説明

電着塗料用顔料分散ペースト及び電着塗料

【課題】 電着塗料用顔料分散ペーストの貯蔵安定性を向上させ、電着塗料の塗装設備の省エネルギー化や省設備化にも対応できる電着塗料を提供すること。
【解決手段】 顔料分散用樹脂、顔料及び顔料分散用樹脂と顔料の固形分合計100重量部あたり0.1〜25重量部のセルロース複合体を含有する電着塗料用顔料分散ペースト、及び基体樹脂、硬化剤及び基体樹脂と硬化剤の固形分合計100重量部あたり0.1〜20重量部のセルロース複合体を含有する電着塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れた電着塗料用顔料分散ペーストならびに塗装設備の省エネルギー化及び省設備化が可能となる電着塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗料は、塗装作業性に優れ防錆性が良好なことから、自動車ボディなどの金属製品の下塗り塗料として広く使用されている。この電着塗料に用いられる顔料分散ペーストは、通常、製造後にタンクに貯蔵され又はドラム缶に入れて倉庫に保管されるが、定期的に攪拌しないと顔料が沈降して使用に支障をきたすことがある。特に、海外の塗装設備に輸送するときには、ドラム缶に入れられた顔料分散ペーストは、長期間に亘って無攪拌状態にさらされることになるので、顔料分散ペーストの貯蔵安定性の向上は急務となっている。
【0003】
一方、電着塗料は、顔料の沈降を防止するために、通常、休憩時間や夜間や休日でも、ポンプによって塗料の循環や攪拌を行なっているが、そのための設備の設置や維持などに莫大なコストがかかり、そのため、塗装設備の省エネルギー化や省設備化に対応できる電着塗料が求められている。
【0004】
このような要望に応えるものとして、従来、顔料として比重の軽いカーボンブラックを用い、さらに硬化触媒として液状の錫触媒を用いた、静置保管時に顔料沈降がほとんどない電着塗料が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この電着塗料では、液状の錫触媒がエマルション中に配合されるため、エマルションの貯蔵安定性や電着塗料の塗料安定性に問題があり、また、顔料としてカーボンブラックを使用するため、塗色としては黒色系に限られるなどの問題がある。
【特許文献1】特開2004−123942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、貯蔵安定性に優れた電着塗料用の顔料分散ペーストを提供することである。
【0006】
本発明の目的は、また、塗料の攪拌や循環を休憩時間や休日や夜間に停止しても再分散性や塗料安定性に優れ、かつ幅広い塗色において適用可能な電着塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、今回、セルロース複合体を顔料分散ペースト又は電着塗料配合することによって上記の目的を達成することできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明は、顔料分散用樹脂、顔料及び顔料分散用樹脂と顔料の固形分合計100重量部あたり0.1〜25重量部のセルロース複合体を含有する電着塗料用顔料分散ペーストを提供するものである。
【0009】
本発明は、また、基体樹脂、硬化剤及び基体樹脂と硬化剤の固形分合計100重量部あたり0.1〜20重量部のセルロース複合体を含有する電着塗料を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電着塗料用顔料分散ペーストは、貯蔵安定性に優れているため、貯蔵時の攪拌にかかる手間や費用を省くことができ、また、たとえタンクやドラムに無攪拌状態で貯蔵しても、顔料の再分散性に優れているため、仕上り性に優れた塗装物品を与えることができる。
【0011】
本発明の電着塗料は、塗装ラインにおいて、塗料の攪拌や循環を休日や夜間に長時間停止して再び稼動した時の塗料の再分散性に優れているので、攪拌に用いるポンプの一時停止や台数を減らすなどの省エネルギー稼動及び省設備化が可能である。
【0012】
以下、本発明の電着塗料用顔料分散ペースト及び電着塗料についてさらに詳細に説明する。
【0013】
顔料分散ペースト
本発明の顔料分散ペーストは、基本的に顔料分散用樹脂と顔料からなり、さらにセルロース複合体を含有するものである。
【0014】
セルロース複合体は、微細セルロースと水溶性ガム類及び/又は親水性物質とからなる複合体であって、微細セルロースと水溶性ガム類と親水性物質からなる複合体;微細セルロースと水溶性ガム類からなる複合体;及び微細セルロースと親水性物質からなる複合体を包含し、例えば、セルロースを磨砕することにより得られる微細セルロースに、水溶性ガム類及び/又は親水性物質を加えて分散させ均質なスラリーとなし、次いでこれを乾燥することによって製造することができる。
【0015】
微細セルロースは、例えば、木材パルプ、精製リンター等のセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解、スチームエクスプロージョン分解等により解重合処理して、平均重合度が30〜375のセルロースとなし、次いで磨砕する、例えば機械的なシェアをかけ湿式磨砕することにより得ることができる。
【0016】
湿式磨砕は、媒体ミル類、例えば、湿式振動ミル、湿式遊星振動ミル、湿式ボールミル、湿式ロールミル、湿式ボールミル、湿式ビーズミル、湿式ペイントシェーカー等の他、高圧ホモジナイザー等の機械を用いて行うことができる。高圧ホモジナイザーとしては、約500Kg/cm以上の高圧で、スラリーを微細オリフィスに導き高流速で対面衝突させるタイプのものが効果的である。
【0017】
これらのミルにおける最適磨砕濃度は、機種により異なるが、一般には、媒体ミルで5〜15%、高圧ホモジナイザーで5〜20%の範囲内の固形分濃度が適している。セルロースの磨砕を効率よく行うためには媒体ミルが適している。
【0018】
上記の磨砕によって、平均粒子径が10μm以下、好ましくは8μm以下、さらに好ましくは5μm以下の微細セルロースを得ることができる。なお、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計LA−920(堀場製作所社製)を用いて測定したときの値である。
【0019】
得られる微細セルロースは水溶性ガム類及び/又は親水性物質と混合し複合体とする。これにより、乾燥時に微細化したセルロース粒子同士が再凝集するのを防ぐことができる。
【0020】
水溶性ガム類としては、水膨潤性が高く、セルロースとの水中における相溶性が良好な水溶性のガム類が好ましく、例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、クインスシードガム、カラヤガム、アラビアガム、トラガントガム、ガッティーガム、アラビノガラクタン、寒天、カラギーナン、アルギン酸及びその塩、ファーセレラン、ペクチン、マルメロ、キサンタンガム、カードラン、プルラン、デキストラン、ジェランガム、ゼラチン、繊維素グリコール酸ナトリウム等のセルロース誘導体等を用いることができる。このうち、繊維素グリコール酸ナトリウムは、膨潤性と親水性を兼ね備えているため、親水性物質と併用することなくガム単独での使用も可能である。
【0021】
一方、親水性物質としては、例えば、水、澱粉加水分解物、デキストリン類、ブドウ糖、果糖、キシロース、庶糖、乳糖、麦芽糖、異性化糖、カップリングシュガー、パラチノース、ネオシュガー、マンニトール、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等の単糖類、オリゴ糖類を含む水溶性糖類、キシリトール、マルチトール、マンニット、ソルビット等の糖アルコール類、ソルボース等が挙げられる。
【0022】
親水性物質は、セルロースの水中への分散を促進し、水溶性ガム類と組み合わせることにより分散容易性又は分散安定性に顕著な効果を奏する。
【0023】
セルロース複合体における微細セルロースの割合は、セルロース複合体の固形分を基準にして、一般に0.1〜99重量%、好ましくは1〜95重量%、さらに好ましくは10〜85重量%の範囲内にあることが、塗料安定性の面から好適である。また、水溶性ガム類と親水性物質とを併用する場合の両者の比率は、水溶性ガム類/親水性物質の重量比で通常95/5〜5/95、好ましくは80/20〜20/80の範囲内とすることができる。
【0024】
セルロース複合体は、微細化セルロースを水溶性ガム類及び/又は親水性物質と混合し分散した後、乾燥することにより製造することができるが、その際、特に、水溶性ガム類は十分に溶解し均一混合することが重要である。溶解複合化を促進するために、加熱処理を行ってもよい。
【0025】
乾燥は、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥等により行うこともできるが、フィルム状にて乾燥する方法が優れている。フィルム状にて乾燥する方法としては、例えば、微細化セルロースを水溶性ガム類及び/又は親水性物質とともに均一混合して得られるスラリーを、ガラス、ステンレス、アルミニウム、ニッケル・クロムメッキ鋼板等の基材上に塗布して乾燥する方法が挙げられる。基材は予め加熱されていてもよく、また、塗布後、赤外線、熱風、高周波等にて加熱してもよい。乾燥温度は200℃以下、そして塗布膜厚はスラリーの厚みとして10mm以下が好ましい。工業的には、スチールベルトドライヤー、ドラムドライヤー、ディスクドライヤー等の乾燥機を使用して乾燥粉体を得ることができる。
【0026】
かくして得られる乾燥粉体を電子顕微鏡で観察すると、表面に微粒子化したセルロースが網目状に配列しており、微粒子セルロース間には無数の空隙が見られる。
【0027】
上記のようにして得られるセルロース複合体の市販品としては、アビセルRC−N81、アビセルRC−N30、アビセルRC−591、アビセルCL−611、セオラスクリームFP−03(以上、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名)などが挙げられる。
【0028】
セルロース複合体は、水中に沈降することなく安定に分散する性能を有しており、電着塗料に適用した場合、塗料の攪拌や循環を休日や夜間に長時間停止して再び稼動した時の塗料の再分散性や塗膜の仕上がり性に優れた塗料を得ることができる。
【0029】
電着塗料へのセルロース複合体の導入は、通常の電着塗料への顔料の配合と同様にして行なうことができ、例えば、顔料分散用樹脂と顔料、そして場合によりこれらに硬化触媒、中和剤、界面活性剤、水などを配合し、さらにセルロース複合体を加え、顔料分散して顔料分散ペーストを調製することによって行うことができる。顔料分散は、例えば、ボールミル、ペブルミル、サンドミル、シェイカー等の分散機を用いて行うことができる。
【0030】
顔料分散用樹脂としては、電着塗料の調製に通常用いられるものが使用可能であり、例えば、3級アミン型などのアミノ基含有エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型アクリル樹脂などが挙げられる。
【0031】
顔料としては、電着塗料に通常用いられるものが同様に使用可能であり、例えば、着色顔料としては、カーボンブラック、ペリレンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、オーカ等が挙げられる。部品用などの塗色が黒である場合には、カーボンブラック、ペリレンブラックなどが好ましい。体質顔料としては、例えば、クレー、マイカ、タルク、バリタ、シリカなどが挙げられ、防錆顔料としては、例えば、リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウムなどが挙げられる。その他、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス、ハイドロタルサイト、亜鉛化合物などを用いることもできる。
【0032】
適宜配合される硬化触媒は、塗膜の架橋反応を促進するために有効であり、例えば、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド、錫オクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジベンゾエートなどが挙げられる。
【0033】
顔料分散ペースト中におけるセルロース複合体の配合量は、顔料分散用樹脂と顔料の固形分合計100重量部あたり、一般に0.1〜25重量部、好ましくは0.3〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部の範囲内とすることができる。また、顔料分散用樹脂の配合量は、顔料分散ペーストの重量を基準にして、通常5〜30%、好ましくは10〜25%範囲内、そして顔料は通常30〜60%、好ましくは40〜50%範囲内とすることができる。
【0034】
かくして得られる顔料分散ペーストは、コンテナやドラムに貯蔵して無攪拌で長期間保存しても再分散性に優れており、長期間にわたる貯蔵や長距離の輸送が容易になる。
【0035】
電着塗料
本発明により提供される顔料分散ペーストは、基体樹脂及び硬化剤などを含有するエマルションと混合して、電着塗料を製造することができる。
【0036】
セルロース複合体は、一般に、顔料分散ペースト中に配合して電着塗料に導入することが好ましいが、電着塗料の調製の任意の段階で、電着塗料中に配合することも可能であり、或いはあらかじめ調製された基体樹脂及び硬化剤などを含有する電着塗料に、例えば、水とセルロース複合体を混合してなる分散体の形で直接配合することもできる。
【0037】
電着塗料に対するセルロース複合体の配合割合は、電着塗料における基体樹脂と硬化剤の固形分合計100重量部あたり、一般に0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜8重量部の範囲内が塗料安定性や仕上がり性などの面から好ましい。
【0038】
電着塗料は、アニオン型及びカチオン型いずれであってもよいが、耐食性などの点から、一般にはカチオン型が好ましい。また、基体樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリブタジエン樹脂系、アルキド樹脂系、ポリエステル樹脂系などのいずれの塗料用樹脂でも使用することができるが、なかでも、アミン付加エポキシ樹脂に代表されるポリアミン樹脂が好ましい。
【0039】
アミン付加エポキシ樹脂はエポキシ樹脂にアミン化合物を付加させることによりえられるものであり、その際に用いられるエポキシ樹脂としては、塗膜の防食性等の観点から、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。
【0040】
該エポキシ樹脂の形成のために用い得るポリフェノール化合物としては、従来から用いられているものと同様のものが使用でき、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げられる。
【0041】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式
【0042】
【化1】

【0043】
で示されるものが好適である。
【0044】
エポキシ樹脂は、一般に180〜2,500、好ましくは200〜2,000、さらに好ましくは400〜1,500の範囲内のエポキシ当量を有することができ、また、一般に少なくとも200、特に400〜4,000、さらに特に800〜2,500の範囲内の数平均分子量を有するものが適している。
【0045】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からエピコート828EL、同1002、同1004、同1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0046】
アミン化合物は、エポキシ樹脂にアミノ基を導入して該エポキシ樹脂をカチオン化するためのカチオン性付与成分であり、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有するもの、例えば、1級アミノ基を有するアミン化合物が用いられる。
【0047】
1級アミノ基を有するアミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、プロパノールアミン、ヒドロキシエチルアミノエチレンジアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのケチミン化物が挙げられる。
【0048】
上記1級アミノ基を有するアミン化合物は他のアミン化合物と併用することができ、併用することができるアミン化合物としては、特に2級アミンが好ましく、例えば、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエタノールアミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0049】
上記のエポキシ樹脂は、キシレンホルムアルデヒド樹脂やカプロラクトン性ポリオール化合物などと反応させることにより変性することができる。
【0050】
キシレンホルムアルデヒド樹脂は、例えば、キシレン、ホルムアルデヒド、及び場合によりフェノール類を酸性触媒の存在下に縮合反応させることにより製造することができる。上記のホルムアルデヒドとしては、工業的に入手容易なホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等のホルムアルデヒドを発生する化合物などを例示することができる。キシレンホルムアルデヒド樹脂は、一般に、20〜50,000センチポイズ(25℃)、好ましくは30〜15,000センチポイズ(25℃)の範囲内の粘度を有することができ、そして一般に100〜50,000、特に200〜10,000の範囲内の水酸基当量を有していることが好ましい。
【0051】
一方、上記のカプロラクトン性ポリオール化合物は、複数の活性水素基を含有する化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパンなどにカプロラクトンを付加して得ることができる。
【0052】
キシレンホルムアルデヒド樹脂やポリカプロラクトン性ポリオール化合物によるエポキシ樹脂の変性は、一般に、アミン化合物と変性剤をエポキシ樹脂のエポキシ基に同時に反応させることによって行うことが好ましい。
【0053】
上記の変性剤の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、エポキシ樹脂の固形分重量を基準にして、一般に5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲内が適当である。
【0054】
カチオン電着塗料に配合する硬化剤としては、ブロック化ポリイソシアネート化合物やアミノ樹脂等の従来から知られている硬化剤を用いることができ、特に、ブロック化ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0055】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂環族または脂肪族のポリイソシアネート化合物およびこれらのイソシアネート化合物の過剰量にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート含有化合物などが挙げられる。
【0056】
ブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物等が挙げられる。これらのうち、オキシム系およびラクタム系のブロック剤は、比較的低温で解離するブロック剤であり、低温硬化性の点から特に好適である。
【0057】
基体樹脂及び硬化剤の使用量は、両者の合計重量を基準にして、基体樹脂は60〜90%、好ましくは70〜85%範囲内、そして硬化剤は40〜10%、好ましくは30〜15%範囲内とすることができる。
【0058】
上記の基体樹脂と硬化剤は、通常、該樹脂をギ酸、酢酸、乳酸などの水溶性有機酸で中和して水溶化又は水分散化することによってエマルションとすることができる。
【0059】
カチオン電着塗料は、エマルションに顔料分散ペーストを添加し、必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、表面調整剤、はじき防止剤などの添加物を配合することにより調製することができ、また、固形分濃度が5〜25重量%の範囲内となるように脱イオン水などで希釈し、pHを5.0〜7.0の範囲内に調整することによりカチオン電着塗料の浴を得ることができる。
【0060】
電着塗装は、通常、浴温15〜35℃及び印可電圧100〜400Vの条件で行なうことができる。
【0061】
電着塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般には、硬化塗膜に基いて10〜40μmの範囲内が好ましい。また、塗膜の焼付け条件は、一般に、100〜200℃の範囲内で5〜90分間が適している。
【0062】
本発明の電着塗料は、塗装ラインにおいて塗料の攪拌や循環を休日や夜間に長時間停止して再び稼動した時の塗料の再分散性や塗料安定性に優れるため、省エネルギー稼動及び省設備化が可能である。
【0063】
本発明の電着塗料は、セルロース複合体が配合されているにもかかわらず、防食性、防錆用鋼板に対する電着塗装適性、基材との密着性などに優れた硬化塗膜を形成するものであり、例えば、自動車車体、自動車部品、工業用、建設・建築分野などにおける下塗り塗料として有用である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」を示す。
【0065】
製造例1
市販されているパルプ(DPパルプ)を細断後、10%塩酸中で105℃、20分間加水分解し、得られた酸不溶性残渣をろ過、洗浄した後、固形分10%のセルロース分散液が得られた。
【0066】
このセルロース分散液を、媒体撹拌湿式粉砕装置(コトブキ技研工業株式会社製アペックスミル、AM−1型)により、媒体として直径1mmφのジルコニアビーズを用いて、撹拌翼回転数1800rpm、セルロース分散液の供給量0.4l/minの条件下に2回通過で粉砕処理を行い、ペースト状のセルロースを得た。平均粒子径は3.1μmであった。
【0067】
次に、セルロースとキサンタンガム及びブドウ糖を配合組成がそれぞれ固形分比で75/5/20となるようにして混合し、総固形分濃度が3.5%の分散液を得た。これを撹拌しながら80℃、60分間の加熱処理を行った後、噴霧乾燥してセルロース複合体No.1を得た。
【0068】
製造例2
ボールミルに、60%エポキシ系4級アンモニウム塩型の顔料分散樹脂 8.33部(固形分5部)、複合体No.1 0.25部、チタン白 16.5部、クレー 8部、カーボンブラック 0.3部、水酸化ビスマス 2部、ジオクチル錫オキサイド 1部及び脱イオン水 23.7部を仕込み、20時間分散処理し、固形分55%の顔料ぺーストNo.1を得た。
【0069】
製造例3〜7
製造例2と同様にして表1に示す配合で、顔料分散ペーストNo.2〜No.6を得た。
【0070】
【表1】

【0071】
(注1)アビセルRC−N81:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名、セルロース複合体 (結晶セルロース、カラヤガム、デキストリン)
(注2)アビセルRC−N30:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名、セルロース複合体 (結晶セルロース、キサンタンガム、デキストリン)
(注3)セオラスクリームFP−03:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名、セルロース 複合体(結晶セルロース、水)
【0072】
製造例8
温度計、サーモスタット、撹拌器及び還流冷却器を備えた反応容器に、エピコート828EL(油化シェルエポキシ社製、エポキシ樹脂、エポキシ当量約190) 380部及びビスフェノールA 137部仕込み、100℃に加熱保持しながら、N−ベンジルジメチルアミン 0.26部を添加し、120℃まで加熱昇温し、約2時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトン 120部を配合し、80℃まで冷却し、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルジケチミン(メチルイソブチルケトンの75%溶液) 14部とN−エチルモノエタノールアミン 57部を配合し、100℃まで加熱昇温して約5時間反応させ、ついでプロピレングリコールモノメチルエーテル 41部を加え、固形分80%の基体樹脂No.1を得た。
【0073】
製造例9
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、50%ホルマリン 240部、フェノール 55部、98%工業用硫酸 101部及びメタキシレン 212部を仕込み、84〜88℃で4時間反応させる。反応終了後、静置して樹脂相と硫酸水相とを分離した後、樹脂相を3回水洗し、20〜30mmHg/120〜130℃の条件で20分間未反応メタキシレンをストリッピングして、粘度1050センチポイズ(25℃)のフェノール変性のキシレンホルムアルデヒド樹脂 240部を得た。
【0074】
別のフラスコに、エピコート828EL(ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂 、エポキシ当量190、分子量350) 1000部、ビスフェノールA 400部及びジメチルベンジルアミン 0.2部を加え、130℃でエポキシ当量750になるまで反応させた。
【0075】
次に、フェノール変性のキシレンホルムアルデヒド樹脂 300部、ジエタノールアミン 140部及びジエチレントリアミンのケチミン化物 65部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル 420部を加え、固形分80%のキシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂である基体樹脂No.2を得た。
【0076】
製造例10
反応容器中にコスモネートM−200(三井化学社製、商品名、クルードMDI)270部及びメチルイソブチルケトン 25部を加え70℃に昇温した。その中に2,2−ジメチロールブタン酸 15部を徐々に添加し、ついでエチレングリコールモノブチルエーテル 118部を滴下して加え、70℃で1時間反応させた後、60℃に冷却し、プロピレングリコール 152部を添加した。
【0077】
この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分90%のブロックポリイソシアネート硬化剤を得た。
【0078】
製造例11
製造例8で得た基体樹脂No.1 87.5部(固形分70部)、製造例10で得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤 33.3部(固形分30部)及び10%酢酸 15部を配合し均一に撹拌した後、脱イオン水 158.3部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のカチオン電着用のエマルションNo.1を得た。
【0079】
製造例12
製造例8で得た基体樹脂No.1の代わりに製造例9で得たアミン変性エポキシ樹脂No.2を用いる以外は製造例11と同様にして、固形分34%のカチオン電着用のエマルションNo.2を得た。
【0080】
実施例1〜5、比較例1
製造例2〜7で得た顔料分散ペーストNo.1〜No.6 各100gを採り、蓋のついたガラス容器に40℃で4週間貯蔵した。貯蔵後の状態を下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
(注4)顔料分散ペーストの貯蔵安定性:貯蔵後の顔料分散ペーストの状態を観察した。
○は、攪拌すると直ぐに貯蔵前の状態に戻り、問題なし。
△は、顔料が沈降してケーキ層がみられ、1時間前後攪拌すれば貯蔵前の状態に 戻る。
×は、顔料が沈降してケーキ層がみられ、2〜3時間以上攪拌すれば沈降した ケーキ層はなくなるが、顔料の凝集ブツが顔料分散ペースト中に残る。
【0083】
実施例6
カチオン電着用のエマルションNo.1 294部(固形分100部)に、顔料分散ペーストをNo.1 60.1部(固形分33.1部)、10%酢酸 5.6部及び脱イオン水 305.8部を加え、均一に混合して固形分20%のカチオン電着塗料No.1を得た。
【0084】
実施例7〜11、比較例2
実施例1と同様の操作により、下記表3に示す配合内容にてカチオン電着塗料No.2〜No.7を得た。
【0085】
【表3】

【0086】
試験板の作成
実施例7〜12及び比較例2で得たカチオン電着塗料中に、パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8×150×70mmの冷延ダル鋼板を浸漬し、それをカソードとして浴温28℃及び印加電圧250Vの条件で電着塗装し、膜厚20μmの電着塗膜を形成せしめ、水洗後、170℃−20分の焼付けを行なって試験板を得た。塗料試験及び試験板の性能試験結果を下記の表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
(注5)ろ過残渣:カチオン電着塗料の攪拌を24時間停止した後、再び1時間攪拌し、 塗料を400メッシュの濾過網を用いて濾過した時の残さ量(mg/L)を測定 し、下記の基準で評価した。
○:残さ量が1mg/L未満
△:残さ量が1〜5mg/L
×:残さ量が5mg/Lを越える。
(注6)L字仕上がり性:カチオン電着塗料の攪拌を24時間停止した後、再び1時間攪 拌し、被塗物としてL字に折り曲げた化成処理を施した冷延ダル鋼板を用いて3 分間の電着塗装を行い、水平面(L面)の塗膜の状態を評価した。
○:問題なく良好
△:塗膜のハジキ性、ラウンド感、光沢の低下がみられる
×:塗膜のハジキ性、ラウンド感、光沢の低下が著しい。
(注7)耐塩温水性:実施例及び比較例で得られた塗装板に、ナイフでクロスカット傷を 入れ55℃、5%食塩水に10日間浸漬したときの結果を下記の基準で評価し た。
○:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm未満(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上でかつ4mm未満(片 側)
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4mm以上(片側)。
(注8)耐衝撃性:デュポン式衝撃試験機を用いて、撃心の直径1/2インチ、落錘高さ 50cm、測定雰囲気20℃の条件で試験を行ない、衝撃を受けた凸凹部を目視 で評価した。
○:異常なし
△:細かな亀裂が少しみられる
×:大きなワレがみられる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の電着塗料は、顔料分散ペース貯蔵時の攪拌を省略することができ、かつ塗装ラインにおいては、省エネルギー化及び省設備化が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料分散用樹脂、顔料及び顔料分散用樹脂と顔料の固形分合計100重量部あたり0.1〜25重量部のセルロース複合体を含有する電着塗料用顔料分散ペースト。
【請求項2】
セルロース複合体が、微細セルロースと水溶性ガム類及び/又は親水性物質からなる複合体である請求項1に記載の電着塗料用顔料分散ペースト。
【請求項3】
微細セルロースの平均粒子径が10μm以下である請求項2に記載の電着塗料用顔料分散ペースト。
【請求項4】
基体樹脂、硬化剤及び基体樹脂と硬化剤の固形分合計100重量部あたり0.1〜20重量部のセルロース複合体を含有する電着塗料。
【請求項5】
セルロース複合体が、微細セルロースと水溶性ガム類及び/又は親水性物質からなる複合体である請求項4に記載の電着塗料。
【請求項6】
微細セルロースの平均粒子径が10μm以下である請求項5に記載の電着塗料。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の電着塗料を用いて塗装された物品。

【公開番号】特開2006−111699(P2006−111699A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299230(P2004−299230)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】