説明

電磁波遮蔽ケース及び配線基板

【課題】磁性体を用いて電磁波を遮蔽する、磁気シールド性と機械的な強度を両立させた電磁波遮蔽ケース及び配線基板を提供する。
【解決手段】電磁波遮蔽ケース1は、ガラス繊維に磁性体を混入して磁性体混入ガラス繊維とし、この磁性体混入ガラス繊維を樹脂に混合してモールド成型等により作製した。また配線基板3は表面と裏面との間に形成した磁気シールド層から構成し、磁気シールド層は、ガラス繊維に磁性体を混入して形成された磁性体混入ガラスと樹脂からなる樹脂化合物により形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を用いて電磁波を遮蔽する電磁波遮蔽ケース及び配線基板に係り、特に磁気シールド性と機械的な強度とを両立させた電磁波遮蔽ケース及び配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線基板などの電子機器から生じる電磁波ノイズを抑制することが課題となっている。この電磁波ノイズは、プリント配線基板に形成された回路に電流を流したときなどに生じるもので、回路に電流を流すと磁界が発生し、この磁界によって電磁波が発生する。この磁界と電磁波はともに電子機器に影響を及ぼすノイズとなり、電子機器の内部では誤動作やクロストーク現象を生じさせ、外部機器にも同様の影響を及ぼしていた。
【0003】
また、電子機器を電磁波ノイズから保護するために、従来では電子機器を電磁波遮蔽ケースに収納することも行われている。
【0004】
従来の電磁波遮蔽ケースは、樹脂と磁性体とを混ぜた原材料をモールド成型等によって箱枠型のケースにしたものであり、ケースに含まれる磁性体によって電磁波ノイズを遮蔽していた。したがって、磁性体の混合密度を上げることにより、電磁波遮蔽ケースの磁気シールド性を向上させていた(特許文献1、2参照)。
【0005】
また、電磁波ノイズを防止するために、プリント配線板に電磁波シールド層を設けたものがある。このようなプリント配線板の従来例として、絶縁基板の表面に信号回路を形成し、この絶縁基板の表面と裏面に磁性塗膜を形成することによって磁界を吸収するとともに、さらにその上層に電磁波シールド層を設けて信号回路に生じた電磁波をシールするようにしたものが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−198175号公報
【特許文献2】特開2005−158906号公報
【特許文献3】特開平7−66587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来例の電磁波遮蔽ケースでは、樹脂に直接磁性体を混入しているので、成型時に磁性体が熱をもつことにより樹脂と磁性体との間に温度差が生じる。このため、固まる際に熱収縮率に違いが生じて密着性が悪くなり、電磁波遮蔽ケースの機械的な強度が低下してしまうという問題点があった。また、熱収縮率の違いによって内部に隙間ができることもあり、この隙間によってもケースの機械的な強度が低下してしまうという問題点があった。
【0007】
しかも、磁気シールド性を向上させるために磁性体の混合密度を上げると、上述した傾向はより顕著になるとともに、混入した磁性体が樹脂の表面に現れて外観が悪くなるという問題も生じる。さらに、成型時に樹脂の表面に現れた磁性体と金型が直接に接触して金型を傷めてしまうという問題も生じていた。
【0008】
一方、磁性体の混合密度を低くすると、上述した問題は緩和されるものの、磁性体を樹脂の中で均一に分散させることが難しいので、磁性体の密度にむらができてしまい、磁気シールド性が悪化してしまうことになる。また、磁性体を樹脂の中で均一に分散できたとしても、混合密度が低い場合には磁性体が樹脂内部で分散しすぎてしまい、やはり磁気シールド性が悪化することになる。
【0009】
このような問題は電磁波遮蔽ケースだけではなくプリント配線基板についても同様であり、磁気シールド性と基板の機械的な強度とを両立させることは困難であった。
【0010】
本発明の目的は、磁気シールド性と機械的な強度とを両立させることのできる電磁波遮蔽ケース及び配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明の電磁波遮断ケースは、樹脂混合物を成型してなる電磁波遮蔽ケースであって、前記樹脂混合物は、繊維部材に磁性体を混入した磁性体混入繊維部材と、樹脂とからなり、前記磁性体混入繊維部材に含まれる磁性体によりケース本体を通過する電磁波を遮断することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の配線基板は、樹脂混合物を積層してなる配線基板であって、積層した樹脂混合物の少なくとも一層は、繊維部材に磁性体を混入した磁性体混入繊維部材と、樹脂とからなり、前記磁性体混入繊維部材に含まれる磁性体により基板を通過する電磁波を遮断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電磁波遮蔽ケース及び配線基板によれば、繊維部材に磁性体を混入して磁性体混入繊維部材を形成し、この磁性体混入繊維部材を用いて作製したので、繊維部材に磁性体を固定した状態にすることができ、磁性体と樹脂の熱収縮率の違いから生じる機械的な強度の低下を防止することができる。
【0014】
また、繊維部材の中に磁性体があるので、樹脂の表面に磁性体が現れることがなく、製品の外観が悪くなったり、また金型を傷めることも防ぐことができる。
【0015】
さらに、磁性体は埃のような粉体であるため空気中に飛散しやすく取り扱いが難しいのに対して、繊維部材は飛散するようなことがなく取り扱いが容易なので、磁性体を繊維部材に混入することにより、磁性体の取り扱いも容易にすることができる。
【0016】
また、繊維部材を樹脂の中に均一に分散させることは容易なので、磁性体を繊維部材に混入することにより、磁性体を樹脂の中に均一に分散させ、且つ混入密度を上げることができ、磁気シールド性と強度を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は第1の実施形態に係る電磁波遮蔽ケースの構造を示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の電磁波遮蔽ケース1は、電子部品2が装着されたプリント配線基板3を内部に収納し、電子部品2から放射される電磁波Mが外部へ放出されることを防ぐとともに、外部からの電磁波Mが内部の電子部品2に影響を及ぼすことを防止している。
【0019】
電磁波遮蔽ケース(以下、適宜にモールドケースという)1は、ガラス繊維(繊維部材)に磁性体を混入して磁性体混入ガラス繊維とし、この磁性体混入ガラス繊維の粉を樹脂のペレットと混ぜて樹脂混合物とし、これを原材料としてモールド成型(射出成型)により作製したものである。このとき樹脂に混ぜられる磁性体混入ガラス繊維の割合は、10〜25%ぐらいである。また、樹脂としては、ABS樹脂やポリエチレン系樹脂、その他モールドケースの材料となる各種の樹脂を用いることができる。
【0020】
磁性体混入ガラス繊維の製造方法としては、ガラスを精製するときに磁性体の粉を混ぜて精製することにより、ガラス繊維に磁性体を混入させて磁性体混入ガラス繊維を製造することができる。混入させる磁性体としては、例えばフェライト系の磁性体などを用いることが可能である。
【0021】
また、ガラス繊維の他に、ファイバーカーボンやケブラーなどの繊維部材に磁性体を混入させるようにしてもよい。
【0022】
このように本実施形態の電磁波遮蔽ケース1は、ガラス繊維に磁性体を混入して磁性体混入ガラス繊維を形成し、この磁性体混入ガラス繊維を使って作製したものであるため、ガラス繊維の内部に磁性体を固定した状態にすることができ、磁性体と樹脂の熱収縮率の違いにより生じる機械的な強度の低下を防止することができる。さらに、磁性体の混入密度を上げることができるので、磁気シールド性も向上させることができる。
【0023】
すなわち、従来のように磁性体を直接樹脂に混入した構成では、熱収縮率の違いから密着性が悪くなり強度が低下するため、図2に示すように、モールドケース11に含まれる磁性体12の混入密度を低くする必要があった。しかしながら、磁性体12の混入密度を低くすると、磁気シールド性の悪化を招くことになる。
【0024】
これに対して本実施形態では、図3に示すように、磁性体混入ガラス繊維22の内部に磁性体23が適度に密集し、且つ固定した状態となっているので、この磁性体混入ガラス繊維22を用いて作製されたモールドケース21は混入密度を上げても機械的な強度を低下させることがなく、磁気シールド性も向上させることができる。
【0025】
また、ガラス繊維の中に磁性体があるので、樹脂の表面に磁性体が現れることがなく、このため製品の外観が悪くなったり、金型を傷めるようなことも防ぐことができる。
【0026】
さらに、磁性体は埃のような粉体であるため空気中に飛散しやすく取り扱いが難しいのに対して、ガラス繊維は飛散するようなことがなく取り扱いが容易なので、磁性体をガラス繊維に混入することにより、磁性体の取り扱い自体も容易にすることができる。
【0027】
また、磁性体を樹脂の中に均一に分散させることは困難であるが、ガラス繊維を樹脂の中に均一に分散させることは容易なので、磁性体をガラス繊維に混入することにより、結果的に磁性体を樹脂の中に均一に分散させることができ、磁気シールド性を向上させることができる。
【0028】
したがって、本実施形態の電磁波遮蔽ケース1によれば、磁気シールド性と機械的な強度を両立させることができる。
【0029】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る配線基板を図面に基づいて説明する。図4は第2の実施形態に係る配線基板の構造を示す断面図である。
【0030】
図4に示すように、本実施形態の配線基板31は、導体パターン32の形成されたプリント基板33a、33bと、表面のプリント基板33aと裏面のプリント基板33bとの間に形成された磁気シールド層34とから構成されている。
【0031】
このうち、プリント基板33a、33bと磁気シールド層34は、樹脂混合物を積層することにより形成したものである。ここで、磁気シールド層34はガラス繊維に磁性体を混入して形成された磁性体混入ガラス繊維と樹脂とからなる樹脂混合物により形成され、プリント基板33a、33bは通常のガラス繊維と樹脂とからなる樹脂混合物により形成されている。
【0032】
すなわち、配線基板31は、積層した磁性体混入ガラス繊維入り布(ガラスクロス)に樹脂を含浸させることによって磁気シールド層34を形成し、その両面に磁性体を含まない通常のガラス繊維入り布を積層して樹脂を含浸させることによりプリント基板33a、33bを形成し、さらに、その表面と裏面に導体パターン32を形成したものである。
【0033】
ただし、図4の配線基板31では磁気シールド層34の両面にプリント基板33a、33bを形成しているが、磁気シールド層の片面のみにプリント基板を形成してもよい。この場合には、磁気シールド層が形成されている側の面に絶縁体を介して回路や配線などを形成する。
【0034】
このように、本実施形態の配線基板31では、磁気シールド層34を表側のプリント基板33aと裏側のプリント基板33bとの間に形成したので、一方の面に形成された回路や配線から放射される電磁波ノイズが、他方の面に形成された回路や配線に影響を与えることがなく、クロストークなどの問題が発生することを防止できる。
【0035】
また、磁気シールド層34によって配線基板31の機械的な強度を確保することもできる。
【0036】
したがって、本実施形態の配線基板31によれば、磁気シールド性と機械的強度を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電磁波遮蔽ケースの構造を説明するための断面図である。
【図2】磁性体を直接樹脂に混入した場合のモールドケースのイメージ図である。
【図3】磁性体混入ガラス繊維を用いて形成した場合のモールドケースのイメージ図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る配線基板の構造を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 電磁波遮蔽ケース
2 電子部品
3 プリント配線基板
31 配線基板
32 導体パターン
33a、33b プリント基板
34 磁気シールド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂混合物を成型してなる電磁波遮蔽ケースであって、
前記樹脂混合物は、繊維部材に磁性体を混入した磁性体混入繊維部材と、樹脂とからなり、前記磁性体混入繊維部材に含まれる磁性体によりケース本体を通過する電磁波を遮断することを特徴とする電磁波遮蔽ケース。
【請求項2】
樹脂混合物を積層してなる配線基板であって、
積層した樹脂混合物の少なくとも一層は、繊維部材に磁性体を混入した磁性体混入繊維部材と、樹脂とからなり、前記磁性体混入繊維部材に含まれる磁性体により基板を通過する電磁波を遮断することを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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