電磁干渉抑制ハイブリッドシート
導電性材料を含む電磁波遮蔽層の片面上に積層された、フェライト粒子を含む電磁波吸収層を含むことで、電子機器の内部及び/又は外部から生じる電磁波から電子機器を保護する、電磁干渉抑制ハイブリッドシートを開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁干渉を抑制するためのハイブリッドシートに関し、より具体的には、接地機能による帯電防止機能、及び電磁波遮蔽/吸収機能を備えた、電磁波を抑制するためのハイブリッドシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコン、フルHDプラズマ/液晶テレビなどの電子機器の使用が増えている。また、機器間の相互接続のための無線通信機能及び大容量音声/大容量画像信号の高速処理機能を有する、高速データケーブルの使用も増えてきている。しかしながら、このような電子機器はデジタル化、小型化され、薄い傾向にあることから、その使用法及び使用環境に応じて大量の電磁波を放出し、したがってその電子機器の周辺機器に干渉を及ぼしている。また、このような電子機器内においても、他の外部電子機器から放出される電磁波による干渉が起こる。
【0003】
一般にこのような電磁波による干渉、すなわち電磁干渉(EMI)を抑制するためには、電磁波遮蔽手段又は電磁波吸収手段を電子機器の内部又は外部に配置する。特に、電磁波遮蔽手段又は電磁波吸収手段は、電子機器内で生じた電磁波が外部に放出されないように、伝達経路(例えば有線/無線ケーブル)を通してある電子機器から他の電子機器へと伝達される電磁波量が最小になるように、又は外部電子機器から生じた電磁波が内部に達しないように、電子機器の内部又は外部に配置される。
【0004】
電磁波遮蔽手段としては、銅板又はアルミニウム板が従来使用されてきた。電磁波遮蔽手段の表面上に電磁波が入射すると、電磁波の一部は電磁波遮蔽手段の表面において電流に変換され、表面に沿って外部へと放出されることで、装置を電磁波から遮蔽する。しかしながら、電磁波の一部は電磁波遮蔽手段によって遮蔽されず、電磁波遮蔽手段を透過して電子機器に悪影響を与える。
【0005】
一方、電磁波吸収手段としては、ある種の材料、例えば炭素、グラファイト、又はセンダストなどをバインダー樹脂内に分散したものが用いられている。しかしながら、このような電磁波吸収手段が吸収できるのは一定の帯域の周波数を有する電磁波のみであり、大部分の電磁波は透過させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来既知の電磁波抑制手段は、電磁波遮蔽機能及び電磁波吸収機能の一方を備えるのみであって両方は備えていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上述の問題を考慮して本発明が行われた。本発明は、外部から生じる電磁波から電子機器を保護することができ、電子機器の内部で生じる電磁波が外部に伝達されることを抑制することができる、電磁波を抑制するためのハイブリッドシートを供給する。また、本発明は厚さが約100μm以下という、薄い、電磁干渉抑制ハイブリッドシートを供給する。
【0008】
本発明の一態様によれば、導電性材料を含む電磁波遮蔽層と、この電磁波遮蔽層の片面上に積層させた、フェライト粒子を含む電磁波吸収層と、を備えた、電磁干渉抑制ハイブリッドシートが供給される。
【0009】
本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートでは、導電性材料を含む電磁波遮蔽層の片面上にフェライト粒子を含む電磁波吸収層が積層されることで、電子機器の内部及び/又は外部から生じる電磁波から電子機器を保護する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図2】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図3】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図4】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図5】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図6】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図7】本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを有するケーブルの斜視図。
【図7A】本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを有するケーブルの斜視図。
【図8】SEM(走査電子顕微鏡法)により撮影した、本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートに用いる板状フェライト粒子のデジタル画像である。
【図9】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの遮蔽効果を示すグラフ。
【図10】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートにおける電力損失を示すグラフ。
【図11】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートにおける透磁率を示すグラフ。
【図12】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートを適用したデータケーブル内の電磁雑音の抑制を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明によるシートは、導電性材料を含む電磁波遮蔽層10の片面上に積層された、フェライト粒子を含む電磁波吸収層20を備えることで、電子機器の内部及び/又は外部から生じる電磁干渉から電子機器を保護する(図1参照)。シートは電子機器内に配置してよく、電磁波吸収層20が電子機器の外部表面に接触し、電磁波遮蔽層10が電磁波吸収層20の外部表面上に積層されるか、そうでなければ、電磁波遮蔽層10が電子機器の外部表面に接触し、電磁波吸収層20が電磁波遮蔽層10の外部表面上に積層される。
【0013】
例えば、電磁波吸収層20が電子機器の外部表面に接触し、電磁波遮蔽層10が電磁波吸収層20の外部表面上に積層される場合、電子機器の外部で生じた電磁波は電磁波遮蔽層に入射する。この場合、入射電磁波は、まず電磁波遮蔽層10によって遮蔽され得る。具体的には、電磁波遮蔽層10はその表面上に入射した電磁波を電流に変換し、その電流を表面に沿って流すことによって、電磁波が電子機器内に伝播ことを防止し得る。電磁波遮蔽層10は電磁波の大部分を遮蔽し得る。しかしながら、入射電磁波の一部は電磁波遮蔽層によって遮蔽されずに電磁波遮蔽層を透過し得る。
【0014】
しかし、従来技術と異なり、本発明では、たとえ電磁波が電磁波遮蔽層10を透過したとしても、電磁波遮蔽層を透過した電磁波は、電磁波遮蔽層の片面上に積層された電磁波吸収層20によって吸収されることから、電子機器が電磁干渉から保護される。
【0015】
特に、電磁波吸収層20はフェライト粒子、すなわち高い透磁率を有する磁性材料を含む。フェライト粒子内では、微小な電気又は磁気双極子がランダムに分布している。このような電気又は磁気双極子が存在するフェライト粒子に電磁波が入射すると、双極子は入射電磁波による電磁誘導によって整列する。ここで、フェライト粒子の双極子は、電磁波の磁気波部分を主として吸収することによって整列する。整列においては、双極子は電磁波に応じて求められる形で抵抗する。双極子がこのような抵抗を克服して電磁波によって整列させられる際、電磁波のエネルギーが熱へと変換することによって消滅する。電磁波吸収層20は、電磁波の主として磁気波部分を遮蔽するといってよい。
【0016】
また、電磁波遮蔽層10が電子機器の外部表面に接触し、電磁波吸収層20が電磁波遮蔽層10の外部表面上に積層される場合、電子機器の外部で生じた電磁波は電磁波吸収層20に入射する。入射電磁波はまず電磁波吸収層20によって吸収され、その後、熱変換を通じて消滅する。ここで、電磁波の一部が電磁波吸収層を透過したとしても、この電磁波吸収層を透過した電磁波は、電磁波吸収層の片面上に積層された電磁波遮蔽層10による電流変換を通じて外部に放出され得る。
【0017】
上述したように、本発明による電磁干渉抑制シート1(図1〜6参照)は、導電性材料を含む電磁波遮蔽層10とフェライト粒子を含む電磁波吸収層20との両方を備える。これにより、外部機器から生じて電子機器内に伝播する電磁波、及び電子機器の内部から生じて外部に放出される電磁波を遮蔽及び吸収することにより、電子機器を電磁波から保護することが可能である。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、図1に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波遮蔽層10及び電磁波吸収層20を備える。
【0019】
電磁波遮蔽層10は導電性材料を含む。導電性材料の例としては、Al、Cu、Ni、Ag、Au、アモルファス金属合金、Ni−Fe合金、Fe−Ni−Mo合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Si合金、Fe−Co合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この種の導電性材料によれば、電磁波遮蔽層の体積低効率を約0.02〜1×1012Ω・cmの範囲内に調整し得る。したがって、本発明のハイブリッドシートを種々の電気機器に適用することが可能である。
【0020】
このような電磁波遮蔽層10の厚さは、電子機器に応じて、また最終的に得られる電磁干渉抑制ハイブリッドシートが適用される部分に応じて調整してよく、特に限定されない。本発明では、厚さが約5μmの薄い電磁波遮蔽層で、たとえ入射電磁波の一部がこの電磁波遮蔽層を透過しても、この電磁波遮蔽層を透過した電磁波が、電磁波遮蔽層の片面上に存在する電磁波吸収層によって吸収されることから、電気機器を電磁波から保護することが可能である。本発明の一実施形態によれば、電磁波遮蔽層の厚さは約7〜約20μmの範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の電磁干渉抑制シート1において、電磁波吸収層20はフェライト粒子を含むことで電磁波を吸収し熱エネルギーに変換する。
【0022】
フェライト粒子は磁性酸化物であり、磁化の程度によってハードフェライト及びソフトフェライトに分類される。本発明においては、磁気特性が外部要因(例えば磁界)によって容易に変化し得るソフトフェライトを用いることが好ましい。
【0023】
フェライト粒子の例としては、Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、Ni−Mn−Zn系フェライトなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施形態によれば、約100KHz〜約1GHzの周波数を有する電磁波の吸収にMn−Zn系フェライトを用い得る。また、本発明の別の実施形態によれば、約100KHz〜約5GHzの周波数を有する電磁波の吸収にNi−Zn系フェライトを用い得る。また、本発明のさらに別の実施形態によれば、約300KHz〜約2GHzの周波数を有する電磁波の吸収にMg−Zn系フェライトを用い得る。
【0024】
また、本発明の一実施形態によれば、次の式1で表されるフェライト粒子を用いることもでき、このようなフェライト粒子中に更に添加物を含ませることもできる。
【0025】
[式1]
MnxZnyFezO4(x+y+z=3)
【0026】
また、本発明の別の実施形態によれば、次の2で表されるフェライト粒子を用いることもでき、このようなフェライト粒子中に更に添加物を含ませることもできる。
【0027】
[式2]
Mg1−xZnxFe2O4(0≦x≦0.9)
【0028】
また、本発明の更に別の実施形態によれば、次の式3で表されるフェライト粒子を用いることもでき、このようなフェライト粒子中に更に添加物を含ませることもできる。
【0029】
[式3]
Ni1−xZnxFe2O4(0≦x≦0.9)
【0030】
添加物の例としては酸化コバルト、酸化ケイ素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
フェライト粒子の形状は特に限定されないが、板状又は針状の形状が好ましい。フェライト粒子が板状又は針状の形状ではなくて別の形状(例えば球状)である場合、約100μm以下の厚さ(直径)を有するフェライト粒子の透磁率、したがってまたそのフェライト粒子を適用し得る周波数帯域が、限定される。また、このようなフェライト粒子では高周波帯域における吸収効率が急速に低下する恐れがある。本発明の一実施形態によれば、約40〜400の範囲内の透磁率を有する板状又は針状フェライト粒子を用い得る。本発明の別の実施形態によれば、約30〜50の範囲内の透磁率を有する板状又は針状フェライト粒子を用い得る。
【0032】
板状又は針状フェライト粒子の厚さ(長手方向に対して垂直な断面の長さ)は約2〜約10μm、好ましくは約5〜約7μmの範囲内にある。フェライト粒子の厚さが約2μm未満であると、フェライト粒子の調製及び取扱いが困難である。他方、フェライト粒子の厚さが約10μmより大きいと、フェライト層の密度が減少することで電磁波吸収特性が低下し得る。板状又は針状フェライト粒子がこのような厚さを有することにより、電磁波吸収層の厚さを薄くすることができ、したがって最終的に得られる電磁干渉抑制ハイブリッドシートも、厚さの薄いものを製造することが可能である。
【0033】
また、板状又は針状フェライト粒子において、長手方向の長さは約30〜約100μm、好ましくは約40〜約80μmの範囲内にある。フェライト粒子の長さが約30μm未満であると、透磁率が減少し、したがって吸収性能が低下する恐れがある。他方、フェライト粒子の長さが約100μmより大きいと、脆性により磁気特性が低下する恐れがある。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、板状又は針状フェライト粒子において、長手方向の長さと厚さとの比は約7〜約12μmの範囲内であってよい。
【0035】
板状又は針状フェライト粒子は種々の方法で調製し得る。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、板状又は針状フェライト粒子は、次のような工程によって調製し得る。a)酸化鉄の、フェライト形成のための金属酸化物との混合、b)混合物を焼成して第1の焼成材料を得る第1の焼成、c)第1の焼成材料をフェライト微粉にする第1の機械的粉砕、d)溶媒中に溶解させたバインダー樹脂を含む溶液中にフェライト微粉を分散させることによる、分散溶液の調製、e)分散溶液の、剥離フィルムの表面上へのコーティング、及び乾燥によるコーティング層の形成、そしてコーティング層の剥離フィルム表面からの分離、f)分離したコーティング層を焼成して第2の焼成材料を得る第2の焼成、並びにg)第2の焼成材料を粉砕する第2の機械的粉砕。
【0037】
1)まず、酸化鉄と、フェライト形成のための金属酸化物とを混合する。ここで、本発明において用い得るフェライト形成のための金属酸化物は、特に限定されるものではないが、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどがこれに挙げられる。また、酸化コバルト、酸化ケイ素などの添加物も含み得る。
【0038】
ここで、例えば振動ミル又はボールミルのような機械的粉砕機を用いることにより、酸化鉄をフェライト形成のための金属酸化物と均一に混合することが好ましい。また、酸化鉄とフェライト形成のための金属酸化物とを溶媒中で混合することもできる。
【0039】
酸化鉄とフェライト形成のための金属酸化物との混合率は、最終的に得られるフェライトの成分及び物理特性に応じて調整される。例えば、Ni−Zn系フェライトでは、フェライト形成のための金属酸化物(NiO,Zno)と酸化鉄(Fe2O3)とをモル比1:1で混合することが好ましい。混合比が上述した範囲を上回る場合、最終的に得られるフェライトが所定の焼成温度で焼成不十分に焼成又は焼成過剰となることにより、焼成密度及び磁気特性が変化してしまう恐れがある。
【0040】
2)次いで、フェライト形成のための金属酸化物と酸化鉄との混合物を第1焼成し、焼成材料(以下、「第1の焼成材料」と称する)を得る。ここで、混合物の焼成温度(以下、「第1の焼成温度」と称する)は、フェライト形成のための金属酸化物の種類並びにこの金属酸化物及び酸化鉄の容量に応じて調整してよく、好ましくは約850〜900℃の範囲内である。第1の焼成温度が約850℃未満であると、十全な磁気特性を得るために適した結晶化(スピネル構造)が起こらず、このために磁気特性が低下するし、他方、第1の焼成温度が約900℃より高いと、粒子が過剰成長し、粉砕後の粒径分布が不均一となることから、磁気特性が低下し得る。
【0041】
3)第1の焼成材料に機械的粉砕機で第1の機械的粉砕を施し、フェライト微粉を得る。機械的粉砕機の例としてはボールミル機、遊星ミル機、攪拌ボールミル機、振動ミル機などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。所望により、第1の焼成材料の第1の機械的粉砕は溶媒中で行ってもよく、その場合、形成されたフェライト微粉を乾燥に付してもよい。溶媒は特に限定されないが、溶媒の例としては、ステアリン酸、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水、メチルエチルケトン、エチルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
4)上述のように形成されたフェライト微粉を、溶媒中に溶解させたバインダー樹脂を含む溶液に加え、均一に分散させて、フェライト微粉とバインダー樹脂との混合溶液(これは分散溶液である)を得る。ここで、フェライト微粉の容量は、バインダー樹脂を100重量部として約300〜約500重量部の範囲内であることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。フェライト微粉の容量が約300重量部未満であると、シートの密度が減少することで磁気特性が低下す可能性があり、他方、フェライト微粉の容量が約500重量部より多いと、シートの機械的強度が減少する可能性がある。
【0043】
本発明において用い得るバインダー樹脂の非限定的な例としては、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。また、溶媒の非限定的な例としては、ステアリン酸、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水、メチルエチルケトン、エチルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
5)次に、分散溶液である、フェライト微粉とバインダー樹脂との混合溶液を、剥離可能な剥離フィルム表面上にコーティングしてよいし、また乾燥に付してコーティング層を形成してもよい。次いで、形成されたコーティング層を剥離フィルムの表面から分離させ得る。
【0045】
ここで、剥離フィルム上にコーティングされた分散溶液の厚さは約15〜約20μmの範囲内であることが好ましい。コーティングされた分散溶液の厚さが約15μm未満であると、続く第2の焼成工程後において、焼成された板状又は針状フェライト材料の厚さが約5μm未満となることから、機械的強度が減少する。加えて、板状又は針状フェライト粉末をバインダー樹脂と混合する際に、フェライト粉末が破壊されてしまう可能性がある。他方、コーティングされた分散溶液の厚さが約20μmより大きいと、続く第2の焼成工程後において、焼成された板状又は針状フェライト材料の厚さが約10μm以上となり、したがってシートの密度が減少することによって磁気特性が低下し得る。
【0046】
分散溶液を剥離フィルム上にコーティングするに際しては、当該技術分野において既知である従来のコーティング法、例えばディップコーティング、ダイコーティング、ロールコーティング、コンマコーティング、又はこれらの組合せなどを用い得る。
【0047】
剥離可能な剥離フィルムの非限定的な例としては、シリコーンをコーティングしたポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが挙げられる。
【0048】
6)剥離フィルムから分離されたコーティング層を再度焼成して焼成材料(以下、「第2の焼成材料」と称する)を得る。ここで、焼成温度(以下、「第2の焼成温度」と称する)は上述した第1の焼成温度より高く、好ましくは約1000〜約1300℃の範囲内である。第2の焼成温度が約1000℃未満であると、フィルムの焼きが不十分となることで磁気特性が低下する。他方、第2の焼成温度が約1300℃より高いと、フィルムの焼きが過剰となり、このため粉砕工程後の粒径分布が不均一となることで磁気特性が低下する可能性がある。
【0049】
7)次いで、上述した第2の焼成材料を、上述した機械的粉砕機によって再度機械的に粉砕し得る。
【0050】
上述したプロセスを通じて、フェライト粒子は、従来既知である球状のフェライト粒子ではなく、板状又は針状の形状の粒子である。板状又は針状フェライト粒子は、従来既知である球状フェライト粒子に比較して、高い密度及び高い透磁率を有する。したがって、本発明の電磁波吸収層内にこのような板状又は針状フェライト粒子を含むことにより、本発明の電磁波吸収性能は向上し得る。
【0051】
本発明において、フェライト粒子を含む電磁波吸収層の厚さは特に限定されないが、約50μm以上であることが好ましい。本発明では、薄い電磁波吸収層で、たとえ入射電磁波の一部がこの電磁波吸収層を透過しても、その電磁波が、電磁波吸収層の片面上に存在する電磁波遮蔽層によって遮蔽されることで、電気機器を電磁波から保護することが可能である。本発明の一実施形態によれば、電磁波吸収層の厚さは約30〜約300μmの範囲内でよい。本発明の別の実施形態によれば、電磁波吸収層の厚さは約30〜約150μmの範囲内であり得る。
【0052】
本発明の電磁波吸収層20は、上述したフェライト粒子の他に、バインダー樹脂を含んでもよい。ここで、フェライト粒子の容量は特に限定されないが、バインダー樹脂を100重量部として約400〜約800重量部の範囲内でよい。フェライト粒子の容量が約400重量部未満であると、シートの密度が減少することで磁気特性が低下し得、他方、フェライト粒子の容量が約800重量部より多いと、シートの機械的強度が減少することからシートがハイブリッドシートとして使用できなくなり得る。
【0053】
本発明において用い得るバインダー樹脂の非限定的な例としては、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリウレタン、CPE(塩素化ポリエチレン)などが挙げられる。
【0054】
上述したように、本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波吸収層20及びこの吸収層の片面上に積層された電磁波遮蔽層10を備える(図1参照)。加えて、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は更に、絶縁層30及び/又は接着層40を備えてもよい。
【0055】
本発明の別の実施形態によれば、図2に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波吸収層20と電磁波遮蔽層10との間に介在させた絶縁層30(以下、「第1の絶縁層」と称する)を備え得る。
【0056】
本発明の更に別の実施形態によれば、図3に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波遮蔽層10と電磁波吸収層20との間に介在させた第1の絶縁層30の他に更に、電磁波遮蔽層及び電磁波吸収層の少なくとも1つの外表面上、例えば電磁波吸収層20の外表面上に積層させた、別の絶縁層31(以下、「第2の絶縁層」と称する)を備えてもよい。
【0057】
本発明の更に別の実施形態によれば、図4及び5に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は更に、電磁波遮蔽層10及び電磁波吸収層20の少なくとも1つの外表面上、例えば電磁波遮蔽層の外表面上に積層させた、接着層40(以下、「第1の接着層」と称する)を備えてもよい。電磁波遮蔽層の外表面上に積層させたこの接着層は、導電性又は非導電性の接着層であり得る。
【0058】
本発明の更に別の実施形態によれば、図6に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は更に、電磁波吸収層20の外表面上に積層させた、別の接着層41(以下、「第2の接着層」と称する)を備えてもよい。
【0059】
本発明において用い得る第1及び第2の絶縁層のための材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレン硫化物、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本発明において用い得る第1及び第2の接着層の材料の例としては、接着性のポリマー樹脂が挙げられる。導電性接着層には、接着性のポリマー樹脂とともに導電性の充填剤をも含み得る。ここで、導電性の充填剤の容量は特に限定されないが、接着性のポリマー樹脂を100重量部として約20〜約60重量部の範囲内であることが好ましい。
【0061】
本発明では、接着性のポリマー樹脂として、アクリルポリマー樹脂を用いることができる。本発明の一実施形態によれば、光重合可能なモノマーの重合により調製されるアクリルポリマー樹脂を用い得る。
【0062】
このようなアクリルポリマー樹脂の調製に当たっては、光重合可能なモノマーとして、C1〜C14アルキル基を有するアルキルアクリレートエステルモノマーが有効に用いられ得る。アルキルアクリレートエステルモノマーの非限定的な例としては、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。加えて、アルキルアクリレートエステルモノマーの例としては、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレートなども挙げられる。
【0063】
アルキルアクリレートエステルモノマーは、単独でアクリル接着樹脂の形成に用いてもよいし、別の極性共重合可能なモノマーとともに共重合によってアクリル接着ポリマー樹脂を形成することもできる。換言すれば、アクリル接着ポリマー樹脂は、C1〜C14アルキル基を有するアルキルアクリレートエステルモノマーと極性共重合可能なモノマーとの共重合によっても調製し得る。ここで、アルキルアクリレートエステルモノマー及び極性共重合可能なモノマーは、最終的に得られる接着ポリマー樹脂の物理的特性を考慮した場合、99:1〜50:50の重量比で用いることが好ましい。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
極性共重合可能なモノマーの非限定的な例としては、アクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、シアノアルキルアクリレート、アクリルアミド、置換アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロニトリル、塩化ビニル、及びフタル酸ジアリルなどが挙げられる。このような極性共重合可能なモノマーは、ポリマー樹脂に密着性と凝集性をもたらすことによって、接着特性を向上させることができる。
【0065】
本発明において用い得る導電性充填剤の例としては、貴金属及び非貴金属を含む金属;貴金属又は非貴金属と合金化した、貴金属及び非貴金属;貴金属又は非貴金属と合金化した、非金属;導電性非金属;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0066】
具体的に、導電性充填剤の材料の例としては、金、銀、プラチナなどの貴金属;ニッケル、銅、スズ、アルミニウムなどの非貴金属;貴金属と合金化した貴金属及び非貴金属、例えば銀と合金化した銅、銀と合金化したニッケル、銀と合金化したアルミニウム、銀と合金化したスズ、銀と合金化した金など;非貴金属と合金化した貴金属及び非貴金属、例えばニッケルと合金化した銅、ニッケルと合金化したスズなど;貴金属又は非貴金属と合金化した非金属、例えば銀又はニッケルと合金化したグラファイト、ガラス、セラミック、プラスチック、エラストマー、雲母など;導電性非金属、例えばカーボンブラック、炭素繊維など;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0067】
本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、種々の方法を用いて製造し得る。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、電磁干渉抑制ハイブリッドシートは次のような工程によって製造し得る。(i)導電性材料の剥離フィルム上への堆積又はめっきによる、電磁波遮蔽層の形成、(ii)バインダー樹脂を溶媒中に溶解させることによって調製されるポリマー溶液への、フェライト粒子の付加及び混合、並びに(iii)工程(ii)によるバインダー樹脂及びフェライト粒子の混合物の、工程(i)による電磁波遮蔽層上へのコーティング、及び乾燥プロセスの実施。
【0069】
1)まず、電磁波遮蔽層を形成する。ここで、導電性材料を剥離フィルムの表面上に、真空蒸着、イオンめっき、電子ビーム真空蒸着、スパッタリングなどにより堆積又はめっきすることで、電磁波遮蔽層を薄いフィルムとして形成し得る。
【0070】
2)次に、バインダー樹脂を適当な有機溶媒に溶解させることによってポリマー溶液を調製する。材料を均一に混合でき、その後で溶媒を容易に除去できるように、溶媒はバインダー樹脂と同様の溶解パラメーターを有することが好ましい。本発明において用い得る溶媒の非限定的な例としては、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水、メチルエチルケトン、エチルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0071】
また、バインダー樹脂の例としては、ポリビニルアルコール、アクリルバインダー、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0072】
また、ポリマー溶液は、ハイブリッドシートの柔軟性を向上させるために可塑剤などを含んでもよい。可塑剤の例としては、フタル酸エステル可塑剤、トリメリット酸エステル可塑剤、リン酸エステル可塑剤、エポキシ可塑剤、ポリエステル可塑剤、脂肪酸エステル可塑剤などが挙げられ、より具体的には、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、TOTM(トリメリット酸トリエチルヘキシル)、TINTM(トリメリット酸トリイソノニル)、TIDTM(トリメリット酸トリイソデシル)、TCP(リン酸トリクレシル)、TOP(リン酸トリ−2−エチルへキシル、CDP(リン酸クレシルジフェニル)、DOA(アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DIDA(アジピン酸ジイソデシル)などが挙げられる。
【0073】
3)調製したポリマー溶液にフェライト粒子を加え、分散させて、フェライト粒子とバインダー樹脂との混合物を調製する。ここで、フェライト粒子とバインダー樹脂とを均一に混合するために、当該技術分野において既知の機械的混合機、例えばボールミル機を好ましく用い得る。
【0074】
4)調製したフェライト粒子とバインダーポリマー樹脂との混合物を、予め調製した電磁波遮蔽層上にコーティングし、乾燥に付すことにより、本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを得る。
【0075】
ここで、フェライト粒子とバインダー樹脂との混合物を電磁波遮蔽層上にコーティングするに際しては、当該技術分野において既知の従来のコーティング法、例えばディップコーティング、ダイコーティング、ロールコーティング、コンマコーティング、又はこれらの組合せを用い得る。
【0076】
更に、本発明は、上述した電磁干渉抑制ハイブリッドシートを備えた種々の電気機器/部品、例えばICパッケージ、PCBなどを供給し得る。
【0077】
図7及び7Aに示したように、本発明の一実施例によるケーブル2の内部においては、電線が上述した電磁干渉抑制ハイブリッドシート1によって被覆されている。電磁干渉抑制ハイブリッドシートは、インピーダンス整合により信号ケーブル上に導かれる不要な高周波電流を抑制又は低減することから、大容量データケーブル、例えばUSB 2.0ケーブル、USB 3.0ケーブル、HDMIケーブルなどに用い得る。また、外部機器又は端子から生じる高周波電流も、ハイブリッドシートにより抑制され得る。
【実施例】
【0078】
以下に本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は例示にすぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
1−1フェライト粒子の調製
溶媒としての蒸留水300L中に、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ニッケル(NiO)、及び酸化亜鉛(ZnO)をモル比1:0.25:0.65で加え、均一に混合した後、300℃で乾燥させた。乾燥させた混合物を約880℃で焼成して、焼成材料を得た。焼成した材料をボールミル機(NANOINTECH,Ball mill)内でステンレス鋼球(直径=約20mm)とともに約24rpmの回転速度で24時間機械的に粉砕し、微粉を得た(焼成材料のステンレス鋼球に対する重量比は0.2:1)。次いで、(溶媒としての)メチルエチルケトン中に(バインダー樹脂としての)ポリビニルアルコールを100重量部、溶解させることによって調製した溶液中に、微粉を500重量部加え、均一に混合して混合溶液を形成した。次に、混合溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面上に、約18μmの厚さにコーティングし、乾燥させてコーティング層を形成した。その後、形成されたコーティング層をPETフィルムから分離し、分離したコーティング層を約1150℃で焼成して焼成材料を得た。焼成した材料をボールミル機(NANOINTECH,Ball mill)内でステンレス鋼球(直径=約20mm)とともに約24rpmの回転速度で8時間、機械的に粉砕し、フェライト粒子を得た(焼成材料のステンレス鋼球に対する重量比は0.2:1)。上述のようにして得られたフェライト粒子は、厚さが約5μmで長手方向の長さが約70μmの板状の形状を有する。
【0080】
1−2電磁干渉抑制ハイブリッドシートの製造
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、Alターゲットをスパッタリングすることにより第1の表面上に厚さが約7μmのアルミニウムの薄いフィルムを堆積させた。
【0081】
溶媒としてのメチルエチルケトンに、(バインダー樹脂としての)ポリビニルアルコールを100重量部溶解させた。上述のように調製したフェライト粒子を溶液に加え、攪拌して混合溶液を得た。
【0082】
その後、形成された混合溶液をPETフィルムの第2の表面(第1の表面にはアルミニウムの薄いフィルムが堆積している)上に80μmの厚さにコーティングし、乾燥させて電磁干渉抑制ハイブリッドシートを得た。
【0083】
比較例1
溶媒としてのメチルエチルケトンに、(バインダー樹脂としての)ポリビニルアルコールを100重量部溶解させた。実施例1から調製されたフェライト粒子をこの溶液に加え、攪拌して混合溶液を得た。次に、形成された混合溶液をPETフィルムの表面上に80μmの厚さにコーティングし、乾燥させて電磁波吸収シートを得た。
【0084】
比較例2
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、Alターゲットをスパッタリングすることにより、厚さが約7μmのアルミニウムの薄いフィルムを堆積させ、電磁波遮蔽シートを得た。
【0085】
実験例1−電磁干渉抑制ハイブリッドシートの性能測定
本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートの電磁波遮蔽能を測定するため、以下のような試験を行った。
【0086】
(1)遮蔽効果(SE)
ASTM D 4935に従い、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの遮蔽効果(SE)を試験した。試験システムは10MHz〜1GHzの周波数帯域において用いた。ここで、対照群として、比較例1及び2から得られたシートにおける遮蔽効果を試験した。試験結果を表1及び図9に示す。
【0087】
ここで、遮蔽効果(SE)は次の数式1によって算定した。
【0088】
[数式1]
SE=10log(P1/P2)(デジベル、dB)
【0089】
数式1において、P1は試料が存在する時の透過電力を示し、P2は試料が存在しないときの透過電力を示す。
【0090】
一方、透過読取り器が結果をボルトで表示する場合には、遮蔽効果(SE)は次の数式2によって算定され得る。
【0091】
[数式2]
SE=20log(V1/V2)(デジベル、dB)
【0092】
数式2において、V1は試料が存在する時の透過電圧を示し、V2は試料が存在しないときの透過電圧を示す。
【0093】
結果によれば、比較例1のシートは約5dBという低い遮蔽効果を示したのに対し、図9に示すように、実施例1から得られたシートは最低50dBという遮蔽効果を示した。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは卓越した電磁遮蔽特性を有すると判断される。
【0094】
(2)電力損失の試験
本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートの電磁波吸収能を測定するために、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの電力損失の程度を試験した。また、対照群として、比較例1のシートにおける電力損失の程度を試験した。ここで、試料は50mm(L)及び50mm(w)の寸法を有し、試験システムは30MHz〜2GHzの周波数帯域において用いた。試験結果を表1及び図10に示す。
【0095】
この結果、比較例1のシートは1GHzで約15%という低程度の電力損失を示したのに対し、実施例1から得られたハイブリッドシートは1GHzで約40%という高程度の電力損失を示した(表1及び図10参照)。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは卓越した電磁吸収特性を有すると判断される。
【0096】
(3)体積抵抗率の試験
ASTM D 257に従い、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの体積抵抗率を試験した。ここで、対照群として、比較例1及び2のシートにおける体積抵抗率を試験した。試験結果を表1記載する。
【0097】
結果によれば、実施例1から得られたハイブリッドシートにおいては、電磁波吸収層の体積抵抗率は比較例1で得られたシートのものと同様であり(1×1012Ω・cm)、その電磁波遮蔽層の体積抵抗率は比較例2で得られたシートのものと同様であった(0.02Ω・cm)。
【0098】
(4)透磁率の試験
実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートにおける複素透磁率(μ’:実部、μ”:虚部)を試験した。試験結果を図11に示す。ここで、対照群として、比較例1から得られたシートの複素透磁率を試験した。試験結果を表1に示す。使用した試料は内径6mm、外形28mm、厚さ8mmのトロイダル形状を有し、試験システムは1MHz〜1GHzの周波数帯域で用いた。
【0099】
結果によれば、比較例1のシートでは複素透磁率の実部(μ’)が約15であったのに対し、実施例1から得られたハイブリッドシートでは複素透磁率の実部(μ’)が約20〜45で、比較例1の場合より高かった。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは卓越した電磁吸収特性を有すると判断される。
【0100】
【表1】
【0101】
実験例2−USB 2.0データケーブル内における電磁雑音抑制の測定
実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートを用いたUSB 2.0データケーブル内における電磁雑音抑制効果を測定するために、以下の試験を行った。
【0102】
実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートでUSB 2.0データケーブルの周囲を覆った。次に、電波無響室(3m×3m)を使用することにより、データケーブルに電子機器を接触させ、電源駆動時に放射される雑音を測定した。試験結果を図12に示す。
【0103】
結果によれば、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートを用いたデータケーブルについては、電磁雑音が抑制され、その電磁雑音レベルはFCC(Federal Communication Commission)規格に合致するものであった。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは、データケーブル内の高周波電流について卓越した抑制特性を有していると判断される。
【0104】
本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示目的で記載したが、当業者には、添付の特許請求の範囲に開示されている本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、様々な修正、追加及び置換が可能であることが理解されよう。
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁干渉を抑制するためのハイブリッドシートに関し、より具体的には、接地機能による帯電防止機能、及び電磁波遮蔽/吸収機能を備えた、電磁波を抑制するためのハイブリッドシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコン、フルHDプラズマ/液晶テレビなどの電子機器の使用が増えている。また、機器間の相互接続のための無線通信機能及び大容量音声/大容量画像信号の高速処理機能を有する、高速データケーブルの使用も増えてきている。しかしながら、このような電子機器はデジタル化、小型化され、薄い傾向にあることから、その使用法及び使用環境に応じて大量の電磁波を放出し、したがってその電子機器の周辺機器に干渉を及ぼしている。また、このような電子機器内においても、他の外部電子機器から放出される電磁波による干渉が起こる。
【0003】
一般にこのような電磁波による干渉、すなわち電磁干渉(EMI)を抑制するためには、電磁波遮蔽手段又は電磁波吸収手段を電子機器の内部又は外部に配置する。特に、電磁波遮蔽手段又は電磁波吸収手段は、電子機器内で生じた電磁波が外部に放出されないように、伝達経路(例えば有線/無線ケーブル)を通してある電子機器から他の電子機器へと伝達される電磁波量が最小になるように、又は外部電子機器から生じた電磁波が内部に達しないように、電子機器の内部又は外部に配置される。
【0004】
電磁波遮蔽手段としては、銅板又はアルミニウム板が従来使用されてきた。電磁波遮蔽手段の表面上に電磁波が入射すると、電磁波の一部は電磁波遮蔽手段の表面において電流に変換され、表面に沿って外部へと放出されることで、装置を電磁波から遮蔽する。しかしながら、電磁波の一部は電磁波遮蔽手段によって遮蔽されず、電磁波遮蔽手段を透過して電子機器に悪影響を与える。
【0005】
一方、電磁波吸収手段としては、ある種の材料、例えば炭素、グラファイト、又はセンダストなどをバインダー樹脂内に分散したものが用いられている。しかしながら、このような電磁波吸収手段が吸収できるのは一定の帯域の周波数を有する電磁波のみであり、大部分の電磁波は透過させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来既知の電磁波抑制手段は、電磁波遮蔽機能及び電磁波吸収機能の一方を備えるのみであって両方は備えていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上述の問題を考慮して本発明が行われた。本発明は、外部から生じる電磁波から電子機器を保護することができ、電子機器の内部で生じる電磁波が外部に伝達されることを抑制することができる、電磁波を抑制するためのハイブリッドシートを供給する。また、本発明は厚さが約100μm以下という、薄い、電磁干渉抑制ハイブリッドシートを供給する。
【0008】
本発明の一態様によれば、導電性材料を含む電磁波遮蔽層と、この電磁波遮蔽層の片面上に積層させた、フェライト粒子を含む電磁波吸収層と、を備えた、電磁干渉抑制ハイブリッドシートが供給される。
【0009】
本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートでは、導電性材料を含む電磁波遮蔽層の片面上にフェライト粒子を含む電磁波吸収層が積層されることで、電子機器の内部及び/又は外部から生じる電磁波から電子機器を保護する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図2】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図3】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図4】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図5】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図6】本発明の他の実施形態による電磁干渉抑制ハイブリッドシートの断面図。
【図7】本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを有するケーブルの斜視図。
【図7A】本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを有するケーブルの斜視図。
【図8】SEM(走査電子顕微鏡法)により撮影した、本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートに用いる板状フェライト粒子のデジタル画像である。
【図9】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの遮蔽効果を示すグラフ。
【図10】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートにおける電力損失を示すグラフ。
【図11】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートにおける透磁率を示すグラフ。
【図12】実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートを適用したデータケーブル内の電磁雑音の抑制を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明によるシートは、導電性材料を含む電磁波遮蔽層10の片面上に積層された、フェライト粒子を含む電磁波吸収層20を備えることで、電子機器の内部及び/又は外部から生じる電磁干渉から電子機器を保護する(図1参照)。シートは電子機器内に配置してよく、電磁波吸収層20が電子機器の外部表面に接触し、電磁波遮蔽層10が電磁波吸収層20の外部表面上に積層されるか、そうでなければ、電磁波遮蔽層10が電子機器の外部表面に接触し、電磁波吸収層20が電磁波遮蔽層10の外部表面上に積層される。
【0013】
例えば、電磁波吸収層20が電子機器の外部表面に接触し、電磁波遮蔽層10が電磁波吸収層20の外部表面上に積層される場合、電子機器の外部で生じた電磁波は電磁波遮蔽層に入射する。この場合、入射電磁波は、まず電磁波遮蔽層10によって遮蔽され得る。具体的には、電磁波遮蔽層10はその表面上に入射した電磁波を電流に変換し、その電流を表面に沿って流すことによって、電磁波が電子機器内に伝播ことを防止し得る。電磁波遮蔽層10は電磁波の大部分を遮蔽し得る。しかしながら、入射電磁波の一部は電磁波遮蔽層によって遮蔽されずに電磁波遮蔽層を透過し得る。
【0014】
しかし、従来技術と異なり、本発明では、たとえ電磁波が電磁波遮蔽層10を透過したとしても、電磁波遮蔽層を透過した電磁波は、電磁波遮蔽層の片面上に積層された電磁波吸収層20によって吸収されることから、電子機器が電磁干渉から保護される。
【0015】
特に、電磁波吸収層20はフェライト粒子、すなわち高い透磁率を有する磁性材料を含む。フェライト粒子内では、微小な電気又は磁気双極子がランダムに分布している。このような電気又は磁気双極子が存在するフェライト粒子に電磁波が入射すると、双極子は入射電磁波による電磁誘導によって整列する。ここで、フェライト粒子の双極子は、電磁波の磁気波部分を主として吸収することによって整列する。整列においては、双極子は電磁波に応じて求められる形で抵抗する。双極子がこのような抵抗を克服して電磁波によって整列させられる際、電磁波のエネルギーが熱へと変換することによって消滅する。電磁波吸収層20は、電磁波の主として磁気波部分を遮蔽するといってよい。
【0016】
また、電磁波遮蔽層10が電子機器の外部表面に接触し、電磁波吸収層20が電磁波遮蔽層10の外部表面上に積層される場合、電子機器の外部で生じた電磁波は電磁波吸収層20に入射する。入射電磁波はまず電磁波吸収層20によって吸収され、その後、熱変換を通じて消滅する。ここで、電磁波の一部が電磁波吸収層を透過したとしても、この電磁波吸収層を透過した電磁波は、電磁波吸収層の片面上に積層された電磁波遮蔽層10による電流変換を通じて外部に放出され得る。
【0017】
上述したように、本発明による電磁干渉抑制シート1(図1〜6参照)は、導電性材料を含む電磁波遮蔽層10とフェライト粒子を含む電磁波吸収層20との両方を備える。これにより、外部機器から生じて電子機器内に伝播する電磁波、及び電子機器の内部から生じて外部に放出される電磁波を遮蔽及び吸収することにより、電子機器を電磁波から保護することが可能である。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、図1に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波遮蔽層10及び電磁波吸収層20を備える。
【0019】
電磁波遮蔽層10は導電性材料を含む。導電性材料の例としては、Al、Cu、Ni、Ag、Au、アモルファス金属合金、Ni−Fe合金、Fe−Ni−Mo合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Si合金、Fe−Co合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この種の導電性材料によれば、電磁波遮蔽層の体積低効率を約0.02〜1×1012Ω・cmの範囲内に調整し得る。したがって、本発明のハイブリッドシートを種々の電気機器に適用することが可能である。
【0020】
このような電磁波遮蔽層10の厚さは、電子機器に応じて、また最終的に得られる電磁干渉抑制ハイブリッドシートが適用される部分に応じて調整してよく、特に限定されない。本発明では、厚さが約5μmの薄い電磁波遮蔽層で、たとえ入射電磁波の一部がこの電磁波遮蔽層を透過しても、この電磁波遮蔽層を透過した電磁波が、電磁波遮蔽層の片面上に存在する電磁波吸収層によって吸収されることから、電気機器を電磁波から保護することが可能である。本発明の一実施形態によれば、電磁波遮蔽層の厚さは約7〜約20μmの範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の電磁干渉抑制シート1において、電磁波吸収層20はフェライト粒子を含むことで電磁波を吸収し熱エネルギーに変換する。
【0022】
フェライト粒子は磁性酸化物であり、磁化の程度によってハードフェライト及びソフトフェライトに分類される。本発明においては、磁気特性が外部要因(例えば磁界)によって容易に変化し得るソフトフェライトを用いることが好ましい。
【0023】
フェライト粒子の例としては、Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、Ni−Mn−Zn系フェライトなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施形態によれば、約100KHz〜約1GHzの周波数を有する電磁波の吸収にMn−Zn系フェライトを用い得る。また、本発明の別の実施形態によれば、約100KHz〜約5GHzの周波数を有する電磁波の吸収にNi−Zn系フェライトを用い得る。また、本発明のさらに別の実施形態によれば、約300KHz〜約2GHzの周波数を有する電磁波の吸収にMg−Zn系フェライトを用い得る。
【0024】
また、本発明の一実施形態によれば、次の式1で表されるフェライト粒子を用いることもでき、このようなフェライト粒子中に更に添加物を含ませることもできる。
【0025】
[式1]
MnxZnyFezO4(x+y+z=3)
【0026】
また、本発明の別の実施形態によれば、次の2で表されるフェライト粒子を用いることもでき、このようなフェライト粒子中に更に添加物を含ませることもできる。
【0027】
[式2]
Mg1−xZnxFe2O4(0≦x≦0.9)
【0028】
また、本発明の更に別の実施形態によれば、次の式3で表されるフェライト粒子を用いることもでき、このようなフェライト粒子中に更に添加物を含ませることもできる。
【0029】
[式3]
Ni1−xZnxFe2O4(0≦x≦0.9)
【0030】
添加物の例としては酸化コバルト、酸化ケイ素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
フェライト粒子の形状は特に限定されないが、板状又は針状の形状が好ましい。フェライト粒子が板状又は針状の形状ではなくて別の形状(例えば球状)である場合、約100μm以下の厚さ(直径)を有するフェライト粒子の透磁率、したがってまたそのフェライト粒子を適用し得る周波数帯域が、限定される。また、このようなフェライト粒子では高周波帯域における吸収効率が急速に低下する恐れがある。本発明の一実施形態によれば、約40〜400の範囲内の透磁率を有する板状又は針状フェライト粒子を用い得る。本発明の別の実施形態によれば、約30〜50の範囲内の透磁率を有する板状又は針状フェライト粒子を用い得る。
【0032】
板状又は針状フェライト粒子の厚さ(長手方向に対して垂直な断面の長さ)は約2〜約10μm、好ましくは約5〜約7μmの範囲内にある。フェライト粒子の厚さが約2μm未満であると、フェライト粒子の調製及び取扱いが困難である。他方、フェライト粒子の厚さが約10μmより大きいと、フェライト層の密度が減少することで電磁波吸収特性が低下し得る。板状又は針状フェライト粒子がこのような厚さを有することにより、電磁波吸収層の厚さを薄くすることができ、したがって最終的に得られる電磁干渉抑制ハイブリッドシートも、厚さの薄いものを製造することが可能である。
【0033】
また、板状又は針状フェライト粒子において、長手方向の長さは約30〜約100μm、好ましくは約40〜約80μmの範囲内にある。フェライト粒子の長さが約30μm未満であると、透磁率が減少し、したがって吸収性能が低下する恐れがある。他方、フェライト粒子の長さが約100μmより大きいと、脆性により磁気特性が低下する恐れがある。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、板状又は針状フェライト粒子において、長手方向の長さと厚さとの比は約7〜約12μmの範囲内であってよい。
【0035】
板状又は針状フェライト粒子は種々の方法で調製し得る。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、板状又は針状フェライト粒子は、次のような工程によって調製し得る。a)酸化鉄の、フェライト形成のための金属酸化物との混合、b)混合物を焼成して第1の焼成材料を得る第1の焼成、c)第1の焼成材料をフェライト微粉にする第1の機械的粉砕、d)溶媒中に溶解させたバインダー樹脂を含む溶液中にフェライト微粉を分散させることによる、分散溶液の調製、e)分散溶液の、剥離フィルムの表面上へのコーティング、及び乾燥によるコーティング層の形成、そしてコーティング層の剥離フィルム表面からの分離、f)分離したコーティング層を焼成して第2の焼成材料を得る第2の焼成、並びにg)第2の焼成材料を粉砕する第2の機械的粉砕。
【0037】
1)まず、酸化鉄と、フェライト形成のための金属酸化物とを混合する。ここで、本発明において用い得るフェライト形成のための金属酸化物は、特に限定されるものではないが、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどがこれに挙げられる。また、酸化コバルト、酸化ケイ素などの添加物も含み得る。
【0038】
ここで、例えば振動ミル又はボールミルのような機械的粉砕機を用いることにより、酸化鉄をフェライト形成のための金属酸化物と均一に混合することが好ましい。また、酸化鉄とフェライト形成のための金属酸化物とを溶媒中で混合することもできる。
【0039】
酸化鉄とフェライト形成のための金属酸化物との混合率は、最終的に得られるフェライトの成分及び物理特性に応じて調整される。例えば、Ni−Zn系フェライトでは、フェライト形成のための金属酸化物(NiO,Zno)と酸化鉄(Fe2O3)とをモル比1:1で混合することが好ましい。混合比が上述した範囲を上回る場合、最終的に得られるフェライトが所定の焼成温度で焼成不十分に焼成又は焼成過剰となることにより、焼成密度及び磁気特性が変化してしまう恐れがある。
【0040】
2)次いで、フェライト形成のための金属酸化物と酸化鉄との混合物を第1焼成し、焼成材料(以下、「第1の焼成材料」と称する)を得る。ここで、混合物の焼成温度(以下、「第1の焼成温度」と称する)は、フェライト形成のための金属酸化物の種類並びにこの金属酸化物及び酸化鉄の容量に応じて調整してよく、好ましくは約850〜900℃の範囲内である。第1の焼成温度が約850℃未満であると、十全な磁気特性を得るために適した結晶化(スピネル構造)が起こらず、このために磁気特性が低下するし、他方、第1の焼成温度が約900℃より高いと、粒子が過剰成長し、粉砕後の粒径分布が不均一となることから、磁気特性が低下し得る。
【0041】
3)第1の焼成材料に機械的粉砕機で第1の機械的粉砕を施し、フェライト微粉を得る。機械的粉砕機の例としてはボールミル機、遊星ミル機、攪拌ボールミル機、振動ミル機などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。所望により、第1の焼成材料の第1の機械的粉砕は溶媒中で行ってもよく、その場合、形成されたフェライト微粉を乾燥に付してもよい。溶媒は特に限定されないが、溶媒の例としては、ステアリン酸、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水、メチルエチルケトン、エチルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
4)上述のように形成されたフェライト微粉を、溶媒中に溶解させたバインダー樹脂を含む溶液に加え、均一に分散させて、フェライト微粉とバインダー樹脂との混合溶液(これは分散溶液である)を得る。ここで、フェライト微粉の容量は、バインダー樹脂を100重量部として約300〜約500重量部の範囲内であることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。フェライト微粉の容量が約300重量部未満であると、シートの密度が減少することで磁気特性が低下す可能性があり、他方、フェライト微粉の容量が約500重量部より多いと、シートの機械的強度が減少する可能性がある。
【0043】
本発明において用い得るバインダー樹脂の非限定的な例としては、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。また、溶媒の非限定的な例としては、ステアリン酸、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水、メチルエチルケトン、エチルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
5)次に、分散溶液である、フェライト微粉とバインダー樹脂との混合溶液を、剥離可能な剥離フィルム表面上にコーティングしてよいし、また乾燥に付してコーティング層を形成してもよい。次いで、形成されたコーティング層を剥離フィルムの表面から分離させ得る。
【0045】
ここで、剥離フィルム上にコーティングされた分散溶液の厚さは約15〜約20μmの範囲内であることが好ましい。コーティングされた分散溶液の厚さが約15μm未満であると、続く第2の焼成工程後において、焼成された板状又は針状フェライト材料の厚さが約5μm未満となることから、機械的強度が減少する。加えて、板状又は針状フェライト粉末をバインダー樹脂と混合する際に、フェライト粉末が破壊されてしまう可能性がある。他方、コーティングされた分散溶液の厚さが約20μmより大きいと、続く第2の焼成工程後において、焼成された板状又は針状フェライト材料の厚さが約10μm以上となり、したがってシートの密度が減少することによって磁気特性が低下し得る。
【0046】
分散溶液を剥離フィルム上にコーティングするに際しては、当該技術分野において既知である従来のコーティング法、例えばディップコーティング、ダイコーティング、ロールコーティング、コンマコーティング、又はこれらの組合せなどを用い得る。
【0047】
剥離可能な剥離フィルムの非限定的な例としては、シリコーンをコーティングしたポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが挙げられる。
【0048】
6)剥離フィルムから分離されたコーティング層を再度焼成して焼成材料(以下、「第2の焼成材料」と称する)を得る。ここで、焼成温度(以下、「第2の焼成温度」と称する)は上述した第1の焼成温度より高く、好ましくは約1000〜約1300℃の範囲内である。第2の焼成温度が約1000℃未満であると、フィルムの焼きが不十分となることで磁気特性が低下する。他方、第2の焼成温度が約1300℃より高いと、フィルムの焼きが過剰となり、このため粉砕工程後の粒径分布が不均一となることで磁気特性が低下する可能性がある。
【0049】
7)次いで、上述した第2の焼成材料を、上述した機械的粉砕機によって再度機械的に粉砕し得る。
【0050】
上述したプロセスを通じて、フェライト粒子は、従来既知である球状のフェライト粒子ではなく、板状又は針状の形状の粒子である。板状又は針状フェライト粒子は、従来既知である球状フェライト粒子に比較して、高い密度及び高い透磁率を有する。したがって、本発明の電磁波吸収層内にこのような板状又は針状フェライト粒子を含むことにより、本発明の電磁波吸収性能は向上し得る。
【0051】
本発明において、フェライト粒子を含む電磁波吸収層の厚さは特に限定されないが、約50μm以上であることが好ましい。本発明では、薄い電磁波吸収層で、たとえ入射電磁波の一部がこの電磁波吸収層を透過しても、その電磁波が、電磁波吸収層の片面上に存在する電磁波遮蔽層によって遮蔽されることで、電気機器を電磁波から保護することが可能である。本発明の一実施形態によれば、電磁波吸収層の厚さは約30〜約300μmの範囲内でよい。本発明の別の実施形態によれば、電磁波吸収層の厚さは約30〜約150μmの範囲内であり得る。
【0052】
本発明の電磁波吸収層20は、上述したフェライト粒子の他に、バインダー樹脂を含んでもよい。ここで、フェライト粒子の容量は特に限定されないが、バインダー樹脂を100重量部として約400〜約800重量部の範囲内でよい。フェライト粒子の容量が約400重量部未満であると、シートの密度が減少することで磁気特性が低下し得、他方、フェライト粒子の容量が約800重量部より多いと、シートの機械的強度が減少することからシートがハイブリッドシートとして使用できなくなり得る。
【0053】
本発明において用い得るバインダー樹脂の非限定的な例としては、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリウレタン、CPE(塩素化ポリエチレン)などが挙げられる。
【0054】
上述したように、本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波吸収層20及びこの吸収層の片面上に積層された電磁波遮蔽層10を備える(図1参照)。加えて、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は更に、絶縁層30及び/又は接着層40を備えてもよい。
【0055】
本発明の別の実施形態によれば、図2に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波吸収層20と電磁波遮蔽層10との間に介在させた絶縁層30(以下、「第1の絶縁層」と称する)を備え得る。
【0056】
本発明の更に別の実施形態によれば、図3に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、電磁波遮蔽層10と電磁波吸収層20との間に介在させた第1の絶縁層30の他に更に、電磁波遮蔽層及び電磁波吸収層の少なくとも1つの外表面上、例えば電磁波吸収層20の外表面上に積層させた、別の絶縁層31(以下、「第2の絶縁層」と称する)を備えてもよい。
【0057】
本発明の更に別の実施形態によれば、図4及び5に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は更に、電磁波遮蔽層10及び電磁波吸収層20の少なくとも1つの外表面上、例えば電磁波遮蔽層の外表面上に積層させた、接着層40(以下、「第1の接着層」と称する)を備えてもよい。電磁波遮蔽層の外表面上に積層させたこの接着層は、導電性又は非導電性の接着層であり得る。
【0058】
本発明の更に別の実施形態によれば、図6に示したように、電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は更に、電磁波吸収層20の外表面上に積層させた、別の接着層41(以下、「第2の接着層」と称する)を備えてもよい。
【0059】
本発明において用い得る第1及び第2の絶縁層のための材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレン硫化物、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本発明において用い得る第1及び第2の接着層の材料の例としては、接着性のポリマー樹脂が挙げられる。導電性接着層には、接着性のポリマー樹脂とともに導電性の充填剤をも含み得る。ここで、導電性の充填剤の容量は特に限定されないが、接着性のポリマー樹脂を100重量部として約20〜約60重量部の範囲内であることが好ましい。
【0061】
本発明では、接着性のポリマー樹脂として、アクリルポリマー樹脂を用いることができる。本発明の一実施形態によれば、光重合可能なモノマーの重合により調製されるアクリルポリマー樹脂を用い得る。
【0062】
このようなアクリルポリマー樹脂の調製に当たっては、光重合可能なモノマーとして、C1〜C14アルキル基を有するアルキルアクリレートエステルモノマーが有効に用いられ得る。アルキルアクリレートエステルモノマーの非限定的な例としては、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。加えて、アルキルアクリレートエステルモノマーの例としては、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレートなども挙げられる。
【0063】
アルキルアクリレートエステルモノマーは、単独でアクリル接着樹脂の形成に用いてもよいし、別の極性共重合可能なモノマーとともに共重合によってアクリル接着ポリマー樹脂を形成することもできる。換言すれば、アクリル接着ポリマー樹脂は、C1〜C14アルキル基を有するアルキルアクリレートエステルモノマーと極性共重合可能なモノマーとの共重合によっても調製し得る。ここで、アルキルアクリレートエステルモノマー及び極性共重合可能なモノマーは、最終的に得られる接着ポリマー樹脂の物理的特性を考慮した場合、99:1〜50:50の重量比で用いることが好ましい。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
極性共重合可能なモノマーの非限定的な例としては、アクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、シアノアルキルアクリレート、アクリルアミド、置換アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロニトリル、塩化ビニル、及びフタル酸ジアリルなどが挙げられる。このような極性共重合可能なモノマーは、ポリマー樹脂に密着性と凝集性をもたらすことによって、接着特性を向上させることができる。
【0065】
本発明において用い得る導電性充填剤の例としては、貴金属及び非貴金属を含む金属;貴金属又は非貴金属と合金化した、貴金属及び非貴金属;貴金属又は非貴金属と合金化した、非金属;導電性非金属;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0066】
具体的に、導電性充填剤の材料の例としては、金、銀、プラチナなどの貴金属;ニッケル、銅、スズ、アルミニウムなどの非貴金属;貴金属と合金化した貴金属及び非貴金属、例えば銀と合金化した銅、銀と合金化したニッケル、銀と合金化したアルミニウム、銀と合金化したスズ、銀と合金化した金など;非貴金属と合金化した貴金属及び非貴金属、例えばニッケルと合金化した銅、ニッケルと合金化したスズなど;貴金属又は非貴金属と合金化した非金属、例えば銀又はニッケルと合金化したグラファイト、ガラス、セラミック、プラスチック、エラストマー、雲母など;導電性非金属、例えばカーボンブラック、炭素繊維など;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0067】
本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシート1は、種々の方法を用いて製造し得る。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、電磁干渉抑制ハイブリッドシートは次のような工程によって製造し得る。(i)導電性材料の剥離フィルム上への堆積又はめっきによる、電磁波遮蔽層の形成、(ii)バインダー樹脂を溶媒中に溶解させることによって調製されるポリマー溶液への、フェライト粒子の付加及び混合、並びに(iii)工程(ii)によるバインダー樹脂及びフェライト粒子の混合物の、工程(i)による電磁波遮蔽層上へのコーティング、及び乾燥プロセスの実施。
【0069】
1)まず、電磁波遮蔽層を形成する。ここで、導電性材料を剥離フィルムの表面上に、真空蒸着、イオンめっき、電子ビーム真空蒸着、スパッタリングなどにより堆積又はめっきすることで、電磁波遮蔽層を薄いフィルムとして形成し得る。
【0070】
2)次に、バインダー樹脂を適当な有機溶媒に溶解させることによってポリマー溶液を調製する。材料を均一に混合でき、その後で溶媒を容易に除去できるように、溶媒はバインダー樹脂と同様の溶解パラメーターを有することが好ましい。本発明において用い得る溶媒の非限定的な例としては、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水、メチルエチルケトン、エチルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0071】
また、バインダー樹脂の例としては、ポリビニルアルコール、アクリルバインダー、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0072】
また、ポリマー溶液は、ハイブリッドシートの柔軟性を向上させるために可塑剤などを含んでもよい。可塑剤の例としては、フタル酸エステル可塑剤、トリメリット酸エステル可塑剤、リン酸エステル可塑剤、エポキシ可塑剤、ポリエステル可塑剤、脂肪酸エステル可塑剤などが挙げられ、より具体的には、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、TOTM(トリメリット酸トリエチルヘキシル)、TINTM(トリメリット酸トリイソノニル)、TIDTM(トリメリット酸トリイソデシル)、TCP(リン酸トリクレシル)、TOP(リン酸トリ−2−エチルへキシル、CDP(リン酸クレシルジフェニル)、DOA(アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DIDA(アジピン酸ジイソデシル)などが挙げられる。
【0073】
3)調製したポリマー溶液にフェライト粒子を加え、分散させて、フェライト粒子とバインダー樹脂との混合物を調製する。ここで、フェライト粒子とバインダー樹脂とを均一に混合するために、当該技術分野において既知の機械的混合機、例えばボールミル機を好ましく用い得る。
【0074】
4)調製したフェライト粒子とバインダーポリマー樹脂との混合物を、予め調製した電磁波遮蔽層上にコーティングし、乾燥に付すことにより、本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを得る。
【0075】
ここで、フェライト粒子とバインダー樹脂との混合物を電磁波遮蔽層上にコーティングするに際しては、当該技術分野において既知の従来のコーティング法、例えばディップコーティング、ダイコーティング、ロールコーティング、コンマコーティング、又はこれらの組合せを用い得る。
【0076】
更に、本発明は、上述した電磁干渉抑制ハイブリッドシートを備えた種々の電気機器/部品、例えばICパッケージ、PCBなどを供給し得る。
【0077】
図7及び7Aに示したように、本発明の一実施例によるケーブル2の内部においては、電線が上述した電磁干渉抑制ハイブリッドシート1によって被覆されている。電磁干渉抑制ハイブリッドシートは、インピーダンス整合により信号ケーブル上に導かれる不要な高周波電流を抑制又は低減することから、大容量データケーブル、例えばUSB 2.0ケーブル、USB 3.0ケーブル、HDMIケーブルなどに用い得る。また、外部機器又は端子から生じる高周波電流も、ハイブリッドシートにより抑制され得る。
【実施例】
【0078】
以下に本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は例示にすぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
1−1フェライト粒子の調製
溶媒としての蒸留水300L中に、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ニッケル(NiO)、及び酸化亜鉛(ZnO)をモル比1:0.25:0.65で加え、均一に混合した後、300℃で乾燥させた。乾燥させた混合物を約880℃で焼成して、焼成材料を得た。焼成した材料をボールミル機(NANOINTECH,Ball mill)内でステンレス鋼球(直径=約20mm)とともに約24rpmの回転速度で24時間機械的に粉砕し、微粉を得た(焼成材料のステンレス鋼球に対する重量比は0.2:1)。次いで、(溶媒としての)メチルエチルケトン中に(バインダー樹脂としての)ポリビニルアルコールを100重量部、溶解させることによって調製した溶液中に、微粉を500重量部加え、均一に混合して混合溶液を形成した。次に、混合溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面上に、約18μmの厚さにコーティングし、乾燥させてコーティング層を形成した。その後、形成されたコーティング層をPETフィルムから分離し、分離したコーティング層を約1150℃で焼成して焼成材料を得た。焼成した材料をボールミル機(NANOINTECH,Ball mill)内でステンレス鋼球(直径=約20mm)とともに約24rpmの回転速度で8時間、機械的に粉砕し、フェライト粒子を得た(焼成材料のステンレス鋼球に対する重量比は0.2:1)。上述のようにして得られたフェライト粒子は、厚さが約5μmで長手方向の長さが約70μmの板状の形状を有する。
【0080】
1−2電磁干渉抑制ハイブリッドシートの製造
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、Alターゲットをスパッタリングすることにより第1の表面上に厚さが約7μmのアルミニウムの薄いフィルムを堆積させた。
【0081】
溶媒としてのメチルエチルケトンに、(バインダー樹脂としての)ポリビニルアルコールを100重量部溶解させた。上述のように調製したフェライト粒子を溶液に加え、攪拌して混合溶液を得た。
【0082】
その後、形成された混合溶液をPETフィルムの第2の表面(第1の表面にはアルミニウムの薄いフィルムが堆積している)上に80μmの厚さにコーティングし、乾燥させて電磁干渉抑制ハイブリッドシートを得た。
【0083】
比較例1
溶媒としてのメチルエチルケトンに、(バインダー樹脂としての)ポリビニルアルコールを100重量部溶解させた。実施例1から調製されたフェライト粒子をこの溶液に加え、攪拌して混合溶液を得た。次に、形成された混合溶液をPETフィルムの表面上に80μmの厚さにコーティングし、乾燥させて電磁波吸収シートを得た。
【0084】
比較例2
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、Alターゲットをスパッタリングすることにより、厚さが約7μmのアルミニウムの薄いフィルムを堆積させ、電磁波遮蔽シートを得た。
【0085】
実験例1−電磁干渉抑制ハイブリッドシートの性能測定
本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートの電磁波遮蔽能を測定するため、以下のような試験を行った。
【0086】
(1)遮蔽効果(SE)
ASTM D 4935に従い、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの遮蔽効果(SE)を試験した。試験システムは10MHz〜1GHzの周波数帯域において用いた。ここで、対照群として、比較例1及び2から得られたシートにおける遮蔽効果を試験した。試験結果を表1及び図9に示す。
【0087】
ここで、遮蔽効果(SE)は次の数式1によって算定した。
【0088】
[数式1]
SE=10log(P1/P2)(デジベル、dB)
【0089】
数式1において、P1は試料が存在する時の透過電力を示し、P2は試料が存在しないときの透過電力を示す。
【0090】
一方、透過読取り器が結果をボルトで表示する場合には、遮蔽効果(SE)は次の数式2によって算定され得る。
【0091】
[数式2]
SE=20log(V1/V2)(デジベル、dB)
【0092】
数式2において、V1は試料が存在する時の透過電圧を示し、V2は試料が存在しないときの透過電圧を示す。
【0093】
結果によれば、比較例1のシートは約5dBという低い遮蔽効果を示したのに対し、図9に示すように、実施例1から得られたシートは最低50dBという遮蔽効果を示した。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは卓越した電磁遮蔽特性を有すると判断される。
【0094】
(2)電力損失の試験
本発明の電磁干渉抑制ハイブリッドシートの電磁波吸収能を測定するために、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの電力損失の程度を試験した。また、対照群として、比較例1のシートにおける電力損失の程度を試験した。ここで、試料は50mm(L)及び50mm(w)の寸法を有し、試験システムは30MHz〜2GHzの周波数帯域において用いた。試験結果を表1及び図10に示す。
【0095】
この結果、比較例1のシートは1GHzで約15%という低程度の電力損失を示したのに対し、実施例1から得られたハイブリッドシートは1GHzで約40%という高程度の電力損失を示した(表1及び図10参照)。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは卓越した電磁吸収特性を有すると判断される。
【0096】
(3)体積抵抗率の試験
ASTM D 257に従い、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートの体積抵抗率を試験した。ここで、対照群として、比較例1及び2のシートにおける体積抵抗率を試験した。試験結果を表1記載する。
【0097】
結果によれば、実施例1から得られたハイブリッドシートにおいては、電磁波吸収層の体積抵抗率は比較例1で得られたシートのものと同様であり(1×1012Ω・cm)、その電磁波遮蔽層の体積抵抗率は比較例2で得られたシートのものと同様であった(0.02Ω・cm)。
【0098】
(4)透磁率の試験
実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートにおける複素透磁率(μ’:実部、μ”:虚部)を試験した。試験結果を図11に示す。ここで、対照群として、比較例1から得られたシートの複素透磁率を試験した。試験結果を表1に示す。使用した試料は内径6mm、外形28mm、厚さ8mmのトロイダル形状を有し、試験システムは1MHz〜1GHzの周波数帯域で用いた。
【0099】
結果によれば、比較例1のシートでは複素透磁率の実部(μ’)が約15であったのに対し、実施例1から得られたハイブリッドシートでは複素透磁率の実部(μ’)が約20〜45で、比較例1の場合より高かった。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは卓越した電磁吸収特性を有すると判断される。
【0100】
【表1】
【0101】
実験例2−USB 2.0データケーブル内における電磁雑音抑制の測定
実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートを用いたUSB 2.0データケーブル内における電磁雑音抑制効果を測定するために、以下の試験を行った。
【0102】
実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートでUSB 2.0データケーブルの周囲を覆った。次に、電波無響室(3m×3m)を使用することにより、データケーブルに電子機器を接触させ、電源駆動時に放射される雑音を測定した。試験結果を図12に示す。
【0103】
結果によれば、実施例1から得られた電磁干渉抑制ハイブリッドシートを用いたデータケーブルについては、電磁雑音が抑制され、その電磁雑音レベルはFCC(Federal Communication Commission)規格に合致するものであった。したがって、本発明による電磁干渉抑制ハイブリッドシートは、データケーブル内の高周波電流について卓越した抑制特性を有していると判断される。
【0104】
本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示目的で記載したが、当業者には、添付の特許請求の範囲に開示されている本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、様々な修正、追加及び置換が可能であることが理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料を含む電磁波遮蔽層と、
前記電磁波遮蔽層の片面上に積層された、フェライト粒子を含む電磁波吸収層と、を含む、電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項2】
前記フェライト粒子が、プレート型形状又は針状の形状を有し、厚さ(長手方向に対して垂直な断面の長さ)が2〜10μmの範囲内で、長手方向の長さが30〜100μmの範囲内にある、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項3】
前記プレート型形状又は針状の形状のフェライト粒子が、30〜400の範囲内の透磁率を有する、請求項2に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項4】
前記フェライト粒子が、
酸化鉄をフェライトを形成するための金属酸化物と混合する混合工程と、
前記混合物を焼成して第1の焼成材料を得る第1の焼成工程と、
前記第1の焼成材料を粉砕してフェライト微粉にする第1の粉砕工程と、
バインダー樹脂を溶媒に溶解させることにより調製した溶液に、前記フェライト微粉を分散させて分散溶液を調製する工程と、
前記分散溶液を剥離フィルムの表面上にコーティングし、乾燥させてコーティング層を形成した後、前記コーティング層を前記剥離フィルムの表面から分離する工程と、
前記分離した前記コーティング層を焼成して第2の焼成材料を得る第2の焼成工程と、
前記第2の焼成材料を粉砕する第2の機械的粉砕工程と、によって調製される、請求項2に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項5】
前記フェライトを形成するための金属酸化物が、ニッケル酸化物、マンガン酸化物、亜鉛酸化物、及びこれらの混合物を含む群から選択される、請求項4に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項6】
前記フェライト粒子が、Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、及びNi−Mn−Zn系フェライトを含む群から選択される、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項7】
前記導電性材料が、Al、Cu、Ni、Ag、Au、非晶質金属合金、Ni−Fe合金、Fe−Ni−Mo合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Si合金、及びFe−Co合金を含む群から選択される、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項8】
前記電磁波遮蔽層と前記電磁波吸収層との間に第1の絶縁層を含む、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項9】
前記電磁波遮蔽層及び前記電磁波吸収層の少なくとも1つの表面上に積層された、第2の絶縁層を含む、請求項1又は8に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項10】
前記電磁波遮蔽層及び前記電磁波吸収層の少なくとも1つの表面上に積層された、接着層を含む、請求項1又は8に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項11】
前記電磁波遮蔽層の表面上に積層された前記接着層が、導電性接着層である、請求項10に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項12】
前記第2の絶縁層上に積層された接着層を含む、請求項9に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項13】
電磁干渉抑制ハイブリッドシートを製造する方法であって、前記方法が、
(i)導電性材料の剥離フィルム上への堆積又はめっきにより、電磁波遮蔽層を形成する工程と、
(ii)バインダー樹脂を溶媒中に溶解させることによって調製したポリマー溶液に、フェライト粒子を付加及び混合する工程と、
(iii)乾燥プロセスの実施しながら、工程(i)の電磁波遮蔽層上へ、工程(ii)のバインダー樹脂及びフェライト粒子の混合物を、コーティングする工程と、を含む、方法。
【請求項14】
前記シートが電気ケーブルの内部又は外部を覆う、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを含む、ケーブル。
【請求項1】
導電性材料を含む電磁波遮蔽層と、
前記電磁波遮蔽層の片面上に積層された、フェライト粒子を含む電磁波吸収層と、を含む、電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項2】
前記フェライト粒子が、プレート型形状又は針状の形状を有し、厚さ(長手方向に対して垂直な断面の長さ)が2〜10μmの範囲内で、長手方向の長さが30〜100μmの範囲内にある、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項3】
前記プレート型形状又は針状の形状のフェライト粒子が、30〜400の範囲内の透磁率を有する、請求項2に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項4】
前記フェライト粒子が、
酸化鉄をフェライトを形成するための金属酸化物と混合する混合工程と、
前記混合物を焼成して第1の焼成材料を得る第1の焼成工程と、
前記第1の焼成材料を粉砕してフェライト微粉にする第1の粉砕工程と、
バインダー樹脂を溶媒に溶解させることにより調製した溶液に、前記フェライト微粉を分散させて分散溶液を調製する工程と、
前記分散溶液を剥離フィルムの表面上にコーティングし、乾燥させてコーティング層を形成した後、前記コーティング層を前記剥離フィルムの表面から分離する工程と、
前記分離した前記コーティング層を焼成して第2の焼成材料を得る第2の焼成工程と、
前記第2の焼成材料を粉砕する第2の機械的粉砕工程と、によって調製される、請求項2に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項5】
前記フェライトを形成するための金属酸化物が、ニッケル酸化物、マンガン酸化物、亜鉛酸化物、及びこれらの混合物を含む群から選択される、請求項4に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項6】
前記フェライト粒子が、Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、及びNi−Mn−Zn系フェライトを含む群から選択される、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項7】
前記導電性材料が、Al、Cu、Ni、Ag、Au、非晶質金属合金、Ni−Fe合金、Fe−Ni−Mo合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Si合金、及びFe−Co合金を含む群から選択される、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項8】
前記電磁波遮蔽層と前記電磁波吸収層との間に第1の絶縁層を含む、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項9】
前記電磁波遮蔽層及び前記電磁波吸収層の少なくとも1つの表面上に積層された、第2の絶縁層を含む、請求項1又は8に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項10】
前記電磁波遮蔽層及び前記電磁波吸収層の少なくとも1つの表面上に積層された、接着層を含む、請求項1又は8に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項11】
前記電磁波遮蔽層の表面上に積層された前記接着層が、導電性接着層である、請求項10に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項12】
前記第2の絶縁層上に積層された接着層を含む、請求項9に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシート。
【請求項13】
電磁干渉抑制ハイブリッドシートを製造する方法であって、前記方法が、
(i)導電性材料の剥離フィルム上への堆積又はめっきにより、電磁波遮蔽層を形成する工程と、
(ii)バインダー樹脂を溶媒中に溶解させることによって調製したポリマー溶液に、フェライト粒子を付加及び混合する工程と、
(iii)乾燥プロセスの実施しながら、工程(i)の電磁波遮蔽層上へ、工程(ii)のバインダー樹脂及びフェライト粒子の混合物を、コーティングする工程と、を含む、方法。
【請求項14】
前記シートが電気ケーブルの内部又は外部を覆う、請求項1に記載の電磁干渉抑制ハイブリッドシートを含む、ケーブル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−502479(P2012−502479A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526146(P2011−526146)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/055703
【国際公開番号】WO2010/028024
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/055703
【国際公開番号】WO2010/028024
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】
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