説明

電磁波吸収体

【課題】 高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】 電磁波反射体の前に複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層してなる電磁波吸収体であって、各電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に導電体層を形成してなり、各電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有し、かつ最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗はその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より50Ω/□以上大きい電磁波吸収体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、携帯電話、有料道路の自動料金収受システム(ETC)、RFIDシステム、無線LAN等の電子機器や通信機器のシステムには、電磁波の漏洩及び進入を防止するシールド材が使用されている。シールド材には、広範囲の周波数の電磁波を良好に吸収できるだけでなく、入射方向に応じた電磁波吸収能の変化(異方性)が少ないことも求められる。特にETC等のように円偏波を用いるシステムでは、TE波(入射面に対して電界成分が垂直な電磁波)及びTM波(入射面に対して磁界成分が垂直な電磁波)の両方とも効率良く吸収するシールド材が求められる。
【0003】
特開平6-120689号(特許文献1)は、適当な表面抵抗を有する抵抗皮膜と誘電体とを交互に配置し、背面に電波反射体で裏打した誘電体を設置した多層型電波吸収体において、抵抗皮膜及び誘電体を透明な材料で構成し、電波反射体を光を通す構造若しくは材料で構成したことを特徴とする電波吸収体を開示している。各抵抗皮膜は、電波の到来方向に377Ω/□(自由空間の電波特性インピーダンス)±10%の表面抵抗を有し、電波反射体で裏打された誘電体はλg/4(λgは電波の波長である。)の厚さを有する。多層構造を示す唯一の実施例である実施例5では、抵抗皮膜として表面抵抗377Ω/□±10%の金属酸化物皮膜を形成した厚さ0.5 mmの3枚のPET板は10 mmの等間隔で配置されており、最も奥の抵抗皮膜と電波反射体で裏打した誘電体との間隔も10 mmである。約377Ω/□の表面抵抗を有する複数の抵抗皮膜を電波反射体の前に配置しただけでも電波吸収能は向上するが、今だ不十分であり、さらなる改良が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-120689号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、複数の電磁波吸収フィルムを電磁波反射体の前に配置してなる電磁波吸収体において、(a) 最前の電磁波吸収フィルムが次の電磁波吸収フィルムより大きな表面抵抗を有すると、同じ表面抵抗を有する場合より著しく高い電磁波吸収能が得られること、及び(b) 電磁波吸収フィルム間の間隔及び電磁波吸収フィルムと電磁波反射体との間隔を異なるものにすると、電磁波吸収能はさらに向上することを発見し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明の電磁波吸収体は、電磁波反射体の前に複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層してなり、各電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に導電体層を形成してなり、各電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有し、かつ最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗はその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より50Ω/□以上大きいことを特徴とする。
【0008】
第一の実施形態による電磁波吸収体は、第一の電磁波吸収フィルム/誘電体/第二の電磁波吸収フィルム/誘電体/電磁波反射体の層構成を有し、前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の表面抵抗を有し、前記第一の電磁波吸収フィルムの導電体層は前記第二の電磁波吸収フィルムの導電体層より50Ω/□以上大きな表面抵抗を有する。前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔は前記第二の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔より大きいのが好ましい。前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔と前記第二の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔との比は100:30〜100:70であるのが好ましい。
【0009】
第二の実施形態による電磁波吸収体は、第一の電磁波吸収フィルム/誘電体/第二の電磁波吸収フィルム/誘電体/第三の電磁波吸収フィルム/誘電体/電磁波反射体の層構成を有し、前記第一〜第三の電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の表面抵抗を有し、前記第一の電磁波吸収フィルムの導電体層は前記第二の電磁波吸収フィルムの導電体層より50Ω/□以上大きな表面抵抗を有する。前記第三の電磁波吸収フィルムの導電体層は前記第二の電磁波吸収フィルムの導電体層より50Ω/□以上大きな表面抵抗を有するのが好ましい。前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔は、前記第二及び第三の電磁波吸収フィルムの間隔及び前記第三の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔より大きいのが好ましい。前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔と前記第二及び第三の電磁波吸収フィルムの間隔との比は100:30〜100:70であるのが好ましい。前記第三の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔と前記第二及び第三の電磁波吸収フィルムの間隔との比は100:30〜100:70であるのが好ましい。
【0010】
前記電磁波吸収フィルムの導電体層側又はプラスチックフィルム側に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕が複数方向に形成されていても良い。各電磁波吸収フィルムの線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであるのが好ましい。
【0011】
少なくとも一つの電磁波吸収フィルムは、異なる表面抵抗を有する複数の電磁波吸収フィルム片からなるものでも良い。異なる表面抵抗を有する複数の電磁波吸収フィルム片を用いることにより、電磁波吸収フィルムの表面抵抗の面内における不均一性の悪影響が緩和される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電磁波吸収体は、導電体層を有するプラスチックフィルムからなる複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層してなり、各電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有し、かつ最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗はその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より50Ω/□以上大きいので、単に同じ表面抵抗の複数枚の電磁波吸収フィルムを積層した場合と比較して著しく高い電磁波吸収能を有する。さらに、電磁波吸収フィルムに複数方向の線状痕を形成すると、電磁波吸収能の異方性が低下する。このような特徴を有する本発明の電磁波吸収体は、ETC,FRID等の高い電磁波吸収能を必要とする広範な用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】線状痕を有さない電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図2】導電体層に線状痕を有する電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図3】プラスチック面に線状痕を有する電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図4】線状痕の一例を示す部分平面図である。
【図5(a)】線状痕の他の例を示す部分平面図である。
【図5(b)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【図5(c)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【図6(a)】線状痕を有さないストライプ状の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルムを示す部分平面図である。
【図6(b)】線状痕を有するストライプ状の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルムを示す部分平面図である。
【図6(c)】線状痕を有する矩形状の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルムを示す部分平面図である。
【図7】導電体層及び線状痕の上に保護層が設けられた電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図8(a)】電磁波吸収フィルムの製造装置の一例を示す斜視図である。
【図8(b)】図8(a) の装置を示す平面図である。
【図8(c)】図8(b) のB-B断面図である。
【図8(d)】フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【図8(e)】図8(a) の装置において、フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【図9】電磁波吸収フィルムの製造装置の他の例を示す部分断面図である。
【図10】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図11】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図12】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図13】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有さない2枚の電磁波吸収フィルム及び反射板の配置を示す断面図である。
【図14】図13の電磁波吸収体の構成を示す分解斜視図である。
【図15】本発明の電磁波吸収体において、導電体層に線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルム及び反射板の配置を示す断面図である。
【図16】本発明の電磁波吸収体において、プラスチック面に線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルム及び反射板の配置を示す断面図である。
【図17】図15及び図16の電磁波吸収体の構成を示す分解斜視図である。
【図18(a)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図18(b)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図18(c)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図19】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有さない3枚の電磁波吸収フィルム及び反射板の配置を示す断面図である。
【図20】図19の電磁波吸収体の構成を示す分解斜視図である。
【図21】本発明の電磁波吸収体において、導電体層に線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルム及び反射板の配置を示す断面図である。
【図22】本発明の電磁波吸収体において、プラスチック面に線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルム及び反射板の配置を示す断面図である。
【図23】図21及び図22の電磁波吸収体の構成を示す分解斜視図である。
【図24(a)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図24(b)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図24(c)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図24(d)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図24(e)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図24(f)】本発明の電磁波吸収体において、線状痕を有する3枚の電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図25】電磁波吸収体の電磁波吸収能を評価する装置を示す概略図である。
【図26】実施例1の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図27】実施例2の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図28】実施例3の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図29】実施例4の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図30】実施例5の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図31】実施例6の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図32】実施例7の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図33】比較例1の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図34】比較例2の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図35】比較例3の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図36】実施例8の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図37】実施例9の電磁波吸収体の5.8 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図38】実施例10の電磁波吸収体の5.8 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図39】実施例11の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図40】実施例12の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図41】比較例4の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図42】実施例13の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図43】実施例14の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図44】比較例5の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図45】実施例15の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図46】実施例16の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図47】比較例6の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図48】実施例17の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図49】実施例17の電磁波吸収体の2.5 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図50】比較例7の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図51】比較例7の電磁波吸収体の2.5 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図52】実施例18の電磁波吸収体の2.5 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図53】実施例19の電磁波吸収体の5.8 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図54】実施例20の電磁波吸収体の2.5 GHzにおける電磁波吸収率を示すグラフである。
【図55】実施例20の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図56】実施例21の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0015】
[1] 電磁波吸収フィルム
(1) 第一の電磁波吸収フィルム
本発明の電磁波吸収体を構成する第一の電磁波吸収フィルム100は、図1に示すようにプラスチックフィルム10の一方の面に導電体層11を形成したものである。
【0016】
(a) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、性及び絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。プラスチックフィルム10の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0017】
(b) 導電体層
導電体層11は導電性金属又は透明導電性金属酸化物の薄膜からなる。導電性金属の薄膜は薄くなるにつれて透明になる。従って、導電体層11は透明でも不透明でも良い。優れた電磁波吸収能を発揮するために、導電体層11の表面抵抗は50〜1500Ω/□であり、好ましくは100〜1000Ω/□であり、より好ましくは200〜1000Ω/□であり、最も好ましくは250〜800Ω/□である。表面抵抗は直流二端子法で測定することができる。導電体層11の表面抵抗が50〜1500Ω/□の範囲外であると、複数の電磁波吸収フィルムを電磁波反射体と組合せても高い電磁波吸収能は得られない。導電体層11はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。
【0018】
導電性金属として、ニッケル、アルミニウム、クロム等が挙げられる。これらの金属は勿論単体に限らず、合金でも良い。アルミニウム薄膜も良好な導電性を有するが、膜厚(表面抵抗)の均一化が難しい。一方、ニッケル薄膜は良好な導電性を有するとともに、表面抵抗の分布が均一であるので、本発明の目的に好適である。金属薄膜の厚さは、表面抵抗が50〜1500Ω/□の範囲内となるように設定する必要があり、具体的には5〜30 nmが好ましく、10〜20 nmがより好ましく、10〜15 nmが最も好ましい。金属薄膜の厚さが5 nm未満であると表面抵抗が大きすぎ、また金属薄膜の厚さが30 nm超であると表面抵抗が小さすぎる。なお、金属薄膜に線状痕を形成する場合、金属薄膜の表面抵抗は線状痕により調整できるので、金属薄膜をより厚く形成できる。具体的には、金属薄膜の厚さは約0.01〜1μmで良い。
【0019】
透明導電性金属酸化物として、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。透明導電性金属酸化物薄膜の厚さは、表面抵抗が50〜1500Ω/□の範囲内となるように設定する必要があり、具体的には0.01〜2μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましく、0.1〜1μmが最も好ましい。
【0020】
(2) 第二の電磁波吸収フィルム
本発明の電磁波吸収体を構成する第二の電磁波吸収フィルム110は、プラスチックフィルム10の一方の面に導電体層11を有し、導電体層11又はその反対側のプラスチック面に複数方向の線状痕12を有するものである。図2は導電体層11に線状痕12が形成された電磁波吸収フィルム110を示し、図3は導電体層11の反対側のプラスチック面に線状痕12が形成された電磁波吸収フィルム120を示す。
【0021】
いずれの場合も、実質的に平行で断続的な線状痕12が複数方向に不規則な幅及び間隔で形成されている。図4は複数の線状痕12の一例を示す。導電体層11又はプラスチックフィルム10の他方の面(導電体層11を有さない面)に形成された多数の実質的に平行で断続的な線状痕12a,12bは複数方向(図示の例では二方向)に不規則な幅及び間隔で配向している。なお、説明のために図2及び図3では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。なお間隔Iは、線状痕12の配向方向(長手方向)及びそれに直交する方向(横手方向)の両方における間隔を意味する。線状痕12の幅W及び間隔Iはいずれも線状痕形成前のプラスチックフィルム10の表面Sの高さ(元の高さ)で求める。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、電磁波吸収フィルム1は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0022】
線状痕12の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕12の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜20μmがより好ましく、1〜10μmが最も好ましい。
【0023】
線状痕12の間隔Iは0.1〜200μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕12の平均間隔Iavは1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、1〜20μmが最も好ましい。
【0024】
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロールとフィルムとの相対速度、及びフィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良い。
【0025】
二方向の線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」とも言う)θsは30〜90°が好ましく、45〜90°がより好ましく、60〜90°が最も好ましい。プラスチックフィルム10とパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、図5(a)〜図5(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。線状痕の配向は二方向に限定されず、三方向以上でも良い。図5(a) の線状痕12は直交する線状痕12a,12bからなり、図5(b) の線状痕12は60°で交差する線状痕12a,12bからなり、図5(c) の線状痕12は三方向の線状痕12a,12b,12cからなる。
【0026】
(3) 第三の電磁波吸収フィルム
各電磁波吸収フィルムは複数の電磁波吸収フィルム片を組合せてなるものでも良い。例えば図6(a) に示す電磁波吸収フィルム130は、表面抵抗の異なる導電体層を有する3種類のストライプ状の電磁波吸収フィルム片100a’、100b’、100c’からなる。表面抵抗の異なる電磁波吸収フィルム片を組合せることにより、所望の表面抵抗の電磁波吸収フィルムと同等の機能を発揮させることができる。勿論組合せる電磁波吸収フィルム片の数は3枚に限らす、2枚でも4枚以上でも良い。好ましい組合せ例として、785Ω/□と500Ω/□と785Ω/□の組合せ、500Ω/□と300Ω/□と500Ω/□の組合せ、300Ω/□と250Ω/□と300Ω/□の組合せ、250Ω/□と500Ω/□と250Ω/□の組合せ等がある。各電磁波吸収フィルム片100a’、100b’、100c’の幅は2〜20 cmの範囲内にあるのが好ましい。
【0027】
また図6(b) に示すように、導電体層又はその反対側のプラスチック面に線状痕を形成した複数のストライプ状の電磁波吸収フィルム片12A、12B、12Cを組合せた電磁波吸収フィルム140も使用可能である。組合せの基準は、(a) 所望の表面抵抗の電磁波吸収フィルムと同等の機能を発揮させること、及び(b) 電磁波吸収能の異方性を低減するように線状痕の配向を異ならせることである。図6(a) の例と同様に、各電磁波吸収フィルム片12A、12B、12Cの幅は2〜20 cmの範囲内にあるのが好ましい。
【0028】
図6(c) は複数の長方形状の電磁波吸収フィルム片12A、12B、12Cを組合せてなる電磁波吸収フィルム150の例を示す。この場合も、組合せの基準は、(a) 所望の表面抵抗の電磁波吸収フィルムと同等の機能を発揮させること、及び(b) 電磁波吸収能の異方性を低減するように線状痕の配向を異ならせることである。
【0029】
(4) 保護層
図7に示すように、導電体層11、及び線状痕12があればその面にそれぞれ保護層13a,13bを形成するのが好ましい。保護層13a,13bはプラスチックのハードコート又はフィルムであるのが好ましい。フィルムを用いる場合、熱ラミネート法又はドライラミネート法により接着するのが好ましい。プラスチックハードコートは、例えば光硬化性樹脂の塗布及び紫外線の照射により形成することができる。各保護層13a,13bの厚さは10〜100μm程度が好ましい。
【0030】
[2] 線状痕の形成装置
図8(a)〜図8(e) はプラスチックフィルムに線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。線状痕は導電体層11及びプラスチック面のいずれにも形成でき、かつ導電体層11の形成の前後いずれでも良いので、説明の簡単化のために単にプラスチックフィルム10に線状痕を形成する場合を例にとって、線状痕の形成方法を説明する。なお、導電体層11を予め形成した市販のプラスチックフィルム10のプラスチック面(導電体層11と反対側の面)に線状痕を形成する場合、線状痕の形成中に導電体層11の損傷を防ぐために、導電体層11の上にオーバーコートを形成しておくのが好ましい。
【0031】
図示の装置は、(a) プラスチックフィルム10を巻き出すリール21と、(b) プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜して配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側でそれと反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) プラスチックフィルム10の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向に傾斜し、かつ第一のパターンロール2aと同じ側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側でそれと反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 線状痕付きプラスチックフィルム10’を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0032】
図8(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bがプラスチックフィルム10に接するので、プラスチックフィルム10は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの高さを調整することにより、各パターンロール2a,2bへの押圧力を調整でき、また中心角θ1に比例する摺接距離も調整できる。
【0033】
図8(d) は線状痕12aがプラスチックフィルム10の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。プラスチックフィルム10の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)とプラスチックフィルム10の進行方向とは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子がプラスチックフィルム10と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点A’から点B’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
【0034】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される線状痕12a,12bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bのプラスチックフィルム10に対する角度、及び/又はプラスチックフィルム10の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、プラスチックフィルム10の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、図8(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のようにプラスチックフィルム10の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、プラスチックフィルム10の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を変更することができる。
【0035】
各パターンロール2a,2bはプラスチックフィルム10に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接によりプラスチックフィルム10は幅方向の力を受ける。従って、プラスチックフィルム10の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの高さ及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。プラスチックフィルム10の蛇行及び破断を防止するために、プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0036】
プラスチックフィルム10に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、図9に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ1に比例するプラスチックフィルム10の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、プラスチックフィルム10の蛇行の防止にも寄与できる。
【0037】
図10は、図5(c) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流にプラスチックフィルム10の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cはプラスチックフィルム10の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール3dは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0038】
図11は、四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3eを設けた点で図10に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、図8(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をプラスチックフィルム10の幅方向と平行にすることができる。
【0039】
図12は、図5(a)に示すように直交する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bがプラスチックフィルム10の幅方向と平行に配置されている点で図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる。従って、図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、図8(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をフィルム10の幅方向にし、直交する線状痕を形成するのに適している。
【0040】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、プラスチックフィルム10の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。フィルム10の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0041】
パターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜100μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜50μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に30%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0042】
[3] 電磁波吸収体
本発明の電磁波吸収体は、電磁波反射体の前に複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層してなり、線状痕の有無に係わらず、各電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有し、かつ最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗はその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より50Ω/□以上大きい。各電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗は100〜1000Ω/□が好ましく、200〜1000Ω/□がより好ましく、250〜800Ω/□が最も好ましく、また隣接する電磁波吸収フィルムの表面抵抗の差は100Ω/□以上が好ましく、200Ω/□以上がより好ましく、300Ω/□以上が最も好ましい。
【0043】
誘電体はプラスチックの板、発泡体、ハニカム構造体等が好ましい。電磁波吸収フィルムの枚数及び線状痕の有無に関係なく、隣接する電磁波吸収フィルムの間隔及び電磁波吸収フィルムと電磁波反射体との間隔を決める誘電体の合計厚さは、吸収すべき電磁波の波長λに対して、一般にλ/8〜λ/4を含む範囲であるのが好ましい。吸収すべき電磁波の周波数が小さいとき(例えば2.5 GHz)誘電体の合計厚さはλ/4が好ましいが、吸収すべき電磁波の周波数が大きいとき(例えば5.8 GHz)、誘電体の合計厚さはλ/8が好ましい。一般には、λ/8〜λ/4の範囲に対して±40%の許容範囲があり、好ましくは±20%の許容範囲であり、より好ましくは±10%の許容範囲である。
【0044】
(1) 電磁波吸収体の一例
図13及び図14に示す電磁波吸収体は、電磁波反射体200の前に2枚の電磁波吸収フィルム100a,100bを誘電体を介して積層してなる。この電磁波吸収体は、第一の電磁波吸収フィルム100a/誘電体30a/第二の電磁波吸収フィルム100b/誘電体30b/電磁波反射体200の層構成を有する。各電磁波吸収フィルム100a,100bの導電体層11a,11bはプラスチックフィルム10の同じ側にあっても反対側にあっても良い。本発明では、(a) 第一及び第二の電磁波吸収フィルム100a,100bの導電体層11a,11bの表面抵抗は50〜1500Ω/□の範囲内にあり、かつ(b) 導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より50Ω/□以上大きい必要がある。すなわち、導電体層11aの表面抵抗は100〜1500Ω/□の範囲内で、導電体層11bの表面抵抗は50〜1450Ω/□の範囲内であり、かつ導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より50Ω/□以上大きい。条件(a) 及び(b) を同時に満たさないと、高い電磁波吸収能を有さない。導電体層11a及び11bの表面抵抗は100〜1000Ω/□が好ましく、200〜1000Ω/□がより好ましく、250〜800Ω/□が最も好ましい。また導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より100Ω/□以上大きいのが好ましく、200Ω/□以上大きいのがより好ましく、300Ω/□以上大きいのが最も好ましい。
【0045】
誘電体30aの厚さは第一の電磁波吸収フィルム100aと第二の電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1を決め、誘電体30bの厚さは第二の電磁波吸収フィルム100aと電磁波反射体200との間隔D2を決める。間隔D1/間隔D2の比は100:30〜100:70であるのが好ましい。上記条件(a) 及び(b) を満たすとともに、間隔D1/間隔D2の比がこの範囲内である場合に、最も高い電磁波吸収能が得られる。間隔D1/間隔D2の比は100:40〜100:60がより好ましく、100:45〜100:55が最も好ましく、理想的には100:50である。
【0046】
第一及び第二の電磁波吸収フィルムには、導電体層の側又はその反対側に線状痕が形成されていても良い。図15に示すように線状痕12が電磁波吸収フィルム110a,110bの導電体層11a,11bの側に形成されている場合、及び図16に示すように線状痕12が電磁波吸収フィルム120a,120bのプラスチック面に形成されている場合のいずれも、上記条件(a) 及び(b) を満たす必要があり、かつ間隔D1/間隔D2の比は上記範囲内であるのが好ましい。線状痕が形成されている場合も、導電体層11a及び11bの表面抵抗は100〜1000Ω/□が好ましく、200〜1000Ω/□がより好ましく、250〜800Ω/□が最も好ましく、また導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より100Ω/□以上大きいのが好ましく、200Ω/□以上大きいのがより好ましく、300Ω/□以上大きいのが最も好ましい。
【0047】
図15に示す場合、線状痕12により電磁波吸収フィルム110a,110bの導電体層11a,11bの表面抵抗を調整でき、かつ線状痕12のギャップで電磁波が減衰するという利点が得られる。また図16に示す場合、電磁波吸収フィルム120a,120bの導電体層11a,11bの透明性が線状痕12により影響されないという利点が得られる。図15及び図16のいずれの場合も、図17に示すように第一の電磁波吸収フィルム110a(120a)/誘電体30a/第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)/誘電体30b/電磁波反射体200の層構成を有する。
【0048】
図18(a) 及び図18(b) は電磁波吸収体を構成する2枚の電磁波吸収フィルムの線状痕の組合せ例を示す。2枚の電磁波吸収フィルム110a(120a),110b(120b)の線状痕の配向及び交差角θsを吸収すべき周波数に応じて変えることにより、電磁波吸収能の異方性が低減し、優れた電磁波吸収能が得られる。例えば、線状痕の交差角θsが60°だと電界吸収能に優れた電磁波吸収フィルムが得られ、線状痕の交差角θsが90°だと磁界吸収能に優れた電磁波吸収フィルムが得られる。従って、例えば線状痕の交差角θsが60°の第一の電磁波吸収フィルム110a(120a)と線状痕の交差角θsが90°の第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)とを組合せてなる図18(c) の電磁波吸収体は、電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。
【0049】
(2) 電磁波吸収体の別の例
図19及び図20に示す電磁波吸収体は、電磁波反射体200の前に3枚の電磁波吸収フィルム100a,100b,100cを誘電体30a,30b,30cを介して積層してなる。この電磁波吸収体は、第一の電磁波吸収フィルム100a/誘電体30a/第二の電磁波吸収フィルム100b/誘電体30b/第三の電磁波吸収フィルム100c/誘電体30c/電磁波反射体200の層構成を有する。各電磁波吸収フィルム100a,100b,100cの導電体層11a,11b,11cは全てプラスチックフィルム10の同じ側にあっても反対側にあっても良い。本発明では、(a) 第一〜第三の電磁波吸収フィルム100a,100b,100cの導電体層11a,11b,11cの表面抵抗は50〜1500Ω/□の範囲内にあり、かつ(b) 導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より50Ω/□以上大きい必要がある。条件(a) 及び(b) を同時に満たさないと、高い電磁波吸収能を有さない。各導電体層11a,11b,11cの表面抵抗は100〜1000Ω/□が好ましく、200〜1000Ω/□がより好ましく、250〜800Ω/□が最も好ましい。また導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より100Ω/□以上大きいのが好ましく、200Ω/□以上大きいのがより好ましく、300Ω/□以上大きいのが最も好ましい。さらに導電体層11cの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より50Ω/□以上大きいのが好ましく、100Ω/□以上大きいのがより好ましく、200Ω/□以上大きいのが最も好ましく、300Ω/□以上大きいのが特に好ましい。導電体層11cの表面抵抗は導電体層11aの表面抵抗と同じで良い。
【0050】
誘電体30aの厚さは第一の電磁波吸収フィルム100aと第二の電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1を決め、誘電体30bの厚さは第二の電磁波吸収フィルム100aと第三の電磁波吸収フィルム100cとの間隔D2を決め、誘電体30cの厚さは第三の電磁波吸収フィルム100cと電磁波反射体200との間隔D3を決める。間隔D1/間隔D2の比は100:30〜100:70であるのが好ましく、間隔D3/間隔D2の比も100:30〜100:70であるのが好ましい。上記条件(a) 及び(b) を満たすとともに、間隔D1/間隔D2の比、及び間隔D3/間隔D2の比がこれらの範囲内である場合に、最も高い電磁波吸収能が得られる。間隔D1/間隔D2の比は100:40〜100:60がより好ましく、100:45〜100:55が最も好ましく、理想的には100:50である。間隔D3/間隔D2の比も100:40〜100:60がより好ましく、100:45〜100:55が最も好ましく、理想的には100:50である。間隔D1と間隔D3は同じで良い。
【0051】
第一〜第三の電磁波吸収フィルムには、導電体層の側又はその反対側に線状痕が形成されていても良い。図21に示すように線状痕12が電磁波吸収フィルム110a,110b,110cの導電体層11a,11b,11cの側に形成されている場合、及び図22に示すように線状痕12が電磁波吸収フィルム120a,120b,120cのプラスチック面に形成されている場合のいずれも、上記条件(a) 及び(b) を満たす必要があり、かつ間隔D1/間隔D2の比及び間隔D3/間隔D2の比は上記範囲内であるのが好ましい。図21に示す場合、線状痕12により電磁波吸収フィルム110a,110b,110cの導電体層11a,11b,11cの表面抵抗を調整でき、かつ線状痕12のギャップで電磁波が減衰するという利点が得られる。また図22に示す場合、電磁波吸収フィルム120a,120bの導電体層11a,11b,11cの透明性が線状痕12により影響されないという利点が得られる。図21及び図22のいずれの場合も、図23に示すように第一の電磁波吸収フィルム110a(120a)/誘電体30a/第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)/誘電体30b/第三の電磁波吸収フィルム110c(120c)/誘電体30c/電磁波反射体200の層構成を有する。
【0052】
線状痕12が形成されている場合も、各導電体層11a,11b,11cの表面抵抗は100〜1000Ω/□が好ましく、200〜1000Ω/□がより好ましく、250〜800Ω/□が最も好ましく、また導電体層11aの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より50Ω/□以上大きく、100Ω/□以上大きいのが好ましく、200Ω/□以上大きいのがより好ましく、300Ω/□以上大きいのが最も好ましい。さらに導電体層11cの表面抵抗は導電体層11bの表面抵抗より50Ω/□以上大きいのが好ましく、100Ω/□以上大きいのがより好ましく、200Ω/□以上大きいのが最も好ましく、300Ω/□以上大きいのが特に好ましい。導電体層11cの表面抵抗は導電体層11aの表面抵抗と同じで良い。
【0053】
図24(a)〜図24(f) は電磁波吸収体を構成する3枚の電磁波吸収フィルムの線状痕の組合せ例を示す。3枚の電磁波吸収フィルム110a(120a),110b(120b),110c(120c)の線状痕の交差角θsを吸収すべき周波数に応じて変えることにより、優れた電磁波吸収能が得られる。
【0054】
図24(a) に示す例では、第一及び第三の電磁波吸収フィルム110a(120a),110c(120c)における線状痕の交差角θsは60°であり、第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)における線状痕の交差角θsは90°である。線状痕の交差角θsが60°だと電界吸収能に優れた電磁波吸収フィルムが得られ、線状痕の交差角θsが90°だと磁界吸収能に優れた電磁波吸収フィルムが得られるので、図24(a) の電磁波吸収体は、電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。図24(b) に示す例では逆に、第一及び第三の電磁波吸収フィルム110a(120a),110c(120c)における線状痕の交差角θsは90°であり、第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)における線状痕の交差角θsは60°である。この例の電磁波吸収体も電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。
【0055】
図24(c) に示す例では、第一〜第三の電磁波吸収フィルム110a(120a),110b(120b),110c(120c)における線状痕の交差角θsは全て90°である。この場合、第一及び第三の電磁波吸収フィルム110a(120a),110c(120c)における線状痕と第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)における線状痕とは45°で交差しているのが好ましい。この例の電磁波吸収体は優れた磁界吸収能を有する。
【0056】
図24(d) に示す例では、第一〜第三の電磁波吸収フィルム110a(120a),110b(120b),110c(120c)における線状痕の交差角θsは全て60°である。この場合、第一及び第三の電磁波吸収フィルム110a(120a),110c(120c)における線状痕の方向と第二の電磁波吸収フィルム110b(120b)における線状痕の方向とは直交しているのが好ましい。この例の電磁波吸収体は優れた電界吸収能を有する。
【0057】
図24(e) 及び図24(f) に示す例では、線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムと線状痕の交差角θsが45°の電磁波吸収フィルムとの組合せである。線状痕の交差角θsが60°の電磁波吸収フィルムの代わりに線状痕の交差角θsが45°の電磁波吸収フィルムを用いても、良好な電界吸収能及び磁界吸収能を有する電磁波吸収体が得られる。
【0058】
例示の電磁波吸収フィルム110a(120a),110b(120b),110c(120c)の線状痕交差角θsは45°,60°及び90°であったが、本発明は勿論これらに限定されず、30〜90°以内の他の交差角θsも使用可能である。研究の結果、交差角θsは360/偶数であるのが好ましいことが分った。従って、30°,36°,45°,60°及び90°が好ましい。ここで、交差角θsには製造誤差があるので、一般に目標値の±5°以内、好ましくは±3°以内であれば良い。例えば交差角θsが60°の場合、55〜65°の範囲内であれば良い。また交差角θsが90°の場合、85〜90°の範囲内であれば良い。三層の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合、外側の電磁波吸収フィルムの線状痕交差角θsは60°又は90°であるのが好ましい。
【0059】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0060】
実施例1
図13に示す電磁波吸収体の試験片TP(32 cm×52 cm)を、厚さ120μmのPETフィルム10aに厚さ10 nmのNi薄膜11aを形成してなる電磁波吸収フィルム100a(表面抵抗:785Ω)と、厚さ120μmのPETフィルム10bに厚さ15 nmのNi薄膜11bを形成してなる電磁波吸収フィルム100b(表面抵抗:283Ω)と、厚さ2 mmのアルミニウム板200により構成した。電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1は20 mmであり、電磁波吸収フィルム100bとアルミニウム板200との間隔D2は10 mmであった。
【0061】
この試験片TPの電磁波吸収能を図25に示す装置を用いて評価した。この装置は、厚さ2 cmの誘電体ホルダ62と、ホルダ62から100 cm離れた送信アンテナ63a及び受信アンテナ63bと、アンテナ63a,63bに接続したネットワークアナライザ64とを有する。まずホルダ62の前面(アンテナ側)にアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)を固定し、アンテナ63aから10°から60°まで10°間隔で入射角度θiを変えながら、1〜5.5 GHzの周波数の電磁波(円偏波)を0.25 GHzの周波数間隔で照射し、アンテナ63bで反射波を受信し、ネットワークアナライザ64により反射電力を測定した。次にアルミニウム板の代わりに試験片TPをホルダ62の前面に固定し、上記と同様にして反射電力を測定した。アルミニウム板を用いて測定した反射電力が入射電力と等しいと仮定し、反射係数(反射電力/入射電力)RCを求め、RL(dB)=20 log(1/RC)により反射減衰量(リターンロス)RL(dB)を求めた。各入射角度θiにおける反射減衰量は周波数に応じて変化するので、反射減衰量が最大となるときの周波数(ピーク周波数)で得られた電磁波吸収率をピーク吸収率とした。
【0062】
測定したピーク吸収率及びピーク周波数をそれぞれ図26に示す。図26から明らかなように、10〜60°の入射角度範囲でTE波のピーク吸収率は約13〜38 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約11〜49 dBであった。この結果から、前面側に高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム100aを配置し、後面側に低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム100bを配置し、D1/D2の比を2/1とした電磁波吸収体は高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0063】
実施例2
実施例1で用いた電磁波吸収フィルム100aに対して、粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール32a,32bを有する図12に示す構造の装置を用い、プラスチック面(Ni薄膜11aが形成されていない面)に交差角が90°の二方向の線状痕を形成した。また実施例1で用いた電磁波吸収フィルム100bに対して、粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図8(a) に示す構造の装置を用い、プラスチック面(Ni薄膜11bが形成されていない面)に交差角が60°の二方向の線状痕を形成した。得られた線状痕付き電磁波吸収フィルム120a,120bにおける線状痕の特性は下記の通りであった。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
横手方向間隔Iの範囲:2〜30μm
平均横手方向間隔Iav:10μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°及び60°
【0064】
これらの線状痕付きの電磁波吸収フィルム120a,120bを使用した以外実施例1と同様にして図16に示す電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でそのピーク吸収率及びピーク周波数を測定した。結果を図27に示す。図27から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約15〜54 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜36 dBであった。また、この入射角度範囲でTE波のピーク吸収率は全体的に実施例1より高かった。この結果から、高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム120aが前面側で、低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム120bが後面側であり、D1/D2の比が2/1であり、各電磁波吸収フィルム120a,120bのプラスチック面側に二方向の線状痕を有する電磁波吸収体は、線状痕を形成していない実施例1の電磁波吸収体より高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0065】
実施例3
実施例1と別に厚さ120μmのPETフィルム10a上に形成した厚さ10 nmのNi薄膜11aは500Ωの表面抵抗を有していた。この電磁波吸収フィルム100aを前面側に用いた以外実施例1と同様にして、電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図28に示す。図28から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約14〜37 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜36 dBであった。この結果から、前面側に高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム100aを配置し、後面側に低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム100bを配置し、D1/D2の比を2/1とした電磁波吸収体は高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0066】
実施例4
実施例3で用いた電磁波吸収フィルム100aのプラスチック面(Ni薄膜11aが形成されていない面)に、実施例2と同様にして交差角が90°の二方向の線状痕を形成した。また実施例3で用いた電磁波吸収フィルム100bのプラスチック面(Ni薄膜11bが形成されていない面)に、実施例2と同様にして交差角が60°の二方向の線状痕を形成した。これらの線状痕付きの電磁波吸収フィルム120a,120bを使用した以外実施例1と同様にして図16に示す電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でそのピーク吸収率及びピーク周波数を測定した。結果を図29に示す。図29から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約15〜55 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜34 dBであった。また、この入射角度範囲でTE波のピーク吸収率は全体的に実施例3より高かった。この結果から、高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム120aが前面側で、低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム120bが後面側であり、D1/D2の比が2/1であり、各電磁波吸収フィルム120a,120bのプラスチック面側に二方向の線状痕を有する電磁波吸収体は、線状痕を形成していない実施例3の電磁波吸収体より高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0067】
実施例5
実施例1と別に厚さ120μmのPETフィルム10b上に形成した厚さ10 nmのNi薄膜11bは300Ωの表面抵抗を有していた。この電磁波吸収フィルム100bを後面側に用いた以外実施例1と同様に電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図30に示す。図30から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約14〜46 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜42 dBであった。この結果から、前面側に高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム100aを配置し、後面側に低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム100bを配置し、D1/D2の比を2/1とした電磁波吸収体は高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0068】
実施例6
電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1を10 mmとし、電磁波吸収フィルム100bとアルミニウム板200との間隔D2を20 mmとし、D1/D2の比を1/2とした以外実施例5と同様に電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図31に示す。図31から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約8〜15 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約15〜32 dBであった。この入射角度範囲でTE波及びTM波のピーク吸収率は全体的に実施例5より低かった。この結果から、D1/D2の比が2/1から1/2になると、電磁波吸収体の電磁波吸収能は比較的低下することが分かった。これから、前面側の電磁波吸収フィルム100aが後面側の電磁波吸収フィルム100bより高抵抗の場合に、電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1が電磁波吸収フィルム100bと反射板200との間隔D2より大きい方が電磁波吸収体の電磁波吸収能が高いことが分かる。
【0069】
実施例7
電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1を15 mmとし、電磁波吸収フィルム100bとアルミニウム板200との間隔D2を15 mmとし、D1/D2の比を1/1とした以外実施例5と同様に電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図32に示す。図32から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約16〜20 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約20〜34 dBであった。この結果から、D1/D2の比が2/1から1/1になると、電磁波吸収体の電磁波吸収能は比較的低下することが分かった。しかし、電磁波吸収能の低下の程度はD1/D2の比が1/2になった実施例6より小さかった。
【0070】
比較例1
表面抵抗が300Ωの電磁波吸収フィルムを前面側の電磁波吸収フィルム100aとし、表面抵抗が785Ωの電磁波吸収フィルムを後面側の電磁波吸収フィルム100bとした以外実施例5と同様に電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図33に示す。図33から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約10〜17 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜52 dBであった。この結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aを後面側の電磁波吸収フィルム100bより低抵抗にすると、電磁波吸収体の電磁波吸収能は不十分なレベルまで低下することが分かる。
【0071】
比較例2
電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1を10 mmとし、電磁波吸収フィルム100bとアルミニウム板200との間隔D2を20 mmとし、D1/D2の比を1/2とした以外比較例1と同様に電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図34に示す。図34から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約8〜12 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜50 dBであった。この結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aが後面側の電磁波吸収フィルム100bより低抵抗の場合に、D1/D2の比が2/1から1/2になると、電磁波吸収体の電磁波吸収能はさらに低下することが分かった。
【0072】
比較例3
電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1を15 mmとし、電磁波吸収フィルム100bとアルミニウム板200との間隔D2を15 mmとし、D1/D2の比を1/1とした以外比較例1と同様に電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図35に示す。図35から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約7〜14 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約16〜32 dBであった。この結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aが後面側の電磁波吸収フィルム100bより低抵抗の場合に、D1/D2の比が2/1から1/1になると、電磁波吸収体の電磁波吸収能はさらに低下することが分かった。しかし、電磁波吸収能の低下の程度はD1/D2の比が1/2になった比較例2より小さかった。
【0073】
実施例8
表面抵抗が785Ωの電磁波吸収フィルム100aのプラスチック面に対して実施例2と同様にして交差角が60°の二方向の線状痕を形成した。また表面抵抗が300Ωの電磁波吸収フィルム100bのプラスチック面に対して実施例2と同様にして交差角が90°の二方向の線状痕を形成した。これらの線状痕付きの電磁波吸収フィルム120a,120bを使用した以外実施例5と同様にして図16に示す電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でそのピーク吸収率及びピーク周波数を測定した。結果を図36に示す。図36から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜22 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約15〜42 dBであった。この入射角度範囲でTE波及びTM波のピーク吸収率の異方性は実施例5より小さかった。この結果から、高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム120aが前面側で、低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム120bが後面側であり、D1/D2の比が2/1であり、各電磁波吸収フィルム120a,120bのプラスチック面側に二方向の線状痕を有する電磁波吸収体は、小さい異方性で高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0074】
実施例9
D1を4 mmとし、D2を2 mmとした以外実施例8と同じ電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲で5.8 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図37に示す。図37から明らかなように、TE波の電磁波吸収率は約12〜52 dBであり、またTM波の電磁波吸収率は約4〜25 dBであった。この結果から、D1及びD2が小さくても、高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム120aが前面側で、低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム120bが後面側であり、D1/D2の比が2/1であり、各電磁波吸収フィルム120a,120bのプラスチック面側に二方向の線状痕を有する電磁波吸収体は、高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0075】
実施例10
実施例2と同じ方法により表面抵抗が300Ωの電磁波吸収フィルムのプラスチック面に交差角が45°の二方向の線状痕を形成し、電磁波吸収フィルム120bを作製した。交差角が90°の二方向の線状痕を形成した表面抵抗が785Ωの電磁波吸収フィルム120aと上記電磁波吸収フィルム120bとを組合せた以外実施例9と同じ構造の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲で5.8 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図38に示す。図38から明らかなように、TE波の電磁波吸収率は約16〜37 dBであり、またTM波の電磁波吸収率は約4〜28 dBであった。この結果から、一方の電磁波吸収フィルムの線状痕の交差角が45°で、D1及びD2が小さくても、高抵抗のNi薄膜11aを有する電磁波吸収フィルム120aが前面側で、低抵抗のNi薄膜11bを有する電磁波吸収フィルム120bが後面側であり、D1/D2の比が2/1であり、各電磁波吸収フィルム120a,120bのプラスチック面側に二方向の線状痕を有する電磁波吸収体は、高い電磁波吸収能を有することが分かった。
【0076】
実施例11
電磁波吸収フィルム120aと電磁波吸収フィルム120bとの間隔D1を10 mmとし、電磁波吸収フィルム120bとアルミニウム板200との間隔D2を20 mmとし、D1/D2の比を1/2とした以外実施例8と同様にして、図16に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図39に示す。図39から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約8〜16 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約17〜28 dBであった。この結果から、D1/D2の比が2/1から1/2になると、電磁波吸収体の電磁波吸収能は比較的低下することが分かった。これから、前面側の電磁波吸収フィルム120aが後面側の電磁波吸収フィルム120bより高抵抗の場合に、電磁波吸収フィルム120aと電磁波吸収フィルム120bとの間隔D1が電磁波吸収フィルム120bと反射板200との間隔D2より大きい方が電磁波吸収体の電磁波吸収能が高いことが分かる。
【0077】
実施例12
電磁波吸収フィルム120aと電磁波吸収フィルム120bとの間隔D1を15 mmとし、電磁波吸収フィルム120bとアルミニウム板200との間隔D2を15 mmとし、D1/D2の比を1/1とした以外実施例8と同様にして、図16に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図40に示す。図40から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜22 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約15〜42 dBであった。この結果から、D1/D2の比が2/1から1/1になると、電磁波吸収体の電磁波吸収能は比較的低下することが分かった。しかし、電磁波吸収能の低下の程度はD1/D2の比が1/2になった実施例11より小さかった。
【0078】
比較例4
電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗を300Ωとし、電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗を785Ωとした以外実施例8と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図41に示す。図41から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約11〜18 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約15〜36 dBであった。この結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が後面側の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より小さいと、線状痕を形成しても十分に高い電磁波吸収能が得られないことが分かる。
【0079】
実施例13
実施例1の電磁波吸収体の電磁波吸収フィルム100bとアルミニウム板200との間に電磁波吸収フィルム100aと同じ電磁波吸収フィルム100cを配置し、電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bとの間隔D1と、電磁波吸収フィルム100bと電磁波吸収フィルム100cとの間隔D2と、電磁波吸収フィルム100cとアルミニウム板200との間隔D3をそれぞれ20 mm、10 mm、及び20 mmとし、D1/D2/D3を2/1/2として、図19に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図42に示す。図42から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜28 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約26〜36 dBであった。また、この入射角度範囲でTM波のピーク吸収率は全体的に高かった。この結果から、三枚の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合でも、最前の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が二枚目の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より大きければ、優れた電磁波吸収能を示すことが分かる。またD1/D2の比を2/1とし、D3/D2の比を2/1とするのは、高い電磁波吸収能を得るのに好ましいことも分かる。
【0080】
実施例14
間隔D1、D2及びD3をそれぞれ10 mm、10 mm及び30 mmとし、D1/D2/D3の比を1/1/3とした以外実施例13と同様にして、図19に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図43に示す。図43から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜28 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約26〜36 dBであった。この結果から、三枚の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合でも、最前の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が二枚目の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より大きければ、優れた電磁波吸収能を示すことが分かる。
【0081】
比較例5
電磁波吸収フィルム100a、電磁波吸収フィルム100b、及び電磁波吸収フィルム100cの表面抵抗をそれぞれ283Ω、785Ω及び283Ωとした以外実施例13と同様にして、図19に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図44に示す。図44から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約8〜15 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約15〜27 dBであった。この結果から、三枚の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合でも、最前の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が二枚目の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より小さければ、十分に高い電磁波吸収能が得られないことが分かる。
【0082】
実施例15
電磁波吸収フィルム100a、電磁波吸収フィルム100b、及び電磁波吸収フィルム100cのプラスチック面にそれぞれ交差角が60°,90°及び60°の二方向の線状痕を形成した以外実施例13と同様にして、図22に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図45に示す。図45から明らかなように、TE波のピーク吸収率は12〜32 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約22〜52 dBであった。この入射角度範囲でTM波のピーク吸収率は全体的に高かった。この結果から、三枚の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合でも、最前の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が二枚目の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より大きければ、優れた電磁波吸収能を示すことが分かる。またD1/D2の比を2/1とし、D3/D2の比を2/1とするのは、高い電磁波吸収能を得るのに好ましいことも分かる。
【0083】
実施例16
間隔D1、D2及びD3をそれぞれ20 mm、20 mm及び20 mmとし、D1/D2/D3の比を1/1/1とした以外実施例15と同様にして、図22に示す電磁波吸収体を作製した。10°〜60°の入射角度範囲で、この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図46に示す。図46から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜43 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約16〜39 dBであった。この結果から、三枚の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合でも、最前の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が二枚目の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より大きければ、優れた電磁波吸収能を示すことが分かる。ただし、D1/D2の比が2/1で、D3/D2の比が2/1の実施例15より電磁波吸収能は劣っていた。
【0084】
比較例6
電磁波吸収フィルム120a、電磁波吸収フィルム120b、及び電磁波吸収フィルム120cの表面抵抗をそれぞれ283Ω、785Ω及び283Ωとした以外実施例15と同様に図22に示す電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図47に示す。図47から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約8〜17 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約17〜25 dBであった。この結果から、線状痕を有する三枚の電磁波吸収フィルムを有する電磁波吸収体の場合でも、最前の電磁波吸収フィルム120aの表面抵抗が二枚目の電磁波吸収フィルム120bの表面抵抗より小さければ、十分に高い電磁波吸収能が得られないことが分かる。
【0085】
実施例17
電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗を228Ωとし、電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗を137Ω(Ni薄膜の厚さ20 nm)とした以外実施例1と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図48に示す。図48から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約10〜38 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約15〜45 dBであった。また10°〜60°の入射角度範囲で2.5 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図49に示す。図49から明らかなように、TE波の吸収率は約7〜16 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約5〜23 dBであった。これらの結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が後面側の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より50Ω以上大きいと、十分に高い電磁波吸収能が得られることが分かる。
【0086】
比較例7
電磁波吸収フィルム100aと電磁波吸収フィルム100bの配置順序を逆にした以外実施例17と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図50に示す。図50から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約6〜8 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約8〜22 dBであった。また10°〜60°の入射角度範囲で2.5 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図51に示す。図51から明らかなように、TE波の吸収率は約5.5〜7.5 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約7.5〜11.5 dBであった。これらの結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が後面側の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より小さいと、十分に高い電磁波吸収能が得られないことが分かる。
【0087】
実施例18
電磁波吸収フィルムの表面抵抗を500Ωとし、電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗を300Ωとした以外実施例1と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲で2.5 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図52に示す。図52から明らかなように、TE波の吸収率は約12〜27 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約4〜25 dBであった。これらの結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が後面側の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より大きいと、2.5 GHzにおいて十分に高い電磁波吸収能が得られることが分かる。
【0088】
実施例19
電磁波吸収フィルム100aのプラスチック面に交差角が60°の二方向の線状痕を形成し、電磁波吸収フィルム100bのプラスチック面に交差角が90°の二方向の線状痕を形成した以外実施例18と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲で5.8 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図53に示す。図53から明らかなように、TE波の電磁波吸収率は約17〜53 dBであり、またTM波の電磁波吸収率は約4〜26 dBであった。この結果から、前面側の電磁波吸収フィルム100aの表面抵抗が後面側の電磁波吸収フィルム100bの表面抵抗より大きいと、線状痕を形成した場合でも、5.8 GHzにおいて十分に高い電磁波吸収能が得られることが分かる。
【0089】
実施例20
図6(a) に示すように、785Ωの表面抵抗を有する2枚の電磁波吸収フィルム片100a’と283Ωの表面抵抗を有する1枚の電磁波吸収フィルム片100b’とを隙間なく並べて、443Ωの平均表面抵抗を有する複合電磁波吸収フィルム130aを作製した。同様に、283Ωの表面抵抗を有する2枚の電磁波吸収フィルム片100a’と783Ωの表面抵抗を有する1枚の電磁波吸収フィルム片100b’とを隙間なく並べて、367Ωの平均表面抵抗を有する複合電磁波吸収フィルム130bを作製した。これらの複合電磁波吸収フィルム130a,130bを用いた以外実施例1と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲で2.5 GHzにおける電磁波吸収率を測定した。結果を図54に示す。図54から明らかなように、TE波の電磁波吸収率は約12〜33 dBであり、またTM波の電磁波吸収率は約3〜19 dBであった。また10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図55に示す。図55から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約16〜40 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約11〜22 dBであった。これらの結果から、複数枚の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルムを使用しても、前面側の複合電磁波吸収フィルム130aの表面抵抗が後面側の複合電磁波吸収フィルム130bの表面抵抗より大きいと、十分に高い電磁波吸収能が得られることが分かる。
【0090】
実施例21
図6(a) に示すように、300Ωの表面抵抗を有する2枚の電磁波吸収フィルム片100a’と500Ωの表面抵抗を有する1枚の電磁波吸収フィルム片100b’とを隙間なく並べて、331Ωの平均表面抵抗を有する複合電磁波吸収フィルム130bを作製した。実施例20で作製した443Ωの平均表面抵抗を有する複合電磁波吸収フィルム130aを、331Ωの平均表面抵抗を有する上記複合電磁波吸収フィルム130bと組合せた以外実施例20と同じ構成の電磁波吸収体を作製し、10°〜60°の入射角度範囲でピーク吸収率及びピーク周波数を実施例1と同様に測定した。結果を図56に示す。図56から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約16〜41 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜21 dBであった。実施例20のピーク吸収率と比較すると、実施例21のピーク吸収率の方が僅かに高かった。これらの結果から、前面側の複合電磁波吸収フィルム130aの表面抵抗が後面側の複合電磁波吸収フィルム130bの表面抵抗より100Ω以上大きいと、さらに高い電磁波吸収能が得られることが分かる。
【0091】
実施例及び比較例の電磁波吸収体の構成を下記の表1に纏めて示す。
【表1】

【0092】
表1(続き)

【0093】
以上本発明を図面を参照して詳細に説明したが、勿論本発明はそれらに限定されず、本発明の範囲内で種々の変更を施すことができる。例えば、線状痕のない電磁波吸収フィルム同士、又は線状痕を有する電磁波吸収フィルム同士の組合せだけでなく、線状痕のない電磁波吸収フィルムと線状痕を有する電磁波吸収フィルムとを組合せるのも本発明の範囲内である。
【符号の説明】
【0094】
100・・・電磁波吸収フィルム
100a,100b,100c・・・線状痕のない電磁波吸収フィルム
110a,110b,110c・・・導電体層に線状痕を有する電磁波吸収フィルム
120a,120b,120c・・・プラスチック面に線状痕を有する電磁波吸収フィルム
130・・・線状痕のない複数の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルム
140,150・・・線状痕を有する複数の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルム
10,10a,10b,10c・・・プラスチックフィルム
11,11a,11b,11c・・・導電体層(金属薄膜)
12,12a,12b,12c,12d・・・線状痕
13a,13b・・・保護層
2a,2b,2c,2d・・・パターンロール
3a,3b,3c,3d,3e・・・押えロール
30a,30b,30c・・・誘電体
200・・・反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波反射体の前に複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層してなる電磁波吸収体であって、各電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に導電体層を形成してなり、各電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有し、かつ最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗はその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より50Ω/□以上大きいことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波吸収体において、第一の電磁波吸収フィルム/誘電体/第二の電磁波吸収フィルム/誘電体/電磁波反射体の層構成を有し、前記第一の電磁波吸収フィルムの導電体層は前記第二の電磁波吸収フィルムの導電体層より50Ω/□以上大きな表面抵抗を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁波吸収体において、前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔は前記第二の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔より大きいことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁波吸収体において、前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔と前記第二の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔との比が100:30〜100:70であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項5】
請求項1に記載の電磁波吸収体において、第一の電磁波吸収フィルム/誘電体/第二の電磁波吸収フィルム/誘電体/第三の電磁波吸収フィルム/誘電体/電磁波反射体の層構成を有し、前記第一〜第三の電磁波吸収フィルムの導電体層は50〜1500Ω/□の表面抵抗を有し、前記第一の電磁波吸収フィルムの導電体層は前記第二の電磁波吸収フィルムの導電体層より50Ω/□以上大きな表面抵抗を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項6】
請求項5に記載の電磁波吸収体において、前記第三の電磁波吸収フィルムの導電体層は前記第二の電磁波吸収フィルムの導電体層より50Ω/□以上大きな表面抵抗を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の電磁波吸収体において、前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔は、前記第二及び第三の電磁波吸収フィルムの間隔及び前記第三の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔より大きいことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項8】
請求項7に記載の電磁波吸収体において、前記第一及び第二の電磁波吸収フィルムの間隔と前記第二及び第三の電磁波吸収フィルムの間隔との比が100:30〜100:70であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項9】
請求項7に記載の電磁波吸収体において、前記第三の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔と前記第二及び第三の電磁波吸収フィルムの間隔との比は100:30〜100:70であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項10】
請求項1に記載の電磁波吸収体において、少なくとも一つの電磁波吸収フィルムが異なる表面抵抗を有する複数の電磁波吸収フィルム片からなることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項11】
請求項1に記載の電磁波吸収体において、前記導電体層が導電性金属又は透明導電性金属酸化物の薄膜であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収フィルムの導電体層側又はプラスチックフィルム側に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕が複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項13】
請求項12に記載の電磁波吸収体において、各電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項14】
請求項13に記載の電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする電磁波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図8(c)】
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【図8(d)】
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【図8(e)】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18(a)】
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【図18(b)】
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【図18(c)】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24(a)】
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【図24(b)】
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【図24(c)】
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【図24(d)】
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【図24(e)】
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【図24(f)】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【公開番号】特開2012−124291(P2012−124291A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273039(P2010−273039)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】