説明

電磁波吸収シート

【課題】電磁波ノイズ抑制性能が十分にあり、かつ軽量で薄く、更に簡単に作製することが出来るシートを提供することを課題とする。
【解決手段】多層カーボンナノチューブを含有するシートにおいて、該多層カーボンナノチューブの水分散液単独あるいは該多層カーボンナノチューブ水分散液に樹脂水分散液または該樹脂水分散液と難燃剤を、該多層カーボンナノチューブが基材に1g/m2以上となるように塗工されていることを特徴とする電磁波抑制シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューター、携帯電話等の通信機器や電子機器から発生する不要電磁波の外部への漏洩や内部回路間での相互干渉による誤動作を防止するため、また外部からの電磁波の悪影響を防止するため、所謂電磁波のノイズ対策として用いられるノイズ抑制シートとして好適な、軽量で薄く、更に簡単に作製することができる電磁波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信機器や電子機器に対する電磁波ノイズ対策として種々の電磁波吸収シートが用いられてきた。近年はこの性能の向上、使用の利便性の向上、あるいは製造方法の容易性を付与する方法等が提案されている。
【0003】
電磁波吸収素材としては磁性吸収材料、誘電性吸収材料及び抵抗性吸収材料がある。これらの吸収材料を単独あるいは複合体として樹脂等の他素材と共にシート化したり、基材シートに塗工したり、あるいは紙に内添したりして電磁波吸収シートを作製する方法が提案されている。また、難燃性が要求される場合には、これらに難燃剤を加えた電磁波吸収シートが提案されている。
【0004】
磁性吸収材料では軟磁性体であるFe−Cr−Al合金扁平粉とアクリルゴムを主成分として、あるいはこれに水酸化アルミニウム等の難燃剤を加えて混練し加熱プレスでシート化することにより電磁波吸収シートを得る方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、十分な電磁波吸収性能を得るためにはシートを厚くする必要があると共に軟磁性体の密度が高いことからシートが重くなるという問題がある。
【0005】
誘電性吸収材料では、鱗状黒鉛微粉末を樹脂中に分散させこれをPETフィルムに塗布し、樹脂を硬化後、フィルムを剥がして電磁波吸収性シートを得る方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、十分な電磁波吸収性能を得るためには黒鉛微粉末の割合を多くする(樹脂100部に対し100部以上)必要があり、シートを薄くすればシート強度が弱くなるという問題がある。
【0006】
抵抗性吸収材料では炭素繊維を紙に内添する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、十分な電磁波吸収性能は得られていない。
抵抗性吸収材料のもう一つの例として、カーボンナノチューブと非導電性繊維とが互いにネットワーク構造を構成したシート(具体的にはカーボンナノチューブの分散液を紙に内添したシート)が提案されている。しかしながら、カーボンナノチューブ分散液を用いて内添抄紙すると、抄紙機(原料供給工程、シート形成工程並びに乾燥工程)が著しく汚れるため、抄紙後の掃除に時間がかかり、稼働率が著しく低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−308583号公報
【特許文献2】特開2009−54983号公報
【特許文献3】特開2009−194341号公報
【特許文献4】特開2010−40730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電磁波ノイズ抑制性能が十分にあり、かつ軽量で薄く、更に簡単に作製することが出来るシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、多層カーボンナノチューブを含有するシートにおいて、該多層カーボンナノチューブの水分散液単独、又は該多層カーボンナノチューブ水分散液に樹脂水分散液、若しくは該樹脂水分散液と難燃剤を、該多層カーボンナノチューブが基材に1g/m2以上となるように塗工することで、得られるシートにより解決できる。
【0010】
具体的には、
(1)多層カーボンナノチューブ水分散塗工液、多層カーボンナノチューブ水分散塗工液に樹脂水分散液を含む塗工液、又は多層カーボンナノチューブ水分散塗工液に樹脂水分散液及び難燃剤を含む塗工液を、多層カーボンナノチューブが基材に対して1g/m2以上となるように塗工されていることを特徴とする電磁波抑制シート、
(2)基材が紙、フィルム、不織布あるいは織布であることを特徴とする(1)の電磁波抑制シート、
(3)難燃性が付与されていることを特徴とする(1)の電磁波抑制シート、
(4)坪量が200g/m2以下あるいは厚さが200μm以下であることを特徴とする(1)の電磁波抑制シート、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンナノチューブを用いないタイプの電磁波ノイズ抑制シートより高性能でかつ軽量で薄い電磁波ノイズ抑制シートを得ることが出来る。また、カーボンナノチューブを内添したシートと比較する容易に作製することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
カーボンナノチューブには単層と多層があるが、本願では、多層のカーボンナノチューブを用いる。多層カーボンナノチューブを用いることで、既存の他素材からなる電磁波抑制シートより性能で優れ、安価な電磁波抑制シートが得られる。カーボンナノチューブの製造法にはCVD法、レーザー蒸発法、アーク放電法等があり、いずれの製造法で製造されたカーボンナノチューブであってもよい。これらのカーボンナノチューブは一般に多数のナノチューブが凝集した状態で製造され販売されている。
【0013】
本発明のカーボンナノチューブ水分散塗工液とは、このカーボンナノチューブを塗工する前に水中で分散したものである。カーボンナノチューブの分散には分散剤と分散器具が用いられる。分散剤としては、ナフタレンスルホン酸系ホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム等の合成系の化合物や天然物からの水溶性キシランがある。これらの分散剤を添加して超音波ホモジナイザー等を用いれば比較的簡単にカーボンナノチューブを分散することが出来る。
【0014】
分散剤の量は固形分でカーボンナノチューブに対し20%〜100%である。20%以下では分散が困難になる。100%を超えても分散は可能であるが分散性は向上しない。上記の分散剤を用いてカーボンナノチューブの濃度が5%程度までの分散液を作製することができる。
カーボンナノチューブの分散程度については、分散液の量により分散性を調整することができる。分散の確認には、200メッシュの濾布を用いて濾過したものを塗工することで可能である。
【0015】
本発明の電磁波吸収性能はカーボンナノチューブの塗工量を1g/m以上であるが、好ましくは、2g/m以上である。塗工は複数回行なってもよい。塗工量が1g/m2より少ないと十分な電磁波吸収性能が得られない。
【0016】
また、カーボンナノチューブの基材への密着性を向上させるために、カーボンナノチューブ水分散液にバインダー樹脂として、樹脂水分散液を含ませることができる。本願の樹脂水分散液とは水分散性の樹脂である。例えば、基材が紙系であればSBRやアクリル系のエマルジョンが、基材がプラスチック系であればそのプラスチックとの密着性の良い樹脂が用いられる。基材がポリエステル系であれば、ポリエステル系樹脂分散液やウレタン系樹脂分散液を用いることができる。また、プラスチックとの密着性を更に向上させるためには表面の粗面化あるいはコロナ処理をすることもできる。
【0017】
塗工にはワイヤーバーコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、リバースロールコーター、ダイコーター等を用いることが出来る。数%のカーボンナノチューブ濃度の塗工液をカーボンナノチューブ固形分で1g/m2以上塗工できるタイプの塗工機であればよい。
【0018】
基材としては、紙、フィルム、不織布あるいは織布が用いられる。紙としては上質紙、樹脂含浸紙、塗工紙等を用いることが出来る。厚さを下げるためにカーボンナノチューブ等の塗工前あるいは塗工後にキャレンダー処理してもよい。フィルムとしては、ポリエステル、ナイロン、オレフィン、ポリカーボネート、あるいはアラミドを用いることが出来る。不織布としてはポリエステル、アクリル、オレフィン等のスパンボンドを用いることが出来る。織布としては不織布と同様な素材並びに木綿等の天然素材あるいはレーヨン等の再生繊維を用いることができる。シートとしての強度が維持できる範囲で基材の坪量は軽い方が、また厚さは薄い方がよい。シートの坪量は200g/m2以下、好ましくは100g/m2以下である。また、シートの厚さは200μm以下、好ましくは100μm以下である。シートの坪量が200g/m2を越えるとシートが重くなり、また厚さが200μmを越えると設置場所の容積を占める割合が多くなり好ましくない。
【0019】
シートを難燃化するためには難燃性の基材を用いる。難燃性の基材は、紙の場合は難燃剤を内添、含浸、塗工あるいはこれらを組み合わせることにより得られる。フィルムの場合は樹脂中に難燃剤を混合してスリットから押し出し成形することにより得られる。また、不織布の場合は樹脂中に難燃剤を混合してノズルから押し出した繊維をそのままシート化するか、一旦短繊維化して二次工程でシート化することにより得られる。織布の場合は不織布と同様に難燃剤を繊維内に含有させるか、後処理により難燃化することにより得られる。カーボンナノチューブ水分散液に樹脂水分散液を含有させて塗工する場合はシートとしての難燃性が低下する場合がある。この場合には難燃剤をカーボンナノチューブ塗工液に添加する。難燃剤としては、既知のものが使用できる。具体的には、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、硫酸メラミン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、メラミンシアヌレート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、本発明の実施例における物性は以下の方法で評価した。
【0021】
(ノイズ抑制効果)
マイクロストリップライン法に基づいて伝送減衰率を測定した。下式による。
伝送減衰率=透過/(入射−反射)
Rtp=10log{10S21/10/(1−10S11/10)}
【0022】
(難燃性)
UL94規格の垂直燃焼試験に基づいて実施した。
【0023】
(坪量)
JIS P 8124に基づいて測定した。
【0024】
(厚さ)
マイクロメーターにより測定した。
【0025】
(カーボンナノチューブ分散液の調製)
カーボンナノチューブ分散液調製1:
カーボンナノチューブ(nanocyl製NC-7000)を分散剤 (花王製デモールN)を用いて超音波ホモジナイザーで分散した。カーボンナノチューブ濃度4%、分散剤濃度2%とした。
【0026】
カーボンナノチューブ分散液調製2:
カーボンナノチューブ(昭和電工製VGCF-X)を分散剤 (江崎グリコ製水溶性キシラン)を用いて超音波ホモジナイザーで分散した。カーボンナノチューブ濃度4%、分散剤濃度1%とした。
【0027】
カーボンナノチューブ分散液調製3:
カーボンナノチューブ(Cnano Technology製Flo Tube 9000)を分散剤 (江崎グリコ製水溶性キシラン)を用いて超音波ホモジナイザーで分散した。カーボンナノチューブ濃度4%分散剤濃度1%とした。
【0028】
実施例1
上質紙(坪量65g/m2)の片面にカーボンナノチューブ分散液調製1で調製したカーボンナノチューブ分散液をワイヤーバーで塗工してカーボンナノチューブ塗工量3.6g/m2の塗工紙を得た。この0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0029】
実施例2
上質紙(坪量65g/m2)の片面にカーボンナノチューブ分散液調製2で調製したカーボンナノチューブ分散液をワイヤーバーで塗工してカーボンナノチューブ塗工量4.2g/m2の塗工紙を得た。この0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0030】
実施例3
上質紙(坪量65g/m2)の片面にカーボンナノチューブ分散液調製3で調製したカーボンナノチューブ分散液に増粘剤CMC2%を加えてワイヤーバーで塗工してカーボンナノチューブ塗工量4.2g/m2の塗工紙を得た。この0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0031】
実施例4
上質紙(坪量65g/m2)の片面にカーボンナノチューブ分散液調製1で調製したカーボンナノチューブ分散液をワイヤーバーで2回塗工してカーボンナノチューブ塗工量9.8g/m2の塗工紙を得た。この0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0032】
実施例5
微塗工紙(坪量50g/m2)の片面にカーボンナノチューブ分散液調製2で調製したカーボンナノチューブ分散液にアクリル系樹脂エマルジョン(昭和高分子製ポリゾールOLZ-1899)をカーボンナノチューブに対し固形分比で100%となるように加えた。この液をワイヤーバーで塗工して総塗工量13.6g/m2、カーボンナノチューブ塗工量6.0g/m2の塗工紙を得た。この0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0033】
実施例6
NBKP100%、叩解度550mlCSFのパルプにサイズ剤及び硫酸バンドを加えた紙料を手漉きして坪量50g/m2の手漉紙を作製した。ポリリン酸メラミンに水及び少量の分散剤(東亜合成製アロンT-50)を加えて高速ホモジナイザーで分散し、濃度30%のポリリン酸メラミン分散液を作製した。これにアクリル系樹脂エマルジョン(三井化学製ボンロンXCF-113)を固形分比でポリリン酸メラミン/SBR=85/15となるように加えた。この難燃剤塗工液を手漉紙の両面合わせて35g/m2塗工し、難燃紙を作製した。この難燃塗工紙の片面にカーボンナノチューブ分散液調製2で調製したカーボンナノチューブ分散液をワイヤーバーで塗工してカーボンナノチューブ塗工量5.0g/m2の塗工紙を得た。この塗工紙の難燃性はUL94難燃試験においてV-0であった。この塗工紙の0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。 測定結果を表1に示した。
【0034】
実施例7
ポリエステル不織布(旭化成製プレシゼAF-110)にカーボンナノチューブ分散液調製1で調製したカーボンナノチューブ分散液をワイヤーバーで塗工し、総塗工量7.9g/m2、カーボンナノチューブ塗工量5.3g/m2のシートを得た。このシートの0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0035】
実施例8
カーボンナノチューブ分散液調製2で調製したカーボンナノチューブ分散液に水分散ポリエステル樹脂(東洋紡績製バイロナールMD-1245)を固形分で対CNT50%添加した。難燃性ポリエステルフィルム(三菱樹脂製ダイアラミー50ミクロン)の表面を粗面化した後、CNT塗工液をワイヤーバーで塗工し、総塗工量10.0g/m2、カーボンナノチューブ塗工量5.7g/m2のシートを得た。このシートの伝送減衰率を測定した。このシートの難燃性はUL94難燃試験においてV-1であった。測定結果を表1に示した。
【0036】
実施例9
カーボンナノチューブ分散液調製2で調製したカーボンナノチューブ分散液に水分散ポリエステル樹脂(東洋紡績製バイロナールMD-1245)及び実施例6で作製した濃度30%のポリリン酸メラミン分散液を固形分比でカーボンナノチューブ:ポリエステル樹脂:ポリリン酸メラミン=1:1:5となるように混合した液を作製し、難燃性ポリエステルフィルム(三菱樹脂製ダイアラミー50ミクロン)にワイヤーバーで塗工し、総塗工量17g/m2、カーボンナノチューブ塗工量2.2g/m2のシートを作製した。このシートの難燃性はUL94難燃試験においてV-0であった。伝送減衰率を測定した。この結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
上質紙(坪量65g/m2)の片面にカーボンナノチューブ分散液調製3で調製したカーボンナノチューブ分散液にアクリル系樹脂エマルジョン(昭和高分子製ポリゾールOLZ-1899)及び増粘剤CMC2%を加えてワイヤーバーで塗工して総塗工量3g/m2、CNT塗工量0.5g/m2の塗工紙を得た。この0.1〜3GHzの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。電磁波吸収性不十分であった。
【0038】
比較例2
市販の薄物の軟磁性体含有薄物シートの伝送減衰率を測定した。この測定結果を表1に示した。電磁波吸収性不十分であった。
【0039】
比較例3
市販の軟磁性体含有厚物シートの伝送減衰率を測定した。測定結果を表1に示した。電磁波吸収性能は十分であるが、非常に重い。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による電磁波抑制シートは電磁波吸収性能が十分あり、かつ軽量であるのでコンピューター、携帯電話等の通信機器や電子機器に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層カーボンナノチューブ水分散塗工液、多層カーボンナノチューブ水分散塗工液に樹脂水分散液を含む塗工液、又は多層カーボンナノチューブ水分散塗工液に樹脂水分散液及び難燃剤を含む塗工液を、多層カーボンナノチューブが基材に対して1g/m2以上となるように塗工されていることを特徴とする電磁波抑制シート。
【請求項2】
基材が紙、フィルム、不織布あるいは織布であることを特徴とする請求項1の電磁波抑制シート。
【請求項3】
難燃性が付与されていることを特徴とする請求項1の電磁波抑制シート。
【請求項4】
坪量が200g/m2以下あるいは厚さが200μm以下であることを特徴とする請求項1の電磁波抑制シート。