説明

電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置

【課題】所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能な電界紡糸装置を提供する。
【解決手段】筐体100と、コレクター150と、ノズルブロック110と、電源装置160とを備え、電源装置160の正電極がコレクター150に接続され、電源装置160の負電極がノズルブロック110及び筐体100に接続された電界紡糸装置20であって、ノズルブロック110側からコレクター150を見たとき、絶縁部材152の外周はコレクター150の外周よりも外側に位置し、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たす電界紡糸装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルを接地した状態でコレクターに高電圧を印加して電界紡糸をする電界紡糸装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図9は、特許文献1に記載された電界紡糸装置900を説明するために示す図である。特許文献1に記載された電界紡糸装置900は、図9に示すように、ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク901と、ポリマー溶液を吐出する紡糸ノズル904及びガス流れを形成するガスノズル906を有するノズルブロック902と、導電性要素からなるコレクター920と、収集基材918を搬送するための繰り出しロール924及び巻き取りロール926とを備える。なお、図9中、符号912は吸引ブロアを示し、符号914はガス収集管を示し、符号922は支持部材を示す。
【0004】
特許文献1に記載された電界紡糸装置900においては、コレクター920に負の高電圧を印加するとともにノズルブロック902を接地した状態で紡糸ノズル904からポリマー溶液を吐出することにより、搬送されていく収集基材上にナノ繊維を電界紡糸する。
【0005】
特許文献1に記載された電界紡糸装置900によれば、ノズルブロック902をはじめとして「紡糸ノズル904から吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク901」、「ポリマー溶液を原料タンク901からノズルブロック902まで移送するポリマー溶液移送機構(例えば、配管や送りポンプなど。)」のすべてが接地電位となるため、原料タンク901やポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンク901やポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0006】
また、特許文献1に記載された電界紡糸装置900によれば、比較的単純な形状・構造にすることが可能なコレクター920に高電圧を印加するとともに、比較的複雑な形状・構造を有するノズルブロック902を接地した状態で電界紡糸するため、望ましくない放電や電圧降下を起こし難くなり、常に安定した条件の下で電界紡糸することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−506864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明の発明者の研究によれば、特許文献1に記載された電界紡糸装置のように、コレクターに高電圧を印加するとともにノズルブロックを接地した状態で電界紡糸する機構を有する電界紡糸装置であっても、実際上、コレクターと筐体その他の部材との間の絶縁が不十分になり易く、所望の性能を有するナノ繊維を製造するためにノズルブロックとコレクターとの間に極めて高い電圧(例えば35kV)を印加して電界紡糸を行うような場合には、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こったり、絶縁破壊が起こらないまでもリーク電流が望ましくないレベルにまで大きくなったりする場合があることがわかった。そうなると、結局、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じてしまうため、電界紡糸装置を長時間にわたって連続して運転することが困難となり、ひいては、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが困難となる。
【0009】
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能な電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明の電界紡糸装置は、導電性を有する筐体と、前記筐体に絶縁部材を介して取り付けられたコレクターと、前記コレクターに対向する位置に位置し、ポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有するノズルブロックと、前記ノズルブロックと前記コレクターとの間に高電圧を印加する電源装置とを備え、前記電源装置の正電極及び負電極のうち一方の電極は、前記コレクターに接続され、前記電源装置の正電極及び負電極のうち他方の電極は、前記ノズルブロック及び前記筐体に接続された電界紡糸装置であって、前記ノズルブロック側から前記コレクターを見たとき、前記絶縁部材の外周は、前記コレクターの外周よりも外側に位置し、前記絶縁部材の厚さを「a」とし、前記絶縁部材の外周と前記コレクターの外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすことを特徴とする。
【0011】
本発明の電界紡糸装置によれば、筐体又はノズルブロックを接地することにより、ノズルブロックをはじめとして「ノズルから吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク」、「ポリマー溶液を原料タンクからノズルブロックまで移送するポリマー溶液移送機構(例えば、配管や送りポンプなど。)」のすべてが接地電位となるため、特許文献1に記載された電界紡糸装置の場合と同様に、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0012】
また、本発明の電界紡糸装置によれば、ノズルブロック側からコレクターを見たとき、絶縁部材の外周は、コレクターの外周よりも外側に位置し、絶縁部材の厚さを「a」とし、絶縁部材の外周と前記コレクターの外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすため、コレクターと筐体その他の部材との間の絶縁が十分良好なものとなり、後述する試験例からも明らかなように、ノズルブロックとコレクターとの間に35kVを印加して電界紡糸を行うような場合であっても、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こらなくなる。また、リーク電流を所定範囲内にとどめることができる。その結果、本発明の電界紡糸装置によれば、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じる頻度を極めて低いレベルにまで低減することが可能となるため、電界紡糸装置を長時間にわたって連続して運転することが可能となり、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0013】
また、本発明の電界紡糸装置によれば、リーク電流を所定範囲内にとどめることができることが可能となるため、電源装置からの供給電流を常時監視することによって、電界紡糸装置の異常を早期発見することが可能となるという効果も得られる。
【0014】
[2]本発明の電界紡糸装置においては、「a≧8mm」を満たすことが好ましい。
【0015】
このような構成とすることにより、後述する試験例からも明らかなように、ノズルブロックとコレクターとの間に40kVを印加して電界紡糸を行うような場合であっても、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こらなくなる。また、リーク電流を所定範囲内にとどめることができる。
【0016】
[3]本発明の電界紡糸装置においては、「a+b≧80mm」を満たすことが好ましい。
【0017】
このような構成とすることにより、後述する試験例からも明らかなように、ノズルブロックとコレクターとの間に40kVを印加して電界紡糸を行うような場合であっても、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こらなくなる。また、リーク電流を所定範囲内にとどめることができる。
【0018】
[4]本発明の電界紡糸装置においては、前記絶縁部材は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンからなることが好ましい。
【0019】
これらの材料は、高い絶縁性能、高い機械的強度及び高い加工性とを兼ね備えた材料であり、本発明の電界紡糸装置の絶縁部材として好適に用いることができる。
【0020】
[5]本発明の電界紡糸装置においては、前記電界紡糸装置は、温度20℃〜40℃、湿度20%〜60%の雰囲気に調整された部屋に設置されていることが好ましい。
【0021】
このような構成とすることにより、リーク電流を安定して低いレベルに維持することが可能となる。
【0022】
[6]本発明の電界紡糸装置においては、前記複数のノズルの上端から前記コレクターまでの距離を「c」としたとき、「c≧60mm」を満たすことが好ましい。
【0023】
このような構成とすることにより、極めて極細のナノ繊維を製造することが可能となる。なお、本発明の電界紡糸装置においては、「300mm≧c≧100mm」を満たすことがより好ましい。
【0024】
[7]本発明の電界紡糸装置においては、前記ノズルブロックは、前記複数のノズルとして、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有し、前記電界紡糸装置は、前記複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら前記複数の上向きノズルの吐出口から前記ポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、前記複数の上向きノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を回収して前記ナノ繊維の原料として再利用することが可能であることが好ましい。
【0025】
このような構成とすることにより、複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸することが可能となるため、特許文献1に記載された下向きノズルを用いた電界紡糸装置の場合に見られるようなドロップレット現象が発生することがなく、高品質なナノ繊維を製造することが可能となる。
また、複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながらナノ繊維を電界紡糸することが可能となるため、常に十分な量のポリマー溶液が上向きノズルに供給され、均一な品質を有するナノ繊維を製造することが可能となる。
また、複数の上向きノズルの吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能となるため、原料の使用料を減らすことが可能となる結果、安価な製造コストでナノ繊維を製造することが可能となる。また、このことは省資源化の流れにも沿うものとなる。
【0026】
なお、このような上向きノズルを有するノズルブロックはポリマー溶液を回収するための機構が必要となるが、これらの機構も高耐電圧仕様にする必要がないため、これらの機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因してこれらの機構が特別に複雑化することもない。
【0027】
[8]本発明のナノ繊維製造装置は、繰り出し機構と、巻き取り機構を有し、長尺シートを搬送する搬送装置と、前記搬送装置により搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置とを備えるナノ繊維製造装置であって、前記電界紡糸装置は、本発明の電界紡糸装置であることが好ましい。
【0028】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、本発明の電界紡糸装置を備えるため、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0029】
[9]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記電界紡糸装置として、前記長尺シートの搬送方向に沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置を備えることが好ましい。
【0030】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、複数の電界紡糸装置を備えるため、当該複数の電界紡糸装置を用いてナノ繊維を製造することが可能となり、高い生産性でナノ繊維を大量生産することが可能となる。
【0031】
ところで、複数の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置においては、複数の電界紡糸装置のうちいずれか1つの電界紡糸装置についてでも、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こったり、絶縁破壊が起こらないまでもリーク電流が望ましくないレベルにまで大きくなったりすると、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じてしまうため、ナノ繊維製造装置を長時間にわたって連続して運転することが難しいと考えられる。しかしながら、本発明のナノ繊維製造装置によれば、従来よりも長時間にわたって連続して運転することが可能な本発明の電界紡糸装置を備えるため、ナノ繊維製造装置を長時間にわたって連続して運転することが可能となり、ひいては、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0032】
本発明の電界紡糸装置又はナノ繊維製造装置によれば、高機能・高感性テキスタイルなどの衣料品、ヘルスケア、スキンケアなど美容関連用品、ワイピングクロス、フィルターなど産業資材、二次電池のセパレーター、コンデンサーのセパレーター、各種触媒の担体、各種センサー材料などの電子・機械材料、再生医療材料、バイオメディカル材料、医療用MEMS材料、バイオセンサー材料などの医療材料、その他の幅広い用途に使用可能なナノ繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。
【図2】実施形態に係る電界紡糸装置20を説明するために示す図である。
【図3】実施形態に係る電界紡糸装置20の要部拡大図である。
【図4】実施形態における主制御装置60の動作を説明するために示す図である。
【図5】実施形態における主制御装置60の動作を説明するために示す図である。
【図6】試験例1における実験結果を示す図である。
【図7】試験例2における実験結果を示す図である。
【図8】電界紡糸装置20aを説明するために示す図である。
【図9】従来の電界紡糸装置900を説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0035】
1.実施形態に係る電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置
図1は、実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。図1(a)はナノ繊維製造装置1の正面図であり、図1(b)はナノ繊維製造装置1の平面図である。図2は、実施形態における電界紡糸装置20を説明するために示す図である。図3は、実施形態に係る電界紡糸装置20の要部拡大図である。図3(a)は電界紡糸装置20の要部拡大断面図であり、図3(b)は電界紡糸装置20の要部拡大平面図である。
図4は及び図5は、実施形態における主制御装置60の動作を説明するために示す図である。なお、図1及び図2においては、ポリマー溶液供給部及びポリマー溶液回収部の図示を省略してある。また、図1(a)においては、一部の部材は断面図で示している。
【0036】
実施形態に係るナノ繊維製造装置1は、図1に示すように、長尺シートWを所定の搬送速度Vで搬送する搬送装置10と、搬送装置10により長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向Aに沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置20と、通気度計測装置40と、「搬送装置10、電界紡糸装置20、後述する加熱装置30、通気度計測装置40、後述するVOC処理装置70、後述する不活性ガス供給装置190、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置」を制御する主制御装置60とを備える。
【0037】
実施形態に係るナノ繊維製造装置1においては、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向Aに沿って直列に配置された4台の電界紡糸装置20を備える。
【0038】
実施形態に係るナノ繊維製造装置1は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置30と、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去するVOC処理装置70と、主制御装置60からの信号を受信し、異常が検出された電界紡糸装置20における電界紡糸室102に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置190(図4参照)とをさらに備える。
【0039】
搬送装置10は、図1に示すように、長尺シートWを繰り出す繰り出しローラー11及び長尺シートWを巻き取る巻き取りローラー12並びに繰り出しローラー11と巻き取りローラー12との間に位置する補助ローラー13,18及び駆動ローラー14,15,16,17を備える。繰り出しローラー11、巻き取りローラー12及び駆動ローラー14,15,16,17は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
【0040】
電界紡糸装置20は、図2に示すように、導電性を有する筐体100と、筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられたコレクター150と、コレクター150に対向する位置に位置し、ポリマー溶液を吐出する複数のノズル112を有するノズルブロック110と、コレクター150とノズルブロック110との間に高電圧(例えば10kV〜50kV)を印加する電源装置160と、コレクター150とノズルブロック110とを覆う所定の空間を画定する電界紡糸室102と、長尺シートWが搬送されるのを補助する補助ベルト装置170とを備える。
【0041】
ノズルブロック110は、図2及び図3に示すように、複数のノズル112として、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズル112を有する。そして、ナノ繊維製造装置1は、複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能となるように構成されている。複数の上向きノズル112は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。複数の上向きノズル112の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)である。また、ノズルブロック110は、直接接地されているか、筐体100を介して接地されている。本発明の電界紡糸装置には様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルブロックを用いることができるが、ノズルブロック110は、例えば、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさ及び形状を有する。
【0042】
コレクター150は、上記したように、導電性を有する筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられている。電源装置160の正極は、コレクター150に接続され、電源装置160の負極は、ノズルブロック110及び筐体100に接続されている。そして、図3に示すように、ノズルブロック110側からコレクター150を見たとき、絶縁部材152の外周はコレクター150の外周よりも外側に位置し、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たす。
【0043】
絶縁部材152は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンからなる。
【0044】
複数のノズル112の上端からコレクター150までの距離を「c」としたとき、「c≧60mm」を満たす。
【0045】
電源装置160は、図4及び図5に示すように、電流供給部164と、電流供給部164からの電流を計測する電流計測部166と、電流供給部164の動作を制御するとともに電流計測部166からの計測結果を処理する制御部162とを備える。そして、電源装置160は、コレクター150と複数のノズル112との間に高電圧を印加するとともに、電源装置160から供給される電流量を計測し、計測値を主制御装置60へ送信する。また、主制御装置60から電流供給停止信号を受信したときには電力供給を停止する。
【0046】
補助ベルト装置170は、図2に示すように、長尺シートWの搬送速度に同期して回転する補助ベルト172と、補助ベルト172の回転を助ける5つの補助ベルト用ローラー174とを有する。5つの補助ベルト用ローラー174のうち1つ又は2つ以上の補助ベルト用ローラー174が駆動ローラーであり、残りの補助ベルト用ローラーが従動ローラーである。コレクター150と長尺シートWとの間に補助ベルト172が配設されているため、長尺シートWは、正の高電圧の印加されているコレクター150に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。
【0047】
電界紡糸装置20は、温度20℃〜40℃、湿度20%〜60%の雰囲気に調整された部屋に設置されている。
【0048】
加熱装置30は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。加熱温度は、長尺シートWやナノ繊維の種類によって異なるが、例えば、長尺シートWを50℃〜300℃の温度に加熱することができる。
【0049】
通気度計測装置40は、図5に示すように、ナノ繊維の堆積した長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部42と、通気度計測部42を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期Tで往復移動させる駆動部43と、駆動部43及び通気度計測部42の動作を制御するとともに、通気度計測部42からの計測結果を受けて処理する制御部44を備える。駆動部43及び制御部44は、本体部41に配設されている。通気度計測装置40としては、例えば、一般の通気度計測装置を使用することができる。
【0050】
不活性ガス供給装置190は、図4に示すように、不活性ガスを供給する不活性ガスボンベ192と、不活性ガスを各電界紡糸室102に供給する不活性ガス供給ライン194と、主制御装置60からの信号に応じて不活性ガスの供給制御を行う開閉バルブ196とを備える。
【0051】
主制御装置60は、搬送装置10、電界紡糸装置20、加熱装置30、通気度計測装置40、VOC処理装置70、不活性ガス制御装置192、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置を制御する。
【0052】
VOC処理装置70は、長尺シートにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去する。
【0053】
2.実施形態に係るナノ繊維製造装置を用いたナノ繊維製造方法
以下、上記のように構成された実施形態に係るナノ繊維製造装置1を用いてナノ繊維不織布を製造する方法について説明する。
【0054】
まず、長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0055】
このとき、主制御装置60は、例えば、コレクター150とノズルブロック110との間に35kVの電圧を印加した状態で電界紡糸を行っているとき、例えば0.24mAよりも大きい電流が複数の電源装置160のうち1又は複数の電源装置160から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置160に対して電流供給を停止させる電流供給停止信号を送信する。
【0056】
また、主制御装置60は、当該1又は複数の電源装置160に対して電流供給を停止させる電流供給停止信号を送信するときには、長尺シートWに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めるために搬送装置10に対して搬送速度を減速させる搬送速度減速信号を送信する。
【0057】
このとき、主制御装置60は、搬送速度を減速させる前の第1期間に電流供給を行っていた電源装置160の台数をn台とし、搬送速度を減速させた後の第2期間に電力供給を行なう電源装置160の台数をm台としたとき、第2期間における搬送速度を第1期間における搬送速度の「m/n」倍に制御する。その後、主制御装置60は、通気度計測装置40により計測された通気度に基づいて搬送速度をさらに細かく制御する。
【0058】
なお、搬送速度Vの制御は、駆動ローラー14,15,16,17の回転速度を制御することにより行うことができる。
【0059】
また、主制御装置60は、0.24mAよりも大きい電流が複数の電源装置160のうち1又は複数の電源装置160から供給されていることを検知したときには、不活性ガス供給装置190に対して当該1又は複数の電源装置160が属する電界紡糸装置20における電界紡糸室102に不活性ガスを供給させる信号を送信することとしてもよい。
【0060】
また、主制御装置60は、例えば0.18mAよりも小さい電流が複数の電源装置160のうち1又は複数の電源装置160から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置160が異常状態にある旨の警告(警告音又は警告表示)を出す。
【0061】
以下に、実施形態に係るナノ繊維製造方法における紡糸条件を例示的に示す。
【0062】
長尺シートとしては、各種材料からなる不織布、織物、編物などを用いることができる。長尺シートの厚さは、例えば5μm〜500μmのものを用いることができる。長尺シートの長さは、例えば10m〜10kmのものを用いることができる。
【0063】
ナノ繊維の原料となるポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、シルク、セルロース、キトサンなどを用いることができる。
【0064】
ポリマー溶液に用いる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン、THFなどを用いることができる。複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ポリマー溶液には、導電性向上剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0065】
製造するナノ繊維不織布の通気度Pは、例えば0.15cm/cm/s〜200cm/cm/sに設定することができる。搬送速度Vは、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。ノズルとコレクター150とノズルブロック110に印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができる。
【0066】
紡糸区域の温度は、例えば25℃に設定することができる。紡糸区域の湿度は、例えば30%に設定することができる。
【0067】
3.実施形態に係る電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置の効果
実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、筐体100又はノズルブロック110を接地することにより、ノズルブロック110をはじめとして「ノズル112から吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク」、「ポリマー溶液を原料タンクからノズルブロック110まで移送するポリマー溶液移送機構(例えば、配管や送りポンプなど。)」のすべてが接地電位となるため、特許文献1に記載された電界紡糸装置の場合と同様に、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0068】
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、ノズルブロック110側からコレクター150を見たとき、絶縁部材152の外周は、コレクター150の外周よりも外側に位置し、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすため、コレクター150と筐体100その他の部材との間の絶縁が十分良好なものとなり、後述する試験例からも明らかなように、ノズルブロック110とコレクター150との間に35kVを印加して電界紡糸を行うような場合であっても、コレクター150と筐体110その他の部材との間で絶縁破壊が起こらなくなる。また、リーク電流を所定範囲内にとどめることができる。その結果、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じる頻度を極めて低いレベルにまで低減することが可能となるため、電界紡糸装置を長時間にわたって連続して運転することが可能となり、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0069】
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、リーク電流を所定範囲内にとどめることができることが可能となるため、電源装置160からの供給電流を常時監視することによって、電界紡糸装置の異常を早期発見することが可能となるという効果も得られる。
【0070】
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、温度20℃〜40℃、湿度20%〜60%の雰囲気に調整された部屋に設置されているため、リーク電流を安定して低いレベルに維持することが可能となる。
【0071】
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、複数のノズル112の上端からコレクター150までの距離を「c」としたとき、「c≧60mm」を満たすため、極めて極細のナノ繊維を製造することが可能となる。
【0072】
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸することが可能となるため、特許文献1に記載された下向きノズルを用いた電界紡糸装置の場合に見られるようなドロップレット現象が発生することがなく、高品質なナノ繊維を製造することが可能となる。
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながらナノ繊維を電界紡糸することが可能となるため、常に十分な量のポリマー溶液が上向きノズルに供給され、均一な品質を有するナノ繊維を製造することが可能となる。
また、実施形態に係る電界紡糸装置20によれば、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能となるため、原料の使用料を減らすことが可能となる結果、安価な製造コストでナノ繊維を製造することが可能となる。また、このことは省資源化の流れにも沿うものとなる。
【0073】
なお、このような上向きノズルを有するノズルブロック112はポリマー溶液を回収するための機構が必要となるが、これらの機構も高耐電圧仕様にする必要がないため、これらの機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因してこれらの機構が特別に複雑化することもない。
【0074】
実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、実施形態に係る電界紡糸装置20を備えるため、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0075】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、電界紡糸装置として、長尺シートの搬送方向に沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置20を備えるため、当該複数の電界紡糸装置を用いてナノ繊維を製造することが可能となり、高い生産性でナノ繊維を大量生産することが可能となる。
【0076】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、従来よりも長時間にわたって連続して運転することが可能な本発明の電界紡糸装置を備えるため、ナノ繊維製造装置を長時間にわたって連続して運転することが可能となり、ひいては、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0077】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、上記した構成の主制御装置60を備えるため、たとえ長時間にわたって複数の電界紡糸装置20を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置20のうち1つの電界紡糸装置20についてだけ異常が発生したような場合(所定の第1設定電流量よりも大きい電流が複数の電源装置のうち1又は複数の電源装置から供給されていることを検知した場合)であっても、当該異常を即座に検出することが可能となり、安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0078】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、上記した構成の主制御装置60を備えるため、たとえ長時間にわたって複数の電界紡糸装置を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置のうち1つの電界紡糸装置についてだけ異常が発生したような場合であっても、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させるだけで、残りの電界紡糸装置の運転は停止させないので、ナノ繊維の製造自体を停止しなくても済むようになる。
【0079】
従って、実施形態に係るナノ繊維製造装置によれば、「電界紡糸装置が異常である」と判定する際の基準を甘く設定する必要がなくなる。よって、安全性を犠牲にすることなく、高い生産性でナノ繊維を大量生産することが可能となる。
【0080】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、上記した構成の主制御装置60を備えるため、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させたとしても、それに応じて搬送速度を減速させることにより、長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めることが可能となる。その結果、均一な通気度や均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0081】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、主制御装置60は、第2期間T2における搬送速度V2を第1期間T1における搬送速度V1の「m/n」倍に減速するため、長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めることが可能となる。
【0082】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、通気度計測装置40により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となるため、各電界紡糸装置における単位面積当たりの堆積量に若干のばらつきがあるような場合であっても、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0083】
[試験例1]
試験例1は、リーク電流を所定範囲内にとどめるためには、絶縁部材152の厚さ「a」をどれくらいにすればよいかを明らかにするための試験例である。表1は、試験例1における実験結果を示す表である。図6は、試験例1における実験結果を示すグラフである。
【0084】
【表1】

【0085】
試験例1においては、実施形態における電界紡糸装置20(但し、厚さ「a」は5mm、6mm、8mm、10mm又は12mmとした。また、距離「b」は30mmに固定した。)を用いて、ノズルブロック110にポリマー溶液を供給しない状態で、電源装置160から供給される電流(この場合リーク電流)が所定の電流(例えば、0.01mA、0.02mA、0.03mA、0.04mA、0.05mA)となるようにコレクター150とノズルブロック110との間に電圧を印加する。そして、そのときのリーク電流と印加電圧とをグラフにプロットした。
【0086】
表1及び図6からも分かるように、絶縁部材152の厚さ「a」が6mm以上であれば、コレクター150とノズルブロック110との間に35kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。また、絶縁部材152の厚さ「a」が8mm以上であれば、コレクター150とノズルブロック110との間に40kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。また、絶縁部材152の厚さ「a」が12mm以上であれば、コレクター150とノズルブロック110との間に45kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。
【0087】
[試験例2]
試験例2は、リーク電流を所定範囲内にとどめるためには、「絶縁部材152の表面に沿った絶縁部材152とコレクター150との間隔(a+b)」をどれくらいにすればよいかを明らかにするための試験例である。表2は、試験例2における実験結果を示す表である。図7は、試験例2における実験結果を示すグラフである。
【0088】
【表2】

【0089】
試験例2においては、実施形態における電界紡糸装置20(但し、間隔「a+b」は45mm、50mm、60mm、80mm、100mm、120mm、140mm又は160mmとした。また、厚さ「a」は40mmに固定した。)を用いて、ノズルプレート110にポリマー溶液を供給しない状態で、電源装置160から供給される電流(この場合リーク電流)が一定電流(例えば、0.01mA、0.02mA、0.03mA、0.04mA、0.05mA)となるようにコレクター150とノズルブロック110との間に電圧を印加する。そして、そのときのリーク電流と印加電圧とをグラフにプロットする。
【0090】
表2及び図7からも分かるように、「間隔(a+b)」が50mm以上であれば、コレクター150と上向きノズル112との間に35kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。また、「間隔(a+b)」が80mm以上であれば、コレクター150と上向きノズル112との間に40kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。
【0091】
試験例1及び試験例2からも分かるように、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たす場合に、電界紡糸に寄与しないリーク電流を極めて低い値に抑制することが可能となる。このため、「電界紡糸装置が異常であると判断する上限の閾値電流量であるところの所定の第1設定電流量と、正常運転時の電流量との差」又は「電界紡糸装置が異常であると判断する下限の閾値電流量であるところの所定の第2設定電流量と、正常運転時の電流量との差」を極めて小さなものにすることが可能となる。その結果、異常の発見をより早期に行うことが可能となり、より一層安全性に優れたナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0092】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0093】
(1)上記実施形態においては、電界紡糸装置として4台の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置を例にとって本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、1台〜3台又は5台以上の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0094】
(2)上記実施形態においては、上向きノズルを有する上向き式電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、下向きノズルを有する下向き式電界紡糸装置や横向きノズルを有する横向き式電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0095】
(3)上記実施形態においては、電源装置160の正極がコレクター150に接続され、電源装置160の負極がノズルブロック110及び筐体100に接続された電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電源装置の負極がコレクター150に接続され、電源装置の正極がノズルブロック110及び筐体100に接続された電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0096】
(4)上記実施形態においては、1つの電界紡糸装置に1つのノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置を用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。図8は、電界紡糸装置20aを説明するために示す図である。例えば、図8に示すように、1つの電界紡糸装置20aに2つのノズルブロック110a1,110a2が配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできるし、2つ以上のノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0097】
この場合、全てのノズルブロックでノズル配列ピッチを同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズル配列ピッチを異ならせることもできる。また、すべてのノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を異ならせることもできる。
【0098】
(5)本発明のナノ繊維製造装置においては、長尺シートの幅方向に沿ってノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させる機構を備えていてもよい。当該機構を用いてノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させながら電界紡糸を行うことにより、長尺シートの幅方向に沿ったポリマー繊維の堆積量を均一化することができる。この場合、ノズルブロックの往復運動周期や往復距離を、電界紡糸装置毎又はノズルブロック毎に独立して制御可能としてもよい。このような構成とすることにより、すべてのノズルブロックを同じ周期で往復運動させることもできるし、各ノズルブロックを異なる周期で往復運動させることもできる。また、すべてのノズルブロックで往復運動の往復距離を同一にすることもできるし、各ノズルブロックで往復運動の往復距離を異ならせることもできる。
【符号の説明】
【0099】
1…ナノ繊維製造装置、10…搬送装置、11…繰り出しローラー、12…巻き取りローラー、13,18…補助ローラー、14,15,16,17…駆動ローラー、20…電界紡糸装置、30…加熱装置、32…ヒーター、40…通気度計測装置、60…主制御装置、70…VOC処理装置、100…筐体、102…電界紡糸室、110…ノズルブロック、112…ノズル、150…コレクター、152…絶縁部材、160…電源装置、170…補助ベルト装置、172…補助ベルト、174…補助ベルト用ローラー、190…不活性ガス供給装置、192…不活性ガスボンベ、194…不活性ガス供給ライン、196…開閉バルブ、A…搬送方向、W…長尺シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する筐体と、
前記筐体に絶縁部材を介して取り付けられたコレクターと、
前記コレクターに対向する位置に位置し、ポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有するノズルブロックと、
前記ノズルブロックと前記コレクターとの間に高電圧を印加する電源装置とを備え、
前記電源装置の正電極及び負電極のうち一方の電極は、前記コレクターに接続され、
前記電源装置の正電極及び負電極のうち他方の電極は、前記ノズルブロック及び前記筐体に接続された電界紡糸装置であって、
前記ノズルブロック側から前記コレクターを見たとき、前記絶縁部材の外周は、前記コレクターの外周よりも外側に位置し、
前記絶縁部材の厚さを「a」とし、前記絶縁部材の外周と前記コレクターの外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすことを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電界紡糸装置において、
「a≧8mm」を満たすことを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電界紡糸装置において、
「a+b≧80mm」を満たすことを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記絶縁部材は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンからなることを特徴とするナノ電界紡糸装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記電界紡糸装置は、温度20℃〜40℃、湿度20%〜60%の雰囲気に調整された部屋に設置されていることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記複数のノズルの上端から前記コレクターまでの距離を「c」としたとき、「c≧60mm」を満たすことを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記ノズルブロックは、前記複数のノズルとして、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズルを有し、
前記電界紡糸装置は、前記複数の上向きノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら前記複数の上向きノズルの吐出口から前記ポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、前記複数の上向きノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を回収して前記ナノ繊維の原料として再利用することが可能であることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項8】
繰り出し機構と、巻き取り機構を有し、長尺シートを搬送する搬送装置と、
前記搬送装置により搬送されていく長尺シートにナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置とを備えるナノ繊維製造装置であって、
前記電界紡糸装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の電界紡糸装置であることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載のナノ繊維製造装置において、
前記電界紡糸装置として、前記長尺シートの搬送方向に沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置を備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−122146(P2012−122146A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272070(P2010−272070)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】