説明

電磁式係合装置

【課題】部品点数の増加を抑えつつ引き摺り損失を低減できる係合装置を提供する。
【解決手段】電磁式係合装置7は、摩擦板21〜23を軸線Ax方向の移動を許容しつつ相対回転を制限しながら保持し、解放状態から係合状態へ変更する際に電磁駆動部11の電磁力にて軸線Ax方向に吸引されるように軸線Ax方向に移動可能かつ軸線Axの回りを回転可能に支持されたストローク部材14と、第1回転軸2に設けられ、係合状態の際に摩擦板21〜23を電磁駆動部11の電磁力を利用して軸線Ax方向から挟み込み、かつ解放状態の際に摩擦板21〜23を解放する掴み具25と、解放状態から係合状態へ変更する過程でストローク部材14の噛み合い歯52と第2回転軸3の噛み合い歯53とを噛み合わせる噛み合い部16と、ストローク部材14を吸引方向とは反対方向に付勢するリターンスプリング17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの要素間に介在し、これら要素を結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替える電磁式係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多板式摩擦ブレーキとして、解放状態における引き摺り損失を低減するため、回転側の摩擦板を保持する保持要素をドグクラッチにて回転要素に対して断続できるようにし、解放状態から回転要素を静止させる係合状態へ変更する際にはドグクラッチによって上記保持要素を回転要素に結合してから、回転側の摩擦板と固定側の摩擦板とを互いに係合させるものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−127840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の係合装置は、摩擦ブレーキ及びドグクラッチのそれぞれに対して駆動源及びリターンスプリング等の付勢部材が必要となるので部品点数が増大して装置の大型化を招く。
【0005】
そこで、本発明は、部品点数の増加を抑えつつ引き摺り損失を低減できる電磁式係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁式係合装置は、共通の軸線上に配置されて少なくとも一方が前記軸線の回りを回転可能な第1要素と第2要素との間に介在し、前記第1要素と前記第2要素とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態との間で状態を切り替え可能な結合機構と、電磁力を利用して前記結合機構を前記解放状態から前記係合状態へ変更可能な電磁駆動手段と、を具備し、前記結合機構は、摩擦部材と、前記摩擦部材を前記軸線方向の移動を許容しつつ前記軸線回りの相対回転を制限しながら保持するとともに、前記解放状態から前記係合状態へ変更する際に前記電磁駆動手段の電磁力にて前記軸線方向に吸引されるように前記軸線方向に移動可能かつ前記軸線の回りを回転可能に支持されたストローク部材と、前記第1要素に設けられ、前記係合状態の際に前記摩擦部材を前記電磁駆動手段の電磁力を利用して前記軸線方向から挟み込み、かつ前記解放状態の際に前記摩擦部材を解放する掴み手段と、前記解放状態から前記係合状態へ変更する過程で前記ストローク部材が前記電磁駆動手段の電磁力にて吸引された際に前記ストローク部材と前記第2要素とが前記軸線回りの相対回転が不能な状態となるように、前記ストローク部材に設けられた噛み合い歯と前記第2要素に設けられた噛み合い歯とを互いに噛み合わせる噛み合い手段と、前記電磁駆動手段の電磁力にて前記ストローク部材が吸引される方向とは反対方向に前記ストローク部材を付勢する付勢部材と、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
この電磁式係合装置によれば、ストローク部材の吸引によってストローク部材の噛み合い歯と第2要素の噛み合い歯とを噛み合わせることと、掴み手段による摩擦部材の挟み込みとを電磁駆動手段が発生させる電磁力によって達成できる。そのため、噛み合い手段及び掴み手段のそれぞれに駆動源を設ける場合に比べて部品点数を削減できる。また、結合機構が解放状態の場合には噛み合い手段による噛み合いが解放されているためストローク部材が第2要素に対して相対回転可能な状態になる。そのため、ストローク部材が保持する摩擦部材と、第1要素に設けられた掴み手段との間に強制的に回転速度差が生じることがないので、摩擦部材と掴み手段との間に生じ得る引き摺り損失を低減できる。更に、解放状態の場合にはストローク部材に付勢部材の付勢力が働くが、その付勢力に抗して噛み合い手段が噛み合った後には、その付勢力はストローク部材から摩擦部材へ伝達しない。そのため、係合状態の際に摩擦部材と掴み手段との間に生じる摩擦力、即ちトルク容量を低下させる方向に付勢部材の付勢力が作用することはない。従って、付勢部材の付勢力によってトルク容量が減少することを抑制できる。
【0008】
本発明の電磁式係合装置の一態様としては、前記結合機構は、前記軸線回りの差回転が可能な状態で互いに組み合わされ、いずれか一方と前記掴み手段とが一体回転可能で、かついずれか他方と前記第1要素とが一体回転可能な一対のカム部材を有し、前記差回転が生じた場合に前記掴み手段が前記摩擦部材を挟み込む力を増加させる推力を発生させるカム機構を更に備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、カム機構が発生させる推力によって掴み手段が摩擦部材を挟み込む力を増加させることができるので、電磁駆動手段の消費電力を低減できる。また、解放状態のときに過剰な角加速度がカム機構に入力して一対のカム部材に差回転が生じた場合でも、噛み合い手段の噛み合いが解放されていてストローク部材と第2要素とが相対回転可能な状態にある。そのため、一対のカム部材に意図しない差回転が生じても第1要素と第2要素とが誤って結合することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の電磁式係合装置によれば、ストローク部材の吸引によってストローク部材の噛み合い歯と第2要素の噛み合い歯とを噛み合わせることと、掴み手段による摩擦部材の挟み込みとを電磁駆動手段が発生させる電磁力によって達成できるとともに、結合機構が解放状態の場合には噛み合い手段による噛み合いが解放されていてストローク部材が第2要素に対して相対回転可能な状態にある。このため、部品点数の増加を抑えつつ引き摺り損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の断面模式図であってその解放状態を示した図。
【図2】第1の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の断面模式図であってその係合状態を示した図。
【図3】第1の形態の電磁式係合装置の作用を説明する説明図。
【図4】第2の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の断面模式図であってその解放状態を示した図。
【図5】第2の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の断面模式図であってその係合状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の形態)
図1は本発明の第1の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図である。動力伝達装置1は自動車の自動変速機に搭載されて使用される。動力伝達装置1は軸線Axを基準として同軸状に配置された第1回転軸2及び第2回転軸3を有している。第1回転軸2は不図示のベアリングを介して、第2回転軸3はベアリング5を介してそれぞれ軸線Axの回りに回転可能な状態でケース6に支持されている。第1回転軸2及び第2回転軸3はそれぞれ中空軸状に形成されており、第2回転軸3が第1回転軸2の外周側に位置して第1回転軸2及び第2回転軸3のそれぞれの一部が軸線Ax方向にオーバーラップしている。電磁式係合装置7は第1回転軸2と第2回転軸3との間に介在して、第1回転軸2と第2回転軸3とを結合してこれらの間の動力伝達を可能にする状態と、その結合を解放してこれらの間の動力伝達を遮断する状態とを切り替えるクラッチとして動力伝達装置1に搭載されている。第1回転軸2は本発明の第1要素に、第2回転軸3は本発明の第2要素にそれぞれ相当する。
【0012】
電磁式係合装置7は、第1回転軸2と第2回転軸3とを結合する図2の係合状態と、その結合を解放する図1の解放状態との間で状態を切り替え可能な結合機構10と、電磁力を利用して結合機構10を解放状態から係合状態へ変更可能な電磁駆動手段としての電磁駆動部11とを備えている。電磁駆動部11はケース6に固定されていて第2回転軸3に形成されたリング状の溝部3a内に配置された電磁コイル12を有している。電磁駆動部11は、電磁コイル12に対して電流を印可することにより所定の電磁力を発生させる。
【0013】
結合機構10は、係合状態の際に摩擦力を発生させてトルク伝達を行う摩擦機構部13と、この摩擦機構部13と第2回転軸3との間に介在して、軸線Ax方向に移動可能かつ軸線Axの回りを回転可能に支持されたストローク部材14と、摩擦機構部13が発生する摩擦力、即ちトルク容量を増大させる機能を持ち、第1回転軸2に設けられたカム機構15と、ストローク部材14と第2回転軸3とを相対回転不能な状態にできる噛み合い手段としての噛み合い部16と、ストローク部材14を軸線Ax方向(図の左方向)に付勢する付勢部材としてのリターンスプリング17とを備えている。
【0014】
摩擦機構部13はいわゆる湿式多板型の機構として構成されている。摩擦機構部13は、ストローク部材14によって保持される摩擦部材としての複数の摩擦板21〜23と、カム機構15の外周に配置されて係合状態の際にこれらの摩擦板21〜23を軸線Ax方向の両側から挟み込むことができる掴み手段としての掴み具25とを有している。各摩擦板21〜23は、これらの外周部がストローク部材14の内周部にスプライン結合されることにより、ストローク部材14によって軸線Ax方向の移動が許容されつつ軸線Ax回りの相対回転が制限されながら保持されている。図の左側に位置する摩擦板21は互いに同一の他の摩擦板22、23よりも板厚が厚い。掴み具25は図の左側に配置された第1支持板28と、図の右側に配置された第2支持板29とを有している。本形態では、摩擦板22と摩擦板23との間に摩擦板30が、摩擦板23と第2支持板29との間に摩擦板31がそれぞれ介在することによって、トルク容量を増加させている。第1支持板28は後述する第1カム部材41の外周にスプライン結合されるとともにスナップリング33にて抜け止めされていて、第1カム部材41に対して軸線Ax方向の相対移動可能でかつ相対回転不能な状態となっている。摩擦板30、31も同様にして第1カム部材41の外周に装着されている。第2支持板29は、第1カム部材41と第2回転軸3との間に介在するベアリング18に対してカラー19を介して突き当てるようにして第1カム部材41の外周に設けられている。各摩擦板21〜23、30、31及び各支持板28、29の摩擦面には窒化処理やDLC処理等の表面加工が施されている。なお、こうした表面加工の代わりに摩擦材等の貼付け加工を行うこともできる。
【0015】
摩擦機構部13はスナップリング33及び第1支持板28の板厚を調整することにより、各摩擦部材21〜23、30、31間の隙間を極小に管理することができる。これにより、応答性の向上のために従来のように予圧を掛ける必要がなくなるため、応答性の向上と予圧伝達トルクの低減との両立を図ることが可能になる。
【0016】
ストローク部材14は円筒状に形成されていて、その中空部分に第1回転軸2及び摩擦機構部13のそれぞれが位置している。ストローク部材14はその外周方向に突出した鍔部14aを有しており、鍔部14aは両側に設けられたベアリング35、35を介して回転可能にケース6に支持されている。ストローク部材14は磁性体で形成されているので、電磁駆動部11の電磁力によってリターンスプリング17の付勢力に抗して電磁駆動部11側に吸引される。
【0017】
カム機構15は軸線Ax回りの差回転が可能な状態で互いに組み合わされた第1カム部材41及び第2カム部材42を有している。一対のカム部材41、42の間には周方向に並んだ複数(図では一つ)のカムボール43が介在しており、そのカムボール43は各カム部材41、42に形成された周方向に並ぶ複数のV字溝44、45にて保持されている。各V字溝44、45は、各カム部材41、42を半径方向外側から見た場合にV字状に形成されていて、各回転軸2、3の回転方向に関して深さが徐々に浅くなるように構成されている。第1カム部材41は掴み具25と軸線Axの回りに一体回転可能であり、第2カム部材42は第1回転軸2と一体回転可能である。第1カム部材41は、ベアリング18を介して第2回転軸3の内周に設けられているので、第2回転軸3に対して相対回転可能であるが、軸線Ax方向の相対移動は阻止されている。第1カム部材41と第2カム部材42との間に差回転(相対回転)が生じると、その差回転に伴ってカムボール43の位置がV字溝44、45の浅い位置に変化する。これによりカム機構15は推力Fを発生させる。カム機構15はその推力Fを掴み具25に伝達するための伝達部材48を備えている。伝達部材48は第1回転軸2との相対回転が阻止されるようにその外周にスプライン結合されるとともに、シム50を介してスナップリング49にて抜け止めされている。従って、カム機構15が発生させる推力Fは第2カム部材42、第1回転軸2及び伝達部材48を経由して掴み具25に伝達される。伝達部材48は掴み具25の第1支持板28と対面しているので、推力Fによって伝達部材48が右方向に移動すると第1支持板28は伝達部材48にて同方向に押される。これにより掴み具25が第2回転軸3側の摩擦板21等を挟み込む際にはその挟み込む力が増加する。なお、伝達部材48はスプリング51によって第1支持板28から離れる方向に付勢されているが、このスプリング51は省略可能である。
【0018】
噛み合い部16は、ストローク部材14の端面に形成された噛み合い歯52と、第2回転軸3の端面に形成された噛み合い歯53とを有し、これらの噛み合い歯52、53は互いに対向している。図1の解放状態の場合は、これら噛み合い歯52、53は互いに所定の隙間Gを形成するようにして離間している。本形態では、その隙間Gを調整するためにストローク部材14を支持する左側のベアリング35とスナップリング55との間にシム56が設けられている。このシム56は厚さの異なる複数種類のものが予め用意されていて仕様変更に伴う隙間Gの変化に対して柔軟に対応できるようになっている。シム56を利用して隙間Gを正確に管理できるため、隙間Gを大きめに設定し、かつストローク部材14の吸引時に電磁駆動部11が発生させる電磁力を過剰に設定する必要がない。そのため電磁コイル12の巻数低減や磁気回路断面積を小さくできるので、電磁コイル12の軽量化や小型化に貢献することができコストや搭載に有利となる。
【0019】
図1に示した解放状態の場合、噛み合い部16の噛み合いが解放されているためストローク部材14が第2回転軸3に対して相対回転可能な状態にある。そのため、ストローク部材14が保持する摩擦部材21〜23と第1回転軸2と一体回転する掴み具25(摩擦板30、31)との間に強制的な回転速度差が生じることがない。つまり、解放状態の場合には、ストローク部材14、各摩擦板21〜23、掴み具25(摩擦板30、31)、第1カム部材41及び伝達部材48が第1回転軸2と略同一回転速度で回転する。従って、各摩擦板21〜23と掴み具25(摩擦板30、31)との間に生じ得る引き摺り損失が低減される。
【0020】
本形態においては、第2回転軸3、ストローク部材14、各摩擦板21〜23、30、31及び第2支持板29はいずれも磁性体で構成されている。そのため、図1の解放状態から図2の係合状態へ変更する際に電磁駆動部11が電磁力を発生させると、図1の破線に示した磁界(磁気回路)Aが形成される。それにより、初めにストローク部材14が電磁駆動部11にて吸引され、噛み合い部16の各噛み合い歯52、53が互いに噛み合う。これにより、ストローク部材14と第2回転軸3とが相対回転が不能な状態となる。つまり、第2回転軸3と、ストローク部材14に保持された各摩擦板21〜23とが一体回転する。そして、各摩擦板21〜23、30、31も電磁力にて電磁駆動部11にて吸引されるため掴み具25にて各摩擦板21等が挟み込まれる。その結果、第1回転軸2と同一回転速度で回転していた掴み具25(摩擦板30、31)と、第2回転軸側の摩擦板21〜23との間に強制的な回転速度差が生じる。その回転速度差に伴って第1カム部材41と第2カム部材42との間に回転速度差が生じてこれらが差回転する。その差回転に伴ってカム機構15に推力Fが発生し、その推力Fが伝達部材48を介して第1支持板28に伝達される。伝達部材48が第1支持板28を右方向に押すことにより、掴み具25が第2回転軸3側の摩擦板21等を挟み込む力が増加する。これによって、第1回転軸2と第2回転軸3との速度差がなくなってこれらが一体回転し、図2に示した係合状態に変化する。なお、第1回転軸2と第2回転軸3との間の回転速度差に対して、電磁駆動部11の電磁力の大きさが十分に大きいと、カム機構15が推力Fを発生させる前に第1回転軸2と第2回転軸3とが同一回転速度となって係合状態に至る場合もある。
【0021】
本形態の電磁式係合装置7には、噛み合い部16の噛み合いを検出する検出装置60が設けられている。検出装置60は、ストローク部材14の外周面に所定ピッチで刻まれた複数の歯部61と、その歯部61に対向するようにしてケース6に固定された回転速度センサ62とを含む。噛み合い部16が噛み合うと、噛み合い前に第1回転軸2と略同一速度で回転していたストローク部材14の回転速度が第2回転軸3の回転速度と同一速度に変化する。このため、ストローク部材14の回転速度変化を検出装置60にて検出することにより噛み合い部16の噛み合いを検出できる。上述したように、電磁式係合装置7は解放状態から係合状態への移行過程において噛み合い部16が噛み合ってから摩擦機構部13の摩擦力(トルク)が発生して第1回転軸2と第2回転軸3との回転速度差が減少してゆく。従って、係合状態へ完全に移行する前のタイミングを検出装置60によって検出し、そのタイミングから電磁駆動部11の電磁力を減ずれば摩擦機構部13で生じるショックを緩和することが可能となる。
【0022】
図3は、解放状態から係合状態へ変化する際の電磁式係合装置7の作用を説明する説明図である。図3の破線は検出装置60を用いて電磁駆動部11の電流制御を行った場合を、図3の実線は検出装置60を用いずに第1回転軸2の回転速度を検出して電磁駆動部11の電流制御を行った比較例をそれぞれ示している。この図から理解できるように、比較例の場合には、電磁駆動部11への電流印可開始時t0に遅れて徐々に変化する第1回転軸2の回転速度を検出しているため、その電流印可開始時t0から、噛み合い部16が噛み合った時t1を経て、摩擦機構部13のトルク容量が最大となった後でなければ電流を減じることができない。これに対して、検出装置60は、急変するストローク部材14の回転速度に基づいて噛み合い部16が噛み合った時t1を検出できるので、その時点t1から電流を減じることができる。その結果、電流を減じるタイミングを比較例に対してΔTだけ早めることができる。従って、電磁駆動部11の消費電力を低減できるととともに、摩擦機構部13が負担するトルク容量が低減してショックを抑制できる。
【0023】
本形態によれば、ストローク部材14の吸引による噛み合い部16の噛み合わせと、掴み具25による摩擦部材21〜23の挟み込みとを一つの電磁駆動部11にて達成できるので噛み合い部16及び掴み具25のそれぞれに駆動源を設ける場合に比べて部品点数を削減できる。
【0024】
また、図1及び図2から理解できるように、解放状態の場合にはストローク部材14にリターンスプリング17の付勢力が働くが、係合状態に変更する過程でその付勢力に抗して噛み合い部16が噛み合った後には、その付勢力はストローク部材14から各摩擦板21〜23へ伝達しない。そのため、係合状態の際に摩擦機構部13のトルク容量を低下させる方向にリターンスプリング17の付勢力が作用することはないので、リターンスプリング17の付勢力によってトルク容量が減少することを抑制できる。
【0025】
更に、カム機構15が発生させる推力Fによって掴み具25が摩擦板21〜23を挟み込む力を増加させることができるので、電磁駆動部11の消費電力を低減できる。また、解放状態のときに過剰な角加速度がカム機構15に入力して一対のカム部材41、42に差回転が生じた場合でも、噛み合い部16の噛み合いが解放されていてストローク部材14と第2回転軸3とが相対回転可能な状態にある。そのため、一対のカム部材41、42に意図しない差回転が生じても第1回転軸2と第2回転軸3とが誤って結合することを確実に防止できる。
【0026】
(第2の形態)
次に、本発明の第2の形態を図4及び図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、第1の形態の部材のうち、同一機能を持つ部材に関しては同一の参照符号を図4及び図5に付して説明を省略する。第2の形態の電磁式係合装置70は、カム機構15を有しない点を除いて第1の形態とほぼ同一の構成である。すなわち、電磁式係合装置70は第1の形態と同様に動力伝達装置1の第1回転軸2と第2回転軸3との間に介在するクラッチ装置として搭載されている。結合機構71にカム機構が存在しない関係で、掴み具25が第1回転軸2の外周に設けられている。電磁式係合装置70のその他の各構成要素の機能は第1の形態と同一であり第1の形態と同様の作用効果を発揮する。第2の形態によれば、カム機構を搭載しないことにより、半径方向の寸法を第1の形態に対して小さくできる。従って、第2の形態は半径方向の搭載スペースの制約が厳格な場合に有利である。
【0027】
本発明は上記各形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記各形態は電磁式係合装置を2つの回転要素の間に設けられるクラッチ装置として実施しているが、本発明は第1要素又は第2要素のいずれか一方のみが回転する場合に、これらの要素間に設けられるブレーキ装置として実施することもできる。また、上述した摩擦機構部13は複数の摩擦部材としての摩擦板21〜23を有していたが、これを単一の摩擦板、例えば摩擦板21を掴み具25の第1支持板28及び第2支持板29で挟むように変更して実施することもできる。つまり、摩擦部材の個数は要求されるトルク容量に応じて加減でき単数でも複数でも構わない。
【0028】
第1の形態の電磁式係合装置にはカム機構が設けられているが、そのカム機構は推力の発生後に電磁力等の外力を要せずにロック状態を維持するいわゆるセルフロックとなる形態で実施してもよいし、ロック状態の維持に電磁力の外力が必要となる形態で実施してもよい。なお、周知のように、こうしたセルフロックはV字溝及びカムボールの幾何学的関係並びにこれらの摩擦係数を適宜設定することにより実現できる。
【符号の説明】
【0029】
2 第1回転軸(第1要素)
3 第2回転軸(第2要素)
7、70 電磁式係合装置
10、71 結合機構
11 電磁駆動部(電磁駆動手段)
14 ストローク部材
15 カム機構
16 噛み合い部(噛み合い手段)
17 リターンスプリング(付勢部材)
21〜23 摩擦板(摩擦部材)
25 掴み具(掴み手段)
41 第1カム部材(一方のカム部材)
42 第2カム部材(他方のカム部材)
52、53 噛み合い歯
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の軸線上に配置されて少なくとも一方が前記軸線の回りを回転可能な第1要素と第2要素との間に介在し、前記第1要素と前記第2要素とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態との間で状態を切り替え可能な結合機構と、電磁力を利用して前記結合機構を前記解放状態から前記係合状態へ変更可能な電磁駆動手段と、を具備し、
前記結合機構は、摩擦部材と、前記摩擦部材を前記軸線方向の移動を許容しつつ前記軸線回りの相対回転を制限しながら保持するとともに、前記解放状態から前記係合状態へ変更する際に前記電磁駆動手段の電磁力にて前記軸線方向に吸引されるように前記軸線方向に移動可能かつ前記軸線の回りを回転可能に支持されたストローク部材と、前記第1要素に設けられ、前記係合状態の際に前記摩擦部材を前記電磁駆動手段の電磁力を利用して前記軸線方向から挟み込み、かつ前記解放状態の際に前記摩擦部材を解放する掴み手段と、前記解放状態から前記係合状態へ変更する過程で前記ストローク部材が前記電磁駆動手段の電磁力にて吸引された際に前記ストローク部材と前記第2要素とが前記軸線回りの相対回転が不能な状態となるように、前記ストローク部材に設けられた噛み合い歯と前記第2要素に設けられた噛み合い歯とを互いに噛み合わせる噛み合い手段と、前記電磁駆動手段の電磁力にて前記ストローク部材が吸引される方向とは反対方向に前記ストローク部材を付勢する付勢部材と、を備える電磁式係合装置。
【請求項2】
前記結合機構は、前記軸線回りの差回転が可能な状態で互いに組み合わされ、いずれか一方と前記掴み手段とが一体回転可能で、かついずれか他方と前記第1要素とが一体回転可能な一対のカム部材を有し、前記差回転が生じた場合に前記掴み手段が前記摩擦部材を挟み込む力を増加させる推力を発生させるカム機構を更に備える請求項1に記載の電磁式係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220005(P2012−220005A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89991(P2011−89991)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)