説明

電着塗料組成物および電着塗装方法

【課題】更なる付き廻り性の向上が達成できる電着塗料組成物の提供。
【解決手段】ノニオン性および/またはカチオン性の水系樹脂およびAlイオン20〜500ppmを含有し、pHがAlイオン濃度をA[ppm]としたとき次の計算式を満足することを特徴とする電着塗料組成物。3.5≦pH≦−Log((A×1.93×10−151/3

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材料、特に形状が複雑な金属構成体に対し、優れた付き廻り性を有する電着塗料組成物および電着塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種金属材料、特に形状が複雑な金属構成体に対して優れた耐食性を付与するための手法としては、複雑な形状の隅々に均一に塗膜を析出させることが可能な電着塗装が一般的に用いられてきた。
【0003】
電着塗装は、アニオン性樹脂エマルジョンを含有する水性塗料中で被塗物をアノード電解することによって塗膜を析出させるアニオン電着塗装と、カチオン樹脂エマルジョンを含有する水性塗料中で被塗物をカソード電解することによって塗膜を析出させるカチオン電着塗装とに大別できる。
【0004】
アニオン性樹脂エマルジョンはアルカリサイドで分散安定性があり、酸性サイドで分散安定性を失う。カチオン性樹脂エマルジョンは反対に酸性サイドで分散安定性があり、アルカリサイドで分散安定性を失う。アノード電解またはカソード電解で樹脂が析出するのは、こうした性質を利用したものである。よって、反応機構上ノニオン性樹脂エマルジョンは析出不可能である。
【0005】
鉄系金属材料の耐食性向上に対しては、電解処理中に素地金属が塗料中に溶出する心配の無いカチオン電着塗装が有利であり、鉄系材料を主とする金属構成体である自動車車体、自動車部品、家電製品、建築材料等に対してはカチオン電着塗装が広く適用されている。
【0006】
前述の如く、電着塗装の最大の特徴は塗装の付き廻り性であるが、近年塗料の使用量低減や耐食性の向上を目的に、より高度な付き廻り性が求められるようになってきた。そして、付き廻り性向上のために種々の検討がされてきた。
【0007】
例えば特許文献1(特開2002−294143)には、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解した、カチオン性エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂、カチオン性エポキシ樹脂を中和するための中和酸、有機溶媒、金属触媒を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物において、揮発性有機分含有量が1重量%以下であり、金属イオン濃度が500ppm以下であり、中和酸の量がバインダー樹脂固形分100gに対して10〜30mg当量である無鉛性カチオン電着塗料組成物、が開示されており、金属触媒はセリウムイオン、ビスマスイオン、銅イオン、亜鉛イオン、モリブデンイオン、アルミニウムイオンからなる群から選択される一種以上、中和酸は酢酸、乳酸、蟻酸、スルファミン酸からなる群から選択される一種以上であることが好ましいとされている。
【0008】
また、この電着塗料組成物に類似した組成物を用いて付き廻り性を向上させる技術も多々開示されている。
特許文献2(特開2002−285391)は電着浴の温度制御を特徴としており、特許文献3(特開2002−285392)は塗膜のガラス転移温度の異なる2種の電着工程を有することを特徴としており、特許文献4(特開2002−294144)は不揮発固形分を特定することを特徴としており、特許文献5(特開2002−294145)および特許文献6(特開2002−294146)はカチオン性エポキシ樹脂のガラス転移温度と分子量を特定することを特徴としており、特許文献7(特開2002−294147)は塗膜の最低造膜温度を特定することを特徴としており、特許文献8(特開2005−194389)はカチオン性エポキシ樹脂の基体樹脂骨格、膜抵抗、硬化剤および硬化剤のガラス転移温度を特定することを特徴としており、特許文献9(特開2008−156655)はやはり膜抵抗を特定することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−294143号公報
【特許文献2】特開2002−285391号公報
【特許文献3】特開2002−285392号公報
【特許文献4】特開2002−294144号公報
【特許文献5】特開2002−294145号公報
【特許文献6】特開2002−294146号公報
【特許文献7】特開2002−294147号公報
【特許文献8】特開2005−194389号公報
【特許文献9】特開2008−156655号公報
【特許文献10】特開2007−314690号公報
【特許文献11】特開2008−538383号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】前田重義,浅井恒敏,岡田秀弥防食技術:31,268(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術は、確かに付き廻り性に対する効果を有するが、市場ニーズは更なる付き廻り性の向上を求めていることも確かである。そこで本発明者らは、カチオン電着塗装の析出メカニズムそのものを再考することとした。
【0012】
カチオン電着塗装に使用される樹脂エマルジョンは多くの場合アミン基の導入によりカチオン性を付与している。カチオン性樹脂エマルジョンは酸性サイドで分散安定性があり、アルカリサイドで分散安定性を失うわけであるが、実際のカソード電解によりエマルジョンが電荷を失って塗膜を形成するpHは12前後に達することが文献1に掲載されている。
【0013】
もちろん塗膜が析出するpHは樹脂エマルジョンの性状、例えばエマルジョン分子量、導入するアミン基の種類や導入率によって変化するが、少なくともpH10を超える領域にならないと析出は開始しない。よって、カソード電解によるpH上昇の際、出発pHである塗料組成物のpHは、樹脂エマルジョンが安定化している範囲でできるだけ高いpHであることが、塗膜の析出性に対して有利であると言える。
【0014】
従来技術である特許文献10(特開2007−314690)および特許文献11(特開2008−538383)は、やはり電着塗料組成物に関するものであるが、水性塗料組成物のpHは、5〜7であることが好ましく、5.5〜6.5であることが更に好ましいとされている。pHが5未満の場合の弊害は、電着塗装効率や膜外観が低下することを挙げている。
【0015】
特許文献1〜9については、具体的なpHの記述は無いものの、電着塗料の付き廻り性を改良するためには、塗料組成物に含有させる中和酸の量を減らしてカチオン性エポキシ樹脂の中和率を低レベルに抑えること、すなわちできる限りpHを高く保持することが好ましいとしている。事実、中和酸の量がバインダー樹脂固形分100gに対して10〜30mg当量であることから、pHは必然的に特許文献10および11と同様の範囲になることは明らかである。
【0016】
つまり、電着塗料組成物そのもののpHを高くすることも、樹脂エマルジョンの改質によって析出pHを低下することも、もはや限界にきており、それ以外の手法を用いないと付き廻り性の改善は望めないのである。
【0017】
そこで本発明者らは、新たな手法として凝集剤によって塗膜析出pHを低下させることを検討した。そして、種々の凝集剤の中でもAlが最も効果的であることを見出した。
【0018】
しかし、Al化合物を従来の電着塗料組成物中に添加しても、瞬時に加水分解によって水酸化物に変化してしまい、かつ水酸化物は経時によって凝集していってしまうため、凝集剤としての効果を失ってしまう。
【0019】
特許文献1〜9には、金属触媒としてアルミニウムイオンを含むことが好ましいとしているが、上記の理由で実際の電着塗料組成物の中では、瞬時に加水分解し水酸化物が形成されているものと推定される。実施例での検証はなされていないが、水酸化物は触媒としての作用は維持するものの、凝集剤としての効果はもはや望めないものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで本発明者らは、電着塗料組成物の常識であった中性付近のpHを、Alが継続的にイオン状態で存在できる範囲まであえて低下させ、Alイオンの付き廻り性に対する効果を評価した結果、組成物のpHを低下させたにもかかわらず、極めて良好な付き廻り性が得られることを発見した。
【0021】
そして、このAlイオンの効果は、電解析出不可能だったノニオン性樹脂エマルジョンに対しても有効であり、同じくカソード電解によって析出可能になることを発見し、本発明の完成に至った。
【0022】
すなわち、本発明は次に示す(1)および(2)である。
(1) ノニオン性および/またはカチオン性の水系樹脂およびAlイオン20〜500ppmを含有し、pHがAlイオン濃度をA[ppm]としたとき次の計算式を満足することを特徴とする電着塗料組成物。
3.5≦pH≦−Log(A×1.93×10−151/3
(2) 前記(1)の組成物を用いて金属材料をカソード電解法にて塗膜を析出せしめることを特徴とする電着塗装方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1図は、Alイオン濃度およびpHの適正範囲を示した図である。
【図2】第2図は、付き廻り性試験に用いる「4枚ボックス付き廻り性試験用治具」のモデル図である。
【図3】第3図は、付き廻り性試験における電着塗装状態を示す。
【符号の説明】
【0024】
1.直径8mmの穴
2.4枚ボックス法の付き廻り性試験用治具における外板(A面)
3.4枚ボックス法の付き廻り性試験用治具における内板(G面)
4.電着塗料浴
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の電着塗料組成物にはノニオン性および/またはカチオン性の水系樹脂が含有されている。ここで、ノニオン性樹脂及びカチオン性樹脂のいずれも特に限定されるものではない。基体樹脂はいずれのタイプを用いても、本発明の効果を損なうものではないが、エポキシ、ウレタン、アクリルがより好ましい。ここで、本発明の一特徴が、新規作用機序(pH上昇に伴ってAlイオンが水酸化コロイドとなり凝集するが、この際に回りの樹脂を巻き込むという作用機序)に基づき、従来は電解析出不能であったノニオン性樹脂もが使用可能となった点である。このようにノニオン系樹脂も使用可能となったことにより選択の幅が広がり、これまで持たせることができなかった各種性質を皮膜に付与することが可能となる。更に、カチオン性樹脂を使用した場合についても、pH上昇に伴って樹脂自体が分散安定性を失う公知作用機序に加え、前述した新規作用機序に基づき、従来よりも低いpHでの電析が可能となる。
【0026】
樹脂エマルジョンの濃度も特に規定されないが、電着塗料組成物の全重量を基準として、5〜30重量%含有することが好ましい。7〜25重量%が更に好ましく、10〜20重量%が最も好ましい。樹脂含有量が低過ぎると皮膜析出量が不足し、含有量が高過ぎると経済的に不利である。
【0027】
ノニオン性樹脂エマルジョンについては基体樹脂にエチレンオキサイドのようなノニオン性官能基を導入させる方法、すなわち自己乳化法、およびノニオン界面活性剤を用いて乳化させる方法、すなわち強制乳化法のいずれかまたは双方の手法を用いて作製することができる。カチオン性樹脂エマルジョンについては基体樹脂にアミン基のようなカチオン性官能基を導入させる方法、すなわち自己乳化法、およびカチオン界面活性剤を用いて乳化させる方法、すなわち強制乳化法のいずれかまたは双方を同時に用いて作製することができる。更に、カチオン性官能基を導入後、ノニオン界面活性剤を乳化助剤として用いることもできる。また、自己乳化エマルジョンの分子量が小さい場合は、もはや粒子状のエマルジョンではなく水溶性樹脂となるが、水溶性樹脂であっても本発明の効果が損なわれるものではない。本発明における水系樹脂とは、水分散するエマルジョンと水溶性樹脂の総称である。
【0028】
また、水系樹脂には、ブロック化ポリイソシアネートをはじめとする硬化剤を任意に配合することもできる。
【0029】
本発明の電着塗料組成物にはAlイオンを20〜500ppm含有することが好ましい。50〜400ppmが更に好ましく、100〜300ppmが最も好ましい。下限を下回るとAlイオンの塗膜析出向上効果が不充分となり、上限を上回ると組成物の電気伝導度が過剰となり、かえって付き廻り性を低下させる。
【0030】
組成物中のAlイオン濃度は、超遠心機により組成物を固液分離し、液相を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)もしくは原子吸光分光分析(AA)を用いて定量することができる。
【0031】
本発明に係る電着組成物の液体媒体としては、水性媒体が好適であり、水がより好適である。尚、液体媒体が水である場合、液体媒体として水以外の他の水系溶媒(例えば、水溶性のアルコール類)を含有していてもよい。
【0032】
本発明の電着塗料組成物のpHはAlイオン濃度をA[ppm]としたとき次の計算式を満足することが好ましい。
3.5≦pH≦−Log((A×1.93×10−151/3
下記式であることが更に好ましい。
3.6≦pH≦−Log((A×1.93×10−151/3
下記式であることが最も好ましい。
3.7≦pH≦−Log((A×1.93×10−151/3
pHが下限を下回ると、析出効率が低下し付き廻り性も低下していく。pHが上限を上回ると、Alイオンが加水分解を起こしてしまうため、好ましくない。
【0033】
−Log((A×1.93×10−151/3)の項は、水酸化Alの25℃における溶解度積:1.92×10−32から求められる。つまり、このpH以上になるとAlイオンは水酸化物として沈殿析出してしまい、もはやイオンではいられなくなる。ここで、25℃は、組成物の保存時及び使用時の典型的な温度である。
【0034】
本発明におけるAlイオンの作用効果は以下の通りである。つまり、イオン状のAlがカソード電解による金属表面pH上昇により微細な水酸化物コロイドになり、それがpH9前後でゼータ電荷を完全に失い急激に凝集を始める際、周りの樹脂エマルジョンをも巻き込んで析出するものと推定される。
【0035】
カソード電解によってAlイオンから水酸化物コロイドの電荷の消失にいたる一連の反応は瞬時に完了する必要がある。あらかじめ水酸化物になっていては、経時で凝集が始まってしまい、pH9前後での凝集能力が極端に減退する。よって、本発明のAl成分は、組成物中ではあくまでイオンでいなければならないのである。
【0036】
また、Alイオンは特定のキレート剤によって安定化できるが、安定化させてしまっては、pH上昇による水酸化物の生成も阻害されるため、好ましくない。なお、電着塗料組成物に通常配合されている、酢酸、蟻酸、スルファミン酸、乳酸等の有機酸には、Alイオンを安定化させるほどのキレート能力はない。
【0037】
AlイオンはAl化合物を用いて添加することができる。Al化合物は特に限定されないが、硝酸塩、硫酸塩と言った無機酸塩または乳酸塩、酢酸塩と言った有機酸塩の形で添加することが可能である。
参考のため、Alイオン濃度およびpHの適正範囲を第1図に示す。
【0038】
本発明の電着塗料組成物を用いて金属材料表面に塗膜を形成させる方法としては、カソード電解法が好ましい。無電解もしくはアノード電解では塗膜析出は望めない。
カソード電解条件は特に規定されるものではないが、50〜400Vの電圧を印加することが好ましい。100〜300Vであることが更に好ましく、150〜250Vであることが最も好ましい。なお、必ずしも定電圧である必要は無く、徐々に電圧を増加させていく方法や、2段通電等の方法も適用可能である。
【0039】
本発明の組成物には、更に必要に応じて顔料、触媒、有機溶剤、顔料分散剤、界面活性剤等、塗料分野で通常使用されている添加剤を適用することもできる。顔料としては、チタン白、カーボンブラック等の着色顔料、クレー、タルク、バリタ等の体質顔料、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等の防錆顔料、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド等の有機錫化合物、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ジベンゾエートなどのジアルキル錫の脂肪酸もしくは芳香族カルボン酸塩などの錫化合物が挙げられる。
【0040】
本発明の電着塗料組成物は各種金属材料に対して適用される。金属材料は、特に限定されるものではないが、冷延鋼板、熱延鋼板、鋳物材、鋼管等の鉄鋼材料、それらの鉄鋼材料の上に亜鉛系めっき処理および/またはアルミニウム系めっきが施された材料、アルミニウム合金板、アルミニウム系鋳物材、マグネシウム合金版、マグネシウム系鋳物材等が挙げられる。また、あらかじめ塗装下地処理としてリン酸亜鉛系化成処理やジルコニウム系化成処理が施されていても、本発明の効果を損なうものではない。特に形状が複雑な金属構成体、例えば、鉄系材料を主とする金属構成体である自動車車体、自動車部品、家電製品、建築材料等への使用に適している。
【実施例】
【0041】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。
実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0042】
カチオン性エポキシ樹脂の合成
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。
【0043】
その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル57部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体42部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0044】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0045】
続いて、ビスフェノールA87部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、ガラス転移温度が22℃のアミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。なお、この製造方法は特許文献1(特開2002−294143)の実施例における製造例1に準ずる。
【0046】
ブロックイソシアネート硬化剤の製造
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。なお、この製造方法は特許文献1(特開2002−294143)の実施例における製造例2に準ずる。
【0047】
顔料分散樹脂の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0048】
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0049】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0050】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル1390.2部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水37.0部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。なお、この製造方法は特許文献1(特開2002−294143)の実施例における製造例3に準ずる。
【0051】
顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに顔料分散用樹脂を120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リン酸亜鉛4水和物18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分48%)。なお、この製造方法はリンモリブデン酸アルミニウムの替わりにリン酸亜鉛4水和物を用いた他は、特許文献1(特開2002−294143)の実施例における製造例4に準ずる。
【0052】
カチオン性エポキシ電着塗料組成物の製造
カチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。その後、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して2重量%になるよう添加した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が24になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0053】
このエマルション1960部および顔料分散ペースト197部とジブチル錫オキサイド14.5部とイオン交換水1843部とを混合して、固形分20重量%の電着塗料組成物(以下略号「R1」)を得た。なお、この製造方法は10%酢酸セリウム水溶液を混合しなかったことを除いて特許文献1(特開2002−294143)の実施例における実施例1に準ずる。
【0054】
カチオン性アクリル電着塗料組成物の製造
神東塗料製カチオン性アクリル樹脂「サクセード#1000」(固形分:65%)を脱イオン水で希釈し、固形分を18%に調整した(以下略号「R2」)。
【0055】
ノニオン性ウレタン電着塗料組成物の製造
DIC社製ノニオン性ウレタン樹脂「VONDIC2220」(固形分:40%)を脱イオン水で希釈し、固形分を18%に調整した(以下略号「R3」)。
【0056】
実施例および比較例にてAlイオンを添加する水準については、Alイオンは硝酸アルミニウム9水和物、硫酸アルミニウム14〜18水和物または乳酸アルミニウムを用いて添加した。また、必要に応じて組成物のpHを硝酸またはアンモニアを用いて調整した。組成物の組成を第1表に示す。
【0057】
試験板の作製
試験板として、冷延鋼板:SPCC(JIS3141)70×150×0.8mmを用い、あらかじめその表面を日本パーカライジング社製強アルカリ脱脂剤「FC−E2001」を使用して、120秒間スプレー処理することにより脱脂処理した。脱脂処理後は30秒間スプレー水洗し、実施例および比較例に示す組成物に浸漬させ、カソード電解処理を実施した。電解終了後の試験板は直ちに脱イオン水にて30秒間スプレー水洗し、電気オーブン中で170℃にて20分間焼付けを行った。
【0058】
付き廻り性評価
「4枚ボックス法」にて付き廻り性を評価した。試験板に直径8mmの穴を空け、4枚の鋼板を2cm間隔で設置した「4枚ボックス法付き廻り性試験の治具」(第2図参照)を、第3図のように配線した。第3図の4枚の鋼板のうち、最も左側の鋼板に向かって左側の面を「A面」、向かって右側の面を「B面」とする。同様に、左から2番目の鋼板の左右の面を、それぞれ、「C面」及び「D面」、左から3番目の鋼板の左右の面を、それぞれ、「E面」及び「F面」、そして最も右側の鋼板の左右の面が、それぞれ、「G面」と「H面」となる。第2図の装置において、塗装浴温30℃、A面と電極との極間距離10cm、通電時間3分間にて、A面膜厚20μmとなる電圧にて電着塗装した。
【0059】
付き廻り性は、G面の膜厚にて評価した。G面膜厚:5μm未満を×、5μm以上10μm未満を○、10μm以上を◎とした。
但し、R3については4枚ボックス法ではなく、試験板1枚を200Vにて3分間カソード電解処理し、焼付け後の塗膜厚を評価した。評価結果を第1表に併記する。
【0060】
第1表の実施例1〜6より、本発明の電着塗料組成物を用いたことによって、金属材料に対して良好な付き廻り性が得られていることがわかる。
【0061】
これに対し、本発明の最大の特徴であるAlイオンを配合しない比較例1〜3は、付き廻り性が不充分であるばかりか、ノニオン性樹脂エマルジョンに関しては析出すらしていない。
【0062】
また、比較例4はAlイオン濃度下限下であり、比較例5はAlイオン濃度過剰およびpH下限下であり、いずれも付き廻り性は不充分となっている。
【0063】
更に、比較例6は実施例4のpHを上昇させた組成物であり、やはり付き廻り性は不充分であったが、これはpHを上昇させる中和工程にて、Alイオンのほとんどが水酸化物として沈殿析出してしまい、もはやAlイオンの効果が発揮されなかったためと考えられる。事実、遠心分離後の液分析にてAlイオン濃度は0ppmであることが確認されている。
【0064】
このように、本発明の組成物を用いた、金属材料のカソード電解処理は、従来のカチオン電着塗装では成し得なかった、優れた付き廻り性を得ることができ、かつ従来電解析出不可能であったノニオン性樹脂エマルジョンの電解析出をも可能にする画期的な技術であることがわかる。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノニオン性および/またはカチオン性の水系樹脂およびAlイオン20〜500ppmを含有し、pHがAlイオン濃度をA[ppm]としたとき次の計算式を満足することを特徴とする電着塗料組成物。
3.5≦pH≦−Log((A×1.93×10−151/3
【請求項2】
請求項1の組成物を用いて金属材料をカソード電解法にて塗膜を析出せしめることを特徴とする電着塗装方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−202740(P2010−202740A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48475(P2009−48475)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】