説明

電界通信端末

【課題】ケーブルを介して混入する雑音を抑制し、通信性能の劣化を防ぐ。
【解決手段】トランシーバ部10とI/F部20を接続する配線に、電源分離部31、グランド分離部32、信号1分離部33〜信号N分離部34を備える。これにより、ACアダプタケーブル51や通信ケーブル52を介して入力され、トランシーバ部10に混入する雑音を抑制し、通信性能の劣化を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体等の電界伝達媒体に電界を誘起し、その誘起された電界を検出して通信を行う通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2にて公開されている電界通信は、人体等の電界伝達媒体に電界を誘起し、その誘起された電界を検出して通信を行う通信技術である。例えば、人体が携帯した携帯端末と人体が触れた物に接続された設置端末との間で、人体を介して通信を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−295192号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0184788号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物の壁や天井、床下等に埋め込まれる設置端末に、埋め込まれた場所の環境雑音が混入し、設置端末の性能に大きな影響を与えるという問題があった。以下、この問題について説明する。
【0005】
図8に、電源ラインや通信ケーブルを介して従来の設置端末に雑音が混入するモデルを示す。設置端末6には、電極41,42、電源ライン(ACアダプタケーブル)51、通信ケーブル52が接続され、通信端末6は通信ケーブル52を介して通信制御装置7に接続される。設置端末6は、必ずしも大地グランドと近接した場所に埋め込まれるわけではなく、図8では大地グランドと離れた場所に埋め込まれた様子を示している。設置端末6には、ACアダプタケーブル51や通信ケーブル52からコモンモードノイズが混入する。
【0006】
図9に、雑音混入の回路モデルを示す。図9に示す雑音源は、ACアダプタケーブル51や通信ケーブル52を介して設置端末6に混入するコモンモードノイズを表す。また、受信時の設置端末6を受信入力インピーダンスZtで模擬している。
【0007】
雑音の伝達経路には、ケーブル(ケーブルのインピーダンスZc)、回路グランド61を介して、電極42と大地グランド間の浮遊容量Cn2を通る経路と、受信入力インピーダンスZt、電極41と大地グランド間の浮遊容量Cn1を通る経路がある。このとき、電極41と大地グランド間に生じる電圧Vn1と、雑音により電極42と大地グランド間に生じる電圧Vn2が異なれば、受信入力インピーダンスZtに電位差が生じ、雑音が混入することになる。図9では、電極41と大地グランド間、電極42と大地グランド間を浮遊容量でモデル化したが、インピーダンスで一般化しても同じ議論が成り立つ。このようにして雑音が設置端末6に混入すると、信号対雑音比が悪くなり、データの受信率等の通信性能が劣化する。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ケーブルを介して混入する雑音を抑制し、通信性能の劣化を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電界通信端末は、電界を電界伝達媒体に誘起して通信を行う電界通信端末であって、電界通信用の電極を接続して電界通信を行う通信手段と、外部電源を接続するインターフェース回路と、前記通信手段と前記インターフェース回路とを接続する電源配線に配置され、前記通信手段が通信に用いる搬送波周波数帯において高インピーダンスとなる電源分離手段と、前記通信手段と前記インターフェース回路とを接続するグランド配線に配置され、前記通信手段が通信に用いる搬送波周波数帯において高インピーダンスとなるグランド分離手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記電界通信端末において、前記インターフェース回路は外部機器との間で信号を入出力する通信ケーブルを接続するものであって、前記通信手段と前記インターフェース回路とを接続する信号線に配置され、前記信号を通過し当該信号の周波数より高い周波数の雑音を遮断する信号分離手段を有することを特徴とする。
【0011】
上記電界通信端末において、前記通信手段は、前記電極をトランスを介して接続することを特徴とする。
【0012】
上記電界通信端末において、前記電源分離手段及び前記グランド分離手段を、コイル、コンデンサ、抵抗を並列に接続した複数のLCR並列回路を直列に接続した回路により構成することを特徴とする。
【0013】
上記電界通信端末において、前記インターフェース回路の回路グランドの雑音の強度を検出する検出手段と、前記検出手段が検出した雑音の強度が小さくなるように、前記電源分離手段及び前記グランド分離手段のインピーダンスを制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケーブルを介して混入する雑音を抑制し、通信性能の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態における電界通信端末の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の電界通信端末のACアダプタケーブルからコモンモードノイズが混入する回路モデルである。
【図3】図1の電源分離部、グランド分離部の構成例を示す回路図である。
【図4】図1の電源分離部、グランド分離部の別の構成例を示す回路図である。
【図5】本実施の形態における別の電界通信端末の構成を示すブロック図である。
【図6】図5の電界通信端末のACアダプタケーブルからコモンモードノイズが混入する回路モデルである。
【図7】本実施の形態におけるさらに別の電界通信端末の構成を示すブロック図である。
【図8】電源ラインや通信ケーブルを介して従来の設置端末に雑音が混入するモデルを示す図である。
【図9】図8の回路モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態における電界通信端末の構成を示すブロック図である。図1に示す電界通信端末1は、トランシーバ部10、インターフェース(I/F)部20、およびトランシーバ部10とI/F部20の間に各分離部を備える。
【0018】
トランシーバ部10は、電界通信用の電極41,42を接続し、電界通信による送信・受信、送受切替制御、およびデータ処理を行う。
【0019】
I/F部20は、ACアダプタケーブル51を接続し、ACアダプタ(図示せず)からACアダプタケーブル51を介して電力の供給を受けるとともに、トランシーバ部10へ電源電圧を供給する。また、I/F部20は、通信ケーブル52を接続し、トランシーバ部10が外部機器(図示せず)と通信する際に信号を中継する機能を持つ。
【0020】
トランシーバ部10とI/F部20は、電源分離部31、グランド分離部32、信号1分離部33〜信号N分離部34を介して、電源、回路グランド、信号1〜Nの各配線により接続される。電源、回路グランド、信号1〜Nの各配線上に配置された各分離部31〜34は、ACアダプタケーブル51や通信ケーブル52を介して入力される雑音がトランシーバ部10に混入することを防ぐ。
【0021】
ここで、分離部の効果について説明する。
【0022】
図2に、ACアダプタケーブルからコモンモードノイズが混入する回路モデルを示す。図2では、電源と回路グランド11,21に関する箇所を記載し、トランシーバ部10の受信状態を受信入力インピーダンスZtで模擬しており、他の機能に関する箇所は示していない。また、図2に、電極41,42を含むトランシーバ部10の入力と大地グランド間の図中波線の左側をみたインピーダンスZを示す。
【0023】
ACアダプタケーブルのインピーダンスZc1,Zc2を含めた雑音源を電圧源とみなすと、電源分離部31とグランド分離部32のインピーダンスを大きくすれば、Zに印加される雑音強度は小さくなる。Zに印加される雑音強度が小さくなれば、受信入力インピーダンスZtに印加される雑音強度も小さくなる。すなわち、電源分離部31とグランド分離部32をインピーダンスの大きな回路で構成すればトランシーバ部10に混入する雑音を抑制することができる。
【0024】
一般的に、回路の電源には電源電圧の変動を抑制する目的でデカップリングコンデンサCt,Ciが使用されており、そのインピーダンスは低い。したがって、回路グランドの配線のみにグランド分離部32を設けても、デカップリングコンデンサCt,Ciと電源を介する経路のインピーダンスが低いために分離の効果はなくなる。この対策として、電源にも電源分離部31を設けた。
【0025】
トランシーバ部10で、送受信に所定の周波数の信号(搬送波)を通信すべき情報に基づくデータで変復調する方式を採用している場合では、トランシーバ部10の受信部で搬送波の周波数帯のみを選択的に受信する設計、つまり、搬送波の周波数帯以外の周波数の雑音を除去する設計がなされる。このため搬送波と同じ周波数のコモンモードノイズを抑制すればよく、電源分離部31、グランド分離部32は、搬送波周波数帯でインピーダンスが大きくなるように設計すればよい。
【0026】
電源分離部31、グランド分離部32の構成例として、コイル、コンデンサ、抵抗を並列に接続したLCR並列回路があげられる。直流では低インピーダンスになり電源電圧が減衰なくトランシーバ部に入力される。LCR並列回路の共振周波数を搬送波周波数に一致させておけば、搬送波周波数ではLCR並列回路が抵抗となり雑音が抑制される。他方、電源分離部31、グランド分離部32としてLC並列回路を使用した場合では、Z側の容量成分と電源分離部31、グランド分離部32のLC並列回路で直列共振を起こし、雑音が大きくなる可能性がある。
【0027】
実際のLCR並列回路では、Lの寄生抵抗等のため共振のQ値が無限大にならず、インピーダンスを大きくするには限界がある。そこで、図3に示すように、LCR並列回路を直列に接続することにより、LCR並列回路を1個使用する場合よりインピーダンスを大きくすることができる。また、図4に示すように、LC並列回路を直列に接続した回路に抵抗を並列に接続してもよい。
【0028】
一方、信号1分離部33〜信号N分離部34としては、信号1〜信号Nの配線に抵抗を挿入する。通常、信号には搬送波周波数より低い周波数のデジタル信号が使用される。このため、信号1分離部33〜信号N分離部34として信号配線に抵抗を挿入することで、配線や入力段の容量とローパスフィルタが形成され、雑音を低減する十分な効果がある。
【0029】
図5は、本実施の形態における別の電界通信端末の構成を示すブロック図である。図5に示す電界通信端末は、図1に示した電界通信端末の構成に加えて、受信部13の入力にトランス15を使用して、受信時に電極41,42とトランシーバ部10を分離する点で異なる。なお、図5では、トランス15を示すために、送信部12、受信部13、および送受信を切り替える切替スイッチ14も図示している。
【0030】
図6に、図2と同様に、受信時の回路モデルを示す。トランス15の1次側コイルLと2次側コイルLで、電極41,42とトランシーバ部10の受信入力インピーダンスZtが分離されるため、雑音が受信入力インピーダンスZtに印加されるのを防ぐことができる。しかし、実際には、1次側コイルLと2次側コイルL間に寄生容量があるため、完全には分離されてはいない。そこで、トランス15に加えて、電源分離部31、グランド分離部32を備えることにより、雑音の混入をさらに抑制することができる。
【0031】
図7は、本実施の形態におけるさらに別の電界通信端末の構成を示すブロック図である。図7に示す電界通信端末は、図1に示した電界通信端末の構成に加えて、トランシーバ部10に、I/F部20の回路グランドの雑音をモニタする強度モニタ部16、電源分離部31、グランド分離部32のインピーダンスを調整するインピーダンス制御部17を備えた。
【0032】
強度モニタ部16は、搬送波周波数帯におけるI/F部20の回路グランドの雑音の強度をモニタし、強度信号をインピーダンス制御部17に出力する。
【0033】
インピーダンス制御部17は、調整時には、インピーダンス制御信号を電源分離部31、グランド分離部32に出力して、電源分離部31、グランド分離部32の共振周波数を順次変えながら強度信号を記録した後、I/F部20の回路グランドの雑音の強度が最小となるようにインピーダンス制御信号を設定する。調整終了後は、インピーダンス制御信号の設定値を保持する。
【0034】
電源分離部31、グランド分離部32をLCR並列回路で構成し、容量Cに可変容量ダイオードを使用することや、容量CまたはインダクタンスLを切り替えるスイッチを使用することで、LCR並列回路の共振周波数を可変とし、電源分離部31、グランド分離部32のインピーダンスを調整することができる。
【0035】
この機能により、LCR並列回路の構成素子のばらつきによる共振周波数のずれやボード上配線等の寄生素子による共振周波数のずれによる電源分離部31、グランド分離部32のインピーダンスの低下を防ぐことができる。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態によれば、トランシーバ部10とI/F部20を接続する配線に、電源分離部31、グランド分離部32、信号1分離部33〜信号N分離部34を備えることにより、ACアダプタケーブル51や通信ケーブル52を介して入力され、トランシーバ部10に混入する雑音を抑制し、通信性能の劣化を防ぐことができる。
【0037】
本実施の形態によれば、強度モニタ部16がI/F部の回路グランドの雑音の強度をモニタし、インピーダンス制御部17がI/F部20の回路グランドの雑音の強度が最小となるように、電源分離部31、グランド分離部32のインピーダンスを調整することにより、電源分離部31、グランド分離部32のインピーダンスの低下を防ぐことができる。
【0038】
なお、以上の実施の形態では、電界通信端末として、トランシーバを用いて本発明を説明したが、もちろん、受信の機能のみを持つ受信器にも本発明を適用可能である。電界通信端末が受信器の場合、トランシーバ部が、電界通信による受信およびデータ処理を行う受信部となる。
【符号の説明】
【0039】
1…電界通信端末
10…トランシーバ部
20…I/F部
31…電源分離部
32…グランド分離部
33…信号1分離部
34…信号N分離部
41,42…電極
11,21…回路グランド
12…送信部
13…受信部
14…切替スイッチ
15…トランス
16…強度モニタ部
17…インピーダンス制御部
51…ACアダプタケーブル
52…通信ケーブル
6…設置端末
61…回路グランド
7…通信制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界を電界伝達媒体に誘起して通信を行う電界通信端末であって、
電界通信用の電極を接続して電界通信を行う通信手段と、
外部電源を接続するインターフェース回路と、
前記通信手段と前記インターフェース回路とを接続する電源配線に配置され、前記通信手段が通信に用いる搬送波周波数帯において高インピーダンスとなる電源分離手段と、
前記通信手段と前記インターフェース回路とを接続するグランド配線に配置され、前記通信手段が通信に用いる搬送波周波数帯において高インピーダンスとなるグランド分離手段と、
を有することを特徴とする電界通信端末。
【請求項2】
前記インターフェース回路は外部機器との間で信号を入出力する通信ケーブルを接続するものであって、
前記通信手段と前記インターフェース回路とを接続する信号線に配置され、前記信号を通過し当該信号の周波数より高い周波数の雑音を遮断する信号分離手段を有することを特徴とする請求項1記載の電界通信端末。
【請求項3】
前記通信手段は、前記電極をトランスを介して接続することを特徴とする請求項1又は2記載の電界通信端末。
【請求項4】
前記電源分離手段及び前記グランド分離手段を、コイル、コンデンサ、抵抗を並列に接続した複数のLCR並列回路を直列に接続した回路により構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電界通信端末。
【請求項5】
前記インターフェース回路の回路グランドの雑音の強度を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した雑音の強度が小さくなるように、前記電源分離手段及び前記グランド分離手段のインピーダンスを制御する制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電界通信端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−223306(P2011−223306A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90391(P2010−90391)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】