説明

電磁波シールド引き戸

【課題】2枚の引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置の鴨居横柱との境界部分で確実に電磁波シールドを行うものを提供すること。
【解決手段】全面を導電性材料で覆って電磁波シールドを施した両開きの2枚の引き戸本体を、無目内のレール上で車輪によって移動して閉じたとき、鴨居横柱、左右の室内柱及び床面によって構成された室内側開口部分と2枚の引き戸本体の召し合わせ部分を導電性接触片と電磁シールド材でシールドする電磁波シールド引き戸において、前記一方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた一方の電磁シールド材と前記他方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた他方の電磁シールド材とは、設置位置をずらし、かつ、引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を遮蔽する必要のある部屋の出入口などに適用する引き戸に関し、特に、両開きに構成した2枚の引き戸本体の召し合わせ部分において漏洩しがちな電磁波を確実にシールドすることができる電磁波シールド引き戸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁波シールドの必要な環境として、例えば、放電加工室、脳波測定室、MRI室、放送スタジオ、空港レーダー管制室、コンピュータ室などがあり、このような電磁波シールドを必要とする部屋は、天井、壁、床、ドアなど、部屋全体に電磁波シールド材料(導電性材料)を使用して電磁波の遮蔽率を高める必要があり、場合によっては、窓に電磁波シールドガラスが使用される場合もある。特に、ドア部分は開閉動作を伴うため、電磁波シールドに工夫を要する部分である。
【0003】
このような電磁波シールドを必要とする部屋のドアに引き戸を採用する場合には、スライドする機構が必要であるため、上部の鴨居部分と下部の敷居部分での電磁波のシールドを如何に行うかというのが問題となる。シールドを完全とするためには導電性材料で密閉する必要があるが、導電性材料を密着させた状態で引き戸をスライドさせると、シールドの効果は得られるものの常に摩擦が生じてしまい、これが故障等の原因となるという問題がある。よって、引き戸をスライドさせる場合には引き戸と室内開口部を構成する電磁波シールド材料同士が接触しない状態であることが望ましい。
【0004】
この接触による摩擦の問題を課題とした従来技術として、特許文献1が既に提案されている。この特許文献1に記載の電磁波遮蔽引き戸は、引き戸本体と壁や床の構造部との境界部分に、電磁波を迂回させることによって減衰させる中空間構造を備えるようにしたものであり、中空間構造は、例えば、鴨居部に羽根部を設け、引き戸本体に該羽根部が作る空間に非接触で入り込むような羽根部を設けることにより、形成したものである。
【0005】
ここで、図8を用いて、従来技術である特許文献1に記載の電磁波遮蔽引き戸の各部の構成を説明する。図8(a)は、鴨居部分の詳細な構成を表した断面図である。この図8(a)に示すように、壁構造部14に、断面がL字型の支持枠17が固着されており、この支持枠17の引き戸側の内側には、断面がF字形の部材19が固着されている。また、壁構造部14の支持枠17と反対の側には、引き戸本体10を懸架するためのレール支持枠15が固着されており、このレール支持枠15の内側にはレール部16が形成されている。
【0006】
一方、引き戸本体10の上縁部にはL字形部材11が固着され、該L字形部材11に軸12を設けるとともに、該軸12に回動可能に滑車13を取り付ける。上述のレール部16上に滑車13が当接するようにして、引き戸本体10を懸架する。また、引き戸本体10の上縁部には、断面がL字形の部材18が固着されており、引き戸本体10がレール部16に懸架された状態で、F字形部材19の2つの羽根部19a、19bの間の中空部分にL字形部材18の羽根部18aが非接触で入り込むように、寸法が調整されている。これらのF字形部材19及びL字形部材18が導電性の素材で構成され、かつ、これらの間に中空部20が形成されていることにより、電磁波を迂回させてシールドとしての効果を発揮する。
【0007】
図8(b)は、戸袋部分の詳細な構成を表した断面図である。この図8(b)に示すように、戸袋壁22の端部に設けられた戸袋支柱21に導電性の素材で構成した断面がL字形状の部材23を固着し、引き戸本体10の戸袋側の側辺に導電性の素材で構成した断面がL字形状の部材24を固着する。引き戸を閉めた状態で、L字形状部材23の板部23aと戸袋支柱21との間に、L字形状部材24の板部24aが入り込み、これにより中空部20を形成して、電磁波を迂回させてシールドとしての効果を発揮する。
【0008】
図8(c)は、敷居部分の詳細な構成を表した断面図である。この図8(c)に示すように、床面25の敷居部分には、断面が方形状になる溝部30が形成され、この溝部30の底面上に、導電性の素材で構成された2つのL字形状部材28を開口部が形成されるように配置し、L字形状部材28のそれぞれの上には、適当な個所に振れ止め用の滑車29を設ける。また、溝部30の上部には、蓋部26を開口部が形成されるようにして配置する。
【0009】
一方、引き戸本体10の底辺部には、導電性の素材で構成された断面が逆T字形状の部材27が固着されており、この逆T字形状の部材27は、引き戸本体10の底辺から伸びる鉛直板部27aが蓋部26とL字形状部材28のそれぞれの開口部を通り、先端の水平板部27bがL字形状部材28によって作られる部屋の中に入るようにして配置する。これにより中空部20を形成して、電磁波を迂回させてシールドとしての効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−221290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この特許文献1に記載の電磁波遮蔽引き戸によれば、スライド時においてもドアを閉じた場合においても電磁波シールド材料が接触することがなく、上述の摩擦による問題は解消することができる。しかし、ドアを閉じた場合においても電磁波シールド材料が非接触であるため、シールドが不完全であるという問題がある。この構成における電磁波シールドの効果は、中空部20の間隔に左右されるものであると推察されるが、この中空部20の間隔を狭くし過ぎるとちょっとしたずれによって電磁波シールド材料が接触して摩擦が生じてしまうし、中空部20の間隔を広くし過ぎるとシールド効果が薄れてしまうため、中空部20の間隔の調整が難しいという問題がある。
【0012】
また、通常、引き戸を取付ける場合には、レール支持枠15の上部に滑車13が通る隙間が設けてあり、引き戸本体10全体を鉛直方向に持ち上げて前記隙間部分に滑車13を通してレール部16上に滑車を乗せて取付けを行う。しかし、この特許文献1における電磁波遮蔽引き戸の場合には、鴨居部分ではF字形部材19の2つの羽根部19a、19bの間の非常に狭い中空部分にL字形部材18の羽根部18aが非接触で入り込まなければならず、また、敷居部分では逆T字形状部材27の水平板部27bがL字形状部材28によって作られる部屋の中に入るように配置されなければならないため、引き戸本体10全体を垂直方向に移動させる空間的な余裕はない。よって、この特許文献1に記載の電磁波遮蔽引き戸は、上述の通常の取付け方法では取付けることができず、また、一度取付けた後に取外すことが不可能か又は困難であるという問題がある。
【0013】
本発明は、引き戸と室内側全周囲の電磁波遮蔽をより完全にしても、両開きに構成した2枚の引き戸本体の場合、召し合わせ部分における鴨居横柱とのシールドが完全に行われないという問題があった。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、両開きとして構成した場合において、2枚の引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置の鴨居横柱との境界部分で確実に電磁波シールドを行うことができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、全面を導電性材料で覆って電磁波シールドを施した両開きの2枚の引き戸本体を、無目内のレール上で車輪によって移動して閉じたとき、鴨居横柱、左右の室内柱及び床面によって構成された室内側開口部分と2枚の引き戸本体の召し合わせ部分を導電性接触片と電磁シールド材でシールドする電磁波シールド引き戸において、前記一方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた一方の電磁シールド材と前記他方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた他方の電磁シールド材とは、設置位置をずらし、かつ、2枚の引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成したことを特徴とする電磁波シールド引き戸である。
【0015】
請求項2記載の発明は、2枚の引き戸本体の上框と左右の室内柱に面した立框の側面とにそれぞれ導電性接触片を設け、前記2枚の引き戸本体の下框の下面に電磁シールド材を設け、前記2枚の引き戸本体の召し合わせ部分のいずれか一方の立框に導電性接触片を設け、いずれか他方の立框に電磁シールド材を設け、前記室内側の開口部分を構成する鴨居横柱、左右の室内柱に、前記引き戸本体の導電性接触片に接触する電磁シールド材を設け、前記床面に、前記引き戸本体の下框の下面の電磁シールド材に接触する導電性床部材を設けたことを特徴とする請求項1記載の電磁波シールド引き戸である。
【0016】
請求項3記載の発明は、鴨居横柱に、一方の引き戸本体の上框に面した一方の電磁シールド材取付溝と他方の引き戸本体の上框に面した他方の電磁シールド材取付溝とを設け、これらの一方の電磁シールド材取付溝における導電性接触片の差込側と他方の電磁シールド材取付溝における導電性接触片の差込側との設置位置をずらし、かつ、召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成したことを特徴とする請求項2記載の電磁波シールド引き戸である。
【0017】
請求項4記載の発明は、無目内のレール上に、引き戸本体の閉鎖時に車輪とともに引き戸本体を下方に沈み込ませる凹部を設け、前記引き戸本体の下降時に室内の開口部側の電磁シールド材と導電性床部材に、引き戸本体側の導電性接触片と電磁シールド材がそれぞれ接触するようにしたことを特徴とする請求項2又は3記載の電磁波シールド引き戸である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、全面を導電性材料で覆って電磁波シールドを施した両開きの2枚の引き戸本体を、無目内のレール上で車輪によって移動して閉じたとき、鴨居横柱、左右の室内柱及び床面によって構成された室内側開口部分と2枚の引き戸本体の召し合わせ部分を導電性接触片と電磁シールド材でシールドする電磁波シールド引き戸において、前記一方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた一方の電磁シールド材と前記他方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた他方の電磁シールド材とは、設置位置をずらし、かつ、2枚の引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成したので、2枚の引き戸本体を両開きに構成した場合において、2枚の引き戸本体の閉鎖時に左右の引き戸本体の上部において電磁シールドが途切れることがなく、特に、鴨居横柱と2枚の引き戸本体の召し合わせ部分との境界において効果的な電磁波シールドを行うことができる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、2枚の引き戸本体の上框と左右の室内柱に面した立框の側面とにそれぞれ導電性接触片を設け、前記2枚の引き戸本体の下框の下面に電磁シールド材を設け、前記2枚の引き戸本体の召し合わせ部分のいずれか一方の立框に導電性接触片を設け、いずれか他方の立框に電磁シールド材を設け、前記室内側の開口部分を構成する鴨居横柱、左右の室内柱に、前記引き戸本体の導電性接触片に接触する電磁シールド材を設け、前記床面に、前記引き戸本体の下框の下面の電磁シールド材に接触する導電性床部材を設けたので、2枚の引き戸本体と室内側の開口する全周囲部分との境界において効果的な電磁波シールドを行うことができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、鴨居横柱に、一方の引き戸本体の上框に面した一方の電磁シールド材取付溝と他方の引き戸本体の上框に面した他方の電磁シールド材取付溝とを設け、これらの一方の電磁シールド材取付溝における導電性接触片の差込側と他方の電磁シールド材取付溝における導電性接触片の差込側との設置位置をずらし、かつ、召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成したので、各辺上において電磁シールド材と導電性接触片との接触圧力に多少のばらつきが生じたとしても、弾性を有することによって非接触となる部分が生じず、確実に電磁波シールドを行うことができる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、無目内のレール上に、引き戸本体の閉鎖時に車輪とともに引き戸本体を下方に沈み込ませる凹部を設け、前記引き戸本体の下降時に室内の開口部側の電磁シールド材と導電性床部材に、引き戸本体側の導電性接触片と電磁シールド材がそれぞれ接触するようにしたので、電磁シールド材と導電性接触片が接触した状態で移動することがなく、摩擦や引っ掛かりによる故障を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の電磁波シールド引き戸を設置した様子を表した模式図である。
【図2】引き戸本体31を吊り下げるレール38部分の詳細な構成を表した模式図である。
【図3】引き戸本体31を閉めた場合の横方向の断面図である。
【図4】引き戸本体31を閉め切っていない状態における縦方向の断面図である。
【図5】本発明による電磁波シールド引き戸を設置する場合に、鴨居部分及び戸袋との境界部分に対して電磁波シールド処理を施した様子を表した斜視図である。
【図6】両開きタイプの引き戸の例として、左右の引き戸本体31の各4隅の構造を説明するための斜視図である。
【図7】(a)は、電磁シールド材56の詳細な構成を表した斜視図であり、(b)は、電磁シールド材71の詳細な構成を表した斜視図である。
【図8】従来の電磁波遮蔽引き戸の各部の構成を表したものであり、(a)は、鴨居部分の構成を表した断面図、(b)は、戸袋部分の構成を表した断面図、(c)は、敷居部分の構成を表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による電磁波シールド引き戸は、全面を導電性材料で覆って電磁波シールドを施した両開きの2枚の引き戸本体を、無目内のレール上で車輪によって移動して閉じたとき、鴨居横柱、左右の室内柱及び床面によって構成された室内側開口部分と2枚の引き戸本体の召し合わせ部分を導電性接触片と電磁シールド材でシールドする電磁波シールド引き戸において、前記一方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた一方の電磁シールド材と前記他方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた他方の電磁シールド材とは、設置位置をずらし、かつ、2枚の引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成する。
【0024】
また、2枚の引き戸本体の上框と左右の室内柱に面した立框の側面とにそれぞれ導電性接触片を設け、前記2枚の引き戸本体の下框の下面に電磁シールド材を設け、前記2枚の引き戸本体の召し合わせ部分のいずれか一方の立框に導電性接触片を設け、いずれか他方の立框に電磁シールド材を設け、前記室内側の開口部分を構成する鴨居横柱、左右の室内柱に、前記引き戸本体の導電性接触片に接触する電磁シールド材を設け、前記床面に、前記引き戸本体の下框の下面の電磁シールド材に接触する導電性床部材を設ける。
【実施例1】
【0025】
本発明による電磁波シールド引き戸の構成を図面に基づいて説明する。図1に示すのは、本発明の電磁波シールド引き戸を設置した様子を表した模式図であり、両開きの場合を示している。この図1において、引き戸本体31は、全面を導電性材料で覆って電磁波シールドを施したものであり、上辺に取りつけた引き戸吊り枠35の上部の少なくとも2箇所に車輪取付け枠37を設け、この車輪取付け枠37に取付けられた車輪36を無目32内に設けられたレール38上に乗せることで、引き戸本体31全体を吊り下げて設置する。この引き戸本体31の閉鎖位置におけるレール38上には、ストッパ40がそれぞれ設けられており、引き戸本体31の脱落を防止している。
【0026】
本発明による電磁波シールド引き戸は、自動ドア又は手動ドアのどちらであっても構成できるものであり、各図において自動ドアとしての構成部分と手動ドアとしての構成部分を併記している場合があるが、実際には一方のみの構成であってもよく、また、両者を採用した構成であってもよい。
【0027】
図1においては、自動ドアとして構成する場合の動力部分について図示している。この動力部分は、戸袋33の壁面内に設けられており、モータ、可変速機及び制御回路からなる駆動装置42によって歯車43を回転させ、これによってチェーン46を介して歯車44が回転し、チェーン47を介して歯車45が回転する。一方、引き戸本体31の側面中央部分には連結部材48が設けてあり、この連結部材48の締結部49においてチェーン47に接続する。これにより、駆動装置42によって歯車43を回転させると引き戸本体31全体がチェーン47によって引っ張られて移動する構成となっている。また、図3及び図4に示すように、戸袋枠61部分に自動ドアのセンサーとして用いるビームスイッチ62を設けて、人の出入りを検知して開閉動作を制御する。
なお、この戸袋33部分には、窓50を設けている。この場合の窓50には、電磁波シールドガラスを使用することが望ましい。
【0028】
図1及び図3においては、手動ドアとして構成する場合の開閉動作に用いる引き手棒51部分について図示している。この引き手棒51は、引き戸の召し合わせ部分において一方の引き戸本体31に支点52によって回動可能に取付けられている。また、他方の引き戸本体31側には、引き手棒51の他方端が当接する当接部材53が設けられている。このような構成において引き戸が閉じられているときには、引き手棒51を引き上げることで支点52を介して他方端が当接部材53に接して、引き戸本体31が開く方向に力が加わり、これによって引き戸を容易に開くことが可能となる。なお、後述するように、本発明の電磁波シールド引き戸は閉じた状態で引き戸本体31の車輪36がレール38の凹部39に沈み込む構成となっているため、この沈み込んだ状態から手動で復帰させるときに容易に力を加えられる点で、この引き手棒51部分の構成は特に有効である。
【0029】
このような本発明の電磁波シールド引き戸を採用する必要のある電磁波シールドルームにおいては、無目32、戸袋33及び床面34にそれぞれ電磁波シールド処理を施し、室内においても天井、壁面及び床面において電磁波シールド処理を施す必要がある。そして、引き戸本体31を閉じた場合における、無目32(鴨居部分)、戸袋33、床面34(敷居部分)及び他方の引き戸本体31の側面部と一方の引き戸本体31とのそれぞれの境界における電磁波シールド処理が特に重要であり、本発明はこれらの境界部分での電磁波シールド処理に特徴を有するものである。以下、図面を用いて詳細に説明を行う。
【0030】
図2に示すのは、引き戸本体31を吊り下げるレール38部分の詳細な構成を表したものである。前述の通り、引き戸本体31は、上辺に取りつけた引き戸吊り枠35の上部の少なくとも2箇所に車輪取付け枠37を設け、この車輪取付け枠37に取付けられた車輪36を無目32内に設けられたレール38上に乗せることで、引き戸本体31全体を吊り下げて設置しているが、ここで、レール38上の少なくとも2箇所(車輪36と同数)には、車輪36が沈み込む凹部39が形成されている。この凹部39は、引き戸本体31を閉じて車輪取付け枠37がストッパ40に接触する位置で車輪36が沈み込むようにして位置決めを行うものであり、2つの凹部39間の距離Dが2つの車輪36の軸間の距離と同じとなるように構成する。
【0031】
図3に示すのは、引き戸本体31を閉めた場合の横方向の断面図を表したものである。この図3において、引き戸本体31は戸袋33から引出されて閉じた状態となっており、他方側の引き戸本体31と接合している。このとき一方の引き戸本体31の接合面には凹溝54が形成してあり、他方の引き戸本体31の接合面には凸部55が形成してあり、閉じたときにこれらが召し合わされる構成となっている。また、さらに前記凹溝54の内側には導電性接触片58が設けてあり、凸部55の中央部には電磁シールド材取付溝57が設けられてその内側に円弧状に形成された2つの電磁シールド材56が設けられており、引き戸本体31が召し合わされたときに導電性接触片58が2つの電磁シールド材56の間に挿入されて接触する構成となっている。この召し合わせ部分における導電性接触片58及び電磁シールド材56は、引き戸本体31の高さ方向にわたって途切れることなく設置されている。これによって、各引き戸本体31の表面に施された電磁波シールドがこの召し合わせ部分においても途切れることなく電磁シールドが行われる。
【0032】
また、図3において、戸袋33部分における引き戸本体31と室内柱60との間においても、電磁波シールドが施されている。引き戸本体31の側面部には導電性接触片58が接続され、この導電性接触片58の先端は引き戸を閉じる際の移動方向に向かって直角に折れ曲がった形状となっている。これに対して、室内柱60側には、導電性材料で形成されたシールド材取付枠59が接続されており、導電性接触片58と対応する位置に電磁シールド材取付溝57が設けられ、その内側に円弧状に形成された2つの電磁シールド材56が設けられている。この状態で、引き戸本体31が召し合わされたときに導電性接触片58が2つの電磁シールド材56の間に挿入されて接触する構成となっている。この戸袋33部分における導電性接触片58及び電磁シールド材56は、引き戸本体31の高さ方向にわたって途切れることなく設置されている。これによって、引き戸本体31の表面に施された電磁波シールドと室内柱60の表面に施された電磁波シールドとが戸袋33部分で途切れることなくシールドされる。
【0033】
ここで、前記電磁シールド材56の詳細な構成を図7(a)に示す。この電磁シールド材56は、取付板部74によって電磁シールド材取付溝57内に取付けられるものであり、逆樋状に湾曲させて形成された湾曲接触部73によって導電性接触片58と接触する。また、一定間隔で短手方向に切溝75が設けられているため、湾曲接触部73に弾性が生じ、導電性接触片58と接触した際に弾性によって一定圧力で確実に接触する。このとき先端摺動部76が電磁シールド材取付溝57の壁面に接触したまま摺動して逃げる構成となっている。
【0034】
図4に示すのは、引き戸本体31を閉め切っていない状態における縦方向の断面図を表したものである。この図4に示すように、引き戸本体31は上部の引き戸吊り枠35に車輪取付枠68(37)が接続され、この車輪取付枠68に軸67によって車輪66(36)が取付けられる。一方、無目蓋64で覆われた無目32部分の鴨居横柱65の上部にレール支持枠70が接続され、このレール支持枠70にレール38が接続される。このレール38に前記車輪66を乗せるようにして引き戸本体31全体が吊り下げられて設置される。また、レール38の下側に接触して振れ止めを行うために振れ止めローラ69を設けてもよい。
【0035】
この図4において、引き戸本体31と室内側の鴨居横柱65との間に隙間が生じてしまうので、この隙間部分において電磁シールドを施す必要がある。そこで、引き戸本体31の室内側の上辺部分に導電性接触片58が接続され、この導電性接触片58の先端は鉛直下方に向かって直角に折れ曲がった形状となっている。これに対して、室内側の鴨居横柱65には、導電性材料で形成されたシールド材取付枠59が接続されており、導電性接触片58と対応する位置に電磁シールド材取付溝57が設けられ、その内側に円弧状に形成された2つの電磁シールド材56が設けられている。これらの導電性接触片58及び電磁シールド材56は、引き戸本体31が開かれている場合には非接触状態にあり、引き戸本体31が閉じられて召し合わされたときに、前記レール38上の凹部39に車輪66(36)が沈み込むことによって、導電性接触片58が2つの電磁シールド材56の間に挿入されて接触する構成となっている。この戸袋33部分における導電性接触片58及び電磁シールド材56は、引き戸本体31の横幅方向にわたって途切れることなく設置されている。これによって、引き戸本体31の表面に施された電磁波シールドと鴨居横柱65の表面に施された電磁波シールドとが鴨居部分で途切れることなくシールドされる。
【0036】
また、図4において、引き戸本体31と床面34(敷居部分)との間に隙間が生じてしまうので、この隙間部分において電磁シールドを施す必要がある。そこで、引き戸本体31の下辺部分の室内側と室外側のそれぞれに図7(b)に示すような円弧状の凸部が下面に向いて形成された電磁シールド材71を設ける。これに対して、床面34の敷居部分には導電性床部材41を設ける。これらの電磁シールド材71及び導電性床部材41は、引き戸本体31が開かれている場合には非接触状態にあり、引き戸本体31が閉じられて召し合わされたときに、前記レール38上の凹部39に車輪66(36)が沈み込むことによって、電磁シールド材71が導電性床部材41に接触する構成となっている。この敷居部分における電磁シールド材71及び導電性床部材41は、引き戸本体31の横幅方向にわたって途切れることなく設置されている。これによって、引き戸本体31の表面に施された電磁波シールドと床面34に施された電磁波シールドとが敷居部分で途切れることなくシールドされる。
【0037】
ここで、前記電磁シールド材71の詳細な構成を図7(b)に示す。この電磁シールド材71は、取付板部74によって引き戸本体31の壁面に取付けられるものであり、逆樋状に湾曲させて形成された湾曲接触部73によって導電性床部材41と接触する。また、一定間隔で短手方向に切溝75が設けられているため、湾曲接触部73に弾性が生じ、導電性床部材41と接触した際に弾性によって一定圧力で確実に接触する。このとき先端摺動部76は、図示のように非接触で弾性によって逃げる構成としてもよいし、引き戸本体31の底面に接触したまま摺動して逃げる構成としてもよい。
【0038】
なお、図4に示すように、導電性床部材41の一部に振れ止め車63を設けるとともに、引き戸本体31の底面にガイド溝72を設けて、振れ止め車63がガイド溝72内に配置されるようにして引き戸本体31を設置することによって、引き戸本体31の開閉動作時に引き戸が振れるのを防ぐようにしている。
【0039】
図5に示すのは、本発明による電磁波シールド引き戸を設置する場合に、戸袋との境界部分及び鴨居部分の開口部分に電磁波シールド処理を施した様子を表した斜視図である。前述のように、戸袋との境界部分である室内柱60にはシールド材取付枠59が高さ方向にわたって途切れることなく設けられ、このシールド材取付枠59の電磁シールド材取付溝57内に電磁シールド材56が湾曲接触部73を対峙させた状態で設置される。同様に、鴨居部分においても鴨居横柱65にシールド材取付枠59が水平方向にわたって途切れることなく設けられ、このシールド材取付枠59の電磁シールド材取付溝57内に電磁シールド材56が湾曲接触部73を対峙させた状態で設置される。室内柱60と鴨居横柱65が交わる角部分においてはシールド材取付枠59が繋がって連続するように構成してシールド漏れがないようにする。また、この図5は両開きタイプの引き戸の例として記載しており、左右の引き戸で鴨居部分に設けたシールド材取付枠59での電磁シールド材56の設置位置をずらし、召し合わせ部分で一部重合するように構成している。
【0040】
図6に示すのは、両開きタイプの引き戸の例として、左右の引き戸本体31の各4隅の構造を説明するための斜視図である。この図6から分かるように、左右の各引き戸本体31の上辺部及び戸袋に面した側辺部には、先端が折り曲げられた導電性接触片58が途切れることなく設けてあり、この導電性接触片58が、図5における戸袋との境界部分及び鴨居部分に対して設けたシールド材取付枠59での電磁シールド材56に接触することとなる。
また、2つの引き戸本体31の召し合わせ部分は、一方に凹溝54を他方に凸部55を設け、この凹溝54内に導電性接触片58を設けるとともに凸部55の先端に電磁シールド材取付溝57を設けてそこに電磁シールド材56を設置することで、2つの引き戸が召し合わされた時に導電性接触片58が電磁シールド材56の間に入って接触して電磁シールドがなされる。
底面部分には、床面に形成した導電性床部材41と接触して電磁シールドを形成する電磁シールド材71が横幅方向にわたって途切れることなく形成されており、また、振れ止め車63が摺動するためのガイド溝72が設けてある。
【0041】
以上のような構成の電磁波シールド引き戸の動作について説明する。先ず、引き戸本体31が開いているときには、引き戸本体31はレール38上に車輪66を乗せた状態で引き戸本体31全体が吊り下げられて設置されており、この状態においては、鴨居部分の導電性接触片58は鴨居横柱65に取付けられたシールド材取付枠59の電磁シールド材56に接触しておらず、敷居部分の電磁シールド材71は導電性床部材41に接触しておらず、また、戸袋33との境界部分においても導電性接触片58は電磁シールド材56と接触していない。よって、引き戸本体31が開いている状態においては、電磁シールドに用いる部材が対応する導電性接触片に接触することはなく、電磁シールドもなされていない。
【0042】
次に、引き戸本体31を閉じるときには、駆動装置42を駆動させて歯車43を回転させ、これによってチェーン46、歯車44、チェーン47、歯車45をそれぞれ介して、引き戸本体31の側面中央部分に設けられた連結部材48の締結部49に対してチェーン47によって動力を伝達して、引き戸本体31を閉じる。このとき、引き戸本体31は車輪66がレール38上を転がることで移動するが、この閉じる過程においても電磁シールドに用いる各部材が対応する導電性接触片に接触することはない。そして、引き戸本体31を完全に閉じる位置までスライドさせると、車輪66がレール38上の凹部39部分に沈み込み、2つの引き戸本体31が召し合わされる。このように、車輪66がレール38上の凹部39部分に沈み込むことによって、引き戸本体31全体が凹部39の深さの分だけ鉛直下方に移動することとなり、この結果、鴨居部分の導電性接触片58は鴨居横柱65に取付けられたシールド材取付枠59の電磁シールド材56に接触し、敷居部分の電磁シールド材71は導電性床部材41に接触し、また、戸袋33との境界部分においても導電性接触片58が電磁シールド材56と接触する。さらに、2つの引き戸本体31が召し合わせ部分においても、一方の引き戸本体31に設けられた導電性接触片58が、他方の引き戸本体31に設けられた電磁シールド材56に接触する。よって、引き戸本体31を完全に閉じられたときには、鴨居部分、敷居部分、戸袋33との境界部分及び2つの引き戸本体31が召し合わせ部分の全てにおいて電磁シールドが施されることとなり、シールド漏れが生じることがない。
【0043】
以上のように、引き戸本体31が開いているとき及びスライド動作中には、電磁シールドに用いる部材が対応する導電性接触片に接触することがないため、摩擦や引っ掛かりによって電磁シールド部材が損傷することがなく、引き戸本体31を閉じたときに電磁シールドに用いる部材が対応する導電性接触片に接触して、鴨居部分、敷居部分、戸袋33との境界部分及び2つの引き戸本体31が召し合わせ部分の全てにおいて電磁シールドが施される。
【0044】
前記実施例においては、2つの引き戸本体31を用いて両開きタイプとして構成した場合を例として説明を行ったが、本発明はこれに限られるものではなく、片開きタイプとして構成した場合にも採用することができるものである。この場合には、例えば、前記実施例1において2つの引き戸本体31の召し合わせ部分に採用した構成を1つの引き戸本体31と室内柱60との境界に適用することで、片開きタイプにおいても同様に構成することが可能となる。
【0045】
また、前記実施例においては、自動ドアとして構成した例として、図1に示すように、戸袋33の壁面内に駆動装置42等を設けて構成していたが、本発明はこれに限られず、手動ドアであってもよい。この場合には、凹部39に車輪36がはまることによって全体が落ち込んだ引き戸本体31をレール38上に持ち上げるときに、引き手棒51が使用されることになる。
【符号の説明】
【0046】
10…引き戸本体、11…L字形部材、12…軸、13…滑車、14…壁構造部、15…レール支持枠、16…レール、17…支持枠、18…L字形部材、18a…羽根部、19…F字形部材、19a…羽根部、20…中空部、21…戸袋支柱、22…戸袋壁、23…L字形部材、23a…板部、24…L字形部材、24a…板部、25…床面、26…蓋部材、27…逆T字形部材、27a…鉛直板部、27b…水平板部、28…L字形部材、29…振れ止め車、30…溝部、31…引き戸本体、32…無目、33…戸袋、34…床面、35…引き戸吊り枠、36…車輪、37…車輪取付枠、38…レール、39…凹部、40…ストッパ、41…導電性床部材、42…駆動装置、43…歯車、44…歯車、45…歯車、46…チェーン、47…チェーン、48…連結部材、49…締結部、50…窓、51…引き手棒、52…支点、53…当接部材、54…凹溝、55…凸部、56…電磁シールド材、57…電磁シールド材取付溝、58…導電性接触片、59…シールド材取付枠、60…室内柱、61…戸袋枠、62…ビームスイッチ、63…振れ止め車、64…無目枠、65…鴨居横柱、66…車輪、67…軸、68…車輪取付枠、69…振れ止めローラ、70…レール支持枠、71…電磁シールド材、72…ガイド溝、73…湾曲接触部、74…取付板部、75…切溝、76…先端摺動部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全面を導電性材料で覆って電磁波シールドを施した両開きの2枚の引き戸本体を、無目内のレール上で車輪によって移動して閉じたとき、鴨居横柱、左右の室内柱及び床面によって構成された室内側開口部分と2枚の引き戸本体の召し合わせ部分を導電性接触片と電磁シールド材でシールドする電磁波シールド引き戸において、前記一方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた一方の電磁シールド材と前記他方の引き戸本体の上框に設けた導電性接触片に接触するための前記鴨居横柱に設けた他方の電磁シールド材とは、設置位置をずらし、かつ、2枚の引き戸本体の召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成したことを特徴とする電磁波シールド引き戸。
【請求項2】
2枚の引き戸本体の上框と左右の室内柱に面した立框の側面とにそれぞれ導電性接触片を設け、前記2枚の引き戸本体の下框の下面に電磁シールド材を設け、前記2枚の引き戸本体の召し合わせ部分のいずれか一方の立框に導電性接触片を設け、いずれか他方の立框に電磁シールド材を設け、前記室内側の開口部分を構成する鴨居横柱、左右の室内柱に、前記引き戸本体の導電性接触片に接触する電磁シールド材を設け、前記床面に、前記引き戸本体の下框の下面の電磁シールド材に接触する導電性床部材を設けたことを特徴とする請求項1記載の電磁波シールド引き戸。
【請求項3】
鴨居横柱に、一方の引き戸本体の上框に面した一方の電磁シールド材取付溝と他方の引き戸本体の上框に面した他方の電磁シールド材取付溝とを設け、これらの一方の電磁シールド材取付溝における導電性接触片の差込側と他方の電磁シールド材取付溝における導電性接触片の差込側との設置位置をずらし、かつ、召し合わせ部分の上端部に臨ませた位置で互いに一部重合するように形成したことを特徴とする請求項2記載の電磁波シールド引き戸。
【請求項4】
無目内のレール上に、引き戸本体の閉鎖時に車輪とともに引き戸本体を下方に沈み込ませる凹部を設け、前記引き戸本体の下降時に室内の開口部側の電磁シールド材と導電性床部材に、引き戸本体側の導電性接触片と電磁シールド材がそれぞれ接触するようにしたことを特徴とする請求項2又は3記載の電磁波シールド引き戸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57464(P2012−57464A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242209(P2011−242209)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2006−130385(P2006−130385)の分割
【原出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000238197)扶桑電機工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】