説明

電磁圧電式音響センサ

【課題】遠隔検知装置を提供する。
【解決手段】本遠隔検知装置は、(a)電磁場検出器と、(b)電磁場発生器及び該発生器と無線通信する検知材を有する音響共振器とを具備し、該検知材は前記検出器と無線通信し、前記検知材は、該検知材が曝された環境変化に応じた音響変化を示し、前記検知材は、一つ以上の粒子及び/又は断片(fragment)からなることを特徴とする遠隔検知装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠隔検知装置に関し、特には、検出器と無線で接続された音響共振器を用いた遠隔センサに関する。本発明はまた、該センサを用いた方法及び装置に関する。本発明の装置の利点は、検査対象の環境中に離れて設置された検知素子に本来備わる性質が消失しないため、該検出素子の電力切れ、即ち動作不良が発生しないことである。したがって、このセンサは離れた環境に埋め込み可能であり、取り出してメンテナンスする必要がない。また、この検知装置の共振は、小型のセンサ・フラグメント(sensor fragments)を用いることにより改善されてよりシャープとなり、感度は100倍以上に向上する。
【背景技術】
【0002】
共振器を用いた音響センサは、過去数十年に亘って検出装置として使用されており、感度はng/mlレンジである。光学センサと同様、固体−液体間の界面を限られた距離伝播するエバネッセント波を発生する機能を有するため、バルク(bulk)での分子イベントやプロセスは検出されず、界面における弾性、粘性、粘弾性及び滑性と関係するプロセスのみ検出される。
【0003】
音波センサは、様々な分子フィルムの機械特性を化学的に測定する構成とすることが可能である。例えば、表面力に対する音響感度により、界面質量、粘度、弾性粘度及び滑性と相関可能な振動数及び振幅のシフトを引き起こす界面化学変化の検出が可能である(界面質量について:非特許文献1、粘度について:非特許文献2、弾性粘度及び滑性について:非特許文献3〜5)。また、ヒドロゲルフィルムの機械的性質を利用した感知により、ヒドロゲルフィルムの膨張挙動によるヌクレオチドの検出が可能となり(非特許文献6)、抗体−BSAヒドロゲルによるオカダ酸に対する検知応答が強化され(非特許文献7)、ヒドロゲル自身内の複雑な相移行が説明可能になり(非特許文献8)、段階的組み立てプロセスによって作製した1μm未満の熱応答性ヒドロゲルフィルムの詳細な分析ができるようになった(非特許文献9)。
【0004】
音響センサは簡易であり、また、DNAハイブリダイゼーション、リガンドによるタンパク質コンフォメーション変化、及び抗原抗体反応等の様々な界面現象に対応可能であるため、利点が多い。磁気音響共振センサ(MARS)は、離れた場所で発生させた電磁波で単一のガラス板を作動させて、検出システムの電子機器を該装置自身から離間可能とする音響システムの一つである。近年、このシステムは水晶板を用いたものが開発されており、MHz〜GHzの範囲内で複数の周波数、また、極超音波の周波数で動作する。
【0005】
前記MARSシステムは、2種類の誘発メカニズムによって非接触音波を発生可能である。電磁気による金属及び圧電板内での非接触音響共振の発生は、当初、NMR(核磁気共鳴)検出コイル間に現れる“ノイズ”として認識された。この電磁気的に誘発された圧電共振は、Hughesによって、NaNO結晶の共鳴によって起こった好ましくない信号として報告されたが(非特許文献10)、後にChoiによって3.5MHz AT結晶の電磁気的に誘発された共振へと拡大された(非特許文献11)。“Magnetic Direct Generation(MDG)”と名づけられた電磁気プロセスは、NMRテストチャンバー内及び近傍での金属の共振が認識される数年前に発生することが見出された。このプロセスはロシアで1955年に最初に発見され(非特許文献12)、次いで米国で1964年に発見され、このとき、NMR信号はワイヤ寸法と関連した共鳴応答とともに発見された(非特許文献13)。
【0006】
しかしながら、従来の構成には問題がある。より薄い結晶を使用してのみ感度の改善が可能であるが、これら結晶は厚さが200μm未満となると非常に脆くなってしまう。厚さをこの最小厚としても、共振器の音響周波数において摂動は0.01%未満であるため、センサを動作させる共振周波数を注意深くトラッキングする必要がある。更に、対象分子の大きさは5〜20nmであり、音響横向カップリング(acoustic transverse coupling)の大部分(>95%)は化学界面の上方の流動体へ向かい、実質的に分析対象ドメインから外れる。
【0007】
エバネッセント検知領域が対象の化学層よりも著しく厚いと、感度が減少し判読が複雑になる。例えば、光学SPR(表面プラズモン共鳴)センサは、200nmのエバネッセント波を発生してタンパク質層の屈折率、更には該フィルム(the film)の、より重要なことには、測定対象の流動体の複合屈折率を測定する。同様に、TSM(Thickness Shear Mode)又はQCM(水晶発振子マイクロバランス)として知られている電極付圧電結晶は10MHzで動作し、対象の化学層を超えるエバネッセント貫通深度も有する。50MHzで動作する磁気音響共振センサでエバネッセント波を界面にフォーカスさせる試みがなされているが、波が界面を越えて貫通してしまい、感度が損失する。Love波装置として知られる弾性表面波装置は、貫通深度を小さくするために高周波数領域で動作可能であるが、これらシステムいずれにおいても、生物化学信号を完全に回収するのに十分コンパクトなエバネッセントゾーンが得られない。
【0008】
これらセンサの更なる制限としては、単一の波長、又は単一の周波数ではごく僅かの情報しか得られないことである。これは赤外分光計を単一波長で動作させるようなもので、得られるデータの値が著しく小さくなる。
【0009】
これらシステムの実用上のフォーマットに関して、全ての光学系及び音響素子はパターンを形成するための金属化層を更に必要とするが、これは、弾性表面波(SAW)装置へ相互に入り組んだパターンを設けるには、特にコストのかかるプロセスである。使用の際、光学検知システムは注意深く、振動源と離間させて配置する必要があるが、磁気音響共振センサ(MARS)およびSAW装置に使用される材料は温度に敏感であり、信号をドリフトさせずに機能するためには注意深い環境制御が要求される。QSM装置及びSAW装置への接続が必要とされるが、化学物質の固定化による修飾及びその処置に対する適合性が悪くなり、市販装置へのデザインが制限されてしまう。
【0010】
したがって、特に診断、医療、医薬産業において、感度を犠牲にせずにより小さい測定装置で、一回あたりの測定をより低コストにしてデータのスループットを高くするために、センサを改良する要求が依然としてある。
【0011】
【非特許文献1】Sauerbrey, G., 1959, “Use of quartz vibrator for weighing thin films on a microbalance” Z. Phys., 155, 206.
【非特許文献2】Kanazawa, K. K. & Gordon, J. G., 1985, “The oscillation frequency of a quartz crystal resonator in contact with a liquid”, Analytica Chimica Acta, 175, 99-105
【非特許文献3】Yang, M. S., Chung, F. L. & Thompson, M., 1993, “Acoustic network analysis as a novel technique for studying protein adsorption and denaturation at surfaces”, Analytical Chemistry, 65, 3713-3716
【非特許文献4】Rodahl, M., Hook, F., Krozer, A., Brzezinski, P. & Kasemo, B., 1995, “quartz-crystal microbalance set-up for frequency and Q-factor measurements in gaseous and liquid environments”
【非特許文献5】Rodahl, M., Hook, F., Fredriksson, C., Keller, C. A., Krozer, A., Brzezinski, P., Voinova, M. & Kasemo, B., 1997, “Simultaneous frequency and dissipation factor QCM measurements of biomolecular adsorption and cell adhesion”, Faraday Discussions, 229-246
【非特許文献6】Kanekiyo, Y., et al., "Novel nucleotide-responsive hydrogels designed from copolymers of boronic acid and cationic units and their applications as a QCM resonator system to nucleotide sensing", Journal of Polymer Science Part a - Polymer Chemistry, 2000. 38(8): p. 1302-1310
【非特許文献7】Tang, A.X.J., et al., "Immunosensor for okadaic acid using quartz crystal microbalance", Analytica Chimica Acta, 2002. 471(1): p. 33-40
【非特許文献8】Nakano, Y., Y. Seida, and K. Kawabe, "Detection of multiple phases in ecosensitive polymer hydrogel", Kobunshi Ronbunshu, 1998. 55(12): p. 791-795
【非特許文献9】Serizawa, T., et al., "Thermoresponsive ultrathin hydrogels prepared by sequential chemical reactions", Macromolecules, 2002. 35(6): p. 2184-2189
【非特許文献10】Hughes D.G. and Pandey L.J., 1984. Magn. Reson. 56, 428
【非特許文献11】Choi K. and Yu I., 1989, “Inductive detection of piezoelectric resonance by using a pulse NMR/NQR spectrometer”, Rev. Sci. Instrum. 60, 3249-3252
【非特許文献12】Aksenov, S.I., Vikin B.P., 1955, Sov. Phys. JEPT Lett. 28, 609
【非特許文献13】Clark, W.G., 1964. Rev. Sci. Instrum. 35, 316
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、検知素子をミクロレベルに小型化し、且つ、MHz〜GHz範囲のスペクトル測定を行いながら、アンテナ、金属化即ち回路を必要としない真の遠隔検知素子として作動するように、遠距離(数センチ)隔てた電磁気的な交信に該検知素子をアクセス可能とすることによって、MARSシステムの特性を大幅に向上させることである。この機能強化フォーマットは、磁場中における原子核の歳差運動ではなく、界面の化学力による微細な結晶断片(fragment)の減衰によって提供されることを除いて、核磁気共鳴と同じである。ここで、感度は断片のサイズと反比例して増加する。
【0013】
上記に鑑み、本発明は従来技術の問題を解決することを目的とする。したがって、本発明は改良型の検知装置及び検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、遠隔検知装置であって、(a)電磁場検出器と、(b)電磁場発生器及び該発生器と無線通信する検知材を有する音響共振器と
を具備し、前記検知材は前記検出器と無線通信し、前記検知材は、該検知材が曝された環境変化に応じた音響特性を示し、前記検知材は、一つ以上の粒子及び/又は断片からなることを特徴とする遠隔検知装置を提供する。
【0015】
本発明の重要な利点は、本発明者らが従来の音響共振センサの感度限界に対する解決を見出したことである。これら従来素子の感度は理論的には改善可能であると考えられていたが、音響センサの厚さを200μm未満にする必要があった。素子が脆くなり過ぎるため従来は感度の改善に限界があったが、本発明は、断片又は粒子を使用することによって検知素子を横方向及び厚さ方向にも縮ませて堅牢性を維持するため、そのような制限はない。例えば、厚さ1μmの素子の質量感度は、厚さ200μmの素子の200倍となる。
【0016】
本発明の検知装置は、アレイ、微流体システム、チューブ、反応容器、及びRFIDスマートタグ内で使用可能であり、サンプルを測定装置へ運んで分析する必要がない。複雑なワイヤ又は接続が必要ないため、小型反応チャンバー内、微流体チャンバー内、又は皮下での測定に使用可能である。本発明では、無線リンクを非常に簡素な無線音響センサに対して使用する。これによって、ユーザーは携帯電話と同様な自由が得られる。ここで、如何なる種類のサポートもされていない単独の電気的活性物質が、受信器、音響センサ、送信器、及びアンテナとして機能可能である。これら検知素子は、検知素子に本来備わった性質が消失しないため、電力切れ、即ち動作不良が発生しない。小型のセンサ・フラグメント改良された、よりシャープな共振を本明細書の実施例に示し、環状アンテナに無線接続した液体充填ビーカー内に水晶断片を入れることが可能であることを実証した。これにより、検知素子の小型化が可能であり、その厚さに反比例して感度が高まることが証明された。したがって、設置する環境への負荷を減少させながら100倍以上の感度を達成可能である。スマートタグ、温度感度、粘度感度、湿度、腐敗度、自動車、エンジン、航空、及び宇宙等の非生物学的用途も考えられる。
以下、図面を参照して、本発明を一例として詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の微小な遠隔音響分光(MRAS)システムの特徴は、電極を使用せずに、逆圧電効果で小型水晶振動子を駆動するアンテナから数センチ離間して、大きな電場が現れることである。MRASは、他の現行の生化学診断よりも利点が多く、該利点としては
(1)MHz〜GHzの範囲で複数の周波数で作動するので、特定の分子種と会合可能な音響スペクトルとしての「フィンガープリント」が得られること、
(2)遠隔計測機能及び検知機能を元来備えたミリメートル未満のサイズの水晶素子(微結晶)を使用しているので、送信機、受信機、他のセンサ、又はアンテナが不要であること、
(3)ミリメートル未満のサイズの微結晶及び遠隔交信であるため、サンプルの極微の摂動が計測可能であること、
(4)機能的アレイを作製するために、微結晶からプラスティック又は同様のコンポジットを作る機会があること、
(5)単純なフォーマットであるため、埋没サンプル、即ち皮下サンプルの生化学的測定に良好に適合すること、が挙げられる。
【0018】
MRASのコンセプトは実施例で実証するが、水晶ブランク及び小さい断片を、ガラスビーカーの壁を隔てて作動する環状アンテナで励磁させることで達成された。
【0019】
本発明の遠隔検知装置又はシステムは、(a)電磁場検出器と、(b)電磁場発生器及び該発生器と無線通信する検知材を具備する音響共振器とを有し、前記検知材は、前記検出器と無線通信し、前記検知材は、該検知材が曝された環境変化に応じた音響特性を示し、前記検知材は、一つ以上の粒子及び/又は断片からなる。
【0020】
前記共振器は、通常、電磁場発生器と該発生器と無線通信する検知材とを具備し、前記発生器は、電磁場を前記検知材に配向させるように設置可能である。前記電磁場発生器及び検出器は、電磁場を発生・検出するための共通構造の素子を有することが好ましい。
【0021】
本発明において、前記共振器(又は共振器の検知材)が曝される環境は、サンプルを、サンプル環境が検知材の性質に影響を及ぼすように、検知材に近接させて存在させることで一般的に得られる。前記環境、又はサンプルそれ自身が、ユーザが検知装置を使用して測定を望む性質を有する。前記環境、故にサンプルは特に限定されず、任意の検査対象サンプルでよい。したがって、前記サンプルとしては、生物サンプル、反応環境、エンジニアリング環境等が挙げられる。前記検知によって測定される性質も特に限定されず、DNAハイブリダイゼーション、タンパク質のコンフォメーション変化、抗原抗体反応等の生物的性質、及びエンジン中の温度、反応混合物上方の蒸気の量等の物理的性質が挙げられる。
【0022】
検知を行うため、前記共振器(又は共振器の検知材)を所望の環境に配置し、前記検出器を共振器から好適な距離離間させて配置して検出を行う。該距離は特に限定されず、検出器の寸法及び使用する電磁場のサイズに応じて変更してよい。通常、1〜100mm、より好ましくは1〜50mmの距離とする。
【0023】
本発明の好適な実施形態において、前記電磁場発生器は電磁場調整可能(tunable)である。電磁場源は、共振器(検知材)内での音響共振の発生に十分である限り特に限定されない。前記電磁場発生装置は、電極又は螺旋コイルを有することが好ましく、最も好ましくは環状コイル(toroidal coil)等のコイルを有する。該電極又はコイルは任意の導電性物質を含んでよいが、金属又は合金であることが好ましく、通常、一本のワイヤから形成されている。前記金属としては、特に限定されないが、銅を含むことが好ましい。前記電磁場発生装置及び発生源の寸法は特に限定されず、用途に応じて選択してよい。前記コイルの直径は通常100mm以下であり、好ましくは1〜50mm、最も好ましくは5〜25mmである。
【0024】
本発明の更なる好適な実施形態において、前記装置は信号発生器と、前記電磁場発生器及び検出器と接続した固定型(lock−in)増幅器とを具備する。前記検出器は、通常、前記信号発生器により生成された信号から検出信号を差分する差動ダイオード復調回路を具備する。
【0025】
前記検知材は、その音響特性が少なくとも一つの環境からの影響を受け、且つ前記検出器により検出可能である限り、特に限定されない。前記検知材は、電気双極子又は磁気双極子を有する材料を含むことが好ましい。好ましくは、平板の形態で容易に発見されることが多いため、圧電材料を用いる。使用する圧電材料は特に限定されないが、水晶が通常含まれる。使用可能な他の材料としては、ニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PVDFが挙げられる。該材料の形態としては特に限定されず、結晶全体、又は結晶の断片であってよいが、通常は平板又は球面ビーズ等の、実質的に等距離な表面を有する断片である。前記検知材は、通常、一つ以上の粒子状である。用途に応じて、検知材上に配設したヒドロゲル層、又は大型のプラスチック成形品(タグ等)等の他の物質に埋め込んだ断片等、様々な複合材料及び形態を使用可能である。本発明の好適な実施形態において、粒子の平均粒径は0.1〜1000μm、より好ましくは1〜100μmである。
【0026】
本発明は更に、上述の検知装置を使用した検知方法を提供する。本発明は基盤技術を提供するので、界面で起こる化学反応、つまり前記共振器又は検知材が応答する環境の性質は非常に変化に富んでいるため、潜在的な用途は多い。好適な用途としては、センサ・アレイ、微流体システムセンサ、反応センサ、電波方式認識(RFID)スマート・タグ、生物センサ、皮下センサ、温度センサ、粘度センサ、腐敗センサ(食物の分解を引き起こすバクテリア活性によるpH値変化を検出するセンサ等であって、pH値変化は食物品質と相関される)、素子への電力供給が不要であるエンジンセンサが挙げられるが、これらに限定されない。好適な生物学的用途としては、in vivo又はin vitroアンテナによるグルコース測定センサや、神経変性疾患の検出、心臓疾患に関わる異常血管タンパク質等をターゲットとした分子受容体を表面に固定したアフィニティー・センサ等が挙げられる。
【0027】
更に、本発明によって、周辺環境の変化に基づいた上記検知装置を用いたシステム制御方法が提供される。
【0028】
以下、理論に囚われずに、前記装置、即ちシステムの原理を更に説明する。
【0029】
螺旋コイルの電場は、ワイヤ自身が巻回する平面と同じ面で円を描き、離間距離とともに急速に減衰する。代わりに、螺旋コイルの各一巻き間の結晶をその場で励磁する主要な電場は、局所的電位差である。知られているように、これら誘導電場及び容量電場は両方とも、0.2mmを超える大きな電場に拡大しない。この問題を解決するには、磁場を回転させるためのアンテナ構造を設ける必要があることに気づくことである。環状アンテナは、トロイダルの回転軸によって磁場を回転させてトロイダルの中心に電束を得ることができる。したがって、ベクトル場Bは渦巻き状である。
(式1)

【0030】
したがって、トロイダル中の回転磁場は、中心で伸長している電束に付随して発生する。トロイダルコイルによって検出される電圧は、コイルの巻回数(N)、動作周波数(f)、及び共振電力(I)に依存する。
(式2)

【0031】
しかしながら、インピーダンスの整合、及び形状による電気ノイズも考慮しなければならない。また、トロイダル及び結晶の相対的な向きによって信号の振幅が決まるが、これは共振のQ値又は結晶共振周波数には影響しない。下記式はAT結晶Y軸の角度方向を垂直及び水平電場(E及びE)と関連させる式である。
(式3)

【0032】
下記第2の式は水平電場(E)をAT結晶X軸の角度と関連させる式である。
(式4)

【0033】
また、結晶と周辺媒体との境界が寄与電場源となり得る。下記式は、結晶境界における誘電勾配間の電場ベクトル(E)を新生駆動電荷と関連させる式である。
(式5)

【0034】
この式は、電場Eに曝すと誘電特性が変化するシステム中の電荷σを定量する式であって、式中εは自由空間の誘電率、εは溶媒の相対誘電率を表す。ガウスの法則によると、誘電体中のそのような分極電荷は更なる電場源となる。
(式6)

【0035】
電荷が発生する結晶−溶液界面及び結晶−空気界面は、平面且つ平行であるため、電場は必然的に均一になり、且つ結晶面に対して垂直であるため、水晶振動子の従来の平行電極構造と同様に、界面電荷を生成する。これら駆動力から発生する音響共振は、周波数から求められる、定常波共振の高調波列に対応した周波数間隔で発生する。
(式7)

【0036】
式中、Vshは水晶中のねじれ波の速度、nは共振のモード数、λは音波波長である。フィルムを積層させるとその面間のねじれ音響定常波が伸びるため、結晶は音響センサとして振舞う。最も簡単なケースでは、空気中で振動させたプレートの場合、上面に薄金属フィルムを積層させると観察される周波数変化の大きさはSauerbrey式により記述され、複数の調和周波数が音響による検知に好適であることがわかる。ここから、及び他の標準的な音響検知モデルから抽出される主な特性は周波数依存性であって、Sauerbreyの場合、下記直線関係に書きなおせる。
(式8)

また、下記Kanazawaの平方根関係にも書きなおせる。
(式9)

式中、

はフィルム質量と共振器質量の比であり、

はin-phase流動体質量と共振器質量の比である。
【0037】
ここで重要な点は、双方のケースにおける応答は共振素子のサイズ及び質量に依存していることである。小型化することにより大幅に感度が上昇する。装置に接続を行わなくてもよいということは、装置幅が縮小し得るということを意味するが、これは結晶が破損する可能性が低くなるという利点がある。小型化するにつれ、より堅牢となるため、サイズを更に縮小させることは可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を下記の具体的な実施形態を基に一例として説明する。
【0039】
<材料及び方法>
〔ディスク〕
直径12mm、厚さ0.25mmの圧電AT水晶ブランクを作製し、光学研磨した。素子をクロロホルム、次いでアセトン、最後にイソプロパノールで洗浄した。
〔断片〕
同じ圧電水晶を試験用に40〜50個のピースに破壊した、全ての断片の共振周波数及び振幅は互いに異なっていた。
〔ビーズ〕
化学コーティングを施したビーズ又は断片によれば、バイオテクノロジー分野で使用されるチューブ、チャンバー、微流体、及びアレイ中の化学環境に無線でアクセスするための理想的な機会が得られる。これらは「タグ」が付けられることが多く、その結果多くのセンサが単一のコイルでスキャン可能である。
【0040】
<測定装置>
〔トロイドZ測定〕
測定用に選択した装置はヒューレット・パッカード社製の最大1.8GHzで動作するインピーダンス分析装置を使用した。この装置では測定ヘッドにサンプルが位置決めされるため、ケーブルによるインピーダンスへの影響は最小限である。トロイドの複雑なインピーダンスを1〜50MHzで測定して、アンテナのインピーダンスがどのように音響応答に影響したか確認した。走査速度を1回/minとして、S/N比を最大にした。音響振幅をマーカー・ポジショニング及び波形測定ツールで中心に合わせた。等価回路分析によって、容量と平行して、推定のインダクタンス及び抵抗に対するインダクタンス値、容量値、及び抵抗値を得た。
【0041】
〔音響信号の回収〕
信号の回収は通常、周波数変調信号発生器、AM検出器、及び固定型増幅器を用いて行われる。回収した信号は、音響共振エンベロープの微分変換(differentiated conversion)となる。共振周波数は、エンベロープの零交差又は検出された零相から求める一方、振幅測定は共振曲線の最下点から最頂点で行う。振幅又は周波数の変化は、100以上の高調波周波数で行う。零場NMRは数年に亘って最適化されているため、これは、使用する検出システムのS/N性能を決める有用な参照ポイントである。当業者は、平らな螺旋コイルに近接配置した微結晶とは対照的に螺旋コイル内に挿入した微結晶がより効果的であるかどうか判るであろう。
【0042】
〔アンテナ電場源〕
環状コイルはドーナツ型の磁性材料から形成されており、エナメル加工した銅ワイヤが該磁性材料の内部及び周辺を合計で2〜200回巻回している。この構成とすれば、同調回路への組み込みに使用可能であるが、該トロイドは同調回路ではなく、トロイド自身の中心から数ミリメートル貫通する電場を作るために使用することが望まれる。或いは、該トロイドは、その中心領域内に配置した全ての圧電断片が高効率で検出できるように、チューブ又はテストチューブに巻装した筐体とすることが可能であり、電極式の検出法と比較して性能は大幅に改善される。環状コイルの重要な問題としては、曲がり易く、ベースとなる適切な磁性材料が選びやすいことである。しかしながら、当業者は公知のものから容易に選択して、要求される性能を達成したり、環状アンテナの性能を損なう寄生インダクタンス又は寄生容量を防ぐことが可能である。
【0043】
<結果及び考察>
〔ディスクと断片の音響測定〕
磁界を回転させる環状コイルは、コアの中心から、実質的に他のアンテナより優れた非接触リフトオフ性を有する第二の電場を発生する。該トロイドでは、螺旋コイル又は電極よりも良好なリフトオフ性が得られるため、そのインピーダンスを好適に変更する場合、全体的に最良の選択肢であると思われる。
【0044】
試験装置を構築した後、有限要素解析法に基づいた時間依存性電磁モデルを使用してトロイドの数値解析を行い、電場分布予想プログラムを起動した。結晶軸に対する得られた電場方向もまた、素子の物理的性質を電気機械的に十分に説明するのに大変興味深いものであるが、最適化する直前の性能表示を得るために、トロイドのサイズを直接変化させ、カップリング効率のバラツキを記録した。
【0045】
微結晶から得られた信号に関する最初の問題の一つは、共振スペクトル中に存在する様々な音響モードの解釈である。アスペクト比が著しく異なり、また場合によってはQ値も低い極小の結晶は、ねじれモード、半径方向モード、縦モード、及びたわみモードの混成モードを含み得り、このモードが使用することが望まれる音響横波モードの強度に対して評価する必要がある。実際、小さい結晶及び断片はより純粋な共振を示した。以下は、非接触電場によって測定した結晶全体(図2)及びこの結晶の断片(図3)の比較結果である。
【0046】
断片(図3)をより詳しく分析した結果、元の結晶の低構造及び調和構造は存在しないことが示された。観察の結果、全体に対する結晶断片の幅は小さく、厚さのバラツキは最小限であった。
【0047】
〔ビーカー中の結晶のトロイド測定〕
ディスク全体を、水で満たしたビーカー内に投入した作用は、大型のディスクであっても、外部からの全ての共振を減衰することである(図4)。共振は純共振であり且つ強く、両面を水に曝した。一方の面から他方の面でショートすることがあるが、共振に負荷となり減衰することはないと思われる。実際、誘電体としての水が存在することで全体の応答が増幅する傾向がある。小さい断片の応答は小さかった(図5)。しかし、厚さのバラツキは小さいため、共振はシャープであった。
【0048】
本発明によれば、性質が理解されている水晶共振器よりも優れた、真に非接触式の改良システム及び方法が提供される。電力供給、マイクロ電子機器、あらゆる種類の部品及び処理を必要としない小型の連続機能型水晶を使用する。化学的環境に埋め込み、或いは組み込んで、その化学状態を「レポート」させることが可能である。振動が小さいため高感度であり、接続を必要としない利便性が良く、素子が小型であるため場所をとらず、複数の周波数で動作可能であるため音響スペクトルの「フィンガープリント」が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1はガラスビーカー中の圧電ディスク及び断片の励磁に使用するテスト・フォーマットを示す図であって、電源(source)は、前記ディスクに振動を起こし、この振動を検出する電束を発生する環状変圧器(toroidal transformer)である。
【図2】図2は直径12mm、厚さ0.25mmの圧電AT水晶ディスク(空気中)内の高調波音響共振を示す図であって、通常のラッピング工程によって作った、ディスク全域のナノメートルサイズの厚み差に対応する二つの共振が存在する。
【図3】図3は、図2の直径12mmのディスクを「破壊」して得た2x2mm寸法のAT水晶断片(空気中)の、よりはっきりした音響共振を示す図である。
【図4】図4は、別の直径12mm、厚さ0.25mmの圧電AT水晶ディスク(脱イオン水に完全浸漬)の音響共振を示す図である。
【図5】図5は、脱イオン水に完全に浸漬させた、2x2x0.25mm寸法の圧電AT水晶断片の音響共振を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔検知装置であって、
(a)電磁場検出器と、
(b)電磁場発生器及び該発生器と無線通信する検知材を有する音響共振器と
を具備し、
前記検知材は前記検出器と無線通信し、前記検知材は、該検知材が曝された環境変化に応じた音響特性を示し、前記検知材は、一つ以上の粒子及び/又は断片(fragment)からなることを特徴とする遠隔検知装置。
【請求項2】
前記発生器が、電磁場が前記検知材に配向するように配設される請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記電磁場発生器及び検出器が、電磁場を発生及び検出するための素子をそれぞれ具備してなり、該素子が共通構造を有する請求項1又は2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記電磁場発生器が、電磁場を調整可能である請求項1〜3のいずれかに記載の検知装置。
【請求項5】
前記電磁場発生器が電極、螺旋コイル、環状コイル、埋め込みパッチアンテナ、又は他の好適なアンテナ素子からなるアンテナ素子を具備する請求項1〜4のいずれかに記載の検知装置。
【請求項6】
信号発生器と、前記電磁場発生器及び検出器と接続された固定型増幅器とを具備する請求項1〜5のいずれかに記載の検知装置。
【請求項7】
前記信号発生器から発生した信号から、検出信号を差分する差動ダイオード復調回路(differential diode demodulation circuit)を具備する請求項6に記載の検知装置。
【請求項8】
前記検知材が分極した電気双極子又は磁気双極子を有する請求項1〜7のいずれかに記載の検知装置。
【請求項9】
前記検知材が圧電材料を含む請求項1〜8のいずれかに記載の検知装置。
【請求項10】
前記圧電材料が、水晶、ニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、及びPVDFを含む請求項9に記載の検知装置。
【請求項11】
前記検知材が、単一材料の単一断片である請求項1〜10のいずれかに記載の検知装置。
【請求項12】
前記検知材が一つ以上の層の形態である請求項1〜11のいずれかに記載の検知装置。
【請求項13】
前記断片及び/又は粒子の平均直径が0.1〜1,000μmである請求項11又は12に記載の検知装置。
【請求項14】
前記粒子が実質的に球形、実質的に楕円形、実質的に円筒形、実質的に長方形、或いは、繊維、カンチレバー若しくはナノチューブの様に単一の軸に沿って伸びている請求項1〜13のいずれかに記載の検知装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の検知装置を検知方法に使用することを特徴とする検知装置の使用。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の検知装置をセンサーアレイ、微流体システムセンサ、反応センサ、RFIDスマートタグ、生物センサ、皮下センサ、温度センサ、粘度センサ、腐敗度センサ、及びエンジンセンサ内で使用することを特徴とする検知装置の使用。
【請求項17】
環境が水相、蒸気相、又はガス相である請求項15又は16に記載の使用。
【請求項18】
一種以上の、細胞、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、ハプテン、抗原、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、及び/又は薬剤若しくは医薬品の検出を目的とした、請求項15〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれかに記載の検知装置を使用して、周辺環境の変化に基づいてシステムを制御する方法。
【請求項20】
電磁場発生器のインピーダンスのずれを測定する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
添付の図面1〜5を参照して明細書中で実質的に記載した検知装置。
【請求項22】
添付の図面1〜5を参照して明細書中で実質的に記載した検知装置の使用。
【請求項23】
添付の図面1〜5を参照して明細書中で実質的に記載したシステムの制御方法。
【請求項24】
添付の図面1〜5を参照して明細書中で実質的に記載した周辺環境の変化の測定方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−523406(P2008−523406A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546169(P2007−546169)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004797
【国際公開番号】WO2006/064211
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507196789)ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】