説明

電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置

【課題】ノズルのメンテナンスを容易なものとするとともにポリマー溶液の供給の仕方を多様に設定可能とする。
【解決手段】ポリマー溶液を吐出する複数のノズル240が2次元的に配置されたノズルブロック250を備え、所定の搬送方向に搬送されて行く長尺シートにポリマー溶液を吐出することによってナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置であって、ノズルブロック250は、一方の端部が閉塞端で他方の端部がポリマー溶液供給口となっている管体271〜277を有し、各管体には、ノズル240が各管体の長手方向に沿って所定数ずつ取り付けられており、かつ、各管体の各ポリマー溶液供給口には、ポリマー溶液を流通させるためのポリマー溶液流通パイプ431〜437が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺シートの搬送方向に沿って設けられた電界紡糸装置によって電界紡糸を行うことによりナノ繊維を製造するナノ繊維製造装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図6は、従来のナノ繊維製造装置900を説明するために示す図である。従来のナノ繊維製造装置900は、図6に示すように、長尺シートWを所定の搬送方向に沿って搬送する搬送装置910と、当該搬送装置910によって搬送されて行く長尺シートWにポリマー溶液を吐出することによって長尺シートWを電界紡糸する電界紡糸装置920とを備えている。
【0004】
電界紡糸装置920は、コレクター930と、コレクター930に対向する位置に配設され、ポリマー溶液を吐出する複数のノズル940が所定の配列ピッチで2次元的に配置されたノズルブロック950と、コレクター930とノズルブロック950との間に高電圧を印加する電源装置960とを備える。
【0005】
従来のナノ繊維製造装置900においては、複数のノズル940は、ノズルブロック950に直接的に取り付けられており、ポリマー溶液タンク970に貯留されているポリマー溶液がノズルブロック950に流入したのちに各ノズル940に供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4414458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のナノ繊維製造装置900においては、上記したように、複数のノズル940は、ノズルブロック950に直接的に取り付けられており、ポリマー溶液は、ノズルブロック950を介して各ノズル940に供給されるように構成されている。
【0008】
このため、ノズル940の補修や交換などを行う場合、状況によっては、ノズルブロック950全体を電界紡糸装置920から外す必要が生じる場合もあり、メンテナンスが容易ではないといった課題があり、また、ポリマー溶液の供給の仕方を多様に設定することができないといった課題もある。
【0009】
そこで、本発明は、ノズルのメンテナンスを容易なものとするとともにポリマー溶液の供給の仕方を多様に設定可能とする電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明の電界紡糸装置は、コレクターと、前記コレクターに対向する位置に設けられ、ポリマー溶液を吐出する複数のノズルが2次元的に配置されたノズルブロックと、前記コレクターと前記ノズルとの間に高電圧を与える電源装置とを備え、前記コレクターと前記ノズルとの間を所定の搬送方向に搬送されて行く長尺シートに前記ポリマー溶液を吐出することによってナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置であって、前記ノズルブロックは、前記長尺シートの幅方向に沿って配設され、一方の端部が閉塞端となっていて他方の端部がポリマー溶液供給口となっている管体を前記長尺シートの搬送方向に沿って複数本有し、前記複数の管体の各管体には、前記ノズルが前記各管体の長手方向に沿って所定数ずつ取り付けられており、かつ、前記各管体の各ポリマー溶液供給口には、前記ポリマー溶液を流通させるためのポリマー溶液流通パイプが接続されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電界紡糸装置によれば、ノズルブロックの内部に配設された複数の管体にノズルを取り付けた構成としている。従って、ノズルの補修や交換などを行う場合、管体単位でノズルの補修や交換などを行うことができるため、ノズルのメンテナンスを容易なものとすることができる。また、例えば、長尺シートの幅方向のノズルごとにポリマー溶液の供給量を制御するというように、ポリマー溶液の供給の仕方を多様に設定することができる。
【0012】
[2]本発明の電界紡糸装置においては、前記各管体は、前記ノズルブロックに対して着脱自在に取り付けられていることが好ましい。
これにより、各管体をノズルブロックから容易に取り出すことができ、ノズルの補修や交換などを行う場合、管体単位でノズルの補修や交換などを容易に行うことができる。
【0013】
[3]本発明の電界紡糸装置においては、前記ポリマー溶液流通パイプには、前記各管体ごとにポリマー溶液の供給量の制御を可能とするポリマー溶液供給量制御バルブが前記各管体に対応して設けられていることが好ましい。
【0014】
このような構成を有することによって、各管体ごとにポリマー溶液の供給量の制御を可能とすることができる。なお、本発明において、「ポリマー溶液の供給量の制御を可能とする」というは、ポリマー溶液供給量制御バルブの開量をゼロから最大まで制御可能とすることを意味している。これにより、ポリマー溶液の供給量をゼロから最大値までの間で任意に制御可能とする。
【0015】
[4]本発明の電界紡糸装置においては、前記各管体に取りつけられているノズルは、前記ノズルブロックを前記搬送方向に沿って見たときには、前記各管体に取り付けられている各ノズルによる搬送方向の列が、前記長尺シートの面と平行な平面上において前記搬送方向に対して所定角度の傾きを有する直線上に並ぶように前記各管体に取り付けられていることが好ましい。
【0016】
各管体に取り付けられるノズルをこのような配列とすることによって、各管体の長手方向(長尺シートの幅方向)におけるノズルの取り付け位置が、隣り合う管体において、互いにずれた位置となるため、搬送方向に沿って搬送されて行く長尺シートに対してナノ繊維をむらなく均一に堆積させることができる。
【0017】
[5]本発明の電界紡糸装置においては、前記ノズル及び各管体は導電性部材でなり、前記電源装置の正電極及び負電極のうちの一方の電極は、前記コレクターに接続され、前記電源装置の正電極及び負電極のうちの他方の電極は、前記各管体に接続され、前記各管体の側を接地電位としていることが好ましい。
【0018】
このように、各管体側を接地電位としているため、各管体に電気的に接続されている構成要素(例えば、ノズルブロック、筐体をはじめとして「ノズルから吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を各管体に供給するためのポリマー溶液供給装置」など)」のすべてが接地電位となるため、これら各構成要素を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、これら各構成要素を高電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化してしまうということがなくなる。なお、「ポリマー溶液を各管体に供給するためのポリマー溶液供給装置」には、ポリマー溶液タンク、ポリマー溶液流通パイプ及びポリマー溶液供給量制御バルブなどが含まれている。
【0019】
[6]本発明の電界紡糸装置においては、前記長尺シートの幅方向に沿って前記ノズルブロックを所定の周期で往復運動させる往復運動駆動部をさらに有することが好ましい。
【0020】
このような往復運動駆動部を有することにより、ノズルブロックを長尺シートの幅方向に沿って往復運動させることができる。この場合、往復運動周期を適切な周期となるように制御すれば、搬送方向に搬送されて行く長尺シートに対し、各ノズルの吐出位置が他のノズルの吐出位置にできるだけ重複しないようにすることができる。これによって、長尺シートWにおけるポリマー繊維の堆積量を均一化することができる。
【0021】
[7]本発明の電界紡糸装置においては、前記ノズルブロックと前記コレクターとの間隔を調整可能するように前記ノズルブロックを駆動させる間隔調整駆動部をさらに備えることが好ましい。
【0022】
このような間隔調整駆動部を有することにより、ノズルブロックとコレクターとの間隔を調整することができる。この場合、電界紡糸を開始する前に、コレクターとノズルブロックとの間隔を最適な間隔に調整しておけば、ノズルブロックとコレクターとの距離が最適に設定された状態で電界紡糸を行うことができる。なお、コレクターとノズルブロックとの間隔は、電界紡糸装置の紡糸条件、ポリマー溶液の種類、ナノ繊維の平均直径、ナノ繊維不織布の厚さなどを考慮して決定することができる。
【0023】
[8]本発明のナノ繊維製造装置は、長尺シートを所定の搬送方向に搬送する搬送装置と、前記所定の搬送方向に搬送されていく長尺シートを電界紡糸する電界紡糸装置とを備えるナノ繊維製造装置であって、前記電界紡糸装置は、[1]〜[7]のいずれかに記載の電界紡糸装置であることを特徴とする。
【0024】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、本発明の電界紡糸装置を備えるため、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に生産することが可能となる。
【0025】
[9]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送装置は、前記長尺シートを供給する供給ローラーと、前記長尺シートを所定の搬送速度で搬送させるとともに前記電界紡糸装置でナノ繊維が堆積された長尺シートを巻き取る巻き取りローラーと、前記巻き取りローラーを駆動する巻き取りローラー駆動部と、前記電界紡糸装置よりも前記供給ローラー側及び前記巻き取りローラー側にそれぞれ設けられ、前記長尺シートに所定の張力を与えるための第1テンションローラー及び第2テンションローラーとを有することが好ましい。
【0026】
このような構成を有することによって、長尺シートを搬送方向に沿って適切な張力で搬送させることができる。
【0027】
[10]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記第1テンションローラーは、当該第1テンションローラーの一方の端部及び他方の端部の垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の位置を各端部ごとに独立して調整可能とする第1テンションローラー位置調整機構を有し、前記第2テンションローラーは、当該第2テンションローラーの一方の端部及び他方の端部の垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の位置を各端部ごとに独立して調整可能とする第2テンションローラー位置調整機構を有することが好ましい。
【0028】
このような構成を有することにより、長尺シートの搬送方向のズレを修正することができるとともに、適切な張力となるように張力の調整も容易に行うことができる。
【0029】
[11]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送装置は、前記巻き取りローラーにおける前記ナノ繊維が堆積された長尺シートの巻き取り量を示す巻き取り量計測情報を出力する巻き取り量計測情報出力装置と、前記巻き取り量計測情報出力装置から出力された巻き取り量計測情報に基づいて前記巻き取りローラー駆動部を制御する搬送速度制御装置とをさらに有することが好ましい。
【0030】
このような構成とすることにより、巻き取りローラーにおける「ナノ繊維が堆積された長尺シート」の巻き取り量が変化しても長尺シートの搬送速度を常に一定に保持することができる。
【0031】
[12]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送装置は、前記電界紡糸装置と巻き取りローラーとの間の所定位置に設けられ、前記ナノ繊維が堆積された長尺シートを当該長尺シートの幅方向に沿って切断するための切断装置をさらに有することが好ましい。
【0032】
このような構成を有することにより、「ナノ繊維を堆積させた長尺シート」を巻き取りローラーによって所定量巻き取ったら、当該「ナノ繊維を堆積させた長尺シート」を所定位置で切断することができる。この場合、「ナノ繊維を堆積させた長尺シート」を巻き取っていない巻き取りローラーを新たに取り付けて、後続の「ナノ繊維を堆積させた長尺シート」の先端を当該巻き取りローラーに取り付ける。このような操作を繰り返すことにより、「ナノ繊維を堆積させた長尺シート」を所定の巻き取り量ごとに容易に取り出すことができる。
【0033】
なお、本発明のナノ繊維製造装置によれば、高機能・高感性テキスタイルなどの衣料品、ヘルスケア、スキンケアなど美容関連用品、ワイピングクロス、フィルターなど産業資材、二次電池のセパレーター、コンデンサーのセパレーター、各種触媒の担体、各種センサー材料などの電子・機械材料、再生医療材料、バイオメディカル材料、医療用MEMS材料、バイオセンサー材料などの医療材料その他の幅広い用途に使用可能なナノ繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。
【図2】図1における電界紡糸装置200を取り出して示す拡大図である。
【図3】ノズルブロック250を説明するために示す図である。
【図4】ノズル240の配列を模式的に示す図である。
【図5】主制御装置300の構成を説明するために示す図である。
【図6】従来のナノ繊維製造装置900の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のナノ繊維製造装置について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0036】
1.実施形態に係る電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置
図1は、実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。図1(a)はナノ繊維製造装置1の正面図であり、図1(b)はナノ繊維製造装置1の平面図である。なお、図1においては、実施形態に係るナノ繊維製造装置1を説明する際に必要な構成要素が示されており、ナノ繊維製造装置を構成する筐体などの図示は省略されている。また、図1(a)においては、一部の部材は断面図で示している。
【0037】
図2は、図1における電界紡糸装置200を取り出して示す拡大図である。
図3は、ノズルブロック250を説明するために示す図である。図3(a)はノズルブロック250の蓋体251を取り外した場合の斜視図であり、図3(b)はノズルブロック250の蓋体251を取り付けた場合の斜視図である。図4は、ノズル240の配列を模式的に示す図である。図5は、主制御装置300を説明するために示す図である。
【0038】
実施形態に係るナノ繊維製造装置1は、図1に示すように、長尺シートWを所定の搬送方向aに搬送する搬送装置100と、搬送方向aに沿って搬送されて行く長尺シートWを電界紡糸する電界紡糸装置200と、搬送装置100の各動作部(後述する。)及び電界紡糸装置200の各動作部を制御する主制御装置300とを備える。
【0039】
実施形態に係るナノ繊維製造装置1は、上記した各構成要素以外にも、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去するVOC処理装置、電界紡糸装置200に異常が検出された場合、電界紡糸装置200における電界紡糸室212に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置などを備えるが、これらの図示は省略する。
【0040】
搬送装置100は、図1に示すように、電界紡糸される前の長尺シートWを供給する供給ローラー101と、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置117と、加熱装置117で加熱された「ナノ繊維を堆積させた長尺シートW」を巻き取る巻き取りローラー102とを有する。なお、加熱装置117の加熱温度は、長尺シートWやナノ繊維の種類によって異なるが、例えば、「ナノ繊維を堆積させた長尺シートW」を50℃〜300℃の温度に加熱することができる。また、「ナノ繊維を堆積させた長尺シートW」を加熱した状態のものをナノ繊維不織布と呼ぶこともある。
【0041】
また、搬送装置100は、供給ローラー101と巻き取りローラー102との間に設けられる補助ローラー103,104,105,106と、電界紡糸装置200よりも供給ローラー101側及び巻き取りローラー102側にそれぞれ設けられ、長尺シートWに所定の張力を与えるための第1テンションローラー107及び第2テンションローラー108と、第1テンションローラー107の一方の端部及び他方の端部にそれぞれ設けられ、第1テンションローラー107の位置調整を行うための第1テンションローラー位置調整機構109a,109bと、第2テンションローラー108の一方の端部及び他方の端部にそれぞれ設けられ、第2テンションローラー108の位置調整を行うための第2テンションローラー位置調整機構110a,110bとを有する。
【0042】
また、搬送装置100は、巻き取りローラー102を駆動する巻き取りローラー駆動部111と、巻き取りローラー102の巻き取り量を計測するための情報(巻き取り量計測情報という。)を出力する巻き取り量計測情報出力装置112と、加熱装置117と巻き取りローラー102との間に設けられ、加熱装置117で加熱された「ナノ繊維を堆積させた長尺シートW」すなわちナノ繊維不織布を一方の面側(下面側)から支える支持台113と、支持台113上に存在するナノ繊維不織布を当該ナノ繊維不織布の幅方向に沿って切断するための切断装置114とを有している。
【0043】
巻き取り量計測情報出力装置112としては、例えば、レーザー距離センサーなどを用いることができる。巻き取り量計測情報出力装置112としてレーザー距離センサーを用いる場合、レーザー距離センサーによって巻き取りローラー102に巻き取られたりナノ繊維不織布の径を計測し、その計測結果を巻き取り量計測情報として主制御装置300の搬送速度制御部310(図5参照。)に送る。また、切断装置114は、ナノ繊維不織布を切断する際に、ナノ繊維不織布を支持台113上で押さえる押さえ板115と、ナノ繊維不織布を当該ナノ繊維不織布の幅方向に切断するカッター116とを有している。
【0044】
第1テンションローラー位置調整機構109a,109bは、第1テンションローラー107の一方の端部及び他方の端部の垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の位置を各端部ごとに独立して調整可能とする機構を有している。
第2テンションローラー位置調整機構110a,110bは、第2テンションローラー108の一方の端部及び他方の端部の垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の位置を各端部ごとに独立して調整可能とする機構を有している。
【0045】
第1テンションローラー位置調整機構109a,109bは、第1テンションローラー10一方の端部及び他方の端部ごとに設けられたハンドルなどの操作部を操作することによって、第1テンションローラー107の各端部を各端部ごとに独立して垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の方向に各端部を移動させることができるものであり、それによって、第1テンションローラー107の傾きを所定範囲で調整可能とするものである。第1テンションローラー位置調整機構109a,109bも第2テンションローラー108に対して同様の操作を行うことができる。
【0046】
第1テンションローラー107及び第2テンションローラー108に、このような第1テンションローラー位置調整機構109a,109b及び第2テンションローラー位置調整機構110a,110bが設けられていることにより、電界紡糸装置200を通過する長尺シートWの張力を適切な張力とすることができる。また、搬送方向aに対する長尺シートWの幅方向の「ずれ」、すなわち、長尺シートWが幅方向(y軸に沿った方向)にずれた場合の「ずれ」を補正することができる。これにより、長尺シートWを電界紡糸する上で最適な搬送状態で搬送させることができる。
【0047】
搬送速度制御部310は、巻き取り量計測情報に基づいて、長尺シートWの搬送速度が所定速度(一定速度)となるように巻き取りローラー駆動部111を制御する。すなわち、搬送速度制御部310は、巻き取り量計測情報出力装置112から送られてきた巻取り量計測情報に基づいて、長尺シートWの搬送速度が所定速度(一定速度)となるように巻き取りローラー駆動部111を制御する。
【0048】
電界紡糸装置200は、図1及び図2に示すように、導電性を有する筐体210と、長尺シートWが搬送されるのを補助する補助ベルト装置220と、筐体210に絶縁部材211を介して取り付けられたコレクター230と、コレクター230に対向する位置に設けられ、ポリマー溶液を吐出する複数のノズル240を有するノズルブロック250と、コレクター230とノズル240との間に高電圧(例えば10kV〜80kV)を印加する電源装置260と、コレクター230とノズルブロック250とを覆う所定の空間を画定する電界紡糸室212とを有する。
また、電界紡糸装置200は、図1及び図2では図示されていないが、ポリマー溶液をノズル240に供給するポリマー溶液供給装置400を有している(図3参照。)。
【0049】
なお、絶縁部材211は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポロブロビレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンを好ましく用いることができる。
【0050】
補助ベルト装置220は、図1及び図2に示すように、長尺シートWの搬送速度に同期して回転する補助ベルト221と、補助ベルト221を回転駆動させる駆動ローラー222と、駆動ローラー222により補助ベルト221が回転することによって回転する従動ローラー223とを有している。
なお、図1及び図2においては、左側のローラーを駆動ローラー222とし、右側のローラーを従動ローラー223としているが、逆であってもよく、また、2つのローラーの回転を同期させることができれば、両方とも駆動ローラーとしてもよい。
【0051】
補助ベルト221は、絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなる。また、補助ベルト221は、0.7mm〜10.0mmの厚さを有するポリマー基材からなることが好ましい。ポリマーとしては、ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリアセチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ナイロンなどのポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマーなどを好ましく用いることができる。
【0052】
補助ベルト装置220は、補助ベルト221がコレクター230を囲むように配設されている。そして、長尺シートWは、補助ベルト221の外周側に接触した状態で、駆動ローラー222側で折り返されて搬送される。
【0053】
このように、コレクター230と長尺シートWとの間に補助ベルト221が配設されていることにより、長尺シートWは、正側の高電圧が印加されているコレクター230に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。また、補助ベルト221は、絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなるため、コレクター230とノズル240との間に形成される電界分布に大きな影響を与えることもない。
【0054】
また、補助ベルト221の幅は、コレクター230の幅よりも広いものを用いる。これにより、長尺シートWとコレクター230との間に補助ベルト221が確実に存在するようになり、長尺シートWがコレクター230に引き寄せられたり、長尺シートWの円滑な搬送が妨げられたりすることを確実に防止することが可能となる。
【0055】
ノズルブロック250は、図3に示すように、一方の端部が閉塞端となっていて他方の端部がポリマー溶液供給口となっている複数本(7本とする。)の管体271〜277を有している。管体271〜277は、個々の管体が長尺シートWの幅方向に沿って配設されている。すなわち、管体271〜277は、個々の管体が図3におけるy−y’方向に沿って配設されている。なお、管体271〜277は、各管体がノズルブロック250に対して着脱自在に取り付けられている。
【0056】
これら管体271〜277には、各管体ごとに当該管体の長手方向に沿って所定数のノズル240が所定ピッチごとに取り付けられている。なお、ノズル240及び管体271〜277は、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウムなど導電部材でなり、ノズル240は管体271〜277に対して電気的に接続された状態で管体271〜277に取り付けられている。
【0057】
ポリマー溶液供給装置400は、図3に示すように、ポリマー溶液を貯留するポリマー溶液タンク410と、ポリマー溶液タンク410に貯留されているポリマー溶液を各管体271〜277まで流通させる7本のポリマー溶液流通パイプ421〜427とを有する。また、ポリマー溶液タンク410のポリマー溶液を各管体271〜277に所定の圧力を加えた状態で供給可能とするためのポリマー溶液供給ポンプ(図示せず。)も設けられている。
【0058】
ポリマー溶液流通パイプ421〜427には、ポリマー溶液の供給量の制御を可能とするためのポリマー溶液供給量制御バルブ431〜437が設けられている。なお、「ポリマー溶液の供給量の制御を可能とする」というは、ポリマー溶液供給量制御バルブ431〜437の開量をゼロから最大まで制御可能とすることを意味している。これにより、ポリマー溶液の供給量をゼロから最大値までの間で任意に制御可能とする。
【0059】
なお、図3において、ノズル240、管体271〜277、ポリマー溶液流通パイプ421〜427及びポリマー溶液供給量制御バルブ431〜437を示すそれぞれの符号は、図面の簡素化のために、各構成要素の一部のみに付されている。
【0060】
また、各管体271〜277に取りつけられている各ノズル240は、ノズルブロック250を搬送方向aに沿って見たときには、図4に示すように、各管体271〜277に取り付けられているノズル240の搬送方向aの列が、長尺シートWの面と平行な平面上において搬送方向aに対して所定角度θの傾きを有する直線L1,L2,・・・に並ぶように各管体271〜277に取り付けられている。
【0061】
各ノズル240がこのような配列となるように各ノズル240を各管体271〜277に取り付けることによって、各管体271〜277の長手方向(長尺シートWの幅方向)におけるノズル240の取り付け位置が、隣り合う管体において、互いにずれた位置となるため、搬送方向aに沿って搬送されて行く長尺シートWに対してナノ繊維をむらなく均一に堆積させることができる。
【0062】
また、ノズルブロック250は、図2に示すように、ポリマー溶液を各ノズル240の吐出口から上向きに吐出するように電界紡糸装置200の電界紡糸室212に設置されている。そして、各ノズル240の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら各ノズル240の吐出口から所定のポリマー溶液を吐出して長尺シートWを電界紡糸して長尺シートWにナノ繊維を堆積させる。
【0063】
このため、ノズルブロック250は、オーバーフローしたポリマー溶液を貯留可能な容器状をなしており、ノズルブロック250の底面には、ポリマー溶液を排出するためのポリマー溶液排出口253(図3参照。)が設けられている。このポリマー溶液排出口253には、ポリマー溶液排出用パイプ254が接続されている。なお、ポリマー溶液排出口から排出されたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することも可能である。
【0064】
また、ノズルブロック250は、図3(b)に示すように、上端開口面が蓋体251によって覆われた状態で用いられる。なお、蓋体251には、各ノズル240を上方に突出させるためのノズル貫通孔252が各ノズル240に対応して設けられている。
【0065】
また、ノズルブロック250は、往復運動駆動部255(図5参照。)によって、長尺シートWの幅方向に往復運動可能となっているとともに間隔調整駆動部256(図5参照。)によってコレクター230との間隔を調整可能としている。これら往復運動駆動部255及び間隔調整駆動部256は、主制御装置300によって制御される。なお、ノズルブロック250を長尺シートWの幅方向に往復運動させるための機構及びコレクター230との間隔を調整するための機構は、公知の機構を用いることができるので、これら各機構の具体的な構造などは図示及び説明を省略する。
【0066】
ところで、電源装置260は、コレクター230と各ノズル240との間に所定の電圧を与えるものであるが、コレクター230と各ノズル240との間に所定の電圧を与えるために、実施形態に係る電界紡糸装置200においては、電源装置260の一方の電極(正極とする。)は、コレクター230に接続し、他方の電極(負極とする。)は、ノズル240ではなく管体271〜277に接続するようにしている。そして、ノズル240側すなわち管体271〜277側が接地電位となるようにしている。
【0067】
なお、ノズルブロック250が導電性を有する部材でなり、かつ、当該ノズルブロック250と管体271〜277とが電気的に接続された状態となっていれば、電源装置260の負極はノズルブロック250に接続するようにしてもよく、また、ノズルブロック250と筐体210とが電気的に接続された状態となっていれば、電源装置260の負極は筐体210に接続するようにしてもよい。いずれも場合であっても、ノズル240側すなわち管体271〜277側、ノズルブロック250側又は筐体210側が接地電位となるようにする。
【0068】
このように、ノズル240側すなわち管体271〜277側、ノズルブロック250側又は筐体210側が接地電位となるようにすることによって、ノズル240、管体271〜277、ノズルブロック250及び筐体210をはじめとして、ノズル240から吐出される前のポリマー溶液、ポリマー溶液供給装置400のすべてが接地電位となる。
これにより、電界紡糸装置200及びナノ繊維製造装置1を操作する操作者の安全を確保することができるとともに、ポリマー溶液供給装置400を高耐電圧仕様とする必要がなくなる。
【0069】
上記のように構成された電界紡糸装置200は、温度20℃〜40℃、湿度20%〜60%の雰囲気に調整された部屋に設置されることが好ましい。
【0070】
主制御装置300は、電界紡糸装置200及び搬送装置100を制御する機能を有している。具体的には、図5に示すように、巻き取り量計測情報に基づいて搬送速度を制御する搬送速度制御部310と、ノズルブロック250を往復運動させるための往復運動駆動部255を制御する往復運動制御部320と、ノズルブロック250の間隔調整を行うための間隔調整駆動部256を制御する間隔調整制御部330とを有する。
【0071】
また、主制御装置300は、これらの制御のほかに、電界紡糸装置200においては電源装置260及び補助ベルト装置220の制御を行う機能を有し、搬送装置100においては、加熱装置117を制御する機能を有している。また、ナノ繊維製造装置1全体で考えた場合においては、VOC処理装置(図示せず。)、不活性ガス制御装置(図示せず。)などを制御する機能をも有している。
【0072】
また、第1テンションローラー位置調整機構109a,109b、第2テンションローラー位置調整機構110a,110b、切断装置114などにモーターなどの駆動部を設ければ、第1テンションローラー107、第2テンションローラー108の位置制御及び切断装置114の切断制御を主制御装置300によって行うことも可能である。なお、切断装置114の切断制御を行う場合には、ナノ繊維不織布の巻き取り量が所定量に達したら、電界紡糸装置200による電界紡糸動作を停止するとともに巻き取りローラー102によるナノ繊維不織布の巻き取りなど長尺シートWの搬送動作を停止した状態で、押さえ板115及びカッター116を動作させるための信号を出力する。カッター116によりナノ繊維不織布を切断する際は、押さえ板115でナノ繊維不織布を押さえた状態としてカッター116によりナノ繊維不織布を切断する。
【0073】
2.実施形態に係るナノ繊維製造装置を用いたナノ繊維製造方法
以下、上記のように構成された実施形態に係るナノ繊維製造装置1を用いてナノ繊維不織布を製造する方法について説明する。
【0074】
まず、長尺シートWを搬送装置100にセットし、その後、長尺シートWを供給ローラーから供給しながら巻き取りローラー102で巻き取ることにより、所定の搬送速度で搬送させる。そして、電界紡糸装置200において、各管体271〜277に取り付けられている各ノズル240から長尺シートWにポリマー溶液を吐出することによってナノ繊維を順次堆積させる。
【0075】
なお、このような動作を開始する前に、コレクター230とノズルブロック250との間隔を間隔調整駆動部256によって最適な間隔に調整することができる。コレクター230とノズルブロック250との間隔は、電界紡糸装置200の紡糸条件、ポリマー溶液の種類、ナノ繊維の平均直径、製造すべきナノ繊維不織布の厚さなどを考慮して決定することができる。これにより、ノズルブロック250とコレクター230との間隔が最適に設定された状態のもとで電界紡糸を行うことができる。
【0076】
また、長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる動作を行う際には、往復運動駆動部255によって、ノズルブロック250を長尺シートWの幅方向に往復運動させながら長尺シートWにポリマー溶液を吐出する動作を行う。なお、往復運動駆動部255の往復運動周期は、ノズル240の配列ピッチと、長尺シートWの搬送速度とに基づいて設定する。すなわち、搬送方向aに搬送されて行く長尺シートWに対し、各ノズル240の吐出位置が他のノズルの吐出位置とできるだけ重複しないように往復運動周期を設定する。これによって、長尺シートWにおけるポリマー繊維の堆積量を均一化することができる。
【0077】
このようにして、長尺シートWにポリマー繊維を堆積させたのち、「ナノ繊維を堆積させた長尺シートW」を加熱装置117で加熱することによってナノ繊維不織布を製造することができる。
【0078】
このようにして製造されたナノ繊維不織布は、巻き取りローラー102によって巻き取られる。このとき、巻き取り量計測情報出力装置112が、巻き取りローラー102に巻き取られたナノ繊維不織布の巻き取り量を計測し、その計測結果を巻き取り量計測情報として主制御装置300の搬送速度制御部310に出力する。搬送速度制御部310は、巻き取り量計測情報に基づいて、長尺シートWの搬送速度が一定速度となるように巻き取りローラー駆動部111を制御する。
【0079】
また、巻き取り量が所定量となった場合には、切断装置114によりナノ繊維不織布を切断することができる。切断装置114によりナノ繊維不織布を切断する際には、押さえ板115によってナノ繊維不織布を押さえた状態として、カッター116により切断する。ナノ繊維不織布を切断する際は、電界紡糸装置200による電界紡糸動作を停止するとともに巻き取りローラー102によるナノ繊維不織布の巻き取りなど長尺シートWの搬送動作を停止した状態で行う。
【0080】
これにより、巻き取りローラー102には所定量のナノ繊維不織布が巻き取られた状態となる。そして、ナノ繊維不織布が巻き取られていない巻き取りローラー102をセットして、後続のナノ繊維不織布の先端を、巻き取りローラー102に巻き付けて、順次製造されてくるナノ繊維不織を巻き取って行く。このような操作を順次行うことにより、所定の巻き取り量だけ巻き取られたナノ繊維不織布を次々と製造することができる。
【0081】
なお、切断装置114による切断動作は、主制御装置300によって自動的に切断動作させることも可能である。すなわち、主制御装置300では、ナノ繊維不織布の巻き取り量が所定量に達したら、電界紡糸装置200による電界紡糸動作を停止するとともに巻き取りローラー102によるナノ繊維不織布の巻き取りなど長尺シートWの搬送動作を停止した状態で、押さえ板115及びカッター116を動作させるための信号を出力する。カッター116によりナノ繊維不織布を切断する際は、押さえ板115でナノ繊維不織布を押さえた状態としてカッター116によりナノ繊維不織布を切断する。これにより、切断動作を自動的に行うことができる。
【0082】
また、ナノ繊維不織布の製造を行っている途中で、長尺シートWの張力の調整や長尺シートWの幅方向の位置を調整する必要が生じた場合には、第1テンションローラー位置調整機構109a,109b及び第2テンションローラー位置調整機構110a,110bを適宜調整することによって長尺シートWを最適な張力とすることができるとともに、長尺シートWの幅方向の位置を最適な位置とすることができる。
【0083】
ここで、実施形態に係るナノ繊維製造方法における紡糸条件を例示的に示す。長尺シートWとしては、各種材料からなる不織布、織物、編物などを用いることができる。長尺シートWの厚さは、例えば5μm〜500μmのものを用いることができる。
【0084】
ナノ繊維の原料となるポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、シルク、セルロース、キトサンなどを用いることができる。
【0085】
ポリマー溶液に用いる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン、THF、デカヒドロナフタレン(Decalin)、ジメチルホルムアミド(DMAc)などを用いることができる。複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ポリマー溶液には、導電性向上剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0086】
また、長尺シートWの搬送速度は、例えば5mm/分〜10m/分に設定することができる。コレクター230と管体271〜277とに印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができる。
また、電界紡糸装置200における電界紡糸室212の温度は、例えば20℃〜40℃に設定することができる。電界紡糸室212の湿度は、例えば20%〜60%に設定することができる。
【0087】
ところで、電界紡糸を行った際に、ノズル240からオーバーフローしたポリマー溶液は、ポリマー溶液排出口253からポリマー溶液排出用パイプ254を介して排出されるが、排出されたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用する場合には、図示しないポリマー溶液回収装置を設けることによって、再利用することができる。
【0088】
例えば、回収したポリマー溶液をポリマー溶液回収装置の再生タンクに移送した後、回収したポリマー溶液の組成を測定し、当該測定結果に応じてポリマー溶液に溶媒その他の必要な成分を添加するといった処理を行うことで、回収したポリマー溶液を元のポリマー溶液(ポリマー溶液タンク410に貯留されているポリマー溶液)の組成と同じか極めて近い組成を有するポリマー溶液に再生することが可能となる。
【0089】
3.実施形態に係る電界紡糸装置及びナノ繊維製造装置の効果
実施形態に係る電界紡糸装置200によれば、各ノズル240は、ノズルブロック250に直接的に取り付けられているのではなく、所定数ずつ各管体271〜277に取り付けられている。このため、ノズル240の補修や交換などを行う場合には、ノズルの補修や交換を行うべき管体のみをノズルブロック250から取り外して行えばよい。これにより、管体単位でノズルの補修や交換が可能となるため、メンテナンスが容易となる。また、例えば、長尺シートの幅方向のノズルごとにポリマー溶液の供給量を制御するというように、ポリマー溶液の供給の仕方を多様に設定することができる。
【0090】
なお、各管体271〜277ごとにポリマー溶液の供給量を制御する際は、各管体271〜277に対応して設けられているポリマー溶液供給量制御バルブ431〜437によって容易に行うことができる。なお、必要に応じて、ある特定の管体に対してはポリマー溶液を供給しないようにすることも可能である。このように、実施形態に係る電界紡糸装置200によれば、ポリマー溶液の供給の仕方を多様に設定することができる。
【0091】
また、各管体271〜277に取り付けられるノズル240は、図4に示すように、搬送方向aに対して所定角度θの傾きを有する直線L1,L2,・・・に並ぶように各管体271〜277に取り付けられている。このため、ノズル240は、各管体271〜277の長手方向において互いにずれた位置となることから、長尺シートWにむらなくポリマー溶液を吐出することができ、均一な厚さを有する高品質なナノ繊維を製造することができる。
【0092】
また、実施形態に係る電界紡糸装置200によれば、ノズル240側すなわち管体271〜277側、ノズルブロック250側又は筐体210側を接地電位としているため、ノズルブロック250、筐体210をはじめとして、各ノズル240から吐出される前のポリマー溶液、ポリマー溶液供給装置400のすべてが接地電位となる。このため、電界紡糸装置200及びナノ繊維製造装置1を操作する操作者の安全を確保することができるとともに、これら各構成要素を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。
【0093】
また、実施形態に係る電界紡糸装置200によれば、長尺シートWの幅方向に沿ってノズルブロック250を所定の周期で往復運動可能としているため、長尺シートWにおけるナノ繊維の堆積量を均一化することが可能となる。また、ノズルブロック250とコレクター230との間隔を調整可能としているため、最適な条件で電界紡糸を行うことが可能となる。
【0094】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、第1テンションローラー107及び第2テンションローラー108の各端部の位置を調整可能としているため、第1テンションローラー107と第2テンションローラー108との間の長尺シートWの張力を適切な張力に設定することが可能であることは勿論、搬送方向aに対する長尺シートWの幅方向の「ずれ」などの修正も容易に行うことができ、長尺シートWを常に適切な状態で搬送させることができる。それによって、均一な厚さを有する高品質なナノ繊維不織布を製造することができる。
【0095】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、巻き取りローラー102に巻き取られたナノ繊維不織布の巻き取り量を計測して、計測された巻き取り量に基づいて搬送速度を制御するようにしているので、電界紡糸装置200を通過する長尺シートWの搬送速度を一定速度に保持することができ、それによって、均一な厚さを有する高品質なナノ繊維不織布を製造することができる。
【0096】
また、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、加熱装置117と巻き取りローラー102との間に切断装置114が設けられているため、巻き取りローラーに所定量のナノ繊維不織布が巻き取られたら、当該ナノ繊維不織布を切断することができる。この場合、ナノ繊維不織布が巻き取られていない巻き取りローラーを取り付けて、後続のナノ繊維不織布の先端を当該巻き取りローラーに接続する。このような操作を繰り返すことにより、所定量の巻き取りが終了したナノ繊維不織布を容易に取り出すことができる。
【0097】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変形実施が可能であり、例えば、下記に示すような変形も可能である。
【0098】
(1)上記実施形態では、管体の数は7本(管体271〜277)としたが、7本に限られるものではない。また、各管体に取り付けられるノズルの数は、必ずしも各管体において同数である必要もない。
【0099】
(2)上記実施形態では、各管体271〜277は、長尺シートWと平行な平面上において搬送方向aに対して必ずしも直交するように配設する必要はなく、搬送方向aに対して多少の傾きを有した状態で配設するようにしてもよい。
【0100】
(3)上記実施形態においては、電界紡糸装置200が1台の場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、2台以上の電界紡糸装置を備えていてもよい。
【0101】
(4)上記実施形態においては、ノズル240が上向きとなっているノズルブロック250を有する電界紡糸装置200を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ノズルが下向きとなっているノズルブロックを有する電界紡糸装置やノズルが横向きとなっているノズルブロックを有する電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0102】
(5)上記実施形態においては、電源装置260の正極がコレクター230に接続され、電源装置260の負極が管体271〜277に接続された場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電源装置260の負極がコレクター230に接続され、電源装置260の正極が管体271〜277に接続されていてもよい。
【0103】
(6)上記実施形態においては、電界紡糸を行っている際の異常発生時における対処方法については言及しなかったが、長時間にわたって電界紡糸装置200を連続して運転するうちに、電界紡糸装置200に異常が発生したような場合には、当該異常を即座に検出可能とする機能を持たせることも可能である。
【0104】
例えば、電源装置260には、電流量を計測し、当該計測値を主制御装置300へ送信する機能を持たせるとともに、主制御装置300には電源装置260の電流量が異常値であった場合には電源装置260を制御する機能を持たせるようにすることも可能である。
【0105】
これにより、コレクター230と管体271〜277との間に所定電圧を印加した状態で電界紡糸を行っているとき、電界紡糸装置200に上限以上の電流が電源装置260から供給されていることを検知したときには、主制御装置300は、電流供給を停止させるように、電源装置260を制御することが可能となる。また、逆に、電界紡糸装置200に下限以下の電流が電源装置260から供給されていることを検知したときには、主制御装置300は、異常である旨の警告信号を出すように電源装置260を制御することも可能である。
【0106】
なお、主制御装置300が電源装置260に対して電流供給を停止させるように制御した場合には、主制御装置300は、図示しない不活性ガス供給装置に対して、不活性ガスを電界紡糸装置200の電界紡糸室212に供給させる信号を送信することとしてもよい。これにより、火災などの事故を未然に防ぐことができ、より一層安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0107】
(7)上記実施形態においては、ノズル240の形状などについては言及しなかったが、例えば、ノズル先端部がノズル240の中心軸に斜めに交わる平面に沿って切断した形状となっているようなノズルを用いることも可能である。ノズル先端部をこのような形状とすることによって、ノズル先端部からオーバーフローするポリマー溶液が、ノズル先端部で滞留することなく速やかに流れ落ちるようになる。このため、電界紡糸する過程でポリマー溶液から溶媒が揮発する量を極めて少なくすることができるとともに、ノズル240の吐出口の近傍において生成するポリマー固化物の量を極めて少なくすることができる。
【0108】
(8)上記実施形態においては、巻き取りローラー102に巻き取られたナノ繊維不織布の巻き取り量によって搬送速度を制御することによって、長尺シートWの搬送速度を一定速度となるようにしたが、巻き取り量による搬送速度の制御に加えて、例えば、堆積されたナノ繊維の通気度又は堆積されたナノ繊維の厚さを計測して、その計測結果に基づいて搬送速度を適宜制御することもできる。この場合、堆積されたナノ繊維の通気度又は堆積されたナノ繊維の厚さが所定の値に可能な限り近づくように搬送速度を制御する。これにより、均一な通気度又は厚さを有するナノ繊維不織布を生産することが可能となる。
【0109】
なお、この場合のナノ繊維の通気度とは、長尺シートW上に堆積させたナノ繊維層と長尺シートWとが積層された状態で通気度を計測した場合における通気度のことをいう。また、ナノ繊維の厚さとは、長尺シートW上に堆積させたナノ繊維層と長尺シートWとが積層された状態で厚さを計測した場合における厚さのことをいう。
【0110】
(9)上記実施形態においては、1つの電界紡糸装置200に1つのノズルブロックが配設された場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、1つの電界紡糸装置200に2つ以上のノズルブロックを有する構成であってもよい。この場合、各ノズルブロックには、上記実施形態で説明したように、所定数のノズルを取り付けた所定本数の管体が配列される。また、各ノズルブロックごとに往復運動及びコレクター230との間の間隔調整を行うようにすることも可能である。
【0111】
なお、各ノズルブロックごとに往復運動させる場合には、各ノズルブロックを同じ周期で往復運動させることもできるし、各ノズルブロックを異なる周期で往復運動させることもできる。また、各ノズルブロックごとにコレクター230との間の間隔調整を行う場合には、各ノズルブロックを同じ間隔とすることもできるし、各ノズルブロックごとに異なった間隔に設定することもできる。
【0112】
(10)上記実施形態においては、搬送装置100には、加熱装置117を設けた場合を例示したが、製造するナノ繊維の種類やナノ繊維製造装置の機種などによっては、加熱装置を設ける必要のない場合もある。
【符号の説明】
【0113】
1・・・ナノ繊維製造装置、100・・・搬送装置、101・・・供給ローラー、102・・・巻き取りローラー、103,104,105,106・・・補助ローラー、107・・・第1テンションローラー、108・・・第2テンションローラー、109a,109b・・・第1テンションローラー位置調整機構、110a,110b・・・第2テンションローラー位置調整機構、111・・・巻き取りローラ駆動部、112・・・巻き取り量計測情報出力装置(レーザー距離センサー)、113・・・支持台、114・・・切断装置、115・・・押さえ板、116・・・カッター、117・・・加熱装置、200・・・電界紡糸装置、210・・・筐体、211・・・絶縁部材、212・・・電界紡糸室、220・・・補助ベルト装置、221・・・補助ベルト、230・・・コレクター、240・・・ノズル、250・・・ノズルブロック、255…往復運動駆動部、256…間隔調整駆動部、260・・・電源装置、271〜277・・・管体、300・・・主制御装置、310・・・搬送速度制御部、400・・・ポリマー溶液供給装置、410・・・ポリマー溶液タンク、421〜427・・・ポリマー溶液流通パイプ、431〜437・・・ポリマー溶液供給量制御バルブ、a・・・搬送方向、W・・・長尺シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレクターと、前記コレクターに対向する位置に設けられ、ポリマー溶液を吐出する複数のノズルが2次元的に配置されたノズルブロックと、前記コレクターと前記ノズルとの間に高電圧を与える電源装置とを備え、前記コレクターと前記ノズルとの間を所定の搬送方向に搬送されて行く長尺シートに前記ポリマー溶液を吐出することによってナノ繊維を堆積させる電界紡糸装置であって、
前記ノズルブロックは、
前記長尺シートの幅方向に沿って配設され、一方の端部が閉塞端となっていて他方の端部がポリマー溶液供給口となっている管体を前記長尺シートの搬送方向に沿って複数本有し、前記複数の管体の各管体には、前記ノズルが前記各管体の長手方向に沿って所定数ずつ取り付けられており、かつ、前記各管体の各ポリマー溶液供給口には、前記ポリマー溶液を流通させるためのポリマー溶液流通パイプが接続されていることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電界紡糸装置において、
前記各管体は、前記ノズルブロックに対して着脱自在に取り付けられていることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電界紡糸装置において、
前記ポリマー溶液流通パイプには、前記各管体ごとにポリマー溶液の供給量の制御を可能とするポリマー溶液供給量制御バルブが前記各管体に対応して設けられていることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記各管体に取りつけられているノズルは、前記ノズルブロックを前記搬送方向に沿って見たときには、前記各管体に取り付けられている各ノズルによる搬送方向の列が、前記長尺シートの面と平行な平面上において前記搬送方向に対して所定角度の傾きを有する直線上に並ぶように前記各管体に取り付けられていることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記各ノズル及び各管体は導電性部材でなり、前記電源装置の正電極及び負電極のうちの一方の電極は、前記コレクターに接続され、前記電源装置の正電極及び負電極のうちの他方の電極は、前記各管体に接続され、前記各管体の側を接地電位としていることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記長尺シートの幅方向に沿って前記ノズルブロックを所定の周期で往復運動させる往復運動駆動部をさらに有することを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電界紡糸装置において、
前記ノズルブロックと前記コレクターとの間隔を調整可能するように前記ノズルブロックを駆動させる間隔調整駆動部をさらに備えることを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項8】
長尺シートを所定の搬送方向に搬送する搬送装置と、前記所定の搬送方向に搬送されていく長尺シートを電界紡糸する電界紡糸装置とを備えるナノ繊維製造装置であって、
前記電界紡糸装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の電界紡糸装置であることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送装置は、
前記長尺シートを供給する供給ローラーと、
前記長尺シートを所定の搬送速度で搬送させるとともに前記電界紡糸装置でナノ繊維が堆積された長尺シートを巻き取る巻き取りローラーと、
前記巻き取りローラーを駆動する巻き取りローラー駆動部と、
前記電界紡糸装置よりも前記供給ローラー側及び前記巻き取りローラー側にそれぞれ設けられ、前記長尺シートに所定の張力を与えるための第1テンションローラー及び第2テンションローラーと、
を有することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載のナノ繊維製造装置において、
前記第1テンションローラーは、当該第1テンションローラーの一方の端部及び他方の端部の垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の位置を各端部ごとに独立して調整可能とする第1テンションローラー位置調整機構を有し、
前記第2テンションローラーは、当該第2テンションローラーの一方の端部及び他方の端部の垂直方向及び水平方向の少なくとも一方の位置を各端部ごとに独立して調整可能とする第2テンションローラー位置調整機構を有することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送装置は、
前記巻き取りローラーにおける前記ナノ繊維が堆積された長尺シートの巻き取り量を示す巻き取り量計測情報を出力する巻き取り量計測情報出力装置と、
前記巻き取り量計測情報出力装置から出力された巻き取り量計測情報に基づいて前記巻き取りローラー駆動部を制御する搬送速度制御装置と、
をさらに有することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送装置は、
前記電界紡糸装置と巻き取りローラーとの間の所定位置に設けられ、前記ナノ繊維が堆積された長尺シートを当該長尺シートの幅方向に沿って切断するための切断装置をさらに有することを特徴とするナノ繊維製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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