説明

電磁波抑制部材及び半導体デバイス

【課題】高い光透過性を有しながらも、電磁波の入射角度に依存することなく、広い周波数帯域の電磁波を吸収することが可能な電磁波抑制部材を提供する。
【解決手段】電磁波抑制部材1を、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料2と、この電磁波抑制材料2を封止する封止材3a〜3cとを有し、これら電磁波抑制材料2と封止材3a〜3cとによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体4が形成される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収性の電磁波抑制部材と、この電磁波抑制部材を有する半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等から発生する電磁波、ならびにその不要輻射が問題となっている。特に近年では、高周波数の電磁波利用が増加しており、これに伴って、電磁波ノイズ(干渉)による機器の誤作動や脳・人体への悪影響といった被害や障害等が、新たな環境問題として提起されている。
【0003】
例えば、免許不要で無線通信が利用可能な周波数帯の1つである2.45GHz帯に注目してみると、無線LAN(IEEE802.11bほか)、Bluetooth、ISM(Industrial, Scientific and Medical)などの規格に対応する機器において、既に数多くの周波数の電磁波が利用されている。さらには、情報機器のクロック周波数の高速化・デジタル化に伴って、この帯域における新たな高調波の利用も進められている。
これらの事情により、潜在的に電磁波発生源とも干渉被害側ともなりうる規格や電子機器等の、数や多様性が指数関数的に増加していることから、干渉の起こるリスクも天文学的に増加している。
【0004】
このような電磁干渉(EMI: Electromagnetic Interference)の問題に対処するためには、個々の機器において、他の機器の正常な作動を妨害するような不要な電磁波の放射(エミッション)を抑制することや、外部から侵入する電磁波に対する耐力(イミュニティ)を向上させることによって、相互の影響を充分に低減ないし回避できる構成とすることが要求される。
このような考え方は、電磁気的両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility)と称され、電磁環境下において電子機器がこの電磁両立性を確立するために、様々な規格が定められている。
【0005】
例えば、回路設計におけるEMC対策を進める際、電子機器から発生する電磁妨害波を低減させ、また、電子機器に電磁妨害波が侵入するのを防ぐための回路素子として、主に妨害抑圧素子が用いられる。
このような妨害抑制素子は、希望の信号が素子を通過する際には損失が小さく、妨害波に対しては大きな反射損失や通過損失を持つように設計され、ほとんどの電子回路に適切な方法で組み合わされて使用されている。
妨害抑制素子には、インダクタ素子やコンデンサ素子、コイルを組み合わせたLCフィルタやバリスタなど様々なものがある。
【0006】
しかしながら、回路素子との組み合わせによる特定の共振周波数により、電圧や電流波形が振動してしまい、希望の信号波形が大きく歪むことがある。さらには、GHz帯の電磁波の波長は、電子回路の回路長にも近いことから、回路自体が電磁波に対するアンテナとして作用するため誤作動を引き起こす可能性も生じる。
したがって、回路設計によるのみで、電磁環境下における充分なEMC対策を進めることは困難とされてきた。
回路設計では補うことのできないEMC問題は、実装設計に提起され、近年、その解決策として、磁性粉末を樹脂と混合してシート化した電磁波抑制体(電磁波吸収体)を用いる手法が注目されている。
【0007】
このような電磁波抑制体における電磁波吸収の原理は、入射した電磁波エネルギーのほとんどを電磁波抑制体の内部で熱エネルギーに変換するというものである。したがって、このような電磁波吸収体では、その前方に反射するエネルギーと後方へ透過するエネルギーの双方の低減が図られることになる。
なお、このような電磁波抑制体における電磁波の熱エネルギーへの変換量は、単位体積あたりの電磁波吸収エネルギーP[W/m3]として、電界E,磁界Hおよび周波数fを用いて〔数1〕のように表される。〔数1〕において、第1項,第2項,第3項は、それぞれ、導電損失,誘電損失,磁性損失を表しており、これらの3種類の損失により、電磁波の熱エネルギーへの変換量(電磁波吸収量)が規定される。
【0008】
【数1】

【0009】
このような電磁波抑制体(磁性シート)は、現在、主に電子機器に利用され、特にプリント回路基板上、フレキシブルプリント回路(FPC)上、または筐体裏面、及びパッケージ上面などに貼り付けて利用されている。そして、電子機器のほかにも、例えば、レーダー偽像防止対策として橋梁や建造物などへの応用、無線障害防止対策として建造物や室内などへの応用、更には、EMC用電波暗室の内壁などへの応用などがなされ、各分野にて盛んに利用されている。
【0010】
また、電磁波抑制を構成する材料も、フェライトや金属磁性粉末を樹脂と混合した磁性シートをはじめとして、カーボン系の材料を含有させたものなど、様々な種類のものが開発されている。
なお、この磁性シートの使い方は、主に2通りである。ひとつはアンテナ源から輻射された電磁波を吸収する使い方と、もうひとつは、アンテナ源に高調波ノイズ成分が乗ることを未然に抑制する高調波フィルタとしての使い方である。
【0011】
しかしながら、これらの材料による電磁波抑制体(磁性シート)は光透過性(透明性)が低いことから、例えば前述の建造物における窓などに用いて、透明部材による構造を通じて室内に飛来する電磁波の低減に寄与させることが難しい。
また、近年においては、テレビやパソコンなどのディスプレイ部分からの電磁波漏洩も懸念されており、このことからも、光透過性(透明性)を有する電磁波抑制体が求められている。
【0012】
これに対し、ITO(酸化インジュームすず)などの抵抗皮膜を用いた構成による、透明性を有する電磁波抑制体が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
この電磁波抑制体は、抵抗皮膜の膜厚変化によって表面抵抗率が変化する性質、すなわち、膜厚を大きくすると表面抵抗率が小さくなって電波反射能を発揮し、逆に膜厚を小さくすると表面抵抗率が大きくなって電波吸収能を発揮するという性質を利用したものである。
【特許文献1】特開2005-85966号公報
【特許文献2】特開2001-44750号公報
【特許文献3】特開2000-174545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような抵抗皮膜による電磁波抑制体は、電磁波抑制体を構成する抵抗皮膜のうち、所定の層の厚さを対象電磁波の波長(λ)の1/4に選定し、入射する電磁波と反射する電磁波とが互いに打ち消しあう構成とすることによって、全体として電磁波の吸収を図るものである。
したがって、特許文献1〜3に記載された構成による電磁波抑制体は、結果的に反射波を少なくすることはできるものの、材料そのものが電磁波を熱に変えるような、つまり前述した磁性シートにおけるような、〔数1〕で示される電磁波吸収効果を本質的に有するものではない。
【0014】
更に、この構成による電磁波抑制体は、吸収したい対象電磁波の波長が抵抗皮膜の所定の層の厚さに応じて一義的に限定されてしまう(広い周波数帯域の電磁波を吸収することが難しい)といった問題があることに加え、対象として選定した波長の電磁波に対しても、例えば電磁波が斜めに入射してきた場合には、抵抗皮膜の層厚が理論上の吸収電磁波の波長の1/4にならなくなってしまうため、電磁波吸収能が著しく低下してしまう。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、高い光透過性を有しながらも、電磁波の入射角度に依存することなく、広い周波数帯域の電磁波を吸収することが可能な電磁波抑制部材と、この電磁波抑制部材により構成される半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る電磁波抑制部材は、少なくとも、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料と、この電磁波抑制材料を封止する封止材とを有し、前記電磁波抑制材料と前記封止材とによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体が形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る半導体デバイスは、電磁波抑制部材を有する半導体デバイスであって、前記電磁波抑制部材が、少なくとも、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料と、この電磁波抑制材料を封止する封止材とを有し、前記電磁波抑制材料と前記封止材とによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電磁波抑制部材によれば、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料と、この電磁波抑制材料を封止する封止材とを有し、これら電磁波抑制材料と封止材とによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体が形成されることから、高い光透過性を有しながらも、電磁波の入射角度に依存することなく、広い周波数帯域の電磁波を吸収することが可能となる。
【0019】
本発明に係る半導体デバイスによれば、これを構成する電磁波抑制部材が、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料と、この電磁波抑制材料を封止する封止材とを有し、前記電磁波抑制材料と前記封止材とによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体が形成される構成を有することから、光を透過しながらも、不要な電磁波の抑制・吸収によって、電子機器の誤動作などの電波障害を低減ないし回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
高周波数帯域における従来の電磁波抑制材料としては磁性材料が主流であったが、これは前述の〔数1〕における第3項の透磁率μ’’が高くなるように、つまり磁性損失を重視したものである。
〔数1〕における第2項の誘電率ε’’が高い材料としては、一般的にチタン酸バリウムなどの固体の強誘電体が知られており、その名の通り高い誘電率を示すものの、共鳴現象の周波数帯が比較的低いために、MHz,GHz帯域の周波数における誘電率の分散特性をほとんど有しておらず、〔数1〕における誘電率ε’’も低い値となってしまう。
このため、現在までのところ、高周波数帯域における電磁波抑制材料としては、前述の磁性材料が主流となっていた。
【0021】
一方、本発明者らは、電気的極性を有する液状材料、すなわち極性を有する分子により構成される液体材料、または電解液のようなイオンを有する液状材料の誘電率に着目し、誘電損失を高めることによる電磁波吸収能の向上を検討した結果、電磁波吸収効率が高く光透過性をも有する電磁波抑制材料を見出した。
そして、この電磁波抑制材料が、光透過性を有する封止材にて封止された本発明構成により、本来光透過性が求められる箇所への応用として、例えば、テレビやパソコンなどのディスプレイ部分や、建造物の窓部分、更には電波暗室の窓における電磁波抑制も可能となる。
【0022】
すなわち、本発明者らは、MHz,GHz帯域の周波数において、材料そのものが電磁波吸収抑制効果を有し、多様な形状に柔軟に形成でき、かつ光透過性を有する電磁波抑制材料を見出し、この透明電磁波抑制材料により構成される電磁波抑制部材と、この電磁波抑制部材を有する半導体デバイスを提供するに至ったものである。
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1Aに、本実施形態に係る電磁波抑制部材の概略斜視図を示す。図1Bは、図1Aのx−y平面における、本実施形態に係る電磁波抑制部材の概略断面図である。
図1Aに示すように、本実施形態に係る電磁波抑制部材1は、少なくとも、高分子材料と電気的極性を有する液状材料とが混合されて構成されたゲル状材料による電磁波抑制材料2が、例えばガラスによる第1及び第2の封止材3a及び3bに挟持されている。
更に、第3の封止材3cが、第1及び第2の封止材3a及び3bの間に、電磁波抑制材料2を取り囲むように配置されることにより、第1及び第2の封止材3a及び3bに挟持されるのみでは露出面が残ってしまう電磁波抑制材料2が、外気と遮断されて密封封止された構成とされ、電磁波抑制部材1の主要部となる透明構造体4が形成される。
【0025】
本実施形態においては、単体でも電磁波吸収能を示す、電気的極性を有する液状材料により電磁波抑制材料2のゲル状材料が構成されるが、この液状材料としては、分子液体材料や電解液を用いることができる。
一般に、分子量が大きい液体や分子間の相互作用が強い(粘度が高い)液体ほど緩和時間が長く、分散が低周波数のところにあらわれる。例えば、水(HO)を特徴づける誘電緩和は、約25GHzのところに存在する。メタノール(CHOH)では3GHz、エタノール(COH)では1GHzである。この誘電分散は、イオンを含む電解液でも同様に存在する現象である。
【0026】
図2に、電気的極性を有する液状材料の一例としての、水の誘電率の周波数分散特性の模式図を示す(天羽「マイクロ波領域の誘電緩和で何がわかるか」;マイクロ波応用技術研究会講演資料より一部転載)。
図2より、水の緩和現象は25GHz付近において、特に大きく存在していることが分かる。また、この25GHz付近における比誘電率の損失部εr’’のピーク値は40程度とかなり高い値を示している(25GHz loss peak)。
この帯域における、従来の磁性シートの比透磁率の損失部μr’’が10以下であることと比較すると、水をはじめとして、電気的極性を有する液状材料の電磁波吸収率は、磁性シートに比して充分大きいことがわかる。
【0027】
更に、本実施形態におけるように、タンパク質水溶液などといった高分子材料と液状材料が複合した液状および/またはゲル状材料は、それぞれの緩和現象の相互作用により複数の誘電分散現象が生じる。例えば、分子量が数万程度のタンパク質水溶液の複素誘電率を500kHzから10GHzの範囲にわたって測定すると、3つの周波数帯で分散がそれぞれ観測される。最も低周波数の分散は数百kHzから数MHzに存在し、タンパク質全体、或いはドメインの運動に対応する。数百MHzに存在する分散は、動きの遅いタンパク質に束縛された結合水の運動に対応する。数GHz以上で裾野が見えている分散は、溶液中に存在する自由水の運動による分散である。イオンを含む電解液では、このほかに、イオン伝導による分散も観測される。
このように、電磁波抑制材料2を構成する液状材料および/またはゲル状材料の組成を変化させることによって、目的とする対象電磁波の周波数帯に応じた電磁波抑制部材1を構成することができる。
【0028】
また、電気的極性を持った分子液体や電解液を単体で用いるか、或いはこれらの水溶液に低分子および/または高分子材料(以下、高分子材料等とする)を混合させた構成とすることによっても、良好な電磁波抑制材料とすることが可能となる。
特に、高分子材料等を混合させた構成による場合には、高分子材料等の周囲の水溶液の誘電緩和分散が高分子材料等の影響を受けるために、単体の液状材料が本来有する周波数帯域から、所期の周波数帯域にその誘電緩和分散をシフトさせることも可能となる。更に、このような液状および/またはゲル状の電磁波抑制材料2を、後述するように光透過性を有する材料で構成することにより、電磁波抑制部材1全体に可視光を中心とする光透過性を付与することも可能となる。
【0029】
電位極性(電気的極性)を有する分子液体材料としては、水、エタノール、メタノール等を用いることができる。
イオン電解液としては、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、塩酸水溶液、塩化アンモニウム水溶液、塩化亜鉛水溶液、ヨウ化ナトリウム水溶液、ヨウ化カリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等を用いることができる。すなわち、電磁波抑制材料2を、1A族元素とハロゲン元素の化合物水溶液と、2A族元素とハロゲン元素の化合物水溶液とのうち、少なくとも一方を含んで構成することができる。
【0030】
低分子材料と高分子材料については、約10000以上の分子量を有するものを高分子材料とし、それ未満の分子量を有するものを低分子材料とする。高分子材料の代表的なものは、アクリルアミド系である。
上記電気的極性を有する低分子および/または高分子材料の代表的なものは、ポリアクリルアミド系、エチレングリコール系等を用いることができる。
上記吸水、保水特性を有する低分子および/または高分子材料の代表的なものは、ポリエチレン系、ポリアクリルアミド系等を用いることができる。
【0031】
一方、封止材については、例えば図1に示した構成による場合、少なくとも第1及び第2の封止材3a及び3bを所要の光透過性を有する材料(ガラスや透明性樹脂など)で構成することにより、電磁波抑制部材1の主要部となる透明構造体4の透明性を確保することができる。
なお、本例におけるように複数種の封止材を用いることなく、1種類の封止材を用い、電磁波抑制材料2を充填した後に端部の溶融封止により密閉構造とされた構成によることもできる。
【0032】
次に、本実施形態に係る電磁波抑制部材1を構成する電磁波抑制材料2の電磁波抑制効果の検討結果について説明する。
本検討においては、電磁波抑制材料として、アクリルアミドに架橋材としてメチレンビスアクリルアミドを混合させ、電解液溶媒として塩化ナトリウムを溶かした塩溶液を用いて、アクリルアミド系ゲルに、電解液材料である塩化ナトリウム1mol/Lを有する塩溶液を膨潤させた。詳細には、アクリルアミド:1mol/Lとメチレンビスアクリルアミド:0.5mol%/L、ならびに熱架橋開始材として過硫酸アンモニウム:0.2mol%/Lを混合し、シート状にした状態にて70℃でゲル化させて作製した。形状は、4×4×1mmである。
【0033】
図3A及び図3Bに、それぞれ、本実施形態に係る電磁波抑制部材1を構成する、電磁波抑制材料2における比誘電率の実部(εr’)と虚部(εr’’)の測定結果を示す。
図3A及び図3Bより、塩濃度(mol/l)が高くなるにつれて、比誘電率の実部(εr’)が徐々に低下し、逆に比誘電率の虚部(εr’’)が大きく増大していることがわかる。〔数1〕より、虚部(εr’’)が大きいほど電磁波抑制・吸収特性が向上することから、磁性シートの比透磁率の損失部μr’’が1GHz付近で10程度であることと比較しても、本発明の材料は0.1(mol/l)以上の塩濃度では、磁性シートよりもはるかに電磁波吸収率が大きく、特に2GHz周辺よりも低い帯域においては、十分な電磁波吸収能を有することが確認できた。
【0034】
図4A及び図4Bに、それぞれ、本実施形態に係る電磁波抑制部材1を構成する、電磁波抑制材料2における電磁波抑制効果の測定方法の模式図と、実際の測定系の写真を示す。
測定は、電波暗室にて、図4Aに示すような電波受信アンテナ方向に対して0°方向に指向性を有するメアンダアンテナを設置して行った。指向性方向(0°方向)に20mmの間隔にて4×4×1mmの市販の磁性シート及び本透明電磁波抑制材料のいずれか一方のみを測定サンプルとして適宜設置し、その材料における電磁波抑制効果(電磁波分布)を測定した。測定周波数は1.2GHzとした。
【0035】
なお、本測定においては、テーブル上に設置したメアンダアンテナ及び測定サンプルをテーブルとともに回転させることにより、メアンダアンテナの指向性方向以外の全角度における電磁波量を測定した。
これは、電磁波抑制体においては、反射によって電磁波の進行方向を変化させるよりも、吸収によって電磁波の存在自体を低減することがより好ましく、より実用的と考えられるためである。
【0036】
図5に、本測定の測定結果を示す。図5中、通常のメアンダアンテナの指向性特性(いずれの測定サンプルも設置していない状態)を実線で示す。これより、メアンダアンテナが電波受信アンテナ方向に対して0°方向に電磁波を放射する指向性を有していることが分かる。
市販の磁性シートを設置した場合(一点鎖線図示)、電波受信アンテナ方向に対して0°方向の電磁波の放射は抑制しているものの、l80°方向の電磁波量が増大してしまっていることが分かる。このことから、市販の磁性シートでは、電磁波が反射してしまっていることが確認できた。電波受信アンテナにて観測される全角度方向における電磁波量は、メアンダアンテナのみの場合(実線図示)と比較するとほぼ同等であり、磁性シートにおける電磁波吸収量は微小であるということができる。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る電磁波抑制部材1を構成する電磁波抑制材料を設置した場合(破線図示)、電波受信アンテナの殆どの方向に対して、電磁波量を減少させていることが分かる。電波受信アンテナにて観測される全角度方向における電磁波量は、メアンダアンテナのみの場合(実線図示)と比較すると、約20%の量が減衰しており、この20%の大きさが、本実施形態における、本実施形態に係る電磁波抑制部材1を構成する電磁波抑制材料の、本測定条件下での電磁波吸収量であると考えられる。
以上の測定結果より、本実施形態に係る電磁波抑制部材1を構成する電磁波抑制材料は、良好な電磁波吸収効果/抑制効果を有していることが分かる。
【0038】
続いて、この電磁波抑制材料の光透過率の測定結果について説明する。測定は常圧条件下にて分光器で行い、測定波長範囲は可視光領域である380nm〜810nmとした。測定サンプルは、2mm厚の電磁波抑制材料を、第1及び第2の封止材3a及び3bに相当する2枚の0.5mm厚ガラス板にて両面から抑えた、前述の透明構造体4に近い構造とし(パネル;サンプル1)、図1中y軸方向に沿って光透過率の測定を行った。また、比較として、2枚の0.5mm厚ガラス板で空気層を挟み込んだだけのもの(ブランク;サンプル2)に対しても同様の測定を行った。
【0039】
図6に、光透過率の測定結果を示す。サンプル1の可視光領域における透過率は、90%以上を有していることが分かる。一方、サンプル2の透過率は、85%程度である。これより、サンプル1においては、十分かつガラスのみの場合に比して高い光透過性を有していることが分かる。
【0040】
具体的には、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、封止材のみ(サンプル2)に対する場合と透明構造体に対する場合(サンプル1)の両方で80%以上であり、更に透明構造体に対する場合のみが90%をも超えていることから、透明構造体に対する、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、常圧条件下で、前記封止材のみに対する透過率よりも大となっていることが確認できた。
このような透過率の値は、封止材や電磁波抑制材料の厚さや組成によっても変動するため、厚さならびに組成については、人間の眼で透明性を感知できる程度に適宜選定することが好ましい。
【0041】
なお、サンプル1の方がサンプル2より光透過率が大となった原因としては、サンプル2のガラス/ガラス界面にて、空気の介在に基づく反射が生じていることが考えられる。すなわち、サンプル1における界面は、ガラス/ゲル/ガラスであるのに対し、サンプル2においてはガラス/空気/ガラスの界面が存在することから、ガラスの屈折率が約1.5、空気の屈折率が約1であり、ゲルの主成分である水の屈折率は約1.3であることを考慮すると、ゲル自体の屈折率がガラスの屈折率に近い値のため、界面における光反射量が低減されると考察される。
【0042】
なお、図示しないが、可視光域から連続する紫外光域においては、可視光域におけるよりもサンプル1とサンプル2の透過率差が小さくなっており、サンプル1について、透過率自体も可視光域におけるより低くなることが確認できた。
【0043】
以上の実施の形態で説明したように、本発明に係る電磁波抑制部材によれば、優れた電磁波抑制効果/吸収効果を有し、かつ十分な光透過性を有していることが分かる。そのため、窓やディスプレイ面のような光透過性を必要とする箇所においても、電磁波抑制効果/吸収効果を付加させることが可能となる。換言すると、現在、電磁波抑制効果/吸収効果を用いている箇所に光透過性を付加させることも可能になる。
すなわち、電解液や電気的極性を有する分子液体材料などの電気的極性を有する液状材料/ゲル状材料による電磁波抑制部材は、電磁波吸収・抑制が高効率であり、光透過性を有するEMC対策部品として形成できる。
【0044】
なお、以上の実施の形態の説明で挙げた使用材料及びその量、処理時間及び寸法などの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法形状及び配置関係も概略的なものである。すなわち、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0045】
例えば、本実施形態では、電磁波抑制材料2や、これを挟持する第1及び第2の封止材3a及び3bとは異なる材料による第3の封止材3cが設けられる例を説明したが、電磁波抑制材料2や第1及び第2の封止材3a及び3bとは異なる、透明構造体4を構成する第2の材料として、例えば電磁波抑制材料2とは異なる機能を有する液状/ゲル状材料や光学部材を有する構成とすることもできる。
なお、光学部材を設ける場合には、これを構成する第2の材料が、常圧条件下で、第2の材料と電磁波抑制材料の屈折率差が、第2の材料と空気の屈折率差と電磁波抑制材料と空気の屈折率差との少なくとも一方に比して小さいか、第2の材料と空気の屈折率差と封止材と空気の屈折率差との少なくとも一方に比して小さいことが好ましく、空気や真空状態の介在する間隙を低減することが好ましい。
【0046】
また、電磁波抑制部材1の主要部である透明構造体4内に、電磁波抑制材料2の変質をきたさない程度の量で、電磁波抑制材料2との界面を有する雰囲気を添加することもできる。なお、変質をきたさないように、電気的極性を有する液状材料の蒸散やゲルの白濁等を回避するため、電磁波抑制材料2は透明構造体4内で密封封止(閉鎖系)された構成とすることが好ましく、電磁波抑制材料2の表面積のうち、これを挟持する封止材つまり第1及び第2の封止材3a及び3bに対する接触面積を最も大とすることが好ましい。
【0047】
また、例えば、電磁波抑制材料2を構成する、電気的極性を有する液状/ゲル状材料は、最終的に透明構造体内に封止される前に、予め脱気された状態とされることが好ましく、例えば予め振動処理や減圧処理を施すことによって、これらの材料内から気体成分を除去することができる。
なお、低分子および/または高分子材料は、必ずしもゲルを構成しなくとも、電磁波抑制材料を構成する溶媒(液状材料)に添加されることによって、溶媒の誘電緩和周波数をシフトさせることが可能であり、これによっても、所定の周波数の電磁波抑制を目的として、誘電率の周波数分散特性を調整することが可能となる。
【0048】
また、例えばゲルの成分や組成を検討する際には、ゲルの形状維持特性を考慮することが好ましい。例えば、最終的に得る電磁波抑制部材の用途によって、封止材の強度向上や飛散性低減を基準に検討・選定することも好ましいと考えられるし、合成材料中に取り込むことによって、電磁波遮蔽カーテン等に応用することも考えられる。
【0049】
さらに、本発明に係る電磁波抑制部材を用いて、携帯電話やディスプレイなどの半導体デバイスを構成することも可能であるなど、本発明は、種々の変形及び変更をなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】A,B それぞれ、本発明に係る電磁波抑制部材の一例の構成を示す概略斜視図、及び概略断面図である。
【図2】本発明に係る電磁波抑制部材の一例における、液状材料の誘電損失と電磁波の周波数の関係を示す模式図である。
【図3】A,B それぞれ、本発明に係る電磁波抑制部材の一例における、電磁波抑制材料の比誘電率の実部と虚部の測定結果を示す模式図である。
【図4】A,B それぞれ、本実施形態に係る電磁波抑制部材の一例を構成する、電磁波抑制材料における電磁波抑制効果の測定方法の模式図と、実際の測定系の写真である。
【図5】本実施形態に係る電磁波抑制部材の一例を構成する、電磁波抑制材料における電磁波抑制効果の測定結果を示す模式図である。
【図6】本実施形態に係る電磁波抑制部材の主要部である透明構造体の一例における、光透過率の測定結果を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・電磁波抑制部材、2・・・電磁波抑制材料、3a・・・第1の封止材、3b・・・第2の封止材、3c・・・第3の封止材、4・・・透明構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料と、該電磁波抑制材料を封止する封止材とを有し、
前記電磁波抑制材料と前記封止材とによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体が形成される
ことを特徴とする電磁波抑制部材。
【請求項2】
前記液状材料が、分子液体材料または電解液材料により構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項3】
前記ゲル状材料が、低分子および/または高分子材料と、電気的極性を有する液状材料との混合により構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項4】
前記低分子および/または高分子材料が、吸水特性と保水特性の少なくとも一方を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の電磁波抑制部材。
【請求項5】
前記ゲル状材料が、前記液状材料を保持して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項6】
前記液状材料が、1A族元素とハロゲン元素の化合物水溶液と、2A族元素とハロゲン元素の化合物水溶液とのうち、少なくとも一方を含んで構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項7】
前記封止材のみに対する、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、常圧条件下で80%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項8】
前記透明構造体に対する、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、常圧条件下で80%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項9】
前記透明構造体に対する、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、常圧条件下で、界面に空気層を挟み込んだ前記封止材のみに対する透過率よりも大となる
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項10】
前記封止材のみに対する、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、常圧条件下で80%以上90%以下であり、
前記透明構造体に対する、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率が、常圧条件下で90%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項11】
前記透明構造体に対する、紫外光の透過率が、常圧条件下で、少なくとも波長400nm〜780nmの光の透過率よりも小となる
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項12】
前記透明構造体中に、前記電磁波抑制材料及び前記封止材とは異なる第2の材料を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項13】
前記透明構造体中に、前記電磁波抑制材料及び前記封止材とは異なる第2の材料を有し、
常圧条件下で、前記第2の材料と前記電磁波抑制材料の屈折率差が、前記第2の材料と空気の屈折率差と、前記電磁波抑制材料と空気の屈折率差との、少なくとも一方に比して小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項14】
前記透明構造体中に、前記電磁波抑制材料及び前記封止材とは異なる第2の材料を有し、
常圧条件下で、前記第2の材料と前記封止材の屈折率差が、前記第2の材料と空気の屈折率差と、前記封止材と空気の屈折率差との、少なくとも一方に比して小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項15】
前記透明構造体中に、前記電磁波抑制材料及び前記封止材とは異なる第2の材料を有し、
前記第2の材料が、前記電磁波抑制材料に対する雰囲気を構成する
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項16】
前記電磁波抑制材料の表面積のうち、前記封止材に対する接触面積が最も大となる
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制部材。
【請求項17】
電磁波抑制部材を有する半導体デバイスであって、
前記電磁波抑制部材が、
少なくとも、電気的極性を有する液状材料および/またはゲル状材料で構成された電磁波抑制材料と、該電磁波抑制材料を封止する封止材とを有し、
前記電磁波抑制材料と前記封止材とによって、少なくとも波長400nm〜780nmの光に対し、常圧条件下で光透過性を有する透明構造体が形成される
ことを特徴とする半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−109805(P2007−109805A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297902(P2005−297902)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】