説明

電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物及びその成形品

【課題】電界シールド性及び磁界シールド性に共に優れる電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂と導電性付与剤とを含み、該ポリアミド樹脂が、ペンタメチレンジアミンを含むジアミンとジカルボン酸とを単量体成分として用いる重縮合反応により得られる重縮合体に相当する構造を有するポリアミド樹脂(ポリアミド5X)であり、周波数5〜800MHzにおいて測定した電界シールド性が−10dB以下かつ周波数200〜1000MHzにおいて測定した磁界シールド性が−10dB以下である電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド性に優れたポリアミド樹脂組成物と、この電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を押出成形してなる押出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、成形性、耐薬品性、引っ張り強さ、曲げ強さ等の機械的性質や、耐摩耗性等に優れることから、幅広い分野で用いられている。
【0003】
その用途の一つとして、各種のOA機器や電子機器の筐体が挙げられるが、電子機器は、内部の電子部品から電磁波が発生するため、発生した電磁波を機器の外部に漏らさないために、電子機器の筐体には電磁波シールド性が要求される。
【0004】
この電磁波シールド性の要求に対しては、通常、筐体にメッキを施したり、金属の蒸着を行ったりして対応しているが(例えば特許文献1)、筐体の構成材料である樹脂材料自体に電磁波シールド性を持たせることが、製造工程の削減及びコストの低減の点からも望ましい。
【0005】
しかし、一般に樹脂材料は絶縁性であり、電磁波シールド性はないため、電磁波シールド性を付与するには導電性付与剤を配合する必要がある。従来、樹脂材料に配合する導電性物質としては、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属で被覆した無機繊維等の導電性物質が用いられており、ポリアミド樹脂に対して、導電性付与剤を配合することにより電磁波シールド性を付与したポリアミド樹脂組成物についての提案もなされている(例えば特許文献2,3)。
なお、従来の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物では、ポリアミド樹脂として、ポリアミド6、ポリアミド66等の汎用のポリアミド樹脂が用いられており、本発明で用いるポリアミド5Xが用いられた例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−269954号公報
【特許文献2】特開2006−45330号公報
【特許文献3】特開2007−196473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電子機器の多様化、高性能、高出力化に伴い、これらの電子機器の筐体やその周辺部材に用いられる電磁波シールド性材料には、周波数5〜800MHzにおける電界シールド性及び周波数200〜1000MHzにおける磁界シールド性に共に優れる高度な電磁波シールド性が要求されるが、従来において、このような要求特性を満たすポリアミド樹脂組成物は提供されていない。
【0008】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、周波数5〜800MHzにおける電界シールド性と周波数200〜1000MHzにおける磁界シールド性に共に優れる高度な電磁波シールド性を有するポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂としてポリアミド5Xを用い、ポリアミド5Xに導電性付与剤を配合することにより、周波数5〜800MHzにおける電界シールド性と周波数200〜1000MHzにおける磁界シールド性とが共に優れるものとすることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] ポリアミド樹脂と導電性付与剤とを含み、該ポリアミド樹脂が、ペンタメチレンジアミンを含むジアミンとジカルボン酸とを単量体成分として用いる重縮合反応により得られる重縮合体に相当する構造を有するポリアミド樹脂(以下、このポリアミド樹脂を「ポリアミド5X」と称す。)であり、周波数5〜800MHzにおいて測定した電界シールド性が−10dB以下かつ周波数200〜1000MHzにおいて測定した磁界シールド性が−10dB以下であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0012】
[2] 前記ポリアミド5Xは、示差走査熱量測定(DSC)法による測定で2つの吸熱ピークを有することを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0013】
[3] [2]において、前記2つの吸熱ピークのピークトップの温度差が5〜50℃であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記ポリアミド5Xの末端アミノ基濃度が16〜100μeq/gであることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記ポリアミド5Xが、ポリアミド56、ポリアミド59、ポリアミド510、ポリアミド512及び56/6からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0016】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記導電性付与剤の含有量が前記ポリアミド5X100重量部に対して0.1〜300重量部であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0017】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記導電性付与剤が、導電性カーボンブラック及び中空炭素フィブリルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【0018】
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を射出成形してなる電磁波シールド性成形品。
【0019】
[9] [1]ないし[7]のいずれかに記載の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を押出成形してなる電磁波シールド性成形品。
【0020】
[10] [9]において、押出成形品がフィルム状であり、その厚みが5〜200μmであることを特徴とする電磁波シールド性成形品。
【0021】
[11] 少なくともその一部が[8]ないし[10]のいずれかに記載の成形品で構成されていることを特徴とする自動車・鉄道車両用部品又は電気・電子・OA用部品。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物によれば、ポリアミド樹脂としてポリアミド5Xを用いることにより、導電性付与剤の配合で優れた電磁波シールド性を得ることができる。
【0023】
本発明によるこのような優れた効果が奏される作用機構については次のように考えられる。
即ち、本発明で用いるポリアミド5Xは、従来のポリアミド樹脂組成物に用いられているポリアミド樹脂であるポリアミド6やポリアミド66等に比べて、ポリアミド樹脂のアミド基と導電性付与剤の反応性基との反応性が高く、親和性が高いことにより、ポリアミド5Xのマトリックス中に導電性付与剤による安定かつ良好な導電性のネットワークが形成され、この結果、優れた電磁波シールド性が得られる。
【0024】
また、特に、示差走査熱量測定(DSC)法による測定で2つの吸熱ピークを有するポリアミド5Xにあっては、次のような作用機構で優れた電磁波シールド性が得られる。
即ち、ポリアミド樹脂により形成されたマトリックス中に、導電性付与剤が分散したポリアミド樹脂組成物中にあっては、溶融時からの固化過程において、ポリアミド樹脂が結晶化する過程で導電性付与剤はポリアミド樹脂の結晶部から排斥され、ポリアミド樹脂の非晶部の連続相内に固定化される。
ここで、連続相を構成するポリアミド樹脂が2つの吸熱ピークを持つ場合、溶融時からの固化過程において、まずポリアミド樹脂の高温側の吸熱ピーク温度で結晶が生成し、次に低温側の吸熱ピーク温度で結晶が生成するので、高温側の結晶化過程において、ポリアミド樹脂の非晶部へ押し出された導電性付与剤は、次いで低温側の結晶化過程において、更に押し出されるようになる。このように、溶融時からの固化過程において、導電性付与剤が受ける応力が2度に分散することにより、ポリアミド5Xのマトリックス中に分散している導電性付与剤は少しずつ集められ、マトリックス中において、過度に分散しすぎることなく、また、過度に凝集しすぎることなく、導電性付与剤による導電性のネットワークを形成するに好適な適度な分散状態で、分散する。この結果、従来のポリアミド6等の汎用のポリアミド樹脂に導電性付与剤を配合した場合に比べて、同種同等の配合量であっても、成形品内で良好な導電性ネットワークが効率的に形成されるようになり、周波数5〜800MHzにおける電界シールド性と周波数200〜1000MHzにおける磁界シールド性とに共に優れる工業的に有益な電磁波シールド性が得られるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
[ポリアミド樹脂]
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ポリアミド5X、即ち、ペンタメチレンジアミンを含むジアミンとジカルボン酸とを単量体成分として用いる重縮合反応により得られる重縮合体に相当する構造を有するポリアミド樹脂である。
【0027】
ポリアミド5Xに用いられるジアミンは、ペンタメチレンジアミンを必須成分とするが、その他、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンなどの1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0028】
一方、ジカルボン酸としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などの1種又は2種以上が挙げられる。又、その他のモノマー成分として例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタムなどの1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において、このポリアミド5Xは、DSC(示差走査熱量測定)による測定で融点として測定される吸熱ピークを2つ有することが好ましく、その2つの吸熱ピークのピークトップの温度差が5〜50℃、特に10〜45℃であることが好ましい。また、吸熱ピークを2つ有する場合、それぞれの吸熱ピークのピークトップの温度は、高温側が好ましくは180〜280℃、より好ましくは200〜270℃であり、低温側が好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜250℃である。なお、本発明において、吸熱ピークとは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温した時に観測される吸熱ピークとする。具体的には、ポリアミド56の場合は、例えば、次の要領で求めることができる。30〜300℃まで20℃/minの速度で昇温し、300℃で3分間保持した試料を完全に溶解させた後、20℃/minの速度で30℃まで降温する。続いて、30℃で3分間保持した後、20℃/minの速度で300℃まで昇温し、昇温時に観測される吸熱ピークのピークトップの温度を求める。昇温時の最高温度は、予想される樹脂の吸熱ピークのピークトップの温度に応じて適宜調整すればよく、通常は吸熱ピークのピークトップの温度(吸熱ピークが2つ以上存在する場合は、高温側の吸熱ピークのピークトップの温度)+50℃の範囲で選択すればよい。
【0030】
このDSC法による吸熱ピークが2つ存在することは、成形時の結晶化が2段階で進行することを意味し、前述のように、結晶化が2段階で進行することによる導電性付与剤の導電性ネットワークの形成効率の向上による電磁波シールド性の向上効果が得られる。
【0031】
ただし、この吸熱ピークのピークトップの温度差が過度に小さいと、上記2段階の結晶化による上記効果を十分に得ることができず、過度に大きいと、成形性が損なわれる恐れがあることから、2つの吸熱ピークのピークトップの温度差は5〜50℃、特に10〜45℃であることが好ましい。
【0032】
また、本発明において用いるポリアミド5Xの末端アミノ基濃度は16〜100μeq/g、特に20〜90μeq/g、とりわけ25〜80μeq/gであることが好ましい。ポリアミド5Xの末端アミノ基濃度が低過ぎると、導電性付与剤の反応性基との反応性が悪く、導電性付与剤を配合したことによる電磁波シールド性の向上効果を十分に得ることができず、高過ぎるとゲルが生成する恐れがあり好ましくない。
【0033】
なお、ポリアミド5Xの、末端アミノ基濃度は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0034】
また、本発明で使用するポリアミド5Xの分子量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択されるが、実用性の観点から、25℃における98%硫酸に溶解した溶液(ポリアミド5Xの濃度:0.01g/ml)の相対粘度(η)で、通常1.5〜5.5、好ましくは1.6〜3.5、さらに好ましくは1.8〜3、特に好ましくは2〜2.8の範囲である。
【0035】
本発明においては、ポリアミド樹脂としてポリアミド5Xを用いることにより、少量の導電性付与剤の配合で高い電磁波シールド性が発現する。これは、ポリアミド樹脂の結晶形態の差異によるものと考えられ、次のように推定される。
即ち、ポリアミド5Xはγ型結晶を有する傾向にあるが、従来使用されてきたポリアミド6やポリアミド66等はα型結晶のみを有する傾向にある。α型結晶はγ型結晶に比べて結晶サイズが大きいため、導電性付与剤による導電経路を遮断し易くなり電磁波シールド性が低くなる傾向にある。γ型結晶を有するポリアミド5Xは、上記のような問題がないため、導電性付与剤の配合による電磁波シールド性の発現効果が向上するものと考えられる。
以上のことから、本発明においては、特にポリアミド5Xとしてはポリアミド56、ポリアミド59、ポリアミド510、ポリアミド512及びポリアミド56/6を用いることが好ましい。
【0036】
なお、ポリアミド5Xは、1種を単独で用いてもよく、組成や分子量、末端アミノ基濃度等が異なるものの2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0037】
[導電性付与剤]
本発明で用いる導電性付与剤としては特に制限はなく、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール単位やイオン性官能基を有する高分子帯電防止剤等の有機化合物の他に、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属粉末、金属酸化物等の無機物等が挙げられる。特に、比較的少量の配合で、高い電磁波シールド性を発現し、良好な外観が得られ、他の物性とのバランスも良好であることから、導電性カーボンブラック、中空炭素フィブリルが好ましい。
【0038】
<導電性カーボンブラック>
導電性カーボンブラックとしては、ASTM D2414に準拠して測定されるジブチルフタレー卜(DBP)吸油量が、30ml/100g以上であり、より好ましくは100ml/100g以上である導電性カーボンブラックが挙げられる。
好ましい導電性カーボンブラックとしては、アセチレンガスを熱分解して得られるアセチレンブラック、原油を原料としファーネス式不完全燃焼によって製造されるファーネスブラックやケッチェンブラック等が挙げられる。
これらの導電性カーボンブラックは、ペイント等に着色目的で加える顔料用カーボンブラックとは相違し、通常、微細な粒子が連なった形態を有している。
【0039】
<中空炭素フィブリル>
中空炭素フィブリルとしては、ASTM D2414に準拠して測定されるジブチルフタレー卜(DBP)吸油量が、100ml/100g以上であり、より好ましくは200ml/100g以上である中空炭素フィブリルが挙げられる。
ここで、本発明で使用する中空炭素フィブリルとしては、規則的に炭素原子が配列した本質的に連続的な多層からなる外側領域と、内部中空領域とを有し、外側領域の多層各層と中空領域とが実質的に同心に配置され、本質的に円筒状のフィブリルが挙げられる。
さらに、上記外側領域の規則的に配列した炭素原子が黒鉛状であり、上記中空領域の直径が2nm〜20nmの範囲のものが好ましい。
【0040】
このような中空炭素フィブリルは、例えば、特表昭62−500943号公報や、米国特許第4,663,230号明細書等に詳細に記載されている。その製法としては、後者の米国特許明細書に詳細に記載されているように、例えば、アルミナを支持体とする鉄、コバルト、ニッケル含有粒子等の遷移金属含有粒子を、一酸化炭素、炭化水素等の炭素含有ガスと、850℃〜1200℃の高温で接触させ、熱分解によって生じた炭素を、遷移金属を起点として、繊維状に成長させる方法が挙げられる。また、この種の中空炭素フィブリルは、ハイペリオン・カタリシス社が、グラファイト・フィブリルという商品名で販売しており、容易に入手することができる。
【0041】
なお、導電性カーボンブラック、中空炭素フィブリルは、ジェットミルやスーパーミキサー等の高速粉砕機を用いて予め粉砕しておくことが好ましい。
【0042】
これらの導電性付与剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0043】
本発明において、導電性付与剤の配合量は、用いる導電性付与剤の種類、要求される電磁波シールド性の程度によっても異なるが、ポリアミド5X100重量部に対して、0.1〜300重量部、特に0.5〜200重量部、とりわけ1〜180重量部とすることが好ましい。導電性付与剤として導電性カーボンブラックを配合する場合は、ポリアミド樹脂bとの合計100重量部に対して、10〜300重量部が好ましく、20〜200重量部がより好ましく、30〜180重量部がさらに好ましい。導電性付与剤として中空炭素フィブリルを配合する場合は、0.1〜50重量部が好ましく、0.3〜40重量部がより好ましく、0.5〜30重量部がさらに好ましい。
導電性付与剤の配合量が少な過ぎると十分な電磁波シールド性を得ることができず、多過ぎると成形性、機械的特性等のポリアミド樹脂本来の特性が損なわれる。
【0044】
[各種添加剤・その他のポリマー成分]
<各種添加剤>
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、各種の添加剤が配合される。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、結晶核剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、強化材等が挙げられる。
【0045】
具体的には、酸化防止剤又は熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、ホスファイト系化合物及びこれらの置換体等が挙げられる。
耐候剤としては、レゾルシノール系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
離型剤又は滑剤としては、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素化合物、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
顔料としては、フタロシアニン、カーボンブラック等が挙げられる。
染料としては、ニグロシン、アニリンブラック等が挙げられる。
結晶核剤としては、タルク、シリカ、カオリン、クレー等が挙げられる。
可塑剤としては、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。
【0046】
帯電防止剤としては、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等の非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等が挙げられる。
難燃剤としては、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等が挙げられる。
【0047】
充填剤としては、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、針状、板状充填材が挙げられる。
強化材としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、窒化硼素、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム等が挙げられる。
【0048】
これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
これらの添加剤の配合量は、少な過ぎるとその配合効果を十分に得ることができないが、多過ぎると成形性や機械的特性が損なわれることから、ポリアミド5X100重量部に対して添加剤の合計で30重量部以下とすることが好ましい。
【0049】
<他のポリマー成分>
他のポリマー成分としては、ポリアミド5X以外のポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等が挙げられる。
これらの他のポリマー成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
これらの他のポリマー成分を配合する場合、その配合量が多過ぎると、本発明で用いるポリアミド5X分の効果が損なわれるため、他のポリマー成分を配合する場合、その配合量はポリアミド5X100重量部に対して他のポリマー成分の合計量として1重量部以下とすることが好ましい。
【0050】
なお、上記の各種添加剤及びその他のポリマー成分は、本発明で用いるポリアミド5Xの製造工程、本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物の製造工程及びその成形工程のうちの任意の工程で配合することができる。
【0051】
[製造方法]
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を製造するには、前述のポリアミド5Xと導電性付与剤を、必要に応じて用いられる添加剤やその他のポリマー成分と共に、公知の混合手段で混合する。
【0052】
公知の混合手段としては特に制限はなく、例えば、二軸押出機や単軸押出機を用いる溶融混練方法、タンブラー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサーやナウターミキサーを用いるドライブレンド等が挙げられる。
【0053】
具体的には、例えば、ポリアミド5Xと導電性付与剤とを溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練する場合、その条件は一般的なポリアミド樹脂の溶融混練条件でよく、例えば、使用するポリアミド5XのDSCにて測定した吸熱ピークのピークトップ温度(吸熱ピークが2つある場合はその高い方の温度)より5〜50℃程度高い温度設定で溶融混練する条件が挙げられる。
【0054】
なお、導電性付与剤は、予めポリアミド5Xの一部と溶融混練してマスターバッチを製造し、このマスターバッチをポリアミド5Xの残部と溶融混練又はドライブレンドすることにより配合してもよい。
【0055】
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、フィルム成形、溶融紡糸、ブロー成形、真空成形等の任意の成形方法により、所望の形状に成形することができる。成形品としては、例えば、射出成形品、フィルム、シート、フィラメント、テーパードフィラメント、繊維等が挙げられる。
【0056】
[電磁波シールド性]
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物は、周波数5〜800MHzにおいて測定した電界シールド性が−10dB以下かつ周波数200〜1000MHzにおいて測定した磁界シールド性が−10dB以下という優れた電磁波シールド性を有する。この電界シールド性、磁界シールド性が−10dBより高いと、本発明で目的とする電磁波シールド性を達成し得ない。
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物の特に好ましいものは、周波数5〜800MHzにおける電界シールド性が−15dB以下、特には−20dB以下で、周波数200〜1000MHzにおける磁界シールド性が−15dB以下、特には−20dB以下という著しく優れた電磁波シールド性を有する。
なお、本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物の電磁波シールド性は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0057】
[射出成形品]
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物は、公知の射出成形方法により射出成形品を製造することができる。
射出成形品を得るために使用する射出成形機としては、例えば、日精樹脂工業株式会社製:NEX80型、や東芝機械株式会社製:IS80等が挙げられる。
射出成形方法における射出成形条件は特に限定されず、例えば、ポリアミド6やポリアミド66等公知のポリアミド樹脂を成形する条件の範囲で適宜選択される。
【0058】
[押出成形品]
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物は、公知の押出成形方法により、押出成形品を製造することができる。
公知の押出成形方法としては特に限定されず、例えば、Tダイを用いたフラットフィルム成型、水冷又は空冷インフレーションフィルム成形、チューブ成形、モノフィラメント成形、マルチフィラメント成形等が挙げられる。また、押出成形方法において使用する押出成形機としては、公知の単軸及び二軸押出機が挙げられる。
【0059】
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物をシート状(ここでシート状とはフィルム状を含むものである。)に押出成形してなる電磁波シールド性成形品の厚みは、その用途に応じて異なり、任意の厚さとすることができるが、通常5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜100μm、特に好ましくは30〜70μmである。この押出成形シートの厚みが過度に薄いとシートとしての強度が低下する傾向があり好ましくない。一方、押出成形シートの厚みが過度に厚いとシートとしての柔軟性が低下する傾向があるため好ましくない。
【0060】
[用途]
本発明の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品は、成形性に優れ、ポリアミド樹脂本来の耐薬品性、曲げ弾性率等の機械的特性を有し、また、電磁波シールド性に優れるものであり、自動車、鉄道車両用部品、コンピューター用部品、携帯電話用部品、家電製品用部品等、各種の電気・電子・OA部品などの一部又は全体を構成するものとして工業的に極めて有用である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0062】
[各種物性ないし特性の測定方法]
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度(η
ポリアミド樹脂の相対粘度(η)は、ポリアミド樹脂を98%硫酸に溶解した溶液(濃度:0.01g/ml)を調製し、25℃で、オストワルド式粘度計を使用して測定した。
【0063】
(2)ポリアミド樹脂の吸熱ピーク温度
ポリアミド樹脂の吸熱ピーク温度は、示差走査熱量測定(DSC)法により、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を使用して、窒素雰囲気下にて測定した。ポリアミド樹脂試料約5mgを予想される吸熱ピークのピークトップの温度(吸熱ピークが2つ存在する場合は、高温側の吸熱ピークのピークトップの温度)よりも50℃高い温度まで、20℃/分の速度で昇温し、3分間保持し試料を完全に融解させた後、降温速度20℃/分で30℃まで降温した。続いて、30℃で3分間保持した後、昇温速度20℃/分で昇温したときに観測される吸熱ピークのピークトップの温度を測定した。
【0064】
(3)ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度
ポリアミド樹脂試料0.1〜0.2gを正確に秤量し、フェノール(林純薬工業株式会社製)50ml中に溶解した後、自動滴定装置(三菱化学株式会社製「GT−06」)を用いて、0.1N塩酸で滴定して算出した(単位:μeq/g)
【0065】
(4)電磁波シールド性
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を、120℃の減圧乾燥機で8時間乾燥後、射出成形機(住友重機械工業社製「SH100」、型締め力100T)を用いて、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度)260℃、金型温度80℃にて、縦100mm、横100mm、厚み2mmの成形品を射出成形し、得られた射出成形品を市販の2液エポキシ系接着剤にて5枚を重ねて接着して、(株)アドバンテスト製「TR−17301A」と「R3361A」を用いて、周波数10、100、200、600、1000MHzにおける電界波シールド性、周波数400、600、800、1000MHzにおける磁界波シールド性を測定した。この値は、電気用品安全法による製品試験値によって必要値が定められており、また製品から発生する周波数やその強さにも依存するため一概に決められる値ではないが、−10dB以下であることが好ましい。
【0066】
[フィルムでの評価]
下記記載のポリアミド樹脂組成物を120℃の減圧乾燥機で8時間乾燥後、先端に600mm幅のTダイを装着した直径40mm単軸押出機で、シリンダ温度270℃で押出し、ダイス温度275℃、ロール温度60℃で、厚み100μmのフラットフィルムに押出成形した。得られたフィルムを100mm×100mmに切り出し、市販の2液のエポキシ系接着剤で10枚を重ねて接着して、射出成形片と同様に電磁波シールド性を測定した。
【0067】
(5)体積固有抵抗値
[射出成形片での測定]
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を、120℃の減圧乾燥機で8時間乾燥後、射出成形機(住友重機械工業社製「SH100」、型締め力100T)を用いて、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度)260℃、金型温度80℃にて、ASTM−D638に準拠した引張試験片を作成した。得られた試験片の両端を、剪定ハサミで切断し、12.7mm×50mm×3mm厚の短冊を切り出し、短冊の両端面(12.7mm×3mm)に銀ペーストを塗布して、23℃で30分間、風乾したものを試験片とした。
測定は、銀ペーストを塗布した両端面の間の抵抗を測定し、体積抵抗率を算出し、これを体積固有抵抗値とした。
尚、測定器は、株式会社三菱化学アナリテック社製「ロレスタEP」及び株式会社三菱化学アナリテック製「ハイレスタUP」を使用した。体積抵抗値が10Ω・cm以下の場合は「ロレスタEP」を用い、それを超える時は「ハイレスタUP」を用いた。プローブはESP型を使用した。
「ハイレスタUP」はリング法を用い、500Vで1分間チャージを行い、測定開始から1分後の値を採用した。体積固有抵抗値が低いほど導電性が優れている。
【0068】
[フィルムでの測定]
下記記載の方法で得られたポリアミド樹脂組成物を、120℃の減圧乾燥機で8時間乾燥後、先端に600mm幅のTダイを装着した直径40mm単軸押出機で、シリンダ温度270℃で押出し、ダイス温度275℃、ロール温度60℃で、厚み100μmのフラットフィルムに押出成形した。得られたフィルムをカッターを用いて100mm×100mmに切り出し、その両端に銀ペーストを塗布後、射出成形品同様の方法で、体積固有抵抗値を測定した。
【0069】
[重縮合用モノマーの準備]
ε−カプロラクタム、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ヘキサメチレンジアミンは、いずれも市販品を使用した。
ε−カプロラクタム:三菱化学株式会社製
アジピン酸:旭化成ケミカルズ株式会社製
セバシン酸:小倉合成株式会社製
アゼライン酸:cognis社製
ドデカン二酸:宇部興産株式会社製
ヘキサメチレンジアミン:旭化成ケミカルズ株式会社製
【0070】
[重合用モノマーの調製]
以下の操作により、ペンタメチレンジアミンを調製した。
【0071】
<ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液の調製>
cadA増幅株を用い、リジン・アジピン酸塩を原料とし、以下の方法でペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液調製した。
【0072】
E.coli JM109/pCAD1をLB培地入りフラスコ10本で前培養した後、1Lの培養液を99LのLB培地が入った200L容ジャーファーメンターに接種し、通気量0.5vvm、35℃、250rpmで通気撹拌培養を行った。
培養開始6時間後、この培養液全量を、3mの2×LB培地が入った5m容培養タンクに接種して更に培養を行った。5m容培養タンクでの培養条件は、通気量0.5vvm、35℃であった。撹拌回転数は溶存酸素濃度が十分高い値になるように60rpm〜100rpmの範囲で調節した。培養4時間目に、滅菌したIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を終濃度で0.5mMになるように添加し、その後14時間培養を継続した。
【0073】
6,400rpm、フィード速度750L/hrの条件下で、アルファラバル分離機により培養液からの菌体回収を行った。回収された菌体の湿重量は36.9kgであった。この湿菌体を10mMの酢酸ナトリウム溶液160Lに懸濁した後、15,000rpm、フィード速度1.0L/minの条件下でシャープレス遠心機により再度菌体回収を行い、18.7kgの湿菌体を取得した。
【0074】
50%(w/v)リジンベース溶液(協和醗酵工業株式会社製)にpHが6.0となるようにアジピン酸を添加して、リジン・アジピン酸塩の濃厚溶液を調製した。リジン濃度で60g/Lとなるように基質溶液(3m)を作成し、5m容培養タンクにはり込んだ。ピリドキサルリン酸を0.1mMとなるように基質溶液に添加し、さらにE.coli
JM109/pCAD1の菌体をOD660が0.5になるように添加して反応を開始した。
【0075】
反応条件は、37℃、0.5vvm通気、70rpmとした。反応中の溶液のpHは、250kgのアジピン酸をイオン交換水400Lに懸濁したスラリーを添加し、6.5になるように制御した。
また、リジン濃度318g/Lの基質濃厚溶液(600L)を開始から約130L/hで連続的にフィードし、約4.5時間で全量を添加した。さらに反応を継続して計22時間反応させた。
【0076】
反応終了時には、リジン残存濃度が0.03g/L以下であり、ほぼ100%のリジンがペンタメチレンジアミンに変換されていた。
反応後の溶液(約4m)は、菌体の不活化処理(80℃、30min)を実施したのち、分子量13,000以上をカットするUF膜モジュールACP−3053(旭化成工業株式会社製)を通して高分子量体の不純物除去を行った。
UF処理による回収率は99.3%であった。以上のようにして、ほぼペンタメチレンジアミンとアジピン酸をほぼ等モル含むペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を取得した。
【0077】
<ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩の精製・単離>
直径700mmの活性炭塔に三菱化学カルゴン株式会社製活性炭「MM−11」(105kg、約440L)を仕込み、2日間脱塩水を通水した。次に、上記のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液(約4m)を1.32m/hの速度で通液し、最後に500Lの脱塩水を通水した。初期460Lをパージした後、活性炭処理したペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を採取した。
活性炭処理前はペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液4076.5kg、含有するペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩603.9kgであった。活性炭処理後はペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液5029kg、含有するペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩603.7kgであった。
【0078】
PPプリーツカートリッジフィルターTCP−JXを通して、前記活性炭処理後のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を2m撹拌槽に仕込み、ジャケット温度110℃、内温57℃、真空度140Torr〜150Torrにて濃縮を開始し、適宜、活性炭処理後のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を仕込みながら濃縮を行った。
濃縮液の重量は918.4kg、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩濃度は63.5重量%であった。
【0079】
尚、上記濃縮液等のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液中のペンタメチレンジアミン濃度は、1N−HCl水溶液にて滴定して、pHの変曲点までの滴定量から算出した。同様に上記濃縮液等のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液中のアジピン酸濃度は、1N−NaOH水溶液にて滴定して、pHの変曲点までの滴定量から算出した。滴定には、自動滴定装置(三菱化学株式会社製GT−06型)を使用した。
【0080】
次に、同一の2m撹拌槽にて晶析を行った。撹拌翼は3枚後退翼、撹拌速度は40rpm、降温速度は8℃/hである。
内温37.4℃のときに、予め作成したペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩を種晶として1kg添加して結晶を析出させ、内温10.5℃で晶析終了として、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩スラリーを得た。尚、種晶としてのペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩は、本実施例に準じてラボスケールにて準備した。
【0081】
直径1.22mの遠心濾過器を用い、前記ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩スラリーを3回に分けて遠心濾過した。回転数は980rpm、母液振り切り時間は15分、母液振り切り後に10℃の脱塩水約12kg(脱塩水約12kgは、予想wetケーキ重量の約20重量%分)をシャワー状に振りかけて洗浄し、その脱塩水の振り切り時間は15分間とした。
【0082】
上記の操作により、種晶として、含水率が約15重量%のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩(ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩)を得た。
次いで、予め窒素置換した1mのステンレス製容器に、脱塩水(100kg)と、含水率が約15重量%のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩(250kg)とを仕込み、撹拌して溶解させた。
次に、この溶解液中に25重量%の水酸化ナトリウム水溶液(273.8kg)を仕込み、中和した(即ち、ペンタメチレンジアミンを脱塩して遊離アミンとした)。溶解液中に水酸化ナトリウム水溶液を仕込む際は、溶解液の内温が70℃を超えないように調整した。
中和処理を行った溶解液を、内温50℃、減圧度50Torrの条件で水を留去し、次いで、内温80℃、減圧度20Torrの条件でぺンタメチレンジアミンを蒸留した。得られたペンタメチレンジアミンを内温80℃、減圧度20Torrの条件で再度蒸留を行い、ナトリウム含有率が約2ppmのペンタメチレンジアミンを得た。
【0083】
[ポリアミド樹脂の製造]
(1)ポリアミド6
ε−カプロラクタム50kg、脱塩水1.5kg、及び亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48gを容器に入れ、窒素置換した後に100℃にて溶解した。この原料水溶液をオートクレーブに移送し、ジャケット温度を280℃に設定して加熱を開始した。内容物を270℃迄昇温した後、オートクレーブの圧力を徐々に放圧し、更に減圧して所定の撹拌動力に到達した時点で重縮合反応を終了した。反応終了後、窒素にて復圧し、内容物をストランド状に冷却水槽へ導入後、回転式カッターでペレット化した。得られたペレットに対し、得られたペレットの1.5倍量の沸騰水を使用して未反応のモノマー、オリゴマーを抽出除去した。未反応物を除去したペレットは120℃、1torr(0.13kPa)の条件で、水分量が0.1重量%以下となる迄乾燥を行い、ポリアミド6を得た。
ポリアミド6の相対粘度(η)は2.8、吸熱ピーク温度は224℃、末端アミノ基濃度は32μeq/gであった。
【0084】
(2)ポリアミド56
濃度50重量%、数量100kgのペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液となるように、ペンタメチレンジアミン、アジピン酸、及び脱塩水を容器に入れ、さらに亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48gを容器に入れ、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ、原料水溶液を得た。プランジャーポンプにて予め窒素置換したオートクレーブに、上記の原料水溶液を移送した。ジャケット温度を280℃に、オートクレーブの圧力を1.47MPaにそれぞれ調節し、内容物を270℃に昇温した。次に、オートクレーブ内の圧力を徐々に放圧した後、更に減圧して所定の撹拌動力に到達した時点で重縮合反応を終了した。反応終了後に窒素にて復圧し、内容物をストランド状に冷却水槽へ導入した後、回転式カッターでペレット化した。得られたペレットは、120℃、1torr(0.13kPa)の条件で、水分量が0.1重量%以下となる迄乾燥し、ポリアミド56を得た。
ポリアミド56の相対粘度(η)は2.8、吸熱ピーク温度は232℃と255℃であり、末端アミノ基濃度は33μeq/gであった。
【0085】
(3)ポリアミド510
濃度50重量%、数量100kgのペンタメチレンジアミン・セバシン酸塩水溶液となるように、ペンタメチレンジアミン、セバシン酸、及び脱塩水を容器に入れ、さらに亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48gを容器に入れ、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ、原料水溶液を得た。プランジャーポンプにて予め窒素置換したオートクレーブに、上記の原料水溶液を移送した。ジャケット温度を280℃に、オートクレーブの圧力を1.47MPaにそれぞれ調節し、内容物を270℃に昇温した。次に、オートクレーブ内の圧力を徐々に放圧した後、更に減圧して所定の撹拌動力に到達した時点で重縮合反応を終了した。反応終了後に窒素にて復圧し、内容物をストランド状に冷却水槽へ導入した後、回転式カッターでペレット化した。得られたペレットは、120℃、1torr(0.13kPa)の条件で、水分量が0.1重量%以下となる迄乾燥し、ポリアミド510を得た。
ポリアミド510の相対粘度(η)は2.5、吸熱ピーク温度は176℃と219℃であり、末端アミノ基濃度は35μeg/gであった。
【0086】
(4)ポリアミド59
濃度50重量%、数量100kgのペンタメチレンジアミン・アゼライン酸塩水溶液となるように、ペンタメチレンジアミン、アゼライン酸、及び脱塩水を容器に入れ、さらに亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48gを容器に入れ、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ、原料水溶液を得た。以降は(2)ポリアミド56の製造と同様にして、ポリアミド59を得た。
ポリアミド59の相対粘度(η)は2.8、吸熱ピーク温度は190℃と210℃であり、末端アミノ基濃度は32μeq/gであった。
【0087】
(5)ポリアミド512
濃度50重量%、数量100kgのペンタメチレンジアミン・ドデカン二酸塩水溶液となるように、ペンタメチレンジアミン、ドデカン二酸、及び脱塩水を容器に入れ、さらに亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48gを容器に入れ、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ、原料水溶液を得た。以降は(2)ポリアミド56の製造と同様にして、ポリアミド512を得た。
ポリアミド512の相対粘度(η)は2.8、吸熱ピーク温度は173℃と211℃であり、末端アミノ基濃度は32μeq/gであった。
【0088】
(6)ポリアミド610
濃度50重量%、数量100kgのヘキサメチレンジアミン・セバシン酸塩水溶液となるように、ヘキサメチレンジアミン、セバシン酸、及び脱塩水を容器に入れ、さらに亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48gを容器に入れ、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ、原料水溶液を得た。プランジャーポンプにて予め窒素置換したオートクレーブに、上記の原料水溶液を移送した。ジャケット温度を280℃に、オートクレーブの圧力を1.47MPaにそれぞれ調節し、内容物を270℃に昇温した。次に、オートクレーブ内の圧力を徐々に放圧した後、更に減圧して所定の撹拌動力に到達した時点で重縮合反応を終了した。反応終了後に窒素にて復圧し、内容物をストランド状に冷却水槽へ導入した後、回転式カッターでペレット化した。得られたペレットは、120℃、1torr(0.13kPa)の条件で、水分量が0.1重量%以下となる迄乾燥し、ポリアミド610を得た。
ポリアミド610の相対粘度(η)は2.8、吸熱ピーク温度は222℃、末端アミノ基濃度は33μeg/gであった。
【0089】
(7)ポリアミド56/6(56/6仕込み重量比=80/20)
濃度50重量%、数量80kgのペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液となるように、ペンタメチレンジアミン、アジピン酸、及び脱塩水を容器に入れ、さらにε−カプロラクタム10kg、亜リン酸水素2ナトリウム5水和物3.48g、及びペンタメチレンジアミン135gを容器に入れ、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ原料水溶液を得た。プランジャーポンプにて予め窒素置換したオートクレーブに、上記の原料水溶液を移送した。ジャケット温度を280℃に、オートクレーブの圧力を1.47MPaにそれぞれ調節し、内容物を270℃に昇温した。次に、オートクレーブ内の圧力を徐々に放圧した後、更に減圧して所定の撹拌動力に到達した時点で重縮合反応を終了した。反応終了後に窒素にて復圧し、内容物をストランド状に冷却水槽へ導入した後、回転式カッターでペレット化した。
得られたペレットに対し、得られたペレットの1.5倍量の沸騰水を使用して未反応のモノマー、オリゴマーを抽出除去した。未反応物を除去したペレットは120℃、1torr(0.13kPa)の条件で、水分量が0.1重量%以下となる迄乾燥を行い、ポリアミド56/6(56/6仕込み重量比=80/20)を得た。
ポリアミド56/6の相対粘度(η)は3.5、末端アミノ基濃度は38μeg/gであった。吸熱ピーク温度は181℃と216℃であった。
【0090】
[導電性付与剤の準備]
中空炭素フィブリルとしては、DBP吸油量256ml/100gの三菱化学(株)製カーボンナノチューブ「MC−4」を、ピンミル型粉砕機(槙野産業社製「コロプレックス160Z」)を用い、回転数12000rpmで予め粉砕処理してから用いた。
また、導電性カーボンブラックとしては、DBP吸油量140ml/100gの三菱化学(株)製カーボンブラック「#3230MJ」を用いた。
【0091】
[実施例1〜8、比較例1〜4]
二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX−30α」)を用い、表1に示すポリアミド樹脂と導電性付与剤(表1中、中空炭素フィブリルは「CNT」と表記し、導電性カーボンブラックは「CB」と表記する。)とを表1に示す配合でシリンダ設定温度265℃、スクリュ回転数250rpm、吐出量20kg/時間で溶融混練して、導電性ポリアミド樹脂ペレットを製造した。
このポリアミド樹脂ペレットを用いて、必要な試験片を成形し、各評価を行い、結果を表1に示した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1より、ポリアミド樹脂としてポリアミド5Xを用いることにより、周波数5〜800MHzにおける電界シールド性から周波数200〜1000MHzにおける磁界シールド性という幅広い周波数に亘って高度な電磁波シールド性を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と導電性付与剤とを含み、該ポリアミド樹脂が、ペンタメチレンジアミンを含むジアミンとジカルボン酸とを単量体成分として用いる重縮合反応により得られる重縮合体に相当する構造を有するポリアミド樹脂(以下、このポリアミド樹脂を「ポリアミド5X」と称す。)であり、
周波数5〜800MHzにおいて測定した電界シールド性が−10dB以下かつ周波数200〜1000MHzにおいて測定した磁界シールド性が−10dB以下であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド5Xは、示差走査熱量測定法による測定で2つの吸熱ピークを有することを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2において、前記2つの吸熱ピークのピークトップの温度差が5〜50℃であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ポリアミド5Xの末端アミノ基濃度が16〜100μeq/gであることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリアミド5Xが、ポリアミド56、ポリアミド59、ポリアミド510、ポリアミド512及びポリアミド56/6からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記導電性付与剤の含有量が前記ポリアミド5X100重量部に対して0.1〜300重量部であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記導電性付与剤が、導電性カーボンブラック及び中空炭素フィブリルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を射出成形してなる電磁波シールド性成形品。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電磁波シールド性ポリアミド樹脂組成物を押出成形してなる電磁波シールド性成形品。
【請求項10】
請求項9において、押出成形品がフィルム状であり、その厚みが5〜200μmであることを特徴とする電磁波シールド性成形品。
【請求項11】
少なくともその一部が請求項8ないし10のいずれか1項に記載の成形品で構成されていることを特徴とする自動車・鉄道車両用部品又は電気・電子・OA用部品。

【公開番号】特開2011−207981(P2011−207981A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75982(P2010−75982)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】