による乾燥など)速度が遅くなることで,食品の鮮度劣化が抑えられるものと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−213046号公報
【特許文献2】特表平9−510867号公報
【特許文献3】特開平12376134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように,従来の電界発生装置は,食品に高電界を印加することで,食品の状態変化速度を遅らせ,食品の保存期間を延長させるが,本発明者は,食品に電界を印加する種々の実験を繰り返し,高電界を印加することで,食品の状態変化速度を遅らせるだけではなく,食品の状態変化速度を速めることができる手法を見いだした。
【0005】
そこで,本発明の目的は,食品の状態変化速度を可変させることができる電界発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は,交流電源の交流電圧を昇圧した電圧を時定数を有する回路に入力し,その時定数を有する回路からの出力電圧を電極部に印加する電界発生装置の構成に想到し,その時定数を変化させることで,食品の状態変化速度を可変させることできるとの知見を得た。
【0007】
具体的には,上記目的を達成するための本発明の電界発生装置は,食品に印加する電界を発生させる電界発生装置であって,交流電源の電圧を昇圧する昇圧トランスと,昇圧トランスにより昇圧された交流電圧が入力される時定数を有する回路と,時定数を有する回路から出力される交流電圧が印加され,当該交流電圧による電界を発生させる電極部とを備えることを特徴とする。
【0008】
時定数を有する回路は,例えば,ローパスフィルタ又はオールパスフィルタであり,時定数を有する回路と電極部とを接続する給電線は,好ましくは同軸ケーブルである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電界発生装置によれば,時定数を有する回路を介して交流電圧を電極部に印加する構成とし,設定する時定数を変化させることで,食品の状態変化速度を可変させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態における電界発生装置の構成例を示す図である。
【図2】時定数回路12の構成例を示す図である。
【図3】電極部13の構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
図1は,本発明の実施の形態における電界発生装置の構成例を示す図である。電界発生装置は,交流電源10と,交流電源の交流電圧を昇圧する昇圧トランス11と,昇圧トランス11の二次側(出力側)に接続される時定数を有する回路(以下,時定数回路と称する)12と,電界を発生する電極部13とを備え,時定数回路12と電極部13とは給電線14により接続される。給電線14には,例えば,単芯ケーブル又は同軸ケーブルを用いることができる。
【0013】
また,交流電源10は,好ましくは正弦波交流電源であり,例えば商用の交流電源(周波数50/60Hz)が用いられ,商用交流電源を昇圧トランス11の一次側に入力し,昇圧トランス11の二次側に時定数回路12を接続し,時定数回路12の出力から給電線14を用いて電極部13に接続する。当該構成により,交流電源10の交流電圧は,昇圧トランス11により昇圧され,その昇圧された交流電圧が,時定数回路12を介して電極部13に印加される。印加電圧及び電圧周波数は限定されない。
【0014】
本発明者は,電界発生装置により食品に電界を印加する種々の実験を行う中,昇圧された交流電圧を時定数回路12に入力し,その時定数回路12からの出力電圧を電極部13に印加する構成に想到し,その時定数を変化させることで,食品の状態変化速度を可変させることできるとの知見を得た。具体的に,高電界を印加するときの時定数回路の時定数を変化させることで,細菌増殖数及び蒸散率が変化する実験結果を得た。特に,細菌増殖数については,時定数を変化させることで,高電界を印加しない場合と比較して,細菌増殖数を抑える時定数と,細菌増殖数を増大させる時定数が存在することを見いだした。本実施の形態における電界発生装置の時定数を細菌増殖率を抑える時定数に設定することで,従来の効果と同様に,食品の腐敗を抑え,食品の保存期間を延長させる効果が得られ,一方,細菌増殖数を増大させる時定数に設定することで,例えば,発酵食品の製造段階において,その発酵速度を促進させる効果が得られ,発酵食品の製造工程の短縮化などの効率化に貢献する。
【0015】
図2は,時定数回路12の構成例を示す図である。時定数回路12は,抵抗素子及び容量素子を有する回路であり,例えば,図2(a),(b)に示すように,積分回路(ローパスフィルタ)である。図2(b)では,ローパスフィルタを2組組み合わせることで,図2(a)の構成と比較して,部品点数は2倍必要であるが,容量素子の必要耐電圧を半分にした構成例である。また,時定数回路12は,例えば,図2(c)に示すように,位相シフト回路(オールパスフィルタ)である。図2(c)のオールパスフィルタは位相を遅らせる構成例である。オールパスフィルタの位相のシフト量は,抵抗素子のインピーダンスR(Ω),容量素子の容量C(F)及び入力電圧の周波数により決定される。図2(c)の構成も,図2(a)の構成と比較して,部品点数は2倍必要であるが,時定数を増大させても,出力電圧は低下しない。
【0016】
図2(a)乃至(c)のいずれの回路における時定数τは,抵抗素子のインピーダンスR(Ω),容量素子の容量C(F)とすると,τ=RCで表される。また,時定数を有する回路は図2の例に限られず,例えば,時定数回路12は,コイル素子を有する回路であってもよく,その場合の時定数τは,抵抗素子のインピーダンスR(Ω),コイル素子のインダクタンスL(H)とすると,τ=L/Rで表される。時定数回路12から出力される電圧は,時定数回路12に入力される電圧と比較して,時定数回路12の時定数の大きさに応じて,その位相がずれて出力される。
【0017】
給電線14に単芯ケーブルを用いる場合,その取り回し及び設置の仕方により,接地との浮遊静電容量が変化するため,時定数回路で設定した時定数に影響を与える場合がある。一方,給電線14に同軸ケーブルを使用し,外皮導体を時定数回路12の基準極に接続することで,同軸ケーブルの種類,長さに応じた固定された静電容量となり,時定数も固定できる。よって,時定数回路12の時定数τを,同軸ケーブルの静電容量を考慮して設計すれば,給電線14の設置状況にかかわらず,設計通りの時定数を設定することができる。
【0018】
図3は,電極部13の構成例を説明する図である。図3は,電極部13の断面を示し,時定数回路12と接続する電界印加用電極131は,人間が電界印加用電極131に直接触れないように,絶縁体132で覆われる。電界印加用電極131は金属などの良導体であり,板状,箔状,線状,メッシュ状に形成され,また,電気的絶縁基材に金属メッキされたものであってもよい。電界印加用電極131は,その面積の大きさから同軸ケーブルよりも大きな接地との浮遊静電容量が発生する可能性がある。その浮遊静電容量の変化を抑えるために,好ましくは,電界印加用電極部13と電極部設置面(テーブルなどの台や,冷蔵庫の内壁面など)との間に低誘電率の充填物133が配置される。なお,低誘電率の充填物133が充填される空間は,空気層であってもよい。
【0019】
図3(a)は,電極部13の第1の構成例を示す。電界印加用電極131上に食品類が載置される。電界印加用電極131を覆う絶縁体132の断面形状をコの字状として,その開口部を下方側に向け,テーブルなどの台や,冷蔵庫の内壁面などの電極部設置面の台上に載せられ,電界印加用電極131とテーブル面との間に設けられる内部空間に,低誘電率充填物133が充填される。
【0020】
図3(a)において,浮遊静電容量が最大となる場合,すなわち,電極部設置面が電気的に接地されている場合,浮遊静電容量は概略計算でき,実測も可能である。また,浮遊静電容量が最小となる場合は,電極部の大きさにもよるが,数pF程度になると考えられる。よって,時定数回路12を設計するのに最大浮遊静電容量の半分を考慮し,また,容量素子の容量値は浮遊静電容量より十分大きく,具体的には10倍程度以上に設定し,次いで,抵抗素子の抵抗値を決定すれば,浮遊静電容量の変化,つまり,電極部の設置状況に左右されず,所望の時定数に設定することができる。
【0021】
図3(b)は,電極部13の第2の構成例を示す。図3(a)と同様に,電界印加用電極131を覆う絶縁体132の断面形状をロの字状(中空の筒状物)として,食品類が載置される上面側に,電界を印加するための電界印加用電極131を配置し,内部空間を挟んだ下面側に,電界印加用電極131と対向するように接地用電極134を配置する。接地用電極134は,電界印加用電極131と同様の構成の良導体である。内部空間には,図3(a)と同様に,低誘電率の充填物133を充填することにより,浮遊静電容量が最大となり,その値は算出可能であり,一定であるので,時定数回路の設計時に,その浮遊静電容量を加えて設計することで,浮遊静電容量の影響を排除することができる。内部空間は空気層であってもよい。
【0022】
もちろん,電界印加用電極131の接地用電極134に対向する面と反対の面,すなわち,電界を作用させる面にも浮遊静電容量が発生するが,通常使用時,当該面は,空間に面していて,接地とは距離をとることができ,浮遊静電容量は考慮する必要があるほど大きな値とならない。
【0023】
本実施の形態における電界発生装置は,用途に応じて,食品保管庫,冷蔵庫,冷凍庫,食品ショーケースなどの食品の状態変化を遅らせる食品保存用装置に加えて,例えば,発酵促進装置など食品の状態変化を速める装置にも適用可能である。また,本実施の形態における電界発生装置が適用される食品は,水などの飲料,野菜や肉・魚類の生鮮食品など,その種類は限定されない。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
実施例1では,細菌の増殖数の比較実験を行った。実験区の検体には,電界発生装置により高電界を印加する。電界発生装置は,交流電源に図2(a)の構成の時定数回路12が接続され,時定数回路12を介して電極部13に電圧が印加される。対照区の検体には,高電界は印加されない。実験条件は以下の通りである。
【0025】
実験条件
検体 生クリーム
保管温度 35℃
保管期間 48時間
実験方法
検体の作り方
(1)ステンレスボール、ホイッパーを煮沸殺菌し、ラップで包み冷蔵庫内で冷やす。
(2)植物性の生クリームは、無菌の物を使用する。
(3)冷えたステンレスボールに生クリームを入れ、市場の生クリームに近い状態にするため、砂糖を3〜5%加え、浮遊菌が均一に触れるようにホイッパーでホイップする。
(4)ホイップされた生クリームを二等分し、一方を対照区用検体、もう一方を実験区用検体とする。
【0026】
上記検体10mgにリン酸緩衝生理食塩水90mlを加えホモナイズする。試料原液を予想菌数に応じて10倍段階希釈し,標準寒天培地に分注する。35±1℃に保持された恒温槽2台に各々を48±3時間保持する。実験区用恒温槽内部には電極部13が設置され、時定数回路12を介した電圧を印加する。
【0027】
保持時間経過後、菌数(集落数)を計測する。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
実験結果1では、印加電圧が850Vacで、一般細菌の増殖が対照区基準で 49% になり、実験区の細菌増殖数は,印加電圧を加えない対照区と比較して,半分以下に抑えられている。すなわち,設定時定数2.3msとして高電界を印加すると,細菌増殖数は抑制される。
【0031】
一方,実験結果2では、実験結果1よりも高い印加電圧 960Vacで一般細菌の増殖が対照区基準で 140% になり,実験区の細菌増殖数は,印加電圧を加えない対照区と比較して,1.4倍に増大している。すなわち,設定時定数1.6msとして高電界を印加すると,細菌増殖数が増大し,高電界を印加すると細菌増殖数が抑制されるという従来の効果と異なる結果を得た。電界エネルギーだけで考えると、電界エネルギーは印加電圧の自乗に比例し,実験結果2では、実験結果1より大きい電界エネルギーを印加しており,従来の知見によれば,より低い細菌増殖数が予想されるところ,時定数を変化させて高電界を印加することで,細菌増殖数が増大するという逆の実験結果となった。もちろん電界エネルギーに影響するその他の条件項目は同一である。
【0032】
(実施例2)
実施例2では,蒸散率の比較実験を行った。実施例1と同様に,実験区の検体には,電界発生装置により高電界を印加する。電界発生装置は,交流電源に図2(a)の構成の時定数回路12が接続され,時定数回路12を介して電極部13に電圧が印加される。対照区の検体には,高電界は印加されない。実験条件は以下の通りである。
【0033】
実験条件
検体 食パン
保管温度 30℃
保管時間 24時間
実験方法
食パン 1枚を2等分し、各々を2台の30℃に保持された恒温槽内に24時間保持する。
【0034】
一台の恒温槽を対照区用とし、もう一台の恒温槽を,電界発生装置をその内部に設置した実験区とした。恒温槽底部にはドレン用の穴が開いており、湿気の出入りはそこから行われている。実験は3回行った。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
実験結果3及び4ともに,実験区の蒸散率の変化は,対照区と比較して抑制されているが,時定数の違いにより、食パンの蒸散率が変化する結果が得られた。一般的に,パン・ケーキ類は,蒸散率が6%減少することで廃棄対象となる場合もあり,実験結果3と4では,蒸散率の変化に1.5%もの差が生じたことで,時定数を異ならせることで蒸散率の変化に有意な影響を与えることが判明した。
【符号の説明】
【0038】
10:交流電源,11:昇圧トランス,12:時定数を有する回路,13:電極部,14:給電線,131:電界印加用電極,132:絶縁体,133:低誘電率充填物,134:接地用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に印加する電界を発生させる電界発生装置において,
交流電源の電圧を昇圧する昇圧トランスと,
前記昇圧トランスにより昇圧された交流電圧が入力される時定数を有する回路と,
前記時定数を有する回路から出力される交流電圧が印加され,当該交流電圧による電界を発生させる電極部とを備えることを特徴とする電界発生装置。
【請求項2】
請求項1において,
前記時定数を有する回路の時定数は,食品に電界を与えない場合と比較して,食品に含まれる細菌の増殖を速める値又は食品に含まれる細菌の増殖を遅らせる値に設定されることを特徴とする電界発生装置。
【請求項3】
請求項1又は2において,
前記時定数を有する回路は,ローパスフィルタ又はオールパスフィルタであることを特徴とする電界発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において,
前記電極部は,前記時定数を有する回路と電気的に接続する電極を有し,前記電極と接地間に空間が設けられることを特徴とする電界発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項において,
前記電極部は,前記時定数を有する回路と電気的に接続する第1の電極と,接地と電気的に接続する第2の電極とを有し,前記第1の電極と前記第2の電極間に空間が設けられることを特徴とする電界発生装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55189(P2012−55189A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199162(P2010−199162)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(510240251)
【Fターム(参考)】