説明

電磁界感応機能性材料

【課題】電磁界感応機能性材料を構成する単位セルの回路素子へバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス回路の配線を簡単にする。
【解決手段】電磁界変化に感応する多数の単位セル(20)と、単位セルに組み込まれたPINダイオード(14)と、PINダイオードにバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス回路を有する電磁界感応機能性材料において、バイアス回路は、一対のバイアス母線(22a、22b)と、バイアス母線に略直交する直線上に位置する単位セルにバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス供給線(24)とからなる。バイアス供給線は、バイアス母線に略直交するものであって、各バイアス母線と該バイアス母線に隣接する単位セルとを接続する導線と、互いに隣接する単位セルどうしを接続する導線からなる。さらに、バイアス母線と略平行な直線上に位置する単位セル間はコンデンサ(26)で接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射電磁波に対する電磁気的諸性質を制御できるようにした電磁界感応機能性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高層ビルが多くなったため、ビルによる電波の反射により、放送受信や通信に支障が出るようになってきた。このため、電波を反射しない電波吸収体の必要性が増してきた。このような電波吸収体には、フェライト、カーボングラファイト、強誘電体などが用いられる。また、高周波回路素子であるフィルタやサーキュレータなどを構成する材料としても、異方性を付与したフェライトなどが用いられる。
【0003】
しかし、フェライト電波吸収体を例にとれば、誘電率や透磁率といった電磁気的諸性質が製造時に決まってしまい、後日これらの諸性質を変えることは不可能であった。しかも、従来の材料は、その諸性質が周波数に依存しているため、電波吸収体として、使用周波数が制限され、設計の自由度が少ないという問題があった。
【0004】
このため、本発明者は、後記特許文献1で、電磁気的諸性質を制御できる電磁界感応機能性材料を提案している。図6に、この電磁界感応機能性材料の一例を示す。この電磁界感応機能性材料は、2端子の回路素子4から成る立方体構造の単位セル1からなる。2端子の回路素子4としては、ダイオード、光感受性素子、熱感受性素子、磁気感受性素子、感圧素子等、2端子素子で何らかの制御信号により導通状態が簡単に変化するものであればよい。回路素子4の動作の制御はバイアス電圧を変えることにより行う。回路素子4は、バイアス電圧を変えることにより、インピーダンスを多様に変化させることができる。
【0005】
単位セル1は、立方体をしているから、各辺は当該辺に平行な入射電磁波の電界変化に感応する電界感応回路となり、各面を一周する四辺は各面を貫く入射磁界変化に感応する磁界感応回路となる。各辺に設置した回路素子4のバイアス電圧を変えることにより、電界感応回路又は磁界感応回路の合成インピーダンスが変わり、その共振状態を制御したり、回路素子4の抵抗による損失を制御したりすることができる。このような単位セル1を結晶格子の如く上下左右前後規則正しく集合させて電磁界感応機能性材料を構成する。ここで、回路素子4のバイアス電圧を制御することにより、電磁界感応機能性材料の透磁率や誘電率や電磁波の反射率、吸収率、透過率、減衰率等の電磁気的諸性質やそれらの周波数特性を随時簡単に変更できる。この電磁界感応機能性材料は、電波吸収体等に使用することが好適である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−347393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に開示された電磁界感応機能性材料の電磁気的諸性質を変化させるにはバイアス電圧を制御するのであるが、単位セル1が多数になると、各単位セル1の回路素子4へバイアス電圧を供給するためのバイアス回路は、配線が多くて複雑になるという問題があった。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであって、電磁界感応機能性材料を構成する単位セルの回路素子へバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス回路の配線を簡単にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、電磁界変化に感応する多数の単位セルと、該単位セルに組み込まれた回路素子と、該回路素子にバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス回路を有する電磁界感応機能性材料において、 前記バイアス回路は、前記電磁界感応機能性材料の両側に配置された一対のバイアス母線と、前記バイアス母線に略直交する直線上に位置する単位セルにバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス供給線とからなり、前記バイアス供給線は、前記バイアス母線に略直交するものであって、各バイアス母線と該バイアス母線に隣接する単位セルとを接続する導線と、互いに隣接する単位セルどうしを接続する導線であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記バイアス母線と略平行な直線上に位置する単位セル間をコンデンサで接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、2本のバイアス母線とバイアス母線に略直交するバイアス供給線からなるバイアス回路で、全ての回路素子に等しいバイアス電圧を供給することができ、配線が極めて簡単である。しかも、バイアス母線とバイアス供給線とが略直交しているから、バイアス母線に略平行な電界を有する電波に関しては、単位セルの回路素子へ供給しているバイアス電圧を変えても、バイアス供給線が電界に感応しないので、整合中心周波数や電波吸収への影響がほとんど変わらないという利点がある。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、さらに、バイアス母線と略平行な直線上に位置する単位セル間をコンデンサで接続したので、高周波に対しては、単位セルは、バイアス母線と略平行な方向に関しては導線で擬似配線されていることになって、バイアス供給線と同様に電界に感応する。したがって、垂直偏波と水平偏波に対する電波吸収等に関して略同じ諸特性を有することになる。しかも、直流に対しては、コンデンサが絶縁するから、全ての回路素子に等しいバイアス電圧を供給することができ、配線も極めて簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明を実施例について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施例である2次元的構成の電磁界感応機能性材料を説明する図である。図1の(A)は、この電磁界感応機能性材料50にバイアス電圧を供給する配線を示す。この電磁界感応機能性材料50は、基板10上に正方形の導体回路12をプリントし、導体回路12の各辺中央に回路素子としてPINダイオード14を挿入して、単位セル20を構成している。さらに、この基板10の背面に発砲スチロール等の厚さdのスペーサ16配置し、スペーサ16の背面に導体板18を配置している。導体回路12の導体幅a、導体回路12の1辺の長さb、導体回路12どうしの間隔c、基板10の厚さtは、図1の表52に示したとおりである。
【0015】
この電磁界感応機能性材料50の一側には、バイアス電圧を供給するために+電位の鉛直なバイアス母線22aが配置され、その他側には−電位の鉛直なバイアス母線22bが配置される。各母線22a、22bと各母線に隣接する単位セル20とは水平なバイアス供給線(導線)24で接続される。さらに、同じ水平面上に位置する各単位セル20は、互いに水平なバイアス供給線(導線)24で接続される。ここで、各バイアス供給線24は、各単位セル20毎に2つのPINダイオード14へバイアス電流が等しく分かれて流れるように配線する。このため、単位セル20とバイアス供給線24の接続位置が、交互にPINダイオード14の上下に変化している。
【0016】
本実施例によれば、鉛直な2本のバイアス母線22a、22bと水平なバイアス供給線24からなるバイアス回路で、全てのPINダイオード14に等しいバイアス電圧を供給することができ、配線が極めて簡単である。また、電界Eが垂直で磁界Hが水平な垂直偏波54に関しては、単位セル20の水平な辺上のPINダイオード14のバイアス電圧を変えて導通状態を変化させても、水平なバイアス供給線24が電界Eに感応しないので、整合中心周波数や電波吸収への影響がほとんど変わらない利点がある。さらに、単位セル20を2次元的に構成したから、電磁界感応機能性材料50を薄くでき、単位セル20内の配線も簡単になって製造も容易である。
【0017】
なお、本実施例では、バイアス母線22a、22bを鉛直にして、バイアス供給線24を水平にしたが、逆に、バイアス母線22a、22bを水平にして、バイアス供給線24を鉛直にしてもよい。要するに、バイアス母線22a、22bとバイアス供給線24が略直交していて、バイアス供給線24が電界に感応しないようにすればよい。また、PINダイオード14の代わりに、他の適当な2端子素子が使用できることも当然である。
【0018】
ところで、前記第1実施例では、水平偏波の場合には水平なバイアス供給線24が電界に感応するので、垂直偏波に対する場合と同じ特性を示さない。そこで、図2に、垂直偏波54にも水平偏波56にも同様な特性を有するようにした第2実施例を示す。本実施例では、バイアス母線22a、22bと平行な直線上、すなわち同一鉛直線上に位置する単位セル20間どうしを1.0pF程度の小容量のコンデンサ26で接続する。これ以外は、前記第1実施例と同じである。
【0019】
コンデンサ26の共振周波数は4.2GHz程度であるから、この周波数の周辺ではコンデンサ26のインピーダンスは略0となる。つまり、高周波に対しては、単位セル20は、バイアス母線22a、22bと平行な方向すなわち鉛直方向に関しては導線で擬似配線28されていることになるから、垂直偏波54と水平偏波56に対して電波吸収等に関して略同じ諸特性を有することになる。しかも、直流に対しては、コンデンサ26が絶縁するから、前記第1実施例と同じく、全てのPINダイオード14に等しいバイアス電圧を供給することができ、配線も極めて簡単になる。なお、擬似配線28に誘起される電流は、各単位セル20毎に2つのPINダイオード14へ等しく分かれて流れるように配線する。このため、単位セル20とコンデンサ26の接続位置が、交互にPINダイオード14の左右に変化している。
【0020】
本実施例の効果の測定結果を図3に示す。図3の(A)は、垂直偏波54に対する反射率をバイアス電圧を変えながら測定した結果である。図3の(B)は、水平偏波56に対する反射率をバイアス電圧を変えながら測定した結果である。これらから、良好な電波吸収性を有することが分かる。
【0021】
次に、図4に、3次元的構成の電磁界感応機能性材料50にバイアス電圧を供給する配線を示す。本実施例では、前後一対の導体回路12の4頂点間を互いに導線30で接続して、奥行きbの6面体の単位セル20を構成する。これ以外は、導体回路12の1辺の長さb1が変わらないことと、上下に位置する単位セル20間を1.0pF程度のコンデンサ26で接続されることを含めて、前記第2実施例と同じである。
【0022】
本実施例の効果を図5に示す。図5の(A)は、垂直偏波54に対する反射率をバイアス電圧を変えながら測定した結果である。図5の(B)は、水平偏波56に対する反射率をバイアス電圧を変えながら測定した結果である。本実施例も第2実施例と同様に電波吸収性を有することが分かる。
なお、以上の実施例では、バイアス回路によりバイアス電圧を印加するものとしたが、バイアス電流を供給する回路方式とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例の電磁界感応機能性材料を説明する図である。
【図2】本発明の第2実施例の電磁界感応機能性材料を説明する図である。
【図3】第2実施例の電磁界感応機能性材料の効果を示す図である。
【図4】本発明の第3実施例の電磁界感応機能性材料を説明する図である。
【図5】第3実施例の電磁界感応機能性材料の効果を説明する図である。
【図6】従来の電磁界感応機能性材料を説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
12 導体回路
14 PINダイオード(回路素子)
20 単位セル
22a、22b バイアス母線(バイアス回路)
24 バイアス供給線(バイアス回路)
26 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁界変化に感応する多数の単位セルと、該単位セルに組み込まれた回路素子と、該回路素子にバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス回路を有する電磁界感応機能性材料において、
前記バイアス回路は、前記電磁界感応機能性材料の両側に配置された一対のバイアス母線と、前記バイアス母線に略直交する直線上に位置する単位セルにバイアス電圧又はバイアス電流を供給するバイアス供給線とからなり、
前記バイアス供給線は、前記バイアス母線に略直交するものであって、各バイアス母線と該バイアス母線に隣接する単位セルとを接続する導線と、互いに隣接する単位セルどうしを接続する導線であることを特徴とする電磁界感応機能性材料。
【請求項2】
前記バイアス母線と略平行な直線上に位置する単位セル間をコンデンサで接続したことを特徴とする請求項1に記載の電磁界感応機能性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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